説明

位相シフトデジタルホログラフィ装置

【課題】 一回の撮像画像のみで参照光を位相シフト可能な位相シフトデジタルホログラフィ装置を構成する場合であっても別途の精密光学部品を排除して面倒な組付及び調整を含むセッティングを不要にする。装置全体のコストダウンを図るとともに安定性及び信頼性を高める。
【解決手段】 略平面波の参照光Lrを撮像面Spに対して所定の傾斜角Rrにより照射し、三種類以上の参照光位相値(例えば、0,2π/3,4π/3)におけるホログラム画像データDpを一回の撮像画像Voから得られるようにした参照光傾斜手段F1と、撮像面Spによる一回の撮像画像Voから得られた三種類以上の参照光位相値のホログラム画像データDpを所定の演算処理することにより被写体Mの再生像を生成する再生像生成手段F2とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体光と参照光を干渉させることにより得られるホログラム画像データに基づいて被写体の再生像を生成する位相シフトデジタルホログラフィ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光が照射された被写体から放射される物体光と、被写体を介さない参照光とを撮像部の撮像面に照射し、物体光と参照光を干渉させることにより得られるホログラム画像データに基づいて被写体の再生像を生成することができるようにしたデジタルホログラフィ装置は知られている。
【0003】
また、このようなデジタルホログラフィ装置であって、三種類以上の位相値に対応する参照光を撮像面に照射する位相シフト手段を用いることにより、一回の撮像画像から位相分布データに基づくホログラム画像データが得られるようにして、動的な変化を伴う被写体の再生像やリアルタイムで被写体の再生像を得ることができるようにしたデジタルホログラフィ装置も提案されており、この種のデジタルホログラフィ装置としては、特許文献1に開示されるデジタルホログラフィ装置が知られている。このデジタルホログラフィ装置(特許文献1)は、互いに位相値が異なる三種類以上の参照光と、光を照射された被写体から放射される物体光とを干渉させることによって得られる位相分布データに基づいて被写体の再生像を生成する再生像生成部を備えたデジタルホログラフィ装置において、入射した光を互いに位相値の異なる三種類以上の参照光群に変換して出射する、波長板と偏光板とを備えた位相シフト素子と、参照光群と物体光とを干渉させることによって生成される位相分布データを記録する撮像面を有する撮像部とを備え、再生像生成部は、位相分布データの情報に基づいて被写体の再生像を生成するように構成されたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−283683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述した従来(特許文献1)のデジタルホログラフィ装置は、次のような問題点があった。
【0006】
第一に、位相をシフトさせる比較的サイズの小さい位相シフト素子を、撮像部におけるレンズの前方に、撮像面に対して共役関係に配設するため、位相シフト素子における各領域と撮像面における各撮像素子との倍率関係及び各位置関係、更には共役位置を高い精度に設定する必要があるなど、位相シフト素子の組付及び調整を含むセッティングが面倒となる。
【0007】
第二に、波長板と偏光板とを備える精密光学部品である高価な位相シフト素子を別途追加する必要があるため、装置のコストアップを招くとともに、位相シフト素子と撮像部(CCDカメラ)の関係に制約事項が多く、例えば、撮像部の画素数を倍増させる等の仕様変更を行う場合、位相シフト素子も対応して交換する必要があるなど、無用なコストを強いられる。
【0008】
本発明は、このような背景技術に存在する課題を解決した位相シフトデジタルホログラフィ装置の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上述した課題を解決するため、光Lが照射された被写体Mから放射される物体光Lmと三種類以上の位相値における参照光Lrとを撮像部2の撮像面Spに照射し、物体光Lmと参照光Lrを干渉させることにより得られるホログラム画像データDpに基づいて被写体Mの再生像を生成する位相シフトデジタルホログラフィ装置1を構成するに際して、略平面波の参照光Lrを撮像面Spに対して所定の傾斜角Rrにより照射し、三種類以上の参照光位相値(例えば、0,2π/3,4π/3)におけるホログラム画像データDpを一回の撮像画像Voから得られるようにした参照光傾斜手段F1と、撮像面Spによる一回の撮像画像Voから得られた三種類以上の参照光位相値のホログラム画像データDpを所定の演算処理することにより被写体Mの再生像を生成する再生像生成手段F2とを備えてなることを特徴とする。
【0010】
この場合、発明の好適な態様により、参照光傾斜手段F1には、参照光Lrを撮像面Spに対して所定の傾斜角Rrにより照射できるように角度設定したビームスプリッタ3を用いることができるとともに、必要により、参照光傾斜手段F1には、ビームスプリッタ3の角度を調整する角度調整手段F11を設けることができる。また、傾斜角Rrは、撮像画像Voにおける参照光Lrの同一位相画素の位相周期が整数画素になるように設定することができ、この整数画素には、少なくとも三画素又は四画素を含ませることができる。一方、再生像生成手段F2には、一回の撮像画像Voにおける参照光位相値が同じになるホログラム画像データDpの画素を用いて、それ以外の画素を所定の補間処理により得た補間値に置換する補間値置換手段F21を設けることにより、参照光位相値が全て同じ画像を異なる参照光位相値で三種類以上作成し、これらの画像間の異なる参照光位相値データを用いて被写体Mの再生像を生成することもできる。さらに、一回の撮像画像Vo内における参照光位相値が異なる三つ以上の近隣画素データを直接用いることにより被写体Mの再生像を生成することもできる。
【発明の効果】
【0011】
このような構成を有する本発明に係る位相シフトデジタルホログラフィ装置1によれば、次のような顕著な効果を奏する。
【0012】
(1) 動的な変化を伴う被写体Mの再生像やリアルタイムで被写体Mの再生像が得られる位相シフトデジタルホログラフィ装置1を構成する場合であっても、位相をシフトさせる位相シフト素子等の別途の精密光学部品を排除できるため、精密光学部品(位相シフト素子)の使用に伴う面倒な組付及び調整を含むセッティングが不要になるとともに、初期セッティング或いは撮像部2を仕様等により変更する場合であっても、設定(調整)の容易化を図ることができる。
【0013】
(2) 高価な精密光学部品の追加が不要なため、装置全体のコストダウンを図ることができるとともに、光学系の複雑化を回避できるため、安定性及び信頼性の高い位相シフトデジタルホログラフィ装置1を構成できる。
【0014】
(3) 好適な態様により、参照光傾斜手段F1に、参照光Lrを撮像面Spに対して所定の傾斜角Rrにより照射できるように角度設定したビームスプリッタ3を用いれば、位相シフトデジタルホログラフィ装置の基本構成に必要な光学部品を利用(兼用)できるため、コスト面からベストの形態として構成可能になるとともに、構成上のサイズアップを回避することができる。
【0015】
(4) 好適な態様により、参照光傾斜手段F1に、ビームスプリッタ3の角度を調整する角度調整手段F11を設ければ、必要に応じてビームスプリッタ3の角度調整(再調整)を行うことができる。
【0016】
(5) 好適な態様により、傾斜角Rrを、撮像画像Voにおける参照光Lrの同一位相画素の位相周期が整数画素になるように設定するとともに、この整数画素に、少なくとも三画素又は四画素を含ませれば、三種類以上の位相値を設定する際における作用効果、特に、各データを効率良く生すとともに、再生像を生成する際の演算処理を容易にする観点から最適なパフォーマンスを得ることができる。
【0017】
(6) 好適な態様により、再生像生成手段F2に、一回の撮像画像Voにおける参照光位相値が同じになるホログラム画像データDpの画素を用いて、それ以外の画素を所定の補間処理により得た補間値に置換する補間値置換手段F21を設けることにより、参照光位相値が全て同じ画像を異なる参照光位相値で三種類以上作成し、これらの画像間の異なる参照光位相値データを用いて被写体Mの再生像を生成するようにすれば、位相シフトにより各位相値におけるデータ量(データ密度)が低下する場合であっても、補間値の追加により、忠実性をより高め、良質の再生像を生成することができる。
【0018】
(7) 好適な態様により、一回の撮像画像Vo内における参照光位相値が異なる三つ以上の近隣画素データを直接用いることにより被写体Mの再生像を生成するようにすれば、比較的少ない計算量により再生像を生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の好適実施形態に係る位相シフトデジタルホログラフィ装置の主要部の構成図、
【図2】同位相シフトデジタルホログラフィ装置の原理説明図、
【図3】同位相シフトデジタルホログラフィ装置における撮像画像の参照光位相値データ表、
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明に係る好適実施形態を挙げ、図面に基づき詳細に説明する。
【0021】
まず、本実施形態に係る位相シフトデジタルホログラフィ装置1の構成について、図1〜図3を参照して説明する。
【0022】
図1中、Mは被写体(物体)であり、例示は透光性を有する被写体Mである。また、11は光源であり、例えば、波長が633〔nm〕のコヒーレント光であるレーザ光Lを出射する。12はコリメータ(コリメータレンズ)であり、光源11から出射したレーザ光Lを平行光に変換する。さらに、13はハーフミラー、14,15は反射ミラーをそれぞれ示す。
【0023】
一方、3は内部に反射層3fを有するビームスプリッタである。このビームスプリッタ3は、図1及び図2に示すように、参照光Lrを、撮像部2の撮像面Spに対して所定の傾斜角Rrにより照射できるように角度を設定して設置する。このため、ビームスプリッタ3は底面中央を支持軸21により回動可能に支持し、角度を調整した後にロックネジ等により固定できるように構成する。したがって、ビームスプリッタ3は、角度を設定することにより、略平面波の参照光Lrを撮像面Spに対して所定の傾斜角Rrにより照射し、例えば、三種類の位相値である「0」,「2π/3」,「4π/3」に対応するホログラム画像データDpを一回の撮像画像Voから得られるようにする参照光傾斜手段F1を構成する。このように、ビームスプリッタ3を用いた参照光傾斜手段F1を構成すれば、デジタルホログラフィ装置の基本構成に必要な光学部品を利用(兼用)できるため、コスト面からベストの形態として構成可能になるとともに、構成上のサイズアップを回避できる利点がある。
【0024】
なお、例示のビームスプリッタ3には、当該ビームスプリッタ3の角度を調整する角度調整手段F11を付設した。このような角度調整手段F11は必ずしも設ける必要はないが、設けた場合には、製造時をはじめ、製造後においても必要に応じてビームスプリッタ3の角度調整(再調整)を行うことができる。例示の角度調整手段F11は、支持軸21に一端を固定したレバー22を有し、このレバー22の他端を減速ギア機構23により回動可能に構成した。この場合、初段のギア24は、モータ25の動力駆動により回動できるように構成してもよいし、操作ハンドル26による手動操作により回動できるように構成してもよい。この場合、モータ25の動力駆動を利用する場合には、画像処理とフィードバック制御を組合わせるなどにより自動調整できるようにしてもよい。
【0025】
また、2は撮像面Spを有する撮像部であり、この撮像部2には一般的なCCDカメラ2cを用いることができる。この撮像面Spには、後述する物体光Lmと参照光Lrが入射するとともに、CCDカメラ2cからは撮像画像Voに基づくホログラム画像データDpを得ることができる。
【0026】
以上の構成により、光源11から出射したレーザ光Lは、コリメータ12により平行光に変換された後、ハーフミラー13に入射し、レーザ光Lは、参照光Lrと被写体照射光Liに分離される。そして、被写体照射光Liは、反射ミラー14において反射し、被写体Mに照射されるとともに、被写体Mからは物体光Lmが放射され、この物体光Lmは、ビームスプリッタ3(反射層3f)を透過してCCDカメラ2cの撮像面Spに入射する。他方、ハーフミラー13で分離された参照光Lrは、反射ミラー15において反射し、ビームスプリッタ3に入射するとともに、反射層3fを反射してCCDカメラ2cの撮像面Spに入射する。
【0027】
他方、31は制御系を示し、CPU,ROM,RAM等のハードウェアを有するコンピュータ機能を備えるコントローラ32を備える。また、32sは演算処理部であり、コントローラ32の一部として機能するとともに、コントローラ32には、処理プログラム32pが格納され、この処理プログラム32pにより、少なくとも演算処理部32sにおける一連の演算処理が実行される。さらに、コントローラ32には、操作部33及び表示部34が付属する。そして、CCDカメラ2cにより撮像された撮像画像Voに係わる画像信号(ホログラム画像データDp)は演算処理部32sに付与される。なお、光源L及びCCDカメラ2cは、コントローラ32の電源ポートに接続することができる。
【0028】
この制御系31は、撮像面Spによる一回の撮像画像Voにおける三種類以上の参照光位相値から得られるホログラム画像データDpを所定の演算処理を行うことにより被写体Mの再生像を生成する再生像生成手段F2を構成する。また、この再生像生成手段F2は、一回の撮像画像Voにおける参照光位相値が同じになるホログラム画像データDpの画素を用いて、それ以外の画素を所定の補間処理により得た補間値に置換する補間値置換手段F21を備えている。再生像生成手段F2は、参照光位相値が全て同じ画像を異なる参照光位相値で三種類以上作成し、これらの画像間の異なる参照光位相値データを用いて被写体Mの再生像を生成する。
【0029】
次に、本実施形態に係る位相シフトデジタルホログラフィ装置1の原理を含む機能及び使用方法について、図1〜図3を参照して説明する。
【0030】
一般的な(従来の)デジタルホログラフィ装置の場合、ビームスプリッタ3の反射層3fは、入射する参照光Lrに対して、45〔゜〕の角度に設定されるため、反射層3fにより反射された参照光Lrは、撮像面Spに対して直角で入射する。したがって、位相シフトは発生せず、撮像画像Voにおける全ての画素の参照光位相は「0」、即ち、図3に示す撮像画像Voにおける位相分布データBpの各画素の参照光位相は「0」となる。
【0031】
これに対して、本実施形態に係る位相シフトデジタルホログラフィ装置1では、支持軸21を支点にビームスプリッタ3を回動変位させ、入射する参照光Lrに対して、45−Rs〔゜〕,又は45+Rs〔゜〕となるように、当該ビームスプリッタ3の角度を設定(調整)する。したがって、本実施形態に係る位相シフトデジタルホログラフィ装置1は、製造段階における固有の角度設定工程において、ビームスプリッタ3の角度設定(角度調整)を行う。この場合、ビームスプリッタ3自身を所定の治具等を用いて回動変位させ、角度の設定を行うとともに、設定後はロックネジ等により固定する最もシンプルな設定工程を設けてもよいし、例示した角度調整手段F11を利用してもよい。
【0032】
本実施形態に係る位相シフトデジタルホログラフィ装置1では、入射する略平面波の参照光Lrに対してビームスプリッタ3における反射層3fの角度を45−Rs〔゜〕(又は45+Rs〔゜〕)に設定すればよいため、簡単な手法により撮像画像Voの各画素に対して位相シフトを発生させることができる。図3は、位相シフトデジタルホログラフィ装置1による撮像画像Voの各画素における参照光位相値表、即ち、位相分布データBpを示す。なお、図3の参照光位相値表における各四角枠は撮像画像Voにおける各画素を示すとともに、各四角枠内の数字は参照光位相値を示している。
【0033】
図2に示すように、ビームスプリッタ3の反射層3fを、45〔゜〕に対して所定の角度(微小角度)Rsだけ回動変位させれば、参照光Lrは撮像面Spに対し、角度Rsに対応した傾斜角Rrだけ傾斜して入射する。これにより、撮像面Spには、物体光Lmと参照光Lrが同時に入射し、物体光Lmと参照光Lrが重ね合わされることにより干渉し、干渉パターン(ホログラム)が得られるとともに、この際、撮像画像Voの参照光位相値は、図3に示すように、垂直方向の位相値は同一となるが、水平方向の位相値は位相シフトにより、「0」,「2π/3」,「4π/3」の順に繰り返し変化する。例示の場合、撮像画像Voにおける同一位相画素の位相シフトの周期は、整数画素となる三画素に設定するため、水平方向には、一回の撮像画像Vo内に三画素の周期で位相値が変化することにより、計三種類の位相値が繰返される。
【0034】
図3は、一回の撮像画像Vo内に三種類の参照光位相値を得る場合を示したが、基本的には、一回の撮像画像Voにおける参照光の同一位相画素の位相周期が整数画素になるように設定するとともに、この整数画素は三種類以上、望ましくは三画素又は四画素となるように設定する。四画素の場合の位相シフトは、「0」,「π/4」,「π/2」,「3π/4」となる。このように、傾斜角Rrを、撮像画像Voにおける参照光の同一位相画素の位相周期が整数画素になるように設定するとともに、この整数画素に、少なくとも三画素又は四画素を含ませれば、三種類以上の位相値を設定する際における作用効果、特に、各データを効率良く生すとともに、再生像を生成する際の演算処理を容易にする観点から最適なパフォーマンスを得ることができる。
【0035】
したがって、上述したビームスプリッタ3の角度を設定する際には、撮像面Spにより撮像される撮像画素Voにおいて、三画素の周期で参照光位相値「0」,「2π/3」,「4π/3」が変化するように設定(調整)すればよく、四画素(「0」,「π/4」,「π/2」,「3π/4」)の場合も同様である。
【0036】
一方、位相シフトデジタルホログラフィ装置1を使用する際には、被写体Mを図1に示すように、反射ミラー14とビームスプリッタ3間における所定の位置にセットする。なお、例示の被写体Mは、ガラスコップ等の透光性を有する物体を想定している。被写体Mをセットしたなら、光源11からレーザ光Lを出射させるとともに、CCDカメラ2cを撮影モードで作動させる。
【0037】
これにより、CCDカメラ2cの撮像面Spには、物体光Lmと参照光Lrが同時に入射し、例示の場合、干渉パターン(ホログラム)が得られる。また、撮像画像Voの参照光位相値、即ち、水平方向の位相値は、位相シフトにより、図3に示すように、「0」,「2π/3」,「4π/3」の順に繰り返し変化する。そして、撮像画像Voにより得られるホログラム画像データDpは、再生像生成手段F2を構成する演算処理部32sに付与される。
【0038】
他方、演算処理部32sでは所定の演算処理を行うことにより被写体Mの再生像を生成する。この場合、演算処理部32sでは、まず、ホログラム画像データDpの参照光位相値が同じ画素を用い、補間値置換手段F21により、それ以外の画素を、補間処理により得た補間値に置換する処理を行う。補間処理は、いわば、他の位相値により空白となってしまう画素を他の画素で埋める処理である。したがって、簡略的な処理としては、同じ位相値となる画素を三回繰り返すデータに変換することも可能であるが、同一参照光画素間を補間処理することにより、より実際の位相値に忠実な画素を得ることができる。このような補間処理を行えば、位相シフトにより各位相値におけるデータ量(データ密度)が低下する場合であっても補間値の追加により、忠実性をより高め、良質の再生像を生成することができる。
【0039】
この補間処理により、参照光位相値が全て同じ画像を、異なる参照光位相値で三種類作成できるため、これら三種類の画像間の異なる参照光位相値データを用いることにより、撮像面Sp上の物体光Lmのみのデータを演算で得ることができる。そして、得られた物体光Lmのみのデータに対して公知の演算処理を行うことにより被写体Mの再生像を生成する。生成された再生像は表示部34に表示させることができる。
【0040】
よって、このような本実施形態に係る位相シフトデジタルホログラフィ装置1によれば、動的な変化を伴う被写体Mの再生像やリアルタイムで被写体Mの再生像が得られる位相シフトデジタルホログラフィ装置1を構成する場合であっても、位相をシフトさせる位相シフト素子等の別途の精密光学部品を排除できるため、精密光学部品(位相シフト素子)の使用に伴う面倒な組付及び調整を含むセッティングが不要になるとともに、初期セッティング或いは撮像部2を仕様等により変更する場合であっても、設定(調整)の容易化を図ることができる。また、高価な精密光学部品の追加が不要なため、装置全体のコストダウンを図ることができるとともに、光学系の複雑化を回避できるため、安定性及び信頼性の高い位相シフトデジタルホログラフィ装置1を構成できる。
【0041】
以上、好適実施形態について詳細に説明したが、本発明は、このような実施形態に限定されるものではなく、細部の構成,形状,素材,数量,数値等において、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更,追加,削除することができる。
【0042】
例えば、レーザ光Lの波長等の種類は任意に設定できる。また、被写体Mとして透光性を有する物体を例示したが、非透光性を有する物体であっても勿論よく、この場合には光Lを照射する位置を変更すればよい。一方、参照光傾斜手段F1として例示したビームスプリッタ3は、ビームスプリッタと同様の機能を有する各種光学部品を含む概念であり、また、参照光傾斜手段F1は、撮像面Spに対して参照光Lrを傾斜角Rrだけ傾斜して入射できればよく、例えば、ビームスプリッタ3に代わりに、反射ミラー15を傾斜させてもよい。したがって、参照光傾斜手段F1には、撮像面Spに対して参照光Lrを傾斜角Rrだけ傾斜して入射できる各種手段が含まれる。さらに、前述したように、角度調整手段F11は必ずしも設けることを要しない。他方、撮像画像Voにおける参照光の同一位相画素の位相周期を設定する画素として、整数画素の三画素又は四画素を例示したが、非整数画素を排除するものではないとともに、五画素以上を排除するものではない。また、補間値置換手段F21も必ずしも設ける必要はなく、例えば、同一位相画素の相互間の空白を詰めるような処理を行ってもよいし、さらに、一回の撮像画像Vo内における参照光位相値が異なる三つ以上の近隣画素データを直接用いることにより被写体Mの再生像を生成してもよく、この場合には、比較的少ない計算量により再生像を生成可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明に係る位相シフトデジタルホログラフィ装置は、動的な被写体の三次元形状を測定する三次元形状計測装置,三次元物体の分布を測定する三次元物体分布計測装置,顕微鏡,製品検査装置等の各種分野に利用できる。
【符号の説明】
【0044】
1:位相シフトデジタルホログラフィ装置,2:撮像部,3:ビームスプリッタ,L:光,Lm:物体光,Lr:参照光,M:被写体,Sp:撮像面,Dp:ホログラム画像データ,Rr:傾斜角,Vo:撮像画像,F1:参照光傾斜手段,F11:角度調整手段,F2:再生像生成手段,F21:補間値置換手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光が照射された被写体から放射される物体光と三種類以上の位相値における参照光とを撮像部の撮像面に照射し、前記物体光と前記参照光を干渉させることにより得られるホログラム画像データに基づいて被写体の再生像を生成する位相シフトデジタルホログラフィ装置において、略平面波の参照光を前記撮像面に対して所定の傾斜角により照射し、三種類以上の参照光位相値におけるホログラム画像データを一回の撮像画像から得られるようにした参照光傾斜手段と、前記撮像面による一回の撮像画像から得られた三種類以上の参照光位相値のホログラム画像データを所定の演算処理することにより被写体の再生像を生成する再生像生成手段とを備えてなることを特徴とする位相シフトデジタルホログラフィ装置。
【請求項2】
前記参照光傾斜手段は、前記参照光を前記撮像面に対して所定の傾斜角により照射できるように角度設定したビームスプリッタを用いることを特徴とする請求項1記載の位相シフトデジタルホログラフィ装置。
【請求項3】
前記参照光傾斜手段は、前記ビームスプリッタの角度を調整する角度調整手段を備えることを特徴とする請求項2記載の位相シフトデジタルホログラフィ装置。
【請求項4】
前記傾斜角は、前記撮像画像における参照光の同一位相画素の位相周期が整数画素になるように設定することを特徴とする請求項1,2又は3記載の位相シフトデジタルホログラフィ装置。
【請求項5】
前記整数画素には、少なくとも三画素又は四画素を含むことを特徴とする請求項4記載の位相シフトデジタルホログラフィ装置。
【請求項6】
前記再生像生成手段は、前記一回の撮像画像における前記参照光位相値が同じになるホログラム画像データの画素を用いて、それ以外の画素を所定の補間処理により得た補間値に置換する補間値置換手段を備えることにより、参照光位相値が全て同じ画像を異なる参照光位相値で三種類以上作成し、これらの画像間の異なる参照光位相値データを用いて前記被写体の再生像を生成することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の位相シフトデジタルホログラフィ装置。
【請求項7】
前記一回の撮像画像内における参照光位相値が異なる三つ以上の近隣画素データを直接用いることにより前記被写体の再生像を生成することを特徴とする請求項1記載の位相シフトデジタルホログラフィ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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