説明

位相差フィルム、位相差フィルムの製造方法及びそれを用いた偏光板、液晶表示装置

【課題】本発明の目的は、所望の高レターデーション値が均一に得られ、ヘイズが少ない位相差フィルム、位相差フィルムの製造方法を提供することにあり、更に該位相差フィルムを用いた偏光ムラ、コントラストムラが低減した偏光板、及び視野角の広い液晶表示装置を提供するものである。
【解決手段】セルロースアセテートを含む位相差フィルムにおいて、セルロースアセテートの6位のアセチル置換度をD6とした時に、0.745≦D6≦0.95であり、総アセチル置換度が1.7〜2.5の範囲であるセルロースアセテートと、下記一般式(Y)で表される多価カルボン酸エステルの少なくとも一種を含有することを特徴とする位相差フィルム。
一般式(Y) R5(COOH)m(OH)n
(但し、R5は(m+n)価の有機基、mは2以上の正の整数、nは0以上の整数、COOHはカルボキシル基、OHはアルコール性またはフェノール性水酸基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相差フィルム、位相差フィルムの製造方法及びそれを用いた偏光板、液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置の大型化・薄膜化が求められている。
【0003】
従来から液晶表示装置にはセルロースエステルフィルムが用いられているが、更なる広幅化、薄膜化と視野角等の表示品位を両立させるには従来から用いられてきたトリアセチルセルロースフィルム(TACフィルム)をそのまま使用するには問題があった。
【0004】
6位の置換度の高いセルロースエステルを用いた場合、ドープの溶解性がよくフィルムの均一性が高まることが知られているが(例えば、特許文献1参照。)、視野角拡大の為のレターデーション値付与、及び広幅化に対応しようとして高倍率で延伸した場合、高いレターデーション値を均一に維持するには樹脂の位相差発現性だけでは不十分である。そのため該特許文献1ではレターデーション上昇剤等を用いることが開示されているが、添加量を増やすとフィルムの製造過程や鹸化時のブリードアウトにより工程を汚染するだけでなく、均一なレターデーション値が得られない。
【0005】
その点、アセチル置換度が2.1〜2.7である低置換度のセルロースエステルを用いれば、位相差発現性が良いので高倍率延伸に対応できると考えられる(例えば、特許文献2参照。)。しかしながら、該アセチル置換度が低いセルロースエステルは、ドープ粘度が通常のトリアセチルセルロースなどよりも高く、高レターデーション値、広幅化を狙って高倍率に延伸するフィルムの場合には、製膜時に流延方向にかかった応力が大きなひずみとなって影響し、延伸後のフィルムのヘイズや偏光板、液晶表示装置に用いた時にコントラストが低下するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−89529号公報
【特許文献2】特開2009−265598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って本発明の目的は、所望の高レターデーション値が均一に得られ、ヘイズが少ない位相差フィルム、位相差フィルムの製造方法を提供することにあり、更に該位相差フィルムを用いた偏光ムラ、コントラストムラが低減した偏光板、及び視野角の広い液晶表示装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記課題は以下の構成により達成される。
【0009】
1.セルロースアセテートを含む位相差フィルムにおいて、セルロースアセテートの6位のアセチル置換度をD6とした時に、0.745≦D6≦0.95であり、総アセチル置換度が2.0〜2.5の範囲であるセルロースアセテートと、下記一般式(Y)で表される多価カルボン酸エステルの少なくとも一種を含有することを特徴とする位相差フィルム。
【0010】
一般式(Y) R5(COOH)m(OH)n
(但し、R5は(m+n)価の有機基、mは2以上の正の整数、nは0以上の整数、COOHはカルボキシル基、OHはアルコール性またはフェノール性水酸基を表す。)
2.前記多価カルボン酸エステルがシトレート化合物であることを特徴とする前記1に記載の位相差フィルム。
【0011】
3.前記位相差フィルムが、logP値が7〜11である加水分解防止剤(A)と、logP値が−3〜7である位相差調整剤(B)を含有することを特徴とする前記1または2に記載の位相差フィルム。
【0012】
4.前記加水分解防止剤(A)が平均置換度5.0〜7.0の糖エステル化合物であることを特徴とする前記3に記載の位相差フィルム。
【0013】
5.偏光子の少なくとも一方の面に、前記1〜4のいずれか1項に記載の位相差フィルムを貼合したことを特徴とする偏光板。
【0014】
6.前記5に記載の偏光板を液晶セルの少なくとも一方の面に貼合したことを特徴とする液晶表示装置。
【0015】
7.セルロースアセテートを含む位相差フィルムの製造方法において、セルロースアセテートの6位のアセチル置換度をD6とした時に、0.745≦D6≦0.95であり、総アセチル置換度が2.0〜2.5の範囲である該セルロースアセテートと、下記一般式(Y)で表される多価カルボン酸エステルの少なくとも一種を含有したドープを支持体上に流延し、剥離した後に、延伸倍率1.1倍以上で少なくとも幅方向に延伸し、フィルム幅を1.9m〜2.5mの範囲にすることを特徴とする位相差フィルムの製造方法。
【0016】
一般式(Y) R5(COOH)m(OH)n
(但し、R5は(m+n)価の有機基、mは2以上の正の整数、nは0以上の整数、COOHはカルボキシル基、OHはアルコール性またはフェノール性水酸基を表す。)
8.前記位相差フィルムの下記式で表されるレターデーション値Ro、Rthが、Ro:30〜70nm、Rth:70〜300nmであることを特徴とする前記7に記載の位相差フィルムの製造方法。
【0017】
式(I) Ro=(nx−ny)×d
式(II) Rth={(nx+ny)/2−nz}×d
(上式において、dはフィルムの厚み(nm)、nxはフィルムの面内の最大の屈折率、nyはフィルム面内で遅相軸に直角な方向の屈折率、nzは厚み方向におけるフィルムの屈折率であり、各々23℃、55%RHの環境下で、波長546nmで測定した値である。)
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、所望の高レターデーション値が均一に得られ、ヘイズが少ない位相差フィルム、位相差フィルムの製造方法を提供することができ、更に該位相差フィルムを用いた偏光ムラ、コントラストムラが低減した偏光板、及び視野角の広い液晶表示装置を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下本発明を実施するための形態について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0020】
本発明の位相差フィルム(以下、セルロースアセテートフィルムという場合もある)は、セルロースアセテートを含み、該セルロースアセテートの6位のアセチル置換度をD6とした時に、0.745≦D6≦0.95であり、総アセチル置換度が2.0〜2.5の範囲であるセルロースアセテートと、下記一般式(Y)で表される多価カルボン酸エステルの少なくとも一種を含有することを特徴とし、所望の高レターデーション値が均一に得られ、ヘイズが少なく、更に該位相差フィルムを用いた偏光板は偏光ムラ、コントラストムラが低減し、視野角の広い液晶表示装置を提供することができる。
【0021】
一般式(Y) R5(COOH)m(OH)n
(但し、R5は(m+n)価の有機基、mは2以上の正の整数、nは0以上の整数、COOH基はカルボキシル基、OH基はアルコール性またはフェノール性水酸基を表す。)
位相差発現性のよい低アセチル置換度のセルロースアセテートは、トリアセチルセルロースと比較してOH基が多いことから水素結合によって密度が高くなり、流延ドープの粘度も高くなる。従ってトリアセチルセルロースと同濃度以上の流延ドープを作製するとドープ粘度が高くなり、高レターデーション値、広幅化を狙って高倍率に延伸するフィルムの場合には、製膜時に流延方向にかかった応力が大きなひずみとなって残り、延伸後のフィルムのヘイズが上昇したり、コントラストムラが発生する。
【0022】
本発明者らはこの問題に関し鋭意検討した結果、低アセチル置換度であって、6位アセチル置換度の高いセルロースアセテートを用いることによりセルロースアセテート分子間の水素結合を減らし、更に一般式(Y)で表される多価カルボン酸エステルを用いることによってセルロースアセテート分子間の距離をより広げて、両者の相乗効果により顕著にドープ粘度を低下できることを見出し、上記製膜時に流延方向にかかった応力による大きなひずみを緩和し、高倍率の延伸を可能にする本発明の位相差フィルムの構成を為すに至ったものである。
【0023】
<セルロースアセテート>
本発明の位相差フィルムは、位相差発現性が高く、高い位相差を有する位相差フィルムとする場合であっても薄膜化を可能にできる観点から、総アセチル置換度が2.0〜2.5であるセルロースアセテートからなるフィルムが用いられる。好ましいアセチル置換度は、2.2〜2.48である。アセチル置換度の測定方法は、ASTMのD−817−91に準じて実施することができる。
【0024】
また、セルロースアセテートの6位のアセチル置換度をD6とした時に、0.745≦D6≦0.95であることが特徴である。好ましいD6の範囲は、0.80≦D6≦0.95である。6位のアセチル置換度はNMR法により求めることができる。
【0025】
本発明に係るセルロースアセテートの数平均分子量(Mn)は、30000〜300000の範囲が、得られるフィルムの機械的強度が強く好ましい。更に50000〜200000のものが好ましく用いられる。
【0026】
セルロースアセテートの質量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比Mw/Mnの値は、1.4〜3.0であることが好ましい。
【0027】
セルロースアセテートの質量平均分子量Mw、数平均分子量Mnは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定した。
【0028】
測定条件は以下の通りである。
【0029】
溶媒: メチレンクロライド
カラム: Shodex K806、K805、K803G(昭和電工(株)製を3本接続して使用した)
カラム温度:25℃
試料濃度: 0.1質量%
検出器: RI Model 504(GLサイエンス社製)
ポンプ: L6000(日立製作所(株)製)
流量: 1.0ml/min
校正曲線: 標準ポリスチレンSTK standard ポリスチレン(東ソー(株)製)Mw=1000000〜500の13サンプルによる校正曲線を使用した。13サンプルは、ほぼ等間隔に用いる。
【0030】
本発明に係るセルロースアセテートの原料のセルロースとしては、特に限定はないが、綿花リンター、木材パルプ、ケナフなどを挙げることができる。またそれらから得られたセルロースエステルはそれぞれ任意の割合で混合使用することができる。
【0031】
本発明に係るセルロースアセテートは、公知の方法を適宜利用して製造することができ、例えば特開平10−45804号に記載の方法を参考にして合成することができる。
【0032】
本発明に係る6位のアセチル置換度が高いセルロースアセテート(以下、6位高アセチル化セルロースアセテートと呼称する)の製造方法の一例を下記に示す。
【0033】
[6位高アセチル化セルロースアセテートの製造]
本発明に係る総アセチル置換度が2.0〜2.5であって、6位高アセチル化セルロースアセテートの製造方法は、例えば、総アセチル置換度1.0〜2.5(特に1.5〜2.5)の部分アセチル置換セルロースアセテートを、酸触媒の存在下、少なくとも酢酸を含む溶媒中で処理することにより製造することができる。
【0034】
原料として用いる部分アセチル置換セルロースアセテートの2位のアセチル置換度D2は、例えば0.3〜0.9、好ましくは0.5〜0.9であり、3位のアセチル置換度D3は、例えば0.3〜0.9、好ましくは0.5〜0.9であり、6位のアセチル置換度D6は、例えば0.3以上0.9未満、好ましくは0.5〜0.8である。各位置のアセチル置換度はNMR法により求めることができる。
【0035】
また、原料として用いる部分アセチル置換セルロースアセテートの平均重合度は、例えば20〜500、好ましくは81〜500、さらに好ましくは85〜400、特に好ましくは90〜250程度である。
【0036】
本発明で用いられる酸触媒としては、例えば、塩酸、臭化水素酸、過塩素酸、次亜塩素酸、亜塩素酸、硝酸、硫酸等の無機酸(鉱酸等)などが挙げられる。これらの中でも、塩酸、過塩素酸、次亜塩素酸、亜塩素酸、硝酸が好ましい。酸触媒は単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0037】
酸触媒の使用量は、特に制限はなく、反応速度、反応の選択性、コスト、後処理の容易性等を考慮して適宜選択できるが、一般には、原料として用いる部分アセチル置換セルロースアセテートに対して、0.1〜50質量%、好ましくは1〜30質量%、さらに好ましくは1〜20質量%程度である。
【0038】
反応(酸触媒を用いた処理)は、少なくとも酢酸を含む溶媒中で行われる。少なくとも酢酸を含む溶媒としては、例えば、酢酸;酢酸と、ハロゲン系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒、エステル系溶媒及びアミド系溶媒からなる群より選択された少なくとも1種の有機溶媒との混合溶媒などが挙げられる。ハロゲン系溶媒としては、例えば、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、テトラクロロエタン、クロロベンゼンなどが挙げられる。ケトン系溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどが挙げられる。エーテル系溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ジオキソラン等の環状エーテル;エチルエーテル、イソプロピルエーテル等の鎖状エーテルなどが挙げられる。エステル系溶媒としては、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等の脂肪族カルボン酸エステル;安息香酸メチル、安息香酸エチル等の芳香族カルボン酸エステルなどが挙げられる。アミド系溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンなどが挙げられる。
【0039】
本発明においては、上記のなかでも、酢酸/塩化メチレンや酢酸/クロロホルム等の酢酸とハロゲン系溶媒との混合溶媒;酢酸/アセトンや酢酸/シクロヘキサノン等の酢酸とケトン系溶媒との混合溶媒などの、酢酸とハロゲン系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒、エステル系溶媒及びアミド系溶媒から選択された少なくとも1種の有機溶媒との混合溶媒が好ましい。酢酸と他の有機溶媒との混合溶媒を用いる場合、その比率は、例えば、前者/後者(質量比)=5/95〜95/5、好ましくは10/90〜90/10、さらに好ましくは20/80〜80/20程度である。
【0040】
反応系内には水は特に必要はないが、酸触媒の溶媒として用いるなど必要に応じて少量使用してもよい。水の量は、例えば、反応溶媒(少なくとも酢酸を含む溶媒)に対して、0〜10質量%、好ましくは0〜5質量%、さらに好ましくは0〜1質量%である。
【0041】
反応温度(酸触媒を用いた処理温度)は、反応速度や反応の選択性を考慮して適宜選択できるが、0〜100℃、特に20〜60℃の範囲が好ましい。温度が高すぎると重合度が低下しやすく、逆に低すぎると反応時間が長くなり、生産性が低いという問題を生じる。反応時間は、原料として用いる部分アセチル置換セルロースアセテートの種類、反応温度、酸触媒の使用量等により異なるが、一般には、0.5〜24時間、好ましくは1〜12時間、さらに好ましくは2〜8時間程度である。酸触媒による処理は、通常常圧で行われるが、加圧下又は減圧下で行ってもよい。酸触媒による処理は、回分式、半回分式、連続式等の何れの方式で行ってもよい。
【0042】
上記処理により、原料として用いる部分アセチル置換セルロースアセテートのアセチル基が移動して、6位水酸基が選択的にアセチル化された6位高アセチル化セルロースアセテートが生成し、6位のアセチル置換度をD6とした時に、0.745≦D6≦0.95となる。また、上記方法によれば、総置換度分布の狭い6位高アセチル化セルロースアセテートが得られる。総置換度分布とは、セルロース主鎖に対するアセチル基の導入位置の分布の状態を意味し、赤外線吸収スペクトルの吸収バンド解析により測定できる。なお、田所宏行著、高分子の構造(化学同人、1976年)の219頁〜221頁に記載がある。総置換度分布の狭い6位高アセチル化セルロースアセテートは溶媒溶解性が良好であり、溶液反応に供した場合の反応の均一性が高いので、さらなる誘導体を製造する場合も、光学特性の安定した組成物を得ることができる。また、溶解性が良好であることから、ドープの均一性が高い。そのため、光学異物を抑制し、光学特性のムラがないフィルムを得ることができる。
【0043】
また、セルロースアセテートの遊離の水酸基は系内の酢酸によりアセチル化されることもある。また、条件によりセルロースアセテートの重合度が低下する。
【0044】
酸触媒による処理後、反応生成物は、例えば、濾過、濃縮、抽出、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィーなどの分離手段により分離精製できる。例えば、処理後の反応混合液に、必要に応じて酸触媒を中和するための塩基を添加して適当な時間撹拌した後、貧溶媒中に注いで生成物を沈殿させ、沈殿した固体を濾過し、適当な洗浄液で洗浄した後、例えば減圧下で乾燥することにより目的とする6位高アセチル化セルロースアセテートを得ることができる。
【0045】
前記塩基としては、例えば、ピリジン等の含窒素複素環化合物;トリエチルアミン等の第三級アミン、ジエチルアミン等の第二級アミンなどのアミンなどが挙げられる。塩基の使用量は、例えば、用いた酸触媒に対して、1当量以上(1〜20当量)、好ましくは1〜5当量程度である。塩基を添加して撹拌する際の温度は、例えば20〜100℃、好ましくは20〜60℃である。前記沈殿操作に用いる貧溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール、ヘキサンやトルエン等の炭化水素、水、これらの混合溶媒、これらと他の有機溶媒との混合溶媒などが挙げられる。前記洗浄液としては、上記の貧溶媒として例示した溶媒を使用できる。
【0046】
こうして得られる6位高アセチル化セルロースアセテートは、そのまま、または更に誘導化して、フィルム原料に利用できる。
【0047】
<多価カルボン酸エステル>
本発明に係る多価カルボン酸エステルは次の一般式(Y)で表される。
【0048】
一般式(Y) R5(COOH)m(OH)n
(但し、R5は(m+n)価の有機基、mは2以上の正の整数、nは0以上の整数、COOHはカルボキシル基、OHはアルコール性またはフェノール性水酸基を表す。)
多価カルボン酸エステル化合物としては、2価以上、好ましくは2価〜20価の多価カルボン酸とアルコールのエステルよりなる。また、脂肪族多価カルボン酸は2〜20価であることが好ましく、芳香族多価カルボン酸、脂環式多価カルボン酸の場合は3価〜20価であることが好ましい。
【0049】
好ましい多価カルボン酸の例としては、例えば以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0050】
トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸のような3価以上の芳香族多価カルボン酸またはその誘導体、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、シュウ酸、フマル酸、マレイン酸、テトラヒドロフタル酸のような脂肪族多価カルボン酸、酒石酸、タルトロン酸、リンゴ酸、クエン酸のようなオキシ多価カルボン酸などを好ましく用いることができる。特にオキシ多価カルボン酸を用いることが、保留性向上などの点で好ましい。
【0051】
本発明に係る多価カルボン酸エステル化合物に用いられるアルコールとしては特に制限はなく公知のアルコール、フェノール類を用いることができる。
【0052】
例えば炭素数1〜32の直鎖または側鎖を持った脂肪族飽和アルコールまたは脂肪族不飽和アルコールを好ましく用いることができる。炭素数1〜20であることが更に好ましく、炭素数1〜10であることが特に好ましい。
【0053】
また、シクロペンタノール、シクロヘキサノールなどの脂環式アルコールまたはその誘導体、ベンジルアルコール、シンナミルアルコールなどの芳香族アルコールまたはその誘導体なども好ましく用いることができる。
【0054】
多価カルボン酸としてオキシ多価カルボン酸を用いる場合は、オキシ多価カルボン酸のアルコール性またはフェノール性の水酸基を、モノカルボン酸を用いてエステル化しても良い。好ましいモノカルボン酸の例としては以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0055】
脂肪族モノカルボン酸としては炭素数1〜32の直鎖または側鎖を持った脂肪酸を好ましく用いることができる。炭素数1〜20であることが更に好ましく、炭素数1〜10であることが特に好ましい。
【0056】
好ましい脂肪族モノカルボン酸としては酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサンカルボン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸などの飽和脂肪酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸などの不飽和脂肪酸などを挙げることができる。
【0057】
好ましい脂環族モノカルボン酸の例としては、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができる。
【0058】
好ましい芳香族モノカルボン酸の例としては、安息香酸、トルイル酸などの安息香酸のベンゼン環にアルキル基を導入したもの、ビフェニルカルボン酸、ナフタリンカルボン酸、テトラリンカルボン酸などのベンゼン環を2個以上持つ芳香族モノカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができる。特に酢酸、プロピオン酸、安息香酸であることが好ましい。
【0059】
多価カルボン酸エステル化合物の分子量は特に制限はないが、分子量300〜1000の範囲であることが好ましく、350〜750の範囲であることが更に好ましい。保留性向上の点では大きい方が好ましく、透湿性、セルロースエステルとの相溶性の点では小さい方が好ましい。
【0060】
本発明に用いることのできる多価カルボン酸エステルに用いられるアルコール類は一種類でも良いし、二種以上の混合であっても良い。
【0061】
本発明に用いることのできる多価カルボン酸エステル化合物の酸価は1mgKOH/g以下であることが好ましく、0.2mgKOH/g以下であることが更に好ましい。酸価を上記範囲にすることによって、リターデーションの環境変動も抑制されるため好ましい。
【0062】
なお、酸価とは、試料1g中に含まれる酸(試料中に存在するカルボキシル基)を中和するために必要な水酸化カリウムのミリグラム数をいう。酸価はJIS K0070に準拠して測定したものである。
【0063】
特に好ましい多価カルボン酸エステル化合物の例を以下に示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0064】
例えば、本発明に好ましいシトレート化合物は、トリエチルシトレート、トリブチルシトレート、アセチルトリエチルシトレート(ATEC)、アセチルトリブチルシトレート(ATBC)、ベンゾイルトリブチルシトレート、アセチルトリフェニルシトレート、アセチルトリベンジルシトレート、酒石酸ジブチル、酒石酸ジアセチルジブチル、トリメリット酸トリブチル、ピロメリット酸テトラブチル等が挙げられる。
【0065】
更に以下の例示化合物が挙げられる。
RK−1:HOOC(CH)kCO(OCHCH)mOR;R=CH、k=0、m=6
RK−2:HOOC(CH)kCO(OCHCH)mOR;R=C、k=0、m=10
RK−3:HOOC(CH)kCO(OCHCH)mOR;R=C、k=1、m=5
RK−4:HOOC(CH)kCO(OCHCH)mOR;R=C17、k=2、m=10
RK−5:HOOC−CHCH(OH)−COOR;R=CH
RK−6:HOOC−CHCH(OH)−COOR;R=CHCH(OH)CHO)
RK−7:HOOC−CHCH(OH)−COOR;R=(CHCHO)−OC
RK−8:HOOC−CH(OH)−CH(OH)−COOR;R=(CHCHO)−OC
RK−9:HOOC−CH(OH)−CH(OH)−COOR;R=(CHCHO)10−OC
RK−10:HOOC−CH(OH)−CH(OH)−COOR;R=(CH−CH(CH)−CHO)−(CHCHO)
RK−11:クエン酸モノ{エトキシ−トリ(エチレングリコール)}エステル
RK−12:クエン酸ジ{ブトキシ−ヘキサ(エチレングリコール)}エステル
RK−13:クエン酸ジ{エトキシ−トリ(エチレングリコール)}エステル
RK−14:フタル酸モノ{エトキシ−ペンタ(エチレングリコール)}エステル
RK−15:イソフタル酸モノ{ドデシルオキシ−デカ(エチレングリコール)}エステル
RK−16:トリメリット酸ジ{ブトキシ−ペンタ(エチレングリコール)}エステル
RK−17:N−アセチル−アスパラギン酸モノ{ブトキシ−ヘプタ(エチレングリコール)}エステル
RK−18:2,6−ピリジンジカルボン酸モノ{エトキシ−ペンタ(エチレングリコール)}エステル
RK−19:2,6−ピリジンジカルボン酸モノ{ペンタ(エチレングリコール)}エステル
RK−20:酒石酸メチルエステル
RK−21:クエン酸ジメチルエステル
RK−22:HOOC−CH=CH−COO(CHCH−C
RK−23:HOOC−CH−CONR1・R2;R1=H、R2=(CHCHO)
RK−24:HOOC−CH−CONR1・R2;R1=R2=(CHCHO)
RK−25:HOOC−CH(OH)−CHCONH(CHCHO)
RK−26:HOOC−CH(OH)−CHCON[(CHCH2O)H]
RK−27:HOOC−CH(OH)−CH(OH)−CON[(CHCHO)H]
RK−28:クエン酸モノ{N−オクタ(エチレングリコール)}アミド
RK−29:テレフタル酸モノ{N−ブトキシデカ(エチレングリコール)}アミド
RK−30:NaOOC(CH)kCO(OCHCH)mOR;R=C、k=0、m=15
RK−31:KOOC(CH)kCO(OCHCH)mOR;R=C、k=0、m=10
RK−32:Ca[OOC(CH)kCO(OCHCH)mOR];R=C、k=1、m=5
RK−33:NHOOC−CHCH(OH)−COOR;R=CH
RK−34:LiOOC−CHCH(OH)−COOR;R=CHCH(OH)CHO)
RK−35:Mg[OOC−CH(OH)−CH(OH)−COOR];R=(CHCHO)−OC
RK−36:クエン酸モノ{エトキシ−トリ(エチレングリコール)}エステルのNa塩RK−37:クエン酸ジ{ブトキシ−ヘキサ(エチレングリコール)}エステルのNa塩RK−38:クエン酸ジ{エトキシ−トリ(エチレングリコール)}エステルのK塩
RK−39:フタル酸モノ{エトキシ−ペンタ(エチレングリコール)}エステルのNa塩
RK−40:トリメリット酸ジ{ブトキシ−ペンタ(エチレングリコール)}エステルのLi塩
RK−41:酒石酸ジメチルエステルのNa塩
RK−42:クエン酸ジメチルエステルのトリヒドロキシエチルアミン
塩RK−43:NaOOC−CH=CH−COO(CHCH−C
RK−44:NaOOC−CH(OH)−CHCONH(CHCHO)
RK−45:KOOC−CH(OH)−CHCON[(CHCHO)H]
RK−46:クエン酸ジ{N−オクタ(エチレングリコール)}アミドのNa塩
<好ましい添加剤>
本発明の位相差フィルムは、logP値が7〜11である加水分解防止剤(A)と、logP値が−3〜7である位相差調整剤(B)を含有することが好ましい。
【0066】
〈オクタノール−水分配係数(logP)〉
上記logP値を有する化合物は本発明に係るセルロースアセテートと相溶性がよくヘイズの低減に効果を有する。
【0067】
オクタノール−水分配係数(logP値)の測定は、JIS Z−7260−107(2000)に記載のフラスコ浸とう法により実施することができる。また、オクタノール−水分配係数(logP値)は実測に代わって、計算化学的手法または経験的方法により見積もることも可能である。
【0068】
計算方法としては、Crippen’s fragmentation法(“J.Chem.Inf.Comput.Sci.”,27巻、p21(1987年))、Viswanadhan’s fragmentation法(“J.Chem.Inf.Comput.Sci.”,29巻、p163(1989年))、Broto’s fragmentation法(“Eur.J.Med.Chem.−Chim.Theor.”,19巻、p71(1984年))、CLogP法(参考文献Leo,A.,Jow,P.Y.C.,Silipo,C.,Hansch,C.,J.Med.Chem.,18,865 1975年)などが好ましく用いられるが、Crippen’s fragmentation法(“J.Chem.Inf.Comput.Sci.”,27巻、p21(1987年))がより好ましい。
【0069】
〈加水分解防止剤(A)〉
本発明に係る加水分解防止剤(A)は特に限定されないが、オクタノール−水分配係数(logP(A))は7〜11が好ましい。logP(A)が7より小さいとき、加水分解防止効果が小さく、またlogP(A)が11を越えると、セルロースエステルとの相溶性が低く、湿熱によりブリードアウトを引き起こし、好ましくない。特にlogP値が7.5〜11の化合物が好ましい。
【0070】
加水分解防止剤(A)は、例えば、ピラノース構造またはフラノース構造の少なくとも1種を1個以上12個以下有しその構造のOH基の一部がエステル化されたエステル化合物の混合物を好ましく用いることができる。
【0071】
ピラノース構造またはフラノース構造の少なくとも1種を1個以上12個以下有しその構造のOH基のすべてもしくは一部をエステル化したエステル化合物のエステル化の割合としては、ピラノース構造またはフラノース構造内に存在するOH基の70%以上であることが好ましい。
【0072】
本発明においては、上記エステル化合物を総称して、糖エステル化合物とも称す。
【0073】
本発明に用いられるエステル化合物の例としては、例えば以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0074】
グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、キシロース、あるいはアラビノース、ラクトース、スクロース、ニストース、1F−フラクトシルニストース、スタキオース、マルチトール、ラクチトール、ラクチュロース、セロビオース、マルトース、セロトリオース、マルトトリオース、ラフィノースあるいはケストース挙げられる。
【0075】
この他、ゲンチオビオース、ゲンチオトリオース、ゲンチオテトラオース、キシロトリオース、ガラクトシルスクロースなども挙げられる。
【0076】
これらの化合物の中で、特にピラノース構造とフラノース構造を両方有する化合物が好ましい。
【0077】
例としてはスクロース、ケストース、ニストース、1F−フラクトシルニストース、スタキオースなどが好ましく、更に好ましくは、スクロースである。
【0078】
ピラノース構造またはフラノース構造中のOH基のすべてもしくは一部をエステル化するのに用いられるモノカルボン酸としては、特に制限はなく、公知の脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸等を用いることができる。用いられるカルボン酸は1種類でもよいし、2種以上の混合であってもよい。
【0079】
好ましい脂肪族モノカルボン酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサンカルボン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸等の飽和脂肪酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、オクテン酸等の不飽和脂肪酸等を挙げることができる。
【0080】
好ましい脂環族モノカルボン酸の例としては、酢酸、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができる。
【0081】
好ましい芳香族モノカルボン酸の例としては、安息香酸、トルイル酸等の安息香酸のベンゼン環にアルキル基、アルコキシ基を導入した芳香族モノカルボン酸、ケイ皮酸、ベンジル酸、ビフェニルカルボン酸、ナフタリンカルボン酸、テトラリンカルボン酸等のベンゼン環を2個以上有する芳香族モノカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができ、より、具体的には、キシリル酸、ヘメリト酸、メシチレン酸、プレーニチル酸、γ−イソジュリル酸、ジュリル酸、メシト酸、α−イソジュリル酸、クミン酸、α−トルイル酸、ヒドロアトロパ酸、アトロパ酸、ヒドロケイ皮酸、サリチル酸、o−アニス酸、m−アニス酸、p−アニス酸、クレオソート酸、o−ホモサリチル酸、m−ホモサリチル酸、p−ホモサリチル酸、o−ピロカテク酸、β−レソルシル酸、バニリン酸、イソバニリン酸、ベラトルム酸、o−ベラトルム酸、没食子酸、アサロン酸、マンデル酸、ホモアニス酸、ホモバニリン酸、ホモベラトルム酸、o−ホモベラトルム酸、フタロン酸、p−クマル酸を挙げることができるが、特に安息香酸、ナフチル酸が好ましい。
【0082】
オリゴ糖のエステル化合物を、本発明に係るピラノース構造またはフラノース構造の少なくとも1種を1〜12個を有する化合物として適用できる。
【0083】
オリゴ糖は、澱粉、ショ糖等にアミラーゼ等の酵素を作用させて製造されるもので、本発明に適用できるオリゴ糖としては、例えば、マルトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖が挙げられる。
【0084】
また、前記エステル化合物は、下記一般式(A)で表されるピラノース構造またはフラノース構造の少なくとも1種を1個以上12個以下縮合した化合物である。ただし、R11〜R15、R21〜R25は、炭素数2〜22のアシル基または水素原子を、m、nはそれぞれ0〜12の整数、m+nは1〜12の整数を表す。
【0085】
【化1】

【0086】
11〜R15、R21〜R25は、ベンゾイル基、水素原子であることが好ましい。ベンゾイル基は更に置換基R26を有していてもよく、例えばアルキル基、アルケニル基、アルコキシル基、フェニル基が挙げられ、更にこれらのアルキル基、アルケニル基、フェニル基は置換基を有していてもよい。オリゴ糖も本発明に係るエステル化合物と同様な方法で製造することができる。
【0087】
以下に、本発明に係る糖エステル化合物の具体例を挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0088】
【化2】

【0089】
【化3】

【0090】
【化4】

【0091】
【化5】

【0092】
【化6】

【0093】
【化7】

【0094】
【化8】

【0095】
【化9】

【0096】
【化10】

【0097】
本発明の位相差フィルムに添加される糖エステル化合物の平均置換度は5.0〜7.0であることが好ましく、当該置換度の範囲は4〜8であることが好ましい。特に好ましい平均置換度の範囲は6.0〜6.7である。置換度分布は、エステル化反応時間の調節、または置換度違いの化合物を混合することにより目的の置換度に調整してもよい。
【0098】
該平均置換度の測定は、得られた糖エステル化合物を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)での定量や、常法のH−NMRの積分値等の分光学的な手法によって測定することができる。
【0099】
本発明に係る位相差フィルムは、加水分解防止剤(A)を位相差フィルムの0.5〜30質量%含むことが好ましく、特には、2〜15質量%含むことが好ましい。
【0100】
〈位相差調整剤(B)〉
本発明に係る位相差調整剤(B)は特に限定されないが、オクタノール−水分配係数(logP(B))は−3〜7の化合物が好ましい。位相差調整剤は、樹脂に相応した適度な溶解性が必要であるが、本発明に係るセルロースエステルにおいて、logP(B)が0より小さいとき、化合物の水溶性が高いため配向乱れを生じ、またlogP(B)が7以上であると、化合物の配向性が低いため所望の位相差を得ることができず、好ましくない。
【0101】
位相差調整剤(B)は、例えば、下記一般式(B)で表されるエステル系化合物を好ましく用いることができる。
【0102】
一般式(B) B−(G−A)n−G−B
(式中、Bはヒドロキシ基またはカルボン酸残基、Gは炭素数2〜12のアルキレングリコール残基または炭素数6〜12のアリールグリコール残基または炭素数が4〜12のオキシアルキレングリコール残基、Aは炭素数4〜12のアルキレンジカルボン酸残基または炭素数6〜12のアリールジカルボン酸残基を表し、またnは1以上の整数を表す。)
一般式(B)中、Bで示されるヒドロキシ基またはカルボン酸残基と、Gで示されるアルキレングリコール残基またはオキシアルキレングリコール残基またはアリールグリコール残基、Aで示されるアルキレンジカルボン酸残基またはアリールジカルボン酸残基とから構成されるものであり、通常のエステル系化合物と同様の反応により得られる。
【0103】
一般式(B)で表されるエステル系化合物のカルボン酸成分としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、安息香酸、パラターシャリブチル安息香酸、オルソトルイル酸、メタトルイル酸、パラトルイル酸、ジメチル安息香酸、エチル安息香酸、ノルマルプロピル安息香酸、アミノ安息香酸、アセトキシ安息香酸、脂肪族酸等があり、これらはそれぞれ1種または2種以上の混合物として使用することができる。
【0104】
一般式(B)で表されるエステル系化合物の炭素数2〜12のアルキレングリコール成分としては、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−プロパンジオール、2−メチル1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール(3,3−ジメチロールペンタン)、2−n−ブチル−2−エチル−1,3プロパンジオール(3,3−ジメチロールヘプタン)、3−メチル−1,5−ペンタンジオール1,6−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル1,3−ペンタンジオール、2−エチル1,3−ヘキサンジオール、2−メチル1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−オクタデカンジオール等があり、これらのグリコールは、1種または2種以上の混合物として使用される。
【0105】
特に炭素数2〜12のアルキレングリコールがセルロースエステルとの相溶性に優れているため、特に好ましい。
【0106】
また、上記一般式(B)で表されるエステル系化合物の炭素数4〜12のオキシアルキレングリコール成分としては、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等があり、これらのグリコールは、1種または2種以上の混合物として使用できる。
【0107】
一般式(B)で表されるエステル系化合物の炭素数4〜12のアルキレンジカルボン酸成分としては、例えば、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、グルタール酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸等があり、これらは、それぞれ1種または2種以上の混合物として使用される。炭素数6〜12のアリーレンジカルボン酸成分としては、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,5ナフタレンジカルボン酸、1,4ナフタレンジカルボン酸等がある。
【0108】
一般式(B)で表されるエステル系化合物は、数平均分子量が、好ましくは300〜1500、より好ましくは400〜1000の範囲が好適である。また、その酸価は、0.5mgKOH/g以下、水酸基価は25mgKOH/g以下、より好ましくは酸価0.3mgKOH/g以下、水酸基価は15mgKOH/g以下のものである。
【0109】
以下に、本発明に用いることのできる一般式(B)で表されるエステル系化合物の具体的化合物を示すが、本発明はこれに限定されない。
【0110】
【化11】

【0111】
【化12】

【0112】
【化13】

【0113】
本発明の位相差フィルムは位相差調整剤(B)を位相差フィルムの0.1〜30質量%含むことが好ましく、特には、0.5〜10質量%含むことが好ましい。
【0114】
<その他の添加剤>
〈可塑剤〉
本発明の位相差フィルムは、本発明の効果を得る上で必要に応じて可塑剤を含有することができる。
【0115】
可塑剤は特に限定されないが、好ましくは、グリコレート系可塑剤、フタル酸エステル系可塑剤、脂肪酸エステル系可塑剤および多価アルコールエステル系可塑剤、エステル系可塑剤、アクリル系可塑剤等から選択される。
【0116】
そのうち、可塑剤を2種以上用いる場合は、少なくとも1種は多価アルコールエステル系可塑剤であることが好ましい。
【0117】
多価アルコールエステル系可塑剤は2価以上の脂肪族多価アルコールとモノカルボン酸のエステルよりなる可塑剤であり、分子内に芳香環またはシクロアルキル環を有することが好ましい。好ましくは2〜20価の脂肪族多価アルコールエステルである。
【0118】
本発明に好ましく用いられる多価アルコールは次の一般式(a)で表される。
【0119】
一般式(a) R11−(OH)
但し、R11はn価の有機基、nは2以上の正の整数、OH基はアルコール性、および/またはフェノール性水酸基を表す。
【0120】
好ましい多価アルコールの例としては、例えば以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0121】
アドニトール、アラビトール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ジブチレングリコール、1,2,4−ブタントリオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ヘキサントリオール、ガラクチトール、マンニトール、3−メチルペンタン−1,3,5−トリオール、ピナコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、キシリトール等を挙げることができる。
【0122】
特に、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、キシリトールが好ましい。
【0123】
多価アルコールエステルに用いられるモノカルボン酸としては、特に制限はなく、公知の脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸等を用いることができる。脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸を用いると透湿性、保留性を向上させる点で好ましい。
【0124】
好ましいモノカルボン酸の例としては以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0125】
脂肪族モノカルボン酸としては、炭素数1〜32の直鎖または側鎖を有する脂肪酸を好ましく用いることができる。炭素数は1〜20であることが更に好ましく、1〜10であることが特に好ましい。酢酸を含有させるとセルロースアセテートとの相溶性が増すため好ましく、酢酸と他のモノカルボン酸を混合して用いることも好ましい。
【0126】
好ましい脂肪族モノカルボン酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸等の飽和脂肪酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸等の不飽和脂肪酸等を挙げることができる。
【0127】
好ましい脂環族モノカルボン酸の例としては、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができる。
【0128】
好ましい芳香族モノカルボン酸の例としては、安息香酸、トルイル酸等の安息香酸のベンゼン環にアルキル基、メトキシ基あるいはエトキシ基などのアルコキシ基を1〜3個を導入したもの、ビフェニルカルボン酸、ナフタリンカルボン酸、テトラリンカルボン酸等のベンゼン環を2個以上有する芳香族モノカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができる。特に安息香酸が好ましい。
【0129】
多価アルコールエステルの分子量は特に制限はないが、300〜1500であることが好ましく、350〜750であることが更に好ましい。分子量が大きい方が揮発し難くなるため好ましく、透湿性、セルロースアセテートとの相溶性の点では小さい方が好ましい。
【0130】
多価アルコールエステルに用いられるカルボン酸は1種類でもよいし、2種以上の混合であってもよい。また、多価アルコール中のOH基は、全てエステル化してもよいし、一部をOH基のままで残してもよい。
【0131】
以下に、多価アルコールエステルの具体的化合物を例示する。
【0132】
【化14】

【0133】
【化15】

【0134】
【化16】

【0135】
【化17】

【0136】
グリコレート系可塑剤は特に限定されないが、アルキルフタリルアルキルグリコレート類が好ましく用いることができる。
【0137】
アルキルフタリルアルキルグリコレート類としては、例えばメチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルプロピルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、オクチルフタリルオクチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、エチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルメチルグリコレート、ブチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルオクチルグリコレート、エチルフタリルオクチルグリコレート、オクチルフタリルメチルグリコレート、オクチルフタリルエチルグリコレート等が挙げられる。
【0138】
フタル酸エステル系可塑剤としては、ジエチルフタレート、ジメトキシエチルフタレート、ジメチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジオクチルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート、ジシクロヘキシルテレフタレート等が挙げられる。
【0139】
クエン酸エステル系可塑剤としては、クエン酸アセチルトリメチル、クエン酸アセチルトリエチル、クエン酸アセチルトリブチル等が挙げられる。
【0140】
脂肪酸エステル系可塑剤として、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバシン酸ジブチル等が挙げられる。
【0141】
リン酸エステル系可塑剤としては、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジフェニルビフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェート等が挙げられる。
【0142】
(紫外線吸収剤)
本発明に係る位相差フィルムは、紫外線吸収剤を含有することもできる。紫外線吸収剤は400nm以下の紫外線を吸収することで、耐久性を向上させることを目的としており、特に波長380nmでの透過率が10%以下であることが好ましく、より好ましくは5%以下、更に好ましくは2%以下である。
【0143】
本発明に用いられる紫外線吸収剤は特に限定されないが、例えばオキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、トリアジン系化合物、ニッケル錯塩系化合物、無機粉体等が挙げられる。
【0144】
例えば、5−クロロ−2−(3,5−ジ−sec−ブチル−2−ヒドロキシルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、(2−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(直鎖および側鎖ドデシル)−4−メチルフェノール、2−ヒドロキシ−4−ベンジルオキシベンゾフェノン、2,4−ベンジルオキシベンゾフェノン等があり、また、チヌビン109、チヌビン171、チヌビン234、チヌビン326、チヌビン327、チヌビン328等のチヌビン類があり、これらはいずれもチバ・ジャパン社製の市販品であり好ましく使用できる。
【0145】
本発明で好ましく用いられる紫外線吸収剤は、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤であり、特に好ましくはベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、である。
【0146】
この他、1,3,5トリアジン環を有する化合物等の円盤状化合物も紫外線吸収剤として好ましく用いられる。
【0147】
本発明に係わる偏光板保護フィルムは紫外線吸収剤を2種以上を含有することが好ましい。
【0148】
また、紫外線吸収剤としては高分子紫外線吸収剤も好ましく用いることができ、特に特開平6−148430号記載のポリマータイプの紫外線吸収剤が好ましく用いられる。
【0149】
紫外線吸収剤の添加方法は、メタノール、エタノール、ブタノール等のアルコールやメチレンクロライド、酢酸メチル、アセトン、ジオキソラン等の有機溶媒あるいはこれらの混合溶媒に紫外線吸収剤を溶解してからドープに添加するか、または直接ドープ組成中に添加してもよい。
【0150】
無機粉体のように有機溶剤に溶解しないものは、有機溶剤とセルロースアセテート中にディゾルバーやサンドミルを使用し、分散してからドープに添加する。
【0151】
紫外線吸収剤の使用量は、紫外線吸収剤の種類、使用条件等により一様ではないが、偏光板保護フィルムの乾燥膜厚が30〜200μmの場合は、偏光板保護フィルムに対して0.5〜10質量%が好ましく、0.6〜4質量%が更に好ましい。
【0152】
(酸化防止剤)
酸化防止剤は劣化防止剤ともいわれる。高湿高温の状態に液晶画像表示装置などがおかれた場合には、位相差フィルムの劣化が起こる場合がある。
【0153】
酸化防止剤は、例えば、位相差フィルム中の残留溶媒量のハロゲンやリン酸系可塑剤のリン酸等により位相差フィルムが分解するのを遅らせたり、防いだりする役割を有するので、前記位相差フィルム中に含有させるのが好ましい。
【0154】
このような酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系の化合物が好ましく用いられ、例えば、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6−ヘキサンジオール−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、2,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N′−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイト等を挙げることができる。
【0155】
特に、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕が好ましい。また、例えば、N,N′−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル〕ヒドラジン等のヒドラジン系の金属不活性剤やトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト等のリン系加工安定剤を併用してもよい。
【0156】
これらの化合物の添加量は、セルロース誘導体に対して質量割合で1ppm〜1.0%が好ましく、10〜1000ppmが更に好ましい。
【0157】
〈微粒子〉
本発明の位相差フィルムには、取扱性を向上させる為、例えば二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、リン酸カルシウム等の無機微粒子や架橋高分子などのマット剤を含有させることが好ましい。中でも二酸化ケイ素がフィルムのヘイズを小さくできるので好ましい。
【0158】
微粒子の1次平均粒子径としては、20nm以下が好ましく、更に好ましくは、5〜16nmであり、特に好ましくは、5〜12nmである。
【0159】
これらの微粒子は0.1〜5μmの粒径の2次粒子を形成して位相差フィルムに含まれることが好ましく、好ましい平均粒径は0.1〜2μmであり、更に好ましくは0.2〜0.6μmである。これにより、フィルム表面に高さ0.1〜1.0μm程度の凹凸を形成し、これによってフィルム表面に適切な滑り性を与えることができる。
【0160】
本発明に用いられる微粒子の1次平均粒子径の測定は、透過型電子顕微鏡(倍率50万〜200万倍)で粒子の観察を行い、粒子100個を観察し、粒子径を測定しその平均値をもって、1次平均粒子径とした。
【0161】
〈位相差フィルムの製造方法〉
次に、本発明の位相差フィルムの製造方法について説明する。
【0162】
本発明の位相差フィルムは溶液流延法で製造されたフィルムであっても溶融流延法で製造されたフィルムであっても好ましく用いることができる。
【0163】
本発明の位相差フィルムの製造方法は、セルロースアセテートの6位のアセチル置換度をD6とした時に、0.745≦D6≦0.95であり、総アセチル置換度が2.0〜2.5の範囲である該セルロースアセテートと、前記一般式(Y)で表される多価カルボン酸エステルの少なくとも一種を含有したドープを支持体上に流延し、剥離した後に、延伸倍率1.1倍以上で少なくとも幅方向に延伸し、フィルム幅を1.9m〜2.5mの範囲にすることが好ましい。
【0164】
本発明の位相差フィルムの溶液流延法での製造は、セルロースアセテートおよび添加剤を溶剤に溶解させてドープを調製する工程、ドープを無限に移行する無端の金属支持体上に流延する工程、流延したドープをウェブとして乾燥する工程、金属支持体から剥離する工程、延伸または幅保持する工程、更に乾燥する工程、仕上がったフィルムを巻取る工程により行われる。
【0165】
ドープを調製する工程について述べる。ドープ中のセルロースアセテートの濃度は、濃い方が金属支持体に流延した後の乾燥負荷が低減できて好ましいが、セルロースアセテートの濃度が濃過ぎると濾過時の負荷が増えて、濾過精度が悪くなる。これらを両立する濃度としては、10〜35質量%が好ましく、更に好ましくは、15〜25質量%である。
【0166】
ドープで用いられる溶剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよいが、セルロースアセテートの良溶剤と貧溶剤を混合して使用することが生産効率の点で好ましく、良溶剤が多い方がセルロースアセテートの溶解性の点で好ましい。
【0167】
良溶剤と貧溶剤の混合比率の好ましい範囲は、良溶剤が70〜98質量%であり、貧溶剤が2〜30質量%である。良溶剤、貧溶剤とは、使用するセルロースアセテートを単独で溶解するものを良溶剤、単独で膨潤するかまたは溶解しないものを貧溶剤と定義している。
【0168】
そのため、セルロースアセテートのアセチル置換度によって良溶剤、貧溶剤が変わる。
【0169】
本発明に用いられる良溶剤は特に限定されないが、メチレンクロライド等の有機ハロゲン化合物やジオキソラン類、アセトン、酢酸メチル、アセト酢酸メチル等が挙げられる。特に好ましくはメチレンクロライドまたは酢酸メチルが挙げられる。
【0170】
また、本発明に用いられる貧溶剤は特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、n−ブタノール、シクロヘキサン、シクロヘキサノン等が好ましく用いられる。また、ドープ中には水が0.01〜2質量%含有していることが好ましい。
【0171】
また、セルロースアセテートの溶解に用いられる溶媒は、フィルム製膜工程で乾燥によりフィルムから除去された溶媒を回収し、これを再利用して用いられる。
【0172】
回収溶剤中に、セルロースアセテートに添加されている添加剤、例えば可塑剤、紫外線吸収剤、ポリマー、モノマー成分などが微量含有されていることもあるが、これらが含まれていても好ましく再利用することができるし、必要であれば精製して再利用することもできる。
【0173】
上記記載のドープを調製する時の、セルロースアセテートの溶解方法としては、一般的な方法を用いることができる。加熱と加圧を組み合わせると常圧における沸点以上に加熱できる。
【0174】
溶剤の常圧での沸点以上でかつ加圧下で溶剤が沸騰しない範囲の温度で加熱しながら攪拌溶解すると、ゲルやママコと呼ばれる塊状未溶解物の発生を防止するため好ましい。
【0175】
また、セルロースアセテートを貧溶剤と混合して湿潤あるいは膨潤させた後、更に良溶剤を添加して溶解する方法も好ましく用いられる。
【0176】
加圧は窒素ガス等の不活性気体を圧入する方法や、加熱によって溶剤の蒸気圧を上昇させる方法によって行ってもよい。加熱は外部から行うことが好ましく、例えばジャケットタイプのものは温度コントロールが容易で好ましい。
【0177】
溶剤を添加しての加熱温度は、高い方がセルロースアセテートの溶解性の観点から好ましいが、加熱温度が高過ぎると必要とされる圧力が大きくなり生産性が悪くなる。
【0178】
好ましい加熱温度は45〜120℃であり、60〜110℃がより好ましく、70℃〜105℃が更に好ましい。また、圧力は設定温度で溶剤が沸騰しないように調整される。
【0179】
もしくは冷却溶解法も好ましく用いられ、これによって酢酸メチルなどの溶媒にセルロースアセテートを溶解させることができる。
【0180】
次に、このセルロースアセテート溶液を濾紙等の適当な濾過材を用いて濾過する。濾過材としては、不溶物等を除去するために絶対濾過精度が小さい方が好ましいが、絶対濾過精度が小さ過ぎると濾過材の目詰まりが発生し易いという問題がある。
【0181】
このため絶対濾過精度0.008mm以下の濾材が好ましく、0.001〜0.008mmの濾材がより好ましく、0.003〜0.006mmの濾材が更に好ましい。
【0182】
濾材の材質は特に制限はなく、通常の濾材を使用することができるが、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)等のプラスチック製の濾材や、ステンレススティール等の金属製の濾材が繊維の脱落等がなく好ましい。
【0183】
濾過により、原料のセルロースアセテートに含まれていた不純物、特に輝点異物を除去、低減することが好ましい。
【0184】
輝点異物とは、2枚の偏光板をクロスニコル状態にして配置し、その間に光学フィルム等を置き、一方の偏光板の側から光を当てて、他方の偏光板の側から観察した時に反対側からの光が漏れて見える点(異物)のことであり、径が0.01mm以上である輝点数が200個/cm以下であることが好ましい。
【0185】
より好ましくは100個/cm以下であり、更に好ましくは50個/m以下であり、更に好ましくは0〜10個/cm以下である。また、0.01mm以下の輝点も少ない方が好ましい。
【0186】
ドープの濾過は通常の方法で行うことができるが、溶剤の常圧での沸点以上で、かつ加圧下で溶剤が沸騰しない範囲の温度で加熱しながら濾過する方法が、濾過前後の濾圧の差(差圧という)の上昇が小さく、好ましい。
【0187】
好ましい温度は45〜120℃であり、45〜70℃がより好ましく、45〜55℃であることが更に好ましい。
【0188】
濾圧は小さい方が好ましい。濾圧は1.6MPa以下であることが好ましく、1.2MPa以下であることがより好ましく、1.0MPa以下であることが更に好ましい。
【0189】
ここで、ドープの流延について説明する。
【0190】
流延(キャスト)工程における金属支持体は、表面を鏡面仕上げしたものが好ましく、金属支持体としては、ステンレススティールベルトもしくは鋳物で表面をメッキ仕上げしたドラムが好ましく用いられる。
【0191】
キャストの幅は1〜4mとすることができる。流延工程の金属支持体の表面温度は−50℃〜溶剤の沸点未満の温度で、温度が高い方がウェブの乾燥速度が速くできるので好ましいが、余り高過ぎるとウェブが発泡したり、平面性が劣化する場合がある。
【0192】
好ましい支持体温度は0〜55℃であり、25〜50℃が更に好ましい。あるいは、冷却することによってウェブをゲル化させて残留溶媒を多く含んだ状態でドラムから剥離することも好ましい方法である。
【0193】
金属支持体の温度を制御する方法は特に制限されないが、温風または冷風を吹きかける方法や、温水を金属支持体の裏側に接触させる方法がある。温水を用いる方が熱の伝達が効率的に行われるため、金属支持体の温度が一定になるまでの時間が短く好ましい。温風を用いる場合は目的の温度よりも高い温度の風を使う場合がある。
【0194】
位相差フィルムが良好な平面性を示すためには、金属支持体からウェブを剥離する際の残留溶媒量は10〜150質量%が好ましく、更に好ましくは20〜40質量%または60〜130質量%であり、特に好ましくは、20〜30質量%または70〜120質量%である。
【0195】
本発明においては、残留溶媒量は下記式で定義される。
【0196】
残留溶媒量(質量%)={(M−N)/N}×100
尚、Mはウェブまたはフィルムを製造中または製造後の任意の時点で採取した試料の質量で、NはMを115℃で1時間の加熱後の質量である。
【0197】
また、位相差フィルムの乾燥工程においては、ウェブを金属支持体より剥離し、更に乾燥し、残留溶媒量を1質量%以下にすることが好ましく、更に好ましくは0.1質量%以下であり、特に好ましくは0〜0.01質量%以下である。
【0198】
フィルム乾燥工程では一般にロール乾燥方式(上下に配置した多数のロールにウェブを交互に通し乾燥させる方式)やテンター方式でウェブを搬送させながら乾燥する方式が採られる。
【0199】
本発明の位相差フィルムを作製するためには、ウェブの両端をクリップ等で把持するテンター方式で幅方向(横方向)に延伸を行うことが特に好ましい。剥離張力は300N/m以下で剥離することが好ましい。
【0200】
ウェブを乾燥させる手段は特に制限なく、一般的に熱風、赤外線、加熱ロール、マイクロ波等で行うことができるが、簡便さの点で熱風で行うことが好ましい。
【0201】
ウェブの乾燥工程における乾燥温度は40〜200℃で段階的に高くしていくことが好ましい。
【0202】
本発明の位相差フィルムの膜厚は、特に限定はされないが10〜200μmが用いられる。特に膜厚は10〜100μmであることが特に好ましい。更に好ましくは20〜60μmである。
【0203】
本発明の位相差フィルムは、幅1〜4mのものが用いられる。特に幅1.4〜3mのものが好ましく用いられ、特に好ましくは1.9〜2.5mである。
【0204】
本発明の位相差フィルムは、求められる光学補償効果によって必要とされる位相差は異なるものの、高い位相差発現性を生かす観点から、面内方向における式(I)で定義されるレターデーションRoが30nm以上であることが好ましく、30〜200nmの範囲であることがより好ましく、30〜70nmの範囲であることが特に好ましい。式(II)で定義される厚み方向のレターデーションRthは70nm以上であることが好ましく、70〜300nmの範囲であることがより好ましい。
【0205】
式(I) Ro=(nx−ny)×d
式(II) Rth={(nx+ny)/2−nz}×d
(式中、nxはフィルム面内の遅相軸方向の屈折率であり、nyはフィルム面内の進相軸方向の屈折率であり、nzはフィルムの厚み方向の屈折率であり、dはフィルムの厚さ(nm)である。)
〈レターデーションRo、Rthの測定〉
得られたフィルムから試料35mm×35mmを切り出し、25℃,55%RHで2時間調湿し、自動複屈折計(KOBRA21DH、王子計測(株))で、546nmにおける垂直方向から測定した値とフィルム面を傾けながら同様に測定したレターデーション値の外挿値より算出する。
【0206】
位相差の調整方法としては、特に制限はないが、延伸処理によって調整する方法が一般的である。
【0207】
本発明で目標とするレターデーション値Ro、Rthを得るには、位相差フィルムが本発明の構成をとり、更に搬送張力の制御、延伸操作により屈折率制御を行うことが好ましい。
【0208】
例えば、長手方向の張力を低くまたは高くすることでレターデーション値を変動させることが可能となる。
【0209】
また、フィルムの長手方向(製膜方向)およびそれとフィルム面内で直交する方向、即ち幅手方向に対して、逐次または同時に2軸延伸もしくは1軸延伸することができる。
【0210】
互いに直交する2軸方向の延伸倍率は、それぞれ最終的には流延方向に0.8〜1.5倍、幅方向に1.1〜2.5倍の範囲とすることが好ましく、流延方向に0.8〜1.0倍、幅方向に1.2〜2.0倍に範囲で行うことが好ましい。
【0211】
延伸温度は120℃〜200℃が好ましく、さらに好ましくは150℃〜200℃であり、さらに好ましくは150℃を超えて190℃以下で延伸するのが好ましい。
【0212】
フィルム中の残留溶媒は20〜0%が好ましく、さらに好ましくは15〜0%で延伸するのが好ましい。
【0213】
具体的には155℃で残留溶媒が11%で延伸する、あるいは155℃で残留溶媒が2%で延伸するのが好ましい。もしくは160℃で残留溶媒が11%で延伸するのが好ましく、あるいは160℃で残留溶媒が1%未満で延伸するのが好ましい。
【0214】
ウェブを延伸する方法には特に限定はない。例えば、複数のロールに周速差をつけ、その間でロール周速差を利用して縦方向に延伸する方法、ウェブの両端をクリップやピンで固定し、クリップやピンの間隔を進行方向に広げて縦方向に延伸する方法、同様に横方向に広げて横方向に延伸する方法、あるいは縦横同時に広げて縦横両方向に延伸する方法などが挙げられる。もちろんこれ等の方法は、組み合わせて用いてもよい。
【0215】
また、所謂テンター法の場合、リニアドライブ方式でクリップ部分を駆動すると滑らかな延伸を行うことができ、破断等の危険性が減少できるので好ましい。
【0216】
製膜工程のこれらの幅保持あるいは横方向の延伸はテンターによって行うことが好ましく、ピンテンターでもクリップテンターでもよい。
【0217】
本発明の位相差フィルムの遅相軸または進相軸がフィルム面内に存在し、製膜方向とのなす角をθ1とするとθ1は−1°以上+1°以下であることが好ましく、−0.5°以上+0.5°以下であることがより好ましい。
【0218】
このθ1は配向角として定義でき、θ1の測定は、自動複屈折計KOBRA−21ADH(王子計測機器)を用いて行うことができる。θ1が各々上記関係を満たすことは、表示画像において高い輝度を得ること、光漏れを抑制または防止することに寄与でき、カラー液晶表示装置においては忠実な色再現を得ることに寄与できる。
【0219】
〈位相差フィルムの物性〉
本発明の位相差フィルムの透湿度は、40℃、90%RHで300〜1800g/m・24hが好ましく、更に400〜1500g/m・24hが好ましく、40〜1300g/m・24hが特に好ましい。透湿度はJIS Z 0208に記載の方法に従い測定することができる。
【0220】
本発明の位相差フィルムは破断伸度は10〜80%であることが好ましく20〜50%であることが更に好ましい。
【0221】
本発明の位相差フィルムの可視光透過率は90%以上であることが好ましく、93%以上であることが更に好ましい。
【0222】
本発明の位相差フィルムのヘイズは1%未満であることが好ましく0〜0.1%であることが特に好ましい。
【0223】
〈偏光板〉
本発明の位相差フィルムは、偏光板、それを用いた液晶表示装置に使用することができる。
【0224】
偏光板は、前記本発明の位相差フィルムを、偏光子の少なくとも一方の面に貼合した偏光板であることが特徴である。本発明の液晶表示装置は、少なくとも一方の液晶セル面に、本発明に係る偏光板が、粘着層を介して貼り合わされたものであることが特徴である。
【0225】
偏光板は一般的な方法で作製することができる。本発明の位相差フィルムの偏光子側をアルカリ鹸化処理し、沃素溶液中に浸漬延伸して作製した偏光子の少なくとも一方の面に、完全鹸化型ポリビニルアルコール水溶液を用いて貼り合わせることが好ましい。
【0226】
もう一方の面には該位相差フィルムを用いても、また他のフィルムを貼合することも好ましい。
【0227】
例えば、市販のセルロースエステルフィルム(例えば、コニカミノルタタック KC8UX、KC5UX、KC8UCR3、KC8UCR4、KC8UCR5、KC8UY、KC4UY、KC4UE、KC8UE、KC8UY−HA、KC8UX−RHA、KC8UXW−RHA−C、KC8UXW−RHA−NC、KC4UXW−RHA−NC、以上コニカミノルタオプト(株)製)が好ましく用いられる。
【0228】
表示装置の表面側に用いられる偏光板の視認側保護フィルムには、防眩層あるいはクリアハードコート層のほか、反射防止層、帯電防止層、防汚層、バックコート層を有することが好ましい。
【0229】
偏光板の主たる構成要素である偏光子とは、一定方向の偏波面の光だけを通す素子であり、現在知られている代表的な偏光子は、ポリビニルアルコール系偏光フィルムで、これはポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素を染色させたものと二色性染料を染色させたものがある。
【0230】
偏光子は、ポリビニルアルコール水溶液を製膜し、これを一軸延伸させて染色するか、染色した後一軸延伸してから、好ましくはホウ素化合物で耐久性処理を行ったものが用いられている。偏光子の膜厚は5〜30μmが好ましく、特に10〜20μmであることが好ましい。
【0231】
また、特開2003−248123号公報、特開2003−342322号公報等に記載のエチレン単位の含有量1〜4モル%、重合度2000〜4000、けん化度99.0〜99.99モル%のエチレン変性ポリビニルアルコールも好ましく用いられる。
【0232】
中でも熱水切断温度が66〜73℃であるエチレン変性ポリビニルアルコールフィルムが好ましく用いられる。
【0233】
このエチレン変性ポリビニルアルコールフィルムを用いた偏光子は、偏光性能および耐久性能に優れているうえに、色斑が少なく、大型液晶表示装置に特に好ましく用いられる。
【0234】
以上のようにして得られた偏光子は、通常、その両面または片面に保護フィルムが貼合されて偏光板として使用される。貼合する際に用いられる接着剤としては、PVA系の接着剤やウレタン系の接着剤などを挙げることができるが、中でもPVA系の接着剤が好ましく用いられる。
【0235】
〈液晶表示装置〉
上記本発明の位相差フィルムを貼合した偏光板を液晶表示装置に用いることによって、種々の視認性に優れた本発明の液晶表示装置を作製することができる。
【0236】
本発明の位相差フィルムは、STN、TN、OCB、HAN、VA(MVA、PVA)、IPS、OCBなどの各種駆動方式の液晶表示装置に用いることができる。
【0237】
好ましくはVA(MVA,PVA)型液晶表示装置である。
【0238】
特に画面が30型以上の大画面の液晶表示装置であっても、視野角が広く、色味むら、正面コントラストなど視認性に優れた液晶表示装置を得ることができる。
【実施例】
【0239】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0240】
実施例に用いる樹脂(セルロースアセテートと一般式(Y)で表される多価カルボン酸エステルの混合物)、加水分解防止剤(A)、位相差調整剤(B)について一覧を下記に示す。
【0241】
【表1】

【0242】
【化18】

【0243】
尚、セルロースアセテートのアセチル置換度の測定はASTMのD−817−91に準じて行い、6位のアセチル置換度はNMR法により求めた。
【0244】
加水分解防止剤(A)の種類と平均置換度を下表に示す。
【0245】
【表2】

【0246】
【化19】

【0247】
位相差調整剤(B)の種類と構造式を下表に示す。
【0248】
【表3】

【0249】
【化20】

【0250】
B−36:アジピン酸/エタンジオール=1:1(モル比)末端水酸基 数平均分子量1000
B−37:アジピン酸/コハク酸/エタンジオール=3:2:5(モル比)末端水酸基 数平均分子量900
B−38:テレフタル酸/コハク酸/エタンジオール=1:1:2(モル比)末端水酸基 数平均分子量1200
B−39:アジピン酸/コハク酸/エタンジオール=3:2:5(モル比)末端アセチルエステル残基 数平均分子量2000
B−40:フタル酸/コハク酸/アジピン酸/エタンジオール=33:33:34:100(モル比)末端安息香酸 数平均分子量1000
B−41:テレフタル酸/コハク酸/エタンジオール=45:55:100(モル比)末端アセチルエステル残基 数平均分子量1000
B−42:テレフタル酸/コハク酸/アジピン酸/エタンジオール=5:3:2:10(モル比)末端アセチルエステル残基 数平均分子量2000
B−43:テレフタル酸/コハク酸/アジピン酸/エタンジオール=1:1:3:5(モル比)末端アセチルエステル残基 数平均分子量1000
B−44:フタル酸/テレフタル酸/アジピン酸/エタンジオール=3:7:10:20(モル比)末端アセチルエステル残基 数平均分子量1000
B−45:フタル酸/テレフタル酸/アジピン酸/エタンジオール=1:1:2:4(モル比)末端アセチルエステル残基 数平均分子量1000
PVPはポリビニルピロリドンの略称である。
【0251】
実施例1
<位相差フィルム201の作製>
〈微粒子分散液1〉
微粒子(アエロジル R972V 日本アエロジル(株)製) 11質量部
エタノール 89質量部
以上をディゾルバーで50分間攪拌混合した後、マントンゴーリンで分散を行った。
【0252】
〈微粒子添加液1〉
メチレンクロライドを入れた溶解タンクに十分攪拌しながら、微粒子分散液1をゆっくりと添加した。更に、二次粒子の粒径が所定の大きさとなるようにアトライターにて分散を行った。これを日本精線(株)製のファインメットNFで濾過し、微粒子添加液1を調製した。
【0253】
メチレンクロライド 99質量部
微粒子分散液1 5質量部
下記組成の主ドープ液を調製した。まず加圧溶解タンクにメチレンクロライドとエタノールを添加した。溶剤の入った加圧溶解タンクにセルロースアセテート101(アセチル置換度1.75、6位アセチル置換度0.745)を攪拌しながら投入した。これを加熱し、攪拌しながら、完全に溶解し。これを安積濾紙(株)製の安積濾紙No.244を使用して濾過し、主ドープ液を調製した。
【0254】
〈主ドープ液の組成〉
メチレンクロライド 340質量部
エタノール 64質量部
樹脂101 100質量部
加水分解防止剤(A):A−5 10質量部
位相差調整剤(B):化合物a 4質量部
微粒子添加液1 1質量部
以上を密閉容器に投入し、攪拌しながら溶解してドープ液を調製した。次いで、無端ベルト流延装置を用い、ドープ液を温度33℃、1.75m幅でステンレスベルト支持体上に均一に流延した。ステンレスベルトの温度は30℃に制御した。
【0255】
ステンレスベルト支持体上で、流延(キャスト)したフィルム中の残留溶媒量が75%になるまで溶媒を蒸発させ、次いで剥離張力130N/mで、ステンレスベルト支持体上から剥離した。
【0256】
剥離したセルロースアセテートフィルムを、165℃の熱をかけながらテンターを用いて幅方向に46%延伸した。延伸開始時の残留溶媒は10%であった。
【0257】
次いで、乾燥ゾーンを多数のロールで搬送させながら乾燥を終了させた。乾燥温度は130℃で、搬送張力は100N/mとした。
【0258】
次いで、スリッターにより、所定のフィルム幅に裁断した後、エンボス装置によりフィルム端部付近にエンボス高さ6μmを目標に加工を行った。
【0259】
以上のようにして、フィルム幅2.45m、乾燥膜厚35μmの位相差フィルム201を得た。
【0260】
<位相差フィルム202〜224の作製>
ドープ構成物及び製造条件を表4に示すように変更した以外は、位相差フィルム201と同様にして位相差フィルム202〜224を作製した。
【0261】
《評価》
得られた各々の位相差フィルムについて、以下の要領でレターデーション値、ヘイズを測定した。
【0262】
(レターデーションRo、Rthの測定)
得られたフィルムから試料35mm×35mmを切り出し、25℃,55%RHで2時間調湿し、自動複屈折計(KOBRA21DH、王子計測(株))で、590nmにおける垂直方向から測定した値とフィルム面を傾けながら同様に測定したレターデーション値の外挿値より算出した。
【0263】
(ヘイズ)
上記作製した位相差フィルムについて、ヘイズ値を測定した。測定はフィルム試料1枚で、日本電色工業株式会社製NDH2000を用いJIS−K7136に従って測定した。
【0264】
【表4】

【0265】
本発明の位相差フィルムは、高倍率に延伸しフィルム幅を1.9m〜2.5mの範囲にしても、ヘイズ上昇がなく、かつ位相差フィルムとして好ましいリターデーションを有することが明かである。
【0266】
実施例2
<偏光板201〜224の作製>
厚さ、120μmのポリビニルアルコールフィルムを、一軸延伸(温度110℃、延伸倍率5倍)した。
【0267】
これをヨウ素0.075g、ヨウ化カリウム5g、水100gからなる水溶液に60秒間浸漬し、次いでヨウ化カリウム6g、ホウ酸7.5g、水100gからなる68℃の水溶液に浸漬した。これを水洗、乾燥し偏光子を得た。
【0268】
次いで、下記工程1〜5に従って偏光子と前記位相差フィルム201〜224と、裏面側にはコニカミノルタタックKC8UY(コニカミノルタオプト(株)製セルロースエステルフィルム)を貼り合わせて偏光板201〜224を作製した。
【0269】
工程1:60℃の2モル/Lの水酸化ナトリウム溶液に90秒間浸漬し、次いで水洗し乾燥して、偏光子と貼合する側を鹸化した位相差フィルム201〜224とコニカミノルタタックKC8UYを得た。
【0270】
工程2:前記偏光子を固形分2質量%のポリビニルアルコール接着剤槽中に1〜2秒浸漬した。
【0271】
工程3:工程2で偏光子に付着した過剰の接着剤を軽く拭き除き、これを工程1で処理した位相差フィルム201〜224の上にのせて配置した。
【0272】
工程4:工程3で積層した位相差フィルム201〜224と偏光子と裏面側コニカミノルタタックKC8UYを圧力20〜30N/cm、搬送スピードは約2m/分で貼合した。
【0273】
工程5:80℃の乾燥機中に工程4で作製した偏光子と位相差フィルム201〜224とコニカミノルタタックKC8UYとを貼り合わせた試料を2分間乾燥し、それぞれ、位相差フィルム201〜224に対応する偏光板201〜224を作製した。
【0274】
<液晶表示装置の作製>
視野角測定を行う液晶パネルを以下のようにして作製し、液晶表示装置としての特性を評価した。
【0275】
SONY製40型ディスプレイBRAVIA X1の予め貼合されていた両面の偏光板を剥がして、上記作製した偏光板201〜224をそれぞれ液晶セルのガラス面の両面に貼合した。
【0276】
その際、その偏光板の貼合の向きは、本発明の位相差フィルムの面が、液晶セル側となるように、かつ、予め貼合されていた偏光板と同一の方向に吸収軸が向くように行い、それぞれ、偏光板201〜224に対応する液晶表示装置301〜324を各々作製した。
【0277】
《評価》
(偏光度ムラの評価)
上記方法により得られた偏光板を500mm四方に裁断し、60℃、90%RHの高温高湿雰囲気下に120時間保存後、ライトボックス上でクロスニコルとし、偏光度ムラを目視評価した。
【0278】
◎:偏光度ムラの発生なし
○:裸眼では偏光度ムラを認識できない
△:偏光度ムラとして見えるが、使用にあたって支障はない
×:表示品質上問題がある
(コントラストムラ)
作製した各液晶表示装置を1000時間点灯した後、液晶表示装置の視野角特性の評価を、ELDIM社製EZ−contrastを用い黒表示及び白表示時の透過光量を測定して行った。視野角の評価はコントラスト=(白表示時の透過光量)/(黒表示時の透過光量)を算出し下記基準にて評価を行った。
【0279】
コントラスト10の視野角を示す角度を指標にコントラストムラがあるかどうかの評価を行った。
【0280】
◎:コントラストムラの発生がない
○:コントラストムラが僅かに発生した、が、使用には全く問題ない
△:コントラストムラが発生した
×:コントラストムラが強く発生し、実用上問題がある
(視野角の評価)
23℃55%RHの環境で、各々の液晶表示装置のバックライトを1週間連続点灯した後、測定を行った。測定にはELDIM社製EZ−Contrast160Dを用いて、液晶表示装置で白表示と黒表示の表示画面の法線方向から60度傾けた方向の輝度を測定し、その比(60°コントラスト)を視野角とした。
【0281】
〔視野角の評価基準〕
◎:60°コントラストが100以上
○:60°コントラストが90以上100未満
△:60°コントラストが80以上90未満
×:60°コントラストが80未満
以上の評価結果を表5に示す。
【0282】
【表5】

【0283】
この液晶表示装置についてコントラスト、及び視野角について評価したところ、本発明の位相差フィルムを用いた偏光板を装着した液晶表示装置は、視野角が広く、かつ偏光度ムラやコントラストムラのない視認性に優れた液晶表示装置であることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースアセテートを含む位相差フィルムにおいて、セルロースアセテートの6位のアセチル置換度をD6とした時に、0.745≦D6≦0.95であり、総アセチル置換度が2.0〜2.5の範囲であるセルロースアセテートと、下記一般式(Y)で表される多価カルボン酸エステルの少なくとも一種を含有することを特徴とする位相差フィルム。
一般式(Y) R5(COOH)m(OH)n
(但し、R5は(m+n)価の有機基、mは2以上の正の整数、nは0以上の整数、COOHはカルボキシル基、OHはアルコール性またはフェノール性水酸基を表す。)
【請求項2】
前記多価カルボン酸エステルがシトレート化合物であることを特徴とする請求項1に記載の位相差フィルム。
【請求項3】
前記位相差フィルムが、logP値が7〜11である加水分解防止剤(A)と、logP値が−3〜7である位相差調整剤(B)を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の位相差フィルム。
【請求項4】
前記加水分解防止剤(A)が平均置換度5.0〜7.0の糖エステル化合物であることを特徴とする請求項3に記載の位相差フィルム。
【請求項5】
偏光子の少なくとも一方の面に、請求項1〜4のいずれか1項に記載の位相差フィルムを貼合したことを特徴とする偏光板。
【請求項6】
請求項5に記載の偏光板を液晶セルの少なくとも一方の面に貼合したことを特徴とする液晶表示装置。
【請求項7】
セルロースアセテートを含む位相差フィルムの製造方法において、セルロースアセテートの6位のアセチル置換度をD6とした時に、0.745≦D6≦0.95であり、総アセチル置換度が2.0〜2.5の範囲である該セルロースアセテートと、下記一般式(Y)で表される多価カルボン酸エステルの少なくとも一種を含有したドープを支持体上に流延し、剥離した後に、延伸倍率1.1倍以上で少なくとも幅方向に延伸し、フィルム幅を1.9m〜2.5mの範囲にすることを特徴とする位相差フィルムの製造方法。
一般式(Y) R5(COOH)m(OH)n
(但し、R5は(m+n)価の有機基、mは2以上の正の整数、nは0以上の整数、COOHはカルボキシル基、OHはアルコール性またはフェノール性水酸基を表す。)
【請求項8】
前記位相差フィルムの下記式で表されるレターデーション値Ro、Rthが、Ro:30〜70nm、Rth:70〜300nmであることを特徴とする請求項7に記載の位相差フィルムの製造方法。
式(I) Ro=(nx−ny)×d
式(II) Rth={(nx+ny)/2−nz}×d
(上式において、dはフィルムの厚み(nm)、nxはフィルムの面内の最大の屈折率、nyはフィルム面内で遅相軸に直角な方向の屈折率、nzは厚み方向におけるフィルムの屈折率であり、各々23℃、55%RHの環境下で、波長546nmで測定した値である。)

【公開番号】特開2011−242433(P2011−242433A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−111860(P2010−111860)
【出願日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】