位相差フィルムおよびその製造方法、光学機能フィルム、偏光フィルム、並びに、表示装置
【課題】位相差層を形成した場合に生じる基材からの位相差層の剥離等の問題がなくて信頼性が高く、少ない数量であっても容易に任意のリタデーション値を得ることができ、又偏光層等の親水性フィルムとの接着性も良好にできる位相差フィルムを提供することを主目的とする。
【解決手段】高分子フィルム内に屈折率異方性を有する材料が含有されてなる位相差フィルムであって、上記屈折率異方性を有する材料が、上記高分子フィルムの厚み方向に濃度勾配を有していることを特徴とする位相差フィルムを提供する。
【解決手段】高分子フィルム内に屈折率異方性を有する材料が含有されてなる位相差フィルムであって、上記屈折率異方性を有する材料が、上記高分子フィルムの厚み方向に濃度勾配を有していることを特徴とする位相差フィルムを提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置等の表示装置に組み込まれて用いられる位相差フィルムおよびその製造方法、光学機能フィルム、偏光フィルム、並びに、表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の一般的な液晶表示装置としては、図17に示すように、入射側の偏光板102Aと、出射側の偏光板102Bと、液晶セル104とを有するものを挙げることができる。
偏光板102Aおよび102Bは、所定の振動方向の振動面を有する直線偏光(図中、矢印で模式的に図示)のみを選択的に透過させるように構成されたものであり、それぞれの振動方向が相互に直角の関係になるようにクロスニコル状態で対向して配置されている。
また、液晶セル104は画素に対応する多数のセルを含むものであり、偏光板102Aと102Bとの間に配置されている。
【0003】
ここで、このような液晶表示装置100において、液晶セル104が、負の誘電異方性を有するネマチック液晶が封止されたVA(Vertical Alignment)方式(図中、液晶のダイレクターを点線で模式的に図示)を採用している場合を例に挙げると、入射側の偏光板102Aを透過した直線偏光は、液晶セル104のうち非駆動状態のセルの部分を透過する際に、位相シフトされずに透過し、出射側の偏光板102Bで遮断される。これに対し、液晶セル104のうち駆動状態のセルの部分を透過する際には、直線偏光が位相シフトされ、この位相シフト量に応じた量の光が出射側の偏光板102Bを透過して出射される。これにより、液晶セル104の駆動電圧を各セル毎に適宜制御することにより、出射側の偏光板102B側に所望の画像を表示することができる。なお、液晶表示装置100としては、上述したような光の透過および遮断の態様をとるものに限らず、液晶セル104のうち非駆動状態のセルの部分から出射された光が出射側の偏光板102Bを透過して出射される一方で、駆動状態のセルの部分から出射された光が出射側の偏光板102Bで遮断されるように構成された液晶表示装置も考案されている。
【0004】
ところで、上述したようなVA方式の液晶セル104のうち非駆動状態のセルの部分を直線偏光が透過する場合を考えると、液晶セル104は複屈折性を有しており、厚さ方向の屈折率と面方向の屈折率とが異なるので、入射側の偏光板102Aを透過した直線偏光のうち液晶セル104の法線に沿って入射した光は位相シフトされずに透過するものの、入射側の偏光板102Aを透過した直線偏光のうち液晶セル104の法線から傾斜した方向に入射した光は液晶セル104を透過する際に位相差が生じて楕円偏光となる。この現象は、液晶セル104内で垂直方向に配向した液晶分子が、正のCプレートとして作用することに起因したものである。なお、液晶セル104を透過する光(透過光)に対して生じる位相差の大きさは、液晶セル104内に封入された液晶分子の複屈折値や、液晶セル104の厚さ、透過光の波長等にも影響される。
【0005】
以上の現象により、液晶セル104内のあるセルが非駆動状態であり、本来的には直線偏光がそのまま透過され、出射側の偏光板102Bで遮断されるべき場合であっても、液晶セル104の法線から傾斜した方向に出射された光の一部が出射側の偏光板102Bから洩れてしまうことになる。
【0006】
このため、上述したような従来の液晶表示装置100においては、正面から観察される画像に比べて、液晶セル104の法線から傾斜した方向から観察される画像の表示品位が主にコントラストが低下することが原因で悪化するという問題(視角依存性の問題)があった。
【0007】
上述したような従来の液晶表示装置100における視角依存性の問題を改善するため、現在までに様々な技術が開発されており、その一つとして、例えば特許文献1または特許文献2に開示されているように、コレステリック規則性の分子構造を有する位相差層(複屈折性を示す位相差層)を用い、このような位相差層を液晶セルと偏光板との間に配置することにより光学補償を行うようにした液晶表示装置が知られている。
ここで、コレステリック規則性の分子構造を有する位相差光学素子では、λ=nav・p(p:液晶分子の螺旋構造における螺旋(ヘリカル)ピッチ、nav:螺旋軸に直交する平面内での平均屈折率)で表される選択反射波長が、例えば特許文献1または特許文献2に開示されているように、透過光の波長よりも小さくなる、または大きくなるように調整している。
【0008】
一方、例えば特許文献3に開示されているように、円盤状化合物からなる位相差層(複屈折性を示す位相差層)を用い、このような位相差層を液晶セルと偏光板との間に配置することにより光学補償を行うようにした液晶表示装置も知られている。
【0009】
上述したような位相差光学素子においては、上述した液晶セルの場合と同様に、位相差層の法線から傾斜した方向に入射する直線偏光は、位相差層を透過する際に位相差が生じて楕円偏光となる。この現象は、コレステリック規則性の分子配列や円盤状化合物自体が負のCプレートとして作用することに起因したものである。なお、位相差層を透過する光(透過光)に対して生じる位相差の大きさは、位相差層内の液晶分子の複屈折値や、位相差層の厚さ、透過光の波長等にも影響される。
【0010】
したがって、上述したような位相差層を用いれば、正のCプレートとして作用するVA方式の液晶セルで生じる位相差と、負のCプレートとして作用する位相差層で生じる位相差とが相殺するように、位相差層を適宜設計することにより、液晶表示装置の視角依存性の問題を大幅に改善することが可能である。
【0011】
なお、この場合、上記正のCプレートと上記負のCプレートの厚み方向のリタデーション値の和が正になるように、すなわち、上記負のCプレートの厚み方向のリタデーション値の絶対値を上記正のCプレートの厚み方向のリタデーション値の絶対値より小さくすれば、上記残留した正のCプレート成分と別に用意したAプレートとで偏光板の視角依存性を改善することが出来る。正のCプレートとAプレートとで偏光板の視角依存性を改善することが出来ることは、例えば、非特許文献1や非特許文献2に開示されている。
しかしながら、上述したような位相差層には、位相差層と基材(例えば偏光層の保護フィルムであるTAC(セルローストリアセテートフィルム))との間の密着性に問題があった。
【0012】
この問題を解決するために、例えば特許文献4で開示されている様に、液晶と配向膜を熱処理して密着性を向上させることが提案されている。しかし、この方法は、基材がガラス基板ではなく、耐湿熱性の低い基材(例えばTAC)の場合は、水分の影響で基材が伸び縮みし、その影響で液晶層が剥離することがあり、水分の影響を受けやすい基材に対しては充分な方法とは言い難かった。
【0013】
上述した密着性問題が元々存在しない方法として、例えば特許文献5や特許文献6で開示されている様に、セルロースアセテートフィルムを製造する際に、セルロースアセテート溶液の中にリタデーション上昇剤を混合した上でセルロースアセテートフィルムを成膜する方法の適用も考えられる。しかし、このような方法では、セルロースアセテートフィルム成膜時にリタデーション上昇剤を混入させる必要があるので、必然的に一つのロットの数量は大きくなってしまい、少ない数量に対して任意のリタデーションを容易に得ることが困難であるといった問題があった。又、リタデーション上昇剤は通常疎水性であるため、これを全体に混合することにより、セルロースアセテートフィルムの表裏両面が疎水性となり、当該位相差層をポリビニルアルコール等の親水性樹脂から成る偏光板と積層する際の接着性が低下するという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平3−67219号公報
【特許文献2】特開平4−322223号公報
【特許文献3】特開平10−312166号公報
【特許文献4】特開2003−207644号公報
【特許文献5】特開2000−111914号公報
【特許文献6】特開2001−249223号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】J. Chen et al., SID98 Digest, p315 (1998)
【非特許文献2】T. Ishinabe et al., SID00 Digest, p1094 (2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明はこのような問題点を考慮してなされたものであり、上述したように位相差層を形成した場合に生じる基材からの位相差層の剥離等の問題がなくて信頼性が高く、少ない数量であっても容易に任意のリタデーション値を得ることができ、又偏光層等の親水性フィルムとの接着性も良好にできる位相差フィルムを提供することを主目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、上記目的を達成するために、第一のアスペクトとして、高分子フィルム内に屈折率異方性を有する材料(以下、屈折率異方性材料とする場合がある。)が含有されてなる位相差フィルムであって、上記屈折率異方性材料が、上記高分子フィルムの厚み方向に濃度勾配を有していることを特徴とする位相差フィルムを提供することにより上記課題を解決するようにした。
【0018】
また本発明は、上記目的を達成するために、第二のアスペクトとして、高分子フィルム内に屈折率異方性を有する材料が浸透されてなることを特徴とする位相差フィルムを提供することにより上記課題を解決するようにした。
また本発明は、上記目的を達成するために、第三のアスペクトとして、高分子フィルム内に屈折率異方性を有する材料が含有されてなる位相差フィルムであって、前記屈折率異方性を有する材料が、前記高分子フィルムの厚み方向に濃度勾配を有しており、当該濃度勾配が連続的に変化することを特徴とする位相差フィルムを提供することにより上記課題を解決するようにした。
【0019】
本発明は、例えば屈折率異方性材料が溶媒に溶解した塗工液を高分子フィルム表面に塗布し、高分子フィルムを膨潤させ、屈折率異方性材料を浸透させることにより容易に高分子フィルム表面近傍に屈折率異方性材料を充填することが可能となり、これにより上記高分子フィルムの厚み方向に屈折率異方性材料の濃度勾配を有する位相差フィルムを得ることができる。また、上記塗工液の量や濃度を変更することにより、位相差フィルムとしてのリタデーション値を容易に変更することが可能である。したがって、任意のリタデーション値を有する位相差フィルムを小ロットで容易に得ることができるといった利点を有する。また、従来のように基材上に、これとは別層である位相差層を接着して積層形成されてなる位相差フィルムではないので、基材からの位相差層の剥離といった問題が生じないため耐熱性や耐水性等の信頼性や耐アルカリ性(耐鹸化処理性)やリワーク性(繰り返しの使用性)が高くなるという利点を有する。
【0020】
本発明において、上記屈折率異方性を有する材料の前記高分子フィルムの厚み方向の濃度勾配が連続的に変化する場合には、特に、層内の特定の界面への応力の集中がなくなるため、剥離強度が強くなり、耐熱性や耐水性(使用環境下での寒熱繰り返し、或いは水との接触の際の界面剥離への耐久性)などの信頼性や耐アルカリ性やリワーク性が高くなる。
【0021】
本発明においては、上記高分子フィルムは、屈折率に規則性を有するものであることが好ましい。このような高分子フィルムを用いることにより、充填する屈折率異方性材料が、上記高分子フィルムの有する屈折率の規則性を強化することが可能となり、種々の特性を有する位相差フィルムを得ることができるからである。
【0022】
また、本発明においては、上記屈折率異方性材料が、液晶性を有する材料であることが好ましい。液晶性を有する材料であれば、高分子フィルム内に充填された際、液晶構造を採る場合があり、効果的に高分子フィルムに対して効果を発揮することができるからである。
【0023】
また、本発明においては、上記屈折率異方性材料の分子構造が、棒状であることが好ましい。棒状の分子構造を有する屈折率異方性材料を用いることにより、上記高分子フィルムの有する屈折率の規則性を強化することができるからである。
【0024】
また、本発明においては、上記屈折率異方性材料が、重合性官能基を有するものであることが好ましい。屈折率異方性材料を高分子フィルム内に充填させた後、この重合性官能基を用いて屈折率異方性材料を重合して高分子化することにより、位相差フィルムとした後に屈折率異方性材料が染み出すことを防止することが可能となり、安定した位相差フィルムとすることができるからである。
【0025】
更に、本発明においては、前記屈折率異方性を有する材料が、重合性官能基を有するものと重合性官能基を有しないものとを含むことが好ましい。この場合は、重合性官能基を有しないものによって位相差機能をより強化し、且つ重合性官能基を有するものによってフィルムの信頼性を向上することが可能となるからである。
【0026】
本発明においては、上記屈折率異方性を有する材料の前記高分子フィルムの厚み方向の濃度勾配が、上記高分子フィルムの一方の表面側が高濃度であり、他方の表面側に向かって低濃度となる濃度勾配であることが好ましい。このような構成とすることにより、低濃度側の表面側については屈折率異方性を有する材料の含有乃至浸透により高分子フィルム固有の性質に影響を与えることがないか、少ないため、例えばこの位相差フィルムに偏光層を直接貼り付けて偏光フィルムとする場合に、この低濃度側、具体的には屈折率異方性材料が充填されていない側の表面に偏光層を貼着させることにより、接着性が阻害されることなく、偏光フィルムを得ることができるからである。
【0027】
前記位相差フィルムの純水に対する接触角が、一方の表面と他方の表面とで異なることが好ましい。このような構成とすることにより、例えばこの位相差フィルムにPVAを基材とするような親水性樹脂系の偏光層を直接貼り付けて偏光フィルムとする場合に、より低い接触角を有する表面に偏光層を接着させると、特に水系接着剤を使用しても接着性を阻害されることがなく、偏光フィルムを得ることができるからである。
【0028】
また、本発明においては、上記屈折率異方性材料の前記高分子フィルムの厚み方向の濃度勾配が、上記高分子フィルムの両表面側が高濃度であり、中央部に向かって低濃度となる濃度勾配であってもよい。このような構成とすることにより、例えば一方の表面側にのみ屈折率異方性材料を充填した場合では、リタデーション値が不足するような場合でも、高分子フィルムの両表面側が高濃度とする、すなわち両表面側に屈折率異方性材料を充填することにより十分なリタデーション値とすることが可能となるからである。
【0029】
また、本発明においては、上記屈折率異方性を有する材料の濃度勾配が緩やかな領域と、上記屈折率異方性を有する材料の濃度勾配が急な領域を有することが好ましい。このような場合には、位相差の強化、及び剥離強度や耐熱性、耐水性の強化により、所望の位相差を有しながら信頼性が高くなるからである。
【0030】
また、上記屈折率異方性を有する材料が含有されていない領域を有することが好ましい。屈折率異方性材料が含有されていない領域は、高分子フィルムの有する性質がそのまま残存していることから、例えば高分子フィルム自体の良好な接着性を利用可能だからである。更に、屈折率異方性材料を含有させた位相差強化領域は強度が低下する場合があるが、上述のような屈折率異方性材料が含有されていない領域を有することにより、位相差フィルムとしての強度を維持することができる等のメリットがある。
【0031】
本発明においては、上記位相差フィルムが、上記フィルムの面内方向における遅相軸方向の屈折率をnx、フィルム面内方向における進相軸方向の屈折率をny、及びフィルムの厚み方向の屈折率をnz、並びに厚みをdとし、Rth[nm]={(nx+ny)/2−nz}×dで表されるRthを厚み方向リタデーションとした時に、前記厚み方向リタデーションが70〜300nmであることが好ましい。本発明においては、実質的に得られるリタデーション値の範囲を拡大可能であり、このような場合には、視野角改善効果を向上することができるからである。
【0032】
また、本発明においては、上記位相差フィルムが、JIS−K7105に準拠して測定した際のヘイズ値が1%以下であることが好ましい。このような場合には、偏光状態が乱れること無く、視野角改善効果を向上することができるからである。
【0033】
本発明においては、上記位相差フィルムの可視光領域におけるリタデーション値が、短波長側の方が長波長側よりも大きいことが好ましい。一般に、液晶表示装置の液晶層に用いられる液晶材料の可視光域におけるリタデーション値は、短波長側の方が長波長側よりも大きい。したがって、本発明の位相差フィルムを例えば光学補償板として用いた場合、可視光域における全て波長において補償を行うことができるといった利点を有するからである。
【0034】
一方、本発明においては、上記位相差フィルムの可視光領域におけるリタデーション値が、長波長側の方が短波長側よりも大きくても良い。この場合には、本発明の位相差フィルムを例えば偏光フィルムと貼り合わせて偏光板として用いた場合、光漏れ補償に優れるといった利点を有する点から好ましい。
【0035】
また、本発明においては、上記位相差フィルムの波長550nmで測定した厚み方向リタデーション(Rth)のフィルム面方向におけるばらつきがRthの平均値を基準として±5nmの範囲内であることが好ましい。このようにばらつきが小さいことにより、例えばこの位相差フィルムを光学補償フィルムとして表示装置に適用する場合に、表示画面内が均一に光学補償され、視野角等の表示品位に優れる表示装置を得ることができるからである。
【0036】
更に本発明においては、上記位相差フィルムが、最小直径が6インチ以下のロール状に巻くことが可能であることが好ましい。位相差フィルムは、量産性、生産効率を高める為、長尺の帯状フィルム(ウエブとも云う)の形態とし、製造、検査、及び後加工する時以外の保管、搬送、及び加工待機時には円筒上に巻取ったロールの形態にしておくことが好ましいからである。
【0037】
また本発明においては、単層の上記位相差フィルム2枚以上を、互いに貼り合わせてなることを特徴とする位相差フィルムを提供する。このようにすることにより、1枚のみでは実現できない大きさのリタデーション値(光学異方性値)を実現したり、1枚のみでは実現できない複雑な光学異方性を実現したりすることが可能となるからである。
【0038】
本発明はまた、上述した位相差フィルムを、位相差フィルム以外の光学機能層と直接貼り合わせてなることを特徴とする光学機能フィルムを提供する。本発明の光学機能フィルムは、例えば光学補償などの本発明の位相差フィルムが有する機能と、例えば反射防止などの他の機能について、一つで併せ持つため、それぞれの機能を有するフィルムを別個に設ける必要が無いといった利点を有する。
【0039】
本発明はまた、上述した位相差フィルムを、偏光層と直接貼り合わせてなることを特徴とする偏光フィルムを提供する。通常、偏光フィルムは偏光層の両表面に保護フィルムが貼着されて用いられているが、本発明によれば、その一方の保護フィルムを上述した位相差フィルムとすることができるので、例えば別途光学補償板が必要である場合等においては、本発明の偏光フィルムを用いることにより他に光学補償板を設ける必要が無いといった利点を有する。
【0040】
更に、本発明は、上述した本発明に係る位相差フィルム、光学機能フィルム、又は偏光フィルムのいずれかを、光路に配置したことを特徴とする表示装置を提供する。剥離等の問題がなく、適切なリタデーションを有する本発明に係る位相差フィルムが配置されていることにより、信頼性が高く、表示品位に優れた表示装置を得ることができる。また、本発明に係る光学機能フィルムが配置されていることにより、光学機能層と位相差層のそれぞれを設ける必要が無く、表示品位に優れた表示装置を得ることができる。更に、本発明に係る偏光フィルムが配置されていることにより、他に光学補償板を設ける必要が無く、表示品位に優れた表示装置を得ることができる。
【0041】
さらに、本発明は、高分子フィルムの少なくとも一方の表面に、屈折率異方性材料が溶媒に溶解もしくは分散されてなる位相差強化領域形成用塗工液を塗布する塗布工程と、上記塗布工程により塗布された上記位相差強化領域形成用塗工液中の上記屈折率異方性材料を上記高分子フィルムに浸透させる浸透工程と、上記塗布工程により塗布された上記位相差強化領域形成用塗工液中の上記溶媒を乾燥させる乾燥工程とを有することを特徴とする位相差フィルムの製造方法を提供する。本発明によれば、上記位相差強化領域形成用塗工液を塗布することにより、容易に位相差フィルムを形成することが可能であり、かつ上記位相差強化領域形成用塗工液の塗布量等を変更することのみで、得られる位相差フィルムのリタデーション値を変更することが可能となる。したがって、本発明によれば、少ない数量であっても容易に任意のリタデーション値を有する位相差フィルムを容易に得ることができるといった利点を有するものである。
【0042】
上記発明においては、上記浸透工程が、上記乾燥工程中で行われるものであってもよい。乾燥温度等を調整することにより、乾燥中に屈折率異方性材料を高分子フィルム内に浸透させることが可能な場合もあるからである。又、乾燥条件の制御により、屈折率異方性材料の浸透の程度、更には屈折率異方性(リタデーション値)を制御可能な場合もあるからである。
【0043】
さらに、本発明においては、上記乾燥工程の後に、上記高分子フィルム内に浸透した上記屈折率異方性材料を固定化する固定化工程を有することが好ましい。例えば、屈折率異方性材料が重合性官能基を有するものである場合等においては、屈折率異方性材料を高分子フィルム内に浸透後、重合させて高分子化させることにより、製造後に屈折率異方性材料が表面から染み出すことを防止することが可能となり、位相差フィルムの安定性を向上させることができるからである。
【発明の効果】
【0044】
本発明の位相差フィルムは、位相差層を形成した場合に生じる基材からの位相差層の剥離等の問題がなくて耐熱性や耐水性等の信頼性や耐アルカリ性、リワーク性などが高く、ロットが小さい場合でも容易に任意のリタデーション値を得ることができるといった効果を奏するものである。更に、偏光層等の親水性フィルムとの接着性も良好にすることが可能で且つ耐アルカリ性にも優れるため、偏光層と直接貼り合わせるのに好適な位相差フィルムである。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の位相差フィルムの一例を示す模式的断面図である。
【図2】本発明の位相差フィルムの他の例を示す模式的断面図である。
【図3】濃度勾配の分布を模式的に示す図である。
【図4】本発明の位相差フィルムの一例を示す模式的断面図である。
【図5】本発明の位相差フィルムの他の例を示す模式的断面図である。
【図6】本発明の位相差フィルムの製造方法の一例を示す工程図である。
【図7】本発明の位相差フィルムを備えた液晶表示装置の一例を示す概略分解斜視図である。
【図8】本発明の光学機能フィルムを備えた液晶表示装置の一例を示す概略分解斜視図である。
【図9】本発明の偏光フィルムを備えた液晶表示装置の一例を示す概略分解斜視図である。
【図10】実施例1の位相差フィルムの断面を示すSEM写真である。
【図11】実施例1の位相差フィルムの断面を示すTEM写真である。
【図12】実施例1の位相差フィルムのTOF−SIMS測定の正の2次イオンスペクトル測定による濃度分布を示す図である。
【図13】実施例1の位相差フィルムのTOF−SIMS測定の負の2次イオンスペクトル測定による濃度分布を示す図である。
【図14】実施例5における塗工量と位相差との関係を示すグラフである。
【図15】実施例6及び実施例7の位相差フィルムの位相差角度依存性を示す図である。
【図16】実施例9の位相差フィルムの断面を示すSEM写真である。
【図17】従来の液晶表示装置を示す概略分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
本発明は、位相差フィルム及びその製造方法、位相差フィルムを用いた光学機能フィルム、偏光フィルム、更にはこれらフィルムを用いた表示装置を含むものである。以下、それぞれについて詳述する。
【0047】
A.位相差フィルム
まず、本発明の位相差フィルムについて説明する。
本発明の第一のアスペクトにおける位相差フィルムは、高分子フィルム内に屈折率異方性材料が含有されてなる位相差フィルムであって、上記屈折率異方性材料が、上記高分子フィルムの厚み方向に濃度勾配を有していることを特徴とするものである。
【0048】
また、本発明の第二のアスペクトにおける位相差フィルムは、高分子フィルム内に屈折率異方性を有する材料が浸透されてなることを特徴とするものである。
更に、本発明の第三のアスペクトにおける位相差フィルムは、高分子フィルム内に屈折率異方性を有する材料が含有されてなる位相差フィルムであって、前記屈折率異方性を有する材料が、前記高分子フィルムの厚み方向に濃度勾配を有しており、当該濃度勾配が連続的に変化することを特徴とするものである。
【0049】
図1は、本発明の位相差フィルムの一例を示す断面図である。図1に示す例では、高分子フィルム1の一方の表面側に、屈折率異方性材料を含有する位相差強化領域2が形成されている。この場合の屈折率異方性材料の濃度勾配は、位相差強化領域2が形成された表面3側の濃度は高く、形成されていない表面4側において屈折率異方性材料は含有されていない。本発明における濃度勾配とは、厚み方向の任意の2点において濃度が異なるものであれば、このようにある一部の領域において屈折率異方性材料が存在し、他の領域において屈折率異方性材料が存在しない場合をも含むものである。
【0050】
本発明においては、このように位相差フィルム内に屈折率異方性材料が存在する位相差強化領域が形成されており、屈折率異方性材料の濃度勾配が形成されているので、この位相差強化領域が位相差層としての働きを強化することから、複屈折性に基づく種々の光学的な機能を奏することが可能となる。例えば、後述するように、高分子フィルムとして負のCプレートとして作用するTAC(セルローストリアセテート)を用い、分子構造が棒状の液晶材料を屈折率異方性材料として用いた場合は、上記位相差強化領域が負のCプレートとしての働きを強化することから、本発明の位相差フィルムは負のCプレートとしての機能をより強化したものになる。
【0051】
本発明の位相差フィルムは、「B.位相差フィルムの製造方法」の欄で詳述するように、例えば、上記屈折率異方性材料が溶解もしくは分散した位相差強化領域形成用塗工液を塗布し、高分子フィルムの表面から屈折率異方性材料を浸透させて高分子フィルム内に充填することのみで、容易に位相差強化領域を形成することができるので、小ロットで多くの種類のリタデーション値を有する補償板が必要である等の場合でも、容易にかつ低コストで位相差フィルムを得ることができるといった利点を有する。
【0052】
また、上述したように、本発明の位相差フィルムは、基材上に位相差層が形成された従来のものとは異なり、位相差フィルム内に屈折率異方性材料が充填された位相差強化領域と充填されていない基材領域とが形成されてなるものであることから、従来問題であった位相差層の剥離といった課題が無く、耐熱性や耐水性等の信頼性が高くなり、安定的に用いることが可能である。更に、耐アルカリ性が高くなるため例えば偏光層と貼り合わせる際の鹸化処理に対して耐性がある。また、リワーク性(繰り返しの使用性)に優れるため、プロセス上、歩留まりが良く有利である。
【0053】
また、高分子フィルムの表面から屈折率異方性材料を浸透させて高分子フィルム内に充填した場合には、通常、上記屈折率異方性を有する材料の高分子フィルムの厚み方向の濃度勾配は、連続的に変化するようになる。この場合には、特に、層内の特定の界面への応力の集中がなくなるため、剥離強度が強くなり、耐熱性や耐水性(使用環境下での寒熱繰り返し、或いは水との接触の際の界面剥離への耐久性)などの信頼性が高くなる。
以下、このような本発明の位相差フィルムについて、各構成毎に詳細に説明する。
【0054】
1.高分子フィルム
本発明に用いられる高分子フィルムは、特に限定されるものではないが、通常は可視光域の光を透過する樹脂から形成されるものが好適に用いられる。ここで、可視光域の光を透過するとは、可視光域380〜780nmにおける平均光透過率が50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは85%以上である場合である。なお、光透過率の測定は、紫外可視分光光度計(例えば、(株)島津製作所製 UV−3100PC)を用い、室温、大気中で測定した値を用いる。
【0055】
本発明に用いられる高分子フィルムとしては、屈折率に規則性を有するものであることが好ましい。すなわち、本発明に用いられる高分子フィルムとしては、面内リタデーション及び/又は厚み方向リタデーションを有するものであることが好ましい。本発明における位相差フィルムが、より大きなリタデーション値を得て光学補償板等の光学機能性フィルムとしての機能を発揮するのは、明確ではないが以下の理由によるものと推測される。
すなわち、屈折率異方性材料を高分子フィルムに充填した際に、充填された屈折率異方性材料が、高分子フィルムが本来有する複屈折性等の屈折率の規則性をより強化し、これにより、種々の特性を有する位相差フィルムを得ることができると推測される。したがって、本発明に用いられる高分子フィルムは、何らかの屈折率の規則性を有するものが好適に用いられるのである。
【0056】
本発明における屈折率の規則性とは、例えば(1)高分子フィルムが負のCプレートとして作用すること、(2)延伸した高分子フィルムが負のCプレート、正のCプレート、Aプレート、又は2軸性プレートの特性を有すること等を挙げることができる。
【0057】
本発明に用いられる高分子フイルムは、厚み方向リタデーション(Rth)が、20nm〜100nmの範囲内であることが好ましく、特に25nm〜80nmの範囲内であることが好ましく、なかでも30nm〜60nmの範囲内であることが好ましい。
また、面内リタデーション(Re)は、0nm〜300nmの範囲内であることが好ましく、特に0nm〜150nmの範囲内であることが好ましく、なかでも0nm〜125nmの範囲内であることが好ましい。
ここで、上記厚み方向及び面内方向リタデーションの値は、例えば自動複屈折測定装置(例えば、王子計測機器株式会社製、商品名:KOBRA−21ADH)を用いて、23℃、55%RHの環境下で、波長が589nmにおいて3次元屈折率測定を行い、屈折率nx、ny、nzを求めることにより得ることができる。
【0058】
また、本発明においては、後述する「B.位相差フィルムの製造方法」の欄で詳述するように、上記屈折率異方性材料が溶媒に溶解もしくは分散された位相差強化領域形成用塗工液を高分子フィルムの表面に塗布し、溶媒により膨潤させることにより上記屈折率異方性材料を高分子フィルム内に浸透させ、高分子フィルム内に充填させるものであるので、所定の溶媒に対する膨潤度が高いものであることが好ましい。具体的には、特定の溶媒に高分子フィルムを浸漬した際に、高分子フィルムが膨潤することが好ましい。この現象は目視で判別可能であり、例えば高分子フィルム(膜厚;数μm)を形成し、その上に溶媒を滴下し、溶媒の浸透具合を観察することにより、溶媒に対する膨潤性を確認することができる。
【0059】
本発明に用いられる高分子フイルムは、可撓性を有するフレキシブル材でも良く、または、可撓性のないリジッド材でも良いが、フレキシブル材を用いることが好ましい。フレキシブル材を用いることにより、本発明の位相差フイルムの製造工程をロールtoロールプロセスとすることができ、生産性に優れた位相差フイルムを得ることができるからである。
【0060】
上記フレキシブル材を構成する材料としては、セルロース樹脂、ノルボルネン系ポリマー、シクロオレフィン系ポリマー、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルアルコール、ポリイミド、ポリアリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、アモルファスポリオレフィン、変性アクリル系ポリマー、ポリスチレン、エポキシ樹脂、ポリカーボネート、ポリエステル類などを例示することができるが、本発明においてはセルロース樹脂およびノルボルネン系ポリマーを好適に用いることができる。
【0061】
上記ノルボルネン系ポリマーとしては、シクロオレフィンポリマー(COP)またはシクロオレフィンコポリマー(COC)を挙げることができるが、本発明においては、シクロオレフィンポリマーを用いることが好ましい。シクロオレフィンポリマーは、水分の吸収性および透過性が低いため、本発明に用いられる高分子フイルムがシクロオレフィンポリマーから構成されることにより、本発明の位相差フイルムを光学特性の経時安定性に優れたものにできるからである。
【0062】
本発明に用いられる上記シクロオレフィンポリマーの具体例としては、例えば、JSR株式会社製、商品名:ARTONを挙げることができる。
【0063】
上記セルロース樹脂としては、セルロースエステルを用いることが好ましく、さらに、セルロースエステル類の中では、セルロースアシレート類を用いることが好ましい。セルロースアシレート類は工業的に広く用いられていることから、入手容易性の点において有利だからである。
【0064】
上記セルロースアシレート類としては、炭素数2〜4の低級脂肪酸エステルが好ましい。低級脂肪酸エステルとしては、例えばセルロースアセテートのように、単一の低級脂肪酸エステルのみを含むものでもよく、また、例えばセルロースアセテートブチレートやセルロースアセテートプロピオネートのような複数の脂肪酸エステルを含むものであっても良い。
【0065】
本発明においては、上記低級脂肪酸エステルの中でもセルロースアセテートを特に好適に用いることができる。セルロースアセテートとしては、平均酢化度が57.5〜62.5%(置換度:2.6〜3.0)のトリアセチルセルロースを用いることが最も好ましい。ここで、酢化度とは、セルロース単位質量当りの結合酢酸量を意味する。酢化度は、ASTM:D−817−91(セルロースアセテート等の試験方法)におけるアセチル化度の測定および計算により求めることができる。
【0066】
本発明に用いられる高分子フイルムは、延伸処理が施されていても良い。延伸処理が施されていることにより、上記屈折率異方性材料が高分子フイルム中に浸透し易くなる場合があるからである。このような延伸処理としては、特に限定されるものではなく、高分子フイルムを構成する材料等に応じて任意に決定すればよい。延伸処理としては、一軸延伸処理と、2軸延伸処理とを例示することができる。
【0067】
本発明に用いられる高分子フイルムの構成は、単一の層からなる構成に限られるものではなく、複数の層が積層された構成を有してもよい。複数の層が積層された構成を有する場合は、同一組成の層が積層されてもよく、また、異なった組成を有する複数の層が積層されても良い。
【0068】
本発明に用いられる高分子フィルムの膜厚は特に限定されるものでは無く、適宜選定すれば良い。従って、本発明で言うフィルムは所謂狭義のフィルムに限定されるものでは無く、所謂シート、板の領域の膜厚のものも包含する。但し、通常は、比較的薄膜の物が用いられることが多い。膜厚としては、通常10μm〜200μmの範囲内、特に20μm〜100μmの範囲内のものが好適に用いられる。
【0069】
また、延伸してなる高分子フィルムを用いる場合には、偏光層への積層等の後加工時に加わる熱により収縮(延伸の戻り)を生じる傾向が有る。この場合に、収縮に伴ってリタデーション値が変動する場合が有る。これを防ぐ為には、予め高分子フィルムを加熱処理(アニーリング)して、高分子フィルムを収縮させ得る残留応力を開放乃至緩和させることが好ましい。この加熱処理の温度条件としては、通常、高分子フィルムのガラス転移温度から熔融温度(或いは融点)までの間の温度であることが好ましい。
【0070】
また、後述する厚み方向リタデーションにおけるばらつきは、用いられる高分子フィルムにも依存するため、ばらつきを小さくするには、用いられる高分子フィルムの波長550nmで測定した厚み方向リタデーション(Rth)のフィルム面方向におけるばらつきがRthの平均値を基準として±5nmの範囲内であることが好ましい。
【0071】
2.屈折率異方性材料
次に、本発明に用いられる屈折率異方性材料について説明する。本発明に用いられる屈折率異方性材料としては、高分子フィルム内に充填されることが可能であり、かつ複屈折性を有する材料であれば特に限定されるものではない。
本発明においては、高分子フィルム内への充填のし易さから、分子量が比較的小さい材料が好適に用いられる。具体的には、分子量が200〜1200の範囲内、特に400〜800の範囲内の材料が好適に用いられる。なお、ここでいう分子量とは、後述する重合性官能基を有し、高分子フィルム内で重合される屈折率異方性材料ついては、重合前の分子量を示すものである。
【0072】
本発明に用いられる屈折率異方性材料としては、分子構造が棒状の材料であることが好ましい。棒状の材料であれば、高分子フィルム内の隙間に比較的容易に入り込むことができるからである。
【0073】
また、本発明に用いられる屈折率異方性材料としては、液晶性を有する材料(液晶性分子)であることが好ましい。このように屈折率異方性材料が液晶性分子である場合は、屈折率異方性材料が高分子フィルム内に充填された際に、高分子フィルム内において液晶状態となる可能性があり、屈折率異方性材料の複屈折性をより効果的に位相差フィルムに反映させることが可能となるからである。
【0074】
本発明においては、屈折率異方性材料として、ネマチック液晶性分子材料、コレステリック液晶性分子材料、カイラルネマチック液晶性分子材料、スメクチック液晶性分子材料、ディスコチック液晶性分子材料を用いることができるが、中でも屈折率異方性材料が、ネマチック液晶性分子材料であることが好ましい。ネマチック液晶性分子材料であれば、高分子フィルム内の隙間に入り込んだ数〜数百のネマチック液晶性分子が、高分子フィルム中で配向するので、屈折率異方性をより確実に発現できるからである。特に、上記ネマチック液晶性分子がメソゲン両端にスペーサを有する分子であることが好ましい。メソゲン両端にスペーサを有するネマチック性液晶分子には柔軟性があるので、高分子フィルム内の隙間に入り込んだ際に白濁することを防止することができるからである。
【0075】
本発明に用いられる屈折率異方性材料は、分子内に重合性官能基を有するものが好適に用いられ、中でも3次元架橋可能な重合性官能基を有するものが好ましい。重合性官能基を有するものであれば、高分子フィルム内に充填された後、光の照射によって光重合開始剤から発生したラジカル、または電子線等の作用により、屈折率異方性材料を高分子フィルム内において高分子化(架橋)することが可能となるので、位相差フィルムとした後に屈折率異方性材料が染み出す等の不具合を防止することが可能となり、安定して使用することができる位相差フィルムとすることができるからである。
【0076】
なお、「3次元架橋」とは、液晶性分子を互いに3次元に重合して、網目(ネットワーク)構造の状態にすることを意味する。
【0077】
このような重合性官能基としては、特に限定されるものではなく、紫外線、電子線等の電離放射線、或いは熱の作用によって重合する各種重合性官能基が用いられる。これら重合性官能基の代表例としては、ラジカル重合性官能基、或いはカチオン重合性官能基等が挙げられる。さらにラジカル重合性官能基の代表例としては、少なくとも一つの付加重合可能なエチレン性不飽和二重結合を持つ官能基が挙げられ、具体例としては、置換基を有するもしくは有さないビニル基、アクリレート基(アクリロイル基、メタクリロイル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基を包含する総称)等が挙げられる。又、カチオン重合性官能基の具体例としては、エポキシ基等が挙げられる。その他、重合性官能基としては、例えば、イソシアネート基、不飽和3重結合等が挙げられる。これらの中でもプロセス上の点から、エチレン性不飽和二重結合を持つ官能基が好適に用いられる。
【0078】
本発明においては、中でも分子構造が棒状である液晶性分子であって、末端に上記重合性官能基を有するものが特に好適に用いられる。例えば両末端に重合性官能基を有するネマチック液晶性分子を用いれば、互いに3次元に重合して、網目(ネットワーク)構造の状態にすることができ、より強固な高分子フィルムとすることができるからである。
具体的には末端にアクリレート基を有する液晶性分子が好適に用いられる。末端にアクリレート基を有するネマチック液晶性分子の具体例を下記化学式(1)〜(6)に示す。
【0079】
【化1】
【0080】
ここで、化学式(1)、(2)、(5)および(6)で示される液晶性分子は、D. J. Broerら、Makromol Chem. 190, 3201-3215(1989) またはD. J. Broerら、Makromol Chem. 190, 2250(1989) に開示された方法に従い、あるいはそれに類似して調製することができる。また、化学式(3)および(4)で示される液晶性分子の調製は、DE195, 04, 224に開示されている。
【0081】
また、末端にアクリレート基を有するネマチック液晶性分子の具体例としては、下記化学式(7)〜(17)に示すものも挙げられる。
【0082】
【化2】
【0083】
なお、本発明において屈折率異方性材料は、2種以上用いられても良い。
例えば、屈折率異方性材料が、分子構造が棒状である液晶性分子であって両末端に重合性官能基を1つ以上有するもの、及び分子構造が棒状である液晶性分子であって片末端に重合性官能基を1つ以上有するものを含む場合は、両者の配合比の調整により重合密度(架橋密度)及び位相差機能を好適に調整できる点から好ましい。
片末端に重合性官能基を1つ以上有する棒状液晶性分子の方が、高分子フィルムに浸透し易い、及び/又は高分子フィルム内で配向し易いため、位相差機能をより強化し易い傾向があるからである。一方で、両末端に重合性官能基を1つ以上有する棒状液晶性分子の方が、重合密度を高くすることができるため、分子の染み出し防止性や耐溶剤性や耐熱性等の耐久性を付与することができるからである。
【0084】
また、本発明に用いられる屈折率異方性材料としては、位相差機能をより強化し、且つフィルムの信頼性を向上する点から、分子構造が棒状である液晶性分子であって上記重合性官能基を有するものと、分子構造が棒状である液晶性分子であって上記重合性官能基を有しないものとを用いることが好ましい。特に、分子構造が棒状である液晶性分子であって両末端に上記重合性官能基を有するものと、分子構造が棒状である液晶性分子であって片末端に上記重合性官能基を有するものと、分子構造が棒状である液晶性分子であって両末端に上記重合性官能基を有しないものとを用いることが好ましい。重合性官能基を有しない棒状液晶性分子の方が、高分子フィルムに浸透し易い、及び/又は高分子フィルム内で配向し易いため、位相差機能をより強化し易いからである。一方で、重合性官能基を有する棒状液晶性分子を混合して分子間重合を可能とすることにより、分子の染み出し防止性や耐溶剤性や耐熱性等の耐久性を付与することができるからである。
【0085】
3.濃度勾配
本発明においては、上記屈折率異方性材料が、上記高分子フィルムの厚み方向に濃度勾配を有している点に特徴を有するものである。
本発明において、濃度勾配を有するとは、厚み方向の任意の2点において濃度が異なるものであれば特に限定されるものではない。本発明においては、屈折率異方性材料の濃度勾配が、高分子フィルムの一方の表面側が高濃度であり、他方の表面側に向かって低濃度となる濃度勾配である態様(第1の態様)、および屈折率異方性材料の濃度勾配が、高分子フィルムの両表面側が高濃度であり、中央部に向かって低濃度となる濃度勾配である態様(第2の態様)の二つの態様が好ましい態様であるといえる。しかしながら、表面側が低濃度であり、高分子フィルムの内部に高濃度の領域を有しているような態様であっても良い。以下、好ましい二つの態様について、各態様毎に説明する。
【0086】
(1)第1の態様
本発明における第1の態様は、屈折率異方性材料の高分子フィルムの厚み方向の濃度勾配が、高分子フィルムの一方の表面側が高濃度であり、他方の表面側に向かって低濃度となる濃度勾配である態様である。この第1の態様を図1に模式的に示す。図1に示すように、本態様においては、高分子フィルム1の一方の表面側3に屈折率異方性材料を含有する位相差強化領域2が形成されており、反対側の表面側4には、基材領域5が形成されている。
【0087】
かかる位相差強化領域は、高分子フィルム中に屈折率異方性材料が含有乃至浸透してなる。位相差強化領域中の高分子フィルムの分子と屈折率異方性材料の分子の状態については、未だ十分解明できていないが、特に線状高分子からなる高分子フィルム表面から、その長軸方向に電気双極子モーメントを有する棒状分子から成る屈折率異方性材料を浸透させて製造した場合には、およそ以下の様な状態にあると推測されている。
【0088】
即ち、高分子フィルム中の線状高分子は、平均すると概略高分子フィルムの表裏面に平行な面内に並んでいる(但し、該平行面内においては乱雑な方向分布となっている)。そして、高分子フィルムの表面から浸透した棒状の屈折率異方性材料の分子は、該高分子フィルムの配列により方向を強制的に揃えられて、平均的には高分子フィルムの表裏面に平行な面内に配列する(但し、該平行面内においては乱雑な方向分布となっている)。
これにより、位相差強化領域において、屈折率異方性材料の電気双極子モーメントベクトルが平均して高分子フィルムの表裏面に平行な面内に揃う為、高分子フィルムの表裏面に平行な面と直交する法線方向の屈折率が、該面内方向の屈折率よりも相対的に低くなる。それによって負のCプレート特性を発現する。
【0089】
更に、該屈折率異方性材料が1分子当たり複数の重合性官能基を有し、これが重合して固化されてなる場合は、位相差強化領域においては、高分子フィルムの分子鎖を屈折率異方性材料の分子の3次元架橋体が包絡し、屈折率異方性材料の分子の3次元架橋体の網目中に高分子フィルムの分子鎖が挿入された状態となる。更に、高分子フィルムの分子と屈折率異方性材料の分子とが相互に化学結合可能な場合には、高分子フィルムの分子と屈折率異方性材料の分子とが3次元架橋した複合高分子状態となる。
以上のような状態により、屈折率異方性材料の染み出しが防止され安定した屈折率異方性を発現する。
【0090】
第1の態様においては、上記のように屈折率異方性材料を含有する位相差強化領域が高分子フィルムの一方の表面側に形成されている点に特徴を有するものである。この位相差強化領域内における屈折率異方性材料の濃度勾配は、通常は高分子フィルムの表面側が高濃度となり、高分子フィルムの厚み方向の中心側が低濃度となっている。そして、高分子フィルムのもう一方の表面側には屈折率異方性材料が含有されていない領域である基材領域が形成されている。
本態様においては、このように高分子フィルムの一方の表面側に位相差強化領域が形成されたものであるので、以下のような利点を有する。
【0091】
すなわち、上記基材領域側では屈折率異方性材料が含有されていないことから、高分子フィルムの有する性質がそのまま残存している。屈折率異方性材料が含有されていない領域である基材領域を有するため、例えば高分子フィルム自体の接着性が良好である場合等においては、上記基材領域側に例えば偏光層を接着させる等することにより、容易に偏光フィルムとすることができる等の利点を有する。また、屈折率異方性材料を含有させた位相差強化領域は強度が低下する場合があるが、上述したような基材領域を有することにより、位相差フィルムとしての強度を維持することができる等の利点を有するものである。
【0092】
本発明における位相差強化領域の厚みは、通常0.5μm〜8μmの範囲内、特に1μm〜4μmの範囲内であることが好ましい。上記範囲より小さい場合は、十分なリタデーション値を得ることができず、また上記範囲より厚みを増大させることは困難だからである。
屈折率異方性材料の濃度勾配が、本態様のようになっているか否かの判断は、位相差強化領域および基材領域の組成分析により判断することができる。
【0093】
組成分析の方法としては、GSP(精密斜め切削法)により位相差フィルムを切断して厚み方向の断面が出るようにし、当該断面の飛行時間型二次イオン質量分析(TOF−SIMS)を行うことによって厚み方向の材料の濃度分布を測定する方法等を挙げることができる。
【0094】
飛行時間型二次イオン質量分析(TOF−SIMS)としては、例えば、飛行時間型二次イオン質量分析計としてPhysical Electronics社製TFS−2000を用い、例えば1次イオン種をGa+、1次イオンエネルギーを25kV、後段加速を5kVとして、位相差フィルムの厚み方向の断面の正及び/又は負の2次イオンを測定することにより行うことができる。この場合において、屈折率異方性材料の厚み方向の濃度分布は、屈折率異方性材料由来の2次イオン強度を、厚み方向に対してプロットすることにより得ることができる。基材フィルム由来の2次イオン強度についても同様に厚み方向に対してプロットすると、屈折率異方性材料と基材フィルムの相対的な濃度変化を見ることができる。屈折率異方性材料由来の2次イオンは、例えば断面TEM観察等別の分析手法で屈折率異方性材料が充填されていると推定できる表面や箇所において相対的に強く観測される2次イオンの総和などを用いることができる。基材フィルム由来の2次イオンは、例えば断面TEM観察等別の分析手法で屈折率異方性材料が充填されていないと推定できる表面や箇所において相対的に強く観測される2次イオンの総和などを用いることができる。
【0095】
また、第1の態様の場合には、前記位相差フィルムの純水に対する接触角が、一方の表面と他方の表面とで異なることが好ましい。このような構成とすることにより、例えばこの位相差フィルムにPVAを基材とするような親水性樹脂系の偏光層を直接貼り付けて偏光フィルムとする場合に、より低い接触角を有する表面に偏光層を接着させると、特に水系接着剤を使用しても接着性を阻害されることがなく偏光フィルムを得ることができるからである。
本発明において、位相差フィルムの純水に対する接触角の一方の表面と他方の表面の差異は、2度以上であることが好ましく、更に4度以上、特に5度以上であることが好ましい。
【0096】
なお、図1の例においては、高分子フィルム1の一方の表面側3に位相差強化領域2が形成されており、反対側の表面側4には基材領域5が形成されている形態であるが、第1の態様には、高分子フィルムの一方の表面側に屈折率異方性材料が高濃度で含有され、他方の表面側に屈折率異方性材料が低濃度で含有される形態も含まれる。この場合であっても低濃度側は、表面の接着性や強度などにおいて、高濃度側より高分子フィルム自体の性質に近いという利点を有する。なお、当該低濃度側表面に別の層を接着させる場合においては、屈折率異方性材料の濃度は高分子フィルム自体のもつ接着性に支障をきたさない範囲内の低濃度、例えば、位相差フィルムの純水に対する接触角の高濃度側表面と低濃度側表面の差異が、2度以上となるような、更に4度以上、特に5度以上となるような濃度であることが好ましい。
【0097】
(2)第2の態様
本発明における第2の態様は、屈折率異方性材料の高分子フィルムの厚み方向の濃度勾配が、高分子フィルムの両表面側が高濃度であり、中央部に向かって低濃度となる濃度勾配である態様である。この第2の態様を図2に模式的に示す。図2に示すように、本態様においては、高分子フィルム1の両方の表面側に屈折率異方性材料を含有する位相差強化領域2が形成されており、中央部には、基材領域5が形成されている。
【0098】
本態様においては、このように屈折率異方性材料を含有する位相差強化領域が高分子フィルムの両表面側に形成されている点に特徴を有するものである。この位相差強化領域内における屈折率異方性材料の濃度勾配は、通常は高分子フィルムの表面側が高濃度となり、高分子フィルムの厚み方向の中心側が低濃度となっている。そして、高分子フィルムの厚み方向中央部には、屈折率異方性材料が含有されていない領域である基材領域が形成されている。
【0099】
この場合の位相差強化領域の膜厚は、上記第1の態様と同様であるので、ここでの説明は省略する。
本態様においては、このように高分子フィルムの両表面側に位相差強化領域が形成されたものであるので、以下のような利点を有する。
【0100】
すなわち、本態様においては、両表面側に位相差強化領域を有することから、位相差強化領域におけるリタデーション値は、上記第1の態様の2倍となることが予想される。したがって、上記第1の態様ではリタデーション値が不足する場合等において、さらに大幅なリタデーション値が必要な場合に利点を有することになる。
【0101】
また、屈折率異方性材料を含有させた位相差強化領域は位相差フィルムとしての強度が低下する場合があるが、中央部に屈折率異方性材料が含有されていない領域である基材領域を有するため、位相差フィルムとしての強度を維持することができる等の利点を有するものである。
【0102】
なお、図2の例においては、高分子フィルム1の両方の表面側に屈折率異方性材料を含有する位相差強化領域2が形成されており、中央部には、基材領域5が形成されている形態であるが、第2の態様には、高分子フィルムの両方の表面側に屈折率異方性材料が高濃度で含有され、中央部に屈折率異方性材料が低濃度で含有される形態も含まれる。この場合であっても低濃度領域は、強度などにおいて、高濃度側より高分子フィルム自体の性質に近いという利点を有する。
【0103】
屈折率異方性材料の濃度勾配が、本態様のようになっているか否かの判断は、上記第1態様の場合と同様の方法を用いた位相差強化領域および基材領域の組成分析により判断することができる。
【0104】
本発明においては、上記のいずれの態様においても、上記屈折率異方性を有する材料の前記高分子フィルムの厚み方向の濃度勾配が連続的に変化することが好ましい。このような場合には、ある厚みにおいて濃度が不連続に変化する場合に比べて、層内の特定の界面への応力の集中がなくなるため、剥離強度が強くなり、耐熱性や耐水性(使用環境下での寒熱繰り返し、或いは水との接触の際の界面剥離への耐久性)などの信頼性、耐アルカリ性、リワーク性などが高くなるからである。
【0105】
なおここで、濃度勾配が連続的に変化するとは、例えば図3(a)〜(e)に示すように縦軸に濃度をとり横軸に厚み方向をとった場合に、厚み方向における濃度の変化が連続的である場合をいう。
【0106】
また、本発明においては、上記屈折率異方性を有する材料の濃度勾配が緩やかな領域と、上記屈折率異方性を有する材料の濃度勾配が急な領域を有することが好ましい。このような場合には、高濃度で且つ緩やかな濃度勾配領域において充分な量の屈折率異方性を有する材料を集中させて、ここで充分なリタデーション値を確保し、更に急な濃度勾配領域において高濃度領域から低濃度領域までの間の濃度を連続的に接続し、層内特定界面への応力集中を防ぐことができるため、所望の位相差を有しながら信頼性が高くなるからである。
【0107】
本発明において、濃度勾配が緩やかと急とは、屈折率異方性を有する材料の厚み方向の濃度勾配の分布における相対的な関係である。濃度勾配が緩やかな領域と、濃度勾配が急な領域は、相対的に濃度勾配が小さな値で連続している領域と大きな値で連続している領域を巨視的に分けたものである。この場合において濃度勾配が緩やかな領域には、濃度勾配が一定な領域が含まれる。本発明において、濃度勾配が緩やかな領域は、図3(a)の領域(A)、図3(b)の領域(A)のように、屈折率異方性材料の濃度が相対的に高く、高分子フィルム内に屈折率異方性材料が飽和に近い濃度で充填されている場合などが挙げられる。また本発明において、濃度勾配が急な領域は、図3(a)の領域(B)、図3(b)の領域(B)のように、屈折率異方性材料が相対的に高い濃度で含まれる領域から屈折率異方性材料が含まれない基材領域へ遷移する領域などが挙げられる。高リタデーション値を要求される場合は、図3(a)、図3(b)のような濃度勾配が一般的には好ましい。但し、特に高リタデーション値を求められない場合は、図3(c)のように、屈折率異方性材料が高濃度で充填されている高分子フィルム表面近傍に、中央部に向かって濃度が高濃度から低濃度に遷移する様な濃度勾配が急な領域と、その中央部側に屈折率異方性材料が低濃度で充填されている濃度勾配が緩やかな領域が連続している形態でも良い。
【0108】
上記第1の態様において、上記屈折率異方性を有する材料の濃度勾配が緩やかな領域と、濃度勾配が急な領域を有する場合、図4に模式的に示されるように、高分子フィルム1の一方の表面側3に屈折率異方性材料を含有する位相差強化領域2が形成されており、反対側の表面側4には、基材領域5が形成されており、位相差強化領域2のうち基材領域5との境界領域に、屈折率異方性材料が相対的に高い濃度で含まれると共に濃度勾配が緩やかな領域から屈折率異方性材料が含まれない基材領域へ遷移する濃度勾配が急な中間領域9が形成されている場合が挙げられる。
【0109】
上記第2の態様において、上記屈折率異方性を有する材料の濃度勾配が緩やかな領域と、濃度勾配が急な領域を有する場合、図5に模式的に示されるように、高分子フィルム1の両方の表面側に屈折率異方性材料を含有する位相差強化領域2が形成されており、中央部には、基材領域5が形成されており、位相差強化領域2のうち基材領域5との境界領域に、屈折率異方性材料が相対的に高い濃度で含まれると共に濃度勾配が緩やかな領域から屈折率異方性材料が含まれない基材領域へ遷移する濃度勾配が急な中間領域9が形成されている場合が挙げられる。
【0110】
なお、上記屈折率異方性を有する材料の前記高分子フィルムの厚み方向の濃度勾配が連続的に変化することや、上記屈折率異方性を有する材料の濃度勾配が緩やかな領域と、上記屈折率異方性を有する材料の濃度勾配が急な領域を有することは、上記により説明した位相差フィルムの厚み方向断面の飛行時間型二次イオン質量分析(TOF−SIMS)などの濃度分布分析により判断することができる。
【0111】
4.位相差フィルム
本発明の位相差フィルムは、位相差フィルムの可視光領域におけるリタデーション値が、短波長側の方が長波長側よりも大きいものであることが好ましい。これは、一般に、液晶表示装置の液晶層に用いられる液晶材料の可視光域におけるリタデーション値は、短波長側の方が長波長側よりも大きい。したがって、本発明の位相差フィルムを例えば光学補償板として用いた場合、可視光域における全て波長において補償を行うことができるといった利点を有するからである。
【0112】
このように、位相差フィルムの可視光領域におけるリタデーション値を、短波長側の方が長波長側よりも大きくするためには、高分子フィルムおよび屈折率異方性材料の可視光領域におけるリタデーション値が、短波長側の方が長波長側より大きいものを選択することが好ましい。しかしながら、偏光層(例えばポリビニルアルコール(PVA))の保護フィルムに用いられているTACフィルムは、そのようなリタデーション値をもたないことから、屈折率異方性材料が上述したリタデーション値を有するものを選択することが好ましい。
【0113】
一方、本発明においては、上記位相差フィルムの可視光領域におけるリタデーション値が、長波長側の方が短波長側よりも大きくても良い。この場合には、本発明の位相差フィルムを例えば偏光フィルムと貼り合わせて偏光板として用いた場合、光漏れ補償に優れるといった利点を有する点から好ましい。
【0114】
また、本発明の位相差フィルムは、上記位相差フィルムの波長550nmで測定した厚み方向リタデーション(Rth)のフィルム面方向におけるばらつきがRthの平均値を基準として±5nmの範囲内であることが好ましい。本発明の位相差フィルムは、主として屈折率異方性材料の浸透によりリタデーションの値が調節されるため、例えば二軸延伸により作製された負のCプレートの位相差フィルムに比べて、面内及び厚み方向リタデーション値のばらつきを小さくすることが可能である。延伸のみによりリタデーション値を調節する場合だと、面内全域に均一な位相差を得ることが極めて困難であり、端の方が使用できないことが一般的である。本発明の位相差フィルムは、リタデーションのばらつきが小さいことにより、例えばこの位相差フィルムを光学補償フィルムとして表示装置に適用する場合に、表示画面内が均一に光学補償され、視野角等の表示品位に優れる表示装置を得ることができる。
【0115】
ここで、厚み方向リタデーションとは、フィルムの面内方向における遅相軸方向(フィルム面内方向における屈折率が最大となる方向)の屈折率をnx、フィルム面内における進相軸方向(フィルム面内方向における屈折率が最小となる方向)の屈折率をny、及びフィルムの厚み方向の屈折率をnzとしたときに、Rth[nm]={(nx+ny)/2−nz}×d (d:厚み)と表すことができ、面内リタデーションはRe[nm]=(nx−ny)×d (d:厚み)と表すことができる。
【0116】
また、厚み方向リタデーションのフィルム面方向におけるばらつきは、例えば以下のようにして評価できる。フィルム面内の全域について所定間隔ごとに厚み方向リタデーションを測定する。測定値から平均値を算出し、所定間隔ごとの各測定値から平均値を減算して変動を算出することができる。フィルムが長尺フィルムの場合に、製造条件を時間的に変動させない場合は、長手方向については厚み方向リタデーションが一定と仮定できるから、長手方向に垂直な幅方向について所定間隔ごとに厚み方向リタデーションを測定し、測定値から平均値を算出し、所定間隔ごとの各測定値から平均値を減算して変動を算出しても良い。
【0117】
また、本発明の位相差フィルムは、上記厚み方向リタデーションが70〜300nmであることが好ましい。このような場合には、例えば、視野角改善効果を向上することができるからである。
なお、上記厚み方向及び面内方向リタデーションの値は、例えば自動複屈折測定装置(例えば、王子計測機器株式会社製、商品名:KOBRA−21ADH)を用いて、23℃、55%RHの環境下で、波長が589nmにおいて3次元屈折率測定を行い、屈折率nx、ny、nzを求めることにより得ることができる。
【0118】
また本発明によれば、上記塗工液の量や濃度を変更して位相差強化領域の手段を用いてリタデーション値を調節する。延伸によってリタデーション値を調節する場合、一般的に延伸倍率を大きくすると位相差フィルムが曇って、ヘイズ値が高くなってしまい、消偏性が高くなる、すなわち偏光状態が乱れて偏光を制御できなくなるという問題があったが、本発明においては、所望のリタデーション値を得て視野角改善効果を向上しながら、消偏性を極めて少なくすることが可能である。
すなわち、本発明の位相差フィルムは、JIS−K7105に準拠して測定した際のヘイズ値が1%以下、更に0.8%以下であることを達成可能である。
【0119】
また、本発明の位相差フィルムは、高分子フィルム内に少なくとも上記屈折率異方性材料が含有されてなるものであるが、本発明の効果が損なわれない限り、他の成分が含まれていても良い。例えば、残存溶剤、光重合開始剤、重合禁止剤、レベリング剤、カイラル剤、シランカップリング剤等が含まれていても良い。
【0120】
また、本発明の位相差フィルムは、さらに他の層が直接積層されたものであってもよい。例えば、位相差フィルムとしてリタデーション値が不足する場合は、さらに他の位相差層を直接積層してもよい。また、後述するように、他の光学的機能層、例えば偏光層を直接積層することも可能である。
【0121】
なお、本発明の位相差フィルムには、上記屈折率異方性材料が溶媒に溶解もしくは分散された位相差強化領域形成用塗工液を高分子フィルムの表面に塗布することにより上記屈折率異方性材料を高分子フィルム内に浸透させて形成された場合に、浸透させた側の高分子フィルム表面に上記屈折率異方性材料が膜状に残存しているような態様も含まれる。
【0122】
また本発明においては、上記位相差フィルムが、最小直径が6インチ以下のロール状に巻くことが可能であることが好ましい。位相差フィルムは、その製造、保管、流通、後加工の際の量産性、生産効率を高める為、長尺の帯状フィルム(ウエブとも云う)の形態とし、製造、検査、及び後加工する時以外の保管、搬送、及び加工待機時には円筒上に巻取ったロールの形態にしておくことが好ましいからである。このロールの巻芯となる管の直径としては、通常、6インチ以下、場合によっては3インチとされる。よって、プロセス上有利なようにロール状に巻取り可能とする為には、位相差フィルムは最小直径6インチ以下、より好ましくは3インチ以下に巻くことが可能なことが好ましい。
【0123】
一方、屈折率異方性を有する材料は、一般に、硬く、脆い傾向が有る。特に、固定化の為に重合した場合はその傾向が強い。その為、従来の高分子フィルムの基材上に別層としての位相差層を積層した構成の位相差フィルムでは、硬くて脆い位相差層の為に、6インチ以下の直径に巻取ると、位相差層にクラックが入ったり、位相差層が基材から剥離するという問題が生じた。このクラック防止のために位相差層上に保護層を更に設ける必要があった。また、位相差フィルムを例えば30cm角の正方形状シートのような枚葉のシートの状態で製造、保管等すればこの問題は解決するが、生産効率、量産性は劣る。これに対し、本発明において得られる位相差フィルムは、高分子フィルム中に上記屈折率異方性材料が含有されて位相差強化領域を形成しているものであるため、高分子フィルム内部に位相差層(位相差強化領域)が内包され、且つ位相差層を含まない(乃至は含んでもその量が少ない)領域も有する。その為、保護層などを設けなくても、ロール状に巻いた時の応力集中によりクラックが入り難く、好適にロール状形態とすることが可能である。
【0124】
また、本発明の位相差フィルムは、単層のものを1枚のみで仕様する以外に、必要に応じて2枚以上を貼合わせ、積層した形態で用いることも可能である。2枚を積層する具体例としては、同一の位相差フィルムを主屈折率の向き(光学異方性の方向)を揃えて2枚以上積層する形態、同一の位相差フィルムを主屈折率の向きを互いに異ならせて2枚以上積層する形態、互いに異なる光学異方性の位相差フィルムを主屈折率の向き(光学異方性の方向)を揃えて2枚以上積層する形態、或いは互いに異なる光学異方性の位相差フィルムを主屈折率の向き(光学異方性の方向)を互いに異ならせて2枚以上積層する形態等が挙げられる。これらの場合には、1枚のみでは実現できない大きさの光学異方性値を実現したり、或いは1枚のみでは実現できない複雑な光学異方性を実現することが可能となる。
尚、位相差フィルム同士の貼合わせ、積層は、例えば、適当な透明な接着剤層を介して貼り合せることにより行なわれる。
【0125】
5.用途
本発明の位相差フィルムの用途としては、光学的機能フィルムとして種々の用途に用いることができる。具体的には、光学補償板(例えば、視角補償板)、楕円偏光板、輝度向上板等を挙げることができる。
【0126】
本発明においては、特に光学補償板としての用途が好適である。具体的には高分子フィルムとしてTACフィルムを用い、屈折率異方性材料として分子構造が棒状の液晶性化合物を用いることにより、負のCプレートとしての用途に用いることができる。
【0127】
また、本発明の位相差フィルムは、液晶表示装置に用いられる種々の光学機能フィルムとして用いることが可能である。例えば、上述したように本発明の位相差フィルムが負のCプレートである光学補償板として用いられる場合は、VAモードもしくはOCBモードなどの液晶層を有する液晶表示装置に好適に用いられる。
【0128】
B.位相差フィルムの製造方法
本発明の位相差フィルムの製造方法は、高分子フィルムの少なくとも一方の表面に、屈折率異方性材料が溶媒に溶解もしくは分散されてなる位相差強化領域形成用塗工液を塗布する塗布工程と、上記塗布工程により塗布された上記位相差強化領域形成用塗工液中の上記屈折率異方性材料を上記高分子フィルムに浸透させる浸透工程と、上記塗布工程により塗布された上記位相差強化領域形成用塗工液中の上記溶媒を乾燥させる乾燥工程とを有することを特徴とするものである。
【0129】
このような本発明の位相差フィルムの製造方法について、図面を用いて具体的に説明する。図6は、本発明の位相差フィルムの製造方法の一例を示す工程図である。図6(a)に示すように、まず高分子フィルム1上に、位相差強化領域形成用塗工液6を塗布する塗布工程が行われる。次いで、図6(b)に示すように、位相差強化領域形成用塗工液中の上記屈折率異方性材料を上記高分子フィルムに浸透させる浸透工程、および上記塗布工程により塗布された上記位相差強化領域形成用塗工液中の上記溶媒を乾燥させる乾燥工程が行われる。これにより、高分子フィルム表面から、上記位相差強化領域形成用塗工液中の屈折率異方性材料が浸透し、高分子フィルムの表面側に屈折率異方性材料が含有された位相差強化領域2が形成される。これにより高分子フィルム内には、屈折率異方性材料が含有された位相差強化領域2と、屈折率異方性材料が含有されていない基材領域5が形成される。そして、最後に図6(c)に示すように、上記位相差強化領域2側から紫外線7を照射することにより、高分子フィルム内に包含された屈折率異方性材料を重合させる固定化工程が行われることにより、位相差フィルム8が形成される。
【0130】
このような本発明の位相差フィルムの製造方法によれば、上記位相差強化領域形成用塗工液を塗布することにより、容易に位相差フィルムを形成することが可能であり、かつ上記位相差強化領域形成用塗工液の塗布量等を変更することのみで、得られる位相差フィルムのリタデーション値を変更することが可能となる。したがって、本発明によれば、少ない数量であっても容易に任意のリタデーション値を有する位相差フィルムを容易に得ることができるといった利点を有するものである。
【0131】
なお、各工程はそれぞれ2回以上行っても良い。例えば、まず高分子フィルム上に、第一の位相差強化領域形成用塗工液を塗布する塗布工程を行い、次いで、第一の位相差強化領域形成用塗工液中の第一の屈折率異方性材料を高分子フィルムに浸透させる浸透工程、および上記第一の位相差強化領域形成用塗工液中の溶媒を乾燥させる乾燥工程を行なう。
次いで、第一の位相差強化領域形成用塗工液を塗布した側の面に更に、第二の位相差強化領域形成用塗工液を塗布する塗布工程を行い、続いて、第二の位相差強化領域形成用塗工液中の第二の屈折率異方性材料を浸透させる浸透工程、および上記第二の位相差強化領域形成用塗工液中の溶媒を乾燥させる乾燥工程を行ない、第二の位相差強化領域形成用塗工液を塗布した側から固定化工程を行うことにより、位相差フィルムを形成しても良い。この場合において、例えば、第一の屈折率異方性材料として、高分子フィルムに浸透し易い重合性官能基を有しない棒状液晶性分子を用い、第二の屈折率異方性材料として重合性官能基を有する棒状液晶性分子を用いると、高分子フィルムは、位相差をより強化しやすい重合性官能基を有しない棒状液晶性分子が含有された領域と、より表面側に重合性官能基を有する棒状液晶性分子が含有された領域とが共存して形成され、より強化された位相差を有しながら、高分子フィルム表面は固定化工程により重合されて安定化されるという効果が得られる。第一の屈折率異方性材料として、重合性官能基がより少ない棒状液晶性分子を用い、第二の屈折率異方性材料として重合性官能基がより多い棒状液晶性分子を用いても、上記と同様の効果が得られる。
【0132】
また、本発明における位相差強化領域形成用塗工液を塗布する上記塗布工程と上記浸透工程と上記乾燥工程の後に、屈折率異方性材料ではないが重合性官能基を有する材料が溶媒に溶解もしくは分散されてなる塗工液を更に塗布する工程や、当該塗工液を乾燥する工程、更に重合性官能基を重合させる工程を有しても良い。この場合には、例えば位相差強化領域形成用塗工液に含まれる屈折率異方性材料が重合性官能基を有しなくても、高分子フィルムのより表面側に存在する重合性官能基を有する材料が重合して固定化されることにより、屈折率異方性材料の染み出し防止が可能で、フィルムの耐久性、安定性が付与される。
以下、本発明の位相差フィルムの製造方法について、工程毎に説明する。
【0133】
1.塗布工程
本発明における塗布工程は、高分子フィルムの少なくとも一方の表面に、屈折率異方性材料が溶媒に溶解もしくは分散されてなる位相差強化領域形成用塗工液を塗布する工程である。
本発明においては、塗布工程における位相差強化領域形成用塗工液の塗布量により、得られる位相差フィルムのリタデーション値を変化させることができる。
【0134】
本発明に用いられる位相差強化領域形成用塗工液は、少なくとも溶媒と、上記溶媒に溶解もしくは分散している屈折率異方性材料とが含有されてなるものであり、必要に応じて他の添加剤が添加される。このような添加剤としては、具体的には、用いられている屈折率異方性材料が、光硬化型のものである場合は、光重合開始剤等を挙げることができる。
その他、重合禁止剤、レベリング剤、カイラル剤、シランカップリング剤等を挙げることができる。
【0135】
上記位相差強化領域形成用塗工液に用いられる屈折率異方性材料としては、上記「A.位相差フィルム」の欄に記載されたものと同様であるので、ここでの説明は省略する。なお、屈折率異方性材料が重合性官能基を有するものであり、位相差フィルムの製造工程において、後述する固定化工程(屈折率異方性材料を重合させて高分子化させる工程)が行われたものである場合は、位相差フィルムに含有される屈折率異方性材料は所定の重合度で重合されたものであることから、厳密には位相差強化領域形成用塗工液に用いられたものと異なるものである。
【0136】
また、上記位相差強化領域形成用塗工液に用いられる溶媒としては、高分子フィルムを十分に膨潤させることが可能であり、かつ上記屈折率異方性材料を溶解もしくは分散させることができる溶媒であれば特に限定されるものではない。具体的には、高分子フィルムがTACであり、屈折率異方性材料が、末端にアクリレートを有するネマチック液晶である場合は、シクロヘキサノンが好適に用いられる。
【0137】
本発明の位相差強化領域形成用塗工液における溶媒中の屈折率異方性材料の濃度としては、特に限定されるものではないが、通常5質量%〜40質量%の範囲内、特に15質量%〜30質量%の範囲内であることが好ましい。
また、高分子フィルム上への塗工量としては、得られる位相差フィルムが要求されるリタデーション値により異なるものであるが、屈折率異方性材料の乾燥後の塗工量が0.8g/m2〜8g/m2の範囲内、特に1.6g/m2〜5g/m2の範囲内であることが好ましい。
【0138】
本工程における塗布方法は、高分子フィルム表面に位相差強化領域形成用塗工液を均一に塗布することができる方法であれば特に限定されるものではなく、バーコーティング、ブレードコーティング、スピンコーティング、ダイコーティング、スリットリバース、ロールコーティング、ディップコーティング、インクジェット法、マイクログラビア法等の方法を用いることができる。本発明においては、中でも、ブレードコーティング、ダイコーティング、スリットリバース、およびロールコーティングを用いることが好ましい。
【0139】
2.浸透工程および乾燥工程
本発明においては、上記塗布工程の後、上記塗布工程により塗布された上記位相差強化領域形成用塗工液中の上記屈折率異方性材料を上記高分子フィルムに浸透させる浸透工程、および上記塗布工程により塗布された上記位相差強化領域形成用塗工液中の上記溶媒を乾燥させる乾燥工程が行われる。
【0140】
上記浸透工程は、屈折率異方性材料が十分に高分子フィルム内に浸透し取り込まれるように塗布後の高分子フィルムを放置する工程であるが、用いる溶媒の種類等によっては、乾燥工程と同時に行ってもよい。
【0141】
上記浸透工程において、上記位相差強化領域形成用塗工液中の上記屈折率異方性材料の90重量%以上、好ましくは95重量%以上、特に好ましくは100重量%全てが高分子フィルム内に浸透し取り込まれることが好ましい。上記屈折率異方性材料が高分子フィルム内に浸透されずに高分子フィルム表面に多く残留する場合には、表面が曇ってしまいフィルムの光透過率が低下する場合があるからである。
【0142】
したがって、浸透及び乾燥工程の後の高分子フィルムは、浸透させた側の表面をJIS−K7105に準拠して測定した際のヘイズ値が、10%以下であることが好ましく、中でも2%以下、特に1%以下であることが好ましい。
【0143】
また、上記乾燥工程は、位相差強化領域形成用塗工液中の溶媒を乾燥させる工程であり、用いる溶媒の種類、浸透工程と同時に行うか否かにより温度および時間が大幅に異なる。例えば、溶媒としてシクロヘキサノンを用い、浸透工程と同時に行う場合は、通常室温〜120℃、好ましくは70℃〜100℃の範囲内の温度で、30秒〜10分、好ましくは1分〜5分程度の時間で乾燥工程が行われる。
【0144】
3.固定化工程
さらに、用いた屈折率異方性材料が重合性官能基を有する場合は、屈折率異方性材料を重合させて高分子化するために、固定化工程が行われる。このような固定化工程を行うことにより、一旦高分子フィルム内に取り込まれた屈折率異方性材料が染み出すことを防止することが可能となり、得られる位相差フィルムの安定性を向上させるものである。
【0145】
本発明における固定化工程は、用いる屈折率異方性材料により種々の方法が用いられる。例えば、屈折率異方性材料が架橋性化合物である場合は、光重合開始剤が含有されて紫外線が照射され、または電子線が照射され、熱硬化性化合物であれば加熱される。
【0146】
C.光学機能フィルム
次に、本発明の光学機能フィルムについて説明する。本発明の光学機能フィルムは、上記「A.位相差フィルム」の欄で説明した位相差フィルムに、位相差フィルム以外の光学機能層を直接貼り合わせることにより形成されたことを特徴とするものである。
なお、本発明における光学機能層は、本発明の位相差フィルムを使用する各種用途において、本発明の位相差フィルムと協働して所望の光学機能を総合的に発現するものであれば特に限定されない。本発明における光学機能層には、例えば反射防止層、紫外線吸収層、赤外線吸収層などが挙げられる。
【0147】
従って、本発明の光学機能フィルムは、上記「A.位相差フィルム」の欄で説明した位相差フィルムの機能に加えて上記のような各光学機能層の機能を併せ持つフィルムである。本発明の光学機能フィルムは、例えば光学補償などの本発明の位相差フィルムが有する機能と、例えば反射防止などの他の機能について、一つで併せ持つため、それぞれの機能を有するフィルムを別個に設ける必要が無いといった利点を有する。
【0148】
反射防止層としては、特に限定されないが、例えば、透明基材フィルム上に、該透明基材よりも低屈折率の物質からなる低屈折率層を形成したもの、或いは透明基材フィルム上に、該透明基材よりも高屈折率の物質からなる高屈折率層、及び該透明基材よりも低屈折率の物質からなる低屈折率層とを、この順に、交互に、各1層ずつ以上積層したものなどが挙げられる。これら高屈折率層、及び低屈折率層は、層の幾何学的厚と屈折率との積で表される光学厚みが反射防止すべき光の波長の1/4となるように、真空蒸着、塗工等により形成される。高屈折率層の構成材料としては、酸化チタン、硫化亜鉛等が、低屈折率層の構成材料としては、弗化マグネシウム、氷晶石等が用いられる。
【0149】
また、紫外線吸収層としては、特に限定されないが、例えば、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂等のフィルム中に、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、サリシレート系化合物等から成る紫外線吸収剤を添加して成膜したものが挙げられる。
【0150】
また、赤外線吸収層としては、特に限定されないが、例えば、ポリエステル樹脂等のフィルム基材上に赤外線吸収層を塗工等により形成したものが挙げられる。赤外線吸収層としては、例えば、ジインモニウム系化合物、フタロシアニン系化合物等から成る赤外線吸収剤を、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂等から成るバインダー樹脂中に添加して成膜したものが用いられる。
【0151】
本発明においては、上記位相差フィルムの第1の態様、すなわち、屈折率異方性材料の濃度勾配が、高分子フィルムの一方の表面側が高濃度であり、他方の表面側に向かって低濃度となる濃度勾配であり、他方の表面側が基材領域である態様の位相差フィルムが好適に用いられる。位相差フィルムに用いられる高分子フィルムの種類にもよるが、屈折率異方性材料が存在しない側の面の方が、光学機能層との接着性が良好となる場合が多いからである。
【0152】
D.偏光フィルム
次に、本発明の偏光フィルムについて説明する。本発明の偏光フィルムは、上記「A.位相差フィルム」の欄で説明した位相差フィルムに、偏光層をポリビニルアルコール(PVA)系接着剤等で直接貼り合わせることにより形成されたことを特徴とするものである。
【0153】
偏光フィルムは、通常偏光層とその両表面に保護層が形成されてなるものであるが、本発明においては、例えばその一方側の保護層を上述した位相差フィルムとすることにより、例えば光学補償機能を有する偏光フィルムとすることができる。
偏光層としては、特に限定されないが、例えばヨウ素系偏光層、二色性染料を用いる染料系偏光層やポリエン系偏光層などを用いることができる。ヨウ素系偏光層や染料系偏光層は、一般にポリビニルアルコールを用いて製造される。
【0154】
本発明においては、上記位相差フィルムの第1の態様、すなわち、屈折率異方性材料の濃度勾配が、高分子フィルムの一方の表面側が高濃度であり、他方の表面側に向かって低濃度となる濃度勾配である態様の位相差フィルムが好適に用いられる。偏光層は通常ポリビニルアルコール(PVA)からなる場合が多く、このような場合は、位相差フィルムに用いられる高分子フィルムの種類にもよるが、屈折率異方性材料が存在しない側の面の方が接着性が良好となるからである。
【0155】
D.表示装置
最後に、本発明の表示装置について説明する。本発明における表示装置としては、例えば液晶表示装置、有機EL表示装置などが挙げられる。
本発明の表示装置の第一の態様は、上述した本発明に係る位相差フィルムを、光路に配置したことを特徴とする。本発明の表示装置は、剥離等の問題がなく、適切なリタデーションを有する位相差フィルムが配置されていることにより、信頼性が高く、表示品位に優れるものである。
【0156】
図7は、本発明の表示装置のうち、液晶表示装置の一例を示す斜面図である。図7に示すように、本発明の液晶表示装置20は、入射側の偏光板102Aと、出射側の偏光板102Bと、液晶セル104とを有するものである。偏光板102A、102Bは、所定の振動方向の振動面を有する直線偏光のみを選択的に透過させるように構成されたものであり、それぞれの振動方向が相互に直角の関係になるようにクロスニコル状態で対向して配置されている。また、液晶セル104は画素に対応する多数のセルを含むものであり、偏光板102A、102Bの間に配置されている。
【0157】
ここで、液晶表示装置20において、液晶セル104は、負の誘電異方性を有するネマチック液晶が封止されたVA(Vertical Alignment)方式を採用しており、入射側の偏光板102Aを透過した直線偏光は、液晶セル104のうち非駆動状態のセルの部分を透過する際には、位相シフトされずに透過し、出射側の偏光板102Bで遮断される。これに対し、液晶セル104のうち駆動状態のセルの部分を透過する際には、直線偏光が位相シフトされ、この位相シフト量に応じた量の光が出射側の偏光板102Bを透過して出射される。これにより、液晶セル104の駆動電圧を各セル毎に適宜制御することにより、出射側の偏光板102B側に所望の画像を表示することができる。
【0158】
このような構成からなる液晶表示装置20において、液晶セル104と出射側の偏光板102B(液晶セル104から出射された所定の偏光状態の光を選択的に透過させる偏光板)との間であって、光路に上述した本発明に係る位相差フィルム10が配置されており、位相差フィルム10により、液晶セル104から出射された所定の偏光状態の光のうち液晶セル104の法線から傾斜した方向に出射される光の偏光状態を補償することができるようになっている。
【0159】
以上のとおり、上述した構成からなる液晶表示装置20によれば、液晶表示装置20の液晶セル104と出射側の偏光板102Bとの間に、上述した本発明に係る信頼性が高い位相差フィルム10を配置し、液晶セル104から出射された光のうち液晶セル104の法線から傾斜した方向に出射される光の偏光状態を補償するので、液晶表示装置20における視角依存性の問題を効果的に改善することができ、表示品位に優れ、且つ、信頼性が高いものである。
【0160】
なお、図7に示す液晶表示装置20は、光が厚さ方向の一方の側から他方の側へ透過する透過型であるが、本発明に係る表示装置の実施形態はこれに限定されるものではなく、上述した本発明に係る位相差フィルム10は反射型の液晶表示装置にも同様に組み込んで用いることができる。さらに、上述したような他の表示装置の光路にも同様に組み込んで用いることができる。
【0161】
また、図7に示す液晶表示装置20では、上述した本発明に係る位相差フィルム10を液晶セル104と出射側の偏光板102Bとの間に配置しているが、光学補償の態様によっては、位相差フィルム10を液晶セル104と入射側の偏光板102Aとの間に配置してもよい。また、位相差フィルム10を液晶セル104の両側(液晶セル104と入射側の偏光板102Aとの間、及び液晶セル104と出射側の偏光板102Bとの間)に配置してもよい。なお、液晶セル104と入射側の偏光板102Aとの間、又は液晶セル104と出射側の偏光板102Bとの間に配置される位相差フィルムは一つに限らず、複数配置されていてもよい。更に、他の光学機能フィルムが光路に配置されていても良い。
【0162】
また、本発明の表示装置の第二の態様は、上述した本発明に係る光学機能フィルムを、光路に配置したことを特徴とする。このようにすることにより、上記位相差フィルム以外の機能を有する光学機能板を別途設ける必要が無く、信頼性が高い表示品位に優れた表示装置を得ることができる。
【0163】
図8は、本発明の表示装置のうち、液晶表示装置の一例を示す斜面図である。図8に示すように、本発明の液晶表示装置30は、入射側の偏光板102Aと、出射側の偏光板102Bと、液晶セル104とを有するものである。偏光板102A、102B、及び液晶セル104は、上記図7と同様のものを用いることができ、図7と同様に配置されている。
【0164】
このような構成からなる液晶表示装置30において、液晶セル104と出射側の偏光板102Bとの間であって、光路に、上述した本発明に係る光学機能フィルム40が配置されている。当該光学機能フィルムが併せ持つ機能は特に限定されないが、光学補償機能に紫外線吸収機能を併せ持つ場合、光学機能フィルム40により、液晶セル104から出射された所定の偏光状態の光のうち液晶セル104の法線から傾斜した方向に出射される光の偏光状態を補償し、且つ外部から液晶表示装置内に入射する日光等に由来する紫外線を吸収して、液晶表示装置の耐光性を向上させることができるようになっている。
【0165】
以上のとおり、上述した構成からなる液晶表示装置30によれば、液晶表示装置30の液晶セル104と出射側の偏光板102Bとの間に、上述した本発明に係る信頼性が高い光学機能フィルム40を配置し、液晶セル104から出射された光のうち液晶セル104の法線から傾斜した方向に出射される光の偏光状態を補償するので、液晶表示装置30における視角依存性の問題を効果的に改善することができ、且つ、例えば紫外線吸収機能により耐光性を向上させることができ、表示品位に優れるものである。
【0166】
なお、本発明に係る表示装置の実施形態はこれに限定されるものではなく、上述した本発明に係る光学機能フィルム40は反射型の液晶表示装置にも同様に組み込んで用いることができる。さらに、上述したような他の表示装置の光路にも同様に組み込んで用いることができる。
【0167】
また、図8に示す液晶表示装置30では、上述した本発明に係る光学機能フィルム40を液晶セル104と出射側の偏光板102Bとの間に配置しているが、光学補償や併せ持つ機能の態様によっては、光学機能フィルム40を液晶セル104と入射側の偏光板102Aとの間に配置してもよい。また、光学機能フィルム40を液晶セル104の両側(液晶セル104と入射側の偏光板102Aとの間、及び液晶セル104と出射側の偏光板102Bとの間)に配置してもよい。又光学機能フィルム40を出射側の偏光板102Bの外側(表面側)に配置してもよい。なお、液晶セル104と入射側の偏光板102Aとの間、又は液晶セル104と出射側の偏光板102Bとの間、又は出射側の偏光板102Bの外側に配置されるフィルムは一つに限らず、複数配置されていてもよい。
【0168】
また、本発明の表示装置の第三の態様は、上述した本発明に係る偏光フィルムを、光路に配置したことを特徴とする。このようにすることにより、他に光学補償板を設ける必要が無く、信頼性が高い表示品位に優れた表示装置を得ることができる。
【0169】
図9は、本発明の表示装置のうち、液晶表示装置の一例を示す斜面図である。図9に示すように、本発明の液晶表示装置50は、入射側の偏光板102Aと、出射側に本発明に係る偏光フィルム60と、液晶セル104とを有するものである。偏光板102Aと本発明に係る偏光フィルム60は、所定の振動方向の振動面を有する直線偏光のみを選択的に透過させるように構成されたものであり、それぞれの振動方向が相互に直角の関係になるようにクロスニコル状態で対向して配置されている。また、液晶セル104は、図7と同様のものを用いることができ、偏光板102A、本発明に係る偏光フィルム60の間に配置されている。
【0170】
上述した構成からなる液晶表示装置50によれば、液晶表示装置50の液晶セル104と出射側に、上述した本発明に係る信頼性が高い偏光フィルム60を配置し、液晶セル104から出射された光のうち液晶セル104の法線から傾斜した方向に出射される光の偏光状態を補償するので、液晶表示装置50における視角依存性の問題を効果的に改善することができ、表示品位に優れ、且つ、信頼性が高いものである。
【0171】
なお、本発明に係る表示装置の実施形態はこれに限定されるものではなく、上述した本発明に係る偏光フィルム60は反射型の液晶表示装置にも同様に組み込んで用いることができる。さらに、上述したような他の表示装置の光路にも同様に組み込んで用いることができる。
【0172】
また、図9に示す液晶表示装置50では、上述した本発明に係る偏光フィルム60を液晶セル104と出射側に配置しているが、光学補償の態様によっては、液晶セル104の入射側に配置してもよい。また、本発明に係る偏光フィルム60及び60’を液晶セル104の両側に配置してもよい。なお、液晶セル104と入射側の偏光板102Aとの間、又は液晶セル104と出射側の偏光フィルム60との間に配置される別途位相差フィルムや他の光学機能フィルムを配置しても良い。
【0173】
上記においては、液晶表示装置のみを例示して説明したが、本発明に係る上記位相差フィルム、及び偏光フィルムは、他の表示装置にも用いることが可能であり、例えば、円偏光板として機能する本発明に係る上記位相差フィルム、又は偏光フィルムを光路に配置した有機EL表示装置なども挙げられる。
【0174】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0175】
以下、本発明について実施例を示して具体的に説明する。
(実施例1)
屈折率異方性材料として光重合性液晶化合物(下記化合物(1))をシクロヘキサノンに20質量%溶解させ、TACフィルム(富士写真フィルム株式会社製、商品名:TF80UL)から成る基材フィルム表面にバーコーティングにより、乾燥後の塗工量が2.5g/m2となるように塗工した。次いで、90℃で4分間加熱して溶剤乾燥除去すると共に、該光重合性液晶化合物を該TACフィルム内に浸透させた。さらに、塗工面に紫外線を照射することにより、上記光重合性液晶化合物を固定化して位相差フィルムを作製した。得られた位相差フィルムをサンプルとして、以下の項目で評価した。
【0176】
【化3】
【0177】
1.光学特性
サンプルの位相差を自動複屈折測定装置(王子計測機器株式会社製、商品名:KOBRA-21ADH)により測定した。測定光をサンプル表面に対して垂直あるいは斜めから入射して、その光学位相差と測定光の入射角度のチャートから基材フィルムの位相差を増加させる異方性を確認した。また、同測定装置により、3次元屈折率を測定した。その結果、基材フィルムの表面に平行な平面方向の屈折率をnx、ny、厚み方向の屈折率をnzとすると、下記表1に示すようにnz<nx=nyが成立しており、負のCプレートとなっているので、上の位相差の測定結果を合わせると、液晶分子の配向方向は、基材フィルムの表面に平行な面内に液晶分子が存在し、且つ該面内における配向方向がランダムであるホモジニアス配向していると考えられる。
【0178】
【表1】
【0179】
2.SEMによる断面観察
サンプルの液晶塗工面に包埋樹脂を塗布して厚み方向に切断し、サンプルの断面をSEMにより観察した。結果を図10に示す。図10から明らかなように、フィルム表面と包埋樹脂の間に層は存在しておらず、上の位相差の測定結果を合わせて、高分子フィルム中に液晶化合物が浸透したと判断した。
【0180】
3.TEMによる断面観察
サンプルの液晶塗工面に金属酸化物の表面保護を行ない、エポキシ樹脂包埋後クライオ支持台に接着した。次にクライオシステムによりダイヤモンドナイフ装着のウルトラミクロトームでトリミング/面出し、金属酸化物による蒸気染色を施し、超薄切片作製後にTEM観察を行なった。結果を図11に示す。図11から明らかなように、サンプルの屈折率異方性材料浸透側は3層(位相差強化領域のうち高濃度領域、位相差強化領域のうち中間領域、および基材領域))に分かれていることが分かった。
【0181】
4.ヘイズ
サンプルの透明性を調べるため、濁度計(日本電色工業株式会社製、商品名:NDH2000)により、JIS−K7105に準拠してヘイズ値を測定した。その結果、0.35%で良好であった。
【0182】
5.密着性試験
密着性を調べるために、剥離試験を行った。剥離試験としては、得られたサンプルに1mm角の切れ目を碁盤目状に入れ、接着テープ(ニチバン株式会社製、セロテープ(登録商標))を液晶面に貼り付け、その後テープを引き剥がし、目視により観察した。その結果、密着度は100%であった。
密着度(%)=(剥がれなかった部分/テープを貼り付けた領域)×100
【0183】
6.耐湿熱試験−1
サンプルを90℃の熱水に60分間浸し、上述した方法により光学特性及び密着性を測定した。その結果、試験前後で光学特性及び密着性の変動は見られなかった。
【0184】
7.耐湿熱試験−2
サンプルを80℃、湿度95%の環境下において、24時間静置し、上述した方法により光学特性及び密着性を測定した。その結果、試験前後で光学特性及び密着性の変動は見られなかった。また、試験後に屈折率異方性材料の染み出しも、白濁も見られなかった。
【0185】
8.耐水試験
サンプルを室温(23.5℃)下で純水に1日浸し、上述した方法により光学特性及び密着性を測定した。その結果、試験前後で光学特性及び密着性の変動は見られなかった。
【0186】
9.耐アルカリ性試験
サンプルを55℃下でアルカリ水溶液(1.5Nの水酸化ナトリウム水溶液)に3分間浸し、水洗、乾燥し、上述した方法により光学特性及び密着性を測定した。その結果、試験前後で光学特性及び密着性の変動は見られなかった。また、着色も見られなかった。
【0187】
10.厚み方向の材料濃度分布測定
GSP(精密斜め切削法)により位相差フィルムを切断して厚み方向の断面が出るようにし、飛行時間型二次イオン質量分析計(TOF−SIMS)(装置:Physical Electronics社製TFS−2000)を用いて、切削面における厚み方向の材料の濃度分布を測定した。測定条件は、2次イオン極性を正及び負、質量範囲(M/Z)を0〜1000、ラスターサイズを180μm□、測定時間を3分、エネルギーフィルターなし、コントラストダイアフラムを0#、後段加速を5kV、測定真空度は4×10-7Pa(3×10−9Torr、1次イオン種をGa+、1次イオンエネルギーを25k
V、試料電位を+3.2kV、パルス周波数を8.3kHz、パルス幅を12ns、バンチングなし、帯電中和あり、時間分解能を1.1ns/chとした。
【0188】
測定結果として、正2次イオンスペクトルにおいて、屈折率異方性材料の塗工面で強く測定された27、55、104、121、275amuを屈折率異方性材料由来ピークとし、塗工しなかった裏面で強く測定された15、43、327amuをTACフィルム由来ピークとして、これらのピーク強度のそれぞれの和を総2次イオン強度で規格化した値を縦軸に、屈折率異方性材料の塗工面をゼロとして厚み方向を横軸にとったプロファイルを図12に示す。但し、27、55amuはTACフィルムからも観測されたため、屈折率異方性材料由来ピークとした正2次イオンにはTACフィルムの寄与も一部含まれる。
【0189】
また、同様に、負2次イオンスペクトルにおいて、屈折率異方性材料の塗工面で強く測定された13、26、118、217amuを屈折率異方性材料由来ピークとし、塗工しなかった裏面で強く測定された16、59amuをTACフィルム由来ピークとして、これらのピーク強度のそれぞれの和を総2次イオン強度で規格化した値を縦軸に、屈折率異方性材料の塗工面をゼロとして厚み方向を横軸にとったプロファイルを図13に示す。但し、13amuはTACフィルムからも観測されたため、屈折率異方性材料由来ピークとした負2次イオンにはTACフィルムの寄与も一部含まれる。
【0190】
正2次イオンスペクトル及び負2次イオンスペクトルの厚み方向のプロファイルの結果において、いずれも塗工面から1.5μmあたりまでは、屈折率異方性材料の濃度が比較的高く且つ濃度勾配が緩やかな領域であり、1.5μmあたり〜3μmあたりに屈折率異方性材料の濃度が減衰して濃度勾配が急な領域が存在し、さらに3μmあたりから屈折率異方性材料が殆ど含まれない基材領域が存在することが明らかになった。これは、屈折率異方性材料浸透側が3層(位相差強化領域のうち高濃度領域、位相差強化領域のうち中間領域、および基材領域)に分かれていることが観測されたTEMによる断面観察の結果と一致する。
【0191】
(実施例2)
実施例1において、溶媒をシクロヘキサノンとメチルエチルケトン(MEK)の混合溶媒(溶媒比7:1)にしたこと以外は実施例1と同様にして位相差フィルムを作製した。得られた位相差フィルムを実施例1と同様に、光学特性、密着性、耐湿熱試験、および耐水試験を行った結果、実施例1と同様の結果が得られた。
【0192】
(実施例3)
実施例1において、溶媒をシクロヘキサノンとMEKの混合溶媒(溶媒比7:1)にし、塗布方法をダイコーティングとした以外は、実施例1と同様にして位相差フィルムを作製した。得られた位相差フィルムを実施例1と同様に評価した。その結果、実施例1と同様の結果が得られた。
【0193】
(実施例4)
実施例1により得られた位相差フィルムの位相差強化領域表面および基材領域表面の接触角を測定した。具体的には、接触角測定器(協和界面科学株式会社製、CA-Z型)により位相差強化領域表面および基材領域表面(TAC面)の純水に対する接触角を測定した。接触角は、測定面に0.1mlの純水を滴下30秒後に測定した。その結果、位相差強化領域表面が62.6°、基材領域表面が57.3°であり、位相差強化領域表面の方が高い値となっており、位相差強化領域でない表面の方が親水性を有するという結果が得られた。
【0194】
(実施例5)
実施例1において、乾燥後の塗工量を2.0、2.6、3.2、3.8 g/m2に変えてサンプルを作製し、同様の評価を行った。その結果、同様の結果が得られた。さらに、塗工量と位相差(法線方向に対して30°の角度で測定したリタデーション値:30°Re)には図14に示すようにリニアな関係が見られ、塗布量で位相差を制御できることが分った。
【0195】
(実施例6)
屈折率異方性材料として光重合性液晶化合物(下記化合物(1))を、シクロヘキサノンとn−プロピルアルコールの混合溶媒(溶媒比9:1)に20質量%溶解させ、TACフィルム(富士写真フィルム株式会社製、商品名:TF80UL)から成る基材フィルム表面にバーコーティングにより、乾燥後の塗工量が片面1g/m2となるように、両面に塗工した。次いで、70℃で4分間加熱して溶剤を乾燥除去すると共に、該光重合性液晶化合物を該TACフィルム内に浸透させた。さらに、塗工面に紫外線を照射することにより、上記光重合性液晶化合物を固定化した。
【0196】
サンプルの位相差を自動複屈折測定装置(王子計測機器株式会社製、商品名:KOBRA-21ADH)により測定した。測定光をサンプル表面に対して垂直あるいは斜めから入射して、その光学位相差と測定光の入射角度のチャートから基材フィルムの位相差を増加させる異方性を確認した。図15に位相差角度依存性について示す。
また、実施例1と同様にヘイズ値を測定したところ、0.7%であった。
【0197】
(実施例7)
乾燥後の塗工量が片面3g/m2となるように、基材フィルムの片面に塗工した以外、実施例6と同様にして位相差フィルムを作成した。
サンプルの位相差を自動複屈折測定装置(王子計測機器株式会社製、商品名:KOBRA-21ADH)により測定した。図15に併せて位相差角度依存性について示す。
また、実施例1と同様にヘイズ値を測定したところ、0.5%であった。
【0198】
実施例6と実施例7を比較すると、図15に示されるように、同程度の位相差を得る場合に、両面に塗工して両面に位相差強化領域を設ける方が、片面のみに塗工して片面のみに位相差強化領域を設けるよりも、屈折率異方性材料の総塗工量を少なくすることができるというメリットがあることがわかった。
【0199】
(実施例8)
屈折率異方性材料として実施例1と同じ光重合性液晶化合物(上記化合物(1))をシクロヘキサノンに20質量%溶解させ、幅650mm、長さ30mの長尺状TACフィルム(富士写真フィルム株式会社製、商品名:TF80UL)から成る基材フィルム表面に、各乾燥後の塗工量が3g/m2となるように塗工した。次いで、90℃で4分間加熱して溶剤を乾燥除去すると共に、該光重合性液晶化合物を該TACフィルム内に浸透させた。さらに、塗工面に紫外線を照射することにより、上記光重合性液晶化合物を固定化して本発明に係る位相差フィルムを作製した。3mに切り出した長尺状位相差フィルムを最小直径が31mmであるようにロール状に巻いた形態にして、23℃で1ヶ月間保存した。その結果、位相差フィルムの表面は保存前後で変動が見られず、クラックの発生はなく、巻いたフィルム間での貼り付きもなかった。
【0200】
(実施例9)
屈折率異方性材料として光重合性液晶化合物(上記化合物(1))をシクロヘキサノンに20質量%溶解させ、一軸延伸COP(シクロオレフィンポリマー)フィルム(JSR株式会社製、商品名:ARTON)にバーコーティングにより塗工量が3g/m2となるように塗工した。次いで、50℃で2分間加熱して溶剤を除去した。さらに、塗工面に紫外線を照射することにより、上記光重合性液晶化合物を固定化し、90℃で2分間加熱することにより残留溶媒を除去して位相差フィルムを作製した。得られた位相差フィルムをサンプルとして、以下の項目で評価した。
【0201】
1.光学特性
サンプルの位相差を自動複屈折測定装置(王子計測機器株式会社製、商品名:KOBRA-21ADH)により測定した。測定光をサンプル表面に対して垂直あるいは斜めから入射して、その光学位相差と測定光の入射角度のチャートから基材フィルムの位相差を増加させる異方性を確認した。また、同測定装置により、3次元屈折率を測定した。その結果を表2に示す。
【0202】
【表2】
【0203】
2.SEMによる断面観察
サンプルの断面をSEMにより観察した結果を図16に示す。図16から明らかなように、サンプル中に位相差強化領域と高分子フイルムとの境界は存在しておらず、上の位相差の測定結果を合わせて、高分子フィルム中に液晶化合物が浸透したと判断した。
【0204】
3.ヘイズ
サンプルの透明性を調べるため、実施例1と同様の方法によりヘイズ値を測定した。その結果、0.3%以下と良好であった。
【0205】
4.密着性試験
密着性を調べるために、実施例1と同様の方法により剥離試験を行った。その結果、密着度は100%であった。
【0206】
5.耐湿熱試験
実施例1における耐湿熱試験−1と同様の方法により、耐湿熱試験を行った。その結果、試験前後で光学特性及び密着性の変動は見られなかった。
【0207】
6.耐水試験
実施例1と同様の方法により耐水試験を行った。その結果、試験前後で光学特性及び密着性の変動は見られなかった。
【0208】
(実施例10)
未延伸COPフィルム(JSR株式会社製、商品名:ARTON)に実施例9と同様の方法により、位相差フィルムを作製した。実施例9と同様の評価を行った結果、光学特性(3次元屈折率)が、表3に示す結果となったこと以外は、実施例9と同様な結果が得られた。
【0209】
【表3】
【0210】
1…高分子フィルム
2…位相差強化領域
3…表面側
4…反対側の表面側
5…基材領域
6…位相差強化領域形成用塗工液
7…紫外線
8…位相差フィルム
9…中間領域
10…位相差フィルム
20、30、50…液晶表示装置
40…光学機能フィルム
60…偏光フィルム
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置等の表示装置に組み込まれて用いられる位相差フィルムおよびその製造方法、光学機能フィルム、偏光フィルム、並びに、表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の一般的な液晶表示装置としては、図17に示すように、入射側の偏光板102Aと、出射側の偏光板102Bと、液晶セル104とを有するものを挙げることができる。
偏光板102Aおよび102Bは、所定の振動方向の振動面を有する直線偏光(図中、矢印で模式的に図示)のみを選択的に透過させるように構成されたものであり、それぞれの振動方向が相互に直角の関係になるようにクロスニコル状態で対向して配置されている。
また、液晶セル104は画素に対応する多数のセルを含むものであり、偏光板102Aと102Bとの間に配置されている。
【0003】
ここで、このような液晶表示装置100において、液晶セル104が、負の誘電異方性を有するネマチック液晶が封止されたVA(Vertical Alignment)方式(図中、液晶のダイレクターを点線で模式的に図示)を採用している場合を例に挙げると、入射側の偏光板102Aを透過した直線偏光は、液晶セル104のうち非駆動状態のセルの部分を透過する際に、位相シフトされずに透過し、出射側の偏光板102Bで遮断される。これに対し、液晶セル104のうち駆動状態のセルの部分を透過する際には、直線偏光が位相シフトされ、この位相シフト量に応じた量の光が出射側の偏光板102Bを透過して出射される。これにより、液晶セル104の駆動電圧を各セル毎に適宜制御することにより、出射側の偏光板102B側に所望の画像を表示することができる。なお、液晶表示装置100としては、上述したような光の透過および遮断の態様をとるものに限らず、液晶セル104のうち非駆動状態のセルの部分から出射された光が出射側の偏光板102Bを透過して出射される一方で、駆動状態のセルの部分から出射された光が出射側の偏光板102Bで遮断されるように構成された液晶表示装置も考案されている。
【0004】
ところで、上述したようなVA方式の液晶セル104のうち非駆動状態のセルの部分を直線偏光が透過する場合を考えると、液晶セル104は複屈折性を有しており、厚さ方向の屈折率と面方向の屈折率とが異なるので、入射側の偏光板102Aを透過した直線偏光のうち液晶セル104の法線に沿って入射した光は位相シフトされずに透過するものの、入射側の偏光板102Aを透過した直線偏光のうち液晶セル104の法線から傾斜した方向に入射した光は液晶セル104を透過する際に位相差が生じて楕円偏光となる。この現象は、液晶セル104内で垂直方向に配向した液晶分子が、正のCプレートとして作用することに起因したものである。なお、液晶セル104を透過する光(透過光)に対して生じる位相差の大きさは、液晶セル104内に封入された液晶分子の複屈折値や、液晶セル104の厚さ、透過光の波長等にも影響される。
【0005】
以上の現象により、液晶セル104内のあるセルが非駆動状態であり、本来的には直線偏光がそのまま透過され、出射側の偏光板102Bで遮断されるべき場合であっても、液晶セル104の法線から傾斜した方向に出射された光の一部が出射側の偏光板102Bから洩れてしまうことになる。
【0006】
このため、上述したような従来の液晶表示装置100においては、正面から観察される画像に比べて、液晶セル104の法線から傾斜した方向から観察される画像の表示品位が主にコントラストが低下することが原因で悪化するという問題(視角依存性の問題)があった。
【0007】
上述したような従来の液晶表示装置100における視角依存性の問題を改善するため、現在までに様々な技術が開発されており、その一つとして、例えば特許文献1または特許文献2に開示されているように、コレステリック規則性の分子構造を有する位相差層(複屈折性を示す位相差層)を用い、このような位相差層を液晶セルと偏光板との間に配置することにより光学補償を行うようにした液晶表示装置が知られている。
ここで、コレステリック規則性の分子構造を有する位相差光学素子では、λ=nav・p(p:液晶分子の螺旋構造における螺旋(ヘリカル)ピッチ、nav:螺旋軸に直交する平面内での平均屈折率)で表される選択反射波長が、例えば特許文献1または特許文献2に開示されているように、透過光の波長よりも小さくなる、または大きくなるように調整している。
【0008】
一方、例えば特許文献3に開示されているように、円盤状化合物からなる位相差層(複屈折性を示す位相差層)を用い、このような位相差層を液晶セルと偏光板との間に配置することにより光学補償を行うようにした液晶表示装置も知られている。
【0009】
上述したような位相差光学素子においては、上述した液晶セルの場合と同様に、位相差層の法線から傾斜した方向に入射する直線偏光は、位相差層を透過する際に位相差が生じて楕円偏光となる。この現象は、コレステリック規則性の分子配列や円盤状化合物自体が負のCプレートとして作用することに起因したものである。なお、位相差層を透過する光(透過光)に対して生じる位相差の大きさは、位相差層内の液晶分子の複屈折値や、位相差層の厚さ、透過光の波長等にも影響される。
【0010】
したがって、上述したような位相差層を用いれば、正のCプレートとして作用するVA方式の液晶セルで生じる位相差と、負のCプレートとして作用する位相差層で生じる位相差とが相殺するように、位相差層を適宜設計することにより、液晶表示装置の視角依存性の問題を大幅に改善することが可能である。
【0011】
なお、この場合、上記正のCプレートと上記負のCプレートの厚み方向のリタデーション値の和が正になるように、すなわち、上記負のCプレートの厚み方向のリタデーション値の絶対値を上記正のCプレートの厚み方向のリタデーション値の絶対値より小さくすれば、上記残留した正のCプレート成分と別に用意したAプレートとで偏光板の視角依存性を改善することが出来る。正のCプレートとAプレートとで偏光板の視角依存性を改善することが出来ることは、例えば、非特許文献1や非特許文献2に開示されている。
しかしながら、上述したような位相差層には、位相差層と基材(例えば偏光層の保護フィルムであるTAC(セルローストリアセテートフィルム))との間の密着性に問題があった。
【0012】
この問題を解決するために、例えば特許文献4で開示されている様に、液晶と配向膜を熱処理して密着性を向上させることが提案されている。しかし、この方法は、基材がガラス基板ではなく、耐湿熱性の低い基材(例えばTAC)の場合は、水分の影響で基材が伸び縮みし、その影響で液晶層が剥離することがあり、水分の影響を受けやすい基材に対しては充分な方法とは言い難かった。
【0013】
上述した密着性問題が元々存在しない方法として、例えば特許文献5や特許文献6で開示されている様に、セルロースアセテートフィルムを製造する際に、セルロースアセテート溶液の中にリタデーション上昇剤を混合した上でセルロースアセテートフィルムを成膜する方法の適用も考えられる。しかし、このような方法では、セルロースアセテートフィルム成膜時にリタデーション上昇剤を混入させる必要があるので、必然的に一つのロットの数量は大きくなってしまい、少ない数量に対して任意のリタデーションを容易に得ることが困難であるといった問題があった。又、リタデーション上昇剤は通常疎水性であるため、これを全体に混合することにより、セルロースアセテートフィルムの表裏両面が疎水性となり、当該位相差層をポリビニルアルコール等の親水性樹脂から成る偏光板と積層する際の接着性が低下するという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平3−67219号公報
【特許文献2】特開平4−322223号公報
【特許文献3】特開平10−312166号公報
【特許文献4】特開2003−207644号公報
【特許文献5】特開2000−111914号公報
【特許文献6】特開2001−249223号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】J. Chen et al., SID98 Digest, p315 (1998)
【非特許文献2】T. Ishinabe et al., SID00 Digest, p1094 (2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明はこのような問題点を考慮してなされたものであり、上述したように位相差層を形成した場合に生じる基材からの位相差層の剥離等の問題がなくて信頼性が高く、少ない数量であっても容易に任意のリタデーション値を得ることができ、又偏光層等の親水性フィルムとの接着性も良好にできる位相差フィルムを提供することを主目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、上記目的を達成するために、第一のアスペクトとして、高分子フィルム内に屈折率異方性を有する材料(以下、屈折率異方性材料とする場合がある。)が含有されてなる位相差フィルムであって、上記屈折率異方性材料が、上記高分子フィルムの厚み方向に濃度勾配を有していることを特徴とする位相差フィルムを提供することにより上記課題を解決するようにした。
【0018】
また本発明は、上記目的を達成するために、第二のアスペクトとして、高分子フィルム内に屈折率異方性を有する材料が浸透されてなることを特徴とする位相差フィルムを提供することにより上記課題を解決するようにした。
また本発明は、上記目的を達成するために、第三のアスペクトとして、高分子フィルム内に屈折率異方性を有する材料が含有されてなる位相差フィルムであって、前記屈折率異方性を有する材料が、前記高分子フィルムの厚み方向に濃度勾配を有しており、当該濃度勾配が連続的に変化することを特徴とする位相差フィルムを提供することにより上記課題を解決するようにした。
【0019】
本発明は、例えば屈折率異方性材料が溶媒に溶解した塗工液を高分子フィルム表面に塗布し、高分子フィルムを膨潤させ、屈折率異方性材料を浸透させることにより容易に高分子フィルム表面近傍に屈折率異方性材料を充填することが可能となり、これにより上記高分子フィルムの厚み方向に屈折率異方性材料の濃度勾配を有する位相差フィルムを得ることができる。また、上記塗工液の量や濃度を変更することにより、位相差フィルムとしてのリタデーション値を容易に変更することが可能である。したがって、任意のリタデーション値を有する位相差フィルムを小ロットで容易に得ることができるといった利点を有する。また、従来のように基材上に、これとは別層である位相差層を接着して積層形成されてなる位相差フィルムではないので、基材からの位相差層の剥離といった問題が生じないため耐熱性や耐水性等の信頼性や耐アルカリ性(耐鹸化処理性)やリワーク性(繰り返しの使用性)が高くなるという利点を有する。
【0020】
本発明において、上記屈折率異方性を有する材料の前記高分子フィルムの厚み方向の濃度勾配が連続的に変化する場合には、特に、層内の特定の界面への応力の集中がなくなるため、剥離強度が強くなり、耐熱性や耐水性(使用環境下での寒熱繰り返し、或いは水との接触の際の界面剥離への耐久性)などの信頼性や耐アルカリ性やリワーク性が高くなる。
【0021】
本発明においては、上記高分子フィルムは、屈折率に規則性を有するものであることが好ましい。このような高分子フィルムを用いることにより、充填する屈折率異方性材料が、上記高分子フィルムの有する屈折率の規則性を強化することが可能となり、種々の特性を有する位相差フィルムを得ることができるからである。
【0022】
また、本発明においては、上記屈折率異方性材料が、液晶性を有する材料であることが好ましい。液晶性を有する材料であれば、高分子フィルム内に充填された際、液晶構造を採る場合があり、効果的に高分子フィルムに対して効果を発揮することができるからである。
【0023】
また、本発明においては、上記屈折率異方性材料の分子構造が、棒状であることが好ましい。棒状の分子構造を有する屈折率異方性材料を用いることにより、上記高分子フィルムの有する屈折率の規則性を強化することができるからである。
【0024】
また、本発明においては、上記屈折率異方性材料が、重合性官能基を有するものであることが好ましい。屈折率異方性材料を高分子フィルム内に充填させた後、この重合性官能基を用いて屈折率異方性材料を重合して高分子化することにより、位相差フィルムとした後に屈折率異方性材料が染み出すことを防止することが可能となり、安定した位相差フィルムとすることができるからである。
【0025】
更に、本発明においては、前記屈折率異方性を有する材料が、重合性官能基を有するものと重合性官能基を有しないものとを含むことが好ましい。この場合は、重合性官能基を有しないものによって位相差機能をより強化し、且つ重合性官能基を有するものによってフィルムの信頼性を向上することが可能となるからである。
【0026】
本発明においては、上記屈折率異方性を有する材料の前記高分子フィルムの厚み方向の濃度勾配が、上記高分子フィルムの一方の表面側が高濃度であり、他方の表面側に向かって低濃度となる濃度勾配であることが好ましい。このような構成とすることにより、低濃度側の表面側については屈折率異方性を有する材料の含有乃至浸透により高分子フィルム固有の性質に影響を与えることがないか、少ないため、例えばこの位相差フィルムに偏光層を直接貼り付けて偏光フィルムとする場合に、この低濃度側、具体的には屈折率異方性材料が充填されていない側の表面に偏光層を貼着させることにより、接着性が阻害されることなく、偏光フィルムを得ることができるからである。
【0027】
前記位相差フィルムの純水に対する接触角が、一方の表面と他方の表面とで異なることが好ましい。このような構成とすることにより、例えばこの位相差フィルムにPVAを基材とするような親水性樹脂系の偏光層を直接貼り付けて偏光フィルムとする場合に、より低い接触角を有する表面に偏光層を接着させると、特に水系接着剤を使用しても接着性を阻害されることがなく、偏光フィルムを得ることができるからである。
【0028】
また、本発明においては、上記屈折率異方性材料の前記高分子フィルムの厚み方向の濃度勾配が、上記高分子フィルムの両表面側が高濃度であり、中央部に向かって低濃度となる濃度勾配であってもよい。このような構成とすることにより、例えば一方の表面側にのみ屈折率異方性材料を充填した場合では、リタデーション値が不足するような場合でも、高分子フィルムの両表面側が高濃度とする、すなわち両表面側に屈折率異方性材料を充填することにより十分なリタデーション値とすることが可能となるからである。
【0029】
また、本発明においては、上記屈折率異方性を有する材料の濃度勾配が緩やかな領域と、上記屈折率異方性を有する材料の濃度勾配が急な領域を有することが好ましい。このような場合には、位相差の強化、及び剥離強度や耐熱性、耐水性の強化により、所望の位相差を有しながら信頼性が高くなるからである。
【0030】
また、上記屈折率異方性を有する材料が含有されていない領域を有することが好ましい。屈折率異方性材料が含有されていない領域は、高分子フィルムの有する性質がそのまま残存していることから、例えば高分子フィルム自体の良好な接着性を利用可能だからである。更に、屈折率異方性材料を含有させた位相差強化領域は強度が低下する場合があるが、上述のような屈折率異方性材料が含有されていない領域を有することにより、位相差フィルムとしての強度を維持することができる等のメリットがある。
【0031】
本発明においては、上記位相差フィルムが、上記フィルムの面内方向における遅相軸方向の屈折率をnx、フィルム面内方向における進相軸方向の屈折率をny、及びフィルムの厚み方向の屈折率をnz、並びに厚みをdとし、Rth[nm]={(nx+ny)/2−nz}×dで表されるRthを厚み方向リタデーションとした時に、前記厚み方向リタデーションが70〜300nmであることが好ましい。本発明においては、実質的に得られるリタデーション値の範囲を拡大可能であり、このような場合には、視野角改善効果を向上することができるからである。
【0032】
また、本発明においては、上記位相差フィルムが、JIS−K7105に準拠して測定した際のヘイズ値が1%以下であることが好ましい。このような場合には、偏光状態が乱れること無く、視野角改善効果を向上することができるからである。
【0033】
本発明においては、上記位相差フィルムの可視光領域におけるリタデーション値が、短波長側の方が長波長側よりも大きいことが好ましい。一般に、液晶表示装置の液晶層に用いられる液晶材料の可視光域におけるリタデーション値は、短波長側の方が長波長側よりも大きい。したがって、本発明の位相差フィルムを例えば光学補償板として用いた場合、可視光域における全て波長において補償を行うことができるといった利点を有するからである。
【0034】
一方、本発明においては、上記位相差フィルムの可視光領域におけるリタデーション値が、長波長側の方が短波長側よりも大きくても良い。この場合には、本発明の位相差フィルムを例えば偏光フィルムと貼り合わせて偏光板として用いた場合、光漏れ補償に優れるといった利点を有する点から好ましい。
【0035】
また、本発明においては、上記位相差フィルムの波長550nmで測定した厚み方向リタデーション(Rth)のフィルム面方向におけるばらつきがRthの平均値を基準として±5nmの範囲内であることが好ましい。このようにばらつきが小さいことにより、例えばこの位相差フィルムを光学補償フィルムとして表示装置に適用する場合に、表示画面内が均一に光学補償され、視野角等の表示品位に優れる表示装置を得ることができるからである。
【0036】
更に本発明においては、上記位相差フィルムが、最小直径が6インチ以下のロール状に巻くことが可能であることが好ましい。位相差フィルムは、量産性、生産効率を高める為、長尺の帯状フィルム(ウエブとも云う)の形態とし、製造、検査、及び後加工する時以外の保管、搬送、及び加工待機時には円筒上に巻取ったロールの形態にしておくことが好ましいからである。
【0037】
また本発明においては、単層の上記位相差フィルム2枚以上を、互いに貼り合わせてなることを特徴とする位相差フィルムを提供する。このようにすることにより、1枚のみでは実現できない大きさのリタデーション値(光学異方性値)を実現したり、1枚のみでは実現できない複雑な光学異方性を実現したりすることが可能となるからである。
【0038】
本発明はまた、上述した位相差フィルムを、位相差フィルム以外の光学機能層と直接貼り合わせてなることを特徴とする光学機能フィルムを提供する。本発明の光学機能フィルムは、例えば光学補償などの本発明の位相差フィルムが有する機能と、例えば反射防止などの他の機能について、一つで併せ持つため、それぞれの機能を有するフィルムを別個に設ける必要が無いといった利点を有する。
【0039】
本発明はまた、上述した位相差フィルムを、偏光層と直接貼り合わせてなることを特徴とする偏光フィルムを提供する。通常、偏光フィルムは偏光層の両表面に保護フィルムが貼着されて用いられているが、本発明によれば、その一方の保護フィルムを上述した位相差フィルムとすることができるので、例えば別途光学補償板が必要である場合等においては、本発明の偏光フィルムを用いることにより他に光学補償板を設ける必要が無いといった利点を有する。
【0040】
更に、本発明は、上述した本発明に係る位相差フィルム、光学機能フィルム、又は偏光フィルムのいずれかを、光路に配置したことを特徴とする表示装置を提供する。剥離等の問題がなく、適切なリタデーションを有する本発明に係る位相差フィルムが配置されていることにより、信頼性が高く、表示品位に優れた表示装置を得ることができる。また、本発明に係る光学機能フィルムが配置されていることにより、光学機能層と位相差層のそれぞれを設ける必要が無く、表示品位に優れた表示装置を得ることができる。更に、本発明に係る偏光フィルムが配置されていることにより、他に光学補償板を設ける必要が無く、表示品位に優れた表示装置を得ることができる。
【0041】
さらに、本発明は、高分子フィルムの少なくとも一方の表面に、屈折率異方性材料が溶媒に溶解もしくは分散されてなる位相差強化領域形成用塗工液を塗布する塗布工程と、上記塗布工程により塗布された上記位相差強化領域形成用塗工液中の上記屈折率異方性材料を上記高分子フィルムに浸透させる浸透工程と、上記塗布工程により塗布された上記位相差強化領域形成用塗工液中の上記溶媒を乾燥させる乾燥工程とを有することを特徴とする位相差フィルムの製造方法を提供する。本発明によれば、上記位相差強化領域形成用塗工液を塗布することにより、容易に位相差フィルムを形成することが可能であり、かつ上記位相差強化領域形成用塗工液の塗布量等を変更することのみで、得られる位相差フィルムのリタデーション値を変更することが可能となる。したがって、本発明によれば、少ない数量であっても容易に任意のリタデーション値を有する位相差フィルムを容易に得ることができるといった利点を有するものである。
【0042】
上記発明においては、上記浸透工程が、上記乾燥工程中で行われるものであってもよい。乾燥温度等を調整することにより、乾燥中に屈折率異方性材料を高分子フィルム内に浸透させることが可能な場合もあるからである。又、乾燥条件の制御により、屈折率異方性材料の浸透の程度、更には屈折率異方性(リタデーション値)を制御可能な場合もあるからである。
【0043】
さらに、本発明においては、上記乾燥工程の後に、上記高分子フィルム内に浸透した上記屈折率異方性材料を固定化する固定化工程を有することが好ましい。例えば、屈折率異方性材料が重合性官能基を有するものである場合等においては、屈折率異方性材料を高分子フィルム内に浸透後、重合させて高分子化させることにより、製造後に屈折率異方性材料が表面から染み出すことを防止することが可能となり、位相差フィルムの安定性を向上させることができるからである。
【発明の効果】
【0044】
本発明の位相差フィルムは、位相差層を形成した場合に生じる基材からの位相差層の剥離等の問題がなくて耐熱性や耐水性等の信頼性や耐アルカリ性、リワーク性などが高く、ロットが小さい場合でも容易に任意のリタデーション値を得ることができるといった効果を奏するものである。更に、偏光層等の親水性フィルムとの接着性も良好にすることが可能で且つ耐アルカリ性にも優れるため、偏光層と直接貼り合わせるのに好適な位相差フィルムである。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の位相差フィルムの一例を示す模式的断面図である。
【図2】本発明の位相差フィルムの他の例を示す模式的断面図である。
【図3】濃度勾配の分布を模式的に示す図である。
【図4】本発明の位相差フィルムの一例を示す模式的断面図である。
【図5】本発明の位相差フィルムの他の例を示す模式的断面図である。
【図6】本発明の位相差フィルムの製造方法の一例を示す工程図である。
【図7】本発明の位相差フィルムを備えた液晶表示装置の一例を示す概略分解斜視図である。
【図8】本発明の光学機能フィルムを備えた液晶表示装置の一例を示す概略分解斜視図である。
【図9】本発明の偏光フィルムを備えた液晶表示装置の一例を示す概略分解斜視図である。
【図10】実施例1の位相差フィルムの断面を示すSEM写真である。
【図11】実施例1の位相差フィルムの断面を示すTEM写真である。
【図12】実施例1の位相差フィルムのTOF−SIMS測定の正の2次イオンスペクトル測定による濃度分布を示す図である。
【図13】実施例1の位相差フィルムのTOF−SIMS測定の負の2次イオンスペクトル測定による濃度分布を示す図である。
【図14】実施例5における塗工量と位相差との関係を示すグラフである。
【図15】実施例6及び実施例7の位相差フィルムの位相差角度依存性を示す図である。
【図16】実施例9の位相差フィルムの断面を示すSEM写真である。
【図17】従来の液晶表示装置を示す概略分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
本発明は、位相差フィルム及びその製造方法、位相差フィルムを用いた光学機能フィルム、偏光フィルム、更にはこれらフィルムを用いた表示装置を含むものである。以下、それぞれについて詳述する。
【0047】
A.位相差フィルム
まず、本発明の位相差フィルムについて説明する。
本発明の第一のアスペクトにおける位相差フィルムは、高分子フィルム内に屈折率異方性材料が含有されてなる位相差フィルムであって、上記屈折率異方性材料が、上記高分子フィルムの厚み方向に濃度勾配を有していることを特徴とするものである。
【0048】
また、本発明の第二のアスペクトにおける位相差フィルムは、高分子フィルム内に屈折率異方性を有する材料が浸透されてなることを特徴とするものである。
更に、本発明の第三のアスペクトにおける位相差フィルムは、高分子フィルム内に屈折率異方性を有する材料が含有されてなる位相差フィルムであって、前記屈折率異方性を有する材料が、前記高分子フィルムの厚み方向に濃度勾配を有しており、当該濃度勾配が連続的に変化することを特徴とするものである。
【0049】
図1は、本発明の位相差フィルムの一例を示す断面図である。図1に示す例では、高分子フィルム1の一方の表面側に、屈折率異方性材料を含有する位相差強化領域2が形成されている。この場合の屈折率異方性材料の濃度勾配は、位相差強化領域2が形成された表面3側の濃度は高く、形成されていない表面4側において屈折率異方性材料は含有されていない。本発明における濃度勾配とは、厚み方向の任意の2点において濃度が異なるものであれば、このようにある一部の領域において屈折率異方性材料が存在し、他の領域において屈折率異方性材料が存在しない場合をも含むものである。
【0050】
本発明においては、このように位相差フィルム内に屈折率異方性材料が存在する位相差強化領域が形成されており、屈折率異方性材料の濃度勾配が形成されているので、この位相差強化領域が位相差層としての働きを強化することから、複屈折性に基づく種々の光学的な機能を奏することが可能となる。例えば、後述するように、高分子フィルムとして負のCプレートとして作用するTAC(セルローストリアセテート)を用い、分子構造が棒状の液晶材料を屈折率異方性材料として用いた場合は、上記位相差強化領域が負のCプレートとしての働きを強化することから、本発明の位相差フィルムは負のCプレートとしての機能をより強化したものになる。
【0051】
本発明の位相差フィルムは、「B.位相差フィルムの製造方法」の欄で詳述するように、例えば、上記屈折率異方性材料が溶解もしくは分散した位相差強化領域形成用塗工液を塗布し、高分子フィルムの表面から屈折率異方性材料を浸透させて高分子フィルム内に充填することのみで、容易に位相差強化領域を形成することができるので、小ロットで多くの種類のリタデーション値を有する補償板が必要である等の場合でも、容易にかつ低コストで位相差フィルムを得ることができるといった利点を有する。
【0052】
また、上述したように、本発明の位相差フィルムは、基材上に位相差層が形成された従来のものとは異なり、位相差フィルム内に屈折率異方性材料が充填された位相差強化領域と充填されていない基材領域とが形成されてなるものであることから、従来問題であった位相差層の剥離といった課題が無く、耐熱性や耐水性等の信頼性が高くなり、安定的に用いることが可能である。更に、耐アルカリ性が高くなるため例えば偏光層と貼り合わせる際の鹸化処理に対して耐性がある。また、リワーク性(繰り返しの使用性)に優れるため、プロセス上、歩留まりが良く有利である。
【0053】
また、高分子フィルムの表面から屈折率異方性材料を浸透させて高分子フィルム内に充填した場合には、通常、上記屈折率異方性を有する材料の高分子フィルムの厚み方向の濃度勾配は、連続的に変化するようになる。この場合には、特に、層内の特定の界面への応力の集中がなくなるため、剥離強度が強くなり、耐熱性や耐水性(使用環境下での寒熱繰り返し、或いは水との接触の際の界面剥離への耐久性)などの信頼性が高くなる。
以下、このような本発明の位相差フィルムについて、各構成毎に詳細に説明する。
【0054】
1.高分子フィルム
本発明に用いられる高分子フィルムは、特に限定されるものではないが、通常は可視光域の光を透過する樹脂から形成されるものが好適に用いられる。ここで、可視光域の光を透過するとは、可視光域380〜780nmにおける平均光透過率が50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは85%以上である場合である。なお、光透過率の測定は、紫外可視分光光度計(例えば、(株)島津製作所製 UV−3100PC)を用い、室温、大気中で測定した値を用いる。
【0055】
本発明に用いられる高分子フィルムとしては、屈折率に規則性を有するものであることが好ましい。すなわち、本発明に用いられる高分子フィルムとしては、面内リタデーション及び/又は厚み方向リタデーションを有するものであることが好ましい。本発明における位相差フィルムが、より大きなリタデーション値を得て光学補償板等の光学機能性フィルムとしての機能を発揮するのは、明確ではないが以下の理由によるものと推測される。
すなわち、屈折率異方性材料を高分子フィルムに充填した際に、充填された屈折率異方性材料が、高分子フィルムが本来有する複屈折性等の屈折率の規則性をより強化し、これにより、種々の特性を有する位相差フィルムを得ることができると推測される。したがって、本発明に用いられる高分子フィルムは、何らかの屈折率の規則性を有するものが好適に用いられるのである。
【0056】
本発明における屈折率の規則性とは、例えば(1)高分子フィルムが負のCプレートとして作用すること、(2)延伸した高分子フィルムが負のCプレート、正のCプレート、Aプレート、又は2軸性プレートの特性を有すること等を挙げることができる。
【0057】
本発明に用いられる高分子フイルムは、厚み方向リタデーション(Rth)が、20nm〜100nmの範囲内であることが好ましく、特に25nm〜80nmの範囲内であることが好ましく、なかでも30nm〜60nmの範囲内であることが好ましい。
また、面内リタデーション(Re)は、0nm〜300nmの範囲内であることが好ましく、特に0nm〜150nmの範囲内であることが好ましく、なかでも0nm〜125nmの範囲内であることが好ましい。
ここで、上記厚み方向及び面内方向リタデーションの値は、例えば自動複屈折測定装置(例えば、王子計測機器株式会社製、商品名:KOBRA−21ADH)を用いて、23℃、55%RHの環境下で、波長が589nmにおいて3次元屈折率測定を行い、屈折率nx、ny、nzを求めることにより得ることができる。
【0058】
また、本発明においては、後述する「B.位相差フィルムの製造方法」の欄で詳述するように、上記屈折率異方性材料が溶媒に溶解もしくは分散された位相差強化領域形成用塗工液を高分子フィルムの表面に塗布し、溶媒により膨潤させることにより上記屈折率異方性材料を高分子フィルム内に浸透させ、高分子フィルム内に充填させるものであるので、所定の溶媒に対する膨潤度が高いものであることが好ましい。具体的には、特定の溶媒に高分子フィルムを浸漬した際に、高分子フィルムが膨潤することが好ましい。この現象は目視で判別可能であり、例えば高分子フィルム(膜厚;数μm)を形成し、その上に溶媒を滴下し、溶媒の浸透具合を観察することにより、溶媒に対する膨潤性を確認することができる。
【0059】
本発明に用いられる高分子フイルムは、可撓性を有するフレキシブル材でも良く、または、可撓性のないリジッド材でも良いが、フレキシブル材を用いることが好ましい。フレキシブル材を用いることにより、本発明の位相差フイルムの製造工程をロールtoロールプロセスとすることができ、生産性に優れた位相差フイルムを得ることができるからである。
【0060】
上記フレキシブル材を構成する材料としては、セルロース樹脂、ノルボルネン系ポリマー、シクロオレフィン系ポリマー、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルアルコール、ポリイミド、ポリアリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、アモルファスポリオレフィン、変性アクリル系ポリマー、ポリスチレン、エポキシ樹脂、ポリカーボネート、ポリエステル類などを例示することができるが、本発明においてはセルロース樹脂およびノルボルネン系ポリマーを好適に用いることができる。
【0061】
上記ノルボルネン系ポリマーとしては、シクロオレフィンポリマー(COP)またはシクロオレフィンコポリマー(COC)を挙げることができるが、本発明においては、シクロオレフィンポリマーを用いることが好ましい。シクロオレフィンポリマーは、水分の吸収性および透過性が低いため、本発明に用いられる高分子フイルムがシクロオレフィンポリマーから構成されることにより、本発明の位相差フイルムを光学特性の経時安定性に優れたものにできるからである。
【0062】
本発明に用いられる上記シクロオレフィンポリマーの具体例としては、例えば、JSR株式会社製、商品名:ARTONを挙げることができる。
【0063】
上記セルロース樹脂としては、セルロースエステルを用いることが好ましく、さらに、セルロースエステル類の中では、セルロースアシレート類を用いることが好ましい。セルロースアシレート類は工業的に広く用いられていることから、入手容易性の点において有利だからである。
【0064】
上記セルロースアシレート類としては、炭素数2〜4の低級脂肪酸エステルが好ましい。低級脂肪酸エステルとしては、例えばセルロースアセテートのように、単一の低級脂肪酸エステルのみを含むものでもよく、また、例えばセルロースアセテートブチレートやセルロースアセテートプロピオネートのような複数の脂肪酸エステルを含むものであっても良い。
【0065】
本発明においては、上記低級脂肪酸エステルの中でもセルロースアセテートを特に好適に用いることができる。セルロースアセテートとしては、平均酢化度が57.5〜62.5%(置換度:2.6〜3.0)のトリアセチルセルロースを用いることが最も好ましい。ここで、酢化度とは、セルロース単位質量当りの結合酢酸量を意味する。酢化度は、ASTM:D−817−91(セルロースアセテート等の試験方法)におけるアセチル化度の測定および計算により求めることができる。
【0066】
本発明に用いられる高分子フイルムは、延伸処理が施されていても良い。延伸処理が施されていることにより、上記屈折率異方性材料が高分子フイルム中に浸透し易くなる場合があるからである。このような延伸処理としては、特に限定されるものではなく、高分子フイルムを構成する材料等に応じて任意に決定すればよい。延伸処理としては、一軸延伸処理と、2軸延伸処理とを例示することができる。
【0067】
本発明に用いられる高分子フイルムの構成は、単一の層からなる構成に限られるものではなく、複数の層が積層された構成を有してもよい。複数の層が積層された構成を有する場合は、同一組成の層が積層されてもよく、また、異なった組成を有する複数の層が積層されても良い。
【0068】
本発明に用いられる高分子フィルムの膜厚は特に限定されるものでは無く、適宜選定すれば良い。従って、本発明で言うフィルムは所謂狭義のフィルムに限定されるものでは無く、所謂シート、板の領域の膜厚のものも包含する。但し、通常は、比較的薄膜の物が用いられることが多い。膜厚としては、通常10μm〜200μmの範囲内、特に20μm〜100μmの範囲内のものが好適に用いられる。
【0069】
また、延伸してなる高分子フィルムを用いる場合には、偏光層への積層等の後加工時に加わる熱により収縮(延伸の戻り)を生じる傾向が有る。この場合に、収縮に伴ってリタデーション値が変動する場合が有る。これを防ぐ為には、予め高分子フィルムを加熱処理(アニーリング)して、高分子フィルムを収縮させ得る残留応力を開放乃至緩和させることが好ましい。この加熱処理の温度条件としては、通常、高分子フィルムのガラス転移温度から熔融温度(或いは融点)までの間の温度であることが好ましい。
【0070】
また、後述する厚み方向リタデーションにおけるばらつきは、用いられる高分子フィルムにも依存するため、ばらつきを小さくするには、用いられる高分子フィルムの波長550nmで測定した厚み方向リタデーション(Rth)のフィルム面方向におけるばらつきがRthの平均値を基準として±5nmの範囲内であることが好ましい。
【0071】
2.屈折率異方性材料
次に、本発明に用いられる屈折率異方性材料について説明する。本発明に用いられる屈折率異方性材料としては、高分子フィルム内に充填されることが可能であり、かつ複屈折性を有する材料であれば特に限定されるものではない。
本発明においては、高分子フィルム内への充填のし易さから、分子量が比較的小さい材料が好適に用いられる。具体的には、分子量が200〜1200の範囲内、特に400〜800の範囲内の材料が好適に用いられる。なお、ここでいう分子量とは、後述する重合性官能基を有し、高分子フィルム内で重合される屈折率異方性材料ついては、重合前の分子量を示すものである。
【0072】
本発明に用いられる屈折率異方性材料としては、分子構造が棒状の材料であることが好ましい。棒状の材料であれば、高分子フィルム内の隙間に比較的容易に入り込むことができるからである。
【0073】
また、本発明に用いられる屈折率異方性材料としては、液晶性を有する材料(液晶性分子)であることが好ましい。このように屈折率異方性材料が液晶性分子である場合は、屈折率異方性材料が高分子フィルム内に充填された際に、高分子フィルム内において液晶状態となる可能性があり、屈折率異方性材料の複屈折性をより効果的に位相差フィルムに反映させることが可能となるからである。
【0074】
本発明においては、屈折率異方性材料として、ネマチック液晶性分子材料、コレステリック液晶性分子材料、カイラルネマチック液晶性分子材料、スメクチック液晶性分子材料、ディスコチック液晶性分子材料を用いることができるが、中でも屈折率異方性材料が、ネマチック液晶性分子材料であることが好ましい。ネマチック液晶性分子材料であれば、高分子フィルム内の隙間に入り込んだ数〜数百のネマチック液晶性分子が、高分子フィルム中で配向するので、屈折率異方性をより確実に発現できるからである。特に、上記ネマチック液晶性分子がメソゲン両端にスペーサを有する分子であることが好ましい。メソゲン両端にスペーサを有するネマチック性液晶分子には柔軟性があるので、高分子フィルム内の隙間に入り込んだ際に白濁することを防止することができるからである。
【0075】
本発明に用いられる屈折率異方性材料は、分子内に重合性官能基を有するものが好適に用いられ、中でも3次元架橋可能な重合性官能基を有するものが好ましい。重合性官能基を有するものであれば、高分子フィルム内に充填された後、光の照射によって光重合開始剤から発生したラジカル、または電子線等の作用により、屈折率異方性材料を高分子フィルム内において高分子化(架橋)することが可能となるので、位相差フィルムとした後に屈折率異方性材料が染み出す等の不具合を防止することが可能となり、安定して使用することができる位相差フィルムとすることができるからである。
【0076】
なお、「3次元架橋」とは、液晶性分子を互いに3次元に重合して、網目(ネットワーク)構造の状態にすることを意味する。
【0077】
このような重合性官能基としては、特に限定されるものではなく、紫外線、電子線等の電離放射線、或いは熱の作用によって重合する各種重合性官能基が用いられる。これら重合性官能基の代表例としては、ラジカル重合性官能基、或いはカチオン重合性官能基等が挙げられる。さらにラジカル重合性官能基の代表例としては、少なくとも一つの付加重合可能なエチレン性不飽和二重結合を持つ官能基が挙げられ、具体例としては、置換基を有するもしくは有さないビニル基、アクリレート基(アクリロイル基、メタクリロイル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基を包含する総称)等が挙げられる。又、カチオン重合性官能基の具体例としては、エポキシ基等が挙げられる。その他、重合性官能基としては、例えば、イソシアネート基、不飽和3重結合等が挙げられる。これらの中でもプロセス上の点から、エチレン性不飽和二重結合を持つ官能基が好適に用いられる。
【0078】
本発明においては、中でも分子構造が棒状である液晶性分子であって、末端に上記重合性官能基を有するものが特に好適に用いられる。例えば両末端に重合性官能基を有するネマチック液晶性分子を用いれば、互いに3次元に重合して、網目(ネットワーク)構造の状態にすることができ、より強固な高分子フィルムとすることができるからである。
具体的には末端にアクリレート基を有する液晶性分子が好適に用いられる。末端にアクリレート基を有するネマチック液晶性分子の具体例を下記化学式(1)〜(6)に示す。
【0079】
【化1】
【0080】
ここで、化学式(1)、(2)、(5)および(6)で示される液晶性分子は、D. J. Broerら、Makromol Chem. 190, 3201-3215(1989) またはD. J. Broerら、Makromol Chem. 190, 2250(1989) に開示された方法に従い、あるいはそれに類似して調製することができる。また、化学式(3)および(4)で示される液晶性分子の調製は、DE195, 04, 224に開示されている。
【0081】
また、末端にアクリレート基を有するネマチック液晶性分子の具体例としては、下記化学式(7)〜(17)に示すものも挙げられる。
【0082】
【化2】
【0083】
なお、本発明において屈折率異方性材料は、2種以上用いられても良い。
例えば、屈折率異方性材料が、分子構造が棒状である液晶性分子であって両末端に重合性官能基を1つ以上有するもの、及び分子構造が棒状である液晶性分子であって片末端に重合性官能基を1つ以上有するものを含む場合は、両者の配合比の調整により重合密度(架橋密度)及び位相差機能を好適に調整できる点から好ましい。
片末端に重合性官能基を1つ以上有する棒状液晶性分子の方が、高分子フィルムに浸透し易い、及び/又は高分子フィルム内で配向し易いため、位相差機能をより強化し易い傾向があるからである。一方で、両末端に重合性官能基を1つ以上有する棒状液晶性分子の方が、重合密度を高くすることができるため、分子の染み出し防止性や耐溶剤性や耐熱性等の耐久性を付与することができるからである。
【0084】
また、本発明に用いられる屈折率異方性材料としては、位相差機能をより強化し、且つフィルムの信頼性を向上する点から、分子構造が棒状である液晶性分子であって上記重合性官能基を有するものと、分子構造が棒状である液晶性分子であって上記重合性官能基を有しないものとを用いることが好ましい。特に、分子構造が棒状である液晶性分子であって両末端に上記重合性官能基を有するものと、分子構造が棒状である液晶性分子であって片末端に上記重合性官能基を有するものと、分子構造が棒状である液晶性分子であって両末端に上記重合性官能基を有しないものとを用いることが好ましい。重合性官能基を有しない棒状液晶性分子の方が、高分子フィルムに浸透し易い、及び/又は高分子フィルム内で配向し易いため、位相差機能をより強化し易いからである。一方で、重合性官能基を有する棒状液晶性分子を混合して分子間重合を可能とすることにより、分子の染み出し防止性や耐溶剤性や耐熱性等の耐久性を付与することができるからである。
【0085】
3.濃度勾配
本発明においては、上記屈折率異方性材料が、上記高分子フィルムの厚み方向に濃度勾配を有している点に特徴を有するものである。
本発明において、濃度勾配を有するとは、厚み方向の任意の2点において濃度が異なるものであれば特に限定されるものではない。本発明においては、屈折率異方性材料の濃度勾配が、高分子フィルムの一方の表面側が高濃度であり、他方の表面側に向かって低濃度となる濃度勾配である態様(第1の態様)、および屈折率異方性材料の濃度勾配が、高分子フィルムの両表面側が高濃度であり、中央部に向かって低濃度となる濃度勾配である態様(第2の態様)の二つの態様が好ましい態様であるといえる。しかしながら、表面側が低濃度であり、高分子フィルムの内部に高濃度の領域を有しているような態様であっても良い。以下、好ましい二つの態様について、各態様毎に説明する。
【0086】
(1)第1の態様
本発明における第1の態様は、屈折率異方性材料の高分子フィルムの厚み方向の濃度勾配が、高分子フィルムの一方の表面側が高濃度であり、他方の表面側に向かって低濃度となる濃度勾配である態様である。この第1の態様を図1に模式的に示す。図1に示すように、本態様においては、高分子フィルム1の一方の表面側3に屈折率異方性材料を含有する位相差強化領域2が形成されており、反対側の表面側4には、基材領域5が形成されている。
【0087】
かかる位相差強化領域は、高分子フィルム中に屈折率異方性材料が含有乃至浸透してなる。位相差強化領域中の高分子フィルムの分子と屈折率異方性材料の分子の状態については、未だ十分解明できていないが、特に線状高分子からなる高分子フィルム表面から、その長軸方向に電気双極子モーメントを有する棒状分子から成る屈折率異方性材料を浸透させて製造した場合には、およそ以下の様な状態にあると推測されている。
【0088】
即ち、高分子フィルム中の線状高分子は、平均すると概略高分子フィルムの表裏面に平行な面内に並んでいる(但し、該平行面内においては乱雑な方向分布となっている)。そして、高分子フィルムの表面から浸透した棒状の屈折率異方性材料の分子は、該高分子フィルムの配列により方向を強制的に揃えられて、平均的には高分子フィルムの表裏面に平行な面内に配列する(但し、該平行面内においては乱雑な方向分布となっている)。
これにより、位相差強化領域において、屈折率異方性材料の電気双極子モーメントベクトルが平均して高分子フィルムの表裏面に平行な面内に揃う為、高分子フィルムの表裏面に平行な面と直交する法線方向の屈折率が、該面内方向の屈折率よりも相対的に低くなる。それによって負のCプレート特性を発現する。
【0089】
更に、該屈折率異方性材料が1分子当たり複数の重合性官能基を有し、これが重合して固化されてなる場合は、位相差強化領域においては、高分子フィルムの分子鎖を屈折率異方性材料の分子の3次元架橋体が包絡し、屈折率異方性材料の分子の3次元架橋体の網目中に高分子フィルムの分子鎖が挿入された状態となる。更に、高分子フィルムの分子と屈折率異方性材料の分子とが相互に化学結合可能な場合には、高分子フィルムの分子と屈折率異方性材料の分子とが3次元架橋した複合高分子状態となる。
以上のような状態により、屈折率異方性材料の染み出しが防止され安定した屈折率異方性を発現する。
【0090】
第1の態様においては、上記のように屈折率異方性材料を含有する位相差強化領域が高分子フィルムの一方の表面側に形成されている点に特徴を有するものである。この位相差強化領域内における屈折率異方性材料の濃度勾配は、通常は高分子フィルムの表面側が高濃度となり、高分子フィルムの厚み方向の中心側が低濃度となっている。そして、高分子フィルムのもう一方の表面側には屈折率異方性材料が含有されていない領域である基材領域が形成されている。
本態様においては、このように高分子フィルムの一方の表面側に位相差強化領域が形成されたものであるので、以下のような利点を有する。
【0091】
すなわち、上記基材領域側では屈折率異方性材料が含有されていないことから、高分子フィルムの有する性質がそのまま残存している。屈折率異方性材料が含有されていない領域である基材領域を有するため、例えば高分子フィルム自体の接着性が良好である場合等においては、上記基材領域側に例えば偏光層を接着させる等することにより、容易に偏光フィルムとすることができる等の利点を有する。また、屈折率異方性材料を含有させた位相差強化領域は強度が低下する場合があるが、上述したような基材領域を有することにより、位相差フィルムとしての強度を維持することができる等の利点を有するものである。
【0092】
本発明における位相差強化領域の厚みは、通常0.5μm〜8μmの範囲内、特に1μm〜4μmの範囲内であることが好ましい。上記範囲より小さい場合は、十分なリタデーション値を得ることができず、また上記範囲より厚みを増大させることは困難だからである。
屈折率異方性材料の濃度勾配が、本態様のようになっているか否かの判断は、位相差強化領域および基材領域の組成分析により判断することができる。
【0093】
組成分析の方法としては、GSP(精密斜め切削法)により位相差フィルムを切断して厚み方向の断面が出るようにし、当該断面の飛行時間型二次イオン質量分析(TOF−SIMS)を行うことによって厚み方向の材料の濃度分布を測定する方法等を挙げることができる。
【0094】
飛行時間型二次イオン質量分析(TOF−SIMS)としては、例えば、飛行時間型二次イオン質量分析計としてPhysical Electronics社製TFS−2000を用い、例えば1次イオン種をGa+、1次イオンエネルギーを25kV、後段加速を5kVとして、位相差フィルムの厚み方向の断面の正及び/又は負の2次イオンを測定することにより行うことができる。この場合において、屈折率異方性材料の厚み方向の濃度分布は、屈折率異方性材料由来の2次イオン強度を、厚み方向に対してプロットすることにより得ることができる。基材フィルム由来の2次イオン強度についても同様に厚み方向に対してプロットすると、屈折率異方性材料と基材フィルムの相対的な濃度変化を見ることができる。屈折率異方性材料由来の2次イオンは、例えば断面TEM観察等別の分析手法で屈折率異方性材料が充填されていると推定できる表面や箇所において相対的に強く観測される2次イオンの総和などを用いることができる。基材フィルム由来の2次イオンは、例えば断面TEM観察等別の分析手法で屈折率異方性材料が充填されていないと推定できる表面や箇所において相対的に強く観測される2次イオンの総和などを用いることができる。
【0095】
また、第1の態様の場合には、前記位相差フィルムの純水に対する接触角が、一方の表面と他方の表面とで異なることが好ましい。このような構成とすることにより、例えばこの位相差フィルムにPVAを基材とするような親水性樹脂系の偏光層を直接貼り付けて偏光フィルムとする場合に、より低い接触角を有する表面に偏光層を接着させると、特に水系接着剤を使用しても接着性を阻害されることがなく偏光フィルムを得ることができるからである。
本発明において、位相差フィルムの純水に対する接触角の一方の表面と他方の表面の差異は、2度以上であることが好ましく、更に4度以上、特に5度以上であることが好ましい。
【0096】
なお、図1の例においては、高分子フィルム1の一方の表面側3に位相差強化領域2が形成されており、反対側の表面側4には基材領域5が形成されている形態であるが、第1の態様には、高分子フィルムの一方の表面側に屈折率異方性材料が高濃度で含有され、他方の表面側に屈折率異方性材料が低濃度で含有される形態も含まれる。この場合であっても低濃度側は、表面の接着性や強度などにおいて、高濃度側より高分子フィルム自体の性質に近いという利点を有する。なお、当該低濃度側表面に別の層を接着させる場合においては、屈折率異方性材料の濃度は高分子フィルム自体のもつ接着性に支障をきたさない範囲内の低濃度、例えば、位相差フィルムの純水に対する接触角の高濃度側表面と低濃度側表面の差異が、2度以上となるような、更に4度以上、特に5度以上となるような濃度であることが好ましい。
【0097】
(2)第2の態様
本発明における第2の態様は、屈折率異方性材料の高分子フィルムの厚み方向の濃度勾配が、高分子フィルムの両表面側が高濃度であり、中央部に向かって低濃度となる濃度勾配である態様である。この第2の態様を図2に模式的に示す。図2に示すように、本態様においては、高分子フィルム1の両方の表面側に屈折率異方性材料を含有する位相差強化領域2が形成されており、中央部には、基材領域5が形成されている。
【0098】
本態様においては、このように屈折率異方性材料を含有する位相差強化領域が高分子フィルムの両表面側に形成されている点に特徴を有するものである。この位相差強化領域内における屈折率異方性材料の濃度勾配は、通常は高分子フィルムの表面側が高濃度となり、高分子フィルムの厚み方向の中心側が低濃度となっている。そして、高分子フィルムの厚み方向中央部には、屈折率異方性材料が含有されていない領域である基材領域が形成されている。
【0099】
この場合の位相差強化領域の膜厚は、上記第1の態様と同様であるので、ここでの説明は省略する。
本態様においては、このように高分子フィルムの両表面側に位相差強化領域が形成されたものであるので、以下のような利点を有する。
【0100】
すなわち、本態様においては、両表面側に位相差強化領域を有することから、位相差強化領域におけるリタデーション値は、上記第1の態様の2倍となることが予想される。したがって、上記第1の態様ではリタデーション値が不足する場合等において、さらに大幅なリタデーション値が必要な場合に利点を有することになる。
【0101】
また、屈折率異方性材料を含有させた位相差強化領域は位相差フィルムとしての強度が低下する場合があるが、中央部に屈折率異方性材料が含有されていない領域である基材領域を有するため、位相差フィルムとしての強度を維持することができる等の利点を有するものである。
【0102】
なお、図2の例においては、高分子フィルム1の両方の表面側に屈折率異方性材料を含有する位相差強化領域2が形成されており、中央部には、基材領域5が形成されている形態であるが、第2の態様には、高分子フィルムの両方の表面側に屈折率異方性材料が高濃度で含有され、中央部に屈折率異方性材料が低濃度で含有される形態も含まれる。この場合であっても低濃度領域は、強度などにおいて、高濃度側より高分子フィルム自体の性質に近いという利点を有する。
【0103】
屈折率異方性材料の濃度勾配が、本態様のようになっているか否かの判断は、上記第1態様の場合と同様の方法を用いた位相差強化領域および基材領域の組成分析により判断することができる。
【0104】
本発明においては、上記のいずれの態様においても、上記屈折率異方性を有する材料の前記高分子フィルムの厚み方向の濃度勾配が連続的に変化することが好ましい。このような場合には、ある厚みにおいて濃度が不連続に変化する場合に比べて、層内の特定の界面への応力の集中がなくなるため、剥離強度が強くなり、耐熱性や耐水性(使用環境下での寒熱繰り返し、或いは水との接触の際の界面剥離への耐久性)などの信頼性、耐アルカリ性、リワーク性などが高くなるからである。
【0105】
なおここで、濃度勾配が連続的に変化するとは、例えば図3(a)〜(e)に示すように縦軸に濃度をとり横軸に厚み方向をとった場合に、厚み方向における濃度の変化が連続的である場合をいう。
【0106】
また、本発明においては、上記屈折率異方性を有する材料の濃度勾配が緩やかな領域と、上記屈折率異方性を有する材料の濃度勾配が急な領域を有することが好ましい。このような場合には、高濃度で且つ緩やかな濃度勾配領域において充分な量の屈折率異方性を有する材料を集中させて、ここで充分なリタデーション値を確保し、更に急な濃度勾配領域において高濃度領域から低濃度領域までの間の濃度を連続的に接続し、層内特定界面への応力集中を防ぐことができるため、所望の位相差を有しながら信頼性が高くなるからである。
【0107】
本発明において、濃度勾配が緩やかと急とは、屈折率異方性を有する材料の厚み方向の濃度勾配の分布における相対的な関係である。濃度勾配が緩やかな領域と、濃度勾配が急な領域は、相対的に濃度勾配が小さな値で連続している領域と大きな値で連続している領域を巨視的に分けたものである。この場合において濃度勾配が緩やかな領域には、濃度勾配が一定な領域が含まれる。本発明において、濃度勾配が緩やかな領域は、図3(a)の領域(A)、図3(b)の領域(A)のように、屈折率異方性材料の濃度が相対的に高く、高分子フィルム内に屈折率異方性材料が飽和に近い濃度で充填されている場合などが挙げられる。また本発明において、濃度勾配が急な領域は、図3(a)の領域(B)、図3(b)の領域(B)のように、屈折率異方性材料が相対的に高い濃度で含まれる領域から屈折率異方性材料が含まれない基材領域へ遷移する領域などが挙げられる。高リタデーション値を要求される場合は、図3(a)、図3(b)のような濃度勾配が一般的には好ましい。但し、特に高リタデーション値を求められない場合は、図3(c)のように、屈折率異方性材料が高濃度で充填されている高分子フィルム表面近傍に、中央部に向かって濃度が高濃度から低濃度に遷移する様な濃度勾配が急な領域と、その中央部側に屈折率異方性材料が低濃度で充填されている濃度勾配が緩やかな領域が連続している形態でも良い。
【0108】
上記第1の態様において、上記屈折率異方性を有する材料の濃度勾配が緩やかな領域と、濃度勾配が急な領域を有する場合、図4に模式的に示されるように、高分子フィルム1の一方の表面側3に屈折率異方性材料を含有する位相差強化領域2が形成されており、反対側の表面側4には、基材領域5が形成されており、位相差強化領域2のうち基材領域5との境界領域に、屈折率異方性材料が相対的に高い濃度で含まれると共に濃度勾配が緩やかな領域から屈折率異方性材料が含まれない基材領域へ遷移する濃度勾配が急な中間領域9が形成されている場合が挙げられる。
【0109】
上記第2の態様において、上記屈折率異方性を有する材料の濃度勾配が緩やかな領域と、濃度勾配が急な領域を有する場合、図5に模式的に示されるように、高分子フィルム1の両方の表面側に屈折率異方性材料を含有する位相差強化領域2が形成されており、中央部には、基材領域5が形成されており、位相差強化領域2のうち基材領域5との境界領域に、屈折率異方性材料が相対的に高い濃度で含まれると共に濃度勾配が緩やかな領域から屈折率異方性材料が含まれない基材領域へ遷移する濃度勾配が急な中間領域9が形成されている場合が挙げられる。
【0110】
なお、上記屈折率異方性を有する材料の前記高分子フィルムの厚み方向の濃度勾配が連続的に変化することや、上記屈折率異方性を有する材料の濃度勾配が緩やかな領域と、上記屈折率異方性を有する材料の濃度勾配が急な領域を有することは、上記により説明した位相差フィルムの厚み方向断面の飛行時間型二次イオン質量分析(TOF−SIMS)などの濃度分布分析により判断することができる。
【0111】
4.位相差フィルム
本発明の位相差フィルムは、位相差フィルムの可視光領域におけるリタデーション値が、短波長側の方が長波長側よりも大きいものであることが好ましい。これは、一般に、液晶表示装置の液晶層に用いられる液晶材料の可視光域におけるリタデーション値は、短波長側の方が長波長側よりも大きい。したがって、本発明の位相差フィルムを例えば光学補償板として用いた場合、可視光域における全て波長において補償を行うことができるといった利点を有するからである。
【0112】
このように、位相差フィルムの可視光領域におけるリタデーション値を、短波長側の方が長波長側よりも大きくするためには、高分子フィルムおよび屈折率異方性材料の可視光領域におけるリタデーション値が、短波長側の方が長波長側より大きいものを選択することが好ましい。しかしながら、偏光層(例えばポリビニルアルコール(PVA))の保護フィルムに用いられているTACフィルムは、そのようなリタデーション値をもたないことから、屈折率異方性材料が上述したリタデーション値を有するものを選択することが好ましい。
【0113】
一方、本発明においては、上記位相差フィルムの可視光領域におけるリタデーション値が、長波長側の方が短波長側よりも大きくても良い。この場合には、本発明の位相差フィルムを例えば偏光フィルムと貼り合わせて偏光板として用いた場合、光漏れ補償に優れるといった利点を有する点から好ましい。
【0114】
また、本発明の位相差フィルムは、上記位相差フィルムの波長550nmで測定した厚み方向リタデーション(Rth)のフィルム面方向におけるばらつきがRthの平均値を基準として±5nmの範囲内であることが好ましい。本発明の位相差フィルムは、主として屈折率異方性材料の浸透によりリタデーションの値が調節されるため、例えば二軸延伸により作製された負のCプレートの位相差フィルムに比べて、面内及び厚み方向リタデーション値のばらつきを小さくすることが可能である。延伸のみによりリタデーション値を調節する場合だと、面内全域に均一な位相差を得ることが極めて困難であり、端の方が使用できないことが一般的である。本発明の位相差フィルムは、リタデーションのばらつきが小さいことにより、例えばこの位相差フィルムを光学補償フィルムとして表示装置に適用する場合に、表示画面内が均一に光学補償され、視野角等の表示品位に優れる表示装置を得ることができる。
【0115】
ここで、厚み方向リタデーションとは、フィルムの面内方向における遅相軸方向(フィルム面内方向における屈折率が最大となる方向)の屈折率をnx、フィルム面内における進相軸方向(フィルム面内方向における屈折率が最小となる方向)の屈折率をny、及びフィルムの厚み方向の屈折率をnzとしたときに、Rth[nm]={(nx+ny)/2−nz}×d (d:厚み)と表すことができ、面内リタデーションはRe[nm]=(nx−ny)×d (d:厚み)と表すことができる。
【0116】
また、厚み方向リタデーションのフィルム面方向におけるばらつきは、例えば以下のようにして評価できる。フィルム面内の全域について所定間隔ごとに厚み方向リタデーションを測定する。測定値から平均値を算出し、所定間隔ごとの各測定値から平均値を減算して変動を算出することができる。フィルムが長尺フィルムの場合に、製造条件を時間的に変動させない場合は、長手方向については厚み方向リタデーションが一定と仮定できるから、長手方向に垂直な幅方向について所定間隔ごとに厚み方向リタデーションを測定し、測定値から平均値を算出し、所定間隔ごとの各測定値から平均値を減算して変動を算出しても良い。
【0117】
また、本発明の位相差フィルムは、上記厚み方向リタデーションが70〜300nmであることが好ましい。このような場合には、例えば、視野角改善効果を向上することができるからである。
なお、上記厚み方向及び面内方向リタデーションの値は、例えば自動複屈折測定装置(例えば、王子計測機器株式会社製、商品名:KOBRA−21ADH)を用いて、23℃、55%RHの環境下で、波長が589nmにおいて3次元屈折率測定を行い、屈折率nx、ny、nzを求めることにより得ることができる。
【0118】
また本発明によれば、上記塗工液の量や濃度を変更して位相差強化領域の手段を用いてリタデーション値を調節する。延伸によってリタデーション値を調節する場合、一般的に延伸倍率を大きくすると位相差フィルムが曇って、ヘイズ値が高くなってしまい、消偏性が高くなる、すなわち偏光状態が乱れて偏光を制御できなくなるという問題があったが、本発明においては、所望のリタデーション値を得て視野角改善効果を向上しながら、消偏性を極めて少なくすることが可能である。
すなわち、本発明の位相差フィルムは、JIS−K7105に準拠して測定した際のヘイズ値が1%以下、更に0.8%以下であることを達成可能である。
【0119】
また、本発明の位相差フィルムは、高分子フィルム内に少なくとも上記屈折率異方性材料が含有されてなるものであるが、本発明の効果が損なわれない限り、他の成分が含まれていても良い。例えば、残存溶剤、光重合開始剤、重合禁止剤、レベリング剤、カイラル剤、シランカップリング剤等が含まれていても良い。
【0120】
また、本発明の位相差フィルムは、さらに他の層が直接積層されたものであってもよい。例えば、位相差フィルムとしてリタデーション値が不足する場合は、さらに他の位相差層を直接積層してもよい。また、後述するように、他の光学的機能層、例えば偏光層を直接積層することも可能である。
【0121】
なお、本発明の位相差フィルムには、上記屈折率異方性材料が溶媒に溶解もしくは分散された位相差強化領域形成用塗工液を高分子フィルムの表面に塗布することにより上記屈折率異方性材料を高分子フィルム内に浸透させて形成された場合に、浸透させた側の高分子フィルム表面に上記屈折率異方性材料が膜状に残存しているような態様も含まれる。
【0122】
また本発明においては、上記位相差フィルムが、最小直径が6インチ以下のロール状に巻くことが可能であることが好ましい。位相差フィルムは、その製造、保管、流通、後加工の際の量産性、生産効率を高める為、長尺の帯状フィルム(ウエブとも云う)の形態とし、製造、検査、及び後加工する時以外の保管、搬送、及び加工待機時には円筒上に巻取ったロールの形態にしておくことが好ましいからである。このロールの巻芯となる管の直径としては、通常、6インチ以下、場合によっては3インチとされる。よって、プロセス上有利なようにロール状に巻取り可能とする為には、位相差フィルムは最小直径6インチ以下、より好ましくは3インチ以下に巻くことが可能なことが好ましい。
【0123】
一方、屈折率異方性を有する材料は、一般に、硬く、脆い傾向が有る。特に、固定化の為に重合した場合はその傾向が強い。その為、従来の高分子フィルムの基材上に別層としての位相差層を積層した構成の位相差フィルムでは、硬くて脆い位相差層の為に、6インチ以下の直径に巻取ると、位相差層にクラックが入ったり、位相差層が基材から剥離するという問題が生じた。このクラック防止のために位相差層上に保護層を更に設ける必要があった。また、位相差フィルムを例えば30cm角の正方形状シートのような枚葉のシートの状態で製造、保管等すればこの問題は解決するが、生産効率、量産性は劣る。これに対し、本発明において得られる位相差フィルムは、高分子フィルム中に上記屈折率異方性材料が含有されて位相差強化領域を形成しているものであるため、高分子フィルム内部に位相差層(位相差強化領域)が内包され、且つ位相差層を含まない(乃至は含んでもその量が少ない)領域も有する。その為、保護層などを設けなくても、ロール状に巻いた時の応力集中によりクラックが入り難く、好適にロール状形態とすることが可能である。
【0124】
また、本発明の位相差フィルムは、単層のものを1枚のみで仕様する以外に、必要に応じて2枚以上を貼合わせ、積層した形態で用いることも可能である。2枚を積層する具体例としては、同一の位相差フィルムを主屈折率の向き(光学異方性の方向)を揃えて2枚以上積層する形態、同一の位相差フィルムを主屈折率の向きを互いに異ならせて2枚以上積層する形態、互いに異なる光学異方性の位相差フィルムを主屈折率の向き(光学異方性の方向)を揃えて2枚以上積層する形態、或いは互いに異なる光学異方性の位相差フィルムを主屈折率の向き(光学異方性の方向)を互いに異ならせて2枚以上積層する形態等が挙げられる。これらの場合には、1枚のみでは実現できない大きさの光学異方性値を実現したり、或いは1枚のみでは実現できない複雑な光学異方性を実現することが可能となる。
尚、位相差フィルム同士の貼合わせ、積層は、例えば、適当な透明な接着剤層を介して貼り合せることにより行なわれる。
【0125】
5.用途
本発明の位相差フィルムの用途としては、光学的機能フィルムとして種々の用途に用いることができる。具体的には、光学補償板(例えば、視角補償板)、楕円偏光板、輝度向上板等を挙げることができる。
【0126】
本発明においては、特に光学補償板としての用途が好適である。具体的には高分子フィルムとしてTACフィルムを用い、屈折率異方性材料として分子構造が棒状の液晶性化合物を用いることにより、負のCプレートとしての用途に用いることができる。
【0127】
また、本発明の位相差フィルムは、液晶表示装置に用いられる種々の光学機能フィルムとして用いることが可能である。例えば、上述したように本発明の位相差フィルムが負のCプレートである光学補償板として用いられる場合は、VAモードもしくはOCBモードなどの液晶層を有する液晶表示装置に好適に用いられる。
【0128】
B.位相差フィルムの製造方法
本発明の位相差フィルムの製造方法は、高分子フィルムの少なくとも一方の表面に、屈折率異方性材料が溶媒に溶解もしくは分散されてなる位相差強化領域形成用塗工液を塗布する塗布工程と、上記塗布工程により塗布された上記位相差強化領域形成用塗工液中の上記屈折率異方性材料を上記高分子フィルムに浸透させる浸透工程と、上記塗布工程により塗布された上記位相差強化領域形成用塗工液中の上記溶媒を乾燥させる乾燥工程とを有することを特徴とするものである。
【0129】
このような本発明の位相差フィルムの製造方法について、図面を用いて具体的に説明する。図6は、本発明の位相差フィルムの製造方法の一例を示す工程図である。図6(a)に示すように、まず高分子フィルム1上に、位相差強化領域形成用塗工液6を塗布する塗布工程が行われる。次いで、図6(b)に示すように、位相差強化領域形成用塗工液中の上記屈折率異方性材料を上記高分子フィルムに浸透させる浸透工程、および上記塗布工程により塗布された上記位相差強化領域形成用塗工液中の上記溶媒を乾燥させる乾燥工程が行われる。これにより、高分子フィルム表面から、上記位相差強化領域形成用塗工液中の屈折率異方性材料が浸透し、高分子フィルムの表面側に屈折率異方性材料が含有された位相差強化領域2が形成される。これにより高分子フィルム内には、屈折率異方性材料が含有された位相差強化領域2と、屈折率異方性材料が含有されていない基材領域5が形成される。そして、最後に図6(c)に示すように、上記位相差強化領域2側から紫外線7を照射することにより、高分子フィルム内に包含された屈折率異方性材料を重合させる固定化工程が行われることにより、位相差フィルム8が形成される。
【0130】
このような本発明の位相差フィルムの製造方法によれば、上記位相差強化領域形成用塗工液を塗布することにより、容易に位相差フィルムを形成することが可能であり、かつ上記位相差強化領域形成用塗工液の塗布量等を変更することのみで、得られる位相差フィルムのリタデーション値を変更することが可能となる。したがって、本発明によれば、少ない数量であっても容易に任意のリタデーション値を有する位相差フィルムを容易に得ることができるといった利点を有するものである。
【0131】
なお、各工程はそれぞれ2回以上行っても良い。例えば、まず高分子フィルム上に、第一の位相差強化領域形成用塗工液を塗布する塗布工程を行い、次いで、第一の位相差強化領域形成用塗工液中の第一の屈折率異方性材料を高分子フィルムに浸透させる浸透工程、および上記第一の位相差強化領域形成用塗工液中の溶媒を乾燥させる乾燥工程を行なう。
次いで、第一の位相差強化領域形成用塗工液を塗布した側の面に更に、第二の位相差強化領域形成用塗工液を塗布する塗布工程を行い、続いて、第二の位相差強化領域形成用塗工液中の第二の屈折率異方性材料を浸透させる浸透工程、および上記第二の位相差強化領域形成用塗工液中の溶媒を乾燥させる乾燥工程を行ない、第二の位相差強化領域形成用塗工液を塗布した側から固定化工程を行うことにより、位相差フィルムを形成しても良い。この場合において、例えば、第一の屈折率異方性材料として、高分子フィルムに浸透し易い重合性官能基を有しない棒状液晶性分子を用い、第二の屈折率異方性材料として重合性官能基を有する棒状液晶性分子を用いると、高分子フィルムは、位相差をより強化しやすい重合性官能基を有しない棒状液晶性分子が含有された領域と、より表面側に重合性官能基を有する棒状液晶性分子が含有された領域とが共存して形成され、より強化された位相差を有しながら、高分子フィルム表面は固定化工程により重合されて安定化されるという効果が得られる。第一の屈折率異方性材料として、重合性官能基がより少ない棒状液晶性分子を用い、第二の屈折率異方性材料として重合性官能基がより多い棒状液晶性分子を用いても、上記と同様の効果が得られる。
【0132】
また、本発明における位相差強化領域形成用塗工液を塗布する上記塗布工程と上記浸透工程と上記乾燥工程の後に、屈折率異方性材料ではないが重合性官能基を有する材料が溶媒に溶解もしくは分散されてなる塗工液を更に塗布する工程や、当該塗工液を乾燥する工程、更に重合性官能基を重合させる工程を有しても良い。この場合には、例えば位相差強化領域形成用塗工液に含まれる屈折率異方性材料が重合性官能基を有しなくても、高分子フィルムのより表面側に存在する重合性官能基を有する材料が重合して固定化されることにより、屈折率異方性材料の染み出し防止が可能で、フィルムの耐久性、安定性が付与される。
以下、本発明の位相差フィルムの製造方法について、工程毎に説明する。
【0133】
1.塗布工程
本発明における塗布工程は、高分子フィルムの少なくとも一方の表面に、屈折率異方性材料が溶媒に溶解もしくは分散されてなる位相差強化領域形成用塗工液を塗布する工程である。
本発明においては、塗布工程における位相差強化領域形成用塗工液の塗布量により、得られる位相差フィルムのリタデーション値を変化させることができる。
【0134】
本発明に用いられる位相差強化領域形成用塗工液は、少なくとも溶媒と、上記溶媒に溶解もしくは分散している屈折率異方性材料とが含有されてなるものであり、必要に応じて他の添加剤が添加される。このような添加剤としては、具体的には、用いられている屈折率異方性材料が、光硬化型のものである場合は、光重合開始剤等を挙げることができる。
その他、重合禁止剤、レベリング剤、カイラル剤、シランカップリング剤等を挙げることができる。
【0135】
上記位相差強化領域形成用塗工液に用いられる屈折率異方性材料としては、上記「A.位相差フィルム」の欄に記載されたものと同様であるので、ここでの説明は省略する。なお、屈折率異方性材料が重合性官能基を有するものであり、位相差フィルムの製造工程において、後述する固定化工程(屈折率異方性材料を重合させて高分子化させる工程)が行われたものである場合は、位相差フィルムに含有される屈折率異方性材料は所定の重合度で重合されたものであることから、厳密には位相差強化領域形成用塗工液に用いられたものと異なるものである。
【0136】
また、上記位相差強化領域形成用塗工液に用いられる溶媒としては、高分子フィルムを十分に膨潤させることが可能であり、かつ上記屈折率異方性材料を溶解もしくは分散させることができる溶媒であれば特に限定されるものではない。具体的には、高分子フィルムがTACであり、屈折率異方性材料が、末端にアクリレートを有するネマチック液晶である場合は、シクロヘキサノンが好適に用いられる。
【0137】
本発明の位相差強化領域形成用塗工液における溶媒中の屈折率異方性材料の濃度としては、特に限定されるものではないが、通常5質量%〜40質量%の範囲内、特に15質量%〜30質量%の範囲内であることが好ましい。
また、高分子フィルム上への塗工量としては、得られる位相差フィルムが要求されるリタデーション値により異なるものであるが、屈折率異方性材料の乾燥後の塗工量が0.8g/m2〜8g/m2の範囲内、特に1.6g/m2〜5g/m2の範囲内であることが好ましい。
【0138】
本工程における塗布方法は、高分子フィルム表面に位相差強化領域形成用塗工液を均一に塗布することができる方法であれば特に限定されるものではなく、バーコーティング、ブレードコーティング、スピンコーティング、ダイコーティング、スリットリバース、ロールコーティング、ディップコーティング、インクジェット法、マイクログラビア法等の方法を用いることができる。本発明においては、中でも、ブレードコーティング、ダイコーティング、スリットリバース、およびロールコーティングを用いることが好ましい。
【0139】
2.浸透工程および乾燥工程
本発明においては、上記塗布工程の後、上記塗布工程により塗布された上記位相差強化領域形成用塗工液中の上記屈折率異方性材料を上記高分子フィルムに浸透させる浸透工程、および上記塗布工程により塗布された上記位相差強化領域形成用塗工液中の上記溶媒を乾燥させる乾燥工程が行われる。
【0140】
上記浸透工程は、屈折率異方性材料が十分に高分子フィルム内に浸透し取り込まれるように塗布後の高分子フィルムを放置する工程であるが、用いる溶媒の種類等によっては、乾燥工程と同時に行ってもよい。
【0141】
上記浸透工程において、上記位相差強化領域形成用塗工液中の上記屈折率異方性材料の90重量%以上、好ましくは95重量%以上、特に好ましくは100重量%全てが高分子フィルム内に浸透し取り込まれることが好ましい。上記屈折率異方性材料が高分子フィルム内に浸透されずに高分子フィルム表面に多く残留する場合には、表面が曇ってしまいフィルムの光透過率が低下する場合があるからである。
【0142】
したがって、浸透及び乾燥工程の後の高分子フィルムは、浸透させた側の表面をJIS−K7105に準拠して測定した際のヘイズ値が、10%以下であることが好ましく、中でも2%以下、特に1%以下であることが好ましい。
【0143】
また、上記乾燥工程は、位相差強化領域形成用塗工液中の溶媒を乾燥させる工程であり、用いる溶媒の種類、浸透工程と同時に行うか否かにより温度および時間が大幅に異なる。例えば、溶媒としてシクロヘキサノンを用い、浸透工程と同時に行う場合は、通常室温〜120℃、好ましくは70℃〜100℃の範囲内の温度で、30秒〜10分、好ましくは1分〜5分程度の時間で乾燥工程が行われる。
【0144】
3.固定化工程
さらに、用いた屈折率異方性材料が重合性官能基を有する場合は、屈折率異方性材料を重合させて高分子化するために、固定化工程が行われる。このような固定化工程を行うことにより、一旦高分子フィルム内に取り込まれた屈折率異方性材料が染み出すことを防止することが可能となり、得られる位相差フィルムの安定性を向上させるものである。
【0145】
本発明における固定化工程は、用いる屈折率異方性材料により種々の方法が用いられる。例えば、屈折率異方性材料が架橋性化合物である場合は、光重合開始剤が含有されて紫外線が照射され、または電子線が照射され、熱硬化性化合物であれば加熱される。
【0146】
C.光学機能フィルム
次に、本発明の光学機能フィルムについて説明する。本発明の光学機能フィルムは、上記「A.位相差フィルム」の欄で説明した位相差フィルムに、位相差フィルム以外の光学機能層を直接貼り合わせることにより形成されたことを特徴とするものである。
なお、本発明における光学機能層は、本発明の位相差フィルムを使用する各種用途において、本発明の位相差フィルムと協働して所望の光学機能を総合的に発現するものであれば特に限定されない。本発明における光学機能層には、例えば反射防止層、紫外線吸収層、赤外線吸収層などが挙げられる。
【0147】
従って、本発明の光学機能フィルムは、上記「A.位相差フィルム」の欄で説明した位相差フィルムの機能に加えて上記のような各光学機能層の機能を併せ持つフィルムである。本発明の光学機能フィルムは、例えば光学補償などの本発明の位相差フィルムが有する機能と、例えば反射防止などの他の機能について、一つで併せ持つため、それぞれの機能を有するフィルムを別個に設ける必要が無いといった利点を有する。
【0148】
反射防止層としては、特に限定されないが、例えば、透明基材フィルム上に、該透明基材よりも低屈折率の物質からなる低屈折率層を形成したもの、或いは透明基材フィルム上に、該透明基材よりも高屈折率の物質からなる高屈折率層、及び該透明基材よりも低屈折率の物質からなる低屈折率層とを、この順に、交互に、各1層ずつ以上積層したものなどが挙げられる。これら高屈折率層、及び低屈折率層は、層の幾何学的厚と屈折率との積で表される光学厚みが反射防止すべき光の波長の1/4となるように、真空蒸着、塗工等により形成される。高屈折率層の構成材料としては、酸化チタン、硫化亜鉛等が、低屈折率層の構成材料としては、弗化マグネシウム、氷晶石等が用いられる。
【0149】
また、紫外線吸収層としては、特に限定されないが、例えば、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂等のフィルム中に、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、サリシレート系化合物等から成る紫外線吸収剤を添加して成膜したものが挙げられる。
【0150】
また、赤外線吸収層としては、特に限定されないが、例えば、ポリエステル樹脂等のフィルム基材上に赤外線吸収層を塗工等により形成したものが挙げられる。赤外線吸収層としては、例えば、ジインモニウム系化合物、フタロシアニン系化合物等から成る赤外線吸収剤を、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂等から成るバインダー樹脂中に添加して成膜したものが用いられる。
【0151】
本発明においては、上記位相差フィルムの第1の態様、すなわち、屈折率異方性材料の濃度勾配が、高分子フィルムの一方の表面側が高濃度であり、他方の表面側に向かって低濃度となる濃度勾配であり、他方の表面側が基材領域である態様の位相差フィルムが好適に用いられる。位相差フィルムに用いられる高分子フィルムの種類にもよるが、屈折率異方性材料が存在しない側の面の方が、光学機能層との接着性が良好となる場合が多いからである。
【0152】
D.偏光フィルム
次に、本発明の偏光フィルムについて説明する。本発明の偏光フィルムは、上記「A.位相差フィルム」の欄で説明した位相差フィルムに、偏光層をポリビニルアルコール(PVA)系接着剤等で直接貼り合わせることにより形成されたことを特徴とするものである。
【0153】
偏光フィルムは、通常偏光層とその両表面に保護層が形成されてなるものであるが、本発明においては、例えばその一方側の保護層を上述した位相差フィルムとすることにより、例えば光学補償機能を有する偏光フィルムとすることができる。
偏光層としては、特に限定されないが、例えばヨウ素系偏光層、二色性染料を用いる染料系偏光層やポリエン系偏光層などを用いることができる。ヨウ素系偏光層や染料系偏光層は、一般にポリビニルアルコールを用いて製造される。
【0154】
本発明においては、上記位相差フィルムの第1の態様、すなわち、屈折率異方性材料の濃度勾配が、高分子フィルムの一方の表面側が高濃度であり、他方の表面側に向かって低濃度となる濃度勾配である態様の位相差フィルムが好適に用いられる。偏光層は通常ポリビニルアルコール(PVA)からなる場合が多く、このような場合は、位相差フィルムに用いられる高分子フィルムの種類にもよるが、屈折率異方性材料が存在しない側の面の方が接着性が良好となるからである。
【0155】
D.表示装置
最後に、本発明の表示装置について説明する。本発明における表示装置としては、例えば液晶表示装置、有機EL表示装置などが挙げられる。
本発明の表示装置の第一の態様は、上述した本発明に係る位相差フィルムを、光路に配置したことを特徴とする。本発明の表示装置は、剥離等の問題がなく、適切なリタデーションを有する位相差フィルムが配置されていることにより、信頼性が高く、表示品位に優れるものである。
【0156】
図7は、本発明の表示装置のうち、液晶表示装置の一例を示す斜面図である。図7に示すように、本発明の液晶表示装置20は、入射側の偏光板102Aと、出射側の偏光板102Bと、液晶セル104とを有するものである。偏光板102A、102Bは、所定の振動方向の振動面を有する直線偏光のみを選択的に透過させるように構成されたものであり、それぞれの振動方向が相互に直角の関係になるようにクロスニコル状態で対向して配置されている。また、液晶セル104は画素に対応する多数のセルを含むものであり、偏光板102A、102Bの間に配置されている。
【0157】
ここで、液晶表示装置20において、液晶セル104は、負の誘電異方性を有するネマチック液晶が封止されたVA(Vertical Alignment)方式を採用しており、入射側の偏光板102Aを透過した直線偏光は、液晶セル104のうち非駆動状態のセルの部分を透過する際には、位相シフトされずに透過し、出射側の偏光板102Bで遮断される。これに対し、液晶セル104のうち駆動状態のセルの部分を透過する際には、直線偏光が位相シフトされ、この位相シフト量に応じた量の光が出射側の偏光板102Bを透過して出射される。これにより、液晶セル104の駆動電圧を各セル毎に適宜制御することにより、出射側の偏光板102B側に所望の画像を表示することができる。
【0158】
このような構成からなる液晶表示装置20において、液晶セル104と出射側の偏光板102B(液晶セル104から出射された所定の偏光状態の光を選択的に透過させる偏光板)との間であって、光路に上述した本発明に係る位相差フィルム10が配置されており、位相差フィルム10により、液晶セル104から出射された所定の偏光状態の光のうち液晶セル104の法線から傾斜した方向に出射される光の偏光状態を補償することができるようになっている。
【0159】
以上のとおり、上述した構成からなる液晶表示装置20によれば、液晶表示装置20の液晶セル104と出射側の偏光板102Bとの間に、上述した本発明に係る信頼性が高い位相差フィルム10を配置し、液晶セル104から出射された光のうち液晶セル104の法線から傾斜した方向に出射される光の偏光状態を補償するので、液晶表示装置20における視角依存性の問題を効果的に改善することができ、表示品位に優れ、且つ、信頼性が高いものである。
【0160】
なお、図7に示す液晶表示装置20は、光が厚さ方向の一方の側から他方の側へ透過する透過型であるが、本発明に係る表示装置の実施形態はこれに限定されるものではなく、上述した本発明に係る位相差フィルム10は反射型の液晶表示装置にも同様に組み込んで用いることができる。さらに、上述したような他の表示装置の光路にも同様に組み込んで用いることができる。
【0161】
また、図7に示す液晶表示装置20では、上述した本発明に係る位相差フィルム10を液晶セル104と出射側の偏光板102Bとの間に配置しているが、光学補償の態様によっては、位相差フィルム10を液晶セル104と入射側の偏光板102Aとの間に配置してもよい。また、位相差フィルム10を液晶セル104の両側(液晶セル104と入射側の偏光板102Aとの間、及び液晶セル104と出射側の偏光板102Bとの間)に配置してもよい。なお、液晶セル104と入射側の偏光板102Aとの間、又は液晶セル104と出射側の偏光板102Bとの間に配置される位相差フィルムは一つに限らず、複数配置されていてもよい。更に、他の光学機能フィルムが光路に配置されていても良い。
【0162】
また、本発明の表示装置の第二の態様は、上述した本発明に係る光学機能フィルムを、光路に配置したことを特徴とする。このようにすることにより、上記位相差フィルム以外の機能を有する光学機能板を別途設ける必要が無く、信頼性が高い表示品位に優れた表示装置を得ることができる。
【0163】
図8は、本発明の表示装置のうち、液晶表示装置の一例を示す斜面図である。図8に示すように、本発明の液晶表示装置30は、入射側の偏光板102Aと、出射側の偏光板102Bと、液晶セル104とを有するものである。偏光板102A、102B、及び液晶セル104は、上記図7と同様のものを用いることができ、図7と同様に配置されている。
【0164】
このような構成からなる液晶表示装置30において、液晶セル104と出射側の偏光板102Bとの間であって、光路に、上述した本発明に係る光学機能フィルム40が配置されている。当該光学機能フィルムが併せ持つ機能は特に限定されないが、光学補償機能に紫外線吸収機能を併せ持つ場合、光学機能フィルム40により、液晶セル104から出射された所定の偏光状態の光のうち液晶セル104の法線から傾斜した方向に出射される光の偏光状態を補償し、且つ外部から液晶表示装置内に入射する日光等に由来する紫外線を吸収して、液晶表示装置の耐光性を向上させることができるようになっている。
【0165】
以上のとおり、上述した構成からなる液晶表示装置30によれば、液晶表示装置30の液晶セル104と出射側の偏光板102Bとの間に、上述した本発明に係る信頼性が高い光学機能フィルム40を配置し、液晶セル104から出射された光のうち液晶セル104の法線から傾斜した方向に出射される光の偏光状態を補償するので、液晶表示装置30における視角依存性の問題を効果的に改善することができ、且つ、例えば紫外線吸収機能により耐光性を向上させることができ、表示品位に優れるものである。
【0166】
なお、本発明に係る表示装置の実施形態はこれに限定されるものではなく、上述した本発明に係る光学機能フィルム40は反射型の液晶表示装置にも同様に組み込んで用いることができる。さらに、上述したような他の表示装置の光路にも同様に組み込んで用いることができる。
【0167】
また、図8に示す液晶表示装置30では、上述した本発明に係る光学機能フィルム40を液晶セル104と出射側の偏光板102Bとの間に配置しているが、光学補償や併せ持つ機能の態様によっては、光学機能フィルム40を液晶セル104と入射側の偏光板102Aとの間に配置してもよい。また、光学機能フィルム40を液晶セル104の両側(液晶セル104と入射側の偏光板102Aとの間、及び液晶セル104と出射側の偏光板102Bとの間)に配置してもよい。又光学機能フィルム40を出射側の偏光板102Bの外側(表面側)に配置してもよい。なお、液晶セル104と入射側の偏光板102Aとの間、又は液晶セル104と出射側の偏光板102Bとの間、又は出射側の偏光板102Bの外側に配置されるフィルムは一つに限らず、複数配置されていてもよい。
【0168】
また、本発明の表示装置の第三の態様は、上述した本発明に係る偏光フィルムを、光路に配置したことを特徴とする。このようにすることにより、他に光学補償板を設ける必要が無く、信頼性が高い表示品位に優れた表示装置を得ることができる。
【0169】
図9は、本発明の表示装置のうち、液晶表示装置の一例を示す斜面図である。図9に示すように、本発明の液晶表示装置50は、入射側の偏光板102Aと、出射側に本発明に係る偏光フィルム60と、液晶セル104とを有するものである。偏光板102Aと本発明に係る偏光フィルム60は、所定の振動方向の振動面を有する直線偏光のみを選択的に透過させるように構成されたものであり、それぞれの振動方向が相互に直角の関係になるようにクロスニコル状態で対向して配置されている。また、液晶セル104は、図7と同様のものを用いることができ、偏光板102A、本発明に係る偏光フィルム60の間に配置されている。
【0170】
上述した構成からなる液晶表示装置50によれば、液晶表示装置50の液晶セル104と出射側に、上述した本発明に係る信頼性が高い偏光フィルム60を配置し、液晶セル104から出射された光のうち液晶セル104の法線から傾斜した方向に出射される光の偏光状態を補償するので、液晶表示装置50における視角依存性の問題を効果的に改善することができ、表示品位に優れ、且つ、信頼性が高いものである。
【0171】
なお、本発明に係る表示装置の実施形態はこれに限定されるものではなく、上述した本発明に係る偏光フィルム60は反射型の液晶表示装置にも同様に組み込んで用いることができる。さらに、上述したような他の表示装置の光路にも同様に組み込んで用いることができる。
【0172】
また、図9に示す液晶表示装置50では、上述した本発明に係る偏光フィルム60を液晶セル104と出射側に配置しているが、光学補償の態様によっては、液晶セル104の入射側に配置してもよい。また、本発明に係る偏光フィルム60及び60’を液晶セル104の両側に配置してもよい。なお、液晶セル104と入射側の偏光板102Aとの間、又は液晶セル104と出射側の偏光フィルム60との間に配置される別途位相差フィルムや他の光学機能フィルムを配置しても良い。
【0173】
上記においては、液晶表示装置のみを例示して説明したが、本発明に係る上記位相差フィルム、及び偏光フィルムは、他の表示装置にも用いることが可能であり、例えば、円偏光板として機能する本発明に係る上記位相差フィルム、又は偏光フィルムを光路に配置した有機EL表示装置なども挙げられる。
【0174】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0175】
以下、本発明について実施例を示して具体的に説明する。
(実施例1)
屈折率異方性材料として光重合性液晶化合物(下記化合物(1))をシクロヘキサノンに20質量%溶解させ、TACフィルム(富士写真フィルム株式会社製、商品名:TF80UL)から成る基材フィルム表面にバーコーティングにより、乾燥後の塗工量が2.5g/m2となるように塗工した。次いで、90℃で4分間加熱して溶剤乾燥除去すると共に、該光重合性液晶化合物を該TACフィルム内に浸透させた。さらに、塗工面に紫外線を照射することにより、上記光重合性液晶化合物を固定化して位相差フィルムを作製した。得られた位相差フィルムをサンプルとして、以下の項目で評価した。
【0176】
【化3】
【0177】
1.光学特性
サンプルの位相差を自動複屈折測定装置(王子計測機器株式会社製、商品名:KOBRA-21ADH)により測定した。測定光をサンプル表面に対して垂直あるいは斜めから入射して、その光学位相差と測定光の入射角度のチャートから基材フィルムの位相差を増加させる異方性を確認した。また、同測定装置により、3次元屈折率を測定した。その結果、基材フィルムの表面に平行な平面方向の屈折率をnx、ny、厚み方向の屈折率をnzとすると、下記表1に示すようにnz<nx=nyが成立しており、負のCプレートとなっているので、上の位相差の測定結果を合わせると、液晶分子の配向方向は、基材フィルムの表面に平行な面内に液晶分子が存在し、且つ該面内における配向方向がランダムであるホモジニアス配向していると考えられる。
【0178】
【表1】
【0179】
2.SEMによる断面観察
サンプルの液晶塗工面に包埋樹脂を塗布して厚み方向に切断し、サンプルの断面をSEMにより観察した。結果を図10に示す。図10から明らかなように、フィルム表面と包埋樹脂の間に層は存在しておらず、上の位相差の測定結果を合わせて、高分子フィルム中に液晶化合物が浸透したと判断した。
【0180】
3.TEMによる断面観察
サンプルの液晶塗工面に金属酸化物の表面保護を行ない、エポキシ樹脂包埋後クライオ支持台に接着した。次にクライオシステムによりダイヤモンドナイフ装着のウルトラミクロトームでトリミング/面出し、金属酸化物による蒸気染色を施し、超薄切片作製後にTEM観察を行なった。結果を図11に示す。図11から明らかなように、サンプルの屈折率異方性材料浸透側は3層(位相差強化領域のうち高濃度領域、位相差強化領域のうち中間領域、および基材領域))に分かれていることが分かった。
【0181】
4.ヘイズ
サンプルの透明性を調べるため、濁度計(日本電色工業株式会社製、商品名:NDH2000)により、JIS−K7105に準拠してヘイズ値を測定した。その結果、0.35%で良好であった。
【0182】
5.密着性試験
密着性を調べるために、剥離試験を行った。剥離試験としては、得られたサンプルに1mm角の切れ目を碁盤目状に入れ、接着テープ(ニチバン株式会社製、セロテープ(登録商標))を液晶面に貼り付け、その後テープを引き剥がし、目視により観察した。その結果、密着度は100%であった。
密着度(%)=(剥がれなかった部分/テープを貼り付けた領域)×100
【0183】
6.耐湿熱試験−1
サンプルを90℃の熱水に60分間浸し、上述した方法により光学特性及び密着性を測定した。その結果、試験前後で光学特性及び密着性の変動は見られなかった。
【0184】
7.耐湿熱試験−2
サンプルを80℃、湿度95%の環境下において、24時間静置し、上述した方法により光学特性及び密着性を測定した。その結果、試験前後で光学特性及び密着性の変動は見られなかった。また、試験後に屈折率異方性材料の染み出しも、白濁も見られなかった。
【0185】
8.耐水試験
サンプルを室温(23.5℃)下で純水に1日浸し、上述した方法により光学特性及び密着性を測定した。その結果、試験前後で光学特性及び密着性の変動は見られなかった。
【0186】
9.耐アルカリ性試験
サンプルを55℃下でアルカリ水溶液(1.5Nの水酸化ナトリウム水溶液)に3分間浸し、水洗、乾燥し、上述した方法により光学特性及び密着性を測定した。その結果、試験前後で光学特性及び密着性の変動は見られなかった。また、着色も見られなかった。
【0187】
10.厚み方向の材料濃度分布測定
GSP(精密斜め切削法)により位相差フィルムを切断して厚み方向の断面が出るようにし、飛行時間型二次イオン質量分析計(TOF−SIMS)(装置:Physical Electronics社製TFS−2000)を用いて、切削面における厚み方向の材料の濃度分布を測定した。測定条件は、2次イオン極性を正及び負、質量範囲(M/Z)を0〜1000、ラスターサイズを180μm□、測定時間を3分、エネルギーフィルターなし、コントラストダイアフラムを0#、後段加速を5kV、測定真空度は4×10-7Pa(3×10−9Torr、1次イオン種をGa+、1次イオンエネルギーを25k
V、試料電位を+3.2kV、パルス周波数を8.3kHz、パルス幅を12ns、バンチングなし、帯電中和あり、時間分解能を1.1ns/chとした。
【0188】
測定結果として、正2次イオンスペクトルにおいて、屈折率異方性材料の塗工面で強く測定された27、55、104、121、275amuを屈折率異方性材料由来ピークとし、塗工しなかった裏面で強く測定された15、43、327amuをTACフィルム由来ピークとして、これらのピーク強度のそれぞれの和を総2次イオン強度で規格化した値を縦軸に、屈折率異方性材料の塗工面をゼロとして厚み方向を横軸にとったプロファイルを図12に示す。但し、27、55amuはTACフィルムからも観測されたため、屈折率異方性材料由来ピークとした正2次イオンにはTACフィルムの寄与も一部含まれる。
【0189】
また、同様に、負2次イオンスペクトルにおいて、屈折率異方性材料の塗工面で強く測定された13、26、118、217amuを屈折率異方性材料由来ピークとし、塗工しなかった裏面で強く測定された16、59amuをTACフィルム由来ピークとして、これらのピーク強度のそれぞれの和を総2次イオン強度で規格化した値を縦軸に、屈折率異方性材料の塗工面をゼロとして厚み方向を横軸にとったプロファイルを図13に示す。但し、13amuはTACフィルムからも観測されたため、屈折率異方性材料由来ピークとした負2次イオンにはTACフィルムの寄与も一部含まれる。
【0190】
正2次イオンスペクトル及び負2次イオンスペクトルの厚み方向のプロファイルの結果において、いずれも塗工面から1.5μmあたりまでは、屈折率異方性材料の濃度が比較的高く且つ濃度勾配が緩やかな領域であり、1.5μmあたり〜3μmあたりに屈折率異方性材料の濃度が減衰して濃度勾配が急な領域が存在し、さらに3μmあたりから屈折率異方性材料が殆ど含まれない基材領域が存在することが明らかになった。これは、屈折率異方性材料浸透側が3層(位相差強化領域のうち高濃度領域、位相差強化領域のうち中間領域、および基材領域)に分かれていることが観測されたTEMによる断面観察の結果と一致する。
【0191】
(実施例2)
実施例1において、溶媒をシクロヘキサノンとメチルエチルケトン(MEK)の混合溶媒(溶媒比7:1)にしたこと以外は実施例1と同様にして位相差フィルムを作製した。得られた位相差フィルムを実施例1と同様に、光学特性、密着性、耐湿熱試験、および耐水試験を行った結果、実施例1と同様の結果が得られた。
【0192】
(実施例3)
実施例1において、溶媒をシクロヘキサノンとMEKの混合溶媒(溶媒比7:1)にし、塗布方法をダイコーティングとした以外は、実施例1と同様にして位相差フィルムを作製した。得られた位相差フィルムを実施例1と同様に評価した。その結果、実施例1と同様の結果が得られた。
【0193】
(実施例4)
実施例1により得られた位相差フィルムの位相差強化領域表面および基材領域表面の接触角を測定した。具体的には、接触角測定器(協和界面科学株式会社製、CA-Z型)により位相差強化領域表面および基材領域表面(TAC面)の純水に対する接触角を測定した。接触角は、測定面に0.1mlの純水を滴下30秒後に測定した。その結果、位相差強化領域表面が62.6°、基材領域表面が57.3°であり、位相差強化領域表面の方が高い値となっており、位相差強化領域でない表面の方が親水性を有するという結果が得られた。
【0194】
(実施例5)
実施例1において、乾燥後の塗工量を2.0、2.6、3.2、3.8 g/m2に変えてサンプルを作製し、同様の評価を行った。その結果、同様の結果が得られた。さらに、塗工量と位相差(法線方向に対して30°の角度で測定したリタデーション値:30°Re)には図14に示すようにリニアな関係が見られ、塗布量で位相差を制御できることが分った。
【0195】
(実施例6)
屈折率異方性材料として光重合性液晶化合物(下記化合物(1))を、シクロヘキサノンとn−プロピルアルコールの混合溶媒(溶媒比9:1)に20質量%溶解させ、TACフィルム(富士写真フィルム株式会社製、商品名:TF80UL)から成る基材フィルム表面にバーコーティングにより、乾燥後の塗工量が片面1g/m2となるように、両面に塗工した。次いで、70℃で4分間加熱して溶剤を乾燥除去すると共に、該光重合性液晶化合物を該TACフィルム内に浸透させた。さらに、塗工面に紫外線を照射することにより、上記光重合性液晶化合物を固定化した。
【0196】
サンプルの位相差を自動複屈折測定装置(王子計測機器株式会社製、商品名:KOBRA-21ADH)により測定した。測定光をサンプル表面に対して垂直あるいは斜めから入射して、その光学位相差と測定光の入射角度のチャートから基材フィルムの位相差を増加させる異方性を確認した。図15に位相差角度依存性について示す。
また、実施例1と同様にヘイズ値を測定したところ、0.7%であった。
【0197】
(実施例7)
乾燥後の塗工量が片面3g/m2となるように、基材フィルムの片面に塗工した以外、実施例6と同様にして位相差フィルムを作成した。
サンプルの位相差を自動複屈折測定装置(王子計測機器株式会社製、商品名:KOBRA-21ADH)により測定した。図15に併せて位相差角度依存性について示す。
また、実施例1と同様にヘイズ値を測定したところ、0.5%であった。
【0198】
実施例6と実施例7を比較すると、図15に示されるように、同程度の位相差を得る場合に、両面に塗工して両面に位相差強化領域を設ける方が、片面のみに塗工して片面のみに位相差強化領域を設けるよりも、屈折率異方性材料の総塗工量を少なくすることができるというメリットがあることがわかった。
【0199】
(実施例8)
屈折率異方性材料として実施例1と同じ光重合性液晶化合物(上記化合物(1))をシクロヘキサノンに20質量%溶解させ、幅650mm、長さ30mの長尺状TACフィルム(富士写真フィルム株式会社製、商品名:TF80UL)から成る基材フィルム表面に、各乾燥後の塗工量が3g/m2となるように塗工した。次いで、90℃で4分間加熱して溶剤を乾燥除去すると共に、該光重合性液晶化合物を該TACフィルム内に浸透させた。さらに、塗工面に紫外線を照射することにより、上記光重合性液晶化合物を固定化して本発明に係る位相差フィルムを作製した。3mに切り出した長尺状位相差フィルムを最小直径が31mmであるようにロール状に巻いた形態にして、23℃で1ヶ月間保存した。その結果、位相差フィルムの表面は保存前後で変動が見られず、クラックの発生はなく、巻いたフィルム間での貼り付きもなかった。
【0200】
(実施例9)
屈折率異方性材料として光重合性液晶化合物(上記化合物(1))をシクロヘキサノンに20質量%溶解させ、一軸延伸COP(シクロオレフィンポリマー)フィルム(JSR株式会社製、商品名:ARTON)にバーコーティングにより塗工量が3g/m2となるように塗工した。次いで、50℃で2分間加熱して溶剤を除去した。さらに、塗工面に紫外線を照射することにより、上記光重合性液晶化合物を固定化し、90℃で2分間加熱することにより残留溶媒を除去して位相差フィルムを作製した。得られた位相差フィルムをサンプルとして、以下の項目で評価した。
【0201】
1.光学特性
サンプルの位相差を自動複屈折測定装置(王子計測機器株式会社製、商品名:KOBRA-21ADH)により測定した。測定光をサンプル表面に対して垂直あるいは斜めから入射して、その光学位相差と測定光の入射角度のチャートから基材フィルムの位相差を増加させる異方性を確認した。また、同測定装置により、3次元屈折率を測定した。その結果を表2に示す。
【0202】
【表2】
【0203】
2.SEMによる断面観察
サンプルの断面をSEMにより観察した結果を図16に示す。図16から明らかなように、サンプル中に位相差強化領域と高分子フイルムとの境界は存在しておらず、上の位相差の測定結果を合わせて、高分子フィルム中に液晶化合物が浸透したと判断した。
【0204】
3.ヘイズ
サンプルの透明性を調べるため、実施例1と同様の方法によりヘイズ値を測定した。その結果、0.3%以下と良好であった。
【0205】
4.密着性試験
密着性を調べるために、実施例1と同様の方法により剥離試験を行った。その結果、密着度は100%であった。
【0206】
5.耐湿熱試験
実施例1における耐湿熱試験−1と同様の方法により、耐湿熱試験を行った。その結果、試験前後で光学特性及び密着性の変動は見られなかった。
【0207】
6.耐水試験
実施例1と同様の方法により耐水試験を行った。その結果、試験前後で光学特性及び密着性の変動は見られなかった。
【0208】
(実施例10)
未延伸COPフィルム(JSR株式会社製、商品名:ARTON)に実施例9と同様の方法により、位相差フィルムを作製した。実施例9と同様の評価を行った結果、光学特性(3次元屈折率)が、表3に示す結果となったこと以外は、実施例9と同様な結果が得られた。
【0209】
【表3】
【0210】
1…高分子フィルム
2…位相差強化領域
3…表面側
4…反対側の表面側
5…基材領域
6…位相差強化領域形成用塗工液
7…紫外線
8…位相差フィルム
9…中間領域
10…位相差フィルム
20、30、50…液晶表示装置
40…光学機能フィルム
60…偏光フィルム
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子フィルム内に屈折率異方性を有する材料が含有されてなる位相差フィルムであって、前記屈折率異方性を有する材料が、前記高分子フィルムの厚み方向に濃度勾配を有し、
前記屈折率異方性を有する材料が、重合性官能基を有するものと重合性官能基を有しないものを含むことを特徴とする位相差フィルム。
【請求項2】
前記高分子フィルムは、屈折率に規則性を有するものであることを特徴とする請求項1に記載の位相差フィルム。
【請求項3】
前記屈折率異方性を有する材料が、液晶性を有する材料であることを特徴とする請求項1乃至2のいずれか記載の位相差フィルム。
【請求項4】
前記屈折率異方性を有する材料の分子構造が、棒状であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の位相差フィルム。
【請求項5】
前記屈折率異方性を有する材料の前記高分子フィルムの厚み方向の濃度勾配が、前記高分子フィルムの一方の表面側が高濃度であり、他方の表面側に向かって低濃度となる濃度勾配であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の位相差フィルム。
【請求項6】
前記位相差フィルムの純水に対する接触角が、一方の表面と他方の表面とで異なることを特徴とする請求項5に記載の位相差フィルム。
【請求項7】
前記屈折率異方性を有する材料の前記高分子フィルムの厚み方向の濃度勾配が、前記高分子フィルムの両表面側が高濃度であり、中央部に向かって低濃度となる濃度勾配であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の位相差フィルム。
【請求項8】
前記屈折率異方性を有する材料の濃度勾配が緩やかな領域と、前記屈折率異方性を有する材料の濃度勾配が急な領域を有することを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の位相差フィルム。
【請求項9】
前記屈折率異方性を有する材料が含有されてない領域を有することを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の位相差フィルム。
【請求項10】
前記フィルムの面内方向における遅相軸方向の屈折率をnx、フィルム面内方向における進相軸方向の屈折率をny、及びフィルムの厚み方向の屈折率をnz、並びに厚みをdとし、Rth[nm]={(nx+ny)/2−nz}×dで表されるRthを厚み方向リタデーションとした時に、前記厚み方向リタデーションが70〜300nmであることを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の位相差フィルム。
【請求項11】
JIS−K7105に準拠して測定した際のヘイズ値が1%以下であることを特徴とする請求項1乃至10のいずれかに記載の位相差フィルム。
【請求項12】
前記位相差フィルムの可視光領域におけるリタデーション値が、短波長側の方が長波長側よりも大きいことを特徴とする請求項1乃至11のいずれかに記載の位相差フィルム。
【請求項13】
前記位相差フィルムの可視光領域におけるリタデーション値が、長波長側の方が短波長側よりも大きいことを特徴とする請求項1乃至11のいずれかに記載の位相差フィルム。
【請求項14】
前記位相差フィルムの波長550nmで測定した厚み方向リタデーション(Rth)のフィルム面方向におけるばらつきがRthの平均値を基準として±5nmの範囲内であることを特徴とする請求項1乃至13のいずれかに記載の位相差フィルム。
【請求項15】
請求項1乃至14のいずれかに記載の単層の位相差フィルム2枚以上を、互いに貼り合わせてなることを特徴とする位相差フィルム。
【請求項16】
請求項1乃至15のいずれかに記載の位相差フィルムを、位相差フィルム以外の光学機能層と直接貼り合わせてなることを特徴とする光学機能フィルム。
【請求項17】
請求項1乃至15のいずれかに記載の位相差フィルムを、偏光層と直接貼り合わせてなることを特徴とする偏光フィルム。
【請求項18】
請求項1乃至15のいずれかに記載の位相差フィルム、請求項16に記載の光学機能フィルム、又は、請求項17に記載の偏光フィルムのいずれかを、光路に配置したことを特徴とする表示装置。
【請求項1】
高分子フィルム内に屈折率異方性を有する材料が含有されてなる位相差フィルムであって、前記屈折率異方性を有する材料が、前記高分子フィルムの厚み方向に濃度勾配を有し、
前記屈折率異方性を有する材料が、重合性官能基を有するものと重合性官能基を有しないものを含むことを特徴とする位相差フィルム。
【請求項2】
前記高分子フィルムは、屈折率に規則性を有するものであることを特徴とする請求項1に記載の位相差フィルム。
【請求項3】
前記屈折率異方性を有する材料が、液晶性を有する材料であることを特徴とする請求項1乃至2のいずれか記載の位相差フィルム。
【請求項4】
前記屈折率異方性を有する材料の分子構造が、棒状であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の位相差フィルム。
【請求項5】
前記屈折率異方性を有する材料の前記高分子フィルムの厚み方向の濃度勾配が、前記高分子フィルムの一方の表面側が高濃度であり、他方の表面側に向かって低濃度となる濃度勾配であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の位相差フィルム。
【請求項6】
前記位相差フィルムの純水に対する接触角が、一方の表面と他方の表面とで異なることを特徴とする請求項5に記載の位相差フィルム。
【請求項7】
前記屈折率異方性を有する材料の前記高分子フィルムの厚み方向の濃度勾配が、前記高分子フィルムの両表面側が高濃度であり、中央部に向かって低濃度となる濃度勾配であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の位相差フィルム。
【請求項8】
前記屈折率異方性を有する材料の濃度勾配が緩やかな領域と、前記屈折率異方性を有する材料の濃度勾配が急な領域を有することを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の位相差フィルム。
【請求項9】
前記屈折率異方性を有する材料が含有されてない領域を有することを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の位相差フィルム。
【請求項10】
前記フィルムの面内方向における遅相軸方向の屈折率をnx、フィルム面内方向における進相軸方向の屈折率をny、及びフィルムの厚み方向の屈折率をnz、並びに厚みをdとし、Rth[nm]={(nx+ny)/2−nz}×dで表されるRthを厚み方向リタデーションとした時に、前記厚み方向リタデーションが70〜300nmであることを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の位相差フィルム。
【請求項11】
JIS−K7105に準拠して測定した際のヘイズ値が1%以下であることを特徴とする請求項1乃至10のいずれかに記載の位相差フィルム。
【請求項12】
前記位相差フィルムの可視光領域におけるリタデーション値が、短波長側の方が長波長側よりも大きいことを特徴とする請求項1乃至11のいずれかに記載の位相差フィルム。
【請求項13】
前記位相差フィルムの可視光領域におけるリタデーション値が、長波長側の方が短波長側よりも大きいことを特徴とする請求項1乃至11のいずれかに記載の位相差フィルム。
【請求項14】
前記位相差フィルムの波長550nmで測定した厚み方向リタデーション(Rth)のフィルム面方向におけるばらつきがRthの平均値を基準として±5nmの範囲内であることを特徴とする請求項1乃至13のいずれかに記載の位相差フィルム。
【請求項15】
請求項1乃至14のいずれかに記載の単層の位相差フィルム2枚以上を、互いに貼り合わせてなることを特徴とする位相差フィルム。
【請求項16】
請求項1乃至15のいずれかに記載の位相差フィルムを、位相差フィルム以外の光学機能層と直接貼り合わせてなることを特徴とする光学機能フィルム。
【請求項17】
請求項1乃至15のいずれかに記載の位相差フィルムを、偏光層と直接貼り合わせてなることを特徴とする偏光フィルム。
【請求項18】
請求項1乃至15のいずれかに記載の位相差フィルム、請求項16に記載の光学機能フィルム、又は、請求項17に記載の偏光フィルムのいずれかを、光路に配置したことを特徴とする表示装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図12】
【図13】
【図14】
【図17】
【図4】
【図5】
【図10】
【図11】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図12】
【図13】
【図14】
【図17】
【図4】
【図5】
【図10】
【図11】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2012−83761(P2012−83761A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−244332(P2011−244332)
【出願日】平成23年11月8日(2011.11.8)
【分割の表示】特願2011−224793(P2011−224793)の分割
【原出願日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月8日(2011.11.8)
【分割の表示】特願2011−224793(P2011−224793)の分割
【原出願日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】
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