説明

位相差フィルムの製造方法

【課題】従来品よりもReが高くRthが低い位相差フィルムを高速で製造する。
【解決手段】ドープを流延ドラム32に流延して、この流延ドラム32により流延膜33を冷却して固化する。流延膜33を溶媒が含まれた状態のフィルム12として剥ぎ取る。剥ぎ取ったフィルム12を第1乾燥室19で乾燥する。第1乾燥室19では、フィルム12をバンド46に連続的に接触させて、このバンド46を介してローラ43により加熱して乾燥させる。そして溶媒残留率が120重量%に達したらテンタ18で拡幅し位相差フィルム17とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相差フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
位相差フィルムは、液晶ディスプレイにおける液晶層の位相差と合わせることにより、液晶層を通過した後の楕円偏光を直線偏光に近い状態へ変換するものである。そして、液晶層の位相差は一律ではなく、様々である。そのために、用いる液晶層に応じて、組み合わせるべき位相差フィルムを選択する必要がある。
【0003】
位相差フィルムとして用いられるポリマーフィルムには、様々なものがあり、例えば、セルロースアシレートフィルム、環状ポリオレフィンフィルム、ポリカーボネートフィルム等がある。これらのポリマーフィルムは、所定の方向に引っ張るという延伸工程を経て、位相差フィルムとされる。長尺のポリマーフィルムを延伸する場合には、例えば、ポリマーフィルムの側端部をクリップ等の保持手段により保持して、幅方向に張力を付与する。
【0004】
延伸工程は、フィルムの製造過程で、あるいは製造された後に、実施される。ポリマーフィルムの製造方法としては、周知のように、溶融製膜方法と溶液製膜方法とがあり、溶融製膜方法は、ペレットや粉末等のポリマーを、加熱して溶融し、これを薄膜状に成形し、押出機から押し出されたポリマーフィルムを搬送しながら冷却する方法である。一方、溶液製膜方法では、ポリマーを溶剤に溶解してつくったドープを、流延支持体に流延して流延膜を形成し、この流延膜を流延支持体から剥がす。流延膜は溶媒が蒸発しきらないうちに流延支持体から剥がされ、搬送されながら乾燥される。
【0005】
溶融製膜における製造過程で延伸工程を実施する場合には、押出機から押し出されたポリマーフィルムにつき延伸工程を実施する。溶液製膜における製造過程で延伸工程を実施する場合には、溶媒残留率が極めて小さくなった後に延伸工程を実施することが多い。例えば、流延支持体の流延膜を溶媒残留率が70〜160質量%の範囲になるまで乾燥してからフィルムとして剥がし、溶媒残留率が10〜50質量%の範囲になるまでこのフィルムを乾燥してから延伸する方法が提案されている(例えば、特許文献1)。また、延伸工程を、製造されたポリマーフィルムに関して実施する場合には、ロール状に巻かれたポリマーフィルムを送出手段により繰り出して、加熱下で延伸する。製造過程と製造後とのいずれで延伸する場合であっても、位相差フィルムとしての光学特性の観点からは、溶融製膜よりも溶液製膜の方が優れる。
【0006】
そして、位相差フィルムは、液晶ディスプレイの急激な需要の伸びにより、増産傾向にある。しかし、製造設備を増やすには多大なコストと稼働開始までの時間とがかかることから、既存設備を使用しての増産が望まれる。溶液製膜では、流延膜を支持体上で乾燥することにより固化して剥ぎ取るという方法(以下、乾燥流延法と称する)と、流延膜を支持体上で冷却することにより固化して剥ぎ取るという方法(以下、冷却流延法と称する)とがあり、生産効率、すなわち単位時間あたりの生産量を比べると冷却流延法の方が優れる。そこで、乾燥流延に比べて溶媒残留率が高いフィルムを搬送する冷却流延法については、より高速での搬送の安定性を図るために、流延支持体から剥ぎ取ったフィルムをローラで搬送方向にテンションを加えながら搬送するとともに、剥ぎ取ってから20秒間は30〜80℃の乾燥風で乾燥し、この後で延伸工程を実施するという方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2002−311245号公報
【特許文献2】特開平5−185445号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年では様々な液晶層が提案されてきており、最近では、面方向におけるレタデーションReが従来品並みあるいは従来品よりも高く、厚み方向におけるレタデーション値Rthが従来品よりも低い、という高Reかつ低Rthの位相差フィルムが望まれる場合がある。例えば、Reが50nm以上、かつRthが120nm以下である位相差フィルムや、Rth/Reが従来の位相差フィルムよりも1に近い値である1.5以上2.5以下である位相差フィルムが望まれる場合がある。なお、ここで面方向とはすなわち、フィルムの厚み方向とは垂直な面の方向であり、ReとRthとは周知のように下記の式(1)、(2)で表される。
Re=(Nx−Ny)×d・・・(1)
Rth={(Nx+Ny)/2−Nz}×d・・・(2)
ここで、Nxは位相差フィルムの面での遅相軸方向であるX軸における屈折率、Nyは進相軸方向であるY軸における屈折率、Nzは厚み方向であるZ軸における屈折率であり、dはフィルムの厚み(nm)である。
【0008】
Reを大きくするには、延伸工程でフィルムを幅方向に拡幅するように延伸する必要がある。しかし、冷却流延法では、上記のように生産速度を上げるには適した方法ではあるものの、延伸工程で幅方向にフィルムを引っ張るとReのみならずRthもが高くなりやすいという傾向がある。そして、生産速度を上げるにつれて、流延支持体からの剥ぎ取り時における溶媒残留率が高くなってしまうことになり、剥ぎ取り時に付与すべき剥ぎ取り力がより強くなる。剥ぎ取り力は、フィルムの搬送方向にかかる力であるので、フィルムは搬送方向、すなわち長手方向に伸びることになる。また、このときの伸び率が大きくなればなるほどフィルムは自重でよりたるみやすくなるので、引用文献2のように搬送方向での張力をかけて、さらにその張力をより強くしなければならなくなる。このように剥ぎ取り時や剥ぎ取り直後の搬送時における搬送方向での張力付与は、フィルムの搬送方向にポリマーの分子を配向させてしまう。ポリマー分子の搬送方向における配向が大きいほど、延伸工程でのRthの上昇度はさらに大きなものとなってしまう。
【0009】
また、特許文献1でも、延伸工程での幅方向における張力付与でReを上げるに伴いRthも上昇してしまうという問題は冷却流延の場合と同じである。また、特許文献1の方法は、乾燥流延である以上は冷却流延ほどの生産速度のアップは望めない。
【0010】
そこで、本発明では、上記問題に鑑み、Rthが低く抑えられてReが高い位相差フィルムを、高速で製造することができる位相差フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明は、ポリマーと溶媒とを含むドープを、支持体上に流延ダイから連続的に流出して流延膜とし、この流延膜を前記支持体からフィルムとして剥ぎ取り、乾燥して拡幅することにより位相差フィルムとする位相差フィルムの製造方法において、周方向に回転し周面が冷却されたドラムを前記支持体として用いることにより、流延膜を冷却して固化し、ドラムからフィルムとして剥ぎ取るフィルム形成工程と、前記溶媒が蒸発して溶媒残留率が120重量%に達した後のフィルムの両側端部を保持手段により保持してフィルムを拡幅して位相差フィルムとする拡幅工程と、前記保持手段を有する拡幅装置の上流に備えられ、フィルムと連続的に接するような接触面を有し、接触面との接触によりフィルムを加熱する加熱手段により、拡幅工程に至るまでのフィルムを乾燥する接触乾燥工程と、を有することを特徴として構成されている。
【0012】
上記の製造方法では、拡幅工程の拡幅開始時における前記フィルムの幅をL1、拡幅終了時における前記フィルムの幅をL2とするときに、100×(L2−L1)/L1で求める拡幅率(単位;%)が15%以上60%以下の範囲であることが好ましい。前記ポリマーをセルロースアシレートとし、前記加熱手段によりフィルムの温度を50℃以上120℃以下の範囲とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、Rthが低く抑えられてReが高い位相差フィルムを、高速で製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明の実施様態について詳細に説明する。ただし、本発明はここに挙げる実施様態に限定されるものではない。
【0015】
ポリマーとしては、溶液製膜方法により位相差フィルムとすることができる公知のポリマーを用いることができる。ポリマーの中でもセルロースアシレートが好ましく、セルロースアシレートの中でも、セルロースの水酸基をカルボン酸でエステル化している割合、つまりアシル基の置換度(以下、アシル基置換度と称する)が下記式(I)〜(III)の全ての条件を満足するものがより好ましい。なお、(I)〜(III)において、A及びBはともにアシル基置換度であり、Aにおけるアシル基はアセチル基であり、Bにおけるアシル基は炭素原子数が3〜22のものである。
2.5≦A+B≦3.0・・・(I)
0≦A≦3.0・・・(II)
0≦B≦2.9・・・(III)
【0016】
セルロースを構成しβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位、3位および6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部がエステル化されて、水酸基の水素が炭素数2以上のアシル基に置換された重合体(ポリマー)である。なお、グルコース単位中のひとつの水酸基のエステル化が100%されていると置換度は1であるので、セルロースアシレートの場合には、2位、3位および6位の水酸基がそれぞれ100%エステル化されていると置換度は3となる。
【0017】
ここで、グルコース単位の2位のアシル基置換度をDS2、3位のアシル基置換度をDS3、6位のアシル基置換度をDS6とする。DS2+DS3+DS6で求められる全アシル基置換度は2.00〜3.00であることが好ましく、2.22〜2.90であることがより好ましく、2.40〜2.88であることがさらに好ましい。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)は0.32以上であることが好ましく、0.322以上であることがより好ましく、0.324〜0.340であることがさらに好ましい。
【0018】
アシル基は1種類だけでもよいし、あるいは2種類以上であってもよい。アシル基が2種類以上であるときには、そのひとつがアセチル基であることが好ましい。2位、3位及び6位の水酸基の水素のアセチル基による置換度の総和をDSAとし、2位、3位及び6位におけるアセチル基以外のアシル基による置換度の総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は2.2〜2.86であることが好ましく、2.40〜2.80であることが特に好ましい。DSBは1.50以上であることが好ましく、1.7以上であることが特に好ましい。そして、DSBはその28%以上が6位水酸基の置換基であることが好ましいが、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは31%以上、特に好ましくは32%以上が6位水酸基の置換基であることが好ましい。また、セルロースアシレートの6位のDSA+DSBの値が0.75以上であることが好ましく、0.80以上であることがより好ましく、0.85以上であることが特に好ましい。以上のようなセルロースアシレートを用いることにより、溶解性が好ましいドープや、粘度が低く、ろ過性がよいドープを製造することができる。特に非塩素系有機溶媒を用いる場合には、上記のようなセルロースアシレートが好ましい。
【0019】
炭素数が2以上であるアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でもよく、特に限定されない。例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステルあるいは芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどがあり、これらは、それぞれさらに置換された基を有していてもよい。プロピオニル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、iso−ブタノイル基、t−ブタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などを挙げることが出来る。これらの中でも、プロピオニル基、ブタノイル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、t−ブタノイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などがより好ましく、プロピオニル基、ブタノイル基が特に好ましい。
【0020】
なお、セルロースアシレートの詳細については、特開2005−104148号公報の[0140]段落から[0195]段落に記載されており、これらの記載は本発明にも適用することができる。
【0021】
ドープには、レタデーション上昇剤を含ませることができる。レタデーション上昇剤は、特に限定されず、例えば、特開2006−235483号公報の段落[0030]〜[0142]に記載されるものを用いることができる。また、溶媒及び可塑剤,劣化防止剤,紫外線吸収剤,光学異方性コントロール剤,染料,マット剤,剥離剤等の添加剤についても、同じく特開2005−104148号公報の[0196]段落から[0516]段落に詳細に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0022】
ドープを製造するための溶媒としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン,トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン,クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール,エタノール,n−プロパノール,n−ブタノール,ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン,メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸プロピルなど)及びエーテル(例えば、テトラヒドロフラン,メチルセロソルブなど)などが例示される。なお、ここで、ドープとはポリマーを溶媒に溶解または分散媒に分散して得られるポリマー溶液または分散液である。
【0023】
セルロースアシレートの溶媒としては、これらの溶媒の中でも炭素原子数1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく、ジクロロメタンが最も好ましい。そして、TACの溶解性、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、フィルムの機械的強度、フィルムの光学特性等の特性の観点から、炭素原子数1〜5のアルコールを一種ないし数種類を、ジクロロメタンに混合して用いることが好ましい。このとき、アルコールの含有量は、溶媒全体に対し2重量%〜25重量%であることが好ましく、5重量%〜20重量%であることがより好ましい。アルコールの好ましい具体例としては、メタノール,エタノール,n−プロパノール,イソプロパノール,n−ブタノール等が挙げられるが、中でも、メタノール,エタノール,n−ブタノール、あるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0024】
環境に対する影響を最小限に抑えることを目的にした場合には、ジクロロメタンを用いずにドープを製造してもよい。この場合の溶媒としては、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステルが好ましく、これらを適宜混合して用いることがある。これらのエーテル、ケトン及びエステルは、環状構造を有するものであってもよい。また、エーテル、ケトン及びエステルの官能基(すなわち、−O−,−CO−及び−COO−)のいずれかを二つ以上有する化合物も、溶媒として用いることができる。また、溶媒は、例えばアルコール性水酸基のような他の官能基を化学構造中に有するものであってもよい。
【0025】
流延すべきドープの製造方法は特に限定されない。しかし、後述のように、本発明では、流延されたドープからなる流延膜を冷却により固化させて剥ぎ取るために、流延膜を乾燥して剥ぎ取る場合のドープよりも、セルロースアシレート等の固形分の濃度が高くなるように、ドープを製造することが好ましい。この方法としては、いわゆるフラッシュ濃縮法を用いることが好ましい。フラッシュ濃縮法とは、目的とする濃度よりも低い濃度のドープを一旦つくり、このドープ11を公知のフラッシュ装置で吹き出させることにより溶媒の一部を蒸発させる方法である。
【0026】
流延すべきドープは、セルロースアシレートの濃度が5重量%〜40重量%であることが好ましく、15重量%以上30重量%以下の範囲とすることがより好ましく、17重量%以上25重量%以下の範囲とすることがさらに好ましい。
【0027】
なお、TACフィルムを得る溶液製膜法における素材、原料、添加剤の溶解方法、ろ過方法、脱泡、添加方法については、特開2005−104148号公報の[0517]段落から[0616]段落が詳しく、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0028】
[フィルム製造設備及び方法]
図1は位相差フィルムを製造するための溶液製膜設備10を示す概略図である。ただし、本発明は、この溶液製膜設備10に限定されるものではない。以下の説明では、ドープのポリマー成分としてセルロースアシレートを用いる場合を例として記載するが、他のポリマーを用いてもよい。溶液製膜設備10には、ドープ11を流延してセルロースアシレートフィルム(以下、単にフィルムと称する)12とする流延室13と、フィルム12の両側端部を保持してフィルム12を拡幅して位相差フィルム17するテンタ18と、テンタ18に導入する前のフィルム12につき乾燥をすすめる第1乾燥室19と、位相差フィルム17の両側端部を切り離す耳切装置21と、位相差フィルム17を複数のローラ22に掛け渡して搬送しながら乾燥する第2乾燥室23と、位相差フィルム17を冷却するための冷却室25と、位相差フィルム17の帯電量を減らすための除電装置26と、側端部にエンボス加工を施すナーリング付与ローラ対27と、位相差フィルム17を巻き取る巻取室28とが備えられる。
【0029】
流延室13には、案内されてきたドープ11を連続的に流出する流延ダイ31と、周面にドープ11が流延されるように流延ダイ31のドープ流出口に対向して備えられ、周方向に回転する支持体としての流延ドラム32とを備える。
【0030】
流延ダイ31には、流延ドラム32に向けて流出するドープ11の温度が所定温度に保持されるように、流延ダイ31の温度を制御する温度コントローラ(図示なし)が取り付けられる。流延ドラム32は、駆動手段(図示せず)により回転する。周方向に回転する流延ドラム32の上に流延ダイ31から連続的にドープ11を流出することにより、流延ドラム32の周面でドープ11が流延されて流延膜33が形成される。
【0031】
流延ドラム32には、流延ドラム32に所定の温度の伝熱媒体を供給して、流延ドラム32の周面温度を制御する伝熱媒体循環装置36が備えられる。流延ドラム32の内部には、伝熱媒体の流路(図示せず)が形成されており、その流路中を、伝熱媒体が通過することにより、流延ドラム32の周面の温度が所定の値に保持されるものとなっている。流延ドラム32の表面温度は、溶媒の種類、固形成分の種類、ドープ11の濃度等に応じて適宜設定する。流延ドラム32は、回転速度むらが所定の回転速度の0.2%以内となるように高精度で回転できるものであることが好ましい。
【0032】
流延ドラム32の回転方向における流延ダイ31の上流側には、空気を吸引する減圧チャンバ37が備えられる。減圧チャンバ37による空気の吸引により、ビードとして流出されたドープ11の上流側のエリアを減圧して下流側のエリアよりも低い圧力にする。
【0033】
流延室13には、その内部温度を所定の値に保つための温調装置38と、ドープ11及び流延膜33から蒸発した溶媒を凝縮回収するための凝縮器(コンデンサ)41とが設けられる。そして、凝縮液化した溶媒を回収するための回収装置42が流延室13の外部には設けられてある。
【0034】
第1乾燥室19には、フィルム16の搬送方向に複数並ぶように配される複数のローラ43と、これらのローラ43に支持されてフィルム16に連続的に接する無端のバンド46と、ローラ43の周面温度を制御することによりバンド46を介してフィルム16の温度を調節する温度コントローラ47とが備えられる。複数のローラ43のうち最も上流のひとつと最も下流のひとつとの少なくともいずれか一方は駆動ローラとされ、この駆動ローラの回転によりバンド46が走行する。複数のローラ43で決定されるバンド46の走行路は、フィルム12と連続的に接する接触区間と、接触終了からふたたび接触を開始するまでの非接触区間とからなり、バンド46はこれらの接触区間と非接触区間とを循環走行する。すなわち、バンド46の一方の面は接触区間でフィルム12と連続的に接するようにフィルム12の搬送方向に長く形成された接触面であり、バンド46はこの接触面上にフィルム12を載せて搬送するようにローラ43で支持される。そして、この接触面との接触によりフィルム12の温度が調整される。
【0035】
テンタ18には、フィルム12の搬送方向に延び、温度調整された空気をフィルム12に対して吹き出す送風ダクト51が備えられる。この送風ダクト51には、フィルム12の幅方向に延びるスリットが形成されており、このスリットから空気が流出する。
【0036】
耳切装置21には、切り取られた位相差フィルム17の側端部屑を細かく切断処理するためのクラッシャ52が備えられる。
【0037】
第2乾燥室23には、位相差フィルム17から蒸発して発生した溶媒、すなわち溶媒ガスを吸着して回収する吸着回収装置53が取り付けられてある。第2乾燥室23の下流には冷却室25が設けられており、第2乾燥室23と冷却室25との間に位相差フィルム17の含水量を調整するための調湿室(図示しない)がさらに設けられてもよい。除電装置26は、除電バー等のいわゆる強制除電装置であり、位相差フィルム17の帯電圧を所定の範囲となるように調整する。除電装置26の位置は、冷却室25の下流側に限定されない。ナーリング付与ローラ対27は、位相差フィルム17の両側端部にエンボス加工でナーリングを付与する。巻取室28の内部には、位相差フィルム17を巻き取るための巻取ロール56と、その巻き取り時のテンションを制御するためのプレスローラ57とが備えられている。
【0038】
次に、溶液製膜設備10により位相差フィルム17を製造する方法の一例を説明する。ドープ11は、伝熱媒体により冷却された流延ドラム32に流延ダイ31から流延される。流延時におけるドープ11の温度は30〜35℃の範囲で一定、流延ドラム32の表面温度は−10〜10℃の範囲で一定とされることが好ましい。流延室13の温度は、温調装置38により10℃〜30℃とされることが好ましい。なお、流延室13の内部で蒸発した溶媒は回収装置42により回収された後、再生させてドープ製造用の溶媒として再利用される。
【0039】
流延ダイ31から流延ドラム32にかけては流延ビードが形成され、流延ドラム32の上には流延膜33が形成される。流延ビードの様態を安定させるために、このビードに関し上流側のエリアは、所定の圧力値となるように減圧チャンバ37で制御される。ビードに関して上流側のエリアの圧力は、下流側のエリアよりも2000Pa〜10Pa低くすることが好ましい。なお、減圧チャンバ37にジャケット(図示しない)を取り付けて、内部温度が所定の温度を保つようにすることが好ましい。この温度は、ドープの溶媒の凝縮点以上であることが好ましい。
【0040】
流延膜33を流延ドラム32で冷却することによりゲル状にし、固化させる。そして、流延膜33が自己支持性をもつようになったら、ドラム32から剥ぎ取る。剥ぎ取りは、流延ドラム32の下流側からフィルム12を引っ張り、このフィルム12が第1乾燥室19のバンド46に支持されることにより、なされる。剥ぎ取りは、流延膜33の溶媒残留率の高低に関わらず、流延膜33が搬送に十分な硬さとなっていれば行うことができる。このように、主に乾燥によるのではなく冷却により固化することにより、流延膜33の剥ぎ取りのタイミングを早めることができるようになり、位相差フィルム17の製造速度を60m/分以上120m/分以下の範囲にまでアップさせることができる。
【0041】
生産速度をアップさせるほど、剥ぎ取り時の溶媒残留率が高くなるので、冷却速度、すなわち単位時間あたりの温度下降度が大きくなるように冷却することが好ましい。溶媒残留率が300%よりも高い場合には、流延膜33を冷却しても搬送するに十分な硬さにするには難しいので、剥ぎ取り時における流延膜33の溶媒の重量は、固形分の重量を100%としたときに180%以上320%以下であることが好ましく、190%以上310%以下がより好ましく、200%以上300%以下がさらに好ましい。このように、本発明において溶媒残留率(単位;%)は乾量基準の値であり、具体的には、溶媒の重量をx、流延膜33の重量をyとするときに、{x/(y−x)}×100で求める値である。
【0042】
溶媒を含んだ状態で流延ドラム32から剥ぎ取られたフィルム12は、第1乾燥室19に案内されると、バンド46と連続的に接触しながら下流へと搬送される。バンド46は、複数のローラ43に所定の温度となるように加熱される。そして、フィルム12は加熱され、乾燥をすすめられる。剥ぎ取り時にはフィルム12の長手方向、すなわち搬送方向に張力がかけられるものの、その後のフィルム12はバンド46に載せられて搬送されるので、バンド46との接触の間は搬送方向における張力がほとんど付与されない。これにより、セルロースアシレートの分子が搬送方向に配向してしまうことが防止され、Rthが高くならずに低く抑制される。そして、フィルム12はバンド46に接している間に乾燥が進められるので、テンタ18での拡幅によるRthの上昇を抑えつつReを高くすることができる。また、第1乾燥室19で乾燥をすすめることにより、テンタ18に導入した後のフィルム12からの気化熱を小さく抑えることができるという効果もある。これにより、テンタ18でフィルム12を所定の温度に上げるために要する時間を短くすることができ、拡幅を迅速に開始することができるようになる。
【0043】
ポリマーがセルロースアシレートである場合には、第1乾燥室19におけるフィルム12の乾燥は、フィルム12の温度を50℃以上120℃以下の範囲となるようにバンド46で加熱することにより実施することが好ましい。50℃よりも低いと、ゲル状のフィルム12が液状に変化した後に十分乾燥されず、フィルム12がバンド46から完全に剥ぎ取れない場合がある。また、120℃よりも高い場合には、フィルム12からの溶媒の蒸発が急激に起きることがあり、場合によっては、フィルム12が発泡してしまうことがある。第1乾燥室19でフィルム12を乾燥する場合の、フィルム12のより好ましい温度範囲は55℃以上115℃以下であり、さらに好ましくは60℃以上110℃以下である。
【0044】
そして、次工程であるテンタ18での拡幅が120重量%になった後のフィルム12に対して開始されるように、この第1乾燥室19で乾燥を進める。したがって、テンタ18での拡幅の開始時に溶媒残留率が120重量%に達することが確実であるならば、120重量%に達する前に第1乾燥室19からテンタ18へフィルム12を案内してもよい。また、フィルム12の溶媒残留率が120重量%に達してからもなお第1乾燥室19で乾燥を続けてもよい。
【0045】
なお、フィルム12が下流に進むに従いフィルム12の溶媒残留率は徐々に減る。そこで、下流に進むほどフィルム12の温度が高くなるように、搬送路に並ぶローラ43の設定温度を、徐々に高くすることが好ましい。これにより、フィルム12の発泡を抑えながらもフィルム12の乾燥がより効率的に進むことになる。
【0046】
フィルム12の両側部が、製品となる中央部よりも厚くて加熱により発泡の懸念がある場合には、両側部と中央部との温度を独立して制御することが好ましい。例えば、ローラ43の長手方向において、バンド46を介してフィルム12の両側部に対向する両端部と、この各側部の間であってフィルム12の製品部に対向する中央部とが、それぞれ温度コントローラ47により独立に温度制御されるようにするとよい。そして、中央部よりも両側部を低い温度にすることにより、フィルム12の両側部を中央部よりも低い温度にするとよい。
【0047】
さらに、ローラ43とローラ43との各間であって、バンド46の非接触面側のエリアには、バンド46を加熱するための加熱板(図示無し)を、バンド46と対向するように設けてもよい。加熱板は、フィルム12の全幅域を加熱することができるように、バンド46と対向する対向面が、フィルム12と略同等の幅をもち、フィルム12及びバンド46の搬送方向に延びた矩形とされる。加熱板としては、バンド46には非接触でバンド46に向けて熱エネルギーを放出するものが好ましい。また、バンド46の上方に、フィルム12の露出面のエリアで乾燥空気を吹き出す送風ダクト(図示無し)を設けることにより、フィルム12の乾燥をより促進させてもよい。この場合の乾燥空気の温度は50℃以上150℃以下の範囲とすることが好ましい。
【0048】
フィルム12は、第1乾燥室19から、搬送方向におけるポリマー分子の配向を抑えられた状態でテンタ18に案内される。テンタ18に送られたフィルム12は、その両端部がピンにより保持されて、ピンの走行により搬送される。そしてフィルム12は搬送されながらテンタ18内に設けられた送風ダクト51からの乾燥風により乾燥される。
【0049】
テンタ18では、フィルム12の乾燥さらにすすめる。そして、乾燥をすすめる間に、フィルム12を拡幅する。フィルム12に対して幅方向に引っ張り、拡幅することにより、フィルム12にReを発現させて位相差フィルム17とする。フィルム12は第1乾燥室19により搬送方向におけるポリマー分子の配向が抑制されているので、テンタ18で拡幅されてもRthが従来の製造方法と比べて小さく抑えられている。したがって、得られる位相差フィルム17は、Rthが低く抑えられながらもReが高いものとなる。さらに具体的には、以上のような第1乾燥室における搬送及び乾燥と、テンタ18における拡幅とを実施することにより、Rthが100nm以上120nm以下に抑えられつつもReが50nm以上60nm以下である位相差フィルムや、Reが60nm以上70nm以下でありながらもRthが105nm以上150nm以下である位相差フィルム17が得られる。あるいは、Rth/Reが従来の位相差フィルムよりも1に近い1.5以上2.5以下であるような位相差フィルム17が得られる。さらに、この方法は、フィルム12及び位相差フィルム17は従来よりも引き裂けにくくなる、という効果もある。
【0050】
位相差フィルム17は、テンタ18での拡幅と所定の残留溶媒量までの乾燥とをされた後、その両側端部が耳切装置21により切断除去される。切り離された両側端部はカッターブロワ(図示なし)によりクラッシャ52に送られる。クラッシャ52により、側端部は粉砕されてチップとなる。このチップはドープ製造用に再利用されるので、原料の有効利用を図ることができる。
【0051】
一方、両側端部を切断除去された位相差フィルム17は、第2乾燥室23に送られて、さらに乾燥される。第2乾燥室23では、位相差フィルム17はローラ22に巻き掛けられながら搬送される。第2乾燥室23の内部温度は、特に限定されるものではないが、50〜160℃とすることが好ましい。なお、第2乾燥室23は、送風温度を変えるために、位相差フィルム17の搬送方向で複数の区画に分割されていることがより好ましい。また、耳切装置21と第2乾燥室23との間に予備乾燥室(図示せず)を設けて位相差フィルム17を予備乾燥すると、第2乾燥室23で位相差フィルム17の温度が急激に上昇することが防止されるので、第2乾燥室23での位相差フィルム17の形状変化を抑制することができる。
【0052】
第2乾燥室23で蒸発して発生した溶媒ガスは、吸着回収装置53により吸着回収される。溶媒成分が除去された空気は、第2乾燥室23の内部に乾燥風として再度送られる。
【0053】
位相差フィルム17は、冷却室25で略室温にまで冷却される。そして、除電装置26により、位相差フィルム17の帯電圧が−3kV〜+3kVとされることが好ましい。さらに、位相差フィルム17は、ナーリング付与ローラ対27によりナーリングが両側端部に付与される。なお、ナーリングされた箇所の凹凸の高さは1μm〜200μmであることが好ましい。
【0054】
位相差フィルム17は、巻取室28の巻取ロール56で巻き取られる。プレスローラ57で所望のテンションを位相差フィルム17に付与しつつ巻き取ることが好ましい。なお、テンションは巻取開始時から終了時まで徐々に変化させることがより好ましく、これによりフィルムロールにおける過度な巻き締めを防止することができる。巻き取られる位相差フィルム17の長さは100m以上とすることが好ましい。巻き取られる位相差フィルム17の幅は600mm以上であることが好ましく、1400mm以上2500mm以下であることが好ましい。しかし、2500mmよりも幅が大きい場合でも本発明は適用される。また、本発明は、厚みが15μm以上100μm以下の薄い位相差フィルムを製造する際にも本発明は適用される。
【0055】
流延ダイ、減圧チャンバ、支持体などの構造、剥離法、延伸、各工程の乾燥条件、ハンドリング方法、カール、平面性矯正後の巻取り方法から、溶媒回収方法、フィルム回収方法まで、特開2005−104148号公報の[0617]段落から[0889]段落に詳しく記述されている。これらの記載は本発明に適用することができる。
【0056】
図2は、テンタ18の内部の概略図である。テンタ18の内部には、フィルム12の搬送路に沿って、フィルム12の両側端部の位置に、多数のピン71を有するピンプレート72と、この多数のピンプレート72が取り付けられた無端で走行するチェーン73とチェーンの軌道を決定するレール76と、乾燥装置51(図1参照)とが備えられる。そして、レール76にはシフト機構77が備えられる。テンタ18に送り込まれたフィルム12は、所定の位置に達すると、両側端部にピン71が差し込まれて保持される。シフト機構77は、レール76をフィルム12の幅方向に移動させ、これによりチェーン73は変位する。チェーン73上のピンプレート72は、フィルム12を保持した状態でフィルム12の幅方向に移動し、フィルム12は幅方向に張力が付与される。
【0057】
流延バンド31から剥ぎ取った直後のフィルム12は、多量の溶媒を含んでおり非常に不安定であるために、ローラで搬送するのが困難である他、クリップによる把持にも耐えることができない。そこで、本実施形態のように、ピン71でフィルム12の両側端部を突き刺すと、フィルム12を安定的に保持して搬送することができる。
【0058】
図3は、テンタ18におけるフィルム12の説明図である。矢線Yは、フィルム12の搬送方向である。テンタ18において、ピン71(図2参照)によるフィルム12の保持を開始する位置を第1位置P1、保持を解除する位置を第2位置P2とする。なお、テンタ18の入口は第1位置P1よりも上流側、出口は第2位置よりも下流側にあるが、図3においては図示を略す。
【0059】
第1乾燥室19から案内されたフィルム12からは、徐々に溶媒が蒸発し、溶媒残留率は、第1乾燥室19による乾燥終了後よりもさらに低くなる。溶媒残留率が120重量%となる位置を第3位置P3とし、溶媒残留率が25%となる位置を第4位置P4とする。
【0060】
テンタ18では、フィルム12を矢線X1,X2で示す幅方向に張力を加える。そして、フィルム12をピンで幅方向に拡げる。フィルム12は、テンタ18において、矢線X1,X2で示す幅方向に張力を加えずにいると、自重で弛んだり、溶媒の蒸発に伴い幅方向X1,X2に収縮したりする。そこで、弛みを防ぐ目的の他、本発明ではReをより高く発現させるために、フィルム12を幅方向X1,X2に張力を加える。張力は、フィルム12の幅方向における中心に関して対称に、フィルム12に付与されることが好ましい。分子配向の制御を、フィルム12の幅方向で均等に行うためである。
【0061】
張力を加えることにより、テンタ18に入った時に幅L1(以後、第1幅と称する)であったフィルム12の幅をL2(以後、第2幅と称する)に大きくする。この幅L2は、図3に示すようにこの後変わらないように保持されてもよいし、さらに保持の後に小さくしてもよい。第2幅L2を保持する場合も、第2幅L2から幅を小さくする場合もフィルム12には幅方向X1,X2に張力が付与される。小さくする場合には、ピンで保持しない場合に自然に収縮するというフィルム12の収縮力を利用して、この収縮力とピンによる張力とのバランスを調整することにより幅を制御する。以後の説明においては、幅を大きくする場合を「拡幅」と称する。なお、図3において符号KLは、ピンで保持されるフィルム12の保持対象部のうち、フィルム12の幅方向における最も中央部側の位置を表し、第1幅L1、第2幅L2はいずれも両側の保持対象ラインKL間の距離である。
【0062】
第1幅L1を第2幅L2に拡幅し始める位置を第5位置P5、拡幅を終える位置を第6位置とする。前述の通り、拡幅は、溶媒残留率が120重量%に達した後に実施するので、第5位置P5は第3位置P3と同じまたは第3よりも下流側となる。なお、拡幅の終了のタイミングは特に限定されない。
【0063】
さらに、第5位置P5から第6位置P6までの拡幅率は、15%以上60%以下とすることが好ましい。ここで、拡幅率(単位;%)は、100×(L2−L1)/L1で求める値である。溶媒残留率が120%に達した後に上記拡幅率での拡幅を行うことにより、Rthが120nm以下と低いにも関わらずReが50nm以上と高い位相差フィルム12を得ることができる効果が高まる。なお、この効果は、長尺に作られたフィルムをロール状に一旦巻取り、このフィルムを後で巻きだして幅方向に延伸するといういわゆるオフライン延伸する場合であっても得られる。すなわち、後に幅方向に延伸すべきフィルムを長尺につくる際には、上記のような第1乾燥工程を実施することにより、テンタ18での拡幅を実施せずとも、オフライン延伸すると、得られるフィルムは上記の実施形態で得られる位相差フィルム17と同様のレタデーション特性を有するようになる。
【実施例1】
【0064】
下記の処方のドープ11をドープ製造設備10によりつくった。
セルロースアシレート 100重量部
(置換度2.94のセルローストリアセテート、粘度平均重合度305.6%、ジクロロメタン溶液6質量%の粘度 350mPa・s)
ジクロロメタン(溶媒の第1成分) 390重量部
メタノール(溶媒の第2成分) 60重量部
レタデーション上昇剤 7重量部
クエン酸エステル混合物(クエン酸、モノエチルエステル、ジエチルエステル、トリエチルエステル混合物) 0.006重量部
微粒子(二酸化ケイ素(平均粒径15nm)、モース硬度 約7) 0.05重量部
なお、レタデーション上昇剤としては、N−N’−ジ−m−トルイル−N”−p−メトキシフェニル−1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリアミンを用いた。
【0065】
上記ドープを用いて、溶液製膜設備10により厚み65μmの複数の位相差フィルム17を製造した。各製造条件は、表1に示す。本発明は「実験1」〜「実験6」である。さらに、本発明に対する比較実験として、第1乾燥室19を用いずにフィルムをつくった。すなわちこの比較実験は、流延ドラム32から剥ぎ取ったフィルムを、第1乾燥室19を経ずにテンタ18に案内するものである。この比較実験については「比較実験1」として表1に記載する。フィルムの製造速度はいずれも60m/分、流延ドラム32からの剥ぎ取り時における流延膜33の溶媒残留率はいずれも250重量%とした。また、テンタ18での拡幅率は40%とした。表1中、各項目は以下を表す。
【0066】
「第1乾燥室でのフィルム温度」・・・第1乾燥室19におけるフィルム12の温度(単位;℃)である。なお、比較実験1では第1乾燥室による乾燥を実施しないため「−」と記載する。
「Re」・・・得られたフィルムのReであり、搬送の向きをプラス(+)として表す。
「Rth」・・・得られたフィルムのRthである。
【0067】
【表1】

【0068】
実験4では、第1乾燥室19での乾燥速度が遅すぎてフィルム12がバンド46に密着してしまい、フィルム12の剥げ残りがバンド46にわずかに生じることがあったものの、Re及びRth/Reについては良好な結果が得られたが。そこで、フィルムの厚みが小さい場合や蒸発しやすい溶媒を用いる場合には、フィルムの温度を50℃よりも低くしてもよい場合がある。また、実験6では、第1乾燥室19でフィルムが発泡した箇所がわずかに確認されたものの、ReとRth/Reとは良好な結果であった。
【0069】
本発明によると、Reが50nm以上60nm以下と高い値であってもRthが100nm以上120nm以下に低く抑えられた位相差フィルム、あるいは、Rth/Reが従来品よりも1に近い1.5以上2.5以下であるような位相差フィルムを、60m/分以上120m/分以下という高速で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明を実施した溶液製膜設備の概略図である。
【図2】テンタにおけるフィルムの保持状態を示す概略図である。
【図3】テンタにおけるフィルムの拡幅及び縮幅を示す概略図である。
【符号の説明】
【0071】
10 溶液製膜設備
17 位相差フィルム
18 テンタ
19 第1乾燥室
31 流延ダイ
32 流延ドラム
46 バンド
47 温度コントローラ
71 ピン
77 シフト機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーと溶媒とを含むドープを、支持体上に流延ダイから連続的に流出して流延膜とし、この流延膜を前記支持体からフィルムとして剥ぎ取り、乾燥して拡幅することにより位相差フィルムとする位相差フィルムの製造方法において、
周方向に回転し周面が冷却されたドラムを前記支持体として用いることにより、前記流延膜を冷却して固化し、前記ドラムからフィルムとして剥ぎ取るフィルム形成工程と、
前記溶媒が蒸発して溶媒残留率が120重量%に達した後の前記フィルムの両側端部を保持手段により保持して前記フィルムを拡幅して位相差フィルムとする拡幅工程と、
前記保持手段を有する拡幅装置の上流に備えられ、前記フィルムと連続的に接するような接触面を有し、前記接触面との接触により前記フィルムを加熱する加熱手段により、前記拡幅工程に至るまでの前記フィルムを乾燥する接触乾燥工程と、
を有することを特徴とする位相差フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記拡幅工程の拡幅開始時における前記フィルムの幅をL1、拡幅終了時における前記フィルムの幅をL2とするときに、100×(L2−L1)/L1で求める拡幅率(単位;%)が15%以上60%以下の範囲であることを特徴とする請求項1記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記ポリマーをセルロースアシレートとし、
前記加熱手段により前記フィルムの温度を50℃以上120℃以下の範囲とすることを特徴とする請求項1または2記載の位相差フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−237452(P2009−237452A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−86131(P2008−86131)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】