説明

位相差フィルムの製造方法

【課題】楕円偏光板として製造効率のよい長尺の位相差フィルムを提供すること。
【解決手段】少なくとも幅方向に横延伸された長尺フィルムを、幅方向に対して20〜50度の方向に斜め延伸する位相差フィルムの製造方法であって、前記横延伸の延伸温度をT1、前記斜め延伸の延伸温度をT2とした時、T1−T2≧−3、となるように延伸し、位相差フィルムロールとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置や有機電界発光表示装置などに用いられる光学フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置(LCD)の大画面化および使用環境が広がるにつれ、視認性に対する要求が厳しくなっている。しかし、液晶セル本体の改良のみでは視認性向上への要求を十分満足することができないため、位相差フィルム等の光学フィルムの性能向上に依存するところが大きい。
【0003】
現在、光学フィルムにはその優れた光学特性から非晶性の熱可塑性樹脂が主に用いられており、延伸することで複屈折性の制御が可能であるため、液晶表示装置の位相差フィルムなどの用途に適用されている。特に、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)に代表されるアクリル系樹脂は、高い光線透過率を有する一方で光弾性率が低いなど、その光学特性に優れるとともに、機械的強度、成形加工性および表面硬度のバランスに優れることから、位相差フィルム等の偏光を取り扱う装置に用いる光学フィルムに用いる熱可塑性樹脂として好適である。そこで、アクリル系樹脂フィルムに二軸延伸を施すことにより、耐熱性と可撓性を両立させた位相差フィルムが開示されている(特許文献1)。
【0004】
一方、液晶表示装置などに用いられる楕円偏光板は一般に、偏光板(直線偏光板)と1/4波長板とを積層することにより構成されている。すなわち、偏光板の吸収軸と1/4波長板の遅相軸とが所定の角度をなすように、偏光板および1/4波長板が接着剤などを用いて貼合されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−242426号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、長尺フィルムに対し、長手方向および幅方向に延伸しているため、楕円偏光板として用いるためには、斜め方向に枚葉に切り出して、偏光板と貼り付けなくてはならず、製造工程が煩雑になり、高コストになってしまうという問題があり、偏光板とロールtoロールで貼合して、楕円偏光板とすることができなかった。
【0007】
また、アクリル系樹脂フィルムは光学特性には優れるものの、位相差値が発現しにくいため、位相差フィルムとして使用するためには高い倍率で延伸する必要があった。さらに、硬く、脆いという短所があるため、所望の大きさに切り出す際に、割れや欠け、ヒビが生じやすいという問題があった。
【0008】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであって、偏光板とロールtoロールで貼り合わせることで楕円偏光板とすることが可能な光学フィルムの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の位相差フィルムの製造方法は、少なくとも幅方向に横延伸された長尺フィルムを、幅方向に対して20〜50度の方向に斜め延伸する位相差フィルムの製造方法であって、前記横延伸の延伸温度をT1、前記斜め延伸の延伸温度をT2とした時、T1−T2≧−3、となるように延伸する、位相差フィルムロールの製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の光学フィルムの製造方法により、位相差発現性の低いアクリルフィルムにおいても偏光板とロールtoロールで貼合することで楕円偏光板とすることができる長尺の光学フィルムを得ることができる。枚葉に切り出して、偏光板と貼合する必要が無いため、光軸をそろえるなどの手間が省くことができる。また、偏光板と貼合した後に、枚葉に切り出すことができるため、効率よく楕円偏光板とすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
これ以降の説明において特に記載がない限り、「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」を、それぞれ意味する。また、範囲を示す「A〜B」は、A以上B以下であることを示す。
[光学フィルムの製造方法]
本発明の光学フィルムの製造方法は、少なくとも幅方向に横延伸された長尺フィルムを、幅方向に対して20〜50度の方向に斜め延伸する位相差フィルムの製造方法であって、前記横延伸の延伸温度をT1、前記斜め延伸の延伸温度をT2とした時、T1−T2≧−3、となるように延伸する、位相差フィルムロールの製造方法である。 ここで、本明細書において「長尺」とは、長さについては特に限定されないが、例えば、長さが5m以上であることが好ましく、上限については特に限定されないが具体的にはロール状に巻き取られて保管又は運搬される程度の長さを有するものをいう。
【0012】
本発明における横延伸された長尺フィルムとは、特に限定はなく従来に準じた適宜な方式にて得ることができる。具体的には、余熱、延伸、熱処理の各ゾーンからなるオーブンと横延伸用のクリップ走行装置とから構成されるテンタータイプ横延伸機等である。横延伸行程では、走行するフィルムの横端部をクリップで掴み、オーブン内の余熱ゾーンで延伸温度まで加熱してから延伸ゾーンで横方向に引張って延伸し、その後必要により熱処理ゾーンで熱処理を行った後に冷却される。横方向への引張りは、クリップ走行装置のガイドレールを開いて左右2列のクリップ間の距離を広げることによりなされる。
【0013】
長尺フィルムを幅方向に対して、20〜50度の方向に連続して延伸する方法としては、長尺フィルムを横方向に一軸延伸しつつ、その延伸方向の左右を異なる速度で縦方向に引張延伸する方法が挙げられる。横方向に一軸延伸する方法は横延伸された長尺フィルムを得る方法と同様であり、この方法を施しつつ、延伸方向の左右を異なる速度で縦方向に引張延伸することによって、長尺フィルムを幅方向に対して、20〜50度の方向に連続して延伸することができる。延伸方向の左右を異なる速度で縦方向に引張延伸する方法についても特に限定はなく、例えば周速度の異なるピンチロール等を介して引き取る方式等の、併用する横一軸延伸の方式などに応じて適宜な組合せの引張延伸方式とすることができる。
【0014】
ちなみに従来のテンター延伸機等の横一軸延伸機を利用して、その左右の延伸部品を独立に駆動できるようにすることにより本発明による延伸処理を施すことが可能である。すなわち、かかる横一軸延伸機に長尺フィルムを従来に準じ導入して横一軸延伸を施しつつ、独立駆動の左右の延伸部品を介しその左右で長尺フィルムに対する送り速度を相違させ、その速度差による送り力(引張力)の相違を介して縦方向に引張延伸することにより、延伸方向が前記の横一軸延伸方向に対して20〜50度傾斜した延伸フィルムを得ることができる。
【0015】
また従来のパンタグラフ式やリニアモータ式等の同時二軸延伸機にても、前記に準じ長尺フィルムの左右に対する送り速度に相違をもたせることにより、長尺フィルムを従来に準じ導入して横方向に一軸延伸を施しつつ、長尺フィルムに対する当該左右の送り速度の相違を介して縦方向の延伸倍率を当該左右で相違させることにより、その引張延伸を介して延伸方向が前記の横一軸延伸方向に対して20〜50度傾斜した延伸フィルムを得ることができる。具体的には、縦方向の延伸開始点を右側レールと左側レールで異なるようにする方法、左右のレールのうちどちらかのみ縦方向に収縮させる、或いは左右のレールの収縮率を変えることによって遅れを生じさせて左右の速度差をつける方法、等が挙げられる。
【0016】
上記のように、従来の延伸機にても、横方向の一軸延伸に加えて、縦方向に左右異なる速度の送り力又は引張力ないし引取り力を付加できるようにすることにより、本発明の幅方向に対して、20〜50度の方向に連続して延伸する位相差フィルムロールを製造することができる。
【0017】
別の延伸方法としては、屈曲したテンターレールを有するテンター延伸機を用いて、延伸する方法が挙げられる。屈曲したレールの内周と外周のテンタークリップを同じ速度で走行させると、外周のクリップは、内周のクリップよりも遅れが生じることにより、長尺フィルムを斜め方向に延伸することができる。延伸する角度は、内周と外周の屈曲の度合いによって決めることができる。
【0018】
本発明に用いることができる延伸方法は、上記のものに限られない。例えば、特開昭50−83482号公報、特開平2−113920号公報、特開平3−182701号公報、特開2000−9912号公報、特開2002−86554号公報、特開2002−22944号公報、特開2003−262721号公報、特開2005−319660号公報などに記載された方法も用いることができる。
【0019】
本発明の製造方法に用いる長尺フィルムは、少なくとも幅方向に横延伸された長尺フィルムであれば特に限定はされず、縦延伸を施した後に横延伸を施してもよいし、横延伸を施した後に縦延伸を施してもよい。なお、左右のクリップの移動速度に差をつけることによって斜め方向を行う際、早いほうのクリップ側に引張られてフィルムの走行が安定しなくなることがある。この時、加熱しながら張力をかけて斜め延伸機に挿入する方法が考えられるが、この時に張力を与えることも横延伸を施した後に縦延伸を施すことに含まれる。また、光学特性を安定化させる等の理由で積極的に縦延伸を施してやってもよい。
【0020】
本発明の製造方法に用いる長尺フィルムは、単層フィルムであってもよいし、複数のフィルムを積層したフィルムであってもよい。
【0021】
本発明の製造方法における横延伸および斜め延伸の延伸温度は、長尺フィルムのガラス転移温度をTgとしたときに、(Tg−20)℃〜(Tg+60)℃の範囲が好ましく、(Tg−10)℃〜(Tg+30)℃の範囲がより好ましい。さらに好ましくは(Tg−5)℃〜(Tg+15)℃の範囲である。
(Tg−20)℃未満では、フィルムの破断が起こりやすくなるために好ましくない。また、(Tg+60)℃を越えると、フィルムのたるみが大きくなるために、装置とのこすれや破断のおそれが生じるために好ましくない。
【0022】
また、幅方向に横延伸された長尺フィルムを得る際に横延伸する時の延伸温度をT1、幅方向に横延伸された長尺フィルムを幅方向に対して20〜50度の方向に斜め延伸する時の延伸温度をT2とした時、T1−T2≧−3、となるように延伸する事が望ましい。T1−T2が−3より大きい場合、横延伸にて発現させた位相差値が斜め延伸時の温度によって緩和してしまうため、トータルの位相差値としては発現しにくくなるため好ましくない。より好ましい範囲はT1−T2≧0、さらに好ましい範囲はT1−T2≧3である。
【0023】
また、T1−T2の上限については特に限定されないが、10よりも大きい場合には、横延伸では高温のため位相差を発現させられなくなる温度に、斜め延伸では低温のためフィルムの破断が起こりやすくなる温度に設定することとなるため、生産上好ましくない。
【0024】
なお、少なくとも幅方向に横延伸された長尺フィルムの面内位相差値が20nm以上180nm以下であることが望ましい。20nmよりも小さい値の場合、次いで行われる斜め延伸にて位相差が上乗せされずトータルの位相差値としては発現しにくくなるため好ましくない。また180nmよりも大きい場合には、少なくとも幅方向に横延伸された長尺フィルムの1軸延伸性が高く、その後に施される斜め延伸によって光軸を斜め方向に向けることが困難になるため好ましくない。より好ましい範囲は30nm以上170nm以下、さらに好ましい範囲は50nm以上160nm以下である。
【0025】
本発明の製造方法における横延伸および斜め延伸の延伸速度は、例えば10〜20000%/分の範囲であり、より好ましくは100〜10000%/分の範囲内である。延伸速度が10%/分よりも遅いと、延伸を行うまでに時間がかかるため製造コストが高くなる。延伸速度が20000%/分よりも速いと、フィルムの破断等が起こるおそれがある。
【0026】
本発明の製造方法における横延伸および斜め延伸の延伸倍率は、それぞれ1.1倍以上であることが好ましく、1.2倍〜10倍がより好ましく、1.3倍〜5倍がさらに好ましい。1.1倍未満であると十分な位相差値が発現できなくなるおそれがある。
【0027】
位相差フィルムの光学特性および機械的特性を安定させるために、延伸後、必要に応じて熱処理(アニーリング)を実施してもよい。
【0028】
本発明の製造方法によって得られる位相差フィルムの面内位相差値(Re)が100nm以上、300nm以下が好ましい。より好ましくは、120nm以上155nm以下、或いは250nm以上300nm以下である。さらに好ましくは、通常λ/4板として使用される130nm以上150nm以下、或いは通常λ/2板として使用される260nm以上285nm以下である。
【0029】
本発明の製造方法によって得られる位相差フィルムは、少なくとも可視光領域において、波長が短くなるほど複屈折が小さくなる波長分散性(以下、逆波長分散性という)を示すことが好ましい。光学フィルムが逆波長分散性を示すことにより、各種表示装置において、楕円偏光板として用いた場合に、黒色表示における青味が生じにくくなり、視認性、コントラストが向上する。
【0030】
本発明の製造方法によって得られる位相差フィルムの好ましい逆波長分散性は、波長分散性Re(447)/Re(590)が0.96以下、かつ、波長分散性Re(750)/Re(590)が1.02以上であることが好ましい。ここで、Re(447)、Re(590)、Re(750)は447nm、590nm、750nmの波長で測定した面内位相差である。比Re(447)/Re(590)および比Re(750)/Re(590)による表現で、比Re(447)/Re(590)について0.50〜0.99がより好ましく、0.60〜0.98がさらに好ましく、0.70〜0.95が特に好ましい。また、比Re(750)/Re(590)について、1.00〜1.40がより好ましく、1.00〜1.35がさらに好ましく、1.00〜1.30が特に好ましい。
【0031】
本発明の製造方法によって得られる位相差フィルムの厚さは特に限定されないが、例えば10μm〜500μmであり、20μm〜300μmが好ましく、30μm〜150μmが特に好ましい。
【0032】
本発明の製造方法によって得られる位相差フィルムは、全光線透過率が85%以上であることが好ましい。より好ましくは90%以上、さらに好ましくは91%以上である。全光線透過率は、透明性の目安であり、85%未満であると透明性が低下し、位相差フィルムとして適さない。
【0033】
本発明の製造方法によって得られる位相差フィルムのガラス転移温度(Tg)の下限は、好ましくは110℃以上、より好ましくは115℃以上、さらに好ましくは120℃以上であり、上限は200℃以下、より好ましくは180℃以下である。
【0034】
本発明における未延伸の長尺フィルムを製造する方法は特に限定されず、例えば、溶液製膜法(溶液流延法、キャスト成形法)、溶融製膜法(溶融押出法、押出成形法)、プレス成形法などの公知の手法を用いることができるが、環境負荷が小さく生産性に優れることから溶融製膜法が好ましい。
【0035】
溶液製膜法を用いてフィルムを得ようとする場合は、熱可塑性樹脂と必要によりその他の重合体やその他の添加剤などとの樹脂組成物を良溶媒中に撹拌混合して均一混合液とし、支持フィルムやドラムにキャストして自己支持性を有するまで予備乾燥した後、支持フィルムやドラムから剥がして乾燥すると得ることができる。溶液製膜法に用いられる溶媒としては、例えば、クロロホルム、ジクロロメタンなどの塩素系溶媒;トルエン、キシレン、ベンゼン、およびこれらの混合溶媒などの芳香族系溶媒;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−ブタノールなどのアルコール系溶媒;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルフォキシド、ジオキサン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、アセトン、酢酸エチル、ジエチルエーテル;などが挙げられる。これら溶媒は1種のみ用いても良いし、2種以上を併用しても良い。溶液製膜法を行うための装置としては、例えば、ドラム式キャスティングマシン、ベルト式キャスティングマシンなどが挙げられる。
【0036】
溶融製膜法の具体的な例としては、樹脂組成物を構成する各成分をオムニミキサーなどの混合機でプレブレンドした後、得られた混合物を混練機から押出混練してもよい。押出混練に用いる混練機は特に限定されず、例えば、単軸押出機、二軸押出機などの押出機、あるいは加圧ニーダーなどの公知の混練機を用いることができる。
【0037】
また、別途形成した熱可塑性樹脂を溶融押出成形してもよい。溶融製膜法には、例えば、Tダイ法、インフレーション法などがあり、その際の成形温度は、好ましくは200〜350℃、より好ましくは250〜300℃、さらに好ましくは255℃〜300℃、特に好ましくは260℃〜300℃である。
【0038】
Tダイ法を用いる場合、押出機の先端部にTダイを取り付け、このTダイから押し出したフィルムを巻き取ることで、ロール状に巻回させた長尺フィルムを得ることができる。このとき、巻き取りの温度および速度を制御して、フィルムの押し出し方向に延伸(一軸延伸)を加えることも可能である。
【0039】
押出成形に押出機を用いる場合、その種類は特に限定されず、単軸であっても二軸であっても多軸であってもよいが、そのL/D値は(Lは押出機のシリンダの長さ、Dはシリンダ内径)、熱可塑性樹脂を十分に可塑化して良好な混練状態を得るために、好ましくは10以上100以下であり、より好ましくは15以上80以下であり、さらに好ましくは20以上60以下である。L/D値が10未満の場合、熱可塑性樹脂を十分に可塑化できず、良好な混練状態が得られないことがある。一方、L/D値が100を超えると、熱可塑性樹脂に対して過度に剪断発熱が加わることで、組成物中の樹脂が熱分解する可能性がある。
【0040】
またこの場合、シリンダの設定温度は、好ましくは200℃以上300℃以下であり、より好ましくは250℃以上300℃以下である。設定温度が200℃未満では、熱可塑性樹脂の溶融粘度が過度に高くなって、長尺フィルムの生産性が低下する。一方、設定温度が300℃を超えると、熱可塑性樹脂が熱分解する可能性がある。
【0041】
押出成形に押出機を用いる場合、その形状は特に限定されないが、押出機が1個以上の開放ベント部を有することが好ましい。このような押出機を用いることによって、開放ベント部から分解ガスを吸引することができ、得られた長尺フィルムに残存する揮発成分の量を低減できる。開放ベント部から分解ガスを吸引するためには、例えば、開放ベント部を減圧状態にすればよく、その減圧度は、開放ベント部の圧力にして、931〜1.3hPaの範囲が好ましく、798〜13.3hPaの範囲がより好ましい。開放ベント部の圧力が931hPaより高い場合、揮発成分、あるいは樹脂の分解により発生する単量体成分などが、樹脂中に残存しやすい。一方、開放ベント部の圧力を1.3hPaより低く保つことは工業的に困難である。
【0042】
本発明における位相差フィルムは、ポリマーフィルターで濾過した熱可塑性樹脂を成形してフィルムとすることが好ましい。ポリマーフィルターにより、熱可塑性樹脂中に存在する異物を除去できるため、得られたフィルムの外観上の欠点を低減できる。なお、ポリマーフィルターによる濾過時には、熱可塑性樹脂は高温の溶融状態となる。このため、ポリマーフィルターを通過する際に熱可塑性樹脂が劣化し、劣化により形成されたガス成分や着色劣化物が組成物中に流れだして、得られたフィルムに、穴あき、流れ模様、流れスジなどの欠点が観察されることがある。この欠点は、特に長尺フィルムの連続成形時に観察されやすい。このため、ポリマーフィルターで濾過した熱可塑性樹脂を成形する際には、その成形温度は、樹脂の溶融粘度を低下させ、ポリマーフィルターにおける樹脂の滞留時間を短くするために、例えば255〜300℃であり、260〜320℃が好ましい。
【0043】
ポリマーフィルターの構成は特に限定されないが、ハウジング内に多数枚のリーフディスク型フィルターを配したポリマーフィルターを好適に用いることができる。リーフディスク型フィルターの濾材は、金属繊維不織布を焼結したタイプ、金属粉末を焼結したタイプ、金網を数枚積層したタイプ、あるいはそれらを組み合わせたハイブリッドタイプのいずれでもよいが、金属繊維不織布を焼結したタイプが最も好ましい。
【0044】
ポリマーフィルターによる濾過精度は特に限定されないが、通常15μm以下、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下である。濾過精度が1μm以下になると、樹脂の滞留時間が長くなることで当該組成物の熱劣化が大きくなる他、長尺フィルムの生産性が低下する。一方、濾過精度が15μmを超えると、熱可塑性樹脂中の異物を除去することが難しくなる。
【0045】
ポリマーフィルターの形状は特に限定されず、例えば、複数の樹脂流通口を有し、センターポール内に樹脂の流路を有する内流型;断面が複数の頂点もしくは面においてリーフディスクフィルタの内周面に接し、センターポールの外面に樹脂の流路がある外流型;などがある。特に、樹脂の滞留箇所の少ない外流型を用いることが好ましい。
【0046】
ポリマーフィルターにおける樹脂の滞留時間に特に制限はないが、好ましくは20分以下であり、より好ましくは10分以下であり、さらに好ましくは5分以下である。また、濾過時におけるフィルター入口圧およびフィルター出口圧は、例えば、それぞれ、3〜15MPaおよび0.3〜10MPaであり、圧力損失(フィルターの入口圧と出口圧の圧力差)は、1MPa〜15MPaの範囲が好ましい。圧力損失が1MPa以下になると、樹脂がフィルターを通過する流路に偏りが生じやすく、得られた樹脂フィルムの品質が低下する傾向がある。一方、圧力損失が15MPaを超えると、ポリマーフィルターの破損が起こり易くなる。
【0047】
ポリマーフィルターに導入される樹脂の温度は、その溶融粘度に応じて適宜設定すればよく、例えば250〜300℃であり、好ましくは255〜300℃であり、さらに好ましくは260〜300℃である。
【0048】
ポリマーフィルターを用いた濾過処理により、異物、着色物の少ない光学フィルムを得る具体的な工程は、特に限定されない。例えば、(1)クリーン環境下で熱可塑性樹脂の形成および濾過処理を行い、引き続いてクリーン環境下で熱可塑性樹脂の成形を行うプロセス、(2)異物または着色物を有する熱可塑性樹脂を、クリーン環境下で濾過処理した後、引き続いてクリーン環境下で熱可塑性樹脂の成形を行うプロセス、(3)異物または着色物を有する熱可塑性樹脂を、クリーン環境下で濾過処理すると同時に成形を行うプロセス、などが挙げられる。それぞれの工程毎に、複数回、ポリマーフィルターによる熱可塑性樹脂の濾過処理を行ってもよい。
【0049】
ポリマーフィルターによって熱可塑性樹脂を濾過する際には、押出機とポリマーフィルターとの間にギアポンプを設置して、フィルター内の樹脂の圧力を安定化することが好ましい。
【0050】
本発明における光学フィルムの表面には、必要に応じて、各種の機能性コーティング層が形成されていてもよい。機能性コーティング層は、例えば、帯電防止層、粘接着剤層、接着層、易接着層、防眩(ノングレア)層、光触媒層などの防汚層、反射防止層、ハードコート層、紫外線遮蔽層、熱線遮蔽層、電磁波遮蔽層、ガスバリヤー層などである。これら、機能性コーティング層は、長尺フィルムの延伸前に形成しても良いし、延伸後に形成しても良い。
【0051】
本発明の位相差フィルムの用途は特に限定されないが、楕円偏光板とする際に、偏光板とロールtoロールで貼合することができることから、楕円偏光板の1/4波長板として好ましく用いることができる。本発明の位相差フィルムから得られる楕円偏光板は、液晶表示装置や有機電界発光表示装置の反射防止膜として好ましく用いることができる。
【0052】
本発明の位相差フィルムを楕円偏光板とする場合、両面に偏光子保護フィルムを有する偏光板と貼合してもよいし、本発明の光学フィルムを偏光子保護フィルムの片面に用いてもよい。本発明の位相差フィルムを偏光子保護フィルムの片面に用いる場合、本発明の位相差フィルムの表面に易接着層を形成することが好ましい。
【0053】
また、本発明の位相差フィルムはその高い透明性、耐熱性により、各種光学部材としても好適に用いることができる。光学部材は、例えば、光学用保護フィルム、具体的には、各種の光ディスク(VD、CD、DVD、MD、LDなど)基板の保護フィルム、液晶表示装置(LCD)などの画像表示装置が備える偏光板に用いる偏光子保護フィルムである。位相差フィルム、視野角補償フィルム、光拡散フィルム、反射フィルム、反射防止フィルム、防眩フィルム、輝度向上フィルム、タッチパネル用導電フィルムなどの光学フィルムとして、本発明の位相差フィルムを用いてもよい。
[熱可塑性樹脂]
本発明の製造方法に用いられる熱可塑性樹脂は、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレンなどのポリオレフィン重合体;ノルボルネン重合体などの環状オレフィン重合体;塩化ビニル、塩素化ビニル重合体などのハロゲン含有重合体;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル;ポリスチレン、ポリビニルトルエン、ポリスチレン、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、ポリ(p−メチルスチレン)などのスチレン重合体;ポリメチルメタクリレートなどのアクリル重合体;ポリカーボネート;ポリアリレート;ポリエーテルスルホン;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610などのポリアミド;セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなどのセルロースアシレート;ポリアセタール;ポリフェニレンオキシド;ポリフェニレンスルフィド;ポリエーテルエーテルケトン;ポリエーテルニトリル;ポリサルホン;ポリエーテルサルホン;ポリオキシベンジレン;ポリアミドイミド等の重合体を含み、これらの重合体を2種以上含んでいてもよい。重合体として好ましくは、環状オレフィン重合体、スチレン重合体、ポリエステル、アクリル重合体、ポリカーボネートまたは、セルロースアシレートであり、アクリル重合体、ポリカーボネート、セルロースアシレートがより好ましく、アクリル重合体は、透明性、高い光線透過率や低い屈折率の波長依存性などの優れた光学特性や加工性に優れていることから特に好ましい。また、アクリル重合体は、主鎖に環構造を有するアクリル重合体であることがさらに好ましい。ここで、前記環構造が、ラクトン環構造、無水グルタル酸構造、無水マレイン酸構造、グルタルイミド構造、及びマレイミド構造から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。特に、耐熱性からはラクトン環構造とグルタルイミド構造を有するものが好ましい。これにより、得られた位相差フィルムのガラス転移温度(Tg)が向上する。高いTgを有する位相差フィルムは、電源、光源、回路基板などの発熱体が狭い空間に集積された構造を有する、LCDなどの画像表示装置への使用に好適である。
【0054】
上記ラクトン環構造は特に限定されず、例えば、4から8員環であってもよいが、環構造の安定性に優れることから5員環又は6員環であることが好ましく、6員環であることがより好ましい。6員環であるラクトン環構造は、例えば、特開2004−168882号公報に開示されている構造であるが、前駆体の重合収率が高いこと、前駆体の環化反応により、高いラクトン環含有率を有するアクリル重合体が得られること、MMA単位を構成単位として有する重合体を前駆体にできること、などの理由から以下の式(1)に示される構造が好ましい。
【0055】
【化1】

【0056】
式(1)において、R、R及びRは、互いに独立して、水素原子又は炭素数1〜20の有機残基である。有機残基は酸素原子を含んでいてもよい。
【0057】
式(1)における有機残基は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基のような炭素数1〜20の範囲のアルキル基;エテニル基、プロペニル基のような炭素数1〜20の不飽和脂肪族炭化水素基;フェニル基、ナフチル基のような炭素数1〜20の芳香族炭化水素基である。上記アルキル基、不飽和脂肪族炭化水素基及び芳香族炭化水素基は、水素原子の一つ以上が、水酸基、カルボキシル基、エーテル基及びエステル基から選ばれる少なくとも1種の基により置換されていてもよい。
【0058】
主鎖に環構造を有するアクリル重合体は、公知の方法により製造し得る。環構造が無水グルタル酸構造又はグルタルイミド構造であるアクリル重合体は、例えば、WO2007/26659号公報又はWO2005/108438号公報に記載されている方法により製造し得る。環構造が無水マレイン酸構造又はN−置換マレイミド構造であるアクリル重合体は、例えば、特開昭57−153008号公報又は特開2007−31537号公報に記載されている方法により製造できる。環構造がラクトン環構造であるアクリル重合体は、例えば、特開2006−96960号公報、特開2006−171464号公報又は特開2007−63541号公報に記載されている方法により製造できる。
【0059】
本発明における熱可塑性樹脂は、公知の添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤;酸化防止剤;位相差上昇剤、位相差低減剤などの位相差調整剤;位相差安定剤、耐光安定剤、耐候安定剤、熱安定剤などの安定剤;ガラス繊維、炭素繊維などの補強材;近赤外線吸収剤;トリス(ジブロモプロピル)ホスフェ−ト、トリアリルホスフェ−ト、酸化アンチモンなどの難燃剤;アニオン系、カチオン系、ノニオン系の界面活性剤に代表される帯電防止剤;無機顔料、有機顔料、染料などの着色剤;有機フィラ−、無機フィラ−;樹脂改質剤;アンチブロッキング剤;マット剤;酸補足剤;金属不活性化剤;可塑剤;滑剤;難燃剤;ASAやABSなどのゴム質重合体などである。添加剤の添加量は、例えば0〜10%であり、好ましくは0〜5%であり、より好ましくは0〜2%であり、さらに好ましくは0〜0.5%である。
【実施例】
【0060】
以下に、実施例および比較例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下の説明では、便宜上、「質量部」を単に「部」と、「リットル」を単に「L」と記すことがある。フィルム物性の測定用サンプルは、幅方向の中央部からサンプルを取得した。尚、実施例において便宜上、下記略称を用いて説明する。
MMA:メタクリル酸メチル
BMA:メタクリル酸ブチル
AM:アクリル酸メチル
MHMA:2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル
なお、各特性値は以下のようにして測定、算出した。
【0061】
<ガラス転移温度>
各サンプルのガラス転移温度(Tg)はJIS K7121の規定に準拠して求めた。具体的には、示差走査熱量計(リガク製、DSC−8230)を用い、窒素ガス雰囲気下、約10mgのサンプルを常温から200℃まで昇温速度20℃/分で昇温して得られたDSC曲線から始点法により算出した。リファレンスには、α−アルミナを用いた。
【0062】
<重量平均分子量>
重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により以下の条件で求めた。
システム:東ソー社製GPCシステム HLC−8220
展開溶媒:クロロホルム(和光純薬工業製、特級)、流量:0.6ml/分
標準試料:TSK標準ポリスチレン(東ソー社製、PS−オリゴマーキット)
測定側カラム構成:ガードカラム(東ソー社製、TSKguardcolumn SuperHZ−L)、分離カラム(東ソー社製、TSKgel SuperHZM−M)2本直列接続
リファレンス側カラム構成:リファレンスカラム(東ソー社製、TSKgel SuperH−RC)
<メルトフローレート>
メルトフローレートはJIS K7210:1999の規定に準拠して、メルトインデクサー(テクノセブン製)を用い、試験温度240℃、荷重98N(10kgf)で測定した。
【0063】
<屈折率異方性>
作製した位相差フィルムの、波長590nmの光に対する面内位相差Re(590)、波長447nmの光に対する面内位相差Re(447)、波長750nmの光に対する面内位相差Re(750)および波長590nmの光に対する厚さ方向の位相差Rthならびに光軸の方向(フィルム面内における遅相軸の方向)は、位相差フィルム・光学材料検査装置(大塚電子製、RETS−100)を用いて評価した。測定の際に当該装置に入力する位相差フィルムの厚さdは、デジマチックマイクロメーター(ミツトヨ製)により、位相差フィルムの平均屈折率はアッベ屈折率計により、それぞれ測定した。また、Rthは式[{(nx+ny)/2}−nz]×dにより与えられる値を用いた。また、Rth測定の際には、測定対象である位相差フィルムを傾斜させるが、その傾斜軸は、当該フィルムの遅相軸および進相軸のうち、遅相軸を傾斜軸として測定したRe(S40°)と、進相軸を傾斜軸として測定したRe(F40°)とを比較して大きい値が得られる方とした。また、二軸延伸性はNZ係数の値((|Rth|/|Re(590)|)+0.5)で評価した。
【0064】
位相差フィルムにおける光軸の方向(フィルム面内の遅相軸の方向)は、作製した位相差フィルムロールから、当該フィルムを幅方向に横切る、帯状の評価用フィルムを切り出し、切り出した評価用フィルムの短辺を上記装置の基準バーに合わせて基準軸がぶれないようにして測定した。光軸の方向は、基準方向となる位相差フィルムの幅方向を0°として、当該方向からの角度をもって表現した。
(製造例1)
撹拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管および滴下ロートを備えた反応容器に、MHMA15重量部、MMA27重量部、メタクリル酸(MA)10重量部、N−ビニルカルバゾール(NVCz)6重量部ならびに重合溶媒としてトルエン37重量部およびメタノール2重量部を仕込み、これに窒素を通じつつ、95℃まで昇温させた。昇温に伴う環流が始まったところで、重合開始剤としてt−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(アルケマ吉富製、商品名:ルペロックス575)0.029重量部を添加するとともに、MHMA15重量部、MMA27重量部、トルエン17重量部および上記t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.082重量部の混合物の滴下を開始した。この混合物を8時間かけて滴下しながら、約90〜100℃の環流下で溶液重合を進行させた。なお、これに併せて、重合開始から5時間を経過した時点から3時間かけて23.3重量部のトルエンを滴下し、重合溶液を希釈した。
【0065】
次に、得られた重合溶液に、環化触媒としてリン酸オクチル/ジオクチル混合物0.24重量部を添加し、約80〜105℃の環流下において2時間、環化縮合反応を進行させた。次に、メチルイソブチルケトン(MIBK)21.4重量部を加えて重合溶液を希釈した後、製造例3と同様にして環化縮合反応のさらなる進行、揮発成分の脱揮およびペレット化を行って、主鎖にラクトン環構造を有するとともにN−ビニルカルバゾール単位を構成単位として有する(メタ)アクリル重合体からなる透明なペレットを得た。得られた(メタ)アクリル重合体の重量平均分子量は11万、Tgは132℃であった。
(製造例2)
攪拌機を備えた耐圧反応容器に、脱イオン水70重量部、ピロリン酸ナトリウム0.5重量部、オレイン酸カリウム0.2重量部、硫酸第一鉄0.005重量部、デキストロース0.2重量部、p−メンタンハイドロパーオキサイド0.1重量部、および1,3−ブタジエン28重量部からなる反応混合物を仕込み、容器内の温度を65℃に昇温して、反応混合物の重合を2時間進行させた。次に、p−メンタンハイドロパーオキサイド0.2重量部を加えた後、1,3−ブタジエン72重量部、オレイン酸カリウム1.33重量部および脱イオン水75重量部の混合物を2時間かけて連続滴下した。滴下終了後も重合開始から21時間、重合を継続させて、平均粒子径0.240μmのブタジエン系ゴム重合体ラテックスを得た。
【0066】
次に、冷却器および攪拌機を備えた重合容器に、脱イオン水120重量部、上記作製したブタジエン系ゴム重合体ラテックス50重量部(固形物換算)、オレイン酸カリウム1.5重量部およびSFS0.6重量部を投入した後、重合容器内を窒素ガスで十分に置換した。
【0067】
次に、重合容器内の温度を70℃に昇温した後、St36.5重量部およびAN13.5重量部からなるモノマー混合液と、クメンハイドロキシパーオキサイド0.27重量部および脱イオン水20重量部からなる重合開始剤溶液とを、重合容器内に別々のルートから2時間かけて連続滴下させ、重合を進行させた。なお、滴下終了後も、重合容器内の温度を80℃に昇温してさらに2時間重合を進行させた。その後、重合容器内の温度を40℃に冷却した後、容器内の溶液を300メッシュの金網を通過させて、弾性有機微粒子の乳化重合液を得た。次に、得られた乳化重合液を塩化カルシウムで塩析することで、当該重合液に含まれる弾性有機微粒子を凝固させ、得られた凝固物を水洗、乾燥して、粉体状の弾性有機微粒子(G2、平均粒子径:0.260μm、軟質重合体層の屈折率:1.516)を得た。
(製造例3)
製造例1で作製した(メタ)アクリル重合体のペレット、製造例2で作製した弾性有機微粒子(G2)、およびスチレン−アクリロニトリル共重合体(AS樹脂:スチレン単位/アクリロニトリル単位の比率が73重量%/27重量%、重量平均分子量22万)を、81:14:5の重量比となるように二軸押出機を用いて240℃で混練し、透明なペレットを得た。得られたペレットのTgは129℃であった。
【0068】
また、得られた樹脂ペレットを、ポリマーフィルター(濾過精度5μm)とTダイを備えた単軸押出機を用いて270℃にて溶融押出して、厚み360μmの未延伸フィルム(1A−F1)を成膜した。
(実施例1)
製造例3で得られた未延伸フィルム(1A−F1)をテンター延伸機にて133℃で幅方向に2倍横延伸し、厚み175μmの横延伸フィルムロール(1A−F2)を得た。得られた横延伸位相差フィルムの特性は以下の通りであった。
面内位相差 ・・・ 82nm
遅相軸の方向 ・・・ 0度(フィルムの幅方向を0度とした)
次に、横延伸位相差フィルム(1A−F2)を、左右移動速度に10%の速度差を持たせたテンター延伸機にて128℃で斜め方向に2倍延伸し、厚み85μmの斜め延伸フィルムロールを得た。得られた横延伸位相差フィルムの特性は以下の通りであった。
面内位相差 ・・・ 140nm
遅相軸の方向 ・・・ 45度(フィルムの幅方向を0度とした)
Re(447)/Re(590)・・・ 0.93
Re(750)/Re(590)・・・ 1.04
(実施例2)
製造例3で得られた未延伸フィルム(1A−F1)をテンター延伸機にて130℃で幅方向に2倍横延伸し、厚み175μmの横延伸フィルムロール(1A−F3)を得た。得られた横延伸位相差フィルムの特性は以下の通りであった。
面内位相差 ・・・ 100nm
遅相軸の方向 ・・・ 0度(フィルムの幅方向を0度とした)
次に、横延伸位相差フィルム(1A−F3)を、左右移動速度に10%の速度差を持たせたテンター延伸機にて130℃で斜め方向に2倍延伸し、厚み85μmの斜め延伸フィルムロールを得た。得られた横延伸位相差フィルムの特性は以下の通りであった。
面内位相差 ・・・ 135nm
遅相軸の方向 ・・・ 45度(フィルムの幅方向を0度とした)
Re(447)/Re(590)・・・ 0.93
Re(750)/Re(590)・・・ 1.04
(比較例1)
製造例3で得られた未延伸フィルム(1A−F1)を、テンター延伸機にて128℃で幅方向に2倍延伸し、厚み175μmの横延伸フィルムロール(1A−F4)を得た。得られた横延伸位相差フィルムの特性は以下の通りであった。
面内位相差 ・・・ 119nm
遅相軸の方向 ・・・ 0度(フィルムの幅方向を0度とした)
次に、横延伸位相差フィルム(1A−F4)を、左右移動速度に10%の速度差を持たせたテンター延伸機にて133℃で幅方向に2倍延伸し、厚み85μmの斜め延伸フィルムロールを得た。得られた横延伸位相差フィルムの特性は以下の通りであった。
面内位相差 ・・・ 95nm
遅相軸の方向 ・・・ 45度(フィルムの幅方向を0度とした)
Re(447)/Re(590)・・・ 0.93
Re(750)/Re(590)・・・ 1.04
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の位相差フィルムの製造方法で得られる長尺の位相差フィルムは、偏光板とロールtoロールで貼合することで、各種表示装置の楕円偏光板として好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも幅方向に横延伸された長尺フィルムを、幅方向に対して20〜50度の方向に斜め延伸する位相差フィルムの製造方法であって、前記横延伸の延伸温度(℃)をT1、前記斜め延伸の延伸温度をT2(℃)とした時、T1−T2≧−3、となるように延伸する、位相差フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記位相差フィルムの面内位相差値が100nm以上、300nm以下である、請求項1に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記少なくとも幅方向に横延伸された長尺フィルムの面内位相差値が20nm以上180nm以下である、請求項1または2のいずれか1項に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記少なくとも横方向に延伸された長尺フィルムが、アクリル系重合体を含む熱可塑性樹脂からなる、請求項1から3のいずれか1項に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記アクリル系重合体が、主鎖に環構造を有するアクリル系重合体を含む熱可塑性樹脂であることを特長とする、請求項4に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項6】
波長分散性Re(447)/Re(590)が0.96以下、かつ、波長分散性Re(750)/Re(590)が1.02以上である、請求項1から5のいずれか1項に記載の位相差フィルムの製造方法。

【公開番号】特開2013−97216(P2013−97216A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−240751(P2011−240751)
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】