説明

位相差基板の製造方法

【課題】所望の領域にのみ選択的に加熱して等方相とし、位相差を設ける領域に液晶相の配向乱れの無い位相差基板の製造方法を提供する。
【解決手段】透過光に作用し透過光の光学補償を行う複数の位相差部20Aと、透過光に作用しない複数の等方部20Bとを備えた位相差基板1の製造方法であって、配向能を有する基材10上に重合性の液晶材料を塗布し液晶相を備える材料層20aを形成する工程と、材料層20aのうち複数の位相差部形成領域に配置された液晶材料を重合させ、液晶相を保持した複数の位相差部20Aを形成する工程と、材料層20aのうち複数の等方部形成領域に光を照射し、液晶材料の液晶相−等方相転移温度より高い温度に加熱して等方相に相転移させる工程と、複数の等方部形成領域に配置された液晶材料を重合させ、等方相を保持した複数の等方部20Bを形成する工程と、を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相差層を備えた基板(位相差基板)の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置やエレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイ等の画像表示装置では、光が透過する複数種の材料の複屈折率差により位相差を生じることが多く、表示画像にぼやけやにじみなどの不具合が生じることがある。そのため、この位相差に対して光学的な補償を行う目的で光路上に位相差層が設けられていることが一般的となっている。
【0003】
このような位相差層は、例えば、外光を利用した反射型の表示方法と、バックライトなどの内部の光源を利用した透過型の表示方法と、を兼ね備えた半透過半反射型の液晶表示装置に利用されている。半透過半反射型の液晶表示装置は、周囲の明るさに応じて反射モードまたは透過モードのいずれかの表示方式に切り替えることにより、消費電力を低減しつつ周囲が暗い場合でも明瞭な表示が行えるようにしたものである。このような液晶表示装置において、反射表示を行う領域と透過表示を行う領域との表示方式の違いによる位相差を補償するため、上記位相差層が設けられている。
【0004】
所定の領域に位相差層を形成する方法としては、所定の領域よりも広い領域に位相差層を形成した後に、公知のフォトリソグラフィ技術を用いてパターニングし、有機溶媒で洗い流して現像する方法がある。しかし、この方法は有機溶媒を用いることから他の部材が溶解し損傷するおそれがあり、また、製造設備上及び製造工程上大きな負荷となる。
【0005】
そのため、特許文献1には現像を用いない位相差層のパターニングの方法が提案されている。図4に示すように、まず基板10上に光硬化性の液晶材料を塗布して液晶層20aを形成した後に、位相差を持たせたい領域にマスク30を介して紫外線Lを照射し、重合させて位相差部20Aを形成する(図4(a))。次いで基板全体に熱Hを加え、高温にすることで未反応部分を等方相20bとする(図4(b))。次いで、等方相20bとなった未反応部分を紫外線Lで硬化させて等方部20Bを形成しパターニングをする方法である(図4(c))。この方法は、有機溶媒を用いる現像工程がなく位相差層をパターニングできることからコスト面で大変有利であると言える。
【特許文献1】特開2004−133179号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記方法では基板全体を高温に加熱するため、加熱前に重合させている液晶材料高分子鎖の運動(ミクロブラウン運動)が活発となり、液晶材料の配向が乱れて所望の液晶相状態が保てないおそれがある。この課題のため、上記方法を用いて所望の位相差補償特性を有した位相差層を得ることが難しくなっている。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、所望の領域にのみ選択的に加熱して等方相とし、位相差を設ける領域に液晶相の配向乱れの無い位相差層を備えた基板(位相差基板)の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明の位相差基板の製造方法は、透過光に作用し前記透過光の光学補償を行う複数の位相差部と、前記透過光に作用しない複数の等方部とを備えた位相差基板の製造方法であって、配向能を有する基材上に重合性の液晶材料を塗布し液晶相を備える材料層を形成する工程と、前記材料層のうち複数の前記位相差部の形成領域に配置された前記液晶材料を重合させ、液晶相を保持した複数の前記位相差部を形成する工程と、前記材料層のうち複数の前記等方部の形成領域に光を照射し、前記液晶材料の液晶相−等方相転移温度より高い温度に加熱して等方相に相転移させる工程と、複数の前記等方部の形成領域に配置された前記液晶材料を重合させ、等方相を保持した複数の前記等方部を形成する工程と、を備えることを特徴とする。
この方法によれば、所望の領域のみを選択的に加熱し等方相とすることで、位相差部の温度上昇を抑制することが可能となる。そのため、液晶相を保持して重合固化した位相差部の配向乱れを防ぎ、所望の位相差部の光学補償特性を維持することができる。したがって、有機溶媒を用いる現像工程がなく、且つ、高品質な位相差層を備えた位相差基板を製造することができる。
【0009】
本発明においては、前記液晶材料が紫外線硬化性樹脂であることが望ましい。
紫外線硬化性樹脂は、加熱を行わずに硬化させることができるため、位相差部となる材料層に余分な熱を加えることなく、液晶相を保持したまま重合させることができる。そのため、容易に液晶相の配向乱れのない良好な位相差部を形成することができる。
【0010】
本発明においては、前記相転移させる工程で、前記等方部の形成領域を、前記液晶材料の重合体のガラス転移温度よりも低い温度に加熱することが望ましい。
材料層の液晶相を等方相に相転移させるために等方部の形成領域に加熱をする際には、隣接する位相差部にも熱が伝導し加熱される領域が広がる。そのため、伝導する熱により位相差部を構成する重合体の分子鎖の動き(ミクロブラウン運動)が活発になり、重合することで固定した液晶相の配向が乱れるおそれがある。しかし、この方法によれば、加熱する温度を液晶材料の重合体のガラス転移温度よりも低い温度に制御することとしている。そのため、位相差部に熱が伝わっても位相差部の配向が乱れるほどに重合体のミクロブラウン運動が活発になることがない。したがって、確実に位相差部の配向を保持して良好な位相差基板を形成することができる。
【0011】
前記相転移させる工程で、前記光は前記光を屈折させる光学素子を介して照射することが望ましい。
この方法によれば、様々な光源に対応した光学素子を選択することにより、個々の光源に応じた好適な光の照射条件を作り出すことができ、良好に位相差基板を製造することができる。
【0012】
本発明においては、前記相転移させる工程で、前記光は前記光学素子により略平行光とされた赤外線であることが望ましい。
この方法によれば、加熱するための光に赤外線を用いるため加熱が容易である。その上、照射する赤外線は光学素子により略平行光となっているため、照射する光の広がりを考慮する必要がなく、所望の領域を選択的に加熱しやすい。したがって、等方部の形成領域を選択的に等方相とし、良好な位相差基板を製造することが容易となる。
【0013】
ここで、「平行光」とは、理想的には光線が広がらずにどこまでも平行に進む光であるが、本発明においては発明の主旨より「被写体に対して照射角のバラツキの小さい光」をも含む概念とする。したがって「略平行光」とは、使用する光源や光学素子等の特性や製造誤差等を考慮した範囲で平行光とみなせる状態、又は使用する光源、光学素子等の設計の制約上、若干平行光からずれるとしても実質的に平行光とみなすことができ、本発明と同一の作用効果を奏することのできる光の状態をいう。また、以下の説明で「略」又は「概ね」といった記載がある場合には、同様の解釈をするものとする。
【0014】
本発明においては、前記光学素子は、平面視で前記等方部の形成領域と略同じ大きさを備え、前記光学素子を前記等方部の形成領域に対応する位置に複数配置することが望ましい。
この方法によれば、平行光となった赤外線を、容易に等方部の形成領域の全領域に照射することができる。そのため、端部までムラなく等方相となった等方部を形成することができ、表示ムラのない良好な位相差基板を製造することができる。
【0015】
本発明においては、前記相転移させる工程で、前記光は、前記等方部の形成領域に対応する位置に複数配置された光学素子により集光された可視光線または赤外線であることが望ましい。
この方法によれば、集光することで焦点位置での光を強くし、焦点位置の加熱を容易に且つ確実に行うことができる。そのため確実に等方相とすることができる。その上、焦点位置を変化させることで光を照射する領域を狭く限定することができるため、形成済みの位相差部に光を照射することなく、所望の領域のみを選択的に加熱することができる。
【0016】
本発明においては、前記相転移させる工程で、前記等方部の形成領域に対応する位置に開口部を備え、前記位相差部に対応する位置に遮光部を備えたマスクを介し、前記光を照射することが望ましい。
液晶相を保持した位相差部をマスクの遮光部で覆い光が当たらないようにすることで、所望の領域への選択的な赤外線の照射を確実なものとすることができる。
【0017】
本発明においては、前記基材と前記光学素子とを前記基材の面方向に相対移動させ、前記等方部の形成領域の内側に前記光を照射することが望ましい。
この方法によれば、加熱ムラを無くし、等方部の形成領域を確実に等方相に相転移させることができる。
【0018】
本発明においては、前記等方部を形成する工程において、前記光を照射したまま前記液晶材料を重合させることが望ましい。
光を照射して液晶相を等方相へと相転移させているが、照射をやめると材料層は加熱されないため徐々に冷却される。等方相となった液晶材料は冷却され等方相転移温度を下回ると再配向し、再び液晶相を形成してしまう。しかし、この方法によれば、等方部の形成時においても光による加熱を継続するため液晶材料が再度液晶相へと配向することなく、等方相を保持した等方部を形成することが容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
[第1実施形態]
以下、図1〜図2を参照しながら、本発明の第1実施形態に係る位相差基板の製造方法について説明する。なお、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の膜厚や寸法の比率などは適宜異ならせてある。
【0020】
図1には、本実施形態の製造方法で製造する位相差基板1の概略断面図を示す。本発明において「位相差基板」とは、位相差補償特性を有した位相差層が形成されている平板状の部材であり、厚みによらずフィルム状、シート状、板状のいずれの形状も含む。
【0021】
位相差基板1は、配向能を有する基材10の上に位相差層20が形成されている。基材10は、基材本体10Aと、液晶を所定の配向軸方向に配向させる配向膜10Bとを備えている。
【0022】
基材本体10Aは、光透過性を備えた材料で形成されており、例えばガラス、石英ガラス、窒化ケイ素等の無機物や、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂等の有機高分子(樹脂)を用いることができる。また、光透過性を備えるならば、前記材料を積層または混合して形成された複合材料を用いることもできる。本実施形態ではガラスを用いる。
【0023】
配向膜10Bには、酸化シリコンの斜方蒸着膜などの無機配向膜、もしくはポリイミド等を所定の方向にラビング処理してなる有機配向膜のいずれも用いることができるが、配向規制力の強さから有機配向膜を用いることが望ましい。本実施形態ではポリイミド配向膜を用いる。
【0024】
本実施形態では、基材10には、基材本体10Aと配向膜10Bとから構成されたものを用いるが、他にも、所定の方向にフィルム状の高分子を引き伸ばした延伸フィルムを用いることもできる。延伸フィルムは、延伸方向に液晶配向性を備えているため、別途配向膜を形成することなく配向能を有する基材として用いることが可能である。また、2軸延伸フィルムである場合は、2軸間で引き伸ばす率(延伸率)が異なっているものを用いると、延伸率の高い方向に液晶配向性を備えているため配向能を有する基材として用いることができる。
【0025】
基材10の配向膜10Bが形成された面には、位相差層20が形成されている。位相差層20は、紫外線硬化性の液晶モノマー又は液晶オリゴマー等の液晶材料が重合した重合体(液晶ポリマー)で形成されている。このような液晶材料が形成する液晶相は特に限定がなく、ネマチック液晶、スメクチック液晶、コレステリック液晶など、いずれの液晶相を形成する液晶材料であっても使用可能である。また、直線状である液晶材料の分子の末端または両末端には、重合性の官能基を備えている。重合性の官能基としては、光重合のしやすさからアクリロイルオキシ基、またはメタクリロイルオキシ基が望ましい。また、位相差層20には、光重合を促進するための光重合開始剤や、液晶材料の配向を制御するためのカイラル剤が含まれていても良い。本実施形態では位相差層20の厚みは約2μmとなっている。
【0026】
位相差層20には、配向膜10Bの配光軸方向に液晶材料が配向し、配向を保持したまま重合固化している位相差部20Aと、液晶材料が一定方向に配向していない等方相のまま重合固化している等方部20Bとが、設計に応じて交互に配置している。位相差部20Aと等方部20Bの幅は任意に設計することができる。
【0027】
次に、本実施形態の位相差基板の製造方法について説明する。図2は、製造工程を示す工程図である。
【0028】
まず図2(a)に示すように、基板本体10Aの上に配向膜10Bが形成されてなる基板10を用意し、配向膜10B上に紫外線硬化性の液晶モノマーの溶液を塗布する。塗布の方法としては、スピンコート法、フレキソ印刷、スクリーン印刷等の湿式塗布法を用いることができる。溶媒を蒸発させた後、使用する液晶モノマーの液晶相−等方相転移温度以上に、例えば該転移温度よりも10℃高い温度に加熱して全体を等方相とし、徐々に該転移温度よりも低い温度まで冷却して配向処理を行う。この冷却時に、液晶モノマーは配向膜10Bの配向軸方向に応じて配向する。配向処理を行うと、塗布した液晶モノマーは液晶相を備える液晶層(材料層)20aとなる。
【0029】
次いで、図2(b)に示すように、形成した液晶層20a側からマスク30を介して紫外線Lを照射し、液晶層20aの一部を光重合させる。マスク30には、形成する等方部に対応する形状の遮光部30aと、位相差部に対応する形状の開口部30bとが備わっている。開口部30bと平面的に重なる領域の液晶層20aは、配向状態を保持したまま重合して位相差部20Aを形成する。遮光部30aと平面的に重なる領域の液晶層20aでは重合が起こらず液晶モノマーの状態を維持する。
【0030】
次いで、図2(c)に示すように、位相差部20Aを除く等方部形成領域に、レンズ(光学素子)50を用いて平行光に変換された赤外線L1を照射して加熱する。その際、使用するレンズ50は等方部形成領域とほぼ同じ大きさであるため、選択的に等方部形成領域に赤外線L1を照射しやすい。また、位相差部20Aをマスク40の遮光部40bで保護しているため、位相差部20Aへの赤外線L1の照射をより確実に防ぐ方法となっている。
【0031】
光源としては、レンズ50の焦点位置に配置可能な点光源であることが好ましい。例えば、赤外線を照射可能なLEDをレンズ50に対応した位置に複数配置し、レンズ50にそれぞれ対応する点光源として用いることがあげられる。また、レンズ50に位置が対応していない光源からの光を、レンズ50の焦点位置に対応した位置に設けられたピンホールを介して照射することで点光源とみなすこととしても良い。更には、レンズ50とは別の集光素子または集光素子群を用いて光源から発せられた赤外線を一度集光し、該集光素子の焦点位置とレンズ50の焦点位置とを合わせることで平行光を実現しても良い。
【0032】
ここで、加熱する材料層20aを、用いる液晶モノマーの等方相転移温度より高く、液晶ポリマーのガラス転移温度より低い温度に加熱し、位相差部20Aを除く領域を等方相としている。等方部形成領域が暖まると、その周囲の位相差部20Aにも熱が伝わるが、ガラス転移温度よりも低い温度で制御するため、位相差部20Aでは配向乱れが生じるまで温度が上がることはない。このように、用いる液晶モノマーの液晶相−等方相転移温度と、該液晶モノマーの重合体のガラス転移温度との温度差を利用して、相転移を行う。赤外線L1の照射は、例えば放射温度計などの非接触方式の温度計を用いて材料層20aの温度を測定しながら、温度制御を行うとよい。また、赤外線L1を連続して照射し続けず、間欠的に照射をして昇温と放熱を制御し、温度制御を行うこととしてもよい。
【0033】
次いで、図2(d)に示すように、赤外線L1を照射して加熱を続けたまま、液晶層20a側から紫外線Lを照射し、等方相となった未反応の液晶モノマーを光重合させる。液晶モノマーは等方相の状態を保持したまま重合し、等方部20Bを形成すると共に、位相差部20Aと等方部20Bとの境界が接続され、一体の位相差層20となる。赤外線L1を照射したまま光重合をさせると、放冷により赤外線L1照射領域が冷え液晶相に戻る状態変化(相転移)を防ぎ、等方相の状態を保持しやすい。以上のようにして、位相差基板1が完成する。
【0034】
以上のような位相差基板1の製造方法によれば、所望の領域のみを選択的に加熱し等方相とすることで、液晶相を保持して重合固化した位相差部20Aの温度上昇を抑制し、位相差部20Aの配向乱れを防ぐことができる。そのため、有機溶媒を用いる現像工程がなく、且つ、所望の光学補償特性を有した位相差層20を備えた位相差基板1を製造することができる。
【0035】
また、本実施形態では位相差層20を形成する液晶材料は紫外線硬化性樹脂であることとしている。そのため、加熱を行わずに液晶材料を硬化させることができ、材料層20aに余分な熱を加えることなく液晶相を保持したまま重合させることができる。そのため、容易に液晶相の配向乱れのない良好な位相差部20Aを形成することができる。
【0036】
また、本実施形態では、材料層20aの等方部形成領域を、液晶材料の重合体のガラス転移温度よりも低い温度に加熱して等方相に相転移させている。そのため、加熱される等方部形成領域の熱が位相差部20Aに伝わっても、位相差部20Aを形成する重合体の分子鎖の動きが活発になって配向が乱れるまで温度が上がることがない。そのため、位相差部20Aの配向が乱れにくく、確実に位相差部20Aの配向を保持して良好な位相差基板1を形成することができる。
【0037】
また、本実施形態では、照射する光はレンズ50により略平行光とされた赤外線L1であるとしている。
この方法によれば、赤外線L1を用いるため加熱が容易であり、また照射する赤外線L1はレンズ50により略平行光となっているため、照射する光の広がりを考慮する必要がなく、所望の領域を選択的に加熱しやすい。したがって、等方部形成領域を選択的に等方相とし、良好な位相差基板1を製造することが容易となる。
【0038】
また、本実施形態では、レンズ50は、平面視で等方部形成領域と略同じ大きさを備えており、レンズ50を等方部形成領域に対応する位置に複数配置している。そのため、平行光となった赤外線L1を、容易に等方部形成領域の全領域に照射することができる。そのため、端部までムラなく等方相となった等方部20Bを形成することができ、表示ムラのない良好な位相差基板1を製造することができる。
【0039】
また、本実施形態では、等方部形成領域に対応する位置に開口部40bを備え、位相差部20Aに対応する位置に遮光部40aを備えたマスク40を介し、赤外線L1を照射して相転移させている。液晶相を保持した位相差部20Aを遮光部40aで覆い光が当たらないようにすることで、所望の領域への選択的な赤外線の照射を確実なものとすることができる。
【0040】
また、本実施形態では、等方部20Bを形成する工程において、赤外線L1を照射したまま液晶材料を重合させることとしている。等方部20Bの形成時においても赤外線L1による加熱を継続するため液晶材料が再度液晶相へと配向することなく、等方相を保持した等方部20Bを形成することが容易となる。
【0041】
なお、本実施形態においては、等方部形成領域に対応する大きさを備えたレンズ50を用いることとしたが、レンズ50の大きさと等方部形成領域との大きさは同じでなくても構わない。
レンズ50の方が大きい場合には、位相差部20Aまで赤外線を照射してしまうことになるため、マスク40を介して照射することが望ましい。レンズ50の方が小さい場合には、赤外線を照射した領域から周囲に伝導する熱により等方部形成領域の全体を加熱することとすると良い。他にも、レンズ50と等方部形成領域とを、基板10の面方向に相対的に並行移動させ、等方部形成領域の全体を照射することとしても良い。
【0042】
また、本実施形態においては、赤外線L1を照射しながら紫外線Lを照射し、等方部20Bを形成することとしたが、紫外線Lの照射時には赤外線L1を照射していなくても構わない。その場合は、加熱した材料層20aの温度が等方相転移温度以下となる前に重合を完了させることが望ましい。
【0043】
[第2実施形態]
図3は、本発明の第2実施形態に係る位相差基板の製造方法の製造工程図である。本実施形態の製造方法は、第1実施形態の製造方法と一部共通している。異なるのは、等方処理に用いる光が平行光ではなく、レンズで集光させた光を用いることである。したがって、本実施形態において第1実施形態と共通する構成要素については同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0044】
まず、図3(a)(b)に示すように、第1実施形態の製造方法と同様に、基板10上に液晶層20aを形成し、次いで液晶層20aに対してマスク30を介して紫外線Lを照射し、位相差部20Aを形成する。
【0045】
次いで、図3(c)に示すように、位相差部20Aを除く領域にレンズで集光した光L2を照射して加熱する。位相差部20Aを除く領域に集光した光L2の焦点位置をあわせることで、効率的な加熱が可能である。光L2は可視光線または赤外線であって、光硬化性の液晶モノマーまたは液晶オリゴマーが光重合を開始しない波長の光を用いる。
【0046】
光L2の照射の際には、基材10とレンズ(光学素子)60とを相対移動させて光L2の照射を行う。位相差部20Aを除く領域に満遍なく光L2を照射し、ムラなく加熱することが可能である。また、焦点位置のみに光L2を照射することとしてもよく、その場合には焦点位置から周囲に熱が伝わり、位相差部20Aを除く領域の全体を、等方相転移温度より高い温度にまで加熱することが可能である。このような場合には、例えば光L2を間欠照射することで、焦点位置を加熱し過ぎないように制御しながら位相差部20Aを除く領域を加熱すると良い。
【0047】
図に示すように、本実施形態では、レンズ60は平凸レンズの形状で平面側を光源側に向けることとしている。このような形状のレンズに平行光の光L2を入射すると、焦点位置に像を結び液晶層20aを加熱することができる。また、光源からの光の状態によっては両凸レンズを使用することも可能である。更には、複数のレンズを透過させて平行光とすることとしてもよい。
【0048】
次いで、図3(d)に示すように、光L2を照射して加熱を続けたまま、液晶層20a側から紫外線Lを照射し、等方相となった未反応の液晶モノマーを光重合させる。液晶モノマーは等方相の状態を保持したまま重合し、等方部20Bを形成する。以上のようにして、位相差基板1が完成する。
【0049】
以上のような位相差基板の製造方法によれば、集光することで焦点位置での光を強くし、焦点位置の加熱を容易に且つ確実に行うことができる。そのため確実に等方相とすることができる。その上、焦点位置を変化させることで光L2を照射する領域を狭く限定することができるため、形成済みの位相差部20Aに光を照射することなく、所望の領域のみを選択的に加熱することができる。
【0050】
また、本実施形態では、基材10とレンズ60とを基材10の面方向に相対移動させ、等方部形成領域の内側に光L2を照射することとしている。そのため、加熱ムラを無くし、確実に等方相に相転移させた等方部20Bを形成することができる。
【0051】
本発明で製造する位相差基板は、液晶表示装置や有機EL装置等の画像表示装置に用いることで、表示画像の位相差を補償することができる。例えば、半反射半透過型の液晶表示装置では、透過表示領域と反射表示領域とで表示方式がことなることから、画像表示を行う光の光路に差が生じ、位相のずれ(位相差)が生じることが分かっている。このような位相差は表示画像の表示ムラやちらつき等の画質の劣化につながる。本発明の製造方法を用いて製造する位相差基板は、光学補償作用を備える位相差部20Aに配向乱れが無く高品質なものとなるため、良好に位相差を補償し、優れた画像表示を可能とすることができる。
【0052】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の製造方法で製造する位相差基板の概略断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る製造工程図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る製造工程図である。
【図4】従来の製造工程図である。
【符号の説明】
【0054】
1…位相差基板、10…基材、20…位相差層、20a…材料層、20A…位相差部、20B…等方部、40…マスク、40a…遮光部、40b…開口部、50,60…光学素子、L1,L2…光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透過光に作用し前記透過光の光学補償を行う複数の位相差部と、前記透過光に作用しない複数の等方部とを備えた位相差基板の製造方法であって、
配向能を有する基材上に重合性の液晶材料を塗布し液晶相を備える材料層を形成する工程と、
前記材料層のうち複数の前記位相差部の形成領域に配置された前記液晶材料を重合させ、液晶相を保持した複数の前記位相差部を形成する工程と、
前記材料層のうち複数の前記等方部の形成領域に光を照射し、前記液晶材料の液晶相−等方相転移温度より高い温度に加熱して等方相に相転移させる工程と、
複数の前記等方部の形成領域に配置された前記液晶材料を重合させ、等方相を保持した複数の前記等方部を形成する工程と、を備えることを特徴とする位相差基板の製造方法。
【請求項2】
前記液晶材料が紫外線硬化性樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の位相差基板の製造方法。
【請求項3】
前記相転移させる工程で、前記等方部の形成領域を、前記液晶材料の重合体のガラス転移温度よりも低い温度に加熱することを特徴とする請求項1に記載の位相差基板の製造方法。
【請求項4】
前記相転移させる工程で、前記光を屈折させる光学素子を介して前記光を照射することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の位相差基板の製造方法。
【請求項5】
前記相転移させる工程で、前記光は前記光学素子により略平行光とされた赤外線であることを特徴とする請求項4に記載の位相差基板の製造方法。
【請求項6】
前記光学素子は、平面視で前記等方部の形成領域と略同じ大きさを備え、
前記光学素子を前記等方部の形成領域に対応する位置に複数配置することを特徴とする請求項5に記載の位相差基板の製造方法。
【請求項7】
前記相転移させる工程で、前記光は、前記等方部の形成領域に対応する位置に複数配置された前記光学素子により集光された可視光線または赤外線であることを特徴とする請求項4に記載の位相差基板の製造方法。
【請求項8】
前記相転移させる工程で、前記等方部の形成領域に対応する位置に開口部を備え、前記位相差部に対応する位置に遮光部を備えたマスクを介し、前記光を照射することを特徴とする請求項4または請求項6に記載の位相差基板の製造方法。
【請求項9】
前記相転移させる工程で、前記基材と前記光学素子とを前記基材の面方向に相対移動させ、前記等方部の形成領域の内側に前記光を照射することを特徴とする請求項5、請求項7または請求項8のいずれか1項に記載の位相差基板の製造方法。
【請求項10】
前記等方部を形成する工程において、前記光を照射したまま前記液晶材料を重合させることを特徴とする請求項1に記載の位相差基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−139785(P2009−139785A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−317978(P2007−317978)
【出願日】平成19年12月10日(2007.12.10)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】