説明

位相差板の製造方法、位相差板、および偏光板

【課題】液晶表示装置の視野角補償に効果的な、幅広でかつ薄手である長尺の位相差板を提供すること。
【解決手段】固有複屈折値が正である材料を含有するA層と、固有複屈折値が負である材料を含有するB層とを有する積層体を斜め延伸してなる長尺の位相差板であって、その遅相軸は、当該位相差板の幅方向に対して40〜50°の方向であり、面内の遅相軸方向の屈折率の平均値をnx 、面内の進相軸方向の屈折率の平均値をny 、厚み方向の屈折率の平均値をnz としたとき、(nx−nz)/(nx−ny)で表されるNz値が0を超え1未満であり、その幅方向におけるNz値の最大値と最小値の差であるNz値のばらつきは−0.1〜0.1であり、その幅寸法は、1000mm以上であり、その厚みは15μm〜70μmである長尺の位相差板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相差板の製造方法、位相差板、および偏光板に関し、特に液晶表示装置の視野角補償に好適な位相差板の製造方法、位相差板、およびこの位相差板を含む偏光板に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置には、一般に、液晶表示装置の視野角補償の役割を果たすために位相差板が配置されている。このような位相差板としては、液晶表示装置の色調の角度依存性を小さくするために、入射角0度におけるレタデーションReと、入射角40度におけるレタデーションR40が、0.92≦R40/Re≦1.08の関係(関係1)を満たす位相差板、面内の遅相軸方向の屈折率nxと、それに面内で直交する方向の屈折率nyと、厚さ方向の屈折率nzとが、nx>nz>nyの関係(関係2)を満たす位相差板、(nx−nz)/(nx−ny)で表される係数Nz値が0を超え1未満の関係(関係3)にあるものが提案されている。なお、これら関係1〜3はいずれも光学物性的には概ね等価なものを示す指標である。
【0003】
このような位相差板としては、例えば特許文献1には、ノルボルネン系樹脂フィルムを所定の延伸倍率の範囲で斜め方向に延伸することによって、フィルムの幅方向から10°〜80°傾いた方向に遅相軸を有し、(nx−nz)/(nx−ny)で表される係数Nz値が0を超え1未満である延伸フィルム得て、これを偏光吸収軸がフィルム長手方向の長尺の偏光フィルムとロール・トゥ・ロールで張り合わせて円偏光板を得ることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−233198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
また、近年では、液晶表示装置の大型化、薄型化、高精細化等に伴い、幅広でかつ薄手で、より視野角補償効果の高い位相差板が求められてきている。しかしながら、特許文献1に記載されている手法では、前述したNz値が所定の範囲に収まらず光学的な性能を十分に発揮できない等の問題から幅方向の変形倍率が制限されるために、幅広でかつ薄手の位相差板を製造できないという問題がある。なお、変形倍率が所定の範囲内に入るように調整しつつ、薄手で幅広の位相差板を得るために、予め、薄手で幅広の延伸前フィルムを準備して対応することも考えられるが、この場合には、薄手の延伸前フィルムの強度が非常に低いことから当該延伸前フィルムの製膜中に破断等を生じる可能性が高く、また、延伸工程でのハンドリング性も悪化するため、位相差板の生産性を向上できず、実質的には実施できないと考えられる。
【0006】
本発明の目的は、液晶表示装置の視野角補償に効果的な、幅広でかつ薄手である長尺の位相差板を効率的に製造できる製造方法、液晶表示装置の視野角補償に効果的な、幅広でかつ薄手である位相差板、および、この位相差板を含む偏光板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、所定の構成からなる多層の積層体を所定条件で延伸処理することにより、Nz値が0を超え1未満の範囲にあって、遅相軸が幅方向に対して40〜50°である幅広で薄手であり、位相差むらの少ないる長尺の位相差板を効率的に生産できることを見いだし、この知見を基づいて本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明によれば、以下の発明が開示される。
(1)長尺の位相差板の製造方法であって、固有複屈折値が正で、かつガラス転移温度Tg(A)である材料を含有するA層と、固有複屈折値が負で、かつガラス転移温度Tg(B)である材料を含有するB層とを有する長尺の積層体を得る工程と、前記積層体を、前記Tg(A)および前記Tg(B)のいずれか低い方の温度よりも5℃以上高い温度T1(℃)で、当該積層体の幅方向に対して40〜50°の角度θの方向に1回目の延伸を行って位相差板用延伸フィルムを得る第一延伸工程と、前記第一延伸工程で得られた前記位相差板用延伸フィルムを、前記Tg(A)および前記Tg(B)のいずれか高い方の温度よりも低く、かつT1とは異なる温度T2(℃)で、当該位相差板用延伸フィルムの幅方向に対してからθ+80°〜θ+100°の方向に2回目の延伸を行って位相差板を得る第二延伸工程と、を備え、前記位相差板は、その遅相軸が、当該位相差板の幅方向に対して40〜50°の方向であり、面内の遅相軸方向の屈折率の平均値をnx 、面内の進相軸方向の屈折率の平均値をny 、厚み方向の屈折率の平均値をnz としたとき、(nx−nz)/(nx−ny)で表されるNz値が0を超え1未満であり、その幅寸法が前記積層体の幅寸法の1.5〜5.0倍であり、その幅寸法が1000mm以上であり、その厚みが15μm〜70μmである長尺の位相差板の製造方法。
(2)前記積層体の厚みをd、前記位相差板の厚みをdとしたとき、0.15<d/d<0.70を満たす前記長尺の位相差板の製造方法。
(3)Tg(A)>Tg(B)+5(℃)の関係を満たす前記長尺の位相差板の製造方法。
(4)前記積層体を得る工程は、前記A層と前記B層とを共押出法により実施する前記長尺の位相差板の製造方法。
(5)固有複屈折値が正である材料を含有するA層と、固有複屈折値が負である材料を含有するB層とを有する積層体を斜め延伸してなる長尺の位相差板であって、その遅相軸は、当該位相差板の幅方向に対して40〜50°の方向であり、面内の遅相軸方向の屈折率の平均値をnx 、面内の進相軸方向の屈折率の平均値をny 、厚み方向の屈折率の平均値をnz としたとき、(nx−nz)/(nx−ny)で表されるNz値が0を超え1未満であり、その幅方向におけるNz値の最大値と最小値の差であるNz値のばらつきは、−0.1〜0.1であり、その幅寸法は、1000mm以上であり、その厚みは、15μm〜70μmである長尺の位相差板。
(6)前記長尺の位相差板と、長尺の偏光フィルムとを、それらの長手方向を揃えて積層させてなる長尺の偏光板。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法によれば、所定の層構成である積層体を、Tg(A)およびTg(B)のいずれか低い方の温度よりも5℃以上高い温度T1(℃)で該積層体の幅方向に対して40〜50°の角度θで延伸し、さらに、この延伸された積層体を、Tg(A)およびTg(B)のいずれか高い方の温度よりも低く、かつT1とは異なる温度T2(℃)で、幅方向に対してθ+80°〜θ+100°の方向に再度延伸して、その幅方向の変形倍率を1.5〜5.0倍とする、つまり未延伸フィルムの幅が1.5〜5.0倍になるように延伸することにより、所定の係数Nz値関係を有し、幅広で、かつ薄手である位相差板を生産性を高めて効率良く製造できるという効果がある。
本発明の位相差板によれば、その遅相軸が当該位相差板の幅方向に対して40〜50°の方向であり、Nz値が0を超え1未満であり、その幅方向におけるNz値の最大値と最小値の差であるNz値のばらつきが−0.1〜0.1であり、その幅寸法が1000mm以上であり、その厚みが15μm〜70μmであることにより、当該位相差板を液晶表示装置に用いた場合に、その表示画面の視野角が広くなり、コントラストの低下や着色を防止することができ、上記の通り、特定の光学性能を有する幅広かつ薄手の位相差フィルムを得ることができるので、液晶表示装置の大画面化、軽量化、薄型化にも貢献できるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
<位相差板の製造方法>
本発明に係る位相差板の製造方法は、固有複屈折値が正で、かつガラス転移温度Tg(A)である材料を含有するA層と、固有複屈折値が負で、かつガラス転移温度Tg(B)である材料を含有するB層とを有する長尺の積層体を得る工程(積層体形成工程)と、Tg(A)およびTg(B)のいずれか低い方の温度よりも5℃以上高い温度T1(℃)で、当該積層体の幅方向に対して40〜50°の角度θの方向に1回目の延伸を行って位相差板用延伸フィルムを得る第一延伸工程と、第一延伸工程で得られた位相差板用延伸フィルムを、Tg(A)およびTg(B)のいずれか高い方の温度よりも低く、かつT1とは異なる温度T2(℃)で、当該位相差板用延伸フィルムの幅方向に対してからθ+80°〜θ+100°の方向に2回目の延伸を行って位相差板を得る第二延伸工程とを備えている。ここで、固有複屈折値が正であるとは、延伸方向の屈折率がそれに直交する方向の屈折率よりも大きくなることを意味し、固有複屈折値が負であるとは、延伸方向の屈折率がそれに直交する方向の屈折率よりも小さくなることを意味する。
【0011】
<積層体形成工程>
積層体は、固有複屈折が正の材料からなるA層と、固有複屈折が負の材料からなるB層とを有する長尺状のフィルムである。
【0012】
A層に用いられる固有複屈折値が正である材料としては、熱可塑性樹脂aを用いることができる。熱可塑性樹脂aとしては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのオレフィン樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂;ポリフェニレンサルファイドなどのポリアリーレンサルファイド樹脂;ポリビニルアルコール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、セルロースエステル樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリアリルサルホン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ノルボルネン樹脂、棒状液晶ポリマーなどを挙げることができる。これらの樹脂は、一種単独でまたは二種以上を組合せて使用してもよい。本発明においては、これらの中でも、位相差発現性、低温での延伸性、および他層との接着性の観点からポリカーボネート樹脂が好ましい。
【0013】
熱可塑性樹脂aのガラス転移温度はTg(A)とする。Tg(A)は、通常80℃以上、好ましくは90℃以上、より好ましくは100℃以上、更に好ましくは110℃以上、特に好ましくは120℃以上である。ガラス転移温度Tg(A)がこのように高いことにより、樹脂Aの配向緩和を低減することができる。なお、ガラス転移温度Tg(A)の上限に特に制限はないが、通常は200℃以下である。
【0014】
B層に用いられる固有複屈折値が負である材料としては、熱可塑性樹脂bを用いることができる。熱可塑性樹脂bとしては、スチレン又はスチレン誘導体の単独重合体または他のモノマーとの共重合体を含むポリスチレン樹脂;ポリアクリロニトリル樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、あるいはこれらの多元共重合ポリマーなどが挙げられる。これらは、一種単独でまたは二種以上を組合せて使用してもよい。スチレン又はスチレン誘導体に共重合させる前記他のモノマーとしては、アクリロニトリル、無水マレイン酸、メチルメタクリレート、およびブタジエンが好ましいものとして挙げられる。本発明においては、これらの中でも、位相差発現性が高いという観点から、ポリスチレン樹脂が好ましく、さらに耐熱性が高いという点で、スチレン又はスチレン誘導体と無水マレイン酸との共重合体が特に好ましい。
【0015】
熱可塑性樹脂bのガラス転移温度をTg(B)とする。Tg(B)は、通常80℃以上、好ましくは90℃以上、より好ましくは100℃以上、更に好ましくは110℃以上、特に好ましくは120℃以上である。ガラス転移温度Tg(B)がこのように高いことにより、熱可塑性樹脂aの配向緩和を低減することができる。なお、ガラス転移温度Tg(B)の上限に特に制限は無いが、通常は200℃以下である。
【0016】
熱可塑性樹脂aのガラス転移温度Tg(A)と、熱可塑性樹脂bのガラス転移温度Tg(B)との差の絶対値は、好ましくは5℃より大きく、より好ましくは8℃以上であり、好ましくは40℃以下、より好ましくは20℃以下である。前記のガラス転移温度の差の絶対値が小さすぎると位相差発現の温度依存性が小さくなる傾向がある。一方、前記のガラス転移温度の差の絶対値が大きすぎるとガラス転移温度の高い樹脂の延伸がし難くなり、位相差板の平面性が低下しやすくなる可能性がある。なお、前記のガラス転移温度Tg(A)は、ガラス転移温度Tg(B)よりも高いことが好ましい。よって、熱可塑性樹脂aと熱可塑性樹脂bとは通常はTg(A)>Tg(B)+5℃の関係を満足することが好ましい。
【0017】
Tg(B)における熱可塑性樹脂aの破断伸度、およびTg(A)における熱可塑性樹脂bの破断伸度が共に、50%以上であることが好ましく、80%以上であることが特に好ましい。破断伸度がこの範囲にある熱可塑性樹脂であれば、延伸により安定的に位相差フィルムを作成することができる。破断伸度は、JIS K7127記載のタイプ1Bの試験片を用いて、引張速度100mm/分によって求める。なお、熱可塑性樹脂aの破断伸度の上限、および熱可塑性樹脂bの破断伸度の上限は、特に制限は無いが、通常は200%以下である。
【0018】
熱可塑性樹脂aおよび/または熱可塑性樹脂bには、1mm厚での全光線透過率80%以上を維持できるものであれば、配合剤が添加されていてもよい。添加される配合剤は特に限定されず、例えば、滑剤;層状結晶化合物;無機微粒子;酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、近赤外線吸収剤などの安定剤;可塑剤;染料や顔料などの着色剤;帯電防止剤;などが挙げられる。配合剤の量は、本発明の目的を損なわない範囲で適宜定めることができる。特に滑剤や紫外線吸収剤を添加することで可撓性や耐候性を向上させることができるので好ましい。
【0019】
滑剤としては、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸ストロンチウムなどの無機粒子;ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネートなどの有機粒子が挙げられる。本発明では、滑剤としては有機粒子が好ましい。
【0020】
紫外線吸収剤としては、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、アクリロニトリル系紫外線吸収剤、トリアジン系化合物、ニッケル錯塩系化合物、無機粉体などが挙げられる。好適な紫外線吸収剤としては、2,2’−メチレンビス(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール)、2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2,4−ジ−tert−ブチル−6−(5−クロロベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノンが挙げられ、特に好適なものとしては、2,2’−メチレンビス(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール)が挙げることができる。
【0021】
積層体は、長尺のフィルムである。
ここで、長尺とは、フィルムの幅に対し少なくとも5倍程度以上の長さを有するものをいい、好ましくは10倍もしくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻回されて保管または運搬される程度の長さを有するものを言う。長尺の積層体は、その幅が、200mm以上、好ましくは500mm以上、より好ましくは1000mm以上である。
【0022】
このような積層体を得る方法としては、例えば、共押出Tダイ法、共押出インフレーション法、共押出ラミネーション法等の共押出成形法;ドライラミネーション等のフィルムラミネーション成形法、及び樹脂フィルム表面に樹脂溶液をコーティングする等のコーティング成形法または共流延法などの公知の方法が挙げられる。中でも、製造効率や、未延伸フィルム中に溶剤などの揮発性成分を残留させないという観点から、共押出成形法が好ましい。共押出成形法の中でも、共押出Tダイ法が好ましい。共押出Tダイ法にはフィードブロック方式およびマルチマニホールド方式があるが、A層の厚さのばらつきを少なくできる点でマルチマニホールド方式が特に好ましい。
【0023】
積層体を得る方法として、共押出Tダイ法を採用する場合、Tダイを有する押出機における樹脂材料の溶融温度は、熱可塑性樹脂a,bのガラス転移温度(Tg)よりも80〜180℃高い温度にすることが好ましく、該ガラス転移温度よりも100〜150℃高い温度にすることがより好ましい。押出機での溶融温度が過度に低いと、樹脂材料の流動性が不足するおそれがあり、逆に溶融温度が過度に高いと、樹脂が劣化する可能性がある。
【0024】
押出成形法ではダイスの開口部から押出されたシート状溶融樹脂材料を冷却ドラムに密着させる。溶融樹脂材料を冷却ドラムに密着させる方法は、特に制限されず、例えば、エアナイフ方式、バキュームボックス方式、静電密着方式などが挙げることができる。冷却ドラムの数は特に制限されないが、通常は2本以上である。また、冷却ドラムの配置方法としては、例えば、直線型、Z型、L型などが挙げられるが特に制限されない。またダイスの開口部から押出された溶融樹脂の冷却ドラムへの通し方も特に制限されない。
【0025】
本発明においては、冷却ドラムの温度に応じて、押出されたシート状樹脂材料の冷却ドラムへの密着具合が変化する。冷却ドラムの温度を上げると密着はよくなるが、温度を上げすぎるとシート状樹脂材料が冷却ドラムから剥がれずに、ドラムに巻きつく不具合が発生するおそれがある。そのため、冷却ドラム温度は、ダイスから押し出す樹脂のうちドラムに接触する層の樹脂のガラス転移温度をTgとすると、冷却ドラム温度は、好ましくは、(Tg+30)℃以下、さらに好ましくは(Tg−5)℃〜(Tg−45)℃の範囲にする。そうすることにより滑りやキズなどの不具合を防止することができる。
【0026】
また、積層体中の残留溶剤の含有量を少なくすることが好ましい。そのための手段としては、(1)原料となる熱可塑性樹脂の残留溶剤を少なくする;(2)積層体を成形する前に材料を予備乾燥する;などの手段が挙げられる。予備乾燥は、例えば材料をペレットなどの形態にして、熱風乾燥機などで行われる。乾燥温度は100℃以上が好ましく、乾燥時間は2時間以上が好ましい。予備乾燥を行うことにより、積層体中の残留溶剤を低減させる事ができ、さらに押し出されたシート状材料の発泡を防ぐことができる。
【0027】
積層体は、後述する第一延伸方向をX軸、X軸に対して面内で直交する方向をY軸、および厚さ方向をZ軸としたときに、主面に垂直に入射しかつ電気ベクトルの振動面がYZ面にある直線偏光に対する主面に垂直に入射しかつ電気ベクトルの振動面がXZ面にある直線偏光の位相が、温度T1でX軸方向に延伸したときには遅れ、温度T2でX軸方向に延伸したときには進むものであることが好ましい。
【0028】
このような位相差発現に温度依存性を有するフィルムは、正の固有複屈折を有する熱可塑性樹脂aからなるA層と、負の固有複屈折を有する熱可塑性樹脂bからなるB層を、各熱可塑性樹脂の固有複屈折および各樹脂層の厚さ比などの関係を適宜調整することで得ることができる。
【0029】
積層体は、A層およびB層を、それぞれ1層または2層以上有していてもよい。
位相差は、X軸方向の屈折率nxと、X軸方向(前記延伸方向)に直交する方向であるY軸方向の屈折率nyとの差(=nx−ny)に厚さdを乗じて求められる値である。A層とB層とを積層したときの位相差は、A層の位相差とB層の位相差とから合成される。高い温度THおよび低い温度TLにおける延伸によって、A層とB層とからなる積層体の位相差の符号が逆になるようにするために、低い温度TLにおける延伸で、ガラス転移温度の高い樹脂が発現する位相差の絶対値が、ガラス転移温度の低い樹脂が発現する位相差の絶対値よりも小さくなり、高い温度THにおける延伸で、ガラス転移温度の低い樹脂が発現する位相差の絶対値が、ガラス転移温度の高い樹脂が発現する位相差の絶対値よりも小さくなるように、A層およびB層の厚さを調整することが好ましい。このように、延伸によってA層およびB層のそれぞれに発現するX軸方向の屈折率nxとY軸方向の屈折率nyとの差と、A層の厚さの総和と、B層の厚さの総和とを調整することで、積層体の主面に垂直に入射しかつ電気ベクトルの振動面がXZ面にある直線偏光の、積層体の主面に垂直に入射しかつ電気ベクトルの振動面がYZ面にある直線偏光に対する位相が、温度T1でX軸方向に斜め延伸したときには遅れ、温度T1とは異なる温度T2でX軸方向に延伸したときには進む積層体を得ることができる。なお、温度T1は、THまたはTLのいずれか一方の温度であり、温度T2は、T1とは異なるTHまたはTLのいずれか他方の温度である。
【0030】
図1は、積層体のA層(ガラス転移温度が高い熱可塑性樹脂aの層)およびB層(ガラス転移温度が低い熱可塑性樹脂bの層)をそれぞれ単独で延伸したときの位相差の温度依存性と、積層体(A層+B層)を延伸したときの位相差の温度依存性を示すものである。温度Tbにおける延伸ではA層の延伸によって発現するプラスの位相差に比べB層の延伸によって発現するマイナスの位相差の方が大きいので、積層体(A層+B層)の延伸ではマイナスの位相差Δを発現することになる。一方温度Taにおける延伸ではA層の延伸によって発現するプラスの位相差に比べB層の延伸によって発現するマイナスの位相差の方が小さいので、積層体(A層+B層)の延伸ではプラスの位相差Δを発現することになる。
【0031】
例えば、A層を構成する材料がポリカーボネート樹脂であり、B層を構成する材料がスチレン−無水マレイン酸共重合体である場合は、A層の厚さの総和と、B層の厚さの総和との比は、1:5〜1:15であることが好ましく、1:5〜1:10であることがより好ましい。A層が厚くなり過ぎてもB層が厚くなり過ぎても、位相差発現の温度依存性が小さくなる。
【0032】
<第一延伸工程>
第一延伸工程は、前記積層体を、Tg(A)およびTg(B)のいずれか低い方の温度よりも5℃以上高い温度T1(℃)で、当該積層体の幅方向に対して40〜50°(好ましくは42〜48°、より好ましくは44〜46°)の角度θの方向に延伸を行って位相差板用延伸フィルムを得る工程である。この際、第一延伸工程では、前記積層体の幅寸法が1.0〜5.0倍の倍率N倍になるように共延伸する。
【0033】
温度T1は、Tg(A)およびTg(B)を基準として、Tg(B)より高いことが好ましく、Tg(B)+5℃より高いことがより好ましく、また、Tg(A)+20℃より低いことが好ましく、Tg(A)+15℃より低いことがより好ましい。上記の範囲を外れると、幅方向の厚みのばらつきや、遅相軸のばらつきが大きくなり、広幅かつ薄手の位相差板が得られなくなる。
【0034】
第一延伸工程は、例えば国際公開公報WO2007/111313号パンフレットに記載された斜め延伸法を用いることで行なうことができる。なお、後述する第二延伸工程も、前記同様の斜め延伸法を用いて行うことができる。
【0035】
延伸ムラや厚みムラ(厚みばらつき)を小さくするために、延伸するゾーンにおいてフィルム幅方向に温度差がつくようにすることができる。延伸ゾーンにおいてフィルム幅方向に温度差をつけるには、温風ノズルの開度を幅方向で調整したり、IRヒーターを幅方向に並べて加熱制御したりするなど公知の手法を用いることができる。
【0036】
<第二延伸工程>
第二延伸工程は、第一延伸工程で得られた位相差板用延伸フィルムを、前記Tg(A)および前記Tg(B)のいずれか高い方の温度よりも低く、かつT1とは異なる温度T2(℃)で、当該位相差板用延伸フィルムの幅方向に対してからθ+80°〜θ+100°(好ましくはθ+85°〜θ+95°、より好ましくはθ+87°〜θ+93°、さらに好ましくはθ+89°〜θ+91°)の方向に2回目の延伸を行って位相差板を得る工程である。この際、第二延伸工程では、前記位相差板用延伸フィルムの幅寸法が1.0〜5.0倍の倍率N倍になるように共延伸して、位相差板を作製する。第一延伸工程での幅方向の倍率N倍と、第二延伸工程での幅方向の倍率N倍との積N×Nは、1.5〜5.0倍となるように調整する。
【0037】
温度T2は、熱可塑性樹脂Bのガラス転移温度Tg(B)を基準として、Tg(B)−20℃より高いことが好ましく、Tg(B)−10℃より高いことがより好ましく、また、Tg(B)+5℃より低いことが好ましく、Tg(B)より低いことがより好ましい。
【0038】
温度T1と温度T2との差は、通常5℃以上、好ましくは10℃以上、より好ましくは15℃以上である。温度T1と温度T2との差を前記のように大きくすることで、位相差板に偏光板補償機能を安定して発現させることができる。なお、温度T1と温度T2との差の上限には、特に制限はないが、工業生産性の観点からは100℃以下であることが好ましい。
【0039】
第二延伸工程における斜め延伸は、第一延伸工程における斜め延伸で採用できる方法と同様の方法を適用できる。ただし、第二延伸工程での斜め延伸は、第一延伸工程での斜め延伸と同等かやや小さい延伸倍率で行うことが好ましい。
【0040】
<その他の工程>
本発明の位相差板の製造方法において、第一延伸工程及び第二延伸工程以外にその他の工程を行うようにしてもよい。例えば、積層体を延伸する前に、積層体を加熱する工程(予熱工程)を設けてもよい。積層体を加熱する手段としては、オーブン型加熱装置、ラジエーション加熱装置、または液体中に浸すことなどを挙げることができる。これらの中でもオーブン型加熱装置が好ましい。当該工程での加熱温度は、通常、後述する、延伸温度−40℃〜延伸温度+20℃、好ましくは延伸温度−30℃〜延伸温度+15℃である。延伸温度は、加熱装置の設定温度を意味する。
【0041】
また、例えば第一延伸工程および/または第二延伸工程の後に、延伸したフィルムを固定処理してもよい。固定処理における温度は、通常は室温以上、好ましくは延伸温度−40℃以上であり、通常は延伸温度+30℃以下、好ましくは延伸温度+20℃以下である。
【0042】
<位相差板>
本発明の位相差板は、固有複屈折値が正である材料を含有するA層と、固有複屈折値が負である材料を含有するB層とを有する積層体を斜め延伸してなり、その遅相軸が、当該位相差板の幅方向に対して40〜50°の方向であり、面内の遅相軸方向の屈折率の平均値をnx 、面内の進相軸方向の屈折率の平均値をny 、厚み方向の屈折率の平均値をnz としたとき、(nx−nz)/(nx−ny)で表されるNz値が0を超え1未満であり、その幅寸法が1000mm以上であり、その厚みが15μm〜50μmである。ここで、本発明において、積層体を構成するA層を斜め延伸してなる層をα層、前記積層体を構成するB層を斜め延伸してなる層をβ層とする。
【0043】
位相差板は、その幅方向から40〜50°(好ましくは42〜48°、より好ましくは44〜46°)の方向に面内の遅相軸を有する。この際、面内の遅相軸は、その方向のばらつきが、当該位相差板の幅方向の全幅に亘って、±1.0°以内であることが好ましく、±0.5°以内であることがより好ましく、±0.2°以内であることがさらに好ましい。なお、遅相軸の方向のばらつきは、位相差板の幅方向に亘って遅相軸を任意に数点測定したときの、その遅相軸とフィルムの幅方向とのなす角度(以下、配向角をいうことがある)の最大値と最小値との差である。
【0044】
位相差板は、Nz値が0を超え1未満、好ましくは0.15を超え0.85未満、特に好ましくは0.30を超え0.70未満である。Nz値がこの範囲にあるとともに、遅相軸が上記の特性を有することにより、位相差板を表示装置に用いた場合に、表示装置の輝度及び正面コントラストを向上させ、視野角のばらつきを小さくすことができる。ここで、上記屈折率nxの平均値は、本発明の位相差板の幅方向に亘って該屈折率を位相差計(王子計測社製、「KOBRA21-ADH」)を用いて任意に数点測定したときの、その算術平均値である。また、屈折率ny、及びnzも同様にして求めることができる。
【0045】
位相差板は、そのNz値のばらつきが、±0.10以内であることが好ましく、±0.05以内であることがより好ましい。ここで、Nz値のばらつきは、位相差板の幅方向に所定間隔で、以下の式に従ってNz値を測定し平均値を求める。また、Nz値の最大値と最小値の差をNz値のばらつきとする。
Nz=(nx−nz)/(nx−ny)
【0046】
位相差板は、その面内レターデーションRe(nm)および厚み方向レターデーションRth(nm)は、表示装置の設計によって異なるが、通常、Reは50〜1000nm、Rthは−500〜500nm程度の範囲から適宜選択される。なお、本発明におけるReは、フィルムの平均厚みTaveとしたときに、(nx−ny)×Taveで定義される値であり、本発明におけるRthは、(((nx+ny)/2)−nz)×Taveで定義される値である。
【0047】
位相差板は、Reのばらつきが通常10nm以内、好ましくは5nm以内、さらに好ましくは2nm以内である。Reのムラを上記範囲にすることにより、表示装置用に用いた場合に表示品質を良好なものにすることが可能になる。ここで、Reのばらつきは、光入射角0 °(入射光線と本発明の位相差板表面が直交する状態)の時のReを本発明の位相差板の幅方向に亘って任意に数点測定したときの、そのReの最大値と最小値との差である。
【0048】
位相差板は、Rthのばらつきが通常10nm以内、好ましくは5nm以内、さらに好ましくは2nm以内である。Rthのムラを上記範囲にすることにより、表示装置用に用いた場合に表示品質を良好なものにすることが可能になる。ここで、Rthのばらつきは、光入射角0 °(入射光線と本発明の位相差板表面が直交する状態)からわずかにずらして求めたRthを本発明の位相差板の幅方向に亘って任意に数点測定したときの、そのRthの最大値と最小値との差である。
【0049】
位相差板は、積層体を幅方向に1.5〜5倍、好ましくは2〜5倍、特に好ましくは2〜4倍の範囲で変形させることによって得ることができる。幅方向の変形倍率が1.5倍未満の場合には、幅広でかつ薄手の位相差板を効率的に得ることができない。また、幅方向の変形倍率が5倍超であると、積層体の界面における剥離や、表面のひび割れが起きる可能性があり、また、位相差ムラが生じ得る。
【0050】
位相差板の幅寸法は、1000mm以上であり、1500mm以上であることが好ましく、2000mm以上であることがより好ましい。
【0051】
位相差板の厚みは、15μm〜70μmであることが好ましく、20〜60μmであることがより好ましく、25〜50μmであることがさらに好ましい。位相差板の厚みが15μmより薄い場合には機械的強度が弱くなる可能性がある。70μmよりも厚い場合には、位相差板の生産性が悪くなるおそれがある。また、位相差板を構成するα層およびβ層の厚みは、それぞれ1μm以上であることが好ましい。
【0052】
位相差板の厚みのばらつきは、全面で1.0μm以下、好ましくは0.5μm以下であり、これにより色調のばらつきを小さくできる。また、長期使用後の色調変化も均一となる。また、厚みのばらつきがこのような範囲にあると、本発明の位相差板を、高速で、かつより長尺に巻き取ることができるとともに、位相差板を表示装置に用いた場合に表示品質を良好にできる。
【0053】
位相差板は、α層およびβ層をそれぞれ1層または2層以上有する構成とすることができる。α層の総厚み/β層の総厚みの比は、好ましくは1/5〜1/10、より好ましくは1/6〜1/9である。α層が厚くなり過ぎても、β層が厚くなり過ぎても、位相差発現の温度依存性が小さくなる。ここで、α層およびβ層の厚みは、市販の接触式厚さ計を用いて、フィルムの総厚を測定し、次いで厚み測定部分を切断し断面を光学顕微鏡で観察して、各層の厚さ比を求めて、その比率よりα層およびβ層の厚さを計算する。以上の操作をフィルムのMD方向及びTD方向において一定間隔毎に行い、厚さの平均値およびばらつきを求めることができる。
【0054】
なお、厚みのばらつきは、上記で求めた測定値の算術平均値Taveを基準とし、測定された厚みTの内の最大値をTmax、最小値をTminとして、以下の式から算出する。
厚みのばらつき(μm)=Tave−Tmin、及び
max−Tave のうちの大きい方
【0055】
α層およびβ層の各層の厚みのばらつきが全面で0.7μm以下、好ましくは0.4μm以下であることにより、色調のばらつきが小さくなる。また、長期使用後の色調変化も均一となる。また、厚みのばらつきがこのような範囲にあると、本発明の位相差板を、高速で、長尺で巻き取ることができ、且つ、位相差板を表示装置に用いた場合に、表示品質を良好なものにすることが可能になる。
【0056】
位相差板は、全光線透過率が85%以上であることが好ましい。85%未満であると位相差板に適さなくなる。上記光線透過率は、JIS K0115に準拠して、分光光度計(日本分光社製、紫外可視近赤外分光光度計「V−570」)を用いて測定できる。
【0057】
位相差板は、そのヘイズが、好ましくは5%以下、より好ましくは3%以下、特に好ましくは1%以下である。ヘイズが高いと、表示画像の鮮明性が低下傾向になる。ここで、ヘイズは、JIS K7361−1997に準拠して、日本電色工業社製「濁度計 NDH−300A」を用いて、5箇所測定し、それから求めた平均値である。
【0058】
位相差板は、ΔYIが5以下であることが好ましく、3以下であることがより好ましい。このΔYIが上記範囲にあると、着色がなく視認性がよくなる。ΔYIはASTM E313に準拠して、日本電色工業社製「分光色差計 SE2000」を用いて測定し、同様の測定を五回行い、その算術平均値にして求める。
【0059】
位相差板は、JIS鉛筆硬度でHまたはそれ以上の硬さを有することが好ましい。このJIS鉛筆硬度の調整は、樹脂の種類の変更や樹脂の層厚の変更などによって行うことができる。JIS鉛筆硬度は、JIS K5600−5−4に準拠して、各種硬度の鉛筆を45度傾けて、上から500g重の荷重を掛けてフィルム表面を引っ掻き、傷が付きはじめる鉛筆の硬さである。
【0060】
位相差板は、60℃、90%RH、100時間の熱処理によって、縦方向および横方向において、好ましくは0.5%以下、より好ましくは0.3%以下の収縮率を有していてもよい。収縮率がこの範囲を超えると、高温・高湿環境下で使用した際に、収縮応力によって位相差板の変形、表示装置からの剥離が生じる可能性がある。
【0061】
位相差板は、α層およびβ層以外の層を有していてもよい。例えばα層とβ層とを接着する接着層、フィルムの滑り性を良くするマット層や、耐衝撃性ポリメタクリレート樹脂層などのハードコート層や、反射防止層、防汚層等が挙げることができる。 前記のようにα層とβ層とは接着剤層を介して積層されていてもよいが、α層とβ層とが直接に接して積層されていることが位相差板の成形性、耐久性の点で好ましい。
【0062】
<偏光板>
前記長尺の位相差板と長尺の偏光板フィルムとを、それらの長手方向を揃えて積層する(たとえばロールトゥロール法により積層する)ことによって、長尺の偏光板を得ることができる。前記偏光フィルムは、直角に交わる二つの直線偏光の一方を透過するものである。例えば、ポリビニルアルコールフィルムやエチレン酢酸ビニル部分ケン化フィルム等の親水性高分子フィルムにヨウ素や二色性染料などの二色性物質を吸着させて一軸延伸させたもの、前記親水性高分子フィルムを一軸延伸して二色性物質を吸着させたもの、ポリビニルアルコールの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物等のポリエン配向フィルムなどを挙げることができる。その他に、グリッド偏光フィルムや異方性多層フィルムなどの反射性偏光フィルムを挙げることができる。偏光フィルムの厚みは通常5〜80μmである。
【0063】
長尺の偏光板を得るための好適な製造方法は、前記位相差板の巻回体および偏光フィルムの巻回体からそれぞれ同時にフィルムを引き出しながら、該位相差板と該偏光フィルムとを密着させて積層させる工程を含む方法である。位相差板と偏光フィルムとの密着面には接着剤を介在させてもよいし、させなくてもよい。位相差板と偏光フィルムとを密着させる方法としては、二本の平行に並べられたロールのニップに位相差板と偏光フィルムを一緒に通し圧し挟む方法が挙げられる。
【0064】
前記長尺の位相差板および/または長尺の偏光板は、液晶表示装置等の表示装置に用いるために、例えば矩形状(枚葉状)に切り出して使用され得る。この際、前記長尺の位相差板および/または長尺の偏光板は、偏光板を多数個取りできる観点から、その長手方向に対して、垂直または平行な方向に沿って切り出すことが好ましい。
【0065】
前記位相差板は、偏光フィルムの両面に積層させてもよいし、片面に積層させてもよい。また、積層する層数も特に限定はなく、2枚以上積層させてもよい。偏光フィルムの片面のみに、該位相差板を積層した場合は、残りの片面に偏光フィルムの保護を目的として、適宜の接着層を介して保護フィルムを積層してもよい。
【0066】
前記保護フィルムとしては、適宜な透明フィルムを用いることができる。中でも、透明性や機械的強度、熱安定性や水分遮蔽性等に優れる樹脂を有するフィルム等が好ましく用いられる。その樹脂の例としては、トリアセチルセルロースの如きアセテート重合体、脂環式オレフィンポリマー、ポリオレフィン重合体、ポリカーボネート重合体、ポリエチレンテレフタレートの如きポリエステル重合体、ポリ塩化ビニル重合体、ポリスチレン重合体、ポリアクリロニトリル重合体、ポリスルホン重合体、ポリエーテルスルホン重合体、ポリアミド重合体、ポリイミド重合体、アクリル重合体等を挙げることができる。
【0067】
<液晶表示装置>
本発明の液晶表示装置は、前記長尺の偏光板を矩形状(枚葉状)に切り出してなる偏光板と、液晶パネルとを備えて構成される。液晶表示装置としては、外光を用いて表示させる反射型液晶表示装置や半透過型液晶表示装置を好適に挙げることができる。前述したように、偏光板の偏光透過軸と位相差板の遅相軸とのなす角度が40〜50°となるため、当該偏光板は反射型等の液晶表示装置の視認側の偏光板(円偏光板)として好適に利用できる。
【0068】
本発明の位相差板は、液晶表示装置の他に、それ単独であるいは他の部材と組み合わせて、液晶表示装置、有機EL表示装置、プラズマ表示装置、FED(電界放出)表示装置、SED(表面電界)表示装置などに適用することができる。
【実施例】
【0069】
次に、実施例および比較例を用いて、本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施例には限定されない。
【0070】
本実施例、比較例では、以下の方法で評価を行った。
(ガラス転移温度)
本発明のガラス転移温度(Tg)の測定は、示差走査型熱量計(理学電器社製、DSC8230型)を用いて測定した。Tgはベースラインが偏奇し始める温度と、新たにベースラインに戻る温度との平均値とした。なお、測定開始温度は、測定されるTgより50℃以上低い温度とした。
【0071】
(厚み、厚みのばらつき)
位相差板の厚みは、接触式厚さ計(ミツトヨ社製、スナップゲージID−C112BS)を用いてフィルム幅方向5cm間隔測定し、平均値を求めた。また、厚みの最大値と最小値の差を厚みのばらつきとした。
【0072】
(遅相軸方向のばらつき)
偏光顕微鏡(オリンパス社製、BX51)を用いてフィルムの幅方向に5cm間隔で配向角を測定し、配向角の最大値と最小値の差を遅相軸の方向のばらつきとした。
【0073】
(係数Nz値、Nz値のばらつき)
位相差計(王子計測社製、KOBRA21−ADH)を用いてフィルム幅方向5cm間隔で、以下の式に従ってNz値を測定し平均値を求めた。また、Nz値の最大値と最小値の差をNz値のばらつきとした。
Nz=(nx−nz)/(nx−ny)
(nxはフィルム面内の遅相軸方向の屈折率の平均値、nyはフィルム面内の進相軸方向の屈折率の平均値、nzはフィルム厚み方向の屈折率の平均値)
【0074】
(剥離、ひびの確認)
位相差板の表面を目視で観察し、剥離、ひびの有無を確認した。
【0075】
(有効幅)
全幅Lである位相差板の幅方向に亘って、厚みのばらつきが±1.0μm以内、遅相軸の方向のばらつきが±1.0°以内、係数Nz値のばらつきが±0.1以内を満たしている長さTを求め、有効幅(=(T/L)×100(%))を求めた。
【0076】
(斜方観察による表示ムラ)
液晶表示画面に白画像を表示させ、液晶表示画面に垂直な方向から70°の角度をつけて、液晶表示画面の4辺から観察を行い、表示画面のムラの有無を確認した。
【0077】
<製造例1>
二種二層の共押出成形用のフィルム成形装置を準備し、ポリカーボネート樹脂(旭化成社製、ワンダーライトPC−110、ガラス転移温度145℃)のペレットを、ダブルフライト型のスクリューを備えた一方の一軸押出機に投入して、溶融させた。また、スチレン−無水マレイン酸共重合体樹脂(NovaChemicals社製、Dylark332、ガラス転移温度135℃)のペレットをダブルフライト型のスクリューを備えたもう一方の一軸押出機に投入して溶融させた。溶融した260℃のポリカーボネート樹脂を目開き10μmのリーフディスク形状のポリマーフィルターを通してマルチマニホールドダイ(ダイスリップの表面粗さRa:0.1μm)の一方のマニホールドに、溶融した260℃のスチレン−無水マレイン酸共重合体樹脂を目開き10μmのリーフディスク形状のポリマーフィルターを通してもう一方のマニホールドにそれぞれ供給した。
【0078】
ポリカーボネート樹脂およびスチレン−無水マレイン酸共重合体樹脂を該マルチマニホールドダイから260℃で同時に押し出しフィルム状にした。該フィルム状溶融樹脂を表面温度130℃に調整された冷却ロールにキャストし、次いで表面温度50℃に調整された2本の冷却ロール間に通して、ポリカーボネート樹脂層(A層:10μm)とスチレン−無水マレイン酸共重合体樹脂層(B層:80μm)からなる、厚さ90μmかつ幅1000mmの積層体E1と、この積層体E1の端部をスリット加工することによって、幅300mmの積層体E2を得た。積層体E1の厚みばらつきは0.8μmであった。積層体E2の厚みばらつきは0.8μmであった。これらの結果を表1に示す。
【0079】
<製造例2>
A層の厚さを7μm、B層の厚さを53μmにした以外は製造例1と同様にして、ポリカーボネート樹脂層(A層:7μm)とスチレン−無水マレイン酸共重合体樹脂層(B層:53μm)からなる、厚さ60μmかつ幅1000mmの積層体E3を得た。積層体E3の厚みばらつきは0.8μmであった。これらの結果を表1に示す。
【0080】
<製造例3>
ノルボルネン系樹脂のペレット( 日本ゼオン社製、ZEONOR1420、ガラス転移温度136℃)をTダイ式フィルム押出成形機で成形して、厚さ100μmかつ幅1000mmの積層体E4を得た。積層体E4の厚みばらつきは0.8μmであった。これらの結果を表1に示す。
【0081】
【表1】

【0082】
<実施例1>
製造例1で得られた積層体E1を、所定の斜め延伸機に供給し、延伸温度150℃において、前記積層体の幅方向に対してθ=45°の角度に、前記積層体の幅の1.4倍になるように1回目の斜め延伸を行って、第一延伸フィルム(位相差板用延伸フィルムに相当)を得た。続いて、前記第一延伸フィルムを、延伸温度130℃において、前記第一延伸フィルムの幅方向に対して135°(逆周りの角度で45°/θ+90°)の角度に、前記第一延伸フィルムの幅の1.2倍になるように2回目の斜め延伸を行って、第二延伸フィルムである位相差板R1を得た。得られた結果を表2に示す。
【0083】
<実施例2>
製造例1で得られた積層体E2を、所定の斜め延伸機に供給し、延伸温度150℃において、前記積層体の幅方向に対してθ=45°の角度に、前記積層体の幅の2.0倍になるようにして1回目の斜め延伸を行って第一延伸フィルムを得た。続いて、前記第一延伸フィルムを、延伸温度130℃において、前記第一延伸フィルムの幅方向に対して135°(逆周りの角度で45°/θ+90°)の角度に、前記第一延伸フィルムの幅の2.0倍になるように2回目の斜め延伸を行って、第二延伸フィルムである位相差板R2を得た。得られた結果を表2に示す。
【0084】
<比較例1>
製造例1で得られた積層体E2を、所定の斜め延伸機に供給し、延伸温度150℃において、前記積層体の幅方向に対してθ=45°の角度に、前記積層体の幅の3.0倍になるように1回目の斜め延伸を行って第一延伸フィルムを得た。続いて、前記第一延伸フィルムを、延伸温度130℃において、前記第一延伸フィルムの幅方向に対して135°(逆周りの角度で45°/θ+45°)の角度に、前記第一延伸フィルムの幅の2.0倍になるように2回目の斜め延伸を行って、第二延伸フィルムである位相差板R3を得た。得られた結果を表2に示す。
【0085】
<比較例2>
製造例2で得られた積層体E3を、所定の斜め延伸機に供給し、延伸温度150℃において、前記積層体の幅方向からθ=45°の角度に、前記積層体の幅の1.1倍になるように1回目の斜め延伸を行って第一延伸フィルムを得た。続いて、前記第一延伸フィルムを、延伸温度130℃において、前記第一延伸フィルムの幅方向に対して135°(逆周りの角度で45°/θ+45°)の角度に、前記第一延伸フィルムの幅の1.2倍になるように2回目の斜め延伸を行ったが、第二延伸工程の際に頻繁に破断が起こったため、位相差板R4を得ることができなかった。得られた結果を表2に示す。
【0086】
<比較例3>
製造例3で得られた積層体E4を、所定の斜め延伸機に供給し、延伸温度145℃において、前記積層体の幅方向に対してθ=45°の角度に、前記積層体の幅の1.4倍になるように1回目の斜め延伸を行って第一延伸フィルムを得た。続いて、前記第一延伸フィルムを、延伸温度140℃において、前記第一延伸フィルムの幅方向に対して135°(逆周りの角度で45°/θ+45°)の角度に、前記第一延伸フィルムの幅の1.2倍になるように2回目の斜め延伸を行って、第二延伸フィルムである位相差板R5を得た。得られた結果を表2に示す。
【0087】
【表2】

【0088】
<実施例3>
偏光吸収軸がフィルム長手方向の長尺の偏光フィルム( サンリッツ社製、HLC2−5618S、厚み180μm)と実施例1で得られた位相差板R1とを、ロール・トゥ・ロール法により、その長手方向を揃えて積層することにより、長尺の偏光板P1を得た。
【0089】
<実施例4>
実施例2で得られた位相差板R2を用いた以外は、実施例3と同様にして、長尺の偏光板P2を得た。
【0090】
<比較例4>
比較例1で得られた位相差板R3を用いた以外は、実施例3と同様にして、長尺の偏光板P3を得た。
【0091】
次に、偏光板P1〜P3をパネルサイズの大きさに切り取り、STNモードの半透過型液晶パネルを有する表示装置の視認側に近い側の偏光板と置き換えて実装した。表3に斜方観察による表示ムラの評価結果を表3に示す。
【0092】
【表3】

【0093】
表1,表2に示す結果から以下のことが分かる。
比較例1の結果から、第一延伸工程における幅方向への変形倍率と第二延伸工程における幅方向への変形倍率の積が5.0倍を超えると、Nz値のばらつき、厚みのばらつき、遅相軸のばらつきが増加し、位相差板に剥離やひび割れが発生してしまうことが分かる。比較例2の結果から、未延伸フィルムとして厚みの薄いフィルムを使用した場合、延伸工程において破断が起こるため、位相差板が得られないことが分かり、生産性の点で劣ることがわかる。比較例3の結果から、未延伸フィルムとして単層フィルムを用いた場合、Nz値が0を超え1未満の範囲から外れてしまうことが分かる。 比較例4の結果から、係数Nz値のばらつき、厚みのばらつき、遅相軸のばらつきが大きいと、液晶表示装置に実装した際、斜方観察で表示ムラが確認され、液晶表示装置の光学補償効果が不十分であることが分かる。
一方、本発明によれば、係数Nz値が0を超え1未満であり、幅広かつ薄手の位相差板を、剥離やひび割れが無く、厚みのばらつき、遅相軸のばらつき、係数Nz値のばらつきが小さく、広い有効幅で得られることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】A層及びB層並びにA層とB層との積層体の位相差の温度依存性を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺の位相差板の製造方法であって、
固有複屈折値が正で、かつガラス転移温度Tg(A)である材料を含有するA層と、固有複屈折値が負で、かつガラス転移温度Tg(B)である材料を含有するB層とを有する長尺の積層体を得る工程と、
前記積層体を、前記Tg(A)および前記Tg(B)のいずれか低い方の温度よりも5℃以上高い温度T1(℃)で、当該積層体の幅方向に対して40〜50°の角度θの方向に1回目の延伸を行って位相差板用延伸フィルムを得る第一延伸工程と、
前記第一延伸工程で得られた前記位相差板用延伸フィルムを、前記Tg(A)および前記Tg(B)のいずれか高い方の温度よりも低く、かつT1とは異なる温度T2(℃)で、当該位相差板用延伸フィルムの幅方向に対してからθ+80°〜θ+100°の方向に2回目の延伸を行って位相差板を得る第二延伸工程と、を備え、
前記位相差板は、
その遅相軸が、当該位相差板の幅方向に対して40〜50°の方向であり、
面内の遅相軸方向の屈折率の平均値をnx 、面内の進相軸方向の屈折率の平均値をny 、厚み方向の屈折率の平均値をnz としたとき、(nx−nz)/(nx−ny)で表されるNz値が0を超え1未満であり、
その幅寸法が前記積層体の幅寸法の1.5〜5.0倍であり、
その幅寸法が1000mm以上であり、
その厚みが15μm〜70μmである
長尺の位相差板の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の長尺の位相差板の製造方法において、
前記積層体の厚みをd、前記位相差板の厚みをdとしたとき、0.15<d/d<0.70を満たす長尺の位相差板の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の長尺の位相差板の製造方法において、
Tg(A)>Tg(B)+5(℃)の関係を満たす長尺の位相差板の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の長尺の位相差板の製造方法において、
前記積層体を得る工程は、前記A層と前記B層とを共押出法により実施する長尺の位相差板の製造方法。
【請求項5】
固有複屈折値が正である材料を含有するA層と、固有複屈折値が負である材料を含有するB層とを有する積層体を斜め延伸してなる長尺の位相差板であって、
その遅相軸は、当該位相差板の幅方向に対して40〜50°の方向であり、
面内の遅相軸方向の屈折率の平均値をnx 、面内の進相軸方向の屈折率の平均値をny 、厚み方向の屈折率の平均値をnz としたとき、(nx−nz)/(nx−ny)で表されるNz値が0を超え1未満であり、
その幅方向におけるNz値の最大値と最小値の差であるNz値のばらつきは、−0.1〜0.1であり、
その幅寸法は、1000mm以上であり、
その厚みは、15μm〜70μmである長尺の位相差板。
【請求項6】
請求項5に記載の長尺の位相差板と、長尺の偏光フィルムとを、それらの長手方向を揃えて積層させてなる長尺の偏光板。

【図1】
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【公開番号】特開2011−39343(P2011−39343A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−187763(P2009−187763)
【出願日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】