説明

位相差素子および表示装置

【課題】基材フィルムの光学異方性に起因して発生するゴーストを低減することの可能な位相差素子およびそれを備えた表示装置を提供する。
【解決手段】基材フィルム31は、光学異方性を有する薄い樹脂フィルムによって構成されている。基材フィルム31の遅相軸AX3が垂直方向を向いており、位相差素子30の右目用領域32Aの遅相軸AX1および左目用領域32Bの遅相軸AX2と交差する方向を向いている。遅相軸AX1,AX2は、基材フィルム31の遅相軸AX3と45°より大きな角度で交差する方向を向いている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学異方性を有する位相差素子およびそれを備えた表示装置に係わり、特に偏光眼鏡を用いた立体映像の観察に際して好適に用いられる位相差素子およびそれを備えた表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、偏光眼鏡を用いるタイプの立体映像表示装置として、左目用画素と右目用画素とで異なる偏光状態の光を射出させるものがある。このような表示装置では、視聴者が偏光眼鏡をかけた上で、左目用画素からの射出光を左目のみに入射させ、右目用画素からの射出光を右目のみに入射させることにより、立体映像の観察を可能とするものである。
【0003】
例えば、特許文献1では、左目用画素と右目用画素とで異なる偏光状態の光を射出させるために位相差素子が用いられている。この位相差素子では、一の方向に遅相軸または進相軸を有する片状位相差部材が左目用画素に対応して設けられ、上記片状位相差部材とは異なる方向に遅相軸または進相軸を有する片状位相差部材が右目用画素に対応して設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3360787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の表示装置では、左目用画素から射出された左目用の映像光が左目のみに入射され、右目用画素から射出された右目用の映像光が右目のみに入射されることが望ましい。しかし、左目用の映像光が若干右目に入射されてしまったり、右目用の映像光が若干左目に入射されてしまったりといったゴーストと呼ばれる問題がある。
【0006】
特に、特許文献1に記載の表示装置において、基材がプラスチックフィルムにより構成されている場合には、基材にわずかに存在する光学異方性に起因して、ゴーストが強く生じてしまうという問題がある。
【0007】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、基材フィルムの光学異方性に起因して発生するゴーストを低減することの可能な位相差素子およびそれを備えた表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の位相差素子は、光学異方性を有する基材フィルムと、基材フィルム上に形成され、光学異方性を有する位相差層とを備えたものである。位相差層は遅相軸の向きが互いに異なる2種類以上の位相差領域を有しており、2種類以上の位相差領域は、基材フィルムの面内方向に、隣接して規則的に配置されている。各位相差領域は、基材フィルムの遅相軸と45°より大きな角度で交差する方向に遅相軸を有している。
【0009】
本発明の表示装置は、画像信号に基づいて駆動される表示パネルと、表示パネルを照明するバックライトユニットと、表示パネルとの関係でバックライトユニットとは反対側に設けられた位相差素子とを備えたものである。この表示装置に内蔵された位相差素子は、上記した位相差素子と同一の構成要素によって構成されている。
【0010】
本発明の位相差素子および表示装置では、遅相軸の向きが互いに異なる2種類以上の位相差領域が基材フィルムの面内方向に、隣接して規則的に配置されている。これにより、例えば、位相差領域側から入射した光は偏光状態の互いに異なる2種類以上の光に分離されたのち、基材フィルムを透過する。ここで、各位相差領域は基材フィルムの遅相軸と45°より大きな角度で交差する方向に遅相軸を有している。このように、各位相差領域の遅相軸の向きに対してオフセットを付与することにより、基材フィルムの光学異方性に起因する偏光状態の変化が抑制される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の位相差素子および表示装置によれば、各位相差領域の遅相軸の向きに対してオフセットを付与し、基材フィルムの光学異方性に起因する偏光状態の変化を抑制するようにしたので、基材フィルムの光学異方性に起因して発生するゴーストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施の形態に係る表示装置の構成の一例を表す断面図である。
【図2】図1の表示装置内の透過軸および遅相軸について説明するための概念図である。
【図3】図1の位相差素子の構成および遅相軸の一例を表す構成図である。
【図4】図1の位相差素子の構成および遅相軸の他の例を表す構成図である。
【図5】図1の表示装置と偏光眼鏡との関係について表すシステム図である。
【図6】図1の表示装置の映像を右目で観察する際の透過軸および遅相軸の一例について説明するための概念図である。
【図7】図1の表示装置の映像を右目で観察する際の透過軸および遅相軸の他の例について説明するための概念図である。
【図8】図1の表示装置の映像を左目で観察する際の透過軸および遅相軸の一例について説明するための概念図である。
【図9】図1の表示装置の映像を左目で観察する際の透過軸および遅相軸の他の例について説明するための概念図である。
【図10】図1の位相差素子の消光比の分布と、基材フィルムのリタデーションとの関係の一例を表す関係図(A)、図1の位相差素子の消光比の最大値と、基材フィルムのリタデーションとの関係の一例を表す関係図(B)である。
【図11】図1の位相差素子の消光比の分布と、基材フィルムのリタデーションとの関係の他の例を表す関係図(A)、図1の位相差素子の消光比の最大値と、基材フィルムのリタデーションとの関係の他の例を表す関係図(B)である。
【図12】本発明に係る位相差素子の製造方法の一例で用いられる製造装置の構成の一例を表す模式図である。
【図13】図12に続く工程で用いられる製造装置の構成の一例を表す模式図である。
【図14】本発明に係る位相差素子の製造方法の他の例について説明するための模式図である。
【図15】図1の位相差素子の他の例について表す構成図である。
【図16】図1の位相差素子のその他の例について表す構成図である。
【図17】図1の位相差素子の更にその他の例について表す構成図である。
【図18】図1の表示装置の他の例について表す構成図である。
【図19】図1の表示装置のその他の例について表す構成図である。
【図20】偏光眼鏡の位相差フィルムのリタデーションを表す特性図である。
【図21】右目用領域および左目用領域のリタデーションを表す特性図である。
【図22】基材フィルムのリタデーションを表す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、発明を実施するための形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明は以下の順序で行う。

1.実施の形態(表示装置、位相差素子)
2.変形例(表示装置、位相差素子)
3.実施例(表示装置)
【0014】
<実施の形態>
図1は、本発明の一実施の形態に係る表示装置の断面構成を表すものである。なお、本発明の一実施の形態に係る位相差素子については、本実施の形態の表示装置に内蔵されている場合を例示して説明するものとする。
【0015】
[表示装置1の構成]
表示装置1は、後述する偏光眼鏡2を眼球の前に装着した観察者(図示せず)に対して立体映像を表示する偏光眼鏡方式の表示装置である。この表示装置1は、バックライトユニット10、液晶表示パネル20(表示パネル)および位相差素子30をこの順に積層して構成されたものである。この表示装置1において、位相差素子30の表面が映像表示面となっており、観察者側に向けられている。
【0016】
なお、本実施の形態では、映像表示面が垂直面(鉛直面)と平行となるように表示装置1が配置されている。映像表示面は長方形状となっており、映像表示面の長手方向が水平方向(図中のy軸方向)と平行となっている。観察者は偏光眼鏡2を眼球の前に装着した上で、映像表示面を観察するものとする。偏光眼鏡2は円偏光タイプであり、表示装置1は円偏光眼鏡用の表示装置である。
【0017】
[バックライトユニット10]
バックライトユニット10は、例えば、反射板、光源および光学シート(いずれも図示せず)を有している。反射板は、光源からの射出光を光学シート側に戻すものであり、反射、散乱、拡散などの機能を有している。この反射板は、例えば、発泡PET(ポリエチレンテレフタレート)などによって構成されている。これにより、光源からの射出光を効率的に利用することができる。光源は、液晶表示パネル20を背後から照明するものであり、例えば、複数の線状光源が等間隔で並列配置されたり、複数の点状光源が2次元配列されたりしたものである。なお、線状光源としては、例えば、熱陰極管(HCFL;Hot Cathode Fluorescent Lamp)、冷陰極管(CCFL;Cold Cathode Fluorescent Lamp)などが挙げられる。また、点状光源としては、例えば、発光ダイオード(LED;Light Emitting Diode)などが挙げられる。光学シートは、光源からの光の面内輝度分布を均一化したり、光源からの光の発散角や偏光状態を所望の範囲内に調整したりするものであり、例えば、拡散板、拡散シート、プリズムシート、反射型偏光素子、位相差板などを含んで構成されている。また、光源は、エッジライト方式のものでもよく、その場合には、必要に応じて導光板や導光フィルムが用いられる。
【0018】
[液晶表示パネル20]
液晶表示パネル20は、複数の画素が行方向および列方向に2次元配列された透過型の表示パネルであり、映像信号に応じて各画素を駆動することによって画像を表示するものである。この液晶表示パネル20は、例えば、図1に示したように、バックライトユニット1側から順に、偏光板21A、透明基板22、画素電極23、配向膜24、液晶層25、配向膜26、共通電極27、カラーフィルタ28、透明電極29および偏光板21Bを有している。
【0019】
ここで、偏光板21Aは、液晶表示パネル20の光入射側に配置された偏光板(偏光子)であり、偏光板21Bは液晶表示パネル20の光射出側に配置された偏光板(偏光子)である。偏光板21A,21Bは、光学シャッタの一種であり、ある一定の振動方向の光(偏光)のみを通過させる。偏光板21A,21Bはそれぞれ、例えば、偏光軸が互いに所定の角度だけ(例えば90度)異なるように配置されており、これによりバックライトユニット10からの射出光が液晶層を介して透過し、あるいは遮断されるようになっている。
【0020】
偏光板21Aの透過軸(図示せず)の向きは、バックライトユニット10から射出された光を透過可能な範囲内に設定される。例えば、バックライトユニット10から射出される光の偏光軸が垂直方向となっている場合には、透過軸も垂直方向を向いており、バックライトユニット10から射出される光の偏光軸が水平方向となっている場合には、透過軸も水平方向を向いている。なお、バックライトユニット10から射出される光は直線偏光光である場合に限られるものではなく、円偏光や、楕円偏光、無偏光であってもよい。
【0021】
偏光板21Bの偏光軸AX4(図2)の向きは、液晶表示パネル20を透過した光を透過可能な範囲内に設定される。例えば、偏光板21Aの偏光軸(図示せず)の向きが水平方向となっている場合には、偏光軸AX4はそれと直交する方向(垂直方向)を向いており、偏光板21Aの偏光軸の向きが垂直方向となっている場合には、偏光軸AX4はそれと直交する方向(水平方向)を向いている。なお、上記の偏光軸と、上記の透過軸とは互いに同義である。
【0022】
透明基板22,29は、一般に、可視光に対して透明な基板である。なお、バックライトユニット1側の透明基板には、例えば、透明画素電極に電気的に接続された駆動素子としてのTFT(Thin Film Transistor;薄膜トランジスタ)および配線などを含むアクティブ型の駆動回路が形成されている。画素電極23は、例えば酸化インジウムスズ(ITO;Indium Tin Oxide)からなり、画素ごとの電極として機能する。配向膜24,26は、例えばポリイミドなどの高分子材料からなり、液晶に対して配向処理を行う。液晶層25は、例えばVA(Vertical Alignment)モード、TN(Twisted Nematic)モードまたはSTN(Super Twisted Nematic)モードの液晶からなる。この液晶層25は、図示しない駆動回路からの印加電圧により、バックライトユニット10からの射出光を画素ごとに透過または遮断する機能を有している。共通電極27は、例えばITOからなり、共通の対向電極として機能する。カラーフィルタ28は、バックライトユニット10からの射出光を、例えば、赤(R)、緑(G)および青(B)の三原色にそれぞれ色分離するためのフィルタ部28Aを配列して形成されている。このカラーフィルタ28では、フィルタ部28Aは画素間の境界に対応する部分に、遮光機能を有するブラックマトリクス部28Bが設けられている。
【0023】
[位相差素子30]
次に、位相差素子30について説明する。図3(A)は、本実施の形態の位相差素子30の構成の一例を斜視的に表したものである。図3(B)は、図3(A)の位相差素子30の遅相軸について表したものである。同様に、図4(A)は、本実施の形態の位相差素子30の構成の他の例を斜視的に表したものである。図4(B)は、図4(A)の位相差素子30の遅相軸について表したものである。なお、図3(A),(B)に示した位相差素子30と、図4(A),(B)に示した位相差素子30は、基材フィルム31(後述)の遅相軸AX3の向きの点で相違している。
【0024】
位相差素子30は、液晶表示パネル20の偏光板21Bを透過した光の偏光状態を変化させるものである。この位相差素子30は、例えば、図1に示したように、基材フィルム31と、位相差層32とを有している。
【0025】
基材フィルム31は、光学異方性を有する薄い樹脂フィルムによって構成されている。樹脂フィルムとしては、光学異方性の小さい、つまり複屈折の小さいものが好ましい。そのような特性を持つ樹脂フィルムであって、かつ商用としてよく使われているものとしては、例えば、TAC(トリアセチルセルロース)、COP(シクロオレフィンポリマー)、PMMA(ポリメチルメタクリレート)などが挙げられる。ここで、COPとしては、例えば、ゼオノア(日本ゼオン株式会社の登録商標)やアートン(JSR株式会社の登録商標)などがある。基材フィルムの31の厚さは、例えば、30μm以上500μm以下となっていることが好ましい。基材フィルム31のリタデーションは、20nm以下であることが好ましく、10nm以下であることがより好ましい。なお、リタデーションは、例えば、回転検光子法や、セナルモン法など、いくつかの楕円偏光解析にて測定することが可能なものである。本明細書では、リタデーションの値として、回転検光子法を用いることによって得られた値が示されている。
【0026】
基材フィルム31の遅相軸AX3は、例えば、図3(A),(B)および図4(A),(B)に示したように、水平方向または垂直方向を向いている。より詳細には、遅相軸AX3は、後述の位相差層32についての説明からわかるように、右目用領域32Aおよび左目用領域32Bの長手方向または短手方向と同一の方向を向いており、境界線L1の向きと同一の方向または直交する方向を向いている。また、遅相軸AX3は、遅相軸AX1,AX2と交差する方向を向いており、遅相軸AX1と遅相軸AX2との垂直方向の二等分線と平行な方向を向いていることが好ましい。
【0027】
位相差層32は、光学異方性を有する薄い層である。この位相差層32は、基材フィルム31の表面に設けられたものであり、液晶表示パネル20の光射出側の表面(偏光板21B)に粘着剤(図示せず)などによって貼り付けられている(図1)。この位相差層32は、遅相軸の向きが互いに異なる二種類の位相差領域(右目用領域32A,左目用領域32B)を有している。なお、本実施の形態の右目用領域32Aが本発明の「一方の種類の位相差領域」の一具体例に相当し、本実施の形態の左目用領域32Bが本発明の「他方の種類の位相差領域」の一具体例に相当する。
【0028】
右目用領域32Aおよび左目用領域32Bは、例えば、図1、図3(A)、図4(A)に示したように、共通する一の方向(水平方向)に延在する帯状の形状となっている。これら右目用領域32Aおよび左目用領域32Bは、基材フィルム31の面内方向に、隣接して規則的に配置されており、具体的には、右目用領域32Aおよび左目用領域32Bの短手方向(垂直方向)に交互に配置されている。従って、右目用領域32Aおよび左目用領域32Bを隔てる境界線L1は、右目用領域32Aおよび左目用領域32Bの長手方向(水平方向)と同一の方向を向いている。
【0029】
右目用領域32Aは、図3(A),(B)および図4(A),(B)に示したように、境界線L1と直交以外の角度θ1(0°<θ1<90°)で交差する方向に遅相軸AX1を有している。一方、左目用領域32Bは、図3(A),(B)および図4(A),(B)に示したように、境界線L1と直交以外の角度θ2(0°<θ2<90°)で交差する方向であって、かつ遅相軸AX1の向きとは異なる方向に遅相軸AX2を有している。
【0030】
ここで、「遅相軸AX1の向きとは異なる方向」とは、単に、遅相軸AX1の向きとは異なるということを意味しているだけでなく、境界線L1に関して、遅相軸AX1とは反対方向に回転しているということを意味している。つまり、遅相軸AX1,AX2は、境界線L1を挟んで互いに異なる方向に回転している。遅相軸AX1の角度θ1と、遅相軸AX2の角度θ2とは、絶対値としては(回転方向を考慮しない場合には)、互いに等しいことが好ましい。ただし、これらが、製造誤差(製造ばらつき)などによって若干、互いに異なっていてもよく、場合によっては製造誤差よりも大きな角度で互いに異なっていてもよい。なお、上記した製造誤差としては、右目用領域32Aおよび左目用領域32Bを製造する技術によっても異なるが、例えば最大で1°〜2°程度である。
【0031】
遅相軸AX1,AX2は、図2(A),(B)〜図4(A),(B)に示したように、水平方向および垂直方向のいずれの方向とも交差する方向を向いており、基材フィルム31の遅相軸AX3とも交差する方向を向いている。また、遅相軸AX1,AX2は、遅相軸AX1と遅相軸AX2との垂直方向または水平方向の二等分線が境界線L1と平行な方向を向くような方向に向いていることが好ましい。
【0032】
遅相軸AX1,AX2は、図2(A),(B)に示したように、液晶表示パネル20の偏光板21Bの偏光軸AX4とも交差する方向を向いている。さらに、遅相軸AX1は、後述する偏光眼鏡2の右目用位相差フィルム41Bの遅相軸AX5の向きと同一の方向か、またはその方向と対応する方向を向いており、左目用位相差フィルム42Bの遅相軸AX6の向きと異なる方向を向いている。一方、遅相軸AX2は、遅相軸AX6の向きと同一の方向か、またはその方向と対応する方向を向いており、遅相軸AX5の向きと異なる方向を向いている。
【0033】
[偏光眼鏡2]
次に、偏光眼鏡2について説明する。図5は、偏光眼鏡2の構成の一例を、表示装置1と共に斜視的に表したものである。偏光眼鏡2は、観察者(図示せず)の眼球の前に装着されるものであり、映像表示面に映し出される映像を観察する際に観察者によって用いられるものである。この偏光眼鏡2は、例えば、図5に示したように、右目用眼鏡41および左目用眼鏡42を有している。
【0034】
右目用眼鏡41および左目用眼鏡42は、表示装置1の映像表示面と対向するように配置されている。なお、これら右目用眼鏡41および左目用眼鏡42は、図5に示したように、できるだけ一の水平面内に配置されることが好ましいが、多少傾いた平坦面内に配置されていてもよい。
【0035】
右目用眼鏡41は、例えば、偏光板41Aおよび右目用位相差フィルム41Bを有している。一方、左目用眼鏡42は、例えば、偏光板42Aおよび左目用位相差フィルム42Bを有している。右目用位相差フィルム41Bは、偏光板41Aの表面であって、かつ表示装置1から射出された光Lの入射側に設けられたものである。左目用位相差フィルム42Bは、偏光板42Aの表面であって、かつ光Lの入射側に設けられたものである。
【0036】
偏光板41A,42Aは、偏光眼鏡2の光射出側に配置されており、ある一定の振動方向の光(偏光)のみを通過させる。例えば、図2(A),(B)において、偏光板41A,42Aの偏光軸AX7,AX8はそれぞれ、偏光板21Bの偏光軸AX4と直交する方向を向いている。偏光軸AX7,AX8はそれぞれ、例えば、図2(A),(B)に示したように、偏光軸AX4が垂直方向を向いている場合には水平方向を向いており、偏光軸AX4が水平方向を向いている場合には垂直方向を向いている。
【0037】
右目用位相差フィルム41Bおよび左目用位相差フィルム42Bは、光学異方性を有する薄い層またはフィルムである。これらの位相差フィルムの厚さは、例えば、30μm以上200μm以下であることが好ましい。また、これらの位相差フィルムとしては、光学異方性の小さい、つまり複屈折の小さいものが好ましい。そのような特性を持つ樹脂フィルムとしては、例えば、COP(シクロオレフィンポリマー)、PC(ポリカーボネート)などが挙げられる。ここで、COPとしては、例えば、ゼオノアやゼオネックス(日本ゼオン(株)登録商標)、アートン(JSR(株)登録商標)などがある。右目用位相差フィルム41Bの遅相軸AX5および左目用位相差フィルム42Bの遅相軸AX6は、図2(A),(B)に示したように、水平方向および垂直方向のいずれの方向とも交差する方向を向いており、偏光板41A,42Aの偏光軸AX7,AX8とも交差する方向を向いている。また、遅相軸AX5,AX6は、遅相軸AX5,AX6との二等分線が境界線L1と直交する方向を向くような方向に向いていることが好ましい。また、遅相軸AX5は、遅相軸AX1の向きと同一の方向か、またはその方向と対応する方向を向いており、遅相軸AX2の向きと異なる方向を向いている。一方、遅相軸AX6は、遅相軸AX2と同一の方向か、またはその方向と対応する方向を向いており、遅相軸AX1の向きと異なる方向を向いている。
【0038】
[リタデーション]
図6(A),(B)〜図9(A),(B)を参照して、位相差素子30と偏光眼鏡2のリタデーションについて説明する。図6(A),(B)および図7(A),(B)は、位相差層32の右目用領域32Aに入射した右目用画像光L2のみに着目し、偏光眼鏡2を介して、光L2が左右の目でどのように認識されるかを示した概念図である。また、図8(A),(B)および図9(A),(B)は、位相差層32の右目用領域32Bに入射した左目用画像光L3のみに着目し、偏光眼鏡2を介して、光L3が左右の目でどのように認識されるかを示した概念図である。なお、実際には、右目用画像光L2および左目用画像光L3は、混在した状態で出力されるが、図6(A),(B)〜図9(A),(B)では、説明の便宜上、右目用画像光L2と左目用画像光L3を別個に分けて記述した。
【0039】
ところで、偏光眼鏡2を用いて観察した場合に、例えば、図6(A),(B)、図7(A),(B)に示したように、右目には右目用画素の画像が認識でき、左目には右目用画素の画像が認識できないようにすることが必要である。また、同時に、例えば、図8(A),(B)、図9(A),(B)に示したように、左目には左目用画素の画像が認識でき、右目には左目用画素の画像が認識できないようにすることが必要である。そのためには、以下に示したように、右目用領域32Aおよび右目用位相差フィルム41Bのリタデーションならびに左目用領域32Bおよび左目用位相差フィルム42Bのリタデーションを設定することが好ましい。
【0040】
具体的には、右目用領域32Aおよび左目用領域32Bのリタデーションのうち一方が+λ/4となっており、他方が−λ/4となっていることが好ましい。ここで、リタデーションの符号が逆になっているのは、それぞれの遅相軸の向きが90°異なることを示している。このとき、右目用位相差フィルム41Bのリタデーションは右目用領域32Aのリタデーションと同一となっていることが好ましく、左目用位相差フィルム42Bのリタデーションは左目用領域32Bのリタデーションと同一となっていることが好ましい。
【0041】
次に、基材フィルム31のリタデーションαと、右目用領域32Aの遅相軸AX1の角度θ1および左目用領域32Bの遅相軸AX2の角度θ2との関係について説明する。図10(A),(B)、図11(A),(B)に示したように、基材フィルム31のリタデーションαが大きくなると、それに伴って、以下の2つの式(1),(2)によって表される消光比β1、β2の分布が角度θ1,θ2の大きくなる方向にシフトする。ここで、消光比とは、ゴーストの発生度合いを定量的に表すことの可能な指標の一つである。そのため、リタデーションαの大きさに拘らず、角度θ1,θ2の絶対値を、リタデーションαがゼロのときの消光比β1、β2のピーク値に対応する値、例えば、45°に設定した場合には、消光比β1、β2が小さくなり、ゴーストが生じてしまう可能性がある。
【0042】
【数1】

【数2】

【0043】
図10(A)は、リタデーションαが6nm、12nm、18nmとなっているときの、角度θ1と消光比β1との関係を表したものであり、図10(B)は、リタデーションαの大きさと、消光比β1が最大となるときの角度θ1との関係を表したものである。図11(A)は、リタデーションαが6nm、12nm、18nmとなっているときの、角度θ2と消光比β2との関係を表したものであり、図11(B)は、リタデーションαの大きさと、消光比β2が最大となるときの角度θ2との関係を表したものである。なお、図10(B)、図11(B)において、各ドットの上下に示した線は、シミュレーションの実行によって生じた誤差(最大値の誤差)の幅を意味している。
【0044】
そこで、本実施の形態では、角度θ1,θ2は、リタデーションαの大きさに対応した角度となっている。このとき、角度θ1,θ2は共に、同一の角度となっていてもよいし、互いに異なる角度となっていてもよい。角度θ1,θ2は、例えば、消光比β1、β2が双方ともに、なるべく高くなるような角度となっており、例えば、消光比β1、β2の少なくとも一方のピーク値に対応する角度となっている。リタデーションαが6nmとなっている場合には、角度θ1は例えば47.5°となっており、角度θ2は例えば−47°となっている。また、リタデーションαが12nmとなっている場合には、角度θ1は例えば49.5°となっており、角度θ2は例えば−49.5°となっている。また、リタデーションαが18nmとなっている場合には、角度θ1は例えば51°となっており、角度θ2は例えば−51.5°となっている。
【0045】
なお、リタデーションαが上で例示した大きさよりも大きい場合についても、角度θ1,θ2をリタデーションαの大きさに対応した角度とすることは可能である。しかし、角度θ1,θ2が52°よりも大きくなると、消光比のピーク値が、例えば、リタデーションαが6nmとなっているときに、角度θ1,θ2の絶対値を45°としたときの消光比と同等程度に小さくなってしまう。そのため、この場合には、角度θ1,θ2をどのような値に設定したとしても、ゴーストが生じてしまう可能性がある。従って、角度θ1は、+45°よりも大きく、+52°以下となっていることが好ましく、角度θ2については、−45°よりも小さく、−52°以上となっていることが好ましい。すなわち、角度θ1、θ2の絶対値が、45°よりも大きく、52°以下となっていることが好ましい。
【0046】
[基本動作]
次に、本実施の形態の表示装置1において画像を表示する際の基本動作の一例について、図6(A),(B)〜図9(A),(B)を参照しつつ説明する。
【0047】
まず、バックライト10から照射された光が液晶表示パネル20に入射している状態で、映像信号として右目用画像および左目用画像を含む視差信号が液晶表示パネル20に入力される。すると、例えば、奇数行の画素から右目用画像光L2が出力され(図6(A),(B)または図7(A),(B))、偶数行の画素から左目用画像光L3が出力される(図8(A),(B)または図9(A),(B))。なお、実際には、右目用画像光L2および左目用画像光L3は、混在した状態で出力されるが、図6(A),(B)〜図9(A),(B)では、説明の便宜上、右目用画像光L2と左目用画像光L3を別個に分けて記述した。
【0048】
その後、右目用画像光L2および左目用画像光L3は、位相差素子30の右目用領域32Aおよび左目用領域32Bによって楕円偏光に変換され、位相差素子30の基材フィルム31を透過したのち、表示装置1の画像表示面から外部に出力される。このとき、右目用領域32Aを通過した光と、左目用領域32Bを通過した光は共に、基材フィルム31に存在するわずかな光学異方性の影響を受ける。
【0049】
その後、表示装置1の外部に出力された光は、偏光眼鏡2に入射し、右目用位相差フィルム41Bおよび左目用位相差フィルム42Bによって楕円偏光から直線偏光に戻されたのち、偏光眼鏡2の偏光板41A,42Aに入射する。
【0050】
このとき、図6(A),(B)、図7(A),(B)に示すように、偏光板41A,42Aへの入射光のうち右目用画像光L2に対応する光の偏光軸は、偏光板41Aの偏光軸AX7と平行となっており、偏光板42Aの偏光軸AX8と直交している。従って、偏光板41A,42Aへの入射光のうち右目用画像光L2に対応する光は、偏光板41Aだけを透過して、観察者の右目に到達する(図6(A),(B)または図7(A),(B))。
【0051】
一方、図8(A),(B)、図9(A),(B)に示すように、偏光板41A,42Aへの入射光のうち左目用画像光L3に対応する光の偏光軸は、偏光板41Aの偏光軸AX7と直交しており、偏光板42Aの偏光軸AX8と平行となっている。従って、偏光板41A,42Aへの入射光のうち左目用画像光L3に対応する光は、偏光板42Aだけを透過して、観察者の左目に到達する(図8(A),(B)または図9(A),(B))。
【0052】
このようにして、右目用画像光L2に対応する光が観察者の右目に到達し、左目用画像光L3に対応する光が観察者の左目に到達した結果、観察者は表示装置1の映像表示面に立体画像が表示されているかのように認識することができる。
【0053】
[効果]
ところで、本実施の形態では、位相差素子30の基材フィルム31は、例えば、光学異方性を有する薄い樹脂フィルムによって構成されている。そのため、上述したように、右目用領域32Aを通過した光と、左目用領域32Bを通過した光は共に、基材フィルム31に存在するわずかな光学異方性の影響を受ける。そのため、観察者の目に到達した右目用の画像光および左目用の画像光にゴーストが含まれている可能性がある。
【0054】
しかし、本実施の形態では、右目用領域32Aの遅相軸AX1の角度θ1および左目用領域32Bの遅相軸AX2の角度θ2の絶対値が、基材フィルム31のリタデーションの大きさに対応した角度となっており、45°に対してオフセットを有している。これにより、基材フィルム31の光学異方性に起因する偏光状態の変化を抑制することができる。その結果、基材フィルム31の光学異方性に起因して発生するゴーストを低減することができる。
【0055】
また、本実施の形態では、基材フィルム31の遅相軸AX3が水平方向または垂直方向を向いており、遅相軸AX1,AX2と交差する方向を向いている。そのため、基材フィルム31の光学異方性に起因する影響が基材フィルム31を透過するそれぞれの光に及び、基材フィルム31を透過する右目用に対応する光および左目用に対応する光のうちいずれか一方の光にだけ極端に大きく及ぶことがない。その結果、例えば、左目または右目だけにゴーストが強く見えたり、左目と右目で映像の色が異なってしまったりするなどのアンバランスを低減することができる。従って、アンバランスの生じにくい位相差素子30および表示装置1を実現することができる。
【0056】
特に、本実施の形態において、基材フィルム31の遅相軸AX3が遅相軸AX1と遅相軸AX2との垂直方向または水平方向の二等分線と平行な方向を向いている場合には、基材フィルム31の光学異方性に起因する影響が基材フィルム31を透過するそれぞれの光に均等に及ぶ。その結果、例えば、左目または右目だけにゴーストが強く見えたり、左目と右目で映像の色が異なってしまったりするなどのアンバランスをなくすることができる。従って、この場合には、左右の映像のアンバランスが生じない位相差素子30および表示装置1を実現することができる。
【0057】
また、本実施の形態では、位相差素子30の位相差層32を支持する基材として、薄い基材フィルム(例えば、樹脂フィルム)を用いた場合には、位相差層32の支持基材としてガラス板を用いた場合よりも位相差素子30を安価に歩留まり良く製造することができる。また、位相差層32の支持基材として薄い基材フィルム(例えば、樹脂フィルム)を使用することにより、表示装置1を薄型化することもできる。
【0058】
[位相差素子30の製造方法]
ここで、本実施の形態に係る位相差素子30の製造方法の一例について説明する。ここでは、位相差素子30に複数の溝領域が設けられているものとし、該溝領域を形成する際に、ロール状の原盤を用いた場合と、板状の原盤を用いた場合とに分けて説明する。
【0059】
(ロール状の原盤を用いた場合)
図12は、ロール状の原盤により複数の微細溝を形成する製造装置の構成の一例を表したものである。具体的にはまず、巻き出しロール200から巻き出した基材フィルム31を、ガイドロール220を介してガイドロール230に導いた後、基材フィルム31上にUV硬化樹脂液43D(例えば、UV硬化アクリル樹脂液を含む。)を、例えば吐出機280から滴下して、UV硬化樹脂層43を形成する。さらに、基材フィルム31をニップロール240で押さえながら、基材フィルム31上のUV硬化樹脂層43を型ロール210の周面に押し当てる。ここで、型ロール210の周面には、予め位相差素子30の右目用領域32A、左目用領域32Bにそれぞれ対応する複数の微細溝の反転パターンが形成されており、UV硬化樹脂層43を型ロール210の周面に押し当てることにより、UV硬化樹脂層43に複数の微細溝のパターンが転写される。
【0060】
ここで、基材フィルム31上の樹脂層は、従来の光配向膜や、ポリイミド配向膜とは異なり、樹脂層において光吸収や色づきがほとんど生じないものであることが好ましい。樹脂層としては、上述したとおり、例えば、アクリル系のUV硬化型樹脂を用いることができる。
【0061】
また、複数の微細溝の開口幅(ピッチ)は、例えば2μm以下となっているのが好ましいく、1μmとなっていることがより好ましい。ピッチを2μm以下とすることにより、後述する製造過程において、複数の微細溝上に位相差層32を構成する材料(例えば、後述する液晶材料)を配向させることが容易となる。また、複数の微細溝を有する溝領域は、例えば、ストライプ状に、交互に配列されている。これらのストライプ幅は、例えば、表示装置1における画素ピッチと同等の幅となっていることが好ましい。
【0062】
また、右目用領域32Aに対応する複数の微細溝の延在方向と、左目用領域32Bに対応する複数の微細溝の延在方向は、例えば、互いに直交している。また、これらの複数の微細溝の延在方向は、溝領域のストライプ方向を基準としてそれぞれ、−45°,+45°の角度をなしている。
【0063】
なお、本明細書において、「平行」、「直交」、「垂直」、「同一の方向」という場合には、本発明の効果を損なわない限度において、それぞれが、略平行、略直交、略垂直、略同一の方向、を含むものとする。例えば、製造誤差、バラツキ等の諸要因に起因する誤差が含まれている。
【0064】
その後、紫外線照射機290から、UV硬化樹脂層43に対して紫外線UVを照射して、UV硬化樹脂層43を硬化させる。ここで、紫外線照射機290は、巻き出しロール200から供給された基材フィルム31のうちニップロール240を通過した後の部分であって、かつ型ロール210と接している部分に対して紫外線を照射するようになっている。続いて、ガイドロール250で、基材フィルム31を型ロール210から剥離したのち、ガイドロール260を介して巻き取りロール270に巻き取る。このようにして、樹脂層が形成された基材フィルム31’が形成される。
【0065】
次に、位相差層32の形成方法について説明する。まず、図13に示したように、巻き出しロール350から基材フィルム31’を巻き出したのち、複数の微細溝の表面に、液晶性モノマーを含む液晶46Dを吐出機360から滴下して、液晶層46を形成する。続いてヒータ370を用いて、基材フィルム31’の表面に塗布された液晶層46の液晶性モノマーの配向処理(加熱処理)を行った後、液晶層46を相転移温度よりも少し低い温度まで徐冷する。これにより、液晶性モノマーは、基材フィルム31’の表面に形成された複数の微細溝のパターンに応じて配向する。
【0066】
次に、紫外線照射機380から、配向処理後の液晶層46に対して、UV光を照射して、液晶層46内の液晶性モノマーを重合させる。なお、このとき、処理温度は、一般的に室温付近であることが多いが、リタデーション値を調整するために温度を相転移温度以下の温度まで上げてもよい。これにより、複数の微細溝のパターンに沿って液晶分子の配向状態が固定され、位相差層32(右目用領域32Aおよび左目用領域32B)が形成される。
【0067】
なお、位相差層32の厚みは、例えば0.1μm〜10μmであることが好ましい。また、位相差層32は、例えば、重合性の高分子液晶材料を含んでいてもよい。高分子液晶材料としては、相転移温度(液晶相−等方相)、液晶材料の屈折率波長分散特性、粘性特性、プロセス温度などに応じて選定された材料が用いられる。但し、重合基としてアクリロイル基あるいはメタアクリロイル基を有していることが、透明性の観点から好ましい。また、重合性官能基と液晶骨格との間にメチレンスペーサのない材料を用いることが好ましい。プロセス時の配向処理温度を低くすることができるためである。
【0068】
なお、位相差層32は、重合した高分子液晶材料のみで構成されていてもよいし、上述のように未重合の液晶性モノマーを含んでいてもよい。未重合の液晶性モノマーが含まれる場合には、配向処理(加熱処理)によって、その周囲に存在する液晶分子の配向方向と同様の方向に配向し、高分子液晶材料の配向特性と同様の配向特性を示す。
【0069】
以上のようにして、位相差素子30が完成する。その後、位相差素子30を巻き取りロール390に巻き取る。
【0070】
なお、図示しないが、上記製造工程において、UV硬化樹脂層43を設けずに、基材フィルム31に直接、原盤の反転パターンを転写して、複数の微細溝が形成された基材フィルムを完成させてもよい。この場合、上記のUV硬化樹脂層43の形成工程を省略するほかは、上記製造方法と同様の方法で位相差素子30を作製することができる。
【0071】
また、図示しないが、基材フィルム31とUV硬化樹脂層43は、直接接して設けられていてもよいし、他の層が介在して設けられていてもよい。他の層としては、基材フィルム31とUV硬化樹脂層43の密着性を高めるためのアンカー層などが挙げられる。
【0072】
また、図示しないが、UV硬化樹脂層43(樹脂層43を設けない場合には、基材フィルム31)と位相差層32の間に、位相差層32を構成する所定の材料(例えば、上記液晶材料)の配向性を良好にするための無配向性薄膜を別途形成してもよい。これにより、複数の微細溝の表面に直接、液晶層46を形成した場合と比べて、複数の微細溝の表面の分子配向の影響が液晶層46に及ぶ割合を低減することができる。その結果、複数の微細溝の表面の分子が、微細溝の延在方向とは異なる方向に配向しているときであっても、液晶層46(位相差層32)の配向方向を無配向性薄膜によって形成される窪みの延在方向に揃えることが可能となる。すなわち、液晶層46(位相差層32)の配向方向を所望の方向に揃えることが可能となる。
【0073】
無配向性薄膜の形成方法としては、例えば、複数の微細溝の表面に、例えばUV硬化樹脂層を配置する。該UV硬化樹脂層は、上記UV硬化樹脂層43を構成する材料と同一材料であっても、異なる材料であってもよい。次に、該UV硬化樹脂層にUV光を照射して、硬化させる。これにより、複数の微細溝の表面に倣って無配向性薄膜が形成される。無配向性薄膜は、例えば、図12の製造装置と一連の構造の装置を用いて形成することができる。
【0074】
本実施の形態では、従来のように配向膜を用いて液晶分子を配向させる場合と異なり、高温での加熱処理を必要としないため、ガラス材料などに比べて、加工し易く、かつ安価な基材フィルム(例えば、樹脂フィルム)を用いることができる。
【0075】
(板状の原盤を用いた場合)
次に、図14(A),(B)を参照して、板状の原盤を用いた場合の位相差素子30の作製方法について説明する。まず、基材フィルム31を用意する。そして、位相差素子30の右目用・左目用領域にそれぞれ対応する複数の微細溝の反転パターン110Aが形成された板状の原盤110の表面に、例えばUV硬化樹脂層43(例えば、アクリル系樹脂)を配置したのち、UV硬化樹脂層43を、基材フィルム31で封止する。次に、UV硬化樹脂層43にUV光を照射して硬化させた後、原盤110を剥離する。これにより、樹脂層が形成された基材フィルム31’が形成される(図14(A))。
【0076】
次に、位相差層32の形成方法について説明する(図14(B))。まず、複数の微細溝の表面に、液晶性モノマーを含む液晶層46を、例えばロールコータなどでコーティングして形成する。このとき、液晶層46には、必要に応じて、液晶性モノマーを溶解させるための溶媒、重合開始剤、重合禁止剤、界面活性剤、レベリング剤などを添加することができる。溶媒としては、特に限定されないが、液晶性モノマーの溶解性が高く、室温での蒸気圧が低く、また室温で蒸発しにくいものを用いることが好ましい。室温で蒸発しにくい溶媒としては、例えば、1−メトキシ−2−アセトキシプロパン(PGMEA)、トルエン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)などが挙げられる。これは、室温で蒸発しやすい溶媒を用いると、液晶層46を塗布形成後の溶媒の蒸発速度が速すぎて、溶媒の蒸発後に形成される液晶性モノマーの配向に乱れが生じやすくなるためである。
【0077】
次に、液晶層46の液晶性モノマーの配向処理(加熱処理)を行う。この加熱処理は、液晶性モノマーの相転移温度以上であって、特に溶媒を用いた場合には、この溶媒が乾燥する温度以上の温度で行うようにする。ここで、前工程における液晶性モノマーのコーティングによって、液晶性モノマーと微細溝との界面にずり応力が働き、流れによる配向(流動配向)や力による配向(外力配向)が生じ、液晶分子が意図しない方向に配向してしまうことがある。上記加熱処理は、このような意図しない方向に配向してしまった液晶性モノマーの配向状態を一旦キャンセルするために行われる。これにより、液晶層46では、溶媒が乾燥して液晶性モノマーのみとなり、その状態は等方相となる。
【0078】
次に、液晶層46を相転移温度よりも少し低い温度まで徐冷する。これにより、液晶性モノマーが、複数の微細溝のパターンに応じて配向する。
【0079】
次に、配向処理後の液晶層46に対して、例えばUV光を照射することにより、液晶性モノマーを重合させる。なお、このとき、処理温度は、一般に室温付近であることが多いが、リタデーション値を調整するために温度を相転移温度以下の温度まで上げてもよい。これにより、複数の微細溝のパターンに沿って液晶分子の配向状態が固定され、右目用領域32Aおよび左目用領域32Bが形成される。以上により、位相差素子30が完成する(図14(B))。
【0080】
なお、ロール状の原盤を用いた場合と同様に、UV硬化樹脂層43を設けずに、基材フィルム31に直接、原盤の反転パターンを転写して、複数の微細溝が形成された基材フィルムを完成させてもよい。また、上記アンカー層や、上記無配向性薄膜を形成してもよい。
【0081】
本実施の形態では、従来のように配向膜を用いて液晶分子を配向させる場合と異なり、高温での加熱処理を必要としないため、ガラス材料などに比べて、加工し易く、かつ安価な基材フィルム(例えば、樹脂フィルム)を用いることができる。
【0082】
<変形例>
上記実施の形態では、位相差素子30には、遅相軸の向きが互いに異なる2種類の位相差領域(右目用領域32A,左目用領域32B)が設けられていたが、遅相軸の向きが互いに異なる3種類以上の位相差領域が設けられていてもよい。例えば、図15に示したように、位相差素子30に、右目用領域32A,左目用領域32Bのほかに、これら右目用領域32Aおよび左目用領域32Bの遅相軸AX1,AX2の向きとは異なる向きの遅相軸AX9を有する第3の領域32Cを新たに設けることも可能である。
【0083】
また、上記実施の形態では、位相差素子30の位相差領域(右目用領域32A,左目用領域32B)が水平方向に延在している場合が例示されていたが、それ以外の方向に延在していてもかまわない。例えば、図16に示したように、位相差素子30の位相差領域(右目用領域32A,左目用領域32B)が垂直方向に延在していていてもよい。
【0084】
また、上記実施の形態および変形例では、位相差素子30の位相差領域(右目用領域32A,左目用領域32B)が位相差素子30の水平方向もしくは垂直方向全体に渡って延在している場合が例示されていたが、例えば、図17に示したように、水平方向および垂直方向の双方に2次元配置されていてもよい。なお、2次元配置した場合であっても、各位相差領域の境界線は、垂直方向の境界線と定義される。
【0085】
また、上記実施の形態および各変形例では、位相差素子30を表示装置1に適用した場合が例示されていたが、他のデバイスに適用することももちろん可能である。
【0086】
また、上記実施の形態および各変形例では、液晶表示パネル20から出力される光の発散角を制御するものを特に設けていなかったが、例えば、図18に示したように、液晶表示パネル20と位相差素子30との間に、ブラックストライプ層40を設けてもよい。このブラックストライプ層40は、液晶表示パネル20内の画素電極23との対向領域内に設けられた透過部40Aと、この透過部40Aの周囲に設けられた遮光部40Bとを有している。これにより、観察者が斜め上側や斜め下側から画像表示面を観察した場合に、左目用画素を通過した光が右目用領域32Aに入ったり、右目用画素を通過した光が左目用領域32Bに入ったりするクロストークと呼ばれる問題点を解消することができる。
【0087】
なお、ブラックストライプ層40を常に、液晶表示パネル20と位相差素子30との間に設ける必要はなく、例えば、図19に示したように、液晶表示パネル20内の偏光板21Bと透明基板29の間に設けることも可能である。
【0088】
以上では、偏光眼鏡2が円偏光タイプであり、表示装置1としては円偏光眼鏡用の表示装置である場合について説明をしたが、本発明は、偏光眼鏡2が直線偏光タイプであり、表示装置1として直線偏光眼鏡用の表示装置である場合についても適用可能である。
【0089】
<実施例>
以下、本実施の形態の表示装置1の実施例1,2について説明する。
【0090】
基材フィルム31の遅相軸AX3を境界線L1に対し垂直方向に向けたもの(図3(A),(B))を実施例1とし、基材フィルム31の遅相軸AX3を境界線L1に対し水平方向に向けたもの(図4(A),(B))を実施例2とした。つまり、実施例1,2では、遅相軸AX3を遅相軸AX1,AX2と交差させ、しかも遅相軸AX1,AX2の垂直方向または水平方向の二等分線の方向とおおよそ同一の方向を向かせた。
【0091】
まず、上記実施例1,2について消光比を計算し、評価した。消光比は、上述した算出式(1),(2)を用いて求めた。
【0092】
図2(A),(B)に示すように、偏光眼鏡2における偏光板41Aおよび42Aの透過軸AX7およびAX8は、表示装置1の光射出側の偏光板21Bの透過軸AX4との関係で、それぞれクロスニコルの配置になっていることが好ましいので、出射側の偏光板21Bの透過軸AX4を垂直方向とし、透過軸AX7,AX8を水平方向とした(図2(A))。また、位相差層32の右目用領域32Aおよび左目用領域32Bのリタデーションを、ほぼλ/4とした。左目用領域32Bの遅相軸AX2と左目用位相差フィルム42Bの遅相軸AX6を同じ向きとし、右目用領域32Aの遅相軸AX1と右目用位相差フィルム41Bの遅相軸AX5とを同じ向きとした。このような配置において、右目用領域32Aおよび左目用領域32Bの消光比の計算を、拡張ジョーンズ行列法を用いて行った。
【0093】
なお、偏光眼鏡2の左右の位相差フィルム41A,42Bならびに位相差素子30の右目用領域32Aおよび左目用領域32Bのリタデーションは、全ての波長でλ/4またはそれと同等であることが好ましいが、現在商用として用いられる材料では、リタデーションの波長分散が生じてしまう。ここでは、偏光眼鏡2の位相差フィルム41A,42Bとしてポリカーボネートを想定し、右目用領域32Aおよび左目用領域32Bの材料として液晶ポリマーを想定した。
【0094】
偏光眼鏡2の位相差フィルム41A,42Bは、右目用も左目用もリタデーションが等しいものとし、図20に示すリタデーション値とした。また、右目用領域32Aおよび左目用領域32Bについてもリタデーションが等しいものとし、図21に示すリタデーション値とした。位相差素子30の基材フィルム31としては、リタデーションが0となる等方性であることが好ましいが、実際の商用のフィルムである以上は、若干のリタデーションを有する。ここでは、基材フィルム31として100μm、200μmおよび300μmの厚みを有するゼオノア(日本ゼオン株式会社の登録商標)フィルムを想定し、図22に示すリタデーション値とした。つまり、可視領域において、100μm厚のリタデーションを約6nmとし、200μm厚のリタデーションを約12nmとし、300μm厚のリタデーションを約18nmとした。
【0095】
消光比の計算結果を図10(A),(B)、図11(A),(B)に示した。なお、実施例1,2ともに、同様の結果が得られたので、実施例1の結果だけを図10(A),(B)、図11(A),(B)に示した。これらの図から、右目用領域32Aおよび左目用領域32Bのいずれにおいても、基材フィルム31の厚みが薄いほど、消光比β1,β2の値が最適となる(最大となる)角度θ1,θ2の値が大きくなることがわかった。つまり、基材フィルム31のリタデーションαが大きいほど、消光比β1,β2の値が最適となる(最大となる)角度θ1,θ2の、45°からのオフセットが大きくなることがわかった。また、リタデーションαの値が小さいほど、消光比β1,β2の値を大きくすることができることもわかった。だたし、角度θ1,θ2が52°よりも大きくなると、消光比のピーク値が、例えば、リタデーションαが6nmとなっているときに、角度θ1,θ2の絶対値を45°としたときの消光比と同等程度に小さくなってしまう。従って、角度θ1は、+45°よりも大きく、+52°以下となっていることが好ましく、角度θ2については、−45°よりも小さく、−52°以上となっていることが好ましいことがわかった。すなわち、角度θ1、θ2の絶対値が、45°よりも大きく、52°以下となっていることが好ましいことがわかった。
【符号の説明】
【0096】
1…表示装置、2…偏光眼鏡、10…バックライトユニット、20…液晶表示パネル、21A,21B…液晶表示パネル20の偏光板、22,29…透明基板、23…画素電極、24,26…配向膜、25…液晶層、27…共通電極、28…カラーフィルタ、28A…フィルタ部、28B…ブラックマトリクス部、30…位相差素子、31,31’…基材フィルム、32…位相差層、32A…右目用領域、32B…左目用領域、40…ブラックストライプ層、40A…透過部、40B…遮光部、41…右目用眼鏡、41A,42A…偏光眼鏡2の偏光板、41B…右目用位相差フィルム、42…左目用眼鏡、42B…左目用位相差フィルム、43…UV硬化樹脂層、43D…UV硬化樹脂液、46…液晶層、46D…液晶、110…原盤、110A…反転パターン、200,350…巻き出しロール、210…型ロール、220,230,250,260…ガイドロール、240…ニップロール、270,390…巻き取りロール、280,360…吐出機、290,380…紫外線照射機、370…ヒータ、AX1,AX2,AX3,AX5,AX6,AX9…遅相軸、AX4,AX7,AX8…偏光軸(透過軸)、L…表示装置1から射出された光、L1…境界線、L2…右目用画像光、L3…左目用画像光,θ1,θ2…角度、β1,β2…消光比。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学異方性を有する基材フィルムと、
前記基材フィルム上に形成され、光学異方性を有する位相差層と
を備え、
前記位相差層は、遅相軸の向きが互いに異なる2種類以上の位相差領域を有し、
前記2種類以上の位相差領域は、前記基材フィルムの面内方向に、隣接して規則的に配置され、
前記各位相差領域は、前記基材フィルムの遅相軸と45°より大きな角度で交差する方向に遅相軸を有する
位相差素子。
【請求項2】
前記各位相差領域の遅相軸は、前記基材フィルムのリタデーションの大きさに対応した角度で、前記基材フィルムの遅相軸と交差する方向を向いている
請求項1に記載の位相差素子。
【請求項3】
前記各位相差領域の遅相軸は、以下の2つの式によって表される消光比の少なくとも一方のピーク値に対応する角度で、前記基材フィルムの遅相軸と交差する方向を向いている
請求項1に記載の位相差素子。
【数1】

【数2】

【請求項4】
前記各位相差領域の遅相軸は、45°よりも大きく、52°以下の角度で、前記基材フィルムの遅相軸と交差する方向を向いている
請求項1に記載の位相差素子。
【請求項5】
前記基材フィルムは樹脂フィルムからなる
請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の位相差素子。
【請求項6】
前記基材フィルムは、互いに隣接する位相差領域の境界線と平行な方向または直交する方向に遅相軸を有する
請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の位相差素子。
【請求項7】
前記一方の種類の位相差領域は+λ/4のリタデーションを有し、
前記他方の種類の位相差領域は−λ/4のリタデーションを有する
請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の位相差素子。
【請求項8】
前記位相差層は、前記位相差領域を2種類有し、
前記各位相差領域は、前記一方の種類の位相差領域の遅相軸と、前記他方の種類の位相差領域の遅相軸との二等分線が前記基材フィルムの遅相軸と平行となるような方向に遅相軸を有する
請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の位相差素子。
【請求項9】
画像信号に基づいて駆動される表示パネルと、
前記表示パネルを照明するバックライトユニットと、
前記表示パネルとの関係で前記バックライトユニットとは反対側に設けられた位相差素子と
を備え、
前記位相差素子は、
光学異方性を有する基材フィルムと、
前記基材フィルム上に形成され、光学異方性を有する位相差層と
を有し、
前記位相差層は遅相軸の向きが互いに異なる2種類以上の位相差領域を有し、
前記2種類以上の位相差領域は、前記基材フィルムの面内方向に、隣接して規則的に配置され、
前記各位相差領域は、前記基材フィルムの遅相軸と45°より大きな角度で交差する方向に遅相軸を有する
表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2010−164956(P2010−164956A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−280753(P2009−280753)
【出願日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】