説明

位置合わせ装置、露光装置及びデバイス製造方法

【課題】 EUV光を使用した場合であっても高いスループットを維持するとともに高精度な位置合わせが可能な位置合わせ装置を提供する。
【解決手段】 1nm以上50nm以下の波長の光を使用して照明される露光パターンを有するマスクを保持するマスクステージと、被露光体を保持するウェハステージとを位置合わせする位置合わせ装置であって、前記マスクまたは前記マスクステージに形成されるとともに位置合わせに使用される第1の基準パターンと相似する第2の基準パターンが形成された基板と、前記基板を反射若しくは透過した光を検出する検出部とを有し、前記基板及び前記検出部は、中空の筐体を形成し、当該中空の筐体の内部にガスを導入したことを特徴とする位置合わせ装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には、位置合わせ装置に係り、特に、露光装置におけるウェハとマスクとを位置合わせする位置合わせ装置に関する。本発明は、特に、露光光源として極端紫外線(EUV:extreme ultraviolet)光を利用する露光装置に用いられる位置合わせ装置に好適である。
【背景技術】
【0002】
近年の電子機器の高性能化及び低価格化に伴い、それに内蔵される半導体の製造にも高精度のみならず生産性の効率化が必要とされ、かかる半導体の回路パターンを露光する露光装置にも、高精度且つ効率的な製造が要求される。そのため、露光装置には、高精度な位置合わせ及び微細加工を行うために、マスクとウェハとを位置合わせする位置合わせ装置が構成されている。
【0003】
位置合わせ装置は、マスク上に形成された基準パターンに光を反射若しくは透過させることによって、基準パターンと相似するスリットが形成されたスリット支持基板へ光を入射させ、入射した光をフォトダイオードによって検出し、マスクとウェハとを位置合わせする。また、近年では、露光光の短波長化によって、露光光としてEUV光が使用されている。
【0004】
しかしながら、EUV光は紫外光に比べ1桁以上波長が短く、EUV光の透過率が高いスリット支持基板は得られなかった。
【0005】
そのため、係る問題を解決する方法として、スリット支持基板を薄くする方法や、スリット支持基板を使用せずフォトダイオードに直接パターニングする方法が提案されている(例えば、特許文献1を参照のこと)
【特許文献1】米国特許第6130431号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、スリット支持基板を薄くするとEUV光の熱によりスリット支持基板の歪みが発生する。この場合、スリット支持基板を薄くする事でスリット支持基板の体積が小さくなるので、スリット支持基板はEUV光を吸収することにより発生する熱量が逃げにくくなり、温度が上昇し、歪みが生じる。そのため、スリット支持基板に発生した歪みは、位置合わせ誤差、ディストーション、デフォーカス誤差となり、検出精度を低下させてしまう。その結果、EUV光を使用した場合、従来の位置合わせ装置は高精度な位置合わせが困難となる。
【0007】
また、特許文献1のような構成であるとフォトダイオードの表面を損傷させてしまう可能性がある。その結果、EUV光を使用した場合、従来の位置合わせ装置は高精度な位置合わせが困難であった。
【0008】
そこで、本発明は、EUV光を使用した場合であっても高いスループットを維持するとともに高精度な位置合わせが可能な位置合わせ装置を提供することを例示的な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面としての位置合わせ装置は、1nm以上50nm以下の波長の光を使用して照明される露光パターンを有するマスクを保持するマスクステージと、被露光体を保持するウェハステージとを位置合わせする位置合わせ装置であって、前記マスクまたは前記マスクステージに形成されるとともに位置合わせに使用される第1の基準パターンと相似する第2の基準パターンが形成された基板と、前記基板を反射若しくは透過した光を検出する検出部とを有し、前記基板及び前記検出部は、中空の筐体を形成し、当該中空の筐体の内部にガスを導入したことを特徴とする。
【0010】
本発明の別の側面としての位置合わせ装置は、1nm以上50nm以下の波長の光を使用して照明される露光パターンを有するマスクを保持するマスクステージと、被露光体を保持するウェハステージとを位置合わせする位置合わせ装置であって、前記マスクまたは前記マスクステージに形成されるとともに位置合わせに使用される第1の基準パターンと相似する第2の基準パターンが形成された基板と、前記基板を反射若しくは透過した光を検出する検出部と、前記基板へ入射する前記光を減少させる遮光部とを有し、前記遮光部及び検出部は、中空の筐体を形成し、当該筐体の内部には前記基板が配置され、ガスを導入したことを特徴とする。
【0011】
本発明の別の側面としての位置合わせ装置は、1nm以上50nm以下の波長の光を使用して照明される露光パターンを有するマスクを保持するマスクステージと、被露光体を保持するウェハステージとを位置合わせする位置合わせ装置であって、前記マスクまたは前記マスクステージに形成されるとともに位置合わせに使用される第1の基準パターンと相似する第2の基準パターンが形成された基板と、前記基板を反射若しくは透過した光を検出する検出部と、前記基板へ入射する前記光を減少させる遮光部とを有し、前記基板及び前記遮光部との間にガスが導入されることを特徴とする。
【0012】
本発明の別の側面としての露光装置は、上述の位置合わせ装置を有することを特徴とする。
【0013】
本発明の別の側面としてのデバイス製造方法は、上述の露光装置を用いて被露光体を露光するステップと、当該露光された被露光体を現像するステップとを有することを特徴とする。
【0014】
本発明の更なる目的又はその他の特徴は、以下の添付図面を参照して説明される好ましい実施例によって明らかにされるであろう。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、EUV光を使用した場合であっても高いスループットを維持するとともに高精度な位置合わせが可能な位置合わせ装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して本発明の例示的一態様である位置合わせ装置100について説明する。なお、各図において、同一の部材については、同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。ここで、図1は、位置合わせ装置100を示す構成図である。図2は、位置合わせ装置100を示す拡大構成図である。
【0017】
位置合わせ装置100は、1nm以上50nm以下の波長の光を使用して照明される露光パターン(基準パターン227)を有するマスク220を保持するマスクステージ225と、後述する被露光体(ウェハ240)を保持するウェハステージ245とを位置合わせする。位置合わせ装置100は、検出装置110と、ガス150と、ガス検出部160と、制御部170とを有している。また、位置合わせ装置100は、後述するウェハステージ245上に形成されており、ウェハステージ245と連動して駆動する。
【0018】
検出装置110は、1nm以上50nm以下の波長の光を使用して照明される露光パターン(基準パターン227)を有するマスク220を保持するマスクステージ225と、被露光体(ウェハ240)を保持するウェハステージ245との相対的な位置を検出する。検出装置110は、スリット支持基板120と、スリット125と、検出部130と、部材140と、ガス150とを有する。また、検出装置110は、スリット支持基板120と、検出部130と、部材140とを使用して中空の筐体を形成している。係る筐体は、後述するガス150を導入及び排気する導入口(不図示)が形成されている。この場合、導入口は導入と排気をそれぞれの別の開口であってもよい。また、筐体は、導入口を開閉するために密閉蓋(不図示)が設けられている。係る密閉蓋により筐体は、筐体内部の圧力を所望の圧力に維持することができる。
【0019】
本実施例の検出装置110は、筐体内部にガス150を導入している。それによって、検出装置110は、ガス150によりスリット支持基板120の歪みの原因となる熱を逃がし、スリット支持基板120の温度上昇を抑えることができる。その結果、位置合わせ装置100は、EUV光を使用した場合であっても高いスループットを維持するとともに高精度な位置合わせが可能となる。
【0020】
スリット支持基板120は、EUV光を透過する機能を有し、マスク220に形成されるとともに位置合わせに使用される第1の基準パターン(基準パターン227)と相似する第2の基準パターン(スリット125)を有している。スリット支持基板120の材料は、露光光を透過する材料が選ばれる。この場合、スリット支持基板120の材料にはSiCを使用する。
【0021】
今までの可視光や紫外光などの露光光では、物質を構成する原子の最外殻の電子と同程度のエネルギーを持つために、吸収される場合でも最外殻の電子に吸収され、そして、化学結合状態によって最外殻の電子のエネルギー準位が変化するために、物質の化学構造を変えれば露光波長を透過する材料が得られていた。事実、スリット支持基板をレンズやマスクと同じ材質で作製すれば、露光光を良く透過していた。
【0022】
ところが、紫外光にくらべ1桁以上波長が短いEUV光では、化学結合に寄与しない内殻電子の吸収で物質の吸収率が決まるため、化学結合状態が変わっても吸収率は変化せず、物質を構成する元素で吸収が決まってしまう。そのため、材料を変えてもEUV光の透過率が高いスリット支持基板120は得られない。その結果、検出に必要な十分な透過率を得るために、スリット支持基板120を薄くする必要がある。
【0023】
従って、スリット支持基板の厚さαは、EUV光を使用するため、薄いことが望ましく、例えば、0.2μm程度が好ましい。
【0024】
ここで、補足として、内殻電子と外殻電子とに関して詳述する。上記では内殻電子と外殻電子では、物質の性質、特に、光の吸収に与える影響が全く異なることを述べた。
【0025】
内殻電子は、高いエネルギー順位をもち、核から外側にいくに従って低いエネルギー順位となり、外殻電子となる。一般に、外殻電子のエネルギー順位は、10eV以下で、内殻電子のエネルギー順位のうちもっとも小さいものは、20eV程度である。従って、20eV程度より高いエネルギー順位の電子は、化学結合に寄与しないため、結合状態によって、エネルギー順位は変化しない。
【0026】
例えば、酸素Oの場合、内殻電子のエネルギー順位のうち最も小さいエネルギー順位は、L殻の24eVである。酸素Oは、全部で、K殻とL殻とLII、LIII殻があり、そのエネルギー順位は、それぞれ、532eVと24eV、7eVである。このうち化学結合に寄与する殻はLII、LIIIで、K殻とLは化学結合によってエネルギー順位は変化しない内殻である。物質の光の吸収は、532eV以上のエネルギーの光はK殻で、24eVから532eVの光はL殻で、ほとんど吸収される。24eV以下の光は、LII、LIIIで吸収されるために、その結合状態によって吸収率が異なる。
【0027】
以上より、24eV以上のエネルギーの光、即ち50nm以下の短い波長(EUV光)の光に対する物質の透過率は、その物質の構成元素を考えればよいが、それ以上の波長の光では、物質の構成元素とその結合状態によって、透過率が変化する可能性がありうる。
【0028】
また、内郭電子による吸収においては、波長が短くなるにつれて物質の透過率が大きくなる。そのため、パターン支持基板を厚くできるので、パターン支持基板の熱伝導によって熱を逃がすことが可能となり、パターン支持基板の温度上昇を抑えることが可能である。例えば、波長1nmのX線に対するSiC2μmの透過率は、およそ50%であるが、半径0.5mmのスリット支持基板とすると、その最大温度上昇は0.4K以下で小さく、許容できる範囲である。
【0029】
以上のことから、真空中に置かれたパターン支持基板の温度上昇の問題は、露光波長が、少なくとも1乃至50nmの範囲のX線を使用した場合に、生じる問題である。
【0030】
そのため、スリット支持基板120の幅を薄くすると、スリット支持基板120の体積が小さくなり、スリット支持基板120がEUV光を吸収することにより発生する熱量が、スリット支持基板120の温度を上昇させ、スリット支持基板120に歪みを生じさせてしまう。
【0031】
この場合のスリット支持基板120の最大の温度上昇値である中心の温度ΔTmaxは、スリット支持基板120の半径をr、厚さをt、その熱伝導率をλb、入射強度をqとすると、以下の数式1のように表される。
【0032】
【数1】

【0033】
例えば、スリット支持基板120にr=0.5mm、t=0.1μmのSiC基板を用い、q=10mW/cmの強度が入射した場合、λb=7.9(J/m/sec/K)であるので、ΔTmax=8Kとなる。
【0034】
一方、パターンの歪み量ΔLは、線膨張係数をα、温度上昇値をΔT、長さをLとすると、以下の数式2のように表すことができる。
【0035】
【数2】

【0036】
例えば、ここではLとして半径r(=0.5mm)をとると、SiCの線膨張係数αは3.3E−6で、ΔL=1.6×ΔT(nm)となる。ΔT=8Kとすると、ΔL=12nmとなる。露光する線幅が50〜30nm程度なので、この歪み量は線幅の1/3程度であり、許容できない値となる。
【0037】
そこで、本実施例では、歪み量を小さくするために、スリット支持基板120が吸収した熱をガスによって逃がし、スリット支持基板120の温度上昇を抑えている。その結果、位置合わせ装置100は、EUV光を使用した場合であっても高いスループットを維持するとともに高精度な位置合わせが可能となる。尚、歪み量を低減させる方法は、後述する。
【0038】
スリット125は、露光光を遮蔽し、マスク220に形成された位置合わせに使用される第1の基準パターン(基準パターン227)と相似する形状を有する。スリット125は、スリット支持基板120に形成されており、その厚さは、スリット支持基板120と同程度で例えば、0.1μm程度である。また、スリット125の材料は、露光光を遮蔽する材料であるCr等の金属が用いられる。更に、スリット125の形状は、後述する基準パターン227によって変形した露光光に依存し決定されている。例えば、基準パターン227の反射部分が200nmライン&スペース状のパターンの場合、1/4縮小投影光学系230を通したウェハステージ245上では、50nmライン&スペース状の光束になるので、Cr等のスリット125も50nmライン&スペースとなることが好ましい。
【0039】
このCrによるスリット125の作成方法は、Si基板上にSiCを堆積させ、Crを例えばEB蒸着等の手法で堆積させ、その後は、レジストを塗布し、電子線等で直接描画した後、RIE等によりエッチングを行いスリットを形成し、スリットと同じ面にリング状の部材140を接着し、最後にSi基板をエッチングを行う事によりSiCの裏面を露出させる、という手順で作成される。
【0040】
検出部130は、スリット支持基板120を反射若しくは透過した光を検出する。検出部130は、本実施例では、EUV光に感度を有するフォトダイオードであって、スリット支持基板120の下に形成される。また、検出部130は、上述したように、スリット支持基板120と共同して中空の筐体を形成する。また、検出部130は、スリット支持基板120からの透過した光を受光するため、スリット支持基板120と同等もしくはそれ以上のサイズのものを用いる。更に、検出部130は、電気的に後述する制御部170と接続されている。
【0041】
部材140は、スリット支持基板120と、検出部130と共同して中空の筐体を形成する。そのため、部材140は、スリット支持基板120と検出部130との間の側面を覆うように形成され、スリット支持基板120が上端に載置されている。部材140は、SiやSUS等の材料から形成される。また、部材140は、後述するガス150を導入及び排気する導入口(不図示)が形成されている。この場合、導入口は導入と排気をそれぞれの別の開口であってもよい。更に、部材140は、導入口を開閉するために密閉蓋(不図示)が設けられている。
【0042】
ガス150は、スリット支持基板120の熱を放熱し、筐体内部に導入される。本実施例では、ガス150として水素を用いるが、他の種類のガスでもよく、水素ガスに限定されるものではない。例えば、空気でもよいが、空気の熱伝導率は0.024W/mK程度なので、水素やヘリウムの方が熱伝導率が大きいため、大強度のEUV光まで、スリット支持基板120の温度上昇が押さえられ、その熱歪みが問題とならない。
【0043】
ガス150は、スリット支持基板120がEUV光を吸収することにより発生する熱量を逃がし、スリット支持基板120の温度の上昇を防止し、スリット支持基板120の歪みを防ぐことができる。それにより、位置合わせ誤差、ディストーション、デフォーカス誤差が減少する。その結果、位置合わせ装置100は、EUV光を使用した場合であっても高いスループットを維持するとともに高精度な位置合わせが可能となる。
【0044】
ガス検出部160は、筐体内部のガス150圧力を検出する。そのため、ガス検出部160は、筐体内部に圧力センサを配置している。また、ガス検出部160は、制御部170と電気的に接続されている。
【0045】
制御部170は、検出部130及びガス検出部160の検出結果に基づいてガス150及びウェハステージ245を制御する。制御部170は、電気的に検出部130、ガス検出部160及びウェハステージ245とに接続している。
【0046】
以下、歪み量を低減させる方法を説明する。
【0047】
本実施例において、歪み量の低減は、ガス150の分子又は原子の平均自由行程Lと、ガス150圧力と、筐体内部の露光光の入射方向の高さH(スリット支持基板120と検出部130との距離H)との調整によって行われる。
【0048】
まず、スリット支持基板120と検出部130との距離Hは、ガス150の分子又は原子の平均自由行程以上の長さであることが望ましい。その理由は、気体の平均自由行程Lがガスの存在する空間の距離Hよりも十分短い時には、熱伝導率が圧力に無関係になるからである。その理由を以下に説明する。
【0049】
以下、図3を参照して、熱流束とガス圧力との関係について説明する。ここで、図3は熱流束とガス圧力との関係を示すグラフである。尚、熱流束とは、熱の流れの量を示すものであり、本実施例では高温側の物体から奪われる熱量を表している。
【0050】
高温の物体(スリット支持基板120)と低温の物体(検出部130)との温度差をΔT1、これらの物体間の距離をH、高温側の物体からの奪われる熱量である熱流束をq[W/m]、自由分子の熱伝導率Λ、圧力をpとすると、距離Hが平均自由行程Lより十分小さい場合(圧力が10[Pa]より小さい場合)の熱流束qは、以下の数式3のように表すことができる。
【0051】
【数3】

【0052】
図3に示すように、熱流束は圧力pに比例して変化する。
【0053】
それに対して、距離Hが平均自由行程Lより大きい場合の熱流束qは、以下の数式4のように表すことができる。
【0054】
【数4】

【0055】
図3に示すように、熱流束は圧力と関係なく一定となる。
【0056】
距離Hが平均自由行程Lと同程度になると、熱伝導率は急激に小さくなる。従って、気体の平均自由行程Lがガスの存在する空間の距離Hよりも十分短い時には、熱伝導率が圧力に無関係になる。
【0057】
また、気体に熱伝導を効率的に生じさせる圧力は、L<Hであることが要求される。距離Hは、短いほうが効率的に熱を逃がせるが、距離Hが短すぎると距離の制御が困難になるため、H=1mm程度が製造上好適である。
【0058】
気体の平均自由行程Lは、気体の種類ごとに異なる。例えば、水素分子では、0.13Paでは平均自由行程Lは90mmとなる。また、気体の圧力と平均自由行程Lは反比例の関係にあるので、距離Hが1mmのとき、12Pa(≒0.13Pa×90mm/1mm)以上の圧力が必要である。
このときのスリット支持基板120の温度上昇値ΔTは、水素ガスの熱伝導率λg、入射強度q、単位面積Sとすると、以下の数式5のように表される。
【0059】
【数5】

【0060】
この場合、入射強度q=100W/m、距離H=1mm、熱伝導率λg=0.18(W/m/K)とすると、温度上昇値ΔT=0.6Kとなる。算出結果を数式2に適応すると、歪み量ΔLは、ΔL=1nmとなり、露光する線幅に比べ十分に小さく、歪み量は無視できる程度の数値となる。
【0061】
また、ガス150圧力に関して、水素やヘリウム等の軽元素の平均自由行程Lが大きく、窒素や酸素等のガスの方が平均自由行程Lが小さいため、一般に10Pa以上の圧力があれば、効率的に熱を逃がすことができる。
【0062】
これらの調整により、スリット支持基板120は、EUV光を吸収することにより発生する熱量を逃がし、スリット支持基板120の温度の上昇を防止し、スリット支持基板120の歪みを防ぐことができる。その結果、位置合わせ装置100は、EUV光を使用した場合であっても高いスループットを維持するとともに高精度な位置合わせが可能となる。
【0063】
また、本実施例では、基準パターン227がマスク220上に形成されていたが、基準パターン227は、マスクステージ225上に直接形成されていても良い。
【0064】
以下、図4を参照して、第2の実施形態である位置合わせ装置100Aについて説明する。図4は、第2の実施形態である位置合わせ装置100Aの構成図である。
【0065】
位置合わせ装置100Aは、更に、上述の構成のほかに、遮光部127と、部材140Aを有する。
【0066】
遮光部127は、スリット支持基板120に入射する光を減光する。遮光部127の材料は、スリット支持基板120と同様に、露光光を透過する材料が選ばれる。この場合、遮光部120の材料にはSiCを使用する。
【0067】
遮光部120は、スリットに入射する光量を減らす事によって、スリット125が吸収するEUV光の量を抑え、これにより吸収で生じる熱量を減らす事でスリット支持基板120の温度上昇を抑える。また、強度が弱くなると、同じ積分時間ではS/N比が低下するため、積分時間を多くとる必要があるが、ウェハステージ245とマスクステージ225の位置あわせを行う頻度は高くないため、単位時間あたりの基板処理枚数であるスループットには影響を与えない。
【0068】
本実施形態では、スリット支持基板120の両面を同一圧力、同種類のガス(例えばヘリウム)に接触させている。このように基板の両面をガスに接触させることにより、スリット支持基板120の上下の差圧による歪みが問題になる場合に、スリット支持基板120の歪みを低減することまたは打ち消すことができる。
【0069】
部材140Aは、遮光部127と、検出部130と共同して中空の筐体を形成する。そのため、部材140Aは、遮光部127と検出部130との間の側面を覆うように形成され、遮光部127が上端に載置されている。部材140Aは、遮光部127と、検出部130との間にスリット支持基板120を保持しており、その保持部分には、貫通穴142が形成されている。これにより、スリット支持基板120の両面の差圧がなくなり、さらに有効である。部材140Aは、SiやSUS等の材料から形成される。また、部材140Aは、ガス150を導入及び排気する導入口(不図示)が形成されている。この場合、導入口は導入と排気をそれぞれの別の開口であってもよい。更に、部材140Aは、導入口を開閉するために密閉蓋(不図示)が設けられている。
【0070】
以下、図5を参照して、第3の実施形態である位置合わせ装置100Bについて説明する。図5は、第3の実施形態である位置合わせ装置100Bの構成図である。
【0071】
位置合わせ装置100Bは、第2の実施形態の部材140Aの変形例である部材140Bを有する。
【0072】
部材140Bは、スリット支持基板120と、遮光部127とを保持する。また、部材140Bは、ガス150を導入及び排気する導入口142が形成されている。部材140Bは、SiやSUS等の材料から形成される。更に、部材140Bは、導入口を開閉するために密閉蓋(不図示)が設けられている。
【0073】
本実施形態では、スリット支持基板120の上に、遮光部127を設け、その遮光部127とスリット支持基板120の間に空間を作り、その空間にガス150を流すものである。ガス150を流すことで、対流によって効率的に熱を取り去ることができる。さらに、検出部130に熱が伝わらないので、フォトダイオードの温度が上昇せず、熱雑音を小さくでき、S/N比の向上が図れる。
【0074】
また、遮光部127に強度減衰用のフィルターの機能を持たせても良い。例えば、遮光部127を厚さ0.6μmのZr膜とすれば、13.5nmの波長を10%に減衰させることができる。その場合、Zr膜に吸収された熱の多くはZrを通って外側の枠に逃げるので、Zr膜の熱がスリット支持基板120に伝わることはない。また、スリット支持基板120とその上方の基板との距離を、スリット支持基板120と検出部130との距離に比べて長く取ってもよい。これにより、遮光部127で吸収した熱を熱伝導によって、検出部130の枠に逃がすことができる。
【0075】
以下、図6を参照して、本発明の位置合わせ装置100を適用した例示的な露光装置200について説明する。ここで、図6は、本発明の一側面としての露光装置200を示す構成図である。
【0076】
本発明の露光装置200は、露光用の照明光としてEUV光(例えば、波長13.4nm)を用いて、例えば、ステップ・アンド・スキャン方式やステップ・アンド・リピート方式でマスク220に形成された回路パターンを被処理体240に露光する投影露光装置である。かかる露光装置は、サブミクロンやクオーターミクロン以下のリソグラフィー工程に好適であり、以下、本実施形態ではステップ・アンド・スキャン方式の露光装置(「スキャナー」とも呼ばれる。)を例に説明する。ここで、「ステップ・アンド・スキャン方式」とは、マスクに対してウェハを連続的にスキャン(走査)してマスクパターンをウェハに露光すると共に、1ショットの露光終了後ウェハをステップ移動して、次の露光領域に移動する露光方法である。「ステップ・アンド・リピート方式」は、ウェハの一括露光ごとにウェハをステップ移動して次のショットの露光領域に移動する露光方法である。
【0077】
図6を参照するに、露光装置200は、照明装置210と、マスク220と、マスク220を載置するマスクステージ225と、被処理体240を載置するウェハステージ245と、位置合わせ装置100と、フォーカス位置検出機構260とを有する。
【0078】
また、図6に示すように、EUV光は、空気に対する透過率が低く、残留ガス(高分子有機ガスなど)成分との反応によりコンタミを生成してしまうため、少なくとも、EUV光が通る光路中(即ち、光学系全体)は真空雰囲気VCとなっている。
【0079】
照明装置210は、投影光学系230の円弧状の視野に対する円弧状のEUV光(例えば、波長13.4nm)によりマスク220を照明する照明装置であって、EUV光源212と、照明光学系214とを有する。
【0080】
EUV光源212は、例えば、レーザープラズマ光源が用いられる。これは、真空容器中のターゲット材に高強度のパルスレーザー光を照射し、高温のプラズマを発生させ、これから放射される、例えば、波長13nm程度のEUV光を利用するものである。ターゲット材としては、金属膜、ガスジェット、液滴などが用いられる。放射されるEUV光の平均強度を高くするためにはパルスレーザーの繰り返し周波数は高い方がよく、通常数kHzの繰り返し周波数で運転される。
【0081】
照明光学系214は、集光ミラー214a、オプティカルインテグレーター214bから構成される。集光ミラー214aは、レーザープラズマからほぼ等方的に放射されるEUV光を集める役割を果たす。オプティカルインテグレーター214bは、マスク220を均一に所定の開口数で照明する役割を持っている。また、照明光学系214は、マスク220と共役な位置に、マスク220の照明領域を円弧状に限定するためのアパーチャ214cが設けられている。
【0082】
マスク220は、反射型マスクで、その上には転写されるべき回路パターン(又は像)が形成され、マスクステージ225に支持及び駆動されている。マスク220から発せられた回折光は、投影光学系230で反射されて被処理体240上に投影される。マスク220と被処理体240とは、光学的に共役の関係に配置される。露光装置200は、ステップ・アンド・スキャン方式の露光装置であるため、マスク220と被処理体240を走査することによりマスク220のパターンを被処理体240上に縮小投影する。
【0083】
マスクステージ225は、マスク220を支持して図示しない移動機構に接続されている。マスクステージ225は、当業界周知のいかなる構造をも適用することができる。図示しない移動機構は、リニアモーターなどで構成され、少なくともX方向にマスクステージ225を駆動することでマスク220を移動することができる。露光装置200は、マスク220と被処理体240を同期した状態で走査する。
【0084】
投影光学系230は、複数の反射ミラー(即ち、多層膜ミラー)230aを用いて、マスク220面上のパターンを像面である被処理体240上に縮小投影する。複数のミラー230aの枚数は、4枚乃至6枚程度である。少ない枚数のミラーで広い露光領域を実現するには、光軸から一定の距離だけ離れた細い円弧状の領域(リングフィールド)だけを用いて、マスク220と被処理体240を同時に走査して広い面積を転写する。投影光学系230の開口数(NA)は、0.2乃至0.3程度である。
【0085】
被処理体240は、本実施形態ではウェハであるが、液晶基板その他の被処理体を広く含む。被処理体240には、フォトレジストが塗布されている。
【0086】
ウェハステージ245は、ウェハチャック245aによって被処理体240を支持する。ウェハステージ245は、例えば、リニアモーターを利用してXYZ方向に被処理体240を移動する。マスク220と被処理体240は同期して走査される。また、マスクステージ225の位置とウェハステージ245の位置は、例えば、レーザー干渉計などにより監視され、両者は一定の速度比率で駆動される。
【0087】
位置合わせ装置100は、マスク220の位置と投影光学系230の光軸との位置関係、及び、被処理体240の位置と投影光学系230の光軸との位置関係を計測し、マスク220の投影像が被処理体240の所定の位置に一致するようにマスクステージ225及びウェハステージ245の位置と角度を設定する。本実施形態の位置合わせ装置100は、EUV光を使用した場合であっても高いスループットを維持するとともに高精度な位置合わせが可能である。
【0088】
フォーカス位置検出機構260は、被処理体240面でフォーカス位置を計測し、ウェハステージ245の位置及び角度を制御することによって、露光中、常時被処理体240面を投影光学系230による結像位置に保つ。
【0089】
以下に、位置合わせ方法について説明する。
【0090】
まず、EUV光は基準パターン227を有するマスク220により反射又は透過し、スリット支持基板120へ入射し、スリット125によって吸収され、スリット125以外の部分ではEUV光が透過される。透過されたEUV光が検出部130に到達し、最終的に信号として検出される。その検出信号に基づいて、ウェハステージ245及びマスクステージ225を駆動させて所望の露光位置へ補正する。
【0091】
このようにスリット125がEUV光を吸収するとき、吸収されたエネルギーのほとんどは熱エネルギーに変換されてしまう。本実施例では、このとき発熱した熱はガス150を伝導して検出部130に伝わり、検出部130の背面側に散逸することができる。それによって、本実施形態の位置合わせ装置100は、EUV光を使用した場合であっても高いスループットを維持するとともに高精度な位置合わせが可能である。
【0092】
露光において、照明装置210から射出されたEUV光はマスク220を照明し、マスク220面上のパターンを被処理体240面上に結像する。本実施形態において、像面は円弧状(リング状)の像面となり、マスク220と被処理体240を縮小倍率比の速度比で走査することにより、マスク220の全面を露光する。本実施形態の露光装置200は、EUV光を使用した場合であっても高いスループットを維持するとともに高精度な位置合わせが可能である位置合わせ装置100を有しているため、高精度な露光を行うことが可能である。
【0093】
次に、図7及び図8を参照して、上述の露光装置200を利用したデバイス製造方法の実施例を説明する。図7は、デバイス(ICやLSIなどの半導体チップ、LCD、CCD等)の製造を説明するためのフローチャートである。本実施形態においては、半導体チップの製造を例に説明する。ステップ1(回路設計)では、デバイスの回路設計を行う。ステップ2(マスク製作)では、設計した回路パターンを形成したマスクを製作する。ステップ3(ウェハ製造)では、シリコンなどの材料を用いてウェハを製造する。ステップ4(ウェハプロセス)は、前工程と呼ばれ、マスクとウェハを用いてリソグラフィー技術によってウェハ上に実際の回路を形成する。ステップ5(組み立て)は、後工程と呼ばれ、ステップ4によって作成されたウェハを用いて半導体チップ化する工程であり、アッセンブリ工程(ダイシング、ボンディング)、パッケージング工程(チップ封入)等の工程を含む。ステップ6(検査)では、ステップ5で作成された半導体デバイスの動作確認テスト、耐久性テストなどの検査を行う。こうした工程を経て半導体デバイスが完成し、それが出荷(ステップ7)される。
【0094】
図8は、ステップ4のウェハプロセスの詳細なフローチャートである。ステップ11(酸化)では、ウェハの表面を酸化させる。ステップ12(CVD)では、ウェハの表面に絶縁膜を形成する。ステップ13(電極形成)では、ウェハ上に電極を蒸着などによって形成する。ステップ14(イオン打ち込み)では、ウェハにイオンを打ち込む。ステップ15(レジスト処理)では、ウェハに感光剤を塗布する。ステップ16(露光)では、露光装置200によってマスクの回路パターンをウェハに露光する。ステップ17(現像)では、露光したウェハを現像する。ステップ18(エッチング)では、現像したレジスト像以外の部分を削り取る。ステップ19(レジスト剥離)では、エッチングが済んで不要となったレジストを取り除く。これらのステップを繰り返し行うことによってウェハ上に多重に回路パターンが形成される。本実施形態のデバイス製造方法によれば、従来よりも高品位のデバイスを製造することができる。このように、露光装置200を使用するデバイス製造方法、並びに結果物としてのデバイスも本発明の一側面を構成する。
【0095】
以上、本発明の好ましい実施例について説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されないことはいうまでもなく、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】本発明の位置合わせ装置を示す概略構成図である。
【図2】図2に示す位置合わせ装置を示す概略拡大構成図である。
【図3】熱流束とガス圧力との関係を示すグラフである。
【図4】図2に示す別の実施形態である位置合わせ装置の概略構成図である。
【図5】図2に示す別の実施形態である位置合わせ装置の概略構成図である。
【図6】本発明の一側面としての露光装置の例示的一形態を示す概略構成図である。
【図7】図6に示す本発明のEUV露光装置を使用したデバイス(ICやLSIなどの半導体チップ、LCD、CCD等)の製造を説明するためのフローチャートである。
【図8】図7に示すフローチャートのステップ4のウェハプロセスの詳細なフローチャートである。
【符号の説明】
【0097】
100 位置合わせ装置
110 検出装置
120 スリット支持基板
125 スリット
127 遮光部
130 検出部
140 部材
150 ガス
160 ガス検出部
170 制御部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
1nm以上50nm以下の波長の光を使用して照明される露光パターンを有するマスクを保持するマスクステージと、被露光体を保持するウェハステージとを位置合わせする位置合わせ装置であって、
前記マスクまたは前記マスクステージに形成されるとともに位置合わせに使用される第1の基準パターンと相似する第2の基準パターンが形成された基板と、
前記基板を反射若しくは透過した光を検出する検出部とを有し、
前記基板及び前記検出部は、中空の筐体を形成し、当該中空の筐体の内部にガスを導入したことを特徴とする位置合わせ装置。
【請求項2】
前記基板と前記検出部との距離は、前記ガスの分子又は原子の平均自由行程と同一若しくはそれ以上であることを特徴とする請求項1記載の位置合わせ装置。
【請求項3】
1nm以上50nm以下の波長の光を使用して照明される露光パターンを有するマスクを保持するマスクステージと、被露光体を保持するウェハステージとを位置合わせする位置合わせ装置であって、
前記マスクまたは前記マスクステージに形成されるとともに位置合わせに使用される第1の基準パターンと相似する第2の基準パターンが形成された基板と、
前記基板を反射若しくは透過した光を検出する検出部と、
前記基板へ入射する前記光を減少させる遮光部とを有し、
前記遮光部及び検出部は、中空の筐体を形成し、当該筐体の内部には前記基板が配置され、ガスを導入したことを特徴とする位置合わせ装置。
【請求項4】
1nm以上50nm以下の波長の光を使用して照明される露光パターンを有するマスクを保持するマスクステージと、被露光体を保持するウェハステージとを位置合わせする位置合わせ装置であって、
前記マスクまたは前記マスクステージに形成されるとともに位置合わせに使用される第1の基準パターンと相似する第2の基準パターンが形成された基板と、
前記基板を反射若しくは透過した光を検出する検出部と、
前記基板へ入射する前記光を減少させる遮光部とを有し、
前記基板及び前記遮光部との間にガスが導入されることを特徴とする位置合わせ装置。
【請求項5】
前記遮光部と前記検出部との距離は、前記ガスの分子又は原子の平均自由行程と同一若しくはそれ以上であることを特徴とする請求項3または4記載の位置合わせ装置。
【請求項6】
前記ガスは、10Pa以上の圧力になるよう導入されることを特徴とする請求項1乃至5のうちいずれか一項記載の位置合わせ装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項記載の位置合わせ装置を有することを特徴とする露光装置。
【請求項8】
請求項7記載の露光装置を用いて被露光体を露光するステップと、
当該露光された被露光体を現像するステップとを有することを特徴とするデバイス製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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