説明

位置情報送信機

【課題】位置情報送信機が設置された後に生ずる出力信号の偏差を補正することを可能とする位置情報送信機を提供することを目的とする。
【解決手段】人工衛星から送信される測位のための衛星測位信号との互換性を有する測位信号を送信する位置情報送信機であって、水晶に電圧をかけることにより、基準周波数の信号を生成する基準周波数発振部と、基準周波数の信号に電圧をかけることにより、基準周波数よりも大きい第1の周波数の信号となるように制御する第1の周波数制御部と、第1の周波数の信号を用いて、位置情報送信機が設置された位置を示す位置データを変調することにより、測位信号を生成する測位信号生成部と、基準時間を記憶する記憶部と、基準時間からの経過時間を計測する時間計測部と、を備え、経過時間が設定された第1の経過時間となった場合に、水晶にかける電圧を変化させることを特徴とする位置情報送信機である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位置情報送信機に関する。
【背景技術】
【0002】
本技術分野の背景技術として、特開2006−222489号公報(特許文献1)がある。この公報には、「少なくとも一つの基地局と少なくとも一つの移動局から構成されるデジタル無線システムにおいて、上記基地局および上記移動局は、それぞれ時間情報を受信する受信機を有し、上記受信機は、少なくとも上記時間情報から所定の同期信号を検出する受信部と、上記受信部からの同期信号に基づいて送信のためのフレームタイミング信号を生成するフレームタイミング信号生成部を有し、上記基地局および上記移動局は、上記フレームタイミング信号に同期して送受信を行うように構成される。」と記載されている(要約参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−222489号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献1には、位置情報送信機が記載されている。しかし、特許文献1の位置情報送信機は時間が経過した場合のクロック部の周波数が変化することについて何ら開示されていない。本発明は、位置情報送信機が設置された後に生ずる出力信号の偏差を補正することを可能とする位置情報送信機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、例えば特許請求の範囲に記載の構成を採用する。
本願は上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、人工衛星から送信される測位のための衛星測位信号との互換性を有する測位信号を送信する位置情報送信機であって、水晶に電圧をかけることにより、基準周波数の信号を生成する基準周波数発振部と、基準周波数の信号に電圧をかけることにより、基準周波数よりも大きい第1の周波数の信号となるように制御する第1の周波数制御部と、第1の周波数の信号を用いて、位置情報送信機が設置された位置を示す位置データを変調することにより、測位信号を生成する測位信号生成部と、基準時間を記憶する記憶部と、基準時間からの経過時間を計測する時間計測部と、を備え、経過時間が設定された第1の経過時間となった場合に、水晶にかける電圧を変化させることを特徴とする位置情報送信機である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、位置情報送信機が設置されてから時間が経過した場合に出力信号が変化した場合であっても、この出力信号の補正を行うことが可能とし、メンテナンスを不要とすることができる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本実施例の位置情報送信機を含んで構成される測位システムを説明するための図である。
【図2】位置情報送信機2から通信端末3へ送られる信号について説明するための図である。
【図3】本実施例の位置情報送信機2の構成を示した機能ブロック図である。
【図4】データ生成部13によって実行される位置情報発信プログラムの処理フローチャートである。
【図5】本実施例の測位を行う通信端末3の機能を説明するための図である。
【図6】搬送波生成部113において、搬送波を生成する方法を簡単に説明するための図である。
【図7】TCXOの経過時間と周波数偏差の関係の平均を示す一例を示す図である。
【図8】経過時間に対する周波数生成部113の周波数のズレ、そしてこの周波数ズレに対してどのように電圧制御発振部32の制御電圧を変化させるかを示す図である。
【図9】記憶部12に記憶された経過時間測定プログラムの一例である。
【図10】経過時間が設定された時間となった場合に、実行される周波数設定プログラムの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施例を図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0009】
<位置測位システム>
図1は、本実施例の位置情報送信機を含んで構成される測位システムを説明するための図である。以下においては、前提となる測位システムの概要について説明する。図1の測位システムは、測位のための無線信号(衛星測位信号)を地上に向けて送信する複数の人工衛星1と、地上(屋内や地下街などを含む。)の1地点の位置データを含んだ測位信号である位置情報信号を発信する複数の位置情報送信機2と、人工衛星1及び位置情報送信機2からの測位信号に基づいて自身の現在位置を測位する携帯電話やカーナビゲーション等の通信端末3とを有する。また構造物4は衛星測位信号が届きにくい建物や地下街などを示している。本実施例では位置情報送信機2が屋内に設置されているものとして説明するが、高層ビル街など屋外であっても衛星からの衛星測位信号が届きにくい状況も考えられるため、このような場合においては位置情報送信機2を屋外に設置して使用することもできる。
【0010】
人工衛星1は、例えばGPS、ガリレオ測位システム(Galileo Positioning System)、GLONASS(Global Navigation Satellite System)、準天頂衛星(Quazi-ZenithSatellites)システム等の測位システムにおける人工衛星である。なお、以下の説明では、人工衛星1はGPS衛星であるものとし、人工衛星1から送信される衛星測位信号は、例えば、L1 信号(1575.42MHz)やL2信号(1227.6MHz)などの、GPS信号であるものとする。
【0011】
人工衛星1から送られてくる衛星測位信号には、いわゆる航法メッセージが含まれている。航法メッセージは、例えば、全体で25個のフレームを含み、各フレームは5個のサブフレームを含み、各サブフレームは10ワードで構成され、1ワードは30ビットで構成される。各サブフレームは、例えば、衛星時計の補正情報、精密軌道情報(エフェメリス)、概略軌道情報(アルマナック)、電離層補正情報、UTC(Coordinated Universal Time)補正情報、人工衛星の健康情報等を含む。
【0012】
これらの航法メッセージは、人工衛星1ごとに割り当てられた固有の符号パターンで疑似ランダムノイズ符号(Pseudo Random Noise Code)にスペクトラム拡散され、所定の周波数帯域の搬送波にBPSK変調される。この疑似ランダムノイズ符号を生成するための個々の符号パターンに付された番号をPRN番号と呼び、それぞれの人工衛星1にはそれぞれ異なるPRN番号が割り当てられることから、このPRN番号は、人工衛星を識別したり測位信号の送信チャンネルを識別したりする番号としても利用される。つまり、スペクトラム拡散によって、複数の独立したチャンネルが構成される。
【0013】
位置情報送信機2から発信される位置情報信号は、人工衛星1から地上に向けて送信される衛星測位信号と互換性を有しており、衛星測位信号と同じ変調方式により同様のフレーム構成を有するデータが無線信号として発信される。また、位置情報送信機2から発信される位置情報信号にも人口衛星に割り当てられたPRN番号とは異なるPRN番号が割り当てられている。これにより衛星測位信号を受信して測位が可能な携帯電話等の通信端末3においては、ハードウェアの構成を変更することなく、位置情報送信機2からの位置情報信号に基づいて位置測位が可能である。
【0014】
通信端末3は、例えば、GPS携帯電話やPND(Personal Navigation Device)、カーナビゲーションなど、人工衛星1や位置情報送信機2の測位信号を受信して自身の現在位置を測位する携帯通信端末であり、且つ、高精度なクロック部を持つ。
<位置情報送信機>
図2は図1に示した位置情報送信機2から通信端末3へ送られる信号について説明するための図である。衛星測位信号が受信できない屋内などの天井面には、必要な測位精度に応じた間隔で多数の位置情報送信機2が設置される。そして本実施例における位置情報送信機2は、図示していない無線インタフェース部21を備えており、無線インタフェース部21から、位置情報送信機2自身の設置位置を示す位置データを含み、衛星測位信号と互換性がある位置情報信号が通信端末3に対して発信される。なお、この位置情報信号は特定の通信端末3に対して送信される信号ではなく、不特定多数の通信端末3に対して送信される無指向性の信号である。
【0015】
位置情報送信機2の無線インタフェース部21から発信される位置情報信号は、PRN番号の符号パターンによってスペクトラム拡散され、所定周波数帯域の搬送波に変調されて発信される。例えば、位置情報送信機2の無線インタフェース部21からは、それぞれPRN番号173の符号パターンでスペクトラム拡散(符号化)され、経度、緯度、高度を表す同一の位置データ(x1,y1,z1)を含む、位置情報信号が発信される。
【0016】
通常は図1のように複数の位置情報送信機2が設置され、それぞれから位置情報信号が送信されるが、この場合、基本的には送信元からの距離が近いほど信号の受信強度が大きくなる。そこで、通信端末3は、受信したすべての位置情報信号の中で最大の受信強度をもつものを1つだけ選択して、選択した位置情報信号に含まれる位置データ(x1,y1,z1)を自らの位置であるとして測位する。つまり、人工衛星1からの衛星測位信号に基づく位置測位のように、複数の測位信号に基づいて正確に自らの位置測位を行う方法と異なり、近くに存在する位置情報送信機2の位置データを知ることで、この位置データを自らの位置と擬制することでより簡易に測位を行う。したがって、この方法で測位精度を向上させるためには、より短い距離間で位置情報送信機2を設置することが必要となる。
【0017】
図3は、本実施例の位置情報送信機2の構成を示した機能ブロック図である。
位置情報送信機2は上記した設置場所を通信端末3に対して送信するための無線インタフェース部11を備えている。また、RAM(Random Acsess Memory)12は位置情報送信機2の設置場所を示す位置データ(緯度x1、経度y1、高度z1)、境界フラグ、PRN番号、位置情報発信プログラムなどを記憶する記憶部である。
【0018】
境界フラグは、位置情報送信機2が、屋外と屋内との境界付近に設置されていることを示す情報(境界エリア情報)であり、通信端末3において、自身の相関器のそれぞれに衛星測位信号と位置情報信号のいずれを受信させるか(動作モード)を設定するために用いられる。境界フラグの値は、例えば、図1における構造物4の出入口付近に設置された位置情報送信機2については「1:オン」に設定され、構造物4内の他の位置情報送信機2については「0:オフ」に設定される。
【0019】
データ生成部13は記憶部12に記憶されている位置情報発信プログラムを実行することで無線インタフェース部11に送る位置情報信号の源泉となる送信ビットストリーム信号を生成する。
図4は、データ生成部13によって実行される位置情報発信プログラムの処理フローチャートである。なお、以下の説明において、符号の前に付した「S」の文字はステップを意味する。データ生成部13は、まず始めに、記憶部12から位置情報信号に含ませる位置データを取得する(S411)。次に、取得した位置データを含んだ位置情報メッセージを生成し(S412)、生成した位置情報メッセージを図示しないサブフレームに格納する(S413)。
【0020】
次に、位置情報メッセージを格納したサブフレームから成る航法メッセージを、記憶部12に設定されているPRN番号に該当する符号パターンによってスペクトラム拡散して送信ビットストリーム信号を生成し(S414)、生成した送信ビットストリーム信号を無線インタフェース部11に送る(S415)。送信ビットストリーム信号を受信した無線インタフェース部11はこの信号を送信ビット列記憶部111に格納する。
【0021】
無線インタフェース部11は、送信ビット列記憶部111、変調波生成部112、搬送波生成部113、BPSK変調部114を備えて構成されている。送信ビット列記憶部111は上記した通りデータ生成部13から送られた送信ビットストリーム信号を記憶している。また、変調波生成部112においては、クロック部14で生成されたクロック信号から1.023MHzの変調波を生成する。また、搬送波生成部113においては、クロック部14で生成されたクロック信号から衛星測位信号に利用される中心周波数1.57542GHzの搬送波を生成する。
【0022】
クロック部14は、例えばTCXO(Temperature Compensated crystal Oscillator:温度保証型水晶発振器)やOCXO(Oven Controlled crystal Oscillator:恒温槽型水晶発振器)等の発振器を含み、搬送波又は変調波を生成するためのクロック信号(例えば20Mhz)を生成する。搬送波や変調波は上記した位置情報信号を生成するために用いられる。
【0023】
BPSK変調部114においては、変調波に応じて送信ビット列記憶部211に記憶された送信ビット列を1ビットずつ読み出し、搬送波の位相を切り替えるBPSK変調を実行して、PRN番号に応じたスペクトラム拡散信号の符号パターンにより符号化されて位置データを含む位置情報信号が生成される。このようにして生成された位置情報信号は、アンテナ15から所定の周期で繰り返し発信される。位置情報信号はGPS衛星からの衛星信号と互換性を有しており、通信端末3においては、ハードウェア構成を変えることなく、衛星信号を受信して位置測位を行うのと同様に、位置情報信号を受信して位置測位を行うことができる。
【0024】
電源16は位置情報送信機の各部に電力を供給する。この電源16は位置情報送信機2に内蔵されていてもよいし、外部からの電源を供給するようにしてもよい。制御部17はCPU171を備えており、位置情報送信機2の制御を司っている。上記したデータ生成部13の処理はこの制御部17により行われる。
【0025】
PRN番号233はそれぞれの位置情報送信機2に設定されており、このPRN番号に応じてスペクトラム拡散の符号パターンの符号化がなされ、無線インタフェース部11において位置情報信号が生成される。このPRN番号は例えば、非特許文献1に記載されているIndoor Messaging Systemでは173〜182の10個の番号(チャンネル)が利用可能となっており、近接する他の位置情報送信機2との信号の干渉が発生しないように、上記した10個から選択して設定される。
<通信端末>
次に、本実施例の位置情報送信機2から発信される位置情報信号を受信して自身の現在位置を測位する通信端末3について説明する。通信端末3は、例えば、GPS受信装置やGPS測位機能が搭載された携帯電話機などの携帯通信端末である。
図5は、本実施例の測位を行う通信端末3の機能を説明するための図である。通信端末3は位置情報送信機2の無線インタフェース部11のアンテナ15から送信された位置情報信号を受信する無線インタフェース部21を備えている。無線インタフェース部21はアンテナ22で受信した位置情報信号を4MHz〜20MHzほどの周波数にダウンコンバートするダウンコンバート部211を備える。また、ダウンコンバートされた信号は復調部212によって、クロック部23から入力されるクロック信号を用いて、復調(BPSK復調)した信号を生成する。この生成された復調した信号はA/D変換部213において量子化され受信ビットストリーム信号が生成される。
【0026】
なお、クロック部23は、ベースバンド処理部24のCPU241を動作させるためのクロック信号、復調部242の復調動作に必要なクロック信号(例えば1.023MHz)を生成する。クロック部23は、例えばTCXO(温度保証型水晶発振器)やOCXO(恒温槽型水晶発振器)等の高精度な発振器を含む。
【0027】
相関部214は、並列動作可能(異なるPRN番号に対応する複数のチャンネルを同時にトラッキング可能)な不図示の複数の相関器を備える。各相関器にはそれぞれが復調するPRN番号を個別に設定することができる。各相関器は、A/D変換部313から入力される受信ビットストリーム信号をPRN番号から生成された復号のための符号パターンによって復号する。つまり、この相関部214により位置情報信号がいずれのPRN番号に応じて符号化されたのか発見し、復号することができる。この復号結果はベースバンド処理部24に送られる。
【0028】
ベースバンド処理部24は、CPU241と記憶部242とを備える。CPU241は詳細は省略するが、記憶部242に格納されている測位処理プログラムを実行することにより、自機の現在位置を取得することができる。そしてベースバンド処理部24は現在の位置として取得した位置データを表示部25に表示するため、ユーザがおおよその自分の位置を知ることが可能となる。
<位置情報送信機のクロック部14の経年劣化>
以下においては、図3で示したクロック部14の劣化について説明する。クロック部14のは、アナログ電圧で振動周波数を制御する能力を持つTCXO(Temperature Compensated Crystal Oscillator:温度補償型水晶発振器)である。図示はしないが、TCXOは水晶と、温度センサ、発振回路、記憶素子、温度補償信号発生回路などのLSI回路または、水晶と、サーミスタ、抵抗、コンデンサ、トランジスタなどで構成されるアナログ回路などで実現される。VCXOではなくOCXO(恒温槽型水晶発振器)でもよい。
【0029】
クロック部14について簡単に説明すると、水晶に対して交流電圧を流すことにより、内部の水晶薄板が目に見えない状態で交流電圧が増幅され共振するものである。そして、この水晶の厚さ等によって共振する周波数は異なる。CPU171は上記した交流電圧が水晶に対して電源部16から流れるように制御を行う。なお、電源16は、例えば3Vの直流電源であり、コイン電池やレギュレータなどからから構成されるもので、上記したクロック部14への電力供給の他に、CPU171や記憶部12(EEPROM、フラッシュROM、RAM等)に対しての直流電圧を入力するものである。
【0030】
本実施例において、クロック部14では、水晶に対して電圧制御部により所望の交流電圧をかけることにより、基準となる基準周波数のクロック信号(たとえば10MHz〜30MHz)が出力されるようにしている。
【0031】
そして上記の<位置情報送信機>で説明したように、クロック部14からのクロック信号は変調波生成部112と搬送波生成部113とに送られて、変調波生成部112において1.023MHzの変調波が生成され、また搬送波生成部113において1.57542GHzの搬送波が生成される。本実施例においては、クロック部14からのクロック信号として、10MHz〜30MHzのものを採用しているため、変調波生成部112では、図示しない分周回路を用いて周波数を下げてクロック信号から1.023MHzの変調波を生成する。
【0032】
図6は搬送波生成部113において、クロック部14から送られるクロック信号から1.57542GHzの搬送波を生成する方法を簡単に説明するための図であり、一般にPLLシンセサイザと呼ばれるものである。まずクロック部からのクロック信号は、位相比較部31に入力され、ここで基準発振周波数(たとえば20MHz)と出力周波数(1.57542GHz)との比較を行い、その差に見合う分の電圧を電圧制御発振部32(VCO)に出力する。
【0033】
電圧制御発振部32では位相比較部31から送られる電圧(制御電圧)に基づいて共振周波数を変化させ、これにより発振周波数を変化させて出力するものである。本実施例における電圧制御発振部32は、図示しないダイオードを有しており、このダイオードに印加する電圧(制御電圧)を変化させることにより、ダイオードの静電容量を変化して共振周波数を変化するもので、電圧(制御電圧)を大きくするほど、出力される発振周波数は大きくなるものである。
【0034】
ここで、クロック部14の水晶31は時間が経つにつれて劣化し、その精度が変化することが判明した。すなわち、位置情報送信機2に水晶31を有するクロック部を設置した場合に、時間が経過するにつれて基準となるクロック信号が変化するため、これに基づいて生成される搬送波、変調波が変化することになる。特に搬送波が変化すると、位置情報送信機2から位置情報信号を送信したとしても通信端末3で受信ができなくなったり、受信したとしても復号ができずに位置検知ができなくなる虞がある。あるいは規格外の周波数となった信号が位置情報送信機2から出力されることもあり得る。
【0035】
そこで、以下においては位置情報送信機2を設定した後に、時間が経過して水晶31が劣化した場合であっても、正しい搬送波(あるいは、変調波)を生成できるようにする方法を説明する。これにより、設置後に時間が経過したとしても位置情報送信機2は正確に位置情報信号を送信することができる、あるいは、通信端末3は位置情報信号に基づいて正確に位置検知を行うことができるものである。
【0036】
ここで、水晶31の時間が経つにつれた精度の劣化(経年劣化)の仕方については、実験によりある程度の法則に則っていることが分かった。
図7はTCXOの経過時間と周波数偏差の関係の平均を示す一例であるが、経過時間1年で−1ppmの周波数のズレがおきており、近年の高精度な周波数安定度の要求にこたえられきれていない。そこで、本実施例の位置情報送信機2は、記憶部12にこのTCXOの経過時間と周波数偏差の関係を記憶しておき、この関係に基づいて補正を行うものである。
【0037】
なお、経過時間の開始時間となる基準時間は記憶部に記憶しておき、時間計測部18(タイマー)はこの基準時間からの経過時間を計測するものである。また、基準時間は図示しない設定部において設定することが可能であり、たとえば位置情報送信機2を設置する人により設定するようにできる。
【0038】
以下においてはクロック部14における周波数偏差の補正方法について説明する。クロック部14では、電圧制御部により水晶に電圧がかけられていることは上記した通りであるが、この電圧を変化させるものである。まず、基準時間から時間が経つとともに、クロック部14から出力される周波数は、元々出力していた周波数(たとえば20MHz)からズレが生じる。
【0039】
上記したように図7はこの経過時間と周波数のズレ(偏差)との関係の一例を示すものであり、このように経過時間と周波数偏差との関係を予め計測しておく。 この関係は記憶部12に記憶しておき、予め基準時間からの経過時間に対して生ずる周波数偏差の関係から、どれだけ制御に用いる電圧を変化させるか決定しておくものである。
【0040】
すなわち、経過時間と周波数偏差との関係から、どの程度時間が経過したときに電圧制御部により水晶にかける電圧を変化させれば、クロック部14から出力される周波数を元々出力していた周波数に近づけることができるか決定することができる。経過時間と周波数偏差との関係は水晶によって特性が異なるが、経過時間が増えるほど電圧制御部により水晶にかける電圧を小さくすることで周波数偏差を小さくできるものが多い。
【0041】
たとえば、時間計測部18で記憶部12に記憶された基準時間からの経過時間を計測しておき、経過時間が設定された時間(たとえば30日)となったときに、クロック部14の電圧制御部により水晶にかける電圧を変化させるようにする。その後も経過時間と周波数偏差との関係から水晶にかける電圧を変化させるタイミングを予め決めておくことにより、たとえば基準時間から60日後に再び電圧を変化させることで、クロック信号の周波数の補正を行うことが可能である。
【0042】
また、クロック信号の周波数の補正を行うことにより、このクロック信号に基づいて生成される搬送波、及び、変調波の双方ともが補正されることになる。すなわち、搬送波は搬送波生成部113により、また変調波は変調波生成部112により入力されるクロック信号を制御することにより生成されるものであるからである。そして、位置情報送信機2から出力される位置情報信号は、これらの搬送波、変調波を用いて生成されるものであるため、上記したクロック信号の周波数の補正を行うことにより、結果として位置情報信号を補正することができる。
【0043】
したがって、位置情報送信機2が設置された後に時間が経過した場合に水晶が劣化して周波数偏差(ズレ)が生じた場合であっても位置情報送信機から送信される位置情報信号を適正なものに補正することができ、周波数偏差による通信端末3において信号受信が不可となることや、あるいは位置測位ができなくなることを避けることが可能となるものである。通常はこのような事態を避けるために、定期的に位置情報送信機2のメンテナンスを行い、適正な位置情報信号が出力されているか、確認する必要が生じるが本実施例によれば、このように自身で補正を行うことでメンテナンスを不要とすることができる。
【0044】
なお、クロック信号に基づいて搬送波、変調波が生成されるが、このうち周波数偏差が特に問題となるのが、搬送波である。上記においては、クロック部の電圧制御部による電圧を経過時間に応じて変化させることの説明をしたが、クロック部ではなく、搬送波生成部113から出力される搬送波の周波数を補正するようにしてもよい。
【0045】
基準時間を記憶部12に記憶しておき、時間計測部18により経過時間を計測することは上記と同様であるが、搬送波の周波数を補正する場合には、経過時間に対して搬送波の周波数がどのようにずれていくかを予め計測しておくことが必要となる。すなわち、本実施例における搬送波の周波数は1.57542GHzと決めてあるため、この周波数が時間の経過と共にどのように変化していくかを予め計測する。
【0046】
そして、搬送波生成部113においては、上記したように電圧制御発振部32において制御電圧を制御することで出力周波数を決定しているため、経過時間と周波数偏差との関係が分かれば、どのように制御電圧を変化させることにより出力周波数を適正値(1.57542GHz)とすることができるか決定可能である。
【0047】
具体的には、上記したクロック信号の周波数補正と同様に、基準時間からの経過時間が設定時間となったときに周波数生成部113の電圧制御発信部の制御電圧を変化させる。その後も制御電圧を変化させるタイミングを決定しておくことにより、水晶の経年劣化により搬送波の周波数がずれたとしても搬送波の周波数を適正値に補正することが可能となる。この方法によっても、位置情報送信機2から出力される位置情報信号を補正することが可能となるため、結果として通信端末3において正確に信号受信を行い、位置測位ができるような位置情報信号を送信可能となる。
【0048】
図8は、経過時間に対する周波数生成部113の周波数のズレ、そしてこの周波数ズレに対してどのように電圧制御発振部32の制御電圧を変化させるかを示す図である。ここでは図8に示す関係を経年劣化テーブルと呼び、本実施例においては経年劣化テーブルを記憶部12に記憶している。ここで列41は「経過時間(day)」を格納する列であり、例えば30日ごとに格納される。列42は「周波数のズレ(ppm)」を格納する列であり、例えば行43では経過時間30日では、−0.1ppmずれることを示している。列43は周波数生成部113の電圧制御発振部32で「出力電圧(V)」をどのように変化させるか示す列であり、例えば行43では経過時間30日では、−0.1ppmのズレを補正するために、電圧制御発振部32のアナログ出力電圧を−2.99Vとして周波数の補正を行うことを示す。
【0049】
ここでは、周波数生成部113における補正の方法を示したが、クロック部14のクロック信号の補正を行う場合にも同様であり、クロック信号の経過時間に対する周波数偏差を計測して、これの補正を行うための電圧制御部の電圧変化を経年劣化テーブルとして記憶しておき、この経年劣化テーブルに基づいて電圧制御部の電圧を変化させることで同様に周波数補正を行うことが可能となる。
【0050】
なお、上記したクロック部の水晶の経年劣化は位置情報送信機自体がON状態か、OFF状態かに関わらず、劣化していくことが判明した。すなわち、たとえば商業施設に位置情報送信機2を設置した場合には、夜間、お客がいないときなどには位置情報送信機2はOFF状態としておくことが想定されるが、このような場合に時間計測部18による時間計測が行われなくなると、OFF状態における経年劣化に対する周波数補正が行えなくなる虞が生じる。
【0051】
そこで、本実施例においては、位置情報送信機2がOFF状態となった場合であっても内臓した電源(たとえば電池)を時間計測用に備えておくことにより、ON/OFF状態に関わらず基準時間からの経過時間の計測を行うことが可能となる。なお、元々、位置情報送信機2が内臓した電池で動作しているのであれば、この電池を電源としてOFF状態における時間計測を行うようにしてもよい。
【0052】
図9は、記憶部12に記憶された経過時間測定プログラムの一例である。最初に基準時間を取得(S41)し、S42で経過時間をカウントする。経過時間はCPUの1命令を1単位として、命令の回数をカウントすることにより、経過時間を測定する。次に、経過時間が設定された時間(たとえば30日)を経過したかどうかを判断し(S43)、設定された時間(たとえば30日)が経過した場合は図10の周波数設定プログラムを呼び出す(S45)。
【0053】
図10は、経過時間が設定された時間となった場合に、実行される周波数設定プログラムの一例である。まず経年劣化テーブルを取得し(S51)、現在の経過時間とテーブルから設定すべきアナログ出力値を読み取る。そして、CPUのデジタルアナログ変換出力のアナログ出力値を設定し、搬送波精製部113の周波数補正を行う場合には、電圧制御発振部32の制御電圧を変化させる。
【0054】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、または、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
【符号の説明】
【0055】
2…位置情報送信機、3…通信端末、21…無線インタフェース部、12…記憶部、13…データ生成部、112…変調波生成部、113…搬送波生成部、14…クロック部、16…電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工衛星から送信される測位のための衛星測位信号との互換性を有する測位信号を送信する位置情報送信機であって、
水晶に電圧をかけることにより、基準周波数の信号を生成する基準周波数発振部と、
前記基準周波数の信号に電圧をかけることにより、前記基準周波数よりも大きい第1の周波数の信号となるように制御する第1の周波数制御部と、
前記第1の周波数の信号を用いて、前記位置情報送信機が設置された位置を示す位置データを変調することにより、前記測位信号を生成する測位信号生成部と、
基準時間を記憶する記憶部と、
前記基準時間からの経過時間を計測する時間計測部と、を備え、
前記経過時間が設定された第1の経過時間となった場合に、前記水晶にかける電圧を変化させることを特徴とする位置情報送信機。
【請求項2】
請求項1に記載の位置情報送信機において、
前記経過時間が前記第1の経過時間となった場合に、前記水晶にかける電圧を小さくすることを特徴とする位置情報送信機。
【請求項3】
請求項2に記載の位置情報送信機において、
前記経過時間が前記第1の経過時間になった後に、設定された第2の経過時間になった場合に、前記水晶にかける電圧をさらに小さくすることを特徴とする位置情報送信機。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の位置情報送信機において、
前記基準周波数の信号に電圧をかけることにより、前記基準周波数よりも小さい第2の周波数の信号となるように制御する第2の周波数制御部をさらに備えたことを特徴とする位置情報送信機。
【請求項5】
請求項4に記載の位置情報送信機において、
前記第1の周波数は1.57542GHzであり、前記第2の周波数は1.023MHzであることを特徴とする位置情報送信機。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載の位置情報送信機において、
該位置情報送信機のON/OFFを切り替えるスイッチをさらに備え、
該スイッチにより前記位置情報送信機がOFFとなった場合に、前記時間計測部は内蔵された電源を用いて前記経過時間の計測を行うことを特徴とする位置情報送信機。
【請求項7】
人工衛星から送信される測位のための衛星測位信号との互換性を有する測位信号を送信する位置情報送信機であって、
水晶に電圧をかけることにより、基準周波数の信号を生成する基準周波数発振部と、
前記基準周波数の信号に電圧をかけることにより、前記基準周波数よりも大きい第1の周波数の信号となるように制御する第1の周波数制御部と、
前記第1の周波数の信号を用いて、前記位置情報送信機が設置された位置を示す位置データを変調することにより、前記測位信号を生成する測位信号生成部と、
基準時間を記憶する記憶部と、
前記基準時間からの経過時間を計測する時間計測部と、を備え、
前記経過時間が設定された第1の経過時間となった場合に、前記基準周波数にかける電圧を変化させることを特徴とする位置情報送信機。
【請求項8】
請求項7に記載の位置情報送信機において、
前記経過時間が前記第1の経過時間となった場合に、前記基準周波数にかける電圧を小さくすることを特徴とする位置情報送信機。
【請求項9】
請求項8に記載の位置情報送信機において、
前記経過時間が前記第1の経過時間になった後に、設定された第2の経過時間になった場合に、前記基準周波数にかける電圧をさらに小さくすることを特徴とする位置情報送信機。
【請求項10】
請求項7〜9の何れかに記載の位置情報送信機において、
前記基準周波数の信号に電圧をかけることにより、前記基準周波数よりも小さい第2の周波数の信号となるように制御する第2の周波数制御部をさらに備えたことを特徴とする位置情報送信機。
【請求項11】
請求項10に記載の位置情報送信機において、
前記第1の周波数は1.57542GHzであり、前記第2の周波数は1.023MHzであることを特徴とする位置情報送信機。
【請求項12】
請求項7〜11の何れかに記載の位置情報送信機において、
該位置情報送信機のON/OFFを切り替えるスイッチをさらに備え、
該スイッチにより前記位置情報送信機がOFFとなった場合に、前記時間計測部は内蔵された電源を用いて前記経過時間の計測を行うことを特徴とする位置情報送信機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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