説明

位置検出装置

【課題】 磁石の近接に応じた磁性体の磁気飽和特性を利用した位置検出を行う。
【解決手段】 検出対象位置に応じて検出部に対して磁石30を相対的に変位させる。検出部は、磁石に対して相対的に移動可能に設けられてなり、交流励磁される巻線手段3と該巻線手段に対応付けて配置された磁性体コア2とを含み、該磁性体コアに対する該磁石の近接に応じて該磁性体コアにおける該磁石の磁化力を強く受ける箇所において磁気飽和を生じさせて該磁性体コアの透磁率を低下させると共に、該磁石の相対的移動に伴う前記磁化力の変化に応じて磁気飽和を生じさせない状態となることにより該磁性体コアの透磁率が増加される。このように、検出対象の変位に応じて磁気飽和を生じさせない状態と磁気飽和を生じさせる状態との間で磁性体コアの透磁率が変化し、これに伴い巻線手段のインダクタンスが変化し、このインダクタンスの変化に基づく出力信号を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁石の近接に応じた磁性体の磁気飽和特性を利用して物体の移動位置を検出する位置検出装置に関し、例えば永久磁石又は電磁石を用いた回転型又は直線型の電動機の回転位置又は直線位置を検出するように構成された位置検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気抵抗変化部材を利用し、その回転位置を電圧レベルに変換することによってその磁気抵抗変化部材の回転位置を検出するものとして、回転形差動トランスが従来からよく知られている。
同じく磁気抵抗変化部材を利用し、その回転位置を位相信号に変換することによってその磁気抵抗変化部材の回転位置を検出するものとして、位相シフト方式の回転位置検出装置がよく知られている。例えば、特開昭57−60212号公報、特開昭57−88317号公報及び特公昭62−58445号公報等に示されるようなものが知られている。また、位相シフト方式の直線位置検出装置としては、実開昭57−135917号公報、実開昭58−136718号公報及び実開昭59−175105号公報等に示されるようなものが知られている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の磁気抵抗変化を利用した位置検出装置は、ステータ側に2組(第1及び第2)の巻線が巻回されているので、ロータから検出信号を取り出すためのスリップリングや回転トランスを設けなくてもよいという利点を有する。しかしながら、上述のような従来の位置検出装置は磁気抵抗変化を得るために、ロータを偏心させたり、円筒形状の一部を除去して歯車状の凹凸を設けたり、ロータ自体の形状を変化させたりした特殊な形状の磁気抵抗変化部材を必須の構成要素としていた。従って、このような位置検出装置を用いて回転型電動機の回転位置を検出する場合には、その回転型電動機の回転軸にカップリングなどを介して位置検出装置の磁気抵抗変化部材を取り付けなければならず、位置検出装置の軸方向長さ分だけ軸方向長さが大きくなるという欠点があった。回転型電動機の場合には、回転軸に磁気抵抗変化部材を取り付けるだけでいいが、これが直線型電動機の直線位置を検出する場合には、磁気抵抗変化部材をその直線移動範囲全体に渡って設けなければならない。直線移動範囲が数cmとかの短い距離であれば、磁気抵抗変化部材を容易に設置することができるが、数m単位になると、磁気抵抗変化部材を移動範囲に渡って設置することが非常に困難であるという問題を有していた。
【0004】
本発明は、上述の点に鑑みてなされたものであり、磁石の近接に応じた磁性体の磁気飽和特性を利用して物体の移動位置を検出する位置検出装置を提供しようとするものである。また、永久磁石又は電磁石を用いた回転型又は直線型の電動機におけるその回転位置又は直線位置を、特別な磁気抵抗変化部材などを設けることなく、検出することのできる位置検出装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る位置検出装置は、磁石と、前記磁石に対して相対的に移動可能に設けられた検出部であって、交流励磁される巻線手段と該巻線手段に対応付けて配置された磁性体コアとを含み、前記磁性体コアに対する前記磁石の近接に応じて該磁性体コアにおける該磁石の磁化力を強く受ける箇所において磁気飽和を生じさせて該磁性体コアの透磁率を低下させると共に、該磁石の相対的移動に伴う前記磁化力の変化に応じて磁気飽和を生じさせない状態となることにより該磁性体コアの透磁率が増加される前記検出部と、を具備し、検出対象位置に応じて前記検出部に対して前記磁石を相対的に変位させ、これに応じて前記磁性体コアに対する前記磁石による磁化力が磁気飽和を生じさせない状態と磁気飽和を生じさせる状態との間で変化し、この変化に応じて前記磁性体コアの透磁率が変化することにより該磁性体コアに対応付けられた前記巻線手段のインダクタンスが変化し、このインダクタンスの変化に基づく出力信号を該巻線手段から生じるようにしたことを特徴とする。
【0006】
磁性体コアにおいて磁気飽和が生じた箇所では該磁性体コア箇所の透磁率を空気と同程度に低下させ、また、該磁石の相対的移動に伴う前記磁化力の変化に応じて磁気飽和を生じさせない状態となることにより該磁性体コアの透磁率が増加される。こうして、検出部に対する磁石の相対的変位に応じて、該磁性体コアに対する該磁石による磁化力が磁気飽和を生じさせない状態と磁気飽和を生じさせる状態との間で変化し、この変化に応じて該磁性体コアの透磁率が漸増又は漸減変化し、該透磁率すなわちインダクタンスに対応した振幅の交流出力信号を巻線から生じることができ、これにより位置検出が行える。
【0007】
また、本発明に係る位置検出装置は、可動部と静止部とを具備すると共に磁石を該可動部又は静止部の側において具備する直線型又は回転型の電動機における位置検出装置であって、前記磁石に対して相対的に移動可能に設けられた検出部であって、交流励磁される巻線手段と該巻線手段に対応付けて配置された磁性体コアとを含み、前記磁性体コアに対する前記磁石の近接に応じて該磁性体コアにおける該磁石の磁化力を強く受ける箇所において磁気飽和を生じさせて該磁性体コアの透磁率を低下させると共に、該磁石の相対的移動に伴う前記磁化力の変化に応じて磁気飽和を生じさせない状態となることにより該磁性体コアの透磁率が増加される前記検出部と、を具備し、前記電動機の前記可動部又は静止部のうち前記磁石を設けていない方に前記検出部を配置し、該可動部の変位に応じて前記磁石と前記検出部の相対的位置が変化し、これに応じて前記磁性体コアに対する前記磁石による磁化力が磁気飽和を生じさせない状態と磁気飽和を生じさせる状態との間で変化し、この変化に応じて前記磁性体コアの透磁率が変化することにより該磁性体コアに対応付けられた前記巻線手段のインダクタンスが変化し、このインダクタンスの変化に基づく出力信号を該巻線手段から生じるようにしたことを特徴とする。この場合も、上述と同様の理由により、動力機械における直線又は回転位置検出を行うことができる。
【0008】
また、この場合、磁石としては、直線型又は回転型の電動機が元々その構成要素として具備している駆動用の磁石群を用いることができるので、検出要素を格別に設ける必要がなく、極めて簡便に、位置検出機能付きの電動機を提供することができる。すなわち、直線型電動機や回転型電動機などには、推進力や回転力などの駆動力を得るために電磁石や永久磁石が設けられており、また、これらの磁石はそれぞれ所定のピッチで配設されている。そこで、この発明では、このような電動機の構成要素である既存の磁石群を磁気抵抗変化部材として用いることができるので、極めて有利である。
【0009】
一例として所定ピッチでN極とS極を交互に配設した複数の磁石で構成される磁石列を用いる。その磁石列の接続部分では磁束が密となり、磁石の中央付近では磁束が疎となる。従って、そのような磁石列によれば、磁束つまり磁化力Hの密な部分と疎な部分とが所定ピッチで交互に繰り返すよう磁界分布を示す。鉄心つまり磁性体コアにおける磁石の磁化力Hを最も強く受ける箇所において磁気飽和を生じるようになっているので、その箇所では鉄心つまり磁性体コアの透磁率を空気と同程度に低下させる。すなわち、鉄心を通過する磁束が磁石からの磁束によって密になるため、その部分の鉄心が磁気飽和状態となり、あたかも鉄心の存在しない空心状態の磁気的結合(つまり透磁率若しくはインダクタンス)を示すようになるからである。従って、このような場合には巻線に誘起される誘導出力交流信号は最も低くなる。一方、磁気飽和を生じさせる箇所から離れるにつれて、その部分では磁石による磁束が相対的に疎となり、磁気飽和を生じさせないようになるので、その部分の鉄心には、磁石からの磁束つまり磁化力Hが減少するようになり、鉄心つまり磁性体コアの透磁率が漸次増加し(鉄本来のものに復帰し)、その部分に対応する2次起電力は相対的に増加する。このように、鉄心つまり磁性体コアに対する磁石の近接に応じて、磁気飽和を起こさない部分に対応する比較的高い透磁率から、磁気飽和を起した部分に対応する空心に相当する低い透磁率まで、その透磁率つまりインダクタンスが漸次変化することとなる。
【0010】
一例として、4つの2次巻線に生じる誘導出力交流信号の振幅関数が、サイン関数(sin)、コサイン関数(cos)、マイナスサイン関数(−sin)、マイナスコサイン関数(−cos)、にそれぞれ相当するように鉄心手段、1次巻線手段及び2次巻線手段を構成している。1次巻線を所定の交流信号で励磁し、鉄心手段と磁石手段との間のそれぞれの相対的位置関係に関連して4個の巻線部に誘起されたそれぞれ異なる振幅関数特性に従って振幅変調された誘導出力交流信号に基づいて、その相対的位置を検出することが可能となる。
【0011】
この2次巻線からの誘導出力交流信号に基づいて相対的位置を検出する場合には、特別の位置検出回路を設けなくても、従来のものを適用することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、添付図面を参照してこの発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明に係る位置検出装置の一実施の形態に係る直線位置検出装置の概略構成を示す一部断面図である。直線位置検出装置1は基本的には円柱状鉄心2と、その周囲に所定条件で巻回された巻線部3とから構成される。鉄心2は、比透磁率が大きく、保磁力の小さな珪素鋼などである。なお、鉄心2は円柱状の珪素鋼以外でもよく、珪素鋼板を積層して形成された直方体の鉄心でもよく、その形状はどのようなものでもよい。巻線部3は、所定の交流信号によって励磁される複数の1次巻線P1〜P5と、所定方向Xに所定の位置関係となるように巻回された複数の2次巻線S1〜S4とからなる。
【0013】
図2は1次巻線P1〜P5及び2次巻線S1〜S4の結線状態を示す図である。これから分かるように1次巻線P1〜P5は1相の交流信号sinωt(cosωtでもよい)によって共通に励磁されるものであればよく、1次巻線P1〜P5の数は、1又は適宜の複数であってもよく、その配置も適宜であってよい。しかし、複数の1次巻線P1〜P5を適宜に分離して、例えば図1に示されるように各2次巻線S1〜S4をそれぞれの間に挟むように、配置することは、1次巻線によって発生する磁束を個別の2次巻線S1〜S4に対して有効に及ぼすことができるので、好ましい実施の形態であると言える。また、2次巻線S1と2次巻線S3、2次巻線S2と2次巻線S4がそれぞれ差動的に動作するように結線される。
【0014】
直線位置検出装置1は、鉄心2と巻線部3だけでは、位置検出を行うことはできない。すなわち、直線位置検出装置1は、検出対象たる機械系がリニアモータの場合には、そのリニアモータの移動子側(図示せず)に連結されて、この移動子の直線位置の変化に連動して直線的にかつ往復的に変位するようになっている。この実施の形態では、リニアモータを構成する移動子が、図1のような複数の磁石31、32、・・・のN極及びS極の交互配列されたレール30上を移動するように構成されていなければならない。すなわち、レール30を構成する磁石31と磁石32に注目してみれば、両者の接続部分では磁束が密となり、磁石31と磁石32のそれぞれの中央付近では磁束が疎となる。従って、レール30上には、磁束の密な部分と疎な部分とが所定ピッチPで交互に並んでいることになる。
【0015】
磁石31、32、・・・のN極及びS極の交互配列のピッチをPとした場合、2次巻線S1〜S4は次のように配置されなければならない。すなわち、2次巻線S3は2次巻線S1に対してピッチPの2分の1(P/2)の整数倍だけ離れた位置関係(すなわち、S3=S1+(P/2+nP))に、2次巻線S2は2次巻線S1に対してピッチの4分の1(P/4)の整数倍だけ離れた位置関係(すなわち、S2=S1+(P/4+nP))に、2次巻線S4は2次巻線S2に対してピッチPの2分の1(P/2)の整数倍だけ離れた位置関係(すなわち、S3=S1+(P/2+nP)となるように、それぞれ鉄心2に巻回されなければならない。
【0016】
レール30上の磁石31、32、・・・の配列周期ピッチPを電気角の360度とすれば、2次巻線S3は2次巻線S1に対して電気角で180度だけ位相がずれ、2次巻線S2は2次巻線S1に対して電気角で90度だけ位相がずれ、2次巻線S4は2次巻線S2に対して電気角で180度だけ位相がずれることを意味する。この関係を三角関数で表すと、2次巻線S1がサイン関数(sin)、2次巻線S3がマイナスサイン関数(−sin)、2次巻線S2がコサイン関数(cos)、2次巻線S4がマイナスコサイン関数(−cos)となる。
【0017】
従って、検出対象たる移動子すなわち直線位置検出装置1の直線位置の変化に応じて、レール30上の磁束の疎密部分が交互に直線位置検出装置1の鉄心2及び巻線部3に影響を与える。すなわち、磁束の密な部分に2次巻線が位置すると、その部分の鉄心2には磁石からの磁束が密に通過するようになるので、密な部分に位置する2次巻線の1次巻線に対する磁気的結合力は弱くなる。これは、鉄心2を通過する磁束が磁石からの磁束によって密になるため、その部分の鉄心2が磁気飽和状態となり、あたかも鉄心の存在しない空心状態の磁気的結合を示すようになるからである。従って、磁束の密な部分すなわち磁石31と磁石32の接続部分に2次巻線が位置する場合には、2次起電力は最も低くなる。一方、磁束の疎な部分に2次巻線が位置すると、その部分の鉄心2には、磁石からの磁束があまり通過しないので、磁束の疎な部分に位置する2次巻線の1次巻線に対する磁気的結合力はあまり変化しない。
【0018】
従って、2次巻線S1に誘起される出力交流信号は、直線位置検出装置1とレール30との相対的直線位置の関係に応じて変化する。すなわち、検出対象となる移動子とレール30との相対的直線位置に応じて振幅変調された誘導出力交流信号が、各2次巻線S1〜S4の配置のずれに応じて異なる振幅関数特性で、各2次巻線S1〜S4に誘起される。各2次巻線S1〜S4に誘起される各誘導出力交流信号は、図2のように1次巻線P1〜P5が1相の交流信号sinωtによって共通に励磁されると、その電気的位相が同相であり、その振幅関数がレール30の磁石の磁束の疎密の繰り返しピッチPに相当する変位量を1サイクルとして周期的にそれぞれ変化する。
【0019】
4つの2次巻線S1〜S4は、前述のようにレール30の繰り返しピッチPの範囲内において所定の間隔で配置されており、それぞれの2次巻線S1〜S4に生じる誘導出力交流信号の振幅関数は、所望の特性を示すようになっている。例えば、レゾルバタイプの位置検出装置として構成する場合は、2次巻線S1〜S4に生じる誘導出力交流信号の振幅関数が、サイン関数(sin)、コサイン関数(cos)、マイナスサイン関数(−sin)、マイナスコサイン関数(−cos)、にそれぞれ相当するように設定する。なお、種々の条件によって、各巻線の配置は微妙に変わり得るので、希望の関数特性が得られるように各巻線配置を適宜調整したり、あるいは2次出力レベルを電気的増幅によって調整して、希望の振幅関数特性が最終的に得られるようにしてもよい。
【0020】
例えば、2次巻線S1の出力がサイン関数(sin)に対応すると、これに対してP/2だけずれて配置された2次巻線S3の出力はマイナスサイン関数(−sin)に対応し、この両者の出力を差動的に合成することによりサイン関数の振幅関数を持つ第1の出力交流信号が得られる。また、サイン関数出力に対応する2次巻線S1からP/4ずれて配置された2次巻線S2の出力はコサイン関数(cos)に対応し、これに対してP/2だけずれて配置された2次巻線S4の出力はマイナスコサイン関数(−cos)に対応し、この両者の出力を差動的に合成することによりコサイン関数の振幅関数を持つ第2の出力交流信号が得られる。
【0021】
図2は巻線部3の結線図を示す図であり、1次巻線P1〜P5には共通の励磁交流信号sinωtが印加される。この1次巻線P1〜P5の励磁に応じて、巻線部3の各2次巻線S1〜S4とレール30との相対的位置に応じた振幅値を持つ交流信号が各2次巻線S1〜S4に誘導される。夫々の誘導電圧レベルは検出対象直線位置に対応して2相の関数特性sinθ,cosθ及びそのマイナスの関数特性−sinθ,−cosθを示す。すなわち、各2次巻線S1〜S4の誘導出力信号は、検出対象直線位置に対応して2相の関数特性sinθ,cosθ及びそのマイナスの関数特性−sinθ,−cosθで振幅変調された状態で夫々出力される。なお、θはxに比例しており、例えば、θ=2π(X/P)のような関係である。説明の便宜上、巻線の巻数等、その他の条件に従う係数は省略し、2次巻線S1をサイン相として、その出力信号を「sinθ*sinωt」で示し、2次巻線S2をコサイン相として、その出力信号を「cosθ*sinωt」で示す。また、2次巻線S3をマイナスサイン相として、その出力信号を「−sinθ*sinωt」で示し、2次巻線S4をマイナスコサイン相として、その出力信号を「−cosθ*sinωt」で示す。サイン相とマイナスサイン相の誘導出力を差動的に合成することによりサイン関数の振幅関数を持つ第1の出力交流信号(2sinθ*sinωt)が得られる。また、コサイン相とマイナスコサイン相の誘導出力を差動的に合成することによりコサイン関数の振幅関数を持つ第2の出力交流信号(2cosθ*sinωt)が得られる。なお、表現の簡略化のために、係数「2」を省略して、以下では、第1の出力交流信号を「sinθ*sinωt」で表わし、第2の出力交流信号を「cosθ*sinωt」で表わす。
【0022】
こうして、検出対象直線位置xに対応する第1の関数値sinθを振幅値として持つ第1の出力交流信号A=sinθ*sinωtと、同じ検出対象直線位置xに対応する第2の関数値cosθを振幅値として持つ第2の出力交流信号B=cosθ*sinωtとが出力される。このような巻線構成によれば、回転型位置検出装置である従来知られたレゾルバにおいて得られるのと同様の、同相交流であって2相の振幅関数を持つ2つの出力交流信号(サイン出力とコサイン出力)を直線位置検出装置において得ることができることが理解できる。従って、本発明の直線位置検出装置1において得られる2相の出力交流信号(A=sinθ*sinωtとB=cosθ*sinωt)は、従来から公知のレゾルバ出力の処理方法と同様の扱いをすることができる。
【0023】
また、上記のように、4つの2次巻線S1〜S4をレール30の磁石のくり返しピッチPの範囲内において所定の間隔で配置した構成は、巻線部3全体のサイズを磁石の1片の範囲に略対応する比較的小さなサイズに収めることができるので、直線位置検出装置全体の構成を小型化することに役立つ。
【0024】
上述の通り、本発明に係る直線位置検出装置1によれば、リニアタイプの位置検出装置でありながら、回転型レゾルバと同様の2相の出力交流信号(A=sinθ*sinωtとB=cosθ*sinωt)を巻線部3の2次巻線S1〜S4から出力することができる。従って、適切なディジタル位相検出回路を適用して、前記サイン関数sinθとコサイン関数cosθの位相値θをディジタル位相検出によって検出し、これに基づき直線位置xの位置検出データを得ることができる。
【0025】
例えば、図3は、公知のR−D(レゾルバ−ディジタル)コンバータを適用した例を示す。巻線部3の2次巻線S1〜S4から出力されるレゾルバタイプの2相の出力交流信号A=sinθ*sinωtとB=cosθ*sinωtが、それぞれアナログ乗算器30,31に入力される。順次位相発生回路32は位相角φのディジタルデータを発生し、それをサイン・コサイン(sin・cos)発生回路33に出力する。サイン・コサイン発生回路33は位相角φに対応するサイン値sinφとコサイン値cosφのアナログ信号を発生し、それを乗算器30及び31に出力する。乗算器30は、サイン相の出力交流信号A=sinθ*sinωtに対してサイン・コサイン発生回路33からのコサイン値cosφを乗算し、「cosφ*sinθ*sinωt」を生成する。もう一方の乗算器31は、コサイン相の出力交流信号B=cosθ*sinωtに対してサイン・コサイン発生回路33からのサイン値sinφを乗算し、「sinφ*cosθ*sinωt」を生成する。引算器34は、両乗算器30,31からの出力信号の差を求め、それを順次位相発生回路32に出力する。
【0026】
順次位相発生回路32は、この引算器34からの出力によって位相発生動作を次のように制御する。すなわち、順次位相発生回路32はその発生位相角φを最初は0にリセットし、以後順次増加していき、引算器34の出力が0になったとき増加を停止する。引算器34の出力が0になるのは、「cosφ*sinθ*sinωt」=「sinφ*cosθ*sinωt」が成立したとき、すなわち、φ=θが成立した時である。この時には、順次移相発生回路32から出力される位相角φのディジタルデータと出力交流信号A,Bの振幅関数の位相角θのディジタル値とが一致している。従って、任意のタイミングで周期的にリセットトリガを与えて順次位相発生回路32の発生する位相角φを0にリセットしてから、位相角φのインクリメントを開始し、引算器34の出力が0になったときに、そのインクリメント処理を停止し、位相角θのディジタルデータを得る。
なお、順次位相発生回路32をアップダウンカウンタ及びVCOを含んで構成し、引算器34の出力によってVCOを駆動してアップダウンカウンタのアップ/ダウンカウント動作を制御するようにすることが知られており、その場合は、周期的なリセットトリガは不要である。
【0027】
温度変化等によって巻線部3の1次及び2次巻線のインピーダンスが変化することにより2次出力交流信号における電気的交流位相ωtに誤差が生じるが、図3のような位相検出回路においては、sinωtの位相誤差は自動的に相殺されるので、望ましい。これに対して、従来知られた2相交流信号(例えばsinωtとcosωt)で励磁することにより1相の出力交流信号に電気的位相シフトが生じるようにした方式では、そのような温度変化等に基づく出力位相誤差を除去することができない。
ところで、上記のような従来のR−Dコンバータからなる位相検出回路は、追従比較方式であるため、φを追従カウントするときのクロック遅れが生じ、応答性能の点で問題がある。
そこで、本発明者等は、以下に述べるような新規な位相検出回路を開発したので、これを使用することが望ましい。
【0028】
図4は、本発明に係る直線位置検出装置に適用される新規な位相検出回路の一実施の形態を示す図である。
図4において、検出回路部41では、カウンタ42で所定の高速クロックパルスCKをカウントし、そのカウント値に基づき励磁信号発生回路43から励磁用の交流信号(sinωt)を発生し、巻線部3の1次巻線P1〜P5に与える。カウンタ42のモジュロ数は、励磁用の交流信号の1周期に対応しており、説明の便宜上、そのカウント値の0は、基準のサイン信号sinωtの0位相に対応しているものとする。例えば、カウンタ42のカウント値が0から最大値まで1巡する間で、基準のサイン信号sinωtの0位相から最大位相までの1周期が発生されると想定すると、その基準のサイン信号sinωtと同じ位相で励磁用の交流信号sinωtが、励磁信号発生回路43から発生される。巻線部3の2次巻線S1〜S4から出力される2相の出力交流信号A=sinθ*sinωtとB=cosθ*sinωtは、検出回路部41に入力する。
【0029】
検出回路部41において、位相シフト回路44は、第1の交流出力信号A=sinθ*sinωtを入力し、その電気的位相を所定量だけ位相シフトし、例えば90度進め、位相シフトされた交流信号AS=sinθ*cosωtを出力する。また、検出回路部41は、加算回路45と減算回路46とを有しており、加算回路45は、位相シフト回路44から出力される上記位相シフトされた交流信号AS=sinθ*cosωtと巻線部3の2次巻線S1〜S4から出力された第2の交流出力信号B=cosθ*sinωtとを加算し、その加算結果であるB+AS=cosθ*sinωt+sinθ*cosωt=sin(ωt+θ)なる第1の電気的交流信号Y1を出力する。減算回路46は、上記第2の交流出力信号B=cosθ*sinωtから上記位相シフトされた交流信号AS=sinθ*cosωtを減算し、その減算結果であるB−AS=cosθ*sinωt−sinθ*cosωt=sin(ωt−θ)なる第2の電気的交流信号Y2を出力する。このようにして、検出対象位置(x)に対応して正方向にシフトされた電気的位相角(+θ)を持つ第1の電気的交流信号Y1=sin(ωt+θ)と、同じ前記検出対象位置(x)に対応して負方向にシフトされた電気的位相角(−θ)を持つ第2の電気的交流信号Y2=sin(ωt−θ)とが、電気的処理によって得られる。
【0030】
加算回路45及び減算回路46の出力信号Y1,Y2は、それぞれ対応するゼロクロス検出回路47,48に入力され、そこでそれぞれの出力信号Y1,Y2のゼロクロスが検出される。ゼロクロスの検出の方法としては、例えば、各信号Y1,Y2の振幅値が負から正に変化するゼロクロス点を検出すればよい。各ゼロクロス検出回路47,48で検出されたゼロクロス検出パルスは、ラッチパルスLP1,LP2として、ラッチ回路49及び50に出力される。ラッチ回路49,50は、カウンタ42からのカウント値をそれぞれのラッチパルスLP1,LP2のタイミングでラッチする。前述のように、カウンタ42のモジュロ数は励磁用の交流信号の1周期に対応しており、そのカウント値の0は基準のサイン信号sinωtの0位相に対応しているものとしたので、各ラッチ回路49,50にラッチしたデータD1,D2は、それぞれ、基準のサイン信号sinωtに対する各出力信号Y1,Y2の位相ずれに対応している。各ラッチ回路49,50の出力は誤差計算回路51に入力されて、「(D1+D2)/2」の計算が行なわれ、位相変動誤差±dが算出される。なお、この計算は、実際は、「D1+D2」のバイナリデータの加算結果を1ビット下位にシフトすることで行われる。
【0031】
ここで、巻線部3と検出回路部41との間の配線ケーブル長の長短による影響や、巻線部3の各1次及び2次巻線において温度変化等によるインピーダンス変化が生じていることを考慮して、その出力信号の位相変動誤差を「±d」で示すと、検出回路部41における上記各信号は次のように表わされる。
A=sinθ*sin(ωt±d)
AS=sinθ*cos(ωt±d)
B=cosθ*sin(ωt±d)
Y1=sin(ωt±d+θ)
Y2=sin(ωt±d−θ)
D1=±d+θ
D2=±d−θ
【0032】
すなわち、各位相ずれ測定データD1,D2は、基準のサイン信号sinωtを基準位相に使用して位相ずれカウントを行なうので、上記のように位相変動誤差「±d」を含む値が得られてしまう。そこで、誤差計算回路51において、「(D1+D2)/2」の計算を行なうことにより、
(D1+D2)/2={(±d+θ)+(±d−θ)}/2
= ±2d/2 = ±d
により、位相変動誤差「±d」を算出することができる。
誤差計算回路51で求められた位相変動誤差「±d」のデータは、減算回路52に与えられ、一方の位相ずれ測定データD1から減算される。すなわち、減算回路52では、「D1−(±d)」の減算が行なわれるので、
D1−(±d)=±d+θ−(±d)=θ
となり、位相変動誤差「±d」を除去した正しい検出位相差θを示すディジタルデータが得られる。このように、図4の位相検出回路によれば、位相変動誤差「±d」が相殺されて、検出対象位置xに対応する正しい位相差θのみが抽出されることが理解できる。
【0033】
この点を図5を用いて更に説明する。図5においては、位相測定の基準となるサイン信号sinωtと前記第1及び第2の交流信号Y1,Y2の0位相付近の波形を示しており、図5(A)は位相変動誤差がプラス(+d)の場合、図5(B)はマイナスの場合(−d)を示す。図5(A)の場合、基準のサイン信号sinωtの0位相に対して第1の信号Y1の0位相は「θ+d」だけ進んでおり、これに対応する位相差検出データD1は「θ+d」に相当する位相差を示す。また、基準のサイン信号sinωtの0位相に対して第2の信号Y2の0位相は「−θ+d」だけ遅れており、これに対応する位相差検出データD2は「−θ+d」に相当する位相差を示す。この場合、誤差計算回路51では、
(D1+D2)/2={(+d+θ)+(+d−θ)}/2
= +2d/2 = +d
により、位相変動誤差「+d」を算出する。そして、減算回路52により、
D1−(+d)=+d+θ−(+d)=θ
が計算され、正しい位相差θが抽出される。
【0034】
図5(B)の場合、基準のサイン信号sinωtの0位相に対して第1の信号Y1の0位相は「θ−d」だけ進んでおり、これに対応する位相差検出データD1は「θ−d」に相当する位相差を示す。また、基準のサイン信号sinωtの0位相に対して第2の信号Y2の0位相は「−θ−d」だけ遅れており、これに対応する位相差検出データD2は「−θ−d」に相当する位相差を示す。この場合、誤差計算回路51では、
(D1+D2)/2={(−d+θ)+(−d−θ)}/2
= −2d/2 = −d
により、位相変動誤差「−d」を算出する。そして、減算回路52により、
D1−(−d)=−d+θ−(−d)=θ
が計算され、正しい位相差θが抽出される。
なお、減算回路52では、「D2−(±d)」の減算を行なうようにしてもよく、原理的には上記と同様に正しい位相差θを反映するデータ(−θ)が得られる。
【0035】
また、図5からも理解できるように、第1の信号Y1と第2の信号Y2との間の電気的位相差は2θであり、常に、両者における位相変動誤差「±d」を相殺した正確な位相差θの2倍の値を示していることになる。従って、図4におけるラッチ回路49,50及び誤差計算回路51及び減算回路52等を含む回路部分の構成を、信号Y1,Y2の電気的位相差2θをダイレクトに求めるような構成に変更してもよい。例えば、ゼロクロス検出回路47から出力される第1の信号Y1の0位相に対応するパルスLP1の発生時点から、ゼロクロス検出回路48から出力される第2の信号Y2の0位相に対応するパルスLP2の発生時点までの間を適宜の手段でゲートし、このゲート期間をカウントすることにより、位相変動誤差「±d」を相殺した、電気的位相差(2θ)に対応するディジタルデータを得ることができるので、これを1ビット下位にシフトすれば、θに対応するデータを得ることができる。
【0036】
ところで、この実施の形態では、+θをラッチするためのラッチ回路49と、−θをラッチするためのラッチ回路50とでは、同じカウンタ42の出力をラッチするようにしており、ラッチしたデータの正負符号については特に言及していない。しかし、データの正負符号については、本発明の趣旨に沿うように、適宜の設計的処理を施せばよい。例えば、カウンタ42のモジュロ数が4096(10進数表示)であるとすると、そのディジタルカウント0〜4095を0度〜360度の位相角度に対応させて適宜に演算処理を行なうようにすればよい。最も単純な設計例は、カウンタ42のカウント出力の最上位ビットを符号ビットとし、ディジタルカウント0〜2047を+0度〜+180度に対応させ、ディジタルカウント2048〜4095を−180度〜−0度に対応させて、演算処理を行なうようにしてもよい。あるいは、別の例として、ラッチ回路50の入力データ又は出力データを2の補数に変換することにより、ディジタルカウント4095〜0を−360度〜−0度の負の角度データ表現に対応させるようにしてもよい。
【0037】
ところで、検出対象位置xが静止状態のときは特に問題ないのであるが、検出対象位置xが時間的に変化するときは、それに対応する位相角θも時間的に変動することになる。その場合、加算回路45及び減算回路46の各出力信号Y1,Y2の位相ずれ量θが一定値ではなく、移動速度に対応して時間的に変化する動特性を示すものとなり、これをθ(t)で示すと、各出力信号Y1,Y2は、
Y1=sin{ωt±d+θ(t)}
Y2=sin{ωt±d−θ(t)}
となる。すなわち、基準信号sinωtの周波数に対して、進相の出力信号Y1は+θ(t)に応じて周波数が高くなる方向に周波数遷移し、遅相の出力信号Y2は−θ(t)に応じて周波数が低くなる方向に周波数遷移する。このような動特性の下においては、基準信号sinωtの1周期毎に各信号Y1,Y2の周期が互いに逆方向に次々に遷移していくので、各ラッチ回路49,50における各ラッチデータD1,D2の計測時間基準が異なってくることになり、両データD1,D2を単純に回路51,52で演算するだけでは、正確な位相変動誤差「±d」を得ることができない。
【0038】
このような問題を回避するための最も簡単な方法は、図4の構成において、検出対象位置xが時間的に動いているときの出力を無視し、静止状態のときの出力のみを用いて、静止時における検出対象位置xを測定するように装置の機能を限定することである。すなわち、そのような限定された目的のために本発明を実施するようにしてもよいものである。
しかし、検出対象位置xが時間的に変化している最中であっても時々刻々の該検出対象直線位置xに対応する位相差θを正確に検出できるようにすることが望ましい。そこで、上記のような問題点を解決するために、検出対象直線位置xが時間的に変化している最中であっても時々刻々の該検出対象位置xに対応する位相差θを検出できるようにした改善策について図6を参照して説明する。
【0039】
図6は、図4の検出回路部41における誤差計算回路51と減算回路52の部分の変更例を抽出して示しており、他の図示していない部分の構成は図4と同様であってよい。検出対象直線位置xが時間的に変化している場合における位置xに対応する位相差θを、+θ(t)および−θ(t)で表わすと、各出力信号Y1,Y2は前記のように表わせる。そして、夫々に対応してラッチ回路49,50で得られる位相ずれ測定値データD1,D2は、
D1=±d+θ(t)
D2=±d−θ(t)
となる。
この場合、±d+θ(t) は、θの時間的変化に応じて、プラス方向に0度から360度の範囲で繰り返し時間的に変化する。また、±d−θ(t) は、θの時間的変化に応じて、マイナス方向に360度から0度の範囲で繰り返し時間的に変化してゆく。従って、±d+θ(t) ≠±d−θ(t) のときもあるが、両者の変化が交差するときもあり、そのときは±d+θ(t) =±d−θ(t) が成立する。このように、±d+θ(t) =±d−θ(t) が成立するときは、各出力信号Y1,Y2の電気的位相が一致しており、かつ、夫々のゼロクロス検出タイミングに対応するラッチパルスLP1,LP2の発生タイミングが一致していることになる。
【0040】
図6において、一致検出回路53は、各出力信号Y1,Y2のゼロクロス検出タイミングに対応するラッチパルスLP1とLP2との発生タイミングが、一致したことを検出し、この検出に応答して一致検出パルスEQPを発生する。一方、時変動判定回路54は、適宜の手段により(例えば一方の位相差測定データD1の値の時間的変化の有無を検出する等の手段により)、検出対象位置xが時間的に変化するモードであることを判定し、この判定に応じて時変動モード信号TMを出力する。
誤差計算回路51と減算回路52との間にセレクタ55が設けられており、上記時変動モード信号TMが発生されていないとき、つまりTM=“0”すなわち検出対象直線位置xが時間的に変化していないときは、セレクタ55はその入力端Bに加わる誤差計算回路51からの信号を選択して減算回路52に出力する。このようにセレクタ55の入力端Bが選択されているときの図6の回路は、図4の回路と等価的に動作する。すなわち、検出対象直線位置xが静止しているときは、誤差計算回路51の出力データがセレクタ55の入力端Bを介して減算回路52に直接的に与えられ、図4の回路と同様に動作する。
【0041】
一方、時変動モード信号TMが発生されているとき、つまりTM=“1”すなわち検出対象位置xが時間的に変化しているときは、セレクタ55は、その入力端Aに加わっているラッチ回路56からの信号を選択して減算回路52に出力する。時変動モード信号TMが“1”で、かつ一致検出パルスEQPが発生されたとき、アンドゲート57の条件が成立して、一致検出パルスEQPに応答するパルスがアンドゲート57から出力され、ラッチ回路56に対してラッチ命令を与える。ラッチ回路56は、このラッチ命令に応じてカウンタ42の出力カウントデータをラッチする。ここで、一致検出パルスEQPが生じるときは、カウンタ42の出力をラッチ回路49,50に同時にラッチすることになるので、D1=D2であり、ラッチ回路56にラッチするデータは、D1又はD2(ただしD1=D2)に相当している。
【0042】
また、一致検出パルスEQPは、各出力信号Y1,Y2のゼロクロス検出タイミングが一致したとき、すなわち「±d+θ(t) =±d−θ(t)」が成立したとき、発生されるので、これに応答してラッチ回路56にラッチされるデータは、D1又はD2(ただしD1=D2)に相当しているが故に、
(D1+D2)/2
と等価である。このことは、
(D1+D2)/2=(±d+θ(t) +±d−θ(t) )/2
=2(±d)/2=±d
であることを意味し、ラッチ回路56にラッチされたデータは、位相変動誤差「±d」を正確に示しているものであることを意味する。
【0043】
こうして、検出対象直線位置xが時間的に変動しているときは、位相変動誤差「±d」を正確に示すデータが一致検出パルスEQPに応じてラッチ回路56にラッチされ、このラッチ回路56の出力データがセレクタ55の入力Aを介して減算回路52に与えられる。従って、減算回路52では、位相変動誤差「±d」を除去した検出対象位置xのみに正確に応答するデータθ(時間的に変動する場合はθ(t))を得ることができる。
なお、図6において、アンドゲート57を省略して、一致検出パルスEQPを直接的にラッチ回路56のラッチ制御入力に与えるようにしてもよい。
また、ラッチ回路56には、カウンタ42の出力カウントデータに限らず、図6で破線で示すように誤差計算回路51の出力データ「±d」をラッチするようにしてもよい。その場合は、一致検出パルスEQPの発生タイミングに対して、それに対応する誤差計算回路51の出力データの出力タイミングが、ラッチ回路49,50及び誤差計算回路51の回路動作遅れに従って幾分遅れるので、適宜の時間遅れ調整を行なった上で、誤差計算回路51の出力をラッチ回路56にラッチするようにするとよい。
また、動特性のみを考慮して検出回路部41を構成する場合は、図6の回路51及びセレクタ55と図1の一方のラッチ回路49又は50を省略してもよい。
【0044】
図7は、位相変動誤差「±d」を相殺することができる位相差検出演算法についての別の実施の形態を示す。
巻線部3の2次巻線S1〜S4から出力されるレゾルバタイプの第1及び第2の交流出力信号A,Bは、検出回路部60の位相シフト回路44に入力する。位相シフト回路44は、図4のものと同様に、第1の交流出力信号A=sinθ*sinωtをその電気的位相で所定量位相シフトして、位相シフトされた交流信号AS=sinθ*cosωtを出力する。また、減算回路46は、第2の交流出力信号B=cosθ*sinωtから位相シフトされた交流信号AS=sinθ*cosωtを減算し、その減算結果であるB−AS=cosθ*sinωt−sinθ*cosωt=sin(ωt−θ)なる電気的交流信号Y2を出力する。ゼロクロス検出回路48は、減算回路46からの出力信号Y2のゼロクロスを検出し、それに対応したラッチパルスLP2をラッチ回路50に出力する。
【0045】
図7の実施の形態が図4の実施の形態と異なる点は、検出対象位置に対応する電気的位相ずれを含む交流信号Y2=sin(ωt−θ)から、その位相ずれ量θを測定する際の基準位相が相違している点である。図4の例では、位相ずれ量θを測定する際の基準位相は、基準のサイン信号sinωtの0位相であり、これは、位置センサ10に入力されるものではないので、温度変化等による巻線インピーダンス変化やその他の各種要因に基づく位相変動誤差「±d」を含んでいないものである。そのために、図4の例では、2つの交流信号Y1=sin(ωt+θ)及びY2=sin(ωt−θ)を形成し、その電気的位相差を求めることにより、位相変動誤差「±d」を相殺するようにしている。これに対して、図7の実施の形態では、巻線部3から出力される第1及び第2の交流出力信号A,Bを基にして、位相ずれ量θを測定する際の基準位相を形成し、その基準位相そのものに位相変動誤差「±d」が含まれるようにしているので、位相変動誤差「±d」を排除することができるようになっている。
【0046】
すなわち、検出回路部60においては、ゼロクロス検出回路61,62は位置検出装置1の巻線部3からの第1及び第2の交流出力信号A,Bをそれぞれ入力し、それぞれのゼロクロスを検出する。なお、ゼロクロス検出回路61,62は、入力信号A,Bの振幅値が負から正に変化するゼロクロス(いわば0位相)と正から負に変化するゼロクロス(いわば180度位相)のどちらにでも応答してゼロクロス検出パルスを出力するものとする。これは信号A,Bの振幅の正負極性を決定するsinθとcosθがθの値に応じて任意に正又は負となるので、両者の合成に基づき360度毎のゼロクロスを検出するときに、まず180度毎のゼロクロスを検出する必要があるからである。
オア回路63は、ゼロクロス検出回路61,62からのゼロクロス検出パルスの論理和信号を2分の1分周パルス回路64に出力する。2分の1分周パルス回路64はオア回路63からの論理和信号を入力し、それを1つおきにゼロクロス検出パルスを基準位相信号パルスPRとしてカウンタ65に出力する。これによって、2分の1分周回路64から出力される基準位相信号パルスPRは360度毎のゼロクロスすなわち0位相のみに対応するゼロクロス検出パルスとなる。2分の1分周回路64は、例えばT型フリップフロップのような2分の1分周回路とパルス出力用アンドゲートを含んで構成される。この基準位相信号パルスRPは、カウンタ65のリセット入力端に出力される。カウンタ65は所定のクロックパルスCKを絶えずカウントするものであるが、基準位相信号パルスRPの入力に応じてリセットされる。このカウンタ65の出力はラッチ回路50に入力し、ラッチパルスLP2の発生タイミングで、ラッチ回路50にラッチされる。ラッチ回路50にラッチされたデータDは、検出対象位置xに対応した位相差θの測定データとして出力される。
【0047】
巻線部3から出力される第1及び第2の交流出力信号A,Bは、それぞれ、A=sinθ*sinωt、B=cosθ*sinωt、であり、電気的位相は同相である。従って、同じタイミングでゼロクロスが検出されるはずであるが、振幅係数がサインsinθ及びコサインcosθで変動するので、どちらかの振幅レベルが0か又は0に近くなる場合があり、そのような場合は、一方については、事実上、ゼロクロスを検出することができない。そこで、この実施の形態では、2つの交流出力信号A=sinθ*sinωt、B=cosθ*sinωtのそれぞれについてゼロクロス検出処理を行ない、両者のゼロクロス検出出力をオア合成することにより、どちらか一方が振幅レベル小によってゼロクロス検出不能であっても、他方の振幅レベル大の方のゼロクロス検出出力信号を利用できるようにしたことを特徴としている。
【0048】
図7の実施の形態の場合、巻線部3の巻線インピーダンス変化等による位相変動誤差が、例えば「−d」であるとすると、減算回路46から出力される交流信号Y2は、図8(A)に示すように、Y2=sin(ωt−d−θ)となる。この場合、巻線部3の出力信号A,Bは、角度θに応じた振幅値sinθ及びcosθをそれぞれ有し、図8(B)に例示するように、A=sinθ*sin(ωt−d)、B=cosθ*sin(ωt−d)、というように位相変動誤差分を含んでいる。従って、このゼロクロス検出に基づいて図8(C)のようなタイミングで得られる基準位相信号パルスRPは、本来の基準のサイン信号sinωtの0位相から位相変動誤差−dだけずれたものである。従って、この基準位相信号パルスRPを基準として、減算回路46の出力交流信号Y2=sin(ωt−d−θ)の位相ずれ量を測定すれば、位相変動誤差−dを除去した正確な値θが得られる。
【0049】
なお、巻線部3の配線長等の装置条件が定まると、そのインピーダンス変化は主に温度に依存することになる。そうすると、上記位相変動誤差±dは、この直線位置検出装置が配備された周辺環境の温度を示すデータに相当する。従って、図4の実施の形態のような位相変動誤差±dを演算する回路51を有するものにおいては、そこで求めた位相変動誤差±dのデータを温度検出データとして適宜出力することができる。従って、そのような本発明の構成によれば、1つの位置検出装置によって検出対象の位置を検出することができるのみならず、周辺環境の温度を示すデータをも得ることができる、という優れた効果を有するものであり、今までにない多用途タイプのセンサを提供することができるものである。勿論、温度変化等によるセンサ側のインピーダンス変化や配線ケーブル長の長短の影響を受けることなく、検出対象位置に応答した高精度の検出が可能となる、という優れた効果をも奏するものである。また、図4や図7の実施の形態は、交流信号における位相差を測定する方式であるため、図3のような検出法に比べて、高速応答性にも優れた検出を行なうことができる、という優れた効果を奏する。
【0050】
以下、図1の位置検出装置の種々の変形例を説明する。
図9は、本発明の位置検出装置の第1の変形例を示す図である。
図9の変形例では、4つの2次巻線S1〜S4の配置は、1ピッチPの範囲を4分割した位置に配置されている点で図1と同じであり、異なる点は1次巻線が2次巻線S1〜S4の両側に巻回されている点である。すなわち、2次巻線S1の両側には1次巻線P1A及びP1Bが、2次巻線S2の両側には1次巻線P2A及びP2Bが、2次巻線S3の両側には1次巻線P3A及びP3Bが、2次巻線S4の両側には1次巻線P4A及びP4Bがそれぞれ巻回されている。なお、各1次巻線及び2次巻線の結線方法は図2の場合と同様にしてもよいが、図9の実施の形態では、図10のような結線方法を採用している。
すなわち、2次巻線S1の両側の1次巻線P1A及びP1Bと2次巻線S3の両側の1次巻線P3A及びP3Bとは互いに差動的に巻回されてはいるが、第1の交流信号sinωtで共通に励磁されている。また、2次巻線S2の両側の1次巻線P2A及びP2Bと2次巻線S4の両側の1次巻線P4A及びP4Bとは互いに差動的に巻回されてはいるが、第2の交流信号cosωtで共通に励磁されている。そして、2次巻線S1〜S4は直列的に接続され、その合成出力が出力信号Y=Ksin(ωt−θ)として取り出されるようになっている。なお、1次巻線を差動的に巻回す代わりに、図11のように2次巻線S1と2次巻線S3、2次巻線S2と2次巻線S4をそれぞれ差動的に巻回してもよい。
【0051】
図11は図10に示されるように結線された位置検出装置から出力される出力信号Y=Ksin(ωt−θ)から位相差を検出する位置変換器70の実施の形態を示す図である。図11において、位置変換器70は基準交流信号ia=Isinωt及びib=Icosωtを発生する基準信号発生部と、基準交流信号sinωtと出力信号Yとの間の位相差(位相ずれ量)Dθを検出する位相差検出部とから構成される。
基準信号発生部はクロック発振器71、同期カウンタ72、ROM73a,73b、D/A変換器74a,74b及びアンプ75a,75bから構成され、位相差検出部はアンプ76、ゼロクロス回路77及びラッチ回路78から構成される。
クロック発振器71は高速の正確なクロック信号を発生するものであり、このクロック信号に基づいて他の回路は動作する。
同期カウンタ72はクロック発振器71から出力されるクロック信号をカウントし、そのカウント値をアドレス信号としてROM73a,73b及び位相差検出部のラッチ回路78に出力する。
ROM73a及び73bは基準交流信号に対応した振幅データを記憶しており、同期カウンタ72からのアドレス信号(カウント値)に応じて基準交流信号の振幅データを発生する。ROM73aはsinωtの振幅データを、ROM73bはcosωtの振幅データを記憶している。従って、ROM73a及び73bは同期カウンタ72から同じアドレス信号を入力することによって、2種類の基準交流信号sinωt及びcosωtを出力する。なお、同じ振幅データのROMを位相のそれぞれ異なるアドレス信号で読み出しても同様に2種類の基準交流信号を得ることができる。
【0052】
D/A変換器74a及び74bはROM73a及び73bからのデジタルの振幅データをアナログ信号に変換してアンプ75a及び75bに出力する。アンプ75a及び75bはD/A変換器74a及び74bからのアナログ信号を増幅し、それを基準交流信号Isinωt及びIcosωtとして各1次巻線P1A〜P4Bに印加する。なお、同期カウンタ72の分周数をMとすると、そのMカウント分が基準交流信号の最大位相角2πラジアン(360度)に相当する。すなわち、同期カウンタ72の1カウント値は2π/Mラジアンの位相角を示している。
アンプ77は各2次巻線S1〜S4からの出力の合成された出力交流信号Y=Ksinωtを増幅して、ゼロクロス回路78に出力する。
ゼロクロス回路78はアンプ77からの出力交流信号Yに基づいて負電圧から正電圧へのゼロクロス点を検出し、その検出信号をラッチ回路78に出力する。
ラッチ回路78は基準交流信号の立上りのクロック信号にてスタートした同期カウンタのカウント値をゼロクロス回路77の検出信号の出力時点(ゼロクロス点)でラッチする。従って、ラッチ回路78にラッチされた値はちょうど基準交流信号と出力信号Yとの間の位相差(位相ずれ量)Dxとなる。この位相差Dxが前述のレール30の1ピッチP内における位置データとなる。
【0053】
すなわち、アンプ76からの出力信号Y=sin(ωt−θ)はゼロクロス回路77に与えられる。ゼロクロス回路77は出力信号Yの電気位相角がゼロのタイミングに同期してパルスLを出力する。パルスLはラッチ回路78のラッチパルスとして使用される。従って、ラッチ回路78がパルスLの立ち上がり応じて同期カウンタ72のカウント値をラッチする。同期カウンタ72のカウント値が一巡する期間と正弦波信号Isinωtの1周期とを同期させる。すると、ラッチ回路78には基準交流信号Isinωtと合成出力信号Y=Isin(ωt−θ)との位相差θに対応するカウント値がラッチされることとなる。従って、ラッチされた値がデジタルの位置データDxとして出力される。尚、ラッチパルスLはタイミングパルスとして適宜利用することもできる。
なお、図1の位置検出装置にも、図10又は図11のような結線を適用してもよい。
【0054】
図12は、本発明の位置検出装置の第2の変形例を示す図である。図12の変形例では、4つの2次巻線S1〜S4が1ピッチPの範囲を4分割した位置に配置されている点は図1と同じであり、異なる点は1次巻線P6が2次巻線S1〜S4の外周側全体に渡って一体に巻回されている点である。この場合の結線は、図2のものが適用可能である。なお、1次巻線を内側に2次巻線を外側に互いに入れ替えてもよい。
図13は、本発明の位置検出装置の第3の変形例を示す図である。図13の変形例では、1次巻線P1〜P4がそれぞれの対応する2次巻線S1〜S4の外周に沿って巻回されている。この場合の結線は、図2、図10又は図11のものが適用可能である。なお、1次巻線を内側に2次巻線を外側に互いに入れ替えてもよい。
図14は、本発明の位置検出装置の第4の変形例を示す図である。図14の変形例では、前述の実施の形態のように1次巻線と2次巻線を分離することなく、1次巻線P1〜P4と2次巻線S1〜S4が2本同時に混合されて鉄心2に巻回されている。なお、1次巻線P1〜P4と2次巻線S1〜S4は前述のものと同様に1ピッチPの範囲を4分割した位置に配置される。この場合の結線も、図2、図10又は図11のものが適用可能である。
【0055】
なお、上述の位置検出装置1は移動子が静止している状態では、問題なく直線位置を検出することができるが、移動子が直線移動中には、その移動に伴って2次巻線S1〜S4が各磁石の磁束を横切ることによって、その移動速度に応じた誘起起電力が発生する。この誘起起電力が移動時における位置検出処理の誤差となるので、その影響を除去する必要がある。
以下、誘起起電力の影響を除去して、移動時でも正確に位置検出を行えるようにした位置検出装置の変形例について説明する。
図15は、本発明の位置検出装置の第5の変形例を示す図である。図15では、図1の位置検出装置1の鉄心2の両端に設けられた接続部材80及び81を介して同じ形状のダミー鉄心2Dが設けられている。ダミー鉄心2Dにはそれぞれ2次巻線S1〜S4と同じ形状(同じ巻線)、同じ配列、同じ配置となるようにダミー巻線D1〜D4が巻回されている。そして、各ダミー巻線D1〜D4はそれぞれ対応する2次巻線S1〜S4に差動的に結線される。
図15のようなダミー巻線D1〜D4を設けることによって、移動速度に応じて発生した誘起起電力の影響を除去することができる。
なお、図15の位置検出装置として図9に示したものを適用してもよい。
【0056】
図16は、本発明の位置検出装置の第6の変形例を示す図である。図16に示された位置検出装置は図15の位置検出装置を変形したものである。図16の位置検出装置が図15のものと異なる点は、位置検出装置として、図9のような2次巻線の両側に1次巻線の巻回されたものを用い、2次巻線S1と2次巻線S3が鉄心21に、2次巻線S2と2次巻線S4が鉄心22にそれぞれ巻回されている点である。このように2次巻線を互いに異なる鉄心に巻回すことによって、両者間の磁気的な干渉を排除することができるので、誤差の少ない位置検出を行うことができる。
図17は、本発明の位置検出装置の第7の変形例を示す図である。図17の位置検出装置は図16のものを変形したものである。図17の位置検出装置が図16のものと異なる点は、2次巻線S1〜S4がそれぞれ別々の鉄心21〜24に巻回され、さらにダミー巻線D1〜D4も各鉄心21〜24に別々に巻回されている点である。なお、図16のようなダミー巻線用の鉄心23だけを別途設けてもよいことはいうまでもない。
以上、図15〜図17に示した配置パターンは一例であり、これ以外の種々の配置を行ってもよいことはいうまでもない。
また、図15〜図17のような位置検出装置をX方向に複数並べて配置することによって、位置検出の平均化を行うようにしてもよい。
図15〜図17では、ダミー巻線として2次巻線用だけを巻回す場合について説明したが、位置検出装置用の巻線と全く同じ巻線(1次及び2次巻線)をダミー用として設け、その2次巻線の出力だけを差動的に巻回すようにしてもよい。これによって、ダミー用1次巻線に発生した誘起起電力による磁束のダミー2次巻線に対する影響を除去することが可能となる。なお、ダミー鉄心2Dを省略して、ダミー用の1次及び2次巻線又は、2次巻線だけを設けてもよい。
【0057】
図18は、本発明の位置検出装置の第8の変形例を示す図であり、図18(A)は位置検出装置をその進行方向Xに対して垂直横方向から見た側面図であり、図18(B)は移動方向X側から見た正面図である。図18の位置検出装置は図17のものを変形したものである。すなわち、図18の位置検出装置が図17のものと異なる点は、各鉄心21A〜24AがU字形(馬蹄形)をしており、磁気シールド板82によって磁石レール30からの磁束が各1次巻線S1〜S4及び2次巻線P1〜P4に影響しないようにしている点である。
図19は、本発明の位置検出装置の第9の変形例を示す図であり、図19(A)は位置検出装置をその進行方向に対して垂直横方向から見た側面図であり、図19(B)は移動方向側から見た正面図である。図19の位置検出装置は図18のものを変形したものであり、その相違点は各鉄心21B〜24Bが環状であり、磁気的に閉回路を構成している点である。これによって、1次巻線P1〜P4で発生した磁束を2次巻線S1〜S4に効率的に結合させることができる。また、図18では鉄心21A〜24Aの平面部分が進行方向Xに沿っているのに対して、図19では環状鉄心の平面部分が進行方向Xの垂直方向に沿っている。
【0058】
図20は、本発明の位置検出装置の第10の変形例を示す図であり、図20(A)は位置検出装置をその進行方向に対して垂直横方向から見た側面図であり、図20(B)は移動方向側から見た正面図である。図20の位置検出装置は図19のものを変形したものであり、その相違点は図19(A)に示されるような環状鉄心21B〜24Bを移動方向Xの垂直方向に沿ってコの字(Uの字)形に曲げ、その曲げ方向が進行方向Xの垂直方向に沿うように配列された鉄心21C〜24Cで構成し、各鉄心21C〜24Cの両端側が磁石レール30に接するように構成されている点である。
図21は、本発明の位置検出装置の第11の変形例を示す図であり、図21(A)は位置検出装置をその進行方向に対して垂直横方向から見た側面図であり、図21(B)は移動方向側から見た正面図である。図21の位置検出装置は図19のものを変形したものであり、その相違点は図19(A)に示されるような環状鉄心21B〜24Bを進行方向Xの垂直方向に沿ってコの字(Uの字)形に曲げられた鉄心21D〜24Dで構成し、各鉄心21D〜24Dの両端側が磁石レール30に接するように構成されている点である。
図22は、本発明の位置検出装置の第12の変形例を示す図であり、位置検出装置をその進行方向に対して垂直横方向から見た側面図である。なお、正面図は図20(A)のようになるので、ここでは省略してある。図22の位置検出装置は図19(A)に示されるような環状鉄心21B〜24Bを移動方向Xに沿ってコの字(Uの字)形に曲げられた鉄心21E〜24Eで構成され、各鉄心21E〜24Eは所定の位置関係となるように配置されている。すなわち、図22の位置検出装置は、図20のような位置検出装置の進行方向を90度回転し、その鉄心の位置関係が上述の所定の関係となるように配置されたものである。
図23は、本発明の位置検出装置の第13の変形例を示す図であり、位置検出装置の進行方向に対して垂直横方向から見た側面図である。なお、正面図は図21(A)のようになるので、ここでは省略してある。図23の位置検出装置は図21の位置検出装置の進行方向を90度回転し、各鉄心21F〜24Fの位置関係が上述の所定の位置関係となるように配置されたものである。
【0059】
図24は本願発明の位置検出装置の第14の変形例を示す図であり、図24(A)は位置検出装置をその進行方向に対して垂直横方向から見た側面図であり、図24(B)は位置検出装置をその進行方向に対して垂直上面方向から見た図であり、図24(C)は移動方向側から見た正面図である。この位置検出装置は、長方形板状の鉄心を円柱状鉄心で結合したH形の鉄心21G〜24Gと、この円柱状鉄心に巻回された1次巻線P1〜P4、2次巻線S1〜S4と、長方形板状の鉄心の片側に設けられた永久磁石35とから構成される。この位置検出装置の場合は磁石レール30を構成する2個の磁石31,32の移動方向長さを合計したものが1ピッチとなる。永久磁石35の下側面(鉄心21G〜24Gに接する面)がN極、磁石31の上側面(鉄心21G〜24Gに接する面)がN極、磁石32の上側面(鉄心21G〜24Gに接する面)がS極である。従って、図24のように鉄心24の下側の長方形板状の鉄心がS極の磁石に接する面積が最も広い場合には、鉄心24の円柱状鉄心を通過する磁束が飽和するため、空心状態となり、1次巻線P4と2次巻線S4の磁気的結合度は小さくなる。一方、鉄心21Gのように下側の長方形板状の鉄心がN極の磁石に接する面積が最も広い場合には、鉄心24の円柱状鉄心を通過する磁束が少ないため、1次巻線P1と2次巻線S1の磁気的結合度が大きくなる。故に、結果として、前述の位置検出装置と同じ原理に基づいて磁石レール30上における相対的位置の関係を検出することが可能となる。
なお、図24の位置検出装置において、永久磁石35を省略した場合には、その配置を磁石1個分の移動方向長さを1ピッチとなるように配列してやればよい。
【0060】
次に、本発明の位置検出装置を回転形電動機すなわち回転形モータに適用した場合の一例を説明する。
図25及び図26は本発明に係る位置検出装置を回転形同期電動機に適用した場合の一実施の形態を示す図であり、図25はこの回転形同期電動機の回転軸を含む断面構造を示し、図26は図25の回転形同期電動機におけるA−A面の断面構造を示す。
この回転形同期電動機90は、磁極数が4極の3相交流駆動型の電動機である。この回転形同期電動機は円筒状の固定子枠91と、この固定子枠91に軸受92及び軸受93を介して回転自在に設けられた回転軸94とから構成される。固定子枠91には電機子コア95と、8つの位置検出装置96A〜96Hが設けられ、回転軸94には、4個の永久磁石97A〜97Dが設けられている。
電機子コア95は固定子枠1の内周面に沿って設けられた円筒状の成層鉄心で構成され、その内周面側に図26に示すような回転軸を中心とした半径方向に延びた24個のスロットを有する。電機子コア95の各スロットには3相電機子巻線が巻回されている。電機子コア95の成層鉄心は薄いけい素鋼板を軸方向に沿って複数枚積み重ねて構成されたものである。
【0061】
位置検出装置96A〜96Hは、固定子枠91の内周面側であって、電機子コア95の両側に設けられた環状鉄心と、それに巻回れた1次巻線及び2次巻線とから構成される。なお、図26では、図1に対応した位置検出装置が示してあるだけであるが、実際には1次巻線P5の右回り方向には位置検出装置96Bの2次巻線S1が設けられ、1次巻線P1の左回り方向には位置検出装置96Dの1次巻線S4が設けられ、位置検出装置96Aの点対称側には位置検出装置96Cが設けられている。すなわち、環状鉄心に沿って順番に位置検出装置96A〜96Dが、一方の環状鉄心には位置検出装置96E〜96Hが、それぞれ設けられ、各位置検出装置には1次巻線及び2次巻線が巻回されている。
【0062】
なお、図26に示されるように1個の位置検出装置96Aだけを設けてもよいが、複数の位置検出装置を設けることによって、回転軸の偏心による誤差などを平均化することができ、位置検出精度を向上することができるという効果がある。
また、図1の位置検出装置の代わりに、図9、図12〜図14のような位置検出装置を設けてもよいし、図15〜図17のようなダミー巻線を設けてもよいし、図18〜図24のような位置検出装置を設けてもよい。なお、位置検出装置は、電機子コア95の側面側に設ける場合について説明したが、磁石97A〜97Dの側面側に設けてもよい。
【0063】
図27は、アウターロータ形の電動機に適用した場合の一例を示す図である。このアウターロータ形の電動機は、固定子となる電機子巻線がアウターロータ内にあり、磁石98A〜98Dの設けられたアウターロータが回転するようになっている。なお、シャフトについては省略してある。この場合には、図26のような位置検出装置がアウターロータの外周面側の磁石に沿って設けられる。なお、位置検出装置をアウターロータの内周面側に設けてもよいし、側面側に設けてもよい。
【0064】
上述の実施の形態では、永久磁石を用いたものを例に説明したが、永久磁石の代わりに電磁磁石を用いたものであっても同様に適用できることはいうまでもない。
【0065】
本発明によれば、永久磁石又は電磁石を用いた回転型又は直線型の電動機の回転位置又は直線位置を、特別な磁気抵抗変化部材などを設けることなく検出することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明に係る位置検出装置の一実施の形態に係る直線位置検出装置の概略構成を示す一部断面図。
【図2】図1の1次巻線P1〜P5及び2次巻線S1〜S4の結線状態を示す図。
【図3】図1の位置検出装置からの出力を位置データに変換する位相検出タイプの測定回路の一例を示すブロック図。
【図4】図1の位置検出装置からの出力を位置データに変換する位相検出タイプの測定回路の別の一例を示すブロック図。
【図5】図4の測定回路の動作説明図。
【図6】図4の測定回路に付加される変更例を示すブロック図。
【図7】図1の位置検出装置からの出力を位置データに変換する位相検出タイプの測定回路のさらに別の一例を示すブロック図。
【図8】図7の測定回路の動作説明図。
【図9】本発明の位置検出装置の第1の変形例を示す図。
【図10】図9の1次巻線P1A〜P4B及び2次巻線S1〜S4の結線状態を示す図。
【図11】図10のように結線された図9の位置検出装置からの出力を位置データに変換する位相検出タイプの測定回路の一例を示すブロック図。
【図12】本発明の位置検出装置の第2の変形例を示す図。
【図13】本発明の位置検出装置の第3の変形例を示す図。
【図14】本発明の位置検出装置の第4の変形例を示す図。
【図15】本発明の位置検出装置の第5の変形例を示す図。
【図16】本発明の位置検出装置の第6の変形例を示す図。
【図17】本発明の位置検出装置の第7の変形例を示す図。
【図18】本発明の位置検出装置の第8の変形例を示す図。
【図19】本発明の位置検出装置の第9の変形例を示す図。
【図20】本発明の位置検出装置の第10の変形例を示す図。
【図21】本発明の位置検出装置の第11の変形例を示す図。
【図22】本発明の位置検出装置の第12の変形例を示す図。
【図23】本発明の位置検出装置の第13の変形例を示す図。
【図24】本発明の位置検出装置の第14の変形例を示す図。
【図25】本発明の位置検出装置を回転形同期電動機に適用した場合の一実施の形態を示す図であり、その回転形同期電動機の回転軸を含む断面構造を示す図。
【図26】図25の回転形同期電動機におけるA−A面の断面構造を示す図。
【図27】本発明の位置検出装置をアウターロータ形の電動機に適用した場合の一実施の形態を示す図。
【符号の説明】
【0067】
1 位置検出装置
2 鉄心
3 巻線部
30 磁石レール
31,32,35 磁石
P1〜P4,P1A〜P4B,P6 1次巻線
S1,S2,S3,S4 2次巻線
D1,D2,D3,D4 ダミー巻線
21A〜21G,22A〜22G,23A〜23G,24A〜24G 鉄心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁石と、
前記磁石に対して相対的に移動可能に設けられた検出部であって、交流励磁される巻線手段と該巻線手段に対応付けて配置された磁性体コアとを含み、前記磁性体コアに対する前記磁石の近接に応じて該磁性体コアにおける該磁石の磁化力を強く受ける箇所において磁気飽和を生じさせて該磁性体コアの透磁率を低下させると共に、該磁石の相対的移動に伴う前記磁化力の変化に応じて磁気飽和を生じさせない状態となることにより該磁性体コアの透磁率が増加される前記検出部と、
を具備し、
検出対象位置に応じて前記検出部に対して前記磁石を相対的に変位させ、これに応じて前記磁性体コアに対する前記磁石による磁化力が磁気飽和を生じさせない状態と磁気飽和を生じさせる状態との間で変化し、この変化に応じて前記磁性体コアの透磁率が変化することにより該磁性体コアに対応付けられた前記巻線手段のインダクタンスが変化し、このインダクタンスの変化に基づく出力信号を該巻線手段から生じるようにしたことを特徴とする位置検出装置。
【請求項2】
可動部と静止部とを具備すると共に磁石を該可動部又は静止部の側において具備する直線型又は回転型の電動機における位置検出装置であって、
前記磁石に対して相対的に移動可能に設けられた検出部であって、交流励磁される巻線手段と該巻線手段に対応付けて配置された磁性体コアとを含み、前記磁性体コアに対する前記磁石の近接に応じて該磁性体コアにおける該磁石の磁化力を強く受ける箇所において磁気飽和を生じさせて該磁性体コアの透磁率を低下させると共に、該磁石の相対的移動に伴う前記磁化力の変化に応じて磁気飽和を生じさせない状態となることにより該磁性体コアの透磁率が増加される前記検出部と、
を具備し、
前記電動機の前記可動部又は静止部のうち前記磁石を設けていない方に前記検出部を配置し、該可動部の変位に応じて前記磁石と前記検出部の相対的位置が変化し、これに応じて前記磁性体コアに対する前記磁石による磁化力が磁気飽和を生じさせない状態と磁気飽和を生じさせる状態との間で変化し、この変化に応じて前記磁性体コアの透磁率が変化することにより該磁性体コアに対応付けられた前記巻線手段のインダクタンスが変化し、このインダクタンスの変化に基づく出力信号を該巻線手段から生じるようにしたことを特徴とする位置検出装置。
【請求項3】
前記磁石は、検出対象の移動方向に沿って所定のピッチで配列された複数の磁石で構成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の位置検出装置。
【請求項4】
前記巻線手段は、検出対象の移動方向に沿う異なる位置に配置された複数の巻線を含み、該複数の巻線の各々に対応付けて前記磁性体コアを配置してなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の位置検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【公開番号】特開2006−220671(P2006−220671A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−145280(P2006−145280)
【出願日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【分割の表示】特願平8−155008の分割
【原出願日】平成8年5月27日(1996.5.27)
【出願人】(591054196)
【Fターム(参考)】