説明

位置決め装置

【課題】
差動排気シールに高性能排気ポンプを用いずコストを抑えつつも、プロセス室内の環境を損なわない位置決め装置を提供する。
【解決手段】
オリフィス部14eとプロセス室Pとの間にクライオポンプKを設けているので、差圧室14cで捕捉できなかった空気の分子Mが、オリフィス部14eと平板13との間を通過した場合でも、これをクライオポンプKで捕捉することができ、それによりプロセス室Pの真空雰囲気を破壊することが抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば外部環境から隔離されたプロセス室に、一部が面してなる移動体の位置決め装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造装置などにおいては、高真空環境や特殊ガス雰囲気に維持したプロセス室内で、ワークを回転体に取り付けて回転させたり移動可能なステージに載置したりして加工処理することが行われている。ここで、プロセス室内におけるアウトガスや発塵を回避すべく、その発生源となりうるモータ等のアクチュエータはプロセス室外におくのが一般的である。この場合、回転軸やステージの一部はプロセス室内でワークを支持し、その他端はプロセス室外でアクチュエータに連結されるため、プロセス室の環境を損なわないように、プロセス室を覆う筐体と回転軸との間をシールする構成が必要となる。
【0003】
ここで、特許文献1には、磁性流体シールと差動排気シールとを備えた高真空装置が開示されている。かかる従来技術によれば、磁性流体シールと差動排気シールとを用いることにより、プロセス室内の高真空環境を損なわないようにできる。なお、磁性流体シールに関しては、特許文献2に詳細が記載されている。
【特許文献1】特開平9−215917号公報
【特許文献2】特許第3006780号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、磁性流体シールを用いた場合に、条件によってはバースト現象が生ずることが知られている。バースト現象とは、例えば磁性流体によって複数段でシールされている部位の内圧が、温度上昇などにより急激に変動したときに、磁性流体の膜が破れて飛散し、シールの機能を発揮できなくなるという現象である。バースト現象が生じると、装置を一時停止し、飛散した磁性流体で汚染された周辺を洗浄しなければならないので、取り扱いに注意を要するという問題がある。又、磁性流体は比較的高価であるという問題もある。
【0005】
これに対し、磁性流体シールの代わりに、非接触式のラビリンスシールや接触式シール等を設けることも考えられる。しかるに、ラビリンスシールは、非接触であることから発塵などの恐れは低いが、磁性流体シールに比べると、外部から大気が流入する量が増大することから、差動排気シールに高性能排気ポンプを用いる必要が生じ、コストが増大するという問題がある。又、接触式シールは、その構成上摺動抵抗が生じ、摩耗などの問題を生じさせる。
【0006】
そこで本発明は、かかる従来技術の問題点に鑑み、差動排気シールに高性能排気ポンプを用いずコストを抑えつつも、プロセス室内の環境を損なわない位置決め装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的を達成するために、本発明の位置決め装置は、
減圧下に曝されるプロセス室内に連通する開口を有する筐体と、
前記開口に対向した状態で、少なくとも一方向に移動可能に設けられた移動体と、
前記移動体の表面に対向し、前記プロセス室内と、前記プロセス室内よりも高圧のプロセス室外との間をシールするために、差圧室と前記差圧室を排気するための排気ポンプとオリフィス部とを有する差動排気シールと、
前記プロセス室と前記差動排気シールとの間に配置されたクライオポンプもしくはコールドトラップと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の位置決め装置によれば、前記プロセス室と前記差動排気シールとの間にクライオポンプもしくはコールドトラップを配置しているので、前記差動排気シールを通過した気体の分子などを、前記クライオポンプもしくはコールドトラップで捕捉することができ、高性能な排気ポンプを用いることなく、前記プロセス室内の環境を維持することが可能となる。
【0009】
前記オリフィス部は、前記差圧室と前記クライオポンプもしくはコールドトラップとの間に配置されていると、前記オリフィス部を介して前記差圧室から前記プロセス室へと向かう分子流が生じたとき、気体の分子などを、前記クライオポンプもしくはコールドトラップで捕捉することができる。
【0010】
本明細書中で用いる差動排気シールとは、例えば対向する2面間の微小な間隙にある気体を前記2面間に設けられた差圧室を介して排気することにより、非接触の状態で、対向面を挟む両側の雰囲気(例えば大気圧と高真空)を一定の状態に保つように機能するものをいう。以下に述べる実施の形態においては、差圧室とそれに隣接する微小な間隙(オリフィス部)を差動排気シールという。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施の形態について説明する。図1は、比較例にかかる位置決め装置の概略断面図である。図2は、本実施の形態にかかる位置決め装置の概略断面図である。まず比較例から説明すると、図1において、内部が高真空状態に維持されるプロセス室Pを有する筐体2の下面に設けられた開口2aに、移動体である平板3が対向している。平板3は、不図示のリニアガイドにより支持されて、図で左右方向に移動可能となっている。平板3の中央には、ワーク等を支持するテーブル3aが配置されている。
【0012】
開口2aを囲う円筒側壁2bの水平方向に延在するその下面には、開口2aの周囲を取り巻く周溝2c、2dが形成されている。差圧室を構成する周溝2c、2dは、不図示の配管を介して排気ポンプP2,P1に連結されている。周溝2cとプロセス室Pとの間には、平板3の上面に対してスキマが10μm程度であるオリフィス部2eが形成され、周溝2c、2dとの間には、平板3の上面に対してスキマが10μm程度であるオリフィス部2fが形成され、周溝2dと外部(大気圧部)との間には、平板3の上面に対してスキマが10μm程度であるオリフィス部2gが形成されている。
【0013】
次に、比較例にかかる位置決め装置の動作について説明する。平板3の端部は、アクチュエータ等の駆動源(不図示)に接続されており、平板3を左右に駆動するようになっている。このとき、平板3は、不図示のリニアガイドにより移動自在に支持されているので、摩擦などの抵抗が少ない状態で、筐体2に対して移動可能となっており、テーブル3aに支持されたワーク(不図示)をプロセス室内で処理できる。
【0014】
差動排気シールの作用について説明すると、オリフィス部2e、2f、2gにおいて、開口2aと平板3とのクリアランスを極力小さくして気体の流れを制限すると、大気側から流入する気体(一般的にはエア)の量が少なくなる。流入するガスのほとんどの量を周溝2c、2dから排気すると、プロセス室P側への気体の流入は極めて微量となる。したがって、平板3が直動自在に開口2aに対向しているにもかかわらず、プロセス室Pは気密的に隔離された状態を得ることができる。即ち、非接触状態で平板3と筐体2との間を気密できるため、シールからの発塵・アウトガスがなく、長寿命で、さらに温度に寿命が依存しないという特長を有する。
【0015】
しかしながら、高性能の排気ポンプはコストが高くなるので、より低い性能の排気ポンプを用いて差動排気シールの性能を確保したいという要求もある。そのような低い性能ものを排気ポンプP2,P1に用いた場合、図1に模式的に示すように、差圧室2cで捕捉できなかった空気等の分子Mが、オリフィス部2eと平板3との間を通過して、プロセス室Pに侵入し、その真空雰囲気を破壊する恐れがある。これを防止するためには、オリフィス部2eのスキマを小さくすることが考えられるが、それにより干渉を招く恐れがある。以下に述べる本実施の形態においては、かかる課題を解決することができる。
【0016】
図2において、内部が高真空状態に維持されるプロセス室Pを有する筐体12の下面に設けられた開口12aに、移動体である平板13が対向している。平板13は、不図示のリニアガイドにより支持されて、図で左右方向に移動可能となっている。平板13の中央には、ワーク等を支持するテーブル13aが配置されている。
【0017】
開口12aを取り巻くようにして、クライオポンプKが配置され、更にその周囲に環状のシールブロック14が配置されている。クライオポンプKについては後述する。
【0018】
シールブロック14の下面には、開口12aの周囲を取り巻くようにして周溝14c、14dが形成されている。差圧室を構成する周溝14c、14dは、不図示の配管を介して排気ポンプP2,P1に連結されている。周溝14cとプロセス室P側のクライオポンプKとの間には、平板13の上面に対してスキマが10μm程度であるオリフィス部14eが形成され、周溝14c、14dとの間には、平板13の上面に対してスキマが10μm程度であるオリフィス部14fが形成され、周溝14dと外部(大気圧部)との間には、平板13の上面に対してスキマが10μm程度であるオリフィス部14gが形成されている。
【0019】
次に、本実施の形態にかかる位置決め装置の動作について説明する。平板13の端部は、アクチュエータ等の駆動源(不図示)に接続されており、平板13を左右に駆動するようになっている。このとき、平板13は、不図示のリニアガイドにより移動自在に支持されているので、摩擦などの抵抗が少ない状態で、筐体12に対して移動可能となっており、テーブル13aに支持されたワーク(不図示)をプロセス室内で処理できる。
【0020】
差動排気シールの作用について説明すると、オリフィス部14e、14f、14gにおいて、シールブロック14と平板3とのクリアランスを極力小さくして気体の流れを制限すると、大気側から流入する気体(一般的にはエア)の量が少なくなる。流入するガスのほとんどの量を周溝14c、14dから排気すると、プロセス室P側への気体の流入は極めて微量となる。したがって、平板13が直動自在に開口12aに対向しているにもかかわらず、プロセス室Pは気密的に隔離された状態を得ることができる。即ち、非接触状態で平板13と筐体12との間を気密できるため、シールからの発塵・アウトガスがなく、長寿命で、さらに温度に寿命が依存しないという特長を有する。
【0021】
更に、本実施の形態においては、オリフィス部14eとプロセス室Pとの間にクライオポンプKを設けているので、差圧室14cで捕捉できなかった空気の分子Mが、オリフィス部14eと平板13との間を通過した場合でも、これをクライオポンプKで捕捉することができ、それにより図1の構成では困難な10-7Paより気圧の低い高真空を確保でき、或いは図1の構成では10-3Paより気圧が高くなる比較的性能の低い排気ポンプP1,P2を用いても、10-5Pa程度の真空度を確保できる。
【0022】
図3は、クライオポンプの一例を示す断面図である。クライオポンプKは、2段式GM(ギフォード・マクマホン)サイクル冷凍機21(以下、「冷凍機21」という)と、この冷凍機21にガス管23,23を介して接続されたヘリウム圧縮機22とを備えており、冷凍機21の低温部分は、断熱真空外筒27に挿入されている。さらに、断熱真空外筒27には、図示しない真空容器を接続して使用される。
【0023】
冷凍機21は、第1段冷却ステージ24と第2段冷却ステージ25を有している。第1段冷却ステージ24には、第1の冷却パネルとして機能する放射シールド26が取り付けられ、この放射シールド26には、第2のクライオパネル28の上方に間隔を置いて、シェブロンバッフル30が設けられている。それらが、例えば、80K程度に冷却され、オリフィス部14eを通過する水蒸気、炭酸ガス等の沸点が比較的高いガスを吸着凝縮することができる。第2段冷却ステージ25には、第2のクライオパネル28が取り付けられ、例えば、約20K程度に冷却され、オリフィス部14eを通過する窒素、アルゴン等のより低沸点のガスを吸着凝縮することができる。超高真空を得るためには、さらに沸点の低い水素やヘリウムを排気する必要があり、第2のクライオパネル28の一部に水素やヘリウムを吸着する吸着剤として活性炭29が貼付されている。なお、侵入する気体分子等を吸着する部位(クライオパネル等)については、本実施の形態に即して、効果的に吸着凝縮を行えるように適宜形状を変更してよい。
【0024】
クライオポンプKの代わりに、コールドトラップを用いることもできる。図4は、コールドトラップの一例を示す断面図である。このコールドトラップ31は、ケーシング35と、このケーシング35内に配置されたコールドパネル36と、このコールドパネル36と熱的に連結した冷却ヘッド37と、この冷却ヘッド37に熱的に連結した膨張部38と、この膨張部38に接続する圧縮機40とを備える。上記ケーシング35は、一端が開口部になっている略円筒形状のケーシング本体35aと、このケーシング本体35aの他端に接続されてケーシング本体35aよりも小さい径を有する筒状の袖部35bとからなる。上記ケーシング本体35aの開口部の縁に形成したフランジ35cを、上記真空チャンバ32の開口部のフランジ32aに固定して、上記ケーシング35を真空チャンバ32に連通している。一方、上記ケーシング35の袖部35bの端部に形成したフランジ35dに、上記圧縮機の接続板40aを固定している。この圧縮機の接続板40aに上記膨張器38の一端を固定して、この膨張器38の他端と冷却ヘッド37およびコールドパネル36を上記ケーシング本体35a内の略中央に位置させている。上記膨張器38は、互いに一端を接続した図示しないパルス管と蓄冷器を有する。上記パルス管と蓄冷器との接続部分を、冷却ヘッド37に熱的に接続している。上記パルス管の他端を圧縮機40の吐出ポートに接続して、上記蓄冷器の他端を、配管42を介してバッファタンク43に接続している。上記膨張器38と圧縮機40とバッファタンク43とで、冷凍機としてのパルス管式スターリング冷凍機を構成していて、この冷凍機内に、作動ガスとしてのヘリウムガスを充填している。
【0025】
上記ケーシング35には、ケーシング本体35aの周面と端面に、放熱手段としてのフィン45が配置されている。このフィン45と圧縮機40とを、伝熱手段としてのヒートパイプ46を介して熱的に接続している。
【0026】
このコールドトラップ31を起動すると、上記圧縮機40が動作して、作動ガスに圧力変動を生じさせる。この圧力変動を有する作動ガスが、上記膨張器38の蓄冷器に送られる。この蓄冷器に送られた作動ガスは、冷やされて上記パルス管に送られる。このパルス管に接続されたバッファタンク43によって、上記作動ガスの圧力変動と流れとの間に位相差が与えられて、上記パルス管の上記蓄冷器との接続端部、すなわち低温端部に冷熱が生じる。この作用を繰り返して、上記冷熱を上記冷却ヘッド37に蓄積して寒冷を生じさせて、上記コールドパネル36を極低温にする。この極低温にされたコールドパネル36によって、プロセス室Pに侵入しようとする水蒸気などを凍結捕集することができる。なお、コールドパネル36の形状は、本実施の形態に即して、効果的に気体分子等の凍結捕集を行えるよう、適宜変更してよい。
【0027】
以上、本発明を実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は上記実施の形態に限定して解釈されるべきではなく、適宜変更・改良が可能であることはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】比較例にかかる位置決め装置の断面図である。
【図2】本実施の形態にかかる位置決め装置の断面図である。
【図3】クライオポンプの一例を示す断面図である。
【図4】コールドトラップの一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0029】
12 筐体
12a 開口
13 平板
13a テーブル
14 シールブロック
14c 周溝
14c 差圧室
14e オリフィス部
14f オリフィス部
K クライオポンプ
P プロセス室
P2,P1 排気ポンプ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
減圧下に曝されるプロセス室内に連通する開口を有する筐体と、
前記開口に対向した状態で、少なくとも一方向に移動可能に設けられた移動体と、
前記移動体の表面に対向し、前記プロセス室内と、前記プロセス室内よりも高圧のプロセス室外との間をシールするために、差圧室と前記差圧室を排気するための排気ポンプとオリフィス部とを有する差動排気シールと、
前記プロセス室と前記差動排気シールとの間に配置されたクライオポンプもしくはコールドトラップと、を有することを特徴とする位置決め装置。
【請求項2】
前記オリフィス部は、前記差圧室と前記クライオポンプもしくはコールドトラップとの間に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の位置決め装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−46679(P2007−46679A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−230761(P2005−230761)
【出願日】平成17年8月9日(2005.8.9)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】