位置算出方法及び位置算出装置
【課題】新たな位置算出手法の提案。
【解決手段】GPS衛星からGPS衛星信号を受信して擬似距離が算出される。そして、擬似距離に含まれる誤差(残差)の分布を正規混合分布で表した擬似距離正規混合分布モデルを用いて、最尤推定法に基づく位置算出計算が行われることで、位置算出装置(ユーザー)の位置が算出される。擬似距離正規混合分布モデルは、位置算出装置の通常時の受信環境を想定した第1の正規分布関数“p1(ε)”と、マルチパス環境を想定した第2の正規分布関数“p2(ε)”とを混合した確率密度関数として定義される。
【解決手段】GPS衛星からGPS衛星信号を受信して擬似距離が算出される。そして、擬似距離に含まれる誤差(残差)の分布を正規混合分布で表した擬似距離正規混合分布モデルを用いて、最尤推定法に基づく位置算出計算が行われることで、位置算出装置(ユーザー)の位置が算出される。擬似距離正規混合分布モデルは、位置算出装置の通常時の受信環境を想定した第1の正規分布関数“p1(ε)”と、マルチパス環境を想定した第2の正規分布関数“p2(ε)”とを混合した確率密度関数として定義される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位置算出方法及び位置算出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
測位用信号を利用した測位システムとしては、GPS(Global Positioning System)が広く知られており、携帯型電話機やカーナビゲーション装置等に内蔵された位置算出装置に利用されている。GPSでは、複数のGPS衛星の位置や各GPS衛星から位置算出装置までの擬似距離等の情報に基づいて位置算出装置の位置座標と時計誤差とを求める位置算出計算を行う。
【0003】
衛星測位システムを利用した位置算出計算としては、複数の測位用衛星について算出した擬似距離を用いて、擬似距離に含まれ得る誤差(以下、「擬似距離の誤差」と称す。)の二乗和を最小化させる、いわゆる最小二乗法を利用した位置算出計算が知られている(例えば、特許文献1。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−97897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
最小二乗法を利用した位置算出計算は、一般的に、捕捉に成功した測位用衛星の数が未知数よりも多い状態(いわゆる過決定の状態)において、位置算出装置の位置座標及び時計誤差を近似的に求めるために有効な手法である。しかし、最小二乗法を利用して算出された位置は必ずしも信頼できるものであるとは限らない。
【0006】
確かに、擬似距離の誤差を常にホワイトノイズ(白色雑音)とみなすことができるのであれば、最小二乗法を利用して算出される位置は信頼できるかもしれない。数学的に言えば、擬似距離の誤差の分布が正規分布(ガウス分布)に従うような場合である。しかし、これはあくまでも理想的な場合である。
【0007】
衛星測位システムでは、種々の誤差要因の存在により、測定される擬似距離に多様な誤差が含まれ得る。その典型的な例がマルチパスである。いわゆるマルチパス環境では、2以上の経路を通って衛星信号が位置算出装置に到達する。位置算出装置が受信する信号は、測位用衛星から送出される衛星信号である直接波信号に、建物や地面等に反射した反射波や障害物を透過した透過波、障害物を回折した回折波等の間接波信号が重畳した信号(マルチパス信号)となる。間接波信号は直接波信号よりも長い経路長で位置算出装置に到達する。この間接波信号の影響により、位置算出装置において測定される擬似距離には正規分布に従わない不確定の誤差が含まれ得る。
【0008】
本発明は上述した課題に鑑みて為されたものであり、その目的とするところは、新たな位置算出手法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上の課題を解決するための第1の形態は、測位用衛星から衛星信号を受信して擬似距離を算出することと、前記擬似距離に含まれる誤差の分布を正規混合分布で表した正規混合分布モデルを用いて位置を算出することと、を含む位置算出方法である。
【0010】
また、他の形態として、測位用衛星から衛星信号を受信して擬似距離を算出する擬似距離算出部と、前記擬似距離に含まれる誤差の分布を正規混合分布で表した正規混合分布モデルを用いて位置を算出する位置算出部と、を備えた位置算出装置を構成してもよい。
【0011】
この第1の形態等によれば、測位用衛星から衛星信号を受信して擬似距離が算出される。そして、擬似距離に含まれる誤差の分布を正規混合分布で表した正規混合分布モデルを用いて位置が算出される。この新たな手法により、擬似距離に含まれる誤差の分布が正規混合分布に従うような状況における位置算出の正確性を向上させることができる。
【0012】
また、第2の形態として、第1の形態の位置算出方法であって、前記正規混合分布モデルは、前記誤差を変数とする確率密度関数で定義される、位置算出方法を構成してもよい。
【0013】
また、第3の形態として、第2の形態の位置算出方法であって、前記位置を算出することは、前記位置の想定位置を用いて前記擬似距離に含まれている誤差を算出することと、前記正規混合分布モデルを用いて前記誤差に対応する確率を算出することと、前記確率を用いて前記想定位置を更新することと、を繰り返し行って、前記位置を算出することである、位置算出方法を構成してもよい。
【0014】
この第3の形態によれば、想定される位置である想定位置を用いて擬似距離に含まれている誤差が算出され、正規混合分布モデルを用いて当該誤差に対応する確率が算出される。そして、当該確率を用いて想定位置が更新される。この一連の処理が繰り返し行われて、位置が算出される。擬似距離に含まれる誤差に対応する確率を正規混合分布モデルを用いて算出し、当該確率を用いて想定位置を更新していく手法により、真位置に近い位置を求めることが可能となる。
【0015】
また、上記の形態における正規混合分布モデルを、第1の正規分布モデルと、前記第1の正規分布モデルのピーク値よりもピーク値が小さい第2の正規分布モデルとを少なくとも混合したモデルとする第4の形態を構成してもよい。
【0016】
この第4の形態によれば、異なる割合で誤差が擬似距離に混入する状況を想定したモデルとなるため、当該状況において位置算出の正確性を向上させることができる。
【0017】
また、上記の形態における正規混合分布モデルを、第1の正規分布モデルと、前記第1の正規分布モデルの標準偏差よりも標準偏差が大きい第2の正規分布モデルとを少なくとも混合したモデルとする第5の形態を構成してもよい。
【0018】
この第5の形態によれば、より広い誤差幅の誤差が擬似距離に混入する状況を想定したモデルとなるため、当該状況において位置算出の正確性を向上させることができる。
【0019】
また、上記の形態における正規混合分布モデルを、第1の正規分布モデルと、前記第1の正規分布モデルの誤差の期待値よりも誤差の期待値が大きい第2の正規分布モデルとを少なくとも混合したモデルとする第6の形態を構成してもよい。
【0020】
この第6の形態によれば、より大きな誤差が擬似距離に混入する状況を想定したモデルとなるため、当該状況において位置算出の正確性を向上させることができる。
【0021】
また、上記の形態における正規混合分布モデルを、前記衛星信号の直接波を受信した場合の前記擬似距離に含まれる誤差の分布を示す第1の正規分布モデルと、前記衛星信号の間接波を受信した場合の前記擬似距離に含まれる誤差の分布を示す第2の正規分布モデルとを少なくとも混合したモデルとする第7の形態を構成してもよい。
【0022】
この第7の形態によれば、いわゆるマルチパス環境を想定したモデルとなるため、マルチパス環境において位置算出の正確性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】位置算出の原理の説明図。
【図2】擬似距離残差の正規分布モデルの説明図。
【図3】マルチパス環境の説明図。
【図4】コード位相検出の原理の説明図。
【図5】マルチパス環境における自己相関の一例を示す図。
【図6】マルチパス環境における自己相関の一例を示す図。
【図7】擬似距離残差GMM関数を示す図。
【図8】最尤推定法の説明図。
【図9】実験結果の一例を示す図。
【図10】実験結果の一例を示す図。
【図11】携帯型電話機の機能構成の一例を示すブロック図。
【図12】ベースバンド処理回路部の回路構成の一例を示す図。
【図13】衛星別メジャメントデータのデータ構成の一例を示す図。
【図14】衛星別位置算出諸量データのデータ構成の一例を示す図。
【図15】ベースバンド処理の流れを示すフローチャート。
【図16】位置算出処理の流れを示すフローチャート。
【図17】第2の擬似距離残差GMM関数を示す図。
【図18】変形例におけるマルチパスの説明図。
【図19】変形例における実験結果の一例を示す図。
【図20】第2のベースバンド処理の流れを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して、本発明を適用した好適な実施形態について説明する。なお、本発明を適用可能な実施形態が以下説明する実施形態に限定されるわけでないことは勿論である。
【0025】
1.原理
最初に従来における位置算出の原理説明を行い、次いで本実施形態における位置算出の原理について説明する。本実施形態は、衛星測位システムの一種であるGPS(Global Positioning System)を利用して位置算出を行う実施形態である。
【0026】
図1は、位置算出の原理の説明図である。最初に変数を定義する。測位用衛星の一種であるGPS衛星の番号を変数“k”の値“k=1,2,・・・”で表記する。また、以下の数式において、GPS衛星の番号を上付きの添え字で表し、指数と区別するために括弧書きで表す。
【0027】
k番目のGPS衛星の位置ベクトルを、ベクトル表記のP(k)=(x(k),y(k),z(k))と表記する。GPS衛星の位置ベクトルは、例えばエフェメリスやアルマナックといった衛星軌道情報と時刻情報とを用いて算出される。
【0028】
また、位置算出装置の実在位置を表す位置座標を、ベクトル表記で“p=(x,y,z)”と表す。実在位置“p”は未知数であり、最終的に求めたい値である。一方、位置算出装置(ユーザー)の想定される位置である想定位置を表す位置座標を、ベクトル表記で“pa=(xa,ya,za)”と表す。想定位置“pa”は、位置算出処理において、繰り返し計算によって随時更新されていく値である。
【0029】
なお、GPS衛星の位置座標及び位置算出装置の位置座標は、任意の座標系における位置座標を意味する。例えば、3次元直交座標系の一種である地球基準座標系における位置座標で定義できる。
【0030】
位置算出装置に搭載された内部クロックの実際のバイアスである実クロックバイアスを“b”と表記する。実クロックバイアス“b”は未知数であり、最終的に求めたい値である。また、位置算出装置の内部クロックの想定されるバイアスである想定クロックバイアスを“ba”と表記する。想定クロックバイアス“ba”は、位置算出処理において、繰り返し計算によって随時更新されていく値である。
【0031】
また、本実施形態では、便宜的に、位置算出装置の位置及びクロックバイアスでなる4次元のベクトルを、位置算出装置の状態“S”と定義する。すなわち、“S=(p,b)”と定義する。そして、位置算出装置の想定位置及び想定クロックバイアスでなる4次元のベクトルを、位置算出装置の想定状態“Sa”と定義する。すなわち、“Sa=(pa,ba)”と定義する。
【0032】
次に、位置算出装置とGPS衛星間の擬似距離を“ρc”と表記する。また、位置算出装置の想定位置“pa”と、GPS衛星の衛星位置“P(k)”とを用いて算出される位置算出装置とGPS衛星間の幾何距離を“ρa”と表記する。
【0033】
擬似距離“ρc”は、位置算出装置がGPS衛星信号を利用してメジャメント情報として取得するコード位相を用いて算出することができる。コード位相は、位置算出装置が受信したGPS衛星信号の拡散符号の位相である。GPS衛星信号は、拡散符号の一種であるCA(Coarse and Acquisition)コードによって、スペクトラム拡散方式として知られるCDMA(Code Division Multiple Access)方式によって変調された1.57542[GHz]の通信信号である。CAコードは、コード長1023チップを1PNフレームとする繰返し周期1msの擬似ランダム雑音符号であり、GPS衛星毎に異なるものである。
【0034】
観念的には、GPS衛星と位置算出装置間には複数のCAコードが並んでいると考えることができる。GPS衛星と位置算出装置間の距離は、ちょうどCAコードの整数倍の長さになるとは限らず、端数部分が生じ得る。この擬似距離の端数部分に相当するのが、GPS衛星信号のCAコードの位相である。なお、擬似距離の整数部分は、位置算出装置の初期位置と、衛星軌道情報から算出される衛星位置とを用いて算出可能である。
【0035】
さて、上述した擬似距離“ρc”及び幾何距離“ρa”は、次式(1)及び(2)のように定式化することができる。
【数1】
【数2】
【0036】
式(1)において、“ε”は擬似距離に含まれる残差を示している。GPSを利用した衛星測位システムでは、種々の誤差要因が存在するために、位置算出装置が測定する擬似距離には種々の誤差が重畳する。例えば、衛星クロックの誤差や、衛星軌道情報の誤差、電離層遅延、対流圏遅延、GPS受信装置の雑音による誤差などである。
【0037】
一般的に、位置算出装置は、GPS衛星から発信される航法メッセージデータや、公知のアシストサーバーから提供されるアシストデータなどを利用して、擬似距離に含まれる誤差成分のうちの補正可能な誤差成分については補正を行った上で、位置算出計算に利用する。しかし、既存のデータ(情報)だけでは補正ができない誤差成分が存在し、当該誤差成分は擬似距離に含まれる残差となる。
【0038】
一方で、位置算出装置の実在位置“p”は、想定位置“pa”を用いて、次式(3)のように表すことができる。また、位置算出装置の実クロックバイアス“b”は、想定クロックバイアス“ba”を用いて、次式(4)のように表すことができる。
【数3】
【数4】
但し、“δp”及び“δb”は、それぞれ想定位置及び想定クロックバイアスに対する未知の修正量である。
【0039】
このとき、式(1)及び式(2)で表される擬似距離“ρc”及び幾何距離“ρa”を用いて、次式(5)を定式化することができる。
【数5】
【0040】
式(5)において、2行目から3行目の近似には、ベクトルのノルムに対するテイラー級数近似を用いた。また、ベクトルの“L”は、位置算出装置の想定位置“pa”から見たGPS衛星の視線方向の単位ベクトルである。
【0041】
ここで、位置算出装置がK個のGPS衛星(GPS衛星信号)を捕捉することに成功したとする。この場合、式(5)を用いて、次式(6)のような連立方程式を立式することができる。
【数6】
但し、“δS”は状態“S=(p,b)”の未知の修正量を示す状態修正量である。
【0042】
式(6)の左辺のベクトル“δρ”は擬似距離の修正量ベクトルであり、次式(7)で表される。
【数7】
【0043】
また、式(6)の右辺の行列“G”は、位置算出装置から観測されるGPS衛星の衛星配置を決定付けるK×4の幾何行列であり、次式(8)で表される。
【数8】
【0044】
また、式(6)の右辺のベクトル“ε”は擬似距離残差ベクトルであり、次式(9)で表される。
【数9】
【0045】
式(6)において、未知数は、状態修正量“δS”の成分である位置修正量“δp=(δx,δy,δz)”及びクロックバイアス修正量“δb”の合計4個である。従って、式(6)は、K≧4の場合に解くことができる。K>4の場合は、式(6)は過決定方程式となるため、例えば最小二乗法を利用して、次式(10)のように状態修正量“δS”を近似的に求めることができる。
【数10】
【0046】
式(10)により状態修正量“δS”が近似的に求まれば、位置修正量“δp=(δx,δy,δz)”及びクロックバイアス修正量“δb”を用いて、式(3)及び(4)に従って、位置算出装置の位置及びクロックバイアスを求めることができる。
【0047】
ここで問題となるのが、上記の手法により算出された位置及びクロックバイアスが、常に信頼できる結果であるかどうかという点である。GPS衛星信号の受信環境等によっては、上記の位置及びクロックバイアスが信頼できるものであるとは限らない。というのは、式(9)から式(10)を導出するために最小二乗法を用いたが、最小二乗法では、擬似距離残差“ε”の分布が正規分布(ガウス分布)に従うと仮定して計算を行っているためである。
【0048】
図2は、擬似距離残差“ε”の正規分布モデルの説明図である。図2では、横軸を確率変数である擬似距離残差“ε”、縦軸を確率密度“p(ε)”とする正規分布に従う確率密度関数を示している。擬似距離に含まれる誤差成分の変動により、擬似距離残差“ε”の大きさは随時変化する。その場合の擬似距離残差“ε”の分布が、期待値(平均値)“μ”を“0”(μ=0)とし、標準偏差(誤差幅)を“σ”(分散“σ2”)とする正規分布N(0,σ2)に従うものと仮定して、最小二乗法による計算を行っている。
【0049】
しかしながら、擬似距離残差“ε”の分布は、必ずしも正規分布に従うとは限らない。なぜなら、GPS衛星信号の受信環境等によっては、擬似距離残差“ε”が“0”の近傍に分布するとは限らないためである。このような状況が想定される典型的な例は「マルチパス環境」である。
【0050】
図3は、マルチパス環境の説明図である。マルチパス環境では、GPS衛星から送出されたGPS衛星信号が、2以上の経路を通って位置算出装置に到達する。具体的には、位置算出装置が受信する信号は、GPS衛星から送信されるGPS衛星信号である直接波信号に、建物や地面等に反射した反射波や障害物を透過した透過波、障害物を回折した回折波等の間接波信号が重畳した信号(マルチパス信号)となる。図3では、直接波信号を点線で示し、間接波信号を一点鎖線で示している。
【0051】
間接波信号の存在により、位置算出装置が測定する擬似距離には誤差が生ずる。擬似距離は、位置算出装置がメジャメント情報として取得するコード位相を用いて算出されるが、マルチパス環境では、このコード位相に大きな誤差が含まれ得る。コード位相の誤差は、真のコード位相に対して正の誤差となる場合もあれば負の誤差となる場合もある。
【0052】
図4は、コード位相検出の原理の説明図である。図4では、横軸をCAコードの位相(コード位相)、縦軸を相関値として、C/Aコードの自己相関値の概略例を示している。尚、以下の説明では、相関値というときは、相関値の大きさ(絶対値)を意味するものとする。
【0053】
C/Aコードの自己相関値は、例えばピーク値を頂点とする左右対称の略三角形の形状で表される。この場合に、相関値のピーク値(以下、「相関ピーク値」と称す。)に対応する位相が、受信したGPS衛星信号のCAコードの位相である。位置算出装置は、コード位相の検出を次のように行う。あるコード位相に対して、一定量だけ進んだコード位相(以下、「進み位相」と称す。)と、一定量だけ遅れたコード位相(以下、「遅れ位相」と称す。)とのそれぞれにおける相関値を算出する。そして、進み位相の相関値と遅れ位相の相関値とが等しくなった場合に、その中心のコード位相をピーク位相として検出する。
【0054】
図4では、相関値は左右対称の略三角形の形状であるため、進み位相の相関値と遅れ位相の相関値との中心のコード位相がちょうどピーク値に対応するコード位相(以下、「ピーク位相」と称す。)となり、このコード位相がピーク位相として検出される(以下、「検出ピーク位相」と称す。)。図4の相関値の形状は理想形状であるが、マルチパス環境では相関値の形状が変化する。
【0055】
図5及び図6は、マルチパス環境における相関値の形状の一例を示す図である。図5は、間接波信号が直接波信号と同位相で到達した場合(0≦θ≦π)の相関結果の一例を示す図であり、図6は、間接波信号が直接波信号と逆位相で到達した場合(π<θ<2π)の相関結果の一例を示す図である。但し、“θ”は間接波信号の位相である。これらの図では、直接波信号と、間接波信号と、この直接波信号と間接波信号とを合成したマルチパス信号とのそれぞれに対応する相関値のグラフを示している。横軸はコード位相、縦軸は相関値である。
【0056】
間接波信号に対する相関値は、直接波信号に対する相関値と同様に略三角形の形状をなしているが、間接波信号の相関ピーク値の大きさは、直接波信号の相関ピーク値よりも小さい。これは、GPS衛星から送出されたGPS衛星信号が、建物や地面に反射したり障害物を透過することによって、送出された時点における信号強度が、受信時には弱められていることによるものである。
【0057】
また、間接波信号のピーク位相は、直接波信号のピーク位相よりも遅れている。これは、GPS衛星から送出されたGPS衛星信号が、建物や地面に反射したり障害物を回折することによって、GPS衛星から位置算出装置までの伝播距離が長くなったことによるものである。マルチパス信号に対する相関値は、直接波信号の相関値と間接波信号の相関値との和となるため、三角形状が歪んでピーク値を中心とした左右対称とはならない。
【0058】
間接波信号が直接波信号と同位相で位置算出装置に到達した場合は、直接波信号と間接波信号とは互いに強め合う。このため、合成波信号の相関値は、直接波信号に対する相関値の大きさと間接波信号に対する相関値の大きさとの合算値となる。この場合、相関値の形状は、図5に示すような形状となる。この図5において、検出ピーク位相は、実際のピーク値に対応するコード位相であるピーク位相よりも大きくなる。
【0059】
一方、間接波信号が直接波信号より半周期以上遅れて到達することで直接波信号と逆位相となった場合は、直接波信号と間接波信号とは互いに弱め合う。このため、合成波信号の相関値は、直接波信号に対する相関値の大きさから間接波信号に対する相関値の大きさを減じた値となる。この場合、相関値の形状は、図6に示すような形状となる。この図6において、検出ピーク位相は、実際のピーク値に対応するコード位相であるピーク位相よりも小さくなる。なお、図6において、間接波信号の相関値の大きさが直接波信号の相関値の大きさよりも大きい場合には、減算した後の値は負の値となるが、図6では絶対値として図示している。
【0060】
便宜的に、検出ピーク位相と実際のピーク位相との位相差を「コード位相誤差」と定義する。そして、検出ピーク位相が実際のピーク位相よりも遅れている場合のコード位相誤差の符号を「正」、検出ピーク位相が実際のピーク位相よりも進んでいる場合のコード位相誤差の符号を「負」と定義する。この場合、図5ではコード位相誤差は「正」となり、図6ではコード位相誤差は「負」となる。
【0061】
前述したように、擬似距離はコード位相を用いて算出されるため、コード位相の誤差は擬似距離に誤差として重畳される。すなわち、図5のようにコード位相に正の誤差が含まれると、擬似距離残差“ε”として正の誤差が重畳する。一方、図6のようにコード位相に負の誤差が含まれると、擬似距離残差“ε”として負の誤差が重畳する。
【0062】
このように、マルチパス環境においては、コード位相誤差に応じて、擬似距離残差“ε”が正の値とも負の値ともなり得る。勿論、擬似距離残差“ε”にはコード位相誤差以外の誤差成分も含まれる。そのため、これらの誤差成分の大きさ如何によっても、擬似距離残差“ε”は種々の値をとり得る。
【0063】
そこで、本実施形態では、想定される擬似距離残差“ε”の分布を、単純な正規分布と仮定するのではなく、複数の正規分布が混合した正規混合分布と仮定する。具体的には、擬似距離残差“ε”を変数とする正規混合分布に基づくモデル関数によって擬似距離残差“ε”をモデル化する。以下の説明では、正規混合分布モデルのことを適宜GMM(Gaussian Mixture Model)と表記する。そして、擬似距離残差“ε”の正規混合分布モデルのことを「擬似距離残差GMM」と称し、そのモデル関数のことを「擬似距離残差GMM関数」と称する。
【0064】
図7は、本実施形態における擬似距離残差GMM関数の一例を示す図である。本実施形態の擬似距離残差GMM関数は、第1の正規分布モデル関数“p1(ε)”と、第2の正規分布モデル関数“p2(ε)”との、正規分布に従う2種類の確率密度関数を合成した関数“p(ε)”として定義される。図7において、横軸は確率変数である擬似距離残差“ε”(単位はメートル)を示しており、縦軸は確率密度“p(ε)”を示している。また、第1の正規分布モデル関数“p1(ε)”を点線で示し、第2の正規分布モデル関数“p2(ε)”を一点鎖線で示し、擬似距離残差GMM関数“p(ε)”を太実線でそれぞれ示している。
【0065】
第1の正規分布モデル関数“p1(ε)”は、位置算出装置が直接波信号を受信することを想定した擬似距離残差“ε”のモデル関数である。間接波信号の影響がなければ、擬似距離残差“ε”は“0メートル”の近傍の値となることが期待される。そのため、擬似距離残差の期待値“μ”を“0メートル”(μ=0)とし、標準偏差“σ”を比較的小さな値である“10メートル”(σ=10)とする正規分布関数N(0,102)で第1の正規分布モデル関数“p1(ε)”をモデル化した。
【0066】
第2の正規分布モデル関数“p2(ε)”は、位置算出装置が直接波信号及び間接波信号を受信することを想定した擬似距離残差“ε”のモデル関数である。前述したように、コード位相誤差の符号により、擬似距離残差“ε”は正負の何れの値ともなり得る。そのため、第2の正規分布モデル関数“p2(ε)”の擬似距離残差の期待値“μ”を、正負の中心である“0メートル”(μ=0)とした。また、コード位相誤差の大きさによっては、擬似距離残差“ε”に大きな誤差が含まれ得る。そのため、擬似距離残差の標準偏差“σ”を大きめに見積もって“100メートル”(σ=100)とした。すなわち、第2の正規分布モデル関数“p2(ε)”を正規分布関数N(0,1002)とした。
【0067】
次に、第1の正規分布モデル関数“p1(ε)”と第2の正規分布モデル関数“p2(ε)”とを混合する割合(合成比率)を次のように設定した。位置算出装置がマルチパスの影響を受ける割合は、それほど高くないと考えられる。そこで、位置算出装置が1割の確率でマルチパスの影響を受けると仮定して、第1の正規分布モデル関数“p1(ε)”の重みを“9/10(9割)”とし、第2の正規分布モデル関数“p1(ε)”の重みを“1/10(1割)”とした。従って、擬似距離残差GMM関数は、第1の正規分布モデル関数“p1(ε)”を9/10倍した関数と、第2の正規分布モデル関数“p2(ε)”を1/10倍した関数とを混合(合成)した関数として定義した。
【0068】
なお、擬似距離残差GMM関数は確率密度関数であるため、擬似距離残差GMM関数を全擬似距離残差について積分すると“1”になる。
【0069】
本実施形態では、上述した擬似距離残差GMM関数を用いて、最尤推定法と呼ばれる推定手法を用いて位置算出計算を行う。最尤推定法は、観測されたサンプルデータを元に、仮定される確率モデルにおいて一番確率の高いであろうパラメーターを推定する手法である。
【0070】
図8は、本実施形態における最尤推定法を用いた位置算出計算の説明図である。今、第1衛星〜第K衛星までのK個のGPS衛星が捕捉されたとする。位置算出計算は、捕捉されたK個の衛星それぞれについて、図1で説明した幾何距離、擬似距離、視線方向といった位置算出計算用の各諸量を算出し、これらの諸量を用いた収束計算を行うことにより実現する。
【0071】
収束計算では、設定した初期値が所定の収束条件を満たすまで、初期値を随時更新していく演算が行われる。本実施形態では、位置算出装置の位置及びクロックバイアスでなる状態“S”の修正量である状態修正量“δS=(δp,δb)=(δx,δy,δz,δb)”を更新対象のパラメーターとして収束計算を行う。すなわち、状態修正量“δS”に初期値を設定した後、第1〜第K衛星についてそれぞれ求められる擬似距離残差“ε(1),ε(2),・・・,ε(K)”が同時発生する確率密度(広義には確率)を最大化するように状態修正量“δS”を更新する。
【0072】
具体的に説明する。収束計算の各ステップ(s=1,2,・・・)それぞれについて、K個の捕捉衛星について擬似距離残差“ε(1),ε(2),・・・,ε(K)”が同時発生する確率密度を、尤度“L”として次式(11)に従って求める。
【数11】
【0073】
式(11)において、右辺の“p(k)(ε)”はk番目の衛星に関する擬似距離残差GMM関数であり、“ε(k)”はk番目の衛星について算出された擬似距離残差を示している。本実施形態では、全ての衛星について擬似距離残差GMM関数“p(k)(ε)”を共通の関数(図7の擬似距離残差GMM関数)とする。
【0074】
求めたい解は、尤度“L”を最大化する状態修正量“δS”である。従って、尤度“L”の微分を“0”とする状態修正量“δS”を求めればよいことになる。ところが、式(11)から分かるように、尤度“L”はK個の擬似距離残差GMM関数の積で表されており、微分計算が困難である。そこで、尤度“L”の対数をとった対数尤度“logL”を用いた計算を行う。対数尤度“logL”は、次式(12)で与えられる。
【数12】
【0075】
尤度“L”を最大化する状態修正量“δS”を求めることは、式(12)で与えられる対数尤度“logL”を最大化する状態修正量“δS”を求めることと等価である。これを計算機(コンピューター)を用いて実現するために、本実施形態では、最適化問題に対するアルゴリズムの一種であるEM(Expectation Maximum)アルゴリズムを用いる。
【0076】
EMアルゴリズムは、確率モデルのパラメーターを最尤推定法に基づいて推定する手法の一種である。観測可能なデータ(サンプル)の他に、観測不可能なデータ(隠しパラメーター)が存在する場合であって、当該隠しパラメーターが確率モデルに依存する場合に用いられる手法である。
【0077】
EMアルゴリズムは反復法の一種であり、Q関数と呼ばれる関数に従って、期待値ステップであるE(Expectation)ステップと、最大化ステップであるM(Maximum)ステップとの2つのステップを反復することで、最尤推定値を探索する。
【0078】
推定対象パラメーターを状態修正量“δS”とする。また、観測可能なデータ(サンプル)を、収束計算で繰り返し算出される擬似距離残差“ε”のデータとする。また、隠しパラメーター(潜在変数)“t”及びQ関数“Q”を、例えば次式(13)及び(14)のように定義する。
【数13】
【数14】
【0079】
式(13)において、“p1”は擬似距離残差GMM関数を構成する第1の正規分布モデル関数であり、“p2”は擬似距離残差GMM関数を構成する第2の正規分布モデル関数である。また、“α1”は第1の正規分布モデル関数の重みである。また、式(14)において、“δS0”は状態修正量の初期値を示しており、“δS”は状態修正量の更新後の値を示している。
【0080】
EMアルゴリズムは従来公知であるため、解の導出に至るまでの詳細な式変形等については省略する。最終的に、状態修正量“δS”の推定値は、次式(15)のように求められる。
【数15】
但し、“μ1”及び“μ2”はそれぞれ第1及び第2の正規分布モデル関数の期待値である。
【0081】
また、式(15)において、“M1”及び“M2”は第1及び第2の正規分布モデル関数それぞれについて定められる行列であり、次式(16)及び(17)で与えられる。
【数16】
【数17】
【0082】
式(16)及び(17)において、“σ1”及び“σ2”はそれぞれ第1及び第2の正規分布モデル関数の標準偏差である。また、“δk,l”はクロネッカーのデルタであり、次式(18)で与えられる。
【数18】
【0083】
行列“M1”及び“M2”の最後に括弧書きで示した下付きの添え字は、それぞれ行と列の番号に対応する。なお、行に対応する番号“k”は、GPS衛星の番号(k=1,2,・・・,K)に対応する。クロネッカーのデルタ“δk,l”を含むため、行列“M1”及び“M2”は、行と列の番号が等しい成分のみ値を持ち、それ以外の成分は“0”となる。そのため、“M1”及び“M2”は対角行列となる。
【0084】
式(15)のように状態修正量“δS”が求まれば、式(3)に従って、想定位置“pa”に位置修正量“δp”を加算することで実在位置“p”を算出することができる。また、式(4)に従って、想定クロックバイアス“ba”にクロックバイアス修正量“δb”を加算することで実クロックバイアス“b”を算出することができる。
【0085】
2.実験結果
本実施形態の位置算出手法で位置算出計算を行った実験結果について説明する。従来の手法と本実施形態の手法とのそれぞれを用いて、異なる擬似距離残差“ε”のサンプル数で位置算出を繰り返し行い、位置算出の精度を測定する実験を行った。位置算出の回数は“200回”とした。
【0086】
図9は、擬似距離残差“ε”のサンプル数を“50個”とした場合(ε=ε(1),ε(2),・・・,ε(50))の実験結果を示すグラフである。グラフの横方向は東西方向の位置算出精度を示しており、縦方向は南北方向の位置算出精度を示している。グラフの中心は位置誤差“0”に相当し、グラフの中心に近いほど位置算出精度が高いことを意味する。四角形のプロットが従来の手法で位置算出計算を行った場合の位置誤差を示しており、米印のプロットが本実施形態の手法で位置算出計算を行った場合の位置誤差を示している。各々のプロットの個数は位置算出回数に対応して200個である。
【0087】
図9のグラフを見ると、従来の手法では、プロットが全体的に広くばらついており、位置算出精度が低いことがわかる。一方、本実施形態の手法では、プロットが全体的に中心部に集中しており、従来の手法と比べて位置算出精度が向上していることがわかる。
【0088】
図10は、擬似距離残差“ε”のサンプル数を“8個”とした場合(ε=ε(1),ε(2),・・・,ε(8))の実験結果を示すグラフである。グラフの見方は図9と同じであるが、グラフの1マスの単位が異なる。
【0089】
図10のグラフを見ても、本実施形態の手法ではプロットがグラフの中心部に集中しており、従来の手法と比べて位置算出精度が改善されていることがわかる。また、図9及び図10の実験結果から、擬似距離残差“ε”のサンプル数を多くするほど、位置算出精度が向上することがわかる。
【0090】
このように位置算出精度が向上する理由について考察する。本願発明者が実験を行った結果、マルチパス環境では、正負それぞれについて100メートルを超えるような大きな誤差が擬似距離に混入する場合があることがわかった。このような大きな誤差が擬似距離に混入した場合、従来の正規分布に従う確率密度関数を用いて当該誤差に対応する確率密度(確率)を算出すると、限りなく“0”に近い値となってしまう。位置算出計算では、複数の捕捉衛星についての擬似距離の誤差の同時発生確率を最大化するように最尤推定を行うため、確率密度が微小となる衛星が含まれると、当該衛星の確率密度に引きずられて最尤推定に失敗する(或いは精度が極端に悪い推定結果となる)可能性が高まる。
【0091】
しかし、本実施形態において定義した擬似距離残差GMM関数は、図7に示すように誤差幅の広い第2の正規分布モデル関数を混合したことにより、裾野の広い確率密度関数となっている。そのため、100メートルといった大きな誤差が擬似距離に混入したとしても、当該誤差に対応する確率密度はある程度大きな値となる。すると、微小な確率密度に引きずられて最尤推定に失敗する可能性が低下し、最尤推定が適切に行われるようになる。その結果、収束計算によって正確性の高い位置が算出されることとなる。
【0092】
3.実施例
次に、位置算出装置を備えた電子機器の一種である携帯型電話機に本発明を適用した場合の実施例について説明する。なお、本発明を適用可能な実施例が以下説明する実施例に限定されるわけではないことは勿論である。
【0093】
3−1.機能構成
図11は、本実施例における携帯型電話機1の機能構成の一例を示すブロック図である。携帯型電話機1は、GPSアンテナ5と、GPS受信部10と、処理部30と、操作部40と、表示部50と、携帯電話用アンテナ60と、携帯電話用無線通信回路部70と、記憶部80とを備えて構成される。
【0094】
GPSアンテナ5は、GPS衛星から発信されているGPS衛星信号を含むRF(Radio Frequency)信号を受信するアンテナであり、受信信号をGPS受信部10に出力する。
【0095】
GPS受信部10は、GPSアンテナ5から出力された信号に基づいて携帯型電話機1の位置を計測する位置算出回路或いは位置算出装置であり、GPS受信装置に相当する機能ブロックである。GPS受信部10は、RF受信回路部11と、ベースバンド処理回路部20とを備えて構成される。なお、RF受信回路部11と、ベースバンド処理回路部20とは、それぞれ別のLSI(Large Scale Integration)として製造することも、1チップとして製造することも可能である。
【0096】
RF受信回路部11は、RF信号の受信回路である。回路構成としては、例えば、GPSアンテナ5から出力されたRF信号をA/D変換器でデジタル信号に変換し、デジタル信号を処理する受信回路を構成してもよい。また、GPSアンテナ5から出力されたRF信号をアナログ信号のまま信号処理し、最終的にA/D変換することでデジタル信号をベースバンド処理回路部20に出力する構成としてもよい。
【0097】
後者の場合には、例えば、次のようにRF受信回路部11を構成することができる。すなわち、所定の発振信号を分周或いは逓倍することで、RF信号乗算用の発振信号を生成する。そして、生成した発振信号を、GPSアンテナ5から出力されたRF信号に乗算することで、RF信号を中間周波数の信号(以下、「IF(Intermediate Frequency)信号」と称す。)にダウンコンバートし、IF信号を増幅等した後、A/D変換器でデジタル信号に変換して、ベースバンド処理回路部20に出力する。
【0098】
ベースバンド処理回路部20は、RF受信回路部11から出力された受信信号に対して相関処理等を行ってGPS衛星信号を捕捉し、GPS衛星信号から取り出した衛星軌道データや時刻データ等に基づいて、所定の位置算出計算を行って携帯型電話機1の位置(位置座標)を算出する処理回路ブロックである。
【0099】
図12は、ベースバンド処理回路部20の回路構成の一例を示す図であり、本実施例に係わる回路ブロックを中心に記載した図である。ベースバンド処理回路部20は、乗算部21と、キャリア除去用信号発生部22と、相関演算回路部23と、レプリカコード発生部24と、処理部25と、記憶部27とを備えて構成される。
【0100】
乗算部21は、キャリア除去用信号発生部22により生成・発生されたキャリア除去用信号を受信信号に乗算することで、受信信号をキャリアの除去された信号にダウンコンバージョンする回路部であり、例えば乗算器を有して構成される。乗算部21からは、受信信号からキャリア成分が除去されたCAコード(以下、「受信CAコード」と称す。)が相関演算回路部23に出力される。
【0101】
キャリア除去用信号発生部22は、GPS衛星信号のキャリア信号の周波数と同一の周波数のキャリア除去用信号を生成する回路であり、キャリアNCO(Numerical Controlled Oscillator)等の発振器を有して構成される。なお、RF受信回路部11から出力される信号がIF信号である場合には、IF周波数のキャリア除去用信号を生成する。このように、RF受信回路部11が受信信号をIF信号にダウンコンバージョンする場合も、本実施例は実質的に同一に適用可能である。
【0102】
相関演算回路部23は、乗算部21から出力された受信CAコードと、レプリカコード発生部24により生成されたレプリカCAコードとの相関演算を行い、相関演算結果を処理部25に出力する回路部であり、複数の相関器(コリレーター)等を有して構成される。
【0103】
相関演算回路部23は、受信信号のIQ成分それぞれに対して、レプリカコード発生部24から入力したレプリカCAコードとの相関演算を行う。なお、受信信号のIQ成分の分離(IQ分離)を行う回路ブロックについては図示を省略するが、任意の回路ブロックを適用可能である。例えば、RF受信回路部11において受信信号をIF信号にダウンコンバージョンする際に、位相が90度異なる局部発振信号を受信信号に乗算することでIQ分離を行うこととしてもよい。
【0104】
レプリカコード発生部24は、GPS衛星信号の拡散符号であるCAコードを模擬したレプリカCAコードを生成する回路部であり、コードNCO等の発振器を有して構成される。レプリカコード発生部24は、処理部25から指示されたPRN番号(衛星番号)に応じたレプリカCAコードを、指示された位相に応じて出力位相(時間)を調整して生成して相関演算回路部23に出力する。
【0105】
処理部25は、ベースバンド処理回路部20の各機能部を統括的に制御する制御装置であり、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサーを有して構成される。処理部25は、主要な機能部として、衛星信号捕捉部251と、位置算出処理部253とを有する。
【0106】
衛星信号捕捉部251は、相関演算回路部23から出力される相関演算結果を所定の相関積算時間分積算する相関処理を行う。そして、相関処理で得られた相関積算結果に基づいてGPS衛星信号を捕捉する。
【0107】
位置算出処理部253は、衛星信号捕捉部251により捕捉されたGPS衛星信号を利用した位置算出計算を行って携帯型電話機1の位置を算出する処理部である。位置算出処理部253は、衛星信号捕捉部251により捕捉されたGPS衛星信号を利用して擬似距離を算出する擬似距離算出部として機能するとともに、記憶部27に記憶された擬似距離残差GMMデータ273を用いて位置を算出する位置算出部として機能する。
【0108】
少なくとも、擬似距離算出部及び位置算出部として機能する位置算出処理部253を含んで本実施形態の位置算出装置が構成される。なお、位置算出装置は、図12のベースバンド処理回路部20の他の構成を含んでいてもよい。また、図11の携帯型電話機1の他の構成を含んでいてもよい。
【0109】
記憶部27は、ROM(Read Only Memory)やフラッシュROM、RAM(Random Access Memory)等の記憶装置(メモリー)によって構成され、ベースバンド処理回路部20のシステムプログラムや、衛星信号捕捉機能、位置算出機能等の各種機能を実現するための各種プログラム、データ等を記憶している。また、各種処理の処理中データ、処理結果などを一時的に記憶するワークエリアを有する。
【0110】
記憶部27には、例えば図12に示すように、プログラムとして、処理部25により読み出され、ベースバンド処理(図15参照)として実行されるベースバンド処理プログラム271が記憶されている。ベースバンド処理プログラム271は、位置算出処理(図16参照)として実行される位置算出プログラム2711をサブルーチンとして有している。
【0111】
また、記憶部27には、衛星軌道データ272と、擬似距離残差GMMデータ273と、衛星別メジャメントデータ274と、衛星別位置算出諸量データ275と、衛星移動データ276と、端末移動データ277とが記憶される。
【0112】
ベースバンド処理とは、処理部25が、捕捉対象とするGPS衛星(以下、「捕捉対象衛星」と称す。)それぞれについて、相関処理を行ってGPS衛星信号を捕捉する処理を行い、捕捉したGPS衛星信号を利用した位置算出処理を行って携帯型電話機1の位置を算出する処理である。
【0113】
また、位置算出処理とは、位置算出処理部253が、上述した原理で説明した位置算出方法を用いた位置算出計算を行って、携帯型電話機1の位置を算出する処理である。これらの処理については、フローチャートを用いて詳細に後述する。
【0114】
衛星軌道データ272は、全てのGPS衛星の概略の衛星軌道情報を記憶したアルマナックや、各GPS衛星それぞれについて詳細な衛星軌道情報を記憶したエフェメリス等のデータである。衛星軌道データ272は、GPS衛星から受信したGPS衛星信号を復調することで取得する他、例えば携帯型電話機1の基地局やアシストサーバーからアシストデータとして取得することが可能である。
【0115】
擬似距離残差GMMデータ273は、擬似距離残差“ε”を正規混合分布に基づいてモデル化した擬似距離残差正規混合分布モデル(擬似距離残差GMM)が格納されたデータである。データとしては、擬似距離残差“ε”を確率変数とする擬似距離残差GMM関数“p(ε)”を格納しておいてもよいし、擬似距離残差“ε”と確率密度“p(ε)”とをテーブル形式に対応付けた擬似距離残差GMMテーブルを格納しておいてもよい。何れの形式のデータであっても、擬似距離に含まれる誤差の分布を正規混合分布で表した正規混合分布モデルであることに変わりはない。
【0116】
衛星別メジャメントデータ274は、メジャメント情報がGPS衛星別に記憶されたデータであり、そのデータ構成例を図13に示す。衛星別メジャメントデータ274には、捕捉したGPS衛星の番号2741と対応付けて、メジャメント情報の取得時刻2743及びメジャメント情報2745でなるメジャメントデータが記憶されている。
【0117】
メジャメント情報2745には、当該GPS衛星から受信したCAコード(受信CAコード)の位相であるコード位相と、当該GPS衛星からGPS衛星信号を受信した際の周波数である受信周波数とが含まれる。コード位相は、擬似距離の算出等に用いられる。また、受信周波数は、周波数サーチや、端末の移動速度及び移動方向の算出等に用いられる。
【0118】
衛星別位置算出諸量データ275は、位置算出計算に使用される諸量がGPS衛星別に記憶されたデータであり、そのデータ構成例を図14に示す。衛星別位置算出諸量データ275には、捕捉したGPS衛星の番号2751と対応付けて、位置算出諸量の算出時刻2752、擬似距離2753、幾何距離2754、距離差2755及び視線方向2756を含む位置算出諸量データが記憶されている。
【0119】
衛星移動データ276は、GPS衛星の移動状態を示す衛星移動情報が格納されたデータである。具体的には、例えば各GPS衛星の位置、移動速度及び移動方向が時系列に格納される。衛星移動情報は、衛星軌道データ272に記憶された衛星軌道情報と、不図示の時計部により計時される時刻情報とを用いて算出される。
【0120】
端末移動データ277は、携帯型電話機1の移動状態を示す端末移動情報が格納されたデータである。具体的には、例えば携帯型電話機1の位置、移動速度及び移動方向が時系列に格納される。携帯型電話機1の位置は、原理で説明した位置算出計算により算出される。また、携帯型電話機1の移動速度及び移動方向は、例えばメジャメント情報に含まれる受信周波数を用いた公知の速度算出計算により算出される。
【0121】
図11の機能ブロックに戻って、処理部30は、記憶部80に記憶されているシステムプログラム等の各種プログラムに従って携帯型電話機1の各部を統括的に制御するプロセッサーであり、ホストCPUとして機能する。処理部30は、通話機能やメール送受信機能、インターネット機能、カメラ機能といった携帯電話機としての本来的な機能を発揮させるための処理を行う。また、ベースバンド処理回路部20から出力された位置座標をもとに、表示部50に現在位置を指し示した地図を表示させる処理を行ったり、その位置座標を各種のアプリケーション処理に利用する。
【0122】
操作部40は、例えばタッチパネルやボタンスイッチ等により構成される入力装置であり、押下されたキーやボタンの信号を処理部30に出力する。この操作部40の操作により、通話要求やメール送受信要求、位置算出要求等の各種指示入力がなされる。
【0123】
表示部50は、LCD(Liquid Crystal Display)等により構成され、処理部30から入力される表示信号に基づいた各種表示を行う表示装置である。表示部50には、位置表示画面や時刻情報等が表示される。
【0124】
携帯電話用アンテナ60は、携帯型電話機1の通信サービス事業者が設置した無線基地局との間で携帯電話用無線信号の送受信を行うアンテナである。
【0125】
携帯電話用無線通信回路部70は、RF変換回路、ベースバンド処理回路等によって構成される携帯電話の通信回路部であり、携帯電話用無線信号の変調・復調等を行うことで、通話やメールの送受信等を実現する。
【0126】
記憶部80は、処理部30が携帯型電話機1を制御するためのシステムプログラムや、各種アプリケーション処理を実行するための各種プログラムやデータ等を記憶する記憶装置である。
【0127】
3−2.処理の流れ
図15は、記憶部27に記憶されているベースバンド処理プログラム271が処理部25により読み出されて実行されることで、ベースバンド処理回路部20において実行されるベースバンド処理の流れを示すフローチャートである。
【0128】
最初に、衛星信号捕捉部251は、捕捉対象衛星判定処理を行う(ステップA1)。具体的には、不図示の時計部で計時されている現在時刻において、所与の基準位置の天空に位置するGPS衛星を、記憶部27に記憶された衛星軌道データ272を用いて判定して、捕捉対象衛星を決定する。基準位置は、例えば、電源投入後の初回の位置算出の場合は、いわゆるサーバーアシストによってアシストサーバーから取得した位置としたり、電源切断前の最後に算出した位置とすることができる。また、2回目以降の位置算出の場合は、最新の算出位置とする等の方法で設定できる。
【0129】
次いで、衛星信号捕捉部251は、ステップA1で判定した各捕捉対象衛星についてループAの処理を実行する(ステップA3〜A19)。ループAの処理では、衛星信号捕捉部251は、レプリカCAコードのコード位相の初期値である初期位相を設定する(ステップA5)。当該捕捉対象衛星の初回捕捉時には、初期位相として任意の位相を設定することができる。また、2回目以降の捕捉時には、例えば当該捕捉対象衛星を前回捕捉した際の位相を初期位相として設定することができる。
【0130】
その後、衛星信号捕捉部251は、当該捕捉対象衛星のPRN番号と、レプリカCAコードの位相とを指示する指示信号を、レプリカコード発生部24に出力する(ステップA7)。
【0131】
次いで、衛星信号捕捉部251は、相関処理を行う(ステップA9)。具体的には、相関演算回路部23から出力される相関演算結果を所定の相関積算時間(例えば20ミリ秒)に亘って積算する処理を行う。相関演算結果を積算するのは、弱電界環境等において受信信号が微弱であるために、相関演算結果である相関値のピークが埋もれてしまうことを防止し、ピーク検出を容易ならしめるためである。
【0132】
相関処理を行った後、衛星信号捕捉部251は、相関積算結果に対するピーク検出を行い(ステップA11)、ピークが検出されなかったと判定した場合は(ステップA11;No)、レプリカCAコードの位相を変更して(ステップA13)、ステップA7に戻る。また、ピークが検出されたと判定した場合は(ステップA11;Yes)、衛星信号捕捉部251は、検出したピークに対応するコード位相をメジャメント情報2745として、取得時刻2743と対応付けてメジャメントデータに記憶させる(ステップA15)。
【0133】
なお、図示及び詳細な説明を省略するが、衛星信号捕捉部251は、サーチ周波数を変化させながらGPS衛星信号の周波数サーチも行う。そして、GPS衛星信号のサーチに成功した周波数を受信周波数とし、メジャメント情報2745としてメジャメントデータに記憶させる。
【0134】
次いで、衛星信号捕捉部251は、衛星移動情報を算出する(ステップA17)。具体的には、記憶部27に記憶された衛星軌道データ272に基づいて、不図示の時計部で計時されている時刻における当該捕捉対象衛星の衛星位置、衛星速度及び衛星移動方向を算出し、衛星移動データ276として記憶部27に記憶させる。
【0135】
その後、衛星信号捕捉部251は、次の捕捉対象衛星へと処理を移行する。全ての捕捉対象衛星についてステップA5〜A17の処理を行うと、衛星信号捕捉部251は、ループAの処理を終了する(ステップA19)。そして、位置算出処理部253が、記憶部27に記憶されている位置算出プログラム2711に従って位置算出処理を行う(ステップA21)。
【0136】
図16は、位置算出処理の流れを示すフローチャートである。
先ず、位置算出処理部253は、携帯型電話機1の状態“S=(p,b)”及び状態修正量“δS=(δp,δb)”を初期設定する(ステップB1)。状態の初期値“S0=(p0,b0)”は、例えば、初回の位置算出の場合は任意の値、2回目以降の位置算出の場合は前回算出した値(最新の値)とすることができる。この初期化された状態は、想定状態“Sa=(pa,ba)”として、以下の繰り返し計算により随時更新されていくことになる。状態修正量“δS”も、任意の値を設定するなどして同様に初期化する。
【0137】
次いで、位置算出処理部253は、各捕捉衛星について擬似距離“ρc”を算出し、衛星別位置算出諸量データ275に記憶させる(ステップB3)。擬似距離“ρc”は、衛星別メジャメントデータ274にメジャメント情報として記憶されているコード位相を用いて算出することができる。
【0138】
次いで、位置算出処理部253は、各捕捉衛星について幾何距離“ρa”を算出し、衛星別位置算出諸量データ275に記憶させる(ステップB5)。幾何距離“ρa”は、衛星移動データ276に記憶されている最新の衛星位置“P(k)”と、携帯型電話機1の最新の想定状態“Sa”に含まれる想定位置“pa”との間の距離として算出される。
【0139】
その後、位置算出処理部253は、各捕捉衛星について、ステップB3で算出した擬似距離“ρc”とステップB5で算出した幾何距離“ρa”との距離差“δρ”を算出し、衛星別位置算出諸量データ275に記憶させる(ステップB7)。
【0140】
次いで、位置算出処理部253は、各捕捉衛星について視線方向の単位ベクトル“L”を算出し、衛星別位置算出諸量データ275に記憶させる(ステップB9)。視線方向の単位ベクトル“L”は、向きを携帯型電話機1の最新の想定位置“pa”から衛星位置“P(k)”に向かう方向とし、大きさ(ノルム)を“1”とするベクトルとして算出することができる。
【0141】
その後、位置算出処理部253は、ステップB9で算出した視線方向の単位ベクトル“L”を用いて、式(8)の幾何行列“G”を設定する(ステップB11)。そして、各捕捉衛星について、ステップB5〜B11で求めた各諸量を用いて、式(6)に従って擬似距離残差“ε”を算出する(ステップB13)。
【0142】
次いで、位置算出処理部253は、記憶部27の擬似距離残差GMMデータ273を用いて、式(15)に従って状態修正量“δS”を算出する(ステップB15)。すなわち、EMアルゴリズムを適用した計算により状態修正量“δS”を新たに算出する。
【0143】
その後、位置算出処理部253は、収束条件が成立したか否かを判定する(ステップB17)。具体的には、今回新たに算出した状態修正量“δS”と、前回算出された状態修正量“δS”との差分を算出する。差分は、状態修正量“δS”のベクトルの差のノルムで表される。そして、算出した差分が所定の閾値未満である場合に、収束条件が成立したと判定する。
【0144】
収束条件が成立しなかったと判定した場合は(ステップB17;No)、位置算出処理部253は、最新の状態修正量“δS”を用いて状態“S”を更新する(ステップB19)。そして、ステップB3に戻る。また、収束条件が成立したと判定した場合は(ステップB17;Yes)、位置算出処理部253は、最新の状態修正量“δS”を用いて状態“S”を決定する(ステップB21)。
【0145】
そして、位置算出処理部253は、ステップB21で決定した状態“S”に基づいて、表示部50に表示出力させる出力位置を決定する(ステップB23)。具体的には、状態“S”に含まれる位置“p”をそのまま出力位置に決定してもよいし、過去の出力位置を併用して公知のフィルター処理(例えばPV(Position Velocity)フィルター処理)を行って出力位置を決定してもよい。そして、位置算出処理部253は、位置算出処理を終了する。
【0146】
図15のベースバンド処理に戻って、処理部30は、位置算出処理で決定した出力位置を表示部50に表示させる(ステップA23)。そして、処理部30は、処理を終了するか否かを判定し(ステップA25)、まだ終了しないと判定した場合は(ステップA25;No)、ステップA1に戻る。また、終了すると判定した場合は(ステップA25;Yes)、ベースバンド処理を終了する。
【0147】
4.作用効果
本実施形態によれば、GPS衛星からGPS衛星信号を受信して擬似距離が算出される。そして、擬似距離に含まれる誤差(残差)の分布を正規混合分布で表した擬似距離正規混合分布モデルを用いて、最尤推定法に基づく位置算出計算が行われることで、位置算出装置(ユーザー)の位置が算出される。
【0148】
具体的には、GPS衛星信号の拡散符号であるCAコードと、装置内部で発生させたレプリカCAコードとの相関処理により、受信CAコードのコード位相が検出され、当該コード位相を用いて擬似距離が算出される。また、想定される位置算出装置の位置(想定位置)とGPS衛星の衛星位置とを用いて、位置算出装置とGPS衛星間の幾何距離が算出されるとともに、想定位置から衛星位置への視線方向が算出される。そして、これらの諸量を用いて擬似距離残差が算出され、当該擬似距離残差に対応する確率(確率密度)が算出される。捕捉した各GPS衛星それぞれについて確率が算出されると、最尤推定法に基づく繰り返し計算によって想定位置が更新されることで、位置算出装置の位置が算出される。
【0149】
擬似距離残差正規混合分布モデルは、例えば擬似距離残差“ε”を変数とする確率密度関数として定義される。より詳細には、位置算出装置の通常時の受信環境を想定した第1の正規分布関数“p1(ε)”と、マルチパス環境を想定した第2の正規分布関数“p2(ε)”とを混合した確率密度関数として定義される。かかる擬似距離残差正規混合分布モデルを用いることで、通常時の受信環境において位置算出が正確に行われることは勿論、マルチパス環境においても位置算出を正確に行うことが可能となる。
【0150】
5.変形例
5−1.擬似距離残差GMM関数の種類
上述した実施形態では、原理で詳細に説明したように、マルチパス環境における擬似距離残差“ε”の挙動を想定して擬似距離残差“ε”のモデル化を行った。上述した実施形態で説明したモデル関数は、そのモデル化の一例である。図7で説明した擬似距離残差GMM関数において、擬似距離残差の期待値や標準偏差を僅かにずらしたり、第1及び第2の正規分布モデル関数の合成比率(モデル関数の重み)を適宜調整するといったことは当然に可能である。
【0151】
また、単純にマルチパス環境といっても、GPS衛星信号の受信状況は多様である。そこで、図7の擬似距離残差GMM関数とは異なる形状の擬似距離残差GMM関数を定義することも可能である。
【0152】
図17は、他の擬似距離残差GMM関数の一例である第2の擬似距離残差GMM関数を示す図である。第2の擬似距離残差GMM関数は、図7の擬似距離残差GMM関数と同様に、第1の正規分布モデル関数“p1(ε)”と第2の正規分布モデル関数“p2(ε)”との2種類の確率密度関数を混合(合成)した確率密度関数“p(ε)”として定義される。
【0153】
第1の正規分布モデル関数“p1(ε)”は、位置算出装置が直接波信号を受信することを想定した擬似距離残差“ε”のモデル関数であり、正規分布関数N(0,102)として表される。一方、第2の正規分布モデル関数“p2(ε)”は、マルチパス環境等において位置算出装置が間接波信号を受信することを想定した擬似距離残差“ε”のモデル関数である。
【0154】
図7の擬似距離残差GMM関数と大きく異なるのは、第2の正規分布モデル関数“p2(ε)”が、直接波信号及び間接波信号を受信することを想定したモデル関数ではなく、間接波信号のみを受信することを想定したモデル関数である点である。これは、例えば図18に示すように、位置算出装置の近傍に高層ビル等の障害物が存在している環境において起こり得る。位置算出装置の天空が完全に開けていないために、GPS衛星から送出された信号は障害物に反射し、間接波信号として位置算出装置に到達する。しかし、障害物に遮られて、直接波信号は位置算出装置に到達しない。この典型例は「アーバンキャニオン環境」である。
【0155】
本願発明者が実験を行った結果、アーバンキャニオン環境では、擬似距離残差“ε”として+100〜+150メートル程度の正の誤差が含まれる傾向があることがわかった。そこで、図17の第2の擬似距離残差GMM関数では、第2の正規分布モデル関数“p2(ε)”の期待値“μ”を“100メートル”(μ=100)とし、標準偏差“σ”を“20メートル”(σ=20)とした。すなわち、“p2(ε)=N(100,202)”とした。
【0156】
第1及び第2の正規分布モデル関数の合成比率は、位置算出装置が2割の確率でマルチパスの影響を受けると仮定して決定した。すなわち、第1の正規分布モデル関数“p1(ε)”の重みを“8/10(8割)”とし、第2の正規分布モデル関数“p2(ε)”の重みを“2/10(2割)”とした。従って、第2の擬似距離残差GMM関数“p(ε)”は、第1の正規分布モデル関数“p1(ε)”を8/10倍した関数と、第2の正規分布モデル関数“p2(ε)”を2/10倍した関数とを混合(合成)した確率密度関数として定義される。
【0157】
図19は、図17の第2の擬似距離残差GMM関数を用いて位置算出計算を行った実験結果の一例を示す図である。従来の手法と本変形例の手法とのそれぞれについて、擬似距離残差“ε”のサンプル数を“8個”として(ε=ε(1),ε(2),・・・,ε(8))、位置算出を繰り返し行う実験を試行した。位置算出の試行回数は200回であり、グラフの見方は図9及び図10と同じである。このグラフを見ると、従来の手法では、プロットは横軸の上方に偏って分布しており、位置算出精度が低くなっていることがわかる。一方、本変形例の手法では、プロットが全体的に中心部にシフトしており、位置算出精度が向上していることがわかる。
【0158】
5−2.擬似距離残差GMM関数の設定・切替
上記の擬似距離残差GMM関数の変形例とも関連するが、GPS衛星信号の受信環境やGPS衛星信号の信号強度等の条件に基づいて、擬似距離残差GMM関数の設定・切替を行って位置算出処理を行うこととしてもよい。
【0159】
図20は、この場合にベースバンド処理回路部20の処理部25が実行する第2のベースバンド処理の流れを示すフローチャートである。なお、図15のベースバンド処理と同一のステップについては同一の符号を付して説明を省略し、ベースバンド処理とは異なるステップについて説明する。
【0160】
第2のベースバンド処理では、処理部25は、ループAの処理を行った後(ステップA19)、擬似距離残差GMM関数設定処理を行う(ステップC20)。具体的には、処理部25は、GPS衛星信号の受信環境等に応じて、位置算出処理に使用する擬似距離残差GMM関数を設定する。
【0161】
より具体的には、例えば、GPS衛星信号の受信環境が屋外環境(アウトドア環境)である場合は、例えば図7に破線で示した第1の正規分布モデル関数“p1(ε)”を擬似距離残差GMM関数として設定する。また、GPS衛星信号の受信環境がマルチパス環境や屋内環境(インドア環境)である場合は、例えば図7に実線で示した擬似距離残差GMM関数を設定する。また、GPS衛星信号の受信環境がアーバンキャニオン環境である場合は、例えば図17に実線で示した第2の擬似距離残差GMM関数を設定する。
【0162】
なお、擬似距離残差GMM関数を設定するための条件は、GPS衛星信号の受信環境に限られるわけではない。例えば、受信したGPS衛星信号の信号強度や、捕捉衛星の仰角といった情報に基づいて設定してもよい。具体的には、GPS衛星信号の受信信号の信号強度が所定の閾値強度よりも小さい場合(所定の低強度条件を満たす場合)には、図17の第2の擬似距離残差GMM関数を設定し、閾値強度よりも大きい場合(所定の低強度条件を満たさない場合)には、図7の擬似距離残差GMM関数を設定するなどしてもよい。
【0163】
5−3.最尤推定アルゴリズム
上述した実施形態では、最尤推定のためのアルゴリズムとしてEMアルゴリズムを適用した場合を例に挙げて説明したが、他のアルゴリズムを適用してもよいことは勿論である。例えば、山登り法として知られる勾配法を適用してもよい。勾配法は、最適化問題に対するアルゴリズムの一種であり、所定の評価関数の勾配を用いてパラメーターの最適化を行う手法である。具体的には、擬似距離残差GMM関数の勾配を用いて、上記の実施形態と同様に、尤度(対数尤度)を最大化する解を探索すればよい。
【0164】
5−4.電子機器
上述した実施例では、位置算出装置を具備する電子機器として携帯型電話機を例に挙げて説明したが、本発明を適用可能な電子機器はこれに限られるわけではない。例えば、カーナビゲーション装置や携帯型ナビゲーション装置、パソコン、PDA(Personal Digital Assistant)、腕時計といった他の電子機器についても本発明を同様に適用可能である。
【0165】
5−5.衛星測位システム
また、上述した実施形態では、衛星測位システムとしてGPSを例に挙げて説明したが、WAAS(Wide Area Augmentation System)、QZSS(Quasi Zenith Satellite System)、GLONASS(GLObal NAvigation Satellite System)、GALILEO等の他の衛星測位システムであってもよいことは勿論である。
【0166】
5−6.処理の主体
上述した実施例では、ベースバンド処理回路部20の内部に設けられた処理部25が位置算出処理を行うものとして説明したが、電子機器のプロセッサーである処理部30が位置算出処理を行うこととしてもよい。例えば、ベースバンド回路部20の処理部25がGPS衛星信号を捕捉してメジャメント情報を取得する処理を行う。そして、処理部30は、処理部25により取得されたメジャメント情報を用いて、上記の原理に従って位置算出計算を行うこととしてもよい。
【符号の説明】
【0167】
1 携帯型電話機、 5 GPSアンテナ、 10 GPS受信部、
11 RF受信回路部、 20 ベースバンド処理回路部、 21 乗算部、
22 キャリア除去用信号発生部、 23 相関演算回路部、
24 レプリカコード発生部、 25 処理部、 27 記憶部、 30 処理部、
40 操作部、 50 表示部、 60 携帯電話用アンテナ、
70 携帯電話用無線通信回路部、 80 記憶部
【技術分野】
【0001】
本発明は、位置算出方法及び位置算出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
測位用信号を利用した測位システムとしては、GPS(Global Positioning System)が広く知られており、携帯型電話機やカーナビゲーション装置等に内蔵された位置算出装置に利用されている。GPSでは、複数のGPS衛星の位置や各GPS衛星から位置算出装置までの擬似距離等の情報に基づいて位置算出装置の位置座標と時計誤差とを求める位置算出計算を行う。
【0003】
衛星測位システムを利用した位置算出計算としては、複数の測位用衛星について算出した擬似距離を用いて、擬似距離に含まれ得る誤差(以下、「擬似距離の誤差」と称す。)の二乗和を最小化させる、いわゆる最小二乗法を利用した位置算出計算が知られている(例えば、特許文献1。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−97897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
最小二乗法を利用した位置算出計算は、一般的に、捕捉に成功した測位用衛星の数が未知数よりも多い状態(いわゆる過決定の状態)において、位置算出装置の位置座標及び時計誤差を近似的に求めるために有効な手法である。しかし、最小二乗法を利用して算出された位置は必ずしも信頼できるものであるとは限らない。
【0006】
確かに、擬似距離の誤差を常にホワイトノイズ(白色雑音)とみなすことができるのであれば、最小二乗法を利用して算出される位置は信頼できるかもしれない。数学的に言えば、擬似距離の誤差の分布が正規分布(ガウス分布)に従うような場合である。しかし、これはあくまでも理想的な場合である。
【0007】
衛星測位システムでは、種々の誤差要因の存在により、測定される擬似距離に多様な誤差が含まれ得る。その典型的な例がマルチパスである。いわゆるマルチパス環境では、2以上の経路を通って衛星信号が位置算出装置に到達する。位置算出装置が受信する信号は、測位用衛星から送出される衛星信号である直接波信号に、建物や地面等に反射した反射波や障害物を透過した透過波、障害物を回折した回折波等の間接波信号が重畳した信号(マルチパス信号)となる。間接波信号は直接波信号よりも長い経路長で位置算出装置に到達する。この間接波信号の影響により、位置算出装置において測定される擬似距離には正規分布に従わない不確定の誤差が含まれ得る。
【0008】
本発明は上述した課題に鑑みて為されたものであり、その目的とするところは、新たな位置算出手法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上の課題を解決するための第1の形態は、測位用衛星から衛星信号を受信して擬似距離を算出することと、前記擬似距離に含まれる誤差の分布を正規混合分布で表した正規混合分布モデルを用いて位置を算出することと、を含む位置算出方法である。
【0010】
また、他の形態として、測位用衛星から衛星信号を受信して擬似距離を算出する擬似距離算出部と、前記擬似距離に含まれる誤差の分布を正規混合分布で表した正規混合分布モデルを用いて位置を算出する位置算出部と、を備えた位置算出装置を構成してもよい。
【0011】
この第1の形態等によれば、測位用衛星から衛星信号を受信して擬似距離が算出される。そして、擬似距離に含まれる誤差の分布を正規混合分布で表した正規混合分布モデルを用いて位置が算出される。この新たな手法により、擬似距離に含まれる誤差の分布が正規混合分布に従うような状況における位置算出の正確性を向上させることができる。
【0012】
また、第2の形態として、第1の形態の位置算出方法であって、前記正規混合分布モデルは、前記誤差を変数とする確率密度関数で定義される、位置算出方法を構成してもよい。
【0013】
また、第3の形態として、第2の形態の位置算出方法であって、前記位置を算出することは、前記位置の想定位置を用いて前記擬似距離に含まれている誤差を算出することと、前記正規混合分布モデルを用いて前記誤差に対応する確率を算出することと、前記確率を用いて前記想定位置を更新することと、を繰り返し行って、前記位置を算出することである、位置算出方法を構成してもよい。
【0014】
この第3の形態によれば、想定される位置である想定位置を用いて擬似距離に含まれている誤差が算出され、正規混合分布モデルを用いて当該誤差に対応する確率が算出される。そして、当該確率を用いて想定位置が更新される。この一連の処理が繰り返し行われて、位置が算出される。擬似距離に含まれる誤差に対応する確率を正規混合分布モデルを用いて算出し、当該確率を用いて想定位置を更新していく手法により、真位置に近い位置を求めることが可能となる。
【0015】
また、上記の形態における正規混合分布モデルを、第1の正規分布モデルと、前記第1の正規分布モデルのピーク値よりもピーク値が小さい第2の正規分布モデルとを少なくとも混合したモデルとする第4の形態を構成してもよい。
【0016】
この第4の形態によれば、異なる割合で誤差が擬似距離に混入する状況を想定したモデルとなるため、当該状況において位置算出の正確性を向上させることができる。
【0017】
また、上記の形態における正規混合分布モデルを、第1の正規分布モデルと、前記第1の正規分布モデルの標準偏差よりも標準偏差が大きい第2の正規分布モデルとを少なくとも混合したモデルとする第5の形態を構成してもよい。
【0018】
この第5の形態によれば、より広い誤差幅の誤差が擬似距離に混入する状況を想定したモデルとなるため、当該状況において位置算出の正確性を向上させることができる。
【0019】
また、上記の形態における正規混合分布モデルを、第1の正規分布モデルと、前記第1の正規分布モデルの誤差の期待値よりも誤差の期待値が大きい第2の正規分布モデルとを少なくとも混合したモデルとする第6の形態を構成してもよい。
【0020】
この第6の形態によれば、より大きな誤差が擬似距離に混入する状況を想定したモデルとなるため、当該状況において位置算出の正確性を向上させることができる。
【0021】
また、上記の形態における正規混合分布モデルを、前記衛星信号の直接波を受信した場合の前記擬似距離に含まれる誤差の分布を示す第1の正規分布モデルと、前記衛星信号の間接波を受信した場合の前記擬似距離に含まれる誤差の分布を示す第2の正規分布モデルとを少なくとも混合したモデルとする第7の形態を構成してもよい。
【0022】
この第7の形態によれば、いわゆるマルチパス環境を想定したモデルとなるため、マルチパス環境において位置算出の正確性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】位置算出の原理の説明図。
【図2】擬似距離残差の正規分布モデルの説明図。
【図3】マルチパス環境の説明図。
【図4】コード位相検出の原理の説明図。
【図5】マルチパス環境における自己相関の一例を示す図。
【図6】マルチパス環境における自己相関の一例を示す図。
【図7】擬似距離残差GMM関数を示す図。
【図8】最尤推定法の説明図。
【図9】実験結果の一例を示す図。
【図10】実験結果の一例を示す図。
【図11】携帯型電話機の機能構成の一例を示すブロック図。
【図12】ベースバンド処理回路部の回路構成の一例を示す図。
【図13】衛星別メジャメントデータのデータ構成の一例を示す図。
【図14】衛星別位置算出諸量データのデータ構成の一例を示す図。
【図15】ベースバンド処理の流れを示すフローチャート。
【図16】位置算出処理の流れを示すフローチャート。
【図17】第2の擬似距離残差GMM関数を示す図。
【図18】変形例におけるマルチパスの説明図。
【図19】変形例における実験結果の一例を示す図。
【図20】第2のベースバンド処理の流れを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して、本発明を適用した好適な実施形態について説明する。なお、本発明を適用可能な実施形態が以下説明する実施形態に限定されるわけでないことは勿論である。
【0025】
1.原理
最初に従来における位置算出の原理説明を行い、次いで本実施形態における位置算出の原理について説明する。本実施形態は、衛星測位システムの一種であるGPS(Global Positioning System)を利用して位置算出を行う実施形態である。
【0026】
図1は、位置算出の原理の説明図である。最初に変数を定義する。測位用衛星の一種であるGPS衛星の番号を変数“k”の値“k=1,2,・・・”で表記する。また、以下の数式において、GPS衛星の番号を上付きの添え字で表し、指数と区別するために括弧書きで表す。
【0027】
k番目のGPS衛星の位置ベクトルを、ベクトル表記のP(k)=(x(k),y(k),z(k))と表記する。GPS衛星の位置ベクトルは、例えばエフェメリスやアルマナックといった衛星軌道情報と時刻情報とを用いて算出される。
【0028】
また、位置算出装置の実在位置を表す位置座標を、ベクトル表記で“p=(x,y,z)”と表す。実在位置“p”は未知数であり、最終的に求めたい値である。一方、位置算出装置(ユーザー)の想定される位置である想定位置を表す位置座標を、ベクトル表記で“pa=(xa,ya,za)”と表す。想定位置“pa”は、位置算出処理において、繰り返し計算によって随時更新されていく値である。
【0029】
なお、GPS衛星の位置座標及び位置算出装置の位置座標は、任意の座標系における位置座標を意味する。例えば、3次元直交座標系の一種である地球基準座標系における位置座標で定義できる。
【0030】
位置算出装置に搭載された内部クロックの実際のバイアスである実クロックバイアスを“b”と表記する。実クロックバイアス“b”は未知数であり、最終的に求めたい値である。また、位置算出装置の内部クロックの想定されるバイアスである想定クロックバイアスを“ba”と表記する。想定クロックバイアス“ba”は、位置算出処理において、繰り返し計算によって随時更新されていく値である。
【0031】
また、本実施形態では、便宜的に、位置算出装置の位置及びクロックバイアスでなる4次元のベクトルを、位置算出装置の状態“S”と定義する。すなわち、“S=(p,b)”と定義する。そして、位置算出装置の想定位置及び想定クロックバイアスでなる4次元のベクトルを、位置算出装置の想定状態“Sa”と定義する。すなわち、“Sa=(pa,ba)”と定義する。
【0032】
次に、位置算出装置とGPS衛星間の擬似距離を“ρc”と表記する。また、位置算出装置の想定位置“pa”と、GPS衛星の衛星位置“P(k)”とを用いて算出される位置算出装置とGPS衛星間の幾何距離を“ρa”と表記する。
【0033】
擬似距離“ρc”は、位置算出装置がGPS衛星信号を利用してメジャメント情報として取得するコード位相を用いて算出することができる。コード位相は、位置算出装置が受信したGPS衛星信号の拡散符号の位相である。GPS衛星信号は、拡散符号の一種であるCA(Coarse and Acquisition)コードによって、スペクトラム拡散方式として知られるCDMA(Code Division Multiple Access)方式によって変調された1.57542[GHz]の通信信号である。CAコードは、コード長1023チップを1PNフレームとする繰返し周期1msの擬似ランダム雑音符号であり、GPS衛星毎に異なるものである。
【0034】
観念的には、GPS衛星と位置算出装置間には複数のCAコードが並んでいると考えることができる。GPS衛星と位置算出装置間の距離は、ちょうどCAコードの整数倍の長さになるとは限らず、端数部分が生じ得る。この擬似距離の端数部分に相当するのが、GPS衛星信号のCAコードの位相である。なお、擬似距離の整数部分は、位置算出装置の初期位置と、衛星軌道情報から算出される衛星位置とを用いて算出可能である。
【0035】
さて、上述した擬似距離“ρc”及び幾何距離“ρa”は、次式(1)及び(2)のように定式化することができる。
【数1】
【数2】
【0036】
式(1)において、“ε”は擬似距離に含まれる残差を示している。GPSを利用した衛星測位システムでは、種々の誤差要因が存在するために、位置算出装置が測定する擬似距離には種々の誤差が重畳する。例えば、衛星クロックの誤差や、衛星軌道情報の誤差、電離層遅延、対流圏遅延、GPS受信装置の雑音による誤差などである。
【0037】
一般的に、位置算出装置は、GPS衛星から発信される航法メッセージデータや、公知のアシストサーバーから提供されるアシストデータなどを利用して、擬似距離に含まれる誤差成分のうちの補正可能な誤差成分については補正を行った上で、位置算出計算に利用する。しかし、既存のデータ(情報)だけでは補正ができない誤差成分が存在し、当該誤差成分は擬似距離に含まれる残差となる。
【0038】
一方で、位置算出装置の実在位置“p”は、想定位置“pa”を用いて、次式(3)のように表すことができる。また、位置算出装置の実クロックバイアス“b”は、想定クロックバイアス“ba”を用いて、次式(4)のように表すことができる。
【数3】
【数4】
但し、“δp”及び“δb”は、それぞれ想定位置及び想定クロックバイアスに対する未知の修正量である。
【0039】
このとき、式(1)及び式(2)で表される擬似距離“ρc”及び幾何距離“ρa”を用いて、次式(5)を定式化することができる。
【数5】
【0040】
式(5)において、2行目から3行目の近似には、ベクトルのノルムに対するテイラー級数近似を用いた。また、ベクトルの“L”は、位置算出装置の想定位置“pa”から見たGPS衛星の視線方向の単位ベクトルである。
【0041】
ここで、位置算出装置がK個のGPS衛星(GPS衛星信号)を捕捉することに成功したとする。この場合、式(5)を用いて、次式(6)のような連立方程式を立式することができる。
【数6】
但し、“δS”は状態“S=(p,b)”の未知の修正量を示す状態修正量である。
【0042】
式(6)の左辺のベクトル“δρ”は擬似距離の修正量ベクトルであり、次式(7)で表される。
【数7】
【0043】
また、式(6)の右辺の行列“G”は、位置算出装置から観測されるGPS衛星の衛星配置を決定付けるK×4の幾何行列であり、次式(8)で表される。
【数8】
【0044】
また、式(6)の右辺のベクトル“ε”は擬似距離残差ベクトルであり、次式(9)で表される。
【数9】
【0045】
式(6)において、未知数は、状態修正量“δS”の成分である位置修正量“δp=(δx,δy,δz)”及びクロックバイアス修正量“δb”の合計4個である。従って、式(6)は、K≧4の場合に解くことができる。K>4の場合は、式(6)は過決定方程式となるため、例えば最小二乗法を利用して、次式(10)のように状態修正量“δS”を近似的に求めることができる。
【数10】
【0046】
式(10)により状態修正量“δS”が近似的に求まれば、位置修正量“δp=(δx,δy,δz)”及びクロックバイアス修正量“δb”を用いて、式(3)及び(4)に従って、位置算出装置の位置及びクロックバイアスを求めることができる。
【0047】
ここで問題となるのが、上記の手法により算出された位置及びクロックバイアスが、常に信頼できる結果であるかどうかという点である。GPS衛星信号の受信環境等によっては、上記の位置及びクロックバイアスが信頼できるものであるとは限らない。というのは、式(9)から式(10)を導出するために最小二乗法を用いたが、最小二乗法では、擬似距離残差“ε”の分布が正規分布(ガウス分布)に従うと仮定して計算を行っているためである。
【0048】
図2は、擬似距離残差“ε”の正規分布モデルの説明図である。図2では、横軸を確率変数である擬似距離残差“ε”、縦軸を確率密度“p(ε)”とする正規分布に従う確率密度関数を示している。擬似距離に含まれる誤差成分の変動により、擬似距離残差“ε”の大きさは随時変化する。その場合の擬似距離残差“ε”の分布が、期待値(平均値)“μ”を“0”(μ=0)とし、標準偏差(誤差幅)を“σ”(分散“σ2”)とする正規分布N(0,σ2)に従うものと仮定して、最小二乗法による計算を行っている。
【0049】
しかしながら、擬似距離残差“ε”の分布は、必ずしも正規分布に従うとは限らない。なぜなら、GPS衛星信号の受信環境等によっては、擬似距離残差“ε”が“0”の近傍に分布するとは限らないためである。このような状況が想定される典型的な例は「マルチパス環境」である。
【0050】
図3は、マルチパス環境の説明図である。マルチパス環境では、GPS衛星から送出されたGPS衛星信号が、2以上の経路を通って位置算出装置に到達する。具体的には、位置算出装置が受信する信号は、GPS衛星から送信されるGPS衛星信号である直接波信号に、建物や地面等に反射した反射波や障害物を透過した透過波、障害物を回折した回折波等の間接波信号が重畳した信号(マルチパス信号)となる。図3では、直接波信号を点線で示し、間接波信号を一点鎖線で示している。
【0051】
間接波信号の存在により、位置算出装置が測定する擬似距離には誤差が生ずる。擬似距離は、位置算出装置がメジャメント情報として取得するコード位相を用いて算出されるが、マルチパス環境では、このコード位相に大きな誤差が含まれ得る。コード位相の誤差は、真のコード位相に対して正の誤差となる場合もあれば負の誤差となる場合もある。
【0052】
図4は、コード位相検出の原理の説明図である。図4では、横軸をCAコードの位相(コード位相)、縦軸を相関値として、C/Aコードの自己相関値の概略例を示している。尚、以下の説明では、相関値というときは、相関値の大きさ(絶対値)を意味するものとする。
【0053】
C/Aコードの自己相関値は、例えばピーク値を頂点とする左右対称の略三角形の形状で表される。この場合に、相関値のピーク値(以下、「相関ピーク値」と称す。)に対応する位相が、受信したGPS衛星信号のCAコードの位相である。位置算出装置は、コード位相の検出を次のように行う。あるコード位相に対して、一定量だけ進んだコード位相(以下、「進み位相」と称す。)と、一定量だけ遅れたコード位相(以下、「遅れ位相」と称す。)とのそれぞれにおける相関値を算出する。そして、進み位相の相関値と遅れ位相の相関値とが等しくなった場合に、その中心のコード位相をピーク位相として検出する。
【0054】
図4では、相関値は左右対称の略三角形の形状であるため、進み位相の相関値と遅れ位相の相関値との中心のコード位相がちょうどピーク値に対応するコード位相(以下、「ピーク位相」と称す。)となり、このコード位相がピーク位相として検出される(以下、「検出ピーク位相」と称す。)。図4の相関値の形状は理想形状であるが、マルチパス環境では相関値の形状が変化する。
【0055】
図5及び図6は、マルチパス環境における相関値の形状の一例を示す図である。図5は、間接波信号が直接波信号と同位相で到達した場合(0≦θ≦π)の相関結果の一例を示す図であり、図6は、間接波信号が直接波信号と逆位相で到達した場合(π<θ<2π)の相関結果の一例を示す図である。但し、“θ”は間接波信号の位相である。これらの図では、直接波信号と、間接波信号と、この直接波信号と間接波信号とを合成したマルチパス信号とのそれぞれに対応する相関値のグラフを示している。横軸はコード位相、縦軸は相関値である。
【0056】
間接波信号に対する相関値は、直接波信号に対する相関値と同様に略三角形の形状をなしているが、間接波信号の相関ピーク値の大きさは、直接波信号の相関ピーク値よりも小さい。これは、GPS衛星から送出されたGPS衛星信号が、建物や地面に反射したり障害物を透過することによって、送出された時点における信号強度が、受信時には弱められていることによるものである。
【0057】
また、間接波信号のピーク位相は、直接波信号のピーク位相よりも遅れている。これは、GPS衛星から送出されたGPS衛星信号が、建物や地面に反射したり障害物を回折することによって、GPS衛星から位置算出装置までの伝播距離が長くなったことによるものである。マルチパス信号に対する相関値は、直接波信号の相関値と間接波信号の相関値との和となるため、三角形状が歪んでピーク値を中心とした左右対称とはならない。
【0058】
間接波信号が直接波信号と同位相で位置算出装置に到達した場合は、直接波信号と間接波信号とは互いに強め合う。このため、合成波信号の相関値は、直接波信号に対する相関値の大きさと間接波信号に対する相関値の大きさとの合算値となる。この場合、相関値の形状は、図5に示すような形状となる。この図5において、検出ピーク位相は、実際のピーク値に対応するコード位相であるピーク位相よりも大きくなる。
【0059】
一方、間接波信号が直接波信号より半周期以上遅れて到達することで直接波信号と逆位相となった場合は、直接波信号と間接波信号とは互いに弱め合う。このため、合成波信号の相関値は、直接波信号に対する相関値の大きさから間接波信号に対する相関値の大きさを減じた値となる。この場合、相関値の形状は、図6に示すような形状となる。この図6において、検出ピーク位相は、実際のピーク値に対応するコード位相であるピーク位相よりも小さくなる。なお、図6において、間接波信号の相関値の大きさが直接波信号の相関値の大きさよりも大きい場合には、減算した後の値は負の値となるが、図6では絶対値として図示している。
【0060】
便宜的に、検出ピーク位相と実際のピーク位相との位相差を「コード位相誤差」と定義する。そして、検出ピーク位相が実際のピーク位相よりも遅れている場合のコード位相誤差の符号を「正」、検出ピーク位相が実際のピーク位相よりも進んでいる場合のコード位相誤差の符号を「負」と定義する。この場合、図5ではコード位相誤差は「正」となり、図6ではコード位相誤差は「負」となる。
【0061】
前述したように、擬似距離はコード位相を用いて算出されるため、コード位相の誤差は擬似距離に誤差として重畳される。すなわち、図5のようにコード位相に正の誤差が含まれると、擬似距離残差“ε”として正の誤差が重畳する。一方、図6のようにコード位相に負の誤差が含まれると、擬似距離残差“ε”として負の誤差が重畳する。
【0062】
このように、マルチパス環境においては、コード位相誤差に応じて、擬似距離残差“ε”が正の値とも負の値ともなり得る。勿論、擬似距離残差“ε”にはコード位相誤差以外の誤差成分も含まれる。そのため、これらの誤差成分の大きさ如何によっても、擬似距離残差“ε”は種々の値をとり得る。
【0063】
そこで、本実施形態では、想定される擬似距離残差“ε”の分布を、単純な正規分布と仮定するのではなく、複数の正規分布が混合した正規混合分布と仮定する。具体的には、擬似距離残差“ε”を変数とする正規混合分布に基づくモデル関数によって擬似距離残差“ε”をモデル化する。以下の説明では、正規混合分布モデルのことを適宜GMM(Gaussian Mixture Model)と表記する。そして、擬似距離残差“ε”の正規混合分布モデルのことを「擬似距離残差GMM」と称し、そのモデル関数のことを「擬似距離残差GMM関数」と称する。
【0064】
図7は、本実施形態における擬似距離残差GMM関数の一例を示す図である。本実施形態の擬似距離残差GMM関数は、第1の正規分布モデル関数“p1(ε)”と、第2の正規分布モデル関数“p2(ε)”との、正規分布に従う2種類の確率密度関数を合成した関数“p(ε)”として定義される。図7において、横軸は確率変数である擬似距離残差“ε”(単位はメートル)を示しており、縦軸は確率密度“p(ε)”を示している。また、第1の正規分布モデル関数“p1(ε)”を点線で示し、第2の正規分布モデル関数“p2(ε)”を一点鎖線で示し、擬似距離残差GMM関数“p(ε)”を太実線でそれぞれ示している。
【0065】
第1の正規分布モデル関数“p1(ε)”は、位置算出装置が直接波信号を受信することを想定した擬似距離残差“ε”のモデル関数である。間接波信号の影響がなければ、擬似距離残差“ε”は“0メートル”の近傍の値となることが期待される。そのため、擬似距離残差の期待値“μ”を“0メートル”(μ=0)とし、標準偏差“σ”を比較的小さな値である“10メートル”(σ=10)とする正規分布関数N(0,102)で第1の正規分布モデル関数“p1(ε)”をモデル化した。
【0066】
第2の正規分布モデル関数“p2(ε)”は、位置算出装置が直接波信号及び間接波信号を受信することを想定した擬似距離残差“ε”のモデル関数である。前述したように、コード位相誤差の符号により、擬似距離残差“ε”は正負の何れの値ともなり得る。そのため、第2の正規分布モデル関数“p2(ε)”の擬似距離残差の期待値“μ”を、正負の中心である“0メートル”(μ=0)とした。また、コード位相誤差の大きさによっては、擬似距離残差“ε”に大きな誤差が含まれ得る。そのため、擬似距離残差の標準偏差“σ”を大きめに見積もって“100メートル”(σ=100)とした。すなわち、第2の正規分布モデル関数“p2(ε)”を正規分布関数N(0,1002)とした。
【0067】
次に、第1の正規分布モデル関数“p1(ε)”と第2の正規分布モデル関数“p2(ε)”とを混合する割合(合成比率)を次のように設定した。位置算出装置がマルチパスの影響を受ける割合は、それほど高くないと考えられる。そこで、位置算出装置が1割の確率でマルチパスの影響を受けると仮定して、第1の正規分布モデル関数“p1(ε)”の重みを“9/10(9割)”とし、第2の正規分布モデル関数“p1(ε)”の重みを“1/10(1割)”とした。従って、擬似距離残差GMM関数は、第1の正規分布モデル関数“p1(ε)”を9/10倍した関数と、第2の正規分布モデル関数“p2(ε)”を1/10倍した関数とを混合(合成)した関数として定義した。
【0068】
なお、擬似距離残差GMM関数は確率密度関数であるため、擬似距離残差GMM関数を全擬似距離残差について積分すると“1”になる。
【0069】
本実施形態では、上述した擬似距離残差GMM関数を用いて、最尤推定法と呼ばれる推定手法を用いて位置算出計算を行う。最尤推定法は、観測されたサンプルデータを元に、仮定される確率モデルにおいて一番確率の高いであろうパラメーターを推定する手法である。
【0070】
図8は、本実施形態における最尤推定法を用いた位置算出計算の説明図である。今、第1衛星〜第K衛星までのK個のGPS衛星が捕捉されたとする。位置算出計算は、捕捉されたK個の衛星それぞれについて、図1で説明した幾何距離、擬似距離、視線方向といった位置算出計算用の各諸量を算出し、これらの諸量を用いた収束計算を行うことにより実現する。
【0071】
収束計算では、設定した初期値が所定の収束条件を満たすまで、初期値を随時更新していく演算が行われる。本実施形態では、位置算出装置の位置及びクロックバイアスでなる状態“S”の修正量である状態修正量“δS=(δp,δb)=(δx,δy,δz,δb)”を更新対象のパラメーターとして収束計算を行う。すなわち、状態修正量“δS”に初期値を設定した後、第1〜第K衛星についてそれぞれ求められる擬似距離残差“ε(1),ε(2),・・・,ε(K)”が同時発生する確率密度(広義には確率)を最大化するように状態修正量“δS”を更新する。
【0072】
具体的に説明する。収束計算の各ステップ(s=1,2,・・・)それぞれについて、K個の捕捉衛星について擬似距離残差“ε(1),ε(2),・・・,ε(K)”が同時発生する確率密度を、尤度“L”として次式(11)に従って求める。
【数11】
【0073】
式(11)において、右辺の“p(k)(ε)”はk番目の衛星に関する擬似距離残差GMM関数であり、“ε(k)”はk番目の衛星について算出された擬似距離残差を示している。本実施形態では、全ての衛星について擬似距離残差GMM関数“p(k)(ε)”を共通の関数(図7の擬似距離残差GMM関数)とする。
【0074】
求めたい解は、尤度“L”を最大化する状態修正量“δS”である。従って、尤度“L”の微分を“0”とする状態修正量“δS”を求めればよいことになる。ところが、式(11)から分かるように、尤度“L”はK個の擬似距離残差GMM関数の積で表されており、微分計算が困難である。そこで、尤度“L”の対数をとった対数尤度“logL”を用いた計算を行う。対数尤度“logL”は、次式(12)で与えられる。
【数12】
【0075】
尤度“L”を最大化する状態修正量“δS”を求めることは、式(12)で与えられる対数尤度“logL”を最大化する状態修正量“δS”を求めることと等価である。これを計算機(コンピューター)を用いて実現するために、本実施形態では、最適化問題に対するアルゴリズムの一種であるEM(Expectation Maximum)アルゴリズムを用いる。
【0076】
EMアルゴリズムは、確率モデルのパラメーターを最尤推定法に基づいて推定する手法の一種である。観測可能なデータ(サンプル)の他に、観測不可能なデータ(隠しパラメーター)が存在する場合であって、当該隠しパラメーターが確率モデルに依存する場合に用いられる手法である。
【0077】
EMアルゴリズムは反復法の一種であり、Q関数と呼ばれる関数に従って、期待値ステップであるE(Expectation)ステップと、最大化ステップであるM(Maximum)ステップとの2つのステップを反復することで、最尤推定値を探索する。
【0078】
推定対象パラメーターを状態修正量“δS”とする。また、観測可能なデータ(サンプル)を、収束計算で繰り返し算出される擬似距離残差“ε”のデータとする。また、隠しパラメーター(潜在変数)“t”及びQ関数“Q”を、例えば次式(13)及び(14)のように定義する。
【数13】
【数14】
【0079】
式(13)において、“p1”は擬似距離残差GMM関数を構成する第1の正規分布モデル関数であり、“p2”は擬似距離残差GMM関数を構成する第2の正規分布モデル関数である。また、“α1”は第1の正規分布モデル関数の重みである。また、式(14)において、“δS0”は状態修正量の初期値を示しており、“δS”は状態修正量の更新後の値を示している。
【0080】
EMアルゴリズムは従来公知であるため、解の導出に至るまでの詳細な式変形等については省略する。最終的に、状態修正量“δS”の推定値は、次式(15)のように求められる。
【数15】
但し、“μ1”及び“μ2”はそれぞれ第1及び第2の正規分布モデル関数の期待値である。
【0081】
また、式(15)において、“M1”及び“M2”は第1及び第2の正規分布モデル関数それぞれについて定められる行列であり、次式(16)及び(17)で与えられる。
【数16】
【数17】
【0082】
式(16)及び(17)において、“σ1”及び“σ2”はそれぞれ第1及び第2の正規分布モデル関数の標準偏差である。また、“δk,l”はクロネッカーのデルタであり、次式(18)で与えられる。
【数18】
【0083】
行列“M1”及び“M2”の最後に括弧書きで示した下付きの添え字は、それぞれ行と列の番号に対応する。なお、行に対応する番号“k”は、GPS衛星の番号(k=1,2,・・・,K)に対応する。クロネッカーのデルタ“δk,l”を含むため、行列“M1”及び“M2”は、行と列の番号が等しい成分のみ値を持ち、それ以外の成分は“0”となる。そのため、“M1”及び“M2”は対角行列となる。
【0084】
式(15)のように状態修正量“δS”が求まれば、式(3)に従って、想定位置“pa”に位置修正量“δp”を加算することで実在位置“p”を算出することができる。また、式(4)に従って、想定クロックバイアス“ba”にクロックバイアス修正量“δb”を加算することで実クロックバイアス“b”を算出することができる。
【0085】
2.実験結果
本実施形態の位置算出手法で位置算出計算を行った実験結果について説明する。従来の手法と本実施形態の手法とのそれぞれを用いて、異なる擬似距離残差“ε”のサンプル数で位置算出を繰り返し行い、位置算出の精度を測定する実験を行った。位置算出の回数は“200回”とした。
【0086】
図9は、擬似距離残差“ε”のサンプル数を“50個”とした場合(ε=ε(1),ε(2),・・・,ε(50))の実験結果を示すグラフである。グラフの横方向は東西方向の位置算出精度を示しており、縦方向は南北方向の位置算出精度を示している。グラフの中心は位置誤差“0”に相当し、グラフの中心に近いほど位置算出精度が高いことを意味する。四角形のプロットが従来の手法で位置算出計算を行った場合の位置誤差を示しており、米印のプロットが本実施形態の手法で位置算出計算を行った場合の位置誤差を示している。各々のプロットの個数は位置算出回数に対応して200個である。
【0087】
図9のグラフを見ると、従来の手法では、プロットが全体的に広くばらついており、位置算出精度が低いことがわかる。一方、本実施形態の手法では、プロットが全体的に中心部に集中しており、従来の手法と比べて位置算出精度が向上していることがわかる。
【0088】
図10は、擬似距離残差“ε”のサンプル数を“8個”とした場合(ε=ε(1),ε(2),・・・,ε(8))の実験結果を示すグラフである。グラフの見方は図9と同じであるが、グラフの1マスの単位が異なる。
【0089】
図10のグラフを見ても、本実施形態の手法ではプロットがグラフの中心部に集中しており、従来の手法と比べて位置算出精度が改善されていることがわかる。また、図9及び図10の実験結果から、擬似距離残差“ε”のサンプル数を多くするほど、位置算出精度が向上することがわかる。
【0090】
このように位置算出精度が向上する理由について考察する。本願発明者が実験を行った結果、マルチパス環境では、正負それぞれについて100メートルを超えるような大きな誤差が擬似距離に混入する場合があることがわかった。このような大きな誤差が擬似距離に混入した場合、従来の正規分布に従う確率密度関数を用いて当該誤差に対応する確率密度(確率)を算出すると、限りなく“0”に近い値となってしまう。位置算出計算では、複数の捕捉衛星についての擬似距離の誤差の同時発生確率を最大化するように最尤推定を行うため、確率密度が微小となる衛星が含まれると、当該衛星の確率密度に引きずられて最尤推定に失敗する(或いは精度が極端に悪い推定結果となる)可能性が高まる。
【0091】
しかし、本実施形態において定義した擬似距離残差GMM関数は、図7に示すように誤差幅の広い第2の正規分布モデル関数を混合したことにより、裾野の広い確率密度関数となっている。そのため、100メートルといった大きな誤差が擬似距離に混入したとしても、当該誤差に対応する確率密度はある程度大きな値となる。すると、微小な確率密度に引きずられて最尤推定に失敗する可能性が低下し、最尤推定が適切に行われるようになる。その結果、収束計算によって正確性の高い位置が算出されることとなる。
【0092】
3.実施例
次に、位置算出装置を備えた電子機器の一種である携帯型電話機に本発明を適用した場合の実施例について説明する。なお、本発明を適用可能な実施例が以下説明する実施例に限定されるわけではないことは勿論である。
【0093】
3−1.機能構成
図11は、本実施例における携帯型電話機1の機能構成の一例を示すブロック図である。携帯型電話機1は、GPSアンテナ5と、GPS受信部10と、処理部30と、操作部40と、表示部50と、携帯電話用アンテナ60と、携帯電話用無線通信回路部70と、記憶部80とを備えて構成される。
【0094】
GPSアンテナ5は、GPS衛星から発信されているGPS衛星信号を含むRF(Radio Frequency)信号を受信するアンテナであり、受信信号をGPS受信部10に出力する。
【0095】
GPS受信部10は、GPSアンテナ5から出力された信号に基づいて携帯型電話機1の位置を計測する位置算出回路或いは位置算出装置であり、GPS受信装置に相当する機能ブロックである。GPS受信部10は、RF受信回路部11と、ベースバンド処理回路部20とを備えて構成される。なお、RF受信回路部11と、ベースバンド処理回路部20とは、それぞれ別のLSI(Large Scale Integration)として製造することも、1チップとして製造することも可能である。
【0096】
RF受信回路部11は、RF信号の受信回路である。回路構成としては、例えば、GPSアンテナ5から出力されたRF信号をA/D変換器でデジタル信号に変換し、デジタル信号を処理する受信回路を構成してもよい。また、GPSアンテナ5から出力されたRF信号をアナログ信号のまま信号処理し、最終的にA/D変換することでデジタル信号をベースバンド処理回路部20に出力する構成としてもよい。
【0097】
後者の場合には、例えば、次のようにRF受信回路部11を構成することができる。すなわち、所定の発振信号を分周或いは逓倍することで、RF信号乗算用の発振信号を生成する。そして、生成した発振信号を、GPSアンテナ5から出力されたRF信号に乗算することで、RF信号を中間周波数の信号(以下、「IF(Intermediate Frequency)信号」と称す。)にダウンコンバートし、IF信号を増幅等した後、A/D変換器でデジタル信号に変換して、ベースバンド処理回路部20に出力する。
【0098】
ベースバンド処理回路部20は、RF受信回路部11から出力された受信信号に対して相関処理等を行ってGPS衛星信号を捕捉し、GPS衛星信号から取り出した衛星軌道データや時刻データ等に基づいて、所定の位置算出計算を行って携帯型電話機1の位置(位置座標)を算出する処理回路ブロックである。
【0099】
図12は、ベースバンド処理回路部20の回路構成の一例を示す図であり、本実施例に係わる回路ブロックを中心に記載した図である。ベースバンド処理回路部20は、乗算部21と、キャリア除去用信号発生部22と、相関演算回路部23と、レプリカコード発生部24と、処理部25と、記憶部27とを備えて構成される。
【0100】
乗算部21は、キャリア除去用信号発生部22により生成・発生されたキャリア除去用信号を受信信号に乗算することで、受信信号をキャリアの除去された信号にダウンコンバージョンする回路部であり、例えば乗算器を有して構成される。乗算部21からは、受信信号からキャリア成分が除去されたCAコード(以下、「受信CAコード」と称す。)が相関演算回路部23に出力される。
【0101】
キャリア除去用信号発生部22は、GPS衛星信号のキャリア信号の周波数と同一の周波数のキャリア除去用信号を生成する回路であり、キャリアNCO(Numerical Controlled Oscillator)等の発振器を有して構成される。なお、RF受信回路部11から出力される信号がIF信号である場合には、IF周波数のキャリア除去用信号を生成する。このように、RF受信回路部11が受信信号をIF信号にダウンコンバージョンする場合も、本実施例は実質的に同一に適用可能である。
【0102】
相関演算回路部23は、乗算部21から出力された受信CAコードと、レプリカコード発生部24により生成されたレプリカCAコードとの相関演算を行い、相関演算結果を処理部25に出力する回路部であり、複数の相関器(コリレーター)等を有して構成される。
【0103】
相関演算回路部23は、受信信号のIQ成分それぞれに対して、レプリカコード発生部24から入力したレプリカCAコードとの相関演算を行う。なお、受信信号のIQ成分の分離(IQ分離)を行う回路ブロックについては図示を省略するが、任意の回路ブロックを適用可能である。例えば、RF受信回路部11において受信信号をIF信号にダウンコンバージョンする際に、位相が90度異なる局部発振信号を受信信号に乗算することでIQ分離を行うこととしてもよい。
【0104】
レプリカコード発生部24は、GPS衛星信号の拡散符号であるCAコードを模擬したレプリカCAコードを生成する回路部であり、コードNCO等の発振器を有して構成される。レプリカコード発生部24は、処理部25から指示されたPRN番号(衛星番号)に応じたレプリカCAコードを、指示された位相に応じて出力位相(時間)を調整して生成して相関演算回路部23に出力する。
【0105】
処理部25は、ベースバンド処理回路部20の各機能部を統括的に制御する制御装置であり、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサーを有して構成される。処理部25は、主要な機能部として、衛星信号捕捉部251と、位置算出処理部253とを有する。
【0106】
衛星信号捕捉部251は、相関演算回路部23から出力される相関演算結果を所定の相関積算時間分積算する相関処理を行う。そして、相関処理で得られた相関積算結果に基づいてGPS衛星信号を捕捉する。
【0107】
位置算出処理部253は、衛星信号捕捉部251により捕捉されたGPS衛星信号を利用した位置算出計算を行って携帯型電話機1の位置を算出する処理部である。位置算出処理部253は、衛星信号捕捉部251により捕捉されたGPS衛星信号を利用して擬似距離を算出する擬似距離算出部として機能するとともに、記憶部27に記憶された擬似距離残差GMMデータ273を用いて位置を算出する位置算出部として機能する。
【0108】
少なくとも、擬似距離算出部及び位置算出部として機能する位置算出処理部253を含んで本実施形態の位置算出装置が構成される。なお、位置算出装置は、図12のベースバンド処理回路部20の他の構成を含んでいてもよい。また、図11の携帯型電話機1の他の構成を含んでいてもよい。
【0109】
記憶部27は、ROM(Read Only Memory)やフラッシュROM、RAM(Random Access Memory)等の記憶装置(メモリー)によって構成され、ベースバンド処理回路部20のシステムプログラムや、衛星信号捕捉機能、位置算出機能等の各種機能を実現するための各種プログラム、データ等を記憶している。また、各種処理の処理中データ、処理結果などを一時的に記憶するワークエリアを有する。
【0110】
記憶部27には、例えば図12に示すように、プログラムとして、処理部25により読み出され、ベースバンド処理(図15参照)として実行されるベースバンド処理プログラム271が記憶されている。ベースバンド処理プログラム271は、位置算出処理(図16参照)として実行される位置算出プログラム2711をサブルーチンとして有している。
【0111】
また、記憶部27には、衛星軌道データ272と、擬似距離残差GMMデータ273と、衛星別メジャメントデータ274と、衛星別位置算出諸量データ275と、衛星移動データ276と、端末移動データ277とが記憶される。
【0112】
ベースバンド処理とは、処理部25が、捕捉対象とするGPS衛星(以下、「捕捉対象衛星」と称す。)それぞれについて、相関処理を行ってGPS衛星信号を捕捉する処理を行い、捕捉したGPS衛星信号を利用した位置算出処理を行って携帯型電話機1の位置を算出する処理である。
【0113】
また、位置算出処理とは、位置算出処理部253が、上述した原理で説明した位置算出方法を用いた位置算出計算を行って、携帯型電話機1の位置を算出する処理である。これらの処理については、フローチャートを用いて詳細に後述する。
【0114】
衛星軌道データ272は、全てのGPS衛星の概略の衛星軌道情報を記憶したアルマナックや、各GPS衛星それぞれについて詳細な衛星軌道情報を記憶したエフェメリス等のデータである。衛星軌道データ272は、GPS衛星から受信したGPS衛星信号を復調することで取得する他、例えば携帯型電話機1の基地局やアシストサーバーからアシストデータとして取得することが可能である。
【0115】
擬似距離残差GMMデータ273は、擬似距離残差“ε”を正規混合分布に基づいてモデル化した擬似距離残差正規混合分布モデル(擬似距離残差GMM)が格納されたデータである。データとしては、擬似距離残差“ε”を確率変数とする擬似距離残差GMM関数“p(ε)”を格納しておいてもよいし、擬似距離残差“ε”と確率密度“p(ε)”とをテーブル形式に対応付けた擬似距離残差GMMテーブルを格納しておいてもよい。何れの形式のデータであっても、擬似距離に含まれる誤差の分布を正規混合分布で表した正規混合分布モデルであることに変わりはない。
【0116】
衛星別メジャメントデータ274は、メジャメント情報がGPS衛星別に記憶されたデータであり、そのデータ構成例を図13に示す。衛星別メジャメントデータ274には、捕捉したGPS衛星の番号2741と対応付けて、メジャメント情報の取得時刻2743及びメジャメント情報2745でなるメジャメントデータが記憶されている。
【0117】
メジャメント情報2745には、当該GPS衛星から受信したCAコード(受信CAコード)の位相であるコード位相と、当該GPS衛星からGPS衛星信号を受信した際の周波数である受信周波数とが含まれる。コード位相は、擬似距離の算出等に用いられる。また、受信周波数は、周波数サーチや、端末の移動速度及び移動方向の算出等に用いられる。
【0118】
衛星別位置算出諸量データ275は、位置算出計算に使用される諸量がGPS衛星別に記憶されたデータであり、そのデータ構成例を図14に示す。衛星別位置算出諸量データ275には、捕捉したGPS衛星の番号2751と対応付けて、位置算出諸量の算出時刻2752、擬似距離2753、幾何距離2754、距離差2755及び視線方向2756を含む位置算出諸量データが記憶されている。
【0119】
衛星移動データ276は、GPS衛星の移動状態を示す衛星移動情報が格納されたデータである。具体的には、例えば各GPS衛星の位置、移動速度及び移動方向が時系列に格納される。衛星移動情報は、衛星軌道データ272に記憶された衛星軌道情報と、不図示の時計部により計時される時刻情報とを用いて算出される。
【0120】
端末移動データ277は、携帯型電話機1の移動状態を示す端末移動情報が格納されたデータである。具体的には、例えば携帯型電話機1の位置、移動速度及び移動方向が時系列に格納される。携帯型電話機1の位置は、原理で説明した位置算出計算により算出される。また、携帯型電話機1の移動速度及び移動方向は、例えばメジャメント情報に含まれる受信周波数を用いた公知の速度算出計算により算出される。
【0121】
図11の機能ブロックに戻って、処理部30は、記憶部80に記憶されているシステムプログラム等の各種プログラムに従って携帯型電話機1の各部を統括的に制御するプロセッサーであり、ホストCPUとして機能する。処理部30は、通話機能やメール送受信機能、インターネット機能、カメラ機能といった携帯電話機としての本来的な機能を発揮させるための処理を行う。また、ベースバンド処理回路部20から出力された位置座標をもとに、表示部50に現在位置を指し示した地図を表示させる処理を行ったり、その位置座標を各種のアプリケーション処理に利用する。
【0122】
操作部40は、例えばタッチパネルやボタンスイッチ等により構成される入力装置であり、押下されたキーやボタンの信号を処理部30に出力する。この操作部40の操作により、通話要求やメール送受信要求、位置算出要求等の各種指示入力がなされる。
【0123】
表示部50は、LCD(Liquid Crystal Display)等により構成され、処理部30から入力される表示信号に基づいた各種表示を行う表示装置である。表示部50には、位置表示画面や時刻情報等が表示される。
【0124】
携帯電話用アンテナ60は、携帯型電話機1の通信サービス事業者が設置した無線基地局との間で携帯電話用無線信号の送受信を行うアンテナである。
【0125】
携帯電話用無線通信回路部70は、RF変換回路、ベースバンド処理回路等によって構成される携帯電話の通信回路部であり、携帯電話用無線信号の変調・復調等を行うことで、通話やメールの送受信等を実現する。
【0126】
記憶部80は、処理部30が携帯型電話機1を制御するためのシステムプログラムや、各種アプリケーション処理を実行するための各種プログラムやデータ等を記憶する記憶装置である。
【0127】
3−2.処理の流れ
図15は、記憶部27に記憶されているベースバンド処理プログラム271が処理部25により読み出されて実行されることで、ベースバンド処理回路部20において実行されるベースバンド処理の流れを示すフローチャートである。
【0128】
最初に、衛星信号捕捉部251は、捕捉対象衛星判定処理を行う(ステップA1)。具体的には、不図示の時計部で計時されている現在時刻において、所与の基準位置の天空に位置するGPS衛星を、記憶部27に記憶された衛星軌道データ272を用いて判定して、捕捉対象衛星を決定する。基準位置は、例えば、電源投入後の初回の位置算出の場合は、いわゆるサーバーアシストによってアシストサーバーから取得した位置としたり、電源切断前の最後に算出した位置とすることができる。また、2回目以降の位置算出の場合は、最新の算出位置とする等の方法で設定できる。
【0129】
次いで、衛星信号捕捉部251は、ステップA1で判定した各捕捉対象衛星についてループAの処理を実行する(ステップA3〜A19)。ループAの処理では、衛星信号捕捉部251は、レプリカCAコードのコード位相の初期値である初期位相を設定する(ステップA5)。当該捕捉対象衛星の初回捕捉時には、初期位相として任意の位相を設定することができる。また、2回目以降の捕捉時には、例えば当該捕捉対象衛星を前回捕捉した際の位相を初期位相として設定することができる。
【0130】
その後、衛星信号捕捉部251は、当該捕捉対象衛星のPRN番号と、レプリカCAコードの位相とを指示する指示信号を、レプリカコード発生部24に出力する(ステップA7)。
【0131】
次いで、衛星信号捕捉部251は、相関処理を行う(ステップA9)。具体的には、相関演算回路部23から出力される相関演算結果を所定の相関積算時間(例えば20ミリ秒)に亘って積算する処理を行う。相関演算結果を積算するのは、弱電界環境等において受信信号が微弱であるために、相関演算結果である相関値のピークが埋もれてしまうことを防止し、ピーク検出を容易ならしめるためである。
【0132】
相関処理を行った後、衛星信号捕捉部251は、相関積算結果に対するピーク検出を行い(ステップA11)、ピークが検出されなかったと判定した場合は(ステップA11;No)、レプリカCAコードの位相を変更して(ステップA13)、ステップA7に戻る。また、ピークが検出されたと判定した場合は(ステップA11;Yes)、衛星信号捕捉部251は、検出したピークに対応するコード位相をメジャメント情報2745として、取得時刻2743と対応付けてメジャメントデータに記憶させる(ステップA15)。
【0133】
なお、図示及び詳細な説明を省略するが、衛星信号捕捉部251は、サーチ周波数を変化させながらGPS衛星信号の周波数サーチも行う。そして、GPS衛星信号のサーチに成功した周波数を受信周波数とし、メジャメント情報2745としてメジャメントデータに記憶させる。
【0134】
次いで、衛星信号捕捉部251は、衛星移動情報を算出する(ステップA17)。具体的には、記憶部27に記憶された衛星軌道データ272に基づいて、不図示の時計部で計時されている時刻における当該捕捉対象衛星の衛星位置、衛星速度及び衛星移動方向を算出し、衛星移動データ276として記憶部27に記憶させる。
【0135】
その後、衛星信号捕捉部251は、次の捕捉対象衛星へと処理を移行する。全ての捕捉対象衛星についてステップA5〜A17の処理を行うと、衛星信号捕捉部251は、ループAの処理を終了する(ステップA19)。そして、位置算出処理部253が、記憶部27に記憶されている位置算出プログラム2711に従って位置算出処理を行う(ステップA21)。
【0136】
図16は、位置算出処理の流れを示すフローチャートである。
先ず、位置算出処理部253は、携帯型電話機1の状態“S=(p,b)”及び状態修正量“δS=(δp,δb)”を初期設定する(ステップB1)。状態の初期値“S0=(p0,b0)”は、例えば、初回の位置算出の場合は任意の値、2回目以降の位置算出の場合は前回算出した値(最新の値)とすることができる。この初期化された状態は、想定状態“Sa=(pa,ba)”として、以下の繰り返し計算により随時更新されていくことになる。状態修正量“δS”も、任意の値を設定するなどして同様に初期化する。
【0137】
次いで、位置算出処理部253は、各捕捉衛星について擬似距離“ρc”を算出し、衛星別位置算出諸量データ275に記憶させる(ステップB3)。擬似距離“ρc”は、衛星別メジャメントデータ274にメジャメント情報として記憶されているコード位相を用いて算出することができる。
【0138】
次いで、位置算出処理部253は、各捕捉衛星について幾何距離“ρa”を算出し、衛星別位置算出諸量データ275に記憶させる(ステップB5)。幾何距離“ρa”は、衛星移動データ276に記憶されている最新の衛星位置“P(k)”と、携帯型電話機1の最新の想定状態“Sa”に含まれる想定位置“pa”との間の距離として算出される。
【0139】
その後、位置算出処理部253は、各捕捉衛星について、ステップB3で算出した擬似距離“ρc”とステップB5で算出した幾何距離“ρa”との距離差“δρ”を算出し、衛星別位置算出諸量データ275に記憶させる(ステップB7)。
【0140】
次いで、位置算出処理部253は、各捕捉衛星について視線方向の単位ベクトル“L”を算出し、衛星別位置算出諸量データ275に記憶させる(ステップB9)。視線方向の単位ベクトル“L”は、向きを携帯型電話機1の最新の想定位置“pa”から衛星位置“P(k)”に向かう方向とし、大きさ(ノルム)を“1”とするベクトルとして算出することができる。
【0141】
その後、位置算出処理部253は、ステップB9で算出した視線方向の単位ベクトル“L”を用いて、式(8)の幾何行列“G”を設定する(ステップB11)。そして、各捕捉衛星について、ステップB5〜B11で求めた各諸量を用いて、式(6)に従って擬似距離残差“ε”を算出する(ステップB13)。
【0142】
次いで、位置算出処理部253は、記憶部27の擬似距離残差GMMデータ273を用いて、式(15)に従って状態修正量“δS”を算出する(ステップB15)。すなわち、EMアルゴリズムを適用した計算により状態修正量“δS”を新たに算出する。
【0143】
その後、位置算出処理部253は、収束条件が成立したか否かを判定する(ステップB17)。具体的には、今回新たに算出した状態修正量“δS”と、前回算出された状態修正量“δS”との差分を算出する。差分は、状態修正量“δS”のベクトルの差のノルムで表される。そして、算出した差分が所定の閾値未満である場合に、収束条件が成立したと判定する。
【0144】
収束条件が成立しなかったと判定した場合は(ステップB17;No)、位置算出処理部253は、最新の状態修正量“δS”を用いて状態“S”を更新する(ステップB19)。そして、ステップB3に戻る。また、収束条件が成立したと判定した場合は(ステップB17;Yes)、位置算出処理部253は、最新の状態修正量“δS”を用いて状態“S”を決定する(ステップB21)。
【0145】
そして、位置算出処理部253は、ステップB21で決定した状態“S”に基づいて、表示部50に表示出力させる出力位置を決定する(ステップB23)。具体的には、状態“S”に含まれる位置“p”をそのまま出力位置に決定してもよいし、過去の出力位置を併用して公知のフィルター処理(例えばPV(Position Velocity)フィルター処理)を行って出力位置を決定してもよい。そして、位置算出処理部253は、位置算出処理を終了する。
【0146】
図15のベースバンド処理に戻って、処理部30は、位置算出処理で決定した出力位置を表示部50に表示させる(ステップA23)。そして、処理部30は、処理を終了するか否かを判定し(ステップA25)、まだ終了しないと判定した場合は(ステップA25;No)、ステップA1に戻る。また、終了すると判定した場合は(ステップA25;Yes)、ベースバンド処理を終了する。
【0147】
4.作用効果
本実施形態によれば、GPS衛星からGPS衛星信号を受信して擬似距離が算出される。そして、擬似距離に含まれる誤差(残差)の分布を正規混合分布で表した擬似距離正規混合分布モデルを用いて、最尤推定法に基づく位置算出計算が行われることで、位置算出装置(ユーザー)の位置が算出される。
【0148】
具体的には、GPS衛星信号の拡散符号であるCAコードと、装置内部で発生させたレプリカCAコードとの相関処理により、受信CAコードのコード位相が検出され、当該コード位相を用いて擬似距離が算出される。また、想定される位置算出装置の位置(想定位置)とGPS衛星の衛星位置とを用いて、位置算出装置とGPS衛星間の幾何距離が算出されるとともに、想定位置から衛星位置への視線方向が算出される。そして、これらの諸量を用いて擬似距離残差が算出され、当該擬似距離残差に対応する確率(確率密度)が算出される。捕捉した各GPS衛星それぞれについて確率が算出されると、最尤推定法に基づく繰り返し計算によって想定位置が更新されることで、位置算出装置の位置が算出される。
【0149】
擬似距離残差正規混合分布モデルは、例えば擬似距離残差“ε”を変数とする確率密度関数として定義される。より詳細には、位置算出装置の通常時の受信環境を想定した第1の正規分布関数“p1(ε)”と、マルチパス環境を想定した第2の正規分布関数“p2(ε)”とを混合した確率密度関数として定義される。かかる擬似距離残差正規混合分布モデルを用いることで、通常時の受信環境において位置算出が正確に行われることは勿論、マルチパス環境においても位置算出を正確に行うことが可能となる。
【0150】
5.変形例
5−1.擬似距離残差GMM関数の種類
上述した実施形態では、原理で詳細に説明したように、マルチパス環境における擬似距離残差“ε”の挙動を想定して擬似距離残差“ε”のモデル化を行った。上述した実施形態で説明したモデル関数は、そのモデル化の一例である。図7で説明した擬似距離残差GMM関数において、擬似距離残差の期待値や標準偏差を僅かにずらしたり、第1及び第2の正規分布モデル関数の合成比率(モデル関数の重み)を適宜調整するといったことは当然に可能である。
【0151】
また、単純にマルチパス環境といっても、GPS衛星信号の受信状況は多様である。そこで、図7の擬似距離残差GMM関数とは異なる形状の擬似距離残差GMM関数を定義することも可能である。
【0152】
図17は、他の擬似距離残差GMM関数の一例である第2の擬似距離残差GMM関数を示す図である。第2の擬似距離残差GMM関数は、図7の擬似距離残差GMM関数と同様に、第1の正規分布モデル関数“p1(ε)”と第2の正規分布モデル関数“p2(ε)”との2種類の確率密度関数を混合(合成)した確率密度関数“p(ε)”として定義される。
【0153】
第1の正規分布モデル関数“p1(ε)”は、位置算出装置が直接波信号を受信することを想定した擬似距離残差“ε”のモデル関数であり、正規分布関数N(0,102)として表される。一方、第2の正規分布モデル関数“p2(ε)”は、マルチパス環境等において位置算出装置が間接波信号を受信することを想定した擬似距離残差“ε”のモデル関数である。
【0154】
図7の擬似距離残差GMM関数と大きく異なるのは、第2の正規分布モデル関数“p2(ε)”が、直接波信号及び間接波信号を受信することを想定したモデル関数ではなく、間接波信号のみを受信することを想定したモデル関数である点である。これは、例えば図18に示すように、位置算出装置の近傍に高層ビル等の障害物が存在している環境において起こり得る。位置算出装置の天空が完全に開けていないために、GPS衛星から送出された信号は障害物に反射し、間接波信号として位置算出装置に到達する。しかし、障害物に遮られて、直接波信号は位置算出装置に到達しない。この典型例は「アーバンキャニオン環境」である。
【0155】
本願発明者が実験を行った結果、アーバンキャニオン環境では、擬似距離残差“ε”として+100〜+150メートル程度の正の誤差が含まれる傾向があることがわかった。そこで、図17の第2の擬似距離残差GMM関数では、第2の正規分布モデル関数“p2(ε)”の期待値“μ”を“100メートル”(μ=100)とし、標準偏差“σ”を“20メートル”(σ=20)とした。すなわち、“p2(ε)=N(100,202)”とした。
【0156】
第1及び第2の正規分布モデル関数の合成比率は、位置算出装置が2割の確率でマルチパスの影響を受けると仮定して決定した。すなわち、第1の正規分布モデル関数“p1(ε)”の重みを“8/10(8割)”とし、第2の正規分布モデル関数“p2(ε)”の重みを“2/10(2割)”とした。従って、第2の擬似距離残差GMM関数“p(ε)”は、第1の正規分布モデル関数“p1(ε)”を8/10倍した関数と、第2の正規分布モデル関数“p2(ε)”を2/10倍した関数とを混合(合成)した確率密度関数として定義される。
【0157】
図19は、図17の第2の擬似距離残差GMM関数を用いて位置算出計算を行った実験結果の一例を示す図である。従来の手法と本変形例の手法とのそれぞれについて、擬似距離残差“ε”のサンプル数を“8個”として(ε=ε(1),ε(2),・・・,ε(8))、位置算出を繰り返し行う実験を試行した。位置算出の試行回数は200回であり、グラフの見方は図9及び図10と同じである。このグラフを見ると、従来の手法では、プロットは横軸の上方に偏って分布しており、位置算出精度が低くなっていることがわかる。一方、本変形例の手法では、プロットが全体的に中心部にシフトしており、位置算出精度が向上していることがわかる。
【0158】
5−2.擬似距離残差GMM関数の設定・切替
上記の擬似距離残差GMM関数の変形例とも関連するが、GPS衛星信号の受信環境やGPS衛星信号の信号強度等の条件に基づいて、擬似距離残差GMM関数の設定・切替を行って位置算出処理を行うこととしてもよい。
【0159】
図20は、この場合にベースバンド処理回路部20の処理部25が実行する第2のベースバンド処理の流れを示すフローチャートである。なお、図15のベースバンド処理と同一のステップについては同一の符号を付して説明を省略し、ベースバンド処理とは異なるステップについて説明する。
【0160】
第2のベースバンド処理では、処理部25は、ループAの処理を行った後(ステップA19)、擬似距離残差GMM関数設定処理を行う(ステップC20)。具体的には、処理部25は、GPS衛星信号の受信環境等に応じて、位置算出処理に使用する擬似距離残差GMM関数を設定する。
【0161】
より具体的には、例えば、GPS衛星信号の受信環境が屋外環境(アウトドア環境)である場合は、例えば図7に破線で示した第1の正規分布モデル関数“p1(ε)”を擬似距離残差GMM関数として設定する。また、GPS衛星信号の受信環境がマルチパス環境や屋内環境(インドア環境)である場合は、例えば図7に実線で示した擬似距離残差GMM関数を設定する。また、GPS衛星信号の受信環境がアーバンキャニオン環境である場合は、例えば図17に実線で示した第2の擬似距離残差GMM関数を設定する。
【0162】
なお、擬似距離残差GMM関数を設定するための条件は、GPS衛星信号の受信環境に限られるわけではない。例えば、受信したGPS衛星信号の信号強度や、捕捉衛星の仰角といった情報に基づいて設定してもよい。具体的には、GPS衛星信号の受信信号の信号強度が所定の閾値強度よりも小さい場合(所定の低強度条件を満たす場合)には、図17の第2の擬似距離残差GMM関数を設定し、閾値強度よりも大きい場合(所定の低強度条件を満たさない場合)には、図7の擬似距離残差GMM関数を設定するなどしてもよい。
【0163】
5−3.最尤推定アルゴリズム
上述した実施形態では、最尤推定のためのアルゴリズムとしてEMアルゴリズムを適用した場合を例に挙げて説明したが、他のアルゴリズムを適用してもよいことは勿論である。例えば、山登り法として知られる勾配法を適用してもよい。勾配法は、最適化問題に対するアルゴリズムの一種であり、所定の評価関数の勾配を用いてパラメーターの最適化を行う手法である。具体的には、擬似距離残差GMM関数の勾配を用いて、上記の実施形態と同様に、尤度(対数尤度)を最大化する解を探索すればよい。
【0164】
5−4.電子機器
上述した実施例では、位置算出装置を具備する電子機器として携帯型電話機を例に挙げて説明したが、本発明を適用可能な電子機器はこれに限られるわけではない。例えば、カーナビゲーション装置や携帯型ナビゲーション装置、パソコン、PDA(Personal Digital Assistant)、腕時計といった他の電子機器についても本発明を同様に適用可能である。
【0165】
5−5.衛星測位システム
また、上述した実施形態では、衛星測位システムとしてGPSを例に挙げて説明したが、WAAS(Wide Area Augmentation System)、QZSS(Quasi Zenith Satellite System)、GLONASS(GLObal NAvigation Satellite System)、GALILEO等の他の衛星測位システムであってもよいことは勿論である。
【0166】
5−6.処理の主体
上述した実施例では、ベースバンド処理回路部20の内部に設けられた処理部25が位置算出処理を行うものとして説明したが、電子機器のプロセッサーである処理部30が位置算出処理を行うこととしてもよい。例えば、ベースバンド回路部20の処理部25がGPS衛星信号を捕捉してメジャメント情報を取得する処理を行う。そして、処理部30は、処理部25により取得されたメジャメント情報を用いて、上記の原理に従って位置算出計算を行うこととしてもよい。
【符号の説明】
【0167】
1 携帯型電話機、 5 GPSアンテナ、 10 GPS受信部、
11 RF受信回路部、 20 ベースバンド処理回路部、 21 乗算部、
22 キャリア除去用信号発生部、 23 相関演算回路部、
24 レプリカコード発生部、 25 処理部、 27 記憶部、 30 処理部、
40 操作部、 50 表示部、 60 携帯電話用アンテナ、
70 携帯電話用無線通信回路部、 80 記憶部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測位用衛星から衛星信号を受信して擬似距離を算出することと、
前記擬似距離に含まれる誤差の分布を正規混合分布で表した正規混合分布モデルを用いて位置を算出することと、
を含む位置算出方法。
【請求項2】
前記正規混合分布モデルは、前記誤差を変数とする確率密度関数で定義される、
請求項1に記載の位置算出方法。
【請求項3】
前記位置を算出することは、
前記位置の想定位置を用いて前記擬似距離に含まれている誤差を算出することと、
前記正規混合分布モデルを用いて前記誤差に対応する確率を算出することと、
前記確率を用いて前記想定位置を更新することと、
を繰り返し行って、前記位置を算出することである、
請求項2に記載の位置算出方法。
【請求項4】
前記正規混合分布モデルは、第1の正規分布モデルと、前記第1の正規分布モデルのピーク値よりもピーク値が小さい第2の正規分布モデルとを少なくとも混合したモデルである、
請求項1〜3の何れか一項に記載の位置算出方法。
【請求項5】
前記正規混合分布モデルは、第1の正規分布モデルと、前記第1の正規分布モデルの標準偏差よりも標準偏差が大きい第2の正規分布モデルとを少なくとも混合したモデルである、
請求項1〜3の何れか一項に記載の位置算出方法。
【請求項6】
前記正規混合分布モデルは、第1の正規分布モデルと、前記第1の正規分布モデルの誤差の期待値よりも誤差の期待値が大きい第2の正規分布モデルとを少なくとも混合したモデルである、
請求項1〜3の何れか一項に記載の位置算出方法。
【請求項7】
前記正規混合分布モデルは、前記衛星信号の直接波を受信した場合の前記擬似距離に含まれる誤差の分布を示す第1の正規分布モデルと、前記衛星信号の間接波を受信した場合の前記擬似距離に含まれる誤差の分布を示す第2の正規分布モデルとを少なくとも混合したモデルである、
請求項1〜3の何れか一項に記載の位置算出方法。
【請求項8】
測位用衛星から衛星信号を受信して擬似距離を算出する擬似距離算出部と、
前記擬似距離に含まれる誤差の分布を正規混合分布で表した正規混合分布モデルを用いて位置を算出する位置算出部と、
を備えた位置算出装置。
【請求項1】
測位用衛星から衛星信号を受信して擬似距離を算出することと、
前記擬似距離に含まれる誤差の分布を正規混合分布で表した正規混合分布モデルを用いて位置を算出することと、
を含む位置算出方法。
【請求項2】
前記正規混合分布モデルは、前記誤差を変数とする確率密度関数で定義される、
請求項1に記載の位置算出方法。
【請求項3】
前記位置を算出することは、
前記位置の想定位置を用いて前記擬似距離に含まれている誤差を算出することと、
前記正規混合分布モデルを用いて前記誤差に対応する確率を算出することと、
前記確率を用いて前記想定位置を更新することと、
を繰り返し行って、前記位置を算出することである、
請求項2に記載の位置算出方法。
【請求項4】
前記正規混合分布モデルは、第1の正規分布モデルと、前記第1の正規分布モデルのピーク値よりもピーク値が小さい第2の正規分布モデルとを少なくとも混合したモデルである、
請求項1〜3の何れか一項に記載の位置算出方法。
【請求項5】
前記正規混合分布モデルは、第1の正規分布モデルと、前記第1の正規分布モデルの標準偏差よりも標準偏差が大きい第2の正規分布モデルとを少なくとも混合したモデルである、
請求項1〜3の何れか一項に記載の位置算出方法。
【請求項6】
前記正規混合分布モデルは、第1の正規分布モデルと、前記第1の正規分布モデルの誤差の期待値よりも誤差の期待値が大きい第2の正規分布モデルとを少なくとも混合したモデルである、
請求項1〜3の何れか一項に記載の位置算出方法。
【請求項7】
前記正規混合分布モデルは、前記衛星信号の直接波を受信した場合の前記擬似距離に含まれる誤差の分布を示す第1の正規分布モデルと、前記衛星信号の間接波を受信した場合の前記擬似距離に含まれる誤差の分布を示す第2の正規分布モデルとを少なくとも混合したモデルである、
請求項1〜3の何れか一項に記載の位置算出方法。
【請求項8】
測位用衛星から衛星信号を受信して擬似距離を算出する擬似距離算出部と、
前記擬似距離に含まれる誤差の分布を正規混合分布で表した正規混合分布モデルを用いて位置を算出する位置算出部と、
を備えた位置算出装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2011−247758(P2011−247758A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−121531(P2010−121531)
【出願日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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