説明

位置調整装置及び光学系位置調整装置

【課題】入力変位量を高分解能とすることなく被調整部材の変位量をより高分解能とすることが可能であり、また、調整自由度がより多い位置調整装置を提供する。
【解決手段】弾性変形可能な材質の板材における固定枠部50に囲まれる位置に第1リンク機構10が形成されており、第1リンク機構10に囲まれる位置に第2リンク機構20が形成されており、第2リンク部23の一部に被調整部材Wを保持する取り付け部が形成されている。そして、第1リンク機構20の支点となる第1支持位置11S、13Sから、取り付け部までの距離L1よりも遠い第1変位入力位置に、第1所定方向に向かう第1変位量を与える第1変位入力部N1が設けられており、第2リンク機構20の支点となる第2支持位置22S、23Sから、取り付け部までの距離L3よりも遠い第2変位入力位置に、第2所定方向に向かう第2変位量を与える第2変位入力部N2が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シンプルな構造で、より微小な変位を可能とする位置調整装置及び光学系位置調整装置に関する。
【背景技術】
【0002】
位置調整対象である被調整部材を位置調整するための機構として、一般的な調整ステージ(ガイドとベアリング、アクチュエータ、ばね等を組み合わせた調整装置)の代わりに、ガタや経年的な変位を回避するために、弾性ヒンジ機構を応用した調整装置が用いられる場合がある。
弾性ヒンジ機構を応用した調整装置の例として、例えば特許文献1に記載された従来技術では、図4に示す位置調整装置100が開示されている。位置調整装置100は、外形が矩形状の固定枠部146Aと、この固定枠部146Aに対してヒンジ機能を有する接続部146CによってY軸方向に変位可能な可動部146Bと、可動部146Bに対してヒンジ機能を有する接続部146DによってX軸方向に変位可能な可動部146Eと、を備えている。また、アクチュエータ164は可動部146BのY軸方向の変位量を制御し、アクチュエータ165は可動部146EのX軸方向の変位量を制御している。なお、被調整部材は、可動部146Eに保持されている。
また、特許文献2に記載された従来技術では、ヒンジ機構を備えた微動位置調整装置の可動部を、モータによって縦横方向に微動させる微動位置調整装置が開示されている。
【特許文献1】特開2002−23265号公報
【特許文献2】特開2007−69298号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1に記載された従来技術、及び特許文献2に記載された従来技術では、アクチュエータ等から入力する入力変位量が、そのまま被調整部材の変位量となる構成であるため、微小な変位量を得るためには、高分解能を有するアクチュエータを用いて、入力変位量を高分解能とする必要がある。また、ヒンジ機構を備えた板状の位置調整装置の表面に沿う直交する2軸の方向にしか位置調整することができないので、調整自由度が少ない。
本発明は、このような点に鑑みて創案されたものであり、入力変位量を高分解能とすることなく被調整部材の変位量をより高分解能とすることが可能であり、また、調整自由度がより多い位置調整装置及び光学系位置調整装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するための手段として、本発明の第1発明は、請求項1に記載されたとおりの位置調整装置である。
請求項1に記載の位置調整装置は、弾性変形可能な材質の板材で形成された位置調整装置である。
前記板材には、前記板材の表面に直交する方向に貫通するスリットによって形成された固定枠部が形成されている。
前記固定枠部に囲まれる位置に、前記板材の表面に平行な第1所定方向に変形することなく変位可能な複数の第1リンク部と、前記固定枠部と前記第1リンク部との接続部及び前記第1リンク部と前記第1リンク部との接続部であって弾性変形可能な複数の第1ジョイント部とが、前記スリットによって形成された第1リンク機構が形成されている。
そして、前記第1リンク機構に囲まれる位置に、前記板材の表面に平行であるとともに前記第1所定方向とは異なる第2所定方向に変形することなく変位可能な複数の第2リンク部と、前記第1リンク部と前記第2リンク部との接続部及び前記第2リンク部と前記第2リンク部との接続部であって弾性変形可能な複数の第2ジョイント部とが、前記スリットによって形成された第2リンク機構が形成されている。
また、前記第2リンク部の一部に、位置調整対象である被調整部材を保持する取り付け部と、が形成されている。
そして、前記第1所定方向に直交する第1直交方向において前記第1リンク機構の支点となる第1支持位置から、前記取り付け部までの距離よりも遠い前記第1リンク機構における第1変位入力位置に、前記第1所定方向に平行な任意の変位量である第1変位量を与える第1変位入力部が設けられている。
また、前記第2所定方向に直交する第2直交方向において前記第2リンク機構の支点となる第2支持位置から、前記取り付け部までの距離よりも遠い前記第2リンク機構における第2変位入力位置に、前記第2所定方向に平行な任意の変位量である第2変位量を与える第2変位入力部が設けられている。
【0005】
また、本発明の第2発明は、請求項2に記載されたとおりの位置調整装置である。
請求項2に記載の位置調整装置は、請求項1に記載の位置調整装置であって、前記取り付け部の中心位置が、前記第1ジョイント部のいずれか2つを通る前記第1直交方向と平行な直線である第1直交方向直線と、前記第2ジョイント部のいずれか2つを通る前記第2直交方向と平行な直線である第2直交方向直線と、の交点の近傍となるように、前記第1ジョイント部のいずれか2つと、前記第2ジョイント部のいずれか2つと、前記取り付け部と、が配置されている。
【0006】
また、本発明の第3発明は、請求項3に記載されたとおりの位置調整装置である。
請求項3に記載の位置調整装置は、請求項1または2に記載の位置調整装置であって、前記第1変位入力部は、前記第1所定方向に平行な直線である第1変位入力直線上における前記第1リンク機構の一方の端部と他方の端部である前記第1変位入力位置と対向する前記固定枠部の位置に設けられている。
また、前記第2変位入力部は、前記第2所定方向に平行な直線である第2変位入力直線上における前記第2リンク機構の一方の端部と他方の端部である前記第2変位入力位置と対向する前記第1リンク部の位置に設けられている。
【0007】
また、本発明の第4発明は、請求項4に記載されたとおりの位置調整装置である。
請求項4に記載の位置調整装置は、請求項1〜3のいずれかに記載の位置調整装置であって、前記取り付け部には、前記被調整部材を保持可能であるとともに前記板材の表面に交差する第3所定方向に前記被調整部材の位置を調整可能なホルダが取り付けられている。
【0008】
また、本発明の第5発明は、請求項5に記載されたとおりの光学系位置調整装置である。
請求項5に記載の光学系位置調整装置は、請求項4に記載の位置調整装置を用いた光学系位置調整装置であって、前記第2所定方向は、前記第1所定方向に直交する方向であり、前記第3所定方向は、前記板材の表面に直交する方向である。
また、前記第1変位入力部には、外周部にネジ部が形成された第1調整ネジを嵌合可能な第1ネジ穴が形成されており、前記第2変位入力部には、外周部にネジ部が形成された第2調整ネジを嵌合可能な第2ネジ穴が形成されており、前記被調整部材は、光学部品であり、前記ホルダには、外周部にネジ部が形成されており、前記取り付け部には、前記ホルダのネジ部に嵌合する第3ネジ穴が形成されている。
そして、前記第1ネジ穴に対する前記第1調整ネジの前記第1所定方向における位置を調整することで、前記第1支持位置から前記取り付け部までの距離と前記第1支持位置から前記第1変位入力位置までの距離とに基づいた比率で、前記第1変位量を縮小した第1調整量だけ、前記光学部品を前記第1所定方向に移動させる。
また、前記第2ネジ穴に対する前記第2調整ネジの前記第2所定方向における位置を調整することで、前記第2支持位置から前記取り付け部までの距離と前記第2支持位置から前記第2変位入力位置までの距離とに基づいた比率で、前記第2変位量を縮小した第2調整量だけ、前記光学部品を前記第2所定方向に移動させる。
更に、前記第3ネジ穴に対する前記ホルダの前記第3所定方向における位置を調整することで、前記光学部品を前記第3所定方向に移動させる。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に記載の位置調整装置を用いれば、第1所定方向への入力変位量を与える第1変位入力位置が、第1支持位置から取り付け部(すなわち被調整部材)までの距離よりも遠い位置であるため、第1変位入力位置への入力変位量よりも小さな変位量で被調整部材を第1所定方向に変位させることができる。また同様に、第2変位入力位置への入力変位量よりも小さな変位量で被調整部材を第2所定方向に変位させることができる。
これにより、入力変位量を高分解能とすることなく被調整部材の変位量をより高分解能にすることができる。
【0010】
また、請求項2に記載の位置調整装置によれば、前記取り付け部の中心位置が、前記第1ジョイント部のいずれか2つを通る前記第1直交方向と平行な直線である第1直交方向直線と、前記第2ジョイント部のいずれか2つを通る前記第2直交方向と平行な直線である第2直交方向直線と、の交点の近傍となるようにすることで、入力変位量と異なる方向への変位量がより少なくなり、調整をより容易にできるようになる。
【0011】
また、請求項3に記載の位置調整装置によれば、第1変位入力部が固定枠部に設けられているので、固定枠部に対して第1リンク機構を第1所定方向に変位させることができる。また、第2変位入力部が第1リンク機構に設けられているので、第1リンク機構に対して第2リンク機構を第2所定方向に変位させることができる。
これにより、第1変位入力部からの第1変位量の付与による第1リンク機構の変位が、第2変位入力部に対する第2変位入力位置をずらすことがない。また、第2変位入力部からの第2変位量の付与による第2リンク機構の変位が、第1変位入力部に対する第1変位入力位置をずらすこともない(図3参照)。
このように、第1所定方向への変位と、第2所定方向への変位とを独立して行うことができるので、調整がより容易である。
【0012】
また、請求項4に記載の位置調整装置によれば、被調整部材の位置を、板材の表面に交差する第3所定方向にも調整可能となるので、第1所定方向〜第3所定方向の、3次元上の位置を調整可能となり、調整自由度をより多くすることができる。
【0013】
また、請求項5に記載の光学系位置調整装置によれば、直交3軸となる第1所定方向〜第3所定方向において、第1調整ネジを用いて、第1所定方向に、第1調整ネジの変位量よりも縮小した第1調整量にて、光学部品(例えばレンズ)の位置を変位させることができるので、第1所定方向に対してより高分解能で位置調整することができる。
また、第2調整ネジを用いて、第2所定方向に、第2調整ネジの変位量よりも縮小した第2調整量にて、光学部品(例えばレンズ)の位置を変位させることができるので、第2所定方向に対してより高分解能で位置調整することができる。
また、ホルダを用いて、第3所定方向に、光学部品(例えばレンズ)の位置を変位させることができる。
これにより、3次元方向の調整自由度を有し、より高分解能で光学部品の位置を調整することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に本発明を実施するための最良の形態を図面を用いて説明する。図1及び図3は、本発明の位置調整装置1の一実施の形態における概略平面図(図1、図3)と、当該概略平面図におけるA−A断面図(図1)の例を示している。なお、X軸とY軸とZ軸は互いに直交しており、X軸とY軸は位置調整装置1の板材の表面に平行であり、Z軸は位置調整装置1の板材の表面に直交する方向を示している。
また、図3に示す位置調整装置1は、図1における位置調整装置1の正面図に対して、第2ネジ穴N2の位置、及び第1リンク部13の形状、第2リンク部21の形状が異なっている。
【0015】
●[位置調整装置1の構造と動作(図1〜図3)]
図1及び図3に示す平面図では、実体部分とスリット部分(板材の表面に直交する方向に貫通する空間部分)とを判別し易いように、実体部分にハッチングを施している。なお、A−A断面図(図1)では、断面にハッチングを施している。また図2は、位置調整装置1によるX軸方向及びY軸方向への変位を判り易くするために、概略形状(スリット部分を大きく記載)で位置調整装置1の動作を説明している図である。
位置調整装置1は、弾性変形可能な材質(弾性樹脂、金属、その他の弾性材料等)の板材で形成されており、板材の縁部を周回するように固定枠部50が形成されている。この固定枠部50に対する被調整部材W(例えば、レンズ等の光学部品)の位置を調整する。
【0016】
固定枠部50は、スリットによって位置及び形状が決定される。図1に示す例の場合、第1リンク部11、12、13がスリットで形成されることで、その周囲が固定枠部50として形成される。
固定枠部50に囲まれる位置には、第1ジョイント部11S等より厚肉に形成されて変形することなくX軸方向(第1所定方向に相当)に変位可能な複数の第1リンク部11、12、13が、スリットによって形成されている。
また、固定枠部50と第1リンク部との接続部、または第1リンク部と第1リンク部との接続部であって第1リンク部11等よりも薄肉に形成されて弾性変形可能なヒンジ機能を有する複数の第1ジョイント部11S、11A、13S、13Aが、スリットによって形成されている。
そして、複数の第1リンク部と複数の第1ジョイント部にて平行リンク機構を持つ第1リンク機構10(図2参照(第1ジョイント部の符号は省略))が形成されている。
第1リンク機構10を構成している第1リンク部11、12、13は、X軸方向の力Fxを与えられると、固定枠部50への支持位置である第1ジョイント部11S、13S(第1支持位置に相当)を支点として、X軸方向に変位可能である(図2(B)参照)。
【0017】
第1リンク機構10に囲まれる位置には、第1リンク部11等と同様に厚肉に形成されて変形することなくY軸方向(第2所定方向に相当)に変位可能な複数の第2リンク部21、22、23が、スリットによって形成されている。
また、第1リンク部と第2リンク部との接続部、または第2リンク部と第2リンク部との接続部であって第2リンク部21等よりも薄肉に形成されて弾性変形可能なヒンジ機能を有する複数の第2ジョイント部22S、22A、23S、23Aが、スリットによって形成されている。
そして、複数の第2リンク部と複数の第2ジョイント部にて平行リンク機構を持つ第2リンク機構20(図2参照(第2ジョイント部の符号は省略))が形成されている。
第2リンク機構20を構成している第2リンク部21、22、23は、Y軸方向の力Fyを与えられると、第1リンク機構10への支持位置である第1ジョイント部22S、23S(第2支持位置に相当)を支点として、Y軸方向に変位可能である(図2(C)参照)。
【0018】
位置調整対象である被調整部材Wは、第2リンク部23の一部に形成された取り付け部である第3ネジ穴N3に、ホルダ30を介して保持されている。本実施の形態では、第3ネジ穴N3は、第2リンク部23と一体的に形成されている。
また、図1及び図3の平面図において、第1リンク部13の第1ジョイント部13Sと第1ジョイント部13A(第1ジョイント部のいずれか2つに相当)を通る直線(第1直交方向直線に相当)がX軸方向に直交するように第1ジョイント部13S、13Aが配置されているとともに、当該直線が取り付け部である第3ネジ穴N3の中心位置Pを通るように、第1ジョイント部13S、13Aの位置が配置されていることがより好ましい。
また、第2リンク部23の第2ジョイント部23Sと第2ジョイント部23A(第2ジョイント部のいずれか2つに相当)を通る直線(第2直交方向直線に相当)がY軸方向に直交するように第2ジョイント部23S、23Aが配置されているとともに、当該直線が取り付け部である第3ネジ穴N3の中心位置Pを通るように、第2ジョイント部23S、23Aの位置が配置されていることがより好ましい。
図1及び図3に示す位置調整装置1における第1リンク機構10は、第1ジョイント部11Sを支点として第1リンク部11を揺動させるとともに第1ジョイント部13Sを支点として第1リンク部13を揺動させる平行リンク機構であるため、第1ジョイント部13S、13Aを通る直線がX軸方向に直交するように第1ジョイント部13S、13Aを配置し、当該直線上に中心位置Pを配置すると、X軸方向に与えた変位量に対して必然的に発生してしまうY軸方向への変位量をより小さくすることができるので、より好ましい。
また、位置調整装置1における第2リンク機構20は、第2ジョイント部22Sを支点として第2リンク部22を揺動させるとともに第2ジョイント部23Sを支点として大2リンク部23を揺動させる平行リンク機構であるため、第2ジョイント部23S、23Aを通る直線がY軸方向に直交するように第2ジョイント部23S、23Aを配置し、当該直線上に中心位置Pを配置すると、Y軸方向に与えた変位量に対して必然的に発生してしまうX軸方向への変位量をより小さくすることができるので、より好ましい。
なお、中心位置Pは、第1ジョイント部13S、13Aを通る直線(第1直交方向直線に相当)と、第2ジョイント部23S、23Aを通る直線(第2直交方向直線に相当)との交点の近傍に配置されていてもよい。
【0019】
ホルダ30は、円筒状の形状であり、被調整部材W(例えば、光学部品であるレンズ)を収容可能な内径を有しており、円筒状の内壁には被調整部材Wを保持する第2ロックナット32を嵌め込むための第4ネジ部N4が形成されている。
作業者は、ホルダ30内に被調整部材Wをセットして第2ロックナット32を嵌め込むことで、ホルダ30内に被調整部材Wを保持する。
また、ホルダ30の外周面には、第3ネジ穴N3と嵌合するネジ部が形成されている。
作業者は、円筒面にネジ部が形成されたホルダ30を第3ネジ穴N3にねじ込んで、位置調整装置1の板材の表面に対する被調整部材WのZ軸方向(第3所定方向に相当)の位置を、任意の位置に調整することができる。
また、ホルダ30の外周面のネジ部に嵌合する第1ロックナット31を用いることで、ホルダ30の位置を固定することができる。
【0020】
第1リンク機構10にX軸方向の任意の変位量を与える位置である第1変位入力位置は、X軸方向に延びる第1リンク部12の両端面であり、当該両端面に対向する位置となる固定枠部50には、第1ネジ穴N1(第1変位入力部に相当)が形成されている。作業者は、第1ネジ穴N1に第1調整ネジをねじ込んで、第1変位入力位置にX軸方向の任意の変位量を与えること、及び前記X軸方向の変位量を与えた位置で固定することができる。
また、第2リンク機構20にY軸方向の任意の変位量を与える位置である第2変位入力位置は、Y軸方向に延びる第2リンク部21の両端面であり、当該両端面に対向する位置となる固定枠部50と第1リンク部12(図1に示す位置調整装置1の場合)には、第2ネジ穴N2(第2変位入力部に相当)が形成されている。作業者は、第2ネジ穴N2に第2調整ネジをねじ込んで、第2変位入力位置にY軸方向の任意の変位量を与えること、及び前記Y軸方向の変位量を与えた位置で固定することができる。
なお、図3に示す位置調整装置1では、第2ネジ穴N2は、第1リンク部13に形成されている。
位置調整装置1の第2ネジ穴N2の位置が、図1に示す位置である場合、例えば、第2ネジ穴N2に第2調整ネジをねじ込んでY軸方向の変位量を調整した後、第1ネジ穴N1に第1調整ネジをねじ込んでX軸方向の変位量を調整すると、第2調整ネジの調整量のずれが大きくなる可能性がある。
通常、調整を行う場合、X軸方向の変位量の調整とY軸方向の変位量の調整を、交互に何度も行いながら微調整していくので、Y軸方向の変位量を調整した後にX軸方向の変位量を調整すると第2調整ネジの調整量にずれが発生する図1に示す位置調整装置1では、調整にやや手間がかかる。
これに対して、図3に示す位置調整装置1では、Y軸方向の変位量を調整した後にX軸方向の変位量を調整しても、第2調整ネジの調整量にずれが発生しないので、調整が非常に容易となる。
図1に示す位置調整装置1に対して、図3に示す位置調整装置1では、第2ネジ穴N2の位置を変更している。
すなわち、第2ネジ穴N2(第2変位入力部に相当)の位置を、Y軸方向に平行な直線である第2変位入力直線上における第2リンク機構20の一方の端部と他方の端部である第2変位入力位置(図3の場合、第2リンク部21の一方の端部と他方の端部に相当)と対向する第1リンク部13の位置に設ける(第2ネジ穴N2の位置が、図1とは異なる)。
なお、第1ネジ穴N1(第1変位入力部に相当)の位置を、X軸方向に平行な直線である第1変位入力直線上における第1リンク機構10の一方の端部と他方の端部である第1変位入力位置(図3の場合、第1リンク部12の一方の端部と他方の端部に相当)と対向する固定枠部50の位置に設ける(第1ネジ穴N1の位置は、図1と同じである)。
これにより、第1ネジ穴N1を使って調整する外側部(固定枠部50に対する第1リンク機構10)と第2ネジ穴N2を使って調整する内側部(第1リンク機構10に対する第2リンク機構20)とを独立させることができる。独立させることで、第1変位入力部からの第1変位量の付与による第1リンク機構の変位が、第2変位入力部に対する第2変位入力位置をずらすことがない。また、第2変位入力部からの第2変位量の付与による第2リンク機構の変位が、第1変位入力部に対する第1変位入力位置をずらすこともない。
従って、第1ネジ穴N1を使ったX軸方向の変位量の調整と、第2ネジ穴N2を使ったY軸方向の変位量の調整とが互いに影響を及ぼさないので、調整がより容易であり、より好ましい。
【0021】
ここで、X軸方向(第1所定方向に相当)に直交する第1直交方向(この場合、Y軸方向)において、第1リンク機構10の支点となる第1支持位置(この場合、第1ジョイント部11S、13S)から取り付け部である第3ネジ穴N3の中心位置Pまでの距離を距離L1、第1支持位置から第1変位入力位置の中心までの距離を距離L2とする。図1に示す本実施の形態では、距離L2のほうが距離L1よりも長くなるように設定している。
従って、第1ネジ穴N1に第1調整ネジをねじ込んで、第1変位入力位置(この場合、第1リンク部12の両端面)にX軸方向の任意の変位量ΔXを与えると、図2(B)に示すように被調整部材Wの位置が、ΔX*L1/L2だけX軸方向に移動する。なお、図2(B)は理解し易いように変位量ΔXを大きくしているため、第2リンク部23が傾斜しているが、実際に与える変位量ΔXは、第2リンク部23が傾斜しない程度の僅かな変位量である。
これにより、与えた変位量ΔXに対して、調整対象である被調整部材WのX軸方向の移動量をΔX*L1/L2に縮小することができるので、入力変位量を高分解能にすることなく、被調整部材Wの変位量をより高分解能とすることができる。もちろん、縮小率であるL1/L2は、取り付け部である第3ネジ穴N3のY軸方向の位置を変更することで、所望する値に設定することができる。
【0022】
また同様に、Y軸方向(第2所定方向に相当)に直交する第2直交方向(この場合、X軸方向)において、第2リンク機構20の支点となる第2支持位置(この場合、第2ジョイント部22S、23S)から取り付け部である第3ネジ穴N3の中心位置Pまでの距離を距離L3、第2支持位置から第2変位入力位置の中心までの距離を距離L4とする。図1に示す本実施の形態では、距離L4のほうが距離L3よりも長くなるように設定している。
従って、第2ネジ穴N2に第2調整ネジをねじ込んで、第2変位入力位置(この場合、第2リンク部21の両端面)にY軸方向の任意の変位量ΔYを与えると、図2(C)に示すように被調整部材Wの位置が、ΔY*L3/L4だけY軸方向に移動する。なお、図2(C)は理解し易いように変位量ΔYを大きくしているため、第2リンク部23が傾斜しているが、実際に与える変位量ΔYは、第2リンク部23が傾斜しない程度の僅かな変位量である。
これにより、与えた変位量ΔYに対して、調整対象である被調整部材WのY軸方向の移動量をΔY*L3/L4に縮小することができるので、入力変位量を高分解能にすることなく、被調整部材Wの変位量をより高分解能とすることができる。もちろん、縮小率であるL3/L4は、取り付け部である第3ネジ穴N3のX軸方向の位置を変更することで、所望する値に設定することができる。
【0023】
以上、本実施の形態にて説明した位置調整装置1は、第1調整ネジによるX軸方向の変位量ΔX、第2調整ネジによるY軸方向の変位量ΔYに対して、被調整部材Wの変位量が特定の比率で縮小されるため、より高精度(高分解能)な調整が可能となる。
また、Z軸方向への調整機構が光学部材(被調整部材W)のホルダを兼ねているので、3軸ステージ装置よりも、よりコンパクトな構成で3軸の調整が可能である。
また、被調整部材Wがレンズである場合、光を通る部分が調整機構の中央となるため、これを用いた光学系の全体をコンパクト化することができる。
【0024】
本発明の位置調整装置1は、本実施の形態で説明した外観、構成、構造等に限定されず、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更、追加、削除が可能である。
また、本実施の形態にて説明した位置調整装置1では、板材の表面に平行な第1所定方向と第2所定方向が直交する例を説明したが、第1所定方向と第2所定方向は直交していなくてもよい。また第3所定方向も板材と直交していなくてもよい。
また、第1ロックナット31、第2ロックナット32の代わりにネジ等を用いて固定する構造としてもよい。
また、Z軸方向の移動を高精度にするために、第3ネジ穴N3とホルダ30の円筒面に形成したネジ部とを、差動ネジの構成としてもよい。
また、本実施の形態の説明では、被調整部材Wをレンズ等の光学部品とした(光学系)位置調整装置1の例を説明したが、被調整部材Wは光学部品に限定されず、位置調整装置1は、種々の被調整部材Wの位置を微小な変位で調整可能な位置調整装置として適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の位置調整装置1の一実施の形態における概略平面図と、当該概略平面図におけるA−A断面図の例を説明する図である。
【図2】位置調整装置1による、被調整部材WのX軸方向への変位、及びY軸方向への変位を説明する図である。
【図3】図1に示す位置調整装置1に対して、入力変位量を、より入力し易くした例を説明する図である。
【図4】従来の位置調整装置100の構造の例を説明する図である。
【符号の説明】
【0026】
1 位置調整装置
10 第1リンク機構
11、12、13 第1リンク部
11S、11A、13S、13A 第1ジョイント部
20 第2リンク機構
21、22、23 第2リンク部
22S、22A、23S、23A 第2ジョイント部
N1 第1ネジ穴
N2 第2ネジ穴
N3 第3ネジ穴
N4 第4ネジ部
30 ホルダ
31 第1ロックナット
32 第2ロックナット
50 固定枠部
W 被調整部材



【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性変形可能な材質の板材で形成された位置調整装置において、
前記板材には、
前記板材の表面に直交する方向に貫通するスリットによって形成された固定枠部と、
前記固定枠部に囲まれる位置に、前記板材の表面に平行な第1所定方向に変形することなく変位可能な複数の第1リンク部と、前記固定枠部と前記第1リンク部との接続部及び前記第1リンク部と前記第1リンク部との接続部であって弾性変形可能な複数の第1ジョイント部とが、前記スリットによって形成された第1リンク機構と、
前記第1リンク機構に囲まれる位置に、前記板材の表面に平行であるとともに前記第1所定方向とは異なる第2所定方向に変形することなく変位可能な複数の第2リンク部と、前記第1リンク部と前記第2リンク部との接続部及び前記第2リンク部と前記第2リンク部との接続部であって弾性変形可能な複数の第2ジョイント部とが、前記スリットによって形成された第2リンク機構と、
前記第2リンク部の一部に、位置調整対象である被調整部材を保持する取り付け部と、が形成されており、
前記第1所定方向に直交する第1直交方向において前記第1リンク機構の支点となる第1支持位置から、前記取り付け部までの距離よりも遠い前記第1リンク機構における第1変位入力位置に、前記第1所定方向に平行な任意の変位量である第1変位量を与える第1変位入力部が設けられており、
前記第2所定方向に直交する第2直交方向において前記第2リンク機構の支点となる第2支持位置から、前記取り付け部までの距離よりも遠い前記第2リンク機構における第2変位入力位置に、前記第2所定方向に平行な任意の変位量である第2変位量を与える第2変位入力部が設けられている、
位置調整装置。
【請求項2】
請求項1に記載の位置調整装置であって、
前記取り付け部の中心位置が、前記第1ジョイント部のいずれか2つを通る前記第1直交方向と平行な直線である第1直交方向直線と、前記第2ジョイント部のいずれか2つを通る前記第2直交方向と平行な直線である第2直交方向直線と、の交点の近傍となるように、前記第1ジョイント部のいずれか2つと、前記第2ジョイント部のいずれか2つと、前記取り付け部と、が配置されている、
位置調整装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の位置調整装置であって、
前記第1変位入力部は、
前記第1所定方向に平行な直線である第1変位入力直線上における前記第1リンク機構の一方の端部と他方の端部である前記第1変位入力位置と対向する前記固定枠部の位置に設けられており、
前記第2変位入力部は、
前記第2所定方向に平行な直線である第2変位入力直線上における前記第2リンク機構の一方の端部と他方の端部である前記第2変位入力位置と対向する前記第1リンク部の位置に設けられている、
位置調整装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の位置調整装置であって、
前記取り付け部には、前記被調整部材を保持可能であるとともに前記板材の表面に交差する第3所定方向に前記被調整部材の位置を調整可能なホルダが取り付けられている、
位置調整装置。
【請求項5】
請求項4に記載の位置調整装置を用いた光学系位置調整装置であって、
前記第2所定方向は、前記第1所定方向に直交する方向であり、
前記第3所定方向は、前記板材の表面に直交する方向であり、
前記第1変位入力部には、外周部にネジ部が形成された第1調整ネジを嵌合可能な第1ネジ穴が形成されており、
前記第2変位入力部には、外周部にネジ部が形成された第2調整ネジを嵌合可能な第2ネジ穴が形成されており、
前記被調整部材は、光学部品であり、
前記ホルダには、外周部にネジ部が形成されており、
前記取り付け部には、前記ホルダのネジ部に嵌合する第3ネジ穴が形成されており、
前記第1ネジ穴に対する前記第1調整ネジの前記第1所定方向における位置を調整することで、前記第1支持位置から前記取り付け部までの距離と前記第1支持位置から前記第1変位入力位置までの距離とに基づいた比率で、前記第1変位量を縮小した第1調整量だけ、前記光学部品を前記第1所定方向に移動させ、
前記第2ネジ穴に対する前記第2調整ネジの前記第2所定方向における位置を調整することで、前記第2支持位置から前記取り付け部までの距離と前記第2支持位置から前記第2変位入力位置までの距離とに基づいた比率で、前記第2変位量を縮小した第2調整量だけ、前記光学部品を前記第2所定方向に移動させ、
前記第3ネジ穴に対する前記ホルダの前記第3所定方向における位置を調整することで、前記光学部品を前記第3所定方向に移動させる、
光学系位置調整装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−76072(P2010−76072A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−249886(P2008−249886)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】