説明

低ホルムアルデヒド含有量のナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物の製造方法

【課題】 過酸化物を用いることなく、しかも脱塩のための冷却工程を不要とする低ホルムアルデヒド含有量のナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物の製造方法を提供する。
【解決手段】 スルホン化及びホルムアルデヒド縮合反応後の反応混合物中のナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のスルホン酸基に対して、0.8〜1.2当量のNaOHと、これに加えてCa(OH)2とを加えることにより、アルカリ化をpH10.5〜12.5の範囲で行う。次に、アルカリ化により生成した石膏を遠心分離、濾過等により除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物の製造方法に関し、更に詳細には、ホルムアルデヒド含有量の少ないナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナフタレン骨格を有するナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物は、染料、顔料、農薬等の分散剤として、また土木や建築用の分散剤として有用である。このナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物は、ナフタレン骨格を有するナフタレンを濃硫酸、発煙硫酸等のスルホン化剤を用いてスルホン化した後、ホルムアルデヒドを用いた縮合反応工程を経て、更に安価な水酸化ナトリウムを用いてアルカリ化し、脱塩することにより製造されている。しかし、この縮合反応工程で使用されるホルムアルデヒドは、特有の臭気を有すると共に健康上有害であるため、低減が求められている。また、脱塩工程に於いてはナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物に含まれる硫酸ナトリウムを十分に除去するために冷却が必要となり、エネルギー的に無駄が多いという問題点がある。
【0003】
ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物中のホルムアルデヒドを低減させるために、例えば過酸化物によりホルムアルデヒドを酸化して蟻酸にする方法が知られている。また、中和後のナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物に含まれるホルムアルデヒドを薄膜蒸発装置によりホルムアルデヒドを除去する方法が採られる場合もある(例えば、特許文献1)。
【0004】
しかしながら、過酸化物を用いる方法では発泡に対する対策が必要となる。また、薄膜蒸発装置によりホルムアルデヒドを除去する方法では、大がかりな装置を使用しているにもかかわらず、ホルムアルデヒド除去効果が十分ではないという問題点がある。
【特許文献1】特開平5−320120号公報(請求項1、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明はこのような問題点を解決するために為されたものであり、本発明の目的は、過酸化物を用いることなく、低ホルムアルデヒド含有量のナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物を得ることができ、しかも脱塩のための冷却工程を不要とする製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の低ホルムアルデヒド含有量のナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物の製造方法は、ナフタレン骨格を有するナフタレン化合物をスルホン化剤を用いてスルホン化するスルホン化工程と、該スルホン化工程後の反応混合物にホルムアルデヒドを添加して縮合反応を行う縮合反応工程と、該縮合反応工程後の反応混合物をアルカリ化するアルカリ化工程と、該アルカリ化工程後に脱塩を行う脱塩工程とを備えたナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物の製造方法において、前記アルカリ化工程におけるアルカリ化をpH10.5〜12.5で行うことを特徴とする。
【0007】
このように、アルカリ化工程におけるアルカリ化をpH10.5〜12.5で行うことにより、ホルムアルデヒドのCANNIZZARO反応を促進して残留ホルムアルデヒドの低減を図ることができる。
【0008】
また、前記脱塩工程後における反応混合物をpH6〜10に調整するpH調整工程を更に設けてもよい。このpH調整は、公知の酸を用いて行うことができる。
【0009】
これにより、市場に流通する通常のナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物と同様のpHを有するナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物を得ることができる。なお、場合によっては、pH調整により生成した無機塩を除去するために、脱塩工程を設けてもよい。
【0010】
また、前記アルカリ化工程においては、反応混合物中のナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のスルホン酸基に対して0.8〜1.2当量の一酸塩基と、これに加えてアルカリ土類金属水酸化物を加えることにより、前記アルカリ化をpH10.5〜12.5の範囲で行うことを特徴とする。
【0011】
このように、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物中のスルホン酸基に対して0.8〜1.2当量の一酸塩基と、さらにアルカリ土類金属水酸化物を加えることにより、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のスルホン酸基を一酸塩基で中和するとともに一部のスルホン酸基を二酸塩基で中和し、残余のスルホン化剤をアルカリ土類金属水酸化物で不溶性の塩として、次の脱塩工程における脱塩をデカンテーション、遠心分離等の方法で容易に行うとともに、純度の高いナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物を得ることが可能となる。
【0012】
以上により、アルカリ化工程後の反応混合物のホルムアルデヒド含有量を1000ppm以下とすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明のナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物の製造方法によれば、アルカリ化工程におけるホルムアルデヒドのCANNIZZARO反応が十分に促進されるので、低ホルムアルデヒド含有量のナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物を得ることができる。
【0014】
また、アルカリ化工程におけるアルカリ化を、一酸塩基とアルカリ土類金属水酸化物とを用いて行うことにより、脱塩工程における脱塩を容易に行うことができ、しかも純度の高いナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物の製造方法における原料は、ナフタレン骨格を有するナフタレン化合物であり、ナフタレン、メチルナフタレン等や、これらの混合物を例示することができる。また、本発明の製造方法におけるスルホン化工程で使用されるスルホン化剤として、濃硫酸及び発煙硫酸を使用することができる。通常、スルホン化剤は、ナフタレン化合物に対して当量より多い過剰量で使用される。スルホン化剤を使用したスルホン化は、公知の反応条件で行うことができる。
【0016】
次に、スルホン化工程で得られたナフタレンスルホン酸は、ホルムアルデヒドとの縮合反応によりナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物となる。この縮合反応も、公知の反応条件で行うことができる。
【0017】
本発明のナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物の製造方法は、ナフタレンの核体数が大きいほど有効である。核体数が小さい場合には残存ホルムアルデヒド量が少なく、逆に核体数が大きいほど残存ホルムアルデヒド量が多くなるからである。具体的には、本発明の製造方法は核体数が6個(芳香環12個)以上の場合に有効である。
【0018】
本発明の製造方法のアルカリ化工程におけるアルカリ化は、pH10.5〜12.5の範囲で行われ、好ましくはpH11.5〜12.5の範囲で行われる。pHが上記範囲に満たない場合には、CANNIZZARO反応によるホルムアルデヒドの除去が不十分となり、また、pHを上記範囲より大きくすることは、非常に多くのアルカリを添加することが必要となるので好ましくない。
【0019】
ここで、アルカリ化工程におけるアルカリ化は、一酸塩基と、二酸塩基であるアルカリ土類金属水酸化物とを用いて行うことが好ましい。ここで、一酸塩基は、縮合反応工程後の反応混合物中のナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のスルホン酸基に対して0.8〜1.2当量で使用し、アルカリ土類金属水酸化物は、反応混合物がpH10.5〜12.5の範囲となる量で使用することが好ましい。これにより、殆どのナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のスルホン酸基を一酸塩基で中和するとともに一部のスルホン酸基を二酸塩基で中和し、残余のスルホン化剤をアルカリ土類金属水酸化物で不溶性の塩として、次の脱塩工程における脱塩を容易に行うとともに、純度の高いナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物を得ることが可能となる。
【0020】
ここで、一酸塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、これらの混合物等を例示することができ、アルカリ土類金属水酸化物としては、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等を例示することができる。これらのうち、コストなどの面から、一酸塩基としては水酸化ナトリウムが、アルカリ土類金属水酸化物としては水酸化カルシウムが好ましい。
【0021】
本発明のアルカリ化工程における温度は、70〜90℃の範囲であることが好ましい。アルカリ化の温度が上記範囲より低いと、CANNIZZARO反応によりホルムアルデヒドを十分に除去することができず、また、アルカリ化の温度が上記範囲より高いと、反応混合物が沸騰する虞があるので好ましくない。
【0022】
また、アルカリ化は、0.5〜1.5時間行うことが好ましい。これにより、必要かつ十分にCANNIZZARO反応を促進させることができる。
【0023】
本発明における脱塩工程は、アルカリ化工程後の反応混合物からアルカリ化により生成した塩を除去するものであり、例えば遠心分離器、デカンタ、濾過機等を使用することができる。
【実施例】
【0024】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、本明細書中における「%」及び「部」は、特に断らない限り、それぞれ「重量%」及び「重量部」を表している。
【0025】
(実施例)
反応容器にナフタレン1000重量部と、98%硫酸1015重量部とを仕込み、158℃〜162℃で1.5時間加熱してスルホン化を行った。続いて、この反応混合物に水300重量部を添加して希釈した後、ホルマリン(ホルムアルデヒド含有量35重量%)を670重量部仕込み、100〜110℃で10時間、縮合反応を行った。
【0026】
次に、水1300重量部を添加後、液体苛性ソーダ(NaOH含有量48重量%)を650重量部と、pHが11.8となるように消石灰(Ca(OH)2)を加え、80℃で1時間アルカリ化を行った。
【0027】
次に、反応混合物の遠心分離及び濾過を行うことにより、アルカリ化工程で生成した石膏、芒硝等の塩を除去した。このときの反応混合物のpHは11.8であった。また、得られたナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のホルムアルデヒド含有量は1000ppmであった。
【0028】
(比較例)
実施例と同様に、反応容器にナフタレン1000重量部と、98%硫酸1015重量部とを仕込み、158℃〜162℃で1.5時間加熱してスルホン化を行った。続いて、この反応混合物に水300重量部を添加して希釈した後、ホルマリン(ホルムアルデヒド含有量35重量%)を670重量部仕込み、100〜110℃で10時間、縮合反応を行った。
【0029】
次に、水1300重量部を添加後、液体苛性ソーダ(NaOH含有量48重量%)をpHが9.5となるように加え、65℃で0.7時間中和を行った。
【0030】
次に、反応混合物を7℃まで冷却し、芒硝を析出させた後、遠心分離を行うことにより、中和工程で生成した芒硝を除去した。このときの反応混合物のpHは9.5であった。得られたナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のホルムアルデヒド含有量は3700ppmであった。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明のナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物の製造方法によれば、低ホルムアルデヒド含有量のナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物を得ることができるので、染料、顔料、農薬等の分散剤の分野で有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナフタレン骨格を有するナフタレン化合物をスルホン化剤を用いてスルホン化するスルホン化工程と、該スルホン化工程後の反応混合物にホルムアルデヒドを添加して縮合反応を行う縮合反応工程と、該縮合反応工程後の反応混合物をアルカリ化するアルカリ化工程と、該アルカリ化工程後に脱塩を行う脱塩工程とを備えたナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物の製造方法において、
前記アルカリ化工程におけるアルカリ化をpH10.5〜12.5で行うことを特徴とする、低ホルムアルデヒド含有量のナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物の製造方法。
【請求項2】
前記脱塩工程後における反応混合物をpH6〜10に調整するpH調整工程を更に包含していることを特徴とする、請求項1記載の低ホルムアルデヒド含有量のナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物の製造方法。
【請求項3】
前記アルカリ化工程においては、反応混合物中のナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のスルホン酸基に対して0.8〜1.2当量の一酸塩基と、これに加えてアルカリ土類金属水酸化物を加えることにより、前記アルカリ化をpH10.5〜12.5の範囲で行うことを特徴とする、請求項1又は2記載の低ホルムアルデヒド含有量のナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物の製造方法。
【請求項4】
前記一酸塩基は水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア及びこれらの混合物から選択されるものである請求項1乃至3の何れかに記載の低ホルムアルデヒド含有量のナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物の製造方法。
【請求項5】
前記アルカリ土類金属水酸化物は、水酸化カルシウムである請求項1乃至4の何れかに記載の低ホルムアルデヒド含有量のナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物の製造方法。
【請求項6】
前記アルカリ化工程における温度は、70〜90℃の範囲であることをことを特徴とする、請求項1乃至5の何れかに記載の低ホルムアルデヒド含有量のナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物の製造方法。
【請求項7】
前記アルカリ化工程におけるアルカリ化は、0.5〜1.5時間行うことを特徴とする請求項6記載の低ホルムアルデヒド含有量のナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物の製造方法。
【請求項8】
前記アルカリ化工程後の反応混合物のホルムアルデヒド含有量が、1000ppm以下である、請求項1乃至7の何れかに記載の低ホルムアルデヒド含有量のナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物の製造方法。

【公開番号】特開2007−99719(P2007−99719A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−293676(P2005−293676)
【出願日】平成17年10月6日(2005.10.6)
【出願人】(000003506)第一工業製薬株式会社 (491)
【Fターム(参考)】