説明

低分子量ポリアミド樹脂を基材とする複合物品

本発明は、複合物品の製造のために、高分子量ポリアミドと同様の処理加工条件で使用できる低分子量ポリアミド樹脂を使用することに関する。該物品は、通常使用されるよりも短いサイクル時間で製造された場合であっても、また、該複合物品の製造中又は製造後に他の処理をすることがなくても、顕著な剛性、破壊強度、衝撃靱性及び疲労挙動などの良好な機械的性質を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合物品の製造のために、高分子量ポリアミドと同様の処理加工条件で使用できる低分子量ポリアミド樹脂を使用することに関する。該物品は、通常使用されるよりも短いサイクル時間で製造された場合であっても、また、該複合物品の製造中又は製造後に他の処理をすることがなくても、顕著な剛性、破壊強度、衝撃靱性及び疲労挙動などの良好な機械的性質を有する。
【背景技術】
【0002】
従来技術
高性能材料の分野では、複合材料がその性能及び軽量化のため主導的な地位を占めている。今日までに最もよく知られている高性能複合材料は、熱硬化性樹脂から得られているが、その使用は、短〜中級の用途、主に航空機、モータースポーツの用途に限られており、そして最良の場合には、例えばスキー製造の際には約15分に近い製造時間を有する。これらの材料のコスト及び/又は製造時間のため、該材料と大規模使用との相性はよくない。さらに、熱硬化性樹脂の使用は、溶媒及び単量体の存在を伴う場合が多い。最後に、これらの複合材料は、リサイクルするのが難しい。
【0003】
製造時間に関する一つの答えは、熱可塑性マトリックスを有する複合材料により得られる。熱可塑性重合体は、高粘度であることが一般的に知られているところ、この高粘度は、一般に非常に密度の高いマルチフィラメント束から構成される補強用材料の含浸に対する障害となる。市販の熱可塑性マトリックスを使用すると含浸が困難になるため、より長い含浸時間か高い加圧かのいずれかが必要となる。ほとんどの場合、これらのマトリックスから得られる複合材料は、微小空洞及び非含浸領域を有し得る。これらの微小空洞は、機械的性質の低下、該材料の早期老化のみならず、該材料が数個の補強層から構成される場合には層間剥離の問題ももたらす。この機械的性質が失われる現象は、複合物品を製造するためのサイクル時間が減少すると、さらに強まる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】欧州特許第0261020号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明の目的は、短いサイクル時間で製造することができると共に、良好な機械的性質といった良好なサービス特性を有することのできる複合物品を提案することによって、これらの不利益を克服することである。
【0006】
欧州特許第0261020B1号には、ガラス繊維を含むポリアミド複合材料の製造方法であって、該ポリアミドが専ら鎖の末端に反応性官能基を有するプレポリマー又はオリゴマーという特定の特徴を有するものが記載されている。これらプレポリマーの低い粘度により、該重合体による繊維の良好な湿潤又は良好な含浸を確保することができる。ポリアミドプレポリマーに反応性官能基が存在することで、高温での処理により反応性末端基間で反応が生じて凝縮水が生成し(これは、該複合材料の良好な性能を確保するために該複合材料からこの水を抽出することを伴うため欠点である)、該プレポリマーの鎖延長、それによる溶融粘度の増加が生じる。この場合には、初期の分子量は維持されない。該複合材料中におけるポリアミドの最終分子量は、適用条件(T℃、圧力、脱ガスなど)に大きく依存する。したがって、複合材料の製造条件の変更は、該複合材料の製造サイクルの変更及び該複合材料の性能の変化をもたらす可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明
出願人は、予期せず、低分子量の形態で、しかも鎖末端の一部が非反応性のポリアミドを複合物品の製造のために使用すると、通常使用されるよりも短いサイクル時間で製造しても、また他の処理を行わなくても、顕著な剛性、破壊強度、衝撃靱性及び疲労挙動といった良好な機械的性質を有する物品を高分子量ポリアミドと同様の処理加工条件で得ることが可能であることを見出した。
【0008】
これは、短縮されたサイクル時間を用いる装置を使用することによって、製造コストの削減という利点を与える複合材料を供給することを可能にする。さらに、本発明のポリアミド樹脂は、特に、高分子量ポリアミドを製造するのに使用されるのと同じ合成方法に従って「連鎖制限剤」と呼ばれる1種以上の1官能性分子の存在下でポリアミドの単量体を重合することにより簡便に製造される。
【0009】
問題のポリアミド樹脂の分子量は、該複合物品の製造方法において、高分子量ポリアミドを基材とする複合物品の通常の製造条件では分子量の増加の方向には進展しないことが分かった。つまり、非常に驚くべきことに、機械的性能の高い複合材料が得られる一方で、その重合体マトリックスは、その分子量が低すぎるため、それ自体では高い機械的性能を示さない。
【0010】
一般に8000g/モルを軽く上回る数平均分子量(Mn)を有する高分子量ポリアミドを使用することに慣れている処理加工者は、該ポリアミドを処理加工前に決められた含水量に状態調整して(これは、特に、ポリアミドの性質と温度及び圧力などの処理加工条件とに依存する)溶融粘度が変化するのを防ぎ、それによって処理加工サイクルの混乱を防がなければならないことを知っている。ポリアミドの溶融粘度は、その分子量に関連する。したがって、溶融粘度が変化するのを防ぐためには、処理加工全体にわたりポリアミドがその初期の分子量を維持すべきことが重要である。
【0011】
これらのポリアミドは、ジアミンと、二酸と、随意に連鎖制限剤、一般には一酸及び/又はモノアミンとの反応により得られる。アミン官能基と酸官能基との所定の温度及び圧力での縮合反応は、アミド官能基と水とを生成する平衡反応であり、かつ、 K=([アミド].[H2O]))/([アミン].[酸])(ここで、[アミド]、[H2O]、[アミン]及び[酸]はそれぞれアミド官能基、水、アミン及び酸の濃度である。)によって定義される熱力学的平衡定数Kによって特徴付けられる。
【0012】
一般に、処理加工者は、高分子ポリアミドの処理加工中に粘度が変化するのを避けるために、該ポリアミドの状態調整(特に乾燥)のための条件を実験的に決定している。繊維への含浸を容易にするために低粘度のポリアミド樹脂、すなわち低分子量のポリアミド樹脂であって、その処理加工の間に分子量が変化しないことを確保するために乾燥条件を調節する必要のない樹脂に対する要望が存在している。本発明の低分子量ポリアミド樹脂は、同じ性質の高分子量ポリアミドを使用する処理加工者が使用するのと同様の含水量でそれらの分子量を有意に変化させることなく同じ温度及び圧力条件で処理加工することができるという利益を与える。
【0013】
本発明の物品は、剛性、軽量及びリサイクル性並びに良好な表面仕上げという利点を有する。
【0014】
まず、本発明は、成形による複合物品の製造方法であって、少なくとも次の工程:
(a)補強用繊維に次のものを有するポリアミド樹脂を溶融状態で含む組成物を含浸させる工程:
・次の関係:Mn=2000000/(AEG+CEG+BEG)に従って算出される、1500〜8000g/モルの数平均分子量Mn、
・25meq/kg以上のアミン末端基(AEG)濃度、
・25meq/kg以上の酸末端基(CEG)濃度、
・25meq/kg以上のブロック化末端基(BEG)濃度;
(b)該複合物品を冷却し、続いて回収する工程
を含み、ここで、該ポリアミドは、該ポリアミドの鎖に化学的に結合する芳香族ヒドロキシル単位により変性されたポリアミドではない、前記製造方法に関するものである。
【0015】
また、本発明は、本発明に従うポリアミド樹脂を溶融状態で含む組成物の、特に少なくとも1種の補強用織物を含む複合物品を製造するための使用に関するものでもある。
【0016】
「本発明の複合物品」とは、特に、力学的耐久性を確保する補強材と呼ばれる構造と、該材料を結合させ、かつ、該補強材に応力を伝達する熱可塑性マトリックスとを有する材料を意味する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
織物
織物とは、特に接着、フェルト化、編み、製織及び編組などの任意の方法によりまとめられた糸又は繊維を組み立てることによって得られる繊維表面を意味する。また、これらの織物は、繊維ネットワーク又はフィラメントネットワークとも呼ばれる。糸とは、モノフィラメント、連続マルチフィラメント糸、単一型の繊維又は緊密な混合物としての数種類の繊維から得られる繊維の糸を意味する。また、この連続糸は、数種のマルチフィラメント糸をまとめることによっても得られる。繊維とは、フィラメント又は切断され、分断され若しくは変形されたフィラメントの集合物を意味する。
【0018】
補強用織物、好ましくは、炭素、ガラス、アラミド、ポリアミド、亜麻、大麻、サイザル麻、コイア、黄麻、ケナフ麻及び/又はそれらの混合物の糸及び/又は繊維から選択される補強用糸及び/又は繊維を含む。より好ましくは、補強用織物は、専ら、炭素、ガラス、アラミド、ポリアミド、亜麻、大麻、サイザル麻、コイア、黄麻、ケナフ麻及び/又はそれらの混合物の糸及び/又は繊維から選択される補強用糸及び/又は繊維からなる。
【0019】
これらの織物は、好ましくは、100〜1000g/m2の重量、すなわち平方メートル当たりの重量を有する。
【0020】
それらの構造は、ランダム(マット)、一方向(UD)、又は多方向、ほぼバランスが取れたもの(2D、2.5D、3Dなど)であることができる。
【0021】
ポリアミド
ポリアミドは、少なくとも1種の脂肪族直鎖ジカルボン酸と脂肪族若しくは環状ジアミンとの重縮合又は少なくとも1種の芳香族ジカルボン酸と脂肪族若しくは芳香族ジアミンとの重縮合によって得られるポリアミド、少なくとも1種のアミノ酸又はラクタム自体の重縮合により得られるポリアミド或いはそれらの混合物及び(コ)ポリアミドよりなる群から選択できる。半結晶性ポリアミドが特に好ましい。また、直鎖ポリアミドも好ましい。
【0022】
本発明のポリアミドは、少なくとも1種の脂肪族ジカルボン酸と脂肪族若しくは環状ジアミンの重縮合により得られるポリアミド、例えばPA6.6、PA6.10、PA6.12、PA12.12、PA4.6、MXD6又は少なくとも1種の芳香族ジカルボン酸と脂肪族若しくは芳香族ジアミンとの重縮合により得られるポリアミド、例えばポリテレフタルアミド、ポリイソフタルアミド、ポリアラミド或いはそれらの混合物及び(コ)ポリアミドよりなる群から選択される。また、本発明のポリアミドは、少なくとも1種のアミノ酸又はラクタム自体の重縮合により得られるポリアミドからも選択でき、このアミノ酸は、ラクタム環の加水分解による開環によって生成できる。例えばPA6、PA7、PA9、PA11、PA12、PA13又はそれらの混合物及び(コ)ポリアミドである。また、本発明のポリアミドは、二酸とジアミンとアミノ酸との重縮合により得られるポリアミドの群からも選択でき、例えばPA6.6/6コポリアミドがある。直鎖ポリアミドが特に好ましい。
【0023】
高い分子量のポリアミド、一般には8000g/molよりも高いポリアミドは、特に、アミン及び酸の鎖末端と、連鎖阻害剤とも呼ばれる随意の連鎖制限剤とを、例えばポリアミドのmeq/kgで表される各AEG、CEG及びBEG濃度で有する。g/molで表される直鎖ポリアミドの数平均分子量は、次の計算式:Mn=2000000/(AEG+CEG+BEG)で得ることができる。特性の異なるポリアミドについては、鎖末端の濃度からポリアミドの数平均分子量を見出すための別の表現がある。また、アミンAEG及び酸CEG鎖末端の濃度により、処理加工中に分子量の変動がないことを確保するために必要なポリアミドの含水量を決定することも可能になる。
【0024】
本発明のポリアミドは、特に、ポリアミドの重合に関する従来の操作条件に従って、連続的に又はバッチモードで1種以上の連鎖制限剤の存在下で実施される重合により;又は1種以上の連鎖制限剤の存在下でポリアミドを押し出すことにより得ることができる。
【0025】
「連鎖制限剤」又は「連鎖阻害剤」とも呼ばれる1官能性分子とは、ポリアミドの単量体との反応により単一の共有結合を生じさせる分子をいう。
【0026】
該連鎖制限剤の反応性官能基は、カルボン酸又はその誘導体、例えば、塩化アシル、エステル、アミド、隣接二酸、酸無水物、アミン、アルデヒド、ケトン、ハロゲン化物、イソシアネート、尿素、アルコール、チオールであることができる。この官能性分子は、ポリアミドの単量体との反応には関与しない1個以上のヘテロ原子をさらに含むことができる。
【0027】
本発明のポリアミド樹脂は、25meq/kg以上で、かつ、好ましくは220meq/kg以下のアミン末端基(AEG)濃度、より好ましくは30meq/kg以上でかつ150meq/kg以下ののアミン末端基(AEG)濃度を有する。
【0028】
本発明のポリアミド樹脂は、25meq/kg以上で、かつ、好ましくは220meq/kg以下のカルボキシル末端基(CEG)濃度、より好ましくは30meq/kg以上で、かつ、150meq/kg以下のカルボキシル末端基(CEG)濃度を有する。
【0029】
本発明のポリアミド樹脂は、25meq/kg以上で、かつ、好ましくは250meq/kg以下のブロック化末端基(BEG)濃度、より好ましくは30meq/kg以上で、かつ、200meq/kg以下のブロック化末端基(BEG)濃度を有する。
【0030】
本発明に好適なポリアミドは、誘導される高分子量ポリアミドの特性に依存する。つまり、例えば処理者が従来通りAEG=40meq/kg及びCEG=80meq/kgによって特徴付けられるポリアミド66(その結果として16670g/molのMn)を使用する場合には、本発明に好適な分子量Mn=6000g/molのポリアミドは、例えば、40meq/kgのAEG、80meq/kgのCEG及びBEG=213meq/kgを有するポリアミド66を有することができる。アミド基の濃度は、これら2つのPA66について約8840meq/kgである。したがって、熱力学的平衡でのそれらの含水量、すなわち、鎖の分子量に変化を与えない含水量は同一である。
【0031】
アミン末端基(AEG)及び/又は酸末端基(CEG)の量は、ポリアミドを、例えばトリフルオルエタノールに完全に溶解し、そして過剰量の強塩基を添加した後に電位差定量することにより決定できる。続いて、塩基性種を強酸の水溶液で滴定する。連鎖制限剤の量は、生成された重合体の質量に対する添加された連鎖制限剤のモル量の比から算出される。また、連鎖制限剤の量は、ポリアミドを加水分解し、その後液体クロマトグラフィーで分析することによっても決定できる。
【0032】
これらの本発明の樹脂は、多数の方法で製造でき、これらはそれ自体当業者に周知である。
【0033】
例えば、これらの樹脂は、重合の間、特に重合の開始時、重合中又は重合の終了時に、ポリアミドの単量体を、1官能性化合物及び1官能性化合物の添加によって混乱した反応性官能基間の化学量論を調節するための随意の他の二官能性化合物の存在下で添加することによって製造できる。
【0034】
また、1官能性化合物及び随意の2官能性化合物とポリアミドとを、特に押出、一般には反応性押出により混合させて本発明に従って使用されるポリアミド樹脂を得ることも可能である。
【0035】
任意のタイプのモノカルボン酸若しくはジカルボン酸、脂肪族、脂環式、アリール脂肪族若しくは芳香族酸又は全てのタイプのアミン、脂肪族、脂環式、アリール脂肪族若しくは芳香族モノアミン若しくはジアミンを使用することが可能である。単量体の全ては、不飽和結合を有していても有していなくてもよい。特に、1官能性化合物として次のものを使用することができる:n−ドデシルアミン及び4−アミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、酢酸、フタル酸、ラウリン酸、ベンジルアミン、安息香酸及びプロピオン酸。2官能性化合物としては特に次のものを使用することができる:アジピン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカン二酸、デカン二酸、ピメリン酸、スベリン酸、脂肪酸ダイマー、ジ(β−エチルカルボキシ)シクロヘキサノン、ヘキサメチレンジアミン、メチル−5−ペンタメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、ブタンジアミン、イソホロンジアミン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、3,3’,5−トリメチルヘキサメチレンジアミン。
【0036】
さらに、例えばビスヘキサメチレントリアミンなどの多官能性分子も添加できる。
【0037】
25meq/kgを超える酸及びアミン末端基濃度を得るにあたっては、通常、重合の終了時に真空仕上げを適用する必要はない。
【0038】
非変動性樹脂の形態の本発明のポリアミドは、有利には40Pa.s以下、好ましくは20Pa.s以下の溶融粘度ηを有する。この粘度は、50mmの直径を有するプレート・オン・プレート型レオメーターにより、1〜160s-1の範囲内で剪断する際に段階的にスキャンニングすることにより測定できる。重合体は、顆粒の形態又は150μmの厚みの薄膜の形態にある。ポリアミドが半結晶性の場合には、これをその融点よりも30℃高い温度に加熱し、その後測定を実施する。ポリアミドが非晶質の場合には、これを250℃の温度に加熱し、その後測定を実施する。
【0039】
方法
ポリアミド樹脂と補強用樹脂との含浸工程は、様々な可能な方法により様々なやり方で実施できる。1種以上の補強用織物の含浸を実施することが完全に可能である。
【0040】
ポリアミド組成物による補強用織物の含浸は、特に、溶融状態のポリアミド組成物を、特に射出により補強用織物と接触させることによって実施できる。この織物は型内に設置できる。また、含浸は、補強用織物と粉末状又は薄膜状のポリアミド組成物とを接触させ、続いて該ポリアミド組成物を溶融させることによって実施することもできる。
【0041】
例えば、溶融ポリアミド樹脂は、少なくとも1種の補強用織物を有する成形チャンバーに射出できる。この成形チャンバーの内部は、該ポリアミドの融点に対してほぼ50℃の温度であることができる。含浸後に、成形チャンバー及び得られた物品を冷却し、最後に該物品を回収する。また、この方法は、補強用繊維が事前に設置された密閉型に樹脂を射出することからなる、熱硬化方法における樹脂トランスファー成型方法(RTM)としても知られている。この方法は、加圧下で実施できる。
【0042】
また、本発明の複合物品は、1種以上の補強用織物と上記ポリアミド樹脂の粉末、特に磨砕により得られる微粉末とを接触させることにより製造することもでき、また、該含浸は、随意に加圧下で、ポリアミドの融点以上の温度でポリアミドを融解させることによって実施される。
【0043】
また、本発明の複合物品は、補強用繊維とポリアミド樹脂のフィルムとの積層体を加温圧縮することでも製造できる:「フィルム積層」方法。続いて、1種以上の補強用織物と高流動性ポリアミド樹脂の1つ以上のフィルムとを接触させ、そして、該織物の含浸を、該ポリアミドを溶融させることによって実施する。良好な組み立てに必要な圧力は、一般に数barよりも高い。
【0044】
補強用織物にポリアミド樹脂を含浸させた後に、マトリックスを固化させることにより物品が得られる。ポリアミドが過剰に結晶化してしまわないように、特に物品の特性を維持するように、有利には迅速に冷却を実施することができる。冷却は、特に5分未満、より好ましくは1分以内で実施できる。型は、例えば冷却循環流体により冷却できる。適宜、複合物品を随意に加圧下で冷却された型に移すこともできる。
【0045】
組成物
本発明のポリアミド組成物及び/又は複合物品は、物品の製造のために使用されるポリアミドを主成分とする組成物において通常使用されるあらゆる添加物を含むこともできる。すなわち、添加剤の例としては、熱安定剤、UV安定剤、酸化防止剤、潤滑剤、顔料、染料、可塑剤、補強充填剤及び衝撃靱性を変化させるための薬剤が挙げられる。これらの添加剤を樹脂の合成中に導入することや、粉末に、又はフィルムに、又は浸透の間に溶融物に添加することができる。
【0046】
該組成物は、特にノボラック樹脂を含むことができる。ポリアミド組成物は、好ましくは、該組成物の総重量に対して5〜25重量%のノボラック樹脂を含む。この重量パーセントは、組成物の総重量に対して与えられる。ノボラック樹脂は、一般にフェノール化合物とアルデヒド若しくはケトン又はそれらの誘導体、例えばケタール若しくはヘミケタール官能基を有するものとの縮合の生成物である。これらの縮合反応は、酸又は塩基によって触媒されるのが一般的である。
【0047】
補強用織物/ポリアミド境界面の品質を改善させるための添加剤を使用することもできる。これらの添加剤を、例えばポリアミド組成物に配合し、補強用織物の糸及び/又は繊維に配合し、該織物の糸及び/又は繊維上に存在させ、或いは補強用織物上に付着させることができる。これらの添加剤は、アミノシラン型若しくはクロルシラン型カップリング剤などのカップリング剤(特にガラス織物の場合)、又は流動化剤若しくは湿潤剤、又はそれらの組合せであることができる。
【0048】
補強充填剤は、ポリアミド組成物に配合できる。これらの充填剤は、例えばガラス短繊維などの繊維充填剤、又はカオリン、タルク、シリカ、マイカ若しくはウォラストナイトなどの非繊維充填剤から選択できる。それらのサイズは、一般に、1〜50μmである。また、サブミクロン又はさらにはナノメートル充填剤も単独で或いは他の充填剤に対する添加剤として使用できる。
【0049】
また、本発明は、本発明の方法によって得ることができる物品に関するものでもある。
【0050】
本発明の物品は、好ましくは該物品の全容積に対して25〜70容積%の補強用織物を含む。
【0051】
物品
本発明の物品は、完成品、又はプリプレグということもできる半製品であることができ。この場合、非変動性樹脂の存在は特に興味深いものである。というのは、半製品の製造の間に使用される良好な流動性が、完成品を製造するための最終的な成形の間に実際に保持されるからである。例えば、熱成形をプレートの形で複合物品に適用して、該物品に冷却後所定の形態を付与することができる。したがって、本発明は、本発明の方法によって得ることのできる複合物品又はプレフォームに関するものでもある。
【0052】
また、本発明の物品を、一般に低密度のコアが2つの層(スキン)間に挿入されたサンドイッチ型の構造とすることもできる。本発明の複合材料を使用して外部層を形成し、該層とハニカム型又はフォーム型のコアとを組み合わせることができる。これらの層は、化学結合若しくは熱結合又は任意の他の方法によって組み合わせることができる。
【0053】
本発明の複合構造は、航空機、自動車、より一般的には輸送産業、電機産業並びにスポーツ及びレジャー産業など多数の分野で使用できる。これらの構造は、スキーなどのスポーツ用品や、特別の床、パーティション、車体又は掲示板などの様々な表面を製造するために使用できる。航空機では、これらの構造は、特にフェアリング(胴体、翼、水平尾翼)のために使用される。自動車産業では、これらは、例えば、フロアや後部小荷物棚などの支持材のために使用される。
【0054】
本発明の原理の理解を容易にするために本明細書において特定の技術用語を使用している。しかし、この特定の技術用語の使用により、本発明の範囲が限定されるものではないことを理解すべきである。当業者であれば、その一般的知識に基づいて改変及び改良を特に想起することができる。
【0055】
用語「及び/又は」には、及び、又はという意味のみならず、この用語に関連する要素の可能な他の組合せの全てが含まれる。
【0056】
本発明の他の詳しい内容又は利点は、単なる例示目的で以下に与える実施例を読めばより明らかになるであろう。
【実施例】
【0057】
実験の部
キャラクタリゼーション:
・酸末端基(CEG)及びアミン末端基(AEG)の含有量:電位差測定法で決定される(meq/kgで表す)。
・保護末端基(BEG)の含有量:重合反応器に供給される試薬の量から算出される。
・数平均分子量Mn:式Mn=2.106/(AEG+CEG+BEG)から決定され、g/molで表される。重量平均分子量Mwは、適宜GPCで決定した。
・溶液状態での粘度指数(mL/gで表される):ISO 307に従って蟻酸中で決定される。この溶液状態での粘度指数は、同じ性質の直鎖重合体についての分子量の指標となる(ポリアミド6は互いに直接比較でき、ポリアミド66は互いに直接比較できる)。このVIが高ければ高いほど、分子量も高い。
これら3タイプの分子量の特徴は、当業者によく知られており、重合体の分子量が増加したか否かを明確に決定するのを可能にする。
・融点(Tm)及び関連するエンタルピー(ΔHf)、冷却時結晶化温度(Tc):示差走査熱量測定法(DSC)により、パーキン・エルマーPyris 1装置を使用して10℃/分の速度で決定される。
・ガラス転移温度(Tg):同じ装置により40℃/分の速度で決定される。
【0058】
例1:安息香酸を末端基とするポリアミドPA6の製造
重合反応器に、150.31g(1.328mol)のカプロラクタム、2.087gの99.5%安息香酸(0.017mol)、72.3gの脱塩水及び2gの消泡剤を装入する。
【0059】
この安息香酸を末端基とするポリアミド6を、ポリアミド6型の標準的な重合方法に従って、大気圧で260℃での仕上げを60分間行って製造した。
【0060】
得られた重合体をプレート上に流し込み、冷却し、続いて粉砕する。分析の前に、安息香酸を末端基とするPA6を温水で3回洗浄して残留オリゴマーを除去する。
【0061】
得られた重合体は次の特性を有する:CEG=131.8meq/kg、AEG=25.8meq/kg及びBEG=114meq/kg。Mn=7360g/mol。そのVI=55.8mL/g。
【0062】
このコポリアミドは半結晶性であり、かつ、次の熱的特性を有する:Tc=192.2℃、Tm=222.7℃、ΔHf=60.1J/g。
【0063】
例2:酢酸を末端基とするポリアミド66の製造
重合反応器に、90.75kg(345.93mol)のN塩(ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸との1:1塩)、939gの100%酢酸(15.65mol)、3.05kgのヘキサメチレンジアミン(HMD)32.60重量%(8.56mol)水溶液及び83.5kgの脱塩水並びに6.4gの消泡剤Silcolapse 5020(商標)を装入する。
【0064】
酢酸を末端基とするポリアミド66を、標準的なポリアミド66型の重合方法に従って、30分の仕上げで製造する。
【0065】
得られた重合体を棒の形態で流延し、冷却し、そして棒を切断することにより顆粒とする。
【0066】
得られた重合体は次の特性を有する:CEG=59.9meq/kg、AEG=65.7meq/kg及びBEG=196meq/kg、Mn=6200g/mol。そのVI=56.2mL/g。
【0067】
このコポリアミドは半結晶性であり、かつ、次の熱的特性を有する:Tc=232.3℃、Tm=263.1℃、ΔHf=74.5J/g。
【0068】
例3:重合体の溶融粘度の測定
これらのポリアミドを、Ares Rheometricsのコーン/プレートレオメーター(直径25mm、円錐角0.1ラジアン)により、PETポリエステルについては280℃で、PBTポリエステルについては255℃で、溶融状態で粘度を測定することにより特徴付けた。剪断速度に応じた粘度の曲線は、問題の重合体がニュートン挙動を有することと示している:使用した粘度値は、プラトーでの値である(10-1〜102-1)。
【0069】
例1(PA1)のポリアミドについてはη=9Pa.sである。例2(PA2)のポリアミドについてはη=5Pa.sである。
【0070】
例4:複合材料の製造
この実験の部では様々なポリアミド樹脂を使用した。これらを表1に示す。
・PA C1(比較):115mL/gの粘度指数VI(ISO 307蟻酸中)及び33000g/molの重量平均分子量Mwを有する基準直鎖ポリアミド6。
・PA C2(比較):130mL/gの粘度指数VI及び33000g/molのMwを有する基準直鎖ポリアミド6.6。AEG=46.2meq/kg、CEG=79.5meq/kg、すなわちMn=15900g/mol。
・PA C3(比較):59mL/gの初期VI、15500g/molのMw並びに130meq/kgに等しいAEG含有量及び160meq/kgに等しいCEG含有量、すなわちMn=6900g/molを有するポリアミド6.6。
【0071】
これらの試料の全てを、分子量の高い直鎖PA66が何ら変化しないことを確保する条件と同じ条件で、真空下において90℃で一晩乾燥させた。該試料の含水量は2000ppmよりも低い。
【0072】
これらのポリアミドを標準的なポリアミド合成方法に従って合成する。続いて、溶融物を吐出弁を介して押出、そして金属プレート上に集め、その上で溶融物を結晶化させる。結晶化したポリアミドを粉砕し、真空下で一晩乾燥させた後に最終的に使用できる状態の粉末が得られる。
【0073】
ポリアミドの特性は次のとおりである:
【表1】

【0074】
上記例で使用した補強材は、ガラス布プレフォームの形態であり、プレートを作製するために必要な寸法、すなわち150×150mmにカットする。使用した補強用織物は、1200texのロービングから得られ、600g/m2の重量を有するSynteen & Luckenhaus社製のガラス繊維布(0°〜90°)である。
【0075】
これらの複合物品を、Schwabenthan温度制御2重プラテン油圧プレス(ポリスタット300A):加熱プラテン(耐熱性)及び冷却プラテン(水循環)を使用して作製する。150mm×150mmの寸法の空洞を有する金型を使用する。
【0076】
80重量%のガラス繊維を600g/m2(65容積%の繊維)の重量の布で含有する複合材料を作製するために、合計6シートのガラス布を有する交互の積み重ねからなるプレフォームを型内に設置する。布の各シート間にポリアミド粉末がある。
【0077】
このプレスのプラテンの温度をPA6.6については290℃に、PA6については250℃に予め上昇させてから、上記プレフォームを挿入する。この温度で、圧力を加え、そして公称値に保持する;脱ガスを迅速に実施する。続いて、金型を、冷却プラテンを有する装置に移し、そして加圧下で保持する。各種のサイクルを使用した:高圧及び中圧、短時間及び長時間。
【0078】
2つのタイプのサイクルを遂行した:50bar下で5分のサイクル(サイクル1)、及び5bar下で5分のサイクル(サイクル2)。これらの時間は、金型温度の上昇と加圧下での冷却との間の全サイクル時間に相当する。
【0079】
例5:複合物品の特性
150×150mmのプレートを切断して、150×20×2mmの寸法の試料を得る。続いて、基準法ISO1110「試験片のプラスチック/ポリアミド/加速状態調整」に従って状態調整処理を実施する。平衡での含水量を、62%の相対湿度RH下において70℃で11日間のサイクルにより複合物品を状態調整することにより得る。
【0080】
機械的性質を23℃及び湿度RH=50%で決定した(23℃、RH=50で48時間の試験片の安定化)。
【0081】
室温での3点曲げ試験を、基準法ISO14125に従って、ZWICK1478機:軸間距離64mm、横行速度5mm/分で平行六面体試験片(150×20×2mm)について実施する。ヤングの弾性率E(GPa)及びピーク応力σmax(MPa)の値を測定し、算出する。
【0082】
結果を次の表2及び3に示す。
【0083】
【表2】

【0084】
【表3】

【0085】
このように、従来技術のポリアミド(C1及びC2)と比較すると、良好な機械的性質を有する複合物品が、本発明のポリアミドを使用することにより、特にサイクル2などの従来の製造サイクルを使用して得られることが分かる。さらに、本発明のポリアミドPA1及びPA2は、それらの低い溶融粘度のため、ポリアミドC1及びC2と比較して非常に良好な表面仕上げ及び桁違いの使用の容易さを有する。
【0086】
さらに、本発明の物品は、変動性プレポリマー(C3)を使用して得られた物品と比較して、機械的性質と溶融流動性との兼ね合いが優れていることが認められる。
【0087】
さらに、プレポリマーC3は、その熱力学的平衡に到達するまで重合されなかったため、不安定さを示すと思われる。また、同じ理由で製造するのも困難である。本発明のポリアミドPA1及びPA2は、分子量が増加しないため、それらの低い溶融粘度を維持するのに対し、プレポリマーC3の粘度は増加した。また、これらの試験から、プレポリマーC3を使用した複合物品の適用条件によっては、該プレポリマーの機械的性質は、その不安定さのため幅広く変化し得るものと思われる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形による複合物品の製造方法であって、少なくとも次の工程:
(a)補強用織物に、ポリアミド樹脂を溶融状態で含む組成物を含浸する工程;ここで、該樹脂は
・1500〜8000g/molの数平均分子量Mn(該分子量は次の関係:Mn=2000000/(AEG+CEG+BEG)に従って算出される)、
・25meq/kg以上のアミン末端基(AEG)濃度、
・25meq/kg以上の酸末端基(CEG)濃度、
・25meq/kg以上のブロック化末端基(BEG)濃度
を有するものとし、
(b)該複合物品を冷却し、続いて回収する工程
を含み、ここで、該ポリアミドは、該ポリアミドの鎖に化学的に結合する芳香族ヒドロキシル単位により変性されたポリアミドではない、前記製造方法。
【請求項2】
前記ポリアミドが、少なくとも1種の脂肪族直鎖ジカルボン酸と脂肪族若しくは環状ジアミンとの重縮合又は少なくとも1種の芳香族ジカルボン酸と脂肪族若しくは芳香族ジアミンとの重縮合によって得られるポリアミド、少なくとも1種のアミノ酸又はラクタム自体の重縮合により得られるポリアミド或いはそれらの混合物及び(コ)ポリアミドよりなる群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ポリアミドのアミン末端基(AEG)の濃度が30meq/kg〜150meq/kgであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記ポリアミドの酸末端基(CEG)の濃度が30meq/kg〜150meq/kgであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記ポリアミドのブロック化末端基(BEG)の濃度が30meq/kg〜200meq/kgであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記ポリアミド組成物の補強用織物への含浸を、溶融状態のポリアミド組成物と補強用織物とを接触させることにより実施することを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記ポリアミド組成物の補強用織物への含浸を、補強用織物と粉末又は薄膜状のポリアミド組成物とを接触させ、続いて該ポリアミド組成物を溶融させることにより実施することを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記物品が該物品の全容積に対して25〜70容積%の補強用織物を含むことを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記補強用織物が炭素、ガラス、アラミド、ポリアミド、亜麻、大麻、サイザル麻、コイア、黄麻、ケナフ麻及び/又はそれらの混合物の糸及び/又は繊維から選択される補強用糸及び/又は繊維を含むことを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の方法によって得られる物品。
【請求項11】
請求項1〜5のいずれかに記載のポリアミド組成物の、複合物品を製造するための使用。

【公表番号】特表2013−513709(P2013−513709A)
【公表日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−543693(P2012−543693)
【出願日】平成22年12月14日(2010.12.14)
【国際出願番号】PCT/EP2010/069650
【国際公開番号】WO2011/073200
【国際公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(508076598)ロディア オペレーションズ (98)
【氏名又は名称原語表記】RHODIA OPERATIONS
【住所又は居所原語表記】40 rue de la Haie Coq F−93306 Aubervilliers FRANCE
【Fターム(参考)】