説明

低分子量天然ゴム

【課題】接着剤、粘着剤、シーリング剤、コーキング剤、可塑剤、高分子電解質材料、ポリウレタン等の原料として有用な低分子量天然ゴムを提供する。
【解決手段】天然ゴムラテックスを二酸化チタン光触媒と過酸化水素を用いて、光照射により反応させて低分子量化させることにより、二重結合を維持したまま、分子末端に水酸基を持ち、色や諸物性に問題のある残留物を残さずに、固有粘度が3〜0.2dL/gの低分子量天然ゴムを得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤、粘着剤、シーリング剤、コーキング剤、可塑剤、高分子電解質材料、ポリウレタン等の原料として有用な液状天然ゴム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
天然ゴムは、cis−1,4−イソプレン単位から構成されるポリマーであり、工業用部品、日曜品等のゴム製品、接着剤、粘着剤、シーリング剤、コーキング剤、可塑剤、高分子電解質材料、ポリウレタン等の原料として幅広く使用されている。
【0003】
従来、天然ゴムの物性を改善するために、天然ゴムを化学的に変性する方法があった。例えば、過硫酸塩を用いて、変性する方法では、反応を進行させるのに80℃以上の高温での反応を必要とするため、エネルギーを多く必要とするばかりでなく、硫酸が生成するため、反応後酸性となり、中和作業が必要となり、反応後の取り扱いが煩雑となる。
【0004】
過酸化水素と鉄塩を用いたフェントン反応では、反応終了後、溶液中に鉄塩が残存し、得られた反応物の色や物性に悪影響を与える場合がある。また、天然ゴムをエポキシ化する方法として、有機過酸もしくは有機酸と過酸化水素によるエポキシ化方法が知られている(特許文献1参照)。
【0005】
エポキシ化天然ゴムは、ガラス転移温度が上昇し、他のポリマーとの接着性が向上することが知られているが、過酸化物により生成したラジカルの再結合や生成したエポキシ基の開環反応により分子間反応が起こりゲル化してしまう問題等があった。
【0006】
一方、天然ゴムの二重結合を維持したまま、分子末端に水酸基を導入する方法は、ほとんど知られていない。イソプレンユニットの二重結合を維持したまま、解重合され末端基が水酸基となった天然ゴムは、液状ゴムで、高い弾性率を持ち、強力な粘着力も持つことから、接着剤、粘着剤、シーリング剤、コーキング剤の原料とすることができる。また、水酸基を持つことから、反応性が向上し、天然ゴムの高い生分解性を生かした生分解性ポリウレタンや生分解性ポリエステルの原料とすることが可能となる。
【特許文献1】特許第3294903号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術の問題点を解消し、製品中に物性や色の問題が残らない、二重結合を維持したまま、分子末端に水酸基を持つ解重合天然ゴム、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討した結果、天然ゴムラテックスを二酸化チタン光触媒と過酸化水素により反応させることにより二重結合を維持したまま、分子末端に水酸基を持つ解重合天然ゴムが得られることを発見し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は次のような構成を取るものである。
1.天然ゴムラテックスを二酸化チタン光触媒と過酸化水素により低分子量化して得られる、固有粘度が3〜0.2dL/gの低分子量天然ゴム。
2.低分子量天然ゴムの分子鎖の両末端がヒドロキシル基である前記1記載の低分子量天然ゴム。
3.天然ゴムラテックスを二酸化チタン光触媒と過酸化水素により低分子量化して得ることを特徴とする低分子量天然ゴムの製造方法。
4.低分子量天然ゴムの固有粘度が3〜0.2dL/gである前記3記載の低分子量天然ゴムの製造方法。
5.低分子量天然ゴムの分子鎖の両末端がヒドロキシル基である前記3記載の低分子量天然ゴムの製造方法。
6.脱タンパク質処理を行った天然ゴムラテックスを用いる前記3記載の低分子量天然ゴムの製造方法。
7.二酸化チタン光触媒が反応器の内壁に薄膜としてコーティングされており、反応器が300〜400nmの波長の光を透過する材料で構成されており、天然ゴムラテックスと過酸化水素の混合物を二酸化チタン薄膜と接触させて反応器の外側から、300〜400nmの波長を含む光を照射することを特徴とする前記3記載の低分子量天然ゴムの製造方法。
8.二酸化チタン薄膜が、アナターゼ又はルチル型の結晶構造である前記7記載の低分子量天然ゴムの製造方法。
9.二酸化チタン薄膜が、二酸化チタンの前駆体を含むゾルを反応器の内壁に塗布した後、500℃以上の温度で焼成して得ることを特徴とする前記7記載の低分子量天然ゴムの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、反応系中に、色や諸物性に問題のある残留物を残すことなく、天然ゴムラテックスを低分子量化することができ、二重結合を保持し、分子末端に反応活性を持つ水酸基を有するポリマーとして、接着剤や粘着剤、シーリング剤、コーキング剤、生分解性のポリウレタン等の原料を提供することができ、実用的価値は極めて高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明にかかわる低分子量天然ゴムの製造方法について詳細に説明する。
本発明で用いられる天然ゴムラテックスは、天然のゴムの木から得られたもので、新鮮なフィールドラテックスやアンモニア処理をしたラテックス、脱蛋白処理を行ったものでも良い。
【0012】
反応は、天然ゴムラテックスを、二酸化チタンと過酸化水素を含む反応器に入れ、反応器の外側から光を照射することにより行われる。
【0013】
反応器は、バッチ式の槽型でも良く、連続式の管型でも良い。反応器の材質は、合成石英が好ましいが、ガラス製でも良い。反応中、撹拌を行うことが好ましいが、種々の撹拌翼、マグネチックスターラー、連続式ではスタティックミキサーでも良い。
【0014】
二酸化チタンは、容易に入手できる数nm〜数百μmの粉体として添加し、懸濁させたまま反応させても良いが、反応器の内壁にコーティングされていることが好ましい。コーティング方法として、二酸化チタンコーティング剤を反応器の内壁に塗布し、乾燥させればよく、より強固な塗膜を得るためには500℃以上に焼成することが好ましい。この乾燥もしくは焼成により、均一なアナターゼもしくはルチル型の二酸化チタン膜を得られるようになる。
【0015】
二酸化チタンの塗膜を得るためのコーティング材料として、ペルオキソチタン酸溶液、Ti(OR)4(式中Rは、エチル、n−ブチル、イソプロピル等が挙げられる。)や、Ti(acac)2(式中acacは、アセチルアセトンである。)等の有機チタネートが挙げられる。また、二酸化チタンの前駆体を含むゾルを使用することもできる。
【0016】
過酸化水素は、30、35、60重量%水溶液が入手できるが、いずれを用いても良い。過酸化水素の使用量は、天然ゴムの乾燥重量に対して、0.1〜500w/v%であり、好ましくは0.5〜100w/v%、更に好ましくは1〜80w/v%である。
【0017】
反応温度は、ラテックスの凝固点以上であれば可能であるが、80℃以上であると、ゴムが変性してしまうため、好ましくは10〜60℃である。反応圧力は、常圧でよい。光源としては、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、ブラックライト、ハロゲン、メタルハライドランプ自然光等いずれの光源を使用出来るが、300〜400nmを含む光が好ましい。なお、前述した合成石英、ガラスは、300〜400nmを含む光を透過することができる。
【0018】
反応後は、定法により反応を停止し、乾燥させることにより、固有粘度が3〜0.2dL/gの低分子量化された天然ゴムを得られる。
【実施例】
【0019】
次に、実施例により本発明をより詳細に説明するが、以下の具体例は本発明を限定するものではない。
【0020】
実施例1
脱蛋白した天然ゴムラテックス(乾燥ゴム重量比:10%)4.8gを、チタニアゾルをコーティングし550℃で焼成し調整したシャーレ中に入れた。これに30重量%過酸化水素を480mg添加し、混合液の表面から5cmの高さから40Wのブラックライトを4時間照射した。反応終了開始から1,3,4時間後の固有粘度を測定した結果を図1に示す。
【0021】
比較例1
過酸化水素を添加せず、光照射も行わなかった以外は、実施例1と同じ処理をした。結果を図1に示す。
【0022】
比較例2
過酸化水素を添加し、光照射を行わなかった以外は、実施例1と同じ処理をした。結果を図1に示す。
【0023】
比較例3
過酸化水素を添加せず、光照射を行った以外は、実施例1と同じ処理をした。結果を図1に示す。
【0024】
比較例4
光触媒をコーティングしていないシャーレを用い、過酸化水素を添加せず、光照射を行わなかった以外は実施例1と同じ処理をした。結果を図1に示す。
【0025】
比較例5
過酸化水素のみを添加した以外は比較例4と同じ処理をした。結果を図1に示す。
【0026】
比較例6
過酸化水素を添加せず、光照射のみを行った以外は比較例4と同じ処理をした。結果を図1に示す。
【0027】
比較例7
過酸化水素を添加し、光照射を行った以外は比較例4と同じ処理をした。結果を図1に示した。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】実施例、比較例の反応時間に対する粘度変化を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ゴムラテックスを二酸化チタン光触媒と過酸化水素により低分子量化して得られる、固有粘度が3〜0.2dL/gの低分子量天然ゴム。
【請求項2】
低分子量天然ゴムの分子鎖の両末端がヒドロキシル基である請求項1記載の低分子量天然ゴム。
【請求項3】
天然ゴムラテックスを二酸化チタン光触媒と過酸化水素により低分子量化して得ることを特徴とする低分子量天然ゴムの製造方法。
【請求項4】
低分子量天然ゴムの固有粘度が3〜0.2dL/gである請求項3記載の低分子量天然ゴムの製造方法。
【請求項5】
低分子量天然ゴムの分子鎖の両末端がヒドロキシル基である請求項3記載の低分子量天然ゴムの製造方法。
【請求項6】
脱タンパク質処理を行った天然ゴムラテックスを用いる請求項3記載の低分子量天然ゴムの製造方法。
【請求項7】
二酸化チタン光触媒が反応器の内壁に薄膜としてコーティングされており、反応器が300〜400nmの波長の光を透過する材料で構成されており、天然ゴムラテックスと過酸化水素の混合物を二酸化チタン薄膜と接触させて反応器の外側から、300〜400nmの波長を含む光を照射することを特徴とする請求項3記載の低分子量天然ゴムの製造方法。
【請求項8】
二酸化チタン薄膜が、アナターゼ又はルチル型の結晶構造である請求項7記載の低分子量天然ゴムの製造方法。
【請求項9】
二酸化チタン薄膜が、二酸化チタンの前駆体を含むゾルを反応器の内壁に塗布した後、500℃以上の温度で焼成して得ることを特徴とする請求項7記載の低分子量天然ゴムの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−277450(P2007−277450A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−107383(P2006−107383)
【出願日】平成18年4月10日(2006.4.10)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【出願人】(304021288)国立大学法人長岡技術科学大学 (458)
【出願人】(502383166)マヒドン ユニバーシティ (1)
【氏名又は名称原語表記】Mahidol University
【Fターム(参考)】