説明

低容量分析装置および方法

体液サンプルの凝固特性を決定する方法および装置であって、少なくとも一つの磁石の振動を引き起こすことを含み、振動は、第1の期間にわたる第1周波数範囲内での第1振動と、第2の期間にわたる第1周波数範囲と異なる第2周波数範囲内での第2振動と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体液(biological fluid)サンプルを分析し、粘性変化につながる凝固の障害を検出する装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
より詳細には、体液サンプル(fluid sample)の凝固特性を測定する装置および方法が開示されるが、これに限定されない。実施形態では、本方法および本装置を使用して、血液サンプルまたは血漿(plasma)サンプルの凝固時間またはプロトロンビン時間(PT:prothrombin time)を決定することができる。これは、国際標準比(INR:Internationalised Normalised Ratio)として表されてもよい。決定可能な他の凝固特性には、血小板凝集能、血栓形成(clot formation)および/または血栓溶解(clot dissolution)の率および量の測定、凝固強さ(clot strength)、フィブリン塊を形成するために必要な時間、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT:activated partial thromboplastin time)、活性凝固時間(ACT:activated clotting time)、タンパク質C活性時間(PCAT:protein C activation time)、RVTT(Russell's viper venom time)、およびトロンビン時間(TT:thrombin time)の測定が含まれる。
【0003】
生体内での血液の凝固、すなわち血栓症は、世界的に主要な死因のうちの一つである。心疾患または血管疾患を患う人々および外科的処置を受けた患者は、致命的な臨床症状につながりうる血栓ができる危険にさらされている。この種の人々は、ワルファリンやアスピリンなどの血液の抗凝固薬すなわち抗凝血剤(anticoagulant)で治療されることが多い。しかしながら、血流中の抗凝血剤の量は適当なレベルに維持されなければならない。量が少なすぎると望ましくない凝固が発生するおそれがある一方で、量が多すぎると生死にかかわる出血(haemorrhaging)につながる可能性がある。その結果、血液または血漿の凝固状態を評価するために、ルーチンの凝固スクリーニングテストが開発された。
【0004】
研究室およびポイントオブケア検査(POCT:point of care testing)で使用するための様々な装置が開発されている。これに加えて、患者が自分の血液凝固を家庭で監視できるようにした装置も開発されている。そのような装置として、プロトロンビン時間(PT)を決定するInRatio(商標)モニタ(Hemosense社)およびCoaguChek(商標)モニタ(Roche社)装置などがある。CoaguChek(商標)デバイスは、毛細管血を使用するのに適しており、毛細管血のサンプルを受け入れるように設計された検査デバイスが検査計測器の中に挿入される。便利なことに、ランセットで指の先端を切開することで毛細管血のサンプルを採ることができる。
【0005】
体液サンプルの凝固特性を決定する従来の装置の多くは、大きくて重く、ユーザが持ち歩くのに適していない。ユーザは、健康を維持するために、定期的に自分または他人の血液の凝固時間を検査するよう求められることがある。したがって、携帯性を向上させた装置が必要とされている。
【0006】
体液サンプルの凝固速度は、反応が起こる温度に影響を受ける。体液サンプルの凝固特性を決定するための携帯デバイスは、広範囲の温度にさらされることがあり、この結果、例えばプロトロンビン時間の検出誤差が増加してしまう。このために、凝固デバイスは、体液サンプルを特定の温度まで加熱するように動作する加熱手段を備えている。
【0007】
ユーザは、毛細管血をとるためにランセットを用いて自分または患者を定期的に検査することを求められることがある。この種の毛細管血サンプルは、通常、指先などの採りやすい身体の先端から取り出される。しかしながら、これは多くの神経終末を含んでいる敏感な領域であり、また、大量の血液サンプル、すなわち25μLまたはそれ以上のオーダの血液サンプルをとることは、痛みを伴うことがある。さらに、切開される領域に十分な圧力を加えることなしにこのようなかなりの量の血液を得ることは、困難な場合が多い。この場合、デバイスに与えられる体液サンプルの量が不十分となり、多くの場合ユーザは検査を繰り返すよう要求されるといった問題につながる。従来技術のデバイスでは、このようなかなりの量が必要とされることが多い。
【0008】
凝固の測定は多くの場合時間ベースである。このようなタイムベースの測定にとって重要なことは、凝固反応が開始する時間と、凝固が生じたとみなされる時間とを正確に決定できることである。従来技術のデバイスは、通常、計測器とともに使用される使い捨てのデバイスであり、ユーザはデバイスを計測器の中に挿入し、続いて検査対象の体液サンプルを与える。量が不足したり気泡が存在したりといった要因は測定誤差につながるので、デバイスを適切に満たすことが重要である。
【発明の開示】
【0009】
本発明の目的は、凝固イベントが体液サンプル内で起こる時間を正確に決定することができる装置および方法を提供することである。
【0010】
本発明の別の目的は、体液の凝固時間を決定するための計測器とともに使用され、低容量要件を満たす検査デバイスを提供することである。
【0011】
本発明の別の目的は、急速に体液サンプルを加熱可能でありデバイスの温度を監視可能な加熱手段と温度監視手段とを備える計測器を提供することである。温度監視手段と加熱手段とは、別体であることが好ましい。検出室の領域内でのデバイスの温度は、検出室内に含まれる体液の温度がデバイスの温度と同じであると仮定する。この点において、デバイスのプラスチック筐体を、体液とデバイス間での熱移動が可能になる程度に十分に薄くすると有利である。
【0012】
本発明のさらなる目的は、携帯が容易であり低電力要件である凝固時間測定用の計測器を提供することである。
【0013】
また、デバイスと計量器とで装置を形成してもよい。計測器には、デバイスを受け入れる手段が備えられており、検査を実行するためにデバイスは計測器とともに使用される。デバイスは通常使い捨てであり、計測器は再使用されるように設計される。あるいは、計測器とデバイスは、単一の統合ユニットとして提供されてもよく、こうするとデバイスを挿入し位置決めする必要がなくなる。
【0014】
本発明は請求項で設定される。
【0015】
第1の態様によると、実施形態は、体液サンプルの凝固特性を決定するための計測器を提供し、この計測器は、電磁コイルと、デバイスを受け入れるためのデバイス受け入れ手段とを備える。
【0016】
別の態様によると、実施形態は、サンプル体液の凝固特性を決定するための計測器を提供し、この計測器は、一つまたは複数の巻線を有し内部空間を画成する単一の電磁コイルを備える。デバイス受け入れ手段は、前記内部空間内の少なくとも一部にデバイスを配置できるように構成されていてもよい。
【0017】
別の態様によると、実施形態は、体液サンプルの凝固状態を決定するための計測器とともに使用されるデバイスを提供し、このデバイスは、磁性体または磁化可能体を収容する少なくとも一つの体液室を有する。
【0018】
別の態様によると、実施形態は、体液サンプルの凝固状態を決定するための計測器とともに使用されるデバイスを提供し、このデバイスは、それぞれが磁石体または磁化可能な本体を収容する少なくとも2つの体液室を有する。
【0019】
別の態様によると、実施形態は、液体の凝固状態を決定するための装置を提供する。この装置は、体液のある量を保持する体液室と、前記体液室内に配置される磁性体と、電磁コイルとを備える。電磁コイルは、前記磁性体と協働し、使用時に、体液室内で磁性体を往復運動させる磁場を提供するように構成される。
【0020】
別の態様によると、実施形態は、体液サンプルの凝固状態を決定するための計測器で使用される電磁コイルを提供する。この電磁コイルは一つまたは複数の巻線を有し、コイル内の少なくとも一部にデバイスが配置できるような寸法の内部空間を画成する。
【0021】
別の態様によると、実施形態は、体液サンプルの凝固状態を決定する方法を提供する。この方法は、磁性体を収容する室内に体液サンプルを与えるステップと、体液室に磁場を印加して、体液室内の体液サンプル中で磁性体を往復運動させるステップとを含む。
【0022】
別の態様によると、実施形態は、体液を特定の温度または温度範囲まで急速に加熱し、前記サンプルの温度を正確に監視するための加熱手段と温度監視手段とを備える計測器を提供する。
【0023】
本発明の様々な態様について、以下でより詳細に説明する。
【0024】
計測器により提供されるデバイス受け入れ手段は、計測器の内部でまたは計測器によってデバイスを正確かつ再現可能に保持することができる任意の手段であってよい。デバイス受け入れ手段は、例えば、デバイスが配置または挿入される孔であってもよい。ロックおよびキー機構のような他のデバイス受け入れおよび保持手段を採用してもよい。この場合、計測器により提供される雌型構造が、検査デバイス上の対応する雄型構造と協同して係合するように構成されていてもよい。その逆でもよい。
【0025】
単一の電磁コイルを有する計測器が提供される場合には、コイルの一つまたは複数の巻線によって画成される内部空間の少なくとも一部の範囲内に孔が配置されていてもよい。
【0026】
空芯の電磁コイルが提供される場合には、電磁コイルは、内部空間すなわち空芯を形成するために中心軸周りに巻き付けられていてもよい。コイルは、開管形態であってもよい。しかしながら、他の形態、例えば、内部空間を画成する細長い三角形、楕円、長方形、正方形などの形態を考えてもよい。
【0027】
計測器とともに使用されるデバイスには、体液サンプルを受け入れるための少なくとも一つの体液室が設けられる。加えて、デバイスには、体液室と流体接続される体液適用ポートと、体液適用ポートおよび体液室と流体接続される一つ以上の流路とが設けられる。体液サンプルの進入を可能にするための一つまたは複数の通気口がデバイスに設けられていてもよい。体液通路の寸法は、毛管力の影響下で体液が体液室内に流入できるように選択されることが好ましい。体液室の寸法は、流れが重力による影響を大きく受けず、表面が完全に水平でなくても検査を実行できるように選択されることが好ましい。しかしながら、電気浸透流れや磁気ポンプといった、デバイス中で体液を輸送する他の手段を考えてもよい。
【0028】
体液室内には、体液サンプルの凝固状態に影響を与えることができる試薬が提供されている。試薬の性質は、実行される検査によって決まる。例えば、実行される検査がプロトロンビン時間の決定である場合には、試薬はトロンボプラスチンである。検査が正しく実行されるようにするための制御器として機能する、同じ試薬または異なる試薬を収容する別の体液室が設けられていてもよい。体液室の中に、磁性体が設けられる。体液室に一つ以上の磁性体を設けることもできるが、単一の磁性体が好ましい。
【0029】
デバイスは、一つまたは複数の磁石を含む任意の適切な形態であってよい。実施形態によると、デバイスは、細長い試験片の形で提供される。体液経路は、サンプル適用ポートと任意の通気口から離れて主にデバイス内の環境から閉鎖される。デバイスは、多数の基板の積層、射出成形、およびマイクロ流体の分野において既知の他の製造方法によって製造することができる。
【0030】
電磁コイルに対する体液室の位置は、使用時に、磁石が体液室内を往復運動するとき高い磁場密度(すなわち、磁力線が多数ある)を通過するように選択される。これは磁石に大きな力を産み出し、したがって電力効率が高くなる。
【0031】
中心に空芯がある電磁コイルの場合、高い磁場密度を有する位置に対応するように、コイルによって画成された中央空腔内の少なくとも一部に体液室が配置される。
【0032】
中空の電磁コイルの使用によって得られる効果の一つは、高磁場強度の領域にデバイスを配置できる点である。デバイスは、コイルに近接して配置することができるか、少なくとも電磁石により画成された内部空間内の少なくとも一部に配置される。デバイスの磁性体は、電磁石の中心磁気コアとして効果的に作用する。電磁石は、中空のコア、部分的に中空のコア、または非中空のコアであってもよい。コアが部分的に中空であるかまたは非中空である場合、非磁性体または磁化不能体(non-magnetisable body)でコアが部分的にまたは完全に満たされていてもよい。コアが非磁性体または磁化不能体で部分的に満たされている場合、電磁石により画成された内部空間内の少なくとも一部にデバイスを配置できるようにすべきである。電磁石の中空コアの内部にデバイスを配置することで、高磁場強度の領域にデバイスを配置することが可能になる。これにより、動作時に、デバイスの磁性体による磁場の摂動が最大になり、大信号を発生させる。さらに、単一の電磁石、特に中空コアの電磁石を使用することで、デバイスの重量、サイズ、および所要電力が低下する。電磁石が高強度である場合には、高い磁場強度がコイルそのものを越えて広がっていることがある。このような場合、デバイスを中空コイルの内部に配置する必要はないが、コイルに近接して配置する必要がある。しかしながら、コイル内の少なくとも一部にデバイスを配置することが好ましい。
【0033】
高磁場強度を持つ磁石または磁化可能体を得るために、比較的大きなサイズを持つ磁性体を選択することが有利である。これにより、全血液量の必要条件を事実上増やさずに、使用される体液室のサイズを大きくすることができる。これは、製造に際して様々な利点を与える。
【0034】
特定の態様によると、本発明は、体液サンプルの凝固特性を決定するための計測器とともに使用するデバイスを提供する。このデバイスは、体液サンプルを収容する少なくとも一つの空洞を備え、空洞は、デバイスと協働する磁石または磁性体を含む。空洞の体積に対する磁石の体積の比率は、0.2より大きい。別の実施形態によると、比率は0.3より大きい。さらに別の実施形態によると、比率は0.4より大きい。さらに別の実施形態によると、比率は0.5より大きい。
【0035】
磁場センサで信号を生成するために、磁性体を体液室内で移動させる必要がある。移動距離が大きいほど、磁場の乱れも大きくなり、したがって信号も大きくなる。しかしながら、移動距離が大きいほど、デバイスの容量条件も大きくなる。大信号を出すために、高磁場を持つ大きな磁性体を備えることが望ましい。しかしながら、磁性体が大きくなるほど、空洞内で移動できる距離は小さくなる。低容量要件のデバイスを提供することが望ましいとすると、磁性体が体液室内で往復運動をするとき、磁性体の移動する距離すなわち運動のための隙間(movement gap)の最適範囲が存在する。磁性体と体液室の壁との間の運動のための隙間は、300μmと600μmの間であってもよい。別の実施形態によると、運動のための隙間は450μmおよび550μmの間である。さらに別の実施形態によると、上記範囲は490μmおよび510μmの間である。
【0036】
同様に、体液室と磁性体の容量要件を最適化するために、磁石の側面とそれに対応する空洞の壁との間に、運動方向と直角方向のクリアランスギャップがあることが望ましい。このギャップは、50μmと150μmの間である。別の実施形態によると、ギャップは75μmと125μmの間である。別の実施形態によると、ギャップは95μmと105μmの間である。特定の実施形態によると、ギャップは100μmである。
【0037】
流体室の中で磁性体の移動および/または位置を検出するための手段が設けられてもよい。この種の手段は、例えばホール効果センサ、磁気電界センサ、磁歪(magnetorestrictive)センサ、サーチコイルまたは磁場内の変化を検出する任意の他の手段といった磁場センサであることが好ましい。一実施形態では、少なくとも一つのセンサが設けられ、各センサはそれぞれの体液室と関連づけられる。動作中に、センサにより測定される磁場は、センサに対する磁性体の位置により影響を受ける。したがって、センサの出力を使用して、体液室内の磁性体の位置および/または移動を決定することができる。センサは、移動を検出する磁場の変化率に応答してもよい。
【0038】
デバイスの磁性体は、高い磁場密度、すなわち単位体積当たりの磁場強度が高くなるように選択されると好ましい。高い磁場密度は磁石に高い残留エネルギを与えるので、体液室内で磁石を往復運動させるのに必要な電力要件を小さくできる。これにより、デバイスの電力要件を低減する低磁場強度の電磁コイルを使用することが可能となる。磁性体と比較して低い磁場強度の電磁コイルを使用すると、信号対雑音比が高くなる。この構成によって得られるさらなる効果は、磁場センサに対してデバイスを再現可能にかつ正確に位置決めするという要請を低減することである。これにより、デバイス位置決め手段に求められる許容誤差が大きくなり、したがって製造コストが安くなる。
【0039】
磁性体の形状、エネルギ密度および重量は、考慮すべき重要なパラメータである。磁石の重量はその慣性に影響し、重量が重くなるほど、磁石を移動させるのに必要なエネルギも大きくなる。逆に、磁石のエネルギ密度が高くなるほど、磁石の含むエネルギが多くなり、したがって磁石を(電磁石から)動かすのに必要な力が少なくなる。長さは、エネルギ密度の面に影響を及ぼす。磁石周りの磁場密度は、典型的に、その中心近くで最小となり、磁極片に向けて増加する。磁石の長さに沿った磁場の増加率は、その長さに反比例する。したがって、全体として同じ磁場密度を有する異なる長さの2つの磁石があるとき、小さい方の磁石では、長さに沿った磁場密度の変化率が、長い方の磁石よりも大きくなる。例えば、全体の磁場を測定することとは対照的に、ホール効果センサなどの磁場密度センサを使用して、任意の特定の時間に磁場の広がりすなわち大きさを測定することは重要である。したがって、たとえ磁石が全体として同一の磁場密度を有していても、磁石が短い方が、磁石が長い場合よりも、ホール効果センサに大きな信号を発生させる。磁石の厚みも、センサで測定される信号に影響を及ぼす。薄い磁石、または磁石の薄い部分は磁場密度が高くなる一方で、厚い磁石または磁石の厚い部分は、その特定の部分において磁場密度が低くなる。しかしながら、磁石が薄いと全体質量も小さくなり、これは低い磁場密度につながる。磁石の全体的な形状と縦横比も、磁場密度に影響を及ぼしうる。例えば、長方形形状にすると、その長さに沿ってある程度のエネルギ密度断面を生じ、その磁極面においてある程度のエネルギ断面を生じる。ラグビーボールのような形状をした磁石では、長方形体の場合とは異なるエネルギ密度断面が発生する。さらに、ラグビーボール形状の磁石の両端部(磁極)におけるエネルギ密度は、各磁極での表面の面積が小さいために、非常に高くなる。したがって、磁石の表面における磁場強度に対するいかなる言及も、全体のまたは平均の磁場強度に関連している。磁石の縦横比もまた、重要な検討事項である。本願発明者は、縦横比を2:1(長さ:幅)未満にすると、電磁石の磁場にさらしたときに、体液室内で磁石のねじれ(ツイスト)が生じうることを示した。縦横比を3:1以上にすると、凝固デバイスで使用するのに適した磁石が得られる。
【0040】
別の態様によると、本発明は、凝固イベントを決定するためのデバイスを提供する。デバイスは、磁性体または磁化可能体を収容する室を備えており、磁石の中心における縦横比(すなわち、幅対厚さ)が各磁極片(両端)における縦横比よりも大きい。
【0041】
さらに別の態様によると、本発明は、凝固イベントを決定するためのデバイスを提供する。デバイスは、長さ方向に沿って磁化された磁性体または磁化可能体を収容する室を備えており、縦横比(すなわち、長さ対幅)が2:1よりも大きい。好ましくは、縦横比は3:1よりも大きい。
【0042】
一般に、磁石のエネルギ密度、形状、材料および磁気コイルのエネルギは、信号対雑音比が90%以上となるように選択されるべきである。
【0043】
磁性体の位置を決定するための他の検出手段または追加の検出手段(例えば、光学、レーザ、無線周波数による手段)が設けられていてもよい。
【0044】
一実施形態によると、体液サンプルの凝固特性を決定するための装置が提供される。この装置は、ソレノイドを有する計測器と、室内に磁性体を収容するデバイスとを備える。「ソレノイドの磁場強度」対「磁性体の先端における磁場」の比率は、少なくとも1:2である。一実施形態によると、前記比率は少なくとも1:3である。別の実施形態によると、前記比率は1:4かそれ以上である。
【0045】
別の実施形態は、体液サンプルの凝固特性を決定するための計測器とともに使用されるデバイスを提供する。デバイスは、先端または表面において30mT以上の磁場を有する少なくとも一つの磁石を収納する。別の実施形態によると、40mT以上である。さらに別の実施形態によると、50mT以上である。
【0046】
別の実施形態は、体液サンプルの凝固特性を決定するための計測器とともに使用されるデバイスを提供する。デバイスは、3μl未満の体液サンプルによって作動する。このような微量の体液は、ランセットを使用して毛細血管から簡単に取得することができる。
【0047】
このようなサンプル中に存在する間質液(interstitial fluid)は高レベルであり、間質液は凝固時間の測定に誤差を生じさせるために、凝固時間の検査のために使用可能な毛細管血サンプルの量には下限値が存在すると一般には信じられている。しかしながら、驚くべきことに、指から得られる非常に少量の毛細管血サンプルの赤血球総数は、実質的な影響を受けず、したがって、簡単に取得できる少量の血液で正確な凝固測定を実施することができる。
【0048】
体液サンプルの凝固特性を決定するデバイスで使用されるデバイスを体液で完全に満たすことができるようにするために、デバイスの各空洞には、少なくとも一つの充填流路と複数の通気流路が設けられる。流路は、空洞の各隅に設けられてもよい。検出室の各隅に流路を配置することによって、気泡形成の可能性を低減しつつ、検出室を確実に完全に充填することができる。これにより、均一な凝固検出結果が得られる。
【0049】
デバイスには、一つまたは複数の片方向毛管停止部(one way capillary stop)などの手段が設けられていてもよい。この手段は、一度検出室内に進入した体液サンプルが、磁性体の往復運動によって検出室から押し出されないように働く手段である。
【0050】
別の実施形態は、検出室内の体液サンプル中で磁石を往復運動させることにより、体液サンプルの凝固特性を決定する方法を提供する。例えばホール効果センサから得られる信号の振幅は、磁石の運動速度によって決まる。体液中での磁性体の移動速度が減少し始めると、振幅が減少し始める。凝固時間は、磁性体の運動が完全に静止した時点、または信号の振幅が減少してあるしきい値を下回った時点とみなすことができる。
【0051】
加えて、第1周波数での最初の混合段階を第2周波数での測定段階に先行させることで、体液の均質性を改善することができる。
【0052】
さらに、体液がデバイスに進入し始めたら磁石を予め定められた位置へ移動させることによって、規定した毛管流れを磁石周りで確実に起こすことで検出室を均一に充満させることが可能になる。
【0053】
電磁コイルに供給されるエネルギがパルス状であってもよい。こうすると、小さなパルス状の動きの形態で磁石が検出室内で効果的に移動する。これは磁石の線形移動になることが分かっており、磁石のねじれを防止するのに役立つ。磁石のねじれは、大量のエネルギが磁石に供給された場合に生じうるものであり、検出室に磁石をくっつけたりまたは磁石を検出室内でつっかえさせたりする。磁石の平行移動(すなわち、完全な往復運動)当たりのパルス数は、一定でも変化してもよい。例えば、磁石が検出室の端に到達したことをセンサが検出すると、コイルにエネルギパルスを送ることを停止するよう計測器に信号を送ってもよく、これによって計測器のエネルギ所要量を低減する。その後、磁気コイルの極性が反転され、コイルに対してもう一度電気パルスが印加されて、磁石が検出室を戻る方向に移動する。各往復運動またはいくつかの往復運動の間に時間間隔をおいてもよい。すなわち、磁石が事実上休止できるようにしてもよい。この時間間隔は、変化しても一定でもよい。時間間隔は、例えば、凝血を作る機会をサンプルに与えるのに役に立つものであってもよい。計測器は、予め設定された時間間隔を有していてもよい。あるいは、時間間隔の持続時間および数は、測定プロセス自身によって定められてもよい。例えば、測定信号の特徴によって定められてもよい。体液が凝固し始めると、磁石を検出室の端から端まで移動させるのに必要なパルス数が多くなる。計測器は、磁石を一定距離だけ移動させるのに必要なエネルギを測定してもよいし、または一定エネルギのパルスを与えたときに移動する距離を測定してもよい。測定を行うときに、磁石は検出室の全距離を移動してもよいし、一部の距離を移動してもよい。
【0054】
体液サンプルの凝固特性を決定するための計測器とともに使用するデバイスは、体液サンプルを受け入れるための検出室を含む。この検出室は、体液サンプルを撹拌するために使用可能な磁石を含む。撹拌は必ずしも測定の必要条件であるわけではなく、有利な点であってもよい。検出室が体液サンプル以外の物質で満たされている場合、または、検出室内の体液サンプルが空気を含む場合は、実施されるあらゆる測定の精度に非常に有害な影響を与えうる。さらに、測定の精度は、体液内の凝固試薬の非均質性によって影響を受けうる。有利なことに、混合段階において試薬と体液サンプルとが検出室内で混合される。
【0055】
実施形態は、体液サンプルの凝固特性を決定するための計測器とともに使用するデバイスを提供する。このデバイスは、体液サンプルを収納する少なくとも一つの空洞を備え、空洞は、デバイスと協働する磁性体または磁化可能体を収納する。空洞の体積に対する磁石体積の比率は、0.4より大きい。
【0056】
空洞の体積に対する磁石体積の比率は、0.5より大きくてもよい。3μl未満の量のサンプルを受け入れるように試験片が構成されていてもよい。あるいは、1μl未満の量のサンプルを受け入れるように試験片が構成されていてもよい。別の変形例では、0.7μlの量のサンプルを受け入れるように試験片が構成される。
【0057】
空洞は、3μl未満の量のサンプルを受け入れるように構成されていてもよい。変形例では、空洞が1μl未満の量のサンプルを受け入れるように構成されていてもよい。別の変形例では、空洞が0.7μlの量のサンプルを受け入れるように構成される。
【0058】
他の実施形態では、空洞は、運動方向に磁石が運動するように配置される。磁石の側面と対応する空洞の壁面との間に、クリアランスすなわち毛管ギャップが運動方向と直角方向に形成される。一変形例では、クリアランスすなわち毛管ギャップは75μmと125μmの間である。一変形例では、クリアランスすなわち毛管ギャップは95μmと105μmの間である。別の変形例では、クリアランスすなわち毛管ギャップは100μmである。
【0059】
一実施形態では、磁石が運動方向に運動するように空洞が配置される。磁石の側面と対応する空洞の壁面との間に、移動のための隙間(movement gap)が運動方向に形成される。
【0060】
別の実施形態では、移動のための隙間は450μmと550μmの間であることが好ましい。一変形例では、移動のための隙間は490μmと510μmの間であることがより好ましい。別の変形例では、移動のための隙間が500μmであることが最も好ましい。
【0061】
別の実施形態は、体液サンプルの凝固特性を決定するためのデバイスとともに使用される体液サンプル片を提供する。サンプル片は、体液サンプルを収納するための少なくとも一つの空洞を備え、空洞は、デバイスと協働する磁石を収納する。サンプル片は、3μl未満のサンプルを受け入れるように構成される。変形例では、サンプル片は1μm未満のサンプルを受け入れるように構成される。別の変形例では、サンプル片は0.7μlのサンプルを受け入れるように構成される。
【0062】
別の実施形態は、体液サンプルの凝固特性を決定するためのデバイスとともに使用される体液サンプル片を提供する。サンプル片は、体液サンプルを収納するための少なくとも一つの空洞を備え、空洞は、デバイスと協働する磁石を収納する。空洞は、3μl未満のサンプルを受け入れるように構成される。変形例では、空洞が1μl未満のサンプルを受け入れるように構成される。別の変形例では、空洞が0.7μlのサンプルを受け入れるように構成される。
【0063】
別の実施形態は、体液サンプルの凝固特性を決定するデバイスとともに使用される体液サンプル片を提供する。サンプル片は、体液サンプルを収容するための少なくとも一つの空洞を備え、空洞がデバイスと協働する磁石を収納する。空洞は、運動方向に磁石が運動するように配置される。磁石の側面と対応する空洞の壁面との間には、運動方向と直角の方向にクリアランスすなわち毛管ギャップが形成されている。
【0064】
一変形例では、クリアランスすなわち毛管ギャップは75μmと125μmの間であることが好ましい。
【0065】
一変形例では、クリアランスすなわち毛管ギャップが95μmと105μmの間であることがより好ましい。
【0066】
一変形例では、クリアランスすなわち毛管ギャップが100μmであることが最も好ましい。
【0067】
別の実施形態は、体液サンプルの凝固特性を決定するデバイスとともに使用される体液サンプル片を提供する。サンプル片は、体液サンプルを収容するための少なくとも一つの空洞を備え、この空洞はデバイスと協働する磁石を収納する。空洞は、磁石方向に磁石を運動させるように配置され、磁石の側面と対応する空洞の壁面の間には、運動方向と平行の方向に移動のための隙間が形成されている。
【0068】
一変形例では、磁石の対向する2つの側面は、運動方向と直角の平面内に位置する。
【0069】
一変形例では、移動のための隙間は450μmと550μmの間であることが好ましい。
【0070】
一変形例では、移動のための隙間は490μmと510μmの間であることがより好ましい。
【0071】
一変形例では、移動のための隙間が500μmであることが最も好ましい。
【0072】
別の実施形態では、体液サンプルの凝固特性を決定するためのデバイスを提供する。このデバイスは、電磁コイルと、体液サンプル片を受け入れるためのサンプル片受け入れ孔とを備える。サンプル片受け入れ孔の少なくとも一部は、電磁コイルの範囲内に配置される。
【0073】
別の実施形態は、体液サンプルの凝固特性を決定するデバイスとともに使用される計測器を提供する。この計測器は、中空内部コアを有する電磁コイルと、デバイスを受け入れるためのデバイス受け入れ手段とを備える。
【0074】
一変形例では、サンプル片受け入れ孔とデバイス受け入れ手段とは、電磁コイルにより画成される内部空間の範囲の少なくとも一部にデバイスを配置できるような位置に設置される。
【0075】
一変形例では、電磁コイルは軸を有し、サンプル片受け入れ孔はこの軸に沿って設けられる。
【0076】
一変形例では、電磁コイルはコア容積を持ち、サンプル片受け入れ孔はコア容積の範囲内に設けられる。
【0077】
別の実施形態は、体液サンプルの凝固特性を決定する計測器を提供する。この装置は、体液サンプル片を受け入れるためのサンプル片受け入れ孔と、サンプル片受け入れ孔を予め定められた温度に維持するための加熱素子と、体液サンプルデバイスの温度を監視するための温度センサとを備える。
【0078】
一変形例では、加熱素子は抵抗コイルである。
【0079】
一変形例では、加熱素子は電気抵抗カーボンインクの印刷パターンからなる。
【0080】
一変形例では、加熱素子は空洞を加熱するために配置されたペルティエ素子である。
【0081】
一変形例では、予め定められた温度にまでデバイス受け入れ孔を冷却するために、ペルティエ素子に印加される電圧の極性を逆にしてもよい。
【0082】
一変形例では、予め定められた温度は37°Cである。
【0083】
別の実施形態は、体液サンプルの凝固特性を決定する方法を提供する。この方法は、空洞内の体液サンプルを予め定められた温度に維持することを含む。
【0084】
別の実施形態は、体液サンプルの凝固特性を決定する計測器とともに使用されるデバイスを提供する。このデバイスは、体液サンプルを収納するための少なくとも一つの空洞を備える。空洞は、デバイスと協働する磁石を収納する。磁石は、その先端で50mTの最小磁場強度を有する。
【0085】
一変形例では、磁石は、先端で55mTから65mTの最小磁場強度を有する。
【0086】
一変形例では、磁石は先端で60mTの最小磁場強度を有する。
【0087】
一変形例では、磁石はNdFe3B磁石である。
【0088】
別の実施形態は、体液サンプルの凝固特性を決定するデバイスとともに使用されるストリップを提供する。このストリップは、体液サンプルを収納する少なくとも一つの空洞を備え、空洞はデバイスと協働する磁石を収納する。この空洞は、ガス捕集点を複数有する。少なくとも一つの空洞はそれぞれ、各ガス捕集点において接続される流路を有する。
【0089】
一変形例では、少なくとも一つの流路が充填流路である。
【0090】
一変形例では、少なくとも一つの流路が通気流路である。
【0091】
一変形例では、各ガス捕集点は各空洞の隅に位置する。
【0092】
一変形例では、空洞は実質的に立方体形状である。
【0093】
別の実施形態は、体液サンプルの凝固特性を決定するためのデバイスを提供する。このデバイスは、第1イベントと第2イベントの両方を検出するための一つの光センサを備える。
【0094】
別の実施形態では、体液サンプルの凝固特性を決定するための方法が提供される。この方法は、少なくとも一つの磁石を振動させることを含み、この振動は、第1期間にわたる第1周波数範囲内での第1振動等を含む。
【0095】
一変形例では、第1イベントは体液エントリイベントである。
【0096】
一変形例では、第2イベントは検出室充満イベントである。
【0097】
一変形例では、光センサは、検出室の充填流路と通気流路の両方を調べるように構成される。
【0098】
一変形例では、光センサは、充填流路と通気流路の伝達特性における変化を検出するように構成される。
【0099】
一変形例では、光センサは、それぞれの流路を流れる体液によって生じる充填流路と通気流路の伝達特性の減少を検出するように構成される。
【0100】
別の実施形態は、体液サンプルの凝固特性を決定するデバイスとともに使用する体液サンプル片を提供する。このサンプル片は、デバイスの対応する位置決め要素と相互作用するように構成された少なくとも一つの位置決め構造を備える。
【0101】
一変形例では、位置決め構造は体液サンプル片の表面にある凹みである。
【0102】
一変形例では、位置決め構造は体液サンプル片に空いた穴である。
【0103】
本発明を一層明確に理解できるようにするため、添付の図面を参照してその実施形態について説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0104】
デバイスの概略を図1に示す。本デバイスは、成形された下層12と蓋13とを備えることが好ましい。図示する下層12は、長さ40mm、幅8mm、厚さ0.8mmである。下層表面にある複数の構造が組み立て後のデバイスの上面を形成するように、下層12が成形される。
【0105】
例えば、図1に示す模式的なデバイスの下層の構造について説明する。三角形のサンプル適用構造2は0.3mmの深さを有し、少なくとも一つ(この実施例では2つ)の深さ0.15mm、幅0.3mmの入口流路3と接続される。各入口流路3は、2つの隣接する検出室すなわち空洞4のうち一つの入口端の隅と接続している。検出室4は、長さ3.5mm、幅1.2mm、深さ0.34mmである。複数の通気流路5、6が検出室に接続される。通気流路は深さ0.15mm、幅0.15mmである。一つの通気流路5が検出室4の入口端に示され、2つの通気流路6が検出室4の出口端の各隅に示されている。通気流路によって閉じこめられたガスの放出が可能である。検出室4の入口端は、出口端の反対側にある。
【0106】
図1は、2つの検出室を備えるデバイスを示す。これら検出室は、検出室のそれぞれの中心から測定したとき4.8mmだけ離れている。一方の検出室内の磁石に関連する磁石信号が、もう一方の検出室内の磁石に関連するホール効果センサに影響を起こさないように、あるいは影響を最小限にするように、検出室を離して配置すべきである。逆もまた同様である。検出室の最適離隔距離は、磁性体の大きさおよび磁場の強さなどの要因により決定される。
【0107】
実質的に長方形状の断面を持ち、当該断面の平面と直角方向に小さいが有限の深さを有する流路が、検出室4の各隅にあることに注意すべきである。充填流路と排出流路の深さが、検出室4の深さと同一であることにも注意すべきである。しかしながら、充填流路と排出流路の深さが検出室4の深さと異なっていてもよい。例えば、充填流路と排出流路の深さは、0.15mmと0.1mmの間であってもよい。充填流路と排出流路の深さは、流路の長さに沿って均一であることが好ましい。
【0108】
複数の通気口7、8が下層に組み込まれている。各通気流路5、6がそれぞれ通気口7、8と接続する。図示する模式的なデバイスでは、2つの通気流路6は検出室4を出て、共通の通気口8で終わる。通気口7、8は、下層の上面にある直径1mm、深さ0.4mmの円形凹みである。デバイスは、デバイスを貫通する位置決め穴9をさらに備える。これについては、後で詳細に述べる。加えて、通気流路と通気穴の接合点では毛管が途切れている(図示せず)。したがって、体液サンプルは通気流路を通って毛管途切れ部(capillary break)まで移動することができる。
【0109】
試薬を液体状態で検出室内に入れたとき、試薬が乾燥するまで検出室内にとどまるようにするため、片方向停止構造が設けられる。しかしながら、検出室内に血液を流し込む必要がある場合、停止構造はその過程を妨げない。
【0110】
射出成形された下層は、上面の親水性層および下層の微細構造を作成するために、プラズマチャンバ内で扱われる。続いて、市販のトロンボプラスチン溶液を下層の各検出室4に堆積させる。好ましくは、各検出室4は少なくとも0.4μlのトロンボプラスチン溶液を含む。トロンボプラスチン溶液は、その後乾燥する。
【0111】
検出室は、検査のために体液サンプルを収容するように設計されている。検査のために必要な血液量は、デバイスの内部寸法および各磁石10の外部寸法により決まる。この血液量は、3μl未満でもよい。特に、血液量は3μlと0.1μlの間である。より好ましくは、血液量は3μlと0.5μlの間である。最も好ましくは、血液量は2.75μlと0.75μlの間である。好ましくは、血液量は、検出室、通気流路、および充填流路の容量を含む。
【0112】
デバイスの各検出室4は、ネオジム磁石10を収容する。磁石10は、NdFe3Bであってもよい。図1に示す各ネオジム磁石10は、3mm×1mm×0.25mmの寸法である。図1に示す検出室4は、3.5mm×1.2mm×0.34mmの寸法を持つ。したがって、検出室に収容される体液量は、0.7mmすなわち0.7μlである。検出室サイズに対する磁石サイズの比率は、0.53である。
【0113】
磁性体は、高い磁場強度を有することが好ましい。しかしながら、デバイスの製造中に、そのような高強度の磁石を検出室内に配置し保持することは困難であることが分かっている。これは、磁石は飛び出したりくっつき合ったりする傾向があるためであり、デバイスが互いに近接する複数の検出室を備え、各検出室が磁石を収容するとき特にそのようなことが言える。この問題は、検出室に金属体を配置し、検出室を封止するかまたは少なくとも部分的にそれを遮断する上部積層体を設け、続いてその位置で金属体を磁化して所望の磁場強度にすることで解決できる。上部積層体を存在させることで、磁性体が検出室を離れることを防止し、また検出室を互いに近接して配置することが可能になる。また、このようなデバイスを大量生産できる便利な方法を提供し、磁性体を引き寄せる他の金属構造をデバイスに近接させて配置することを可能にする。したがって、本発明の一態様は、検出室内に磁化可能である金属体を設け、検出室内での金属体のあらゆる動きを制限し、続いて検出室内にある間に金属体を磁化するステップからなるデバイスの製造方法を提供する。
【0114】
各磁石のサイズは、各検出室を実質的にふさぐように選択されてもよい。これにより高い磁場強度が保証され、また検出室を満たすために必要な体液サンプルの量が少なくて済むというさらなる利点を提供する。さらに、検出室内の体液の実質的に全てが検査中にかき回される。
【0115】
さらに、磁石が検出室内にあるとき、検出室の充填を促進して検出室内を完全に満たすために、磁石を取り囲んでクリアランスすなわち毛管ギャップができるように、検出室4に対する各磁石10のサイズを決める。上述の寸法は、この目的のために適している、磁石周りに100μmの毛管ギャップを与える。同様に、500μmの端部隙間が得られる。この隙間は、磁場センサ24から合理的な信号を提供するために十分な量だけ磁石の移動を可能にする最適値であり、気泡を作らないで検出室を満たすことができる十分な毛管効果を発生させる。さらなる利点は、デバイスの低容量必要条件を妥協することなく、より大きな検出室を採用できる点である。さらに、大きな検出室と大きな磁性体とを設けることで、製造プロセスをより容易に実行することができる。
【0116】
各磁石10は、好ましくは50mTより大きい磁場強度を有し、より好ましくは先端(すなわち磁石のN極とS極の両端で)で60mTの磁場強度を有する。
【0117】
図2は、図1のX−X断面における完成したデバイスを示す。完成したデバイスの各検出室4には、例えばトロンボプラスチンなどの凝固剤である試薬11と磁石10が入っている。デバイス1は、射出成形された下層12と、トロンボプラスチン11と、少なくとも一つのネオジム磁石10と、下層12に結合された薄層状の蓋13とを含んで示されている。
【0118】
サンプル体液の凝固イベントを検出するためにデバイスとともに使用される計測器の一部を形成する電磁石21を、図3および図4に示す。デバイスは、電磁石の中空コア50内に挿入されてもよい。デバイスが使用位置にあるとき、各検出室4内の各磁石10は、電磁石21の中空コア内に位置する。
【0119】
計測器の対応する雄型構造と協働して係合するように、デバイスの提供する雌型構造が配置されていてもよい。あるいは、計測器の対応する雌型構造と協働して係合するように、デバイスにより雄型構造が提供され配置されていてもよい。
【0120】
磁石10は、電磁石の南北(N−S)軸と平行である南北(N−S)磁極軸を有する。N極を有する端が充填流路の近位にある検出室の端に配置されるように、磁石10を検出室4内に配向することが好ましい。したがって、磁石10を検出室4の特定の端に移動させるために、周知の技術を適用することができる。材料を帯状に磁化することによって、電磁石に電圧を加えたとき磁石を同じ方向に移動させることができる。
【0121】
図4は、断面で示すデバイス1が挿入された計測器20の断面図である。計測器20は、誘導コイル21と、各検出室4内で磁石の位置を検出するように構成された少なくとも一つのホール効果センサ24とを備える。計測器20は少なくとも一つの光センサ22、23も備える。これら光センサは、LED光源と従来の光トランジスタとであることが好ましい。光センサの使用、および光センサの動作は後で詳細に説明する。
【0122】
一実施形態によると、コイル21は70オームの直流抵抗を有しており、5Vの電源で駆動される。
【0123】
コイル21は、開管形状をしていてもよい。コイルの断面は任意の他の形状であってもよい。例えば、三角形、楕円、長方形、矩形、円形などでもよい。
【0124】
図示の検出室が複数ある構成では、ホール効果センサ24は各検出室4に対して設けられる。ホール効果センサ24は、磁石が検出室4内の中心にあるとき、ホール効果センサの検出領域の中点が磁石10の一端と整列するように配置されることが好ましい。加えて、検出室に隣接して加熱素子42と温度センサ45が設けられる。
【0125】
計測器は、各検出室4の各入口流路3を通過するサンプル体液を検出するように配置された第1光センサと、デバイスを計測器に挿入したとき各通気流路5に沿って通過するサンプル体液を検出するように配置された第2光センサとを備える。あるいは、第2光センサは、各通気流路6に沿って通過するサンプル体液を検出するように配置されてもよい。
【0126】
通常、コイル21によって発生するデバイス1の磁場強度は、約15mTである。これは、従来技術の計測器よりも小さい磁場であり、好ましくはデバイスの電力消費を低減し、デバイスを軽量化しランニングコストを安くする。
【0127】
図8は、計測器20の制御回路の機能ブロック図を示す。マイクロプロセッサ40は、各ホール効果センサ24、各光センサ22および温度センサ45から入力を受け取る。マイクロプロセッサ40は、それぞれコイル21および加熱素子42に電力を提供する増幅器43および44に接続されている。マイクロプロセッサは、さらにディスプレイ41に接続されている。ディスプレイ41は、測定結果をユーザに示すために使用されてもよい。測定結果は、例えば凝固時間または国際標準比(International Normalized Ratio:INR)の値で提示されてもよい。
【0128】
加熱素子42は、電流が通過すると熱を発生する抵抗コイルを備えていてもよい。加熱素子は、電気抵抗カーボンインクが上部に印刷されているセラミックプレートを備えていてもよい。このような加熱素子は、18オームの抵抗を有してもよい。代替的に、加熱素子42はペルティエ素子であってもよい。ペルティエ素子はヒートポンプとして機能し、好ましくはヒートシンクと接続される。
【0129】
加熱素子42は、本デバイスと計測器を測定のために使用する前に、デバイスの受け入れ孔を加熱して温度センサ45で監視される所定の温度にするように機能することが好ましい。温度センサ45は、デバイスによって発される赤外線放射を測定するように構成された従来の熱電対列を備えていてもよい。したがって、熱電対列はデバイスから空隙を空けて配置される。空隙は、約3mmであってもよい。熱電対列は、熱電対列が向けられた方向の赤外線源の温度に比例した電圧信号を出力する。好ましくは、温度センサ45は、加熱素子42ではなくデバイス1の方を向いている。したがって、温度センサは、デバイスの温度を測定するのであり、デバイス1よりも熱いかまたは冷たいかもしれない加熱素子42の温度を測定するのではない。これによって、例えば熱遅延、接触圧、デバイスの平坦さなどの変数によって引き起こされるデバイスの温度測定誤差を減らし、正確なフィードバックループにより温度を予め定められた目標値に維持することができる。凝固時間は温度依存であるため、これによってより正確に結果を判定することができる。
【0130】
デバイスおよび計測器が予め定められた温度に達すると、計測器20はディスプレイ41上に指示を表示する。この表示は、「試験の準備完了」のようなものであってもよい。この指示を受け取ると、ユーザはデバイスに体液サンプルを導入してもよい。デバイスおよび計測器が使用されている周囲温度が予め定められた温度より大きい場合、加熱素子42がペルティエ素子であれば、デバイスとデバイス受け入れ孔とを冷却するために、ペルティエ素子に逆極性の電流を印加してもよい。
【0131】
上記の予め定められた温度は、実行される検査の性質に依存する。プロトロンビン時間の測定の場合は、温度は37°Cに選択される。
【0132】
デバイスおよび計測器の動作について、体液サンプルの凝固時間の測定を参照しつつ説明する。計測器のデバイス受け入れ孔にデバイスが挿入される。サンプル適用構造2において、デバイスの前部に体液サンプルが配置される。体液は、毛管作用によってデバイス内部に移動する。体液は、サンプル適用構造2から吸い上げられ、各入口流路3に沿って各検出室4の中に入る。サンプル体液は、各入口流路3の中を流れ続け、それぞれの検出室4を満たし、通気流路5、6の中を通って流れ続ける。通気流路5、6内の体液がそれぞれ毛管途切れ部7、8に到達すると、サンプル体液の流れは止まる。検出室の各隅に流路を配置することで、空隙を形成する可能性を低下させつつ、検出室内を完全に満たすことができる。これにより、均一な凝固検出結果が得られるようになる。
【0133】
好ましい実施形態では、体液は毛管作用によってデバイスの中を移動する。しかしながら、電気浸透流れ(electro-osmotic flow)などのデバイス内部に体液を輸送する他の標準手段を考えてもよい。
【0134】
上述したように、サンプル体液エントリイベントおよび/または検出室充満イベントを検出するために、光センサが設けられている。サンプル体液エントリイベントは、デバイスの充填流路においてサンプル体液が検出されることと定義することができる。検出室充満イベントは、デバイスの少なくとも一つの通気流路においてサンプル体液が検出されることと定義することができる。
【0135】
デバイス1の入口流路3においてサンプル体液を検出(体液エントリイベントと定義する)すると、計測器20は計時を開始する。
【0136】
また、体液エントリイベントを検出すると、コイル21に充填信号が与えられ、一定極性の磁場が作られる。その結果、検出室4内の磁石10がコイル21から反発し、図5に示すように、デバイス1のサンプル適用構造2の方向に向かう。充填ステージにおけるこの磁石の位置決めにより、検出室を体液サンプルで再現可能に充填することができる。したがって、異なる検査に対して一貫した充填特性を得るために、既知の位置に磁石を固定することは有利である。充填信号は、検出室が一杯になると想定される時間である3秒の間、持続される。
【0137】
充填信号の後、コイル21に混合信号が与えられる。混合信号は、相反する極性を持つ振動磁場を発生させる。混合信号は、約8Hzで振動する振動磁場をコイル21の周囲に発生させることが好ましい。図2に示す体液サンプルと試薬11とを確実に混合するために、混合信号は5秒間与えられる。
【0138】
混合信号の後、コイル21に測定信号が印加される。測定信号は、相反する極性を持つ振動磁場を発生させ、最初は混合新聞の約半分の周波数で振動する。混合信号は、最初は約4Hzで振動する振動磁場をコイル21の周囲に発生させることが好ましい。測定信号の印加の間、コイル21の周りの磁場の振動期間が、好ましくはサイクル当たり15ミリ秒ずつ増加することが好ましい。コイルに電力印加するこの方法の一例を、図6に模式的に示す。
【0139】
後で詳しく述べるように、凝固イベントが検出されるまで、測定信号がコイル21に与えられる。
【0140】
5Vの電源に接続されたとき、コイル21には71mAの直流電流が流れる。電力消費を減らすために、50Hzの周波数、50%のデューティサイクルでコイルが作動される。これにより、平均電流消費が約35mAに低下する。さらに、いずれの半サイクルの間も、半サイクルの一部の間だけ、磁石に力が与えられる。第1半周期の一部の間、第1極性を持つ電流が印加され、続いて第2半周期の一部の間、第1極性とは反対の第2極性を持つ電流が印加される。例えば、磁石が2Hzで振動している場合、半周期の持続時間は250msである。第1半周期の間、第1極性の信号が100ms間コイルに与えられる。続いて、第2半周期の間、第2極性の信号が100ms間コイルに与えられる。好ましくは、第1または第2極性の信号は、パルス状の電圧である。電力を節約するためにパルスのデューティサイクルを減らしてもよい。
【0141】
互いに反対方向の電流のパルス化は、交流電圧源の使用によりなされる。交流電圧源は、矩形波信号、正弦波信号または三角波形信号であってもよい。
【0142】
磁石の動きを検出するために、計測器20の各ホール効果センサ24から出力される信号が、図7に示すように処理される。各ホール効果センサから出力される信号のピーク振幅31は、磁石が振動するときの磁石10の先端の動きを表している。信号出力は、コイル21により印加される磁場に応じて、磁石が往復運動することを示している。磁性体の速度が低下し始めることは、体液サンプルすなわち血液が凝固イベントに達していることを意味するので、磁石運動の振幅および速度、対応するピーク振幅、および/またはホール効果センサからの出力信号の速度は減少する(32)。凝固イベントが発生した後の電圧の大きさは、凝固強さ(clot strength)の指標ともなりうる。したがって、この値を使用して、特定の体液サンプルの凝固強さを決定してもよい。さらに、凝固イベントの後に、磁性体をサンプル中で往復移動させ続けることによって、凝固の溶解(clot dissolution)率を決定するためにデバイスを使用することもできる。必要に応じて、磁性体をサンプル中で移動させるために、磁場強度を最初に増加させてもよい。
【0143】
各磁石10は、コイル21による交番磁界の適用時に磁石が往復運動する方向と平行な方向の最長軸に沿って磁化される。したがって、磁石の長さ方向で測定される磁場は、中心で最小であり両端で最大である。検出室4の中の磁石の位置が変化するにつれて、ホール効果センサからの出力信号も変化する。したがって、ホール効果センサ24からの出力信号を測定して、検出室4内での磁石の変位量を定めることができる。ホール効果センサ出力信号と磁石変位の間の関係は、磁石の先端がホール効果センサ24を通り過ぎるとき、非線形になる。測定の間、この非線形性は考慮される。
【0144】
変位は、例えば、磁石の末端位置を差し引いて移動した距離に変換される。したがって、所与のサイクルにおいて磁石が移動した距離が直接測定される。この値は、凝血塊が生ずるにつれて減少する。
【0145】
凝固イベントは、磁石が移動するのをやめた時間、または磁石が特定の範囲に減速したときの時間と定義することができる。凝固イベントは、信号の振幅を測定することによって、または信号振幅における変化や変化率によって、容易に決定することができる。磁石の移動を妨げる体液サンプルすなわち凝血は、ホール効果センサの出力信号の振幅が平均振幅から予め定められただけ減少することと定義することができる。振幅の変化の程度は、血液のINR、磁石の大きさおよび形状、電磁石と比較した磁石の磁場強度の比率または差分などの要因に応じて決められてもよい。例えば、凝固イベントは、信号振幅が平均振幅信号の70%であるときに発生したとみなされてもよい。なお、平均振幅信号とは、特定の期間(例えば最初の5秒の測定)の間に測定された振幅測定値の平均値である。
【0146】
代替的に、磁石移動信号および測定される振幅の低下に対して、移動平均による平滑化を施してもよい。
【0147】
図9は、装置を動作させる方法のフローチャートを示す。この方法は、光センサ22、23を使用して体液エントリイベントを検出すること(71)を含む。これにより、凝固タイマの開始(72)およびコイル21への初期化信号の印加(73)が生じる。凝固タイマは、マイクロプロセッサ40により実施される。別のまたは同じ光センサ22、23からの検出室充満信号の検出時(74)、または予め定められた3秒のタイムアウトの終了時(75)のいずれかに、装置は混合信号をコイル21に5秒間印加する(76)。混合信号を5秒印加した後(77)、測定信号がコイルに印加され(78)、磁石移動の振幅が検出される(79)。測定された値と比率(例えば70%)とを乗じることによって、測定された磁石移動の振幅からしきい値を計算する(80)。凝固イベントの発生を定義する、磁石移動の振幅のしきい値未満の値への低下を装置が検出するまで(81)、測定信号が印加される(78)。凝固イベントを検出すると、凝固タイマが停止し(82)、測定信号が停止し、測定された凝固時間が装置により出力される(83)。
【0148】
図10は磁石を移動させる方法のフローチャートである。この方法は、磁石を移動させ(91)、磁石の位置を検出し(92)、検出された磁石の位置が好ましい範囲内であるか否かを判定し(93)、磁石の検出位置が好ましい範囲内でない場合は、磁石を再び移動させる(94)。
【0149】
図1に示すデバイスの製造方法について説明する。下層1は、当分野で周知の射出成形技術を使用して、好ましくはポリスチレンから形成される。例示の下層は、長さ40mm、幅8mm、厚さ0.8mmである。成形の間、上面に複数の微細構造を有するように下層が形作られる。
【0150】
射出成形された下層は、プラズマチャンバで処理される。プラズマチャンバによって、上面に配置される親水性層と、下層の微細構造が作られる。
【0151】
下層の各検出室4に、市販のトロンボプラスチン溶液が堆積される。Horizon Instruments社(英国)によって提供されるもののように、堆積ステーションを使用してトロンボプラスチン溶液を堆積してもよい。好ましくは、少なくとも0.4μlのトロンボプラスチン溶液が各検出室4に堆積される。複数の他の周知のトロンボプラスチン溶液も、このデバイスで使用するために適当であることは、当業者にとって明らかである。
【0152】
約65°Cの温度で4分間、続いて約45°Cの温度で6分間の計10分間、加熱されたチャンバを通して下層を通過させることで、堆積したトロンボプラスチン溶液は乾燥する。
【0153】
下層の各検出室4へのトロンボプラスチン溶液の堆積、およびその後の乾燥に続いて、デバイス1の各検出室4内にネオジム磁石10が配置される。
【0154】
下層の上に蓋が配置され、取り付けられる。蓋は、125μm厚のポリスチレン積層体であることが好ましく、接着剤によって下層に取り付けられることが好ましい。蓋を下層に取り付けるために他の方法も使用可能である。
【0155】
蓋が下層に結合されると、25Wの二酸化炭素レーザを使用して、蓋材料の積層体を切断して、下層の端から余分な蓋材料を除去する。25Wのレーザは、通気口7、8の上方の蓋に通気孔を空けるためにも使用される。使用中、サンプル適用構造2からデバイスにサンプル体液を導入するときに、この通気孔によって検出室4から空気を逃がすことができる。
【0156】
本明細書において述べるデバイスは、様々な効果をもたらす。検出室4内の各磁石10にNdFe3Bのような強い磁性材料を用いるのは、様々な理由から有利である。
【0157】
第1に、検出室4内の体液サンプル中で磁石10を駆動させる特定の推進力を生成するために電磁コイル21により発生させる磁場が小さくて済む。したがって、コイル21はより小さくてもよく、また消費電力も少なくなり、そのため計測器20の電源もより小さくてよい。これは、計測器20が携帯型であり電池で駆動される実施形態では、特に有利である。
【0158】
第2に、磁石10が強いほど、ホール効果センサ24でより高い信号強度が発生する。したがって、ホール効果センサ出力の信号対雑音比が減少し、凝固イベントの検出精度が改善する。
【0159】
磁石が検出室4内の中央にあるとき、磁石10の一端と揃えてホール効果センサ24を配置すると、磁場内の変化が最大となり、したがって磁石が検出室4の一端から反対の端まで移動するときにホール効果センサ24から生じる出力信号が最大になる。これは、各ホール効果センサ24による出力信号の信号対雑音比を有利に改善する。ホール効果センサは、通常、信号を最大にするために検出室に対してできるだけ近くに配置される。
【0160】
図1に示す2つの検出室は、各室の中心から測定したとき、4.8mmだけ離れている。
【0161】
各磁石の磁場が互いに相互作用するように、図5に示すように互いに隣接させ十分に近接させて2つの検出室を配置すると、磁石が安定し、電磁コイルの磁場が作用するときに検出室内で磁石がねじられなくなることを示した。検出室を互いに近接させて配置することにはさらに利点がある。例えば、デバイスのサイズをより小さくし、また加熱素子のサイズを小さくするなどである。しかしながら、検出室が互いに近接しすぎていると、図13に示すように、一方の検出室内の磁石が他方の検出室内の磁石の動きに干渉してしまうことがある。一方の磁石による他方の磁石の動きへの干渉は、一方の磁石が他方に引きつけられることで現れる場合があり、これにより磁石と検出室の側壁との間で摩擦が生じ、磁石の動きが妨げられる。このような干渉により、検出器が凝固イベントを誤って示してしまう可能性がある。したがって、2つの検出室には最小離隔距離がある。この最小離隔距離は、磁石が互いの移動に実質的に干渉して、凝固イベントを実際よりも早期に誤って提示してしまうことがないようにするために必要な最小距離と定義することができる。理想的には、それぞれの磁石が他方の運動に干渉しないように検出室が配置される。しかしながら、凝固時間の結果に影響を及ぼさない限り、いくらかの干渉は許される。検出室間の離隔距離は、それぞれの磁石の磁場密度で決定してもよい。磁場密度が大きいほど、必要な離隔距離は大きくなる。したがって、2つの検出室には最適離隔範囲がある。検出室が近すぎる場合、磁石は互いの動きに干渉することがあり、検出室が離れすぎていると、使用時に磁石がねじれることがあり、またより大きな試験片やより大きな加熱素子が必要になる。それぞれ3mm×1mm×0.25mmの寸法でありその先端で50mTの磁場強度を持つNdFe3B磁石を収容する2つの検出室を備えるデバイスでは、互いの磁石に実質的に干渉することなく磁石を適切に安定させるために、4.8mmの離隔距離が必要であることを示した。各検出室の中心から4mmの離隔距離では、磁石が互いに有意な程度に干渉して不適切であることを示した。
【0162】
磁場センサからの出力信号は、磁気の強さに比例する。したがって、検出室内の磁石の絶対位置および/または移動速度は、ホール効果センサ24の出力信号から導くことができる。代替的な装置では、コイルを全体駆動する代わりに、検出室4の端から端まで磁石10を移動させるのに必要な量の電力のみをコイル21に入力することも可能である。コイル21には、短持続期間の磁場を生成するための短持続期間信号が与えられる。ホール効果センサから出力される信号が、磁石が測定の最大値、例えば検出室4の一端にあることを示さない場合、別の短期間持続信号がコイル21に与えられる。体液サンプルが凝固しなかった場合、磁石10は最終的に検出室4の端に到達する。そして、反対極性を有する短期間持続信号をコイル21に与えることで上記プロセスを繰り返してもよい。このように、磁石10を移動させる最小限の電力のみをコイル21へ入力する。有利なことに、これにより計測器20の電力消費が減少する。さらに、この種の測定方法を使用して、INRが高い場合、または凝固が弱い場合に凝固時間を決定することができる。この種の状況において、短持続期間のパルスを与えることで、デバイスの凝固イベントの検出感度をより高めることができる。体液サンプルが凝固すると、磁石10が検出室4を横切ることができなくなる。これは、上述したように、ホール効果センサ24により検出される。代替的に、またはこれに加えて、コイルに供給する電力を測定の間変化させるようにしてもよい。
【0163】
電磁コイルに過剰な電力を与えると、計測器によるエネルギの過剰な使用が起こる。これは、バッテリ等の有限の電力を過剰に消費することになり、動作時間を減少させ動作コストを増加させることになる。さらに、振動の間に磁石の位置を検出することで、最小限必要なエネルギのみが動作に与えられればよくなり、バッテリの電力を節約できる。
【0164】
上述の実施例では、磁石10の極性は検出室4の方位に対して既知である。したがって、充填の間、磁石を予め定められた位置に移動させるために検出室に与えなければならない磁場の極性も既知である。変形例では、磁石10の極性の向きは既知でない。したがって、コイル21に予備的な充填信号を与え、磁石10の位置をホール効果センサまたは光センサのいずれかで検出する。磁石が所望の予め定められた位置にある場合、上述のように充填信号が維持される。磁石が所望の予め定められた位置に内場合、充填信号の極性が反対にされ、磁石10の位置が再び検出される。磁石10のいずれかまたは両方が所望の位置にあることを検出器が検出しない場合、エラー信号が生成される。
【0165】
上記実施例において、検出室4内で磁性体10の位置を検出する手段が提供される。変形例では、磁性体10の動きを検出する手段が提供される。動作中に、凝固の障害によってもたらされる体液サンプルの粘性変化のために、センサにより測定される動きが減少する。
【0166】
代わりに、静止した少なくとも一つの光センサを使用して、磁石10の一方または両方の位置を検出してもよい。動作中、検出室4の光伝達特性の変化の頻度の減少は、凝固の障害によってもたらされる体液サンプルの粘性変化を示している。検出室4の予め定められた位置に磁石10があること、または磁石がないことが、光センサにより測定される光信号を決定する。
【0167】
少なくとも一つの光センサの別の配置について説明する。光伝達を検出するために配置される光センサは、各検出室について、入口流路3および通気流路5の両方に設けられてもよい。第1の伝達減少イベント時に、入口流路3において体液が検出され、第2の伝達減少イベント時に、通気流路5において体液が検出される。したがって、検出室に対して一つの光センサを設けることで、体液エントリイベントと検出室充満イベントの両方を検出することができる。
【0168】
コイル21に印加される信号の具体例を、デューティサイクルと周波数に関して上述したが、これらの信号は例示に過ぎないことに注意すべきである。コイルに印加されるパルスのデューティサイクルは、0%より大きくなければならないだけであり、使用されるコイルおよび電源によって決まる。コイル21に与えられる混合信号および測定信号などの振動する信号の周波数は、好ましくは1Hzと50Hzの間である。
【0169】
上記実施例において、各検出室4は試薬11を含む。変形例では、2つの検出室4が設けられ、一方の検出室4のみが試薬11を含み、他方の検出室4は測定プロセスの間、制御器として作用する。
【0170】
上記のケースでは、体液エントリイベントの検出時(時間0と定義してもよい)から凝固時間を測定してもよい。別の方法による時間0の測定は、デバイス1の充填特性を考慮して予め設定された遅延を有するように計測器20をプログラムすることで測定してもよい。
【0171】
代替的に、計測器20は、サンプル体液エントリイベントと検出室充填イベントの両方を検出し、デバイス1について測定された充填特性から定義される予め定められたアルゴリズムにしたがって時間0を算出してもよい。上述のように、固定の3秒間の代わりに、コイル21への充填信号の印加から混合信号の印加への遷移のトリガとして、検出室充填イベントの検出を使用してもよい。
【0172】
さらに、磁石の往復運動の停止を決定するための、ホール効果センサ24からの出力信号の減少例を一例として示した。磁石の往復運動の停止を決定するための代替的な方法も利用可能である。
【0173】
体液サンプルの初期粘性を以下のようにして考慮した、体液サンプルの凝固または凝固特性を決定する方法が提供される。すなわち、凝固の前に、体液サンプル内に位置する磁石の移動の振幅を測定し、続いて、予め定められた振幅の減少を検出することで凝固イベントの発生を決定する。
【図面の簡単な説明】
【0174】
【図1】計測器とともに使用するデバイスの概略図である。
【図2】図1のX−X断面におけるデバイスを示す図である。
【図3】デバイスとともに使用される計測器を示す図である。
【図4】計測器に挿入されるデバイスの断面図である。
【図5】デバイス内に配置される2つの磁石を示す図である。
【図6】計測器のコイルに与える電力の方法を示す図である。
【図7】凝固試験中に2つのホール効果センサのそれぞれから出力される信号を示す図である。
【図8】計測器用の制御回路を示す図である。
【図9】装置の操作方法を示すフローチャートである。
【図10】磁石を移動する方法のフローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体液サンプルの凝固特性を決定する方法であって、少なくとも一つの磁石の振動を引き起こすことを含み、前記振動は、第1の期間にわたる第1周波数範囲内での第1振動と、第2の期間にわたる第1周波数範囲と異なる第2周波数範囲内での第2振動と、を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記第1周波数が前記第2周波数より大きいことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
パルス毎に一定時間増分ずつ、前記第2振動の周期を初期第2周波数から増加させることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
パルス毎の一定時間増分が0.15ミリ秒であることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記第1周波数が5Hzと12Hzの間であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記第1周波数が7Hzと10Hzの間であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記第1周波数が実質的に8Hであることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記第1の期間が2秒と8秒の間であることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記第1の期間が4秒と6秒の間であることを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記第1の期間が実質的に5秒であることを特徴とする請求項1ないし9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記第2周波数が2Hzと6Hzの間であることを特徴とする請求項1ないし10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記第2周波数が3Hzと5Hzの間であることを特徴とする請求項1ないし11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記第2周波数が実質的に4Hzであることを特徴とする請求項1ないし12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
体液サンプル室とその内部で移動可能な磁石とを備えるデバイスにおいて体液サンプルの凝固特性を決定する方法であって、
体液エントリイベントを検出し、
体液エントリイベントの検出時に、第1の期間にわたり前記磁石を予め定められた位置に移動させることを含むことを特徴とする方法。
【請求項15】
第1の期間にわたり前記磁石を予め定められた位置に移動させるステップは、電磁コイルに第1極性の信号を印加することを含むことを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記第1の期間が2秒と6秒の間であることを特徴とする請求項14または15に記載の方法。
【請求項17】
前記第1の期間が2秒と4秒の間であることを特徴とする請求項14または15に記載の方法。
【請求項18】
前記第1の期間が3秒であることを特徴とする請求項14または15に記載の方法。
【請求項19】
前記第1の期間が検出室充満イベントの検出時に終了することを特徴とする請求項14ないし18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
体液サンプル室とその内部で移動可能な磁石とを備えるデバイスにおいて体液サンプルの凝固特性を決定する方法であって、
前記磁石を移動し、
前記磁石の位置を検出し、
前記検出ステップの結果に応じて前記磁石を再び移動させることを含むことを特徴とする方法。
【請求項21】
体液サンプル室とその内部で移動可能な磁石とを備えるデバイスにおいて体液サンプルの凝固特性を決定する方法であって、
前記磁石を移動し、
前記磁石の位置を検出し、
前記磁石の検出位置が所定の範囲内であるか否かを判定し、
前記判定ステップの結果に応じて前記磁石を再び移動させることを含むことを特徴とする方法。
【請求項22】
体液サンプル室とその内部で移動可能な磁石とを備えるデバイスにおいて体液サンプルの凝固特性を決定する方法であって、
前記磁石を移動し、
前記磁石の位置を検出し、
前記磁石の検出位置が2つの好ましい範囲のうち所望の一つの範囲内であるか否かを判定し、
前記磁石が所望の範囲内にない場合、磁石を再び移動し、
前記磁石が所望の範囲内にある場合、磁石を再び移動させる前に予め定められた期間が経過するのを待つことによって、磁石を2つの好ましい範囲の間で振動させることを特徴とする方法。
【請求項23】
体液サンプルの凝固特性を決定する方法であって、
体液サンプル片は、体液サンプルと、その内部で振動するように構成された少なくとも一つの磁石を含み、
前記少なくとも一つの磁石を振動させ、
前記少なくとも一つの磁石の振動を検出し、
前記少なくとも一つの磁石の振動の振幅がしきい値を下回る振幅にまで減少したことを検出すると、凝固イベントと判定することを含み、
前記しきい値は、前記振動の初期期間中に前記少なくとも一つの磁石の振動の振幅を測定し、測定された平均振幅運動の予め定められた割合を前記しきい値と定義することによって決定されることを特徴とする方法。
【請求項24】
前記しきい値は、前記振動の初期期間中に前記少なくとも一つの磁石の振動の振幅の複数回の測定の平均をとり、測定された平均振幅運動の予め定められた割合を前記しきい値と定義することによって決定されることを特徴とする請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記予め定められた割合が50%と90%の間であることを特徴とする請求項23または24に記載の方法。
【請求項26】
前記予め定められた割合が65%と75%の間であることを特徴とする請求項23または24に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2008−525784(P2008−525784A)
【公表日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−547664(P2007−547664)
【出願日】平成17年12月23日(2005.12.23)
【国際出願番号】PCT/GB2005/005076
【国際公開番号】WO2006/067504
【国際公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【出願人】(302044591)インバーネス・メデイカル・スウイツツアーランド・ゲゼルシヤフト・ミツト・ベシユレンクテル・ハフツング (38)
【Fターム(参考)】