説明

低温ナチュラルチーズおよびその製造方法

【課題】 原料乳にクリーム等を加える必要がなく、粘度の極めて低いクリームタイプの低温ナチュラルチーズを提供する。
【解決手段】 加熱殺菌した原料乳に4〜13℃でスターターとレンネットとを加えて生成したカードを分離してなる低温ナチュラルチーズであって、粘度が0.34〜1.06Pa・sである低温ナチュラルチーズ、および加熱殺菌した原料乳を4〜13℃まで冷却する冷却工程と、4〜13℃でpHを弱酸性に調整するpH調整工程と、4〜13℃を活動温度範囲とする乳酸菌を含んでなるスターターとレンネットとを4〜13℃で加えてカードを生成させるカード生成工程と、生成したカードを4〜13℃で分離するカード分離工程とを有する、低温ナチュラルチーズの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規の低温ナチュラルチーズおよびその製造方法に関し、特に、その粘度が極めて低い、低温ナチュラルチーズおよび低温で活動する乳酸菌を用いて低温条件下でこれを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、チーズはナチュラルチーズとプロセスチーズとに大別されている。ナチュラルチーズは、一般的に、殺菌処理した原料乳を中温に冷却し、乳酸菌等を含む微生物の集団であり発酵の開始のために用いるスターターを接種して所定の酸度に調整した後、凝乳酵素を含む製剤であり原料乳を凝固させるために用いるレンネットを加えて均一に混合し、静置してカード(凝乳)を形成させ、ホエー(乳清)を排除しカードを密にすることにより製造されており、さらに熟成されるものもある。一方、プロセスチーズは、ナチュラルチーズをいったん溶解した後、密封包装し、あるいは乾燥させることにより製造される。
【0003】
すなわち、ナチュラルチーズは自然のままのチーズといえ、カード形成後の工程の違いによって種々のものを製造することができる。それ故、種々の繊細な風味と個性ある味わいを楽しむことができることから、近年、嗜好の多様化に伴い、ナチュラルチーズの消費量が増加し、ナチュラルチーズの需要が高まっている。
【0004】
ナチュラルチーズには、エメンタール、エダム、パルミジャーノ・レッジャーノ、コンテ、グリュイエール、チェダーおよびミモレット等に代表される、水分含量が38%以下であるハードタイプ、ゴーダ、マンゼルバベット、ルブロション、ショーム、サムソーおよびマリボー等に代表される、水分含量が38〜46%であるセミハードタイプ、ヴァランセ、プリニー・サン・ピエール、クロタン・ドゥ・シャヴィニョル、サントゥモールおよびピラミッド等に代表される、原料乳が山羊乳であるシェブール、リヴァロ、ラミ・デュ・シャンベルタン、タレッジオ、マンステル、ポン・レヴェックおよびエポワース等に代表される、外皮を塩水や酒等で洗いながら熟成させたウォッシュタイプ、ババリアブルー、ブルーデコース、ゴルゴンゾーラ、ロックフォール、スチルトンおよびカンボゾラ等に代表される、カードに青カビを混入し成型してなる青カビタイプ、サン・タンドレ、カマンベール、ブリヤ・サヴァラン、ブリー・ドゥ・モー、クロミエ、ヌーシャテルおよびバラカ等に代表される、白カビを表面に繁殖させて熟成させてなる白カビタイプ、あるいはモッツァレラ、カッテージチーズ、クリームチーズ、リコッタ、マスカルポーネおよびフロマージュ・ブラン等に代表される、非熟成で軟質のフレッシュタイプ等がある。
【0005】
このうち、軟質チーズであるフレッシュタイプのナチュラルチーズ(フレッシュチーズ)、中でもクリームチーズは粘度が小さく、食材として広く応用されている。クリームチーズの基本的な製造方法は次のとおりである。まず、甘味を有する牛乳または脱脂乳に対して、全体の脂肪含有量が10〜16%となるように甘味を有するクリーム等を混合し、これを低温殺菌し、均質化し、かつ17〜33℃まで冷却する。次いで、それに乳酸菌を接種し、十分酸性になって乳漿から凝乳が分離するまで培養し、乳漿から凝乳を分離してなる。このときの凝固プロセスは、少量の凝乳剤を追加することによって任意選択で促進することができる。さらに、例えば遠心分離により乳漿から凝乳を分離した後 、安定剤、塩および他の成分を加える。このようにして製造されたクリームチーズは、現在の同一性の基準下、少なくとも33%の脂肪および55%以下の水分を含むことが必要とされている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−270106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示されたクリームチーズは、脂肪含量が33%以上となるよう、原料乳にクリーム等を混合して製造されているが、牛乳本来の風味を担保するためには、原料乳にクリーム等を混合せずに製造できることが好ましいといえる。
【0008】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであって、原料乳にクリーム等を加える必要がなく、粘度の極めて低いクリームタイプの低温ナチュラルチーズを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、鋭意検討を行った結果、低温条件下、低温で活動する乳酸菌を用いて、原料乳にクリーム等を加える必要なく、粘度の極めて低いクリームタイプのナチュラルチーズを製造することができることを見出し、本発明に至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] 加熱殺菌した原料乳に4〜13℃でスターターとレンネットとを加えて生成したカードを分離してなる低温ナチュラルチーズであって、粘度が0.34〜1.06Pa・sである低温ナチュラルチーズ。
[2] 以下の(a)、(b)および(c)の少なくともいずれかである、[1]に記載の低温ナチュラルチーズ:
(a)脂質含量が19.4〜32.5w/w%である;
(b)水分含量が57〜65w/w%である;
(c)ブタンジオール含量が97〜573mg/kgである。
[3] 前記スターターが4〜13℃を活動温度範囲とする乳酸菌を含んでなる、[1]または[2]に記載の低温ナチュラルチーズ。
[4] 前記乳酸菌が、Lactococcus raffinolactis、Lactococcus lactis、Lactobacillus fuchuensis、Leuconostoc mesenteroides、Leuconostoc citreum、Leuconostoc gelidum、Weissella soliからなる群から選択される1または2以上の乳酸菌である、[3]に記載の低温ナチュラルチーズ。
[5] 前記乳酸菌が、Lactococcus raffinolactisである、[3]に記載の低温ナチュラルチーズ。
[6] 前記原料乳がpHを弱酸性に調整された原料乳である、[1]から[5]のいずれかに記載の低温ナチュラルチーズ。
[7] 前記カードの分離後に4〜13℃で熟成してなる、[1]から[6]のいずれかに記載の低温ナチュラルチーズ。
[8] 加熱殺菌した原料乳を4〜13℃まで冷却する冷却工程と、4〜13℃でpHを弱酸性に調整するpH調整工程と、4〜13℃を活動温度範囲とする乳酸菌を含んでなるスターターとレンネットとを4〜13℃で加えてカードを生成させるカード生成工程と、生成したカードを4〜13℃で分離するカード分離工程とを有する、低温ナチュラルチーズの製造方法。
[9] 前記乳酸菌が、Lactococcus raffinolactis、Lactococcus lactis、Lactobacillus fuchuensis、Leuconostoc mesenteroides、Leuconostoc citreum、Leuconostoc gelidum、Weissella soliからなる群から選択される、[8]に記載の低温ナチュラルチーズの製造方法。
[10] 前記乳酸菌が、Lactococcus raffinolactisである、[8]に記載の低温ナチュラルチーズの製造方法。
[11] 前記カード分離工程の後に4〜13℃で熟成させる熟成工程を含む、[8]から[10]のいずれかに記載の低温ナチュラルチーズの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、低温条件下、低温で活動する乳酸菌を用いて、原料乳にクリーム等を加える必要なく、粘度の極めて低いクリームタイプの低温ナチュラルチーズを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明における分離容器の構造を示す断面図である。
【図2】本発明における低温ナチュラルチーズのレンネット添加までの製造工程および通常のナチュラルチーズの製造工程を、環境温度変化とともに時系列で示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る低温ナチュラルチーズおよびその製造方法について詳細に説明する。本発明に係る低温ナチュラルチーズは、加熱殺菌した原料乳に4〜13℃でスターターとレンネットとを加えて生成したカードを分離してなり、かつ粘度が0.34〜1.06Pa・sである。
【0014】
本発明において使用可能な原料乳としては、例えば、通常のチーズ製造に用いられる牛乳、水牛乳、羊乳、山羊乳等を挙げることができ、生乳であるか、成分調整乳であるか、あるいは加工乳であるかを問わないが、本実施例においては、牛乳を好適な原料乳として用いている。そのため、牛乳本来の風味を担保することができる。
【0015】
また、原料乳として加工乳を用いる場合は、本発明に係る低温ナチュラルチーズが製造可能な範囲および乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(昭和26年12月27日厚生省令第52号;以下、「乳等省令」という。)に定められた範囲で副原料を乳に添加し、加工乳として用いることができる。そのような副原料としては、例えば、クリーム、練乳、脱脂粉乳、全脂粉乳、トータルミルクプロテイン、乳清たん白、カゼインナトリウム、カゼインカルシウム等の乳由来の1または2以上の副原料や、野菜、砂糖、甘味料、寒天、香料等の1または2以上の副原料を挙げることができるが、上述のとおり、本実施例においては、風味を担保する観点から、加工乳ではない牛乳を好適な原料乳として用いている。
【0016】
原料乳を加熱殺菌する方法としては、当業者により適宜選択可能であって乳等省令に従う方法を用いることができる。そのような加熱殺菌方法としては、62〜65℃で少なくとも30分保持する低温保持殺菌法(LTLT法)、72〜78℃で15秒以上保持する高温短時間殺菌法(HTST法)、120〜150℃で1〜5秒保持する超高温加熱処理法(UHT法)等を挙げることができる。本実施例においては、LTLT法およびHTST法を好適な加熱殺菌する方法として用いている。
【0017】
本発明において、例えば乳酸菌の活性を高める等を目的として、原料乳を加熱殺菌後、低温条件下で弱酸性にpH調整して用いることができる。この場合のpH調整剤は特に限定されず、当業者によって適宜選択することができるが、例えば原料乳として牛乳を用いる場合、牛乳のpHが6.6〜6.8であることから、クエン酸や乳酸等、あるいはこれらの塩を用いることができる。本実施例においては、乳酸を好適なpH調整剤として用いている。
【0018】
なお、本発明において「低温」とは、4〜13℃が好ましく、7〜10℃がより好ましい。また、「弱酸性」とは、好ましくはpHが5.5〜6.5であり、より好ましくはpHが5.8〜6.3である。
【0019】
また、レンネット添加後の凝固の速度やカードの固さによっては、所望により、塩化マグネシウム、炭酸ナトリウム、硫酸カルシウム、塩化カルシウム等の凝固剤を添加することができ、その添加量は、当業者による通常の手法によって適宜選択することができる。本実施例においては、塩化カルシウムを好適な凝固剤として用いている。
【0020】
本発明に係る低温ナチュラルチーズは、原料乳を加熱殺菌した後、4〜13℃に冷却し、スターターないしレンネットの添加、カード(凝乳)の生成、カード(凝乳)とホエー(乳清)との分離まで、この4〜13℃の低温度帯にて行う。こうして、0.34〜1.06Pa・Sという極めて低粘度のナチュラルチーズを得ることができる。
【0021】
なお、本発明に係る低温ナチュラルチーズを用いて各種のプロセスチーズを製造することができる。例えば、必要に応じて溶融塩、バターなどを添加して、常法によりクリームチーズを得ることができる。このプロセスチーズは、本発明に係る低温ナチュラルチーズを用いて、あるいはこれに他のナチュラルチーズの少なくとも1種を配合して製造することができる。
【0022】
本発明に係る低温ナチュラルチーズの粘度を測定する方法や測定計器は、当業者が適宜選択することができるものであればよい。そのような粘度計としては、例えば、細管式粘度計、落球式粘度計、回転式粘度計、レオメーター、振動式粘度計等を挙げることができる。本実施例においては、音叉型振動式粘度計を粘度の測定に用いている。
【0023】
本発明に係る低温ナチュラルチーズの脂質含量を測定する方法や測定計器は、当業者が適宜選択することができるものを用いることができるが、例えば、ガスクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、Bligh & Dyer法、Bragdon法、ソックスレー脂肪抽出法等を用いることができる。本実施例においては、ソックスレー脂肪抽出法を脂質含量の測定に用いている。
【0024】
本発明に係る低温ナチュラルチーズの水分含量を測定する方法や測定計器は、当業者が適宜選択することができるものを用いることができる。そのような水分含量を測定する方法としては、例えば、加熱乾燥法、蒸留法、吸収法、電気水分計法、近赤外分光法、中性子水分計およびカールフィッシャー法を挙げることができる。本実施例においては、加熱乾燥法を採用するハロゲン水分計を水分含量の測定に用いている。
【0025】
本発明に係る低温ナチュラルチーズのアセトインやブタンジオール等の芳香成分の含量を測定する方法や測定計器は、当業者が適宜選択することができるものを用いることができるが、一般には、ヘッドスペースガスクロマトグラフ法が用いられており、本実施例においても同様である。
【0026】
本発明に係る低温ナチュラルチーズの酸度を測定する方法として、乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(昭和26年12月27日厚生省令第52号)に規定する中和滴定法が用いられるが、中和滴定法は特に限定されず、例えば、定量式中和滴定法や電量式中和滴定法等を挙げることができる。本実施例においては定量式中和滴定法を用いている。
【0027】
本発明に係る低温ナチュラルチーズの乳酸菌数を測定する方法や測定計器は、当業者が適宜選択することができるものを用いることができる。例えば、菌数測定用選択培地や菌数測定用プレート、菌数測定装置等を単独で、あるいは組み合わせて用いることができる。本実施例においては、乳酸菌実験マニュアル(小崎ら、1992)に従い、乳酸菌分離用培地であるGYP白亜寒天培地を用いて乳酸菌数の測定を行っている。
【0028】
本発明に係る低温ナチュラルチーズの各種含有アミノ酸量を測定する方法や測定機器は、当業者が適宜選択することができるものを用いることができる。例えば、エドマン法、酵素蛍光法、高速液体クロマトグラフィー、各種質量分析法、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法、タンパク質加水分解物標準分析法等を挙げることができる。本実施例においては、タンパク質加水分解物標準分析法を採用した高速アミノ酸分析計を用いている。
【0029】
本発明で用いることができるスターターとしては、市販の乳酸菌(例えばCHN−11;クリスチャンハンセン社)の他、低温度帯を活動範囲とする乳酸菌(以下、「低温活動乳酸菌」という。)を単離し、単独もしくは、例えば市販等の他の乳酸菌とともに用いることができる。本発明における低温活動乳酸菌は、土壌、河川、発酵乳等の環境試料から、乳酸菌分離用培地であるGYP白亜寒天培地を用いて継代培養することにより単離している。
【0030】
一般に、細菌を分類同定する方法としては、16S rRNA遺伝子の塩基配列に基づく系統分類により得られるグループ(クラスター)を指標として、細菌の分類・識別が行われている。すなわち、単離した乳酸菌の同定は、16S rRNA遺伝子の配列を解析し、当業者に周知のアルゴリズムまたはプログラムを用いて、公知のデータベースにて相同性検索を行うことにより同定することができる。
【0031】
ゲノムDNAの抽出および精製、DNAの塩基配列決定、プライマーの設計および合成等の分子生物学的実験法や生化学的実験法は、基本的には、通常の実験書の記載に従って行うことができる。そのような実験書として、例えば、Sambrook et al.,Molecular Cloning, A laboratory manual,2001,Eds.,Sambrook,J.&Russell,DW. Cold Spring Harbor Laboratory Press等を挙げることができる。
【0032】
こうして同定される乳酸菌は、ラクトコッカス属(Lactococcus)、ラクトバシラス属(Lactobacillus)、ロイコノストック属(Leuconostoc)、ウィッセラ属(Weissella)、バシラス属(Bacillus)、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)、エンテロコッカス属(Enterococcus)、ペディオコッカス属(Pediococcus)、カルノバクテリウム属、ストレプトコッカス属に属していると考えられる。なお、本実施例においては、Lactococcus raffinolactis、Lactococcus lactis、Lactobacillus fuchuensis、Leuconostoc mesenteroides、Leuconostoc citreum、Leuconostoc gelidum、Weissella soliが同定されている。
【0033】
なお、本発明においては、市販の、公的機関等に寄託または公的データベースに登録された公知の微生物のみならず、秘匿された、あるいは新たに単離された微生物が用いられてもよく、さらに、二種類以上の微生物が用いられてもよい。
【0034】
次に、本発明に係る低温ナチュラルチーズの製造方法は、主として、
(i)加熱殺菌した原料乳を4〜13℃まで冷却する冷却工程
(ii)4〜13℃でpHを弱酸性に調整するpH調整工程
(iii)4〜13℃を活動温度範囲とする乳酸菌を含んでなるスターターとレンネットとを4〜13℃で加えてカードを生成させるカード生成工程
(iv)生成したカードを4〜13℃で分離するカード分離工程
以上(i)〜(iv)の工程を有している。
【0035】
市販のナチュラルチーズの製造方法では、加熱殺菌した原料乳を30℃前後に冷却して、この温度を保持しつつ、この温度帯で活動する乳酸菌を含むスターターとレンネットとを連続して添加し、一旦40〜60℃に加温してカードとホエーとを分離させる方法が一般的であるが、本発明に係る低温ナチュラルチーズの製造方法では、加熱殺菌した原料乳を4〜13℃まで冷却し、この温度を保持しつつ、4〜13℃でpHを弱酸性に調整し、4〜13℃を活動温度範囲とする乳酸菌を含んでなるスターターを加え、さらにレンネットを添加し、4〜13℃でカードとホエーとを分離させる点に特徴がある。
【0036】
また、本発明に係る低温ナチュラルチーズの製造方法は、
(v)カード分離工程の後に4〜13℃で熟成させる熟成工程
を含んでもよく、さらに、所望により、原料乳処理、各種濾過、pH調整、濃縮、乾燥等の任意の工程を追加することができる。
【0037】
以下、本発明に係るナチュラルチーズおよびその製造方法について、実施例に基づいて説明する。なお、本発明の技術的範囲は、これらの実施例によって示される特徴に限定されない。
【実施例】
【0038】
<実施例1>ナチュラルチーズ製造のための菌株の同定
本発明者等は、以下の方法で低温度帯を活動温度範囲とする乳酸菌を単離し、複数の菌株を同定した。
【0039】
(1)菌株の単離
幌延町の土壌、河川、発酵乳等の環境試料を、薬さじまたは遠沈チューブを用いて採取し、滅菌水で10倍希釈した。これを段階的に6回繰り返し、各段階の希釈液を得た。これら希釈液10μLを、各々、コンラージ棒を用いて乳酸菌分離用寒天培地であるGYP白亜寒天培地に塗布し、4℃で培養を行った。培養後、このGYP白亜寒天培地に形成された透明帯から釣菌し、単離を行った。
【0040】
なお、本実施例で用いたGYP白亜寒天培地の組成は、以下のとおりである。
【0041】
(GYP白亜寒天培地の組成)培地1L中
組成(1);
グルコース 10g
酵母エキス 10g
ペプトン 5g
肉エキス 2g
酢酸ナトリウム三水和物 2g
塩類溶液 5mL
Tween80溶液 10mL
蒸留水 1L
組成(2);
炭酸カルシウム 5g
寒天 12g
【0042】
GYP白亜寒天培地は、乳酸菌実験マニュアルに従って調製した(小崎ら、1992)。すなわち、上記組成(1)をpH6.8に調整後、組成(2)と混合することにより調製した。なお、組成(1)の塩類溶液1mL中には、硫酸マグネシウム七水和物40mg、硫酸マンガン四水和物2mg、硫酸鉄七水和物2mgおよび塩化ナトリウム2mgが含まれ、Tween80水溶液は、50mg/mLに調製して用いた。また、組成(2)の炭酸カルシウムは、乾熱滅菌器(三洋電機メディカシステム社)を用いて180℃で30分乾燥滅菌したものを用いた。
【0043】
(2)低温度帯を活動温度範囲とする乳酸菌の同定
本実施例1(1)で単離した乳酸菌からゲノムDNAの抽出を行った。すなわち、培地よりコロニーを分離し、UltraCleanTM Microbial DNA Extraction Kit(Mo Bio社)を用いてゲノムDNAを抽出した。得られたゲノムDNAを鋳形としてPCR法により16S rDNAの塩基配列約1500bpを増幅した。
【0044】
PCRは、サーマルサイクラーGeneAmp PCR System 9700(Applied Biosystems社)と、反応試薬であるTaKaRa Ex Taq(R)(タカラバイオ社)とを用いて、Applied Biosystems社のプロトコルに従って行った。PCRのためのプライマーとして、公知のプライマーである下記一対のプライマー27Fとプライマー1492Rとを用いて、下記のPCR条件にて行った。
【0045】
16S rDNA増幅用プライマー
27F ;5’−agagtttgatcctggctcag−3’(配列番号1)
1492R;5’−ggttccttgttacgactt−3’(配列番号2)
<PCR条件>
PCRサイクル:
デナチュレーション過程 :96℃,30秒
アニーリング過程 :58℃,25秒
エクステンション過程 :72℃,25秒
以上を1サイクルとし、27サイクル行った。
【0046】
PCR産物はQIAquick PCR Purification Kit(QIAGEN社)を用いて精製した。シークエンス反応はサーマルサイクラーGeneAmp PCR System 9700(Applied Biosystems社)と、反応試薬であるBigDye Terminator Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems社)とを用いて、Applied Biosystems社のプロトコルに従って行った。シークエンス反応のためのプライマーとして、上記16s rDNA増幅用プライマーに加えて、さらに公知のプライマーである下記のプライマー530Fとプライマー800Rとを用いて、下記のPCR条件にて行った。
【0047】
シーケンス反応用プライマー
27F ;5’−agagtttgatcctggctcag−3’(配列番号1)
1492R;5’−ggttccttgttacgactt−3’(配列番号2)
530F;5’−gtgccagcmgccgcgg−3’(配列番号3)
800R;5’−taccagggtatctaatcc−3’(配列番号4)
<PCR条件>
PCRサイクル:
デナチュレーション過程 :96℃,10秒
アニーリング過程 :50℃,5秒
エクステンション過程 :60℃,240秒
以上を1サイクルとし、25サイクル行った。
【0048】
DNAシークエンスの解析にはDNAシーケンサーABI3730XL(Applied Biosystems社)を用いて塩基配列を決定した。決定した16S rDNAの塩基配列(配列番号5〜13)について、BLAST Homology Search(Altsuchul et al.1997)を用いて日本DNAデータバンク(DDBJ)における相同性検索を行った。相同性検索の結果、低温度帯を活動温度範囲とする乳酸菌としてA〜Iの菌株を同定した。これらを表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
<実施例2>低温度帯でナチュラルチーズの製造が可能な菌株の選択
実施例1(1)で同定した乳酸菌A〜Iおよびこれらを組み合わせから、実際に低温度帯でナチュラルチーズを製造することができるものを選択した。具体的な方法は以下の通りである。
【0051】
まず、牛乳を原料乳として高温短時間殺菌法(HTST法)により72〜78℃で15秒間、あるいは低温殺菌法(LTLT法)により62〜65℃で30分間加熱することにより殺菌処理をした後、原料乳を4℃に急冷却し、乳酸を加えて初期pHを6.0に調整した。
【0052】
次に、実施例1(1)で同定した乳酸菌A〜Iをスキムミルク培地(10% skim milk)ごと、10000rpm,4℃にて15分間、遠心分離器(コクサン社)を用いて遠心分離を行い、沈渣を回収して凍結乾燥したもの、またはこれらを組み合わせたものをスターターとして、pH調整後の原料乳に対して1〜3%量となるように添加し、マグネティックスターラー(アズワン社)を用いて均一に分散するよう充分に攪拌した後、4℃または10℃で72時間静置させた。続いて、この原料乳に対して0.01%の塩化カルシウムを添加した後、レンネット(Fromase(R)−DSM FOOD Specialties;DSM社)を原料乳に対して約0.003%となるように添加し、マグネティックスターラー(アズワン社)短時間でよく撹拌した。レンネットは、一度沸騰させて4℃に冷却した水に溶解させて濾過したものを使用した。原料乳にレンネットを添加した後、速やかに動揺を抑え、4℃または10℃で6時間ないし8時間静置した。
【0053】
上記の方法によってカードが生成した場合には、図1に示す分離容器1に生成したカードを含む原料乳ごと流し込んだ。分離容器1は、バット3と脚4で連接されたステンレス篩2の内部をチーズクロス5で被覆されてなり、あらかじめオートクレーブにて滅菌されている。原料乳を流し込んだ分離容器1を、4℃または10℃に保ったクリーンブース内またはクリーンベンチ内に置き、無菌条件下で約6時間静置することによりカードとホエーとの分離を行った。すなわち、静置した間、自重によりチーズクロス5から滲出したホエーがステンレス篩2の隙間からバット3に落ち、これによりステンレス篩2を被覆するチーズクロス5の上にカードのみが残るため、カードとホエーとを分離することができる。
【0054】
上記のようにして、ホエーを分離させてカードを密にすることによりナチュラルチーズ(特にこの段階のものはフレッシュチーズと呼ばれている)を得ることができた。本実施例2におけるナチュラルチーズのレンネット添加までの製造工程および通常のナチュラルチーズの製造工程を、環境温度変化とともに時系列で図2に示し、ナチュラルチーズの製造の可否を表2および表3に示す。
【0055】
【表2】

【0056】
【表3】

【0057】
図2において、本実施例2におけるナチュラルチーズのレンネット添加までの製造工程を実線で示し、一般のナチュラルチーズの製造工程を破線で示している。また、本実施例2におけるナチュラルチーズのレンネット添加までの主な工程として、加熱殺菌(図中1)、原料乳のpH調整(図中2)、スターター添加(図中3)およびレンネット添加(図中4)の時間を、一般のナチュラルチーズ製造の主な工程として、加熱殺菌(図中1)、スターター添加(図中3)およびレンネット添加(図中4)の時間を示している。図2に示すように、本実施例2におけるナチュラルチーズのレンネット添加までの製造工程では、通常のナチュラルチーズの製造工程と比較して、低温度下での製造工程であること、原料乳のpH調整が行われていること、およびレンネットを添加する時間が遅いことが分かる。
【0058】
一方、表2および表3に示すように、実施例1(1)で同定した乳酸菌A〜Iはいずれも低温度帯でナチュラルチーズの製造が可能であることが確認され、特に乳酸菌A(Lactococcus raffinolactis)またはこれとの組み合わせが好適であることが確認された。以下、この低温度帯で製造されるナチュラルチーズを、「低温ナチュラルチーズ」という。
【0059】
<実施例3>低温ナチュラルチーズの具体的な製造温度の検討
(1)乳酸菌Aを用いて低温ナチュラルチーズを製造した場合の検討
スターターとして実施例1(1)で同定した乳酸菌A(Lactococcus raffinolactis)を用い、初期pHを5.5〜6.5とした場合の低温ナチュラルチーズの製造温度を検討した。具体的には、幌延町の酪農家から入手した加熱殺菌後の牛乳を原料乳とし、かつpH5.5〜6.5を牛乳の初期pHとして、ナチュラルチーズの製造温度を各々0,2,3,4,7,10,13および15℃とした場合の検討を行った。
【0060】
原料乳を冷却してpHを測定したところ、pH6.6〜6.8であった。これに乳酸を加えることにより0.1間隔でpH5.5〜6.5に調整し、初期pHとした。実施例1(1)で同定した乳酸菌Aをスキムミルク培地(10% skim milk)ごと、10000rpm,4℃にて15分間、遠心分離器(コクサン社)を用いて遠心分離を行い、沈渣を回収して凍結乾燥したものをスターターとして、pH調整後の原料乳に対して1〜3%量となるように添加し、マグネティックスターラー(アズワン社)を用いて均一に分散するよう充分に撹拌した後、各々、0,2,3,4,7,10,13および15℃で72時間静置させた。続いて、この原料乳に対して0.01%の塩化カルシウムを添加した後、レンネット(Fromase(R)−DSM FOOD Specialties;DSM社)を原料乳に対して約0.003%となるように添加し、マグネティックスターラー(アズワン社)を用いて短時間でよく撹拌した。レンネットは、一度沸騰させて4℃に冷却した水に溶解させて濾過したものを使用した。原料乳にレンネットを添加した後、速やかに動揺を抑え、各々、同温度で6時間ないし8時間静置した。
【0061】
上記の方法によってカードが生成した場合には、実施例2と同様にして、図1に示す分離容器1を用いて分離して密にすることにより低温ナチュラルチーズを得た。得られたナチュラルチーズは各々、同温度で7日間保存した。一方、カードが生成しない場合でも、そのまま同温度で原料乳を7日間保存した。
【0062】
(2)市販の乳酸菌を用いて低温ナチュラルチーズを製造した場合の検討
比較例として、市販の乳酸菌であるCHN−11(クリスチャンハンセン社)を用いて、初期pHを6.0とした場合の低温ナチュラルチーズの製造温度の検討を行った。具体的には、市販の乳酸菌であるCHN−11(クリスチャンハンセン社)を用いて、初期pHを6.0とし、かつ製造温度を7℃および10℃とした他は、本実施例3(1)と同様の手法で行った。
【0063】
(3)pHの測定
本実施例3(1)および(2)で得られた低温ナチュラルチーズまたは原料乳のpHを、pH測定器(ティアンドデイ社)を用いて測定した。その結果を表4に示す。
【0064】
【表4】

【0065】
通常、スターターとして用いた乳酸菌が活動して乳酸発酵がされていれば、製造したナチュラルチーズのpHは、産生した乳酸によって初期pHと比較して低下する。表4に示すように、製造温度を0,2および3℃とした場合はpHが低下せず、その結果、ナチュラルチーズは製造されなかった。これは、製造温度を0,2および3℃とした場合、乳酸が産生されないと考えられる。そこで、以降の検討においては、製造温度を4℃以上とした。また、スターターとして実施例1(1)で同定した乳酸菌Aを用いた場合と、市販の乳酸菌であるCHN−11(クリスチャンハンセン社)を用いた場合との低温ナチュラルチーズのpHを、同じ初期pHおよび同じ製造温度で比較した場合、ほとんど同値であることが確認された。
【0066】
(4)糞便性大腸菌群検査(EC試験)
本実施例3(1)において、製造温度を4,7,10,13および15℃として製造した低温ナチュラルチーズについて、食品衛生検査指針微生物編1990年に従って糞便性大腸菌群検査(EC試験)を行った。具体的な方法は以下の通りである。前記各々の低温ナチュラルチーズ1gずつを滅菌生理食塩水100mLにそれぞれ懸濁し、よく攪拌した後、1mLずつを分注して10倍希釈を繰り返し、合計6段階の希釈液を各々調製した。オートクレーブ滅菌を行ったEC培地3mLに、これら6段階の希釈液を0.1mLずつ加え、37℃で24〜48時間、培養を行った。本実施例で用いたEC培地の組成は、以下のとおりである。
【0067】
(EC培地の組成)培地1L中
ペプトン 20.0g
ラクトース 5.0g
胆汁酸塩 1.5g
リン酸水素二カリウム 4.0g
リン酸二水素カリウム 4.5g
塩化ナトリウム 5.0g
【0068】
EC培地は、食品衛生検査指針微生物編1990年に従って調製し、pH6.9に調整して用いた。培養後、EC培地に発酵管であるダーラム管を入れ、ダーラム管にガスが産生されているものを大腸菌群陽性とした。また、実施例3(2)で比較例として製造した、市販の乳酸菌を用いた低温ナチュラルチーズについても検査を行った。その結果を表5に示す。
【0069】
【表5】

【0070】
表5に示すように、製造温度が13℃であって初期pHが6.1〜6.5の場合の低温ナチュラルチーズおよび製造温度が15℃の場合の低温ナチュラルチーズからは大腸菌群が検出された。そこで、製造温度を13℃以下とすることとした。以上より、低温ナチュラルチーズの製造温度は4〜13℃とすることが好適であることが確認された。また、市販の乳酸菌であるCHN−11(クリスチャンハンセン社)を用いて、初期pHを6.0、製造温度を7℃および10℃として製造した低温ナチュラルチーズは、大腸菌陰性であることが確認された。
【0071】
<実施例4>低温ナチュラルチーズについての各種検討
実施例3の結果に基づき、製造温度を4〜13℃とした低温ナチュラルチーズについて、粘度(Pa・S)、脂質含量(w/w%)、水分含量(w/w%)、芳香成分であるアセトインならびにブタンジオールの含量(いずれもmg/kg)、酸度(w/w%)、乳酸菌数(cfu/mL)、各種含有アミノ酸量(mg/100g)の測定および味の検討を行った。
【0072】
(1)乳酸菌Aを用いた低温ナチュラルチーズの製造
製造温度を、各々、4,7,10および13℃とした他は、実施例3(1)と同様の手法で、スターターとして実施例1(1)で同定した乳酸菌A(Lactococcus raffinolactis)を用いて低温ナチュラルチーズを製造し、実施例3(1)と同様に7日間保存した後、各種検討に供した。
【0073】
(2)市販の乳酸菌を用いた低温ナチュラルチーズの製造および市販のクリームチーズの準備
実施例3(2)と同様の手法で、市販の乳酸菌であるCHN−11(クリスチャンハンセン社)を用いて低温ナチュラルチーズを製造し、比較例として各種検討に供した。また、市販のクリームチーズA(クラフトフィラデルフィアチーズ;森永乳業社)およびクリームチーズB(雪印クリームチーズ;雪印乳業社)を準備し、pHを測定した後、同様に比較例として各種検討に供した。なお、市販のクリームチーズAとクリームチーズBとのpHは、いずれもpH5.5であった。
【0074】
(3)粘度(Pa・S)の測定
本実施例4(1)で製造した各々の低温ナチュラルチーズおよび比較例として本実施例4(2)で製造ないし準備した各々のチーズについて、20℃条件下、音叉型振動式粘度計(SV−10A;エー・アンド・デイ社)を用いて粘度を測定した。なお、本実施例4(1)の低温ナチュラルチーズについては、実施例3(4)において大腸菌群陰性のものについてのみ測定した。その結果を表6に示す。
【0075】
【表6】

【0076】
表6に示すように、本実施例4(1)で製造した低温ナチュラルチーズおよび比較例として本実施例4(2)で製造した低温ナチュラルチーズの粘度は0.34〜1.06Pa・Sであり、本実施例4(2)で準備した市販のクリームチーズAおよびクリームチーズBの粘度よりも極めて低値であることが確認された。また、本実施例4(1)で製造した低温ナチュラルチーズと、比較例として本実施例4(2)で製造した低温ナチュラルチーズとの粘度を、初期pH6.0および製造温度7℃ないし10℃で比較した場合、本実施例4(1)で製造した低温ナチュラルチーズの粘度が0.58および0.67Pa・Sであるのに対し、本実施例4(2)で製造した低温ナチュラルチーズの粘度は0.90および1.00Pa・Sであることから、本実施例4(1)で製造した低温ナチュラルチーズの方がより低値であることが確認された。
【0077】
(4)脂質含量(w/w%)の測定
本実施例4(1)で製造した各々の低温ナチュラルチーズおよび比較例として本実施例4(2)で製造ないし準備した各々のチーズについての脂質含量を測定した。脂質含量の測定は財団法人日本冷凍食品検査協会(JFFIC)札幌検査所に依頼し、ソックスレー脂肪抽出法にて行われた。なお、本実施例4(1)の低温ナチュラルチーズについては、実施例3(4)において大腸菌群陰性のものについてのみ測定した。その結果を表7に示す。
【0078】
【表7】

【0079】
表7に示すように、本実施例4(1)で製造した低温ナチュラルチーズおよび比較例として本実施例4(2)で製造した低温ナチュラルチーズの脂質含量は19.4〜32.5w/w%であり、本実施例4(2)で準備した市販のクリームチーズAおよびクリームチーズBの脂質含量よりも低値であることが確認された。また、本実施例4(1)で製造した低温ナチュラルチーズと、比較例として本実施例4(2)で製造した低温ナチュラルチーズとの脂質含量を、初期pH6.0および製造温度7℃ないし10℃で比較した場合、本実施例4(1)で製造した低温ナチュラルチーズの脂質含量が23.4および21.7w/w%であるのに対し、本実施例4(2)で製造した低温ナチュラルチーズの脂質含量は28.4および20.4w/w%であることから、ほぼ同値であることが確認された。
【0080】
(5)水分含量(w/w%)の測定
本実施例4(1)で製造した各々の低温ナチュラルチーズおよび比較例として本実施例4(2)で製造ないし準備した各々のチーズについての水分含量を測定した。水分含量の測定はハロゲン水分計(OHAUS社)を用いて行った。その結果を表8に示す。
【0081】
【表8】

【0082】
表8に示すように、本実施例4(1)で製造した低温ナチュラルチーズおよび比較例として本実施例4(2)で製造した低温ナチュラルチーズの水分含量は57〜68w/w%であり、本実施例4(2)で準備した市販のクリームチーズAおよびクリームチーズBの水分含量よりも高値であることが確認された。なお、本実施例4(1)で製造した低温ナチュラルチーズの水分含量は57〜65w/w%であった。また、本実施例4(1)で製造した低温ナチュラルチーズと、比較例として本実施例4(2)で製造した低温ナチュラルチーズとの水分含量を、初期pH6.0および製造温度7℃ないし10℃で比較した場合、本実施例4(1)で製造した低温ナチュラルチーズの水分含量がいずれも62w/w%であるのに対し、本実施例4(2)で製造した低温ナチュラルチーズの水分含量は64および68w/w%であることから、本実施例4(1)で製造した低温ナチュラルチーズの方が若干低値であることが確認された。
【0083】
(6)アセトイン含量(mg/kg)およびブタンジオール含量(mg/kg)の測定
本実施例4(1)で製造した各々の低温ナチュラルチーズおよび比較例として本実施例4(2)で製造ないし準備した各々のチーズについての、芳香成分であるアセトイン含量およびブタンジオール含量をガスクロマトグラフィーにて測定した。具体的には、4mLバイアル瓶にチーズを1g秤量し、これに脱イオン水を1mL加え、シリコン蓋とプラスチック栓とを閉めて60℃で20分間温浴した後、気相(ヘッドスペース)を2mL量り取り、ガスクロマトグラフ装置(GC−14A;島津製作所社)、カラム(J&WキャピラリーカラムDBwax,内径0.32mm×長さ60m×膜厚0.50μm)およびFID法VOC分析器(GC−14B;島津製作所社)を用いて分析した。その結果を表9に示す。
【0084】
【表9】

【0085】
アセトイン(IUPAC名;3−ヒドロキシ−2−ブタノン)は、ヨーグルトやバター様の香りを持つ化合物であり、主に発酵食品に芳香成分として含まれている。表9に示すように、本実施例4(1)で製造した低温ナチュラルチーズおよび比較例として本実施例4(2)で製造した低温ナチュラルチーズのアセトイン含量は110〜876mg/kgであり、本実施例4(2)で準備した市販のクリームチーズAおよびクリームチーズBのアセトイン含量の範囲に含まれるが、本実施例4(1)において、製造温度が4℃の場合の低温ナチュラルチーズのアセトイン含量は、本実施例4(2)で製造した低温ナチュラルチーズおよび本実施例4(2)で準備した市販のクリームチーズAおよびクリームチーズBのアセトイン含量と比較して、極めて高値であることが確認された。
【0086】
また、ブタンジオールは、乳酸発酵食品において良い乳酸発酵がされているとの指標となる化合物といわれている。表9に示すように、本実施例4(1)で製造した低温ナチュラルチーズおよび比較例として本実施例4(2)で製造した低温ナチュラルチーズのブタンジオール含量は97〜573mg/kgであり、本実施例4(2)で準備した市販のクリームチーズAおよびクリームチーズBのブタンジオール含量よりも極めて高値であることが確認された。また、本実施例4(1)で製造した低温ナチュラルチーズと、比較例として本実施例4(2)で製造した低温ナチュラルチーズとのブタンジオール含量を、初期pH6.0および製造温度7℃ないし10℃で比較した場合、製造温度が10℃の場合は本実施例4(1)で製造した低温ナチュラルチーズの方が若干低値であるものの、製造温度が7℃の場合は本実施例4(1)で製造した低温ナチュラルチーズの方が極めて高値であることが確認された。
【0087】
(7)酸度(w/w%)の測定
本実施例4(1)で製造した各々の低温ナチュラルチーズおよび比較例として本実施例4(2)で製造ないし準備した各々のチーズについての酸度を測定した。酸度の測定法は、財団法人日本冷凍食品検査協会(JFFIC)札幌検査所に依頼し、乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(昭和26年12月27日厚生省令第52号)に従って行われた。すなわち、試料を3倍に希釈し、フェノールフタレイン指示薬を添加して、0.1N NaOH溶液で中和滴定を行い、30秒間微紅色の消失しない点を終点とした。終点における滴定量を読み取り、100g中の乳酸量を酸度として算出した。その結果を表10に示す。
【0088】
【表10】

【0089】
表10に示すように、本実施例4(1)で製造した低温ナチュラルチーズおよび比較例として本実施例4(2)で製造した低温ナチュラルチーズの酸度は0.6〜1.8w/w%であり、本実施例4(2)で準備した市販のクリームチーズAおよびクリームチーズBの酸度よりも比較的高値であることが確認された。また、本実施例4(1)で製造した低温ナチュラルチーズと、比較例として本実施例4(2)で製造した低温ナチュラルチーズとの酸度を、初期pH6.0および製造温度7℃ないし10℃で比較した場合、本実施例4(1)で製造した低温ナチュラルチーズの酸度が1.2および1.3w/w%であるのに対し、本実施例4(2)で製造した低温ナチュラルチーズとの酸度は1.4および1.2w/w%であることから、ほぼ同値であることが確認された。
【0090】
(8)乳酸菌数(cfu/mL)の測定
本実施例4(1)で製造した各々の低温ナチュラルチーズおよび比較例として本実施例4(2)で製造ないし準備した各々のチーズについての乳酸菌数を測定した。具体的には、乳酸菌実験マニュアル(小崎ら、1992)に従い、各々のチーズ1gずつを滅菌生理食塩水100mLにそれぞれ懸濁し、よく攪拌した後、1mLずつを分注して10倍希釈を繰り返し、合計6段階の希釈液を各々調製した。GYP白亜寒天培地にこれら6段階の希釈液を1mLずつ塗沫し、20℃で3日間培養後、コロニー数をカウントすることにより行った。その結果を表11に示す。
【0091】
【表11】

【0092】
表11に示すように、本実施例4(1)で製造した低温ナチュラルチーズおよび比較例として本実施例4(2)で製造した低温ナチュラルチーズの乳酸菌数は1,100,000〜32,000,000であり、本実施例4(2)で準備した市販のクリームチーズAおよびクリームチーズBの乳酸菌数よりも極めて多数であることが確認された。また、本実施例4(1)で製造した低温ナチュラルチーズと、比較例として本実施例4(2)で製造した低温ナチュラルチーズとの乳酸菌数を、初期pH6.0および製造温度7℃ないし10℃で比較した場合、本実施例4(1)で製造した低温ナチュラルチーズの乳酸菌数が18,000,000および29,000,000であるのに対し、本実施例4(2)で製造した低温ナチュラルチーズの乳酸菌数は1,300,000および5,700,000であることから、本実施例4(1)で製造した低温ナチュラルチーズの方が極めて多数であることが確認された。
【0093】
(9)各種含有アミノ酸量(mg/100g)の測定
本実施例4(1)で製造した各々の低温ナチュラルチーズおよび比較例として本実施例4(2)で製造ないし準備した各々のチーズについての各種含有アミノ酸量を測定した。具体的には、各々のチーズを0.1g秤量して6N HClを3ml加え、130℃ 2時間、加水分解を行った。加水分解後の試料について高速アミノ酸分析計(L−8800;HITACHI)を用いて各種含有アミノ酸量を測定した。その結果を表12に示す。
【0094】
【表12】

【0095】
表12に示すように、本実施例4(1)で製造した低温ナチュラルチーズのうち、初期pHを6.5、製造温度を7℃とした場合の低温ナチュラルチーズがもっともアミノ酸リッチであることが確認された。
【0096】
(10)本実施例4(1)で製造した各々の低温ナチュラルチーズについて、おいしさの検討をn=1で行った。その結果を表13に示す。
【0097】
【表13】

【0098】
表13に示すように、初期pHが5.8ないし5.9であって製造温度が7〜10℃の場合に相当おいしい低温ナチュラルチーズを製造することができることが確認された。
【0099】
以上(1)〜(10)の結果より、一般のクリームチーズと比較した場合、水分含量が多くて脂質含量が低く、かつ粘度が低いチーズは、一般には、味覚に堪えないチーズであると考えられるが、本実施例4(1)で製造した低温ナチュラルチーズは、アセトインやブタンジオールの含量が多く、酸度も高いことから、これまでにないまったく新しいタイプのナチュラルチーズであることが分かる。
【0100】
以上のような本実施例によれば、低温条件下、低温で活動する乳酸菌を用いて、原料乳にクリーム等を加える必要なく、粘度の極めて低い、これまでにないまったく新しいクリームタイプの低温ナチュラルチーズを製造することができる。
【0101】
なお、本発明に係る低温ナチュラルチーズおよびその製造方法は、前述した実施例に限定されるものではなく、適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0102】
1 分離容器
2 ステンレス篩
3 バット
4 脚
5 チーズクロス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱殺菌した原料乳に4〜13℃でスターターとレンネットとを加えて生成したカードを分離してなる低温ナチュラルチーズであって、粘度が0.34〜1.06Pa・sである低温ナチュラルチーズ。
【請求項2】
以下の(a)、(b)および(c)の少なくともいずれかである、請求項1に記載の低温ナチュラルチーズ:
(a)脂質含量が19.4〜32.5w/w%である;
(b)水分含量が57〜65w/w%である;
(c)ブタンジオール含量が97〜573mg/kgである。
【請求項3】
前記スターターが4〜13℃を活動温度範囲とする乳酸菌を含んでなる、請求項1または請求項2に記載の低温ナチュラルチーズ。
【請求項4】
前記乳酸菌が、Lactococcus raffinolactis、Lactococcus lactis、Lactobacillus fuchuensis、Leuconostoc mesenteroides、Leuconostoc citreum、Leuconostoc gelidum、Weissella soliからなる群から選択される1または2以上の乳酸菌である、請求項3に記載の低温ナチュラルチーズ。
【請求項5】
前記乳酸菌が、Lactococcus raffinolactisである、請求項3に記載の低温ナチュラルチーズ。
【請求項6】
前記原料乳がpHを弱酸性に調整された原料乳である、請求項1から請求項5のいずれかに記載の低温ナチュラルチーズ。
【請求項7】
前記カードの分離後に4〜13℃で熟成してなる、請求項1から請求項6のいずれかに記載の低温ナチュラルチーズ。
【請求項8】
加熱殺菌した原料乳を4〜13℃まで冷却する冷却工程と、4〜13℃でpHを弱酸性に調整するpH調整工程と、4〜13℃を活動温度範囲とする乳酸菌を含んでなるスターターとレンネットとを4〜13℃で加えてカードを生成させるカード生成工程と、生成したカードを4〜13℃で分離するカード分離工程とを有する、低温ナチュラルチーズの製造方法。
【請求項9】
前記乳酸菌が、Lactococcus raffinolactis、Lactococcus lactis、Lactobacillus fuchuensis、Leuconostoc mesenteroides、Leuconostoc citreum、Leuconostoc gelidum、Weissella soliからなる群から選択される、請求項8に記載の低温ナチュラルチーズの製造方法。
【請求項10】
前記乳酸菌が、Lactococcus raffinolactisである、請求項8に記載の低温ナチュラルチーズの製造方法。
【請求項11】
前記カード分離工程の後に4〜13℃で熟成させる熟成工程を含む、請求項8から請求項10のいずれかに記載の低温ナチュラルチーズの製造方法。

【図1】
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【図2】
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