説明

低温プラズマ殺菌方法及び装置

【課題】 酸素のみを供給した真空による低温プラズマを発生させることにより、香辛料、穀類及び食品素材の品質を損なうことなく、既存の殺菌処理よりも、殺菌効果に優れ、かつまた食品素材の安全性を確保できる。
【解決手段】 本発明の低温プラズマ殺菌方法は、プラズマ反応管1の炉内に酸素ガス11のみを所定の流量を流した状態で、プラズマ反応管1の炉内における減圧下で定常低温プラズマ17を発生させ、発生した低温プラズマ雰囲気内に配置される容器3に入れた香辛料4などの被殺菌物に対して、被殺菌物の素材表面に付着する微生物等の細菌類を殺菌及び除去させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素ガスを所定量流した状態で、低温プラズマ雰囲気を定常状態で持続させ、このプラズマ雰囲気内に、あらかじめ香辛料、穀類及び食品素材を入れておき、それら素材表面に付着する腐敗菌類を殺菌あるいは完全に死滅させる(滅菌させる)低温プラズマ殺菌方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、香辛料、穀類及び食品素材の殺菌あるいは滅菌に関しては、放射線によるものや、殺菌剤を用いるものが考えられているが、微生物汚染の低減のために、放射線を用いて食品素材や香辛料を殺菌する方法は、消費者団体等からの反対もあり、現在のところ、日本では使用許可されていない。また、殺菌剤などの化学物質を用いる方法は、その化学物質が食品中に残留することが問題となり、望ましい殺菌方法ではない。
【0003】
そこで食品素材や香辛料の殺菌方法として、放射線を使用することなく、かつ、殺菌剤を使用することによる品質劣化あるいは加熱による品質の損傷を起こすことのない殺菌方法の開発が必要とされている。
【0004】
現在、食品素材や香辛料を殺菌処理する方法の一つとして、芽胞菌をも死滅させることができる加圧蒸気滅菌法(オートクレーブ)が提案され、既に製品化されていることが知られている。
また、食品素材や香辛料の殺菌方法として注目されている技術に、低温プラズマ殺菌システムが挙げられ、低温プラズマを使った殺菌システム及び殺菌装置が既に製品化されている。
【0005】
これに関連して、本発明者らは、窒素ガスを用いた低温プラズマ雰囲気を生成し、この低温プラズマ雰囲気内に香辛料として胡麻の種を用い、プラズマ発生用の高周波出力電圧を、4kV、あるいは1kVとして、最高30分間の照射を行った結果を報告している。(非特許文献1及び2を参照。)非特許文献1ないし2で提案した技術は、両者とも、水洗いされた洗い胡麻に付着する腐敗菌(一般生菌類)を死滅させる方法であり、いずれもプラズマ照射時間を長くすればするほど減少することが分かっている。
また、低温プラズマを用いた殺菌方法として大気圧低温プラズマ殺菌方法も提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001-54556号公報
【非特許文献1】稲田茂昭(群馬大)、長島啓介(群馬大 大学院学生)、「低温プラズマ導入による幼苗の育成及び食品保存」、日本機械学会関東支部第10期総会講演会講演論文集、No.040-1、 2004年、3月4日−6日、於東京、工学院大学、pp.399-400.
【非特許文献2】長島啓介(群馬大 大学院生)、稲田茂昭(群馬大)、藤波一博(株式会社 波里)、「低温プラズマ照射による幼苗育成の向上と食品素材の滅菌」、第41回日本伝熱シンポジウム講演論文集、Vol. I、 2004年5月26日−28日、於富山市、富山国際会議場、pp.75-76.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した加圧蒸気滅菌法では、約120℃から135℃の高温蒸気を使用するため、加熱による食品素材等が損傷を受け、品質が劣化するという問題があった。つまり、被滅菌物の中には耐熱性、耐湿性、食品風味の劣化等においてこの方法が不向きなものが多いのである。また、低温プラズマ滅菌システムでは、大がかりな真空排気装置が必要となり、更にはラジカル発生用として過酸化水素を導入する必要もあって、ドライ状態を維持することができない。このため、穀類や食品素材の殺菌ないし滅菌には不向きであった。
【0007】
また、特許文献1に記載の殺菌方法は、過酸化水素水を気化させた気体を用いるため、洗浄が必要となることから食品には不向きであり、かつ、ドライ状態を維持できないためドライ状態で保存する穀類や食品素材の滅菌には好ましい方法ではない。さらに、単一気体でない混合気体を用いるため食品素材の変質作用を生じる可能性もあった。
【0008】
また、非特許文献1、2に記載の殺菌方法では窒素プラズマを用いているが、その後の研究において、酸素ガスプラズマを使用した方が、窒素ガスプラズマに比べて高い殺菌効果があることが判明した。そして、更に、プラズマ発生用の高周波出力電圧を3kVとして、プラズマ照射時間を最高4時間行った結果、有効な殺菌時間は約2〜3時間であることが判明した。この事実を一般生菌類のみならず、大腸菌群、真菌及び低温細菌についても実証することができた。
【0009】
近年の外食産業の隆盛に伴って、特にエスニック料理と総称される多種の香辛料を使う料理が知られるとともに、その香辛料の大部分は熱帯、亜熱帯地方に位置する発展途上国からの輸入に依存している。そこでの製造の場は微生物汚染防止対策等が、構じられていないことが多く、土壌由来の微生物による汚染やダニ及び食害昆虫などの害虫の混入が不可避である。
【0010】
そこで、本発明は、酸素のみを供給した減圧低温プラズマを発生させることにより、香辛料、穀類及び食品素材の品質を損なうことなく、既存の殺菌処理よりも、殺菌効果に優れ、かつまた食品素材の安全性を確保できる殺菌方法とその装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決し、本発明の目的を達成するため、本発明の低温プラズマ殺菌方法は、プラズマ反応管炉内に酸素ガスのみを、所定量流した状態で、プラズマ反応管炉内における減圧下で定常低温プラズマを発生させ、発生した低温プラズマ雰囲気内に配置される被殺菌物(食品素材、穀類または香辛料等)に対して、被殺菌物の素材表面に付着する微生物等の細菌類を殺菌及び除去させることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の低温プラズマ殺菌装置は、外壁周りに銅パイプをコイル状に巻きつけた円筒状のプラズマ反応管炉と、銅パイプ内に冷却水を供給するための冷却水供給部と、銅パイプに高周波電力を付加させる制御器を具備した高周波電源部と、プラズマ反応管炉内を真空にする真空排気部と、プラズマ反応管炉外からプラズマ反応管炉内に反応ガスとして酸素ガスを送り込むガス供給部とを備え、プラズマ反応管炉内に配置された被殺菌物の素材表面に付着する微生物等の細菌類を殺菌及び除去させることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、低温プラズマ雰囲気内に発生する酸素ガスプラズマのみにより、ドライ状態で被殺菌物の素材表面に付着する微生物等の細菌類を殺菌及び除去することができる。
本発明の低温プラズマ殺菌方法及び装置は、例えば、10〜100トール(mmHg)程度の真空度で、比較的大容積の酸素ガス低温プラズマを容積内均一に発生させることができ、香辛料、穀類及び食品素材の品質(風味、食味、見た目、香り)を損なうことなく微生物の殺菌あるいは滅菌、そして除去を可能とする。すなわち、本発明の殺菌方法及び殺菌装置は、消毒液洗浄、加熱乾燥、焙燥処理等の既存の殺菌処理方法よりも、殺菌効果に優れ、かつまた安全性(無毒性、 環境に優しい)が確保できる殺菌方法及び装置であり、香辛料、穀類及び食品素材の保存期間(賞味期限)を延長させる効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明の第1の実施の形態について、適宜、図面を参照しながら説明する。
図1は、低温プラズマ照射殺菌装置の構成図である。
図1において、低温プラズマ照射殺菌装置の低温プラズマ発生部を構成するプラズマ反応管炉1は、外径300mm、内径290mm、長さ1000mmの石英管とする。その外壁周りには直径6mmの銅パイプ2をコイル状に巻きつけ、この銅パイプ2には水循環ポンプ7を介して冷却水12、13を流している。
【0015】
また、図1に示す低温プラズマ照射殺菌装置の低温プラズマ発生部は、発振周波数約400kHzの高周波電源6とそのコントローラー(不図示)を具備し、コイル状に巻付けた銅パイプ2の両端はこの電源出力端子に連結されている。プラズマ反応管1は、油回転ポンプ8と拡散ポンプ9に密閉状態で連結され、プラズマ反応管1内部は所定の真空度に保持されるようになっている。そして、プラズマ反応管1の内部には、予め、被殺菌物である、例えば胡麻等の香辛料4が容器3に入れた状態で配置されている。ここで、被殺菌物として適用できる素材は、胡麻、スパイス、ハーブ等の香辛料の他に、大豆・小豆・麦・米・コーン等穀類、茶類、紅茶、コーヒー豆等の嗜好品、その他の食品素材、餅・団子及び加工食品などドライ状態で保存を必要とされるものが全て含まれる。
【0016】
図1に示す低温プラズマ照射殺菌装置の真空排気部としては、排気用の大型油回転ポンプ8(1300 l/min)を具備し、油回転ポンプ8とプラズマ反応管1との間には、冷却水15で冷却される拡散ポンプ9が設けられている。そして、油回転ポンプ8と拡散ポンプ9のそれぞれの入口にはトラップ部(不図示)を設け、各トラップに液体窒素及び消石灰を充填させることにより、プラズマ反応管1内で生ずる有害排ガスをこれらのトラップ部で吸収捕獲し、プラズマ殺菌作動時に駆動する油回転ポンプ8を保護している。なお、油回転ポンプ8から出る排気ガス16は室外へ排出されるようになっている。
【0017】
また、図1に示す低温プラズマ照射殺菌装置の酸素ガス送入部は、プラズマ反応管炉1外からプラズマ反応管炉1内に、反応ガスとしての所定量の酸素ガスを送り込む部分であり、この酸素ガス11は、酸素ガスボンベ5より不図示の圧力調節器並びに流量計を介してプラズマ反応管1内に送入される。
【0018】
このように構成された図1に示す低温プラズマ照射殺菌装置の動作を、図8のフローチャートに基づいて説明する。
図8は、酸素ガス低温プラズマによる殺菌作用を示すフローチャートである。
図8において、まず、酸素ガス低温プラズマを発生させる(ステップS1)。ここでは、プラズマ反応管1内を油回転ポンプ8と拡散ポンプ9により真空排気する。所定の初期真空状態(約10−6トール)に達した後、拡散ポンプ9を止め、油回転ポンプ8のみによる荒引き状態で、プラズマ反応管1内に、酸素ガスボンベ5より所定量の酸素ガス11を送り込む。所定の真空度に達したときに、銅パイプ2に高周波電源6から発振周波数約400kHzの高周波電圧を付加することにより、プラズマ反応管1内に酸素ガス低温プラズマを発生させる。
【0019】
この状態で、酸素ガス低温プラズマ内をドライ状態にする(ステップS2)。真空のプラズマ反応管1内に酸素ガス11のみが送り込まれるため、発生する酸素ガス低温プラズマ内は、通常の状態としてドライ状態に維持されている。
このドライ状態となった酸素ガス低温プラズマ内で活性種が発生する(ステップS3)。つまり、発生する酸素ガス低温プラズマ内はドライ状態に維持され、この酸素ガス低温プラズマにより殺菌作用のある活性種が発生するのである。
【0020】
そして、この酸素ガス低温プラズマ中に生成される活性種の励起した酸素、スーパーオキシドイオン、オゾンなどの複合作用により被殺菌物の殺菌が行われる(ステップS4、ステップS5)。ここでは、被殺菌物を撹拌しつつその殺菌を行う場合も含まれる。すなわち、予めプラズマ反応管1内に香辛料4などの被殺菌物が容器3に入れた状態で配置されているが、香辛料4などの被殺菌物は容器3内で均等に殺菌が行われるように攪拌されるようになっている。
最後に、プラズマ反応管1内から殺菌後の香辛料4などの被殺菌物を取り出して(ステップS6)、酸素プラズマによる香辛料4などの殺菌処理を終了する。
【0021】
また、上述した第1の実施形態例では、酸素ガス低温プラズマ内での殺菌処理を行っているが、酸素ガスに代えて窒素ガスを用いても同様な効果が得られる。
図9は、窒素ガス低温プラズマによる殺菌作用を示すフローチャートである。
図9において、まず、窒素ガス低温プラズマを発生させる(ステップS11)。ここでは、プラズマ反応管1内を油回転ポンプ8と拡散ポンプ9により真空排気する。所定の初期真空状態(約10−6トール)に達した後、拡散ポンプ9を止め、油回転ポンプ8のみによる荒引き状態で、プラズマ反応管1内に、窒素ガスボンベ5より所定量の窒素ガス11を送り込む。そして、所定の真空度に達したときに、銅パイプ2に高周波電源6から発振周波数約400kHzの高周波電圧を付加することにより、プラズマ反応管1内に窒素ガス低温プラズマを発生させる。
【0022】
この状態で、窒素ガス低温プラズマ内をドライ状態にする(ステップS12)。真空のプラズマ反応管1内に窒素ガスのみが送り込まれるため、発生する窒素ガス低温プラズマ内はドライ状態に維持される。
このドライ状態となった窒素ガス低温プラズマ内で活性種が発生する(ステップS13)。つまり、発生する窒素ガス低温プラズマ内はドライ状態に維持され、この窒素ガス低温プラズマにより殺菌作用のある活性種が発生するのである。
【0023】
そして、この低温プラズマ中に生成される活性種の励起した窒素、窒素イオン、窒素ラジカルなどの複合作用により被殺菌物の殺菌が行われる(ステップS14、ステップS15)。ここでは、被殺菌物を撹拌しつつその殺菌を行う場合も含まれる。すなわち、予めプラズマ反応管1内に香辛料4などの被殺菌物が容器3に入れた状態で配置されており、この香辛料4などの被殺菌物は、容器内で撹拌されて容器3内で均等に殺菌が行われる。
最後に、プラズマ反応管1内から殺菌後の香辛料4などの被殺菌物を取り出して(ステップS16)、窒素プラズマによる香辛料4などの殺菌処理を終了する。
【0024】
上述したように、図1に示す低温プラズマ照射殺菌装置は、酸素ガスあるいは窒素ガス低温プラズマをプラズマ反応管1内に発生させ、これによってプラズマ反応管1内に、酸素ガスあるいは窒素ガスプラズマのもつ高い電子エネルギーや反応性の高いイオン及び活性種ラジカルが多数発生する。これらの高い電子エネルギー及び活性種ラジカル等は、細菌類を死滅させる作用を持っているので、香辛料、穀類及び食品素材を効果的に殺菌することができる。
【0025】
図1に示されるような構成を有する低温プラズマ照射殺菌装置は、以下のような効果を具備している。
すなわち、低温プラズマ中に生成されるイオンやラジカルなどの活性種は、香辛料や食品素材に付着した細菌類を殺菌する効果があると考えられている。特に、酸素ガス低温プラズマでは、励起した酸素及び酸素ガスプラズマ中に生成されるスーパーオキシドイオン(O2)、オゾン(O3)などの複合作用により殺菌効果を生じるものと考えられる。
しかし、酸素ガスプラズマ中のイオンやラジカルなどの活性種は短寿命であり、活性種は高周波供給エネルギーがなくなると直ちに消滅する。このように、被殺菌物である被照射物質内への残存がないので、殺菌される食品素材等の品質の低下を極力抑えることが可能である。
【0026】
なお、本発明の第2の実施形態例で示したように、酸素ガスに代えて窒素ガスを用いた窒素ガスプラズマでは、特に励起した窒素及び窒素ガスプラズマ中に生成される窒素イオン(N2)と窒素ラジカルなどの複合作用により殺菌効果を生じると考えられている。
【0027】
以下に、本発明の効果を実証するための具体的な実験例を示す。
[実験例1]
この実験装置は、図1に示す低温プラズマ照射殺菌装置と同様の装置を用いている。この装置には,プラズマ反応管1として、内径295mm,厚さ5mm,長さ1000mmの寸法をもった石英管が水平に設置されている。その石英管外壁周りには、直径6mmの銅パイプ2がコイル状に巻きつけられ,その銅パイプ2には水循環ポンプ7を駆動させることにより冷却水12,13を流し、そのプラズマ反応管1の石英管炉内でプラズマ17を発生させている。
【0028】
本装置はこのプラズマ反応管1の石英反応管部、その反応管炉内を真空にする油回転ポンプ8と拡散ポンプ9を具備した排気装置部、コイル状銅パイプ2に約400kHzの高周波電圧をかけ外部誘導型のプラズマ17の発生を誘起させる高周波電源部6、プラズマ反応ガスとしてプラズマ反応管炉外から酸素ガス11(または窒素ガス)を導入するガス導入部、及び熱電対14にてプラズマ反応管炉内の温度を検出し、その温度をモニターするペン書きレコーダ10から構成されている。
【0029】
実験方法は、予め、香辛料4などの試料約10gをガラスシャーレなどの容器3に入れ、そのガラスシャーレなどの容器3をプラズマ反応管1の石英管炉内に装填し、石英管の扉を閉める。次に、ガスボンベ5から供給されるプラズマ反応ガス(酸素ガスまたは窒素ガス)流量を1000ml/min一定とし、このプラズマ反応ガスをプラズマ反応管1の石英管炉内に導入し続ける。そして、石英管炉内圧力が10Torr(約1333Pa)に達した時点で高周波電源部6から銅パイプ2を介してプラズマ反応管1に高周波エネルギーを付加し、低温プラズマを発生させる。なお、石英反応管炉内の雰囲気温度は、素線径0.05mmの白金-白金ロジウム熱電対14(Pt-PtRh13%)を用いて計測した。
【0030】
低温プラズマ照射場の実験条件として、高周波電源部6から銅パイプ2に対して供給される高周波電圧(アノード印加電圧)を3.0kV一定とし、照射時間は10分、60分、120分、180分、240分の5段階とした。本実験では上記に示した条件をもとに、実験ごとに照射時間、反応ガスを変えて実験を行った。
実験試料はミャンマー産香辛料(原料黒胡麻,洗い黒胡麻)を用いた。この洗い胡麻は,一般に流通しているものであり,20〜25℃の地下水(硬水)で約5〜15分間洗浄し,その後,約50〜60℃で約30〜60分間温熱乾燥したものである。
【0031】
実験試料に低温プラズマ照射を施した後、実験試料10g(黒胡麻約3300粒に相当)を用いて細菌学的検査を行った。細菌学的検査は食品衛生検査法(衛生微生物検査法)の検査指針に準拠した。処理した黒胡麻をPBS(リン酸緩衝液(pH7.4))を用いて、ストマッキングして洗い出し、平板菌数測定法を用いて黒胡麻に付着している生菌数を測定した。
【0032】
本実験では、測定菌類として黒胡麻に付着している一般生菌(standard plate count)、大腸菌群(coriforms)、真菌(fungi)、及び低温細菌(psychrotrophic bacteria)のそれぞれについて測定し、それぞれ固有の培地すなわち、標準寒天培地(35℃、 2日間)、デソキシコレート寒天培地(35℃、 1日間)、サブロー培地(25℃、 5-7日間)、CVT(クリスタルバイオレット)寒天培地(25℃、 3日間)にて培養後、寒天平板上に生ずる集落から菌数を測定した。
【0033】
この実験結果から分かった試料の初期細菌保有状態は、以下の通りである。
図2は、検体、すなわちミャンマー産香辛料である原料黒胡麻(Untreated sesame)と洗い黒胡麻(Washed sesame)の初期状態(非プラズマ照射、照射時間0分)における細菌の汚染状況を示している。香辛料が原料黒胡麻の場合について、一般生菌数3.8×10(5.6±0.2)、大腸菌群数4.5×10(3.6±0.1)、真菌数3.3×10(4.5±0.1)及び低温細菌数1.6×10(5.2±0.2)であったが、香辛料が洗い黒胡麻の場合では、一般生菌数2.1×10(4.3±0.2)、低温細菌数5.8×10(2.8±0.2)であったが、大腸菌群ならびに真菌は検出されなかった。なお、図2においては、n=3 (実験を3回行ったことを意味する)としてデータを測定した。図2の上段部分の菌数は幾何学平均数SPC/g、(SPC: Standard Plate Count)又はCFU/g、(CFU:Colony Forming Unit)を示し、下段の括弧書きで示した数字は指数値の平均±標準偏差である。不検出は検出限界以下であったことを示している。すなわちこの場合の黒胡麻検体は洗うという処理をすれば、大腸菌群ならびに真菌は十分除去できることを意味している。
【0034】
図3は、プラズマ反応管炉内の温度及び圧力(真空度)とプラズマ照射時間の関係を示す図である。
図3から分かるように、低温プラズマ照射時間に対する石英管炉内の雰囲気温度の変化は、△のプロットと点線で示されている。温度は左側縦軸の目盛で示される。この結果から、石英管炉内雰囲気温度は、プラズマ照射開始直後は50℃をピークに大きく変化するが、照射時間の経過に伴いほぼ30℃で一定となることが分かる。このプラズマ照射開始時の温度上昇は、電磁誘導作用により作動ガスが放射加熱された結果であると考えられる。
【0035】
次に、低温プラズマ照射時間に対する石英管炉内の圧力(真空度)を測定し、○のプロットと実線で示した。右側縦軸の目盛が真空度を表している。この図3から分かるように、プラズマ照射中の石英管炉内の真空度は、大気圧(760Torr=1013hPa)よりも圧力の低い真空状態であり、圧力は10Torr(約1333Pa)以下になっていることが分かる。そして、プラズマ照射開始直後は、真空度が急激に上昇するが、その後は照射時間が経過しても真空度はほぼ一定の状態を保ち、大きな変化はみられないことが分かる。
【0036】
次に、図4から図7に基づいて、低温プラズマ照射による殺菌効果について説明する。
これらの図4〜図7は、窒素ガスプラズマ(A)と酸素プラズマ(B)による一般生菌数、大腸菌群数、真菌数、低温細菌数の各生菌数推移を示している。なお、図中のp値(危険率)について、例えば、p<0.01は、100回同じ検査をしたら、1回はその図に示された値とは異なった値が表れる危険があること、すなわち、100回の測定中、99回以上は図に示された値であることを意味する。菌の数が当初の値より減少し、測定精度が上がり、測定のばらつきが減ってくればp値(危険率)も当然減ってくることになる。
【0037】
図4〜図7を通覧すると、黒胡麻(原料胡麻、洗い胡麻)表面に付着している微生物(一般生菌、大腸菌群、真菌、低温細菌)を低減させるためには窒素ガスプラズマ(A)よりも酸素ガスプラズマ(B)の方が優れた殺菌効果があることが分かる。また、プラズマ照射時間の増加に伴って生菌数が減少する傾向にあることも確認できた。
【0038】
特に、図6(B)においては、原料胡麻にプラズマを240分間照射すると、検体表面の生菌数は検出限界以下となり、初期状態と比べると約1/10000(4オーダー)以下に減少することがわかった。また同様に図7(A)、(B)に示すように、洗い胡麻に窒素ガスプラズマ及び酸素ガスプラズマを180分間照射すると、検体表面の低温細菌数は、検出限界以下となり初期状態と比べると約1/100(2オーダー)以下に減少することが分かった。
【0039】
上述したように、低温プラズマ殺菌法は、低温プラズマ中に生成されるイオンやラジカルなどの活性種により、殺菌効果を生じると考えられている。窒素ガスプラズマでは、特に励起した窒素及び窒素ガスプラズマ中に生成される窒素イオン(N2)などの複合作用により殺菌効果を生じたと考えられる。また、酸素ガスプラズマでは、特に励起した酸素及び酸素ガスプラズマ中に生成されるスーパーオキシドイオン(O2)、オゾン(O3)などの複合作用により殺菌効果を生じたものと考えられる。
さらに本実験結果から、低温プラズマはそれぞれの微生物に対して一定の殺菌効果(殺菌限度)を示すことが判明した。図4から図7に示されるように、プラズマ照射を180分以上行うことが殺菌に有効であることが分かる。
【0040】
次に、被照射検体(黒胡麻)の表面性状について説明する。
低温プラズマ殺菌法において、低温プラズマ発生中はイオンやラジカルなどの活性種が生じ、化学的変化(品質劣化)が引き起こされるが、一般にイオンやラジカルなどの活性種はエネルギーがなくなると直ちに消滅するため、黒胡麻の品質の低下を極力抑えることが可能であった。ただし、プラズマ照射時間が増加していくと、黒胡麻の表面の窒化あるいは酸化が促進され、黒胡麻素材の表面が白く変色することが認められたが、プラズマ非照射の洗浄・加熱乾燥処理の間に黒胡麻表面が受ける損傷には及んでいない。
【0041】
本実験では食品素材として黒胡麻を用いたが、原料胡麻は大部分が外国産であり、そのままでは多数の微生物が付着しているため、これら付着している微生物をある程度殺菌した後、販売しなければならない。現在市販されている黒胡麻は、主として洗い胡麻と煎り胡麻の2種類である。本実験で用いた洗い胡麻は、約20〜25℃の地下水(硬水)で約5〜15分間洗浄し、その後、約50〜60℃で約30〜60分間温熱乾燥したものである。また、煎り胡麻は約20〜25℃の地下水(硬水)で約5〜15分間洗浄した後、約135〜200℃で約10分間焙燥(焙煎・乾燥)したものである。
本実験において、低温プラズマ殺菌のプラズマ工程(殺菌工程)における石英管内の最高雰囲気温度は約48℃であった。現在市販されている洗い胡麻は約50〜60℃、煎り胡麻は約135〜200℃で加熱処理(殺菌処理)を施されている。したがって、この事実から判断して、低温プラズマによる殺菌は、比較的低温で行うことができることが分かる。
【0042】
ここで、黒胡麻表面をデジタルカメラで撮影した画像や、さらに黒胡麻表面を走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope;SEM)で捉えた画像についての検討結果を以下に説明する。図10(A)、(B)、(C)は、それぞれ初期状態(プラズマ非照射)の原料胡麻(何も処理されていない胡麻)、洗い胡麻、煎り胡麻の写真である。
図10(A)は、初期状態(プラズマ非照射)における原料胡麻の写真である。この原料胡麻は、収穫されてから何も処理されていないことから、商品にならない(形が悪い等)胡麻や塵などが多数混ざり合っている。この場合、図10(A)から分かるように、大部分が黒色であるが若干赤茶色した胡麻を確認することができる。
【0043】
図10(B)は、初期状態(プラズマ非照射)における洗い胡麻の写真である。この写真の洗い胡麻は、初期状態(プラズマ非照射)において、洗浄・加熱乾燥の処理を施すため、商品にならない胡麻や塵などが取り除かれている。この図10(B)に示される写真からわかるが、原料胡麻と同様に黒色や赤茶色した胡麻が見られるとともに、さらに洗浄・加熱乾燥処理の間に黒胡麻表面の外種皮(黒い色素を含んだ皮)が剥がれてしまった胡麻や、内種皮が露出したため表面が白くなってしまった胡麻が若干見受けられた。
次に、図10(C)に示される初期状態(プラズマ非照射)における煎り胡麻は、洗浄・焙燥処理を施してあるため、この処理中に黒胡麻表面の外種皮(黒い色素を含んだ皮)が剥がれてしまい、内種皮が露出したため表面が白くなってしまった胡麻が多数見受けられる。
【0044】
次に、初期状態(プラズマ非照射)と低温プラズマ照射後の黒胡麻表面を見比べて、低温プラズマ照射による黒胡麻の変化を見ることにする。
図11(A)〜(E)は、低温窒素ガスプラズマ照射後の時間経過と黒胡麻表面の様子を観察した写真である。左の写真A−1〜E−1が原料胡麻を示し、右の写真A−2〜E−2が洗い胡麻を示している。図11(A)はプラズマ照射時間が10分、図11(B)はプラズマ照射時間が60分、そして図11(C)〜(E)はそれぞれ、プラズマ照射時間が120分、180分、240分の状態を示している。
図11は窒素ガスプラズマを照射して撮影した写真であるが、図12は同様な方法で酸素ガスプラズマを照射して撮影した写真である。
【0045】
初期状態(プラズマ非照射)のもの(図10(A))と比べ、黒胡麻に窒素ガスプラズマを240分間(図11(E))、酸素ガスプラズマを180分間(図12(D))以上照射すると、素材表面が若干白く変色している部分が見受けられる。
この理由としては、プラズマ照射温度(石英管内雰囲気温度)は比較的低温だが、黒胡麻を長時間プラズマ雰囲気にさらしたため、熱、自発光(光励起、紫外線)さらに活性物質によって素材表面が若干劣化したものと考えられる。窒素ガスプラズマ照射を施したものより、酸素ガスプラズマ照射を施した黒胡麻の表面が白くなっていることから、プラズマ発生中の自発光及び活性酸素によって酸化変質が起きたものと考えられる。
【0046】
同様に、窒素ガスプラズマにおいても、プラズマ発生中の自発光及び活性種によって窒化変質が起きていると考えられるが、窒素ガスプラズマ照射を施した黒胡麻の表面はあまり白く変色しなかったことから、素材表面では窒化変質は起こりにくく、窒化変質による影響は少ないということが言える。なお、このプラズマの光は、プラズマ発生中に猛烈な速さで移動している電子と反応ガスのガス分子(気体粒子)が衝突することで発する。つまり、プラズマが発光するということは、ガス分子がプラズマにより励起(最も低い安定したエネルギー状態から、他との相互作用によって、より高いエネルギー状態に移ること)しているのである。
【0047】
次に、図13〜図15に示す黒胡麻素材の表面観察のSEM画像(倍率50倍)に基づいて、プラズマ照射後の黒胡麻素材の変質についてプラズマ非照射の場合と比較し、検討する。
黒胡麻は、外側から外種皮、内種皮、残存胚乳、子葉の順に構成されている。このSEM画像は黒胡麻表面、つまり外種皮(黒い色素を含んだ皮)を撮影したものである。SEM画像から、黒胡麻の表面形状は凹凸があることが確認できる。
【0048】
初期状態(プラズマ非照射)の黒胡麻表面について観察する。図13(A)〜(C)は、初期状態(プラズマ非照射)における原料胡麻、洗い胡麻、煎り胡麻の表面画像を示すものであるが、この原料胡麻(図13(A))を見ると、胡麻の表面は凹凸によって形成されていることが分かる。また、初期状態(プラズマ非照射)における洗い胡麻の表面画像(図13(B))を見ると、外種皮が剥がれ落ち内種皮が露出してしまっているものや(B‐1)、洗浄・加熱乾燥処理中に表面が擦れて黒い色素が取れ、外種皮が白くなっているもの(B‐2)が見受けられる。次に、初期状態(プラズマ非照射)における煎り胡麻の表面画像(図13(C))について検討した。図13(C)から分かるように、煎り胡麻のうち表面が黒い部分は、洗浄・焙燥処理によって、外種皮に皹が入り亀裂が生じている様子や、外種皮が捲れあがっている様子(C‐1)を示している。また、煎り胡麻のうち表面が白いものを(C‐2)に示したが、この時の表面性状は、洗浄・焙燥処理によって、完全に外種皮が剥がれ落ち、内種皮が剥き出しになっていて、初期状態(プラズマ非照射)の原料胡麻と比べると、比較的滑らかな表面の形状をしている。
【0049】
現在、市販されている黒胡麻は洗い胡麻と煎り胡麻であるが、黒胡麻に対して殺菌処理を施すために、洗浄・加熱乾燥・焙燥処理を施すことによって生菌数を減らしているのが現状である。この殺菌法だと上述したように、洗い胡麻並びに煎り胡麻において、殺菌処理を施す際に素材表面にダメージを与え、品質(風味、食味、見た目、香り)を損なう原因となる。また、この殺菌法は、殺菌処理温度が高温なため、素材の品温が高くなり品質劣化の原因ともなる。
【0050】
図14(A)〜(E)は、窒素ガス低温プラズマ照射後の黒胡麻の表面画像を、その時間経過とともに示した写真である。まず、窒素ガスプラズマ処理を施した原料胡麻の表面画像(図14(A)〜(E)の左の写真A−1〜E−1)を通覧すると、プラズマを10分間照射しても、黒胡麻表面(外種皮)に損傷を与えることはなかったが、プラズマを60分間以上照射すると、黒胡麻表面(外種皮)の凹凸が少なくなっている様子が捉えられている。
【0051】
次に、窒素ガスプラズマ処理を施した洗い胡麻の表面画像(図14(A)〜(E)の右の写真A−2〜E−2)を通覧する。まずプラズマを10分間照射した場合の表面画像を見ていくと、黒胡麻表面(外種皮)に亀裂が生じている様子が見受けられるが、これはプラズマ処理による影響ではなく、もともと洗い胡麻表面(外種皮)に亀裂が生じていた可能性が高い。なお、プラズマを60分間以上照射すると、原料胡麻の場合と同様、黒胡麻表面(外種皮)の凹凸が少なくなっている様子が捉えられている。
【0052】
図15(A)〜(E)は、酸素ガス低温プラズマ照射後の原料胡麻並びに洗い胡麻の表面画像を撮影したものである。この写真を通覧すると、酸素ガスプラズマでも、窒素ガスプラズマ処理を施した場合と同様な傾向が見られる。
よって、黒胡麻に窒素ガスプラズマならびに酸素ガスプラズマ処理を施すと、プラズマ照射時間の増加に伴い、黒胡麻表面(外種皮)の凹凸が少なくなるということが確認された。
【0053】
以上の実験結果から、低温プラズマ発生中はイオンやラジカルなどの活性種が生じ、化学的変化が引き起こされることが明らかとなった。また、一般にイオンやラジカルなどの活性種は短寿命であり、活性種はエネルギーがなくなると直ちに消滅するため、黒胡麻の品質の低下を極力抑えることが可能であることも確認することができた。
【0054】
また、本実験で得られた黒胡麻表面のSEM画像から分かるように、プラズマの作用は素材表面に限られ、表面窒化及び表面酸化(表面燃焼)により素材表面は多少傷むが、素材内部はほとんど影響を受けないことも確認することができた。さらに、本実験結果から、低温プラズマ照射時間の増加に伴い、食品素材表面において若干の損傷が認められたものの、既存の殺菌処理(洗浄、加熱乾燥、焙燥処理)を施したものより、殺菌処理中の品質劣化を抑えることが十分可能であることが分かった。
【0055】
[実験例2]
最後に、検体(国産金洗い胡麻、国産白洗い胡麻、国産大豆、国産玄米)の細菌保有状況についての実験例を示す。
上記の各国産検体に対して、非プラズマ初期状態の他に、低温プラズマ照射状態下での細菌保有状況を調べた。検査は財団法人群馬県健康づくり財団に委託して行った。
低温プラズマの照射実験条件として、反応ガスは酸素を用い、他の条件は黒胡麻の場合と全く同様である。すなわち、酸素ガス流量は1000ml/min、反応管炉内圧力は約10Torr、高周波照射アノード電圧は3.0kV、照射時間は10分、60分、120分、180分、240分の5段階とした。
【0056】
検査細菌とその検査方法は、一般生菌数に対しては標準平板菌数測定法を用い、大腸菌群に対してはデソキシコーレイト培地法を用い、黄色ブドウ球菌に対してはマンニット食塩培地法を用いた。また、カビ数、酵母数に対してはポテトデキストロース培地法を用い、耐熱性菌数に対しては100℃10分間加熱法を用いた。
【0057】
上記の国産の各検体については、初期状態において既に、大腸菌群、黄色ブドウ球菌、カビ、酵母、耐熱性菌は殆ど陰性の状態にあり、一般生菌に関して検査前に国産金洗い胡麻では2.3×105/g、国産白洗い胡麻では1.3×105 /g、国産大豆では6.5×103 /g、国産玄米では7.4×106 /gの状態であった。
【0058】
これに対してプラズマを240分間照射すると、一般生菌に関して検査後に国産金洗い胡麻では7.3×104 /g(データのばらつきも考えられるが、180分照射では6.0×102 /g に減少)、国産白洗い胡麻では7.5×102/g、国産大豆では300以下 /g、国産玄米では9.0×104/gの状態となった。
【0059】
このように、プラズマ照射による菌の減少は明確に現れていることが分かった。
以上の実験例1と2をまとめると、第1に、黒胡麻表面に付着している微生物(一般生菌、大腸菌群、真菌、低温細菌)を低減させるためには、窒素ガスプラズマより酸素ガスプラズマを施した方が効果的であることが分かった。第2に、低温プラズマ殺菌については、低温プラズマ中に生成されるイオンやラジカルなどの活性種により微生物殺菌ができるものと考えられる。
【0060】
また、窒素ガスプラズマでは、励起した窒素及び窒素ガスプラズマ中に生成される窒素イオン(N2)などの複合作用により殺菌ができたと考えられる。また、酸素ガスプラズマでは、励起した酸素及び酸素ガスプラズマ中に生成されるスーパーオキシドイオン(O2)、オゾン(O3)などの複合作用により殺菌ができたものと考えられる。
【0061】
第3に、低温プラズマはそれぞれの微生物に対して一定の殺菌効果(殺菌限度)を持つことが判明した。細菌学的な観点から有効な殺菌効果はプラズマ照射時間が180分間以上の時に得られた。
第4に、低温プラズマ照射において、被照射物表面性状を考慮すると、最低必要量のプラズマを照射することが望ましく、照射物表面に起こる化学的変化を最小限度に抑えるため、最適プラズマ照射時間は、窒素ガスプラズマが180分間程度、酸素ガスプラズマが120分間程度であることが分かった。
【0062】
第5に、低温プラズマ殺菌法は、ドライかつ低温状態下での殺菌処理を行うことが可能であり、既存の殺菌処理(洗浄、 加熱乾燥、 焙燥処理)を施したものと比べ、食品の保存期間(賞味期限)が延長できることは十分に考えられる。また、低温プラズマ殺菌法は、消毒液(防腐剤も含む)を使用する殺菌法と比較すると、殺菌処理後に生じる化学物質等の残留物が全くないため、人体や環境に対して悪影響を及ぼすことはない。以上、低温プラズマ殺菌法は高い殺菌効果、高い安全性(無毒性、 環境に優しい)、広い適用範囲(被殺菌物)など多くの長所を兼ね備えた殺菌法であることが分かった。
【0063】
なお、上述した本発明の実施の形態に限らず、本発明の特許請求の範囲内であれば、適宜、変更しうることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】低温プラズマ照射殺菌装置の構成図である。
【図2】黒胡麻検体の細菌の初期保有状態を示す図である。
【図3】プラズマ反応管炉内の温度及び圧力を示す図である。
【図4】照射時間に対する一般生菌数の減少変化を示す図であり、図4(A)は窒素ガスプラズマ、図4(B)は酸素ガスプラズマである。
【図5】照射時間に対する大腸菌群数の減少変化を示す図であり、図5(A)は窒素ガスプラズマ、図5(B)は酸素ガスプラズマである。
【図6】照射時間に対する真菌数の減少変化を示す図であり、図6(A)は窒素ガスプラズマ、図6(B)は酸素ガスプラズマである。
【図7】照射時間に対する低温細菌数の減少変化を示す図であり、図7(A)は窒素ガスプラズマ、図7(B)は酸素ガスプラズマである。
【図8】酸素ガス低温プラズマによる殺菌作用を示すフローチャートである。
【図9】窒素ガス低温プラズマによる殺菌作用を示すフローチャートである。
【図10】初期状態(プラズマ非照射)の原料胡麻を示す図であり、図10(A)は原料胡麻、図10(B)は 洗い胡麻、図10(C)は煎り胡麻である。
【図11】低温プラズマ照射後の黒胡麻表面の様子(窒素ガスプラズマ)を観察した図であり、図11(A)はプラズマ照射時間が10分、図11(B)はプラズマ照射時間が60分、図11(C)〜(E)はそれぞれ、プラズマ照射時間が120分、180分、240分の状態を示し、図11(A)〜(E)は、左の写真A−1〜E−1が原料胡麻を示し、右の写真A−2〜E−2が洗い胡麻を示している。
【図12】低温プラズマ照射後の黒胡麻表面の様子(酸素ガスプラズマ)を観察した図であり、図12(A)はプラズマ照射時間が10分、図12(B)はプラズマ照射時間が60分、図12(C)〜(E)はそれぞれ、プラズマ照射時間が120分、180分、240分の状態を示し、図21(A)〜(E)は、左の写真A−1〜E−1が原料胡麻を示し、右の写真A−2〜E−2が洗い胡麻を示している。
【図13】SEM画像で見た初期状態(プラズマ非照射)の黒胡麻表面を観察した図であり、図13(A)は原料胡麻、図13(B)は洗い胡麻、図13(C)は煎り胡麻の表面画像である。
【図14】SEM画像で見たプラズマ照射後(窒素ガスプラズマ)の黒胡麻表面を観察した図であり、図14(A)はプラズマ照射時間が10分、図14(B)はプラズマ照射時間が60分、図14(C)〜(E)はそれぞれ、プラズマ照射時間が120分、180分、240分の状態を示し、図14(A)〜(E)は、左の写真A−1〜E−1が原料胡麻の表面画像を示し、右の写真A−2〜E−2が洗い胡麻の表面画像である。
【図15】SEM画像で見たプラズマ照射後(酸素ガスプラズマ)の黒胡麻表面を観察した図であり、図15(A)はプラズマ照射時間が10分、図15(B)はプラズマ照射時間が60分、図15(C)〜(E)はそれぞれ、プラズマ照射時間が120分、180分、240分の状態を示し、図15(A)〜(E)は、左の写真A−1〜E−1が原料胡麻の表面画像を示し、右の写真A−2〜E−2が洗い胡麻の表面画像である。
【符号の説明】
【0065】
1…プラズマ反応管、2…銅パイプ、3…容器、4…香辛料、5…酸素ガスボンベ、6…高周波電源、7…水循環ポンプ、8…油回転ポンプ、9…拡散ポンプ、10…ペン書きレコーダ、11…酸素ガス、12,13…冷却水、14…熱電対、15…冷却水、16…排気ガス、17…プラズマ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマ反応管炉内に酸素ガスのみを所定の流量を流した状態で、
前記プラズマ反応管炉内における減圧下で定常状態にて低温プラズマを発生させ、
発生した前記低温プラズマ雰囲気内に配置される被殺菌物に対して、
前記被殺菌物の素材表面に付着する微生物等の細菌類を殺菌及び除去させる
ことを特徴とする低温プラズマ殺菌方法。
【請求項2】
前記低温プラズマ雰囲気をドライ状態で発生させる
ことを特徴とする請求項1に記載の低温プラズマ殺菌方法。
【請求項3】
前記被殺菌物は、香辛料、穀類及び食品素材を含む
ことを特徴とする請求項1に記載の低温プラズマ殺菌方法。
【請求項4】
外壁周りに銅パイプをコイル状に巻きつけた円筒状のプラズマ反応管炉と、
前記銅パイプ内に冷却水を供給するための冷却水供給部と、
前記銅パイプに高周波電力を付加させる制御器を具備した高周波電源部と、
前記プラズマ反応管炉内を真空にする真空排気部と、
前記プラズマ反応管炉外から前記プラズマ反応管炉内に反応ガスとして酸素ガスを送り込むガス供給部と
を備え、前記プラズマ反応管炉内に配置された被殺菌物の素材表面に付着する微生物等の細菌類を殺菌及び除去させる
ことを特徴とする低温プラズマ殺菌装置。
【請求項5】
前記被殺菌物は、前記プラズマ反応管炉内で攪拌される
ことを特徴とする請求項4に記載の低温プラズマ殺菌装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2006−333824(P2006−333824A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−164425(P2005−164425)
【出願日】平成17年6月3日(2005.6.3)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年3月4日から6日 社団法人日本機械学会関東支部主催の「日本機械学会 関東支部 創立10周年記念 第10期 総会講演会」において文書をもって発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年5月26日から28日 社団法人日本伝熱学会主催の「第41回 日本伝熱シンポジウム」において文書をもって発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年6月6日から8日 社団法人日本伝熱学会主催の「第42回 日本伝熱シンポジウム」において文書をもって発表
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【出願人】(502414541)株式会社波里 (3)
【Fターム(参考)】