説明

低温成形用ガラス及びガラス成形方法

【課題】 射出成形及びプレス成形に適した低温成形用ガラス及びそのような低温成形用ガラスを用いたガラス成形品の製造方法を提供する。
【解決手段】 低温成形用ガラス及びそのような低温成形用ガラスを用いたガラス成形品の製造方法であって、ガラス原料として、P25と、BaO及びSrOあるいはいずれか一方の酸化物と、を含むとともに、P25100重量部に対して、BaO及びSrOの酸化物の合計添加量を20〜120重量部の範囲内の値とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温成形用ガラス及びガラス成形方法に関し、特に、射出成形及びプレス成形に適した低温成形用ガラス及びガラス成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ソーダガラス原料等からなるガラスは化学的に安定で、透明性に優れている一方、溶融温度が一般に1000℃以上と高いことから、ブロー成形法が多用されていた。より詳細には、第一段階として、溶融ガラスを粗型に導入した後、かかる粗型内部にプランジャーを挿入し、その先端部から噴出されるカウンターブロー用エアーによってパリソン(粗形状のガラス容器)を成形し、次いで、第二段階として、成形されたパリソンを粗型から仕上型に移動した後、ファイナルブロー用エアーによって、所望の形状のガラス容器を製造していた。
【0003】
しかしながら、ブロー成形法以外に、低温成形用ガラス材料(低融点ガラス)を用いて、250〜400℃程度の低温でプレス成形することが望まれている。
そこで、P−Sn−O−F系のガラス組成物において、ガラス形成成分に加えて耐久性改善成分を含有してなり、Sn+P+O+Fの合計量が75重量%未満で、耐久性テストにおける減量率が0.2重量%以下であることを特徴とする低融点ガラスが提案されている(例えば、特許文献1)。
【0004】
また、更なる効率的成形や精度向上のために、所定の低温成形用ガラス材料(低融点ガラス)を用いて、射出成形することも望まれている。
例えば、このような低融点ガラスとしては、イオウ、砒素、テルル、セリウムを主成分とするカルコゲンガラスを用いるとともに、当該低温成形用ガラス材料を射出成形機のホッパから供給し、シリンダバレル内で加熱するとともにスクリューの回転によって溶融させ、シリンダバレル先端部に取り付けたノズルから、金型のキャビティ内に射出し、冷却固化させてガラス成形品とする製造方法が開示されている(例えば、特許文献2〜4)。
また、低温成形用ガラス材料として、PbO系のハンダガラスを用いた射出成形方法が開示されている(例えば、特許文献5〜6)。
【特許文献1】特開2001−48574(特許請求の範囲等)
【特許文献2】特開平2−160631(特許請求の範囲等)
【特許文献3】特開平5−4824(特許請求の範囲等)
【特許文献4】特開6−279040(特許請求の範囲等)
【特許文献5】特開昭50−82115(特許請求の範囲等)
【特許文献6】特開昭54−90219(特許請求の範囲等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されたガラス組成物の場合、フッ素材料を用いる必要があって、製造コストが高くなるばかりか、安全性に乏しいという問題があった。さらには、溶融粘度が未だ高くて、プレス成形することはできても、射出成形装置に使用することはできないという問題点が見られた。
また、特許文献特許文献2〜4に開示されたカルコゲンガラスの場合、砒素、テルル、セリウム等の高価なガラス材料を用いる必要があって、製造コストが高くなるという問題があった。さらには、カルコゲンガラスの特徴上、砒素等の有害材料を使用しなければならないという問題点も見られた。
また、特許文献5〜6に開示されたPbO系のハンダガラスの場合、安全性に問題がある鉛を多量に含んでおり、環境への影響を考慮して、製造上はもちろんのこと、処理等をする際についても、過大な注意や手間をかけなければならないという問題点が見られた。さらに、これらのガラスは失透しやすい上に、溶融粘度がばらつきやすく、安定的に射出成形を実施することは困難であるという問題点も見られた。
【0006】
そこで、本発明の発明者らは、上記の問題に鑑み鋭意検討したところ、安価でかつ安全性が高いガラス原料を用いるとともに、それらの配合割合を特定範囲に制御することによって、失透することなく、透明性や機械的特性に優れ、かつ、成形温度を著しく低下させられることを見出した。
よって、本発明の目的は、射出成形装置やプレス装置に好適に用いられる低温成形用ガラス及び、そのような低温成形用ガラスを用いたガラス成形品の安定的な製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、ガラス原料として、P25と、BaO及びSrOあるいはいずれか一方の酸化物と、を含む低温成形用ガラスであって、P25100重量部に対して、BaO及びSrOの酸化物の合計添加量を20〜120重量部の範囲内の値とした低温成形用ガラスが提供され、上述した問題点を解決することができる。
すなわち、このように安価でかつ安全性が高いガラス原料を用いるとともに、それらの配合割合を特定範囲に制御することによって、失透することなく、透明性や機械的特性に優れ、かつ、成形温度が低い低温成形用ガラスを安定的に得ることができる。したがって、射出成形装置やプレス装置に好適に用いられる低温成形用ガラスを安定的に得ることができる。
【0008】
また、本発明の低温成形用ガラスを構成するにあたり、P25/(BaO+SrO)の重量比率を1〜4の範囲内の値とすることが好ましい。
このように構成することにより、低温成形用ガラスの透明性等と、低温成形性等とのバランスを良好なものとすることができる。
【0009】
また、本発明の低温成形用ガラスを構成するにあたり、BaO:SrOの重量比率を10:90〜90:10の範囲内の値とすることが好ましい。
このように構成することにより、屈折率の調整が容易になるばかりか、低温成形用ガラスの透明性等と、低温成形性等とのバランスをさらに良好なものとすることができる。
【0010】
また、本発明の低温成形用ガラスを構成するにあたり、転移点温度を250〜450℃の範囲内の値とすることが好ましい。
このように構成することにより、使用可能なガラス原料の選択範囲を狭めることなく、射出成形装置等を用いて、透明性や機械的強度に優れた低温成形用ガラスを安定的に得ることができる。
【0011】
また、本発明の低温成形用ガラスを構成するにあたり、屈伏点温度を250〜500℃の範囲内の値とすることが好ましい。
このように構成することにより、使用可能なガラス原料の選択範囲を狭めることなく、射出成形装置等を用いて、透明性や機械的強度に優れた低温成形用ガラスをさらに安定的に得ることができる。
【0012】
また、本発明の低温成形用ガラスを構成するにあたり、失透開始温度を500〜650℃の範囲内の値とすることが好ましい。
このように構成することにより、使用可能なガラス原料の選択範囲を狭めることなく、射出成形装置等を用いて、透明性や機械的強度に優れた低温成形用ガラスをさらに安定的に得ることができる。
【0013】
また、本発明の低温成形用ガラスを構成するにあたり、ガラス原料として、Na2O、K2O、CaO、MgO、ZnO、Al23、B23、Li2O、及びY23からなる群から選択される少なくとも一つの酸化物をさらに含むことが好ましい。
このように構成することにより、屈折率の調整が容易になるばかりか、転移点温度等のガラス特性を容易に調整することができる。
【0014】
また、本発明の別の態様としては、低温成形用ガラスを用いたガラス成形方法であって、低温成形用ガラスとして、P25100重量部に対して、BaO及びSrOの合計添加量を20〜120重量部の範囲内の値としたガラス組成物を使用するともに、成形装置として、射出成形装置またはプレス装置を用いることを特徴とするガラス成形方法である。
すなわち、このように射出成形装置やプレス装置を用いてガラス成形方法を実施することにより、安価でかつ安全性が高いガラス原料を用いるとともに、それらの配合割合を特定範囲に制御することによって、失透することなく、透明性や機械的特性に優れ、かつ、成形温度が低い低温成形用ガラスを安定的に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
[第1の実施形態]
第1の実施形態は、ガラス原料として、P25と、BaO及びSrOあるいはいずれか一方の酸化物と、を含む低温成形用ガラスであって、P25100重量部に対して、BaO及びSrOの酸化物の合計添加量を20〜120重量部の範囲内の値とした低温成形用ガラスである。
以下、第1の実施形態における低温成形用ガラスを、構成要件等に分けて具体的に説明する。
【0016】
1.ガラス原料
25は、低温成形用ガラスのガラス原料として、必須構成成分であり、基本的に網目形成酸化物としての機能を果たすが、その他、透明性改善機能にも関与する。
ここで、P25の含有量を、全体量に対して、50〜80重量%の範囲内の値とすることが好ましい。この理由は、かかるP25の含有量が50重量%未満となると、低温成形用ガラスの透明性や機械的強度が低下する場合があるためである。一方、かかるP25の含有量が80重量%を超えると、低温成形用ガラスが着色したり、低温成形性に乏しくなったりする場合があるためである。
したがって、低温成形用ガラスの透明性等と、低温成形性等とのバランスがより良好となるため、P25の含有量を、全体量に対して、55〜75重量%の範囲内の値とすることがより好ましく、60〜70重量%の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0017】
また、ガラス原料としてのP25は、室温(25℃)で液状である一方、安定的であることが好ましい。
したがって、全体量に対して、水分を80〜9重量%程度含むP25水溶液であることが好ましい。なお、このようなP25水溶液を用いることによって、P25自体の保存安定性を高めることができる一方、P25と、BaO及びSrOあるいはいずれか一方の酸化物との混合性が良好になって、失透することなく、透明性や機械的特性に優れ、かつ、成形温度が低い低温成形用ガラスを安定的に得ることができる。
【0018】
また、BaO及びSrOあるいはいずれか一方の酸化物は、低温成形用ガラスのガラス原料として、必須構成成分であって、それぞれガラス化するとともに、適当な耐水性や耐熱性を得る目的のために添加される。
ここで、P25100重量部に対して、BaO及びSrOの合計添加量を20〜120重量部の範囲内の値とする。
この理由は、かかるBaO及びSrOの合計添加量が20重量部未満の値になると、ガラス化できなくなって、低温成形用ガラスの透明性や機械的強度が低下するためである。一方、かかるBaO及びSrOの合計添加量が120重量部を超えると、低温成形用ガラスが着色したり、低温成形性に乏しくなったりする場合があるためである。
したがって、低温成形用ガラスの透明性等と、低温成形性等とのバランスがより良好となるため、BaO及びSrOの合計添加量を、P25100重量部に対して、30〜100重量部の範囲内の値とすることがより好ましく、40〜80重量部の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
なお、BaO及びSrOあるいはいずれか一方の添加量を、全体量に対してみれば、20〜50重量%の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0019】
また、P25/(BaO+SrO)の重量比率を1〜4の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかるP25/(BaO+SrO)の重量比率が1未満の値になると、成形条件によっては、ガラス化できなくなって、低温成形用ガラスの透明性や機械的強度が低下する場合があるためである。一方、かかるP25/(BaO+SrO)の重量比率が4を超えると、低温成形用ガラスが着色したり、低温成形性に乏しくなったりする場合があるためである。
したがって、低温成形用ガラスの透明性等と、低温成形性等とのバランスがより良好となるため、P25/(BaO+SrO)の重量比率を1.2〜3.5の範囲内の値とすることがより好ましく、1.5〜3.0重量部の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0020】
また、BaO及びSrOを併用する場合、BaO:SrOの重量比率を10:90〜90:10の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかるBaO:SrOの重量比率を10:90の重量比率が10:90未満の値になると、成形条件によっては、ガラス化できなくなって、低温成形用ガラスの透明性や機械的強度が低下する場合があるためである。一方、かかるBaO:SrOの重量比率が90:10を超えると、低温成形用ガラスが着色したり、低温成形性に乏しくなったりする場合があるためである。
したがって、低温成形用ガラスの透明性等と、低温成形性等とのバランスがより良好となるため、BaO及びSrOを併用する場合、BaO:SrOの重量比率を20:80〜80:20の範囲内の値とすることがより好ましく、30:70〜70:30重量部の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0021】
また、ガラス原料として、Na2O、K2O、CaO、MgO、ZnO、Al23、B23、Li2O、及びY23からなる群から選択される少なくとも一つの酸化物をさらに含むことが好ましい。
この理由は、このようなガラス原料を併用することにより、低温成形用ガラスの転移点や屈折率等の物性を調整し、幅広い範囲で変更することができるためである。
なお、このようなガラス原料の添加量は、低温成形用ガラスの用途において要求される物性等を考慮して定めることが好ましいが、具体的に、ガラス原料の全体量に対して、0.1〜10重量%の範囲内の値とすることが好ましい。
【0022】
また、ガラス原料として、積極的に着色剤を添加することにより、着色低温成形用ガラスとすることができる。
そして、このような着色剤としては、CoO、CrO、Fe、Ti、EuO、NbO等の一種単独または二種以上の組み合わせが挙げられる。
また、このような着色剤の添加量は、低温成形用ガラスの用途において要求される物性等を考慮して定めることが好ましいが、具体的に、全体量に対して、0.01〜10重量%の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0023】
2.低温成形用ガラス
(1)転移点温度
また、低温成形用ガラスの転移点温度を250〜450℃の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる転移点温度が250℃未満の値になると、使用可能なガラス原料の範囲が過度に狭くなったり、成形条件によっては、ガラス化できなくなって、低温成形用ガラスの透明性や機械的強度が低下したりする場合があるためである。一方、かかる転移点温度が450℃を超えると、射出成形装置等を用いて、安定的に低温成形用ガラスを製造することが困難になったりする場合があるためである。
したがって、低温成形用ガラスの転移点温度を280〜420℃の範囲内の値とすることがより好ましく、300〜400℃の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0024】
(2)降伏点温度
また、低温成形用ガラスの降伏点温度を250〜500℃の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる降伏点温度が250℃未満の値になると、使用可能なガラス原料の範囲が過度に狭くなったり、成形条件によっては、ガラス化できなくなって、低温成形用ガラスの透明性や機械的強度が低下したりする場合があるためである。一方、かかる降伏点温度が500℃を超えると、射出成形装置等を用いて、安定的に低温成形用ガラスを製造することが困難になったりする場合があるためである。
したがって、低温成形用ガラスの降伏点温度を300〜450℃の範囲内の値とすることがより好ましく、300〜420℃の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0025】
(3)失透開始温度
また、低温成形用ガラスの失透開始温度を500〜650℃の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる失透開始温度が500℃未満の値になると、失透しやすくなって、射出成形装置等を用いて、安定的に低温成形用ガラスを製造することが困難になったりする場合があるためである。一方、かかる失透開始温度が650℃を超えると、使用可能なガラス原料の範囲が過度に狭くなったり、成形条件によっては、ガラス化できなくなったり、低温成形用ガラスの透明性や機械的強度が低下したりする場合があるためである。
したがって、低温成形用ガラスの降伏点温度を300〜450℃の範囲内の値とすることがより好ましく、300〜420℃の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
なお、低温成形用ガラスの失透開始温度を調整するにあたり、低温成形用ガラスの転移点温度を考慮することが好ましい。すなわち、射出成形装置等を用いて、安定的に低温成形用ガラスを製造するためには、かかる失透開始温度と、転移点温度との差が200℃以上の値となるように、両者を調整することが好ましく、250℃以上の値となるように、両者を調整することがさらに好ましい。
【0026】
3.用途
また、低温成形用ガラスの用途は特に制限されるものでなく、各種ガラス成形品やガラス工芸品、あるいは各種ガラス材料、さらには、ガラス被覆材やガラス装飾材の用途に用いることができる。より具体的には、光学レンズ、光学記録媒体、ガラスプレート、窓ガラス、ガラス容器、ガラス繊維、ガラス粒子、ガラス封止材、ガラス系接着剤、ガラス系装飾材等が挙げられる。
また、低温成形用ガラスと、各種異種材料との組み合わせ用途も挙げられる。例えば、低温成形用ガラスと、各種ポリマー、各種繊維、各種フィルム、各種金属、各種セラミック、各種樹脂成形品、各種セラミック成形品、各種木製成形品との組み合わせ用途も挙げられる。特に、従来の成形用ガラス、例えば、ソーダ石灰ガラス、ホウ珪酸ガラス、鉛ガラス、リン酸塩ガラス、アルミノ珪酸塩ガラス等と組み合わせることにより、新規な特性を備えたガラス組成物あるいはそれからなる複合ガラス成形品とすることができる。
また、用途として、無色透明を要求されるガラス組成物に用いることも好ましいが、着色透明ガラスや着色半透明ガラスの用途に用いることも好ましい。例えば、着色透明ガラスや着色半透明ガラスを用いた場合には、光の内部反射を利用して、内容物の色を加味して、装飾性により優れたガラス容器を得ることができる。
【0027】
[第2の実施形態]
第2の実施形態は、低温成形用ガラスを用いたガラス成形方法であって、低温成形用ガラスとして、P25100重量部に対して、BaO及びSrOの合計添加量を20〜120重量部の範囲内の値としたガラス組成物を使用するともに、成形装置として、射出成形装置またはプレス装置を用いることを特徴とするガラス成形方法である。
【0028】
1.低温成形用ガラス
第1の実施形態と同様の内容とすることができるため、ここでの説明を省略する。
【0029】
2.成形装置
(1)射出成形装置
本発明に用いる射出成形装置の一例として、図1に示す射出成形装置10とすることができる。この射出成形装置10は、主に、ガラス原料1を投入する投入口としてのホッパ2と、投入されたガラス原料を溶融するための加熱装置3と、この溶融されたガラス原料1を所定方向に圧送するためのシリンダ部4と、このシリンダ部4の端部に接続され、ガラス原料1を金型5内部に流し込むための先端ノズル部6と、から構成される。
また、シリンダ部4は、回転及び並進動作してガラス原料1を圧送するための軸7と、この軸7を駆動させるための駆動部8と、軸7の周囲に設けられ、ガラス原料をせん断及び攪拌するためのスクリュー9とから構成される。これらにより、ガラス原料1は、その粘度を均一な状態に保ったまま金型5内部に射出される。
また、この金型5は、一端を固定プラテン15に取り付けた上型5aと、他端を可動プラテンに取り付けた下型5bと、から構成される。この上型5a及び下型5bは、それぞれ対向する内面に、所望の形状を型取ったキャビティ17を備えている。
【0030】
また、先端ノズル部6は、図2に示すように、内部にガラス原料1の通路としての空洞部11を備え、その外周部には、空洞部11の温度を制御するための加熱装置12a及び12bが設けられている。また、この加熱装置12a及び12bは、それぞれ端子14a及び14bを介して、リード線18a及び18bと接続されることで、外部からの制御が可能となっている。また、空洞部11の先端には球面部材13が接続されている。この球面部材13は、金型5の一部と当接するように配置されることで、溶融したガラス原料がその外部に流出することを防いでいる。
すなわち、ホッパ2から投入されたガラス原料1が加熱装置3によって加熱され、低粘度の溶融ガラスとなるとともに、シリンダ部4、先端ノズル部6を介して所定圧力に加圧されることになる。よって、射出成形用のキャビティ17を備えた金型5の内部に向かって、溶融ガラスが噴射されることにより、所望形状のガラス成形品を精度良くかつ効率的に製造することができる。
【0031】
(2)プレス成形装置
また、本発明に用いるプレス成形装置の一例として、図3に示す構成のプレス成形装置20とすることができる。このプレス成形装置20は、主に、上型21a及び下型21bからなる金型21と、この下型21bを上下移動させるための下軸部22と、この下軸部22と対向する位置に載置され、その端部に上型21aを備えた上軸部23と、から構成される。
また、これらの部材は、加熱装置24によりそれぞれ加熱することができ、この加熱装置24と、下軸部22の上下動作を制御している駆動部25と、下型21bの下部に取り付けられた温度センサ26と、はそれぞれ制御部27により、連動制御することができる。
また、上型21aと下型21bとは、それぞれ対向する内面に、所望の形状を型取ったキャビティ28を備えているとともに、そのキャビティ28近傍にガラス原料1を載置できる構成となっている。
すなわち、下軸部22に取り付けられた下型21a内部に、成形材料であるガラス原料を載置した後、加熱装置204によりガラス材料を溶融して、低粘度の溶融ガラスとする。次いで、下型21bを制御部25により制御しながら上方に移動させることにより、ガラス原料1が、下型21aと、上型21bとの間でプレスされる。よって、上型と、下型との内面に設けられたプレス成形用のキャビティ28に対応した所望形状のガラス成形品を精度良くかつ効率的に製造することができる。
【実施例】
【0032】
以下に実施例を掲げて、本発明の内容を更に詳しく説明する。ただし、本発明の技術的範囲は、これら実施例のみの記載に限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において適宜変更することができる。
【0033】
[実施例1]
1.ガラス成形品の作成
表1に示すガラス原料を300℃に保持されたガラス溶融炉に収容し、3時間加熱して、ガラス融液を作成した。
次いで、得られたガラス融液を一旦冷却した後、粉砕機を用いて、直径約1mmのガラス粒子を作成した。
次いで、得られたガラス粒子を、図1に示す射出成型装置のホッパに投入し、シリンダー温度360℃、金型温度250℃、射出圧力110MPaの射出条件で成形し、厚さ20mm、長さ50mm、幅50mmのガラス成形品(ガラスプレ−ト)を作成した。
【0034】
2.ガラス成形品の評価
(1)透明性
得られたガラス成形品を、光透過率測定装置を用いて、波長415nmにおける光透過率を測定し、以下の基準に沿って透明性を評価した。得られた結果を表2に示す。なお、ガラス成形品の用途にもよるが、通常、光透過率が80%以上であれば、透明性に関して実用上問題が無いと言える。
◎:光透過率が99%以上である。
○:光透過率が90%以上である。
△:光透過率が80%以上である。
×:光透過率が80%未満である。
【0035】
(2)転移点
得られたガラス成形品における転移点を、示差膨張計を用いて、10℃/minの昇温条件で測定した。得られた結果を表2に示す。なお、ガラス成形品の用途にもよるが、通常、転移点が250〜450℃の範囲であれば、射出成形装置等の使用において、実用上問題が無いと言える。
【0036】
(3)屈伏点
得られたガラス成形品における屈伏点を、転移点と同様の条件で測定した。得られた結果を表2に示す。なお、ガラス成形品の用途にもよるが、通常、屈伏点が250〜500℃の範囲であれば、射出成形装置等の使用において、実用上問題が無いと言える。
【0037】
(4)失透温度
得られたガラス成形品における失透温度(失透開始温度)を、示差熱分析装置を用いて、10℃/minの昇温条件で測定した。得られた結果を表2に示す。なお、ガラス成形品の用途にもよるが、通常、失透開始温度が500〜650℃の範囲であれば、射出成形装置等の使用において、実用上問題が無いと言える。
【0038】
(5)白化度
得られたガラス成形品における白化度を評価した。すなわち、得られたガラス成形品を、98℃、1時間の沸騰水に浸漬し、以下の基準に沿って評価した。得られた結果を表2に示す。
◎:全く変化無し。
○:ほとんど変化無し。
△:少々の白化が観察される。
×:顕著な白化が観察される。
【0039】
(6)射出成形性
上述の方法によってガラス成形品を1万個作成した後、ガラス成形品の寸法のばらつきを測定し、以下の基準により評価した。なお、ガラス成形品の用途にもよるが、通常、寸法のばらつきが1%以内であれば、実用上問題が無いと言える。
◎:射出成形が可能であって、寸法のばらつきが0.01%未満である。
○:射出成形が可能であって、寸法のばらつきが0.1%未満である。
△:射出成形が可能であって、寸法のばらつきが1.%未満である。
×:射出成形できないか、射出成形が可能であっても寸法のばらつきが1%以上である。
【0040】
[実施例2〜6]
実施例2〜6では、表1に示すようにガラス組成を変更した以外は、実施例1と同様にガラス成形品を射出成形し、評価した。
【0041】
[比較例1〜4]
比較例1〜3では、表1に示すようにガラス組成を変更した以外は、実施例1と同様にガラス成形品を射出成形し、評価した。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明によれば、射出成形及びプレス成形のそれぞれに適した低温成形用ガラス及びそのような低温成形用ガラスを用いたガラス成形品の製造方法を提供することができるようになった。
すなわち、安価でかつ安全性が高いガラス原料を用いるとともに、それらの配合割合を特定範囲に制御することによって、失透することなく、透明性や機械的特性に優れ、かつ、射出成形及びプレス成形の際の成形温度を著しく低下させられるようになった。
よって、本発明によれば、各種ガラス成形品やガラス工芸品、あるいは各種ガラス材料、さらには、ガラス被覆材やガラス装飾材の用途に適した低温成形用ガラスを経済的かつ安定的に製造できるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】図1は、本発明における射出成形装置の概略断面図である。
【図2】図2は、射出成形装置における先端ノズル部の拡大断面図である。
【図3】図3は、本発明におけるプレス成型装置の概略断面図である。
【符号の説明】
【0046】
1:ガラス原料、2:ホッパ、3:加熱装置、4:シリンダ部、5:金型、6:先端ノズル部、7:軸、8:駆動部、9:スクリュー、10:射出成形装置、11:空洞部、12a、12b:加熱装置、13:球面部材、17:射出成形用のキャビティ、20:プレス成形装置、21:金型、22:下軸部、23:上軸部、24:加熱装置、25:駆動部、26:温度センサ、27:制御部、28:プレス成形用のキャビティ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス原料として、P25と、BaO及びSrOあるいはいずれか一方の酸化物と、を含む低温成形用ガラスであって、
前記P25100重量部に対して、前記BaO及びSrOの酸化物の合計添加量を20〜120重量部の範囲内の値とすることを特徴とする低温成形用ガラス。
【請求項2】
前記P25/(BaO+SrO)の重量比率を1〜4の範囲内の値とすることを特徴とする請求項1に記載の低温成形用ガラス。
【請求項3】
前記BaO:SrOの重量比率を10:90〜90:10の範囲内の値とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の低温成形用ガラス。
【請求項4】
転移点温度を250〜450℃の範囲内の値とすることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の低温成形用ガラス。
【請求項5】
屈伏点温度を250〜500℃の範囲内の値とすることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の低温成形用ガラス。
【請求項6】
失透開始温度を500〜650℃の範囲内の値とすることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の低温成形用ガラス。
【請求項7】
ガラス原料として、Na2O、K2O、CaO、MgO、ZnO、Al23、B23、Li2O、及びY23からなる群から選択される少なくとも一つの酸化物をさらに含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の低温成形用ガラス。
【請求項8】
低温成形用ガラスを用いたガラス成形方法であって、
前記低温成形用ガラスとして、P25100重量部に対して、BaO及びSrOの合計添加量を20〜120重量部の範囲内の値としたガラス組成物を使用するともに、
成形装置として、射出成形装置またはプレス装置を用いることを特徴とするガラス成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−298723(P2006−298723A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−125935(P2005−125935)
【出願日】平成17年4月25日(2005.4.25)
【出願人】(000162917)興亜硝子株式会社 (19)
【Fターム(参考)】