説明

低温条件下での発熱発酵を促進する細菌およびその細菌を含む生菌剤

【課題】 低温条件下でも、より安定した十分な発酵促進効果を有する細菌、および、その細菌を含むより実用的な生菌剤を提供する。
【解決手段】 10℃以下の温度でも増殖し、一定量以上の発酵熱を発生する、特にPseudomonas属細菌を含む細菌。その細菌とフスマ、オカラ、コメヌカ、ナタネ粕、コメ、ムギ、ビール酵母およびチーズホエー等の農畜産業又は食品工業副産物等からなる栄養源を含む生菌剤。および、該生菌剤を利用した10℃以下の有機性廃棄物の処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機性廃棄物の発酵、特に低温条件下での発酵を促進する細菌、およびその細菌を含む生菌剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の環境保護への関心の高まりから、家畜などの糞尿や農水産業から大量に発生する有機性廃棄物を焼却処理するのではなく、土壌微生物等を用いた発酵処理を行うことにより、無害化したり、有機肥料として用いるために堆肥化する試みが多くなされている。有機性廃棄物、特に含水廃棄物は腐敗して悪臭を発生し易いため、速やかに処理する必要があるが、そのような処理には大規模な保管場を必要とする。また、平成16年11月からは畜産廃棄物処理法が施行されて、廃棄物の野積み等が禁止されているため、特に畜産農家にとっては、有機性廃棄物の処理は大きな課題である。
有機性廃棄物の処理法としては、堆肥化による脱臭、減容化が一般的であるが、冬季の間や寒冷地では低温のため堆肥化が進みにくいという問題点があった。
堆肥化を促進する方法としては、円形発酵槽を用いた堆肥化装置を用いたり、加温のための設備を施したり、堆肥の上を通気性のあるシートで覆うなどの方法がある。しかし、発酵槽や加温設備の建設、運転は投資や運転コストの負担が大きい。また、通気性シートで堆肥の上を覆う方法は、外気温の低下に伴う除熱よりも発酵熱の発生の方が上回る場合には有効であるものの、冬季の間や寒冷地など、外気温が10℃以下、特に5℃以下になる場合には、廃棄物の発酵、堆肥化の進行が極めて遅く、その結果、外気温が上昇するまで処理できずに廃棄物が大量に蓄積するという大きな問題があった。
低温での発酵を促進して、有機性廃棄物から有機肥料を効率的に製造する方法として、特許文献1は、水分含量が65%〜75%の有機性廃棄物100重量部に、小麦ふすま3〜20重量部(乾物換算)を添加して発酵させることを特徴とする有機肥料の製造方法を開示している。しかし、この方法は、処理する有機性廃棄物の水分含量を調節する必要があった。また、この方法は有機性廃棄物中の土着菌や大気中の菌を利用するため、処理の対象となる有機性廃棄物や処理場の環境に左右される面が少なくない。そこで、低温の条件下でも、より安定した十分な発酵促進効果を有する、より実用的な生菌剤が求められていた。
【特許文献1】特願平10−539455
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は上記観点からなされたものであり、低温条件下でも、より安定した十分な発酵促進効果を有する細菌、および、その細菌を含むより実用的な生菌剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、10℃以下の温度でも増殖し、一定量以上の発酵熱を発生する細菌を用いることにより、上記目的を達成し得ることを見い出し、これらの知見に基づいて、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1)10℃以下の温度でも増殖し、一定量以上の発酵熱を発生する細菌。
(2)微好気的的条件下において10℃以下の温度でも増殖し、一定量以上の発酵熱を発生する細菌。
(3)(1)又は(2)に記載の細菌であって、10℃以下の有機性廃棄物の温度を上昇させるための細菌。
(4)前記細菌が、シュードモナス属に属することを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1つに記載の細菌。
(5)微好気的的条件下において10℃以下の温度でも増殖し、一定量以上の発酵熱を発生するシュードモナス エスピー.FERM P−20141株又はその変異体。
(6)(1)〜(4)のいずれか1つに記載の細菌、又は、(5)に記載の菌株若しくはその変異体の菌体を含有する生菌剤。
(7)前記細菌又は前記菌株若しくはその変異体の栄養源をさらに含有することを特徴とする(6)に記載の生菌剤。
(8)前記栄養源が、農畜産業の副産物又は食品工業の副産物である(7)に記載の生菌剤。
(9)前記栄養源が、フスマ、オカラ、コメヌカ、ナタネ粕、コメ、大麦、小麦、ビール酵母およびチーズホエーから選択される少なくとも1種の栄養源である(7)に記載の生菌剤。
(10)10℃以下の有機性廃棄物の温度を上昇させるための、(6)〜(9)のいずれか1つに記載の生菌剤。
(11)(1)〜(4)のいずれか1つに記載の細菌、又は、(5)に記載の菌株若しくはその変異体を、10℃以下の有機性廃棄物に施用することを含む、有機性廃棄物の処理方法。
(12)さらに、前記細菌又は前記菌株若しくはその変異体の栄養源を前記有機性廃棄物に施用することを含む、(11)に記載の有機性廃棄物の処理方法。
(13)前記有機性廃棄物を保温することを特徴とする(11)又は(12)に記載の有機性廃棄物の処理方法。
(14)前記有機性廃棄物の保温が、前記有機性廃棄物の表面に通気性シートを設置することによるものであることを特徴とする(13)に記載の有機性廃棄物の処理方法。
【発明の効果】
【0005】
本発明の細菌および生菌剤は、低温条件下でも、安定した十分な発酵促進効果を有している。また、本発明の細菌および生菌剤は、特に家畜糞尿のように水分含量が多く、内部に酸素が届きにくい環境下であっても、低温条件下で安定した十分な発酵促進効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
次に、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の好ましい実施態様に限定されず、本発明の範囲内で自由に変更することができるものである。なお、本明細書において、百分率は特に断りのない限り質量による表示である。
本発明の細菌は、10℃以下の温度でも増殖し、一定量以上の発酵熱を発生するものであれば特に制限はない。ここでいう「10℃以下の温度でも増殖する細菌」とは、温度条件以外はその細菌の増殖に好適な条件下において、温度を10℃以下にして培養した場合にも増殖する細菌を意味する。また、本発明でいう「一定量以上の発酵熱を発生する細菌」とは、後述の実施例に記載された表2の試験を行った場合の72時間後のオカラの中心温度が15℃以上、好ましくは20℃、より好ましくは25℃以上になる細菌を意味する。
【0007】
本発明の細菌は、微好気的条件下においては、10℃以下の温度で増殖せず、一定量以上の発酵熱を発生しない細菌であってもよいが、微好気的条件下において10℃以下の温度でも増殖し、一定量以上の発酵熱を発生する細菌が好ましい。このような細菌を用いると、水分含量が多く、内部に酸素濃度が低い有機性廃棄物に対しても、より優れた発酵促進効果を発揮するからである。ここでいう「微好気的条件」とは、たとえば、含水率が高めの有機性廃棄物内の酸素濃度以下の条件を意味し、実験室的には、20℃で測定した酸化還元電位が通常+800mv以下、好ましくは+350mv以下である条件をいう。
本発明の細菌としては、10℃以下の温度でも増殖し、一定量以上の発酵熱を発生するものであれば特に制限はないが、シュードモナス属に属する細菌が好ましく、シュードモナス エスピー.LTA10株又はその変異体が特に好ましい。
シュードモナス エスピー.LTA10株は、本発明者らが4℃の穀物貯蔵庫の床の塵から見いだした菌株であって、10℃以下の温度でも旺盛に増殖し、一定量以上の発酵熱を発生する。なお、LTA10株は、1℃以上、33℃までの範囲で増殖する。
また、LTA10株は、16S rDNA−500塩基配列を解析した結果、以下のようなことが明らかとなった。
MicroSeqを用いた解析の結果、LTA10株の16S rDNA 部分塩基配列は、相同率99.81%でシュードモナス フルオレスセンス C の16S rDNAに対し最も高い相同性を示した。分子系統樹でもLTA10株の16S rDNAはシュードモナス フルオレスセンス C の16S rDNAとクラスターを形成し、LTA10株とシュードモナス フルオレスセンス C は近縁であることが示された。
BLASTを用いたGenBank/DDBJ/EMBLに対する相同性検索の結果、LTA10株の16S rDNAは、相同率99.8%でシュードモナス エスピー.Accession No. AB013843株の16S rDNAに対し最も高い相同性を示した。また、検索の結果相同性の高かった上位20株は、シュードモナス属細菌が大半を占めた。
【0008】
上述のようにLTA10株は、シュードモナス フルオレスセンス バイオタイプ C の16S rDNAに最も高い相同率を示した。シュードモナス フルオレスセンスには系統的に異なる幾つかのバイオタイプが存在することがしられている。シュードモナス フルオレスセンスの基準株はバイオタイプAに含まれ、今回の解析ではLTA10株の16S rDNAはこのバイオタイプAに対しては高い相同率は示さなかった。シュードモナス フルオレスセンスについてはいまだ分類学的に未整理な部分が残っており、現時点でLTA10株について種レベルの帰属を推定することは難しいと考えられる。一方、分子系統樹から、LTA10株のシュードモナスへの帰属は示唆されており、現時点ではLTA10株をシュードモナス エスピー.とすることが妥当と考えられる。
なお、シュードモナス属細菌の中で、LTA10株のように低温域で増殖し、発酵熱を発生する菌株の報告はなく、新規な菌株と考えられる。
【0009】
本発明における「変異体」には、シュードモナス エスピー.LTA10株と同様の菌学的性質を有し、10℃以下の温度でも増殖し、一定量以上の発酵熱を発生する菌株である限り、シュードモナス エスピー.LTA10株から誘導されたいかなる変異体も含まれる。変異には、自然変異又は化学的変異剤や紫外線等による人工変異を含む。
なお、以下の明細書の記載における「本発明の細菌」には、「LTA10株およびその変異体」を含む意味で用いる場合がある。
シュードモナス エスピー.LTA10株は、平成16年7月28日より、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)に受託番号FERM P−20141株で寄託されている。
【0010】
また、本発明の細菌は、5℃以下の温度でも増殖し、一定量以上の発酵熱を発生する細菌でなくてもよいが、5℃以下の温度でも増殖し、一定量以上の発酵熱を発生する細菌が好ましい。このような細菌を用いれば、有機性廃棄物がより低温であっても十分な発酵促進効果を発揮することができるからである。ここでいう「5℃以下の温度でも増殖する細菌」とは、温度条件以外はその細菌の増殖に好適な条件下において、温度を5℃以下にして培養した場合にも増殖する細菌を意味する。
【0011】
また、本発明の細菌は、10℃以下の温度でも増殖し、一定量以上の発酵熱を発生するので、10℃以下の有機性廃棄物の温度を上昇させるために用いることができる。本発明でいう「10℃以下の有機性廃棄物」とは、有機性廃棄物の内部のいずれかの部分の温度
が1日の内、16時間以上、好ましくは20時間以上10℃以下になる有機性廃棄物を意味する。また、本発明でいう「10℃以下の有機性廃棄物」には、本発明の細菌を施用する時点で10℃以下である有機性廃棄物だけでなく、本発明の細菌を施用する時点では10℃より高温ではあるものの、本発明の細菌の施用後のいずれかの時期に10℃以下となる有機性廃棄物も含まれる。
【0012】
本発明の生菌剤は、10℃以下の温度でも増殖し、一定量以上の発酵熱を発生する本発明の細菌の生菌の菌体を含有している。本発明の生菌剤は、10℃以下の温度でも増殖し、一定量以上の発酵熱を発生する本発明の細菌の菌体を含有していれば特に制限はなく、そのような細菌の菌体を一種のみ含有するものであってもよいし、そのような細菌の菌体を複数種同時に含有するものであってもよい。
また、本発明の生菌剤における細菌は、10℃以下の温度でも増殖し、一定量以上の発酵熱を発生する細菌であれば特に制限はないが、シュードモナス属に属する細菌が好ましく、シュードモナス エスピー.FERM P−20141株又はその変異体が特に好ましい。また、本発明の生菌剤における細菌は、微好気的条件下においては、10℃以下の温度で増殖せず、一定量以上の発酵熱を発生しない細菌であってもよいが、微好気的条件下においても10℃以下の温度でも増殖し、一定量以上の発酵熱を発生する細菌が好ましい。このような細菌を用いると、水分含量が多く、内部に酸素濃度が低い有機性廃棄物に対しても、より優れた発酵促進効果を発揮するからである。
また、本発明の生菌剤における細菌は、5℃以下の温度でも増殖し、一定量以上の発酵熱を発生する細菌でなくてもよいが、5℃以下の温度でも増殖し、一定量以上の発酵熱を発生する細菌が好ましい。このような細菌を用いれば、有機性廃棄物がより低温であっても十分な発酵促進効果を発揮することができるからである。
【0013】
シュードモナス エスピー.FERM P−20141株以外の細菌であって、10℃以下の温度でも増殖し、一定量以上の発酵熱を発生する細菌は、例えば以下のようにして単離して得ることができる。
本発明に用いる細菌の菌体は、上記細菌の培養物から得られる。本発明に用いる細菌を培養する方法は特に限定されず、培養する細菌の性質に応じた適当な条件下で、定法により行うことができる。たとえば、往復動式振盪培養、ジャーファーメンター培養などによる液体培養法でもよく、固体培養法でもよい。培養で得られた菌体は、そのまま用いることもできるが、細菌を培養した培養物を培地と共に粉砕または細断して用いてもよい。また、培養物中の培地から菌体をかき取って用いてもよいし、この培養物を遠心分離することにより菌体を分離して用いてもよい。さらに、上記のように回収した培養物の粉砕物や菌体は、そのまま用いることもできるが、生菌剤の製品としての保存性の観点から、自然乾燥、噴霧乾燥、凍結乾燥などにより、ある程度乾燥させて用いるのが好ましい。
回収した培養物の粉砕物や菌体の乾燥方法については特に制限はないが、特に凍結乾燥法が好ましい。凍結乾燥する際には、保護剤を添加することが好ましい。保護剤としては、特に制限はないが、スキムミルク、グルタミン酸ナトリウム、糖類の中から1種又は2種以上を組み合わせることができる。糖としては、特に制限はないが、グルコースやトレハロースを好ましく用いることができる。
さらに、乾燥後は、上記の乾燥物に加えて、脱酸素剤、脱水剤をガスバリアー性のアルミ袋に入れて密封し、低温で貯蔵することが好ましい。このようにすることにより、本発明の細菌はより長期間、生きたままで保存することが可能となるからである。
【0014】
本発明の生菌剤は、本発明の細菌の菌体のみを含有するものであってもよいが、本発明の細菌の栄養源をさらに含有することが好ましい。栄養源をさらに含有すると、本発明の細菌がより速やかにより多くの発酵熱を発生させ、より優れた発酵促進効果が発揮されるからである。
そのような栄養源としては、本発明の細菌の増殖を促進する物質であれば特に制限はな
いが、たとえば、フスマ、オカラ、コメヌカ、ナタネ粕、ビール酵母、チーズホエー等の農畜産業の副産物、ならびに、大麦、小麦、ダイズ等の穀物、および、魚の煮汁等の水産業の副産物等の食品工業の副産物が挙げられ、フスマ、オカラ、コメヌカ、ナタネ粕、コメ、大麦、小麦、ビール酵母、チーズホエーが好ましく挙げられる。本発明の生菌剤は、これらの栄養源を1種のみ含有してもよく、2種以上含有してもよい。
【0015】
本発明の生菌剤に含まれる本発明の細菌の濃度は、本発明の効果を損なわない限り特に制限はないが、製剤として104〜1012CFU/g(コロニー形成単位)、好ましくは105〜1011CFU/g(コロニー形成単位)である。
また、粒剤又は粉剤の形態で本発明の生菌剤を使用する場合は、本発明の効果が得られる範囲で水で適当に希釈して使用することもできる。
【0016】
また、本発明の生菌剤は、上記の物質の他に、本発明の効果を妨げない限り、生菌剤等に含まれる本発明の細菌の培養に用いた培地等の任意の物質を含んでいてもよい。
本発明の生菌剤の使用方法については、特に制限はないが、有機性廃棄物に散布、混和等して用いることができる。本発明の生菌剤の散布等の対象となる有機性廃棄物には、特に制限はないが、例えば、豚糞、牛糞、鶏糞、野菜屑、刈り芝、家庭生ごみ、農水産業の廃棄物、食品工業の廃棄物、下水汚泥などが挙げられる。
【0017】
本発明の生菌剤の施用量については、本願発明の効果が得られる範囲であれば特に制限はないが、例えば、有機性廃棄物あたりの細菌が1×103〜1×109CFU/g、好ましくは1×104〜1×107CFU/gとなるような量の菌体を有機性廃棄物に施用することができる。
【0018】
また、本発明の別の態様は、本発明の細菌を10℃以下の有機性廃棄物に施用することを含む、有機性廃棄物の処理方法である。本発明の細菌を10℃以下の有機性廃棄物に散布、混合する等して施用すると、本発明の細菌が発酵熱を発生しながら増殖する。その発酵熱により、その有機性廃棄物の温度が上昇する。
有機性廃棄物の温度が上昇したかどうかは、たとえば、本発明の細菌を施用すること以外は同様の条件で有機性廃棄物を発酵させた場合に、本発明の細菌を施用した有機性廃棄物と本発明の細菌を施用しなかった有機性廃棄物において同様の部分の温度をそれぞれ測定して比較することにより確認することができる。
本発明の方法を適用した場合の、10℃以下の有機性廃棄物の温度の上昇の程度や速度については特に制限はないが、例えば、本発明の細菌を施用する有機性廃棄物の乾燥物1gに対する本発明の細菌の濃度が7.2×104CFU/g(コロニー形成単位)になるように本発明の細菌を10℃以下のその有機性廃棄物に施用した後に72時間発酵させた場合のその有機性廃棄物の表面から10cmの深さの温度が、本発明の細菌を施用すること以外は同様の条件で発酵させた有機性廃棄物の表面から10cmの深さの温度に比べて、5℃以上、好ましくは10℃以上高くなるような温度の上昇が生じる。
【0019】
このように本発明の細菌を10℃以下の有機性廃棄物に施用すると、その有機性廃棄物の温度が上昇し、その結果、有機性廃棄物中に元々存在していた土着菌の活動が活性化され、有機性廃棄物の発酵、分解、堆肥化、および、水分の蒸散も含めた減容化が促進される。
【0020】
また、本発明の方法では、本発明の細菌の栄養源を有機性廃棄物に施用しなくてもよいが、栄養源を有機性廃棄物に施用する方が好ましい。栄養源を施用すると、本発明の細菌がより速やかにより多くの発酵熱を発生させ、より優れた発酵促進効果が発揮されるからである。
この栄養源の施用方法には、特に制限はないが、例えば、有機性廃棄物に散布、混合す
る等して施用することができる。また、栄養源の有機性廃棄物への施用は、本発明の細菌の菌体の施用と同時に行ってもよいし、別々に行ってもよい。すなわち、栄養源と菌体を混合してから施用してもよく、混合せずに同時に施用してもよく、栄養源の施用に先立って菌体を施用してもよく、菌体の施用に先立って栄養源を施用してもよい。
【0021】
また、本発明の方法では、有機性廃棄物を保温しなくてもよいが、保温することが好ましい。本発明の細菌が発する発酵熱等が、外気等に奪われるのを抑制し、より優れた発酵促進効果が得られるからである。保温方法としては、有機性廃棄物から熱が失われるのを抑制する方法であれば特に制限はなく、例えば、シートで有機性廃棄物の表面を覆うなどの方法が挙げられる。ここでシートとしては、通気性シートが好ましく挙げられる。通気性シートは、例えば、発酵促進シートとして市販されたものを用いることができる。
本発明の方法では、本発明の細菌の菌体を有機性廃棄物に施用した後に、その有機性廃棄物を切り返したり、その有機性廃棄物内に酸素を強制的に通気する等して、その有機性廃棄物内の酸素濃度を高めてもよいが、酸素濃度を高めなくても十分な発酵促進効果が得られる。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。
[実施例1〜12、比較例1〜2]
(本発明の細菌の培養)
後述の表1に記載された種々の農産物又は副産物に水分を加えて、固体培地とした。固体培地を100gずつ500mlの広口三角フラスコにそれぞれ入れて、シリコン栓をし、無殺菌のまま4℃の低温室に6時間保管した。一方、500mlの広口試験管を用意し、同様の固体培地を100gずつ広口試験管にそれぞれ入れ、シリコン栓で密栓した後、121℃で30分間オートクレーブを行って殺菌した。その広口試験管を氷水で冷却し、その後4℃の低温室に6時間保管した。
また、500ml容の三角フラスコに50mlのブイヨン培地を加え、シリコン栓で密栓した後、121℃で15分間オートクレーブを行って殺菌した。そのブイヨン培地に、シュードモナス エスピー.FERM P−20141株を一白金耳接種し、28℃で毎分120回転の速度で24時間培養した。その結果、FERM P−20141株の菌濃度が2.3×109である培養液が得られた。
この培養液を前述の三角フラスコ内および試験管内の固体培地にそれぞれ1mlずつ添加して、内容物を十分に攪拌し、4、7又は10℃の低温庫にそれぞれ静置して培養した。また、培養液を添加しなかったものも同様に静置培養し、比較例とした。
10日後に三角フラスコ内および試験管内の固体培地を取り出し、普通寒天培地を用いた段階希釈法によって菌数を測定し、それぞれの固体培地中のFERM P−20141株の菌数を計測した。乾燥固体培地1g当たりのFERM P−20141株数を測定した。その結果を表1に示す。
【0023】
【表1】

【0024】
表1の結果から、いずれの固体培地を用いた場合であっても、シュードモナス エスピー.FERM P−20141株は良く増殖することが分かった。また、オートクレーブで殺菌していない固体培地を用いた場合でも、シュードモナス エスピー.FERM P−20141株は良く増殖していることから、少なくとも有機性廃棄物の温度がある程度低ければ、有機性廃棄物が殺菌されていない状態であっても、シュードモナス エスピー.FERM P−20141株は十分に増殖することができることが示唆された。
【0025】
[実施例13〜16、比較例3]
豆腐を製造した直後に集められたオカラ30kgをビニール袋に入れ、4℃の低温室内で氷水中に入れて3時間冷却した。内径15×20センチ、深さ12センチ、肉厚2センチの発泡スチロール製容器を5つ用意し、前述のオカラを無殺菌のまま1kgずつ入れた。シュードモナス エスピー.FERM P−20141株の濃度が表2に記載された濃度になるように、それぞれの容器にFERM P−20141株を加えた。比較例として、FERM P−20141株を添加しなかったオカラも用意した。
自動記録式温度検出器 サーモレコーダー TR−71U(株式会社ティアンドディ製)をオカラの中心部に入れ、発泡スチロールの蓋をした。この発泡スチロール製容器を、さらに内径28×37センチ、深さ18センチ肉厚2センチの発泡スチロール製容器に入れて断熱した。これを4℃の低温室内に保管し、オカラ内部の温度変化を測定した。72時間後のオカラ内部の温度を表2に示す。また、それぞれのオカラを乾燥させ、乾燥重量1g当たりに含まれるFERM P−20141株の菌数を72時間後に測定した、その結果を表2に示す。
【0026】
【表2】

【0027】
表2の結果から、シュードモナス エスピー.FERM P−20141株の菌数が多いほど、オカラの温度も高くなることが分かった。このことから、FERM
P−20141株は、低温のオカラ内でも増殖し、発酵熱を発生して、オカラの温度を上昇させることが示された。
【0028】
[実施例17〜20、比較例4〜5]
フスマ(水分含量12.4%)に水道水を加えて攪拌し、水分含量62%とした。水分を加えたこのフスマを、オートクレーブで殺菌可能なプラスチックバックに10kg入れ、プラスチックバックの口を閉じた。そのプラスチックバックを121℃で25分間殺菌した後、4℃の低温室で氷水を張ったプラスチック容器の中に浮かべて6時間冷却した。
その後、前述のプラスチックバック内のフスマを1kg取り出し、内径15×20センチ、深さ12センチ、肉厚2センチの発泡スチロール製容器に入れた。なお、この作業は開放系で行った。表1の試験で行ったのと同様の方法で培養したシュードモナス エスピー.FERM P−20141株の液体培養物を、FERM P−20141株の菌濃度が2.2×106cfu/g乾燥オカラになるように、前述のフスマに添加し、攪拌した。この発泡スチロール容器をさらに内径28×37センチ、深さ18センチ肉厚2センチの発泡スチロール製容器に入れて断熱した。これを4℃の低温室内に保管し、オカラ内部の温度変化を測定した。
プラスチックバックの殺菌を行わなかったこと以外は、同様の操作を行い、オカラ内部の温度変化を測定した。
また、水分を加えたフスマに代えて、コメヌカ(水分含量10.4%)に水道水を加えて攪拌し、水分含量48%としたものを用いて、殺菌を行ったものと殺菌を行わなかったものの両方について、上記と同様の操作を行ってコメヌカ内部の温度変化をそれぞれ測定した。
また、シュードモナス エスピー.FERM P−20141株の液体培養物を添加せずに、上記と同様の操作を行ったものを比較例とし、フスマ又はコメヌカ内部の温度変化をそれぞれ測定した。これらの結果を表3に示す。
また、それぞれの固体培地を乾燥させ、乾燥固体培地1g当たりに含まれるFERM P−20141株の菌数を72時間後に測定した、その結果を表3に示す。
【0029】
【表3】

【0030】
表3の結果から、本発明のFERM P−20141株は、殺菌、無殺菌のフスマおよびコメヌカ内のいずれでも増殖し、発酵熱を発生してフスマ又はコメヌカの温度を上昇させた。なお、本発明のFERM P−20141株を添加しなかった比較例では、殺菌、無殺菌のフスマ又はコメヌカのいずれでも温度の上昇が見られなかった。
【0031】
[実施例21〜24、比較例6]
牛舎から回収した生牛糞40kgにオガクズ10kgを加えて十分に攪拌した。この混合物の水分含量は64%であった。この混合物10kgをプラスチックバックに入れて、4℃の低温室で24時間静置して冷却した。この混合物10kgの内、4kgを内径28×37センチ、深さ18センチ肉厚2センチの発泡スチロール製容器に入れた。
表1の試験方法と同様の方法を用いて、オカラで培養したFERM P−20141株の固体培養物を得た。この固体培養物4gを、所定量の新鮮なオカラと混合して接種物を作製した。この接種物を上述の4kgの混合物に混合した後、自動記録式温度検出器を混合物の中心部に設置し、温度の変化を経時的に測定した。また、上述のFERM P−20141株を含む接種物の代わりに、40gの新鮮なオカラを添加したこと以外は上記と同様の操作を行ったものを比較例とした。これらの結果を表4に示す。
【0032】
【表4】

【0033】
表4の結果から、栄養源として添加するオカラの量が増えるにしたがって、有機性廃棄物である牛糞の温度がより急激に上昇していくことが分かった。これにより、本発明のFERM P−20141株に加えて、その栄養源を添加すると、低温での発酵促進効果がより向上することが示された。
【0034】
[実施例25、比較例7〜8]
牛舎から排出された牛糞を、屋根付きの屋外堆肥化場に移動し、約15立方メートルの
牛糞の山を作製した。一方、シュードモナス エスピー.FERM P−20141株をフスマ(水分含量13.2%)150kgに、その株の濃度が1.6×105CFU/g(コロニー形成単位)になるように添加した。これを、小型のパワーショベルを用いて前述の牛糞の山によく混合した後、山の中心部に自動温度センサーを差し込んだ。その後、10日間の温度変化を測定した。測定期間中、山の周辺の外気温は最低2℃、最高6℃の範囲で変化した。また、測定期間中には、牛糞の切り返しは行わなかった。
FERM P−20141株を添加したフスマの代わりに、フスマのみを用いること以外は、上記と同様の操作を行い、前述の試験と同時期に温度変化を測定した。
さらに、FERM P−20141株もフスマも添加しないこと以外は、上記と同様の操作を行い、前述の試験と同時期に温度変化を測定した。これらの結果を表5に示す。
【0035】
【表5】

【0036】
表5の結果から、本発明のFERM P−20141株は、堆肥場で牛糞を実際に堆肥化する場合にも、十分な発酵促進効果を発揮することが分かった。また、FERM P−20141株とフスマ等の栄養源を併用すると、優れた発酵促進効果を示すことが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
10℃以下の温度でも増殖し、一定量以上の発酵熱を発生する細菌。
【請求項2】
微好気的条件下において10℃以下の温度でも増殖し、一定量以上の発酵熱を発生する細菌。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の細菌であって、10℃以下の有機性廃棄物の温度を上昇させるための細菌。
【請求項4】
前記細菌が、シュードモナス属に属することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の細菌。
【請求項5】
微好気的条件下において10℃以下の温度でも増殖し、一定量以上の発酵熱を発生するシュードモナス エスピー.FERM P−20141株又はその変異体。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の細菌、又は、請求項5に記載の菌株若しくはその変異体の菌体を含有する生菌剤。
【請求項7】
前記細菌又は前記菌株若しくはその変異体の栄養源をさらに含有することを特徴とする請求項6に記載の生菌剤。
【請求項8】
前記栄養源が、農畜産業の副産物又は食品工業の副産物である請求項7に記載の生菌剤。
【請求項9】
前記栄養源が、フスマ、オカラ、コメヌカ、ナタネ粕、コメ、大麦、小麦、ビール酵母およびチーズホエーから選択される少なくとも1種の栄養源である請求項7に記載の生菌剤。
【請求項10】
10℃以下の有機性廃棄物の温度を上昇させるための、請求項6〜9のいずれか1項に記載の生菌剤。
【請求項11】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の細菌、又は、請求項5に記載の菌株若しくはその変異体を、10℃以下の有機性廃棄物に施用することを含む、有機性廃棄物の処理方法。
【請求項12】
さらに、前記細菌又は前記菌株若しくはその変異体の栄養源を前記有機性廃棄物に施用することを含む、請求項11に記載の有機性廃棄物の処理方法。
【請求項13】
前記有機性廃棄物を保温することを特徴とする請求項11又は12に記載の有機性廃棄物の処理方法。
【請求項14】
前記有機性廃棄物の保温が、前記有機性廃棄物の表面に通気性シートを設置することによるものであることを特徴とする請求項13に記載の有機性廃棄物の処理方法。

【公開番号】特開2006−158309(P2006−158309A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−355634(P2004−355634)
【出願日】平成16年12月8日(2004.12.8)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】