説明

低温液体貯蔵槽の防液堤の断熱保冷パネルと断熱保冷構造

【課題】 低温液体貯蔵槽の防液堤の断熱保冷パネルにおいて、断熱性、強度や耐久性を高める。
【解決手段】 低温液体貯蔵槽を取り囲む防液堤内の底面又は側面に貼り並べて、貯蔵槽から防液堤内に漏れ出た低温液体の蒸発、沸騰を抑制するパネルである。この断熱保冷パネル1は、軽量気泡コンクリート断熱板2であって、その断熱板2の全部の面又は一部の面に防水塗膜3を付着している。断熱保冷パネル1は、防液堤内の底面又は側面に固定し、軽量気泡コンクリート断熱板2の防水塗膜3付きの面を屋外に露出する。その屋外露出面には、雨や雪が降り掛かり、また、貯蔵槽から防液堤内に漏れ出た低温液体が接する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温液体貯蔵槽の防液堤に用いる断熱保冷パネルと断熱保冷構造に関する。
【背景技術】
【0002】
地上のLNGタンクやLPGタンクのような低温液体貯蔵槽は、これを取り囲む防液堤を設けている。貯蔵中の低温液体が事故で漏れ出たとき、その低温液体を防液堤内に留め、外部への流出を防ぐ。低温液体は、防液堤内に流入すると、外気と地面から熱を受け、蒸発し、沸騰する。その蒸発、沸騰を抑制するため、防液堤は、内面の底面と側面に、熱の流入量を低減する断熱保冷層を設けている。
【0003】
特許文献1に開示の防液堤内の床構造は、地盤上のコンクリート層上に泡ガラスパネルの断熱層を形成し、断熱層上にラテックスモルタルの防水目止め層を形成している。更に、防水目止め層の上に、アクリル樹脂やハイパロンゴムの防水層を形成している。
【0004】
特許文献2に開示の防液堤は、コンクリート壁の内面に泡ガラス、発泡コンクリートやバーミキュライトコンクリートなどの無機質断熱材の断熱層を形成し、断熱層上にラテックスモルタルの保護被膜を形成している。更に、保護被膜の上に、アクリル樹脂やハイパロンゴムなどの防水膜を形成している。
【0005】
特許文献3に開示の防液堤の断熱構造は、コンクリートの基礎と壁体の内面にパネル材を貼っている。パネル材は、ガラス繊維を混入したウレタンフォーム板上に不燃性のフレキシブル板(石綿セメント板)を接着している。
【0006】
特許文献4に開示の防液堤は、地盤上の砂層上にコンクリートセグメントを敷き並べ、コンクリートセグメント上に型枠を組み、型枠に、補強繊維を混入した断熱コンクリートを打設する。
【0007】
【特許文献1】実公昭57−57280号公報
【特許文献2】実開昭57−122899号公報
【特許文献3】特開2002−115799号公報
【特許文献4】特開2003−240199号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
防液堤の断熱材に泡ガラスを用いた場合、泡ガラスは、気泡間のガラス壁が薄く、破壊され易い。強度が低い。断熱材に軽量セメントを用いた場合、軽量セメント板は、軽量骨材の配合割合に上限があって、高い断熱性が得られない。また、ガラス繊維強化ウレタンフォームを用いた場合、ウレタンフォームは、可燃性であって、安全性が低い。耐候性も低い。
【0009】
また、断熱材の上にラテックスモルタルや石綿セメント板の保護層を設けた場合、ラテックスモルタルや石綿セメント板の保護層は、補強と防水になるが、ある程度の厚さがあって体積が大きく、熱容量が大きくて蓄熱量が多い。従って、保護層に、貯蔵槽から漏れ出た低温液体が接したときに、常温の保護層から極低温の漏出液体に移動する熱量が多い。断熱材の熱通過率が低くても、保護層が蓄えている熱で、低温液体は、初期蒸発速度が速くなる。保冷性が悪くなる。
【0010】
また、防液堤の断熱保冷層を現場打ちする工法は、工場で製作したパネルを現場で貼るプレハブ工法とは異なり、熱伝導率や強度などの品質を広い施工範囲で均一にすることが困難である上、安全性と施工期間の点で、低温液体の貯蔵中に行われる断熱保冷層の改修工事には適していない。
【0011】
[課題を解決するための着想]
1)防液堤の断熱保冷層の工事には、現場打ち工法より品質の均一性や安全性、施工期間に優れたプレハブ工法を採用することにした。そのプレハブ工法に適した断熱保冷パネルを提供することにした。
【0012】
2)防液堤の断熱保冷パネルは、断熱性を要する。その上、低温液体貯蔵槽の下に敷く断熱ブロック程の外力を受けないが、輸送、施工や保守点検者の歩行に耐えるだけの強度を要する。そこで、断熱材に、多数の気泡が内在する軽量気泡コンクリートを採用することにした。軽量気泡コンクリートは、発泡量や気泡形態を制御することにより熱特性を調整することができる。その上、原料の配合割合や養生条件を最適にすることにより強度を確保することができる。泡ガラスやウレタンフォームより強度や耐久性を高めたり、軽量セメント板より断熱性を高めたりすることができる。従って、防液堤の断熱保冷層に求められる性能にすることができる。
【0013】
3)防液堤の断熱保冷パネルは、低温液体貯蔵槽下の断熱ブロックとは異なり、屋外に露出し、雨や雪が降り掛かる。断熱材の軽量気泡コンクリートは、雨水が浸み込み、吸水すると、熱特性が悪化する。また、吸水が凍結と融解を繰り返すと、耐久性が悪化する。そこで、断熱材の軽量気泡コンクリートは、防水することにした。
【0014】
4)防液堤の断熱保冷パネルにおいて、雨や雪が降り掛かる屋外露出面は、貯蔵槽から漏れ出た低温液体が接触する面でもある。断熱材の屋外露出面の防水材にモルタルやセメントを用いると、上記の通り、防水層は、厚くなって、熱容量ないし蓄熱量が多くなる。保冷性が悪化する。そこで、防水材には、塗料を用いることとした。防水用の塗膜は、一般的に言うと、モルタル層やセメント層に比べて桁違いに薄く、熱容量ないし蓄熱量が極めて少ない。低温液体の初期蒸発速度が速くならず、保冷性がほとんど悪くならない。また、防水用の塗膜は、断熱保冷パネルの熱通過率をほとんど悪化させない。防水用の塗膜は、厚さを一定の範囲に限定すると、所望の防水性と低熱容量が得られる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
1)低温液体貯蔵槽を取り囲む防液堤内の底面又は側面に貼り並べて、貯蔵槽から防液堤内に漏れ出た低温液体の蒸発、沸騰を抑制するパネルにおいて、
この断熱保冷パネルは、軽量気泡コンクリート断熱板であって、その断熱板の全部の面又は一部の面に防水塗膜を付着している。
【0016】
2)上記の断熱保冷パネルにおいて、
防水塗膜の厚さは、50μm以上であって、軽量気泡コンクリート断熱板の厚さの40分の1以下である。
【0017】
3)上記の断熱保冷パネルにおいて、
防水塗膜の塗料は、ウレタン樹脂塗料、フッ素樹脂塗料の一種又は二種である。
【0018】
4)上記の断熱保冷パネルにおいて、
軽量気泡コンクリート断熱板は、主原料をケイ酸質粉末と石灰質粉末とし、これらに水と発泡剤を混ぜて原料スラリーにし、原料スラリーを発泡して硬化し、オートクレーブ養生したケイ酸カルシウム水和物であり、直径0.2mm以上の気泡を50vol%以上有する。
【0019】
5)上記の断熱保冷パネルにおいて、
軽量気泡コンクリート断熱板は、絶乾状態の嵩比重が0.35〜0.42であり、熱伝導率が0.07〜0.12W/mKである。
【0020】
6)低温液体貯蔵槽の防液堤の断熱保冷構造において、
上記の断熱保冷パネルを、低温液体貯蔵槽を取り囲む防液堤内の底面又は側面に固定し、軽量気泡コンクリート断熱板の防水塗膜付きの面を屋外に露出しており、その屋外露出面に、雨や雪が降り掛かり、また、貯蔵槽から防液堤内に漏れ出た低温液体が接する構成にしている。
【発明の効果】
【0021】
防液堤の断熱保冷パネルは、その構成部材の軽量気泡コンクリート断熱板の発泡量や気泡形態を制御することにより熱特性を調整し、原料の配合割合や養生条件を調整することにより必要な強度を確保し、防液堤の断熱保冷層に求められる性能にすることができる。泡ガラスやウレタンフォームより強度や耐久性を高めたり、軽量セメント板より断熱性を高めたりすることができる。
【0022】
軽量気泡コンクリート断熱板は、防水塗膜付きの面が屋外に露出し、その面に雨や雪が降り掛かるし、貯蔵槽から防液堤内に漏れ出た低温液体が接する。その面から水が浸み込むのが防水塗膜で止められ、熱特性や耐久性の悪化が防止される。その上、防水塗膜は、モルタル層やセメント層に比べて薄く、断熱保冷パネルの熱特性をほとんど悪化させない。
【0023】
断熱保冷パネルは、工場で製作して防液堤の現場に運んで施工するプレハブ工法に使用される。施工に当たり、熱伝導率や強度などの品質を広い施工範囲で均一にし、安全性を確保して工期を短くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
断熱保冷パネル1は、図1に示すように、方形の平板形状であり、軽量気泡コンクリート断熱板2と、この断熱板2の全部の面、6面に付着した防水塗膜3とから構成している。なお、軽量気泡コンクリート断熱板2は、ラス網の鉄筋を埋め込んでいる。曲げ強度を補強している。方形板状の断熱保冷パネル1は、複数個所に、パネル固定用のボルト孔4を貫通している。
【0025】
軽量気泡コンクリート断熱板2は、多数の微細な独立気泡が内在する軽量気泡コンクリート板である。この製法は、次の通りである。
【0026】
主原料は、珪石、石英などのケイ酸質粉末と、生石灰、消石灰、ポルトランドセメントなどの石灰質粉末である。その他の原料は、アルミニウムなどの金属粉末の発泡剤と、石膏、メチルセルロースなどの粘度調節剤である。これらの原料は、水を混ぜて原料スラリーにする。原料スラリーは、型枠に入れ、水素ガスの発生によって発泡させ、硬化させる。半硬化状態で、所望の寸法に切断し、又は、切断せずに、オートクレーブ養生して水熱反応させ、ケイ酸カルシウム水和物を生成させる。
【0027】
軽量気泡コンクリート板は、原料の配合割合、養生条件、発泡量や気泡形態を調整することにより強度と熱特性が選択される。
【0028】
軽量気泡コンクリート断熱板2は、内在する直径0.2mm以上の気泡が50vol%以上である。55〜75vol%の範囲が好ましい。そのような発泡量であると、絶乾状態の嵩比重が0.35〜0.42の範囲内に調整される。気泡が直径0.2mmより小さくなると、気泡間の壁が薄くなり、強度を確保し難くなる。
【0029】
主原料のケイ酸質粉末と石灰質粉末との配合割合は、CaO/SiO2モル比で0.7〜0.4が最適である。オートクレーブ養生条件は、温度が175〜190℃、圧力が8〜15気圧で、時間が4時間以上であることが好ましい。そのような配合割合、養生条件であると、圧縮強度は、1.5〜3N/mm2となる。熱伝導率は、含水率が約0.9vol%で温度が約20℃の状態で、0.07〜0.12W/mKとなる。独立気泡が多い程、熱伝導率が低くなる。
【0030】
軽量気泡コンクリート断熱板2は、厚さが30〜100mmであり、平面寸法が、例えば、長方形状の600×1800mm位、又は、正方形状の600×600mm位である。人力で取り扱える程度の大きさが好ましい。
【0031】
防水塗膜3は、屋外に露出する表面と、屋外に露出しない裏面と、周囲の4側面とで構成が少し異なる。
【0032】
軽量気泡コンクリート断熱板2の表面、屋外露出面の防水塗膜3は、下地調整の下塗り、中塗りと上塗りで構成している。軽量気泡コンクリート断熱板2の表面は、下地調整の下塗りとしてフィラーを付着し、その上に中塗りとして水系ウレタン樹脂塗料を付着し、その上に上塗りとして水系フッ素樹脂塗料を付着している。フィラーは、目止め剤であり、その付着量は500〜800g/m2である。水系ウレタン樹脂塗料は、長期間耐久性に優れており、その付着量は200〜300g/m2である。水系フッ素樹脂塗料は、微弾性を有し、耐候性に優れており、その付着量は100〜200g/m2である。
【0033】
軽量気泡コンクリート断熱板2の側面の防水塗膜3は、下地調整の下塗りと中塗りと上塗りで構成している。軽量気泡コンクリート断熱板2の側面は、下地調整の下塗りとしてフィラーを付着し、その上に中塗りとして水系ウレタン樹脂塗料を付着し、その上に上塗りとして水系ウレタン樹脂塗料を付着している。下塗りのフィラーは、断熱板2の表面に付着したそれと同じ目止め剤であり、その付着量は500〜800g/m2である。中塗りの水系ウレタン樹脂塗料は、断熱板2の表面に付着したそれと同じ塗料であり、長期間耐久性に優れており、その付着量は200〜300g/m2である。上塗りの水系ウレタン樹脂塗料は、中塗りのそれと同じ塗料であり、長期間耐久性に優れており、その付着量は100〜200g/m2である。
【0034】
軽量気泡コンクリート断熱板2の裏面、屋外非露出面の防水塗膜3は、下地調整の下塗りと上塗りで構成している。軽量気泡コンクリート断熱板2の裏面は、下地調整の下塗りとしてシーラーを付着し、その上に上塗りとして水系ウレタン樹脂塗料を付着している。下塗りのシーラーは、目止め剤であり、その付着量は100〜200g/m2である。上塗りの水系ウレタン樹脂塗料は、断熱板2の表面と側面に付着したそれと同じ塗料であり、長期間耐久性に優れており、その付着量は200〜300g/m2である。
【0035】
防水塗膜3の厚さは、400〜700μmである。軽量気泡コンクリート断熱板2の表面粗さを考慮すると、防水塗膜3の厚さは、50μm以上が好ましい。50μmより薄いと、防水性を確保し難くなる。また、断熱保冷パネル1の熱伝導率を考慮すると、防水塗膜3の厚さは、軽量気泡コンクリート断熱板2の厚さの40分の1以下が好ましい。次の理論に基づいている。
【0036】
軽量気泡コンクリート断熱板2の表面に防水塗膜3を付着した積層状態の熱伝導率λを求める。軽量気泡コンクリート断熱板2は、熱伝導率と厚さをλ2とδ2とする。防水塗膜3は、熱伝導率と厚さをλ3とδ3とする。積層状態の熱伝導率λは、次式になる。
【0037】
λ=λ2・(δ3/δ2+1)/{(λ2/λ3)・(δ3/δ2)+1}
【0038】
軽量気泡コンクリート断熱板2の厚さδ2は、上記の範囲の最小値、30mmとする。防水塗膜3の厚さδ3は、上記の範囲の最大値、700μmとする。上式中のδ3/δ2は、(700/30)×10-3=(7/3)×10-2となる。微少量であって、1に対して無視可能である。
【0039】
防水塗膜3の熱伝導率λ3は、軽量気泡コンクリート断熱板2の熱伝導率λ2、例えば0.084Kcal/mh℃、の2〜3倍である。上式中のλ2/λ3は、1/2〜1/3である。上式中の(λ2/λ3)・(δ3/δ2)は、(1/2〜1/3)×(7/3)×10-2=(7/6〜7/9)×10-2となる。微少量であって、1に対して無視可能である。
【0040】
従って、上式は、λ≒λ2となる。積層状態の熱伝導率λは、軽量気泡コンクリート断熱板2の熱伝導率λ2とほぼ同じになる。
【0041】
断熱保冷パネル1においては、防水塗膜3は、軽量気泡コンクリート断熱板2に比べて桁違いに薄く、積層状態の熱伝導率λを増加させない。(防水塗膜3の厚さδ3/軽量気泡コンクリート断熱板2の厚さδ2)≦(7/3)×10-2≒1/40であれば、防水塗膜3は、積層状態の熱伝導率λを実質的に増加させない。
【0042】
防液堤11は、図2に示すように、LNGタンクやLPGタンクのような低温液体貯蔵槽12の外回りを取り囲んでいる。防液堤11内は、貯蔵槽12から漏れ出た低温液体を留めて置く池になる。防液堤11の内面は、底面と周囲の側面にそれぞれ断熱保冷パネル1を貼り並べ、断熱保冷構造を構成している。
【0043】
防液堤11の底面の断熱保冷構造は、図3に示すように、地盤上のコンクリート基盤21上にドライモルタル22を散布して敷き詰め、その上に断熱保冷パネル1を敷き並べて固定している。断熱保冷パネル1は、裏面がドライモルタル22に接し、屋外非露出面であり、表面が外気に接し、屋外露出面である。表面の屋外露出面には、雨や雪が降り掛かり、また、貯蔵槽12から防液堤11内に漏れ出た低温液体が接する。
【0044】
コンクリート基盤21は、生コンクリートを現場打ちするか、又は、プレキャストのコンクリート板を敷き並べる。ドライモルタル22は、セメントと砂を混合している。断熱保冷パネル1は、ボルト孔4に貫通したアンカーボルト23で、コンクリート基盤21に固定している。浮き上り防止である。
【0045】
防液堤11の側面の断熱保冷構造は、図4に示すように、堤の躯体31の側面に接着層32を形成し、接着層32に断熱保冷パネル1を貼り並べて固定している。断熱保冷パネル1は、裏面が接着層32の接着面に接着し、屋外非露出面であり、表面が外気に接し、屋外露出面である。表面の屋外露出面には、雨や雪が降り掛かり、また、貯蔵槽12から防液堤11内に漏れ出た低温液体が接する。
【0046】
堤の躯体31は、コンクリート製で、地盤上に設立している。断熱保冷パネル1は、ボルト孔4に貫通したアンカーボルト33で、コンクリート躯体31に固定している。
【0047】
[変形例]
1)上記の実施形態において、断熱保冷パネル1は、裏面の屋外非露出面にも防水塗膜3を付着しているが、防液堤11内の底面又は側面に取り付けたときに、裏面の屋外非露出面から吸水しない取付け構造の場合は、裏面には防水塗膜3を付着しない。
2)上記の実施形態において、断熱保冷パネル1は、周囲の4側面にも防水塗膜3を付着しているが、防液堤11内の底面又は側面に取り付けたときに、側面から吸水しない取付け構造、例えば断熱保冷パネル1間の目地を防水処理する場合は、側面には防水塗膜3を付着しない。
3)上記の実施形態において、断熱保冷パネル1の軽量気泡コンクリート断熱板2は、鉄筋が入っているが、無筋にする。
【0048】
[比較試験]
次の実施例と比較例のパネルについて、次の各種の試験を行った。
【0049】
<パネルの圧縮強度>
JISA5416「軽量気泡コンクリートパネル」の圧縮試験に準じ、パネルの圧縮強度を測定した。パネルは、圧縮強度が1.5N/mm2以上のものを適格にした。ただし、指で押して座屈したものは、不適格にした。
【0050】
<低温液体の初期蒸発量>
測定装置は、図5に示すように、断熱容器41を重量測定器42上に設置し、断熱容器41の底部に試験体43を嵌合し、断熱容器41に極低温の液体窒素44を投入する。その投入後の重量の経時変化を重量測定器42で測定する。液体窒素44の投入量は、4Kgである。測定時間は、20分である。試験環境は、気温20℃で、相対湿度60%である。測定時間の20分経過後、液体窒素44の減少量、蒸発量を求めた。パネルは、20分経過後の蒸発量が700g以下のものを適格にした。
【0051】
<パネルの熱伝導率>
JISA1412「熱絶縁体の熱抵抗及び熱伝導率の測定方法」の熱流量計法に準じ、パネルの熱伝導率を測定した。試験体は、寸法が200×200×20mmである。測定温度は、20℃である。パネルは、熱伝導率が0.12W/mK以下のものを適格にした。
【0052】
<パネルの温冷繰返試験>
環境試験装置を用い、相対湿度98%で、設定温度80℃と−20℃の温冷を繰り返した。設定温度での保持時間は、3時間である。設定温度間の移行時間は、2時間である。1サイクルは、10時間である。50サイクル経過後、パネルは、表面をルーペで観察し、外観の異常を調べた。異常が認められなかったパネルは、耐久性があり、適格にした。
【0053】
<パネルの促進耐候性試験>
照射装置は、サンシャインカーボン式ウエザーメータのフィルタを取り外したデューサイクルウエザーメータである。照射時間は、300時間である。照射時間経過後、パネルは、表面をルーペで観察し、外観の異常を調べた。異常が認められなかったパネルは、耐候性があり、適格にした。
【0054】
<パネルの透水試験>
JISA6909「建築用仕上塗材7.13透水試験B法」に準じ、パネルの透水性を測定した。パネルの表面には、ロウトを立て、ロウトの下端の広口をシリコーンシーリング材で止水し、ロウトに水を250mmの高さに入れ、24時間経過後、ロウトの水頭高さを測定し、減水量を求めた。減水量が50ml以下のパネルは、防水性があり、適格にした。
【0055】
〔実施例1〕
この断熱保冷パネルは、次のようにして製造した。原料は、珪石38重量部、生石灰4.5重量部、早強ポルトランドセメント38.5重量部、石膏2.5重量部とALCの解砕物16.5重量部に、外割で発泡剤のアルミニウム粉末0.11重量部、水と粘度調節剤などを混ぜてスラリーにした。原料スラリーは、型枠に入れ、発泡させ、硬化させた。それをオートクレーブで養生した。養生条件は、温度が180℃、圧力が10気圧で、時間が6時間であった。嵩比重が0.37の軽量気泡コンクリート板を得た。その表面に、下地調整フィラー500g/m2、中塗りの水系ウレタン樹脂塗料250g/m2と上塗りの水系フッ素樹脂塗料150g/m2を付着し、防水塗膜を形成した。
実施例1の断熱保冷パネルは、上記のすべての試験について、適格であった。
【0056】
〔実施例2〕
この断熱保冷パネルは、軽量気泡コンクリート板を製造するに当たり、実施例1における原料中の発泡剤を0.09重量部に減らし、その他を実施例1におけるのと同様にした。軽量気泡コンクリート板は、嵩比重が0.41であった。その表面に防水塗膜を形成するに当たり、実施例1における上塗りの水系フッ素樹脂塗料に代えて同量の水系ウレタン樹脂塗料を用い、その他を実施例1におけるのと同様にした。
実施例2の断熱保冷パネルは、上記のすべての試験について、適格であった。
【0057】
〔比較例1〕
このパネルは、実施例1におけるのと同様に、嵩比重が0.37の軽量気泡コンクリート板を製造し、その表面に、ラテックスモルタル10000g/m2を付着した。
比較例1のパネルは、初期蒸発量が多く、不適格であった。その他の試験については、適格であった。
【0058】
〔比較例2〕
このパネルは、実施例1におけるのと同様に、嵩比重が0.37の軽量気泡コンクリート板を製造し、その表面に、下地調整フィラー500g/m2、プライマー200g/m2と無機質塗料のホーローコーティング材50g/m2を付着した。
比較例2のパネルは、温冷繰返試験と促進耐候性試験において、微細なクラックが発生し、不適格であった。耐久性と耐候性が劣る。その他の試験については、適格であった。
【0059】
〔比較例3〕
このパネルは、実施例1におけるのと同様に、嵩比重が0.37の軽量気泡コンクリート板を製造し、その表面に、下地調整フィラー50g/m2、水系ウレタン樹脂塗料30g/m2と水系フッ素樹脂塗料15g/m2を順次付着した。
比較例3のパネルは、透水試験において、不適格であった。塗膜が薄く、防水性が劣る。また、温冷繰返試験と促進耐候性試験において、僅かな微細クラックが発生し、適格にはならなかった。その他の試験については、適格であった。
【0060】
〔比較例4〕
このパネルは、軽量気泡コンクリート板を製造するに当たり、実施例1における原料中の発泡剤を0.15重量部に増やし、その他を実施例1におけるのと同様にした。軽量気泡コンクリート板は、嵩比重が0.32であった。その表面には、実施例1におけるのと同様に、防水塗膜を形成した。
比較例4のパネルは、圧縮強度が低く、不適格であった。その他の試験については、適格であった。
【0061】
〔比較例5〕
このパネルは、軽量気泡コンクリート板を製造するに当たり、実施例1における原料中の発泡剤を0.08重量部に減らし、その他を実施例1におけるのと同様にした。軽量気泡コンクリート板は、嵩比重が0.44であった。その表面には、実施例1におけるのと同様に、防水塗膜を形成した。
比較例5のパネルは、初期蒸発量が多く、不適格であった。また、熱伝導率が高く、不適格であった。その他の試験については、適格であった。
【0062】
〔比較例6〕
このパネルは、軽量気泡コンクリート板に代えて泡ガラス板を用いた。泡ガラス板は、嵩比重が0.22であった。その表面には、ラテックスモルタル10000g/m2とアクリル樹脂塗料200g/m2を順次付着した。
比較例6のパネルは、圧縮強度が低く、不適格であった。また、初期蒸発量が多く、不適格であった。その他の試験については、適格であった。
【0063】
〔比較例7〕
このパネルは、軽量気泡コンクリート板に代えて軽量コンクリートのパーライトコンクリート板を用いた。パーライトコンクリート板は、嵩比重が0.7であった。その表面には、防水塗膜を形成しなかった。
比較例7のパネルは、初期蒸発量が多く、不適格であった。また、熱伝導率が高く、不適格であった。その他の試験については、適格であった。
【0064】
<試験結果>
試験結果は、次の表の通りである。表中、○は、適格を示す。×は、不適格を示す。
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の実施形態における断熱保冷パネルの一部破概略断斜視図。
【図2】同断熱保冷パネルを貼った防液堤の模式縦断面図。
【図3】同断熱保冷パネルを防液堤の底面に貼った断熱保冷構造の概略部分縦断面図。
【図4】同断熱保冷パネルを防液堤の側面に貼った断熱保冷構造の概略部分縦断面図。
【図5】低温液体の初期蒸発量の測定装置の一部縦断概略正面図。
【符号の説明】
【0066】
1 断熱保冷パネル
2 軽量気泡コンクリート断熱板
3 防水塗膜
4 パネル固定用のボルト孔
11 防液堤
12 低温液体貯蔵槽、貯蔵槽
21 コンクリート基盤
22 ドライモルタル
23 アンカーボルト
31 防液堤の躯体
32 接着層
33 アンカーボルト
41 初期蒸発量の測定装置の断熱容器
42 同測定装置の重量測定器
43 同測定装置の試験体
44 同測定装置の液体窒素

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低温液体貯蔵槽を取り囲む防液堤内の底面又は側面に貼り並べて、貯蔵槽から防液堤内に漏れ出た低温液体の蒸発、沸騰を抑制するパネルにおいて、
このパネルは、軽量気泡コンクリート断熱板であって、その断熱板の全部の面又は一部の面に防水塗膜を付着していることを特徴とする低温液体貯蔵槽の防液堤の断熱保冷パネル。
【請求項2】
防水塗膜の厚さは、50μm以上であって、軽量気泡コンクリート断熱板の厚さの40分の1以下であることを特徴とする請求項1に記載の低温液体貯蔵槽の防液堤の断熱保冷パネル。
【請求項3】
防水塗膜の塗料は、ウレタン樹脂塗料、フッ素樹脂塗料の一種又は二種であることを特徴とする請求項1又は2に記載の低温液体貯蔵槽の防液堤の断熱保冷パネル。
【請求項4】
軽量気泡コンクリート断熱板は、主原料をケイ酸質粉末と石灰質粉末とし、これらに水と発泡剤を混ぜて原料スラリーにし、原料スラリーを発泡して硬化し、オートクレーブ養生したケイ酸カルシウム水和物であり、直径0.2mm以上の気泡を50vol%以上有することを特徴とする請求項1、2又は3に記載の低温液体貯蔵槽の防液堤の断熱保冷パネル。
【請求項5】
軽量気泡コンクリート断熱板は、絶乾状態の嵩比重が0.35〜0.42であり、熱伝導率が0.07〜0.12W/mKであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の低温液体貯蔵槽の防液堤の断熱保冷パネル。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の断熱保冷パネルを、低温液体貯蔵槽を取り囲む防液堤内の底面又は側面に固定し、軽量気泡コンクリート断熱板の防水塗膜付きの面を屋外に露出しており、その屋外露出面に、雨や雪が降り掛かり、また、貯蔵槽から防液堤内に漏れ出た低温液体が接する構成にしている低温液体貯蔵槽の防液堤の断熱保冷構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−125609(P2006−125609A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−318526(P2004−318526)
【出願日】平成16年11月1日(2004.11.1)
【出願人】(000219598)東海コンクリート工業株式会社 (9)
【出願人】(000185949)クリオン株式会社 (105)
【Fターム(参考)】