説明

低温液化ガスの充填方法

【課題】高純度が要求される三フッ化窒素、窒素、酸素、アルゴン、六フッ化硫黄、無水塩酸、無水臭化水素、四フッ化炭素及び六フッ化エタンなどの低温の液化ガスを、変質を起こすことなく、少ないエネルギーを用いて簡単な工程によって高圧ガス容器への充填可能な、低温液化ガスの充填方法の提供。
【解決手段】低温液化ガスを高圧ガス充填容器に充填する際に、ダイヤフラムポンプを用いて高圧ガス充填容器に充填する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、常温では気体状態であり、高圧用ガス容器に高圧で充填されて使用される低温液化ガスの充填方法に関する。具体的には、本発明は、低温の液化ガスをダイヤフラムポンプ(Diaphragm pump)を用いて高圧ガス容器に充填させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高純度ガス、例えば高純度NFガスを高純度を維持したまま移動容器に充填する技術は、韓国公開特許第1020030037464号公報(特許文献1)で公知である。この技術は収納塔のNFガスを2段階の隔壁を有する隔壁コンプレッサで押し上げて、フィルターを通してコンテナー内に充填することによって、爆発の危険性を回避し、NFガスの純度を維持することができる。しかしながら、低沸点である液化ガスは、臨界温度以下の低温では液体状態であるが、臨海温度以上になると、気体状態になり、高圧となって爆発の危険性を絶えずかかえており、より安全に液化ガスを高圧容器に充填する必要性が求められている。一般に、これらの低温液化ガスは、高圧用に製作された容器にガス状態で数十〜200kg/cmGの圧力で充填して使用される。このような低温液化ガスとしては、汎用的に用いられる窒素、酸素、アルゴンを始めとして、半導体産業でCVD装置のクリーニング剤や超LSI製造用のドライエッチングガスとして使用される三フッ化窒素(NF、沸点:−129℃)、六フッ化硫黄(SF)、無水塩酸(AHCl)、無水臭化水素(AHBr)、四フッ化炭素(CF)、六フッ化エタン(C)などがある。
【0003】
従来、これら低温液化ガスの充填方法は、製造工程で低温によって凝縮させた後、液体状態で貯蔵容器に貯蔵し、充填の際に気化器または熱交換器を通過させて再び気化させ、この気化したガスをコンプレッサにより加圧しながら、高圧用ガス容器に充填させている。
このように、低温の液化ガスを高圧用ガス容器に充填させる際に低温液化ガスを気化させ、この気化したガスをコンプレッサ(圧縮機)で加圧しながら容器に充填させる方法を主に利用した理由は、ポンプまたはコンプレッサの場合は通常常温で使用されるが、ポンプの場合は低沸点の液体に使用すると、空洞現象(低沸点の液体が気化してポンプヘッドにガス状態で充填され、これによりポンプの作動が不可能になる現象:キャビテーション(Cavitation)という)が発生する。この空洞現象が発生すると、ポンプは正常的な運転が不可能になるが、気化ガスを圧縮させるコンプレッサではこのような現象を懸念する必要がないためである。
【0004】
ところが、このような低温液化ガスの充填方法は、気化ガスをコンプレッサで圧縮させるときに発生する圧縮熱によって充填ガスの温度が上昇し、激しい場合には製品である充填ガスが分解してしまい、これにより不純物が増加して純度の低下を起こし、部品の磨耗による高いメインテナンス費用、高圧における充填速度低下といった問題点があるが、コンプレッサの特性上、明確な解決方案がないのが実情であって、単にコンプレッサヘッド或いは吐き出しガスを冷却させて圧縮熱による問題点を最小化し、あるいは吐き出し側にフィルタを取り付けて不純物粒子を除去するなどの補完策を併用しているが、抜本的な問題解決はなされていない。
しかも、半導体産業の発達に伴って、この分野で使用される低温液化ガスの場合には、要求される純度が益々厳しくなり、その純度及びガス中の不純物含量に対する要求もさらに激しくなっている。
従来の低温液化ガスを気化させた後、気化したガスをコンプレッサで加圧しながら高圧用ガス充填容器に充填させる方法は、気化及び加圧工程によるエネルギー所要量が大きいうえ、半導体製造工程でエッチングガスとして用いられる三フッ化窒素(NF)ガスのように高純度が要求されるガスの場合には、ガスの変質をもたらすおそれが大きい。
従って、この分野では、気化及び加圧工程におけるエネルギー使用量を削減しながら、充填過程で低温液化ガスの変質を生じさせるおそれのない液化ガス充填方法の開発が求められる実情にある。
【0005】
【特許文献1】韓国公開特許第2003−0037464号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ダイヤフラムポンプを用いて低温の液化ガスを液体状態で加圧し、この加圧された液化ガスの気化器を介して或いは直接高圧用ガス容器に充填させる方法に関するものである。
本発明者らは、NFのようにダイヤフラムポンプを用いて高純度が要求される低温液化ガスを高圧用ガス容器に充填させることにより、従来のコンプレッサを用いて気体状態のガスを高圧用ガス容器に充填させる方法に比べて充填過程で変質を起こさないばかりか少ないエネルギーを用いて充填させることができることを確認し、本発明を完成するに至った。
本発明の目的は、ダイヤフラムポンプ、特に遠隔ヘッドを有するダイヤフラムポンプを用いて低温液化ガスを高圧用ガス容器に充填することにより、コンプレッサの有する問題、例えば圧縮過程における発熱、高エネルギーを必要とするための費用、振動及び騒音といった問題点を根本的に防止することができるため、一般的な低温液化ガスを充填する用途は勿論のこと、NFのような超高純度半導体ガスの充填に至るまで経済的且つ安定的な新規の液化ガス充填技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
液体を加圧して移送させるポンプにおいて、隔膜の運動によって液体の吸い上げ、排出作用を行う形式のポンプを隔膜ポンプまたはダイヤフラムポンプという。その代表的なものとしては、ガソリン自動車の燃料ポンプがある。
ダイヤフラムポンプを用いた低温液化ガスの充填方法は、加圧過程でガスではなく液体状態でポンプを介して所望の圧力まで容易に加圧することができ、低圧及び高圧でほぼ一定の流量で移送可能であって高圧用ガス充填容器への充填時間を短縮することができるうえ、高い圧縮比でも発熱量が極めて少ないので、NFのように高温で反応性及び分解性が著しく増加する物質に対しても安全に高圧用ガス容器に充填することが可能である。また、ダイヤフラムポンプのヘッド部分には液体(低温液化ガス)が充満するので潤滑作用がなされる。これにより、摩擦または磨耗による金属粒子の生成を根本的に遮断することができるとともに、大容量コンプレッサを使用すべきガス圧縮過程に比べて小型且つ小容量の装置を使用することができるため、ポンプの動力費用や運転及びメインテナンス費用を最小化することができるうえ、高圧用ガス容器への充填時間を短縮させて運転効率の面でも極めて有利である。
【0008】
ダイヤフラムポンプは、液体の移送及び充填用として用いられるポンプであって、ダイヤフラム(隔膜)と逆止弁とからなるヘッド、動力を生じさせるモータ、及びモータの回転力を用いて油圧を形成する機械的駆動部位(ギヤ及びピストン作動部位)から構成されていることが一般的である。ところが、ダイヤフラムポンプに用いられるオイルの場合、低温及び高温ではその物理的特性の変化が激しく、特に低温では凍結または粘度の急激な変化により正常的な作動を期待することが難しく、これにより低温工程では使用できないという限界があった。本発明では、このようなオイルを用いるダイヤフラムポンプの限界を克服するために、ダイヤフラムオイルと低温の液化ガスが直接接触しないように、オイル側ポンプヘッドと流体側遠隔ヘッドとからなるダイヤフラムポンプを選定すると共に、ポンプヘッドで生成された油圧を移送流体に伝達し得るように、両ヘッド間の管には氷点が低く且つ低温における物理的特性変化の少ない流体を注入しこれを油圧伝達媒体として用いることにより、ダイヤフラムポンプを用いて低温の液化ガスを高圧で加圧し、高圧用ガス容器に充填することができた。
【0009】
ダイヤフラムポンプの両ヘッドの間に油圧を伝達する油圧伝達媒体として用いることが可能な物質としては、常温では液体であり、氷点が−10〜−150℃であり、低温で物理的特性の変化が少ない物質であればいずれでもよく、例えば、エタノール、アセトン、トリクロロエタン、ジクロロフルオロエタン、イソペンタン、車両用不凍液(水とエチレングリコールとの混合物)などがある。これらの流体は、使用温度に応じて適切に選択して使用する。
【0010】
本発明において、低温の液化ガスが液体状態で貯蔵されている貯蔵容器からダイヤフラムポンプの吸い込み部まで配管によって連結し、低温液化ガスが蒸発して空洞現象が発生しないよう吸い込み配管を徹底的に断熱させ或いは低温冷媒で冷却させることができる構造とすることが有利である。
ダイヤフラムポンプの遠隔ヘッド部分は、空洞現象の予防のために徹底的に断熱させ、必要時に低温冷媒で冷却することが可能なコイルまたは二重ジャケットを設置することが良い。ダイヤフラムポンプの吐き出し配管には、該ポンプの起動(priming)と吐き出し配管内の残留液を貯蔵タンクに戻すことができるように、貯蔵タンクに連結された配管を設置する。該ポンプの起動操作の際には、この配管を介して貯蔵タンクの液を循環させ、液化ガス充填作業完了の後には吐き出し配管内の残留液と圧力を貯蔵タンクに戻して製品の損失を最小化する。また、ダイヤフラムポンプの作動状態と吐き出し圧力を確認することができるようにダイヤフラムポンプに圧力計を設置し、異常過圧が発生する場合に解消することが可能な安全装置を取り付ける。低温の液化ガスが配管に充満している状態で密閉したままで維持される場合、昇温による液化ガスの膨張により異常過圧が形成され、激しい場合には配管が破損するおそれもあるので注意しなければならない。ダイヤフラムポンプによって加圧された低温液化ガス液は、充填設備に連結された配管を介して高圧ガス充填容器へ移送して直接充填してもよく、吐き出し配管に別途に設置されている気化器又は熱交換器を介して常温で気化させた後高圧用ガス容器に充填してもよい。直接高圧用ガス容器に充填する場合は、充填済み容器のバルブを閉にした後、室温で放置することにより、充填された低温液化ガスが気化するようにする。低温液化ガスの充填量は、重量秤で測定し、充填圧力を確認することが可能な圧力計を充填設備に取り付けて過量充填されないようにする。本発明で提供する低温液化ガスの充填方法は、単独の高圧用ガス充填設備及び複数の充填設備のいずれにも適用可能である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の方法は、高純度が要求される低温の液化ガスを、変質を起こすことなく、少ないエネルギーを用いて簡単な工程によって高圧用ガス容器に充填させることができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明する。ところが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例
本発明に係る低温液化ガスの充填方法を図1に基づいて具体的に説明する。充填試験のために使用された液化ガスは、低温で凝縮した液状の高純度NFガスである。貯蔵タンクTはNF製造工程と配管で連結されており、貯蔵タンクTの外部は断熱のために二重真空ジャケットで出来ている。貯蔵タンクに貯蔵されたNFガスは、吸い込み配管Sを介してダイヤフラムポンプ吸い込み口に移送され、吸い込み配管Sも二重管状の真空断熱配管に製作し、ダイヤフラムポンプ遠隔ヘッドHにはコイルを取り付け、低温流体(液体窒素、液体空気など)を通過させて遠隔ヘッドの温度を−90℃に維持させた。ポンプヘッド及びオイル貯蔵槽にはダイヤフラムポンプ用オイルで充填し、ポンプヘッドHと遠隔ヘッドHとの間には脱水、脱気されたエタノールで充填する。ポンプの吐き出し側にはポンプの正常作動状態を確認することができるように圧力計を設置し、ポンプのプライミング及び充填作業の完了の後、配管に残留されている液を貯蔵タンクに戻すことができるように貯蔵タンクに連結された循環配管を設置する。高圧ガス充填容器とポンプの吐き出し配管Sを連結し、充填量を確認することができるように高圧ガス充填容器は重量秤上に設置する。
【0013】
本発明による低温液化ガスの充填作業は、次の順序によって行う。
1)充填配管Sと高圧容器Vとを連結し、配管内の空気及び水分を除去するためにバルブV、Vは閉にし、バルブV、V、Vを開にして1Torr以下の真空にする。この際、高圧容器Vは、予め内部の水分を除去し、真空処理して充填する準備をしておく。
2)1)の作業が完了すると、ポンプの起動(プライミング)のためにバルブV、V、Vを閉にし、バルブV、Vを開にした後、ダイヤフラムポンプを作動させて自体循環させる。
3)ダイヤフラムポンプ遠隔ヘッドの温度が液を移送することができるほどに十分低くなり、バルブVを閉にしたときに圧力が急激に上がると、バルブV、Vを開いてNF液を高圧ガス充填容器に充填する。
4)充填作業が完了すると、バルブVを閉にし、ポンプを止めた後、バルブV、V、Vを開いて充填配管S内の残留液を貯蔵タンクに戻し、均圧させた後、全てのバルブを再び閉にし、高圧ガス充填容器を分離する。この高圧ガス充填容器は常温に放置して室温に昇温する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のダイヤフラムポンプを用いた低温液化ガスの充填工程を示す図である。
【符号の説明】
【0015】
液化ガス貯蔵タンク
吸い込み配管
吐き出し配管
循環配管
充填配管
P ダイヤフラムポンプ
ポンプ遠隔ヘッド
ポンプヘッド
V 高圧ガス容器
b 秤
、V、V、V、V バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低温液化ガスを高圧充填容器に充填する方法において、ダイヤフラムポンプを用いて高圧充填容器に充填することを特徴とする低温液化ガスの充填方法。
【請求項2】
前記低温液化ガスが、三フッ化窒素、窒素、酸素、アルゴン、六フッ化硫黄、無水塩酸、無水臭化水素、四フッ化炭素及び六フッ化エタンの中から選択されるものであり、前記ダイヤフラムポンプが、互いに分離している遠隔ヘッドとポンプヘッドを備え、前記遠隔ヘッドと前記ポンプヘッドとの間に油圧伝達媒体を介在させることを特徴とする請求項1に記載の低温液化ガスの充填方法。
【請求項3】
前記油圧伝達媒体としては、常温では液体であり、氷点が−10〜−150℃である液体を用いることを特徴とする請求項1又は2に記載の低温液化ガスの充填方法。
【請求項4】
前記油圧伝達媒体が、エタノール、イソペンタン、車両用不凍液、アセトン、1,1,1−トリクロロエタン、ジクロロフルオロエタン及びこれらの混合物から選択されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の低温液化ガスの充填方法。
【請求項5】
ダイヤフラムポンプによって加圧された液体を、直接容器に充填し、或いはポンプの吐き出し側に取り付けられている蒸発器または気化器によって気化させた後ガス状態で容器に充填することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の低温液化ガスの充填方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−349170(P2006−349170A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−161673(P2006−161673)
【出願日】平成18年6月9日(2006.6.9)
【出願人】(505139779)蔚山化學株式会社 (7)
【氏名又は名称原語表記】Ulsan Chemical Co., Ltd.
【住所又は居所原語表記】290 Maeam−dong, Nam−ku, Ulsan, Republic of Korea
【Fターム(参考)】