説明

低温特性の改良されたフルオロエラストマーおよびその製造方法

低いガラス転移温度および望ましい物理的性質の独特な特徴を有するフルオロエラストマーを形成するのに適した化合物を調製する。この化合物は、一般に弾性コポリマー、硬化性成分、および少なくとも1種類の鉱物質充填剤を含む。この弾性コポリマーは、フッ化ビニリデンから誘導される共重合化モノマー単位を含む。加硫した場合、その得られる弾性化合物は、引張強さ、伸び、および低温時の収縮(TR−10)で示される望ましい物理的特性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温特性の改良されたフルオロエラストマーの形成に適した化合物に関する。本発明にはまた、そのフルオロエラストマーの製造方法が含まれる。
【背景技術】
【0002】
乗用車および貨物自動車に対する燃料蒸発基準がますます厳しくなり、燃料装置構成部品が燃料タンク、給油管路、燃料噴射装置シール、および燃料シールなどの自動車構成部品を通って排気される燃料蒸気を最小限にすることが要求されている。フッ化ビニリデン(VDF)とヘキサフルオロプロピレン(HFP)のコポリマーおよびテトラフルオロエチレン(TFE)とフッ化ビニリデン(VDF)とヘキサフルオロプロピレン(HFP)のターポリマーなどのフルオロエラストマーが、上記で言及した燃料シールの使用による燃料の透過を低減するために用いられてきた。しかしこれら燃料シール用途に使用されるフルオロエラストマーは、一般に寒冷気候に対する密封性を維持するために低温特性が必要である。
【0003】
【特許文献1】米国特許第3,470,176号明細書
【特許文献2】米国特許第3,546,186号明細書
【特許文献3】米国特許第3,523,118号明細書
【特許文献4】米国特許第5,225,504号明細書
【特許文献5】米国特許第4,243,770号明細書
【特許文献6】米国特許第4,361,678号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これらの懸念に対処するために燃料シール用の様々な種類のフルオロエラストマーが提案されてきた。一般にこれらのエラストマーのうち最も成功しているものは、通常ペルフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)を含有する。PMVEは得られるポリマーのガラス転位温度を効果的に低下させる。しかしペルフルオロアルキルビニルエーテルモノマーは高価であり、したがって得られるフルオロエラストマーには比較的高い値段がつく。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、低温物性および望ましい物理的性質の独特な特徴を有するフルオロエラストマーの形成に適した化合物に向けられる。この化合物は、フッ化ビニリデン(VDF)、少なくとも1個の硬化部位部分、および実質的に少しも存在しない過フッ素化ビニルエーテルモノマーから誘導される共重合化単位を有する弾性コポリマーを含む。
【0006】
その化合物はまた、硬化性成分および少なくとも1種類の鉱物質充填剤を含む。好ましくはこの鉱物質充填剤は、その弾性コポリマー100重量部当たり少なくとも10重量部で存在する。加硫した場合、その得られる化合物は、引張強さ、伸び、および低温時の10%収縮に対する温度(TR10)によって表される望ましい物理的性質を有する。
【0007】
引張強さに関しては本発明は、一般に3.5MPa以上のASTM D 418−02による引張強さを示す。
【0008】
ASTM D 1329−02による低温時の10%収縮に対する温度(TR10)は、−20℃以下、好ましくは−22℃以下である。
【0009】
本発明の化合物は、従来の方法を用いて加硫することができる。さらに本発明の化合物を用いて製造される物品は、自動車産業での用途を含めた様々なシーリング用途に適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、加硫した場合にシーリング用途用のフルオロエラストマーとして使用するのに適したポリマー化合物に向けられる。このポリマー化合物は、フッ化ビニリデン(VDF)を含んだ弾性コポリマーを含む一般には多成分系である。この化合物はまた、硬化性成分および少なくとも1種類の鉱物質充填剤を含有する。この化合物は、例えば酸受容体、加工助剤、または着色剤などの1種または複数種の通常の補助剤を含むことができる。本発明の鉱物質充填剤は、低温時の望ましい温度収縮点を達成するのを助け、かつ得られた加硫後の物品の物理的性質を維持することを目的とする。本発明の目的では弾性コポリマーは、得られる加硫後の物品が100%以上のASTM D 418−02による伸びを示すものである。
【0011】
本発明のコポリマーは、少なくともフッ化ビニリデンと実質的に少しも存在しない過フッ素化ビニルエーテルモノマーとの共重合化単位および別の通常のモノマーの共重合化単位を含む。「実質的に少しも存在しない過フッ素化ビニルエーテルモノマー」とは、そのフルオロポリマーが、過フッ素化ビニルエーテルモノマーから誘導される5モル%未満の共重合化単位、より好ましくは過フッ素化ビニルエーテルモノマーから誘導される約3または2モル%未満の共重合化単位を含み、また最も好ましくは過フッ素化ビニルエーテルモノマーから誘導される共重合化単位をまったく含まないことを意味する。例えばこの過フッ素化ビニルエーテルモノマーには、ペルフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)、ペルフルオロプロピルビニルエーテル(PPVE)が挙げられる。
【0012】
本発明の目的ではコポリマーという用語には、2種類以上のモノマー単位から誘導されるポリマーを含めることを意図している。好ましい実施形態において本発明には、最終の加硫後化合物で特定の物理的特性を達成するために使用する特定のコポリマー、ターポリマー、または4元重合体を含めることができる。
【0013】
好適なモノマーの非限定的な例には、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン、ペンタフルオロプロピレン、フッ化ビニル、プロピレン、およびエチレンから選択される組成物が挙げられる。これらの言及したモノマーの組合せもまた、本発明の第一成分に使用することができる。この第一成分にはまた、式CF2=CFRf(Rfはフッ素または炭素原子1から8個のペルフルオロアルキル)のエチレン性不飽和モノマーを含めることができる。
【0014】
当業技術者は、特定のモノマーを適切な量で選択して弾性ポリマーを形成することができる。したがってモル%に基づいてモノマーの適切なレベルが、弾性ポリマー組成物を達成するために選択される。
【0015】
好ましくは本発明のフルオロカーボンポリマーは、フッ化ビニリデン(VDF)から誘導される反復単位約50〜80モル%と、式CF2=CFRf(Rfはフッ素または炭素原子1から8個のペルフルオロアルキル)の過フッ素化エチレン性不飽和モノマーから誘導される反復単位約10〜50モル%とを含む。このフルオロカーボンポリマーは、任意にフッ化ビニリデン(VDF)以外のフルオロモノオレフィンから誘導される反復単位を約40モル%まで含むことができる。このような他のフルオロモノオレフィンには、例えばテトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(hexafluoropropene)(HFP)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、1−ヒドロペンタフルオロプロペン、ペルフルオロシクロブテン、およびペルフルオロ(メチルシクロプロペン)が挙げられる。任意に前述の1種または複数種のフルオロモノオレフィンを、エチレンおよびプロピレンなどのフッ素を含まないオレフィンモノマーと共重合させることもできる。
【0016】
代替の好ましい実施形態では本発明のフルオロカーボンポリマーは、硬化部位部分を有し、フッ化ビニリデン(VDF)から誘導される反復単位を約45〜85モル%、テトラフルオロエチレン(TFE)から誘導される反復単位を約0〜32モル%、およびヘキサフルオロプロピレン(HFP)から誘導される反復単位を約5〜25モル%含む。このフルオロカーボンポリマーは、任意にフッ化ビニリデン以外のフルオロオレフィンから誘導される反復単位を約25モル%まで含むことができる。このような他のフルオロモノオレフィンには、例えばクロロトリフルオロエチレン(CTFE)、ヒドロペンタフルオロプロペン、ペルフルオロシクロブテン、およびペルフルオロ(メチルシクロプロペン)が挙げられる。任意に前述の1種または複数種のフルオロモノオレフィンを、エチレンおよびプロピレンなどのフッ素を含まないオレフィンモノマーと共重合することができる。また本発明には、最終の加硫後化合物において特定の物理的特性または耐薬品性、例えば溶剤膨潤度を達成するために使用するコポリマー、ターポリマー、または4元重合体の特定のブレンドを含めることができる。好ましくはブレンドを形成するために組み合わせられる少なくとも2種類のコポリマーは、少なくとも3重量%のフッ素含量の差を有する。高フッ素ターポリマーゴムと低フッ素ターポリマーゴムを含有するブレンドの非限定的な例には、TFE/HFP/VDF/硬化部位モノマー(CSM)=9.9/14.3/75.3/0.5モル%、TFE/HFP/VDF/CSM=13.1/17.5/68.9/0.5モル%、TFE/HFP/VDF/CSM=15.6/17.7/66.2/0.5モル%、HFP/VDF/CSM=22/77.5/0.5モル%、およびTFE/HFP/VDF/CSM=30.1/20.7/48.7/0.5モル%が挙げられる。
【0017】
この弾性コポリマーの成分は、一般に式、a)CX2=CX(Z)(式中、(i)Xはそれぞれ独立にHまたはFであり、(ii)ZはBr、I、Cl、またはRf2U(ここでU=Br、I、Cl、またはCN、Rf2=任意にO原子を含有する過フッ素化された二価の連結基)である)、あるいは(b)Y(CF2)qY(ここで(i)YはBrまたはIまたはClであり、(ii)q=1〜6)の1種または複数種の化合物から誘導される有効量の硬化部位部分を含む。好ましくはこの硬化部位部分は、CF2=CFBr、CF2=CHBr、ICF2CF2CF2CF2I、CH22、BrCF2CF2Br、CF2=CFO(CF23−OCF2CF2Br、CF2=CFOCF2CF2Br、CH2=CHCF2CF2Br(BTFB)、CH2=CHCF2CF2I、CF2=CFCl、およびこれらの混合物からなる群から選択される1種または複数種の化合物から誘導される。最も好ましい実施形態ではそのヨウ素、臭素、または塩素は、その化合物の第一成分の鎖末端に化学的に結合している。任意にニトリル硬化部位部分もまた使用することができる。その架橋性組成物はさらに、熱の作用下でニトリルの三量体化によりトリアジン環の形成を促進させることが知られている1種または複数種の物質を含むことができる。それらには、(特許文献1)(特許文献2)に記載のヒ素、アンチモン、およびスズの有機金属化合物ならびに(特許文献3)に記載の金属酸化物が挙げられ、これらの特許はすべてそれらの全体が本明細書中に組み込まれる。
【0018】
この化合物はまた、そのフルオロポリマーの加硫を可能にする硬化性成分を含む。この硬化性成分には、例えば過酸化物および1種または複数種の架橋助剤などの硬化性材料を挙げることができる。過酸化物加硫剤には有機または無機過酸化物が挙げられる。有機過酸化物、特に力学的混合温度で分解しないものが好ましい。非限定的な例には、過酸化ジクミル、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)へキサン、過酸化ジ−t−ブチル、t−ブチルペルオキシベンゾアート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)へキサン−3、および過酸化ラウレルが挙げられる。他の好適な過酸化物加硫剤は、(特許文献4)(タツ(Tatsu)他)中に列挙されている。使用される過酸化物加硫剤の量は、一般にはフルオロポリマー100重量部当たり0.1から5重量部、好ましくは1から3重量部であるはずである。他の通常のラジカル開始剤が本発明で使用するのに適している。
【0019】
有機過酸化物を用いたフルオロ炭化水素ポリマーの過酸化物加硫では、加硫助剤を含むことが望ましい場合が多い。当業技術者は、所望の物理的性質に基づいて通常の加硫助剤を選択することができる。このような薬品の非限定的な例には、トリ(メチル)アリルイソシアヌレート(TMAIC)、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリ(メチル)アリルシアヌレート、ポリ−トリアリルイソシアヌレート(ポリ−TAIC)、キシリレン−ビス(ジアリルイソシアヌレート)(XBD)、N,N’−m−フェニレンビスマレイミド、フタル酸ジアリル、トリス(ジアリルアミン)−s−トリアジン、亜リン酸トリアリル、1,2−ポリブタジエン、エチレングリコールジアクリラート、ジエチレングリコールジアクリラートなどが挙げられる。別の有用な加硫助剤は、式CH2=CH−−Rf1−CH=CH2(Rf1は炭素原子1から8個のペルフルオロアルキレンであることができる)によって表わすことができる。このような加硫助剤は、最終の硬化後エラストマーに高い機械的強度を与える。これらは、一般にはフルオロ炭化水素ポリマー100重量部当たり1から10重量部、または好ましくは1から5重量部の量が使用される。
【0020】
鉱物質充填剤は、得られる加硫後ポリマーの望ましい物理的特性を達成するために本発明において使用される。本発明の目的の場合、鉱物質充填剤は天然でも合成でもよく、一般には周期表中の2、4、8、12、13、および14族の金属の酸化物、フッ化物、炭酸塩、および硫酸塩、またはこれらの組合せが挙げられる。カーボンブラック充填剤は、特にこの群から除外される。これらの鉱物質充填剤は、好ましくはその化合物の第一成分100重量部当たり少なくとも約10重量部が含まれる。鉱物質充填剤の非限定的な例には、カーボンブラック以外のクレー、シリカ(SiO2)、タルク、ケイ藻土、硫酸バリウム、ケイ灰石(CaSiO3)、炭酸カルシウム(CaCO3)、フッ化カルシウム、酸化チタン、および酸化鉄が挙げられる。シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、またはステアリン酸を用いて表面処理または被覆した鉱物質充填剤を使用することができる。通常の鉱物質充填剤の組合せもまた使用することができる。当業技術者は、加硫後化合物で所望の物理的特性を達成するために特定の充填剤を必要な量で選択することができる。これら鉱物質充填剤成分は、カーボンブラック充填剤と比べた場合、低温時の望ましい収縮(TR−10)を保持しながら、伸びおよび引張強さの値によって表される好ましい弾性および引張特性を保持することができる化合物をもたらす。
【0021】
通常の補助剤もまた、その化合物の特性を向上させるために本発明の化合物に混ぜることもできる。例えば酸受容体を使用してその化合物の硬化安定性および熱安定性を助けることができる。好適な酸受容体には、酸化マグネシウム、酸化鉛、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、二塩基性亜リン酸鉛、酸化亜鉛、炭酸バリウム、水酸化ストロンチウム、炭酸カルシウム、水滑石、ステアリン酸のアルカリ塩、シュウ酸マグネシウム、またはこれらの組合せを挙げることができる。これらの酸受容体は、好ましくはそのポリマー100重量部当たり約1から約20重量部の範囲の量が用いられる。
【0022】
本発明のポリマーは、遊離基バッチまたは半バッチ、あるいは連続遊離基乳化重合法を用いて調製することができる。これらはまた遊離基懸濁重合法により調製することもできる。
【0023】
例えば連続乳化法を使用する場合、そのポリマーは一般には連続攪拌槽反応器中で調製される。重合温度は、圧力2から8MPaで40℃から145℃、好ましくは100℃から135℃の範囲にあることができる。滞留時間20から60分が好ましい。遊離基の発生は、過硫酸アンモニウムなどの水溶性開始剤の使用により、熱分解によるまたは硫酸ナトリウムなどの還元剤との反応による影響を受ける可能性がある。分散液を安定化するには、pHを3から7の範囲に制御するために、通常は水酸化ナトリウムなどの塩基またはリン酸二ナトリウムなどの緩衝剤の添加とあいまって、ペルフルオロオクタン酸アンモニウムなどの不活性界面活性剤を用いることができる。未反応モノマーは、減圧して蒸発させることにより反応器の流出ラテックスから取り除かれる。ポリマーはそのストリッピングされたラテックスから凝固により回収される。
【0024】
例えば凝固は、酸の添加によりラテックスのpHを約3まで下げ、次いでその酸性化したラテックスに硝酸カルシウム、硫酸マグネシウム、または硫酸カリウムの水溶液などの塩溶液を加えることによって行うことができる。このポリマーを漿液から分離し、次いで水で洗浄した後に乾燥する。乾燥後、生成物は硬化することができる。
【0025】
得られるポリマーの分子量分布を調節するためにその重合中に連鎖移動剤を使用することができる。連鎖移動剤の例には、イソプロパノール、メチルエチルケトン、酢酸エチル、マロン酸ジエチル、イソペンタン、1,3−ジヨードペルフルオロプロパン、1,4−ジヨードペルフルオロブタン、1,6−ジヨードペルフルオロへキサン、1,8−ジヨードペルフルオロオクタン、ヨウ化メチレン、ヨウ化トリフルオロメチル、ペルフルオロ(イソプロピル)ヨージド、およびペルフルオロ(n−ヘプチル)ヨージドが挙げられる。ヨウ素含有連鎖移動剤の存在下での重合は、フルオロエラストマーのポリマー鎖当たり1個または2個のヨウ素原子を有し、それらが鎖末端と結合したポリマーをもたらすことができる(例えば、その全体が本明細書中に組み込まれている(特許文献5)および(特許文献6)を参照されたい)。このようなポリマーは、連鎖移動剤の不在下で作製されるポリマーと比較して改善された流動性および加工性を有することができる。一般にはフルオロエラストマーの鎖末端と化学的に結合した約1モル%までの、好ましくは0.1〜0.3モル%のヨウ素がポリマー中に取り込まれることになる。
【0026】
その架橋性フルオロポリマー組成物は、密閉式混合機(例えばバンバリーミキサ)、ロールミルなどの通常のゴム混合装置のいずれかを用いて硬化性成分と混ぜ合わせるか、あるいは1または数ステップで混合することができる。最高の結果を得るには混合温度は、約120℃を超えて上昇するべきではない。効果的な硬化を得るためには混合の間に全体にわたって均一にこれらの成分および添加剤を分配することが必要である。
【0027】
次いでこの混合物を、例えば押出(例えばホースまたはホースライニングの形状へ)によって、または成形(例えばOリングシールの形態へ)によって加工し形状を与える。次いでこの成形加工した物品を加熱してそのゴム組成物を硬化し、硬化エラストマー物品を形成することができる。
【0028】
この配合混合物のプレス成形(すなわちプレス硬化)は、一般には温度約120〜220℃、好ましくは約140〜200℃で、約1分間から約15時間、通常は約1〜15分間行う。この組成物を成形するには圧力約700〜20,000kPa、好ましくは約3400〜6800kPaが一般に用いられる。その金型は、最初に離型剤を塗布しプリベークしてもよい。
【0029】
この成形された加硫物をオーブン中で温度約140〜240℃、好ましくは温度約160〜230℃で、その試料の断面厚に応じて約1〜24時間以上のあいだ後硬化することができる。厚い断面の場合、後硬化中の温度は一般にこの範囲の下限から望ましい最高温度まで漸次上昇している。使用される最高温度は好ましくは約260℃であり、この値で約1時間以上保つ。
【0030】
本発明の硬化した化合物は、従来の化合物と比べた場合、引張強さおよび低温時収縮(TR−10)に関して有利な物理的特性の組合せを示す。この化合物は、引張強さ試験(ASTM D 418−02)によって表示される引張強さの値が約3.5MPa以上を示す。この化合物はまた、破断時の伸び試験(ASTM D 418−02)によって表示される破断時の伸びの値が約100%以上を示す。
【0031】
この引張強さおよび破断時の伸びの値は、この材料の物理的な強度、弾性、および粘弾性挙動の指標である。この化合物はまた、約−20℃以下、好ましくは−22℃以下のTR−10を有する。
【0032】
この得られた化合物は、ASTM D 471−98による燃料H(CE15)中の70℃で22時間での溶剤体積膨潤度が約60%以下を示す。これら言及した物理的特性の組合せは、低温性能を必要とするシーリング用途に対してこの硬化性化合物を十分適したものにする。
【0033】
本発明を次の実施例でさらに例示する。
【実施例】
【0034】
下記の実施例および比較例で試料を調製し、それら試料の特性を評価した。すべての濃度および割合は、別段の指示がない限り重量単位である。また実施例および比較例中で使用するフルオロエラストマー化合物を表1にまとめる。すべての量は、重量部すなわちゴム100重量部当たりの重量部(phr)で表す。実施例および表中に提示されるVDFはフッ化ビニリデンであり、TFEはテトラフルオロエチレンであり、HFPはヘキサフルオロプロピレンであり、PMVEはペルフルオロメチルビニルエーテルであり、またBTFBは4−ブロモ−3,3,4,4−テトラフルオロブテンである。
【0035】
試験法
ムーニー粘度は、ASTM 1646−00(ML 1+10 121℃)により求めた。結果はムーニーの単位で記録する。
【0036】
硬化レオロジー試験は、未硬化配合混合物に関し、アルファ・テクノロジー・ムービング・ダイ・レオメーター(Alpha Technology Moving Die Rheometer)(MDR)モデル2000を使用し、ASTM D 5289−95に従って177℃、予熱なし、経過タイム12分(別段の指示がない限り)、およびアーク0.5℃で行った。最小トルク(ML)、最大トルク(MH)すなわち平坦域または極大点が得られない場合は指定期間中に達成される最高トルク、およびトルクの差ΔTすなわち(MH−ML)を記録した。また、ts2(トルクがMLより2単位増す時間)、t’50(トルクがML+0.5[MH−ML]に達する時間)、およびt’90(トルクがML+0.9[MH−ML]に達する時間)を記録した。
【0037】
プレス硬化試料(別段の指示がない限り150×150×2.0mmシート)は、177℃において約6.9×103kPaで10分間プレスすることによって物理的性質測定用に調製した。
【0038】
破断時の引張強さおよび破断時の伸びは、ASTM Die Dにより2.0mmシートから切り取った試料に関してASTM D 412−98を用いて測定した。
【0039】
ガラス転移温度(Tg)は、窒素流および加熱速度20℃/分の下でパーキン−エルマー(Perkin−Elmer)示差走査熱量測定DSC 7.0によりASTM D 793−01およびASTM E 1356−98に従って測定した。ガラス転移温度(Tg)は、温度変化率20℃/分で−40℃から200℃までに得られるピークの中点温度から得た。
【0040】
低温時収縮は、冷却媒体としてエタノールを使用するASTM D 1329−02を用いて測定した。TR−10は、10%収縮に対する温度である。単位は℃で記録される。
【0041】
溶剤体積膨潤度は、ASTM D 471−98法に従って燃料H(CE15、すなわち体積単位でエタノール15%、イソ−オクタン42.5%、トルエン42.5%)を用いて70℃で22時間測定した。
【0042】
モノマー組成は、アセトン−d6溶剤中に生ゴムを溶解することによって19F/1Hクロスインテグレーション法により測定した。その溶液にCFCl3、1,4−(トリフルオロメチル)−ベンゼン、および少量のCD3CO2D(重水素化酢酸)を加えた。この溶液を単一試験解析用のNMR管に移した。ヴァリアン・ユニティプラス(Varian UNITYplus)400 FT−NMRスペクトロメーターを用いて400MHzの1H−NMRスペクトルおよび376MHzの19F−NMRスペクトルを得た。
【0043】
実施例1
実施例1では、表1の過酸化物硬化性化合物Aを、二本ロールミルを用いてフルオロエラストマー(TFE/HFP/VDFコポリマー、ニュージャージー州ソロフェアのソルヴェイ・ソレキシス・インコーポレーテッド(Solvay Solexis,Inc.,Thorofare,NJ)からテクノフロン(Tecnoflon)(登録商標)P757として入手できる)に、30部のシリカ(粒径5μmのSiO2、ウェストヴァージニア州バークリースプリングスのユー・エス・シリカ・カンパニー(U.S.Silica Co.,Berkeley Springs,WV)からMin−U−Sil(登録商標)として入手できる)、1部の水滑石(オハイオ州アクロンのアクロケム・コーポレーテッド(Akrochem Corp.,Akron,OH)からハイセーフ(Hysafe)(登録商標)510として入手できる)、4部の加硫助剤トリアリルイソシアヌレート(TAIC)(72%DLC、ジョージア州サヴァナのナトロケム・インコーポレテド(Natrochem,Inc.,Savannah,GA)からTAIC DLC(登録商標)−Aとして入手できる)、4部の50%活性2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)−ヘキサン(コネチカット州ノーウォークのアール・ティー・ヴァンダービルト・カンパニー(R.T.Vanderbilt,Nowalk,CT)からヴァロックス(Varox)(登録商標)DBPH−50として入手できる)、および0.5部の加工助剤ストラクトール(Struktol)(登録商標)WS280(オハイオ州ストウのストラクトール・カンパニー(Structol Co.,Stow,OH)から入手できる)を混ぜ合わせることによって調製した。
【0044】
この化合物の硬化レオロジーは、未硬化配合混合物をアルファ・テクノロジー・ムービング・ダイ・レオメーター(MDR)モデル2000およびASTM D 5289−95に記載の手順を用いて試験することにより調べた。この化合物の処方および試験結果を表1にまとめる。
【0045】
この化合物を、厚さ2mm、15×15cmの金型を用いて177℃で10分間プレス硬化した。硬化後の試料を、冷却媒体としてエタノールを使用するASTM D 1329に従って温度収縮(TR10)について試験した。その試験結果を表2にまとめる。
【0046】
実施例2および3
化合物BおよびCにそれぞれ対応する実施例2および3では試料は、化合物Bがクレーすなわち含水ケイ酸マグネシウム(コロラド州エングルウッドのルゼナック・アメリカ・インコーポレーテッド(Luzenac America,Inc.,Englewood,Co)からミストロン(Mistron)CB 0018として入手できる)をシリカの代わりに用いて調製され、また化合物Cが酸化物TiO2(ニュージャージー州ウェインのアメリカン・サイアナミッド・カンパニー(American Cyanamid Company,Wayne,NJ)からユニタン(Unitane)(登録商標)として入手できる)をシリカの代わりに用いて調製されたことを除いては実施例1の場合と同様に調製され試験された。この化合物の処方および試験結果を表1および表2にまとめる。
【0047】
比較例C1
化合物Dに対応する比較例C1では試料は、化合物Dがカーボンブラック(カナダ、アルバータのカンカーブ・メデュシン・ハット(Cancarb,Medicine Hat,Alberta,Canada)からサーマックス(Thermax)MT(商標)すなわちASTM N990として入手できる)をシリカの代わりに用いて調製されたことを除いては実施例1の場合と同様に調製され試験された。この試験結果を表2にまとめる。
【0048】
比較例C2
化合物Eに対応する比較例C2では試料は、過酸化物硬化性化合物E中でTFE/VDF/PMVEコポリマー(デラウェア州ウィルミントンのデュポン・ダウ・LLC(DuPont Dow LLC,Wilmington、DE)からヴィトン(Viton)(登録商標)GFLT 301として入手できる)をテクノフロン(Technoflon)(登録商標)P757の代わりに用いたことを除いては実施例1の場合と同様に調製され試験された。19F/1H−NMRにより求められるポリマーの組成比はTFE/VDF/PMVE=19/59/22モル%であり、ムーニー粘度は32であった。このポリマーのDSCによるTgは−24℃であった。この試験結果を表2にまとめる。
【0049】
実施例4
化合物Fに対応する実施例4では試料は、過酸化物硬化性化合物F中でターポリマーA(TFE/HFP/VDF)をテクノフロン(登録商標)P757の代わりに用いたことを除いては実施例1の場合と同様に調製され試験された。カーボンブラックN762(ジョージア州アルファレッタのキャボット・コーポレーション(Cabot Corp.,Alpharetta,GA)から入手できる)を加え、ストラクトール(登録商標)WS280は使用しなかった。19F/1H−NMRによって求められるターポリマーAの組成比はTFE/HFP/VDF=9.9/14.3/75.3モル%であり、またこのポリマーは硬化部位モノマーとしての0.5モル%のBTFBおよび0.1モル%のヨウ素を含有した。計算上のフッ素含量は65.7重量%であった。生ゴムのムーニー粘度は35であった。このポリマーのTgは−24℃であった。この試験結果を表2にまとめる。
【0050】
実施例5
化合物Gに対応する実施例5では試料は、過酸化物硬化性化合物G中で鉱物質充填剤ウォーラストコート(Wollastocoat)(登録商標)10222(アクリロイルシランによる表面被覆または処理したCaSiO3、ニューヨーク州ウィルスボロのニコ・ミネラル・インコーポレーテッド(Nyco Mineral,Inc.,Willsboro,NY)から入手できる)をシリカの代わりに用いたことを除いては実施例4の場合と同様に調製され試験された。この試験結果を表2にまとめる。
【0051】
比較例C3
化合物Hに対応する比較例C3では試料は、過酸化物硬化性化合物H(N762カーボンブラックなし、シリカなし)を化合物Fの代わりに用いたことを除いては実施例4の場合と同様に調製され試験された。この試験結果を表2にまとめる。
【0052】
実施例6
化合物Jに対応する実施例6では試料は、過酸化物硬化性化合物J中でターポリマーAとターポリマーBのブレンドを100%ターポリマーAの代わりに用いたことを除いては実施例4の場合と同様に調製され試験された。この試験結果を表2にまとめる。ブレンド比は80/20重量%であった。また化合物Jは、実施例4における30ppwのシリカ、0ppwのウォーラストコート(登録商標)10222、および0ppwのストラクトール(登録商標)WS280と比較して、20ppwのシリカ、15ppwのウォーラストコート(登録商標)10222、および1ppwのストラクトール(登録商標)WS280を含む。19F/1H NMRによって求められるターポリマーBの組成比はTFE/HFP/VDF=30.1/20.7/48.7モル%であり、またこのポリマーは硬化部位モノマーとしての0.38モル%のBTFBおよび0.09モル%のヨウ素を含有した。計算上のフッ素含量は70.0重量%であった。生ゴムのムーニー粘度は41であった。このターポリマーBのTgは−7℃であった。この硬化後の試料の燃料H(CE15)中の70℃で22時間での体積膨潤度は34.6%であった。
【0053】
実施例7
化合物Kに対応する実施例7では試料は、過酸化物硬化性化合物Kを化合物Jの代わりに用いたことを除いては実施例6の場合と同様に調製され試験された。この試験結果を表2にまとめる。この硬化後の試料の燃料H(CE15)中の70℃で22時間での体積膨潤度は33.5%であった。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】
当業技術者は、本発明のこれら一般原理および前述の詳細な説明の開示から本発明に可能な様々な変更形態を容易に理解するはずである。したがって本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲およびその均等物によってのみ限定されるべきである。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)フッ化ビニリデンモノマー、少なくとも1個の硬化部位部分、および実質的に少しも存在しない過フッ素化ビニルエーテルモノマーから誘導される共重合化モノマー単位を含む弾性コポリマーと、
(b)硬化性成分と、
(c)加硫した場合に得られる化合物が−20℃以下のTR−10を有するような少なくとも1種類の鉱物質充填剤と、
を含む化合物。
【請求項2】
前記コポリマーがターポリマーまたは4元重合体を含む、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
前記コポリマーが、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン、ペンタフルオロプロピレン、フッ化ビニル、プロピレン、エチレン、またはこれらの組合せをさらに含む、請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
前記化合物が少なくとも2種類のコポリマーのブレンドを含む、請求項1に記載の化合物。
【請求項5】
前記コポリマーの少なくとも2種類が少なくとも3重量%のフッ素含量の違いを有する、請求項4に記載の化合物。
【請求項6】
前記コポリマーが、式CF2=CFRf(Rfはフッ素または炭素原子1から8個のペルフルオロアルキル)のエチレン性不飽和モノマーをさらに含む、請求項1に記載の化合物。
【請求項7】
前記少なくとも1個の硬化部位部分が、式、(a)CX2=CX(Z)(式中、(i)Xはそれぞれ独立にHまたはFであり、(ii)ZはBr、I、Cl、またはRf2U(U=Br、I、Cl、またはCN、Rf2=任意にO原子を含有する過フッ素化された二価の連結基)である)、あるいは(b)Y(CF2)qY(ここで(i)YはBrまたはIまたはClであり、(ii)q=1〜6)の1種または複数種の化合物から誘導される、請求項1に記載の化合物。
【請求項8】
前記少なくとも1個の硬化部位部分が、CF2=CFBr、CF2=CHBr、ICF2CF2CF2CF2I、CH22、BrCF2CF2Br、CF2=CFO(CF23−OCF2CF2Br、CF2=CFOCF2CF2Br、CH2=CHCF2CF2Br、CH2=CHCF2CF2I、CF2=CFCl、またはこれらの混合物から誘導される、請求項7に記載の化合物。
【請求項9】
式CX2=CX(Z)を有する前記化合物が、鎖末端と化学的に結合したヨウ素または臭素または塩素を有する、請求項7に記載の化合物。
【請求項10】
前記成分(a)が乳化重合によって形成される、請求項1に記載の化合物。
【請求項11】
前記少なくとも1種類の鉱物質充填剤が、クレー、シリカ、タルク、ケイ藻土、硫酸バリウム、ケイ灰石、炭酸カルシウム、フッ化カルシウム、酸化チタン、酸化鉄、またはこれらの組合せを含む、請求項1に記載の化合物。
【請求項12】
前記少なくとも1種類の鉱物質充填剤が表面処理される、請求項11に記載の化合物。
【請求項13】
酸受容体をさらに含む、請求項1に記載の化合物。
【請求項14】
前記化合物が、ASTM D 471−98による燃料H(CE15)中の溶剤体積膨潤度約60%以下、またはASTM D 418−02による引張強さ約3.5MPa以上を有する、請求項1に記載の化合物。
【請求項15】
(a)フッ化ビニリデンモノマー、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン、ペンタフルオロプロピレン、フッ化ビニル、プロピレン、またはエチレンから誘導される2個以上の共重合化モノマー単位を含む弾性コポリマーと、
(b)少なくとも1個の硬化部位部分と、
(c)加硫した場合に得られる化合物が−20℃以下のTR−10を有するような少なくとも1種類の鉱物質充填剤を含む硬化性成分と、
から本質的になる化合物。
【請求項16】
請求項1に記載の化合物を加硫するステップを含む、エラストマーの形成方法。
【請求項17】
請求項1に記載の硬化化合物を含む物品。
【請求項18】
フッ化ビニリデンモノマー、少なくとも1個の硬化部位部分、および実質的に少しも存在しない過フッ素化ビニルエーテルモノマーから誘導される共重合化モノマー単位を含む弾性コポリマーと、硬化性成分と、少なくとも1種類の鉱物質充填剤とを重合することを含む化合物の形成方法。


【公表番号】特表2007−517964(P2007−517964A)
【公表日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−549309(P2006−549309)
【出願日】平成16年12月21日(2004.12.21)
【国際出願番号】PCT/US2004/043055
【国際公開番号】WO2005/073304
【国際公開日】平成17年8月11日(2005.8.11)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】