説明

低級炭化水素芳香族化触媒及び芳香族化合物の製造方法

【課題】メタン転化率、ベンゼン生成速度、ナフタレン生成速度及びBTX生成速度(ベンゼンとトルエンとキシレンの合計生成速度)の活性寿命安定性を向上させる。
【解決手段】前記課題を解決するための低級炭化水素芳香族化触媒は、メタロシリケートからなるゼオライトを、前記ゼオライトの細孔口径よりも大きな分子径であると共に前記ゼオライトのブレーンステッド酸点に選択的に反応するアミノ基と直鎖炭化水素基を有するシラン化合物で処理した後にモリブデンと銅を担持してなる。前記モリブデンはその担持量が焼成後の触媒全体量に対して2〜12重量%となると共に前記銅はモリブデンとのモル比Cu:Mo=X:1の比率が0.01〜0.8となるように担持するとよい。前記シラン化合物はAPTESが例示される。前記APTESはその添加量が焼成後の触媒全体量に対して2.5重量%未満となるようにシラン処理に供するとよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はメタンを主成分とする天然ガス、バイオガス、メタンハイドレートの高度利用に関する。天然ガス、バイオガス、メタンハイドレートは地球温暖化対策として最も効果的なエネルギー資源と考えられ、その利用技術に関心が高まっている。メタン資源はそのままクリーン性を活かして次世代の新しい有機資源、燃料電池用の水素資源として注目されている。特に本発明はメタンからプラスチック類などの化学製品原料であるベンゼン及びナフタレン類を主成分とする芳香族化合物と高純度の水素ガスを効率的に製造するための触媒化学変換技術及びその触媒製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メタンからベンゼン等の芳香族化合物と水素とを製造する方法としては触媒の存在下にメタンを反応させる方法が知られている。この際の触媒としてはZSM−5系のゼオライトに担持されたモリブデンが有効とされている(非特許文献1)。しかしながら、これらの触媒を使用した場合でも、炭素の析出が多いことやメタンの転化率が低いという問題を有している。
【0003】
この問題を解決するために例えば特許文献1〜特許文献3に開示されたようなMo(モリブデン)等の触媒材料を多孔質のメタロシロケートに担持した触媒が提案されている。特許文献1〜特許文献3では担体である7オングストロームの細孔径を有する多孔質のメタロシリケートに金属成分が担持された触媒を用いることで低級炭化水素が効率的に芳香族化合物化され、これに付随して高純度の水素が得られることが確認されている。前記特許文献によると担体には前記金属成分としてモリブデン、コバルト、鉄等が担持されている。また、特許文献4にはメタロシリケートからなるゼオライトをシラン化合物で処理した後にモリブデンを担持してなる低級炭化水素の芳香族化触媒が開示されている。この芳香族化触媒によればベンゼンやトルエンの特定の芳香族化合物の生成速度を安定性させることができる。
【非特許文献1】JOURNAL OF CATALYSIS,1997,pp.165,pp.150−161
【特許文献1】特開平10−272366号公報
【特許文献2】特開平11−60514号公報
【特許文献3】特開2004−269398号公報
【特許文献4】特開2007−14894号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
メタンからベンゼン等の芳香族化合物と水素を製造する方法としては触媒の存在下にメタンを反応させる方法としてZSM−5にモリブデンを担持した触媒が有効とされている。
【0005】
しかし、この触媒が用いられた場合でも炭素の析出が多い。炭素の析出により触媒性能が短時間に劣化する。メタン転化率(芳香族化合物と水素の生成に利用されるメタンの利用率)が低い。特許文献1〜特許文献3のような触媒ではこの問題の改善が十分でないので芳香族化合物の製造効率をさらに高めるために一層優れた触媒の開発が望まれている。
【0006】
メタンをベンゼンに改質する触媒の活用にはメタンの転化率の向上は必須であるが、メタンの転化率を上げるにはメタンガス投入時の反応温度を上げる必要がある。特許文献1〜特許文献3のような触媒では原料ガスとの反応温度を上げると触媒の活性寿命が大幅に低下する。
【0007】
また、特許文献4の芳香族化触媒によると芳香族化合物の生成速度を安定性させることができるが、芳香族化合物の量産性の観点から、メタン転化率、ベンゼン生成速度、ナフタレン生成速度及びBTX生成速度(ベンゼンとトルエンとキシレンの合計生成速度)の活性寿命安定性のさらなる向上が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、前記課題を解決するための低級炭化水素芳香族化触媒は低級炭化水素及び炭酸ガスと反応して芳香族化合物を生成させる触媒であって、メタロシリケートからなるゼオライトを、前記ゼオライトの細孔口径よりも大きな分子径であると共に前記ゼオライトのブレーンステッド酸点に選択的に反応するアミノ基と直鎖炭化水素基を有するシラン化合物で処理した後にモリブデンと銅を担持してなる。
【0009】
この低級炭化水素芳香族化触媒によればメタン転化率、ベンゼン生成速度、ナフタレン生成速度及びBTX生成速度(ベンゼンとトルエンとキシレンの合計生成速度)の活性寿命安定性が向上する。前記触媒と反応させる炭酸ガスは一酸化炭素ガスに代えてもよい。前記炭酸ガスの添加量は反応ガス全体に対して0.5〜6%の範囲であるとよい。確実にメタン転化率、ベンゼン生成速度、ナフタレン生成速度及びBTX生成速度の活性寿命安定性が向上する。
【0010】
前記メタロシリケートとしては4.5〜6.5オングストローム径の細孔を有する多孔質メタロシリケートであるZSM−5、MCM−22が例示列挙される。
【0011】
前記シラン化合物としてはAPTES(3−Aminoproxyl−triethoxysilane)が例示される。前記シラン化合物は前記焼成後のシラン化合物の添加量が触媒全体量に対して2.5重量%未満例えば0.5重量%となるように前記シラン処理に供するとよい。メタン転化率、ベンゼン生成速度、ナフタレン生成速度及びBTX生成速度の活性寿命安定性が確実に向上する。
【0012】
前記モリブデンはその担持量が焼成後の触媒全体量に対して2〜12重量%となると共に前記銅はモリブデンとのモル比Cu:Mo=X:1の比率が0.01〜0.8となるように担持するとよい。メタン転化率、ベンゼン生成速度、ナフタレン生成速度及びBTX生成速度の活性寿命安定性が確実に向上する。
【0013】
前記メタロシリケートにモリブデンと銅を担持した後の焼成時の焼成温度は550〜800℃であるとよい。炭酸ガスが過不足(0.5%未満)であると析出するコークの酸化作用が低くなり活性寿命安定性が低下し、逆に過剰(6%以上)であるとメタンガスの直接酸化反応により水素及び一酸化炭素が過剰に生成し、反応に必要なメタンガス濃度が低下するので、ベンゼンの生成量が低下する。そこで、反応ガス全体に対して炭酸ガスの添加量を0.5〜6%の範囲とすることでメタン転化率、ベンゼン生成速度、ナフタレン生成速度、BTX生成速度を効率よく安定させることができる。
【発明の効果】
【0014】
以上の発明によればメタン転化率、ベンゼン生成速度、ナフタレン生成速度及びBTX生成速度(ベンゼンとトルエンとキシレンの合計生成速度)の活性寿命安定性が向上する。したがって、ベンゼン、トルエン等の有用な芳香族化合物の生成量が増大する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
発明に係る低級炭化水素芳香族化触媒はモリブデン及びその化合物から選ばれた少なくとも一種以上を触媒材料として含有する。芳香族化合物を製造する際には前記低級炭化水素芳香族化触媒は低級炭化水素の他に二酸化炭素と反応させる。
【0016】
この低級炭化水素芳香族化触媒はメタロシリケートからなるゼオライトを、前記ゼオライトの細孔口径よりも大きな分子径であると共に前記ゼオライトのブレーンステッド酸点に選択的に反応するアミノ基と直鎖炭化水素基を有するシラン化合物で処理した後にモリブデンと銅を担持してなる。
【0017】
前記金属成分を担持する担体は実質的に4.5〜6.5オングストローム径の細孔を有する多孔質メタロシリケートを含んでいる。前記モリブデン成分及び銅成分は酢酸銅または硝酸銅とモリブデン酸アンモニウムとで調整した含浸水溶液にシラン処理されたメタロシリケートを添加してモリブデン成分と銅成分とをメタロシリケートに含浸させた後に乾燥及び焼成に供すれば前記メタロシリケートに担持される。
【0018】
前記低級炭化水素芳香族化触媒のようにシラン化合物でシラン処理したメタロシリケートにモリブデン成分と銅成分とを担持することにより触媒の安定性が得られる。特に、メタン転化率、ベンゼン生成速度、ナフタレン生成速度及びBTX生成速度(ベンゼンとトルエンとキシレンの合計生成速度)の活性寿命安定性が向上する。
【0019】
以下の実施例に基づき本発明の低級炭化水素芳香族化触媒について説明する。
【0020】
1.低級炭化水素芳香族化触媒(以下、触媒と略称する)の製造
(比較例1)
比較例1の触媒はメタシリケートとしてアンモニウム型ZSM−5(SiO2/Al23=25〜70)が採用され、これにモリブデンのみが担持されたものである。
【0021】
(1)配合
無機成分の配合:ZSM−5(82.5重量%)、粘土(10.5重量%)、ガラス繊維(5重量%)
全体配合:前記無機成分(76.5重量%)、有機バインダー(17.3重量%)、水分(24.3重量%)
(2)成型
前記配合比率で前記無機成分と有機バインダーと水分とを配合し混練手段(ニーダ)によって混合、混練した。次に、この混合体を真空押し出し成型機によって棒状(径2.4mm×長さ5mm)に成型した。このときの成型時の押し出し圧力は2〜8MPaに設定した。
【0022】
(3)モリブデンと銅の含浸
酢酸胴とモリブデン酸アンモニウムとで調整した含浸水溶液を攪拌し、この攪拌させた状態の含浸水溶液に前記成型工程を経たZSM−5を含む成型体を添加してモリブデン成分と銅成分とを前記成型体に含浸させた後、以下の乾燥及び焼成の工程に供した。尚、前記含浸水溶液の調製にあたり、モリブデンの担持量は焼成後の触媒全体量に対して6重量%となるように、銅の担持量はモリブデンとのモル比で銅:モリブデン=0.1:1.0となるように設定した。
【0023】
(4)乾燥、焼成
乾燥工程では成型工程時に添加した水分を除去するために70℃で約12時間行なった。焼成工程では空気中で550℃、5時間焼成した。焼成工程での焼成温度は550〜800℃の範囲とした。550℃以下では担体の強度低下、800℃以上では特性(活性)の低下が起こるためである。焼成工程における昇温速度及び降温速度は90〜100℃/時に設定した。このとき、成型時に添加した有機バインダーが瞬時に燃焼しないように250〜450℃の温度範囲の中に2〜6時間程度の温度キープを2回実施してバインダーを除去した。昇温速度及び降温速度が前記速度以上であってバインダーを除去するキープ時間を確保しない場合にはバインダーが瞬時に燃焼して焼成体の強度が低下するためである。
【0024】
(5)炭化処理
前記焼成体をCH4とH2の混合ガス(メタン/水素=1/4の混合モル比)を流通下で700℃まで2時間で昇温させ、この状態を3時間維持させた後にこの雰囲気をCH4の反応ガスに切り替え、780℃まで昇温した。
【0025】
(比較例2)
比較例2の触媒は銅:モリブデン=0.3:1.0のモル比で銅とモリブデンを担持した以外は比較例1の触媒の配合及び製造工程と同じ方法で製造した。
【0026】
含浸工程では酢酸銅とモリブデン酸アンモニウムとで調整した含浸水溶液を攪拌し、この攪拌させた状態の含浸水溶液に比較例1に係る成型工程を経たZSM−5を含む成型体を添加して、モリブデン成分と銅成分とを前記成型体に含浸させた。その後、これを乾燥させた後に空気中で550℃、5時間焼成してモリブデンと銅とを担持させたZSM−5担体を得た。尚、前記含浸水溶液の調製にあたり、モリブデンの担持量は焼成後の触媒全体量に対して6重量%となるように、銅の担持量はモリブデンとのモル比で銅:モリブデン=0.3:1.0となるように設定した。
【0027】
(比較例3)
比較例3の触媒は銅:モリブデン=0.45:1.0のモル比で銅とモリブデンを担持した以外は比較例1の触媒の配合及び製造工程と同じ方法で製造した。
【0028】
含浸工程では酢酸銅とモリブデン酸アンモニウムとで調整した含浸水溶液を攪拌し、この攪拌させた含浸水溶液に比較例1に係る成型工程を経たZSM−5を含む成型体を添加して、モリブデン成分と銅成分とを前記成型体に含浸させた。その後、これを乾燥させた後に空気中で550℃、5時間焼成してモリブデンと銅とを担持させたZSM−5担体を得た。尚、前記含浸水溶液の調製にあたり、モリブデンの担持量は焼成後の触媒全体量に対して6重量%となるように、銅の担持量はモリブデンとのモル比で銅:モリブデン=0.45:1.0となるように設定した。
【0029】
(比較例4)
比較例4の触媒は銅:モリブデン=0.6:1.0のモル比で銅とモリブデンを担持した以外は比較例1の触媒の配合及び製造工程と同じ方法で製造した。
【0030】
含浸工程では酢酸銅とモリブデン酸アンモニウムとで調整した含浸水溶液を攪拌し、この攪拌された状態の含浸水溶液に比較例1に係る成型工程を経たZSM−5を含む成型体を添加して、モリブデン成分と銅成分とを前記成型体に含浸させた。その後、これを乾燥させた後に空気中で550℃、5時間焼成してモリブデンと銅とを担持させたZSM−5担体を得た。尚、前記含浸水溶液の調製にあたり、モリブデンの担持量は焼成後の触媒全体量に対して6重量%となるように、銅の担持量はモリブデンとのモル比で銅:モリブデン=0.6:1.0となるように設定した。
【0031】
(実施例1)
実施例1の触媒はZSM−5を含む成型体をシラン化合物でシラン処理した後に銅:モリブデン=0.15:1.0のモル比で銅とモリブデンを担持したこと以外は比較例1の触媒の配合及び製造工程と同じ方法で製造した。
【0032】
シラン処理工程ではシラン化合物としてAPTESを添加量が焼成後の触媒全体量に対して0.5重量%となるように、溶解させたエタノールに比較例1に係る成型工程を経たZSM−5を含む成型体を所定時間含浸させて、これを乾燥させた後に550℃で6時間焼成して前記シラン化合物でシラン処理した。
【0033】
含浸工程では酢酸銅とモリブデン酸アンモニウムとで調整した含浸水溶液を攪拌し、この攪拌された状態の含浸水溶液に前記シラン処理工程を経た成型体を添加して、モリブデン成分と銅成分とを前記成型体に含浸させた。その後、これを乾燥させた後に空気中で550℃、5時間焼成してモリブデンと銅とを担持させたZSM−5担体を得た。尚、前記含浸水溶液の調製にあたり、モリブデンの担持量は焼成後の触媒全体量に対して6重量%となるように、銅の担持量はモリブデンとのモル比で銅:モリブデン=0.15:1.0となるように設定した。
【0034】
(実施例2)
実施例2の触媒はZSM−5を含む成型体をシラン化合物でシラン処理した後に銅:モリブデン=0.3:1.0のモル比で銅とモリブデンを担持したこと以外は比較例1の触媒の製造工程(成型、乾燥、焼成及び炭化処理)と同じ方法で製造した。
【0035】
シラン処理工程ではシラン化合物としてAPTESを添加量が焼成後の触媒全体量に対して0.5重量%となるように溶解させたエタノールに比較例1に係る成型工程を経たZSM−5を含む成型体を所定時間含浸させて、これを乾燥させた後に550℃で6時間焼成して前記シラン化合物でシラン処理した。
【0036】
含浸工程では酢酸銅とモリブデン酸アンモニウムとで調整した含浸水溶液を攪拌し、この攪拌された状態の含浸水溶液に前記シラン処理工程を経た成型体を添加して、モリブデン成分と銅成分とを前記成型体に含浸させた。その後、これを乾燥させた後に空気中で550℃、5時間焼成してモリブデンと銅とを担持させたZSM−5担体を得た。尚、前記含浸水溶液の調製にあたり、モリブデンの担持量は焼成後の触媒全体量に対して6重量%となるように、銅の担持量はモリブデンとのモル比で銅:モリブデン=0.3:1.0となるように設定した。
【0037】
(実施例3)
実施例3の触媒はZSM−5を含む成型体をシラン化合物でシラン処理した後に銅:モリブデン=0.45:1.0のモル比で銅とモリブデンを担持したこと以外は比較例1の触媒の製造工程(成型、乾燥、焼成及び炭化処理)と同じ方法で製造した。
【0038】
シラン処理工程ではシラン化合物としてAPTESを添加量が焼成後の触媒全体量に対して0.5重量%となるように、溶解させたエタノールに比較例1に係る成型工程を経たZSM−5を含む成型体を所定時間含浸させて、これを乾燥させた後に550℃で6時間焼成して前記シラン化合物でシラン処理した。
【0039】
含浸工程では酢酸銅とモリブデン酸アンモニウムとで調整した含浸水溶液を攪拌し、この攪拌された状態の含浸水溶液に前記シラン処理工程を経た成型体を添加して、モリブデン成分と銅成分とを前記成型体に含浸させた。その後、これを乾燥させた後に空気中で550℃、5時間焼成してモリブデンと銅とを担持させたZSM−5担体を得た。尚、前記含浸水溶液の調製にあたり、モリブデンの担持量は焼成後の触媒全体量に対して6重量%となるように、銅の担持量はモリブデンとのモル比で銅:モリブデン=0.45:1.0となるように設定した。
【0040】
(実施例4)
実施例4の触媒はZSM−5を含む成型体をシラン化合物でシラン処理した後に銅:モリブデン=0.6:1.0のモル比で銅とモリブデンを担持した以外は比較例1の触媒の製造工程(成型、乾燥、焼成及び炭化処理)と同じ方法で製造した。
【0041】
シラン処理工程ではシラン化合物としてAPTESを添加量が焼成後の触媒全体量に対して0.5重量%となるように溶解させたエタノールに比較例1に係る成型工程を経たZSM−5を含む成型体を所定時間含浸させて、これを乾燥させた後に550℃で6時間焼成して前記シラン化合物でシラン処理した。
【0042】
含浸工程では酢酸銅とモリブデン酸アンモニウムとで調整した含浸水溶液を攪拌し、この攪拌された状態の含浸水溶液に前記シラン処理工程を経た成型体を添加して、モリブデン成分と銅成分とを前記成型体に含浸させた。その後、これを乾燥させた後に空気中で550℃、5時間焼成してモリブデンと銅とを担持させたZSM−5担体を得た。尚、前記含浸水溶液の調製にあたり、モリブデンの担持量は焼成後の触媒全体量に対して6重量%となるように、銅の担持量はモリブデンとのモル比で銅:モリブデン=0.6:1.0となるように設定した。
【0043】
2.比較例及び実施例の触媒の評価
比較例及び実施例の触媒の評価法について述べる。
【0044】
固定床流通式反応装置のインコネル800H接ガス部カロライジング処理製反応管(内径18mm)に評価対象の触媒を14g充填(ゼオライト率82.50%)した。そして、この反応管に反応ガスとして炭酸ガス混合メタンガス(メタンと炭酸ガスのモル比はメタン:炭酸ガス(二酸化炭素)=100:3)を供給して、反応空間速度=3000ml/g−MFI/h(CH4gas flow base)、反応温度780℃、反応時間24時間、反応圧力0.3MPaの条件で、触媒と反応ガスとを反応させた。この際、生成物の分析を行い、メタン転化率、ベンゼン生成速度、ナフタレン生成速度及びBTX生成速度を経時的に調べた。前記生成物の分析はTCD−GC、FID−GCを用いて行った。
【0045】
メタン転化率、ベンゼン生成速度,ナフタレン生成速度及びBTX生成速度は次の通り定義される。
【0046】
「メタン転化率(%)」=〔(「原料メタン流速」−「未反応のメタン流速」)/「原料メタン流速」〕×100
「ベンゼン生成速度」=「触媒1gあたり、1秒間に生成したベンゼンのnmol数」。
【0047】
「ナフタレン生成速度」=「触媒1gあたり、1秒間に生成したナフタレンのnmol数」。
【0048】
「BTX生成速度」=「触媒1gあたり、1秒間に生成したベンゼン、トルエン及びキシレンの合計nmol数」。
【0049】
図1は比較例1〜4、実施例1〜4の各触媒を前記炭酸ガス混合メタンガスと反応させた場合のメタン転化率の経時的変化を示す。実施例1〜4の触媒を反応させた場合と比較例1〜4の触媒を反応させた場合のメタン転化率の経時的変化の比較から明らかなように、実施例1〜4のようにシラン処理を行うと、シラン処理を行わない比較例1〜4の触媒と比べてメタン転化率の活性寿命安定性が向上することがわかる。
【0050】
図2は比較例1〜4、実施例1〜4の各触媒を前記炭酸ガス混合メタンガスと反応させた場合のベンゼン生成速度の経時的変化を示す。実施例1〜4の触媒を反応させた場合と比較例1〜4の触媒を反応させた場合のメタン転化率の経時的変化の比較から明らかなように、実施例1〜4のようにシラン処理を行うと、シラン処理を行わない比較例1〜4の触媒と比べて、ベンゼン生成速度の活性寿命安定性が向上することがわかる。
【0051】
図3は比較例1〜4、実施例1〜4の各触媒を前記炭酸ガス混合メタンガスと反応させた場合のナフタレン生成速度の経時的変化を示す。実施例1〜4の触媒を反応させた場合と比較例1〜4の触媒を反応させた場合のメタン転化率の経時的変化の比較から明らかなように、実施例1〜4のようにシラン処理を行うと、シラン処理を行わない比較例1〜4の触媒と比べて、ナフタレン生成速度の活性寿命安定性が向上することがわかる。
【0052】
図4は比較例1〜4、実施例1〜4の各触媒を前記炭酸ガス混合メタンガスと反応させた場合のBTX生成速度の経時的変化を示す。実施例1〜4の触媒を反応させた場合と比較例1〜4の触媒を反応させた場合のメタン転化率の経時的変化の比較から明らかなように、実施例1〜4のようにシラン処理を行うと、シラン処理を行わない比較例1〜4の触媒と比べて、BTX生成速度の活性寿命安定性が向上することがわかる。
【0053】
表1は比較例1〜4、実施例1〜4の各触媒を前記炭酸ガス混合メタンガスと3時間、10時間、24時間反応させた場合のメタン転化率、ベンゼン生成速度、ナフタレン生成速度及びBTX生成速度を開示する。各種反応時間帯の活性特性、特に反応24時間後の活性特性について比較例と実施例とを比較すると、実施例2〜4は、モリブデンに対する銅の坦持量が同一である比較例2〜4と比べても、シラン処理が施されることで比較例に係る触媒よりもメタン転換率、ベンゼン生成速度、ナフタレン生成速度、BTX生成速度が高く、高活性であることがわかる。
【0054】
【表1】

【0055】
以上のようにメタシリケートをシラン処理した後にモリブデンと銅を担持してなる発明に係る触媒によればメタン転化率の活性寿命安定性を向上させ、ベンゼン生成速度、ナフタレン生成速度やベンゼン、トルエン等の有用成分であるBTX生成速度を安定して得ることができる。
【0056】
上述の実施例は金属成分が担持されるメタシリケートにZSM−5が採用されているが、MCM−22が適用されても前述の実施例と同様な効果を奏する。また、前記実施例ではモリブデンの担持量が焼成後の触媒全体量に対して6重量%となっているが、その担持量が触媒全体量に対して2〜12重量%の範囲で前述の実施例と同様な効果を奏する。さらに、前記実施例では坦持される銅のモリブデンに対するモル比が0.15〜0.6となっているが、前記モル比が0.01〜0.8であっても前述の実施例と同様な効果を奏する。また、前記実施例ではシラン化合物は添加量が焼成後の触媒全体量に対して0.5重量%となるように添加されているが、その添加量が2.5重量%未満であれば前述の実施例と同様な効果を奏する。さらに、前記実施例はその評価法において芳香族化合物を生成するにあたりメタンと炭酸ガスのモル比がメタン:炭酸ガス(二酸化炭素)=100:3である反応ガスと反応させているが、前記炭酸ガスの添加量は反応ガス全体に対して0.5〜6%の範囲であっても前述の実施例と同様な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】比較例1〜4、実施例1〜4の各触媒と炭酸ガス混合メタンガス(メタンと炭酸ガスのモル比はメタン:炭酸ガス(二酸化炭素)=100:3)とを反応させた場合のメタン転化率の経時的変化。
【図2】比較例1〜4、実施例1〜4の各触媒と炭酸ガス混合メタンガス(メタンと炭酸ガスのモル比はメタン:炭酸ガス(二酸化炭素)=100:3)とを反応させた場合のベンゼン生成速度の経時的変化。
【図3】比較例1〜4、実施例1〜4の各触媒と炭酸ガス混合メタンガス(メタンと炭酸ガスのモル比はメタン:炭酸ガス(二酸化炭素)=100:3)とを反応させた場合のナフタレン生成速度の経時的変化。
【図4】比較例1〜4、実施例1〜4の各触媒と炭酸ガス混合メタンガス(メタンと炭酸ガスのモル比はメタン:炭酸ガス(二酸化炭素)=100:3)とを反応させた場合のBTX生成速度の経時的変化。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低級炭化水素及び炭酸ガスと反応して芳香族化合物を生成させる触媒であって、
メタロシリケートからなるゼオライトを、前記ゼオライトの細孔口径よりも大きな分子径であると共に前記ゼオライトのブレーンステッド酸点に選択的に反応するアミノ基と直鎖炭化水素基を有するシラン化合物で処理した後にモリブデンと銅を担持してなること
を特徴とする低級炭化水素芳香族化触媒。
【請求項2】
前記モリブデンはその担持量が焼成後の触媒全体量に対して2〜12重量%となると共に前記銅はモリブデンとのモル比Cu:Mo=X:1の比率が0.01〜0.8となるように担持することを特徴とする請求項1に記載の低級炭化水素芳香族化触媒。
【請求項3】
前記メタロシリケートにモリブデンと銅を担持した後の焼成時の焼成温度は550〜800℃であることを特徴とする請求項1または2に記載の低級炭化水素芳香族化触媒。
【請求項4】
前記メタロシリケートはZSM−5、MCM−22のいずれかであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の低級炭化水素芳香族化触媒。
【請求項5】
前記シラン化合物はAPTES(3−Aminoproxyl−triethoxysilane)であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の低級炭化水素芳香族化触媒。
【請求項6】
前記APTESはその添加量が焼成後の触媒全体量に対して2.5重量%未満となるようにシラン処理に供することを特徴とする請求項5に記載の低級炭化水素芳香族化触媒。
【請求項7】
前記APTESはその添加量が焼成後の触媒全体量に対して0.5重量%となるようにシラン処理に供することを特徴とする請求項6に記載の低級炭化水素芳香族化触媒。
【請求項8】
担体であるメタロシリケートにモリブデンと銅を担持した後に焼成してなる触媒に低級炭化水素と炭酸ガスとを含む反応ガスを反応させて芳香族化合物を生成すること
を特徴とする芳香族化合物の製造方法。
【請求項9】
前記炭酸ガスの添加量は反応ガス全体に対して0.5〜6%の範囲であることを特徴とする請求項8に記載の芳香族化合物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−119319(P2009−119319A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−293010(P2007−293010)
【出願日】平成19年11月12日(2007.11.12)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)
【Fターム(参考)】