説明

低締付金属ガスケット

【解決手段】高分子材料を含んで成るコート膜を少なくともシール面に設けた金属ガスケットであって、下記(1)〜(3)の条件を満たすコート膜が設けられていることを特徴とする低締付金属ガスケット:
(1)25℃における酸素ガス透過係数が、10×10-12〜0.1×10-12(m2/s
)である樹脂、もしくはゴム、あるいはそれらの混合物である。
(2)圧縮変形において、200℃における貯蔵弾性率(E’)が1.0×107〜1.
0×102Paの範囲にある。
(3)コート膜の膜厚が1〜40μmである。
【効果】低締付応力で高いシール性が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低締付金属ガスケットに関し、さらに詳しくは、低締付応力で高いシール性が得られるような低締付金属ガスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体分野のシール材において、エラストマー系シール材が多く用いられるが、高い耐熱性を要求される部位では使用が困難である。また、透過漏洩を生じるため、高い気密性を要求される場合はそのシール性が問題となる。
【0003】
高い気密性を持ち、また耐熱性も高いシール材として金属ガスケットがある。しかし金属ガスケットは、高いシール性を確保するための締付応力が大きいため、容器や装置などの装着部位の設計が大型化、厚肉化するという点が依然問題となる。
【0004】
例えば、金属ガスケットの中で、比較的低い締付応力で高いシール性が得られるバネ入りメタルCリングにおいてもゴムOリングの締付応力の十倍以上の高い応力が必要とされる。
【0005】
これに対して、以下の(1)、(2)に示すような方法が提案されている。
(1)金属ガスケットのシール面に加工を施して応力集中が起こり易くし、荷重(締付力)としては低くても高い応力を発生させてなじみを得るようにする方法。
【0006】
例えば、実開2000−10号公報(特許文献1)には、シール面に凸加工を施すことが記載されているが、締付力が大き過ぎる(図2の符番18)。これをゴムと組み合わせても締付力が大きすぎる。
【0007】
また、特許第3110307号公報(特許文献2)には、シール面に凹加工を施す(溝を設ける)ことが記載されているが、溝の角が相手部材と当たるという問題点がある。
このように、上記(1)では応力集中させるとしても金属を変形させるには、やはりある程度大きな力が必要となる。
【0008】
(2)金属ガスケットに軟質被覆層(コート、メッキ)を設ける方法。
例えば、特開平9−32928号公報(特許文献3)には、メタルガスケットにポリイミド樹脂コートを設けることが記載されている。
【0009】
しかし、(2)においては、低い応力段階においては、軟質被覆層が優先的に変形し金属ガスケットのシール面の変形は促進されないため、低い応力段階において安定したシール性能を確保できない。
【0010】
このように上記(1)、(2)のどちらも一定の効果があるが、(1)と(2)とを組み合わせても、所望の高いシール性を得るにはまだ必要な締付力が例えば、Oリングの数倍以上と過大であり、より低い締付力で高い気密性を得られるシール材が求められている。
【特許文献1】実開2000−10号公報
【特許文献2】特許第3110307号公報
【特許文献3】特開平9−32928号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記のような問題点を解決しようとするものであって、低締め付け力で、エラストマー系二重シールの性能と同等もしくはそれ以上の高いシール性が得られるような低締付金属ガスケットを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そこで、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、下記添付図1に示すような、メタルCリング基材40の外表面40A(20A)に、例えば、フッ素ゴムコート、フッ素樹脂コートなどにて形成された、高分子材料を含んで成る、特定の物性(すなわち、代表的には、コート膜の酸素透過性、弾性率)を有するコート膜30を設けると、係る構成の低締付金属ガスケット50では、低締め付け力で、高いシール性が得られるような低締付金属ガスケットを提供できることなどを見出して本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明に係る低締付金属ガスケットは、高分子材料を含んで成るコート膜を少なくともシール面に設けた金属ガスケットであって、下記(1)〜(3)の条件を満たすコート膜が設けられていることを特徴とする。
(1)25℃における酸素ガス透過係数が、10×10-12〜0.1×10-12(m2/s
)である樹脂、もしくはゴム、あるいはそれらの混合物である。
(2)圧縮変形において、200℃における貯蔵弾性率(E’)が1.0×107〜1.
0×102Paの範囲にある。
(3)コート膜の膜厚が1〜40μm、好ましくは、1〜20μmである。
【0014】
上記ガスケットは、そのシール面が癖付け加工されていることが低締付力で所望の高いシール性が得られるため望ましい。
上記コート膜は、フッ素ゴム製またはフッ素樹脂製であることが耐熱性および耐薬品性、耐プラズマ性の点で望ましい。
【0015】
上記低締付金属ガスケットが、メタルCリングもしくはバネ入りメタルCリングであることが、金属ガスケットの中では低い締付力で高いシール性を得られる点、C形状に癖付けして製作しているため加工硬化や軟化現象による硬度分布が生じており、ガスケット圧縮変形時にシール面が変形しやすい点、で望ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る低締付金属ガスケットによれば、低締め付け力で、高いシール性が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明に係る低締付金属ガスケットについて、図面を参照して具体的に説明する。
図1は、本発明の低締付金属ガスケットの好適な一態様を示す。
【0018】
本発明に係る低締付金属ガスケット50は、高分子材料を含んで成るコート膜を少なくともシール面に設けた金属ガスケット(シール面コートメタルCリング)であって、図1では、コート膜30として、フッ素ゴムコート(膜)が施されている。
【0019】
すなわち、この低締付金属ガスケット50では、高分子材料を含んで成るコート膜30が、メタルCリング基材40の外表面(シール面)40A(20A)に設けられている。
本発明では、このコート膜30は、メタルCリング基材40の開口部60や、バネ(断面リング状バネ)10の表面10A(図1のバネ10の左側10A)にも設けられていてもよい(図示せず)。
【0020】
本発明では、低締付金属ガスケットの上記コート膜30は、上記フッ素ゴムコート(膜)に限らず、例えば、フッ素樹脂膜であってもよい。
本発明に係るこの低締付金属ガスケット50は、下記(1)〜(3)に記載した、コート膜の物性(すなわち、コート膜の酸素透過性、弾性率)を有している。
(1)25℃における酸素ガス透過係数が、10×10-12〜0.1×10-12(m2/s
)である樹脂、もしくはゴム、あるいはそれらの混合物である。
(2)圧縮変形において、200℃における貯蔵弾性率(E’)が1.0×107〜1.
0×102Paの範囲にある。
(3)コート膜の膜厚が1〜40μm、好ましくは、1〜20μmである。
【0021】
所望の酸素ガス透過漏洩量を得るためには、コート膜の酸素ガス透過係数と膜厚を制御する必要がある。膜厚を一定としたとき、この酸素ガス透過係数が大きすぎる(例えば、10×10-122/sを超え、特に15×10-122/sを超える。)と、膜厚の制御に非常に高い精度が要求されるため、実際の製造において困難である。また、酸素ガス透過係数が小さすぎる(例えば、0.1×10-122/s未満、特に0.8×10-132/s未満である。)と、所定の荷重により所望の膜変形(膜厚)を得られない可能性がある。酸素ガス透過係数が小さいことは、フッ素ゴムにおいては架橋の程度が高いことを示す。即ち、得てして高弾性率となり変形し難くなる。また酸素透過係数を極めて小さくする、即ち完全弾性体を得ることは製法としても困難である。
【0022】
また、貯蔵弾性率が1.0×107Paより大きいと、上述の理由と同様、所定の荷重
により所望の膜変形(膜厚)を得られず、コート膜と相手シール面とのなじみが十分に得られない。一方で、貯蔵弾性率が1.0×102Pa(1E+02Pa)より小さいと、
所定の荷重によりコート膜の緩和が大きく、フロー・破壊が生じ、被膜の役を成さない。従って、いずれの場合も十分な締付を行った場合でも十分なシール性を得られなくなる傾向がある。
【0023】
さらに、本発明においてコート膜の好ましい態様では、膜厚が1〜40μm、より好ましくは、1〜20μmである。この範囲において、上述の特性を満たすコート膜を金属ガスケットに設ければよい。
【0024】
本発明の好ましい態様では、上記低締付金属ガスケット50は、相手面となじみやすいように、そのシール面が癖付け加工されていることが望ましい。
このような本発明の低締付金属ガスケットは、上記(1)〜(3)に示すコート膜物性を有しているため、低い締付応力で高いシール性を確保することができる。
[金属ガスケットの製法]
このような低締付金属ガスケットの製法は、好適には以下の通り。
<フッ素コートメタルCリングの製造>
メタルCリングあるいはバネ入りメタルCリングについては市販品の使用が可能であり、例えば「No.3645トライパック」日本バルカー工業(株)製がある。製法として例えば特公平7−103932に記載されているような従来技術およびその他の技術が利用できる。
【0025】
このような低締付金属ガスケット50の寸法あるいはそれの各部の寸法は、その用途等に応じて適宜設計変更可能であり特に限定されないが、例えば、半導体製造装置用としては、ガスケット内径が10〜300mm程度、高さL0が2〜5mm程度であり、フッ素コート材30の厚みtが1〜500μm程度である低締付金属ガスケット50が挙げられる。
【0026】
該フッ素コート材において、フッ素樹脂、ゴムの種類は、特に限定されないが、上記のように、フッ素樹脂、ゴムコート(膜)30の酸素透過係数、弾性率をそれぞれ前記範囲に設定するには下記のようにすればよい。
【0027】
一般に、酸素透過係数は結晶や分子の絡み合い、分子間相互作用に依存する。上記コート膜の酸素透過係数を上記のようにするには、フッ素樹脂やフッ素ゴム製のコート(膜)30の比重もしくは硬度(架橋密度)を調節すれば良く、既知の手法が利用できる。
【0028】
例えば、フッ素ゴムコート膜では、トリアリルイソシアヌレート(商品名「TAIC」、日本化成(株)製)など既知の架橋剤等を利用し、加熱条件、加熱雰囲気の制御により架橋密度を調節できる。
【0029】
また、フッ素樹脂コート膜では、四フッ化エチレン由来の成分単位をパーフルオロアルキル基で修飾する、あるいは四フッ化エチレンとエチレンとを特定量比で共重合させてなる四フッ化エチレン/エチレン共重合体を用いるなど、特定の化学構造の選択を行い、また、これら(共)重合体にガラス、ブロンズなどの充填剤を添加することなどにより、該フッ素樹脂コート膜の比重を制御することができる。
【0030】
これら手法によりコート膜の弾性率(貯蔵弾性率E’)も所定の範囲に設計できる。
<フッ素樹脂コート膜の製造>
また、低締付金属ガスケットのうちで、フッ素樹脂コートメタルCリングを製造するには、以下のようにすればよい。
【0031】
図1に示すようなメタルガスケット基材(メタルCリング基材)40にフッ素樹脂コート(膜)30形成用のコート材を1回もしくは複数回、好ましくは1〜10回程度刷毛塗りし、室温にて風乾することで、乾燥塗膜30の膜厚tが約1〜500μmである、所定の膜硬度、弾性率および接着強度を有するフッ素樹脂コートメタルCリング50が得られる。
【0032】
フッ素樹脂コート材としては、例えば、フッ素樹脂と溶剤{例:フッ素系溶剤および/または非フッ素系溶剤のMEK(メチルエチルケトン)など。}を含むコート材が挙げられ、含まれるフッ素樹脂成分はコート材溶液の1〜15wt%(例:1〜8wt%)程度であり、溶剤が揮発することでフッ素樹脂製のコート膜が形成される。
【0033】
このようなフッ素樹脂コート材としては、市販品を使用してもよく、例えば、上市されているフッ素樹脂コート材としては、「エヌアイマテリアル社製コート材、品番:INT332QA」(フッ素樹脂含有量8wt%、フッ素系溶剤、メチルエチルケトンを含有。)が挙げられ、このコート材は、溶剤が揮発することでフッ素樹脂製のコート膜ができる。
【0034】
上記フッ素樹脂系コート剤を調製する際に用いられるフッ素樹脂としては、例えば、特開平2006−160933号公報の[0006]に記載のフッ素樹脂を使用でき、具体的には、例えば、PFA(テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、ETFE(エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体)、PVF(ポリフッ化ビニル)、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、ECTFE(エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体)、FEP(テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、ポリ2−(パーフルオロアルキル−アルキル(メタ)アクリレート)など、従来より公知のものを使用できる。
【0035】
このようなフッ素樹脂としては、好適には、例えば、特開平2006−160933号
公報に記載の(メタ)アクリル酸のパーフロオロアルキル−アルキルエステル{CH2
CR1−COO−(CH2n−Rf、式中、R1:HまたはCH3を示し、nは0〜6の整数を示し、Rfは炭素数Cが2〜16のパーフルオロアルキル基を示す。}の(共)重合体
であって、その重量平均分子量Mw(測定法:溶媒としてのテトラヒドロフランにてGPCを用いて測定し、ポリスチレン換算したもの。)が3千(3000)〜40万(400,000)のポリマーが挙げられる。
【0036】
また、上記フッ素樹脂系コート剤を調製する際に用いられるフッ素樹脂用の溶剤としては、特開平2006−160933号公報の[0012]等に記載のものを広く使用でき、例えば、アセトン、MEK、MIBK、等のケトン類;
酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系;ジエチルエーテル、ジオキサン等のエーテル系;
ヘプタン、ヘキサン等のアルカン系;エタノール、IPA等のアルコール系;
が挙げられる。
【0037】
これら溶剤のうちでも、特に、フッ素系溶剤が好ましい。
フッ素系溶剤はフッ素系ポリマーとの相溶性に優れ、しかも不燃であり、コーティングの際に特殊な排気・防爆設備が不要である。
【0038】
フッ素系溶剤としては、例えば、PFC(パーフルオロカーボン)、HFC(ハイドロカーボン)、HCFC(ハイドロクロロフルオロカーボン)、HFE(ハイドロフルオロエーテル)、PFPE(パーフルオロポリエーテル)、HFPE(ハイドロフルオロポリエーテル)などを1種または2種以上組み合わせて使用できる。
<フッ素ゴムコート膜の製造>
フッ素ゴムコート材としては、例えば、フッ素系生ゴム(例:商品名「ダイエルG900シリーズ:G901」、ダイキン工業(株))とゴム溶剤(例:メチルエチルケトン)と架
橋剤{例:商品名「TAIC」(トリアリルイソシアヌレート、日本化成(株))}と架橋開始剤(商品名「パーヘキサ25B」、日本油脂(株))などを含み、該フッ素ゴムコート材中に、生のフッ素ゴム(FKM,ポリマー)含量が5〜20wt%程度(例:10wt%)であり、該ポリマー100重量部に対して、架橋剤を2〜15重量部(例:6重量部)、架橋開始剤を0.1〜5重量部(例:2重量部)で含むものが挙げられる。
【0039】
なお、このようなフッ素ゴムコート材は、例えば、フッ素系生ゴム(「ダイエルG900シリーズ」)をゴム用溶剤(MEK)中に溶解させ、得られた粘性の生ゴム溶液(例:ゴム含量10wt%強程度)に架橋剤(「TAIC」)と、架橋開始剤(「パーヘキサ25B」)を入れて攪拌すれば得られる。
【0040】
このフッ素ゴムコート材を、メタルCリング基材40(商品名:「トライパック」、日
本バルカー工業(株))の表面にコート(塗布)するには、メタルCリング基材40の表面4
0A(20A)に加硫接着剤(例:「メタロックS10A」((株)東洋化学研究所))を塗布し、100〜200℃(例:150℃)×10〜60分間(例:30分)程度で焼付けて、予備処理されたメタルCリング基材を得る。
【0041】
次いで、予備処理されたメタルCリング基材を、所望の膜厚になるように、上記のフッ素ゴムコート材(生ゴム溶液)中に1回もしくは複数回、好ましくは1〜15回程度(例
:8回)浸漬(ディッピング)を繰り返し、
次いで、風乾等の方法で乾燥(膜厚:1〜500μm程度)したのち、真空電気炉中で「150℃〜フッ素ゴムの分解温度未満(例:200℃)」×「10〜48時間(例:24時間)」加熱すれば、所定の膜弾性率を有するフッ素ゴムコートされたメタルCリング(低締付金属ガスケット)が得られる。
[実施例]
以下、本発明に係る低締付金属ガスケット、特に好適なフッ素樹脂コートメタルCリングと、フッ素ゴムコートメタルCリングについてさらに具体的に説明するが、本発明は係る実施例により何ら限定されない。
<<フッ素コートCリングの作製とシール試験>>
【実施例1】
【0042】
(フッ素樹脂コートメタルCリング)
A.シール試験
(A−1) 使用したガスケット・フランジの仕様
・ガスケット基材40:
【0043】
【表1】

フランジ(ガスケットがセットされる相手材):アルミニウム製で、シール面の表面粗さは3μm程度。
(A−2)コート方法
(A−2−1)フッ素樹脂系コート材
エヌアイマテリアル社製コート材、品番:INT332QAを使用した。
【0044】
コート材の組成は、フッ素樹脂、フッ素系溶剤、メチルエチルケトンからなるコート材である。樹脂成分量はコート材溶液の8wt%であり、溶剤が揮発することでフッ素樹脂のコート膜ができる。
(A−2−2)フッ素樹脂系コート材のコート方法
図1に示すようなメタルガスケット基材(メタルCリング基材)40にフッ素樹脂コート(膜)30形成用のコート材を1〜10回程度刷毛塗りし、室温(25)℃にて風乾した。乾燥塗膜30の膜厚tを、渦電流方式により測定(商品名「イソスコープMP30」、(株)フィッシャー・インストルメンツ製)したところ、約1〜3μmであった。
(A−3) 試験内容
(A−3−1) ヘリウム漏洩試験
上記コート材にて被覆してなる本発明の「フッ素コート品」(フッ素樹脂コートメタルCリングガスケット)と、該被覆無しの現行品(:本発明との関係では「従来品」である。すなわち、フッ素樹脂コートされていないメタルCリング基材40(商品名:「トライ
パック」、日本バルカー工業(株)製。以下同様。)について気密性試験を常温(25℃)
下で行った。
【0045】
この試験では、線圧をオートグラフにてモニタしながらガスケットを圧縮し、ヘリウムリークディテクター(略称:H.L.D.、(株)アルバック社製)で漏洩量を測定した。
【0046】
なお、この試験に際しては、図3に示す、圧縮した締結体の内部をH.L.D.で真空引きし、締結体外からヘリウムガスをガスケットに吹付け、シール性を測定した。
なお、図4は、メタルCリング基材40の説明図である。
【0047】
フッ素樹脂コート30は、このメタルCリング基材40の表面に設けられる。
また、この試験では、次第に圧縮荷重を増加させ、H.L.D.の測定限度(1×10-11atm・cc/s)以下を「気密開始点」とし、また、除荷時に再びH.L.D.の
測定限度以上となった点を「気密限界点」とした。
【0048】
該コートメタルCリングの「気密開始点」は50[kN/m]、「気密限界点」は15[kN/m]となった。
全ての例における試験結果については後述、表4、図5に示した。
(A−3−2) 漏洩量の経時変化
本発明の「フッ素コート品」(フッ素樹脂コートメタルCリングガスケット)については、別の試料を用いて、気密開始点において荷重を一定に保持し、漏洩量の経時変化をH.L.D.にて測定した。
【0049】
(未実施)0時間保持:1.2E−09[Pa・m3/s]、
24時間保持:1.0E−09[Pa・m3/s]。
全例における試験結果については後述、表5、図6に示した。
【実施例2】
【0050】
(フッ素ゴムコートメタルCリング)
(A).シール試験
(A−1) 使用したガスケット・フランジの仕様
上述、実施例1と同仕様品を用いた。
(A−2)コート方法
(A−2−1) フッ素ゴムコート材(生ゴム溶液)
生ゴム(商品名「ダイエルG900シリーズ」の「ダイエルG901」、ポリマーともい
う。ダイキン工業(株)製)を、MEK(メチルエチルケトン)中に、10wt%強程度(具体的には、12.5wt%)の量で溶解させて生ゴムの粘性溶液を調製した。
【0051】
この粘性溶液に「TAIC」(架橋剤、日本化成(株)製)と、「パーヘキサ25B」(架橋開始剤、日本油脂(株)製)を、ポリマー:「TAIC」:「パーヘキサ25B」=100:6:2(重量比)で入れて、コート材を作成した。
【0052】
表2にゴムコート材に用いた材料一覧を示す。
【0053】
【表2】

(A−2−2) フッ素ゴムコート材のコート方法
メタルガスケット基材(メタルCリング基材、商品名「トライバック」、日本バルカー工業(株)製。)40の表面に、加硫接着剤(「メタロックS10A」((株)東洋化学研究所製)を塗布し、150℃×30min.で焼付け処理した。
【0054】
次いで、上記トライパックを上記(A−2−1)の生ゴム溶液中に、漬浸(ディッピン
グ)を8回繰り返したのち、風乾した。
ディッピング後のトライパックを真空電気炉中で200℃×24h加熱、フッ素ゴムコ
ートメタルCリングを得た。
(A−3)試験内容
(A−3−1) ヘリウム漏洩試験
上記コート材にて被覆してなる本発明の「フッ素コート品」(フッ素ゴムコートメタルCリングガスケット)について気密性試験を常温(25℃)下で行った。
【0055】
この試験は、上述の実施例1と同条件にて行った。
該コートメタルCリングの「気密開始点」は10[kN/m]、「気密限界点」は50[kN/m]となった。
【0056】
全ての例における試験結果は後述する表4、図5にまとめて示した。
(A−3−2) 漏洩量の経時変化
本発明の「フッ素コート品」(フッ素ゴムコートメタルCリングガスケット)については、別の試料を用いて、気密開始点において荷重を一定に保持し、漏洩量の経時変化をH.L.D.にて測定した。
【0057】
漏洩量は以下の通り。
0時間保持:2.7E−10 [Pa・m3/s]、
24時間保持:2.1E−10 [Pa・m3/s]。
【0058】
全ての例における試験結果については後述する表5、図6に示した。
(B).弾性率測定
上述したフッ素ゴムコート材と同組成・同コート条件で、50×50×1mmのアルミニウム板(「No.3645トライパック」日本バルカー工業(株)製、外被20と同組成)に該フッ素ゴムコート材を被覆し、「DVEレオスペクトラーV4」(レオロジー社製)にて貯蔵弾性率を測定した。
【0059】
貯蔵弾性率測定条件は、−100℃〜+250℃の温度範囲、昇温速度5℃/min、圧縮モード:10Hz、2.0μm変位の条件にて測定した。
<考察>
0〜50℃の範囲にtanδピークが確認された。
【0060】
貯蔵弾性率(E’)は50〜200℃においては1×107Paで一定、200〜25
0℃においては0.8×107Paにて一定となった。
200℃における貯蔵弾性率(E’)は0.9×107Paであった。
[比較例1]
(メタルCリング)
(A).シール試験
(A−1)使用したガスケット・フランジの仕様
使用したガスケット・フランジは上述した実施例1と同仕様品である。
【0061】
被覆無しの現行品(:本発明との関係では「従来品」である。すなわち、フッ素コートされていないメタルCリング基材40(商品名:「トライパック」、日本バルカー工業(株)製))を用いた。
(A−2)試験内容(ヘリウム漏洩試験)
上述の現行品(従来品)について気密性試験を常温(25℃)下で行った。
【0062】
この試験は、上述の実施例1と同条件にて行った。
該メタルCリングの「気密開始点」は70〜90[kN/m]、「気密限界点」は30〜50[kN/m]となった。
【0063】
全ての例における試験結果については後述する表4、図5に示した。
[比較例2]
(フッ素ゴムOリング)
(A).シール試験
(A−1)使用したガスケット・フランジの仕様
ガスケット:フッ素ゴム製Oリングを使用。
【0064】
【表3】

フランジ(ガスケットがセットされる相手材):アルミニウム製で、シール面の表面粗さは3μm程度。
(A−2)試験内容(漏洩量の経時変化)
試験に際しては、上記と同様に気密開始点において荷重を保持した状態での漏洩量経時変化を測定した。
【0065】
漏洩量は以下の通り。
0時間保持:3.2E−08 [Pa・m3/s]、
24時間保持:5.1E−08 [Pa・m3/s]。
【0066】
全ての例における試験結果については後述する表5、図6に示した。
1−2 <シール試験結果まとめ>
(1−2−1) ヘリウム漏洩試験
実施例1、実施例2、比較例1、比較例2におけるヘリウム漏洩試験結果を示す(表4、図5)。
<考察>
本発明に係るフッ素コート品(フッ素樹脂コートメタルCリング、フッ素ゴムコートメタルCリング)は、現行品(:従来品)に比べ気密開始点が小さく、気密限界点も小さいことが分かる。
【0067】
即ち、本発明品(フッ素コート品)はメタルガスケットコートなし品(従来品)より低い応力で高いシール性を発揮できる。また、フッ素ゴムOリングは気密しなかった。
【0068】
【表4】

(1−2−2) 漏洩量の経時変化
実施例1、実施例2、比較例1、比較例2におけるヘリウムガス漏洩量の経時変化について試験結果を示す(表5、図6)。
<考察>
本発明に係るフッ素コート品は、フッ素ゴムOリングに比べ、初期(0時間保持後)の
漏洩量も少なく、24時間経過後もその漏洩量に違いがない。
【0069】
即ち、本発明品は適正な締付応力を付加すればゴムOリングによるシールより高いシール性を得られ、経時変化によっても劣化がないといえる。
【0070】
【表5】

実施例2において、膜厚を2種、40μmと10μmに調整して、Heガス透過漏洩量を測定したところ、それぞれ2.7×10-10Pa・m3/s、7.0×10-11Pa・m3/sとなった。図6には、膜厚40μmの測定結果を示す。
【0071】
コート膜の圧縮弾性率は、6×107Paであることから、線圧10kN/mで圧縮し
た場合の膜厚は、それぞれ20μmと5μmとなる。
ところで、本発明におけるシール性を表す指標である、透過漏洩量Qp(Pa・m3
s)は、Qp=KA(P0−P1)/L(式1)で表される。
【0072】
ここで、
K:透過係数(m2/s)、
A:透過断面積(m2)、
L:透過長さ(m)、
P0,P1:ガスケット外・内径の圧力(Pa)、
である。
【0073】
シール時におけるコート膜の断面形状が近似的に長方形であるとすれば、コート膜厚d(m)として、A=2Ldで表される。
即ち(式1)は、Qp=2Kd(P0−P1)(式2)と表すことができる。
【0074】
また、P0は大気圧下、P1は減圧下であるため、大気圧に対し0(ゼロ)と近似できる。
即ち、大気圧下P0は、1atm≒1.0×105Paであるから、Qp=2Kd・(
1.0×105)(式3)と表すことができる。
【0075】
透過係数は、その材料の種類により決定されるため、透過漏洩量は膜厚に比例するといえる。
(式3)に測定値を代入すると、Heの透過係数が求められ、本発明におけるHe透過係数は7.0×10-11(m2/s)となる。
【0076】
ところで文献値(具体的文献名:「バルカーハンドブック」(140頁、2005年版)によれば、フッ素ゴムのHeガス透過係数、酸素ガスO2の透過係数は、7.1×10-12〜16×10-12(m2/s)、0.99×10-12〜1.1×10-12(m2/s)であ
る。
【0077】
これより、透過係数比K(O2)/K(He)を求めると、
K(O2)/K(He)≒0.09となる。
本発明のコート膜もふっ素系素材であることから、この係数比に従うといえる。
【0078】
ゆえに、25℃におけるコート膜O2透過係数K=0.63×10-11(m2/s)とな
り、酸素ガス透過係数を求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】図1は、本発明の好適な一例を示す、メタルCリング基材の外表面がフッ素ゴムコートされてなるフッ素ゴムコートメタルCリングの模式断面図である。
【図2】図2は、リング状バネ10を、その上下方向から加圧して、メタルCリングに嵌める様子を示す説明図である。
【図3】図3は、ヘリウムリークディテクターによる漏洩量測定の模式図である。
【図4】図4は、漏洩量測定におけるメタルCリング基材40の説明図である。フッ素樹脂コート30は、このメタルCリング基材40の表面に設けられる。
【図5】図5は、ヘリウム漏洩試験結果を示す。
【図6】図6は、漏洩量の経時変化を測定した結果を示す。
【符号の説明】
【0080】
10・・・・・バネ(断面リング状バネ)、
10A・・・・・バネの表面、
20・・・・・メタルCリング、
20A・・・・・メタルCリングの表面、
30・・・・・フッ素ゴムコート、
30A・・・・・フッ素ゴムコートの表面、
40・・・・・メタルCリング基材、
40A・・・・・メタルCリング基材の表面、
50・・・・・外表面がフッ素ゴムコートされているメタルCリングガスケット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子材料を含んで成るコート膜を少なくともシール面に設けた金属ガスケットであって、下記(1)〜(3)の条件を満たすコート膜が設けられていることを特徴とする低締付金属ガスケット:
(1)25℃における酸素ガス透過係数が、10×10-12〜0.1×10-12(m2/s
)である樹脂、もしくはゴム、あるいはそれらの混合物である。
(2)圧縮変形において、200℃における貯蔵弾性率(E’)が1.0×107〜1.
0×102Paの範囲にある。
(3)コート膜の膜厚が1〜40μmである。
【請求項2】
上記ガスケットは、そのシール面が癖付け加工されていることを特徴とする請求項1に記載の低締付金属ガスケット。
【請求項3】
上記コート膜は、フッ素ゴム製またはフッ素樹脂、あるいはそれらの混合物から成り、これら樹脂またはゴムは、四フッ化エチレンから誘導される成分単位を主構造単位とし、パーフルオロアルキル基(アルキル基の炭素数C2〜16)を有する構造である、請求項1〜2の何れかに記載の低締付金属ガスケット。
【請求項4】
上記低締付金属ガスケットが、メタルCリングもしくはバネ入りメタルCリングである請求項1〜3の何れかに記載の低締付金属ガスケット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−19764(P2009−19764A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−145664(P2008−145664)
【出願日】平成20年6月3日(2008.6.3)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(000229564)日本バルカー工業株式会社 (145)
【Fターム(参考)】