説明

低融性無鉛ガラス材

【課題】低融点ガラス組成物として、無鉛系であって、低い温度で封着や焼結造形等の加工を行え、鉛系ガラスに代替し得る充分な実用的性能を具備するものを提供する。
【解決手段】Li2 4 7 からなる第一成分と、ZnO及びBaOの少なくとも一方からなる第二成分と、TeO2 、KPO3 、Bi2 3 、SnO、Nb2 5 、P2 5 より選ばれる少なくとも一種からなる第三成分とを含有してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子管、蛍光表示管、蛍光表示パネル、プラズマディスプレイパネル、液晶ディスプレイ用バックライトパネル、半導体パッケージ等の各種電子部品・電気製品の開口部や接合部の封着加工、ならびに高真空部の隔壁や電極包囲部等の焼結造形に用いる鉛フリーのガラス材に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、内部を高真空にして用いる各種電子部品・電気製品の封着加工や焼結造形には、低融性ガラス材が使用される。この低融性ガラス材は、低融点ガラスの粉末からなり、この粉末を有機バインダー溶液でペースト化して封着対象物品の被融着部に塗着し、電気炉等で焼成することにより、ビークル成分を揮散させてガラス粉末が融着したガラス連続層を形成させるものである。
【0003】
従来、このような低融性ガラス材としては、主としてPbO−B2 3 系の鉛ガラスの粉末が広く使用されていた。すなわち、鉛ガラスは、PbOの低融点性と高い溶融性により、低い温度で且つ広い温度範囲で加工を行える上、熱膨張が小さく、接着性、密着性、化学的安定性等にも優れるため、高い封止性、融着強度、耐久性が得られるという利点がある。しかるに、鉛は有毒物質であるため、鉛系ガラスの製造過程で労働安全衛生面の問題がある上、鉛系ガラスを使用した電子部品や電気製品が寿命に至った際、そのまま廃棄物として埋立て等で処分すれば鉛の溶出による土壌汚染や地下水汚染に繋がる一方、再生利用するにも鉛を含むために制約が大きく、その処置に困窮している現状である。
【0004】
そこで、近年においては、毒性の問題のない無鉛の低融性ガラス材の開発が広く進められつつある。そして、既に多くの無鉛ガラス材の組成が報告されており、特許技術では、例えばP2 5 −ZnO−アルカリ金属酸化物系(特許文献1)、P2 5 −WO3 −アルカリ金属酸化物系(特許文献2)、SnO−P2 5 −ZnO系(特許文献3)、CuO−P2 5 系(特許文献4)、SnO−P2 5 −B2 3 系(特許文献5)、Bi2 3 −B2 3 −SiO2 −Al2 3 −CeO系(特許文献6)、Bi2 3 −B2 3 −ZnO系(特許文献7)、SnO−P2 5 −Cl系(特許文献8)、B2 3 −ZnO−BaO−SnO系(特許文献9)、B2 3 −ZnO−BaO−Na2 O系(特許文献10)、SiO2 −B2 3 −ZnO−BaO−アルカリ金属酸化物系(特許文献11)、B2 3 −Bi2 3 −BaO系(特許文献12)等が提案されている。
【特許文献1】特開平5−132339号公報
【特許文献2】特開平9−208259号公報
【特許文献3】特開2001−302279号公報
【特許文献4】特開2001−199740号公報
【特許文献5】特開2003−183050号公報
【特許文献6】特開2003−54987号公報
【特許文献7】特開2003−128430号公報
【特許文献8】特開2004−59366号公報
【特許文献9】特開2005−15280号公報
【特許文献10】特開2005−47778号公報
【特許文献11】特開2005−145772号公報
【特許文献12】特開2005−231923号公報
【0005】
しかしながら、これら提案の無鉛ガラス材は、いずれも鉛系ガラス材に匹敵するほどの低融性、低熱膨張性、接着性、封止性、化学的耐久性を備えていないため、鉛系ガラス材に完全に代替させ得るものではない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、上述の事情に鑑みて、以前より鉛系ガラス材に代替する低融性無鉛ガラス材について綿密な実験研究を重ねる過程で、網目形成酸化物としてLi2 4 7 を、中間酸化物ないし網目修飾酸化物としてZnOを、更に網目修飾酸化物としてのBaOを、それぞれ選択して得られるガラス材、つまりLi2 4 7 −ZnO−BaO系の低融性無鉛ガラス材が非常に有用であることを究明し、これを特願2006−26615号として既に提案している。
【0007】
しかして、この提案のLi2 4 7 −ZnO−BaO系ガラス材は鉛系ガラスに代替し得る実用的性能を備えることが判明しているが、本発明者らが更に引き続いて改良研究を重ねた結果、該無鉛ガラス材の組成を基本としてに更に特定の金属酸化物成分を追加配合することにより、より低温加工性及び封着特性に優れた無鉛ガラス材が得られることを見出し、本発明をなすに至った。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明の請求項1に係る低融性無鉛ガラス材は、Li2 4 7 からなる第一成分と、ZnO及びBaOの少なくとも一方からなる第二成分と、TeO2 、KPO3 、Bi2 3 、SnO、Nb2 5 、P2 5 より選ばれる少なくとも一種からなる第三成分とを含有してなるものである。
【0009】
そして、請求項2の発明では、上記請求項1の低融性無鉛ガラス材において、第一成分及び第二成分の合量/第三成分の重量比が95/5〜20/80の範囲にある構成としている。更に、請求項3の発明では、上記請求項1又は2の低融性無鉛ガラス材において、第一成分及び第二成分が、両者の合量を100モル%として、20〜85モル%のLi2 4 7 と、0〜50モル%のZnOと、0〜60モル%のBaOとを含有する構成としている。
【0010】
また、請求項4の発明は、上記請求項1〜3のいずれかの低融性無鉛ガラス材において、第三成分として少なくともKPO3 を含有する構成としている。そして、請求項5の発明では、第三成分としてKPO3 を無鉛ガラス材全量中の55〜80重量%を占める範囲で含有するものとしている。
【0011】
一方、請求項6の発明は、上記請求項1〜3のいずれかの低融性無鉛ガラス材において、第三成分として少なくともTeO2 を含有する構成としている。更に、請求項7は、第三成分としてTeO2 を無鉛ガラス材全量中の5〜25重量%を占める範囲で含有するものとしている。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明によれば、低融性無鉛ガラス材として、鉛系ガラスに代替し得る実用的性能を備える第一及び第二成分からなるLi2 4 7 −ZnO−BaO系の組成をベースとし、更に第三成分として特定の酸化物を配合していることから、該ベース組成のガラス材よりも更に低温加工性や封着性に優れるものが提供される。
【0013】
請求項2の発明に係る低融性無鉛ガラス材によれば、上記ベース組成のガラス成分と第三成分の酸化物とが一定範囲の配合割合であることから、良好な低温加工性及び封着性が確実に発揮される。
【0014】
請求項3の発明に係る低融性無鉛ガラス材では、上記ベース組成のLi2 4 7 とZnO及びBaOが特定のモル比範囲にあることから、低温加工性及び封着性に優れたガラス組成が容易に設定可能となる。
【0015】
請求項4の発明に係る低融性無鉛ガラス材によれば、上記第三成分として少なくともKPO3 を配合することから、ガラス転移点が上記ベース組成のガラス材よりも大幅に低くなり、且つ熱的安定性を大きく設定でき、もって非常に優れた低温加工性が得られ、しかも被封着面に対して優れた密着性と大きな接着力を発揮でき、封着部の封止性と強度を著しく高め得る。
【0016】
請求項5の発明に係る低融性無鉛ガラス材は、上記第三成分としてKPO3 を特定範囲で含有することから、上記ベース組成のガラス材に比してガラス転移点が80℃前後も低くなり、それだけ卓越した低温加工性が得られる。
【0017】
請求項6の発明に係る低融性無鉛ガラス材によれば、上記第三成分として少なくともTeO2 を配合することから、ガラス転移点が上記ベース組成のガラス材よりも低くなると共に熱的安定性も増し、もって優れた低温加工性が得られる上、被封着面に対する良好な密着性及び接着力により、封着部の封止性と強度を大きく向上できる。
【0018】
請求項7の発明に係る低融性無鉛ガラス材によれば、上記第三成分としてTeO2 を特定範囲で含有することから、優れた低温加工性と封着性が確実に発揮される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の低融性無鉛ガラス材は、既述のように、Li2 4 7 からなる第一成分と、ZnO及びBaOの少なくとも一方からなる第二成分と、TeO2 、KPO3 、Bi2 3 、SnO、Nb2 5 、P2 5 より選ばれる少なくとも一種からなる第三成分とを含有する。その第一成分と第二成分とからなるガラス組成は、本発明の先行技術(特願2006−26615号)に係る低融性無鉛ガラス材に対応している。
【0020】
次の表1に、上記先行技術の低融性無鉛ガラス材の組成例G1〜G8と、その各々の示差熱分析によるガラス転移点〔Tg〕、軟化点〔Tf〕、結晶化開始温度〔Tx〕の測定値、熱的安定性〔ΔT=Tx−Tg〕の算出値、ガラス回収率、熱機械分析による熱膨張率〔α〕の測定値を示す。なお、これらガラス材G1〜G8は、いずれも粉末X線解析によって非晶質であることが確認されている。しかして、これらガラス材G1〜G8の具体的な製造方法と、ガラス回収率を除く各特性の具体的な測定方法は、後述する実施例と同様である。なお、ガラス回収率は、原料酸化物粉末を白金るつぼに収容して焼成後、溶融物をアルミナボートに流し込んだ際の収量の重量%であり、残余は白金るつぼ内に残った量に相当する。











【0021】
【表1】

【0022】
上表で示すように、先行技術の低融性無鉛ガラス材は、ガラス転移点〔Tg〕が475℃以下、軟化点〔Tf〕が500℃未満であり、封着加工や焼結造形等の加工を550℃以下といった低い温度で確実に行えるため、それだけ被加工物に対する熱影響を少なくできると共に熱エネルギー消費を低減でき、また熱膨張係数が小さいので被加工部との熱膨張特性を適合させ易く、原料とする酸化物粉末からの溶融によるガラス回収率も略80%以上と良好であり、被加工物のガラス、セラミック、金属等よりなる表面に対する密着性も良いから、封着部における高い封止性が得られる。
【0023】
本発明の低融性無鉛ガラス材は、上記の第一及び第二成分からなるLi2 4 7 −ZnO−BaO系の組成をベースとし、更に第三成分として既述の特定の酸化物を配合することにより、該ベース組成のガラス材よりも更に低温加工性や封着性を向上させたものであるが、好結果を得る上で、第一成分及び第二成分の合量/第三成分の重量比を95/5〜20/80の範囲とするのがよい。
【0024】
この第三成分の酸化物は、既述したTeO2 、KPO3 、Bi2 3 、SnO、Nb2 5 、P2 5 より選ばれるものであり、これらの2種以上を併用しても差し支えないが、使用する種類によってガラス材の低温加工性や封着性の向上度合に差があり、中でもTeO2 及びKPO3 による作用効果が大きく、特にKPO3 の作用効果が優れている。従って、特に好結果を得る上で、第三成分として少なくともTeO2 とKPO3 の何れかを含む組成とすることが推奨される。
【0025】
これら第三成分の酸化物の内、まずTeO2 については、後述する実施例の性能試験結果から実証されるように、第一及び第二成分との組合せにより、第一及び第二成分からなるガラス材に比し、ガラス転移点〔Tg〕が10数℃〜20数℃低下すると共に、熱的安定性〔ΔT〕も10℃〜20数℃拡大する上、被加工物表面に対する良好な密着性及び接着強度が得られ、特に第一及び第二成分では接着力に劣る低融性組成ベースでも格段に接着力が増すことが判明している。
【0026】
第三成分としてTeO2 を単独で用いる場合の配合比率は、ガラス材全量中の5〜25重量%を占める範囲が好ましく、少な過ぎては実質的な配合効果が得られず、多過ぎてはガラス転移点〔Tg〕の低下作用ならびに熱的安定性〔ΔT〕の拡大作用が却って発現しにくくなる。
【0027】
次に、KPO3 は、やはり後述する実施例の性能試験結果から実証されるように、第一及び第二成分との組合せにより、第一及び第二成分からなるガラス材に比し、僅かな配合量でもガラス転移点〔Tg〕が大幅に低下し、配合比率の大きい場合には該ガラス転移点〔Tg〕が80℃以上も低下する。また、KPO3 を含むガラス組成では、被加工物表面に対する高い密着性と大きな接着強度により、優れた封着性を発揮できる。
【0028】
このKPO3 の配合比率については、理由は不明であるが、低比率側と高比率側がよく、中間比率では結晶化するという特異な傾向が認められている。このため、KPO3 を第三成分として単独で用いる場合、ガラス材全量中の20重量%未満とするか、もしくは同50重量%を越える比率とするのがよく、中間比率(20重量%〜50重量%)を回避することが望ましい。しかして、KPO3 の特に好適な配合比率としては、極めて低いガラス転移点〔Tg〕で卓越した低温加工性が得られることから、ガラス材量中の55〜80重量%の範囲が推奨される。
【0029】
第三成分の他の酸化物についても、第一及び第二成分との組合せにより、既述したTeO2 とKPO3 には劣るものの、それぞれ特徴的な作用効果を発揮する。すなわち、Bi2 3 はガラス転移点〔Tg〕を約10〜20℃程度低下させる作用、SnOは熱的安定性〔ΔT〕を最大10℃程度拡大させる作用、Nb2 5 及びP2 5 は熱膨張係数〔a〕を小さくすると共に被加工物表面に対する接着力を高める作用、を発揮する。しかして、熱的安定性〔ΔT〕の拡大は加工温度範囲の拡がりで加工条件が緩和されることになり、熱膨張係数の低下は被封着体との熱膨張係数を適合させて封着部の応力を制御するのに有利となる。
【0030】
これら第三成分の他の酸化物を単独で用いる場合の配合比率は、ガラス材全量中、Bi2 3 では5〜30重量%程度、SnOでは5〜20重量%程度、Nb2 5 では5〜25重量%程度、P2 5 では5〜40重量%程度、とするのがよい。
【0031】
一方、前記第一成分のLi2 4 7 と、第二成分のZnO及び/又はBaOとからなるベース組成としては、第一及び第二成分の合量を100モル%として、20〜85モル%のLi2 4 7 と、0〜50モル%のZnOと、0〜60モル%のBaOとを含有するものが好ましい。
【0032】
なお、第一成分のLi2 4 7 は、網目形成酸化物として機能するリチウムとホウ素の複合酸化物であり、Li2 O・2B2 3 としてLi2 Oの1モルとB2 3 の2モルとの化合物に相当する。しかるに、Li2 4 7 に代えてLi2 OとB2 3 とをモル比1:2の割合で用いた場合は、Li2 4 7 を用いた本発明の無鉛ガラス材に比較して熱的安定性(ΔT=結晶化開始温度Tx−ガラス転移点Tg)が低下すると共に、加工後のガラス層が茶褐色になるという欠点を生じることが判明している。
【0033】
本発明の低融性無鉛ガラス材を製造するには、原料の粉末混合物を白金るつぼ等の容器に入れ、これを電気炉等の加熱炉内で所定時間焼成して溶融させてガラス化し、この溶融物をアルミナボート等の適当な型枠に流し込んで冷却し、得られたガラスブロックを粉砕機によって適当な粒度まで粉砕すればよい。そのガラス粉末の粒度は0.05〜100μmの範囲が好適であり、上記粉砕による粗粒分は分級して除去すればよい。
【0034】
また、本発明の低融性無鉛ガラス材は、封着や焼結造形等の加工に供する際、その粉末単独で用いればよいが、特に立体的に盛り付けて焼結造形する場合、ガラス粉末を焼結用母材として充填材や骨材の如きフィラーを混合した混合物形態で用いることが好ましい。このような混合物形態では、低融性ガラス材がフィラーの粒子同士を結着するバインダーとして機能するから、立体的な造形を容易に行え、高強度で緻密なセラミック形態の焼結体が得られる。
【0035】
上記のフィラーとしては、低融性無鉛ガラス材よりも高融点で、加工時の焼成温度では溶融しないものであればよく、特に種類は制約されないが、例えば珪酸ジルコニウム、コジェライト、リン酸ジルコニル、リン酸タングステン酸ジルコニウム、β・ユークリプタート、β・スポジュメン、ジルコン、アルミナ、ムライト、シリカ、β−石英固溶体、ケイ酸亜鉛、チタン酸アルミニウム等の粉末が好適である。しかして、これらフィラーの配合量は、低融性無鉛ガラス材/フィラーの重量比で95/5〜55/45程度の範囲とするのがよく、多過ぎてはガラス組成物による結着力が不足して強固な焼結体を形成できない。
【0036】
更に、本発明の低融性無鉛ガラス材、ならびに該ガラス材に上記フィラーを混合した混合物には、必要に応じて種々の顔料を配合することができる。
【0037】
本発明の低融性無鉛ガラス材の粉末、ならびに該粉末に前記フィラーや顔料を混合した混合粉末は、焼結造形では粉末のまま成形型に充填して加圧成形し、得られた成形物を被加工物の所要部位に配置して焼成する場合もあるが、一般的には粉末を有機バインダー溶液に高濃度分散させたペーストとし、これを被加工物の所要部位に塗工したり盛り付けて焼成に供するから、予めペースト形態として製品化してもよい。
【0038】
上記ペーストに用いる有機バインダー溶液としては、特に制約はないが、例えばニトロセルロースやエチルセルロースの如きセルロース類のバインダーを、パインオイル、ブチルジグリコールアセテート、芳香族炭化水素系溶剤、シンナーの如き混合溶剤等の溶剤に溶解させたもの、アクリル系樹脂バインダーをケトン類、エステル類、低沸点芳香族等の溶剤に溶解させたものがある。しかして、ペーストの粘度は、塗工作業性面より、100〜2000dPa・sの範囲とするのがよい。
【0039】
封着加工では、上記のペーストを封着対象物品の被封着部に塗着し、この物品を電気炉等の加熱炉内で焼成することにより、ガラス粉末を溶融一体化して封着ガラス層を形成すればよい。しかして、この焼成は、一回で行うことも可能であるが、封着品質を高める上では仮焼成と本焼成の2段階で行うのがよい。すなわち、2段階焼成では、まず封着加工用無鉛ガラス材のペーストを封着対象物品の被封着部に塗着し、この塗着した物品を該ペーストに含まれる無鉛ガラスの軟化点〔Tf〕付近で仮焼成することにより、ペーストのビークル成分(バインダーと溶媒)を揮散・熱分解させてガラス成分のみが残る状態とし、次いで当該無鉛ガラスの結晶化開始温度〔Tx〕付近で本焼成を行ってガラス成分が完全に溶融一体化した封着ガラス層を形成する。
【0040】
このような2段階焼成によれば、仮焼成の段階でビークル成分が揮散除去され、本焼成ではガラス成分同士が融着することになるから、封着ガラス層中に気泡や脱気によるピンホールが生じるのを防止でき、もって封止の信頼性及び封止部の強度を高めることができる。また、封着対象物品が真空パッケージのように複数の部材を封着にて接合したり封着部分に電極やリード線、排気管等を挟んで封着固定するものである場合は、組立前の部材単位で前記仮焼成を行ったのち、加熱炉から取り出した部材を製品形態に組み立て、この組立状態で本焼成を行うようにすればよい。
【0041】
なお、仮焼成の特に好適な温度範囲は前記軟化点〔Tf〕−10℃から+40℃、本焼成の特に好適な温度範囲は結晶化開始温度〔Tx〕−20℃から+50℃である。また、仮焼成では、内部に生じた気泡を層中から確実に離脱させるために緩やかな昇温速度とするのがよく、室温からガラス転移点〔Tg〕付近までは0.1〜30℃/分程度、ガラス転移点〔Tg〕付近から軟化点〔Tf〕付近までは0.1〜10℃/分程度が好ましい。一方、本焼成では、室温から結晶化開始温度〔Tx〕付近まで0.1〜50℃/分程度で昇温させ、結晶化開始温度〔Tx〕付近で一定に保持するのがよい。
【0042】
本発明の低融性無鉛ガラス材による加工対象は特に制約はなく、例えば封着加工では電子管、蛍光表示管、蛍光表示パネル、プラズマディスプレイパネル、液晶ディスプレイ用バックライトパネル、半導体パッケージ等の各種電子部品・電気製品の開口部や接合部、焼結造形では高真空部の隔壁や電極包囲部等が挙げられるが、本発明は特に内部を10-6Torr以上の高真空とする真空パッケージのように高度な封止性を要する被封着物品への適用性に優れる。
【実施例】
【0043】
以下に、本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、以下において使用した原料酸化物はいずれも和光純薬社製の特級試薬であり、その他の分析試薬等についても同様に特級試薬を用いた。
【0044】
実施例1
原料酸化物としてLi2 4 7 粉末、ZnO粉末、BaO粉末、TeO2 粉末を後記表2に記載の比率(重量%)で混合したもの(全量15g)を白金るつぼに収容し、電気炉内で約1000℃にて60分間焼成したのち、その溶融物をアルミナボートに流し込んでガラスバーを作成し、大気中で冷却後に該ガラスバーを自動乳鉢にて粉砕し、この粉砕物を分級して粒径100μm以下のものを採取し、低融性無鉛ガラス材Te1〜Te5を製造した。
【0045】
実施例2
原料酸化物としてLi2 4 7 粉末、ZnO粉末、BaO粉末、KPO3 粉末を用い、後記表3に記載の比率(重量%)で混合し、以降は実施例1と同様にして低融性無鉛ガラス材KP1〜KP5を製造した。
【0046】
実施例3
原料酸化物としてLi2 4 7 粉末、ZnO粉末、BaO粉末、Bi2 3 粉末を用い、後記表4に記載の比率(重量%)で混合し、以降は実施例1と同様にして低融性無鉛ガラス材Bi1〜Bi8を製造した。
【0047】
実施例4
原料酸化物としてLi2 4 7 粉末、ZnO粉末、BaO粉末、SnO粉末を用い、後記表5に記載の比率(重量%)で混合し、以降は実施例1と同様にして低融性無鉛ガラス材Sn1〜Sn6を製造した。
【0048】
実施例5
原料酸化物としてLi2 4 7 粉末、ZnO粉末、BaO粉末、Nb2 5 粉末を用い、後記表6に記載の比率(重量%)で混合し、以降は実施例1と同様にして低融性無鉛ガラス材Nb1〜Nb3を製造した。
【0049】
実施例6
原料酸化物としてLi2 4 7 粉末、ZnO粉末、BaO粉末、P2 5 粉末を用い、後記表7に記載の比率(重量%)で混合し、以降は実施例1と同様にして低融性無鉛ガラス材P1〜P5を製造した。
【0050】
上記実施例で製造した低融性無鉛ガラス材Te1〜Te5、KP1〜KP5、Bi1〜Bi8、Sn1〜Sn6、Nb1〜Nb3、P1〜P5について、ガラス転移点〔Tg〕、軟化点〔Tf〕、結晶化開始温度〔Tx〕、熱的安定性〔ΔT〕、結晶化状態、熱膨張係数〔α〕、封着性能を調べた。その結果を後記表3〜表7に示す。なお、各項目の測定方法は次の通りである。
【0051】
〔ガラス転移点、軟化点、結晶化開始温度、熱的安定性〕
示差熱分析装置(理学電気社製TG8120)により、リファレンス(標準サンプル)としてα−アルミナを用い、加熱速度10℃/分、温度範囲25℃(室温)〜600℃の測定条件でサンプルのガラス転移点〔Tg〕、軟化点〔Tf〕、結晶化開始温度〔Tx〕を測定すると共に、その結果から熱的安定性〔ΔT=Tx−Tg〕を算出した。なお、前記製造時に白金るつぼから溶融物をアルミナボートへ流し込んだ際のガラス回収率が低いものについては測定を省略した。
【0052】
〔ガラス化状態〕
粉末X線解析装置(理学電気社製ガイガーフレックス 2013型)により、走査速度:2°/分、測定角度:2θ=60°→20°の条件でガラス粉末の構造解析を行い、非晶質(完全な無定形ガラスの状態)を○、一部結晶化(ガラス状の部分と結晶部分に分相化した状態)を△、結晶化(殆どガラス化していない状態)を×として区分した。なお、封着や焼結造形等の加工のためには非晶質であることを必要とする。
【0053】
〔熱膨張係数〕
前記の粉末X線解析装置による構造解析で非晶質であった無鉛ガラス材の一部を対象として、熱機械分析装置(島津製作所社製TMA60)により、熱膨張係数を測定した。この測定は、無鉛ガラス材粉末を再度溶融し、これを5×5×20mm(縦×横×高さ)の四角柱に成形し、上底面が平行に成形されたものを測定試料として用い、25〜200℃まで5℃/分で昇温させ、平均熱膨張係数αを求めた。また、標準サンプルには、α−Al2 3 を用いた。
【0054】
〔封着性能〕
各低融性無鉛ガラス材について、その粉末にエチルセルロースのシンナー溶液を加え、十分に混練してガラスペーストを調製し、このガラスペーストをソーダライム板ガラス(縦30mm、横40mm、厚さ2.0mm)の片面中央部に直径約20mmの円形に塗布し、これを電気炉内で加熱速度10℃/分で230℃まで昇温させ、この温度で5分間保持したのち、更に加熱速度4℃/分で軟化点〔Tf〕より10℃程度高い温度まで昇温させ、この温度で10分間保持する仮焼成を行った。その後、電気炉から取り出した板ガラスにガラスペーストを塗布していない同じ板ガラスを重ねて、クリップで固定し、再度電気炉に入れ、加熱速度40℃/分で結晶化開始温度〔Tx〕より10℃程度高い温度まで昇温し、この温度で20分間保持する本焼成を行った上で取り出し、塗着ガラス材の密着状態を観察し、密着性を評価した。また、密着性評価後の各封着体について、25℃下で両板ガラス間に開離方向の力を加え、接着力を評価した。各評価は次の通りである。
【0055】
<密着性>
○・・・塗着域全体がムラなく板ガラス面に密着している。
△・・・塗着域の周辺部が密着していない。
×・・・密着部と被着部が混在している。
<接着力>
○・・・両ガラス板が開離しない。
△・・・かなりの力を要して両ガラス板が開離する。
×・・・後付けの板ガラスと塗着ガラス層の界面で簡単に開離する。


























【0056】
【表2】


【0057】
表2の結果から明らかなように、第三成分としてTeO2 を用いた低融性無鉛ガラス材は、その組成ベースとした第一及び第二成分からなるガラス材G5,G7に比較して、ガラス転移点〔Tg〕が10数℃〜20数℃低く、熱的安定性〔ΔT〕も10℃〜20数℃拡大しており、しかも被加工物の板ガラス表面に対する密着性及び接着強度が良好で、特にガラス材Te3〜Te5のように接着力に劣る低融性組成ベース(ガラス材G7)でも格段に接着力が増している。従って、この低融性無鉛ガラス材を用いることにより、優れた低温加工性が得られ、特に封着加工に用いた場合に良好な封着性能を発揮できる。









































【0058】
【表3】

【0059】
表3の結果から明らかなように、第三成分としてKPO3 を用いた低融性無鉛ガラス材の場合、その組成ベースとした第一及び第二成分からなるガラス材G2に比較して、KPO3 の配合比率が5〜20重量%(ガラス材KP1〜KP3)でガラス転移点〔Tg〕は10数℃〜約30℃も低下し、同配合比率が50〜70重量%(ガラス材KP6〜KP8)になると該ガラス転移点〔Tg〕は約70〜80℃も低下しており、被加工物の板ガラス表面に対する密着性及び接着強度も良好である。従って、この低融性無鉛ガラス材を用いることにより、非常に優れた低温加工性が得られ、封着加工においても良好な封着性能が得られる。ただし、KPO3 の配合比率が20〜50重量%の範囲では結晶化するため、それよりもKPO3 の配合比率が高低いずれかのガラス組成がよく、特にガラス転移点〔Tg〕が非常に低くなる高比率側のガラス組成が最適であることが判る。










































【0060】
【表4】


【0061】
【表5】

【0062】
表4の結果から、第三成分としてBi2 3 を用いた低融性無鉛ガラス材では、組成ベースのガラス材G7に対してガラス転移点〔Tg〕が約10〜20℃程度低下しているため、低温加工性が向上すると共に、板ガラスに対する接着力の改善も認められ、組成ベース(第一及び第二成分の組合せ)によっては封着用途でも好結果が得られることが判る。また、表5の結果から、第三成分としSnOを用いた低融性無鉛ガラス材では、熱的安定性〔ΔT〕が最大10℃程度拡大しており、それだけ加工条件が緩和されると共に、やはり板ガラスに対する接着力の改善も認められ、封着用途にも好結果を期待できる。









































【0063】
【表6】



【0064】
【表7】

【0065】
表6及び表7の結果から、第三成分としてNb2 5 もしくはP2 5 を用いた低融性無鉛ガラス材は、組成ベースのガラス材に比し、熱膨張係数〔a〕が小さくなると共に、被加工物表面に対する接着力も向上していることが判る。従って、これらガラス材によれば、封着加工において、被封着体との熱膨張係数を適合させて封着部の応力を制御し易く、それだけ封着製品の歩留りを高め得ると共に、封着性能の改善によって製品品質も向上できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Li2 4 7 からなる第一成分と、ZnO及びBaOの少なくとも一方からなる第二成分と、TeO2 、KPO3 、Bi2 3 、SnO、Nb2 5 、P2 5 より選ばれる少なくとも一種からなる第三成分とを含有してなる低融性無鉛ガラス材。
【請求項2】
前記第一成分及び第二成分の合量/第三成分の重量比が95/5〜20/80の範囲にある請求項1記載の低融性無鉛ガラス材。
【請求項3】
前記第一成分及び第二成分が、両者の合量を100モル%として、20〜85モル%のLi2 4 7 と、0〜50モル%のZnOと、0〜60モル%のBaOとを含有する請求項1又は2に記載の低融性無鉛ガラス材。
【請求項4】
前記第三成分として少なくともKPO3 を含有する請求項1〜3のいずれかに記載の低融性無鉛ガラス材。
【請求項5】
前記第三成分としてKPO3 を無鉛ガラス材全量中の55〜80重量%を占める範囲で含有する請求項4記載の低融性無鉛ガラス材。
【請求項6】
前記第三成分として少なくともTeO2 を含有する請求項1〜3のいずれかに記載の低融性無鉛ガラス材。
【請求項7】
前記第三成分としてTeO2 を無鉛ガラス材全量中の5〜25重量%を占める範囲で含有する請求項6記載の低融性無鉛ガラス材。

【公開番号】特開2007−320836(P2007−320836A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−155798(P2006−155798)
【出願日】平成18年6月5日(2006.6.5)
【出願人】(504258527)国立大学法人 鹿児島大学 (284)
【出願人】(000114927)ヤマト電子株式会社 (10)
【Fターム(参考)】