説明

低触媒被毒性シール材を適用した沸騰水型原子力プラント

【課題】本発明では、沸騰水型原子力発電システムの再結合器内部に充填された触媒の被毒成分となる有機系ケイ素化合物の発生量を極力低減したシール材を適用した沸騰水型原子力発電システムを提供することにある。
【解決手段】本発明では再結合器内部に充填された触媒の被毒物資となる環状シロキサン等を極力発生しないシール材、又は環状シロキサンを全く発生しないフッ素系のシール材を沸騰水型原子力発電システムに適用することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、沸騰水型原子力プラントの再結合器用触媒に対して被毒性が小さいシール材を使用した沸騰水型原子力プラントシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化炭素(以下、CO2と略す)などによる地球温暖化が深刻になる状況において、CO2を発生しない原子力発電システムは将来のエネルギー供給源として、年々、全世界で需要が高まっている。
原子力発電システムの方式には、沸騰水型原子炉(以下、BWRと略す)、及び改良型沸騰水型原子炉(以下、ABWRと略す)があるが、本方式では原子炉内での水の放射線分解により、水素と酸素が発生し、これが蒸気と共にタービン系に移行する。この際、蒸気は最終的に復水器において凝縮水となるが、水素と酸素は非凝縮性のガスとして残る。復水器内部の非凝縮性ガスは安全な状態を確保した上で排気される。特に水素と酸素の混合ガスは、気相反応で再結合すると燃焼の危険性があるため、(1)式に示すように、これらを排ガス再結合器内部の燃焼触媒上で水へ再結合させる方法が適用されている。
2H2 + O2 → 2H2O ・・・(1)
再結合器上流に設置されている低圧タービンにおいて、従来はパッキン部のシール材として亜麻仁油を使用していたが、気密性が低いためタービン効率が低下し、これを改善するためにシール材を硬化性シール材に変更した。非特許文献1〜3に開示されているように、これらのシール材からは室温でも微量のヘキサメチルジシロキサン(HMDS)が発生し、これが可燃式水素センサーの電極に付着して性能が低下することに関する研究例は多くある。HMDSはSi原子を2個含む鎖状化合物であるが、Si原子数が3個以上に増えると、下記式
【化1】

に示すような環状シロキサン化合物(以下、D類と略す)となり、非特許文献1に開示されているように、これらD類は燃焼触媒の被毒物質となることが判明している。これらのことから、原子力発電プラントの安全性を維持するためには、有機シリコン系のシール材からのD類の発生を極力低減することが望ましい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Karl Arnby, Mohammad Rahmani, Mehri Sanati: Applied Catalysis B, pp.1−7(2004)
【非特許文献2】Masahiko Matsumiya, Woosuck Shin, Fabin Qiu et al: Sensors and Actuators B, pp.516−522(2003)
【非特許文献3】Jean−Jacques Ehrhardt, Lionel Colin, Didier Jamois, et al: Sensors and Actuators B, pp.117−124(1997)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、沸騰水型原子力プラントの再結合器用触媒に対して被毒性が小さいシール材を適用した沸騰水型原子力プラントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記目的を達成するため、下記の沸騰水型原子力プラントを提供する。
(1)沸騰水型原子炉、復水器、蒸気タービン、再結合処理装置、補給水槽を具えた沸騰水原子力発電システムにおいて、前記蒸気タービン部のフランジ接触箇所に低触媒被毒性シール材を有し、該低触媒被毒性シール材が、単位質量当たりに含有するケイ素原子数20個以下の環状シロキサンの含有総量が200μg/g以下のものであることを特徴とする低触媒被毒性シール材を適用した沸騰水型原子力プラント。
(2)沸騰水型原子炉、復水器、蒸気タービン、再結合処理装置、補給水槽を具えた沸騰水原子力発電システムにおいて、前記復水器の伸縮継手部に接する箇所に低触媒被毒性シール材を有し、該低触媒被毒性シール材が、単位質量当たりに含有するケイ素原子数20個以下の環状シロキサンの含有総量が200μg/g以下のものであることを特徴とする低触媒被毒性シール材を適用した沸騰水型原子力プラント。
(3)沸騰水型原子炉、復水器、蒸気タービン、再結合処理装置、補給水槽を具えた沸騰水原子力発電システムにおいて、前記再結合処理装置の上流位置に設置した空気圧縮機のガスケット又はフランジ部分に低触媒被毒性シール材を有し、該低触媒被毒性シール材が、単位質量当たりに含有するケイ素原子数20個以下の環状シロキサンの含有総量が200μg/g以下のものであることを特徴とする低触媒被毒性シール材を適用した沸騰水型原子力プラント。
(4)運転時に150〜200℃の温度範囲となるプラントにおいて、低触媒被毒性シール材がフッ素ゴム系シール材又はシリコーン系シール材であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかの低触媒被毒性シール材を適用した沸騰水型原子力プラント。
(5)沸騰水型原子炉、復水器、蒸気タービン、再結合処理装置、補給水槽を具えた沸騰水原子力発電システムにおいて、前記沸騰水型原子炉の定期検査時に前記原子炉から蒸気を排出する配管部分に、前記原子炉内部に水供給槽から充填した水が漏洩しないように閉止バルブを設置し、該閉止バルブと前記蒸気を排出する配管部分が接触する部分に、フッ素ゴム系シール材を適用することを特徴とする低触媒被毒性シール材を適用した沸騰水型原子力プラント。
【0006】
更には、BWRシステムにおける、その他のシール適用箇所として、サービスエアー空気圧縮機のシリンダーカバー用のパッキンとして、またインタークーラー及びアフタークーラーのガスケット又はフランジ部分にも触媒に対する被毒成分を極力含有しないシール材を適用することができる。
【0007】
前記シール材に含有する環状シロキサンの一分子当たりのケイ素原子の数が20個以下の環状シロキサン(D類)含有量がシール材単位質量当たりで200μg/g以下である。ここでいうシール材としては、D類含有量がシール材単位質量当たりで200μg/g以下であるようなシリコーン系シール材及びD類非含有の各種シール材を使用することができる。
各種シール材としては、ポリイソブチレン系、変成シリコーン系、ポリサルファイド系、アクリルウレタン系、ポリウレタン系、アクリル系、ブチルゴム系、油性コーキング系、フッ素ゴム系などのシール材が使用可能である。
但し、主として150℃以上の高温環境で用いられるため、耐熱性が優れており、D類含有量がシール材単位質量当たりで200μg/g以下であるようなシリコーン系シール材の使用が好ましい。また同様に耐熱性に優れたフッ素ゴム系シール材、特にフッ素化ポリエーテル系シール材が好ましい。
【0008】
この場合、シリコーン系シール材としては、下記(A)、(B)成分を必須成分とするものが好ましい。
(A)ベースポリマーとして、分子鎖末端が水酸基又は炭素数1〜3のアルコキシ基等の加水分解性基で封鎖されたジオルガノポリシロキサンで、20℃において10-12mmHg以上の蒸気圧を有するD類含有量が0.1質量%以下のジオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)架橋剤として、一分子中に3個以上の加水分解性基を含有するオルガノシラン及び/又はその部分加水分解物:0.5〜30質量部
【0009】
この場合、(A)成分としては、分子鎖末端が水酸基で封鎖されたジメチルポリシロキサンが好ましい。
また、(B)成分としては、式R4-ySiXyで示されるシラン又はその部分加水分解物が好適に用いられる。ここで、Rはメチル基、エチル基、ビニル基、フェニル基等の炭素数1〜6の1価炭化水素基、Xはメチルエチルケトオキシム基、ジブチルケトオキシム基等のケトオキシム基、イソプロペノキシ基等のアルケノキシ基、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基等の加水分解性基を示す。yは3又は4である。
なお、必要により、有機スズ化合物、チタン酸エステル、チタンキレート等の有機チタン化合物等の縮合反応触媒、煙霧質シリカ、炭酸カルシウム等の補強性充填剤、シランカップリング剤等の接着性付与剤等を配合し得る。
上記シリコーン系シール材は、空気中の水分により雰囲気温度において架橋硬化される。
なお、シリコーン系シール材としては、市販品を使用することができ、例えば、信越化学工業(株)製ピュアシーラント、ピュアシーラントSシリーズ等が挙げられる。
【0010】
また、フッ素化ポリエーテル系シール材としては、下記(C)、(D)、(E)成分を必須成分とするものが好ましい。
(C)アルケニル基含有フッ素化ポリエーテル:100質量部、
(D)含フッ素オルガノ水素シロキサン:1〜30質量部、
(E)ヒドロシリル化反応触媒:(C)、(D)成分の合計量に対し1〜1,000ppm
上記フッ素化ポリエーテル系シール材は、雰囲気温度で、又は60〜200℃に加熱することによって硬化する。
このフッ素化ポリエーテル系シール材も市販品を使用し得、例えば、信越化学工業(株)製X−71−6053A/B、X−71−6049A/B等を使用することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、安全に起動でき、かつ長期間の連続運転可能な稼働率が高い沸騰水型原子力発電システムに適用可能なシール材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】被毒性が小さいシール材を適用したBWRプラントの一実施例を示し、(a)は概略図、(b)は(a)中A部分の拡大図を示し、(b)−1はシール材塗布状態、(b)−2は締結後の状態を示す。
【図2】エバポレータ揮発試験装置の概略図である。
【図3】エバポレータ揮発試験装置での評価結果を示すグラフである。
【図4】シール材の触媒性能影響評価装置の概略図である。
【図5】シール材の触媒性能影響評価装置での評価結果を示すグラフである。
【図6】シール材水添加分解試験装置を示す概略図である。
【図7】シール材の触媒性能影響評価装置での評価結果を示すグラフである。
【図8】被毒性が小さいシール材をBWRプラントの点検時に適用した一実施例を示す概略図である。
【図9】被毒性が小さいシール材を適用したBWRプラントの一実施例を示し、(a)は概略図、(b)は(a)のA部分の拡大図、(c)は(b)のB部分の拡大図である。
【図10】エバポレータ揮発試験装置での評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態及び実施例】
【0013】
以下、本発明を実施例で具体的に説明する。
[実施例1]
図1は再結合器用触媒に対して被毒性が小さいシール材を適用したBWRプラントの一実施例である。
本実施例のBWRプラント18は、原子炉、低圧(蒸気)タービン3、復水器5、除湿冷却器12、排ガス予熱器13、オフガス系配管15、再結合器(再結合装置)1、活性炭吸着装置11、サービスエアー導入管2、ガス分析装置(図示せず)及び酸素供給装置(図示せず)を備えている。原子炉は、原子炉圧力容器4内に配置した炉心16を有する。核燃料物質を含む複数の燃料集合体9が炉心16に装荷されている。原子炉には複数の制御棒10が設けられ、これらの制御棒10が炉心に出し入れされることによって原子炉出力が制御される。
【0014】
高圧タービン(図示せず)及び低圧タービン3が主蒸気配管8によって原子炉圧力容器4に接続される。低圧タービン3は、高圧タービンの下流に配置されて復水器5に設置される。低圧タービン3のパッキング部にシール材として低触媒被毒性シール材が用いられる。復水器5に接続された給水配管17が原子炉圧力容器4に接続される。給水ポンプ6が給水配管17に設けられる。発電機7が高圧タービン及び低圧タービン3の回転軸に連結される。
【0015】
オフガス系配管15が復水器5に接続され、空気抽出器(図示せず)、除湿冷却器12、排ガス予熱器13、再結合器1、冷却装置(図示せず)及び活性炭吸着装置11がこの順番にオフガス系配管15に設けられる。水素と酸素の結合反応を促進させる触媒が、再結合器1内に充填されている。ガス採取配管(図示せず)が排ガス予熱器13と再結合器1の間でオフガス系配管15に接続される。活性炭吸着装置11より下流でオフガス系配管15は煙突14に接続される。サービスエアー導入管2も、除湿冷却器12と排ガス予熱器13の間でオフガス系配管15に接続される。
【0016】
BWRプラント18の運転中、原子炉圧力容器4内の冷却水が、図示されていない再循環ポンプ(又はインターナルポンプ)で昇圧されて炉心16に供給される。この冷却水は、燃料集合体9内の核燃料物質の核分裂で発生する熱によって加熱され、一部が蒸気になる。この蒸気は、主蒸気配管8を通って、高圧タービン及び低圧タービン3に順次供給され、高圧タービン及び低圧タービン3を回転させる。これらのタービンに連結された発電機7も回転し、電力を発生する。
【0017】
低圧タービン3から排気された蒸気は復水器5で凝縮されて水になる。復水器5の底部に溜まっているこの水は、給水として、給水ポンプ6により昇圧され、給水配管17を通って原子炉圧力容器4に供給される。
【0018】
復水器5内のガスが、空気抽出器によって吸引され、オフガス系配管15内に排出される。タービン効率を向上させるために、復水器5内の圧力は、空気抽出器の作用によって約5kPaの真空になっている。炉心16内の冷却水は、核分裂によって発生する放射線(中性子及びγ線等)を照射されることによって水素及び酸素に分解される。この水素及び酸素は、炉心16で発生する蒸気に随伴し、高圧タービン及び低圧タービン3を経て復水器5に排出される。復水器5に排出された水素及び酸素も、空気抽出器の吸引作用により、オフガス系配管15に排出される。
【0019】
復水器5から排出された水素及び酸素を含むガスは、オフガス系配管15を通って流れ、除湿冷却器12に到達する。ガスに含まれた水分が除湿冷却器12で除去され、水分が取り除かれたガスが排ガス予熱器13で所定温度まで加熱される。再結合器1内の触媒による水素と酸素の結合反応は温度が高いほど促進されるので、排ガス予熱器13でのガスの加熱は再結合器1内での水素と酸素の結合反応を促進させることになる。温度が上昇して排ガス予熱器13から排出されたガスは、再結合器1に供給される。ガスに含まれている水素と酸素が、再結合器1内の触媒の作用によって再結合され、水になる。このため、再結合器1から排出されるガスに含まれる水素の濃度が許容範囲内に低減される。再結合器1から排出されたガスは、オフガス系配管15に設けられた冷却器(図示せず)にて冷却され、ガスに含まれている水分が除去される。その後、ガスは、活性炭吸着装置11に供給されてガスに含まれている放射性物質が除去され、煙突14から外部環境に放出される。
【0020】
図1の拡大図では、低圧(蒸気)タービン部のパッキンケース内でのシール材の塗布状況を示した。2個のフランジでシール材を挟み密着させると、押しつぶされたシール材は外気側及び車室側にはみだす。車室側にはみ出したシール材は150℃、圧力は約5kPaの減圧条件に曝されるため、シリコン系のシール材からは上記したD類が発生する。
【0021】
図2はシール材から発生する触媒被毒揮発成分の評価方法及び評価装置に関する一実施例である。
図2にエバポレータ揮発試験装置を示す。本装置は、有機溶媒を高真空、低温で揮発させ回収する市販のロータリーエバポレータを利用したものである。装置は、試料であるシール材19を設置するナスフラスコ24、前記シール材19を所定温度まで加熱するオイルバス27、本体であるエバポレータ揮発試験装置20の内部の減圧度を調節する圧力制御装置22、前記シール材19から発生する揮発成分のD類を冷却して回収する液体窒素トラップ21、及び予備回収瓶29、ダイヤフラム真空ポンプ23等から構成される。真空下で所定時間加熱処理すると、シール材19からはD類が揮発し、液体窒素トラップ21、予備回収瓶29等に回収される。これらに付着したD類はヘキサンで洗浄して回収し、回収液をガスクロマトグラフ分析計で定量分析した。なお、図中25は溶媒貯め、26は冷却水、28はホットスターラである。
【0022】
図3に図2に示す装置での試験結果を示す。縦軸はD3〜D20の揮発量の積算値である。シール材はA、Bの2種類で比較評価した。
シール材AはA社製の市販品である流動タイプの一般脱オキシム縮合硬化型シリコーン系であり、大気下、室温で24時間湿気硬化後の試料中にはD類が約10,000μg/g含有されている。大気下、室温で24時間湿気硬化後の試料を更に150℃,2時間乾燥し、この約1gの硬化シートを比較例の組成物として試験に用いた。
シール材Bは、信越化学工業(株)製の非流動タイプの低触媒被毒性脱オキシム縮合硬化型シリコーン系シール材であり、品番はピュアシーラントであり、大気下、室温で24時間湿気硬化後の試料中にはD類が約100μg/g含有されている。大気下、室温で24時間湿気硬化後の試料を更に150℃,2時間乾燥し、この約1gの硬化シートを試験に用いた。
【0023】
図3は試験温度130℃、圧力は5kPaでの結果である。シール材Aの揮発量は初期に急激に増加した。その後の増加率は初期に比べて低下するが、揮発量は時間と共に増加した。これに対してシール材Bは24時間後の揮発量は0であり、シール材Aに比べて極めて発生量を低減できた。よってシール材Bは触媒を被毒するD類揮発量が少ないため、シール材として有望である。
【0024】
図4にシール材の触媒性能影響評価装置を示す。図4に示すように反応管32内部に金属触媒30を充填し、その上部にラシヒリング33、カオウール34を介してシール材19を設置した。反応ガス31のリークがないように金属触媒30の外周にはカオウール34を充填した。シール材19の上流からプラントの条件に合わせて、水蒸気、水素及び酸素を混合した反応ガス31を通気した。反応ガスを金属触媒に通気してから数十分後に出口水素濃度を定量分析して、シール材19から揮発する成分が触媒性能に及ぼす影響を確認した。
【0025】
図5に図4に示す装置で評価した結果を示す。シール材Aを設置した場合は反応ガス通気後、約30分頃から出口ガス中に水素がリークし始め、時間と共にその濃度は増加した。シール材Aから揮発するD類が触媒を被毒したためである。これに対してシール材Bを設置した場合は反応時間210分でも出口水素濃度は0.5%以下で、水素濃度は増加しない。よってシール材Bは触媒を被毒せず、触媒を劣化しない材料として有望である。触媒を劣化しない理由としては、シール材Bが(1)式に示す燃焼反応で触媒層温度が350〜400℃に上昇しても、シール材Aと異なり、Sixy系の皮膜を形成して、これが触媒活性点となる白金上を覆うことがないため、触媒性能は低下しないと考えられる。
【0026】
[実施例2]
図6にシール材水添加分解試験装置を示す。本装置はバッチ式の装置である。テフロン(登録商標)製の反応容器にシール材C(約1g,約10mm2,厚さ約1mm,約10枚)をセットした。シール材Cはフッ素系のシール材である。
なお、図中35はテフロン(登録商標)製内筒容器、36はステンレス製外筒容器、37は恒温槽、38は圧力計、39は圧抜き手動バルブ、40は排ガス、41は水である。
【0027】
シール材Cは信越化学工業(株)製の流動性の低触媒被毒性付加硬化型フッ素ゴム系シール材であり、品番はX−71−6053A/Bである。X−71−6053A及びBの同量混合物を150℃,1時間加熱硬化させた試料中にはD類が約1μg/g含有されていた。この硬化シート約1gを本発明組成物として用いた。
【0028】
本反応容器は容器耐圧が200atm、最高温度300℃である。これに水を添加し、恒温槽内温度を所定温度まで昇温し、所定時間、処理した後に冷却して、容器内壁をヘキサンで洗浄し、反応後シール材と同様にD類含有量を分析した。圧力計は本試験開始時に容器内圧力が極端に上昇しないかを確認するためのもので、確認後は外して試験を実施した。
【0029】
表1は図6の反応容器にシール材Cを入れて、水を3.4cc添加して、150℃,24時間の分解試験を実施した後のシール材中のD類含有量及びガス中のD類含有量を分析した結果である。本条件は飽和水蒸気圧条件である。両者共にD類発生量は0であり、シール材Cは有望である。
【0030】
【表1】

【0031】
図7に図4に示す装置で評価した結果を示す。フッ素ゴム系のシール材Cを設置した場合は反応時間360分でも出口水素濃度は0.6%以下で、水素濃度は増加しない。よってシール材Cは触媒を被毒せず、触媒を劣化しない材料として有望である。
【0032】
[実施例3]
図8は再結合器用触媒に対して被毒性が小さいシール材をBWRプラントの点検時に適用した一実施例である。BWRプラントでの定期点検時においては、原子炉内に装荷された原子燃料の一部が新しい原子燃料に交換が行われる。この際、炉心で燃焼した使用済みの燃料は、放射線を発するウランの核分裂生成物が燃料被覆管中に閉じ込められているため、作業所の受ける放射線量を低減するために、原子炉の上部に水を蓄え、水遮蔽層内を移動させる。この際、図8中のAで示した箇所の原子炉圧力容器4に接続された主蒸気配管8は、蒸気水遮蔽層内に埋没する位置にある。このため、予め原子炉圧力容器4の蒸気出口配管部に閉止プラグをつけて主蒸気配管8を原子炉から隔離した後に、補給水槽42から供給した水で原子炉内部全体を満たす。なお、原子炉圧力容器4内を水で満たした時に、閉止プラグと主蒸気配管8の接続部から水が漏洩しないように、主蒸気配管8と接する閉止プラグの表面にシール材を塗布する。この場合、定期点検終了後にこのシール材の一部が管壁部に付着し、残存する。このため、原子力プラント負荷が上昇し、温度が約280℃、圧力が約70atmまで上昇した時に熱分解して、触媒に対して被毒物質を放出する場合がある。
【0033】
本実施例の評価では、実施例3で述べた条件でのシール材の分解評価を実施したものである。ここではフッ素系のシール材Cを使用した。表2は図6の反応容器にシール材Cを入れて、水を5.6cc添加して、280℃,24時間の分解試験を実施した後のシール材中のD類含有量及びガス中のD類含有量を分析した結果である。本条件は飽和水蒸気圧条件である。両者共にD類発生量は0であり、シール材Cは有望である。
【0034】
【表2】

【0035】
[実施例4]
図9は再結合器用触媒に対して被毒性が小さいシール材を適用したBWRプラントの一実施例である。BWRプラントのA箇所は蒸気タービン3と復水器5を接続する箇所であり、この部分を拡大した図によると、この接続箇所は伸縮継手43、連鎖胴44、上部胴45、下部胴46から構成される。伸縮継手43は連鎖胴44と復水器の上部胴45を接続する役目がある。
【0036】
更に伸縮継手43の部分Bを拡大した図において、伸縮継手43に接する箇所にシール材Dが使用されている。伸縮継手抑押板50をスタッドボルト51で締め付けることで、伸縮継手43と車室壁52との間に隙間ができない構造となっている。なお、48はスペーサー、49は保護板を示す。
【0037】
図10に図2に示す装置での試験結果を示す。縦軸はD3〜D20の揮発量の積算値である。シール材としてA、B、Dの3種類を用い、A、Bは130℃、Dは30℃で試験を実施した。シール材Dは従来、実施例4で述べた復水器の伸縮継手部に接する箇所で使用されていた。
【0038】
シール材DはA社製の市販品である非流動タイプの一般脱オキシム縮合硬化型シリコーン系シール材であり、大気下、室温で24時間湿気硬化後の試料中にはD類が約10,000μg/g含有されている。大気下、室温で24時間湿気硬化後の試料を更に150℃,2時間乾燥し、この約1gの硬化シートを比較例の組成物として試験に用いた。
【0039】
この部分の温度は30℃、圧力5kPaの条件であるので、図2に示す装置において、この条件を再現してシール材Dの30℃における揮発試験を実施した。シール材Aは従来、蒸気タービン部で使用されており、実施例1と同様に温度130℃、圧力5kPaで実施した。シール材Dでは温度が低い影響により、シール材Aに比べて揮発量は少ないが、時間と共に揮発量は増大した。よって、この伸縮継手部に接する箇所においても、130℃の高温環境下でもD類を発生しなかったシール材Bを使用することが望ましい。
【符号の説明】
【0040】
1…再結合装置、2…サービスエアー導入管、3…蒸気タービン、4…原子炉圧力容器、5…復水器、6…給水ポンプ、7…発電機、8…主蒸気配管、9…燃料集合体、10…制御棒、11…活性炭吸着装置、12…除湿冷却器、13…排ガス予熱器、14…煙突、15…オフガス系配管、16…炉心、17…給水配管、18…BWRプラント、19…シール材、20…エバポレータ揮発試験装置、21…液体窒素トラップ、22…圧力制御装置、23…ダイヤフラム真空ポンプ、24…ナスフラスコ、25…溶媒貯め、26…冷却水、27…オイルバス、28…ホットスターラ、29…予備回収瓶、30…金属触媒、31…反応ガス、32…反応管、33…ラシヒリング、34…カオウール、35…テフロン製内筒容器、36…ステンレス製外筒容器、37…恒温槽、38…圧力計、39…圧抜き手動バルブ、40…排ガス、41…水、42…補給水槽、43…伸縮継手、44…連鎖胴、45…上部胴、46…下部胴、47…シール材D、48…スペーサー、49…保護板、50…伸縮継手抑押板、51…スタッドボルト、52…車室壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
沸騰水型原子炉、復水器、蒸気タービン、再結合処理装置、補給水槽を具えた沸騰水原子力発電システムにおいて、前記蒸気タービン部のフランジ接触箇所に低触媒被毒性シール材を有し、該低触媒被毒性シール材が、単位質量当たりに含有するケイ素原子数20個以下の環状シロキサンの含有総量が200μg/g以下のものであることを特徴とする低触媒被毒性シール材を適用した沸騰水型原子力プラント。
【請求項2】
沸騰水型原子炉、復水器、蒸気タービン、再結合処理装置、補給水槽を具えた沸騰水原子力発電システムにおいて、前記復水器の伸縮継手部に接する箇所に低触媒被毒性シール材を有し、該低触媒被毒性シール材が、単位質量当たりに含有するケイ素原子数20個以下の環状シロキサンの含有総量が200μg/g以下のものであることを特徴とする低触媒被毒性シール材を適用した沸騰水型原子力プラント。
【請求項3】
沸騰水型原子炉、復水器、蒸気タービン、再結合処理装置、補給水槽を具えた沸騰水原子力発電システムにおいて、前記再結合処理装置の上流位置に設置した空気圧縮機のガスケット又はフランジ部分に低触媒被毒性シール材を有し、該低触媒被毒性シール材が、単位質量当たりに含有するケイ素原子数20個以下の環状シロキサンの含有総量が200μg/g以下のものであることを特徴とする低触媒被毒性シール材を適用した沸騰水型原子力プラント。
【請求項4】
運転時に150〜200℃の温度範囲となるプラントにおいて、低触媒被毒性シール材がフッ素ゴム系シール材又はシリコーン系シール材であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の低触媒被毒性シール材を適用した沸騰水型原子力プラント。
【請求項5】
沸騰水型原子炉、復水器、蒸気タービン、再結合処理装置、補給水槽を具えた沸騰水原子力発電システムにおいて、前記沸騰水型原子炉の定期検査時に前記原子炉から蒸気を排出する配管部分に、前記原子炉内部に水供給槽から充填した水が漏洩しないように閉止バルブを設置し、該閉止バルブと前記蒸気を排出する配管部分が接触する部分に、フッ素ゴム系シール材を適用することを特徴とする低触媒被毒性シール材を適用した沸騰水型原子力プラント。

【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図7】
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【図10】
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【図1】
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【図4】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−52950(P2012−52950A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−196687(P2010−196687)
【出願日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)