説明

低速回転する塗布機用軸受ベアリングの微小傷検出方法およびその微小傷検出装置

【課題】コーティングローラの軸受ベアリングにある微小傷を正確に検出する検出方法を提供して、これにより傷ベアリングを速やかに交換して、塗布面に厚みムラ(段ムラ)のない均一厚みの塗布シートが得られるようにする。
【解決手段】低速回転するコーティングローラ塗布機20の傷検出対象となる軸受ベアリング26又は28に加速度ピックアップ11を取り付け、加速度ピックアップ11で検出された出力を、アンプ12で増幅したあと、500Hz以下の周波数をパスさせるローパスフィルタ13を通すようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低速回転する塗布機用軸受ベアリングの微小傷検出方法およびその微小傷検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図3は本発明が対象としている塗布機を説明する図である(例えば、特開2003−24853参照)。(a)は平面図、(b)は側面図である。図3(a)において、20は本発明が対象とする塗布機、21はコーティングローラを駆動するためのモータ、22はモータ21からの高速回転を減速させる減速機、26はベアリング軸受、27はコーティングローラ、28はベアリング軸受である。
【0003】
図3(b)において、複数個の搬送ローラ31を用いて塗布対象であるシートSを胴長の円筒形をしたコーティングローラ(CR)27まで搬送し、コーティングローラ27の周囲にシートSを巻回し、塗布液供給装置32からシートSの表面に塗布液を塗布した後、シートSを搬出させて、乾燥部させるものである。
【0004】
図3の塗布機を用いて新品種の有機素材を塗布した。図3の塗布機を用いて塗布したこれまでの旧品種の有機素材では全く苦にならなかった段ムラ(シートSの搬送方向に周期的にかつシートSの幅方向全面に亘って生じる塗布層の厚みムラ)が、この新品種では塗布濃度が高いために目立ち易くなり、不許容レベルになることが生じた。
【0005】
図4は図3の塗布機を用いて塗布されたシートの濃度ムラを測定した波形である。図から判ったことは、濃度ムラは110mmピッチで比較的大きな振幅が数回発生し、そのあと小さな振幅の変化が所定期間継続し、再び大きな振幅が110mmピッチで数回発生し、この繰り返しであったこと。大きな振幅同士の間隔は約2200mmであったことである。
【0006】
そこで、本出願人は、この段ムラが生じる原因の究明に努め、段ムラが生じるのはコーティングローラが振動するからであり、そこで次のような仮定をした。
図5はコーティングローラの振動の発生原因を説明する図で、(a)はコーティングローラを支持するベアリングの断面図、(b)両ベアリングの間に支持されたコーティングローラの正面図である。
(a)において、26はベアリング軸受(玉軸受)で、外輪26aと、内輪26bと、外輪26aと内輪26bとの間に間挿される転動体26cで、ここでは転動体26cとして玉(ボール)またはコロ(円筒体)を使用している。
内輪26bが回転することにより、傷のない転動体26cであれば自転しながら外輪26a内をスムーズに公転するので、軸が振動なく低摩擦で回転できることとなる。
【0007】
ところが、複数個(図では10個)の転動体26cの一部(図では26c’)に傷があると、内輪26bが回転することにより、転動体26c’が自転しながら外輪26a内を公転しているうちに、傷のある転動体26c’が荷重Lを受ける位置に到達した時、2〜3回自転する範囲で傷がない外輪26aと接触し、このとき振動を発生させるのではないかと本出願人は仮定した。
また、転動体26c’が2〜3回自転して振動を発生させた後は、転動体26c’は外輪26a内を公転して外輪26aの側方から上方を通過し反対側の側方を経て下方に至るので、この間の経路中は転動体26c’は荷重Lを受けないので、傷のある転動体26c’が傷のない外輪26aと接触しても大きな振動とはならない。
【0008】
このように、コーティングローラを支持するベアリング軸受26又は28のパーツ(例えば、転動体)に傷があると、そのパーツ傷による発生周期で内外輪が加振されるので、図5(b)のように、コーティングローラ27が振動を受け、ビード振動となって、段ムラが発生するものと仮定した。
【0009】
以上は、ベアリング軸受26又は28の転動体26cの一部に傷がある場合である。転動体26cに傷がある場合、内輪26bが回転することにより、転動体26cは公転しながら自転する。この時、転動体26cの傷Kが内輪26b・外輪面26aと接触する時、振動が発生することになったが、ベアリング軸受26のその他の構成部材である内輪26bや外輪面26aに傷がある場合にも同じように周期的に段ムラが発生するもの考えられる。
【0010】
その場合の周期は次のような式で表される。
転がり軸受け欠陥周波数計算式
内輪傷: fi=Z×fr/2(1+d/D cosα)
外輪傷: fo=Z×fr/2(1−d/D cosα)
転動体傷:fb=D×fr/2d(1−d/D cosα)
ここで、fr : 軸回転数(rps)
Z : 転動体個数
D : ピッチ円直径
d : 転動体直径
α : 接触角
【0011】
そこで、本出願人は、上記仮定が正しいことを裏付けるために、段ムラを発生する塗布機の転がり軸受のパーツ傷を検出することを試みた。
【0012】
転がり軸受に行われる従来公知のFFT傷診断方法(特許文献1参照)は、振動法によるもので、軸受外輪軌道面などに、はく離や圧痕などのキズが存在する時、転動体がキズ上を通過する度に発生する金属間(軌道面と転動体間)の衝突波を振動加速度として検出する方法である。
【0013】
このFFTを塗布機の本件ベアリング軸受の傷診断に適用した。
図6は、FFTに用いる加速度ピックアップを塗布機のベアリング軸受に取り付け、その加速度ピックアップから得られた出力を増幅器で増幅したときの軸受の振動の生波形である。
図6の軸受の振動波形には高い周波数も含まれているため、ランダムな波形となり、ベアリングの異常時に発生する特異的な振動成分は見られなかった。
そこで、通常のFFTでは固有振動周波数しか表れないと考えて、1kHz以上の振動波形をエンベロープ処理を行ない、加振周波数を解析した。
しかしながら、その結果、CR軸受ベアリング精密診断法ではベアリング傷の欠陥周波数は検出しなく、正常と判断せざるを得なかった。
このように、従来のベアリング精密診断手法では、ベアリングの傷を検出することはできなかった。
【特許文献1】特開2002−022617号
【特許文献2】特開2005−189136号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明はこれらの課題を解決するためになされたもので、従来の周波数解析やベアリング精密診断手法でも見つけることのできなかった塗布機のベアリング軸受の微小傷を検出することができる微小傷検出方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、請求項1記載の発明は、塗布機の軸受ベアリングの微小傷検出方法に係り、低速回転するコーティングローラ塗布機の傷検出対象となる軸受ベアリングに加速度ピックアップを取り付け、前記加速度ピックアップで検出された出力をローパスフィルタを通すことを特徴としている。
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載の塗布機の軸受ベアリングの微小傷検出方法において、前記ローパスフィルタが500Hz以下の周波数を通すものであることを特徴としている。
さらに、請求項3記載の発明は、低速回転コーティングローラの軸受ベアリング用微小傷検出装置に係り、加速度ピックアップと、前記加速度ピックアップで検出された出力を増幅するアンプと、前記アンプの出力成分のうち500Hz以下の周波数を通すローパスフィルタと、から構成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
従来のベアリング精密診断手法では、モータ単体のベアリングの傷の検出であれば、固有振動数が高いのでで傷を検出することができるが、本発明が対象としている塗布機のコーティングローラに用いているベアリング軸受は超低速回転で使用しており(モータ単体の回転数から比べればベアリング軸受は停止状態に近いと言える)、したがって転動体の周速が遅いために転動体とキズの衝突により得られる加速度レベルが低くなってしまうため、従来のベアリング精密診断手法では傷は検出できなかったのではないかと推測される。
【0017】
しかも、本発明が検出しようとする傷は10mm直径のベアリングにおける3μmの傷といった微小傷であり、このような微小傷では微少の振動源としかならず、従来のベアリングの精密診断方法を適用すると、同じ系の中に他の大きな振動源(モータなどの)が多数個あるので、それらの大きな振動源を見つけ出すことはしても、この微少振動源を見つけ出すことは困難であったからと推測される。いや、それよりも微少振動源を見つけ出す必要性が元もとなかったと言った方が正確かも知れない。微少振動源を見つけ出す必要性は、本発明により「段ムラ解消」のニーズから初めて現われたものだからである。
【0018】
上記のように本発明により加速度ピックアップで検出された出力をローパスフィルタを通すことによって、大きな振動源を含む図6のような波形からようやく検出対象の波形が得られることができ、その傷のある部品を交換することで段ムラの原因解消に寄与することができるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1は本発明に係る微小傷検出方法をベアリング軸受に適用した図である。10は本発明に係る微小傷検出装置で、圧電素子で構成される加速度ピックアップ11を検出対象であるベアリング軸受(コロ軸受)28に取り付けることにより、検出対象から発せられる加速度を電圧信号に変換する。加速度ピックアップ11からの出力は増幅器12で増幅されて、本発明によるローパスフィルタ13を通して高周波500Hz以上はカットされ、それより低い周波数が通過され、レコーダ14で記録される。
なお、ここでは検出対象としてベアリング軸受(コロ軸受)28を指定してこれに加速度ピックアップ11を取り付けているが、検出対象をベアリング軸受(玉軸受)26にする場合は、加速度ピックアップ11は当然ベアリング軸受26に取り付けられる。
【0020】
図6は、上述したように、図1の加速度ピックアップ11で得られた出力を増幅器12で増幅したときの軸受の振動の生波形であり、この振動波形には、高い周波数も含まれているため、ランダムな波形となっていた。
そこで、本出願人はこの波形を図1のローパスフィルタ13を通して高周波100Hz以上をカットすることを試みたところ、図2に示すような波形が得られた。
【0021】
図2はベアリング軸受28の振動波形を表している。
図2において、傷Kのある転動体26c’が荷重を受けている範囲(下方)にくると大きな振幅の波形(イ)が表われ、傷Kのある転動体26c’が荷重を受けない範囲(側方および上側)にくると大きな振幅の波形がなくなり、小振幅波形(ロ)が長い期間続く。そして傷Kのある転動体26c’が再び荷重受けている範囲にくると大きな振幅の波形(イ)が表われている。
図より、本実施例において、コーティングローラの固有振動は100Hz(3mmピッチ)であり、これに対して転動体傷欠陥周期は3Hz(110mmピッチ)、転動体26cの公転周期は本実施例では約0.15Hz(2200mmピッチ)であることが判った。
これより、図2の振動波形が図4(a)のシートの濃度ムラ波形によく符合していることが判り、シートの濃度ムラはコーティングローラの転動体の傷欠陥によるものであることが証明された。
【0022】
このように、従来の周波数解析を中心とした解析手法では発生源が特定できないので、濃度ムラ計測と同様に時間軸で現象を捕らえることにした。すなわち、本発明が検出対象としているベアリングの固有振動数が低いことに着目して、思い切って低い周波数を取り込んで解析した結果、ようやく傷が見つかったのである。
【0023】
したがって、図4(a)のようなシートの濃度ムラ波形が生じた場合には、図2の振動波形が出た軸受がシートの濃度ムラの原因であるから、本発明の微小傷検出方法により欠陥のある軸受を特定し、これを交換すればシートの濃度ムラが解消できることとなる。
このように本発明によれば、従来の周波数領域やベアリング精密診断手法、さらにAE診断法でも見つけることのできなかった超低速回転の塗布機のベアリング軸受の微小傷を簡単な方法で正確に検出することが可能となり、したがって、シートの濃度ムラの原因となる欠陥軸受を速やかに交換することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る微小傷検出方法をコーティングローラ(CR)ベアリング軸受に適用した図である。
【図2】本発明の微小傷検出方法による軸受28の振動波形を表している。
【図3】本発明が対象としている塗布機の図で、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【図4】図3の塗布機を用いて塗布されたシートの濃度ムラを測定した波形である。
【図5】CRの回転速度が均一でなくなる原因を説明する図で、(a)はコーティングローラを支持するベアリングの断面図、(b)両ベアリングの間に支持されたコーティングローラの正面図である。
【図6】加速度ピックアップを塗布機のベアリング軸受に取り付け、その加速度ピックアップから得られた出力を増幅器で増幅したときの軸受の振動の生波形である。
【符号の説明】
【0025】
10 本発明に係る微小傷検出装置
11 加速度ピックアップ
12 増幅器
13 ローパスフィルタ
14 レコーダ
20 本発明が対象とする塗布機
21 モータ
22 減速機
26、28 ベアリング軸受
27 コーティングローラ(CR)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低速回転するコーティングローラ塗布機の傷検出対象となる軸受ベアリングに加速度ピックアップを取り付け、前記加速度ピックアップで検出された出力をローパスフィルタに通すことを特徴とする塗布機の軸受ベアリングの微小傷検出方法。
【請求項2】
前記ローパスフィルタは500Hz以下の周波数を通すものであることを特徴とする請求項1記載の塗布機の軸受ベアリングの微小傷検出方法。
【請求項3】
前記加速度ピックアップと前記ローパスフィルタとの間に増幅器を介在させることを特徴とする請求項2記載の塗布機の軸受ベアリングの微小傷検出方法。
【請求項4】
加速度ピックアップと、前記加速度ピックアップで検出された出力を増幅するアンプと、前記アンプの出力成分のうち500Hz以下の周波数を通すローパスフィルタと、から構成されることを特徴とする低速回転コーティングローラの軸受ベアリング用微小傷検出装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2007−178347(P2007−178347A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−379068(P2005−379068)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】