説明

住宅用壁面断熱工法及び住宅用壁面断熱構造

【課題】いわゆる夏型結露のような結露が生じ難く、さらにシロアリの侵入による被害が少ない住宅用壁面断熱工法及び住宅用壁面断熱構造を提供する。
【解決手段】複数の構造躯体5の屋外側の面に構造用面材6を取り付け、構造用面材6の屋外側表面側に防湿防水シート7を貼り付け、防湿防水シート7の屋外側表面側に外装材8を取り付け、複数の構造躯体の屋内側の面に構造用面材6と対向するように断熱材4を配置し、断熱材4の屋内側表面側に内装材2を取り付ける、各工程を備える住宅用壁面断熱工法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、住宅の断熱を図るための住宅用壁面断熱工法及び住宅用壁面断熱構造に関し、より詳細には、断熱材及び防湿防水シートを用いた住宅用壁面断熱工法及び住宅用壁面断熱構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ビルや住宅等の壁面に様々な断熱工法が用いられている。断熱性を高めることにより、暖房費や冷房費を節減することができ、省エネルギーを果すことができる。
【0003】
近年、九州南部以南の蒸暑地域においても、従来の開放的な生活スタイルから、冷房装置を完備した密閉型の生活スタイルが浸透してきている。従って、このような蒸暑地域においても、住宅の断熱性の向上が求められている。
【0004】
従来、住宅を含む建物の壁面の断熱化には、以下の充填断熱工法や外貼り断熱工法が用いられていた(例えば、下記の非特許文献1)。
【0005】
充填断熱工法では、外装材〜通気層〜透質防水シート〜壁面〜構造躯体の柱〜防湿層〜内装材の積層構造において、壁面と防湿層との間の空間に断熱材を充填する。屋外が高温の際には、外部からの湿気が構造躯体が位置している部分まで侵入し、上記防湿層の外側に溜まることとなる。室内温度が冷房等により低い場合、防湿層の外表面に、いわゆる夏型結露が生じる。より高温多湿になると、構造躯体が位置している部分に侵入する水蒸気量が増加する。そのため、蒸暑地域では、本州以北に比べ、上記夏型結露の被害がより深刻となる。
【0006】
上記結露を防止するには、屋外側にいくにつれて、防湿性に優れた材料を用いることが望ましい。それによって、発生した結露が通気層を介して外部に放出される。
【0007】
しかしながら、通気層は複数の孔を有するため、シロアリが侵入し、通気層よりも内側に位置している発泡プラスチック系の断熱材部分を浸食するという問題があった。すなわち、いわゆる蟻道が形成され、それによって断熱性能が低下するおそれがあった。さらに、断熱欠損が発生し、その部分において新たに結露が生じるおそれもあった。
【0008】
外貼り断熱工法では、外装材〜通気層〜透質防水シート〜断熱材〜構造用面材〜構造躯体〜防湿層〜内装材の積層構造が形成される。発泡プラスチック系材料からなる断熱材は、透質性が高く、わずかな水蒸気しか透過しない。従って、夏型結露は生じ難いが、通気層部分を介してやはりシロアリが侵入するおそれがある。そのため、発泡プラスチック系樹脂からなる断熱材を浸食し、蟻道が形成される。その結果、外装材ごと崩落するおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【非特許文献1】「住宅の省エネルギー基準の解説」発行:財団法人 建築環境・省エネルギー機構 第3版 7刷 平成22年12月1日 5章 5.1 断熱計画の基本的な考え方 5.1.1 構造と断熱工法
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、上述した従来技術の欠点を解消し、住宅の壁面における断熱性を高めることができ、省エネルギー化を果すことができるだけでなく、シロアリの侵入による被害が生じ難い、住宅用壁面断熱工法及び住宅用壁面断熱構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る住宅用壁面断熱工法は、複数の構造躯体の屋外側の面に構造用面材を取り付ける工程と、前記構造用面材の屋外側表面側に防湿防水シートを配置する工程と、前記防湿防水シートの屋外側表面側に外装材を固定する工程と、前記複数の構造躯体の屋内側の面に前記構造用面材と対向するように、断熱材を配置する工程と、前記断熱材の屋内側表面側に内装材を固定する工程とを備える。
【0012】
本発明に係る住宅用壁面断熱工法のある特定の局面では、上記断熱材の屋内側表面側に防湿シートを配置した後に、上記内装材を取り付ける。この場合には、防湿シートがさらに設けられているため、結露をより効果的に防止することができる。
【0013】
本発明に係る住宅用壁面断熱構造は、複数の躯体と、複数の躯体の屋外側表面側に取り付けられた構造用面材と、前記構造用面材の屋外側表面側に配置された防湿防水シートと、前記防湿防水シートの屋外側表面側に配置されている外装材と、前記構造躯体の屋内側の面に接するように配置されており、前記構造用面材と空間を隔てて対向するように配置されている断熱材と、前記断熱材の屋内側表面側に固定された内装材とを備える。
【0014】
本発明に係る住宅用壁面断熱構造では、好ましくは、断熱材と内装材との間に設けられた防湿シートがさらに備えられている。それによって、結露をより効果的に防止することができる。
【0015】
なお、本発明における上記防湿防水シートとは、JIS A6930に準拠した防湿性能が0.082[m・s・Pa/ng]以上の透湿抵抗を有するものが好ましい。このような防湿防水シートを用いることにより、結露を効果的に防止することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る住宅用壁面断熱工法及び住宅用壁面断熱構造によれば、断熱材が、構造用面材及び構造躯体よりも屋内側に位置されることになる。従って、シロアリの侵入が構造用面材までの部分に留まることとなるため、断熱材に蟻道が形成され難い。そのため、断熱性能が低下し難い。加えて、断熱欠損が生じ難いため、結露の発生をより効果的に抑制することができる。さらに、断熱材に蟻道が形成され難いため、並びに断熱材が構造用面材よりも外側に位置しているため、断熱材の浸食による外装材の崩落も生じ難い。
【0017】
よって、本発明によれば、蒸暑地域において用いた場合であっても、いわゆる夏型結露が生じ難く、さらに断熱性に優れ、加えてシロアリによる被害を受け難い、住宅用壁面断熱構造を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係る住宅用壁面断熱構造の部分切欠断面図である。
【図2】比較のために用意した従来の充填断熱工法による住宅用壁面断熱構造を説明するための部分切欠断面図である。
【図3】比較のために用意した従来の外貼り断熱工法により形成される住宅用壁面断熱構造の部分切欠断面図である。
【図4】住宅において窓の開閉による建物断熱性能と、冷房エネルギー消費量との比較を示す図である。
【図5】住宅において窓の開閉による建物断熱性能と、冷房エネルギー削減量との比較を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の詳細を説明する。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態に係る住宅用壁面断熱構造を示す部分切欠断面図である。
【0021】
住宅用壁面断熱構造1は、住宅の壁面の断熱性を高めるものである。住宅用壁面断熱構造1では、屋内側から、内装材2〜防湿シート3〜断熱材4〜構造躯体5〜構造用面材6〜防湿防水シート7〜外装材8の順序でこれらの部材が積層されている。
【0022】
構造躯体5は、柱などの住宅の構造を支える躯体である。この構造躯体5は、住宅の壁面に沿って複数本配置されている。構造躯体5は、木造家屋の場合には、木からなるが、鉄骨等の他の材料からなるものであってもよい。
【0023】
複数の構造躯体5の屋外側の面には、構造用面材6が固定されている。構造用面材6は、壁面を構成する部材である。構造用面材6は、本実施形態ではセメント板からなる。もっとも、構造用面材6は、セメント、木、金属等の様々な材料により形成することができる。
【0024】
構造用面材6は、壁面を構成するために、複数の構造躯体5で形成される部分を外部と遮断するように取り付けられる。また、構造用面材6は、壁面を構成する材料であるため、また上記のような材料からなるため、シロアリ等による浸食を受け難い。
【0025】
構造用面材6の屋外側表面に、構造用面材6を保護するために、防湿防水シート7が貼り付けられている。防湿防水シート7は、本実施形態では、防湿ポリエチレンシートからなる。もっとも、防湿防水シート7は、他の合成樹脂材料により形成してもよい。このような防湿防水シート7における「防湿防水」とは、JIS A6930による防湿性能が0.082[m・s・Pa/ng]以上の透湿抵抗を有するものをいうものとする。
【0026】
上記防湿防水シート7の屋外側表面に、外装材8が配置されている。外装材8は、本実施形態では、窯業系サイディングからなる。もっとも、外装材8は、金属系・セラミック系・樹脂系・木質系サイディング、軽量セメントモルタル、コンクリートブロック、軽量気泡コンクリート、タイル、レンガ、石材などの適宜の住宅用外装材料により形成することができる。
【0027】
構造躯体5の屋内側の面には、板状の断熱材4が配置されている。断熱材4の内面が複数の構造躯体5の屋内側の面に接触されている。断熱材4としては、発泡性プラスチック系の従来より住宅用断熱材として用いられる適宜の材料を用いることができる。本実施形態では、断熱材4は、発泡フェノール樹脂系保温板からなる。
【0028】
上記断熱材4の屋内側表面に防湿シート3が積層されている。防湿シート3は本発明においては、必ずしも用いられずともよい。もっとも、防湿シート3を設けることにより、結露の発生をより一層効果的に抑制することができる。
【0029】
防湿シート3は、本実施形態では、ポリエチレンフィルムからなる。もっとも、防湿シート3は、適宜の防湿性合成樹脂シートにより形成することができる。なお、防湿シートにおける「防湿」は、透湿抵抗値による防湿性能が0.082[m・s・Pa/ng]以上であるものをいうものとする。
【0030】
防湿シート3の屋内側表面側に内装材2が積層されている。内装材2は、家屋内装を構成する適宜の材料からなり、本実施形態では、石膏ボードからなる。もっとも、内装材2を構成する材料については、石膏ボードに限らず、合板、ケイ酸カルシウム板、MDF、ハードボード、OSBボード、軟質繊維板などの様々な材料を用いることができる。
【0031】
本実施形態の住宅用壁面断熱構造1の特徴は、上記断熱材4が構造躯体5よりも屋内側に配置されており、構造用面材6と空間を隔てて対向するように配置されていることにある。すなわち、構造用面材6よりも屋内側に断熱材4が配置されているため、シロアリの侵入は構造用面材6までの部分に留まる。従って、断熱材4が多数の孔を有していたとしても、シロアリのさらに内部への侵入や蟻道の形成を確実に抑制することができる。従って、断熱欠損が生じ難く、断熱性能の低下を生じ難い。よって、蒸暑地域で用いられたとしても、いわゆる夏型結露を効果的に抑制することができる。
【0032】
次に、上記住宅用壁面断熱構造を得る住宅用壁面断熱工法を説明する。
【0033】
先ず、複数の構造躯体5を壁面を構成するように組み立てる。この複数の構造躯体5を組み立てた後、複数の構造躯体5の屋外側表面に構造用面材6を固定する。次に、構造用面材6の屋外側表面に防湿防水シート7を貼り合わせる。しかる後、外装材8を防湿防水シート7の屋外側表面に固定する。この固定方法は特に限定されないが、本実施形態では、構造躯体5に外装材8を固定する。すなわち、ビスにより、間に防湿防水シート7及び構造用面材6を介して構造躯体5に外装材8を固定する。従って、外装材8の固定強度を高めることができる。もっとも、外装材8は、構造用面材6の屋外側表面に防湿防水シート7を貼り合わせた後、防湿防水シート7の屋外側表面に接着等の方法により貼り合わされて固定されてもよい。
【0034】
次に、複数本の構造躯体5の屋内側の面に断熱材4を隙間なく配置する。この場合、複数本の構造躯体5と室内側との間に断熱材4間の隙間が生じないように、複数の断熱材4を配置することが望ましい。
【0035】
なお、本実施形態では、防湿シート3が予め断熱材4の屋内側表面に貼り合わされている。もっとも、断熱材4を固定した後に、防湿シート3を断熱材4の屋内側表面に貼り合わせてもよい。
【0036】
本実施形態では、上記断熱材4を配置した後、屋内側から内装材2を断熱材4及び防湿シート3を隠蔽するように固定する。本実施形態では、内装材2をビスにより構造躯体5に直接固定する。すなわち、防湿シート3及び断熱材4を介して内装材2がビスにより構造躯体5に固定されている。従って、内装材2の固定強度を高めることができる。
【0037】
もっとも、内装材2を防湿シート3の屋内側表面に接着等により貼り合わせてもよい。
【0038】
なお、上記構造躯体5の屋外側の構造、すなわち構造用面材6、防湿防水シート7及び外装材8を施工した後に、屋内側の構造、すなわち断熱材4、防湿シート3及び内装材2を施工したが、この順序は逆であってもよい。
【0039】
上記のように、本実施形態の住宅用壁面断熱工法では、板状の断熱材4を構造躯体5の屋内側表面に接触するように配置した後、内装材2を固定するだけで容易に施工することができる。従って、施工工程の複雑化を招くことなく、本発明に従って、シロアリの侵入を抑制することができる。しかも、断熱性能に優れ、いわゆる夏型結露が生じ難い住宅用壁面断熱構造を得ることができる。
【0040】
次に、具体的実施例及び比較例を挙げることにより、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0041】
(実施例)
実施例として上記実施形態とほぼ同様の住宅用壁面断熱構造1を施工した。なお、防湿シート3は設けなかった。使用した材料は、以下の通りとした。
【0042】
構造躯体:鉄骨。構造躯体5の屋内側表面と屋外側表面との間の寸法は100mmとした。すなわち、図1の空間Aの厚みは100mmとした。
【0043】
構造用面材6:厚み20mmのセメント板。
【0044】
防湿防水シート7:防湿ポリエチレンシート(厚み0.2mm)
外装材8:窯業系サイディング〔珪酸カルシウム系、JIS A5422準拠〕
断熱材4:フェノールフォーム保温板1種2号(厚さ20mm)、商品名フェノバボード(積水化学工業社製、品番:JJ20N)を用いた。すなわち、JIS A9511に記載されている発泡プラスチック系断熱材である上記フェノールフォーム保温板1種2号を用いた。
内装材2:石膏ボード、厚み12.5mm
【0045】
上記各材料を用い、前述した実施形態の工法に従って実施例の住宅用壁面断熱構造を形成した。
【0046】
(比較例1)
従来の充填断熱工法により住宅用壁面断熱構造を形成した。すなわち、図2に、模式的断面図で示すように、構造躯体54の屋外側表面に構造用面材56を取り付けた。構造躯体54としては、実施例と同じ材料を用いた。また、構造用面材56としては、合板(厚み9.5mm)を用いた。
【0047】
上記構造用面材56の屋外側表面に実施例で用いたのと同じ防湿ポリエチレンシートからなる防湿防水シート57と、ポリエチレン製不織布からなる厚み0.2mmの通気層58を貼り合わせた。さらに、実施例と同じ材料からなる外装材59を実施例と同様にして、構造躯体54にビスにより固定した。
【0048】
次に、JIS A9521に記載の住宅用人造鉱物繊維断熱材である住宅用グラスウールを断熱材55として、複数本の構造躯体54間に隙間なく配置した。この住宅用グラスウールの厚みは50mmとした。すなわち、構造躯体54の屋内側表面と屋外側表面との間の寸法を50mmとし、断熱材55の厚みを50mmとした。
【0049】
次に、断熱材55の屋内側表面に実施例で用いた防湿防水シートと同じ材料からなる防湿防水シート53をタッカー等で仮留めし、仕上げ材等で押さえつけるにより固定した。しかる後、実施例で用いたのと同じ厚み9.5mmの石膏ボードからなる内装材52を構造躯体54にビス留めにより固定した。このようにして、図2に示した住宅用壁面断熱構造51を得た。
【0050】
(比較例2)
図3に示す外貼り断熱工法による住宅用壁面断熱構造61を形成した。
【0051】
先ず、実施例及び比較例1と同様にして、複数本の構造躯体64を組み立て、構造躯体64の屋外側表面に構造用面材65を取り付けた。なお、構造用面材としては、比較例1と同様に合板(厚み9.5mm)を用いた。
【0052】
次に、構造用面材65の屋外側表面に断熱材66を隙間なく配置し、かつ構造躯体64にビス留めにより固定した。断熱材66としては、実施例と同様に、フェノールフォーム保温板1種2号(厚さ20mm)を用いた。
【0053】
次に、断熱材66の屋外側表面に実施例で用いたのと同じ材料からなる防湿防水シート67を貼り合わせた。次に、防湿防水シート67の表面に通気層68として厚み0.2mmのポリエチレン製不織布からなる透湿防水シートを貼り合わせた。さらに、上記通気層68の屋外側表面に実施例で用いたのと同じ材料からなる外装材69を配置し、ビスにより構造躯体64に直接固定した。
【0054】
なお、実施例で用いたのと同じく、厚み9.5mmの石膏ボードからなる内装材62の片面に実施例で用いたのと同じ材料からなる防湿防水シート63を貼り合わせた後、複数本の構造躯体64に防湿防水シート63側から重ね、ビスにより構造躯体64に直接固定した。このようにして、比較例2の外貼り断熱工法による住宅用壁面断熱構造61を用意した。
【0055】
(実施例及び比較例の評価)
(1)夏型結露発生確認試験
「住宅の熱環境計画(平成11年省エネルギー基準に基づく快適な住まいづくり)(発行:財団法人 建築環境・省エネルギー機構)第8章 省エネルギー性能、暖冷房費、及び設備設計の為の計算8.8 防露性能の確認 (3)定常計算による内部結露に対する防露性能の確認(P152〜P155参照)」に準じ、定常一次元計算により内部結露を求めた。但し、室内における温度及び湿度並びに外気の温度及び湿度は以下の通りとした。
【0056】
温度及び湿度:室内の温度は20℃及び湿度は50%RHとし、外気の温度は35℃及び湿度は90%RHとした。
【0057】
評価基準:上記参考文献に記載されているように、飽和水蒸気圧よりも水蒸気圧が大きくなった部分で内部結露が生じる。定常一次元計算により内部結露が発生した時点で、対象とする構造が内部結露を生じたと判断する。
【0058】
上記定常一次元の内部結露計算により求めた各構造における内部構成部材における温度、水蒸気圧及び飽和水蒸気圧を、上記結露判定結果と共に、下記の表1〜表3に示す。表1が実施例の評価を、表2及び表3が比較例1及び比較例2の結果を示す。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
【表3】

【0062】
表2から明らかなように、比較例1では、断熱材55の外側の防湿防水シート57が位置している部分において結露が認められた。また、表3に示したように、比較例2の外貼り断熱工法により得られた断熱構造では、構造用面材65の表面、複数の構造躯体64間で囲まれた空気層及び防湿防水シート63が設けられている位置において結露が認められた。すなわち、比較例1及び2では、いわゆる夏型結露が生じている。
【0063】
これに対して、表1に示したように、上記実施例の住宅用壁面断熱構造1では、結露は認められず、従って、夏型結露を効果的に抑制し得ることがわかる。
【0064】
(2)空調負荷低減性確認試験
下記の参考文献に記載の方法に従って、熱損失係数(Q値〔W/m・K〕)を求めた。Q値は、室内外の温度差が1℃のときの1時間当りの熱損失を延床面積で除算して得られる値である。このQ値が小さい程、建物からの熱損失量が少なく、省エネルギーを果すことができる。
【0065】
参考文献:住宅の熱環境計画(平成11年省エネルギー基準に基づく快適な住まいづくり)(発行:財団法人 建築環境・省エネルギー機構)第8章 省エネルギー性能、暖冷房費、及び設備設計の為の計算 8.2 熱損失係数(Q値) 8.2.1〜8.2.4及び8.4 熱損失係数(Q値)計算例(P118〜P126及びP131〜P139参照)
なお、断熱材の熱伝導率はJIS A1412−2(平板熱流計報法)に基づき測定した。
【0066】
上記のようにして実施例及び比較例で施工された住宅において、窓を開放した場合と開放していない場合とについて、計算ソフト(SMASH for Windows(登録商標) Ver.2(財団法人 建築環境・省エネルギー機構)を用い、以下の住宅モデルについて以下の条件で解析した。
【0067】
住宅モデル:住宅の省エネルギー基準の解説(発行:財団法人 建築環境・省エネルギー機構)第7章 付録 7.4 計算例 7.4.1木造戸建て住宅における熱損失係数の計算例 上記文献記載のモデル住宅を元に、構造を鉄骨造として計算を実施した。
【0068】
外界気象条件:沖縄
冷房運転:リビングダイニング、主寝室、洋室1、洋室2の間欠運転
冷房設定温度:25℃
冷房使用時間:21時〜24時(平日)
換気回数:窓密閉時0.5回/h、窓開閉時30回/h
【0069】
常暑地域における実測温度データを元に設定した冷房温度や換気回数設定による温熱解析結果を図4に示す。冷房設定温度は25℃(平日の21時間〜24時間運転)、室内換気回数は密閉回数0.5回/h、窓開閉時は30回/hとした。
【0070】
図4は、窓開閉による建物断熱性能(Q値)と、冷房エネルギー消費量との比較を示し、図5は、窓開閉による建物断熱性能(Q値)と冷房エネルギー削減量との比較を示す。
【0071】
図4及び図5の結果から明らかなように、上記実施例の住宅用壁面断熱構造によれば、冷房エネルギーの10〜20%を削減することが期待し得る。特に、Q値が2.5程度の場合、省エネルギー効果が最も高くなっている。従って、冷房エネルギー消費量を抑制でき、冷房費用の削減及びCOの排出を削減することができる。
【0072】
なお、冷房エネルギー消費量〔GJ(ギガジュール)/年)とは、暖冷房負荷により、機器の効率及び燃焼の発熱効率を勘案して求めた消費エネルギー量のことをいう。冷房エネルギー消費量は小さい程、省エネルギー量が少なくなる。
【0073】
また、暖冷房負荷とは、ある期間、ある建物をその建設地の気象の元に、任意の室内条件に保つために必要な暖冷房負荷のことをいう。この数値が小さい程、暖冷房エネルギーが少なく、従って省エネルギーとなる。
【0074】
冷房エネルギー削除量とは、断熱措置を施さなかった場合と、施した場合との冷房エネルギー消費量の差を表す。
【0075】
なお、Q値=2.5は、フェノールフォーム保温板1種2号40mm厚相当の断熱性能である。
【0076】
なお、比較例1のような充填断熱工法では、Q値は3.5〜4.0であるのに対し、上記実施例では、Q値は2.5〜3.0程度と断熱性能に非常に優れていることがわかる。
【0077】
(3)実施例及び比較例の評価のまとめ
なお、シロアリによる被害の評価については、具体的には行っていないが、実施例の住宅用壁面断熱構造1では、構造用面材6よりも内側に断熱材4が位置しているため、断熱材4におけるシロアリによる被害は生じ難い。これに対して、従来の住宅用壁面断熱構造51においても、構造用面材56よりも内側に断熱材55が位置しているため、シロアリの侵入の可能性はない。これに対して、比較例2の従来の外貼り断熱工法では、構造用面材60よりも外側に断熱材66が位置しているため、前述したように、シロアリの侵入により蟻道の形成、断熱欠損の発生等が生じる。
【0078】
上記実施例及び比較例1,2の評価結果を下記の表4に示す。
【0079】
【表4】

【0080】
1…住宅用壁面断熱構造
2…内装材
3…防湿シート
4…断熱材
5…構造躯体
6…構造用面材
7…防湿防水シート
8…外装材
51…住宅用壁面断熱構造
52…内装材
53…防湿防水シート
54…構造躯体
55…断熱材
56…構造用面材
57…防湿防水シート
58…通気層
59…外装材
60…構造用面材
61…住宅用壁面断熱構造
62…内装材
63…防湿防水シート
64…構造躯体
65…構造用面材
66…断熱材
67…防湿防水シート
68…通気層
69…外装材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
住宅用壁面断熱工法であって、
複数の構造躯体の屋外側の面に構造用面材を取り付ける工程と、
前記構造用面材の屋外側表面側に防湿防水シートを配置する工程と、
前記防湿防水シートの屋外側表面側に外装材を固定する工程と、
前記複数の構造躯体の屋内側の面に前記構造用面材と対向するように、断熱材を配置する工程と、
前記断熱材の屋内側表面側に内装材を固定する工程とを備える住宅用壁面断熱工法。
【請求項2】
前記断熱材の屋内側表面側に防湿シートを配置した後に、前記内装材を取り付ける、請求項1に記載の住宅用壁面断熱工法。
【請求項3】
前記防湿防水シートは、JIS A6930に準拠した防湿性能が0.082[m・s・Pa/ng]以上である、請求項1または2に記載の住宅用壁面断熱工法。
【請求項4】
住宅用壁面断熱構造であって、
複数の躯体と、
複数の躯体の屋外側表面側に取り付けられた構造用面材と、
前記構造用面材の屋外側表面側に配置された防湿防水シートと、
前記防湿防水シートの屋外側表面側に配置されている外装材と、
前記構造躯体の屋内側の面に接するように配置されており、前記構造用面材と空間を隔てて対向するように配置されている断熱材と、
前記断熱材の屋内側表面側に設けられた内装材とを備える、住宅用壁面断熱構造。
【請求項5】
前記断熱材と前記内装材の間に設けられた防湿シートをさらに備える、請求項4に記載の住宅用壁面断熱構造。
【請求項6】
前記防湿防水シートの防湿性能は、JIS A6930に準拠した防湿性能が0.082[m・s・Pa/ng]以上である、請求項4または5に記載の住宅用壁面断熱構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−202177(P2012−202177A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−70182(P2011−70182)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】