体内注射時のゲル化安定性が改善した放射性物質−キトサン複合体溶液組成物及びその製造方法
【課題】体内注射時のゲル化安定性が改善した放射性物質−キトサン複合体溶液組成物及びその製造方法の提供。
【解決手段】本発明は、放射性物質−キトサン複合体溶液組成物及びその製造方法に関するもので、より詳細には、キトサン水溶液またはキトサン凍結乾燥物のキトサンに放射線放出核種が標識された粘度が300〜2,400cpsであることを特徴とする放射性物質−キトサン複合体溶液組成物及び、その製造方法に対するもので、本発明の放射性物質−キトサン複合体溶液組成物は、放射性同位元素のキトサンに対する99%以上の高い標識収率を維持しながら体内注射時の標的部位に安定してゲル化状態を維持することができて患者に注射時の副作用を最少化することができ、治療効果を高めることができる利点がある。
【解決手段】本発明は、放射性物質−キトサン複合体溶液組成物及びその製造方法に関するもので、より詳細には、キトサン水溶液またはキトサン凍結乾燥物のキトサンに放射線放出核種が標識された粘度が300〜2,400cpsであることを特徴とする放射性物質−キトサン複合体溶液組成物及び、その製造方法に対するもので、本発明の放射性物質−キトサン複合体溶液組成物は、放射性同位元素のキトサンに対する99%以上の高い標識収率を維持しながら体内注射時の標的部位に安定してゲル化状態を維持することができて患者に注射時の副作用を最少化することができ、治療効果を高めることができる利点がある。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性同位元素のキトサンに対する99%以上の高い標識収率を維持しながら実質的に体内でゲル化して、標的部位以外の他の部分に放射性物質がほとんど流出しない放射性物質−キトサン複合体溶液組成物及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、高エネルギーのベータ線と低エネルギーのガンマ線を同時に放出する核種とキトサンの錯物(以下「放射性物質−キトサン複合体」とする)を開示していて、前記放射性物質−キトサン複合体の最も重要な特徴は、弱酸性条件では液体で存在して経皮注射が可能であり、液体で局部に経皮注射されたこの複合体は、体液によって中性になりながらゲル化して内部放射線治療が可能で、注射された局部に固定されて薬効を発揮するということにその特徴があり、複合体の製造において、キトサン溶液の粘度が100〜200cpsになってこそ標識収率が99%になって好ましいと記載している。
【0003】
しかし、放射性−キトサン複合体の場合、安定性のためには標識化収率だけではなく体内で放射性物質が他の所に拡散して広がらないでゲル化し、注入された位置にそのまま留まっていることも非常に重要である。すなわち、注射された放射性物質−キトサン複合体が、違う部位に流出しないためには、ゲル化した状態が非常に重要であり、体内に注入されて散らばらないで注入された状態ですぐにゲル化することが最も好ましく、このようなゲル化状態は放射性物質−キトサン複合体溶液の粘度と直接的に関係がある。
【0004】
本発明者等は、特許文献1に記載されている粘度が100〜200cpsであるキトサン溶液として製造された放射性物質−キトサン複合体溶液は、99%以上の標識収率を示して注射も容易であったが、実質的に体内で正しくゲル化しないで、多く解けて放射性物質が標的部位以外の部位に流出する可能性が多いことを見つけ出すに至った。
【0005】
【表1】
【0006】
すなわち、前記結果から複合体溶液の体内条件でのゲル化状態が安定するためには、特許文献1に記載されている粘度が100〜200cpsであるキトサン溶液に製造された複合体溶液よりずっと大きい粘度が必要であるということが分かる。また、特許文献1に記載されているように、キトサン溶液の粘度が100cps以上なら標識収率が99%以上を示して、先で言及したように、本発明で要求されるキトサン溶液の粘度は、前記粘度より大きいと言えるので、本発明の放射性物質−キトサン複合体溶液の標識収率は、99%以上であることが分かる。
【0007】
以上のことに鑑みて本発明者等は、前記放射性物質−キトサン複合体の粘度に対して研究をして、標識収率は99%以上を維持しながら放射能が周囲にほとんど流出しない組成物を発明するに至った。
【特許文献1】大韓民国登録特許第190,957号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の目的は、99%以上の標識収率を維持しながら、実質的に体内注射時に体内でゲル化して標的部位以外の他の部分に放射性物質がほとんど流出しない放射性物質−キトサン複合体溶液組成物及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するために本発明は、分子量が460,000〜1,570,000のキトサンを薄い酸溶液に溶解したキトサン水溶液に放射性核種溶液を加え、粘度が300〜2,400cpsであることを特徴とする、放射性物質−キトサン複合体溶液組成物を提供する。
【0010】
(発明の効果)
前記の構成を有する本発明による放射性物質−キトサン複合体は、標識収率が99%以上であるだけではなく、体内注射時に標的部位に安定してゲル化状態が維持され、放射性物質が標的部位以外の他の部分にほとんど流出しない長所を有している。
【0011】
(発明を実施する最良の形態)
本発明による放射性物質−キトサン複合体溶液組成物において、前記放射性物質−キトサン複合体溶液組成物は、分子量が460,000〜1,570,000のキトサンを薄い酸溶液に溶解して凍結乾燥させたキトサン凍結乾燥物(キットB)と放射性核種溶液(キットA)を混合、溶解した粘度が300〜2,400cpsであることを特徴とする。
【0012】
また、前記の他の目的を達成するために本発明は:
(1)164Dy(NO3)3、164Dy2O3、165Ho(NO3)3及び165Ho2O3の中から選択される安定核種の化合物を原子炉で中性子照射して放射性核種の化合物に変換した後、蒸留水に溶解して放射性核種溶液を製造する工程;
(2)分子量が460,000〜1,570,000のキトサンを薄い酸溶液に溶解して粘度が380〜2,500cpsであるキトサン溶液を製造する工程;及び
(3)前記(1)で製造された放射性核種溶液を前記(2)で製造されたキトサン溶液に加える工程を含むことを特徴とする、粘度が300〜2,400cpsである放射性物質−キトサン複合体溶液の製造方法を提供する。
【0013】
本発明による放射性物質−キトサン複合体溶液の製造方法において、前記工程(2)は、製造されたキトサン溶液を凍結乾燥させてキトサン凍結乾燥物を製造する工程をさらに含むことができる。この場合、前記工程(3)のキトサン溶液は、それを凍結乾燥させて製造されるキトサン凍結乾燥物であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、粘度が300〜2,400cpsである放射性物質−キトサン複合体溶液で肝癌を治療する方法を提供する。
【0015】
本発明の放射性物質−キトサン複合体溶液組成物によれば、前記組成物が放射性同位元素のキトサンに対する99%以上の高い標識収率を維持しながら、体内注射時に標的部位に安定してゲル化状態が維持されることにより、前記組成物を患者に注射時、副作用を最小化することができて肝癌等の嚢腫性癌治療に非常に優秀な治療効果を期待することができる。
【0016】
以下、本発明を詳しく説明する。
放射性物質−キトサン複合体溶液の体内でのゲル化状態は、複合体溶液の粘度によって決定されると言える。また、複合体溶液の粘度は、キトサン分子量の大きさに比例する。
【0017】
したがって、体内注射時に体内でゲル化して標的部位以外の他の部分に放射性物質が流出しない放射性物質−キトサン複合体溶液を発明するために、多様な分子量のキトサンを使用して複合体溶液を製造した。
【0018】
また、体内条件と類似のpH条件の緩衝溶液を製造して、その条件で製造された複合体溶液のゲル化状態を確認することにより、キトサン分子量、キトサン溶液粘度及び複合体溶液粘度を具体化した。
【0019】
まず、本発明の放射性物質−キトサン複合体溶液組成物に対して説明する。
【0020】
本発明の放射性物質−キトサン複合体溶液は、キトサン溶液に放射性核種溶液を加えることにより得ることができる。
【0021】
キトサン溶液は、キトサンを薄い酸溶液に溶解して製造することができる。
【0022】
キトサンの分子量は、460,000〜1,570,000が好ましい。キトサンの分子量が460,000未満なら、製造された複合体溶液の粘度がとても低くて、体内注射時にゲルが解けて放射能が標的部位以外の部位に流出することが起こり得、1,570,000を超過すると製造された複合体溶液の粘度が高過ぎて注射が困難になった。
【0023】
また、薄い酸は、いずれも可能であるが、酢酸、ホルム酸のようなカルボキシル酸が好ましく、酢酸が最も好ましい。
【0024】
本発明の一実施例では、分子量が460,000〜1,570,000のキトサン20mgを1%酢酸溶液2mlに溶解して、粘度が380〜2,500cpsになるように製造した。キトサン溶液の粘度が、380cps未満なら製造された複合体溶液の粘度が低過ぎて体内注射時にゲルが解けて放射能が標的部位以外の部位に流出し得、2,500cpsを超過すれば製造された複合体溶液の粘度が高過ぎて注射が困難だった。
【0025】
放射性核種溶液は、安定核種化合物を原子炉で中性子照射して水に溶解して製造することができる。安定核種化合物は、165Ho、164Dy等の酸化物や硝酸塩等を使用でき、165Hoの酸化物や硝酸塩が最も好ましい。
【0026】
本発明の一実施例では、165Ho(NO3)3・5H2O 200mgを原子炉(韓国原子力研究所旧ハナ炉)の熱中性子速度が4.0×1013n/cm2・secである照射孔で50時間の照射して水に溶解して10%166Ho(NO3)3・5H2Oを製造した。
【0027】
次に、本発明は、放射性物質−キトサン複合体製造用キットを提供する。
【0028】
放射性物質−キトサン複合体キットは、放射性物質の水溶液からなるキットAとキトサン溶液からなるキットBの二つのキットで構成されている。
【0029】
本発明の一実施例によれば、キットAは前記の放射性核種溶液と同一に製造され、キットBは分子量が460,000〜1,570,000のキトサンを1%酢酸溶液に溶解して粘度が380〜2,500cpsであるキトサン溶液を製造した後、それを凍結乾燥してキトサン凍結乾燥物に製造し、放射性核種溶液であるキットAとキトサン凍結乾燥物であるキットBを混合、溶解して粘度が300〜2,400cpsである放射性物質−キトサン複合体溶液組成物を製造した。
【0030】
本発明の複合体溶液の適正粘度は、複合体溶液が時間が経つにつれて粘度が段々小さくなることを勘案し手術時間を考慮して、複合体溶液製造後、最大3時間後までの粘度変化を観察することで具体化した。
【0031】
結果的に、前記キトサン溶液に放射性核種溶液を加えて製造された放射性物質−キトサン複合体溶液の粘度は、300〜2,400cpsであることが好ましく、手術時間が複合体製造後2〜3時間であることを考慮する場合は、600〜2,400cpsであることがより好ましい。複合体溶液の粘度が300cps未満ではゲルが解けてゲル状態が不安定であり、複合体溶液の粘度が2,400cpsを超過する場合には粘度が高過ぎて注射が困難であるので好ましくない。
【0032】
また、本願発明の一実施例による放射性物質−キトサン複合体溶液組成物は、次のように製造することができる。
【0033】
1)体内に入るキトサンの量と遊離ホルミウムを少なくしながら、99%以上の標識収率を維持するために、20mgキトサン/1%酢酸2mlのキトサン溶液の凍結乾燥物と硝酸ホルミウム溶液2ml(ホルミウム3.74mg含む)を混合してホルミウム−キトサン複合体溶液を製造した。
【0034】
ここでのキトサン:ホルミウム重量比は、20mg:3.74mg(モル比で5.48:1)だった[165Ho(NO3)3・5H2O 200mgを蒸留水2mlに溶解して10%165Ho(NO3)3・5H2Oに作って、0.1mlを取ればホルミウム重量として約3.74mgである]。
【0035】
キトサンとホルミウムが結合するための適合割合は、モル比で2〜30:1(キトサン:ホルミウム)が好ましい(キトサン1モル:キトサン単量体161g、ホルミウム1モル:165g)。キトサン:ホルミウムのモル比が2:1よりキトサンが少ないか、30:1よりキトサンが多い場合は、遊離ホルミウムが多くなった。コンピューター模擬実験とゲル形成実験を通じて見る時、さらに好ましくはキトサン:ホルミウムのモル比が3〜10:1であり、3〜6:1が最も好ましかった。
【0036】
2)また、製品の大量生産時の生産性向上だけではなく、製品の保管性及び安定性のために、製品の実験及び使用時の利便性のためにキトサン溶液を凍結乾燥した。キトサン凍結乾燥物は、ホルミウム溶液によって溶けやすい特徴があり、複合体を作って使用することが易しい。キトサン溶液を作って複合体を製造するためには、最小1〜2時間が必要となるが、キトサン凍結乾燥物を使用すれば10〜20分で複合体を製造することができ、キトサンを凍結乾燥物形態で使用することによってホルミウム溶液の組成と製作方法もそれに合うように変更した。
【0037】
3)体内条件と類似のpH条件の緩衝溶液を製造して、ホルミウム−165を使用して複合体溶液のゲル化状態を観察した。複合体溶液のゲル化状態を観察して、その粘度変化を確認することにより適正複合体溶液の粘度を具体化した。
【0038】
ここで、経過時間別粘度変化試験では、放射線による粘度変化を考慮して放射性同位元素であるホルミウム−166を使用して複合体溶液を製造した。
【0039】
このような試験を通じて具体化された、粘度が300〜2,400cpsである放射性物質−キトサン複合体溶液を局部注射を通じて病巣に直接注入することができる方法によって、関節炎をはじめ肝癌、脳癌、乳癌、卵巣癌などの嚢腫性癌を治療することができる。
【0040】
以下、添付図面に対して簡単に説明する。
図1は、粘度が60cpsであるホルミウム−キトサン複合体のゲル化状態を示したもので、ゲルが解けて散らばる様子を図1bが詳細に示している。
【0041】
粒状
図2は、粘度が117cpsであるホルミウム−キトサン複合体のゲル化状態を示したもので、粒状にゲル化したが一部は解けながら落下して(左)、すぐに解けて散らばりやすい様子(右)で、お互いに凝り固まっている状態を観察することができる。
【0042】
図3は、粘度が194cpsであるホルミウム−キトサン複合体のゲル化状態を示したもので、粒状にゲル化したが一部は解けながら落下して(左)、すぐに解けて散らばりやすい様子に変わっている状態(右)が見られる。
【0043】
図4は、粘度が289cpsであるホルミウム−キトサン複合体のゲル化状態を示したもので、粒状にゲル化したが一部は解けた様子が見られる。
【0044】
図5は、粘度が310cpsであるホルミウム−キトサン複合体のゲル化状態を示したもので、粒状にゲル化したゲル固まりがそのまま存在する状態が見られる。
【0045】
図6は、粘度が650cpsであるホルミウム−キトサン複合体のゲル化状態を示したもので、粒状にゲル化したゲル固まりがそのまま存在する状態が見られる。
【0046】
図7は、粘度が1,068cpsであるホルミウム−キトサン複合体のゲル化状態を示したもので、粒状にゲル化したゲル固まりがそのまま存在する状態が見られる。
【0047】
図8は、粘度が1,407cpsであるホルミウム−キトサン複合体のゲル化状態を示したもので、粒状にゲル化したゲル固まりがそのまま存在する状態が見られる。
【0048】
図9は、粘度が2,376cpsであるホルミウム−キトサン複合体のゲル化状態を示したもので、粒状にゲル化したゲル固まりがそのまま存在する状態が見られる。
【0049】
図10は、粘度が2,549cpsであるホルミウム−キトサン複合体のゲル化状態を示したもので、粒状にゲル化したゲル固まりがそのまま存在する状態が見られる。
【0050】
最後に、図11は複合体の解けた様子とゲル化した様子を比べたもので、図11aは複合体粘度が100cps以下の場合で、ゲル化がひとつの場所で起きずに解ける状態が見られ、図11bは複合体粘度が300cps以上の場合で、注入された位置でゲル化が起きた状態が見られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0051】
以下、本発明を実施例または実験例を通じてより詳細に説明する。 但し、下記の実施例または実験例は、本発明を例示するためのもので、本発明の範囲が下記の実施例または実験例に限定されたり制限されるものではない。
【0052】
<実施例1〜5>
キトサン原料の分子量によるキトサン凍結乾燥物とホルミウム165(安定核種)−キトサン複合体溶液の製造
【0053】
具体的な適正ホルミウム165−キトサン複合体溶液の粘度を調べるために、分子量が異なるキトサン原料を使用して20mg/2ml(1%酢酸溶液)キトサン溶液を作った後、1N HCl溶液でpH3.0のキトサン溶液を製造して粘度を測定(表2)し、それを凍結乾燥してそれぞれバイアルに入れた(キットB)。ホルミウム溶液は、硝酸ホルミウム[165Ho(NO3)3・5H2O]を使用して作り、蒸留水2ml当りホルミウムが3.74mgになるようにした(キットA)。キットAをキットBに入れて撹拌して30分程度放置した後、粘度を測定した(表2)。
【0054】
*粘度測定:ブルックフィールドデジタル粘度測定機(Brookfield digital viscometer DV−II+)
*分子量測定
1.システム:1)HPLCポンプ(モデル:Waters515)
2)検出器(Detector):ビスコテックエクスターナルRI検出器(Viscotek external RI detector)
3)カラム(モデル:Waters UltrahydrogelTM120)
【0055】
<比較例1〜5>
キトサン原料の分子量によるキトサン凍結乾燥物とホルミウム165(安定核種)−キトサン複合体溶液の製造
【0056】
具体的な適正ホルミウム165−キトサン複合体溶液の粘度を調べるために、分子量が異るキトサン原料を使用して20mg/2ml(1%酢酸溶液)キトサン溶液を作った後、1N HCl溶液でpH3.0のキトサン溶液を製造して粘度を測定(表2)し、それを凍結乾燥してそれぞれバイアルに入れた(キットB)。ホルミウム溶液は、硝酸ホルミウム[165Ho(NO3)3・5H2O]を使用して作り、蒸留水2ml当りホルミウムが3.74mgになるようにした(キットA)。キットAをキットBに入れて撹拌して30分程度放置した後、粘度を測定した(表2)。
【0057】
表2:キトサン原料の分子量によるキトサン溶液とホルミウム165(安定核種)−キトサン複合体溶液の粘度(cps)
【0058】
【表2】
【0059】
<実験例1>
キトサン原料の分子量によるホルミウム165(安定核種)−キトサン複合体溶液のゲル化状態(実施例1〜5、比較例1〜5)
【0060】
実施例1〜5及び比較例1〜5で製造したホルミウム165−キトサン複合体溶液を注射器に取ってpH7.02緩衝溶液に一滴ずつ入れてゲル化していく状態を観察した。その結果を表3に示した。緩衝溶液は、USP収載方法を準用するがその濃度は人体の血液のような浸透圧を示す濃度に調整(USP収載方法の2倍濃度)して使用した。
【0061】
実施例1〜5でゲル化状態が安定していて、注射使用時にも容易だった。すなわち、複合体溶液の粘度が300cps以上でゲル化状態が良好で、複合体溶液の粘度が2,400cpsを超過する場合には粘度が高過ぎて注射が困難だった。したがって、体内で安定したゲル化状態を維持するための複合体溶液の粘度は、300〜2,400cpsだった。ここで使用されたキトサン原料の分子量は、460,000〜1,570,000であり、製造されたキトサン溶液の粘度は380〜2,500cpsだった。
【0062】
表3:キトサン原料の分子量によるホルミウム165(安定核種)−キトサン複合体溶液のゲル化状態(実施例1〜5、比較例1〜5)
【0063】
【表3】
【0064】
<実験例2>
ホルミウム165(安定核種)−キトサン複合体溶液の時間経過による粘度変化
165Ho(NO3)3・5H2Oの代わりに166Ho(NO3)3・5H2Oを使用して前記実施例と同じ方法でホルミウム166−キトサン複合体溶液を製造して複合体溶液の時間経過による粘度を測定し、その変化量を表4に示した(粘度測定:Brookfield digital viscometer DV−II+)。
【0065】
166Ho(NO3)3・5H2Oは、165Ho(NO3)3・5H2O200mgをポリエチレンチューブに入れた後、気送管装置を使用して原子炉(原子力研究所ハナ炉)の熱中性子速度が4.0×1013n/cm2・secである照射孔で50時間の照射して水に溶解して製造した。時間の経過によって粘度が相当に小さくなることが分かる。約3時間後まで複合体溶液の粘度が300cpsを維持するためには、複合体溶液(キットAとキットB混合30分後)の粘度が600cps以上であることが好ましい。
【0066】
表4:ホルミウム166(放射性核腫)−キトサン複合体溶液の時間経過による粘度(cps)変化
【0067】
【表4】
【0068】
※前記実施例は、放射性核腫であるホルミウム166で製造した。
【0069】
すなわち、ホルミウム−キトサン複合体は、体内に直接投与する薬物として手術時キットA(ホルミウム溶液)とキットB(キトサン凍結乾燥物)をすぐ混ぜて使用する薬であるが、場合によっては製造後約2〜3時間位経過後に手術をするようになる場合もあり得るので、複合体が加水分解して粘度が小さくなる程度を勘案して、複合体製造30分後の好ましい複合体の粘度は600cps以上でなければならないし、理論的には最大3455cpsまで可能だが、時間経過によって放射性同位元素であるホルミウムが崩壊されて正確な放射線量の投与が困難になるだけではなく、製造時の放射線崩壊による影響も考慮しなければならないので、製造方法も複雑になって実際の応用に困難がある。
【0070】
したがって、放射性物質−キトサン複合体の具体的粘度範囲は、300〜2,400cpsで、好ましくは手術時間が複合体製造後おおよそ3時間であることを考慮する時は、600〜2,400cpsであることが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0071】
前記の構成を有する本発明による放射性物質−キトサン複合体は、標識収率が99%以上であるだけではなく、体内注射時に標的部位に安定してゲル化状態が維持され、放射性物質が標的部位以外の他の部分にほとんど流出しない長所を有しているので、患者に注射時の副作用を最小化することができ、また治療効果もそれだけ高くなる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の比較例による粘度が60cpsであるホルミウム−キトサン複合体溶液のゲル化状態(a)及びゲルが解けて散らばる様子(b)の写真である。
【図2】本発明の比較例による粘度が117cpsであるホルミウム−キトサン複合体溶液のゲル化状態の写真である。
【図3】本発明の比較例による粘度が194cpsであるホルミウム−キトサン複合体溶液のゲル化状態の写真である。
【図4】本発明の比較例による粘度が289cpsであるホルミウム−キトサン複合体溶液のゲル化状態の写真である。
【図5】本発明の実施例による粘度が310cpsであるホルミウム−キトサン複合体溶液のゲル化状態の写真である。
【図6】本発明の実施例による粘度が650cpsであるホルミウム−キトサン複合体溶液のゲル化状態の写真である。
【図7】本発明の実施例による粘度が1,068cpsであるホルミウム−キトサン複合体溶液のゲル化状態の写真である。
【図8】本発明の実施例による粘度が1,407cpsであるホルミウム−キトサン複合体溶液のゲル化状態の写真である。
【図9】本発明の実施例による粘度が2,376cpsであるホルミウム−キトサン複合体溶液のゲル化状態の写真である。
【図10】本発明の比較例による粘度が2,549cpsであるホルミウム−キトサン複合体溶液のゲル化状態の写真である。
【図11】本発明の比較例によるホルミウム−キトサン複合体溶液の解けた様子(a)と本発明の実施例によるゲル化した様子(b)を比べた写真である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性同位元素のキトサンに対する99%以上の高い標識収率を維持しながら実質的に体内でゲル化して、標的部位以外の他の部分に放射性物質がほとんど流出しない放射性物質−キトサン複合体溶液組成物及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、高エネルギーのベータ線と低エネルギーのガンマ線を同時に放出する核種とキトサンの錯物(以下「放射性物質−キトサン複合体」とする)を開示していて、前記放射性物質−キトサン複合体の最も重要な特徴は、弱酸性条件では液体で存在して経皮注射が可能であり、液体で局部に経皮注射されたこの複合体は、体液によって中性になりながらゲル化して内部放射線治療が可能で、注射された局部に固定されて薬効を発揮するということにその特徴があり、複合体の製造において、キトサン溶液の粘度が100〜200cpsになってこそ標識収率が99%になって好ましいと記載している。
【0003】
しかし、放射性−キトサン複合体の場合、安定性のためには標識化収率だけではなく体内で放射性物質が他の所に拡散して広がらないでゲル化し、注入された位置にそのまま留まっていることも非常に重要である。すなわち、注射された放射性物質−キトサン複合体が、違う部位に流出しないためには、ゲル化した状態が非常に重要であり、体内に注入されて散らばらないで注入された状態ですぐにゲル化することが最も好ましく、このようなゲル化状態は放射性物質−キトサン複合体溶液の粘度と直接的に関係がある。
【0004】
本発明者等は、特許文献1に記載されている粘度が100〜200cpsであるキトサン溶液として製造された放射性物質−キトサン複合体溶液は、99%以上の標識収率を示して注射も容易であったが、実質的に体内で正しくゲル化しないで、多く解けて放射性物質が標的部位以外の部位に流出する可能性が多いことを見つけ出すに至った。
【0005】
【表1】
【0006】
すなわち、前記結果から複合体溶液の体内条件でのゲル化状態が安定するためには、特許文献1に記載されている粘度が100〜200cpsであるキトサン溶液に製造された複合体溶液よりずっと大きい粘度が必要であるということが分かる。また、特許文献1に記載されているように、キトサン溶液の粘度が100cps以上なら標識収率が99%以上を示して、先で言及したように、本発明で要求されるキトサン溶液の粘度は、前記粘度より大きいと言えるので、本発明の放射性物質−キトサン複合体溶液の標識収率は、99%以上であることが分かる。
【0007】
以上のことに鑑みて本発明者等は、前記放射性物質−キトサン複合体の粘度に対して研究をして、標識収率は99%以上を維持しながら放射能が周囲にほとんど流出しない組成物を発明するに至った。
【特許文献1】大韓民国登録特許第190,957号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の目的は、99%以上の標識収率を維持しながら、実質的に体内注射時に体内でゲル化して標的部位以外の他の部分に放射性物質がほとんど流出しない放射性物質−キトサン複合体溶液組成物及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するために本発明は、分子量が460,000〜1,570,000のキトサンを薄い酸溶液に溶解したキトサン水溶液に放射性核種溶液を加え、粘度が300〜2,400cpsであることを特徴とする、放射性物質−キトサン複合体溶液組成物を提供する。
【0010】
(発明の効果)
前記の構成を有する本発明による放射性物質−キトサン複合体は、標識収率が99%以上であるだけではなく、体内注射時に標的部位に安定してゲル化状態が維持され、放射性物質が標的部位以外の他の部分にほとんど流出しない長所を有している。
【0011】
(発明を実施する最良の形態)
本発明による放射性物質−キトサン複合体溶液組成物において、前記放射性物質−キトサン複合体溶液組成物は、分子量が460,000〜1,570,000のキトサンを薄い酸溶液に溶解して凍結乾燥させたキトサン凍結乾燥物(キットB)と放射性核種溶液(キットA)を混合、溶解した粘度が300〜2,400cpsであることを特徴とする。
【0012】
また、前記の他の目的を達成するために本発明は:
(1)164Dy(NO3)3、164Dy2O3、165Ho(NO3)3及び165Ho2O3の中から選択される安定核種の化合物を原子炉で中性子照射して放射性核種の化合物に変換した後、蒸留水に溶解して放射性核種溶液を製造する工程;
(2)分子量が460,000〜1,570,000のキトサンを薄い酸溶液に溶解して粘度が380〜2,500cpsであるキトサン溶液を製造する工程;及び
(3)前記(1)で製造された放射性核種溶液を前記(2)で製造されたキトサン溶液に加える工程を含むことを特徴とする、粘度が300〜2,400cpsである放射性物質−キトサン複合体溶液の製造方法を提供する。
【0013】
本発明による放射性物質−キトサン複合体溶液の製造方法において、前記工程(2)は、製造されたキトサン溶液を凍結乾燥させてキトサン凍結乾燥物を製造する工程をさらに含むことができる。この場合、前記工程(3)のキトサン溶液は、それを凍結乾燥させて製造されるキトサン凍結乾燥物であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、粘度が300〜2,400cpsである放射性物質−キトサン複合体溶液で肝癌を治療する方法を提供する。
【0015】
本発明の放射性物質−キトサン複合体溶液組成物によれば、前記組成物が放射性同位元素のキトサンに対する99%以上の高い標識収率を維持しながら、体内注射時に標的部位に安定してゲル化状態が維持されることにより、前記組成物を患者に注射時、副作用を最小化することができて肝癌等の嚢腫性癌治療に非常に優秀な治療効果を期待することができる。
【0016】
以下、本発明を詳しく説明する。
放射性物質−キトサン複合体溶液の体内でのゲル化状態は、複合体溶液の粘度によって決定されると言える。また、複合体溶液の粘度は、キトサン分子量の大きさに比例する。
【0017】
したがって、体内注射時に体内でゲル化して標的部位以外の他の部分に放射性物質が流出しない放射性物質−キトサン複合体溶液を発明するために、多様な分子量のキトサンを使用して複合体溶液を製造した。
【0018】
また、体内条件と類似のpH条件の緩衝溶液を製造して、その条件で製造された複合体溶液のゲル化状態を確認することにより、キトサン分子量、キトサン溶液粘度及び複合体溶液粘度を具体化した。
【0019】
まず、本発明の放射性物質−キトサン複合体溶液組成物に対して説明する。
【0020】
本発明の放射性物質−キトサン複合体溶液は、キトサン溶液に放射性核種溶液を加えることにより得ることができる。
【0021】
キトサン溶液は、キトサンを薄い酸溶液に溶解して製造することができる。
【0022】
キトサンの分子量は、460,000〜1,570,000が好ましい。キトサンの分子量が460,000未満なら、製造された複合体溶液の粘度がとても低くて、体内注射時にゲルが解けて放射能が標的部位以外の部位に流出することが起こり得、1,570,000を超過すると製造された複合体溶液の粘度が高過ぎて注射が困難になった。
【0023】
また、薄い酸は、いずれも可能であるが、酢酸、ホルム酸のようなカルボキシル酸が好ましく、酢酸が最も好ましい。
【0024】
本発明の一実施例では、分子量が460,000〜1,570,000のキトサン20mgを1%酢酸溶液2mlに溶解して、粘度が380〜2,500cpsになるように製造した。キトサン溶液の粘度が、380cps未満なら製造された複合体溶液の粘度が低過ぎて体内注射時にゲルが解けて放射能が標的部位以外の部位に流出し得、2,500cpsを超過すれば製造された複合体溶液の粘度が高過ぎて注射が困難だった。
【0025】
放射性核種溶液は、安定核種化合物を原子炉で中性子照射して水に溶解して製造することができる。安定核種化合物は、165Ho、164Dy等の酸化物や硝酸塩等を使用でき、165Hoの酸化物や硝酸塩が最も好ましい。
【0026】
本発明の一実施例では、165Ho(NO3)3・5H2O 200mgを原子炉(韓国原子力研究所旧ハナ炉)の熱中性子速度が4.0×1013n/cm2・secである照射孔で50時間の照射して水に溶解して10%166Ho(NO3)3・5H2Oを製造した。
【0027】
次に、本発明は、放射性物質−キトサン複合体製造用キットを提供する。
【0028】
放射性物質−キトサン複合体キットは、放射性物質の水溶液からなるキットAとキトサン溶液からなるキットBの二つのキットで構成されている。
【0029】
本発明の一実施例によれば、キットAは前記の放射性核種溶液と同一に製造され、キットBは分子量が460,000〜1,570,000のキトサンを1%酢酸溶液に溶解して粘度が380〜2,500cpsであるキトサン溶液を製造した後、それを凍結乾燥してキトサン凍結乾燥物に製造し、放射性核種溶液であるキットAとキトサン凍結乾燥物であるキットBを混合、溶解して粘度が300〜2,400cpsである放射性物質−キトサン複合体溶液組成物を製造した。
【0030】
本発明の複合体溶液の適正粘度は、複合体溶液が時間が経つにつれて粘度が段々小さくなることを勘案し手術時間を考慮して、複合体溶液製造後、最大3時間後までの粘度変化を観察することで具体化した。
【0031】
結果的に、前記キトサン溶液に放射性核種溶液を加えて製造された放射性物質−キトサン複合体溶液の粘度は、300〜2,400cpsであることが好ましく、手術時間が複合体製造後2〜3時間であることを考慮する場合は、600〜2,400cpsであることがより好ましい。複合体溶液の粘度が300cps未満ではゲルが解けてゲル状態が不安定であり、複合体溶液の粘度が2,400cpsを超過する場合には粘度が高過ぎて注射が困難であるので好ましくない。
【0032】
また、本願発明の一実施例による放射性物質−キトサン複合体溶液組成物は、次のように製造することができる。
【0033】
1)体内に入るキトサンの量と遊離ホルミウムを少なくしながら、99%以上の標識収率を維持するために、20mgキトサン/1%酢酸2mlのキトサン溶液の凍結乾燥物と硝酸ホルミウム溶液2ml(ホルミウム3.74mg含む)を混合してホルミウム−キトサン複合体溶液を製造した。
【0034】
ここでのキトサン:ホルミウム重量比は、20mg:3.74mg(モル比で5.48:1)だった[165Ho(NO3)3・5H2O 200mgを蒸留水2mlに溶解して10%165Ho(NO3)3・5H2Oに作って、0.1mlを取ればホルミウム重量として約3.74mgである]。
【0035】
キトサンとホルミウムが結合するための適合割合は、モル比で2〜30:1(キトサン:ホルミウム)が好ましい(キトサン1モル:キトサン単量体161g、ホルミウム1モル:165g)。キトサン:ホルミウムのモル比が2:1よりキトサンが少ないか、30:1よりキトサンが多い場合は、遊離ホルミウムが多くなった。コンピューター模擬実験とゲル形成実験を通じて見る時、さらに好ましくはキトサン:ホルミウムのモル比が3〜10:1であり、3〜6:1が最も好ましかった。
【0036】
2)また、製品の大量生産時の生産性向上だけではなく、製品の保管性及び安定性のために、製品の実験及び使用時の利便性のためにキトサン溶液を凍結乾燥した。キトサン凍結乾燥物は、ホルミウム溶液によって溶けやすい特徴があり、複合体を作って使用することが易しい。キトサン溶液を作って複合体を製造するためには、最小1〜2時間が必要となるが、キトサン凍結乾燥物を使用すれば10〜20分で複合体を製造することができ、キトサンを凍結乾燥物形態で使用することによってホルミウム溶液の組成と製作方法もそれに合うように変更した。
【0037】
3)体内条件と類似のpH条件の緩衝溶液を製造して、ホルミウム−165を使用して複合体溶液のゲル化状態を観察した。複合体溶液のゲル化状態を観察して、その粘度変化を確認することにより適正複合体溶液の粘度を具体化した。
【0038】
ここで、経過時間別粘度変化試験では、放射線による粘度変化を考慮して放射性同位元素であるホルミウム−166を使用して複合体溶液を製造した。
【0039】
このような試験を通じて具体化された、粘度が300〜2,400cpsである放射性物質−キトサン複合体溶液を局部注射を通じて病巣に直接注入することができる方法によって、関節炎をはじめ肝癌、脳癌、乳癌、卵巣癌などの嚢腫性癌を治療することができる。
【0040】
以下、添付図面に対して簡単に説明する。
図1は、粘度が60cpsであるホルミウム−キトサン複合体のゲル化状態を示したもので、ゲルが解けて散らばる様子を図1bが詳細に示している。
【0041】
粒状
図2は、粘度が117cpsであるホルミウム−キトサン複合体のゲル化状態を示したもので、粒状にゲル化したが一部は解けながら落下して(左)、すぐに解けて散らばりやすい様子(右)で、お互いに凝り固まっている状態を観察することができる。
【0042】
図3は、粘度が194cpsであるホルミウム−キトサン複合体のゲル化状態を示したもので、粒状にゲル化したが一部は解けながら落下して(左)、すぐに解けて散らばりやすい様子に変わっている状態(右)が見られる。
【0043】
図4は、粘度が289cpsであるホルミウム−キトサン複合体のゲル化状態を示したもので、粒状にゲル化したが一部は解けた様子が見られる。
【0044】
図5は、粘度が310cpsであるホルミウム−キトサン複合体のゲル化状態を示したもので、粒状にゲル化したゲル固まりがそのまま存在する状態が見られる。
【0045】
図6は、粘度が650cpsであるホルミウム−キトサン複合体のゲル化状態を示したもので、粒状にゲル化したゲル固まりがそのまま存在する状態が見られる。
【0046】
図7は、粘度が1,068cpsであるホルミウム−キトサン複合体のゲル化状態を示したもので、粒状にゲル化したゲル固まりがそのまま存在する状態が見られる。
【0047】
図8は、粘度が1,407cpsであるホルミウム−キトサン複合体のゲル化状態を示したもので、粒状にゲル化したゲル固まりがそのまま存在する状態が見られる。
【0048】
図9は、粘度が2,376cpsであるホルミウム−キトサン複合体のゲル化状態を示したもので、粒状にゲル化したゲル固まりがそのまま存在する状態が見られる。
【0049】
図10は、粘度が2,549cpsであるホルミウム−キトサン複合体のゲル化状態を示したもので、粒状にゲル化したゲル固まりがそのまま存在する状態が見られる。
【0050】
最後に、図11は複合体の解けた様子とゲル化した様子を比べたもので、図11aは複合体粘度が100cps以下の場合で、ゲル化がひとつの場所で起きずに解ける状態が見られ、図11bは複合体粘度が300cps以上の場合で、注入された位置でゲル化が起きた状態が見られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0051】
以下、本発明を実施例または実験例を通じてより詳細に説明する。 但し、下記の実施例または実験例は、本発明を例示するためのもので、本発明の範囲が下記の実施例または実験例に限定されたり制限されるものではない。
【0052】
<実施例1〜5>
キトサン原料の分子量によるキトサン凍結乾燥物とホルミウム165(安定核種)−キトサン複合体溶液の製造
【0053】
具体的な適正ホルミウム165−キトサン複合体溶液の粘度を調べるために、分子量が異なるキトサン原料を使用して20mg/2ml(1%酢酸溶液)キトサン溶液を作った後、1N HCl溶液でpH3.0のキトサン溶液を製造して粘度を測定(表2)し、それを凍結乾燥してそれぞれバイアルに入れた(キットB)。ホルミウム溶液は、硝酸ホルミウム[165Ho(NO3)3・5H2O]を使用して作り、蒸留水2ml当りホルミウムが3.74mgになるようにした(キットA)。キットAをキットBに入れて撹拌して30分程度放置した後、粘度を測定した(表2)。
【0054】
*粘度測定:ブルックフィールドデジタル粘度測定機(Brookfield digital viscometer DV−II+)
*分子量測定
1.システム:1)HPLCポンプ(モデル:Waters515)
2)検出器(Detector):ビスコテックエクスターナルRI検出器(Viscotek external RI detector)
3)カラム(モデル:Waters UltrahydrogelTM120)
【0055】
<比較例1〜5>
キトサン原料の分子量によるキトサン凍結乾燥物とホルミウム165(安定核種)−キトサン複合体溶液の製造
【0056】
具体的な適正ホルミウム165−キトサン複合体溶液の粘度を調べるために、分子量が異るキトサン原料を使用して20mg/2ml(1%酢酸溶液)キトサン溶液を作った後、1N HCl溶液でpH3.0のキトサン溶液を製造して粘度を測定(表2)し、それを凍結乾燥してそれぞれバイアルに入れた(キットB)。ホルミウム溶液は、硝酸ホルミウム[165Ho(NO3)3・5H2O]を使用して作り、蒸留水2ml当りホルミウムが3.74mgになるようにした(キットA)。キットAをキットBに入れて撹拌して30分程度放置した後、粘度を測定した(表2)。
【0057】
表2:キトサン原料の分子量によるキトサン溶液とホルミウム165(安定核種)−キトサン複合体溶液の粘度(cps)
【0058】
【表2】
【0059】
<実験例1>
キトサン原料の分子量によるホルミウム165(安定核種)−キトサン複合体溶液のゲル化状態(実施例1〜5、比較例1〜5)
【0060】
実施例1〜5及び比較例1〜5で製造したホルミウム165−キトサン複合体溶液を注射器に取ってpH7.02緩衝溶液に一滴ずつ入れてゲル化していく状態を観察した。その結果を表3に示した。緩衝溶液は、USP収載方法を準用するがその濃度は人体の血液のような浸透圧を示す濃度に調整(USP収載方法の2倍濃度)して使用した。
【0061】
実施例1〜5でゲル化状態が安定していて、注射使用時にも容易だった。すなわち、複合体溶液の粘度が300cps以上でゲル化状態が良好で、複合体溶液の粘度が2,400cpsを超過する場合には粘度が高過ぎて注射が困難だった。したがって、体内で安定したゲル化状態を維持するための複合体溶液の粘度は、300〜2,400cpsだった。ここで使用されたキトサン原料の分子量は、460,000〜1,570,000であり、製造されたキトサン溶液の粘度は380〜2,500cpsだった。
【0062】
表3:キトサン原料の分子量によるホルミウム165(安定核種)−キトサン複合体溶液のゲル化状態(実施例1〜5、比較例1〜5)
【0063】
【表3】
【0064】
<実験例2>
ホルミウム165(安定核種)−キトサン複合体溶液の時間経過による粘度変化
165Ho(NO3)3・5H2Oの代わりに166Ho(NO3)3・5H2Oを使用して前記実施例と同じ方法でホルミウム166−キトサン複合体溶液を製造して複合体溶液の時間経過による粘度を測定し、その変化量を表4に示した(粘度測定:Brookfield digital viscometer DV−II+)。
【0065】
166Ho(NO3)3・5H2Oは、165Ho(NO3)3・5H2O200mgをポリエチレンチューブに入れた後、気送管装置を使用して原子炉(原子力研究所ハナ炉)の熱中性子速度が4.0×1013n/cm2・secである照射孔で50時間の照射して水に溶解して製造した。時間の経過によって粘度が相当に小さくなることが分かる。約3時間後まで複合体溶液の粘度が300cpsを維持するためには、複合体溶液(キットAとキットB混合30分後)の粘度が600cps以上であることが好ましい。
【0066】
表4:ホルミウム166(放射性核腫)−キトサン複合体溶液の時間経過による粘度(cps)変化
【0067】
【表4】
【0068】
※前記実施例は、放射性核腫であるホルミウム166で製造した。
【0069】
すなわち、ホルミウム−キトサン複合体は、体内に直接投与する薬物として手術時キットA(ホルミウム溶液)とキットB(キトサン凍結乾燥物)をすぐ混ぜて使用する薬であるが、場合によっては製造後約2〜3時間位経過後に手術をするようになる場合もあり得るので、複合体が加水分解して粘度が小さくなる程度を勘案して、複合体製造30分後の好ましい複合体の粘度は600cps以上でなければならないし、理論的には最大3455cpsまで可能だが、時間経過によって放射性同位元素であるホルミウムが崩壊されて正確な放射線量の投与が困難になるだけではなく、製造時の放射線崩壊による影響も考慮しなければならないので、製造方法も複雑になって実際の応用に困難がある。
【0070】
したがって、放射性物質−キトサン複合体の具体的粘度範囲は、300〜2,400cpsで、好ましくは手術時間が複合体製造後おおよそ3時間であることを考慮する時は、600〜2,400cpsであることが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0071】
前記の構成を有する本発明による放射性物質−キトサン複合体は、標識収率が99%以上であるだけではなく、体内注射時に標的部位に安定してゲル化状態が維持され、放射性物質が標的部位以外の他の部分にほとんど流出しない長所を有しているので、患者に注射時の副作用を最小化することができ、また治療効果もそれだけ高くなる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の比較例による粘度が60cpsであるホルミウム−キトサン複合体溶液のゲル化状態(a)及びゲルが解けて散らばる様子(b)の写真である。
【図2】本発明の比較例による粘度が117cpsであるホルミウム−キトサン複合体溶液のゲル化状態の写真である。
【図3】本発明の比較例による粘度が194cpsであるホルミウム−キトサン複合体溶液のゲル化状態の写真である。
【図4】本発明の比較例による粘度が289cpsであるホルミウム−キトサン複合体溶液のゲル化状態の写真である。
【図5】本発明の実施例による粘度が310cpsであるホルミウム−キトサン複合体溶液のゲル化状態の写真である。
【図6】本発明の実施例による粘度が650cpsであるホルミウム−キトサン複合体溶液のゲル化状態の写真である。
【図7】本発明の実施例による粘度が1,068cpsであるホルミウム−キトサン複合体溶液のゲル化状態の写真である。
【図8】本発明の実施例による粘度が1,407cpsであるホルミウム−キトサン複合体溶液のゲル化状態の写真である。
【図9】本発明の実施例による粘度が2,376cpsであるホルミウム−キトサン複合体溶液のゲル化状態の写真である。
【図10】本発明の比較例による粘度が2,549cpsであるホルミウム−キトサン複合体溶液のゲル化状態の写真である。
【図11】本発明の比較例によるホルミウム−キトサン複合体溶液の解けた様子(a)と本発明の実施例によるゲル化した様子(b)を比べた写真である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子量が、460,000〜1,570,000のキトサンを薄い酸溶液に溶解して粘度が380〜2,500cpsであることを特徴とするキトサン水溶液。
【請求項2】
請求項1のキトサン水溶液を凍結乾燥することを特徴とするキトサン凍結乾燥物。
【請求項3】
請求項1のキトサン水溶液または請求項2のキトサン凍結乾燥物のキトサンに放射線放出核種が標識され、粘度が300〜2,400cpsであることを特徴とする、放射性物質−キトサン複合体溶液組成物。
【請求項4】
前記放射性放出核種が、166Hoであることを特徴とする、請求項3に記載の放射性物質−キトサン複合体溶液組成物。
【請求項5】
(1)164Dy(NO3)3、164Dy2O3、165Ho(NO3)3及び165Ho2O3の中から選択される安定核種の化合物を原子炉で中性子照射して放射性核種の化合物に変換した後、蒸留水に溶解して放射性核種溶液を製造する工程、
(2)分子量が460,000〜1,570,000のキトサンを薄い酸溶液に溶解して、粘度が380〜2,500cpsであるキトサン溶液を製造する工程、及び
(3)前記(1)で製造した放射性核種溶液を前記(2)で製造したキトサン溶液に加える工程を含むことを特徴とする、粘度が300〜2,400cpsである放射性物質−キトサン複合体溶液の製造方法。
【請求項6】
(1)164Dy(NO3)3、164Dy2O3、165Ho(NO3)3及び165Ho2O3の中から選択される安定核種の化合物を原子炉で中性子照射して放射性核種の化合物に変換した後、蒸留水に溶解して放射性核種溶液を製造する工程、
(2)分子量が460,000〜1,570,000のキトサンを薄い酸溶液に溶解して、粘度が380〜2,500cpsであるキトサン溶液を製造して、凍結乾燥させてキトサン凍結乾燥物を製造する工程、及び
(3)前記(1)で製造した放射性核種溶液を前記(2)で製造したキトサン凍結乾燥物に加える工程を含むことを特徴とする、粘度が300〜2,400cpsである放射性物質−キトサン複合体溶液の製造方法。
【請求項7】
放射性核種とキトサンの混合比が、モル比で1:2〜30であることを特徴とする、請求項5または請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
粘度が300〜2,400cpsである放射性物質−キトサン複合体溶液で、肝臓癌を治療する方法。
【請求項1】
分子量が、460,000〜1,570,000のキトサンを薄い酸溶液に溶解して粘度が380〜2,500cpsであることを特徴とするキトサン水溶液。
【請求項2】
請求項1のキトサン水溶液を凍結乾燥することを特徴とするキトサン凍結乾燥物。
【請求項3】
請求項1のキトサン水溶液または請求項2のキトサン凍結乾燥物のキトサンに放射線放出核種が標識され、粘度が300〜2,400cpsであることを特徴とする、放射性物質−キトサン複合体溶液組成物。
【請求項4】
前記放射性放出核種が、166Hoであることを特徴とする、請求項3に記載の放射性物質−キトサン複合体溶液組成物。
【請求項5】
(1)164Dy(NO3)3、164Dy2O3、165Ho(NO3)3及び165Ho2O3の中から選択される安定核種の化合物を原子炉で中性子照射して放射性核種の化合物に変換した後、蒸留水に溶解して放射性核種溶液を製造する工程、
(2)分子量が460,000〜1,570,000のキトサンを薄い酸溶液に溶解して、粘度が380〜2,500cpsであるキトサン溶液を製造する工程、及び
(3)前記(1)で製造した放射性核種溶液を前記(2)で製造したキトサン溶液に加える工程を含むことを特徴とする、粘度が300〜2,400cpsである放射性物質−キトサン複合体溶液の製造方法。
【請求項6】
(1)164Dy(NO3)3、164Dy2O3、165Ho(NO3)3及び165Ho2O3の中から選択される安定核種の化合物を原子炉で中性子照射して放射性核種の化合物に変換した後、蒸留水に溶解して放射性核種溶液を製造する工程、
(2)分子量が460,000〜1,570,000のキトサンを薄い酸溶液に溶解して、粘度が380〜2,500cpsであるキトサン溶液を製造して、凍結乾燥させてキトサン凍結乾燥物を製造する工程、及び
(3)前記(1)で製造した放射性核種溶液を前記(2)で製造したキトサン凍結乾燥物に加える工程を含むことを特徴とする、粘度が300〜2,400cpsである放射性物質−キトサン複合体溶液の製造方法。
【請求項7】
放射性核種とキトサンの混合比が、モル比で1:2〜30であることを特徴とする、請求項5または請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
粘度が300〜2,400cpsである放射性物質−キトサン複合体溶液で、肝臓癌を治療する方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公表番号】特表2008−521886(P2008−521886A)
【公表日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−544267(P2007−544267)
【出願日】平成17年12月1日(2005.12.1)
【国際出願番号】PCT/KR2005/004083
【国際公開番号】WO2006/059879
【国際公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【出願人】(502187210)ドン ファ ファーマシューティカル インダストリアル カンパニー リミテッド (2)
【氏名又は名称原語表記】DONG WHA PHARM.IND.CO.,LTD
【出願人】(597060645)コリア アトミック エナジー リサーチ インスティテュート (22)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年12月1日(2005.12.1)
【国際出願番号】PCT/KR2005/004083
【国際公開番号】WO2006/059879
【国際公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【出願人】(502187210)ドン ファ ファーマシューティカル インダストリアル カンパニー リミテッド (2)
【氏名又は名称原語表記】DONG WHA PHARM.IND.CO.,LTD
【出願人】(597060645)コリア アトミック エナジー リサーチ インスティテュート (22)
【Fターム(参考)】
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