説明

体液処理装置

【課題】固定材とハウジング間の液密シールが完全であるとともに、従来のようにOリングが無くても体液側の液密シールができる体液処理装置を提供すること。
【解決手段】ポート(3)の底部内周に突起部(8)を形成し、当該突起部(8)の外周に溝部(9)を形成し、前記固定材(4)の天面かつ当該固定材(4)に固定された中空糸膜(5)束の外周に溝部(10)を形成し、前記ポート(3)を前記ハウジング(2)の端部に超音波溶着することにより、前記ポート(3)の突起部(8)を固定材(4)の溝部(10)に圧入して、当該固定材(4)に上部から圧力を加えるとともに、当該固定材(4)を前記溝(10)の内側に圧縮させて体液側の液密性を保持しかつ当該固定材(4)を外側に押し広げてハウジング(2)の内壁面に圧着させて、体液処理液側の液密性を保持した体液処理装置(1)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液透析、血液ろ過、透析ろ過、血漿分離用に用いる血液処理装置であって、中空糸膜が熱により収縮する材料で形成され、高圧蒸気滅菌される血液処理装置に関する。
特に本発明は、血液処理装置のシール構造に関するものであり、中空糸膜の固定材を、体液(血液)ポートの突起部で上から押さえ、ハウジングで挟み込む圧力により、血液側と透析液側のそれぞれのシールを行うものであり、仮に固定材がハウジングから剥れたとしても安心してシールを維持できる構造にしたものである。
【背景技術】
【0002】
中空糸膜が熱により収縮する材料を用いる場合は、モジュール化する前に中空糸膜をあらかじめ熱により収縮させた後に、ハウジングに組込む作業が行われている。前処理(熱収縮)を怠ると滅菌時または保管時に中空糸膜が収縮を起こし、ポッティングコンパウンド(以下、固定材という)に亀裂が生じたり、ハウジングから剥がれたりして液洩れを起こす危険がある。
これらの原因として、中空糸膜束をハウジングの長さ方向に沿って配置し、当該中空糸膜束の端部を固定材により前記ハウジング端部内面に固定しているため、固定材の自由度がなくなり、高圧蒸気滅菌により固定材の膨張が発生すると同時に中空糸膜が収縮し、相対的に中空糸膜と固定材を血液処理装置(ハウジング)の中心部に引っ張ろうとする力が働くためと考えられる。
従来、体液(血液)ポートとハウジングをシールする手段として、以下の手段が実施されている。
体液(血液)側シール手段として、(1)例えば図5の体液処理装置51に例示するように、体液ポート53でOリング56を中空糸膜55の固定材(ウレタン等)54に押さえつけてシールする手段、(2)または特許文献1のように体液ポートの底部に突設した突起部分と、固定材(ウレタン)表面に形成した溝の隙間に樹脂系のシール部材を充填してシールする手段、または(3)特許文献2のように体液ポートの底部に突設した突起部と溝部を、固定材(ウレタン)表面に形成した溝部と突起部に嵌合してシールする手段、また(4)特許文献3のように体液ポートの底部に突設した突起部を、外側から締付部(リング)で外圧を加えながら固定材(ウレタン)天面に圧入することにより、シールする手が開示されている。
【0003】
他方体液処理液(透析液)側のシールは、前記(1)から(3)の手段の場合、固定材(ウレタン)とハウジングの接着力のみでシールをしている。なお特許文献3のように、ポート底部の突起部を単に固定材天面に圧入するのみでは、固定材(ウレタン)を内側と外側に押し広げる力を十分に付与することができない。このため特許文献3では、体液処理液(透析液)側のシールは、大部分、固定材(ウレタン)とハウジングの接着力で維持される。
高圧蒸気滅菌等により体液処理液(透析液)側のシールが緩むと(固定材(ウレタン)とハウジングの間にハガレが生じると)、リークの原因となる。ハガレと接着部分の境界付近で高圧蒸気滅菌、経時変化により膨張収縮が繰り返され疲労破壊による亀裂が発生し、それが体液(血液)側まで到達すると、体液(血液)リークの原因になると考えられる。
特に熱により収縮する材料形成されている中空糸膜を使用する場合は、中空糸膜、固定材(ウレタン)及びハウジングの相互間の、熱による膨張率、収縮率の違いが複雑に影響し、固定材(ウレタン)とハウジングの剥がれを皆無にすることは困難であった。
【0004】
【特許文献1】特許3254222号(図3、4、5)
【特許文献2】実開昭62−18146号(図1、図2)
【特許文献3】特開昭52−138071号公報(図1、図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする問題点は、体液処理液(透析液)側のシールは固定材(ウレタン)とハウジングの接着力で維持されるため、熱収縮性の中空糸膜を使用する場合は、中空糸膜、固定材(ウレタン)及びハウジングの相互間の、熱による膨張率、収縮率の違いが複雑に影響し、固定材(ウレタン)とハウジングの剥がれを皆無にするのは困難な点である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで本発明者は以上の課題を解決するために、鋭意検討を重ねた結果次の発明に到達した。
[1]本発明は、中空糸膜(5)束をハウジング(2)の長さ方向に沿って配置し、当該中空糸膜(5)束の端部を固定材(4)により前記ハウジング(2)の端部内面に固定し、当該ハウジング(2)の端部にポート(3)を装着した体液処理装置(1)であって、
前記ポート(3)の底部内周に突起部(8)を形成し、当該突起部(8)の外周に溝部(9)を形成し、
前記固定材(4)の天面かつ当該固定材(4)に固定された中空糸膜(5)束の外周に溝部(10)を形成し、
前記ポート(3)を前記ハウジング(2)の端部に超音波溶着することにより、
前記ポート(3)の突起部(8)を固定材(4)の溝部(10)に圧入して、当該固定材(4)に上部から圧力を加えるとともに、当該固定材(4)を前記溝(10)の内側に圧縮させて体液側の液密性を保持しかつ当該固定材(4)を外側に押し広げてハウジング(2)の内壁面に圧着させて、体液処理液側の液密性を保持した体液処理装置(1)を提供する。
[2]本発明は、中空糸膜(5)束をハウジング(2)の長さ方向に沿って配置し、当該中空糸膜(5)束の端部を固定材(4)により前記ハウジング(2)の端部内面に固定し、当該ハウジング(2)の端部にポート(3)を装着した体液処理装置(1A)であって、
前記ポート(3)の底部内周に突起部(8)を形成し、
前記固定材(4)の天面かつ当該固定材(4)に固定された中空糸膜(5)束の外周に溝部(10)を形成し、
前記ポート(3)を前記ハウジング(2)の端部に装着し、前記ポート(3)の突起部(8)を固定材(4)の溝部(10)に圧入し、当該ポート(3)及びハウジング(2)の端部外周を、締付部(11)で固定することにより、
当該固定材(4)に上部から圧力を加えるとともに、当該固定材(4)を前記溝(10)の内側に圧縮させて体液側の液密性を保持しかつ当該固定材(4)を外側に押し広げてハウジング(2)の内壁面に圧着させて、体液処理液側の液密性を保持した体液処理装置(1A)を提供する。
[3]本発明は、前記突起部(8)が前記固定材(4)に対して30%以上埋設されている[1]ないし[2]に記載の体液処理装置(1、1A)を提供する。
【発明の効果】
【0007】
(1)固定材4とハウジング2が、仮に剥れても固定材4とポート3間、固定材3とハウジング2間の液密シールが完全である。
(2)ポート3上部より押さえ込む圧力P1を加えることにより突起部8が固定材3の溝部10と密着し、固定材4内側方向に内側に圧縮する圧力P2が加わり、従来のようにOリングが無くても体液側の液密シールができる。
(3)同様に固定材4が、外側に広がる圧力P3により、外側に押し広げられハウジング2との間に圧力が加わり体液処理液(透析液)側の液密シールができる。
(4)固定材4を内側と外側に圧縮する圧力P2とP3が加わり亀裂が発生しない。また亀裂が発生したとしてもウレタンを圧縮する圧力によって亀裂が広がらない。
(5)請求項2(図2)のように、ネジ式(ポート3及びハウジング2の(両)端部外周を、締付部11で固定することにより)高圧蒸気滅菌後固定材が収縮しても増し締めすれば、さらにシールが強くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図1と図2は本発明の体液処理装置1、1Aの一例を示す断面図(長さ方向の一部切欠断面図)である。
本発明の体液処理装置1は、中空糸膜5束をハウジング2の長さ方向に沿って配置し、当該中空糸膜5束の端部を固定材4により前記ハウジング2の端部内面に固定し、当該ハウジング2の(両)端部にポート3を装着している。
[体液処理装置1]
ポート3は、底部内周に突起部8を形成し、当該突起部8の外周に溝部9を形成している。
固定材4の天(底)面かつ当該固定材4に固定された中空糸膜5束の外周に溝部10を形成している。
前記ポート3を前記ハウジング2の(両)端部に超音波溶着することにより、前記ポート3の突起部8を固定材4の溝部10に圧入して、当該固定材4に上部から圧力P1を加えるとともに、当該固定材4を前記溝10の内側に圧縮させて(圧力P2を加える)体液側の液密性を保持する。これと同時に当該固定材4を外側に押し広げて(圧力P3を加える)ハウジング2の内壁面に圧着させて、体液処理液側の液密性を保持する。
【0009】
[体液処理装置1A]
ポート3は底部内周に突起部8を形成している。
固定材4の天(底)面かつ当該固定材4に固定された中空糸膜5束の外周に溝部10を形成している。
前記ポート3は前記ハウジング2の(両)端部に装着し、前記ポート3の突起部8を固定材4の溝部10に圧入して、当該ポート3及びハウジング2の(両)端部外周を、締付部11で固定する。当該固定材4に上部から圧力P1を加えるとともに、当該固定材4を前記溝10の内側に圧縮させて(圧力P2を加える)体液側の液密性を保持しかつ当該固定材4を外側に押し広げて(圧力P3を加える)ハウジング2の内壁面に圧着させて、体液処理液側の液密性を保持する。
[溝部10]
中空糸膜5の固定材4天面に形成する溝部10は、図3に例示するように、V字(A)、U字状(B)、角状(C)のいずれでも良く、中空糸膜5束の外周に円周状に設けるのが良い。溝部10の深さは、1から10mmで、好ましくは3から8mmが良い。
[突起部8]
ポート3の突起部8は、図4に例示するように、V字[(A)、(B)]またはU字状(C)のいずれでも良く(角状でも良い)、中空糸膜5の固定材4の溝部10にはめこみ上部より圧力(P1)を加え溝部10の内側に固定材4を圧縮する力(P2)が働き、溝部10の外側に固定材4を広げようとする力(P3)を働かせることができるように形成すれば良い。
突起部8にこれらの力(圧力P1、P2、P3)を働かせることができるようにするには、突起部8が固定材4に対して、30%以上埋設されるようにするのが良い。あまり深く埋設しすぎると、固定材4が、変形しすぎるのでよくない。好ましくは30から70%、より好ましくは40から60%、さらに好ましくは45から55%が良い。
なお30%未満(特許文献2、3参照)では突起部8に前記力(圧力P1、P2、P3)を十分に働かせることができないので、好ましくない。
突起部8の角度は、1度から45度、好ましくは5から20度が良い。
【0010】
[突起部8と溝部10]
固定材4天面に溝部10を形成し、当該溝部10に突起部8ポート3を圧入することにより、固定材4を前記溝10の内側に圧縮させて(圧力P2を加える)体液側の液密性を保持しかつ当該固定材4を外側に押し広げて(圧力P3を加える)ハウジング2の内壁面に圧着させて、体液処理液側の液密性を保持することができる。
[固定材4]
固定材4は、弾力性のあるウレタンが良くショアー硬度80A以下がよい。
[ハウジング2およびポート3]
ハウジング2の上端部外周およびポート3の内周面には、相互に緊合できる緊合部12(凹凸、突起と溝)が形成されている。
現在使用されているポリカーボネートの他に、固定材4(ウレタン)とハウジング2が、仮に部分的に剥れても良い形状であるため、ポリプロピレン、ポリエチレンでもよい。
[ポート3上部より圧力を加える手段]
ポート3上部より圧力を加える手段としては、(1)(図1)圧力を加えながらの(超音波)溶着等、(2)(図2)当該ポート3及びハウジング2の(両)端部外周を、締付部11で固定するネジ式等が使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の体液処理装置1の一例を示す断面図(長さ方向の一部切欠断面図、超音波ウェルダー溶着)
【図2】本発明の体液処理装置1のその他の一例を示す断面図(長さ方向の一部切欠断面図、ネジ式)
【図3】固定材の溝部の一例を示す概略図
【図4】ポートの突起部の一例を示す概略図
【図5】従来の体液処理装置1の一例を示す断面図(長さ方向の一部切欠断面図、Oリング)
【符号の説明】
【0012】
1 体液処理装置
2 ハウジング
3 ポート
4 固定材
5 中空糸膜
7 体液処理液(透析液)の流出入口
8 (ポート)突起部
9 (ポート)溝部
10 (固定材)溝部
11 (ポート)締付部
12 緊合部(凹凸、突起と溝)
P1 上部から押さえ込む圧力
P2 内側に圧縮する圧力
p3 外側に広がる圧力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空糸膜(5)束をハウジング(2)の長さ方向に沿って配置し、当該中空糸膜(5)束の端部を固定材(4)により前記ハウジング(2)の端部内面に固定し、当該ハウジング(2)の端部にポート(3)を装着した体液処理装置(1)であって、
前記ポート(3)の底部内周に突起部(8)を形成し、当該突起部(8)の外周に溝部(9)を形成し、
前記固定材(4)の天面かつ当該固定材(4)に固定された中空糸膜(5)束の外周に溝部(10)を形成し、
前記ポート(3)を前記ハウジング(2)の端部に超音波溶着することにより、
前記ポート(3)の突起部(8)を固定材(4)の溝部(10)に圧入して、当該固定材(4)に上部から圧力を加えるとともに、当該固定材(4)を前記溝(10)の内側に圧縮させて体液側の液密性を保持しかつ当該固定材(4)を外側に押し広げてハウジング(2)の内壁面に圧着させて、体液処理液側の液密性を保持した、ことを特徴とする体液処理装置(1)。
【請求項2】
中空糸膜(5)束をハウジング(2)の長さ方向に沿って配置し、当該中空糸膜(5)束の端部を固定材(4)により前記ハウジング(2)の端部内面に固定し、当該ハウジング(2)の端部にポート(3)を装着した体液処理装置(1A)であって、
前記ポート(3)の底部内周に突起部(8)を形成し、
前記固定材(4)の天面かつ当該固定材(4)に固定された中空糸膜(5)束の外周に溝部(10)を形成し、
前記ポート(3)を前記ハウジング(2)の端部に装着し、前記ポート(3)の突起部(8)を固定材(4)の溝部(10)に圧入し、当該ポート(3)及びハウジング(2)の端部外周を、締付部(11)で固定することにより、
当該固定材(4)に上部から圧力を加えるとともに、当該固定材(4)を前記溝(10)の内側に圧縮させて体液側の液密性を保持しかつ当該固定材(4)を外側に押し広げてハウジング(2)の内壁面に圧着させて、体液処理液側の液密性を保持した、ことを特徴とする体液処理装置(1A)。
【請求項3】
前記突起部(8)が前記固定材(4)に対して30%以上埋設されていることを特徴とする請求項1ないし請求項2に記載の体液処理装置(1、1A)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−87661(P2006−87661A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−276584(P2004−276584)
【出願日】平成16年9月24日(2004.9.24)
【出願人】(000200035)川澄化学工業株式会社 (103)
【Fターム(参考)】