説明

体温検出装置、車両用空調装置

【課題】乗員の体温を推定することなくリアルタイムに測定する体温検出装置、及び、該体温検出装置が検出した体温に基づき車室内の温度を制御する車両用空調装置を提供すること。
【解決手段】運転者の体温を検出する体温検出装置100であって、操舵用の把持部材20に配置された、温度差に応じて起電力を発生させる起電力検出手段13と、起電力検出手段13により検出された起電力に基づき運転者の体温を検出する体温検出手段25と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の乗員の体温を検出する体温検出装置、乗員の体温を用いて車室内の温度を制御する車両用空調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車室内の空調や体調管理等のため運転者の体温を検出するニーズが知られており、例えば非接触に運転者の体温を推定する技術が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。特許文献1には、予め同定した体温の推定モデルに、車室内温度と車室内推定温度との偏差を入力することで運転者の体温を推定する空調装置が記載されている。また、特許文献2には、赤外線温度計により非接触に測定した運転者の顔部の体温を、時系列にニューラルネットに入力することで、現時点での運転者の温感を推定する空調装置が記載されている。いずれの空調装置でも運転者を束縛することなく運転者の体温に関連した情報を取得することができるとしている。
【特許文献1】特開平7−223421号公報
【特許文献2】特許第3235128号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1記載の空調装置では、車室内温度等の環境温度がほぼ体温に近いと想定しているため、環境温度にノイズが入ると実際の体温と推定された体温とに誤差が生じ、それが時間と共に拡大すると考えられる。また、特許文献2記載の空調装置の赤外線温度計は太陽光などの環境ノイズに影響されやすい。
【0004】
すなわち、特許文献1及び2記載の空調装置は、体温又は温感の推定を繰り返すため時間軸における実際の体温への追従性という点から見ると誤差が増大するおそれがあるという問題がある。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑み、乗員の体温を推定することなくリアルタイムに測定する体温検出装置、及び、該体温検出装置が検出した体温に基づき車室内の温度を制御する車両用空調装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題に鑑み、本発明は、運転者の体温を検出する体温検出装置であって、操舵用の把持部材に配置された、温度差に応じて起電力を発生させる起電力検出手段と、起電力検出手段により検出された起電力に基づき運転者の体温を検出する体温検出手段(例えば、温度検出部25)と、を有することを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、運転者が把持部材を把持することで体温により起電力が発生するので、運転者の体温を精度よく検出できる。把持部材は操舵のために必ず把持するので、違和感なく常に体温を検知することができる。
【0008】
また、本発明は、請求項1記載の体温検出装置が検出した運転者の体温を用いて車室の温度を制御する車両用空調装置であって、運転者の体温と運転者の設定温度との関係を学習する学習手段(例えば、温度学習部53)と、学習手段の学習結果に基づき、車室の温度を制御する温度制御手段(例えば、オートエアコンECU43)と、を有することを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、体温と設定温度の関係を学習することで、運転者に最適な温度に空調することができる。
【発明の効果】
【0010】
乗員の体温を推定することなくリアルタイムに測定する体温検出装置、及び、該体温検出装置が検出した体温に基づき車室内の温度を制御する車両用空調装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照しながら実施例を挙げて説明する。
【実施例1】
【0012】
図1(a)はステアリングホイール20の正面図を、図1(b)はステアリングホイール20を右側面から見た側面図をそれぞれ示す。ステアリングホイール20のリム11の少なくとも一部に温度センサ13が配置されており、これにより運転者の体温を直接に測定する。温度センサ13は、例えば2つの異なる導熱対に温度差を与えると起電力を生じるゼーベック効果を利用したものであり、本実施例では2つの導熱対に所定の温度差を与えるためペルチェ素子を利用する。
【0013】
運転者の体温を直接測定することで、正確な体温を取得できるため例えばフルオートエアコンにおいて車両内の空調を適切に制御することが可能となる。なお、直接に測定するとは、例えば、運転者の皮膚が直接温度センサ13と接触することをいうが、温度センサ13の表面を化粧シールで覆ってもよいし、例えば、運転者がグローブを装着していてもよい。すなわち、運転者の体温と同一と見なせる物を介して温度センサ13と接触することを含む。
【0014】
ステアリングホイール20は、車両等の操舵に用いられる把持部であって、運転者が車両を操舵する手で把持する環状のリム11、リム11の回転を支えるハブ14、及び、リム11とハブ14とを連結する複数のスポーク12から構成される。なお、リム11は環状ではなく、円環の一部が欠けた形状など、運転者が車両等を操作しやすい他の形状であってもよい。また、リム11の断面は、円形、楕円形等、運転者が握り易い形状であればよい。
【0015】
温度センサ13は、同様の構成の温度センサ素子13-1、13-2、13-3…13−i(以下、温度センサ素子13nという)が例えばアレイ状や市松模様の形状に配置して構成される。温度センサ素子13nは、少なくとも運転者が定常的に把持する部分(左手部分が9:00〜10:00の位置、右手部分が10分〜15分の位置:以下、定常把持位置という)に1以上配置され、より好ましくは全周に渡って複数配置される。図1では、定常把持位置を含むようにA方向に所定長に渡って配置されている。また、リム11の断面視、B方向には、少なくとも運転者が把持する部位、より好ましくは全周に渡って配置される。
【0016】
温度センサ素子13nはリム11の断面の半径方向に所定の厚みを備えると共に、リム11の表面に正方形や長方形の接触面を有する。円形、楕円形、多角形等の他の形状から成る接触面を有していてもよく、好適には、線対称の正多角形、円形、点対称の正偶数多角形等が用いられる。全方位における表面積の偏りが少なくリム11の表面に密接に隙間無く敷き詰めることができるからである。
【0017】
図2は温度センサ素子13nのいくつかの配置例を示す。図2(a)では、複数の温度センサ13がステアリングホイール20の全周に渡って配置されている。全周に渡って配置することで、運転者が全周のどの位置を把持しても体温を検出することができる。
【0018】
図2(b)は、同様に全周に渡って複数の温度センサ素子13nが配置された例を示すが、温度センサ素子13nの間隔は図2(a)よりも疎になっている。温度センサ素子13nの間隔は、例えばステアリングホイール20を把持した場合に掌の一部が1以上の温度センサ素子13nと接触するように定められる。温度センサ素子13nを疎に配置することでコストを低減できる。なお、温度センサ素子13nの疎密は全周に渡って一様である必要はなく、例えば定常把持位置を図2(a)のように密に配置して、それ以外の領域には図2(b)のように疎に配置してもよい。
【0019】
図2(c)は温度センサ素子13nの形状及び大きさの一例を示す図である。図2(a)又は(b)のように比較的小さい温度センサ素子13nを用いることで、温度センサ素子13nが平面形状を有していても、断面が円形状のリム11に配置した場合それを把持した運転者に違和感を感じさせることを防止できる。これに対し温度センサ素子13nがA方向及びB方向に湾曲した形状であれば、温度センサ素子13nの面積を増大させ、数を低減して配置できるので製造工程を減らすなどコストを低減できる。
【0020】
温度検出について説明する。図3は温度検出装置100のブロック図を、図4は温度センサ素子13nが配置されたリム11の断面図及び温度差と起電力の関係を示す。温度検出装置100は温度コントローラ22により制御される。温度コントローラ22は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、入出力インターフェイス等を備えたコンピュータであって、例えばROMに記憶されたプログラムを実行することで後述する温度検出部25を実現する。
【0021】
温度センサ素子13nは上記のように例えばペルチェ素子であり、上下の面の温度差に応じて起電力を生じると共に、電流の方向に応じて上下の面の一方を一定の温度に制御することができる。以下、温度センサ素子13nの温度が制御される面を温度制御面、他方を温度検出面という。
【0022】
ペルチェ素子は、可動部を有さないためメンテナンスが容易であり、騒音を発生させることもなく、かつ、電流の方向に応じて同じ面を温度上昇させることも低下させることもできるため、ステアリングホイール20に埋設される温度制御面の表面の温度を制御する用途に好適である。なお、上下の面の一方を所定の温度に保つため、ニクロム線ヒータ等を用いてもよい。
【0023】
図4(a)では温度センサ素子13nの温度制御面を、リム11の断面の中心方向に向けて配置した。例えば断面内側の温度制御面をT度一定に保持した状態で、運転者が温度センサ素子13nの温度検出面に接触すると、T度と運転者の体温(手の温度)の温度差により起電力が生じる。アンプ21はこの起電力を増幅し温度コントローラ22に出力する。なお、体温(体幹部の温度)と手の温度には若干の差異がある場合があるが、本実施例では手の温度を体温として扱う。手の温度と体温には所定の関係があると考えてよいので、手の温度から体幹部の温度を算出してもよい。
【0024】
したがって、温度制御面と温度検出面における温度差と起電力の関係がわかれば、温度検出部25は起電力から温度検出面の温度を求めることができる。図4(b)は、温度制御面と温度検出面の温度差と起電力の関係の一例を示す。例えば温度差がTAの場合、起電力はA〔V〕であり、温度差がTBの場合、起電力はB〔V〕となる。これから、例えば起電力がA〔V〕の場合、体温Thは
Th=T+TA
として容易に求めることができる。
【0025】
温度差と起電力の関係は、全領域において必ずしも比例関係にあるとは限らないが、実用的な温度領域の温度差(図4(b)ではTA〜TB)において広い範囲で比例関係にあるとしてよい。
【0026】
図4(c)は、実験により得られた温度差と起電力の関係を示す図である。温度センサ素子13nは温度差(約5度〜80度付近)に対し非常にリニアに起電力を生じさせる性質を有することがわかる。また、図4(c)のグラフでは、低温側(温度制御面)の温度をそれぞれ30度、25度、20度、に設定した場合の温度差と起電力の関係を示すが、低温側の温度に関わらず、温度差と起電力には比例関係があることがわかる。
【0027】
運転者の体温が35〜39度程度であることを考慮すると、温度制御面を30度にした場合は5〜9度の温度差になり、温度制御面を25度にした場合は10〜14度の温度差になり、温度制御面を20度にした場合は15〜19度の温度差になる。これらの温度差において温度差と電圧とは好適に比例しているので温度制御面は20度〜30度の範囲で設定することができる。しかしながら、あまり温度差が小さいと起電力も小さいことなり、S/N比が低下し、一方大きな温度差を設けると消費電力が増大する。以上のような要請から温度制御面の温度を決定することができる。
【0028】
なお、温度差があればよいので、温度制御面の温度Tを体温より低くするのでなく、体温より例えば5度〜20高い、42度から57度としてもよい。
【0029】
図5(a)は運転者の体温を想定した場合の起電力の一例を、図5(b)は図5(a)の体温と起電力の関係をグラフにプロットした図を示す。図5(a)では温度制御面の温度Tを20度一定に保持した。体温を想定するには、ペルチェ素子を使って温度検出面を体温に相当する温度に制御してもよいし、体温に相当する一定温度に制御された熱源を接触させてもよい。
【0030】
運転者の体温が35度であるとすると温度差は15であるので、起電力は1.324457〔V〕となる。同様に、運転者の体温が36度であるとすると、温度差は16であるので、起電力は1.369867〔V〕に、運転者の体温が37度であるとすると、温度差は17であるので、起電力は1.398769〔V〕となる。このように、体温に対し想定される温度差と起電力との関係を実験的に抽出しておくことで、起電力から運転者の体温を検出することができる。
【0031】
温度コントローラ22は、図5(a)又は(b)のような起電力と体温の関係を示す温度変換テーブル26を記憶しており、温度検出部25はアンプ21から入力された起電力に基づき温度変換テーブル26を参照し、運転者の体温を検出する。なお、起電力と体温は比例関係にあるためので、両者の関係は一次関数で表すことができ、所定の関数に起電力を入力して体温を算出してもよい。
【0032】
以上のように、本実施例の温度検出装置100は、推定することなくかつリアルタイムに運転者の体温を測定することができる。
【0033】
〔応用例〕
(a)エアコンの温度制御
本実施例の温度検出装置100は運転者の体温を検出することができるので、実施例2において説明するように運転者の体温に基づきエアコンの温度制御を好適に実行することができる。運転者が設定する設定温度と体温の関係を学習することで、運転者が温度を設定しなくても快適な温度に制御することができる。
【0034】
なお、ステアリングホイール20の一部に太陽光が直接到達する場合があるが、この場合も温度センサ素子13nは太陽の輻射熱により起電力を生じさせるが、本実施例の温度検出装置100はこのような外濫を排除することができる。図6(a)はステアリングホイール20の一部に到達する太陽光の一例を示す。太陽光が直達した部位の温度は、体温以上に上昇するため、温度コントローラ22は局所的に温度が上昇した場合、その温度センサ素子13nの起電力を排除して、運転者の体温を正確に検出することを可能とする。また、通常、運転者はステアリングホイール20を把持した状態で運転するため、体温(35〜37度)程度の温度が検出される部位とは別に、体温以上の温度が検出された部位を排除してもよい。
【0035】
(b)ステアリングホイール20の把持の検出
運転者の体温が検出されることにより、運転者がステアリングホイール20を把持しているか否かを検出することができる。運転者の体温が検出される場合、運転者が運転席に着座していると判定してよく、チルトステアリング位置やドライビングポジション調整を促したり、シートベルトの締め忘れ等を、メータECU23に注意喚起するよう要求することができる。
【0036】
(c)ステアリングホイール20の把持位置
ステアリングホイール20の全周に温度センサ素子13nを配置した場合、温度コントローラ22は運転者の把持位置を検出することができる。例えば、定常把持位置と極端に異なる把持位置が所定時間以上、検出された場合、温度コントローラ22は運転者に注意喚起するようメータECU23に要求することができる。
【0037】
また、運転者が片方の手でのみステアリングホイール20を把持していることを検出できるので、その場合運転者に注意を促してもよい。例えば、右折又は左折時に、片手運転することは好ましくないので、温度コントローラ22は右折時又は左折時に、運転者が片手でステアリングホイール20を操作していることを検出した場合、早めのタイミングでメータECU23に注意喚起を要求する。右折又は左折時であることは、ウィンカー操作やナビゲーションシステムの経路から検出することができる。なお、車両を後退させる場合など片手運転が好ましい走行状況は、シフトポジションから後退の意志を検出して、注意喚起を禁止する。
【0038】
また、カーブ等、大きくステアリングホイール20を操舵する場合、運転者はカーブ等の走行中に定常把持位置となるように、予め定常把持位置と異なる位置を把持しておく場合が多い。図6(b)は右カーブ又は右折前の運転者の把持位置の一例を示す。ステアリングホイール20を時計回りに操作するため、運転者の右手は1時付近を把持し左手は7時付近を把持している。したがって、温度コントローラ22が運転者の把持位置を例えばボディECU24に出力すれば、ボディECU24は把持位置から運転者の直後の操舵方向を予測することができる。
【0039】
直後の操舵方向を予測したボディECU24は、例えばヘッドライトの操舵方向の配光を多くでき、温度コントローラ22はナビゲーションの経路と誤った方向に進行している場合にはメータECU23に注意喚起するよう要求することができる。
【0040】
〔温度検出装置100のブロック図の一形態〕
ところで、図3では各温度センサ素子13nを電気的に独立させてアンプ21に入力させた(以下、独立型という)。これにより、各温度センサ素子13nが個別に生じさせた起電力を個別に検出することができ、運転者の把持位置や、太陽光などの外濫を検出することができる。しかしながら、運転者の把持位置を検出するのでなければ、アンプ21と各温度センサ素子13nを直列に接続してもよい(以下、集約型という)。
【0041】
図7は集約型の温度検出装置100のブロック図の一例を示す。図7では、全ての温度センサ素子13nが直列に接続されているため、各温度センサ素子13nの起電力の総計がアンプ21に入力されることになる。図7では全周に温度センサ素子13nを配置すると、運転者が把持していない位置の温度センサ素子13nにも室温による温度差があるため起電力が生じてしまうが、例えば、所定以下の起電力を排除してアンプ21に入力しないように制御することで、運転者の体温を精度よく検出することができる。また、定常把持位置にのみ温度センサ素子13nをはいちしてもよい。図7の温度検出装置100は、アンプ21に入力する接続線が2本でよいので、コスト増を抑制できる。
【0042】
また、独立型と集約型を混在させてもよい。例えば、定常把持位置には独立型を配置し、その他には集約型を配置することで、定常把持位置を把持した運転者の体温を精度よく検出できると共に、定常把持位置でない位置を把持していることも検出でき、結果的に全周に渡りおおよその把持位置を検出することができる。また、太陽光がステアリングホイール20に直達しても、定常把持位置であれば運転者の掌でガードされ運転者の体温を検出することができ、定常把持位置以外に直達しても温度が体温以上に高くなることから、外濫として排除することができる。
【0043】
また、定常把持位置とそれ以外の位置というように部位毎に混在させるのでなく、全周に渡って独立型と集約型を混在させてもよい。例えば、図2(b)のように独立型を疎に配置し、その間に集約型を配置することで、低コストに把持位置を検出できると共に、接触面積が増大し運転者の体温検出が容易になる。
【実施例2】
【0044】
本実施例では実施例1で説明した温度検出装置100を用いたエアコンの温度制御について説明する。
【0045】
始めに従来の温度制御について簡単に説明する。従来、エアコンの温度制御においてオートエアコンと呼ばれるエアコンでは、ユーザが設定した設定温度に対し室内温度等の環境条件を入力して、エアコンの温度、風量、風向きなどを制御していた。また、フルオートエアコンでは、運転者の体温を間接的なモデルにより予測し、予測された体温及び環境条件に基づき(運転者が温度設定することなく)エアコンの温度、風量、風向きなどを制御していた。図8は、フルオートエアコンにおいて従来の設定温度の予測モデルの一例を示す。図8では横軸が体温であり、縦軸がエアコン設定温度である。すなわち、従来のフルオートエアコンは、運転者の体温に対応づけて運転者が設定するであろう設定温度を定めておき、モデルにより予測された体温に基づき設定温度を決定した。
【0046】
したがって、従来のフルオートエアコンでは、運転者の体温は推定された値であり、設定温度は予測された値に過ぎない。このため、その運転者にとって心地よい温度に制御するものとは言えなかった。
【0047】
本実施例では、温度検出装置100により運転者の体温を精度よく検出すると共に、体温と運転者の設定温度、環境条件を学習することで、当該運転者に最適な温度に制御するエアコン装置200について説明する。
【0048】
鳥類や哺乳動物は酵素が働く最適温度である37度付近で最も活動し易いため、この温度に体温を保とうとする(ホメオスタシス)。例えば、躰が、体温が高いと判断した場合、手足や皮膚表面を流れる血流量を増大し体温を下げ、体温が低いと判断した場合、血流量を低減させる。したがって、この仕組みにより血流量が変化すれば、掌の温度も変化すると考えられ、温度検出装置100は運転者が感じる寒暖(体感温度)を敏感に測定していることになる。すなわち、温度検出装置100が検出した温度に基づきエアコンの温度を制御することで、当該運転者に最適な温度に制御することができる。
【0049】
図9は、エアコン装置200のブロック図を示す。エアコン装置200はオートエアコンECU(electronic control unit)43により制御される。オートエアコンECU43は、目標温度を目標に室内温度などの環境条件に応じて室内の温度、風量、及び、吹き出し口を制御するコンピュータである。
【0050】
温度設定スイッチ31は、例えばセンタークラスターに設けられたエアコンのコントロールパネルに配置され、室内の目標温度を設定するユーザインターフェースとなる。また、温度設定スイッチ31は「Auto」モードを選択できるようになっており、「Auto」モードが選択された場合、オートエアコンECU43は、エアコン温度検出装置100が検出した運転者の体温に基づき目標温度を決定し、設定温度の入力がなくても運転者に最適な温度に制御する。
【0051】
車両には各部の空気温度を検出するためのセンサが設置され、内気センサ32は例えばセンタークラスター横の配置され車両の室内温度を検出する。日射センサ33は例えばダッシュボードに設けられ日射量を検出する。外気センサ34は例えばバンパ内側に設けられ、車両外部の外気温度を検出する。水温センサ35はエンジン冷却水のエンジン水温を検出する。エバポレータ後センサ36は、空調ユニット内に設けられたエバポレータを通過した後の空気の吸い込み空気温度を検出する。
【0052】
エアミックダンパ37は、空調ユニット内の高温側と低温側の2つの流路を通過する空気の割合を開度により調節する弁であり、吹き出し温度、すなわち空調風の温度を決定する。ブロワモータ38は、吸入口から吸入された空気を空調ユニットの下流へ送風する。モードダンパ39は、ベンチレータ、デフロスタ及びフット吹き出し口からそれぞれ車室内に吹き出される吹き出し口を調整する。吸い込み口ダンパ41は、インテークドアによって外気側吸と内気側吸とから吸入する外気と内気の割合を調整する。コンプレッサ42は、エバポレータの冷却能力を調整する。
【0053】
オートエアコンECU43は、目標温度及びセンサ類30の検出値を演算して、エアミックダンパ37を所定の駆動信号にて駆動させ、各アクチュエータ40の位置をポテンショメータで検出して、検出信号をオートエアコンECU43に入力する。オートエアコンECU43は、駆動信号と検出信号を比較検証し(フィードバック制御)、各アクチュエータ40が正常に作動するよう制御を繰り返す。なお、温度の制御は、ファジー制御、PID制御、フィードフォワード制御、サーボ制御等を用いてもよい。
【0054】
次に、体温と目標温度の学習について説明する。図10(a)はオートエアコンECU43の機能ブロック図の一例を、図10(b)は温度検出装置100が検出した体温と運転者が設定した設定温度の時間的な遷移の一例を示す。
【0055】
図10(a)の検出信号記録部52、温度学習部53及び目標温度決定部56はオートエアコンECU43のCPUがプログラムを実行するかIC等により実現される。また、ログ記憶部54と制御DB55はオートエアコンECU43のメモリに記録される。
【0056】
なお、個人識別部51は運転者を識別し、各運転者毎に最適な温度制御を実行することを可能とする。例えば、顔カメラにより撮影した顔画像により個人識別してもよいし、指紋などの生体認証や車両の電子キーのキーID等に基づき個人識別してもよい。
【0057】
検出信号記録部52は、温度設定スイッチ31により入力された設定温度、センサ類30が検出した環境条件及び温度検出装置100が検出した体温をそれぞれ取得し、ログ記憶部54に記録していく。センサ類30の環境条件と体温はサイクル時間毎(例えば10秒毎)に取得し、設定温度は例えば温度設定スイッチ31が操作された時に取得する。そして温度学習部53は、ログ記憶部54に記憶された値に基づき、体温と環境条件から運転者の嗜好する温度を学習し、後述する学習情報を制御DB55に出力する。
【0058】
学習について簡単に説明する。学習には、設定温度と体温を対応づけて記憶しておき、学習後は体温から自動的に設定温度を目標温度として設定する方法と、ニューラルネットワークやサポートベクターマシン等の学習メソッドで学習する方法がある。図10(b)の体温と運転者が設定した設定温度の時間的な遷移は前者の一例であり、ユーザは体温が下がれば設定温度を上げていることがわかる。体温に対し設定温度が快適な温度となれば、体温と設定温度のラインは時間に平行な直線となると予想される。したがって、設定温度と体温を対応づけて記憶しておけば、体温から目標温度を決定できる。
【0059】
次に、ニューラルネットワークによる学習について簡単に説明する。図11は体温等から運転者の嗜好する温度を学習するニューラルネットワークの一例を示す。図11では入力層を4端子にしたが、センサ類30の全ての検出値及びその過去の検出値を入力すべく端子数は自由に設計できる。
【0060】
ニューラルネットワークは出力(目標温度)と正解(教師信号)とを比較して、端子間の結合荷重を変化させてやることで入力層への様々な入力に対して、正解を出力できるように学習する。本実施例では運転者の設定温度Tsが教師信号となる。
【0061】
例えば4つの中間層と出力層の間の重みをw1〜w4としθを閾値とすると、X=Σ(xi・wi−θ)として、出力層の出力Yは、
Y=f(X)
と表すことができる。f(X)は例えばシグモイド関数やtanhである。
【0062】
この場合の学習とは、wiに適当な初期値を与えておき得られたYと教師信号である設定温度の誤差Rを最小にすることに相当する。教師信号をTsとおくと、損失関数Rは次式で表される。
R=Σ(Ts−Y)
この損失関数Rが最小となるように、重みwiと閾値θを徐々に変化させていくことで、様々な入力に対して正解を出力することができるよう学習させることができる。
【0063】
重みwiの変化量に対する損失関数Rの変化量は次式で表すことができる。なお、εは学習係数と呼ばれる小さな正の定数である。
【0064】
【数1】


これから重みwiの修正量Δwiが求められるので、修正後のwiを用いて学習を繰り返すことにより、中間層と出力層の間の重みwiを決定することができる。4つの端子の入力層と中間層の結合の重みの修正量は、中間層と出力層の重みの修正量を利用することで計算できる。学習の終了条件は、例えばRが充分に小さくなった場合や温度差が所定値以下となった場合として定める。
【0065】
以上のように温度学習部53は重みwiを決定し、運転者の識別情報と対応づけて制御DB55に記憶させる(以下、学習情報という)。目標温度決定部56は、温度検出装置100が検出する体温及びセンサ類30が検出する環境条件に基づき、学習情報を抽出し目標温度を決定する。したがって、充分に学習することで運転者の温度設定することなく、運転者の体温に最適な温度に空調することができる。
【0066】
図12は、オートエアコンECU43が学習及び温度制御する手順を示すフローチャート図の一例である。図12のフローチャート図は例えばエアコン装置200のスイッチをオンにすることでスタートする。
【0067】
まず、オートエアコンECU43は、個人識別部51が識別した識別情報を取得する(S10)。そして、温度設定スイッチ31の設定に応じて温度制御を開始する(S20)。「Auto」モードであれば、制御DB55の学習情報を用いて目標温度を決定し、運転者が温度を設定した場合は設定温度になるよう、各アクチュエータ40を制御する。
【0068】
温度制御を実行しながら、検出信号記録部52は所定のサイクル時間毎に体温及び環境条件を検出しながら(S30,S40)、温度設定スイッチ31から設定温度が変更されたか否かを判定する(S50)。
【0069】
温度設定が変更されない場合(S50のNo)、目標温度決定部56は体温及びセンサ類30が検出する環境条件に基づき制御DB55を参照して学習情報を抽出し、目標温度を決定する。そして、オートエアコンECU43は、現在の温度設定値(運転者が設定した設定温度)と決定した目標温度の差が所定値T0(例えば、0.5度程度)未満か否かを判定する(S60)。
【0070】
所定値T0未満の場合(S60のNo)、学習が終了したと判定してよいのでログ記憶部54に記憶された値から算出した学習情報を制御DB55に記憶する(S90)。所定値T0未満の場合(S60のNo)、学習を繰り返す。
【0071】
一方、ステップS50において温度設定が変更された場合(S50のYes)、検出信号記録部52は設定温度、環境条件及び体温をログ記憶部54に記憶する(S80)。そして、温度学習部53は重みwiを更新し、新たに設定された温度設定値と新たに決定した目標温度の差が所定値T0未満か否かを判定する(S60)。所定値T0未満の場合(S60のNo)、ステップS30から学習が終了するまで同様の処理を繰り返すことで、最終的に、当該運転者の嗜好に最適な目標温度となる重みwiを学習できる。
【0072】
以上のように、本実施例のエアコン装置200は。運転者の体温を推定でなく精度よく検出すると共に、体温及び環境条件に基づき運転者の設定温度を運転者毎に学習することで、当該運転者に最適な温度に制御するができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】ステアリングホイールの正面図及び側面図の一例である。
【図2】温度センサ素子のいくつかの配置例を示す図である。
【図3】温度検出装置のブロック図を示す図である。
【図4】温度センサ素子が配置されたステアリングホイールの断面図、温度差と起電力の関係を示す図である。
【図5】運転者の体温を想定した場合の起電力の一例を示す図である。
【図6】ステアリングホイールの一部に到達する太陽光の一例、右カーブ又は右折前の運転者の把持位置の一例を示す図である。
【図7】集約型の温度検出装置のブロック図の一例を示す図である。
【図8】フルオートエアコンにおいて従来の設定温度の予測モデルの一例を示す図である。
【図9】エアコン装置のブロック図の一例である。
【図10】オートエアコンECUの機能ブロック図の一例、温度検出装置が検出した体温と運転者が設定した設定温度の時間的な遷移の一例を示す図である。
【図11】体温等から目標温度を学習するニューラルネットワークの一例を示す図である。
【図12】オートエアコンECUが学習及び温度制御する手順を示すフローチャート図の一例である。
【符号の説明】
【0074】
11 リム
12 スポーク
13 温度センサ
13n 温度センサ素子
14 ハブ
20 ステアリングホイール
21 アンプ
22 温度コントローラ
100 温度検出装置
200 エアコン装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者の体温を検出する体温検出装置であって、
操舵用の把持部材に配置された、温度差に応じて起電力を発生させる起電力検出手段と、
前記起電力検出手段により検出された起電力に基づき運転者の体温を検出する体温検出手段と、
を有することを特徴とする体温検出装置。
【請求項2】
請求項1記載の体温検出装置が検出した運転者の体温を用いて車室の温度を制御する車両用空調装置であって、
運転者の体温と運転者の設定温度との関係を学習する学習手段と、
前記学習手段の学習結果に基づき、車室の温度を制御する温度制御手段と、
を有することを特徴とする車両用空調装置。
【請求項3】
前記体温検出部は、所定以上の起電力が検出された場合、該起電力による体温の検出を禁止する、
ことを特徴とする請求項1記載の体温検出装置。
【請求項4】
前記起電力検出手段により、体温に相当する起電力が前記把持部材の一箇所からのみ検出される場合、走行環境に応じて運転者に注意喚起する注意喚起手段を有する、
ことを特徴とする請求項1記載の体温検出装置。
【請求項5】
前記起電力検出手段が検出する起電力により、前記把持部材における定常的な把持位置と異なる、転舵用把持位置の把持が検出された場合、前記転舵用把持位置に基づき操舵方向を予測する予測手段を有する、
ことを特徴とする請求項1記載の体温検出装置。
【請求項6】
前記起電力検出手段は、平面のうち一方を略一定の温度に保ち、前記略一定の温度と運転者の手の温度の温度差により生じた起電力を検出する、
ことを特徴とする請求項1記載の体温検出装置。







【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−120143(P2009−120143A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−299128(P2007−299128)
【出願日】平成19年11月19日(2007.11.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】