説明

体温降下方法、及び体温降下装置

【課題】生体温度を所定の低温まで迅速にかつ安全に降下させる。
【解決手段】生体に交流磁場又はパルス磁場を作用させるステップと、前記生体の体温を所定の速度で降下させるステップとを有する体温降下方法である。体温降下装置100は、被冷却体1を載置するための被冷却体支持台2と、磁場発生部4と、磁場発生電源部5と、冷却ファン6と、冷媒液温度制御部7と、冷媒液循環部8と、冷媒液貯留部9と、体温・冷媒液温度測定部10とを備えて構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、体温降下方法、及び体温降下装置に係わり、治療効果促進のため、生体の体温を迅速かつ安全に降下させることができる体温降下方法、及び体温降下装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来低体温療法による脳梗塞や心筋梗塞などの医学療法が研究されてきており、実際に適用されてきている。特にこのような医療処置にとって重要なことは一刻も休むことなく5分〜10分以内で迅速に患部を冷却し、細胞の壊死を防止するとともに、血栓を溶解除去することであり、患者体温の迅速な冷却方法とその装置が開発されてきている。
【0003】
従来の体温降下方法では、冷却速度を上げるために、体温と冷却媒との温度差を大きくとる方法がとられてきた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記のように冷却媒の温度を下げることは、体温の低下による免疫の低下や生理活性の低下を招き、副作用により治療に困難をきたすことで限界があることがわかっている。そこで、上記のように大きな温度差をとらなくとも迅速に熱伝達が行われる方法及び装置の開発が切望されていた。
【0005】
本発明は、上記の及び他の課題を解決するためになされたもので、治療効果促進のため、生体の体温を迅速かつ安全に降下させることができる体温降下方法、及び体温降下装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するための本発明の一態様は、生体に交流磁場又はパルス磁場を作用させるステップと、前記生体の体温を所定の速度で降下させるステップとを有することを特徴とする体温降下方法である。
【0007】
また、本発明の他の態様は、生体に交流磁場又はパルス磁場を作用させるための磁場発生部と、前記生体を冷却するための生体冷却部と、前記生体の温度及び前記冷媒の温度の測定結果に基づいて、前記生体の体温が所定の速度で降下するように前記生体冷却部を制御する生体冷却制御部とを備えていることを特徴とする体温降下装置である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の体温降下方法、及び体温降下装置によれば、治療効果促進のため、生体の体温を迅速かつ安全に降下させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態による体温降下装置の説明図である。
【図2】本発明の一実施形態による体温降下装置を適用した頭部冷却装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明をその一実施形態に即して添付図面を参照しつつ説明する。
【0011】
本発明の一実施形態による体温降下方法及び体温降下装置では、交流磁場又はパルス磁場の印加により冷却速度の増大を図っている。すなわち、交流磁場又はパルス磁場の作用下で、誘導される電子や誘導電場や渦電流により、さらにまた自律神経の作用により被冷却体の血流を早め冷熱の熱伝達を早める構成を採用している。
【0012】
本発明の一実施形態による体温降下装置について、図1を参照して説明する。図1は、本実施形態の体温降下装置100の模式的な説明図である。
【0013】
体温降下装置100は、被冷却体1(図1の例では人体)を載置するための被冷却体支持台2と、磁場発生部4と、磁場発生電源部5と、冷却ファン6と、冷媒液温度制御部7と、冷媒液循環部8と、冷媒液貯留部9と、体温・冷媒液温度測定部10とを備えて構成されている。ここで、冷媒液温度制御部7及び体温・冷媒液温度測定部10が生体冷却制御部に相当し、冷媒液循環部8及び冷媒液貯留部9が生体冷却部に相当する。
【0014】
本実施形態で体温を降下させる対象となるのは人体であるが、対象は動物一般を含む生体が広く包含される。被冷却体支持台2は、被冷却体1を横臥状態で確実に支持することが出来ればどのような構成であってもよく、例えば寝台を適用することができる。
【0015】
被冷却体支持台2の内部には、複数の冷却ファン6が設けられている。各冷却ファン6は、被冷却体1の背部から被冷却体1に向けて略均一に送風することができる電動ファンであり、図示を省略するファン電源部から供給される電源で駆動され、一般に適宜に定めた所定の風速で被冷却体1に送風する。なお、後述する体温・冷媒液温度測定部10の測定結果に基づいて冷却ファン6の回転速度を増減させる構成を採用してもよい。
【0016】
磁場発生部4は、図1の例では各冷却ファン6に組み込まれた電磁コイルとして構成される。各磁場発生部4は、磁場発生電源部5と電気回線5aによって電気的に接続されており、磁場発生電源部5からパルス状の励磁電流の供給を受けることにより、被冷却体1に向けてパルス状の磁場を発生させる。磁場発生部4は、冷却ファン6とは別個のユニットとして被冷却体支持台2内部に配設してもよい。磁場発生電源部5は、例えば図示しない50Hz又は60Hzの商用電源から、磁場発生部4においてパルス状の磁場を発生させるための励磁電流を生成する変換器である。なお、磁場発生部4に商用交流電流を供給して交流磁場を発生させた場合でも、パルス状磁場を作用させた場合と同様の効果を得ることができる。
【0017】
図1の体温降下装置100において、被冷却体1の体温降下作用を直接担う冷却システムは、冷媒液温度制御部7と、冷媒液循環部8と、冷媒液貯留部9と、体温・冷媒液温度測定部10とを含む。冷媒液貯留部9は、生物に無害でかつ環境負荷も小さい適宜の冷媒液を貯留するタンクであり、冷媒液循環部8に冷媒液を送出してその内部を循環させるポンプ等の圧送メカニズムを含んでいる。冷媒液循環部8は、被冷却体支持台2の内部の被冷却体1の頭部から背部、脚部までに対応する部位全体にわたって配設された冷媒液循環用のパイプである。冷媒液貯留部9から送出された冷媒液は、冷媒液循環部8を通じて流通し、冷媒液貯留部9に戻るが、その間、冷媒液が被冷却体1から熱を吸収して被冷却体1を冷却する。
【0018】
冷媒液温度制御部7は、体温・冷媒液温度測定部10から受信する体温情報及び冷媒液温度情報に基づいて、冷媒液貯留部9による冷媒液の循環速度を変化させる。例えば、体温情報、冷媒液温度情報が、被冷却体1の体温あるいは冷媒液温度が下がりすぎていることを示すと判定した場合、冷媒液温度制御部7は、冷媒液貯留部9の圧送メカニズムに対して、冷媒液の循環速度を低下させるように指示を与える。
【0019】
体温・冷媒液温度測定部10は、適宜の形式の温度センサで構成され、被冷却体1の体温及び冷媒液循環部8内を循環流通する冷媒液の温度を電気信号である体温情報及び冷媒液温度情報として、冷媒液温度制御部7に提供している。なお、体温情報、冷媒液温度情報による冷媒液の循環制御は、例えば冷媒液温度制御部7を一般的なコンピュータで構成し、それに対応する機能を実現するプログラムを実装し、動作させることで達成することができる。
【0020】
次に、図1の体温低下装置100の作用について説明する。疾患部を有する患者の全身を迅速に冷却する場合、まず患者の身体を被冷却体支持台2に静かに収容し、所定の冷温度に調整された冷媒液を冷媒液貯留部9から冷媒液循環部8に流通させて冷却操作に入る。一方、被冷却体1に所定の磁場を作用させるために、磁場発生電源部5と磁場発生部4とを動作させ、所定の磁場が被冷却体1の全身に作用するようにする。図1及び後出の図2では、磁場が作用する様子を磁場作用部位11として模式的に図示している。発生させる磁場としては、商用周波数の磁場強度、又は、特に、パルス磁場強度dB/dT値が大きい磁場が好ましく、例えばパルス磁場強度dB/dT値の立ち上がりが毎秒1テスラ以上であると好適である。前記dB/dT値が大きいほど、被冷却体1内の電子やイオンが励起されやすく、誘導される誘導電場や渦電流が大きくなり、その効果として被冷却体1内を通じた熱伝達の促進、血管拡張に伴う血流増大が生じ、被冷却体1の体温降下を迅速に行うことができる。なお、体温降下の促進度合いは、冷媒液の循環量、あるいは磁場の強度を調整することにより適切に制御することができるので、被冷却体1である人体の安全を確保することができる。
【0021】
次に、ここまで説明した体温降下装置100の変形実施形態として、頭部冷却装置200について説明する。図2に、頭部冷却装置200の模式的な説明図を示している。図2の頭部冷却装置200は、脳梗塞等の頭部病変を効果的に治療すべく、人体の頭部に限定して局部的に迅速な冷却効果を得るものである。頭部冷却装置200は、被冷却体1(図2の例では人体)の頭部を固定するための頭部支持固定器3と、磁場発生部4と、磁場発生電源部5と、冷却ファン6と、冷媒液温度制御部7と、冷媒液循環部8と、冷媒液貯留部9と、体温・冷媒液温度測定部10とを備えて構成されている。頭部支持固定器3は、頭部を取り囲むヘルメット様の構造を有しており、その内部に被冷却体1に対して略均一となるように冷却ファン6と磁場発生部4とが設けられている。各構成要素である磁場発生部4、磁場発生電源部5、冷却ファン6、冷媒液温度制御部7、冷媒液循環部8、冷媒液貯留部9、及び体温・冷媒液温度測定部10の構成及び機能については、体温降下装置100の場合と同様であるから説明を省略する。
【0022】
図2の頭部冷却装置200の作用について説明する。頭部に疾患部を有する患者について、その頭部が確実に固定され支持されるように頭部支持固定器3に挿入固定し、所定の冷温度に調整された冷媒液を冷媒液貯留部9から冷媒液循環部8に流通させて冷却操作に入る。一方、被冷却体1に所定の磁場を作用させるために、磁場発生電源部5と磁場発生部4とを動作させ、所定の磁場が被冷却体1の頭部全体に作用するようにする。このようにすることで、体温降下装置100の場合と同様に、被冷却体1の頭部の温度を迅速に低下させることができる。
【0023】
なお、体温降下装置100、頭部冷却装置200のいずれについても、冷却ファン6を省略しても本発明の効果を得ることができる。また、体温降下装置100、頭部冷却装置200のいずれについても、パルス磁場に加えて、電場、疎密波(音波)、及び気流のうちの一つ以上をさらに重畳させて被冷却体1に向けて作用させることにより、より確実かつ迅速な体温降下の効果を得ることができる。
【実施例】
【0024】
ここで、図1の構成を有する体温降下装置100による体温降下作用例を説明する。体温が35.5℃〜36.5℃の人体を被冷却体1とし、冷媒液としては温度20℃の水を用いて、毎分100mlの流量で冷媒液循環部8を循環させた。被冷却体1に作用させる磁場は、以下の3種類とし、磁場を作用させない場合をコントロールとした。
磁場1 商用周波数50Hzの正弦波交流磁場
磁場2 dB/dT=500テスラ/秒のパルス磁場(周波数30Hz)
磁場3 dB/dT=300テスラ/秒のパルス磁場(周波数30Hz)
【0025】
その結果、冷却及び磁場印加開始から10分経過後までの体温変化を測定したところ、以下の結果が得られた。
磁場1 体温降下 35.5℃ → 32.0℃
磁場2 体温降下 35.6℃ → 22.0℃
磁場1 体温降下 36.5℃ → 25.0℃
磁場なし 体温降下 35.6℃ → 33.6℃
【0026】
このように、特にパルス磁場を作用させながら冷却した磁場2、磁場3の場合には、磁場作用なし、あるいは商用交流磁場の磁場1の場合に比較して、顕著な体温降下の促進が見られることがわかった。なお、パルス磁場の周波数は商用周波数を用いても同等の効果を得ることができる。
【0027】
以上説明したように、本発明の実施形態による体温降下方法、及び体温降下装置によれば、低体温療法によって緊急事態に対応すべく、迅速に体温を低下させることで、生命を維持するための医療処置を施すことができるような環境を提供することが可能となる。
【0028】
なお、以上、本発明についてその実施形態に即して説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【符号の説明】
【0029】
1 被冷却体 2 被冷却体支持台
3 頭部支持固定器 4 磁場発生部(電磁コイル)
5 磁場発生電源部 6 冷却ファン
7 冷媒液温度制御部 8 冷媒液循環部
9 冷媒液貯留部 10 体温・冷媒液温度測定部
11 磁場作用部位 100 体温降下装置
200 頭部冷却装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体に交流磁場又はパルス磁場を作用させるステップと、前記生体の体温を所定の速度で降下させるステップとを有することを特徴とする体温降下方法。
【請求項2】
請求項1に記載の体温降下方法であって、前記生体に作用させる前記パルス磁場の立ち上がり勾配磁場の大きさを示す磁場強度の時間微分dB/dTが、毎秒1テスラ以上であることを特徴とする体温降下方法。
【請求項3】
請求項1に記載の体温降下方法であって、電場、疎密波、及び気流のうちの一つ以上をさらに重畳させて前記生体に作用させることを特徴とする体温降下方法。
【請求項4】
生体に交流磁場又はパルス磁場を作用させるための磁場発生部と、前記生体を冷却するための生体冷却部と、前記生体の温度及び前記冷媒の温度の測定結果に基づいて、前記生体の体温が所定の速度で降下するように前記生体冷却部を制御する生体冷却制御部とを備えていることを特徴とする体温降下装置。
【請求項5】
請求項4に記載の体温降下装置であって、前記磁場発生部および前記生体冷却部が、前記生体の頭部の温度を降下させるべく設けられていることを特徴とする体温降下装置。
【請求項6】
請求項4に記載の体温降下装置であって、電場、疎密波、及び気流のうちの一つ以上をさらに重畳させて前記生体に作用させることを特徴とする体温降下装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−59566(P2013−59566A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−201201(P2011−201201)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(500063435)株式会社アビー (3)
【Fターム(参考)】