説明

余寿命診断方法、余寿命診断装置及びプログラム

【課題】非破壊で受変電設備の制御配線の余寿命および環境性を数値化して簡易に余寿命の診断を可能にすること。
【解決手段】検査用の光を照射された配線からの反射光を、プローブ1及び分光器2を介して計測データとして取得する光計測制御部6と、この計測データに基づいて検査用の反射率差を算出する反射率差算出部11と、前記配線と同一品又は同等品の所定経年時における反射率差と、前記配線の検査時の経年数と、前記算出した反射率差とを用いて、特性値の経年変化の予測式を設定し、設定した予測式から求まる将来の特性値の予測値が、この配線に対して設定された寿命閾値としての特性値と同じとなる時期をこの配線の寿命とし、この寿命と現在経年数との差からこの配線の余寿命を算出する余寿命診断部13とを備えること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、受変電設備における受電盤の制御配線等の余寿命を非破壊で診断する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高い信頼性で運用する必要のある受変電設備の受電盤には、制御配線が多く利用されている。この制御配線の劣化が進展すると設備の誤動作や不動作に発展する可能性があり、そのような事故を未然に防ぐために、制御配線の健全性を定量化できる余寿命診断技術が望まれている。制御配線を非破壊で診断できる有力な方法として、光を被測定物に当て、その反射率スペクトルから劣化の程度を推定する光診断技術がある。例えば、反射光を三原色に分解して所定の演算式により配線被覆の材色ごとの劣化を検出する技術(特許文献1参照)、反射スペクトルの三波長に対応する反射率の比の経年に対する軌跡を予め求めておき、その比が辿る軌跡から劣化度を評価する技術(特許文献2参照)、及び、二波長の光反射損失差から劣化診断する技術(特許文献3参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平1−265139号公報
【特許文献2】特開2007−285930号公報
【特許文献3】特開平8−15131号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1及び2の技術では、様々な種類の配線の劣化を診断できるが、劣化の有無の判定のみで、余寿命の算出はできなかった。特許文献3の技術では、二波長の光の反射率比から光反射損失を求め、これを劣化時間に換算して余寿命を求めているが、反射率比の複雑な特性を利用しているため余寿命値を容易に算出することができなかった。さらに、特許文献1〜3の技術では、被測定物が設置されている場所(以下、「サイト」という)における劣化の遅速を示す環境性の評価がされていなかった。
【0005】
本発明は、前記した従来の課題を解決するものであり、非破壊で受変電設備の制御配線の余寿命を簡易に診断して信頼性を高める余寿命診断方法、余寿命診断装置及びそれに用いるプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明は、検査対象物の余寿命を診断する余寿命診断装置(100)に用いる余寿命診断方法であって、前記余寿命診断装置(100)は、検査用の光を照射された前記検査対象物からの反射光を、センサ(1,2)を介して計測データとして取得するステップと、前記取得した計測データに基づいて検査用の特性値(反射率差)を算出するステップと、前記検査対象物と同一品又は同等品の所定経年時における特性値(反射率差)と、前記検査対象物の検査時の経年数である現在経年数と、前記算出した特性値とを用いて、特性値の経年変化の予測式を設定するステップと、前記設定した予測式から求まる将来の特性値の予測値が、当該検査対象物に対して設定された寿命閾値としての特性値と同じとなる時期を当該検査対象物の寿命とし、前記寿命と前記現在経年数との差から前記検査対象物の余寿命を算出するステップとを備えることを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、簡易に配線の余寿命を診断することにより、受変電設備を安全に使用できる限界を把握でき、計画的に最適な配線の更新時期の立案が可能となる余寿命診断方法を提供することができる。
【0008】
本発明は、検査対象物の余寿命を診断する余寿命診断装置(100)であって、検査用の光を照射された前記検査対象物からの反射光を、センサ(1,2)を介して計測データとして取得する計測部(6)と、前記取得した計測データに基づいて検査用の特性値(反射率差)を算出する特性値算出部(11)と、前記検査対象物と同一品又は同等品の所定経年時における特性値と、前記検査対象物の検査時の経年数である現在経年数と、前記算出した特性値(反射率差)とを用いて、特性値の経年変化の予測式を設定する予測式設定部(13)と、前記設定した予測式から求まる将来の特性値の予測値が、当該検査対象物に対して設定された寿命閾値としての特性値と同じとなる時期を当該検査対象物の寿命とし、前記寿命と前記現在経年数との差から前記検査対象物の余寿命を算出する余寿命算出部(13)とを備えることを特徴とする。
但し、括弧内の数字は、例示である。
【0009】
本発明によれば、簡易に配線の余寿命を診断することにより、受変電設備を安全に使用できる限界を把握でき、計画的に最適な配線の更新時期の立案が可能となる余寿命診断方法を用いる余寿命診断装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、非破壊で受変電設備の制御配線の余寿命を簡易に診断して信頼性を高める余寿命診断方法、余寿命診断装置及びそれに用いるプログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本実施形態の一例になる余寿命診断装置の構成を示す図である。
【図2】余寿命診断装置に備えるプローブの先端部の拡大図である。
【図3】光の反射率の導出を示す図である。
【図4】配線の新品及び劣化品の反射率スペクトルを示す図である。
【図5】配線の反射率差Rsaの経年特性を示す図である。
【図6】反射率測定及び余寿命診断方法の処理を示すフローチャートである。
【図7】新品時における反射率差の測定データがある場合の余寿命算出方法を示す図である。
【図8】新品時における反射率差の測定データがない場合の余寿命算出方法を示す図である。
【図9】熱で加速劣化させた配線の被覆の伸びと劣化時間との関係を示す図である。
【図10】図9で用いた同一サンプルの反射率差と劣化時間との関係を示す図である。
【図11】絶縁物の表面抵抗率と環境性との関係を示す図である。
【図12】受電盤内における絶縁物の余寿命算出方法を示す図である。
【図13】絶縁物の余寿命算出方法の処理を示すフローチャートである。
【図14】劣化予測線の傾度と環境性との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の実施形態に係る余寿命診断方法、余寿命診断装置及びプログラムについて図を参照しながら詳細に説明する。
【0013】
図1は、本実施形態の一例になる余寿命診断装置100の構成を示す図である。図1に示すように余寿命診断装置100は、白色光を発生する光源3と、検査対象物である制御配線(以下、「配線」という)10(図2参照)へ白色光を照射し、配線10から反射光を受光するプローブ1(センサ)と、反射光から反射強度を波長毎にスペクトル分解する分光器(センサ)2と、光を導く光ファイバ5と、白色光を照射し、スペクトル分解した計測データを反射強度記憶部21に記憶するまでの一連の動作を制御する光計測制御部(計測部)6と、反射強度スペクトルから配線10の反射率差を算出する反射率差算出部(特性値算出部)11と、配線10の寿命閾値を算出する寿命閾値算出部12と、配線10の反射率差の経年変化を予測する予測式を設定し、この予測した反射率差と寿命閾値とから余寿命を診断する余寿命診断部(予測式設定部,余寿命算出部)13と、各サイトにおける配線10の劣化を示す環境性を評価する環境性評価部14と、反射強度スペクトルから算出した反射率差を記憶する反射率差記憶部22と、配線10の寿命閾値を記憶する寿命閾値記憶部23と、各サイトの環境性を記憶する環境性記憶部24とを備える。
【0014】
光計測制御部6は、検査対象物である配線10に光を照射し、この反射光をプローブ1を介して分光器2に入射し、スペクトル分解して反射強度スペクトルデータとして反射強度記憶部21に記憶する。
【0015】
反射率差算出部11は、配線10の線種及び色ごとに、検査対象となる配線10と同一又は同等品の新品、及び、製造後年数が経過した劣化品から取得した反射率スペクトルにおいて指標となる二波長を選定し、この二波長に対応する反射率に基づいて、検査対象となる配線10の所定経年時における反射率差と、検査時の反射率差とを算出する(特性値算出)。
【0016】
寿命閾値算出部12は、配線10の寿命を決定する因子を寿命因子とし、この寿命因子とこの寿命因子の劣化時間との関係、及び、配線10の反射率差とこの反射率差の劣化時間との関係を求め、この関係に基づいて、寿命因子と反射率差との関係を算出して寿命閾値を決定する。寿命因子の具体例としては、配線10の被覆の伸び、配線10の被覆の引っ張り強さ、含水量、絶縁抵抗などがある。
【0017】
余寿命診断部13は、検査対象となる配線10又は同等品の所定経年時における反射率差と、この配線10の検査時の経年数(以下、「現在経年数」という)と、この配線10の検査時の反射率差とを用いて、検査対象となる配線10の反射率差の経年変化の予測式を設定し、将来の反射率差の予測値が、検査対象の配線10の寿命閾値により設定された反射率差と同じになる時期をこの配線10の寿命とし、この寿命と現在経年数との差からこの配線10の余寿命を算出する。
【0018】
環境性評価部14は、配線10の所定経年時における反射率差と寿命における反射率差とから反射率差の差を求め、この差を所定経年時から寿命までの年数で除した値から劣化予測線の傾度を求め、この傾度を配線10の劣化の遅速を示す環境性として各サイトの環境性を評価する。
【0019】
光計測制御部6、反射率差算出部11、寿命閾値算出部12、余寿命診断部13及び環境性評価部14は、余寿命診断装置100に備えるCPU(Central Processing Unit)によるプログラム処理や専用回路により実現される。さらに、前記反射強度記憶部21、反射率差記憶部22、寿命閾値記憶部23、環境性記憶部24、及び、余寿命診断装置100の機能を実現するためのプログラムを格納する記憶部(不図示)は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、フラッシュメモリ等の記憶媒体から構成される。
【0020】
光計測制御部6の指示により、光源3から出射された白色光は、光ファイバ5を通りプローブ1に導かれる。プローブ1は検査対象である配線10に光を照射する。図2は、プローブ1の先端部の拡大図である。プローブ1の先端部には、配線10を収容して照射した光の反射光を的確に捉えるための溝部1aが設けられている。配線10からの反射光は、プローブ1によって受光され、光ファイバ5を介して、分光器2に導かれる。分光器2により、反射光はスペクトル分解され、反射強度スペクトルとして反射強度記憶部21に記憶される。
【0021】
本実施形態では、光の反射率差の経年変化を用いて余寿命を算出している。そこで、電気機器用ビニル絶縁電線を配線10とし、余寿命診断装置100を用いることにより、配線10の余寿命の算出について説明する。なお、配線10は、通電のための導体部と、この導体部を覆って保護する被覆部とを含んで構成される。本実施形態においては、光を照射する部分はこの被覆部である。
【0022】
図3は、光の反射率の導出を示す図である。光源3を点灯して、配線10の太さと同程度の棒状の白色材をプローブ1の先端部の溝部1aに収容し、かつ、光源3以外の外部からの光を遮るために、プローブ1の先端部に暗幕を被せて光の反射強度を計測する。
【0023】
この反射強度の計測により、図3(a)に示すように、横軸を波長λ、縦軸を反射強度とした場合の白色材の反射強度スペクトルRw(λ)が測定できる。次に、光源3を消灯して、暗幕中で測定すると、図3(b)に示すように、バックグラウンドのノイズに相当する反射強度スペクトルD(λ)が測定できる。次に、被測定物である配線10をプローブ1の先端部の溝部1aに収容し、暗幕を被せて光源3を点灯して、図3(c)に示すような配線10の反射強度スペクトルS(λ)を測定する。これらの反射強度スペクトルRw(λ)、D(λ)、S(λ)の測定データは、各測定時に反射強度記憶部21に保存される。
【0024】
反射率差算出部11は、反射強度スペクトルRw(λ)、D(λ)、S(λ)を用いることにより、(式1)から配線10の反射率スペクトルR(λ)を算出する。
R(λ)(%)=(S(λ)-D(λ))/(Rw(λ)-D(λ))×100 (式1)
(式1)に示すように、ノイズ分である反射強度スペクトルD(λ)を差し引いた配線10からの反射強度を、白色材の反射強度に対する百分率(%)としてR(λ)で表すことにより、光源3の劣化で光の強さが弱まった場合でも、測定結果に影響が及ばないようにしている。光源の光の強さが安定している場合には、反射率差を求める際に利用した白色材やノイズ分の反射強度は、測定日の測定前に1度だけしか測定しなくても構わない。
【0025】
図4は、配線10の新品及び劣化品の反射率スペクトルR(λ)を示す図である。新品は製造後1年以内のものであり、劣化品は製造から27年経過したものである。図4に示すように、1000nm以上の波長領域では反射率は変わらないが、560〜800nmの波長領域では劣化品の反射率は大きく低下していることが分かる。したがって、560〜800nmの波長領域においては、縦軸を反射率(%)、横軸を波長(nm)とする座標における「傾き」は新品と劣化品とで大きく異なる。ここで「傾き」とは、新品同士、又は、劣化品同士の波長560nmの反射率R(λ)と波長800nmの反射率R(λ)とを結んだ直線の傾きをいう。この新品と劣化品とで「傾き」に顕著な差が現れる二波長λ及びλを指標として選定する。
【0026】
反射率差算出部11は、この「傾き」を定量的に算出して反射率差記憶部22に保存する。「傾き」に相当する量は、560nmの波長λにおける反射率R(560)から800nmの波長λにおける反射率R(800)を差し引いた値(以下、「反射率差:Rsa」という)として次式で表せる。
Rsa = R(λ) − R(λ) (式2)
ここで、この例の場合、λは560nmであり、λは800nmである。この二つの波長、即ち、560nmと800nmとが、反射率スペクトル上の2点を結ぶ直線の「傾き」が新品と劣化品とで顕著に異なる二つの波長を示している。
【0027】
図5は、反射率差Rsaの経年特性を示す図である。図4に示す新品と劣化品の反射率スペクトルから求めた反射率差Rsaを経年特性として示した図である。反射率差Rsaは、製造から年数が経過するほど低くなっている。なお、着目する波長は配線10の材質や色で異なる。
【0028】
次に、図6乃至図8を用いて、反射率測定及び余寿命診断方法を説明する。図6は、反射率測定及び余寿命診断方法の処理を示すフローチャートである。図7は、配線10の新品時における反射率差Rsaの測定データがある場合の余寿命算出方法を示す図である。図8は、配線10の新品時における反射率差Rsaの測定データがない場合の余寿命算出方法を示す図である。
【0029】
図6に示すように、まず、反射率の校正のために、光源3を点灯し、配線10と同程度の太さの白色材の反射強度Rw(λ)を測定する。この際、測定のばらつきを抑えるため、プローブ1を暗幕で覆い太陽光や蛍光灯など外部の光の影響を排除する。次に、光源3を消灯して、プローブ1を暗幕で覆い、そのときの反射強度D(λ)を測定して反射強度記憶部21に保存する。以下、特に断らない限り、測定時には必ず暗幕を被せるものとする(ステップS1)。
【0030】
次に、測定のばらつきを抑えるために、受電盤内における配線10の測定部位の汚れをアルコールまたは水により除去する。清掃することにより、配線10の塵埃による光の反射や吸収に影響されずにプローブ1からの照射光が配線10の被覆に到達するため、被覆からの反射率を精度よく測定できる(ステップS2)。
【0031】
次に、被測定物である配線10にプローブ1の先端を当て、光源3を点灯し、光を照射して反射強度を測定する。1回目の測定が終わったら、配線10の被覆上でプローブ1の先を前回の測定位置より少しずらして、再度測定する。これを繰り返し、測定する1本の配線10について、5〜10個程度の複数の反射強度スペクトルを測定して反射強度記憶部21に保存する。複数の反射強度を測定することにより、配線10の被覆で比較的劣化が進んでいる部分を評価できる(ステップS3)。
【0032】
次に、反射率差算出部11は、反射強度スペクトルから波長λおよびλ時の反射率差Rsaを算出する。算出には式2を用いる。測定した複数の反射強度スペクトルの数だけ反射率差Rsaを算出し、反射率差記憶部22に保存する(ステップS4)。
【0033】
次に、余寿命診断部13は、配線10の余寿命を算出する。余寿命の算出は、測定する配線10の新品時における反射率差Rsaの測定データが存在する場合と、存在しない場合とで異なる。図7は、新品時における反射率差Rsaの測定データが存在する場合の余寿命算出方法を示す図である。配線10の新品時における反射率差Rsaは、同じ線種で同じ色を有する新品を測定に用いることで代用できる。
【0034】
余寿命診断部13は、新品時における配線10の反射率差RsaのデータをD4とし、劣化した配線10(劣化品)の反射率差RsaのデータをD6としたときに、D4の平均値とD6の最低値とを直線で結び、この直線を延長して劣化を経年tで予測した線(以下、「劣化予測線」という)から次式で表す予測式を設定する。
Rsa=m(t) (式3)
そして、余寿命診断部13は、この予測式から算出する反射率差Rsaと、後述する方法で求まる寿命閾値Rtとが同じになる時期を寿命と判断し、この寿命とこの配線10の現在経年数との差を余寿命と診断する。なお、配線10の新品時における反射率差Rsaは反射率差記憶部22に保存され、寿命閾値Rtの値は寿命閾値記憶部23に保存されている。
【0035】
図8は、測定する配線10の新品時における反射率差Rsaの測定データが存在しない場合の余寿命算出方法を示す図である。ここで、測定データが存在しないということは、測定する配線10の新品が製造中止等により入手することができないことを意味する。したがって、図8による余寿命算出方法は、予め新品の反射率差Rsaを測定できない場合、即ち、測定する配線10の新品時における反射率差Rsaの測定データが反射率差記憶部22に保存されていない場合である。
【0036】
余寿命診断部13は、この場合には、検査対象の配線10の1回目における反射率差RsaのデータD5の平均値と、1回目から数年から数十年経過した後の2回目における同一の配線10のデータD6の最低値とを直線で結び、この直線を延長した劣化予測線から次式で表す予測式を設定する。
Rsa=n(t) (式4)
そして、余寿命診断部13は、この予測式から算出する反射率差と、後述する方法で求まる寿命閾値Rtとが同じになる時期を寿命と判断し、この寿命とこの配線10の現在経年数との差を余寿命と診断する。
【0037】
余寿命を算出したい配線10と同種のものであって、製造年代が数年から数十年異なる配線10が同一受電盤内又は同一環境にある場合には、製造年が新しい配線10の反射率差RsaのデータをD5、古いほうのデータをD6として、劣化予測式を求め、図8に示した方法と同様に配線10の余寿命を算出できる。この場合、それぞれの配線10の余寿命は、それぞれの配線10の現在経年数から寿命までの時間である。このように、異なる製造年代の配線10が同一環境にある場合で、製造年代差が小さい場合には余寿命の算出精度が落ちるが、測定に数年から数十年の時間間隔をあけることなく寿命を算出できる(ステップS5)。
【0038】
図7、図8に示すように、測定した配線10における劣化予測線の傾きの(絶対値の)大きさθは、大きければ短い寿命となり、小さければ長い寿命となる。したがって、傾きの大きさθは劣化の進行の遅速を示す環境性に対応する。測定した配線10の劣化予測線の傾きの大きさθの平均値と、これまでに測定した同一又は異なるサイトの配線10の傾きの大きさθの平均値とを比較することにより、測定した配線10を収納している受電盤の相対的な環境性を評価できる。
【0039】
極端に環境性が低い場合には、即ち、劣化の進行が速い場合には、その原因を追求して、原因を取り除き環境性を向上させれば、配線10の延命化を図ることができる。環境性が通常よりも高くなる場合には、即ち、劣化の進行が遅い場合には、その要因を特定し、それを他の場所へ応用して環境性を向上させることにより、延命化を図ることができる。このように環境性の評価を実施することで、劣化の進行を遅くすることができる(ステップS6)。
【0040】
なお、環境性を定量的に評価するときは、劣化予測線の傾きの大きさθの年平均値である傾度θy(%/年)を用いる。図14は、劣化予測線の傾度と環境性pとの関係を示す図である。ここで、劣化予測線の傾度θy(%/年)とは、図7に示す場合は、配線10の新品時の反射率差Rsaから寿命の反射率差Rsaを引いた値を新品が有する余寿命で除した値をいう。図8に示す場合は、1回目における反射率差Rsaから寿命の反射率差Rsaを引いた値を1回目の測定時から寿命までの余寿命で除した値をいう。この劣化予測線の傾度θyと環境性pとの関係は各サイトの環境性pとして環境性記憶部24に記憶されている。図14に示すように、傾度θyと環境性pとは、互いにp=h(θy)という関係で結びついている。
【0041】
次に、寿命閾値算出部12における寿命閾値Rtの算出について説明する。ここでは、寿命閾値Rtを決定する寿命因子の一例として配線10の被覆の伸び率E(%)を用いる。被覆の伸び率E(%)を用いたのは、被覆が劣化すると被覆の分子構造である架橋構造が形成されて被覆が硬化して伸びが低下し、被覆が脆くなるために、振動などのショックでひび割れなどの不具合を起こすからである。
【0042】
図9は、熱で加速劣化させた配線10の被覆の伸び率と劣化時間との関係を示す図である。図9に示すように、熱による加速劣化で時間の経過と共に被覆の伸び率E(%)が低下する傾向にあることが分かる。伸び率E(%)は、制御配線10の導体部を除去した被覆を断線するまで引っ張ったときの値である。伸び率E(%)は次式で定義される。
E(%)=ΔL/L×100 (式5)
ここで、Lは新品時の被覆の長さであり、ΔLは破断時までに伸びた長さである。図9の伸びE(%)は加速劣化時間をtとして、次式で表せる。
E(%)=f(t) (式6)
【0043】
図10は、図9で用いた同一サンプルの反射率差Rsaと劣化時間との関係を示す図である。同図の特性は加速劣化時間をtとして、次式で表せる。
Rsa = g(t) (式7)
したがて、式6と式7とからtを消去することにより、伸び率E(%)と反射率差Rsaの関係が求まる。
Rsa = g(f−1(E)) (式8)
ここで、f−1はfの逆関数である。式8を用いることで、寿命として定める所定の伸び率E(%)に対する反射率差Rsa、即ち、寿命閾値Rtを決定できる。この寿命閾値Rtは、配線10の線種や色毎に寿命閾値記憶部23に記憶される。なお、寿命となる伸び率E(%)としては、例えば、100%以下を用いる。なお、本実施例では、伸び率E(%)を寿命閾値Rtを決定する寿命因子として取り上げたが、同様の方法で配線被覆の引っ張り強さ、含水量、絶縁抵抗などに基づき寿命閾値Rtを算出してもよい。
【0044】
本実施形態によれば、配線10の余寿命を診断することにより、受変電設備を安全に使用できる限界を把握でき,計画的に最適な更新時期の立案が可能となる。更に、劣化の遅速を示す環境性pを定量化できるため、各サイト毎に環境性pの相対比較が可能となり、環境性pが悪い場合には、そのサイトの使用環境から原因を推定し、対策を施すなどして受変電設備の信頼性を高めることが可能になる。
【0045】
次に、配線10の余寿命算出の過程で求まる劣化予測線の傾度θyから算出した環境性pを利用して、配線10が収納されている同一サイトの受電盤内に設置されている絶縁物の余寿命算出方法について図11乃至図14を用いて説明する。
【0046】
図11は、絶縁物の表面抵抗率ZRと環境性pとの関係を示す図である。表面抵抗率ZRは、湿度80%RH(Relative Humidity)時における各経年(10年、20年、30年)の絶縁物の表面抵抗率ZR(Ω/□)である。図11に示す関係は、予め、絶縁物及び配線10を同一環境で熱劣化や酸化劣化試験を実施することにより得られる。この環境性pと表面抵抗率ZRとの関係をデータベースD10(図13参照)に記憶する。図12は、受電盤内における絶縁物の余寿命算出方法を示す図である。湿度80%RH時における絶縁物の表面抵抗率ZRと、この絶縁物の経年との関係を示したものである。図13は、絶縁物の余寿命算出方法の処理を示すフローチャートである。
【0047】
まず、図14より、劣化予測線の傾度θyを求め、この傾度θyに対応する環境性pを求める。図14では、傾度θyが0.75%/年のときに、環境性pを1としている(ステップS10)。次に、データベースD10に記憶している受電盤の環境性pと経年における絶縁物の表面抵抗率ZRとの関係を参照する。この関係を利用して環境性pから受電盤内の絶縁物の表面抵抗率ZRを算出する。例として、図11では、環境性pが1であるサイトの受電盤における経年20年の絶縁物の表面抵抗率ZRを矢印で示している。この場合、表面抵抗率ZRは1010Ω/□と算出できる(ステップS11)。
【0048】
次に、データベースD11(図13参照)に記憶している絶縁物の新品時における表面抵抗率ZRと寿命閾値ZRtとを参照する。そして、図12に示すように、新品時における表面抵抗率を示す点と、S11で求めた経年20年における表面抵抗率ZRを示す点とを結んだ直線を延長して劣化予測線から経年変化の予測式を設定する。そして、この予測式から求まる表面抵抗率ZRの将来の予測値と、後述する余寿命閾値ZRtとが同じになる時期を寿命とし、現在経年数(経年20年)から寿命までの時間を余寿命と算出する。
【0049】
図12に示す例では、経年0年である絶縁抵抗の新品時における表面抵抗率ZRが1015Ω/□を示す点と、経年20年の検査時における表面抵抗率ZRが1011Ω/□を示す点とを結ぶ劣化予測線から経年変化の予測式を設定する。そして、この予測式から求まる表面抵抗率ZRの将来の予測値と、表面抵抗率ZRが10Ω/□である余寿命閾値ZRtとが同じになる時期が経年で30年であるため、寿命は30年となり、検査時の経年20年から寿命の経年30年までの10年を余寿命として算出している(ステップS12)。なお、図12の縦軸である表面抵抗率は対数値である。
【0050】
ここで、絶縁物の余寿命算出時に用いた寿命閾値ZRtの決定方法について述べる。基本的な考え方は、前記配線10の寿命閾値Rtの決定方法と同じである。寿命閾値ZRtを決定する寿命因子の一例として絶縁物の水分含有率H(%)を用いる。水分含有率H(%)を用いたのは、絶縁物の水分含有量が増加すると絶縁抵抗が低下して受電盤に不具合を起こすからである。
【0051】
絶縁物を環境試験室内で加速劣化させ、時間の経過と共に抵抗値が低下する傾向にある性質を用いる。水分含有率H(%)は加速劣化時間tとして、次式で表せる。
H(%)=f(t) (式9)
同一サンプルの表面抵抗率ZRと劣化時間tとの関係は、次式で表せる。
ZR=g(t) (式10)
したがって、式9と式10とからtを消去することにより、水分含有率Hと表面抵抗率ZRの関係が求まる。
ZR=g(f−1(H)) (式11)
ここで、f−1はfの逆関数である。式11を用いることで、寿命として定める所定の水分含有率H(%)に対応する表面抵抗率ZR、即ち、寿命閾値ZRtを決定できる。
【0052】
本実施形態によれば、配線10の光の反射率差を用いた余寿命診断方法で算出される環境性pに基づいて、同一サイトの受電盤内における絶縁物の余寿命を算出できる。したがって、本発明では配線10のみならず絶縁物の余寿命も算出できるため、従来よりも総合的に受電盤の信頼性を定量的に診断できる。
【符号の説明】
【0053】
1 プローブ(センサ)
1a 溝部
2 分光器(センサ)
3 光源
5 光ファイバ
6 光計測制御部(計測部)
10 配線(検査対象物)
11 反射率差算出部(特性値算出部)
12 寿命閾値算出部
13 余寿命診断部(予測式設定部,余寿命算出部)
14 環境性評価部
21 反射強度記憶部
22 反射率差記憶部
23 寿命閾値記憶部
24 環境性記憶部
100 余寿命診断装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受変電設備に関連した検査対象物の余寿命を診断する余寿命診断装置に用いる余寿命診断方法であって、
前記余寿命診断装置は、
検査用の光を照射された前記検査対象物からの反射光を、センサを介して計測データとして取得するステップと、
前記取得した計測データに基づいて検査用の特性値を算出するステップと、
前記検査対象物と同一品又は同等品の所定経年時における特性値と、前記検査対象物の検査時の経年数である現在経年数と、前記算出した特性値とを用いて、特性値の経年変化の予測式を設定するステップと、
前記設定した予測式から求まる将来の特性値の予測値が、当該検査対象物に対して設定された寿命閾値としての特性値と同じとなる時期を当該検査対象物の寿命とし、前記寿命と前記現在経年数との差から前記検査対象物の余寿命を算出するステップと
を備えることを特徴とする余寿命診断方法。
【請求項2】
前記特性値は、二つの異なる所定経年時における前記検査対象物と同一品又は同等品からそれぞれ取得した反射率スペクトルにおいて指標となる二波長を選定し、この二波長に対応する反射率に基づいて算出した反射率差である
ことを特徴とする請求項1に記載の余寿命診断方法。
【請求項3】
受変電設備に関連した検査対象物の余寿命を診断する余寿命診断装置であって、
検査用の光を照射された前記検査対象物からの反射光を、センサを介して計測データとして取得する計測部と、
前記取得した計測データに基づいて検査用の特性値を算出する特性値算出部と、
前記検査対象物と同一品又は同等品の所定経年時における特性値と、前記検査対象物の検査時の経年数である現在経年数と、前記算出した特性値とを用いて、特性値の経年変化の予測式を設定する予測式設定部と、
前記設定した予測式から求まる将来の特性値の予測値が、当該検査対象物に対して設定された寿命閾値としての特性値と同じとなる時期を当該検査対象物の寿命とし、前記寿命と前記現在経年数との差から前記検査対象物の余寿命を算出する余寿命算出部と
を備えることを特徴とする余寿命診断装置。
【請求項4】
前記特性値は、二つの異なる所定経年時における前記検査対象物と同一品又は同等品からそれぞれ取得した反射率スペクトルにおいて指標となる二波長を選定し、この二波長に対応する反射率に基づいて算出した反射率差である
ことを特徴とする請求項3に記載の余寿命診断装置。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の余寿命診断方法をコンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−7662(P2011−7662A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−152069(P2009−152069)
【出願日】平成21年6月26日(2009.6.26)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】