説明

作動油の気泡除去回路

【課題】流量変動が激しい建設機械であっても、作動油中の気泡除去を確実に行なえるようにする。
【解決手段】アクチュエータ1から排出された作動油を油タンク3に戻す戻り油路5に、大流量用気泡除去器6と小流量用気泡除去器7とを並列状に配した気泡除去回路8を設けると共に、大流量用気泡除去器6の入口側に、戻り油路5の圧力が設定圧以上の場合に大流量用気泡除去器6への作動油の流入を許容するチェック弁11を設けた。さらに、前記大流量用気泡除去器6と小流量用気泡除去器7とを、一つの気泡除去装置9として一体的に組付けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ショベル等の建設機械における作動油の気泡除去回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、油圧ショベル等の建設機械には、例えばフロント作業部を動作せしめる油圧シリンダや走行用の油圧モータ等、油圧駆動式の各種アクチュエータが設けられているが、この様な建設機械の油圧回路において、作動油中に混在する気泡は、ポンプ圧縮時における吐出効率低下、作動油温の上昇、作動油温の上昇による作動油の酸化劣化、エマルジョンによる潤滑性低下、騒音増加、キャビテ−ション、圧縮性増加によるシステムの応答遅れ等、様々な問題を引起す惧れがある。
そこで、従来、作動油中に混在する気泡を除去するために、油圧アクチュエータから油タンクへの戻り油路に気泡除去装置を設けた技術(例えば、特許文献1参照。)や、アクチュエータから油タンクへの戻り回路とは別に定流量油圧回路を設け、該定流量油圧回路中に気泡除去手段を設けた技術(例えば、特許文献2参照。)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−318103号公報
【特許文献1】特開平11−303819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、気泡除去装置は、該気泡除去装置の容量に対して供給流量が少なすぎると気泡除去能力が低下する一方、供給流量が多すぎると圧力損失が急激に増加するため、供給流量に応じた容量のものを用いることが要求される。しかるに、建設機械で行なう作業は、例えばダンプ積込み作業のように油圧ショベルで最も一般的に行なわれるような作業であっても、油圧アクチュエータからの戻り油の流量変動が激しく、このため、前記特許文献1のように油圧アクチュエータから油タンクへの戻り油路に気泡除去装置を設けた場合、該気泡除去装置への供給流量が大きく増減して、気泡除去装置が有効に働かない流量域が生じてしまい、安定した気泡除去処理を行なえないという問題がある。一方、特許文献2のように、定流量油圧回路中に気泡除去手段を設けたものでは、気泡除去手段への供給流量は一定であるものの、アクチュエータで混入或いは発生した気泡は一旦油タンクに戻されてから定流量油圧回路において気泡除去処理されることになるから効率が悪く、しかも、戻り油路に気泡除去手段を設ける場合と比して気泡除去処理量が少なくなるため、充分な気泡除去を行えないという問題がある。さらに、建設機械に気泡除去装置を設けるにあたり、できるだけ省スペース化を図りたいという要望もあり、ここに本発明の解決すべき課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の如き実情に鑑みこれらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、請求項1の発明は、油圧駆動式のアクチュエータを備えた建設機械の油圧回路において、前記アクチュエータから排出された作動油を油タンクに戻す戻り油路に、大流量用気泡除去器と小流量用気泡除去器とを並列状に配した気泡除去回路を設けると共に、前記大流量用気泡除去器の入口側に、戻り油路の圧力が予め設定される設定圧以上の場合に大流量用気泡除去器への作動油の流入を許容するチェック弁を設けたことを特徴とする作動油の気泡除去回路である。
請求項2の発明は、大流量用気泡除去器と小流量用気泡除去器とは、一つの気泡除去装置として一体的に組付けられていることを特徴とする請求項1に記載の作動油の気泡除去回路である。
請求項3の発明は、大流量用気泡除去器及び小流量用気泡除去器は、作動油が流入する油流入口と、該油流入口から流入する作動油に旋回流を発生させて気泡を分離するサイクロン室と、気泡が分離した作動油を流出させる油流出口と、分離した気泡を排出する気泡排出口とをそれぞれ備えると共に、小流量用気泡除去器の油流出口を、大流量用気泡除去器のサイクロン室に連通させたことを特徴とする請求項2に記載の作動油の気泡除去回路である。
【発明の効果】
【0006】
請求項1の発明とすることにより、アクチュエータから油タンクに戻る作動油の流量が激しく変動しても、該作動油中に混在する気泡は、流量が少ない場合には小流量用気泡除去器によって除去される一方、流量が多い場合には大流量用気泡除去器によって除去されることになり、而して、変動する流量の略全域に亘って、確実且つ安定した気泡除去処理を行なうことができる。
請求項2の発明とすることにより、コンパクトな状態で設置できると共に、気泡除去装置への配管接続も容易となり、省スペース化、設置性の向上に寄与できる。
請求項3の発明とすることにより、大流量用気泡除去器と小流量用気泡除去器とが並列状に配されていても、気泡除去装置としての油流出口は一つになり、而して、配管数を削減できて、更なる省スペース化、設置性の向上に寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】油圧ショベルの油圧回路図である。
【図2】戻り油の流量変動の一例を示す図である。
【図3】気泡除去装置の断面図である。
【図4】(X)は図3のX−X断面図、(Y)は図3のY−Y断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。図1は、建設機械の一例である油圧ショベルの油圧回路を示す図であって、該図1において、1は油圧ショベルに備えられる油圧駆動式の各種アクチュエータ(例えば、ブームシリンダ、スティックシリンダ、バケットシリンダ、走行モータ、旋回モータ等であって、図1には、代表例として油圧シリンダと油圧モータとを一つづつ示す)、2はこれらアクチュエータ1の油圧供給源になる油圧ポンプ、3は油タンクである。また、4は各アクチュエータ1に対する油給排制御をそれぞれ行なう複数の制御バルブが組込まれたコントロールバルブであって、該コントロールバルブ4を経由して、油圧ポンプ2からアクチュエータ1への油供給、及びアクチュエータ1から油タンク3への油排出が行なわれるようになっている。
【0009】
さらに、5は前記アクチュエータ1からの排出油をコントロールバルブ4を経由して油タンク3に戻す戻り油路であって、該戻り油路5には、作動油中の気泡を除去するための大流量用気泡除去器6と小流量用気泡除去器7とが並列状に配された気泡除去回路8が形成されている。尚、後述するように、大流量用気泡除去器6と小流量用気泡除去器7とは、一つの気泡除去装置9として一体的に組付けられている。また、図1中、10は作動油を冷却するため戻り油路5に配されるオイルクーラーであって、本実施の形態では、該オイルクーラー10の下流側に気泡除去回路8が形成されているが、オイルクーラー10の上流側に気泡除去回路8を形成しても良い。
【0010】
ここで、図2に、油圧ショベルのダンプ積込み作業時においてアクチュエータ1から油タンク3に戻る戻り油の流量変動の一例を示すが、本実施の形態において、前記大流量用気泡除去器6は、図2に示す大流量域Aに適した容量のものが、また、小流量用気泡除去器7は、小流量域Bに適した容量のものが採用されている。尚、大流量用気泡除去器6及び小流量用気泡除去器7の容量は、本発明が実施される建設機械の種類やサイズ、或いは建設機械の行なう作業等に応じて、適宜サイズのものを採用することができる。
【0011】
さらに、前記大流量用気泡除去器6の入口側には、戻り油路5の圧力が予め設定される設定圧以上の場合に大流量用気泡除去器6への作動油の流入を許容するチェック弁11が設けられている。上記設定圧は、本実施の形態では、戻り油の流量が小流量域Bの最大値のときの戻り油路5の圧力であり、而して、戻り油路5の圧力が設定圧未満の場合、つまり、戻り油の流量が小流量域Bの場合には、チェック弁11により大流量用気泡除去器6への作動油の流入が阻止されて、小流量用気泡除去器7による気泡除去が行なわれる一方、戻り油路5の圧力が設定圧以上になる、つまり、戻り油の流量が小流量域Bを越えると、チェック弁11から大流量用気泡除去器6に作動油が流入して、該大流量用気泡除去器6による気泡除去が行なわれるようになっている。
【0012】
前記大流量用気泡除去器6及び小流量用気泡除去器7は、旋回流を発生させて比重差により作動油と気泡とを分離するものであって、その構造については後述するが、これら大流量用気泡除去器6及び小流量用気泡除去器7によって作動油から分離された気泡には、少量の作動油も混入しているため、脱気ライン12を経由して油タンク3の上部に排出されるように構成されている。
【0013】
次いで、図3、図4に、前記大流量用気泡除去器6及び小流量用気泡除去器7の構造を示すが、大流量用気泡除去器6及び小流量用気泡除去器7は、外殻となる円筒体6a、7aと、作動油が流入する油流入口6b、7bと、作動油を接線方向から流入させて旋回流を発生させ比重差により作動油と気泡とを分離するサイクロン室6c、7cと、気泡が分離した作動油を流出させる油流出口6d、7dと、作動油から分離した気泡を排出する気泡排出口6e、7eとをそれぞれ備えて構成されていると共に、大流量用気泡除去器6の油流入口6bには、前記チェック弁11が一体的に組付けられている。
【0014】
さらに、前記大流量用気泡除去器6と小流量用気泡除去器7とは、前述したように、一つの気泡除去装置9として一体的に組付けられているが、この場合、大流量用気泡除去装置6の円筒体6aの一部に、小流量用気泡除去器7が組付けられる切欠き部6fが開設されていると共に、小流量用気泡除去器7の油流出口7dは、大流量用気泡除去器6の円筒体6aの筒内部に突入してサイクロン室6cに連通するように組付けられている。そして、小流量用気泡除去器7によって気泡が分離された作動油は、大流量用気泡除去器6によって気泡が分離された作動油と共に、大流量用気泡除去器6の油流出口6dから排出されるようになっている。尚、本実施の形態において、小流量用気泡除去器7とチェック弁11とは、大流量用気泡除去器6の円筒体6aの軸芯線に対して略対称となる位置に組付けられている。
【0015】
叙述の如く構成された本形態において、油圧ショベルには、油圧駆動式の各種アクチュエータ1が備えられているが、該アクチュエータ1から油タンク3への戻り油路5には、大流量用気泡除去器6と小流量用気泡除去器7とが並列状に配された気泡除去回路8が設けられていると共に、前記大流量用気泡除去器6の入口側には、戻り油路5の圧力が予め設定される設定圧以上の場合に大流量用気泡除去器6への作動油の流入を許容するチェック弁11が設けられている。而して、戻り油路5の流量が少なくて前記設定圧未満の場合には、チェック弁11により大流量用気泡除去器6への作動油の流入が阻止されて、小流量用気泡除去器7による気泡除去が行なわれる一方、戻り油路5の流量が増加して前記設定圧以上になると、チェック弁11から大流量用気泡除去器6に作動油が流入して、該大流量用気泡除去器6による気泡除去が行なわれることになる。
【0016】
この結果、アクチュエータ1から油タンク3に戻る作動油の流量が激しく変動しても、該作動油中に混在する気泡は、流量が少ない場合には小流量用気泡除去器7によって除去される一方、流量が多い場合には大流量用気泡除去器6によって除去されることになり、而して、変動する流量の略全域に亘って、確実且つ安定した気泡除去処理を行なえることになる。しかも、この大流量用気泡除去器6と小流量用気泡除去器7とが並列状に配された気泡除去回路8は、アクチュエータ1から排出された作動油を油タンク3に戻す戻り油路5に設けられているから、アクチュエータ1で混入或いは発生した気泡を効率良く確実に除去することができる。
【0017】
さらに、前記大流量用気泡除去装置6と小流量用気泡除去器7とは、一つの気泡除去装置9として一体的に組付けられているから、コンパクトな状態で設置できると共に、気泡除去装置9への配管接続も容易となり、省スペース化、設置性の向上に寄与できる。
【0018】
そのうえ、前記前記大流量用気泡除去装置6と小流量用気泡除去器7とを一体的に組付けるにあたり、小流量用気泡除去器7の油流出口7dを大流量用気泡除去器6のサイクロン室6cに連通させる構成になっているから、小流量用気泡除去器7によって気泡が分離された作動油は、大流量用気泡除去器6によって気泡が分離された作動油と共に、大流量用気泡除去器6の油流出口6dから排出されることになる。而して、大流量用気泡除去器6と小流量用気泡除去器7とが並列状に配されていても、気泡除去装置9としての作動油流出口は一つになり、而して、配管数を削減できて、更なる省スペース化、設置性の向上に寄与できる。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明は、例えば油圧ショベルのように、アクチュエータから油タンクへの戻り油の流量変動が激しい建設機械において、作動油中の気泡を確実且つ安定して除去するための気泡除去回路として利用することができる。
【符号の説明】
【0020】
1 アクチュエータ
3 油タンク
5 戻り油路
6 大流量用気泡除去器
7 小流量用気泡除去器
6b、7b 油流入口
6c、7c サイクロン室
6d、7d 油流出口
6e、7e 気泡排出口
8 気泡除去回路
9 気泡除去装置
11 チェック弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧駆動式のアクチュエータを備えた建設機械の油圧回路において、前記アクチュエータから排出された作動油を油タンクに戻す戻り油路に、大流量用気泡除去器と小流量用気泡除去器とを並列状に配した気泡除去回路を設けると共に、前記大流量用気泡除去器の入口側に、戻り油路の圧力が予め設定される設定圧以上の場合に大流量用気泡除去器への作動油の流入を許容するチェック弁を設けたことを特徴とする作動油の気泡除去回路。
【請求項2】
大流量用気泡除去器と小流量用気泡除去器とは、一つの気泡除去装置として一体的に組付けられていることを特徴とする請求項1に記載の作動油の気泡除去回路。
【請求項3】
大流量用気泡除去器及び小流量用気泡除去器は、作動油が流入する油流入口と、該油流入口から流入する作動油に旋回流を発生させて気泡を分離するサイクロン室と、気泡が分離した作動油を流出させる油流出口と、分離した気泡を排出する気泡排出口とをそれぞれ備えると共に、小流量用気泡除去器の油流出口を、大流量用気泡除去器のサイクロン室に連通させたことを特徴とする請求項2に記載の作動油の気泡除去回路。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−216608(P2010−216608A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−66116(P2009−66116)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【出願人】(505236469)キャタピラー エス エー アール エル (144)
【Fターム(参考)】