説明

作業機械用制御装置

【課題】温度センサや粘度センサ等の部品を追加することなくコントロールバルブに供給される圧油の粘度を測定し得る作業機械用制御装置を提供する。
【解決手段】この制御装置は、油圧ポンプ17を油圧源とするアクチュエータ5、8、9、10を所望の速度で作動させるためのアクセルシリンダ50を備える作業機械に用いられ、アクセルシリンダ50が、そのスプール操作量に応じた位置を検出する位置検出器53を有するものに適用され、アクチュエータ5、8、9、10を作動させるコントロールバルブ20を制御するコントローラ30を有している。そして、コントローラ30は、電源投入時にアクセルシリンダ50を一旦作動させ、アクセルシリンダ50が中立位置に復帰時に、その位置検出器53の信号から算出したスプールの復帰時間に基づいて、供給される圧油の粘度を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷役機械、建設機械、あるいは土木機械等、圧油によって駆動される作業機械に係り、特に、温度によって圧油の粘度が変化した場合であっても、作業機械の機器の応答変化を抑制する上で好適な作業機械用制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の作業機械としては、例えば車両搭載型クレーンが知られている(例えば特許文献1参照)。
この種のクレーンは、油圧ポンプと、その油圧ポンプを油圧源とするアクチュエータとを備えて構成されている。油圧ポンプは、車両のエンジンを動力源とし、エンジンに連結されたPTO(パワーテイクオフ)を介して作動するようになっている。そして、油圧ポンプから吐出される圧油はクレーン本体のコントロールバルブ(切換制御弁装置)に供給される。コントロールバルブは、クレーン本体の制御装置に信号線を介して接続され、制御装置は、コントロールバルブを制御するコントローラを有している。
【0003】
上記コントロールバルブは、クレーンの各アクチュエータを駆動するための間接駆動方式の複数の切換弁と、車両のアクセルを適宜開閉してクレーンの各アクチュエータを所望の速度で作動させるためのアクセルシリンダとを有している。そして、各切換弁およびアクセルシリンダは、上記制御装置のコントローラから入力される所定の制御信号に応じて油路の切換がなされ、油圧ポンプから吐出される圧油が適宜給排されるようになっている。なお、各切換弁およびアクセルシリンダは、比例ソレノイドを有して構成され、そのプランジャの軸方向での位置が比例的に制御される。
【0004】
この種のクレーンでクレーン作業を開始するときには、車両のエンジンを始動後に、まず、車両のクラッチを切ってからPTOを投入する。そして、PTOが投入されると車両からクレーン本体の制御装置に電力が供給され、クラッチを繋ぐと同時に油圧ポンプが回転を始め、コントロールバルブに圧油が供給される。
ところで、例えば特許文献2には、クレーンの作動における連動操作性(2連動)を向上させる技術が開示されている。同文献記載の技術によれば、作業者が選択した2つの操作は、予めコントローラ内に記憶された固定値(パラメータ)によってコントロールバルブの各スプールの作動距離を制御することで、作業者の意に適した連動作動を互いのアクチュエータに行なわせている。
【0005】
また、遠隔操作可能なクレーンでは、コントロールバルブ内の各切換弁およびアクセルシリンダのスプールの移動量は、遠隔操作器に附属する速度レバーの作動信号に基づいて、上記制御装置のコントローラで制御される。このとき、スプールの移動量は随時フィードバックされ、速度レバーに対するスプール移動量の応答性能を上げている。
つまり、作業者による速度レバー操作で、その信号指令値(スプール移動量の目標値)がコントローラ内で演算されるとともに、その時のフィードバック値(実際のスプール移動量)と比較して偏差(指令値とフィードバック値の差)を求め、この偏差にゲインを掛け合わせたスプール作動信号を、スプールを作動させるソレノイドに出力することで、指令値に対してフィードバック値を逐次追従させている。ここで、この偏差に掛け合わせるゲインとは、コントローラのメモリに記憶させているパラメータであり、通常は固定値である。この固定値の設定は、クレーンの圧油の作動温度として50℃付近を適正油温として決定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−252569号公報
【特許文献2】特許第3928793号公報
【特許文献3】特開2003−252569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
クレーンの圧油は、クレーンの作動開始時では、気温とほぼ同じ温度(例えば20〜30℃)を示すが、シリンダ等との摺動熱や、圧油が油タンク側の大気圧へと開放されたときに圧油の持つ圧力エネルギーが熱エネルギーに変換されることによる発熱などによって高温となる。それは時として100℃を超えることもあるため、冷却器で強制的に温度を下げたり、油タンクに大きなものを使用したりして放熱を図ることもある。
【0008】
上述のように、制御用に用意されたパラメータが固定値一つだけであれば、圧油の温度変化による粘度の状態に応じて、スプールの応答性・作動速度も変化することになる。特に、圧油が低温時における作動においては、高粘度による同調不良が生じうるため、一つのパラメータによって高粘度から低粘度まで(低温から高温まで)適用させるのは困難である。つまり、偏差に掛け合わせるゲインを高粘度用に合わせて設定すると、低粘度時のスプール応答が速すぎ、スプールがバタついてしまう。他方、ゲインを低粘度用に合わせて設定すると、高粘度時のスプール応答性が遅くなってしまうためである。したがって、圧油の粘度を検出し、その検出した圧油の粘度に応じた適切なパラメータによりゲインを設定することが望ましい。つまり、高粘度時のときは高粘度用のパラメータを適用し、低粘度時では低粘度用のパラメータを適用すればよい。
【0009】
しかし、圧油の粘度を検出する方法としては、粘度ないし温度センサを追加する方法が一般的に考えられるものの、そのためには、センサを追加し、そのセンサの信号をコントローラに取り込まなければならない。また、コントローラにセンサ用の入力ポートを追加しなければならないなど、コストアップの課題が発生する。
そこで、本発明は、このような問題点に着目してなされたものであって、温度センサや粘度センサ等の部品を追加することなくコントロールバルブに供給される圧油の粘度を測定し得る作業機械用制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は、油圧ポンプと、該油圧ポンプを油圧源とするアクチュエータと、該アクチュエータを所望の速度で作動させるためのアクセルシリンダおよび前記アクチュエータを作動させるための圧油を給排する切換弁を有するコントロールバルブとを備え、前記アクセルシリンダが、そのスプールの操作量に応じた位置を検出する位置検出器を有する作業機械に用いられる制御装置であって、前記コントロールバルブに供給される圧油の粘度を測定する圧油粘度測定手段を備え、当該圧油粘度測定手段は、前記アクセルシリンダを一旦作動させて、当該アクセルシリンダが中立位置に復帰時に、その位置検出器の信号から算出したスプールの復帰時間に基づいて、供給される圧油の粘度を測定することを特徴としている。
【0011】
本発明に係る作業機械用制御装置によれば、コントロールバルブに供給される圧油の粘度を測定する圧油粘度測定手段を備えており、この圧油粘度測定手段は、アクセルシリンダを一旦作動させて、当該アクセルシリンダが中立位置に復帰時に、その位置検出器の信号から算出したスプールの復帰時間に基づいて、供給される圧油の粘度を測定するので、粘度センサ等の追加部品や、新規のコントローラを追加することなく、現状のコントロールバルブシステムを流用して圧油の粘度を測定することができる。これは、同性状の圧油ならば、ほぼ温度と粘度の値に一定の相関関係が成り立つという、圧油の特性を利用している。
【0012】
ここで、例えば特許文献3には、コンタミネーションによる不具合に対して、誤作動を防止する安全装置(偏差異常チェック機構)が本出願人により開示されている。
同文献に記載の技術では、フィードバック方式によるスプール制御において、遠隔操作器からの指令値に対する実際のスプールの移動追従を監視するために、コントローラが、指令値に対しスプールの移動量との差を監視している。そして、ある設定値(何mm)、且つ設定時間(何ms)以上スプールが移動しない状態が継続した場合、コンタミネーションによる不具合が発生した可能性があるとの判断をし、アンロードバルブを駆動させることで自動停止させて、誤作動を防止している。
【0013】
そして、これらの設定値と設定時間についても、上述したゲインと同様に、コントローラのメモリに記憶させているパラメータが固定値であるため、圧油が低粘度時には、指令値に対するフィードバック値の応答が良いものの、高粘度時には、指令値に対するフィードバック値の応答に時間を要するため、コントローラが、コンタミネーションによる不具合でなく、圧油が高粘度であったという理由であっても異常との判断をし、クレーンを自動停止させてしまうという問題が生じうる。
【0014】
具体的に説明すると、作業者は作動中のクレーンを停止させようとクレーン操作を止める。これと同時にコントローラでは指令値が0となったと判断する。しかし、圧油が高粘度時では、低粘度時よりもスプールが中立位置まで復帰する時間が遅くなるため、コントローラは、エラーを検出して、コンタミネーションによる不具合発生と判断してしまう。そのため、上記ゲイン同様、各アクチュエータを作動させる圧油の粘度によって不具合が生じることがある。したがって、偏差異常チェック機構の設定値と設定時間パラメータについても、圧油の粘度に応じて適切なパラメータを適用することが望ましい。つまり、高粘度時は高粘度用のパラメータを適用し、低粘度時は低粘度用のパラメータを適用することが望ましい。
【0015】
そこで、これらの問題を解決するために、通常のパラメータとは別個に、高粘度用のパラメータを設定し、圧油の温度が低温のときには、通常のパラメータから高粘度用のパラメータに切り換えることで、制御性及び安全性を向上させることができる。
すなわち、本発明に係る作業機械用制御装置において、前記圧油粘度測定手段で圧油の粘度を測定し、この測定した粘度条件に適した制御パラメータを自動選択する制御パラメータ選択手段を更に有することは好ましい。このような構成であれば、コストを上げることなく自動的に粘度条件に適したパラメータに切換ることができる。
【発明の効果】
【0016】
上述のように、本発明に係る作業機械用制御装置によれば、温度センサや粘度センサ等の部品を追加することなくコントロールバルブに供給される圧油の粘度を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る車両に搭載される作業機械の一実施形態としての車両搭載型クレーンを説明する構成図である。
【図2】本発明に係る作業機械用制御装置の一実施形態である車両搭載型クレーンの制御装置を説明する構成図である。
【図3】切換弁の軸線を含む縦断面図であり、同図は比例ソレノイドに制御信号が出力されていない中立位置に位置した状態を示している。
【図4】アクセルシリンダの軸線を含む縦断面図であり、同図は比例ソレノイドに制御信号が出力されていない初期位置に位置した状態を示している。
【図5】コントローラで実行される圧油粘度測定処理のフローチャートである。
【図6】コントローラでの圧油粘度測定処理に係るタイミングチャートである。
【図7】アクセルシリンダの縦断面図であり、同図は比例ソレノイドに制御信号が出力されているが、圧油が供給されていない状態を示している。
【図8】アクセルシリンダの縦断面図であり、同図は比例ソレノイドに制御信号が出力されるとともに、圧油が供給されている状態を示している。
【図9】予め測定されている作動油の粘度と測定時間(測定開始から測定終了までの時間)との関係のイメージを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態について、図面を適宜参照しつつ説明する。図1は本発明に係る車両に搭載される作業機械の一実施形態としての車両搭載型クレーンを説明する構成図であり、また、図2は本発明に係る作業機械用制御装置の一実施形態である車両搭載型クレーンの制御装置を説明する構成図である。
図1に示すように、この車両搭載型クレーン1は、アウトリガ2を備えたベース4上にコラム6が旋回自在に設けられ、このコラム6の上端部に伸縮するブーム7が起伏自在に枢支されている。コラム6にはウインチ11が設けられており、このウインチ11からワイヤロープ12をブーム7の先端部に導いて、ブーム7の先端部の滑車(図示略)を介して吊荷用のフック13に掛回すことにより、フック13をブーム7の先端部から吊下している。
【0019】
ここで、このクレーン1には、コラム6の旋回、ブーム7の起伏と伸縮、及びウインチ11の巻上巻下の作動を行うための複数のアクチュエータとして、旋回用油圧モータ5、ブーム起伏用油圧シリンダ9、ブーム伸縮用油圧シリンダ8、ウインチ用油圧モータ10、及びアウトリガ用油圧シリンダ3L、3Rを備えている。
そして、これらの旋回用油圧モータ5、ブーム起伏用油圧シリンダ9、ブーム伸縮用油圧シリンダ8、ウインチ用油圧モータ10、及びアウトリガ用油圧シリンダ3L、3Rは、図2に示すように、何れも車両のエンジン15のPTO16に連結して駆動される油圧ポンプ17からコントロールバルブ20を介して圧油を供給することにより作動するようになっている。また、ポンプポートとタンクポートとの間には、メインリリーフ弁38と、アンロードが必要なときメインリリーフ弁38を開き、ポンプポートとタンクポートとを連通させるアンロード弁39とが設けられている。
【0020】
ここで、上記コントロールバルブ20は、上記各アクチュエータをそれぞれ制御する複数の切換弁を連結して構成した多連結弁装置であり、図2に示すように、旋回用油圧モータ5、ブーム起伏用油圧シリンダ9、ブーム伸縮用油圧シリンダ8、及びウインチ用油圧モータ10の、各アクチュエータにそれぞれ対応する複数の切換弁31、32、33、34と、アウトリガ用油圧シリンダ3L、3Rの、各アクチュエータにそれぞれ対応する複数の切換弁28、29と、各アクチュエータを所望の速度で作動させるためのアクセルシリンダ50とを備えて構成されている。
【0021】
詳しくは、図3に拡大図示するように、コントロールバルブ20の各切換弁31、32、33、34には、メインスプール36が内蔵されている。このメインスプール36は、左右のスプリング36sで通常は中立位置に保持されている。また、このメインスプール36の一端はリンク18rを介して操作レバー18に連結され、さらに、他端にはパイロットピストン37が連設されており、ピストンロッド22の先端には鉄芯23が設けられている。この鉄芯23は、中空円筒形の差動トランスを備えた位置検出器40内に挿入されている。そして、この位置検出器40は、各メインスプール36の変位を検出してその検出した変位の信号をコントローラ30にフィードバックするようになっている。
【0022】
また、各切換弁31、32、33、34それぞれには、一対のソレノイド42L、42Rを有する比例ソレノイド(比例電磁式パイロット弁)41が設けられている。各比例ソレノイド41は、油圧ポンプ17から減圧弁35を介してパイロット圧油が供給されるポートEが常時閉、タンク14へ作動油を戻すポートFが常時開となっており、コントローラ30からソレノイド42L、42Rに制御電流が入力されるとパイロットスプール42sが摺動し、入力電流値によってポートEの開口量が制御される。これにより、パイロットピストン37の左右の油室37L、37Rへのパイロット圧油の供給が制御される。
【0023】
そして、各切換弁31、32、33、34は、パイロットピストン37の油室37R、37Lのいずれか一方にパイロット圧油が供給されると、メインスプール36が左又は右に移動して、サービスポートA、BとポンプポートPとを連通させる。これにより、各切換弁31、32、33、34は、上述した、旋回用油圧モータ5、ブーム起伏用油圧シリンダ9、ブーム伸縮用油圧シリンダ8、ウインチ用油圧モータ10の各アクチュエータを作動させるようになっている。なお、旋回用油圧モータ5、ブーム起伏用油圧シリンダ9、ブーム伸縮用油圧シリンダ8、及びウインチ用油圧モータ10の各アクチュエータは、クレーン1の作業の内容に応じて互いに連動するようにコントローラ30で制御される。例えば、ブーム7の先端とフック13との間の距離を常に一定に保ちながらブーム7を伸長させる場合には、ブーム7の伸長作動に伴ってウインチ11の巻下作動も必要なので、ブーム伸縮用油圧シリンダ8と、ウインチ用油圧モータ10とが連動するようになっている。
【0024】
なお、上記のアウトリガ用油圧シリンダ3L、3Rを駆動するための切換弁28、29についても位置検出器40を有し、各スプールの変位を検出してその検出した変位の信号をコントローラ30にフィードバックするようになっている。
一方、図4に拡大図示するように、車両のエンジン回転を制御するアクセルシリンダ50にも比例ソレノイド(比例電磁式パイロット弁)51が設けられている。この比例ソレノイド51についても、パイロット圧油が供給されるポートEが常時閉、タンク14へ作動油を戻すポートFが常時開となっており、コントローラ30から制御電流が入力されるとパイロットスプール51sが摺動し、入力電流値によってポートEの開口量が制御される。これにより、メインスプール52の油室52sへのパイロット圧油の供給が制御される。
【0025】
さらに、このアクセルシリンダ50にもそのメインスプール52の変位を検出して制御装置のコントローラ30にフィードバックするため位置検出器53が設けられている。そして、コントローラ30は、操作レバー18ないし遠隔操作器19によるアクチュエータの選択と操作量等に基づいてアクセル操作量を求め、必要なアクセル制御信号をアクセルシリンダ50の比例ソレノイド51に出力し、アクセルシリンダ50を作動させるようになっている。また、アクセルシリンダ50の位置検出器53は、その検出値をコントローラ30にフィードバックし、コントローラ30は過不足が有れば必要な補正を行う。なお、油圧ポンプ17からの圧油の吐出量は、アクセル操作によってエンジン15の回転速度を上げるほど多くなる。
【0026】
次に、上記コントローラ30についてより詳しく説明する。
この制御装置のコントローラ30は、以下いずれも図示しない、所定の制御プログラムに基づいて、演算およびこの車両搭載型クレーン1のシステム全体を制御するCPUと、所定領域に予めCPUの制御プログラム等を格納しているROMと、ROM等から読み出したデータやCPUの演算過程で必要な演算結果を格納するためのRAMと、車両搭載型クレーン1の遠隔操作器19等を含めた外部装置に対してデータの入出力を媒介するI/F(インターフェイス)とを有して構成されている。これらは、データを転送するための信号線であるバスで相互にかつデータ授受可能に接続されている。そして、遠隔操作器19からは、クレーン1の各アクチュエータを作動させる実行指令となる所定の操作信号が、オペレータによるスイッチ操作により入力されるようになっている。
【0027】
ここで、このコントローラ30は、コントロールバルブ20のアクセルシリンダ50に粘度センサとしての機能を持たせるようにソフトウェア(圧油粘度測定処理)を構築している。つまり、オペレータが車両のエンジンを始動後(電源投入時)に、圧油の粘度を測定する圧油粘度測定処理を実行し、アクセルシリンダ50の位置検出器53の動きによって圧油の粘度を判断し、これにより、粘度条件に適した制御パラメータを自動選択するようになっている。
【0028】
以下、このコントローラ30での圧油粘度測定処理について詳しく説明する。図5は、コントローラ30で実行される圧油粘度測定処理のフローチャートである。
この車両搭載型クレーン1では、オペレータが車両のエンジン15を始動後に、車両のクラッチを切ってからPTO16を投入すると、車両からクレーン本体の制御装置に電力が供給され、同図に示すように、コントローラ30で圧油粘度測定処理がCPUにおいて実行されて(ステップS1)、アクセルシリンダ50の比例ソレノイドに信号が出力される(ステップS2)。続くステップS3では、アクセルシリンダ50の位置検出器53の移動量(アクセルストローク)が3mmを超えたか否かが判定される。つまり、位置検出器53の移動量が3mmを超えていれば(Yes)、これにより、圧油が供給されたとの判定をしてステップS4に移行し、そうでなければ(No)、ステップS3で待機する。
【0029】
ステップS4では、アクセルシリンダ50の比例ソレノイドへの信号出力を停止してステップS5に移行し、ステップS5では、上記アンロード弁39を駆動してメインリリーフ弁38を開き、これにより、ポンプポートとタンクポートとを連通させたアンロード状態とする。
続くステップS6では、アクセルシリンダ50の比例ソレノイドへの信号出力を停止してばねの力により中立位置に自動復帰させ、このときのアクセルシリンダ50の位置検出器53の移動量(メインスプール52の変位)を監視する。ここでは、位置検出器53の移動量が3mmに達したか否かが判定され、3mm未満であれば(Yes)、ステップS7に移行し、そうでなければ(No)、ステップS6で待機する。
【0030】
ステップS7では、粘度の測定のためのチェックタイマ(カウントアップ)を始動(Timer=0)してステップS8に移行し、ステップS8では、ばねの力により自動復帰するアクセルシリンダ50の位置検出器53の移動量が1mmに達したか否かが判定され、1mm未満であれば(Yes)、ステップS9に移行し、そうでなければ(No)、ステップS8で待機する。
ステップS9では、チェックタイマを停止し、タイマの始動から停止までにカウントアップされた時間(Timer)を、位置検出器53が3mmから1mmまで移動した移動時間として記憶してステップS10に移行する。
【0031】
ステップS10では、上記タイマでカウントアップされた移動時間(Timer)が、所定の判定時間を超えているか否かが判定される。すなわち、圧油の粘度が高い場合には、アクセルシリンダ50のメインスプール52の中立位置への復帰時間が遅くなり、圧油の粘度が低い場合には、アクセルシリンダ50のメインスプール52の復帰時間が早くなる。そこで、本実施形態においては、図9に示すように、予め測定されている作動油の粘度と測定時間(測定開始から測定終了までの時間)との関係に基づいて、同図の測定時間と上記タイマでカウントアップされた移動時間とを比較することによって、圧油の粘度(ないし温度)を測定(推定)している。なお、図9のグラフは、クレーンに使用される種々の油に対応して用意されており、圧油粘度測定処理時において、対応する油のデータが参照される。
【0032】
すなわち、ステップS10では、メインスプール52の移動時間が所定の判定時間を超えていれば(Yes)、作動油の粘度が高いと判定してステップS11に移行し、そうでなければ(No)、作動油の粘度が低いと判定してステップS12に移行する。ステップS11では、偏差に掛け合わせるゲインを高粘度用に合わせる「高粘度モード」が設定されてステップS12に移行する。なお、「高粘度モード」が設定されない場合には、偏差に掛け合わせるゲインを通常粘度用に合わせる「通常粘度モード」に設定される。そして、ステップS12では、アンロード弁39の駆動を停止して通常の状態に復帰し、当該圧油粘度測定処理を終了して手動又は遠隔操作器の操作待ち状態となるようになっている。ここで、この圧油粘度測定処理のフローチャートに示す、ステップS1〜S12が上記課題を解決するための手段に記載の「圧油粘度測定手段」に対応し、そのうちのステップS10〜S11が上記「制御パラメータ選択手段」に対応している。
【0033】
次に、この車両搭載型クレーン1の制御装置の作用・効果について図6〜図8を適宜参照しつつ説明する。なお、図6はコントローラ30での圧油粘度測定処理に係るタイミングチャートである。また、図7および図8はアクセルシリンダ50の縦断面図であり、図7は比例ソレノイドに制御信号が出力されているが、圧油が供給されていない状態を示し、図8は比例ソレノイドに制御信号が出力されるとともに、圧油が供給されている状態を示している。
【0034】
上述のように、この制御装置のコントローラ30は、オペレータが車両のエンジン15を始動後に、車両のクラッチを切ってからPTO16を投入すると、車両からクレーン本体の制御装置に電力が供給され、コントローラ30では、上記圧油粘度測定処理が実行されて、アクセルシリンダ50を一旦作動させ、メインスプール52の自動復帰時に、その位置検出器53の所定距離あたりの移動時間によって圧油の粘度を判断し、これにより、粘度条件に適した制御パラメータを自動選択するので、クレーン作業を開始する場合に、車両のエンジン15を始動直後に、温度センサや粘度センサ等の部品を追加することなくコントロールバルブ20に供給される圧油の粘度を測定することができる。
【0035】
ここで、PTO16投入直後は、図6での符号aに示す範囲(時間)である。つまり、PTO16を投入後に電力はすぐに供給されるものの、油圧ポンプ17が駆動し、圧油がコントロールバルブ20に供給されるまでには、図6での符号aおよび符号bに示す範囲(時間)において、アクセルシリンダ50の比例ソレノイド51に信号が出力されるまでの時間(符号a)から、実際の油圧が立つまでの時間(符号b)までのタイムラグがあり、油圧が立っていない状態がある。そこで、このコントローラ30で実行される圧油粘度測定処理では、上記のPTO16投入直後のチェック後に、ステップS3(図5参照)を経ることによって、油圧が立つまでのタイムラグを確実に経た状態で、圧油の粘度の測定を開始するようにしている。
【0036】
つまり、図4に示すように、アクセルシリンダ50は、初めはその比例ソレノイド51に制御信号が出力されていないため、メインスプール52はばねの付勢力により初期位置に位置しており、位置検出器53はその初期位置に応じた変位の信号を出力している。次いで、比例ソレノイド51に制御信号が出力されると(ステップS2)、図7に示すように、パイロットスプール51sは摺動するものの、圧油が供給されるまではメインスプール52は動かない。したがって、位置検出器53からの変位の信号に変化は生じない。これに対し、タイムラグ後(図6での符号a〜bを経た後)には、油路に圧油が供給されるとポートEからメインスプール52の油室52sへ圧油が供給され、これにより、図8に示すように、メインスプール52が摺動するため、その変位に応じて位置検出器53からの変位の信号が出力される。したがって、コントローラ30は、位置検出器53からの信号の変化(本実施形態の例では「3mm」)を監視することによってコントロールバルブ20に圧油が供給された状態か否かを判定しているのである(圧油供給状態判定手段)。なお、このコントローラ30で実行される圧油粘度測定処理では、アクセルシリンダ50を一旦作動させることになるが、アクセルシリンダ50を作動させてもクレーン自体が動くわけではないので安全上の問題はない。また、このときは、上記移動時間の測定をただちには開始しない。移動時間の測定はアクセルシリンダが戻る時に行う。
【0037】
つまり、このコントローラ30は、圧油供給状態判定手段を備えており(上記ステップS3)、この圧油供給状態判定手段は、アクセルシリンダ50のみを一旦作動させて、そのアクセルシリンダ50の位置検出器53からの信号に基づいて、油路に圧油が供給された状態か否かを判定するので、例えば圧力センサ等の部品を追加することなくコントロールバルブ20に圧油が供給された状態か否かを判定することができる。
【0038】
そして、このコントローラ30で実行される圧油粘度測定処理では、上記ステップS3で、位置検出器53からの信号が初期位置の範囲を超えていないとき(図6での符号cに示す、アンロード信号が出力されるとともに、アクセルシリンダ50の比例ソレノイド51ヘの出力を停止時の範囲(時間)に到るまで)は、ステップS3にて待機し、その後に、油圧ポンプ17から圧油がコントロールバルブ20に供給されるとアクセルシリンダ50が動き出すので、コントロールバルブ20に圧油が確実に供給された後に次のステップに移行するのである。
【0039】
次いで、コントローラ30は、アクセルシリンダ50の移動量が初期位置とする範囲を外れた時点でその比例ソレノイド51ヘの出力を停止し(ステップS4)、さらに、アンロード弁39を駆動してアンロード状態とする(ステップS5)。そのため、比例ソレノイド51の出力が停止され、さらにアンロード弁39も駆動されているため、アクセルシリンダ50は自身に内蔵されているばねのカでメインスプール52が初期位置(中立位置)に戻りはじめる(図6での符号dに示す範囲(時間))。
これにより、万一アクセルシリンダ50の比例ソレノイド51が機械的に開いた状態で引っかかってしまった場合でも、アクセルシリンダ50の戻りのばねカで確実にアクセルシリンダ50のメインスプール52を初期位置に戻すことができる。
【0040】
次いで、コントローラ30は、アクセルシリンダ50が測定開始位置(図6での符号S)とする範囲(本実施形態では例えば3mm)内に自動復帰したら(ステップS6)、チェックタイマを始動し(ステップS7)、その後、測定終了位置(図6での符号E)に達するまでの設定距離(本実施形態では例えば3mm〜1mmの範囲)におけるアクセルシリンダ50のメインスプール52の自動復帰に要した復帰時間(図6での符号eに示す範囲(時間))を測定する(ステップS8、S9)。そして、設定距離中、メインスプール52の自動復帰に要した復帰時間(移動時間)が判定時間内(例えば図6での符号e2)であった場合は、正常粘度と判定してアンロード弁39を停止し(ステップS12)、手動又は遠隔操作器の操作待ち状態となる。また、この復帰時間(移動時間)が判定時間を超えた場合(例えば図6での符号e3)は、圧油の状態が高粘度であると判定して、高粘度用のパラメータに切り換える「高粘度モード」に設定してから手動又は遠隔操作器の操作待ち状態に移行するので、コストを上げることなく自動的に粘度条件に適したパラメータに切換ることができる。
【0041】
以上説明したように、このコントローラ30によれば、アクセルシリンダ50を一旦作動させて、当該アクセルシリンダ50が中立位置に復帰時に、その位置検出器53の信号から算出したメインスプール52の復帰時間(移動時間)に基づいて、供給される圧油の粘度を測定するので、粘度センサ等を用いることなく、コントロールバルブ20に圧油が供給されたかどうかの確認ができる。そのため、粘度センサ等の部品の追加が不要であり、また、そのようなセンサ等の信号をコントローラに別途に取り込む必要もなく、また、センサ用の入力ポートをコントローラに追加する必要もない。
さらに、このコントローラ30によれば、圧油の粘度を測定することが可能となるため、粘度の状態によって、偏差に掛け合わせるゲイン(粘度条件に適した制御パラメータ)を通常粘度用に合わせる「通常粘度モード」から「高粘度モード」に自動で切り換えることが可能となる。
【0042】
なお、本発明に係る制御装置は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しなければ種々の変形が可能である。
例えば、上記実施形態では、本発明に係る車両に搭載される作業機械の一実施形態として、車両搭載型クレーンを例に説明したが、これに限定されず、本発明に係る作業機械が搭載された車両としては、クレーン車、高所作業車、ホイールローダ、あるいはパワーショベル等に適用することができる。
【0043】
また、本実施例では通常のモードと高粘度モードの2段階に分けて圧油の粘度を判定する例で説明したが、判定時間をより細かく分割することができるのは勿論である。例えば、図6において、符号e1に示す範囲において更に粘度判定すれば低粘度状態(油音が高温)であるとの判定を更に盛り込むことができる。また、上記実施形態では、「高粘度モード」と「通常粘度モード」の二つのモードに設定される例で説明したが、より多くの判定に対応させて、より多くの動作モードによる子細な設定をすることもできる。
【符号の説明】
【0044】
1 車両搭載型クレーン(作業機械)
2 アウトリガ
3L、3R アウトリガ用油圧シリンダ(アクチュエータ)
4 ベース
5 旋回用油圧モータ(アクチュエータ)
6 コラム
7 ブーム
8 ブーム伸縮用油圧シリンダ(アクチュエータ)
9 ブーム起伏用油圧シリンダ(アクチュエータ)
10 ウインチ用油圧モータ(アクチュエータ)
11 ウインチ
12 ワイヤロープ
13 フック
14 タンク
15 エンジン
16 PTO
17 油圧ポンプ
18 操作レバー
19 遠隔操作器
20 コントロールバルブ
22 ピストンロッド
23 鉄芯
28、29 (アウトリガ用)切換弁
30 コントローラ
31、32、33、34 切換弁
35 減圧弁
36 メインスプール
37 パイロットピストン
37L、37R 油室
38 メインリリーフ弁
39 アンロード弁
40 位置検出器
41 比例ソレノイド
42L、42R ソレノイド
50 アクセルシリンダ
51 比例ソレノイド
52 メインスプール(スプール)
53 位置検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧ポンプと、該油圧ポンプを油圧源とするアクチュエータと、該アクチュエータを所望の速度で作動させるためのアクセルシリンダおよび前記アクチュエータを作動させるための圧油を給排する切換弁を有するコントロールバルブとを備え、前記アクセルシリンダが、そのスプールの操作量に応じた位置を検出する位置検出器を有する作業機械に用いられる制御装置であって、
前記コントロールバルブに供給される圧油の粘度を測定する圧油粘度測定手段を備え、当該圧油粘度測定手段は、前記アクセルシリンダを一旦作動させて、当該アクセルシリンダが中立位置に復帰時に、その位置検出器の信号から算出したスプールの復帰時間に基づいて、供給される圧油の粘度を測定することを特徴とする作業機械用制御装置。
【請求項2】
前記圧油粘度測定手段で圧油の粘度を測定し、粘度条件に適した制御パラメータを自動選択する制御パラメータ選択手段を更に有することを特徴とする請求項1に記載の作業機械用制御装置。
【請求項3】
前記圧油粘度測定手段は、供給される圧油の粘度の測定を、電源投入時に実行することを特徴とする請求項1または2に記載の作業機械用制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−69429(P2011−69429A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−220374(P2009−220374)
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【出願人】(506002823)古河ユニック株式会社 (54)
【Fターム(参考)】