説明

作業環境監視システム

【課題】本発明は作業環境監視システムに関し、作業現場で稼動する移動式の作業機械と周囲の作業者、機械設備、構造物との接触事故の防止対策に効率的に利用することができるものである。
【解決手段】 油圧ショベル12のような旋回部を備えた作業機械の周囲における作業者16, 18のヘルメット等の適当な部位に無線式のICタグ22A, 22B, 22Cを装着させ、無線式のICタグ22A, 22B, 22Cにはその作業者の名前や、作業内容や、所属などの属性を記憶させる。油圧ショベル12側には無線受信装置40を装備させ、無線受信装置により受信されるICタグ22A, 22B, 22Cからの無線信号の強度により作業者までの距離を判別する。そして、ICタグから読み取りされるデータより、作業者が協調作業者の場合は非協調作業者より短い距離で警報を発するとか、警報音を小さくするとか、属性にマッチした警報処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は作業環境監視システムに関し、作業現場で稼動する移動式の作業機械と周囲の作業者、機械設備、構造物等の監視対象物との接触事故の防止対策に効率的に利用することができるものである。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベルやクレーンなどのような旋回体を供える移動式の作業機械においてはその周囲で作業を行う作業者の安全対策が重要である。そのような安全対策として、作業機側に設置した光電式のセンサによって作業機械への作業者の接近を検出し、警報を発するようにしたものがあったが、この種のセンサは作業者のみならず近接した看板や建造物などの警報を発する必要のない対象物にも過敏に反応してしまう欠点があった。そこで、各作業者に無線送信機を携帯させると共に、作業機械側には無線受信機を設置し、無線送信機と無線受信機との距離が所定の距離に来たとき、警報音を発生するようにしたものが提案されている(特許文献1)。
【特許文献1】特開平9−62968号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来技術では、作業者に無線送信機機を作業機械側に距離センサを設け、周辺作業者との距離が接近した場合に警報音を発するようにしている。そのため、警報が必要となる作業者のみに反応させることができるため、誤警報の発生は少なくすることができる。即ち、従来技術では無線機を携帯する作業者に対しては作業機械に接近すると一律に警報が出される仕組みである。しかしながら、同じ作業者といっても、その機械に協調して作業する作業者と、別の作業や休憩などのためそこを単に通過するに過ぎない作業者(単なる工事関係者)とでは作業機械に対する協調の度合いが相違するため、的確な警報を発し得なかった。即ち、協調作業者はどうしても機械の近くで作業するため警報を発生する距離の閾値としては短く設定したい要求がある。さもないと煩雑に警報が発され、煩わしいため警報装置自体の動作スイッチをOFFして作業するようなことがあり、安全の観点から好ましくない。逆に、非協調の作業者の場合は安全のため距離の閾値としては十分な余裕を持ちたいという要請がある。
【0004】
この発明は以上の問題点に鑑みてなされたものであり、作業機械に対する作業者の協調度合いに応じて最適な警報を行いうるようにし、安全と作業効率との最大の調和を得ることが実現させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の発明によれば、作業機械の周囲における監視対象物の監視のためのシステムであって、監視対象物に装備されるデータキャリヤ装置と、作業機械に装備されるデータ処理装置とを具備して成り、前記データキャリヤ装置は当該監視対象物の属性データを格納するデータ格納手段と、データ格納手段に格納されたデータを送信する送信手段とを備え、データ処理装置は送信手段からの当該監視対象物のデータを受信する受信手段と、受信手段により受信されたデータより当該監視対象物の属性の判別を行う判別手段とを備えることを特徴とする作業環境監視システムが提供される。
【0006】
請求項1の発明の作用・効果を説明すると、作業者等の監視対象物にはデータキャリヤ装置が装備され、そのデータキャリヤ装置に設けられるデータ格納手段には作業者等の監視対象物の属性(例えば、作業者が属する事業所名、作業者の個人名、分担作業内容等)が格納されているため、属性判別手段によりその属性の判別を行うことにより当該監視対象物にとって最善の監視作業を行うことができ、安全性と作業能率との調和を図ることができる。
【0007】
請求項2に記載の発明によれば、作業機械の周囲における監視対象物の監視のためのシステムであって、監視対象物に装備されるデータキャリヤ装置と、作業機械に装備されるデータ処理装置とを具備して成り、前記データキャリヤ装置は当該監視対象物の属性データを格納するデータ格納手段と、データ格納手段に格納されたデータを無線送信する送信手段とを備え、データ処理装置は送信手段からの当該監視対象物のデータを受信する受信手段と、受信手段により受信された無線信号の強度より作業機械から当該監視対象物までの距離の判別を行う手段とを備えることを特徴とする作業環境監視システムが提供される。
【0008】
請求項2の発明の作用・効果を説明すると、データキャリヤ装置から送信されて来る作業者等の監視対象物の属性判断(協調作業する者かそうでない単なる作業者者かの属性の判断等)と、その送信強度から判別される当該監視対象物と作業機械との距離とにより、当該監視対象物の属性に最適な監視動作を実現できる。
【0009】
請求項3に記載の発明によれば、作業機械の周囲における監視対象物の監視のためのシステムであって、監視対象物に装備されるデータキャリヤ装置と、作業機械に装備されるデータ処理装置とを具備して成り、前記データキャリヤ装置は当該監視対象物の属性データを格納するデータ格納手段と、データ格納手段に格納されたデータを無線送信する送信手段とを備え、データ処理装置は送信手段からの当該監視対象物のデータを受信する受信手段と、受信手段により受信された無線信号の強度より作業機械から当該監視対象物までの距離の判別を行う手段と、受信手段により受信されたデータより当該監視対象物の属性の判別を行う判別手段と、作業機械から当該監視対象物までの距離及び当該監視対象物の属性の判別結果から所望の監視動作を行わしめる手段とを備えたことを特徴とする作業環境監視システムが提供される。
【0010】
請求項3の発明の作用・効果を説明すると、作業機械から当該監視対象物までの距離及び当該監視対象物の属性から監視動作を行っているため、強調作業者の場合とそうでない場合とで危険有無の判断の閾値となる距離の値を変化させたり、警報音を大小変化させたりすることができ、安全性を確保しつつ作業能率のより一層の向上の実現を図ることができる。
【0011】
請求項4に記載の発明によれば、請求項2若しくは3に記載の発明において、無線信号の受信強度から判別された距離計測精度の補完のための手段を具備していることを特徴とする作業環境監視システムが提供される。
【0012】
請求項4の発明の作用・効果を説明すると、無線電波の受信強度による距離計測精度は障害物やアンテナの位置の状態など各種の要因による精度低下が回避しえないが、同一当該監視対象物に複数の送信手段を設けたり、アンテナの設置位置や設置数の設定や、アンテナの方向制御などの補完手段により、受信強度による距離計測に関らず所望の距離計測精度をいつも維持することができる。
【0013】
請求項5に記載の発明によれば、請求項3若しくは4に記載の発明において、作業機械の作業内容を判別する作業内容判別手段を更に備え、前記監視手段は、作業機械から当該監視対象物までの距離及び当該監視対象物の属性の判別結果に加え、前記作業内容判別手段による作業機械の作業内容の判別結果により所望の監視動作を行うようにされる作業環境監視システムが提供される。
【0014】
請求項5の発明の作用・効果を説明すると、作業機械の旋回操作や移動操作等の作業内容を判別し、この判別結果に応じて監視を行っているため、より的確な監視を行うことができる。
【0015】
請求項6に記載の発明によれば、請求項3から5のいずれか一項に記載の発明において、前記監視手段は、各種判別結果から警報の要否を判別する判別手段と、判別手段により警報必要との判別時に警報を行う手段とから構成される作業環境監視システムが提供される。
【0016】
請求項6の発明の作用・効果を説明すると、作業機械から当該監視対象物までの距離や、当該監視対象物の属性や、作業機械の作業内容等を判別し、警報を行っているため的確な危険回避を行いつつ作業を行うことができる。
【0017】
請求項7に記載の発明によれば、請求項6に記載の発明において、前記警報手段は音響による警報手段と、視覚による警報手段とを備える作業環境監視システムが提供される。
【0018】
請求項7の発明の作用・効果を説明すると、音による警報と光による警報とを適宜使い分けることで作業効率を維持しつつ危険防止を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1において、10は建設現場の路面を示しており、路面10を油圧ショベル12(この発明の旋回移動部を備えた作業機械)が走行しながら作業を行う。油圧ショベル12は旋回部14を備えており、旋回部14は作業中に2.8メートルといった回転半径で旋回しながら作業を行うため、旋回中の旋回部14がその周りの作業者16, 18や別の作業機械20(例えばロード・ローラ)や、図示しない建造物のような監視対象物に接触する事故がないように十分な安全性が確保される必要がある。この発明は以下のような作業環境監視システムを構築することによりこの目的を達成するものである。
【0020】
まず、旋回移動部を備えた作業機械に対する安全を図るべき、作業者、建造物、建設機械といった監視対象物には所謂FRID(Radio Frequency Identification)型の無線ICタグ22A, 22B, 22C(本発明のデータキャリヤ)が設けられる。無線ICタグ22A, 22B, 22C は、図示の例では、作業者16、作業者18、ロード・ローラ型の作業機械20に装着されている。無線ICタグ22A, 22B, 22Cは監視対象物としての作業者や作業機械や建造物の属性データを格納することができると共に格納データを無線によって送信可能となっている。例えば、作業者16, 18に装着される無線ICタグ22A, 22Bはその作業者の氏名などの個人情報や、その作業者が属する事業所名や、その作業者が関る作業内容データ等を収納している。従って、それらのデータより、監視対象が、油圧ショベル12と協調作業を行う作業者か又は油圧ショベル12による作業とは全然無関係の作業者(非協調作業者)かを即座に把握することができる。また、作業機械20に装着されている無線ICタグ22Cからその作業機械20の特定ができ、その他、無線ICタグ22A, 22B, 22C にはそれが装着される作業者、作業機械、建造物などの監視対象物の監視必要な属性であれば必要な如何なるものでもデータとして格納することができる。無線ICタグの設置及びそれに格納される情報により人、物、機械の区別ができ、人の安全を最優先に効率的作業を行うことができるが、その他、無線ICタグの設置位置としては斜面境界面付近に設置することにより、機械の転落事故の防止に寄与させることができる。また、無線ICタグを工事境界付近に設置することで、境界付近で他の作業を行っている作業者や、工事境界内に第3者の無断侵入があった場合に警報によりそのような第3者に危性の注意喚起を行わしめるのにも役立たせることができる。
【0021】
図2は無線ICタグ22A, 22B, 22Cの機能的構成を概念的に示すブロックダイアグラムであり、無線ICタグは、当該上述した監視対象物の属性データを格納する記憶部30と、属性データの無線送信のための送信部31と、送信アンテナ33と、記憶部30からのデータの取り出し及び送信部31からの無線送信のための制御部32とから構成される。
【0022】
図1において、安全の監視が必要となる旋回部を有する作業機械である油圧ショベル12は受信装置(または受信機)40を備え、受信装置40は油圧ショベル12の運転室12-1に配置された車載コンピュータ42に接続される。車載コンピュータ42としては、汎用型のノート式パーソナルコンピュータを採用することができる。油圧ショベルのような安全の監視が必要となる旋回部を有するその他クレーンなどの各作業機械にも同様な受信装置40と車載コンピュータ42が設けられる。こられの作業機械の車載コンピュータ42は、その作業現場の管理建物に設置した所に設置棟に設置される管理用コンピュータ44に無線式のLAN(ローカルエリアネットワーク)等により接続されている。
【0023】
図3は安全の監視が必要となる油圧ショベル12のような移動式の作業機械に設置される受信装置40の構成を概略的に示すブロックダイアグラムである。即ち、各受信装置40は受信アンテナ45(必要に応じ複数設けることができる)を備えると共に、マイクロコンピュータシステムとして構成され、マイクロプロセシングユニット(MPU)46と、各監視対象物に装着された無線ICタグ22A, 22B, 22Cから無線送信されてくる属性データを受信する受信部48と、当該移動式作業機械12に設けられた車載コンピュータ42とのインターフェース50とを備える。また、受信アンテナ45として方向可変とした場合はその方向制御モータ52の駆動のための駆動部54とを備える。
【0024】
油圧ショベル12のような移動式の作業機械の場合、旋回操作は移動部分が作業員の視界範囲から外れるため危険度合いが高く、前進や掘削などの移動操作の場合は移動部分が作業員の視界範囲内であるため危険度合いは旋回操作より低い。この実施形態では旋回操作センサ56及び移動操作センサ58を設け、こられのセンサ56, 58からの信号をインターフェース60を介してマイクロプロセシングユニット46に取り入れ、後述のソフトウエア処理により作業内容を判別することにより監視動作を行っている。そして、監視動作としては、音による警報及び光による警報を組み合わせることにより的確な警報動作を実現するようにしている。音による警報手段としてはこの実施形態では車載コンピュータ42に具備せしめられたスピーカによる運転手への警報を行うようにしている。また、光による警報手段としてLEDによる多色発光部62を運転席に設け、夫々の色彩のLEDの点灯・点滅により運転者への警報を行うようにしている。
【0025】
本発明においては、油圧ショベルのような作業機械と、作業者等の監視対象との間の距離を無線送信装置から無線受信装置への受信強度により把握している。まず、距離算出方式を概略的に説明すると、無線強度は距離の2乗に反比例する関係があるので、作業機械と監視対象との距離は、受信部48により受信される無線ICタグ22A, 22B, 22Cからの無線信号の強度により基本的には把握することができる。しかしながら、この手法による距離計測は各種の要因による影響を受けやすく、計測精度の確保のため各種の補完手段を具備せしめることが好ましい。第1に無線強度は送信側と受信側とでアンテナ33, 45の相対角度に依存するのでその較正の必要があるが、受信強度の較正手段としては、
1. 作業機械12の位置や姿勢の変化を検出し、これによりアンテナ45の向きの変化を推定し、受信強度の補正をすることができる。
2. 同一ICタグの信号を高速・連続的に計測し、ICタグの移動軌跡を求め、ICタグの存在位置として矛盾するデータを排除した真のICタグ位置と移動軌跡を把握する。
3. アンテナに水平方向の一定領域を走査(駆動部54によりモータ52を駆動)する機能を付与し、全領域でアンテナの正対関係が得られるようにする。
4. 最大の受信強度が得られる方向にアンテナの向きを常時移動させる(モータ52によるアンテナ45の自動追尾機能を持たせる)。
【0026】
また、無線ICタグからの信号を同時に2個以上のアンテナ45で受信するようにすることで、無線ICタグの位置の推定を行うことができる。即ち、図4において、3個の受信装置の位置A, B, C をx−y座標系表示にて示す。また、一つの無線ICタグの位置をPにて示す。無線ICタグの位置Pは不明であるが、3個の受信装置40の位置A, B, Cはそこに搭載されるGPS装置等により既知であるとする。そして、位置Pに存するタグから発せられる電波強度をIpとする。無線ICタグの位置Pの推定は以下のように行われる。
【0027】
1. 三角形ABCの各辺AB, BC, CAの線分を考えたとき、各線分を表す方程式を各点A, B, Cの座標(xA, yA), (xB, yB), (xC, yC) から算出する。
2. 線分ABに対し、点Pから垂線を下した交点をQとし、その座標を(xQ, yQ)とする。このとき、点Qは点Pの線分AB上の投影となる。
3. 点Aで受信したICタグPの受信信号の強度P(A)と、点Bで受信したタグPの受信信号の強度P(B)は、位置Qから仮に電波が発せられたとして強度変換することができる。このとき、Qから発せられた電波を点Aで受信したときの強度をQ(A)、同様に点Bでの強度をQ(B)としてQの位置は電波強度が距離の2乗に反比例することから、測定されたQ(A)(∝P(A)), Q(B)(∝P(B))より想定できる。
4. 想定されたQの座標からPに向かって延びる線分QPの方程式は、点Qを通る線分ABを示す方程式の逆数になる。
5. 同様にして線分PR, SPも求めることができる。
6. 点Pの位置は、線分QP, RP, SPの交点であるため、各線分のx座標、y座標値が同一となるようにして求められる。
【0028】
上記、位置推定方法において、P(A), P(B), Q(A), Q(A)の値は環境変動や、電波が伝播する空間に存在する物質の影響を受けるのでその点を留意する必要がある。前提として全ての機器は固定されており、移動を伴う場合は、移動予測(線形予測、非線形予測)や、データの加重平均、移動平均、その他の予測誤差を軽減できる統計処理を用い、測定誤差や環境変動などによる推定位置情報の変動の抑制を図る必要がある。なお、上記手法による位置推定は以下の前提に立っていることに留意されたい。
【0029】
1. 電波源は理想的な点源として考えている。点源からの電波は球状にあらゆる方向に均一拡散する。
2. 受信機は理想的な無指向性受信機とみなす。
3. 電波源から受信機にかけては均質な空間が広がっている。
4. 受信機の受信特性は距離に対してリニアな変化を示すものである。しかしながら、現実には送信機の電波放出アンテナの位置が偏っており、かついびつな形状であること、受信機の指向特性が若干ではあっても存在すること、受信機、送信機間には何らかの物質(人、機械、空間中の水分等)が偏在していることが想定され、均質でないこと、更に、それらの物質は常に変動下にあり、位置や濃度が常に変化していること、受信機はダイパーシティ効果があるにしても距離の変化に対して非線形な受信特性を示すことがあるし、その上、周囲から常に他の機器、電波源が発する電波が存在しているなど、理想状態とは程遠い環境・条件であることに配慮が必要である。
【0030】
以上は距離算出における受信装置側での較正手段であるが、監視対象に装着される無線ICタグ22A, 22B, 22Cについて説明すると、無線ICタグの装着位置や状態に影響を受けないようにすることが必要である。図5は監視対象としての作業者16, 18の場合における無線ICタグの配置例を示す。図5(イ)は作業者のヘルメットに無線ICタグ22A, 22Bを設けると共に、ヘルメット全周に沿って等間隔に複数のアンテナ33を設置することで作業者の向きによる受信感度低下を防止するようにしたものである。また、図5(ロ)では無線ICタグ22A, 22Bを設けた作業者のヘルメット頂部にアンテナを設けることで、全方位に信号を発信可能としたものである。
【0031】
本発明においては、監視動作は受信装置40のマイクロプロセシングユニット46に内蔵されたメモリ(リードオンリメモリ)に格納されたプログラムに従って監視動作を行う。この監視動作のごく大まかな流れを図6の概略フローチャートによって説明する。
【0032】
図6で処理70は無線ICタグ22A, 22B, 22Cからの各監視対象物の属性データの入力を示している。この際、効率的な信号取得を行うため、作業機械の移動計画領域若しくはその近傍に存在する無線ICタグ22A, 22B, 22Cのデータのみを取り込むようにする仕組みが有効である。
【0033】
処理72は無線ICタグ22A, 22B, 22Cからの無線信号の強度による距離算出を示している。距離算出方式については既に説明の通りであり、必要に応じて、距離計測値の較正・補完が上述のように実施される。
【0034】
処理74は各無線ICタグ22A, 22B, 22Cからの入力データより監視対象の属性、即ち、発信源が作業者16, 18であるか、作業者とした場合、協調作業者か否か、作業機械20であるか、他の建造物であるか、その他、当該監視対象の各種の属性要因の判別が実行される。
【0035】
処理76は警報処理を示している。処理74により特定された監視対象の属性、即ち、発信源が作業者16, 18であるか、作業機械20であるか、他の建造物であるか等に応じて警報が発される。例えば、作業者16, 18が作業機械12と協調関係にある作業者とした場合、作業者16, 18はその作業機械12に極く接近した作業することが想定されており、危険性の意識も高いから、警報を発するか否かの距離の閾値は短くすることができる、また、警報音も相対的に小さく設定することができる。他方、作業者16, 18が作業機械12と協調関係にない作業者の場合は、危険性の意識はそもそも低いことから、警報を発するか否かの距離の閾値は十分長くとり、また警報音の設定も大きくすることにより、必要な安全性の確保を図ることができる。このように、本発明では、監視対象の属性、即ち、発信源が作業者16, 18であるか、作業機械20であるか、他の建造物であるかに応じて、警報を発する距離の閾値及び音量等の警報因子が変化されるため、安全性を確保しつつ、過剰反応的に警報が発されることにより作業が不必要に中断されてしまうことを解消でき、最大限の安全性の確保と作業効率の維持若しくは増大との相矛盾する要求の調和を実現することができる。
【0036】
図7は警報処理76の内容を、作業機械12が油圧ショベルとしてより具体化した一例であり、ステップS1では要警告エリアか否かの判断が行われる。要警告エリアとしては、油圧ショベルの回転部14の回転半径を2.8メートルとしたとき、侵入者の警告があってから運転者の操作により停止するまでの距離に十分な余裕代を加えた距離に設定され、例えば半径4.0メートルの領域に設定することができる。必要に応じて強調作業員か否かげ警告半径を変えたり、移動の内の後退のみ警報を発するなどの設定も可能である。ステップS1で要警告エリアでない、との判断のときはステップS2に進み音及び光の警報は出されない。ステップS1で要警告エリアであるとの判断のときは次の処理S3では油圧ショベル12が旋回作業中か否かが旋回操作センサ56からの検出信号により判断される。旋回作業中との判断のときは処理S4に進み、そのエリアへの侵入者が協調作業員か否かの判断がされる。協調作業員との判断のときはステップS5で間欠音発生処理が行われ、車載コンピュータ42のスピーカーより間欠音を発生せしめ、次いでステップS6で運転席の警告用のLED62を青色点滅させる。他方、処理S4で協調作業員ではない、すなわち、単なる工事関係者との判断のときはステップS7に進み、連続音発生処理が行われ、車載コンピュータ42のスピーカーより連続音を発生せしめ、次いで処理S8で運転席の警告用のLED62を赤色点滅させる。
【0037】
要警告エリアであるが旋回操作でない場合はステップS3よりステップS9に進み、移動操作か否かの判断がされる。移動操作との判断の場合はステップS10で協調作業員か否かの判断がされる。協調作業員との判断のときはステップS11で連続音が発生せしめられ、次いでS12で運転席の警告用のLED62を青色点滅させる。他方、ステップS10で協調作業員ではないとの判断のときはステップS13に進み、車載コンピュータ42のスピーカーより連続音を発生せしめ、次いでS14で運転席の警告用のLED62を赤色点滅させる。
【0038】
要警告エリアであるが旋回操作でも移動操作でもない場合はステップS9よりステップS15に進み、協調作業員か否かの判断がされる。協調作業員との判断のときはステップS16で警報音の発生は無しとされ、次いでS17で運転席の警告用のLED62を青色点灯させる。他方、ステップS15で協調作業員ではないとの判断のときはステップS18に進み、車載コンピュータ42のスピーカーより間欠音を発生せしめ、次いでS19で運転席の警告用のLED62を赤色点灯させる。
【0039】
以上のようにこの実施形態の警報作動にあっては、要警告エリアへの作業員の侵入があった場合に、協調作業員か単なる工事関係者かを区別し、作業機械の操作状態も判別し、かつ警報音及び警告光の動作態様を連続音か間欠音か、連続光か点滅か、赤色か青色か等適宜切り替えることで、運転者に侵入者に応じた的確な対応を促すことができる。
【0040】
このようにして図6の警報処理76が完了すると、データ出力処理78に進み、受信装置40から当該作業機械12の車載コンピュータ42へのデータ出力が行われる。即ち、車載コンピュータ42には各無線ICタグ22A, 22B, 22Cからの入力データより監視対象の属性、作業機械12との位置などの情報が入力され、作業機械12のオペレータは車載コンピュータ42の画面を見ながら、当該作業機械12の周囲の作業員の配置を確認することができ、作業機械の安全な操作に寄与せしめることができる。また、車載コンピュータ42は無線LANによって作業現場の管理建物などに設置した管理コンピュータ44に接続されているため、管理コンピュータ44は当該作業現場全体の作業機械及び作業員の動きを記録することができ、効率的な安全管理が実現され、また、管理コンピュータ44に記録された画像データなどを作業員の安全教育などに利用することができる。
【0041】
本発明の変形実施形態として作業機械にカメラを設置し、アンテナ向きの変動により作業者の無線ICタグからの属性データの受信が不能な場合に、カメラ映像よりデータの補完を行うようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】図1はこの発明の作業環境監視システムの概略構成図である。
【図2】図2は無線ICタグの概略構成を示すブロックダイアグラムである。
【図3】図3は受信装置の概略構成を示すブロックダイアグラムである。
【図4】図4は複数の無線ICタグと一台の受信装置との位置関係よりの相対距離の算出を説明するグラフである。
【図5】図5は作業者のヘルメットへの送信アンテナの配置法の2例(イ)(ロ)を示す図である。
【図6】図6はこの発明の作業環境監視システムによる警報処理の概略を示すフローチャートである。
【図7】図7は図6の警報処理における動作をより具体化したフローチャートである。
【符号の説明】
【0043】
12…油圧ショベル
14…旋回部
16, 18…作業者
20…ロード・ローラ
22A, 22B, 22C…無線ICタグ
30…記憶部
31…送信部
32…制御部
32…制御部
33…送信アンテナ
42…車載コンピュータ
44…管理用コンピュータ
45…受信アンテナ
46…MPU
48…受信部
50…車載コンピュータとのインターフェース
52…受信アンテナ方向制御モータ
54…モータ駆動部
70…データ入力処理
72…距離算出処理
74…属性判別処理
76…警報処理
74…データ出力処理

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業機械の周囲における監視対象物の監視のためのシステムであって、監視対象物に装備されるデータキャリヤ装置と、作業機械に装備されるデータ処理装置とを具備して成り、前記データキャリヤ装置は当該監視対象物の属性データを格納するデータ格納手段と、データ格納手段に格納されたデータを送信する送信手段とを備え、データ処理装置は送信手段からの当該監視対象物のデータを受信する受信手段と、受信手段により受信されたデータより当該監視対象物の属性の判別を行う判別手段とを備えることを特徴とする作業環境監視システム。
【請求項2】
作業機械の周囲における監視対象物の監視のためのシステムであって、監視対象物に装備されるデータキャリヤ装置と、作業機械に装備されるデータ処理装置とを具備して成り、前記データキャリヤ装置は当該監視対象物の属性データを格納するデータ格納手段と、データ格納手段に格納されたデータを無線送信する送信手段とを備え、データ処理装置は送信手段からの当該監視対象物のデータを受信する受信手段と、受信手段により受信された無線信号の強度より作業機械から当該監視対象物までの距離の判別を行う手段とを備えることを特徴とする作業環境監視システム。
【請求項3】
作業機械の周囲における監視対象物の監視のためのシステムであって、監視対象物に装備されるデータキャリヤ装置と、作業機械に装備されるデータ処理装置とを具備して成り、前記データキャリヤ装置は当該監視対象物の属性データを格納するデータ格納手段と、データ格納手段に格納されたデータを無線送信する送信手段とを備え、データ処理装置は送信手段からの当該監視対象物のデータを受信する受信手段と、受信手段により受信された無線信号の強度より作業機械から当該監視対象物までの距離の判別を行う手段と、受信手段により受信されたデータより当該監視対象物の属性の判別を行う判別手段と、作業機械から当該監視対象物までの距離及び当該監視対象物の属性の判別結果から所望の監視動作を行わしめる監視手段とを備えたことを特徴とする作業環境監視システム。
【請求項4】
請求項2若しくは3に記載の発明において、無線信号の受信強度から判別された距離の計測精度の補完のための手段を具備していることを特徴とする作業環境監視システム。
【請求項5】
請求項3若しくは4に記載の発明において、作業機械の作業内容を判別する作業内容判別手段を更に備え、前記監視手段は、作業機械から当該監視対象物までの距離及び当該監視対象物の属性の判別結果に加え、前記作業内容判別手段による作業機械の作業内容の判別結果により所望の監視動作を行うようにされる作業環境監視システム。
【請求項6】
請求項3から5のいずれか一項に記載の発明において、前記監視手段は、各種判別結果から警報の要否を判別する判別手段と、判別手段により警報必要との判別時に警報を行う警報手段とから構成される作業環境監視システム。
【請求項7】
請求項6に記載の発明において、前記警報手段は音による警報手段と、光による警報手段とを備える作業環境監視システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−97592(P2008−97592A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−233550(P2007−233550)
【出願日】平成19年9月10日(2007.9.10)
【出願人】(301031783)国土交通省中国地方整備局長 (5)
【出願人】(391023518)社団法人日本建設機械化協会 (19)
【Fターム(参考)】