説明

作業車両の変速装置

【課題】作業車両を一時的に停止した状態から即座に再発進可能とする。
【解決手段】油圧ポンプ11と油圧モータ12の少なくとも一方を可動斜板15による可変容量型とする静油圧式無段変速機構10と、遊星ギヤ機構20とにより変速を行う作業車両1の変速装置4で、前後進切換機構30と、ブレーキ機構45とを備える作業車両1の変速装置4において、前記ブレーキ機構45の作動状態を検出するブレーキ作動検出手段105と、走行速度を検出する走行速度検出手段104とを設けて、これらの検出手段を前記制御手段100と接続し、走行時に前記ブレーキ機構45が作動状態になると、前記前後進切換機構30にて走行状態を中立状態に切り換えて、前記静油圧式無段変速機構10の油圧ポンプ11に備えた出力調整部材の可動斜板15を、走行速度に合わせた傾倒位置に傾倒制御するように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキ機構と連動して制御される静油圧式無段変速機構を備える作業車両の変速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンの出力を可変容量型の油圧ポンプ及び油圧モータからなる静油圧式無段変速機構と、遊星ギヤ機構とで変速し、該変速後の出力を油圧クラッチからなる正逆転機構により正逆転変速する作業車両の変速装置が公知となっている。このような変速装置は、作業車両の停止状態を認識して、正逆転機構の油圧クラッチを切断し、静油圧式無段変速機構の油圧ポンプに備える可動斜板を中立位置に制御するように構成されていた(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2003−130213号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前述のような変速装置においては、エンジンからの動力が静油圧式無段変速機構の油圧ポンプに加えて、遊星ギヤ機構のリングギヤに伝達される一方、静油圧式無段変速機構の油圧モータからの変速動力が遊星ギヤ機構のサンギヤに伝達され、このリングギヤとサンギヤとの合成出力がプラネタリギヤから出力され、駆動輪に伝達可能とされていた。
【0004】
このような構成で、静油圧式無段変速機構の油圧ポンプに備える可動斜板が中立位置に制御された場合、油圧ポンプから油圧モータへ作動油が流れないため、遊星ギヤ機構のサンギヤは回転されない。また、エンジンからの動力は可動斜板の角度にかかわらず常に伝達されるため、遊星ギヤ機構のリングギヤは回転される。
【0005】
したがって、前記変速装置では、作業車両の停止状態を認識して、静油圧式無段変速機構の油圧ポンプに備える可動斜板が中立位置に制御された場合であっても、遊星ギヤ機構に含まれるリングギヤとプラネタリギヤとを介して駆動輪に動力が伝達されるので、作業車両の変速比はゼロとならなかった。
【0006】
そこで、作業車両の停止時には、正逆転機構の油圧クラッチが接続されると、作業車両が急発進する可能性があることから、一旦可動斜板が走行速度がゼロとなる傾倒位置に制御された後、正逆転機構の油圧クラッチが接続されて、再発進が行われるようになっていた。
【0007】
しかし、そのためにブレーキ機構の作動などにより作業車両が一時的に停止された場合、正逆転機構の油圧クラッチを接続する操作、すなわち走行状態を前進状態または後進状態に切り換える操作を行って、当該作業車両の走行を再開しようとしても、即座に再発進することができなかった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0009】
即ち、請求項1においては、油圧ポンプと油圧モータの少なくとも一方を可動斜板による可変容量型とする静油圧式無段変速機構と、遊星ギヤ機構とにより変速を行う作業車両の変速装置であって、走行状態を前進状態と後進状態と中立状態とに切り換える前後進切換機構と、駆動輪を制動するブレーキ機構と、前記静油圧式無段変速機構を変速する変速アクチュエータと、前記前後進切換機構を切り換える前後進切換アクチュエータと、前記ブレーキ機構を作動させるブレーキアクチュエータと、これらのアクチュエータを制御する制御手段とを備える作業車両の変速装置において、前記ブレーキ機構の作動状態を検出するブレーキ作動検出手段と、走行速度を検出する走行速度検出手段とを設けて、これらの検出手段を前記制御手段と接続し、走行時に前記ブレーキ機構が作動状態になると、前記前後進切換機構にて走行状態を中立状態に切り換えて、前記静油圧式無段変速機構の油圧ポンプまたは油圧モータの可動斜板を、走行速度に合わせた傾倒位置に傾倒制御するものである。
【0010】
請求項2においては、前記制御手段に前後進切換機構の切換状態を検出する前後進切換検出手段を接続し、走行時に前記前後進切換機構にて走行状態を中立状態に切り換えると、前記静油圧式無段変速機構の油圧ポンプまたは油圧モータの可動斜板を、走行速度に合わせた傾倒位置に傾倒制御するものである。
【0011】
請求項3においては、前記制御手段に駐車ブレーキ機構の作動状態を検出する駐車ブレーキ作動検出手段を接続し、前記駐車ブレーキ機構が作動状態になると、前記静油圧式無段変速機構の油圧ポンプまたは油圧モータの可動斜板を、中立位置に制御するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0013】
請求項1においては、作業車両をブレーキ機構の作動により減速した場合に、作業車両の走行速度に合わせて可動斜板が傾倒され、減速途中または停止した後に、前進または後進走行を再開するために、前後進切換機構の切換操作を行うと、ショックを伴うことなく即座に再発進することが可能となる。
【0014】
請求項2においては、前後進切換機構にて走行状態を中立状態にして、作業車両の走行を停止した場合に、前進または後進走行を再開するために、前後進切換機構の切換操作を行うと、即座に再発進することが可能となる。
【0015】
請求項3においては、駐車時に静油圧式無段変速機構にかかる負荷を軽減して、トルクの損失や燃焼消費量の低減、騒音の抑制を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に、発明の実施の形態を説明する。
【0017】
図1は本発明の一実施例に係る変速装置を備える作業車両の全体的な構成を示した側面図、図2は変速装置の動力伝達機構の構成を示した図、図3は制御機構の構成を示したブロック図、図4は静油圧式無段変速機構に備えた出力調整部材の可動斜板の傾倒位置に対する作業車両の変速比と静油圧式無段変速装置の変速比との関係を示した図である。
【0018】
まず、本発明の一実施例に係る作業車両をトラクタとして、該作業車両およびその変速装置の構成について説明する。
【0019】
図1、図2に示すように、作業車両1においては、車両フレーム2が前後方向に延設されており、その前部にフロントアクスルケースが揺動自在に設けられ、該フロントアクスルケースに前輪3が軸支されている。一方、車両フレーム2の後部に変速装置4が設けられ、該変速装置4の左右両側にリヤアクスルケースが配設されて、該リヤアクスルケースに後輪5が軸支されている。
【0020】
また、車両フレーム2の前後中途部にエンジン6が支持され、該エンジン6にフライホイール7と伝動機構8が順に連結されている。この伝動機構8が前記変速装置4と伝動軸9で連動連結されて、前記エンジン6からの動力がフライホイール7と、伝動機構8と、伝動軸9とを介して変速装置4に伝達可能とされている。
【0021】
前記変速装置4には、走行系伝動経路とPTO駆動経路とが備えられ、前記エンジン6から伝動軸9などを介して入力された動力が、走行系伝動経路で駆動輪に伝達可能とされるとともに、PTO駆動経路で当該作業車両1に装着される作業機などに出力可能とされている。
【0022】
走行系伝動経路には、走行系主伝動経路と走行系副伝動経路とが含まれており、前記エンジン6からの動力が、走行系主伝動経路により主駆動輪として作用する前記後輪5へ伝達可能とされ、走行系副伝動経路により副駆動輪として作用する前記前輪3へ伝達可能とされている。
【0023】
走行系伝動経路のうち、一方の走行系主伝動経路は、走行速度を調節する静油圧式無段変速機構10や、遊星ギヤ機構20や、主ディファレンシャルギヤ機構40などで形成されている。他方の走行系副伝動経路は、副駆動輪用切換機構50や、走行系副出力軸60などで形成されている。
【0024】
また、PTO系駆動経路は、PTOクラッチ機構70や、PTO多段変速機構80などで形成されている。
【0025】
前記走行系主伝動経路において、静油圧式無段変速機構(HST)10は、主変速装置として作用するものであり、油圧ポンプ11と油圧モータ12とを備えて構成されている。この静油圧式無段変速機構10では、油圧ポンプ11がHST入力軸13に相対回転不能に支持され、油圧モータ12がHST出力軸14に相対回転不能に支持されている。この油圧ポンプ11と油圧モータ12とは流体接続されている。
【0026】
前記油圧ポンプ11と油圧モータ12の一方は固定容量型とされ、他方は可変容量型とされている。本実施の形態においては、油圧モータ12が固定容量型とされ、油圧ポンプ11が可変容量型とされており、該油圧ポンプ11に出力調整部材が設けられている。なお、油圧モータ12を可変容量型とし、油圧ポンプ11を固定容量型としてもよい。
【0027】
前記出力調整部材は可動斜板15や、該可動斜板15を傾倒させる制御軸などを備えて構成されている。そして、運転席近傍に備えられる主変速レバーや変速スイッチ等の主変速操作手段の操作に応じて作動する油圧シリンダ等の変速アクチュエータ111により、制御軸を軸線回りに回動させ、その回動に基づいて可動斜板15を傾倒させて、油圧ポンプ11の吐出量を変更するようになっている。
【0028】
前記HST入力軸13は前後方向に延設されており、その前端部に前記エンジン6が伝動軸9などを介して連動連結され、その後端部にて当該エンジン6からの動力が出力可能とされている。同様に、HST出力軸14も前後方向に延設されており、その後端部から前記出力調整部材の可動斜板15の斜板位置に基づく油圧ポンプ11および油圧モータ12による変速動力が出力可能とされている。
【0029】
前記HST入力軸13には定速出力軸16が同軸上で軸線回りに相対回転不能に連結される一方、前記HST出力軸14には変速出力軸17が同軸上で軸線回りに相対回転不能に連結されている。そして、前記遊星ギヤ機構20に、定速出力軸16を介してエンジン6からの定速動力が入力され、且つ、変速出力軸17を介して静油圧式無段変速機構10からの変速動力が入力可能とされている。
【0030】
遊星ギヤ機構20は、サンギヤ21と、インターナルギヤ22と、遊星ギヤ23と、合成出力部材24とを備えて構成されている。この遊星ギヤ機構20で、サンギヤ21は変速出力軸17に相対回転不能に支持され、インターナルギヤ22は変速出力軸17に相対回転自在に支持されて、定速ギヤ18と噛合されている。定速ギヤ18は定速出力軸16に相対回転不能に支持されている。
【0031】
前記遊星ギヤ23はサンギヤ21及びインターナルギヤ22の内歯と噛合されている。合成出力部材24は変速出力軸17に相対回転自在に支持されて、遊星ギヤ23のサンギヤ21回りの公転成分を取り出し、定速動力および変速動力の合成回転を出力するようになっている。また、合成出力部材24は合成入力ギヤ25と連動連結されている。この合成入力ギヤ25は走行系伝動軸26に相対回転不能に支持されている。
【0032】
前記走行系伝動軸26は前後方向に延設され、その後部に油圧多板式の前後進切換機構30が後続されて、前記遊星ギヤ機構20からの合成出力が当該前後進切換機構30に伝達されるようになっている。そしてこの前後進切換機構30によって、走行系伝動軸26から主ディファレンシャルギヤ機構40への伝動状態が切換可能、すなわち主駆動輪である後輪5への伝動方向が切換可能とされている。
【0033】
前記前後進切換機構30は走行系伝動軸26に支持されており、ハウジング31と、前進側駆動部材32Fと、前進側駆動ギヤ33Fと、後進側駆動部材32Rと、後進側駆動ギヤ33Rと、更に図示しない前進側摩擦板群と、後進側摩擦板群とを備えて構成されている。
【0034】
この前後進切換機構30では、ハウジング31が走行系伝動軸26に相対回転不能に支持され、前進側駆動部材32Fと後進側駆動部材32Rとが当該ハウジング31の前後両側でそれぞれ走行系伝動軸26に相対回転自在に支持されている。前進側駆動ギヤ33Fが前進側駆動部材32Fに相対回転不能に支持され、後進側駆動ギヤ33Rが後進側駆動部材32Rに相対回転不能に支持されている。
【0035】
そして、運転席近傍に備えられる前後進切換スイッチまたは前後進切換レバー等の前後進切換操作手段の操作に応じて作動する前進側摩擦板群と後進側摩擦板群とからなる油圧クラッチである前後進切換アクチュエータ112によって、ハウジング31から前進側駆動部材32Fへの動力伝達が選択的に係合または解除可能とされるとともに、ハウジング31から後進側駆動部材32Rへの動力伝達が選択的に係合または解除可能とされて、前進側駆動部材32Fまたは後進側駆動部材32Rが走行系伝動軸26に連動連結可能とされている。
【0036】
さらに、前後進切換アクチュエータ112は運転席近傍に備えられるクラッチペダル等の前後進切換操作手段の操作に応じても作動するように構成されており、このような前後進切換操作手段が操作されることで、当該前後進切換アクチュエータ112によりハウジング31から前進側駆動部材32F及び後進側駆動部材32Rへの動力伝達が解除されて、前進側駆動部材32F及び後進側駆動部材32Rが走行系伝動軸26に連動されないようになっている。
【0037】
また、前記走行系伝動軸26と略平行に配置された主駆動輪出力軸35が前後方向に延設されて、その後端部にディファレンシャルギヤ機構40のリングギヤ41が連動連結され、その前後中途部に前進側従動ギヤ36Fと後進側従動ギヤ36Rとが相対回転不能に支持されている。
【0038】
この前進側従動ギヤ36Fが前進側駆動ギヤ33Fと噛合され、後進側従動ギヤ36Rが伝動ギヤ49を介して後進側駆動ギヤ33Rと噛合されて、前進側駆動部材32Fおよび後進側駆動部材32Rが主駆動輪出力軸35を介して主ディファレンシャルギヤ機構40に連動連結されている。伝動ギヤ49は走行系副伝動経路を形成する副駆動輪伝動軸48に相対回転不能に支持されている。
【0039】
ここで、前記前進側駆動部材32Fと主駆動輪出力軸35との間においては、歯車噛合式の副変速機構37によって、本実施の形態では、高低二段の変速が行えるように構成されている。但し、三段以上の変速が行えるように構成することも可能である。
【0040】
副変速機構37は、前記前進側駆動ギヤ33Fとして作用する前進側駆動高速ギヤ33F(H)および前進側駆動低速ギヤ33F(L)と、前記前進側従動ギヤ36Fとして作用する前進側従動高速ギヤ36F(H)および前進側従動低速ギヤ36F(L)と、走行系シフタ38とを備えて構成されている。
【0041】
この副変速機構37では、前進側駆動高速ギヤ33F(H)と前進側従動高速ギヤ36F(H)とが噛合され、前進側駆動低速ギヤ33F(L)と前進側従動低速ギヤ36F(L)とが噛合され、走行系シフタ38により前進側従動高速ギヤ36F(H)と前進側従動低速ギヤ36F(L)とが主駆動輪出力軸35に選択的に係合可能とされている。
【0042】
そして、運転席近傍に備えられる副変速レバーまたは副変速スイッチ等の操作手段の操作に応じて作動するシリンダやモータ等の副変速アクチュエータにより走行系シフタ38が操作可能とされ、その操作にて副変速機構37の変速段が高速段と低速段とに切り換えられるように構成されている。
【0043】
すなわち、副主変速操作手段に基づく副変速アクチュエータの作動により走行系シフタ38が摺動され、主駆動輪出力軸35に前進側従動高速ギヤ36F(H)が係合されると、高速側に変速され、前進側従動低速ギヤ36F(L)が係合されると、低速側に変速され、その変速動力が主駆動輪出力軸35に出力されるようになっている。
【0044】
また、前記主駆動輪出力軸35に連動連結する主ディファレンシャルギヤ機構40の左右の出力軸42はそれぞれ伝動ギヤ列を介して後輪5の車軸43と連動連結されている。主ディファレンシャルギヤ機構40の左右の出力軸42にはそれぞれ走行系ブレーキ機構45が設けられ、該走行系ブレーキ機構45により各出力軸42、つまり後輪5に独立して制動力を付加し得るようになっている。
【0045】
そして、運転席近傍に備えられる操作手段であるブレーキペダル等の操作手段の操作に応じて作動するシリンダやモータなどのブレーキアクチュエータ113により、走行系ブレーキ機構45が一時的に作動可能とされ、後輪5を制動して、作業車両1を減速もしくは停止させるようになっている。同じく運転席近傍に備えられる駐車ブレーキレバー等の操作手段の操作に応じて前記ブレーキアクチュエータ113により、走行系ブレーキ機構45が作動状態を保持可能とされ、当該走行系ブレーキ機構45が駐車ブレーキ機構として機能し、作業車両1を駐車させるようになっている。
【0046】
このような構成によって、前後進切換機構30において、前記前後進切換操作手段の操作に応じた前後進切換アクチュエータ112の作動により、ハウジング31から前進側駆動部材32Fへの動力伝達が係合されると、当該前後進切換機構30が前進状態となり、前記前進側駆動部材32Fが前記ハウジング31を介して前記走行系伝動軸26とともに回転されて、その回転が副変速機構37にて変速された上で主駆動輪出力軸35へ伝達され、その後、主ディファレンシャルギヤ機構40の出力軸42から車軸43へ伝達されて、作業車両1が前進方向へ走行するように後輪5が回転されるようになっている。
【0047】
逆に、前記操作手段の操作に応じた前後進切換アクチュエータ112の作動より、ハウジング31から後進側駆動部材32Rへの動力伝達が係合されると、前後進切換機構30が後進状態となり、後進側駆動部材32Rがハウジング31を介して前記走行系伝動軸26とともに回転されて、その回転が後進側駆動ギヤ33Rと、伝動ギヤ49と、後進側従動ギヤ36Rを介して主駆動輪出力軸35へ伝達され、その後、主ディファレンシャルギヤ機構40の出力軸42から車軸43へ伝達されて、作業車両1が後進方向へ走行するように後輪5が回転されるようになっている。
【0048】
また、前記前後進切換操作手段の操作に応じた前後進切換アクチュエータ112の作動より、ハウジング31から前進側駆動部材32Fへの動力伝達が解除され、且つ、ハウジング31から後進側駆動部材32Rへの動力伝達が解除されると、前後進切換機構30が中立状態となり、前記走行系伝動軸26の回転が車軸43へ伝達されず、作業車両1が停止するようになっている。
【0049】
前記走行系副伝動経路においては、前記走行系伝動軸26と略平行に配置された副駆動輪伝動軸48が前後方向に延設されて、前記副駆動輪用切換機構50に連動連結されている。そしてこの副駆動輪用切換機構50によって、後輪二駆状態と、前後輪等速四駆状態と、前輪増速四駆状態とが選択的に切換可能とされている。
【0050】
前記副駆動輪用切換機構50は走行系副出力軸60に支持されており、ハウジング51と、等速伝動部材52(L)と、等速側従動ギヤ53(L)と、増速伝動部材52(H)と、増速側従動ギヤ53(H)と、更に図示しない等速側摩擦板群と、増速側摩擦板群とを備えて構成されている。
【0051】
この副駆動輪用切換機構50では、ハウジング51が走行系副出力軸60に相対回転不能に支持され、等速伝動部材52(L)と増速伝動部材52(H)とがハウジング51の前後両側でそれぞれ走行系副出力軸60に回転自在に支持されている。等速側従動ギヤ53(L)が等速伝動部材52(L)に相対回転不能に支持され、増速側従動ギヤ53(H)が増速伝動部材52(H)に相対回転不能に支持されている。
【0052】
そして、運転席近傍に備えられる操作手段の操作に応じて作動する等速側摩擦板群と増速側摩擦板群とからなる油圧クラッチであるアクチュエータによって、等速伝動部材52(L)からハウジング51への動力伝達が選択的に係合または解除可能とされるとともに、増速伝動部材52(H)からハウジング51への動力伝達が選択的に係合または解除可能とされて、等速伝動部材52(L)または増速伝動部材52(H)が走行系副出力軸60に連動連結可能とされている。
【0053】
また、前記副駆動輪伝動軸48は走行系副出力軸60と略平行に配置されており、その後端部に前記伝動ギヤ49が相対回転不能に支持され、その前後中途部に等速側駆動ギヤ55(L)と増速側駆動ギヤ55(H)とが相対回転不能に支持されている。
【0054】
この前記等速側駆動ギヤ55(L)が等速側従動ギヤ53(L)と噛合され、増速側駆動ギヤ55(H)が増速側従動ギヤ53(H)とが噛合されて、等速伝動部材52(L)および増速伝動部材52(H)が副駆動輪伝動軸48に連動連結されている。
【0055】
また、前記走行系副出力軸60は、伝動軸61などを介してフロントアクスルケース内の副ディファレンシャルギヤ機構65に連動連結されている。副ディファレンシャルギヤ機構65の左右の出力軸66にはそれぞれ前輪3の車軸67が連動連結されている。
【0056】
このような構成によって、前記作業車両1が前進方向へ走行している場合には、前述のように前後進切換機構30により前進側駆動部材32Fから副変速機構37を介して主駆動輪出力軸35へ伝達された変速動力が、前記後進側従動ギヤ36R及び前記伝動ギヤ49を介して前記副駆動輪伝動軸48へ伝達される。
【0057】
逆に、前記作業車両1が後進方向へ走行している場合には、前述のように前後進切換機構30により後進側駆動部材32Rに伝達された回転が、前記後進側駆動ギヤ33Rと前記伝動ギヤ49とを介して前記副駆動輪伝動軸48へ伝達される。
【0058】
そして、副駆動輪用切換機構50で、等速伝動部材52(L)からハウジング51への動力伝達が解除されるとともに、増速伝動部材52(H)からハウジング51への動力伝達が解除されるときには、前記副駆動輪伝動軸48から前記走行系副出力軸60への動力伝達が断たれ、作業車両1が2駆状態となるようになっている。
【0059】
等速伝動部材52(L)からハウジング51への動力伝達がアクチュエータの作動により係合されるとともに、増速伝動部材52(H)からハウジング51への動力伝達が解除されるときには、前記走行系副出力軸60が前記主駆動輸出力軸35に同期回転させられ、作業車両1が等速四駆状態となるようになっている。
【0060】
等速伝動部材52(L)からハウジング51への動力伝達が解除されるとともに、増速伝動部材52(H)からハウジング51への動力伝達がアクチュエータの作動により係合される場合、前記走行系副出力軸60が前記主駆動輸出力軸35よりも増速回転させられ、作業車両1が増速四駆状態となるようになっている。
【0061】
また、前記PTO系伝動経路においては、PTOクラッチ機構70によりエンジン6からPTO軸88への動力伝達が選択的に係合または遮断可能とされている。このPTOクラッチ機構70はPTOクラッチ軸75に支持されており、PTO駆動側部材71と、クラッチハウジング72と、さらに図示しないPTO摩擦板群とを備えて構成されている。
【0062】
前記PTOクラッチ機構70では、PTO駆動側部材71がPTOクラッチ軸75に相対回転自在に支持され、クラッチハウジング72がPTOクラッチ軸75に相対回転不能に支持されている。そして、運転席近傍に備えられる操作手段の操作に応じて作動するPTO摩擦板群からなる油圧クラッチであるアクチュエータによって、PTO駆動側部材71からクラッチハウジング72への動力伝達が選択的に係合または解除可能とされている。
【0063】
前記定速出力軸16と略平行に配置されたPTOクラッチ軸75は前後方向に延設されており、該PTOクラッチ軸75上のPTO駆動側部材71が前記定速ギヤ18と噛合されて、エンジン6に連動連結されている。さらに、PTOクラッチ機構70にはこれと背反的に作動するPTOブレーキ機構73が設けられている。
【0064】
そして、前記PTOクラッチ軸75にPTO伝動軸78が同軸上で軸線回りに相対回転不能に連結されるとともに、該PTO伝動軸78と略平行にPTO変速軸79が配置されて前後方向に延設されている。このPTO伝動軸78とPTO変速軸79との間において、PTO多段変速機構80により、多段変速が可能とされている。
【0065】
前記PTO多段変速機構80は、複数のPTO駆動側変速ギヤ81と、複数のPTO従動側変速ギヤ82と、PTO変速シフタ83とを備えて構成されている。このPTO多段変速機構80では、複数のPTO駆動側変速ギヤ81がPTO伝動軸78に相対回転不能に支持され、複数のPTO従動側変速ギヤ82がPTO変速軸79に相対回転相対回転自在に支持されている。
【0066】
そして、複数のPTO駆動側変速ギヤ81と複数のPTO従動側変速ギヤ82とがそれぞれ直接または間接的に噛合され、PTO変速シフタ83により複数のPTO従動側変速ギヤ82がPTO変速軸79に選択的に係合可能とされている。
【0067】
本実施の形態においては、前記PTO多段変速機構80により、正転側4段および逆転側1段の合計5段の変速が可能とされている。このPTO多段変速機構80は、前記複数のPTO駆動側変速ギヤ81として作用する正転側第1〜第4段駆動ギヤ81F(1)〜81F(4)および逆転側駆動ギヤ81Rと、前記複数のPTO従動側変速ギヤ82として作用する正転側第1〜第4段従動ギヤ82F(1)〜82F(4)および逆転側従動ギヤ82Rと、PTO変速シフタ83として作用する第1/第4段用シフタ83F(1−4)、第2/第3段用シフタ83F(2−3)、逆転用シフタ83Rとを備えて構成されている。
【0068】
前記PTO多段変速機構80では、正転側第1〜第4段従動ギヤ82F(1)〜82F(4)がそれぞれPTO変速軸79に相対回転自在に支持されたうえで、前記正転側第1段従動ギヤ82F(1)と前記正転側第4段従動ギヤ82F(4)とが対向配置され、前記正転側第2段従動ギヤ82F(2)と前記正転側第3段従動ギヤ82F(3)とが対向配置されている。
【0069】
これらの正転側第1〜第4段従動ギヤ82F(1)〜82F(4)はそれぞれPTO伝動軸78に相対回転不能に支持された前記正転側第1〜第4段駆動ギヤ81F(1)〜81F(4)と噛合されている。前記逆転側駆動ギヤ81Rはアイドルギヤ84を介して前記逆転側従動ギヤ82Rと噛合されている。
【0070】
前記第1/第4段用シフタ83F(1−4)は前記正転側第1段従動ギヤ82F(1)と前記正転側第4段従動ギヤ82F(4)の間に配置され、前記第2/第3段用シフタ83F(2−3)は前記正転側第2段従動ギヤ82F(2)と前記正転側第3段従動ギヤ82F(3)との間に配置されている。
【0071】
この第1/第4段用シフタ83F(1−4)により正転側第1段従動ギヤ82F(1)または前記正転側第4段従動ギヤ82F(4)が選択的に前記PTO変速軸79に係合可能とされる。第2/第3段用シフタ83F(2−3)により前記正転側第2段従動ギヤ82F(2)または前記正転側第3段従動ギヤ82F(3)が選択的に前記PTO変速軸79に係合可能とされる。さらに、逆転用シフタ83Rにより前記逆転側従動ギヤ82Rが選択的に前記PTO変速軸79に係合可能とされる。
【0072】
そして、運転席近傍に備えられるPTO変速レバー等の操作手段の操作に応じて前記第1/第4段用シフタ83F(1−4)と、第2/第3段用シフタ83F(2−3)と、逆転用シフタ83Rとが操作可能とされ、その操作によりPTO変速軸79に正転側第1〜第4段従動ギヤ82F(1)〜82F(4)および逆転側従動ギヤ82Rのいずれかが係合されると、これに応じた変速が行われ、その変速動力が伝動軸85に出力されるようになっている。
【0073】
前記伝動軸85はPTO変速軸79と同軸上で軸線回りに相対回転可能に連結されており、該伝動軸85にPTO軸88が伝動ギヤ列を介して連動連結されて、変速動力が作業車両1に装着される作業機などに出力可能とされている。
【0074】
次に、前記作業車両1の停止時における静油圧式無段変速機構10に備えた出力調整部材の可動斜板15の制御について説明する。
【0075】
前記作業車両1またはその変速装置4には、図3に示すように、静油圧式無段変速機構10の変速位置を主変速操作手段の操作位置などから検出する主変速検出手段101や、静油圧式無段変速機構10に備えた出力調整部材の可動斜板15の傾倒位置を検出する傾倒位置検出手段102や、前後進切換機構30の切換状態を検出する前後進切換検出手段103や、後輪5または車軸等の回転数から走行速度を検出する走行速度検出手段104や、ブレーキ機構45の作動状態を検出するブレーキ作動検出手段105や、駐車ブレーキ機構の作動状態を検知する駐車ブレーキ作動検出手段106となどが設けられ、これらが制御手段100に接続されている。
【0076】
さらに、前記作業車両1またはその変速装置4には、前記静油圧式無段変速機構10の油圧ポンプ11に備えた出力調整部材の可動斜板15を傾倒させて制御する変速アクチュエータ111や、前後進切換機構30を切り換える前後進切換アクチュエータ112や、ブレーキ機構を作動させるブレーキアクチュエータ113などが設けられ、これらが制御手段100に接続されている。なお、制御手段100はCPUやRAMやROM等を備えており、このROMには制御プログラムが記憶されている。
【0077】
本実施の形態においては、前記傾倒位置検出手段102は、静油圧式無段変速機構10の油圧ポンプ11に備えられた出力調整部材に設けられた制御軸の回動角度をポテンショメータ等により検出することで、当該制御軸を回動軸とする可動斜板15の傾倒位置を検出するように構成されている。
【0078】
前後進切換検出手段103は、前後進切換操作手段としての前後進切換レバーの操作位置をその基部に配設したポテンショメータ等により検出することで、前後進切換機構30の切換状態を検出するように構成される。
【0079】
ブレーキ作動検出手段105は、ブレーキ機構45の操作手段としてのブレーキペダルの操作位置をその基部に配設したポテンショメータ等により検出することで、該ブレーキ機構45の作動状態を検出するように構成されている。
【0080】
駐車ブレーキ作動検出手段106は、駐車ブレーキ機構としての駐車ブレーキレバーの操作位置をその基部に配設したポテンショメータ等により検出することで、ブレーキ機構45からなる駐車ブレーキ機構の作動状態を検出するように構成されている。
【0081】
変速アクチュエータ111は、油圧シリンダで構成され、主変速操作手段の操作位置に対応して制御手段100から出力される制御信号に基づいて切り換えられる電磁弁により作動され、出力調整部材の可動斜板15を傾倒させて、静油圧式無段変速機構10を変速可能とするようになっている。この変速時には前記傾倒位置検出手段102で検出される傾倒位置が制御手段100で設定された傾倒位置となるように制御される。
【0082】
前後進切換アクチュエータ112は、油圧クラッチで構成され、前後進切換操作手段の操作位置に対応して制御手段100から出力される制御信号に基づいて切り換えられる電磁弁により作動され、前後進切換機構30でハウジング31と前進側駆動部材32Fまたは後進側駆動部材32Rとの動力伝達を係合または解除し、前進状態と後進状態と中立状態とを切換可能とするようになっている。
【0083】
ブレーキアクチュエータ113は、油圧シリンダで構成され、ブレーキペダルの操作位置または後述の制御に応じて制御手段100から出力される制御信号に基づいて切り換えられる電磁弁により作動され、出力軸42に適切な制動力を付加して、後輪5を制動可能とするようになっている。
【0084】
但し、前記アクチュエータは油圧シリンダや油圧クラッチに限定するものではなく、電動モータや電動シリンダや電磁クラッチ等で構成することも可能であり、限定するものではない。
【0085】
そして、前述のように静油圧式無段変速機構10と遊星ギヤ機構20とによる変速にて作業車両1の変速比が変更される構成で、図4に示すように、該静油圧式無段変速機構10の変速比がゼロとなる、つまり油圧ポンプ11に備えた出力調整部材の可動斜板15が中立位置となるとき、作業車両1の変速比がゼロではなく、前後進切換機構30の前進状態または後進状態への切換に応じて所定変速比V1・V2となるように設定されている。
【0086】
さらに、静油圧式無段変速機構10の変速比が所定変速比R1となる、つまり油圧ポンプ11に備えた出力調整部材の可動斜板15が中立位置ではなく、所定の傾倒位置となるとき、作業車両1の変速比がゼロとなり、その走行速度がゼロとなるように設定されている。このときの可動斜板15の所定の傾倒位置が、作業車両1の走行速度がゼロとなる傾倒位置である。
【0087】
このような構成において、作業車両1の前進または後進走行時に、ブレーキ機構45を用いて作業車両1が減速される場合、ブレーキペダル等のブレーキ操作手段の操作によりブレーキ機構45が作動状態となると、前後進切換機構30が中立状態に切り換えられ、走行速度検出手段104により減速される走行速度が検出されて制御手段100に入力され、その走行速度に相当する変速比となるように変速アクチュエータ111が作動されて、静油圧式無段変速機構10の油圧ポンプ11に備えた出力調整部材の可動斜板15が傾倒される。
【0088】
この減速途中で、ブレーキ操作手段の操作が解除されると、その時点の走行速度にあった傾倒位置に可動斜板15が傾倒されるため、エンジンブレーキが掛かった状態となる。また、ブレーキ操作手段を操作した状態からその操作が解除され、主変速操作手段が操作された場合には、減速または増速のショックを受けることなくスムースに増速が可能となる。この際、前記ブレーキ作動検出手段105によりブレーキ機構45の作動状態が検出されている。
【0089】
また、減速途中で解除することなくブレーキ操作手段の操作で作業車両1が停止され、ブレーキ機構45が作動状態で、走行速度検出手段104により走行速度がゼロであることが検出されると、制御手段100からの制御信号により前後進切換アクチュエータ112が作動され、エンジン6から駆動輪への動力伝達が解除される。つまり、後輪5が駆動されない状態とされる。
【0090】
この変速アクチュエータ111にて出力調整部材の可動斜板15が、作業車両1の変速比がゼロとなる、すなわち走行速度がゼロとなる傾倒位置に制御されたときの静油圧式無段変速機構10の変速比は、図4に示す所定の変速比R1となる。
【0091】
また、作業車両1の前進または後進走行時に、前後進切換機構30を用いて作業車両1が減速される場合、すなわち前後進切換レバーやクラッチペダル等の前後進切換操作手段の操作により前後進切換機構30が中立状態に切り換えられ慣性力による減速が行われる場合、走行速度検出手段104により減速される走行速度が検出されて制御手段100に入力され、その走行速度に相当する変速比となるように変速アクチュエータ111が作動されて、静油圧式無段変速機構10の油圧ポンプ11に備えた出力調整部材の可動斜板15が傾倒される。減速途中で前後進切換操作手段の操作を解除した場合は前記と同様に制御される。
【0092】
そして、作業車両1が停止され、走行速度検出手段104により走行速度がゼロであることが検出されると、制御手段100からの制御信号により変速アクチュエータ111が作動されて、該変速アクチュエータ111にて出力調整部材の可動斜板15が、作業車両1の変速比がゼロとなる、すなわち走行速度がゼロとなる傾倒位置に制御される。このときの静油圧式無段変速機構10の変速比は、図4に示す所定の変速比R1となる。
【0093】
このようにして、ブレーキ機構45の作動もしくは前後進切換操作手段の操作による中立状態への切換によって、作業車両1が減速された後、確実に停止され、走行速度がゼロである状態で、走行を再開するために、前後進切換操作手段の操作により前後進切換機構30が中立状態から前進状態または後進状態に切り換えられると、即座に再発進可能とされている。
【0094】
また、ブレーキ機構45の作動もしくは前後進切換操作手段を操作して前後進切換機構30を中立状態に切り換えて、作業車両が停止された状態で、駐車ブレーキレバー等の駐車ブレーキ機構の操作手段が操作されると、制御手段100からの制御信号によりブレーキアクチュエータ113が作動されて、該ブレーキアクチュエータ113にて走行系ブレーキ機構45の作動状態が保持される。つまり、駐車状態となって、駐車ブレーキ機構が作動状態とされる。
【0095】
これによって、駐車ブレーキ作動検出手段106で駐車ブレーキが作動状態であることが検出されると、制御手段100からの制御信号により変速アクチュエータ111が作動されて、該変速アクチュエータ111にて出力調整部材の可動斜板15が、静油圧式無段変速機構10の変速比がゼロとなる中立位置に制御される。このとき、作業車両1の変速比はゼロからV1もしくはV2となるが、前後進切換機構30が中立状態であるので、確実に停止した状態となる。
【0096】
したがって、静油圧式無段変速機構10では、油圧ポンプ11に作動油が流れなくなり、その吐出量がゼロとなって、油圧モータ12が停止される。これにより、静油圧式無段変速機構10にかかる負荷が軽減され、駐車時におけるトルクの損失や燃焼消費量の低減、さらに作業車両1の騒音の抑制が図られる。
【0097】
また、前記変速装置4では、駐車ブレーキ機構(ブレーキ機構45)での焼き付き等のために、作業車両1が走行して、駐車ブレーキ作動検出手段106により駐車ブレーキ機構が作動状態であることが検知されているにもかかわらず、制御手段100にて作業車両1が走行状態であることが検知された場合、フェールセーフ機能として可動斜板15が中立位置から走行速度がゼロとなる傾倒位置に制御される。
【0098】
これによって、駐車ブレーキが作動状態であることが検知されている場合には、作業車両1が確実に停車状態に保持されるように図られている。なお、作業車両1の走行状態は、走行速度検出手段104により設定値、たとえば100mm/h以上の走行速度が検出された場合に検知される。また、このような制御が行われとき、駐車ブレーキ機構の異常を運転席近傍などに備えた警報装置により音や光で報知するように構成することも可能である。
【0099】
以上のように、油圧ポンプ11と油圧モータ12の少なくとも一方を可動斜板15による可変容量型とする静油圧式無段変速機構10と、遊星ギヤ機構20とにより変速を行う作業車両1の変速装置4であって、走行状態を前進状態と後進状態と中立状態とに切り換える前後進切換機構30と、駆動輪である後輪5を制動するブレーキ機構45と、前記静油圧式無段変速機構10を変速する変速アクチュエータ111と、前記前後進切換機構30を切り換える前後進切換アクチュエータ112と、前記ブレーキ機構45を作動させるブレーキアクチュエータ113と、これらのアクチュエータを制御する制御手段100とを備える作業車両1の変速装置4において、前記ブレーキ機構45の作動状態を検出するブレーキ作動検出手段105と、走行速度を検出する走行速度検出手段104とを設けて、これらの検出手段を前記制御手段100と接続し、走行時に前記ブレーキ機構45が作動状態になると、前記前後進切換機構30にて走行状態を中立状態に切り換えて、前記静油圧式無段変速機構10の油圧ポンプ11に備えた出力調整部材の可動斜板15を、走行速度に合わせた傾倒位置に傾倒制御するように構成したことから、作業車両1をブレーキ機構45の作動により減速した場合に、作業車両1の走行速度に合わせて可動斜板15が傾倒され、減速途中または停止した後に、前進または後進走行を再開するために、前後進切換機構30の切換操作を行うと、ショックを伴うことなく即座に再発進することが可能となる。
【0100】
また、前記作業車両1の変速装置4において、前記制御手段100に前後進切換機構30の切換状態を検出する前後進切換検出手段103を接続し、走行時に前記前後進切換機構30にて走行状態を中立状態に切り換えると、前記静油圧式無段変速機構10の油圧ポンプ11に備えた出力調整部材の可動斜板15を、走行速度に合わせた傾倒位置に傾倒制御するように構成したことから、前後進切換機構30にて走行状態を中立状態にして、作業車両の走行を停止した場合に、前進または後進走行を再開するために、前後進切換機構30の切換操作を行うと、即座に再発進することが可能となる。
【0101】
また、前記作業車両1の変速装置4において、前記制御手段100に駐車ブレーキ機構の作動状態を検出する駐車ブレーキ作動検出手段106を接続し、前記駐車ブレーキ機構が作動状態となると、前記静油圧式無段変速機構10の油圧ポンプ11に備えた出力調整部材の可動斜板15を、中立位置に制御するように構成したことから、駐車時に静油圧式無段変速機構10にかかる負荷を軽減して、トルクの損失や燃焼消費量の低減、騒音の抑制を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】本発明の一実施例に係る変速装置を備える作業車両の全体的な構成を示した側面図。
【図2】変速装置の動力伝達機構の構成を示した図。
【図3】制御機構の構成を示したブロック図。
【図4】静油圧式無段変速機構に備えた出力調整部材の可動斜板の傾倒位置に対する作業車両の変速比と静油圧式無段変速装置の変速比との関係を示した図。
【符号の説明】
【0103】
1 作業車両
4 変速装置
5 後輪(駆動輪)
10 静油圧式無段変速装置
11 油圧ポンプ
12 油圧モータ
15 可動斜板
30 前後進切換機構
45 ブレーキ機構
100 制御手段
104 走行速度検出手段
105 ブレーキ作動検出手段
111 変速アクチュエータ
112 前後進切換アクチュエータ
113 ブレーキアクチュエータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧ポンプと油圧モータの少なくとも一方を可動斜板による可変容量型とする静油圧式無段変速機構と、遊星ギヤ機構とにより変速を行う作業車両の変速装置であって、走行状態を前進状態と後進状態と中立状態とに切り換える前後進切換機構と、駆動輪を制動するブレーキ機構と、前記静油圧式無段変速機構を変速する変速アクチュエータと、前記前後進切換機構を切り換える前後進切換アクチュエータと、前記ブレーキ機構を作動させるブレーキアクチュエータと、これらのアクチュエータを制御する制御手段とを備える作業車両の変速装置において、前記ブレーキ機構の作動状態を検出するブレーキ作動検出手段と、走行速度を検出する走行速度検出手段とを設けて、これらの検出手段を前記制御手段と接続し、走行時に前記ブレーキ機構が作動状態になると、前記前後進切換機構にて走行状態を中立状態に切り換えて、前記静油圧式無段変速機構の油圧ポンプまたは油圧モータの可動斜板を、走行速度に合わせた傾倒位置に傾倒制御することを特徴とする作業車両の変速装置。
【請求項2】
前記制御手段に前後進切換機構の切換状態を検出する前後進切換検出手段を接続し、走行時に前記前後進切換機構にて走行状態を中立状態に切り換えると、前記静油圧式無段変速機構の油圧ポンプまたは油圧モータの可動斜板を、走行速度に合わせた傾倒位置に傾倒制御することを特徴とする請求項1に記載の作業車両の変速装置。
【請求項3】
前記制御手段に駐車ブレーキ機構の作動状態を検出する駐車ブレーキ作動検出手段を接続し、前記駐車ブレーキ機構が作動状態になると、前記静油圧式無段変速機構の油圧ポンプまたは油圧モータの可動斜板を、中立位置に制御することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の作業車両の変速装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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