説明

作業車両

【課題】油圧昇降装置及び調整バルブの操作部についてのレイアウトの自由度を向上させた作業車両を提供する。
【解決手段】トラクタ(作業車両)は、車体と、昇降部50と、調整ノブ25と、伝達部90と、調整バルブ70と、を備える。昇降部50は、車体の後部に取り付けられる作業機を、作動油を用いて昇降可能である。調整ノブ25は、操作力(回転力)を加えることが可能である。伝達部90は、細長い形状に構成され、調整ノブ25に加えられた操作力を伝達することが可能であり、長手方向が変化する箇所を少なくとも1つ有する。調整バルブ70は、伝達部90から操作力が伝達されることで、昇降部50に供給される作動油の流量又は昇降部50から排出される作動油の流量を調整可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体の後部に取り付けた作業機を昇降可能な作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、トラクタにおいて、車体の後部に取り付けられる作業機(ロータリ等)を昇降可能な油圧昇降装置を備える構成が知られている。この種の油圧昇降装置には、昇降動作を行う際に使用される作動油の流量を変更可能な調整バルブ(ストップバルブ、スローリターンバルブ)が設けられ、作業機を上昇させたまま停止させたり、作業機の昇降速度を変化させたりする操作が可能なものが知られている。
【0003】
特許文献1が開示するトラクタは、上記の調整バルブが設けられた油圧昇降装置(油圧駆動部)を備えている。このトラクタでは、油圧昇降装置は、運転座席の下方に配置されている。また、調整バルブは、直線状に構成されるシャフトを介して、当該調整バルブよりも前方に配置された操作部(スローリターンハンドル)と接続されている。操縦者は、この操作部を操作することにより、作業機の下降速度等を調整することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−130180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の構成において、調整バルブを操作するための操作部は、運転座席に座っている操縦者にとって操作しにくい位置にあり、操作性の観点から改善の余地が残されていた。しかし、特許文献1の構成では調整バルブと操作部とが直線状のシャフトで接続されているため、操作部の位置を変更するためには、調整バルブの位置(即ち油圧昇降装置の位置)についても変更しなければならない。つまり、従来の構成は、操作部及び油圧昇降装置等のレイアウトの自由度についても改善の余地があった。
【0006】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その目的は、油圧昇降装置及び調整バルブの操作部についてのレイアウトの自由度を向上させた作業車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0008】
本発明の観点によれば、以下の構成の作業車両が提供される。即ち、前記作業車両は、車体と、昇降部と、操作部と、伝達部と、調整バルブと、を備える。前記昇降部は、前記車体の後部に取り付けられる作業機を、作動油の供給又は排出により昇降可能である。前記操作部は、操作力を加えることが可能である。前記伝達部は、細長い形状に構成され、前記操作部に加えられた前記操作力を伝達することが可能であり、長手方向が変化する箇所を少なくとも1つ有する。前記調整バルブは、前記伝達部から前記操作力が伝達されることで、前記昇降部に供給される作動油の流量又は前記昇降部から排出される作動油の流量を調整可能である。
【0009】
これにより、伝達部の長手方向を変化させることで、油圧昇降装置(昇降部及び調整バルブ等)の位置と独立に、操作部の位置を決定することができる。従って、例えば、油圧昇降装置を適切な位置に設置しつつ、かつ作業者にとって操作し易い位置に操作部を配置することができる。
【0010】
前記の作業車両においては、前記操作部の近傍において、前記伝達部の長手方向が上下を向くように配置されることが好ましい。
【0011】
これにより、操作部の操作性を一層向上させることができる。
【0012】
前記の作業車両においては、以下の構成にすることが好ましい。即ち、前記作業車両は、ベース部と、操縦者が搭乗するための搭乗部と、前記搭乗部を前記ベース部に防振支持する防振部と、を備える。なお、前記昇降部は前記ベース部に含まれる。前記伝達部は、前記搭乗部の一部を上下に貫通するように当該搭乗部に形成された貫通孔を通過するようにして、前記ベース部側に取り付けられている。
【0013】
即ち、一般的に、搭乗部はベース部に対して上下に振動することが多い。この点、上記の構成では、伝達部が搭乗部を上下に貫通しているため、開口面積の小さな貫通孔であったとしても、伝達部が貫通孔の縁と衝突しにくくなる。従って、搭乗部の下部の部材(エンジン等)で発生した騒音が操縦者に伝わりにくくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係るトラクタの全体的な構成を示した側面図。
【図2】キャビンが防振支持される様子を示す一部断面図。
【図3】キャビン内部の様子を示す斜視図。
【図4】油圧昇降装置の構成を示す断面図。
【図5】フレキシブルシャフト等の形状を示す斜視図。
【図6】従来例におけるトラクタが上下に振動したときの様子を示す一部断面図。
【図7】本実施形態におけるトラクタが上下に振動したときの様子を示す一部断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明の実施形態に係るトラクタ(作業車両)1の側面図である。図2は、キャビン16が防振支持される様子を示す一部断面図である。図3は、キャビン16の内部の様子を示す斜視図である。
【0016】
図1に示す作業車両としてのトラクタ1は、前部又は後部に各種作業機を装着して、様々な種類の作業を行うことが可能に構成されている。トラクタ1は、車体11と、フロントフレーム12と、シャーシフレーム13と、前輪14と、後輪15と、キャビン(搭乗部)16と、油圧昇降装置19と、を主要な構成として備えている。
【0017】
車体11の前部にはボンネット30が設けられており、このボンネット30の内部には、エンジン及びバッテリー等が配置されている。また、トラクタ1の下部には、左右一対で設けられたフロントフレーム12と、同じく左右一対で設けられ、前記フロントフレーム12の後端部から後方に延びるように配置されたシャーシフレーム13と、が配置されている。これらのフレームによって、エンジン等が支持されている。
【0018】
また、シャーシフレーム13の中途部であって車体11の外側方向には、燃料タンク31が取り付けられている。シャーシフレーム13の後部には、図2に示すように、ミッションケース18が配置されている。また、このミッションケース18の左右から車体幅方向に突出するようにしてリアアクスルケース17が設けられている。
【0019】
エンジンが出力する動力は、まずミッションケース18内の変速装置で変速された後に、左右の前輪14の間に配置された図略のフロントアクスルケースと、左右の後輪15の間に配置されたリアアクスルケース17と、に伝達される。フロントアクスルケース及びリアアクスルケース17に伝達された駆動力は、図略の伝達機構を介して、それぞれ前輪14及び後輪15に伝達される。以上の構成で、前輪14及び後輪15を駆動することにより、車体11を所望の速度で走行させることができる。
【0020】
また、ミッションケース18の上方には、油圧昇降装置19が設けられている。この油圧昇降装置19は、上下に回動可能なリフトアーム20を備えている。この油圧昇降装置19は、車体11の後方に連結された作業機を昇降するためのものである。即ち、車体11の後方に連結された作業機に対して適宜の部材を介してリフトアーム20を接続し、当該リフトアーム20を上下に回動することにより、前記作業機を昇降することができる。
【0021】
また、油圧昇降装置19の斜め上方であって、ボンネット30の後方には、オペレータが搭乗してトラクタ1の各種操作を行うためのキャビン16が配置されている。このキャビン16の下部には、図2及び図3に示すように、キャビンフレーム40が配置されている。
【0022】
キャビンフレーム40は、後方側の左右2箇所において、リアアクスルケース17に防振支持され、前方側の左右2箇所において、シャーシフレーム13に防振支持されている。
【0023】
初めに、キャビンフレーム40の後方側が防振支持される構成について説明する。キャビンフレーム40の後下部には、板状部材として構成されたキャビン側後部取付ステー41(図2及び図3を参照)が略水平に配置され、当該キャビンフレーム40に対して一体的に固定されている。
【0024】
一方、リアアクスルケース17の上面であって、前記キャビン側後部取付ステー41と対応する位置に、車体側後部取付ステー42が配置されている。この車体側後部取付ステー42は、リアアクスルケース17に対して一体的に固定されている。また、この車体側後部取付ステー42は、キャビン側後部取付ステー41と略平行に対面するゴム当接面を有する。
【0025】
そして、キャビン側後部取付ステー41と車体側後部取付ステー42との間に、後部防振ゴム(防振部)43が挟み込まれるようにして配置されている。
【0026】
次に、キャビンフレーム40の前方側が防振支持される構成について説明する。キャビンフレーム40の前部であって、当該キャビンフレーム40の底面には、略水平なゴム当接面を有するキャビン側前部取付ステー44が固定されている。
【0027】
一方、シャーシフレーム13には、前記キャビン側前部取付ステー44と対応する位置に、車体側前部取付ステー45が配置されている。この車体側前部取付ステー45は、シャーシフレーム13に対して一体的に固定されている。また、この車体側前部取付ステー45は、シャーシフレーム13から車体幅方向外側に突出するように設けられ、キャビン側前部取付ステー44の前記ゴム当接面と略平行に対面する取付面を有する。
【0028】
そして、キャビン側前部取付ステー44と車体側前部取付ステー45との間に、前部防振ゴム(防振部)46が挟み込まれるようにして配置されている。
【0029】
以上のように、キャビン16は、リアアクスルケース17及びシャーシフレーム13と、当該キャビン16と、の間に、後部防振ゴム43及び前部防振ゴム46を挟み込むことによって防振支持されている。従って、キャビン16に伝播する振動を良好に低減することができる。なお、以下の説明では、リアアクスルケース17及びシャーシフレーム13のように、トラクタ1の下部に配置され、キャビン16に対して相対的に振動する部材をまとめてベース部10と称することがある。ベース部10に含まれる具体的な部材としては、上記で挙げた部材の他に、フロントフレーム12、ミッションケース18、及びミッションケース18に支持される油圧昇降装置19等を挙げることができる。
【0030】
次に、キャビン16の内部の構成について説明する。図2及び図3に示すように、キャビン16の下部には、キャビン底板28が配置されている。また、図3に示すように、キャビン16内には、運転座席21が配置されている。そして、キャビン底板28の上方であって、この運転座席21の前方には、ステアリングハンドル22及びブレーキペダル23等が配置されている。
【0031】
また、運転座席21の下側には、当該運転座席21を支持するための運転座席支持ブラケット26が配置されている。運転座席21の左右の適宜の位置には、この運転座席支持ブラケット26上に、副変速レバー、PTOレバー、デフロックペダル等が配置される。上記の他にも、運転座席21の左右には、車体11の後部に取り付けられた作業機を昇降するための作業機昇降レバー24と、当該作業機の昇降速度を調整したり作業機の高さを固定したりするための調整ノブ(操作部)25と、が配置されている。
【0032】
次に、図4及び図5を参照して、車体11の後部に取り付けられた作業機を昇降するための構成について説明する。図4は、油圧昇降装置19の構成を示す断面図である。図5は、フレキシブルシャフト92等の形状を示す斜視図である。なお、図4を参照して行う油圧昇降装置19の説明において、単に、「前方側(又は後方側)」というときは、車体11の前方側(又は後方側)を示すものとする。
【0033】
図4に示すように、調整ノブ25は、伝達部90を介して、油圧昇降装置19の調整バルブ70と接続されている。伝達部90は、伝達シャフト91と、フレキシブルシャフト92と、で構成されている。
【0034】
伝達シャフト91は、細長い丸棒状の部材であり、長手方向が上下を向くように配置されている。また、伝達シャフト91は、運転座席支持ブラケット26に形成された貫通孔27を通過するように配置されている。この伝達シャフト91の上端部は、調整ノブ25に相対回転不能に(一体的に回転できるように)取り付けられている。一方、伝達シャフト91の下端部は、フレキシブルシャフト92の一端部に相対回転不能に取り付けられている。
【0035】
フレキシブルシャフト92は、インナーチューブ92aと、インナーチューブ92aを覆うように構成されたアウターチューブ92bと、で構成されている。なお、インナーチューブ92aは、アウターチューブ92bに対して相対回転可能であって、長手方向に相対移動不能に構成されている。
【0036】
フレキシブルシャフト92の一端部(上端部)では、インナーチューブ92aと伝達シャフト91とが相対回転不能に接続されている。一方、フレキシブルシャフト92の他端部(下端部)では、インナーチューブ92aと調整バルブ70のネジ部71とが相対回転不能に接続されている。なお、フレキシブルシャフト92は可撓性を有しており、当該フレキシブルシャフト92の一端部と他端部との間の部分は、図5に示すように、湾曲する箇所(長手方向が変化する箇所)を有している。
【0037】
以上の構成により、調整ノブ25に加えられた回転力(操作力)を調整バルブ70に伝達することができる。
【0038】
また、油圧昇降装置19の上端部(キャビン16が配置される側の端部)には、フレキシブルシャフト92を支持するための支持ブラケット58が設けられている。支持ブラケット58は、油圧昇降装置19から上方に立ち上がる部分と、貫通孔27の下方に向けて延びる部分と、で構成されている。そして、貫通孔27の下方に向けて延びる部分には、筒部59が固定されている。
【0039】
筒部59は、フレキシブルシャフト92の外周面(即ち、アウターチューブ92bの外周面)を把持して、フレキシブルシャフト92が上下方向に動かないように固定するように構成されている。
【0040】
この構成により、フレキシブルシャフト92が自重によって撓んで下側に移動することを防止できるので、調整ノブ25を所定の高さ(操縦者が操作し易い位置)に維持することができる。
【0041】
次に、油圧昇降装置19が備える調整バルブ70について説明する。調整バルブ70は、図4に示すように、ネジ部71と、シャフト部72と、遮断部73と、を備えている。また、油圧昇降装置19には、第1通路76と、第1通路76よりも後方側に位置する第2通路77と、が形成されている。
【0042】
ネジ部71は、表面にオネジが形成された円柱状の部材である。このネジ部71は、第1通路76に挿入されている。一方、第1通路76は、ネジ部71を挿入可能に構成された断面円形状の通路である。この第1通路76には、メネジが形成されている。
【0043】
この構成により、調整ノブ25から、伝達部90を介して回転力(操作力)が伝達されることにより、ネジ部71を第1通路76に沿って移動させることができる。
【0044】
また、ネジ部71の一端部(後方側の端部)には、シャフト部72が接続されている。シャフト部72は、ネジ部71と相対回転可能であって、かつ、第1通路76に沿う方向に相対移動不能に(第1通路76に沿う方向に一体的に移動するように)構成されている。このシャフト部72の一端部(後方側の端部)には、遮断部73が取り付けられている。
【0045】
遮断部73は、直方体状の部材であり、断面矩形状の通路である第2通路77に挿入されている。遮断部73は、第2通路77に沿って移動可能であるとともに、第2通路77との間に隙間が生じないように構成されている。
【0046】
また、第2通路77の一端部(後方側の端部)には、油圧路81を介してシリンダ空間83が接続されている。また、第2通路77の前記一端部近傍には、油圧路82が接続されている。
【0047】
油圧路82は、図略のコントロールバルブと接続されている。このコントロールバルブは、前記作業機昇降レバー24の操作によって作動油の供給の可否を切替可能となっている。コントロールバルブ及び油圧路82を介して送出された作動油は、第2通路77の後方側及び油圧路81を通って、シリンダ空間83に供給される。なお、遮断部73は、第2通路77に沿って移動することにより、第2通路77と油圧路82との接続部分の一部又は全部を遮断できるように構成されている。
【0048】
この構成により、遮断部73は、第2通路77と油圧路82との接続部分の一部を遮断することで、当該油圧路82を通過する作動油の(単位時間あたりの)流量を低減させることができる。また、遮断部73は、第2通路77と油圧路82との接続部分の全部を遮断することで、当該油圧路82を通過する作動油の流量を殆ど無くすことができる。
【0049】
次に、作動油の流れに応じてリフトアーム20を昇降させる昇降部50について説明する。昇降部50は、ピストン51と、ピストンロッド52と、リフトクランク53と、リフト軸54と、を備えている。
【0050】
ピストン51は、昇降部50の壁面に沿って移動可能に構成されている。また、ピストン51は、前記シリンダ空間83に作動油が供給されることにより、後方側に移動する。また、ピストン51の後方側の端部には、ピストンロッド52が回動可能に取り付られている。
【0051】
ピストンロッド52は、長手方向が前後を向くように配置されており、ピストン51が取り付けられていない方の端部近傍に、リフトクランク53が回動可能に取り付けられている。リフトクランク53は、ピストンロッド52が取り付けられていない方の端部近傍に、リフト軸54が相対回転不能に取り付けられている。また、リフトクランク53は、リフト軸54の中心部を回転軸として回転可能に構成されている。リフト軸54は、細長い丸棒状の部材であり、長手方向が左右を向くように、かつ端部が油圧昇降装置19から車体11の左右方向に突出するように配置されている。そして、この突出箇所には前記リフトアーム20が相対回転不能に取り付けられる。
【0052】
この構成により、シリンダ空間83に作動油を供給することにより、ピストン51及びピストンロッド52を後方側に移動させて、リフトクランク53及びリフト軸54を、図4における反時計回りに回転させることができる。その結果、リフトアーム20の後方側の端部を上昇させて、車体11の後部に取り付けられた作業機を上昇させることができる。
【0053】
一方、作動油の供給を停止すると、遮断部73が第2通路77と油圧路82との接続部分を遮断していない場合は、作業機の自重によりリフトクランク53及びリフト軸54が図4における時計回りに回転する(同時に作業機も下降する)。そして、リフトクランク53等の回転と同時に、ピストン51及びピストンロッド52が前方側に押し戻される。なお、油圧路82に押し戻された作動油は、図略のチェックバルブ等によって作動油タンクに排出される。
【0054】
また、遮断部73が第2通路77と油圧路82との接続部分の全部を遮断している場合は、シリンダ空間83及び油圧路81内の作動油が排出されない。従って、油圧ポンプ等を動作させない状態(エンジンを切った状態)においても、作業機の高さを維持させることができる。
【0055】
なお、遮断部73が第2通路77と油圧路82との接続部分の一部を遮断している場合は、シリンダ空間83に供給される作動油の流量、及びチェックバルブ等から排出される作動油の流量が共に少なくなる。従って、作業機の昇降速度を低下させることができる。
【0056】
次に、図6及び図7を参照して、振動時における従来例の構成と本実施形態の構成とを比較しながら説明する。図6は、従来例におけるトラクタが上下に振動したときの様子を示す一部断面図である。図7は、本実施形態におけるトラクタが上下に振動したときの様子を示す一部断面図である。なお、従来例のトラクタに関しては、本実施形態と同一又は類似の部材には図面に同一の符号を付し、説明を省略する。
【0057】
従来例におけるトラクタは、図6に示すように、調整ノブ25と油圧昇降装置19とをフレキシブルシャフト92を用いずに、金属製のシャフト91aのみで接続する構成となっている。そのため、運転座席支持ブラケット26には、運転座席支持ブラケット26を(上下にではなく)左右に貫通する貫通孔27aが形成されている。シャフト91aは、この貫通孔27aを通過している。
【0058】
ここで、前記ベース部10は、地面の凹凸具合等に応じて上下に振動する。一方、キャビン16は、前述のようにベース部10に防振支持されているため、ベース部10と同じ揺幅で振動するのではなく、当該ベース部10よりも小さい揺幅で振動する。つまり、ベース部10は、キャビン16に対して相対的に振動し、その振動方向は上下方向が主となっている。
【0059】
このような相対的な振動が生じると、油圧昇降装置19はベース部10側の構成であるため、油圧昇降装置19に支持されるシャフト91aもキャビン16に対して相対的に振動する(図6の鎖線を参照)。この結果、貫通孔27aの開口面積(具体的には上下方向の長さ)を大きくしないと、シャフト91aが貫通孔27aの縁と衝突してしまう。
【0060】
しかし、貫通孔27aの開口面積を大きくすると、この貫通孔27aを介して伝わるエンジン等の騒音が大きくなったり、調整ノブ25の周囲の外観を損ねたりする原因となる。
【0061】
この点、本実施形態の構成では、図7に示すように、伝達部90(詳細には伝達シャフト91)がキャビン16(詳細には運転座席支持ブラケット26)を上下に通過している。従って、開口面積の小さな貫通孔27であっても、ベース部10がキャビン16に対して相対的に振動するときに伝達シャフト91が当該貫通孔27の縁と衝突しないようになっている。
【0062】
従って、騒音を抑制できるとともに、外観を良好にすることができる。
【0063】
以上に説明したように、本実施形態のトラクタ1は、車体11と、昇降部50と、調整ノブ25と、伝達部90と、調整バルブ70と、を備える。昇降部50は、車体11の後部に取り付けられる作業機を、作動油の供給又は排出により昇降可能である。調整ノブ25は、操作力(回転力)を加えることが可能である。伝達部90は、細長い形状に構成され、調整ノブ25に加えられた操作力を伝達することが可能であり、長手方向が変化する箇所を少なくとも1つ有する。調整バルブ70は、伝達部90から操作力が伝達されることで、昇降部50に供給される作動油の流量又は昇降部50から排出される作動油の流量を調整可能である。
【0064】
これにより、フレキシブルシャフト92によって伝達部90の長手方向を変化させることで、油圧昇降装置19の位置と独立に、調整ノブ25の位置を決定することができる。従って、油圧昇降装置を適切な位置に設置しつつ、かつ作業者にとって操作し易い位置に調整ノブ25を配置することができる。
【0065】
また、本実施形態のトラクタ1においては、調整ノブ25の近傍において、伝達部90の長手方向が上下を向くように配置される。
【0066】
これにより、調整ノブ25の操作性を一層向上させることができる。
【0067】
また、本実施形態のトラクタ1は、ベース部10と、操縦者が搭乗するためのキャビン16と、キャビン16をベース部10に防振支持する後部防振ゴム43及び前部防振ゴム46と、を備える。なお、昇降部50はベース部10に含まれる。伝達部90は、キャビン16の一部(運転座席支持ブラケット26)を上下に貫通するように当該キャビン16に形成された貫通孔27を通過するようにして、ベース部10側に取り付けられている。
【0068】
これにより、開口面積の小さな貫通孔27を採用した場合でも、ベース部10がキャビン16に対して相対的に振動するときに伝達部90が貫通孔の縁と衝突しにくくなる。従って、キャビン16の下部の部材(エンジン等)で発生した騒音が操縦者に伝わりにくくすることができる。
【0069】
以上に本発明の好適な実施の形態について説明したが、以上の構成は以下のように変更することができる。
【0070】
上記実施形態では、作業車両としてトラクタ1を用いたが、車体の後部に作業機を取付可能な作業車両であれば、他の車両にも上記の構成を適用することができる。
【0071】
上記で示したフレキシブルシャフト92の種類は例示であり、例えばアウターチューブ92bの無いタイプのフレキシブルシャフトを用いても良い。
【0072】
伝達部にはフレキシブルシャフト92が含まれていなくても良く、長手方向が変化する箇所を少なくとも1つ有していれば適宜の部材を用いることができる。例えば、フレキシブルシャフト92を用いた本実施形態の伝達部に代えて、1又は複数のユニバーサルジョイント(自在継手)を用いたシャフト構造の伝達部を用いることができる。
【0073】
上記実施形態では、調整ノブ(操作部)25を回転させて調整バルブ70を制御する構成であるが、操作部を引っ張ったり押したりすることで調整バルブを制御する構成であっても良い。
【符号の説明】
【0074】
1 トラクタ(作業車両)
10 ベース部
16 キャビン(搭乗部)
25 調整ノブ(操作部)
26 運転座席支持ブラケット
27 貫通孔
50 昇降部
90 伝達部
91 伝達シャフト
92 フレキシブルシャフト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体と、
前記車体の後部に取り付けられる作業機を、作動油の供給又は排出により昇降可能な昇降部と、
操作力を加えることが可能な操作部と、
細長い形状に構成され、前記操作部に加えられた前記操作力を伝達することが可能であり、長手方向が変化する箇所を少なくとも1つ有する伝達部と、
前記伝達部から前記操作力が伝達されることで、前記昇降部に供給される作動油の流量又は前記昇降部から排出される作動油の流量を調整可能な調整バルブと、
を備えることを特徴とする作業車両。
【請求項2】
請求項1に記載の作業車両であって、
前記操作部の近傍において、前記伝達部の長手方向が上下を向くように配置されることを特徴とする作業車両。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の作業車両であって、
ベース部と、
操縦者が搭乗するための搭乗部と、
前記搭乗部を前記ベース部に防振支持する防振部と、
を備え、
前記昇降部は前記ベース部に含まれ、
前記伝達部は、前記搭乗部の一部を上下に貫通するように当該搭乗部に形成された貫通孔を通過するようにして、前記ベース部側に取り付けられていることを特徴とする作業車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−165679(P2012−165679A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−28665(P2011−28665)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】