説明

使用エネルギーが削減されたシラン蒸留

本発明の対象は、アルキルクロロシラン及びハイドロジェンクロロシランから選択されるシランを含有するシラン混合物を蒸留装置において熱的分離する方法であって、蒸留装置の加熱のための熱の少なくとも一部を排出蒸気によって他の蒸留装置に転用し、そして高くても200ppmの不純物を有するシラン生成物が得られる前記方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シラン混合物の蒸留方法であって、蒸留装置の加熱のための熱を他の蒸留装置の排出蒸気(Brueden)から転用し、純粋なシラン生成物を得る、前記蒸留方法に関する。
【0002】
今までは、クロロシラン蒸留及びメチルクロロシラン蒸留の範囲において、関連物質の高い純度の要求と生成物特性、特に湿分の進入に際してのその腐蝕性挙動、液体の部分的に容易な可燃性、プロトン性溶剤及び金属酸化物に対する反応性に基づき、古典的な蒸留コンセプトが使用されている。その場合に、加熱蒸気又は別の伝熱体の形で導入されるエネルギーは、空気冷却器又は水冷却器を介して周囲に放出される。純粋な物質の沸点は、互いに近くにある。
【0003】
エネルギー回収コンセプトは、この困難性及びカラムと分離段階との相互の影響のため使用されなかった。
【0004】
DE102008000490号Aにおいては、シランに関する蒸留方法であって、カラムの濃縮部はストリッピング部より高い圧力で運転され、熱が濃縮部からストリッピング部へと放出され、濃縮部で低沸点フラクションが、そしてストリッピング部で高沸点フラクションが分離される蒸留方法が記載されている。ここで、蒸留物は、伝熱性の作業媒体として利用されるが、この方法は部分負荷挙動の点で問題がある。高純度のシラン生成物は得られない。
【0005】
エネルギー回収法は、例えば"Verfahrenstechnische Berechnungsmethoden Teil 2 − Thermisches Trennen"(VEB Deutscher Verlag fuer Grundstoffindustrie,Leipzig,1986)の第185頁〜第190頁、特に第185頁に記載されている。そこでは、カラムの頂部生成物蒸気を加熱媒体として別のカラムの底部で利用できることが述べられている。
【0006】
シラン蒸留の困難性は、特にその高い純度の要求にある。例えば非常に低い含量のメチルトリクロロシラン及びエチルジクロロシランを有するジメチルジクロロシランが要求される。その際、メチルトリクロロシラン及びエチルジクロロシラン成分の含量は、蒸留されるべきシラン混合物中で激しく変動する。
【0007】
これらの周辺条件は、蒸留装置複合体(Destillationsverbund)の作業パラメータの極めて安定な調節も、変動するシラン混合物組成への作業パラメータの可変の適合をも要求する。
【0008】
従って、工業的な転化においては、純粋蒸留において熱回収を使用する場合に、慣用の蒸発器及び凝縮器による"一般負荷(Regellasten)"が用いられる。これらは、純粋蒸留を高い純度の要求と変動する物質組成のもとにエネルギー的に効率的に実施できるように蒸留プロセスを安定化する。
【0009】
本発明の対象は、アルキルクロロシラン及びハイドロジェンクロロシランから選択されるシランを含有するシラン混合物を蒸留装置において熱的分離する方法であって、蒸留装置の加熱のための熱の少なくとも一部を他の蒸留装置の排出蒸気から転用し、そして多くても200ppmの不純物しか有さないシラン生成物が得られる前記方法である。
【0010】
該方法では、今まで伝熱体を介して周囲に放出されていた排出蒸気流の含有エネルギーが利用される。該方法によって、慣用の蒸留に対して85%までのエネルギーを削減することができる。驚くべきことに、このエネルギー削減にもかかわらず、高純度のアルキルクロロシラン及びハイドロジェンクロロシランの蒸留に成功する。
【0011】
好ましくは、排出蒸気は凝縮され、凝縮熱は蒸留装置の加熱のために使用される。
【0012】
好ましくは、蒸留装置は、1つもしくはそれより多くのカラムからなる。好ましくは、他の蒸留装置は、1つもしくはそれより多くのカラムからなる。
【0013】
好ましくは、他の蒸留装置の排出蒸気の少なくとも20質量%、特に少なくとも50質量%は、蒸留装置の加熱のために熱を放出する。
【0014】
好ましくは、蒸留装置の加熱のための熱の少なくとも10%、特に少なくとも20%は他の蒸留装置の排出蒸気から転用される。
【0015】
好ましくは、他の蒸留装置の排出蒸気の熱は、熱交換器で伝熱体へと放出され、この伝熱体は蒸留装置の加熱のために使用される。特に他の蒸留装置の排出蒸気の熱は、凝縮によって熱交換器へと放出される。好ましくは、他の蒸留装置の排出蒸気の熱は、熱源として循環プロセスにおいて使用される。好ましくは、他の蒸留装置の排出蒸気の熱は、ヒートポンプを介して伝えられる。好ましくは、他の蒸留装置の排出蒸気は、蒸留装置の缶出物(Sumpf)の加熱のために使用される。好ましくは、蒸留装置は、カラムである。
【0016】
好ましい一実施形態においては、カラムの頂部で発生する排出蒸気は圧縮され、それにより加熱される。熱交換器において、次いで、熱は伝熱体へと放出され、そしてこの伝熱体はこのカラムの缶出物の加熱のために使用される。蒸留装置及び他の蒸留装置は、この場合に同一である。
【0017】
他の好ましい一実施形態を、図1を用いて説明する:カラム(K1)において、シラン混合物(A1)を蒸留する。頂部で放出される排出蒸気(B1)を、熱交換器(W1)において凝縮させ、熱を伝熱体へと放出する。該伝熱体は、カラム(K2)の缶出物を加熱する。該伝熱体は、他の熱交換器(W2)において更に加熱されうる。カラム(K2)にシラン混合物(A2)を供給し、蒸留する。カラム(K2)の頂部で放出される排出蒸気(B2)を、熱交換器(W3)において凝縮させ、熱を伝熱体へと放出する。缶出物(C2)をカラム(K2)の底部で排出する。
【0018】
好ましくは、製造されたシラン生成物は、蒸留装置の缶出物の多くても200ppmの不純物で得られる。好ましくは、他の蒸留装置においても、アルキルクロロシラン及びハイドロジェンクロロシランから選択されるシランを含有するシラン混合物が分離される。好ましくは、他の蒸留装置においても、多くても200ppmの不純物しか有さないシラン生成物が製造される。
【0019】
分離されるべきアルキルクロロシラン及び/又はハイドロジェンクロロシランは、好ましくは一般式(1)
1abSiCl4-a-b (1)
[式中、
1は、1〜10個の炭素原子を有する炭化水素基を意味し、
aは、0、1、2、3又は4の値を意味し、かつ
bは、0、1、2又は3の値を意味する]に相当する。
【0020】
特に好ましい炭化水素基R1は、1〜6個の炭素原子を有するアルキル基、特にメチル基及びエチル基である。
【0021】
好ましくは、製造されるシラン生成物は、多くても100ppmの、特に好ましくは多くても50ppmの、特に多くても20ppmの不純物しか有さない。好ましくは、不純物中の個々の化合物の割合は、多くても100ppm、特に好ましくは多くても60ppm、特に多くても15ppmである。
【0022】
好ましい一実施形態においては、好ましくはそれぞれ多くても100ppmの、特に好ましくは多くても60ppmの、特に多くても15ppmのメチルトリクロロシラン及びエチルジクロロシランしか含有しないジメチルジクロロシランが得られる。好ましくは、ジメチルジクロロシランの他に、メチルトリクロロシラン、トリメチルクロロシラン及びメチルハイドロジェンジクロロシランから選択されるシランを含有する混合物が使用される。
【0023】
上述のppm値は、質量に対するものである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、好ましい一実施形態を示す概略図である。
【0025】
以下の実施例においては、それぞれ特記しない限りは、全ての量及びパーセントの表記は質量に対するものであり、全ての圧力は0.10MPa(絶対圧)であり、かつ全ての温度は20℃である。符号は図1を引用する。
【0026】
実施例においては、90%のジメチルジクロロシランと、7%のメチルトリクロロシランと、2%のトリメチルクロロシランと、1%のメチルハイドロジェンジクロロシランとからなる、7t/hのシラン混合物(A)を、カラム(K2)で2つのフラクションに分離する。頂部生成物(B)は、18%のジメチルジクロロシランと、58%のメチルトリクロロシランと、16%のトリメチルクロロシランと、8%のメチルハイドロジェンジクロロシランとからなる。底部生成物(C)は、100%のジメチルジクロロシランからなる。その際、そのジメチルジクロロシランは、要求通りに、80ppm未満の、20ppm未満の、特に10〜15ppm未満のメチルトリクロロシラン不純物しか伴わずに蒸留することができる。
【0027】
例1(本発明によらない):
慣用の蒸留に際して、カラム(K2)において熱交換器(W2)で2.3MWの加熱エネルギーが供給される。
【0028】
例2:
カラム(K1)が存在する加熱装置複合体(Waermeverbund)において、熱交換器(W1)で1.9MWのカラム(K2)の加熱に必要な熱が排出蒸気凝縮によって提供される。熱交換器(W2)で、更なる0.4MWの熱が伝えられる。エネルギー削減は、83%である。
【0029】
例3:
カラム(K2)における排出蒸気の圧縮の際に、1.9MWの熱出力を有する排出蒸気(B2)は0.3MWの更なるエネルギーを使用して圧縮され(圧縮装置及び熱交換器(W2)への導管は、図1に記入されていない)、熱交換器(W2)を介してカラム(K2)の缶出物を加熱する。エネルギー削減は、87%である。
【0030】
例4:
他のカラム(K3)及び(K4)の排出蒸気は、1.5MWの凝縮熱を、ヒートポンプ(カラム(K3)及び(K4並びにヒートポンプは図1に記入されていない)へと放出する。これは、熱交換器(W1)を介した更なる0.8MWの供給でカラム(K2)の缶出物を加熱する。エネルギー削減は、65%である。
【符号の説明】
【0031】
A1 シラン混合物、 A2 シラン混合物、 B1 排出蒸気、 B2 排出蒸気、 C2 缶出物、 K1 、 K2 カラム、 W1 熱交換器、 W2 熱交換器、 W3 熱交換器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキルクロロシラン及びハイドロジェンクロロシランから選択されるシランを含有するシラン混合物を蒸留装置において熱的分離する方法であって、蒸留装置の加熱のための熱の少なくとも一部を他の蒸留装置の排出蒸気から転用し、そして多くても200ppmの不純物しか有さないシラン生成物が得られる前記方法。
【請求項2】
他の蒸留装置の排出蒸気を凝縮させる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
他の蒸留装置の排出蒸気の熱が、熱交換器で伝熱体へと放出され、この伝熱体は蒸留装置の加熱のために使用される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
蒸留装置がカラムである、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
カラムの頂部で発生する排出蒸気を圧縮し、それにより加熱され、次いで熱交換器において熱を伝熱体へと放出し、この伝熱体が、このカラムの缶出物の加熱のために使用される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
製造されたシラン生成物が、蒸留装置の缶出物中に多くても200ppmの不純物しか伴わずに得られる、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
シラン生成物として、それぞれ多くても60ppmのメチルトリクロロシラン及びエチルジクロロシランしか含有しないジメチルジクロロシランが得られる、請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2012−526743(P2012−526743A)
【公表日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−510212(P2012−510212)
【出願日】平成22年5月5日(2010.5.5)
【国際出願番号】PCT/EP2010/056090
【国際公開番号】WO2010/130609
【国際公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(390008969)ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト (417)
【氏名又は名称原語表記】Wacker Chemie AG
【住所又は居所原語表記】Hanns−Seidel−Platz 4, D−81737 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】