説明

使用済燃料格納容器

【課題】 貯蔵時及び輸送時において適切な除熱がなされる使用済燃料格納容器を提供する。
【解決手段】 使用済燃料を格納するための略柱状の本体部と、本体部の側面と所定の間隔を有して本体部の側面の全周を包囲し、本体部の側面方向に少なくとも1つの開口部を有する遮蔽体部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用済燃料格納容器に関し、特に、使用済燃料の貯蔵時及び輸送時において適切な除熱がなされる使用済燃料格納容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
使用済燃料格納容器(以下単に、キャスクともいう)は、使用済燃料を格納する容器のことをいい、キャスク本体、蓋部、及びバスケット等で構成される。
【0003】
キャスクは安全を守る観点から所定の安全機能を有するように設計される必要がある。キャスクの安全機能としては、除熱機能、密封機能、遮蔽機能、及び臨界防止機能の4つが求められる。
【0004】
ここで、除熱機能とは、使用済燃料の健全性及び安全機能を有する構成部材の健全性が維持できるよう、使用済燃料の崩壊熱を適切に除去する機能をいう。近年の燃料の高燃焼度化により高発熱の使用済燃料を貯蔵する必要が生じ、除熱機能に対する要求は高まりつつある。
【0005】
また、遮蔽機能とは、周辺公衆及び放射線業務従事者に対し、放射線被ばく上の影響を及ぼすことのないよう、使用済燃料の放射線を適切に遮蔽する機能をいう。遮蔽機能は、主に使用済燃料からのγ線及び中性子線を遮蔽する機能をいう。
【0006】
キャスクは使用済燃料を貯蔵するのみでなく、使用済燃料の運搬にも使用されるため、運搬も考慮した構造を有する必要がある。キャスクは、貯蔵施設の収納効率を高めるために直立した縦置きの状態で貯蔵されることが多いが、輸送時には横置きの状態で専用の船舶や専用の車両に積載されることとなる。したがって、横置きの状態でもキャスクの4つの安全機能を満足するように設計する必要がある。
【0007】
このような安全機能を満たすキャスクは、一般的には、直径2〜3m、高さ5〜6m程度の円筒形状を有し、総重量は100tを超える。このようにキャスクは非常に大型かつ大重量の容器であるため、キャスクの輸送作業には、慎重かつ大掛かりな作業が要求され、同時に多大の輸送コストがかかる。
【0008】
使用済燃料は原子力発電所の使用済燃料プールに併設されるキャスクピット内でキャスクに格納されるため、キャスクの寸法と重量は、キャスクピットの大きさと使用済燃料プールの建屋に設置されるクレーンの容量によって制限される。使用済燃料の貯蔵コストと輸送コストを下げるためにはキャスクを大型化し、使用済燃料の収納数を増加させることが求められるが、キャスクピットの大きさと使用済燃料プールの建屋のクレーン容量がキャスク寸法と重量の制限となり、キャスクの大型化に限界があるという問題があった。一方、使用済燃料プールの建屋内においては、外部に対して十分な遮蔽がなされているため、キャスク自体の遮蔽機能をある程度緩和してもよい。
【0009】
このような観点から、使用済燃料プールの建屋内においてはキャスク本体から遮蔽用の部材を取り外すことが可能なキャスクが提案されている。
【0010】
キャスクの重量及び外形寸法を低減することを可能とした構造としては、分割可能な外筒を備えた放射性物質格納容器がある(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1に記載の放射性物質格納容器によれば、クレーンによる吊り上げ時に分割可能な外筒を取り外すことにより放射性物質格納容器本体の重量を低減することを可能としている。
【0011】
キャスクの重量及び外形寸法を低減するとともに、除熱効率を向上することを可能とした構造としては、取り外し可能な外胴を有し内胴と外胴との間に冷却空気通路が形成された使用済み燃料格納キャスクがある(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開2003−270382号公報
【特許文献2】特開2000−98082号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に記載の放射性物質格納容器によれば、分割された外筒は、若干の小型化が図られたものの、依然として約5m×約1.5m程の巨大な金属性の部材であり、取り付け時に広いスペースを必要とし、また、組立には大型のクレーン及び多くの人手が必要となる。
【0013】
また、キャスクの搬送時には、キャスクは横置きにされトレーラ等に積載されることとなるが、特許文献2に記載の放射性物質格納容器によれば、冷却空気通路がキャスクの縦方向にしか形成されていないため、キャスク搬送時には、空気の対流がうまく形成されず除熱がうまく行われないこととなる。これでは、キャスクに要求される除熱性能を十分に満たすことができず、燃料の高燃焼度化に伴い生ずる高発熱の使用済燃料に対応することが難しいという問題もある。
【0014】
本発明は、このような従来の問題を解決するためになされたもので、所定の間隙を有して容器本体を包囲し、使用済燃料格納容器の上下方向及び側面方向に開口部を有する分離遮蔽体を供えることにより、貯蔵時及び輸送時において適切な除熱がなされる使用済燃料格納容器を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の使用済燃料格納容器は、使用済燃料を格納するための略柱状の本体部と、本体部の側面と所定の間隔を有して本体部の側面の全周を包囲し、本体部の側面方向に少なくとも1つの開口部を有する遮蔽体部とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の使用済燃料格納容器によれば、容器本体の側面の全周を所定の間隙を有して包囲し、使用済燃料格納容器の側面方向に開口部を有する遮蔽体部を供えることにより、輸送時及び貯蔵時のいずれの場合においても、容器本体の周囲に空気の対流が形成されるため、適切な除熱機能を実現することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態である使用済燃料格納容器について、図を参照して詳細に説明をする。
【0018】
図1は、本実施形態の使用済燃料格納容器の構成を示す正面図である。本実施形態の使用済燃料格納容器100は、直径約2.6mの円形断面を有し、容器本体部の全長が、約5.7mの外形を有する。なお、本実施形態の使用済燃料格納容器の全長及び形状はこれに限られず適宜変更されうるものである。
【0019】
本実施形態の使用済燃料格納容器100は、本体部200と遮蔽体部300とを有する。
【0020】
本体部200は、略円筒上の形状を有し、上端部に二重の蓋部201及びその内部には使用済燃料を整列するためのバスケット(不図示)を備える。また、本体部200の上端部及び下端部付近には、使用済燃料格納容器100を横置きにする場合の支持部材となるトラニオン202、203がそれぞれ備わる。なお、本体部200の構成は、従来のキャスクが備える構成と同等であるため、詳細な説明は省略する。
【0021】
遮蔽体部300は、上部支持リング301と、中間支持リング302と、下部支持リング303と、上部支持金具304と、中間支持金具305と、下部支持金具306と、複数の分離遮蔽体310a〜310rとを備える。
【0022】
上部支持リング301は、本体部200の上部に取り付けられる。中間支持リング301は、本体部200の中部に取り付けられる。下部支持リング303は、本体部200の下部に取り付けられる。
【0023】
短冊状の分離遮蔽体310は、その上部が上部支持リング301と上部支持金具304を介し、その中部が中間支持リング302と中間支持金具305とを介し、その下部が下部支持リング303と下部支持金具306介して、その長さ方向が本体部200の中心軸と平行になるように、本体部200の側面の全周を包囲して所定の間隔をもって固定される。
【0024】
このように、上部支持金具304と中間支持金具305と下部支持金具306を各々介して各分離遮蔽体310は本体部200に固定されるため、分離遮蔽体310と本体部200との間には所定の間隙が形成される。
【0025】
図2は、図1のAA断面図である。図に示すように、本体部200の周囲には、本体部200の外周面と所定の間隔をもって複数の分離遮蔽体310a〜310rが配置されている。
【0026】
ここで、本実施形態の使用済燃料格納容器100は、輸送時には、図2のごとく分離遮蔽体310aが上になり分離遮蔽体310jが下となるように横置きにされるものとする。
【0027】
分離遮蔽体310a〜310rは、分離遮蔽体310aを頂部とした場合に、図中の時計回りに310aから310rまで、使用済燃料格納容器100の断面の中心から所定の角度をもって、容器の周囲に順に配置されている。
【0028】
図に示すように、分離遮蔽体310aは、本体部200の外周面に対して所定の間隔を有して、横置き時に地面と平行となるように、本体部200の上部に固定される。
【0029】
分離遮蔽体310bは、幅方向の一端が本体部200の外周面及び分離遮蔽体310aとの間に所定の間隔を有して位置し、幅方向の他端が本体部200の外周面及び分離遮蔽体310cとの間に所定の間隔を有して位置するように配置される。
【0030】
分離遮蔽体310cは、幅方向の一端が本体部200の外周面及び分離遮蔽体310dとの間に所定の間隔を有して位置するように配置される。
【0031】
分離遮蔽体310dは、幅方向の一端が本体部200の外周面及び分離遮蔽体310eとの間に所定の間隔を有して位置するように配置される。
【0032】
分離遮蔽体310eと分離遮蔽体310fとは、互いの幅方向の一端が接触するように配置されている。
【0033】
分離遮蔽体310gは、幅方向の一端が本体部200の外周面及び分離遮蔽体310fとの間に所定の間隔を有して位置するように配置される。
【0034】
分離遮蔽体310hは、幅方向の一端が本体部200の外周面及び分離遮蔽体310gとの間に所定の間隔を有して位置するように配置される。
【0035】
分離遮蔽体310jは、本体部200の外周面に対して所定の間隙を有して、横置き時に地面と平行となるように、本体部200の下部に固定される。
【0036】
分離遮蔽体310iは、幅方向の一端が本体部200の外周面及び分離遮蔽体310hとの間に所定の間隔を有して位置し、幅方向の他端が本体部200の外周面及び分離遮蔽体310jとの間に所定の間隔を有して位置するように配置される。
【0037】
分離遮蔽体310k〜310rの配置については、図2の上下方向に対して対称の位置にある分離遮蔽体310b〜310iの配置と同様である。
【0038】
このように、各分離遮蔽体310a〜310rは、本体部200の外周面に対して所定の間隔を有するとともに、幅方向の端部については本体部200の周方向に互いに重複して所定の間隔を有して配置されることとなる。また、上述のように、各分離遮蔽体310a〜310rが配置されることにより、図4に示すように、分離遮蔽体310bと分離遮蔽体310cとの幅方向の端部の重複により開口部であるスリット320aが形成され、分離遮蔽体310cと分離遮蔽体310dとの幅方向の端部の重複によりスリット320bが形成され、分離遮蔽体310dと分離遮蔽体310eとの幅方向の端部の重複によりスリット320cが形成され、分離遮蔽体310fと分離遮蔽体310gとの幅方向の端部の重複によりスリット320dが形成され、分離遮蔽体310gと分離遮蔽体310hとの幅方向の端部の重複によりスリット320eが形成され、分離遮蔽体310hと分離遮蔽体310iとの幅方向の端部の重複によりスリット320fが形成される。
【0039】
図4に示すように、本実施形態の使用済燃料格納容器100が、分離遮蔽体310aが上になり、分離遮蔽体310jが下となるように横置きにされた場合には、スリット320aからスリット320cについては上向きの開口となり、スリット320dからスリット320fについては下向きの開口となる。
【0040】
図3は、図2のB部拡大図である。分離遮蔽体310は、短冊状の部材であって、遮蔽材311を熱伝導率の高い金属312で被覆することにより構成される。遮蔽材311には、例えば、中性子線を遮断するためのレジンが用いられる。また、金属312には、例えば、熱伝導性に優れるアルミニウム合金を用いることが可能である。なお、分離遮蔽体310を単純な金属板とする場合や、ガンマ線遮蔽に優れた鉛を組み合わせる場合もある。
【0041】
なお、本実施形態においては、遮蔽体部300を多数の分離遮蔽体310を組み合わせることにより構成したが、これに限られず、例えば、円筒からなる遮蔽体の側面に単にスリットを複数設けた形態とすることも可能である。ただし、本実施形態のごとく多数の分離遮蔽体310を組み合わせて構成することは、分離遮蔽体の一枚一枚が軽量かつ小型化されるため、組立時に広い組立スペースを必要とせず、大型のクレーンを必要としないため、キャスクへの取り付け、及び取り外しの観点からはメリットが大きい。
【0042】
次に、本実施形態の使用済燃料格納容器の機能について説明をする。
【0043】
図2、3に示すように、本体部200によりある程度の遮蔽がなされ、遮蔽体部300により最終的な遮蔽がなされる。
【0044】
一般に、遮蔽体にスリットがあると、放射線のストリーミングにより容器外部の線量当量率が増加するが、各分離遮蔽体310a〜310rは幅方向の端部を、本体部200の周方向に重複させて配置されているため、スリット320a〜320cについては、使用済燃料格納容器100の中心から見た場合には死角に存在することとなり、結果として、使用済燃料格納容器100の中心から見た場合には、本体部200の周方向全体に隙間無く分離遮蔽体が配置されることとなる。このような構成により、線量当量率の増加量を低く抑え、スリットを備えつつ遮蔽機能を維持することを可能としている。
【0045】
図1は、縦置き時の本実施形態の使用済燃料格納容器を示す図である。図に示すように、使用済燃料格納容器100の上下端において、本体部200と分離遮蔽体310とは所定の間隔を有して配置されているため、使用済燃料格納容器100の下部から、分離遮蔽体310と本体部200の外周面との間の隙間を経由し、使用済燃料格納容器100の上部へと流れる空気の対流Cvが形成される。
【0046】
このような空気の対流Cvが形成されることにより、縦置き時において使用済燃料格納容器100の除熱は適切になされることとなる。
【0047】
図4は、横置き時の本実施形態の使用済燃料格納容器の断面を示す図である。図に示すように、スリット320d、320e、及び320fから外気が流入し、分離遮蔽体310と本体部200の外周面との間の隙間を経由し、スリット320a、320b、及び320cから流出する空気の対流Ctが形成される。
【0048】
このような空気の対流Ctが形成されることにより、横置き時においても使用済燃料格納容器100の除熱は適切になされる。また、スリット320a〜320cについては上向きの開口となり、スリット320d〜320fについては下向きの開口となっているため、対流Ctの生成を阻害することはない。
【0049】
以上説明したように、容器外面に付属物を取り付けると通常は伝熱を阻害し、容器の除熱性能を悪化させるが、本実施形態の使用済燃料格納容器によれば、容器と分離遮蔽体との間に空間を設け、対流効果を生み出すことで、分離遮蔽体取り付け時の容器の除熱性能を逆に向上させることを可能としている。
【0050】
また、本実施形態の分離遮蔽体は、使用済燃料格納容器から取り外し可能な遮蔽体であり、取り外し時は容器外径を小さくすることができるので、寸法制限が厳しい燃料プール内でも取り扱いが可能となる。
【0051】
また、容器は縦置き、横置きの両姿勢の状態があるが、本実施形態によれば、遮蔽体にスリットを設けることにより、いずれの姿勢でも対流を生じさせることを可能としている。
【0052】
また、遮蔽体にスリットがあると放射線のストリーミングにより容器外部の線量当量率が増加するが、本実施形態によれば、スリットについては、容器の中心から見た場合には死角の位置とすることで、線量当量率の増加量を低く抑えることを可能としている。
【0053】
また、本実施形態の分離遮蔽体は、遮蔽材を熱伝導率の高い金属で被覆することにより、さらなる除熱性能の向上を図っている。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本実施形態の使用済燃料格納容器の構成を示す正面図である。
【図2】図1のAA断面図である。
【図3】図2のB部拡大図である。
【図4】横置き時の本実施形態の使用済燃料格納容器の断面を示す図である。
【符号の説明】
【0055】
100:使用済燃料格納容器
200:本体部
300:遮蔽体部
301:上部支持リング
302:中間支持リング
303:下部支持リング
304:上部支持金具
305:中間支持金具
306:下部支持金具
310:分離遮蔽体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用済燃料を格納するための略柱状の本体部と、
前記本体部の側面と所定の間隔を有して前記本体部の側面の全周を包囲し、前記本体部の側面方向に少なくとも1つの開口部を有する遮蔽体部と、
を備えることを特徴とする使用済燃料格納容器。
【請求項2】
前記遮蔽体部は、
前記本体部の側面の全周に配置された略短冊状の複数の分離遮蔽体を備えることを特徴とする請求項1に記載の使用済燃料格納容器。
【請求項3】
前記開口部は、
前記複数の分離遮蔽体が、互いの幅方向の端部を所定の間隔を有して前記本体部の周方向に重複させることにより構成されることを特徴とする請求項2に記載の使用済燃料格納容器。
【請求項4】
前記開口部は、
前記使用済燃料格納容器を横置きにした場合に、上方向または下方向に開口を向けることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の使用済燃料格納容器。
【請求項5】
前記遮蔽体部は、
前記複数の分離遮蔽体を前記本体部の周囲に固定するための支持部材を備え、当該支持部材の固定を解除することにより、前記複数の分離遮蔽体は取り外し可能であることを特徴とする請求項2から4のいずれかに記載の使用済燃料格納容器。
【請求項6】
前記遮蔽体部は、
アルミニウム合金を用いた被覆部を備えることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の使用済燃料格納容器。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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