便座装置および便座装置用脱臭成形体の製造方法
【課題】高効率でかつ長期間臭気成分を除去することができる脱臭成形体を有する便座装置及びその製造方法を提供する。
【解決手段】便座装置は、便器に装備される基部と、便座と、便蓋とを有する。基部は、脱臭成形体保持部4と、脱臭成形体保持部4に保持される脱臭成形体5とを有する。脱臭成形体5は、多孔質担体50に酸化第一銅と三水酸化硝酸銅とアミノ安息香酸とを有効成分として担持して形成されている。
【解決手段】便座装置は、便器に装備される基部と、便座と、便蓋とを有する。基部は、脱臭成形体保持部4と、脱臭成形体保持部4に保持される脱臭成形体5とを有する。脱臭成形体5は、多孔質担体50に酸化第一銅と三水酸化硝酸銅とアミノ安息香酸とを有効成分として担持して形成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリメチルアミン、アンモニア、メチルメルカプタン及び硫化水素等の臭気成分を除去することができる脱臭成形体をもつ便座装置および便座装置用脱臭成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トイレ室内における空気には、トリメチルアミンやアンモニア等のアミン系の窒素化合物等の窒素系の臭気成分、硫化水素やメチルメルカプタン等の硫黄化合物等のような硫黄系の臭気成分が含まれている。更に、アセトアルデヒドやホルムアルデヒド等のアルデヒド類の臭気成分も含まれていることがある。これらの臭気成分は、トイレの使用者に対して不快感を与える。
【0003】
このため、多孔質材料に銅等の遷移元素或いは遷移元素化合物の一方又は双方よりなる第1添加物、及び臭素等のハロゲン又はハロゲン化合物の1種以上よりなる第2添加物を担持してなる脱臭材が知られている(特許文献1)。更に、多孔質材料にm−および/またはp−芳香族アミノ酸の酸性塩と、酸と、ヨウ素および/またはヨウ化物とを担持させて形成された脱臭剤が知られている(特許文献2)。更にまた、窒素化合物系の臭気成分や硫黄化合物系の臭気成分を除去させる脱臭剤として、酸化第一銅と三水酸化硝酸銅とを担持させた脱臭剤が知られている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−281113号公報
【特許文献2】特開平5−23588号公報
【特許文献3】特開2004−166920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら特許文献1の係る脱臭材は、特に低濃度の臭気成分が存在する実際の使用環境下において充分な脱臭性能を発揮できるものではなかった。特許文献2に係る脱臭剤は、その有効成分としてヨウ素等の揮発性物質を使用している。かかる物質は腐食性を有するため、脱臭剤を金属部品等と共に用いる場合には、これらの金属部品を腐食させてしまうおそれがある。更にヨウ素等のハロゲンは焼却時にダイオキシン類を発生させるおそれがあるため、環境負荷物質を低減させる観点からも好ましくない。また特許文献3に係る脱臭剤は、窒素化合物系の臭気成分や硫黄化合物系の臭気成分を除去できるものの、アルデヒド類の臭気を除去できない。
【0006】
本発明は上記した実情に鑑みてなされたもので、高効率で、かつ長期間臭気成分を除去することができると共に環境に対して安全であり、更に、トリメチルアミンやアンモニア等の窒素化合物系のの臭気成分、硫化水素やメチルメルカプタン等の硫黄化合物系の臭気成分、アセトアルデヒドやホルムアルデヒド等のアルデヒド類の臭気成分を脱臭させるのに有利な脱臭成形体を有する便座装置及び便座装置用脱臭成形体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)第1の本発明に係る便座装置は、洋式便器に装備される基部と、基部に揺動可能に設けられた便座と、基部に揺動可能に設けられた便蓋とを有する便座装置であって、基部は、脱臭成形体保持部と、脱臭成形体保持部に保持される脱臭成形体とを有しており、脱臭成形体は、多孔質担体に酸化銅と三水酸化硝酸銅とアミノ安息香酸とを有効成分として担持して形成されている。
【0008】
多孔質担体では、酸化銅と三水酸化硝酸銅(Cu2(OH)3NO3)とが担持されている。このため酸化銅と三水酸化硝酸銅との相乗効果により、トリメチルアミンやアンモニア等のアミン系の窒素化合物系の臭気成分、及びメチルメルカプタン及び硫化水素等の硫黄化合物系の臭気成分を効率的に除去することができる。多孔質担体に担持されているアミノ安息香酸は、アセトアルデヒドやホルムアルデヒド等のアルデヒド類の臭気成分を除去させる。酸化銅は脱臭性を考慮すると、酸化第一銅(Cu2O)が好ましいが、場合によっては酸化銅(CuO)としても良い。
【0009】
酸化銅と三水酸化硝酸銅が、臭気成分を除去する化学的メカニズムとしては、メチルメルカプタンや硫化水素等の硫黄化合物系の臭気成分に対しては、酸化銅と三水酸化硝酸銅が硫黄化合物系の臭気成分を酸化して硫黄又は金属硫化物を生成することによると考えられる。また、トリメチルアミン、アンモニア等の窒素化合物系の臭気成分に対しては、主に三水酸化硝酸銅がアミン系化合物と錯体を形成することによると考えられる。
【0010】
また脱臭成形体は酸化第一銅等の酸化銅と三水酸化硝酸銅とを担持した多孔質の担体を有する。このため、脱臭成形体は、臭気成分との接触面積が大きく、多孔質担体に結合した酸化銅及び三水酸化硝酸銅が効率的に臭気成分を脱臭することができる。さらに、脱臭成形体は、従来の脱臭材とは異なり、環境に対して有害なヨウ素等のハロゲンを成分中に含有してない。このため、使用中にハロゲンが揮発し臭気成分の除去性能が低下し易いという不具合を生じることもなく、前記従来の脱臭材よりも脱臭性能の寿命が向上する。また環境に対しても安全である。このように、第1の本発明によれば、高効率で、かつ長期間臭気成分を除去することができると共に、環境に対して安全な脱臭成形体を提供することができる。
【0011】
(2)第2の本発明に係る便座装置用脱臭成形体の製造方法は、銅を含有する金属塩を多孔質担体に含浸させる第1含浸工程と、第1含浸工程完了後の多孔質担体を不活性ガス雰囲気中で400℃〜800℃にて加熱する熱処理工程と、熱処理工程完了後の多孔質担体に金属塩を含浸させる第2含浸工程と、第2含浸工程完了後の多孔質担体を乾燥させる乾燥工程と、乾燥工程完了後の多硬質担体に芳香族アミノ酸を含浸させる第三含浸工程と、第三含浸工程完了後の多孔質担体を乾燥させる乾燥工程とを含む。
【0012】
多孔質担体では、酸化第一銅(Cu2O)等の酸化銅と三水酸化硝酸銅(Cu2(OH)3NO3)とが担持されている。このため酸化第一銅等の酸化銅と三水酸化硝酸銅との相乗効果により、トリメチルアミンやアンモニア等のアミン系の臭気成分、及びメチルメルカプタン及び硫化水素等の硫黄化合物系の臭気成分を効率的に除去することができる。多孔質担体に担持されている芳香族アミノ酸は、アセトアルデヒド等のアルデヒド類の臭気成分を除去させる。芳香族アミノ酸としては、芳香族モノアミノモノカルボン酸が挙げられる。芳香族モノアミノモノカルボン酸としてはパラアミノ安息香酸、メタアミノ安息香酸、パラアミノサリチル酸が挙げられる。
【0013】
第2の本発明の製造方法によれば、第1含浸工程及び第2含浸工程により、銅を含む金属塩を二回含浸させ、さらに第1含浸工程後に熱処理工程を行い、第1含浸工程後に乾燥工程を行っている。このため熱処理工程においては、銅を含む金属塩が金属酸化物として多質質担体に担持される。また乾燥工程においては、金属塩がそのままの状態、又は含浸時に用いる溶媒としての水等から水酸化物イオンを取り出して水酸化物イオンを結合した状態で多孔質担体に担持される。それ故、第2の発明の製造方法によれば、銅を含む金属塩が少なくとも二つの形態にて多孔質担体に担持される。その結果、得られる脱臭成形体は、窒素化合物系の臭気成分及び硫黄化合物系の臭気成分に対して、優れた脱臭効果を示すものとなる。また、多孔質担体はハロゲン等の揮発性物質を含有していないため、環境に対して安全であると共に、前記従来の脱臭材のように、有効成分が揮発し、脱臭性能が低下し易いという不具合を生じることもない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】便器に取り付けられている便座装置の便蓋を開放させた状態を模式的に示す図である。
【図2】便器に取り付けられている便座装置の便蓋を閉鎖させた状態を模式的に示す図である。
【図3】実施形態1に係り、脱臭成形体保持部に脱臭成形体が保持されている状態を模式的に示す図である。
【図4】実施形態2に係り、脱臭成形体保持部に脱臭成形体が保持されている状態を模式的に示す図である。
【図5】実施形態3に係り、脱臭成形体保持部に脱臭成形体が保持されている状態を模式的に示す図である。
【図6】実施形態4に係り、脱臭成形体保持部に脱臭成形体が保持されている状態を模式的に示す図である。
【図7】実施形態5に係り、脱臭成形体保持部に脱臭成形体が保持されている状態を模式的に示す図である。
【図8】実施例に係り、脱臭成形体を模式的に示す斜視図である。
【図9】測定装置の概念を模式的に示す図である。
【図10】経過時間と硫化水素の除去率との関係を示すグラフである。
【図11】経過時間とアセトアルデヒドの除去率との関係を示すグラフである。
【図12】経過時間とトリメチルアミンの除去率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
トイレでは、一般的には、トリメチルアミンやアンモニア等の窒素化合物系の臭気成分、及びメチルメルカプタン及び硫化水素等の硫黄化合物系の臭気成分は、アセトアルデヒド等のアルデヒド類の臭気成分よりも強い。そこで、好ましくは、多孔質担体における上流領域または多孔質担体の全体に酸化第一銅等の酸化銅および三水酸化硝酸銅が担持されており、多孔質担体における下流領域にパラアミノ安息香酸が担持されていることが好ましい。この場合、臭気成分を含む空気は、多孔質担体において酸化第一銅および三水酸化硝酸銅が担持されている部分を通過した後に、芳香族アミノ酸が担持されている部分を通過する。すなわち、トリメチルアミンやアンモニア等の窒素化合物系の臭気成分、メチルメルカプタン及び硫化水素等の硫黄化合物系の臭気成分が除去された空気が、多孔質担体の下流領域(アミノ安息香酸が担持されている領域)を通過する。このため、アミノ安息香酸と接触する空気は、窒素化合物系の臭気成分、硫黄化合物系の臭気成分の大部分が除去された空気となる。このためパラアミノ安息香酸によるアセトアルデヒド等のアルデヒド類の臭気成分を効果的に脱臭できる利点が得られる。アミノ安息香酸としては、パラアミノ安息香酸、オルトアミノ安息香酸、メタアミノ安息香酸が挙げられるが、脱臭性を考慮すると、パラアミノ安息香酸が好ましい。
【0016】
多孔質担体のうち酸化第一銅等の酸化銅および三水酸化硝酸銅が担持されている部分には、パラアミノ安息香酸等のアミノ安息香酸が担持されていない形態を採用することができる。多孔質担体において酸化銅および三水酸化硝酸銅が占める面積が低下するためである。多孔質担体のうちパラアミノ安息香酸等のアミノ安息香酸が担持されている部分には、酸化第一銅等の酸化銅および三水酸化硝酸銅が担持されていない形態を採用することができる。その理由としては、多孔質担体のうちパラアミノ安息香酸等のアミノ安息香酸が占める面積が低下し、アミノ安息香酸による脱臭効果が低下するおそれがあるためである。脱臭成形体については、多孔質担体の100質量部に対して、酸化第一銅(Cu2O)等の酸化銅をM1質量部、三水酸化硝酸銅(Cu2(OH)3NO3)をM2質量部、アミノ安息香酸をM3質量部担持させることができる。
【0017】
ここで、窒素化合物系の臭気成分、硫黄化合物系の臭気成分の脱臭を考慮すると、M1>M2、M1>M3とすることができる。M1>M2>M3、または、M1>M2=M3、または、M1>M2≒M3とすることができる。更に、M2>M1>M3とすることができる。M1=M2=M3とすることができる。M1≒M2≒M3とすることができる。アルデヒド類の臭気成分の脱臭を考慮すると、M3>M1、M3>M2とすることができる。M3>M1>M2とすることができる。
【0018】
多孔質担体としては、活性炭、含水珪酸マグネシウム質粘土鉱物、ベントナイト、カオリン、蛙目粘土、ゼオライト、シリカゲル、及び活性アルミナより選ばれる1種以上を含有していることが好ましい。この場合には、脱臭成形体の強度が向上する。また、多孔質担体が臭気成分の吸着に優れるものになるため、脱臭成形体の臭気成分に対する除去性能が向上する。
【0019】
好ましくは、多孔質担体は、少なくとも活性炭を含有するものがよい。活性炭は、メチルメルカプタンや硫化水素等の硫黄化合物系の臭気成分を吸着除去する性能に優れているため、脱臭成形体の硫黄化合物系の臭気成分に対する除去性能を向上させることができるからである。また、好ましくは、少なくとも含水珪酸マグネシウム質粘土鉱物を含有するものがよい。含水珪酸マグネシウム粘土鉱物は、表面に反応性に富む水酸基を有しており、トリメチルアミンやアンモニア等のアミン系の臭気成分を吸着除去する性能に優れているため、前記脱臭成形体のアミン系の臭気成分に対する除去性能を向上させることができるからである。
【0020】
好ましくは、多孔質担体は少なくとも活性炭と含水珪酸マグネシウム質粘土鉱物とを含有するものがよい。この場合には、脱臭成形体の硫黄化合物系の臭気成分及びアミン系の臭気成分に対する除去性能を一層向上させることができるからである。なお、含水珪酸マグネシウム質粘土鉱物は、珪酸マグネシウムを主成分とする粘土鉱物であり、例えばセピオライト及び山皮等がある。
【0021】
また、多孔質担体としては、活性炭と含水珪酸マグネシウム質粘土鉱物とを主成分として、ベントナイト、カオリン、蛙目粘土、ゼオライト、シリカゲル、及び活性アルミナより選ばれる1種以上をさらに含有するものを用いることができる。このとき、ベントナイト、カオリン及び蛙目粘土をさらに含有する場合には、前記脱臭成形体の強度を一層向上させることができる。一方、ゼオライト、シリカゲル、活性アルミナをさらに含有する場合には、臭気成分の吸着性能を一層向上させることができる。
【0022】
また、多孔質担体は少なくとも活性炭と含水珪酸マグネシウム質粘土鉱物とを含有してなり、両者の合計含有量を100質量部とするとき、活性炭が30〜90質量部、40〜80質量部であることが好ましく、含水珪酸マグネシウム質粘土鉱物が10〜70質量部、20〜60質量部であることが好ましい。活性炭の含有量が過少の場合、又は含水珪酸マグネシウム質粘土鉱物の含有量が過多の場合には、脱臭成形体の臭気成分に対する吸着性能が低下するおそれがある。一方、活性炭の含有量が過多の場合、又は、含水珪酸マグネシウム質粘土鉱物の含有量が過少の場合には、脱臭成形体の強度が低下するおそれがある。脱臭成形体はハニカム形状を有していることが好ましい。この場合には、前記脱臭成形体は、表面積が大きなものとなり、臭気成分との接触面積も大きくなる。そのため、脱臭成形体は、効率良く臭気成分と接触することができ、脱臭効率を向上させることができる。なお、ハニカム形状としては、セルの断面形状が円形状のもの、あるいは、四角形及び六角形等の多角形のものがある。
【0023】
第2の本発明に係る製造方法によれば、銅を含む金属塩としては、例えばCu(NO3)2、CuCl2、CuSO4等が挙げられる。また、第1含浸工程及び第2含浸工程において、銅を含む金属塩を含浸させる方法としては、金属塩を溶解した水溶液等に多孔質担体を浸漬する方法等がある。また、複数の金属塩を溶解した水溶液等に多孔質担体を含浸させることもできる。また熱処理工程においては、多孔質担体を不活性ガス雰囲気中で温度400℃〜800℃にて加熱する。ここで、加熱温度が過剰低温の場合には、金属塩が酸化物として前記担体に担持されないおそれがある。その結果、脱臭成形体の臭気成分に対する除去性能が低下するおそれがある。一方、過剰に高温の場合には、金属塩の酸化物及び多孔質担体がシンタリング(凝集)し、その結果、脱臭成形体の臭気成分に対する除去性能が低下するおそれがある。また、熱処理工程において、金属塩は、金属塩中の金属の酸化数が変化した金属酸化物となり、多孔質担体に結合する場合がある。例えば、銅を含む金属塩として、硝酸銅(Cu(NO3)2)を用いた場合には、硝酸銅は、熱処理工程後に酸化第一銅(Cu2O)として多孔質担体に担持される。このとき銅の酸化数が+IIから+Iに変化する。一方、乾燥工程においては、硝酸銅(Cu(NO3)2)中の銅の酸化数は+IIのまま変化せず、多孔質担体に担持される。この結果、酸化数の異なる同じ金属(銅)原子を二つの形態で結合させることができる。
【0024】
また、第2含浸工程においては、第1含浸工程と同じ金属塩を用いることが好ましい。好ましくは、第1含浸工程及び第2含浸工程においては、銅を含む金属塩として硝酸銅を含有する水溶液を用いることがよい。この場合、第1含浸工程後に実施される熱処理工程において、金属塩としての硝酸銅が酸化第一銅(Cu2O)となり、また第2含浸工程後に実施される乾燥工程においては、硝酸銅が三水酸化硝酸銅(Cu2(OH)3NO3)となって多孔質担体に担持される。この結果、酸化第一銅(Cu2O)と三水酸化硝酸銅(Cu2(OH)3NO3)との相乗効果による、優れた脱臭効果を有する脱臭成形体を作製することができる。
【0025】
銅を含む金属塩としては、硝酸銅および/または塩化銅であることが好ましい。この場合には、銅を含む化合物が多孔質担体に担持され、銅原子が有する優れた脱臭作用を利用して、優れた脱臭作用を有する脱臭成形体を製造することができる。銅を含む金属塩としては少なくとも硝酸銅を用いることが特に好ましい。この場合には、上述のごとく、多孔質担体に酸化第一銅と三水酸化硝酸銅とが担持される。この結果、酸化第一銅と三水酸化硝酸銅との相乗的な効果により、一層脱臭作用を向上させることができる。
【0026】
第1含浸工程及び第2含浸工程では、銅を含む金属塩を溶解した水溶液に多孔質担体を浸すことにより、金属塩を含浸させることが好ましい。この場合には、銅を含む金属塩を容易に多孔質担体に含浸させることができる。この場合には、乾燥工程において、金属塩は水酸化物イオンを結合した状態で、多孔質担体に結合され得る。このように水酸化物イオンを結合した金属塩は、アミン系化合物と錯体を形成し易くなるため、脱臭成形体のアミン系の臭気成分に対する除去性能を向上させることができる。また、水酸化物イオンが結合した金属塩は、塩基性の酸化物である含水珪酸マグネシウム質粘土鉱物、即ち例えばセピオライト等に担持した場合に生成しやすい。そのため、前記金属塩を担持する担体としては、含水珪酸マグネシウム質粘土鉱物が適している。
【0027】
次に乾燥工程においては多孔質担体を50℃〜180℃、殊に90℃〜130℃にて乾燥することが好ましい。乾燥温度が過剰に低温であるとき、多孔質担体の細孔中に入り込んだ水等の溶媒が充分に除去できず、脱臭成形体の物理吸着に基づく臭気成分に対する吸着除去性能が低下するおそれがある。また乾燥温度が過剰に高温であるときには、前記金属塩は硝酸等の酸を失って分解するため、脱臭成形体の窒素化合物系の臭気成分に対する除去性能が過剰に低下するおそれがある。
【0028】
(実施形態1)
図1〜図3は実施形態1の概念を示す。便座装置は、洋式便器100に装備される基部1と、基部1に揺動可能に設けられた便座2と、基部1に揺動可能に設けられた便蓋3とを有する。基部1は、トイレ室に連通する臭気入口1cと臭気出口1dとをもつ。臭気入口1cは、便器100の便鉢の排泄空間に連通することが好ましい。基部1は、便座2に着座する使用者の便局部等の局部を洗浄させる洗浄ノズルを搭載していることが好ましい。
【0029】
図3に示すように、基部1は、収容空間40をもつ脱臭成形体保持部4と、脱臭成形体保持部4の収容空間40に保持された脱臭成形体5とを有する。脱臭成形体5は脱臭成形体保持部4に対して交換可能であることが好ましいが、交換不能であっても良い。脱臭成形体保持部4は、収容空間40を形成する壁41と、収容空間40における上流に位置する入口42と、収容空間40における下流に位置する出口43と、入口42と出口43との間に設けられた送風要素として機能するファン44とを有する。ファン44はモータで回転される。脱臭成形体5は、多孔質担体50と、多孔質担体50において有効成分として担持された酸化第一銅と三水酸化硝酸銅とパラアミノ安息香酸とを有する。
【0030】
図3から理解できるように、多孔質担体50については、多孔質担体50における上流領域50uおよび下流領域50dに酸化第一銅および三水酸化硝酸銅の双方が担持されている。このため酸化第一銅および三水酸化硝酸銅の担持面積および担持量が確保されている。多孔質担体50における下流領域50dには、パラアミノ安息香酸がアミノ安息香酸として担持されている。ここで、脱臭成形体5は、多孔質担体50の100質量部に対して、酸化第一銅(Cu2O)をM1質量部(例えば2〜10質量部)、三水酸化硝酸銅(Cu2(OH)3NO3)をM2質量部(例えば1〜6質量部)、パラアミノ安息香酸をM3質量部(例えば1〜6質量部)担持している。M1>M2=M3、M1>M2≒M3、M1>M2>M3が例示される。但しこれに限定されるものではない。
【0031】
本実施形態によれば、次の製造方法が採用されている。まず、第1含浸工程においては、ハニカム構造体である多孔質担体50の全体を硝酸銅水溶液((Cu(NO3)2水溶液に含浸させる。そして多孔質担体50を硝酸銅水溶液中から引き上げる。次に第1熱処理工程においては、第1含浸工程後の多孔質担体50を不活性ガス雰囲気(窒素ガス)中で500℃〜800℃にて加熱する。この加熱時に、多孔質担体50に含浸された硝酸銅(Cu(NO3)2)は、酸化第一銅(Cu2O)になる。次に第2含浸工程においては、第1熱処理工程後の多孔質担体50の全体を硝酸銅水溶液に含浸させた。そして多孔質担体50を硝酸銅水溶液中から引き上げた。次に第1乾燥工程においては、第2含浸工程後の多孔質担体50を例えば80〜150℃にて乾燥させる。この乾燥時に、多孔質担体50に含浸された硝酸銅(Cu(NO3)2)は、三水酸化硝酸銅(Cu2(OH)3NO3)になる。次に、次に第3含浸工程においては、パラアミノ安息香酸水溶液を用い、第1熱処理工程後の多孔質担体50のうち下流部分のみをパラアミノ安息香酸水溶液に含浸させる。そして多孔質担体50をパラアミノ安息香酸水溶液から引き上げた。この場合、多孔質担体50の上流部分をパラアミノ安息香酸水溶液に含浸させない。次に第2乾燥工程においては、第3含浸工程後の多孔質担体50を80〜150℃にて乾燥させる。このようにして多孔質担体50に、酸化第一銅と三水酸化硝酸銅とパラアミノ安息香とを担持させることができる。
【0032】
本実施形態では、図1に示すように便蓋3が開放されているときには、ファン44が回転すると、トイレ室の空気や便器内部の排泄空間の臭気を含む空気は、臭気入口1cから吸引され、脱臭成形体保持部4の入口42から収容室40に流入し、脱臭成形体5の内部を通過し、出口43から流出し、更に臭気出口1dからトイレ室に吐出される。このように多孔質の脱臭成形体5の内部を通過するときに空気が脱臭される。脱臭されてクリーンとなった空気は出口1dからトイレ室に吐出される。
【0033】
また図2に示すように便蓋3が閉鎖されているときには、便器と便座2の脚2aとの隙間2cが形成される。従ってファン44が回転すると、トイレ室の空気は、隙間2cから便器内部に吸引され、更に便器内部の排泄空間の空気と共に、臭気入口1cに吸引され、脱臭成形体保持部4の入口42から収容室40に流入し、脱臭成形体5の内部を通過し、臭気出口1dからトイレ室に吐出される。このように脱臭成形体5を通過するときに空気が脱臭される。脱臭されてクリーンとなった空気は出口1dからトイレ室に吐出される。
【0034】
ここで、メチルメルカプタンや硫化水素等の硫黄化合物系の臭気成分に対しては、酸化第一銅と三水酸化硝酸銅が硫黄化合物系の臭気成分を酸化して硫黄又は金属硫化物を生成することによると考えられる。また、トリメチルアミン、アンモニア等の窒素化合物系の臭気成分に対しては、主に三水酸化硝酸銅がアミン系化合物と錯体を形成することによると考えられる。多孔質担体50における全体、即ち、上流領域50uおよび下流領域50dに酸化第一銅および三水酸化硝酸銅の双方が担持されているため、それらの担持量および担持面積が確保され、硫黄化合物系の臭気成分、窒素化合物系の臭気成分を良好に脱臭させ得る。
【0035】
更にパラアミノ安息香酸は多孔質担体50における下流領域50dにのみ担持されているものの、上流領域50uには担持されていない。このため硫黄化合物系の臭気成分、窒素化合物系の臭気成分が除去された空気に対して、パラアミノ安息香酸は脱臭作用を発揮するため、パラアミノ安息香酸が少量であっても、パラアミノ安息香酸による脱臭作用が良好に確保される。
【0036】
本実施形態によれば、多孔質担体50は単一構造体であるハニカム構造体で形成されているため、操作性が良好であり、各含浸工程および熱処理工程などが簡便となり、更に組付性も簡便となる。なお、本実施形態によれば、多孔質担体50における上流領域50uおよび下流領域50dは多孔質担体50の全見掛け体積を100とするとき、上流領域50uの見掛け体積:下流領域50dの見掛け体積=50:50とされている。但し、これに限らず、60:40としても良く70:30としても良く、80:20としても良く、40:60としても良い。
【0037】
(実施形態2)
図4は実施形態2を示す。本実施形態は実施形態1と基本的には同様の構成、同様の作用効果を有するため、図1および図2を準用する。多孔質担体50については、多孔質担体50における上流領域50uには、酸化第一銅および三水酸化硝酸銅の双方が担持されている。多孔質担体50における下流領域50dにはパラアミノ安息香酸が担持されている。多孔質担体50における下流領域50dには酸化第一銅および三水酸化硝酸銅の双方が担持されていない。このため、多孔質担体50における下流領域50dに担持させるパラアミノ安息香酸の担持面積および担持量を増加させるのに有利となる。この場合、アセトアルデヒド等のアルデヒド類の臭気成分を脱臭させるのに有利である。
【0038】
(実施形態3)
図5は実施形態3を示す。本実施形態は実施形態1と基本的には同様の構成、同様の作用効果を有するため、図1および図2を準用する。酸化第一銅、三水酸化硝酸銅およびパラアミノ安息香酸の3成分がそれぞれ有効成分として多孔質担体50の全体において、ほぼ均一に担持されている。
【0039】
(実施形態4)
図6は実施形態4を示す。本実施形態は実施形態1と基本的には同様の構成、同様の作用効果を有するため、図1および図2を準用する。脱臭成形体5は、上流部と下流部とに分割されている。上流部を形成する多孔質担体50uには、酸化第一銅および三水酸化硝酸銅の双方が担持されているものの、パラアミノ安息香酸は担持されていない。下流部を形成する多孔質担体50dには、酸化第一銅および三水酸化硝酸銅の双方が担持されていないものの、パラアミノ安息香酸が担持されている。下流部を形成する多孔質担体50dには酸化第一銅および三水酸化硝酸銅の双方が担持されていないため、下流領域50dに担持させるパラアミノ安息香酸の担持面積および担持量を増加させるのに有利となる。この場合、アセトアルデヒド等のアルデヒド類の臭気成分を脱臭させるのに有利である。そのぶん、下流部を形成する多孔質担体50dの見掛け体積が、上流部を形成する多孔質担体50uよりも小型化されている。
【0040】
(実施形態5)
図7は実施形態5を示す。本実施形態は実施形態1と基本的には同様の構成、同様の作用効果を有するため、図1および図2を準用する。脱臭成形体5は、上流部と下流部とに分割されており、上流部と下流部との間に介在する拡散空間50xを有する。上流部を形成する多孔質担体50uには、酸化第一銅および三水酸化硝酸銅の双方が担持されているものの、パラアミノ安息香酸は担持されていない。下流部を形成する多孔質担体50dには、酸化第一銅および三水酸化硝酸銅の双方が担持されていないものの、パラアミノ安息香酸が担持されている。多孔質担体50dには酸化第一銅および三水酸化硝酸銅の双方が担持されていないため、下流領域50dに担持させるパラアミノ安息香酸の量を増加させるのに有利となる。この場合、アセトアルデヒド等のアルデヒド類の臭気成分を脱臭させるのに有利である。そのぶん、下流部を形成する多孔質担体50dの容積が小型化されている。上流側の多孔質担体50uを通過した空気を下流側の多孔質担体50dに進入させる前に、拡散空間50xにおいて拡散させることができる。脱臭ムラの低減に有利である。なお多孔質担体50dに酸化第一銅および三水酸化硝酸銅を担持させることにしても良い。
【実施例】
【0041】
次に、本発明の実施例について図8〜図12を参照しつつ説明する。実施形態と共通する符号を用いるが、必ずしも同一構造に限定されるものではない。本実施例の脱臭成形体5は、多孔質担体50に、酸化第一銅と三水酸化硝酸銅とパラアミノ安息香酸とを担持して形成されている。多孔質担体50は、活性炭70質量部とセピオライト30質量部とを含有してなり、断面が略四角形の通路を形成する複数のセル52を有するハニカム構造からなる。多孔質担体50の寸法は、図8において、a=9.5mm、b=9.5mm、c=35mmである。
【0042】
すなわち、脱臭成形体5は、多孔質担体50の表面全体に酸化第一銅(Cu2O)と三水酸化硝酸銅(Cu2(OH)3NO3)とパラアミノ安息香酸とを担持している。脱臭成形体5は、多孔質担体50の100質量部に対して、酸化第一銅(Cu2O)を5質量部、三水酸化硝酸銅(Cu2(OH)3NO3)を3質量部、パラアミノ安息香酸を3質量部担持している。
【0043】
本実施例の多孔質担体50の製造方法について説明する。まず、多孔質担体50を準備した。この場合、活性炭70質量部と、セピオライト30質量部とを混合して混合物を得た。この混合物100質量部に、水140質量部とバインダとしてメチルセルロース10質量部とを加えて、ニーダーにより充分に混練し、混練物を得た。この混練物を、真空押出機を用いてハニカム状に押し出し成形して、ハニカム成形体のグリーンコンパクトを作製した。次に、このグリーコンパクトを室温で乾燥した後、さらに熱風乾燥した。続いて、乾燥後のグリーコンパクトを焼成炉に入れ、焼成炉中の雰囲気を窒素ガス雰囲気にして温度750℃で3時間焼成し、多孔質担体50を作製した。この多孔質担体50の寸法及びセル52の形状は上述のとおりである。
【0044】
次に、脱臭成形体5の製造方法につき説明する。本例の脱臭成形体5の製造方法は、第1含浸工程と、第1熱処理工程と、第2含浸工程と、第1乾燥工程と、第3含浸工程と、第2乾燥工程とを有する。第1含浸工程においては、多孔質担体50の全体を硝酸銅水溶液((Cu(NO3)2水溶液、濃度:5質量%)に所定時間(5分間)含浸させた。そして多孔質担体50を硝酸銅水溶液中から引き上げた。次に第1熱処理工程においては、第1含浸工程後の多孔質担体50を不活性ガス雰囲気(窒素ガス)中で500℃にて3時間加熱した。窒素ガスに代えてアルゴンガスとしても良い。この加熱時に、多孔質担体50に含浸された硝酸銅(Cu(NO3)2)は、酸化第一銅(Cu2O)になる。この結果、多孔質担体50のセル52の内壁53及び多孔質担体50の外表面54の全体に酸化第一銅(Cu2O)が担持される。
【0045】
次に第2含浸工程においては、第1熱処理工程後の多孔質担体50の全体を硝酸銅水溶液(濃度:1質量%)に所定時間(5分間)含浸させた。そして多孔質担体50を硝酸銅水溶液中から引き上げた。次に第1乾燥工程においては、第2含浸工程後の多孔質担体50を80℃にて乾燥させた。この乾燥時に、多孔質担体50に含浸された硝酸銅(Cu(NO3)2)は、三水酸化硝酸銅(Cu2(OH)3NO3)になる。このように多孔質担体50のセル52の内壁53及び多孔質担体50の外表面54の全体に三水酸化硝酸銅が担持される。
【0046】
次に、次に第3含浸工程においては、パラアミノ安息香酸水溶液(濃度:3質量%)を用い、第1熱処理工程後の多孔質担体50のうち下流部分のみをパラアミノ安息香酸水溶液に所定時間(10分間)に含浸させた。そして多孔質担体50をパラアミノ安息香酸水溶液から引き上げた。この場合、多孔質担体50の上流部分をパラアミノ安息香酸水溶液に含浸させない。次に第2乾燥工程においては、第三含浸工程後の多孔質担体50を80℃にて乾燥させた。
【0047】
このようにして多孔質担体50に、酸化第一銅と三水酸化硝酸銅とパラアミノ安息香酸とを担持して形成された脱臭成形体5を作製した。これを試料とする。試料は、図1に示すごとく、多孔質担体50のセル52の内壁53及び多孔質担体50の外表面54に酸化第一銅と三水酸化硝酸銅とパラアミノ安息香酸とを担持しつつ、下流のみ(多孔質担体50のうち下流に相当する半分の見掛け体積の部分)にパラアミノ安息香酸を担持している脱臭成形体である。
【0048】
本実施例では、まず、高温の熱処理を必要とする酸化第一銅(Cu2O)を優先的に多孔質担体50に担持させ、その後、高温の熱処理を必要としない三水酸化硝酸銅(Cu2(OH)3NO3)を多孔質担体50に担持させるため、酸化第一銅(Cu2O)および三水酸化硝酸銅(Cu2(OH)3NO3)の双方を良好に多孔質担体50に担持させることができる。更に、3種の脱臭成分のうち最後にパラアミノ安息香酸を多孔質担体50に担持させるため、パラアミノ安息香酸が高温の熱処理によって劣化することが抑制される。更に、パラアミノ安息香酸が多孔質担体50の下流領域のみに担持されるような少量であっても、パラアミノ安息香酸が銅系脱臭物質によって被覆されることが抑制されるため、パラアミノ安息香酸による脱臭効果を良好に発揮できる。
【0049】
(比較例)
次に、実施例1で作製した脱臭成形体5の優れた効果を明らかにするため、比較例1、2に係る脱臭成形体を作製した。まず、比較例1は、多孔質担体100質量部に対して、酸化第一銅を5質量部、三水酸化硝酸銅を1質量部を多孔質担体の全体にわたり担持してなる脱臭成形体である。比較例2は、多孔質担体100質量部に対して、パラアミノ安息香酸3質量部を多孔質担体の全体にわたり担持してなる脱臭成形体である。比較例1、2に係る脱臭成形体5のサイズは実施例と同様である。
【0050】
(脱臭試験)
次に、実施例及び比較例1、2にて作製した脱臭成形体5の脱臭性能を比較評価した。脱臭性能の評価にあたっては、図9に示す測定装置を用いた。この測定装置は、図9に示すように、トリメチルアミン(T)、硫化水素(S)、アセトアルデヒド(A)といった3種類の臭気成分をそれぞれ収納する3本の容器10と、各臭気成分を含むガスの流量を測定する流量計11と、各臭気成分を混合して混合臭気ガスを形成する混合器12と、混合臭気ガスの流量を測定する流量計13と、脱臭成形体5を設置するための3本のカラム14とを有する。このように実施例では、臭気成分としてはトリメチルアミン(T)、硫化水素(S)、アセトアルデヒド(A)の3種類が混合した混合臭気ガスを用いた。図9に示すごとく、これらの臭気成分は、3本の容器10のそれぞれに個別に収納されており、各容器10に連結されている混合機12にて混合されて、混合臭気ガスを形成する。混合臭気ガスにおいて、トリメチルアミン(T)、硫化水素(S)、アセトアルデヒド(A)の臭気成分は、それぞれ1ppmとした。なお、キャリアガスとしては空気を用いた。測定にあたっては、測定装置におけるカラム14に脱臭成形体5を載置した。次に、3種類の臭気成分を混合させた混合臭気ガスを各カラム14に流通させた。そして、カラム14の入口側A及び出口側Bにおける各臭気成分の濃度を経時的に測定した。硫化水素およびアセトアルデヒドについてはガスクロマトグラフにより測定し(表1参照)、トリメチルアミンについてはガス検知管により測定した。次式に基づいて除去率を求めた。除去率={1−(測定濃度÷初期濃度)}×100(%)
【0051】
【表1】
【0052】
図10〜図12の横軸は時間を示し、縦軸は除去率(%)を示す。20時間程度は、実際のトイレにおいては6〜9年分の臭気負荷量に相当すると考えられる。□印は実施例を示す。○印は比較例1を示す。△印は比較例2を示す。図10〜図12から理解できるように、本実施例に係る脱臭成形体5は、比較例1、2に係る脱臭成形体に比較して総合的に優れた脱臭性能を示した。図10に示すように、硫化水素の除去については比較例2はあまり有効ではないが、実施例および比較例1はほぼ同等であり、5年以上または7年以上の長期にわたり脱臭効果を良好に発揮できる。図12に示すように、トリメチルアミンの除去については、実施例は比較例1よりも効果的であった。図10〜図12から理解できるように、本実験例では、臭気成分としてトイレの主要な臭気成分である硫化水素、トリメチルアミン、更にはアセトアルデヒドといったいずれの臭気成分に対しても、優れた除去性能を示すため、トイレに設置する脱臭剤や脱臭装置等として利用することができる。
【0053】
特に、実施例および比較例2は、共にパラアミノ安息香酸を同量(3質量部)を担持する。図11に示すように、試験開始からの経過時間が5時間までは、パラアミノ安息香酸のみを担持する比較例2(△印)は、酸化第一銅と三水酸化硝酸銅とパラアミノ安息香酸との3者を担持する実施例(□印)よりも、アセトアルデヒドの除去率が高い。しかしながら図11に示すように、試験開始からの経過時間が5時間以上になると、実施例(□印)は比較例2(△印)よりもアセトアルデヒドの除去率が高い結果が得られた。殊に、経過時間が8時間以上になると、□印と△印との差が増加している。従って、実施例(□印)は、脱臭成形体5の使用期間が長期化すると、比較例2(△印)よりもアセトアルデヒドの除去率が高い結果が得られる。
【0054】
この理由としては次のように考えられる。実施例では、パラアミノ安息香酸は多孔質担体50の上流側には担持されておらず、下流側にのみ担持されている。即ち、多孔質担体50の上流側には酸化第一銅および三水酸化硝酸銅のみが担持されており、この領域よりも下流側にパラアミノ安息香酸が担持されている。このため実施例では、ガスに含まれている硫化水素およびトリメチルアミンが多孔質担体50の上流側において酸化第一銅および三水酸化硝酸銅によって優先的に除去される。この後、硫化水素およびトリメチルアミンの大部分が除去されたガスが、多孔質担体50のうち相対的に下流側に担持されているパラアミノ安息香酸に接触するため、パラアミノ安息香酸によるアセトアルデヒドの除去効果が効果的に発揮されるものと考えられる。比較例2では、実施例1と同量のパラアミノ安息香酸を担持しているものの、ガスに含まれている硫化水素およびトリメチルアミンがパラアミノ安息香酸に直接接触するため、パラアミノ安息香酸の脱臭効果が低下するためと考えられる。
【0055】
(その他)本発明は上記し且つ図面に示した実施形態のみに限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施できる。多孔質担体はハニカム構造体に限定されず、ペレットの集合体としても良い。この場合、酸化第一銅および三水酸化硝酸銅を担持するペレットが上流に設けられ、パラアミノ安息香酸を担持するペレットが下流に設けられていても良い。
【符号の説明】
【0056】
1は基部、2は便座、3は便蓋、4は脱臭成形体保持部、40は収容空間、5は脱臭成形体、50は多孔質体を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリメチルアミン、アンモニア、メチルメルカプタン及び硫化水素等の臭気成分を除去することができる脱臭成形体をもつ便座装置および便座装置用脱臭成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トイレ室内における空気には、トリメチルアミンやアンモニア等のアミン系の窒素化合物等の窒素系の臭気成分、硫化水素やメチルメルカプタン等の硫黄化合物等のような硫黄系の臭気成分が含まれている。更に、アセトアルデヒドやホルムアルデヒド等のアルデヒド類の臭気成分も含まれていることがある。これらの臭気成分は、トイレの使用者に対して不快感を与える。
【0003】
このため、多孔質材料に銅等の遷移元素或いは遷移元素化合物の一方又は双方よりなる第1添加物、及び臭素等のハロゲン又はハロゲン化合物の1種以上よりなる第2添加物を担持してなる脱臭材が知られている(特許文献1)。更に、多孔質材料にm−および/またはp−芳香族アミノ酸の酸性塩と、酸と、ヨウ素および/またはヨウ化物とを担持させて形成された脱臭剤が知られている(特許文献2)。更にまた、窒素化合物系の臭気成分や硫黄化合物系の臭気成分を除去させる脱臭剤として、酸化第一銅と三水酸化硝酸銅とを担持させた脱臭剤が知られている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−281113号公報
【特許文献2】特開平5−23588号公報
【特許文献3】特開2004−166920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら特許文献1の係る脱臭材は、特に低濃度の臭気成分が存在する実際の使用環境下において充分な脱臭性能を発揮できるものではなかった。特許文献2に係る脱臭剤は、その有効成分としてヨウ素等の揮発性物質を使用している。かかる物質は腐食性を有するため、脱臭剤を金属部品等と共に用いる場合には、これらの金属部品を腐食させてしまうおそれがある。更にヨウ素等のハロゲンは焼却時にダイオキシン類を発生させるおそれがあるため、環境負荷物質を低減させる観点からも好ましくない。また特許文献3に係る脱臭剤は、窒素化合物系の臭気成分や硫黄化合物系の臭気成分を除去できるものの、アルデヒド類の臭気を除去できない。
【0006】
本発明は上記した実情に鑑みてなされたもので、高効率で、かつ長期間臭気成分を除去することができると共に環境に対して安全であり、更に、トリメチルアミンやアンモニア等の窒素化合物系のの臭気成分、硫化水素やメチルメルカプタン等の硫黄化合物系の臭気成分、アセトアルデヒドやホルムアルデヒド等のアルデヒド類の臭気成分を脱臭させるのに有利な脱臭成形体を有する便座装置及び便座装置用脱臭成形体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)第1の本発明に係る便座装置は、洋式便器に装備される基部と、基部に揺動可能に設けられた便座と、基部に揺動可能に設けられた便蓋とを有する便座装置であって、基部は、脱臭成形体保持部と、脱臭成形体保持部に保持される脱臭成形体とを有しており、脱臭成形体は、多孔質担体に酸化銅と三水酸化硝酸銅とアミノ安息香酸とを有効成分として担持して形成されている。
【0008】
多孔質担体では、酸化銅と三水酸化硝酸銅(Cu2(OH)3NO3)とが担持されている。このため酸化銅と三水酸化硝酸銅との相乗効果により、トリメチルアミンやアンモニア等のアミン系の窒素化合物系の臭気成分、及びメチルメルカプタン及び硫化水素等の硫黄化合物系の臭気成分を効率的に除去することができる。多孔質担体に担持されているアミノ安息香酸は、アセトアルデヒドやホルムアルデヒド等のアルデヒド類の臭気成分を除去させる。酸化銅は脱臭性を考慮すると、酸化第一銅(Cu2O)が好ましいが、場合によっては酸化銅(CuO)としても良い。
【0009】
酸化銅と三水酸化硝酸銅が、臭気成分を除去する化学的メカニズムとしては、メチルメルカプタンや硫化水素等の硫黄化合物系の臭気成分に対しては、酸化銅と三水酸化硝酸銅が硫黄化合物系の臭気成分を酸化して硫黄又は金属硫化物を生成することによると考えられる。また、トリメチルアミン、アンモニア等の窒素化合物系の臭気成分に対しては、主に三水酸化硝酸銅がアミン系化合物と錯体を形成することによると考えられる。
【0010】
また脱臭成形体は酸化第一銅等の酸化銅と三水酸化硝酸銅とを担持した多孔質の担体を有する。このため、脱臭成形体は、臭気成分との接触面積が大きく、多孔質担体に結合した酸化銅及び三水酸化硝酸銅が効率的に臭気成分を脱臭することができる。さらに、脱臭成形体は、従来の脱臭材とは異なり、環境に対して有害なヨウ素等のハロゲンを成分中に含有してない。このため、使用中にハロゲンが揮発し臭気成分の除去性能が低下し易いという不具合を生じることもなく、前記従来の脱臭材よりも脱臭性能の寿命が向上する。また環境に対しても安全である。このように、第1の本発明によれば、高効率で、かつ長期間臭気成分を除去することができると共に、環境に対して安全な脱臭成形体を提供することができる。
【0011】
(2)第2の本発明に係る便座装置用脱臭成形体の製造方法は、銅を含有する金属塩を多孔質担体に含浸させる第1含浸工程と、第1含浸工程完了後の多孔質担体を不活性ガス雰囲気中で400℃〜800℃にて加熱する熱処理工程と、熱処理工程完了後の多孔質担体に金属塩を含浸させる第2含浸工程と、第2含浸工程完了後の多孔質担体を乾燥させる乾燥工程と、乾燥工程完了後の多硬質担体に芳香族アミノ酸を含浸させる第三含浸工程と、第三含浸工程完了後の多孔質担体を乾燥させる乾燥工程とを含む。
【0012】
多孔質担体では、酸化第一銅(Cu2O)等の酸化銅と三水酸化硝酸銅(Cu2(OH)3NO3)とが担持されている。このため酸化第一銅等の酸化銅と三水酸化硝酸銅との相乗効果により、トリメチルアミンやアンモニア等のアミン系の臭気成分、及びメチルメルカプタン及び硫化水素等の硫黄化合物系の臭気成分を効率的に除去することができる。多孔質担体に担持されている芳香族アミノ酸は、アセトアルデヒド等のアルデヒド類の臭気成分を除去させる。芳香族アミノ酸としては、芳香族モノアミノモノカルボン酸が挙げられる。芳香族モノアミノモノカルボン酸としてはパラアミノ安息香酸、メタアミノ安息香酸、パラアミノサリチル酸が挙げられる。
【0013】
第2の本発明の製造方法によれば、第1含浸工程及び第2含浸工程により、銅を含む金属塩を二回含浸させ、さらに第1含浸工程後に熱処理工程を行い、第1含浸工程後に乾燥工程を行っている。このため熱処理工程においては、銅を含む金属塩が金属酸化物として多質質担体に担持される。また乾燥工程においては、金属塩がそのままの状態、又は含浸時に用いる溶媒としての水等から水酸化物イオンを取り出して水酸化物イオンを結合した状態で多孔質担体に担持される。それ故、第2の発明の製造方法によれば、銅を含む金属塩が少なくとも二つの形態にて多孔質担体に担持される。その結果、得られる脱臭成形体は、窒素化合物系の臭気成分及び硫黄化合物系の臭気成分に対して、優れた脱臭効果を示すものとなる。また、多孔質担体はハロゲン等の揮発性物質を含有していないため、環境に対して安全であると共に、前記従来の脱臭材のように、有効成分が揮発し、脱臭性能が低下し易いという不具合を生じることもない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】便器に取り付けられている便座装置の便蓋を開放させた状態を模式的に示す図である。
【図2】便器に取り付けられている便座装置の便蓋を閉鎖させた状態を模式的に示す図である。
【図3】実施形態1に係り、脱臭成形体保持部に脱臭成形体が保持されている状態を模式的に示す図である。
【図4】実施形態2に係り、脱臭成形体保持部に脱臭成形体が保持されている状態を模式的に示す図である。
【図5】実施形態3に係り、脱臭成形体保持部に脱臭成形体が保持されている状態を模式的に示す図である。
【図6】実施形態4に係り、脱臭成形体保持部に脱臭成形体が保持されている状態を模式的に示す図である。
【図7】実施形態5に係り、脱臭成形体保持部に脱臭成形体が保持されている状態を模式的に示す図である。
【図8】実施例に係り、脱臭成形体を模式的に示す斜視図である。
【図9】測定装置の概念を模式的に示す図である。
【図10】経過時間と硫化水素の除去率との関係を示すグラフである。
【図11】経過時間とアセトアルデヒドの除去率との関係を示すグラフである。
【図12】経過時間とトリメチルアミンの除去率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
トイレでは、一般的には、トリメチルアミンやアンモニア等の窒素化合物系の臭気成分、及びメチルメルカプタン及び硫化水素等の硫黄化合物系の臭気成分は、アセトアルデヒド等のアルデヒド類の臭気成分よりも強い。そこで、好ましくは、多孔質担体における上流領域または多孔質担体の全体に酸化第一銅等の酸化銅および三水酸化硝酸銅が担持されており、多孔質担体における下流領域にパラアミノ安息香酸が担持されていることが好ましい。この場合、臭気成分を含む空気は、多孔質担体において酸化第一銅および三水酸化硝酸銅が担持されている部分を通過した後に、芳香族アミノ酸が担持されている部分を通過する。すなわち、トリメチルアミンやアンモニア等の窒素化合物系の臭気成分、メチルメルカプタン及び硫化水素等の硫黄化合物系の臭気成分が除去された空気が、多孔質担体の下流領域(アミノ安息香酸が担持されている領域)を通過する。このため、アミノ安息香酸と接触する空気は、窒素化合物系の臭気成分、硫黄化合物系の臭気成分の大部分が除去された空気となる。このためパラアミノ安息香酸によるアセトアルデヒド等のアルデヒド類の臭気成分を効果的に脱臭できる利点が得られる。アミノ安息香酸としては、パラアミノ安息香酸、オルトアミノ安息香酸、メタアミノ安息香酸が挙げられるが、脱臭性を考慮すると、パラアミノ安息香酸が好ましい。
【0016】
多孔質担体のうち酸化第一銅等の酸化銅および三水酸化硝酸銅が担持されている部分には、パラアミノ安息香酸等のアミノ安息香酸が担持されていない形態を採用することができる。多孔質担体において酸化銅および三水酸化硝酸銅が占める面積が低下するためである。多孔質担体のうちパラアミノ安息香酸等のアミノ安息香酸が担持されている部分には、酸化第一銅等の酸化銅および三水酸化硝酸銅が担持されていない形態を採用することができる。その理由としては、多孔質担体のうちパラアミノ安息香酸等のアミノ安息香酸が占める面積が低下し、アミノ安息香酸による脱臭効果が低下するおそれがあるためである。脱臭成形体については、多孔質担体の100質量部に対して、酸化第一銅(Cu2O)等の酸化銅をM1質量部、三水酸化硝酸銅(Cu2(OH)3NO3)をM2質量部、アミノ安息香酸をM3質量部担持させることができる。
【0017】
ここで、窒素化合物系の臭気成分、硫黄化合物系の臭気成分の脱臭を考慮すると、M1>M2、M1>M3とすることができる。M1>M2>M3、または、M1>M2=M3、または、M1>M2≒M3とすることができる。更に、M2>M1>M3とすることができる。M1=M2=M3とすることができる。M1≒M2≒M3とすることができる。アルデヒド類の臭気成分の脱臭を考慮すると、M3>M1、M3>M2とすることができる。M3>M1>M2とすることができる。
【0018】
多孔質担体としては、活性炭、含水珪酸マグネシウム質粘土鉱物、ベントナイト、カオリン、蛙目粘土、ゼオライト、シリカゲル、及び活性アルミナより選ばれる1種以上を含有していることが好ましい。この場合には、脱臭成形体の強度が向上する。また、多孔質担体が臭気成分の吸着に優れるものになるため、脱臭成形体の臭気成分に対する除去性能が向上する。
【0019】
好ましくは、多孔質担体は、少なくとも活性炭を含有するものがよい。活性炭は、メチルメルカプタンや硫化水素等の硫黄化合物系の臭気成分を吸着除去する性能に優れているため、脱臭成形体の硫黄化合物系の臭気成分に対する除去性能を向上させることができるからである。また、好ましくは、少なくとも含水珪酸マグネシウム質粘土鉱物を含有するものがよい。含水珪酸マグネシウム粘土鉱物は、表面に反応性に富む水酸基を有しており、トリメチルアミンやアンモニア等のアミン系の臭気成分を吸着除去する性能に優れているため、前記脱臭成形体のアミン系の臭気成分に対する除去性能を向上させることができるからである。
【0020】
好ましくは、多孔質担体は少なくとも活性炭と含水珪酸マグネシウム質粘土鉱物とを含有するものがよい。この場合には、脱臭成形体の硫黄化合物系の臭気成分及びアミン系の臭気成分に対する除去性能を一層向上させることができるからである。なお、含水珪酸マグネシウム質粘土鉱物は、珪酸マグネシウムを主成分とする粘土鉱物であり、例えばセピオライト及び山皮等がある。
【0021】
また、多孔質担体としては、活性炭と含水珪酸マグネシウム質粘土鉱物とを主成分として、ベントナイト、カオリン、蛙目粘土、ゼオライト、シリカゲル、及び活性アルミナより選ばれる1種以上をさらに含有するものを用いることができる。このとき、ベントナイト、カオリン及び蛙目粘土をさらに含有する場合には、前記脱臭成形体の強度を一層向上させることができる。一方、ゼオライト、シリカゲル、活性アルミナをさらに含有する場合には、臭気成分の吸着性能を一層向上させることができる。
【0022】
また、多孔質担体は少なくとも活性炭と含水珪酸マグネシウム質粘土鉱物とを含有してなり、両者の合計含有量を100質量部とするとき、活性炭が30〜90質量部、40〜80質量部であることが好ましく、含水珪酸マグネシウム質粘土鉱物が10〜70質量部、20〜60質量部であることが好ましい。活性炭の含有量が過少の場合、又は含水珪酸マグネシウム質粘土鉱物の含有量が過多の場合には、脱臭成形体の臭気成分に対する吸着性能が低下するおそれがある。一方、活性炭の含有量が過多の場合、又は、含水珪酸マグネシウム質粘土鉱物の含有量が過少の場合には、脱臭成形体の強度が低下するおそれがある。脱臭成形体はハニカム形状を有していることが好ましい。この場合には、前記脱臭成形体は、表面積が大きなものとなり、臭気成分との接触面積も大きくなる。そのため、脱臭成形体は、効率良く臭気成分と接触することができ、脱臭効率を向上させることができる。なお、ハニカム形状としては、セルの断面形状が円形状のもの、あるいは、四角形及び六角形等の多角形のものがある。
【0023】
第2の本発明に係る製造方法によれば、銅を含む金属塩としては、例えばCu(NO3)2、CuCl2、CuSO4等が挙げられる。また、第1含浸工程及び第2含浸工程において、銅を含む金属塩を含浸させる方法としては、金属塩を溶解した水溶液等に多孔質担体を浸漬する方法等がある。また、複数の金属塩を溶解した水溶液等に多孔質担体を含浸させることもできる。また熱処理工程においては、多孔質担体を不活性ガス雰囲気中で温度400℃〜800℃にて加熱する。ここで、加熱温度が過剰低温の場合には、金属塩が酸化物として前記担体に担持されないおそれがある。その結果、脱臭成形体の臭気成分に対する除去性能が低下するおそれがある。一方、過剰に高温の場合には、金属塩の酸化物及び多孔質担体がシンタリング(凝集)し、その結果、脱臭成形体の臭気成分に対する除去性能が低下するおそれがある。また、熱処理工程において、金属塩は、金属塩中の金属の酸化数が変化した金属酸化物となり、多孔質担体に結合する場合がある。例えば、銅を含む金属塩として、硝酸銅(Cu(NO3)2)を用いた場合には、硝酸銅は、熱処理工程後に酸化第一銅(Cu2O)として多孔質担体に担持される。このとき銅の酸化数が+IIから+Iに変化する。一方、乾燥工程においては、硝酸銅(Cu(NO3)2)中の銅の酸化数は+IIのまま変化せず、多孔質担体に担持される。この結果、酸化数の異なる同じ金属(銅)原子を二つの形態で結合させることができる。
【0024】
また、第2含浸工程においては、第1含浸工程と同じ金属塩を用いることが好ましい。好ましくは、第1含浸工程及び第2含浸工程においては、銅を含む金属塩として硝酸銅を含有する水溶液を用いることがよい。この場合、第1含浸工程後に実施される熱処理工程において、金属塩としての硝酸銅が酸化第一銅(Cu2O)となり、また第2含浸工程後に実施される乾燥工程においては、硝酸銅が三水酸化硝酸銅(Cu2(OH)3NO3)となって多孔質担体に担持される。この結果、酸化第一銅(Cu2O)と三水酸化硝酸銅(Cu2(OH)3NO3)との相乗効果による、優れた脱臭効果を有する脱臭成形体を作製することができる。
【0025】
銅を含む金属塩としては、硝酸銅および/または塩化銅であることが好ましい。この場合には、銅を含む化合物が多孔質担体に担持され、銅原子が有する優れた脱臭作用を利用して、優れた脱臭作用を有する脱臭成形体を製造することができる。銅を含む金属塩としては少なくとも硝酸銅を用いることが特に好ましい。この場合には、上述のごとく、多孔質担体に酸化第一銅と三水酸化硝酸銅とが担持される。この結果、酸化第一銅と三水酸化硝酸銅との相乗的な効果により、一層脱臭作用を向上させることができる。
【0026】
第1含浸工程及び第2含浸工程では、銅を含む金属塩を溶解した水溶液に多孔質担体を浸すことにより、金属塩を含浸させることが好ましい。この場合には、銅を含む金属塩を容易に多孔質担体に含浸させることができる。この場合には、乾燥工程において、金属塩は水酸化物イオンを結合した状態で、多孔質担体に結合され得る。このように水酸化物イオンを結合した金属塩は、アミン系化合物と錯体を形成し易くなるため、脱臭成形体のアミン系の臭気成分に対する除去性能を向上させることができる。また、水酸化物イオンが結合した金属塩は、塩基性の酸化物である含水珪酸マグネシウム質粘土鉱物、即ち例えばセピオライト等に担持した場合に生成しやすい。そのため、前記金属塩を担持する担体としては、含水珪酸マグネシウム質粘土鉱物が適している。
【0027】
次に乾燥工程においては多孔質担体を50℃〜180℃、殊に90℃〜130℃にて乾燥することが好ましい。乾燥温度が過剰に低温であるとき、多孔質担体の細孔中に入り込んだ水等の溶媒が充分に除去できず、脱臭成形体の物理吸着に基づく臭気成分に対する吸着除去性能が低下するおそれがある。また乾燥温度が過剰に高温であるときには、前記金属塩は硝酸等の酸を失って分解するため、脱臭成形体の窒素化合物系の臭気成分に対する除去性能が過剰に低下するおそれがある。
【0028】
(実施形態1)
図1〜図3は実施形態1の概念を示す。便座装置は、洋式便器100に装備される基部1と、基部1に揺動可能に設けられた便座2と、基部1に揺動可能に設けられた便蓋3とを有する。基部1は、トイレ室に連通する臭気入口1cと臭気出口1dとをもつ。臭気入口1cは、便器100の便鉢の排泄空間に連通することが好ましい。基部1は、便座2に着座する使用者の便局部等の局部を洗浄させる洗浄ノズルを搭載していることが好ましい。
【0029】
図3に示すように、基部1は、収容空間40をもつ脱臭成形体保持部4と、脱臭成形体保持部4の収容空間40に保持された脱臭成形体5とを有する。脱臭成形体5は脱臭成形体保持部4に対して交換可能であることが好ましいが、交換不能であっても良い。脱臭成形体保持部4は、収容空間40を形成する壁41と、収容空間40における上流に位置する入口42と、収容空間40における下流に位置する出口43と、入口42と出口43との間に設けられた送風要素として機能するファン44とを有する。ファン44はモータで回転される。脱臭成形体5は、多孔質担体50と、多孔質担体50において有効成分として担持された酸化第一銅と三水酸化硝酸銅とパラアミノ安息香酸とを有する。
【0030】
図3から理解できるように、多孔質担体50については、多孔質担体50における上流領域50uおよび下流領域50dに酸化第一銅および三水酸化硝酸銅の双方が担持されている。このため酸化第一銅および三水酸化硝酸銅の担持面積および担持量が確保されている。多孔質担体50における下流領域50dには、パラアミノ安息香酸がアミノ安息香酸として担持されている。ここで、脱臭成形体5は、多孔質担体50の100質量部に対して、酸化第一銅(Cu2O)をM1質量部(例えば2〜10質量部)、三水酸化硝酸銅(Cu2(OH)3NO3)をM2質量部(例えば1〜6質量部)、パラアミノ安息香酸をM3質量部(例えば1〜6質量部)担持している。M1>M2=M3、M1>M2≒M3、M1>M2>M3が例示される。但しこれに限定されるものではない。
【0031】
本実施形態によれば、次の製造方法が採用されている。まず、第1含浸工程においては、ハニカム構造体である多孔質担体50の全体を硝酸銅水溶液((Cu(NO3)2水溶液に含浸させる。そして多孔質担体50を硝酸銅水溶液中から引き上げる。次に第1熱処理工程においては、第1含浸工程後の多孔質担体50を不活性ガス雰囲気(窒素ガス)中で500℃〜800℃にて加熱する。この加熱時に、多孔質担体50に含浸された硝酸銅(Cu(NO3)2)は、酸化第一銅(Cu2O)になる。次に第2含浸工程においては、第1熱処理工程後の多孔質担体50の全体を硝酸銅水溶液に含浸させた。そして多孔質担体50を硝酸銅水溶液中から引き上げた。次に第1乾燥工程においては、第2含浸工程後の多孔質担体50を例えば80〜150℃にて乾燥させる。この乾燥時に、多孔質担体50に含浸された硝酸銅(Cu(NO3)2)は、三水酸化硝酸銅(Cu2(OH)3NO3)になる。次に、次に第3含浸工程においては、パラアミノ安息香酸水溶液を用い、第1熱処理工程後の多孔質担体50のうち下流部分のみをパラアミノ安息香酸水溶液に含浸させる。そして多孔質担体50をパラアミノ安息香酸水溶液から引き上げた。この場合、多孔質担体50の上流部分をパラアミノ安息香酸水溶液に含浸させない。次に第2乾燥工程においては、第3含浸工程後の多孔質担体50を80〜150℃にて乾燥させる。このようにして多孔質担体50に、酸化第一銅と三水酸化硝酸銅とパラアミノ安息香とを担持させることができる。
【0032】
本実施形態では、図1に示すように便蓋3が開放されているときには、ファン44が回転すると、トイレ室の空気や便器内部の排泄空間の臭気を含む空気は、臭気入口1cから吸引され、脱臭成形体保持部4の入口42から収容室40に流入し、脱臭成形体5の内部を通過し、出口43から流出し、更に臭気出口1dからトイレ室に吐出される。このように多孔質の脱臭成形体5の内部を通過するときに空気が脱臭される。脱臭されてクリーンとなった空気は出口1dからトイレ室に吐出される。
【0033】
また図2に示すように便蓋3が閉鎖されているときには、便器と便座2の脚2aとの隙間2cが形成される。従ってファン44が回転すると、トイレ室の空気は、隙間2cから便器内部に吸引され、更に便器内部の排泄空間の空気と共に、臭気入口1cに吸引され、脱臭成形体保持部4の入口42から収容室40に流入し、脱臭成形体5の内部を通過し、臭気出口1dからトイレ室に吐出される。このように脱臭成形体5を通過するときに空気が脱臭される。脱臭されてクリーンとなった空気は出口1dからトイレ室に吐出される。
【0034】
ここで、メチルメルカプタンや硫化水素等の硫黄化合物系の臭気成分に対しては、酸化第一銅と三水酸化硝酸銅が硫黄化合物系の臭気成分を酸化して硫黄又は金属硫化物を生成することによると考えられる。また、トリメチルアミン、アンモニア等の窒素化合物系の臭気成分に対しては、主に三水酸化硝酸銅がアミン系化合物と錯体を形成することによると考えられる。多孔質担体50における全体、即ち、上流領域50uおよび下流領域50dに酸化第一銅および三水酸化硝酸銅の双方が担持されているため、それらの担持量および担持面積が確保され、硫黄化合物系の臭気成分、窒素化合物系の臭気成分を良好に脱臭させ得る。
【0035】
更にパラアミノ安息香酸は多孔質担体50における下流領域50dにのみ担持されているものの、上流領域50uには担持されていない。このため硫黄化合物系の臭気成分、窒素化合物系の臭気成分が除去された空気に対して、パラアミノ安息香酸は脱臭作用を発揮するため、パラアミノ安息香酸が少量であっても、パラアミノ安息香酸による脱臭作用が良好に確保される。
【0036】
本実施形態によれば、多孔質担体50は単一構造体であるハニカム構造体で形成されているため、操作性が良好であり、各含浸工程および熱処理工程などが簡便となり、更に組付性も簡便となる。なお、本実施形態によれば、多孔質担体50における上流領域50uおよび下流領域50dは多孔質担体50の全見掛け体積を100とするとき、上流領域50uの見掛け体積:下流領域50dの見掛け体積=50:50とされている。但し、これに限らず、60:40としても良く70:30としても良く、80:20としても良く、40:60としても良い。
【0037】
(実施形態2)
図4は実施形態2を示す。本実施形態は実施形態1と基本的には同様の構成、同様の作用効果を有するため、図1および図2を準用する。多孔質担体50については、多孔質担体50における上流領域50uには、酸化第一銅および三水酸化硝酸銅の双方が担持されている。多孔質担体50における下流領域50dにはパラアミノ安息香酸が担持されている。多孔質担体50における下流領域50dには酸化第一銅および三水酸化硝酸銅の双方が担持されていない。このため、多孔質担体50における下流領域50dに担持させるパラアミノ安息香酸の担持面積および担持量を増加させるのに有利となる。この場合、アセトアルデヒド等のアルデヒド類の臭気成分を脱臭させるのに有利である。
【0038】
(実施形態3)
図5は実施形態3を示す。本実施形態は実施形態1と基本的には同様の構成、同様の作用効果を有するため、図1および図2を準用する。酸化第一銅、三水酸化硝酸銅およびパラアミノ安息香酸の3成分がそれぞれ有効成分として多孔質担体50の全体において、ほぼ均一に担持されている。
【0039】
(実施形態4)
図6は実施形態4を示す。本実施形態は実施形態1と基本的には同様の構成、同様の作用効果を有するため、図1および図2を準用する。脱臭成形体5は、上流部と下流部とに分割されている。上流部を形成する多孔質担体50uには、酸化第一銅および三水酸化硝酸銅の双方が担持されているものの、パラアミノ安息香酸は担持されていない。下流部を形成する多孔質担体50dには、酸化第一銅および三水酸化硝酸銅の双方が担持されていないものの、パラアミノ安息香酸が担持されている。下流部を形成する多孔質担体50dには酸化第一銅および三水酸化硝酸銅の双方が担持されていないため、下流領域50dに担持させるパラアミノ安息香酸の担持面積および担持量を増加させるのに有利となる。この場合、アセトアルデヒド等のアルデヒド類の臭気成分を脱臭させるのに有利である。そのぶん、下流部を形成する多孔質担体50dの見掛け体積が、上流部を形成する多孔質担体50uよりも小型化されている。
【0040】
(実施形態5)
図7は実施形態5を示す。本実施形態は実施形態1と基本的には同様の構成、同様の作用効果を有するため、図1および図2を準用する。脱臭成形体5は、上流部と下流部とに分割されており、上流部と下流部との間に介在する拡散空間50xを有する。上流部を形成する多孔質担体50uには、酸化第一銅および三水酸化硝酸銅の双方が担持されているものの、パラアミノ安息香酸は担持されていない。下流部を形成する多孔質担体50dには、酸化第一銅および三水酸化硝酸銅の双方が担持されていないものの、パラアミノ安息香酸が担持されている。多孔質担体50dには酸化第一銅および三水酸化硝酸銅の双方が担持されていないため、下流領域50dに担持させるパラアミノ安息香酸の量を増加させるのに有利となる。この場合、アセトアルデヒド等のアルデヒド類の臭気成分を脱臭させるのに有利である。そのぶん、下流部を形成する多孔質担体50dの容積が小型化されている。上流側の多孔質担体50uを通過した空気を下流側の多孔質担体50dに進入させる前に、拡散空間50xにおいて拡散させることができる。脱臭ムラの低減に有利である。なお多孔質担体50dに酸化第一銅および三水酸化硝酸銅を担持させることにしても良い。
【実施例】
【0041】
次に、本発明の実施例について図8〜図12を参照しつつ説明する。実施形態と共通する符号を用いるが、必ずしも同一構造に限定されるものではない。本実施例の脱臭成形体5は、多孔質担体50に、酸化第一銅と三水酸化硝酸銅とパラアミノ安息香酸とを担持して形成されている。多孔質担体50は、活性炭70質量部とセピオライト30質量部とを含有してなり、断面が略四角形の通路を形成する複数のセル52を有するハニカム構造からなる。多孔質担体50の寸法は、図8において、a=9.5mm、b=9.5mm、c=35mmである。
【0042】
すなわち、脱臭成形体5は、多孔質担体50の表面全体に酸化第一銅(Cu2O)と三水酸化硝酸銅(Cu2(OH)3NO3)とパラアミノ安息香酸とを担持している。脱臭成形体5は、多孔質担体50の100質量部に対して、酸化第一銅(Cu2O)を5質量部、三水酸化硝酸銅(Cu2(OH)3NO3)を3質量部、パラアミノ安息香酸を3質量部担持している。
【0043】
本実施例の多孔質担体50の製造方法について説明する。まず、多孔質担体50を準備した。この場合、活性炭70質量部と、セピオライト30質量部とを混合して混合物を得た。この混合物100質量部に、水140質量部とバインダとしてメチルセルロース10質量部とを加えて、ニーダーにより充分に混練し、混練物を得た。この混練物を、真空押出機を用いてハニカム状に押し出し成形して、ハニカム成形体のグリーンコンパクトを作製した。次に、このグリーコンパクトを室温で乾燥した後、さらに熱風乾燥した。続いて、乾燥後のグリーコンパクトを焼成炉に入れ、焼成炉中の雰囲気を窒素ガス雰囲気にして温度750℃で3時間焼成し、多孔質担体50を作製した。この多孔質担体50の寸法及びセル52の形状は上述のとおりである。
【0044】
次に、脱臭成形体5の製造方法につき説明する。本例の脱臭成形体5の製造方法は、第1含浸工程と、第1熱処理工程と、第2含浸工程と、第1乾燥工程と、第3含浸工程と、第2乾燥工程とを有する。第1含浸工程においては、多孔質担体50の全体を硝酸銅水溶液((Cu(NO3)2水溶液、濃度:5質量%)に所定時間(5分間)含浸させた。そして多孔質担体50を硝酸銅水溶液中から引き上げた。次に第1熱処理工程においては、第1含浸工程後の多孔質担体50を不活性ガス雰囲気(窒素ガス)中で500℃にて3時間加熱した。窒素ガスに代えてアルゴンガスとしても良い。この加熱時に、多孔質担体50に含浸された硝酸銅(Cu(NO3)2)は、酸化第一銅(Cu2O)になる。この結果、多孔質担体50のセル52の内壁53及び多孔質担体50の外表面54の全体に酸化第一銅(Cu2O)が担持される。
【0045】
次に第2含浸工程においては、第1熱処理工程後の多孔質担体50の全体を硝酸銅水溶液(濃度:1質量%)に所定時間(5分間)含浸させた。そして多孔質担体50を硝酸銅水溶液中から引き上げた。次に第1乾燥工程においては、第2含浸工程後の多孔質担体50を80℃にて乾燥させた。この乾燥時に、多孔質担体50に含浸された硝酸銅(Cu(NO3)2)は、三水酸化硝酸銅(Cu2(OH)3NO3)になる。このように多孔質担体50のセル52の内壁53及び多孔質担体50の外表面54の全体に三水酸化硝酸銅が担持される。
【0046】
次に、次に第3含浸工程においては、パラアミノ安息香酸水溶液(濃度:3質量%)を用い、第1熱処理工程後の多孔質担体50のうち下流部分のみをパラアミノ安息香酸水溶液に所定時間(10分間)に含浸させた。そして多孔質担体50をパラアミノ安息香酸水溶液から引き上げた。この場合、多孔質担体50の上流部分をパラアミノ安息香酸水溶液に含浸させない。次に第2乾燥工程においては、第三含浸工程後の多孔質担体50を80℃にて乾燥させた。
【0047】
このようにして多孔質担体50に、酸化第一銅と三水酸化硝酸銅とパラアミノ安息香酸とを担持して形成された脱臭成形体5を作製した。これを試料とする。試料は、図1に示すごとく、多孔質担体50のセル52の内壁53及び多孔質担体50の外表面54に酸化第一銅と三水酸化硝酸銅とパラアミノ安息香酸とを担持しつつ、下流のみ(多孔質担体50のうち下流に相当する半分の見掛け体積の部分)にパラアミノ安息香酸を担持している脱臭成形体である。
【0048】
本実施例では、まず、高温の熱処理を必要とする酸化第一銅(Cu2O)を優先的に多孔質担体50に担持させ、その後、高温の熱処理を必要としない三水酸化硝酸銅(Cu2(OH)3NO3)を多孔質担体50に担持させるため、酸化第一銅(Cu2O)および三水酸化硝酸銅(Cu2(OH)3NO3)の双方を良好に多孔質担体50に担持させることができる。更に、3種の脱臭成分のうち最後にパラアミノ安息香酸を多孔質担体50に担持させるため、パラアミノ安息香酸が高温の熱処理によって劣化することが抑制される。更に、パラアミノ安息香酸が多孔質担体50の下流領域のみに担持されるような少量であっても、パラアミノ安息香酸が銅系脱臭物質によって被覆されることが抑制されるため、パラアミノ安息香酸による脱臭効果を良好に発揮できる。
【0049】
(比較例)
次に、実施例1で作製した脱臭成形体5の優れた効果を明らかにするため、比較例1、2に係る脱臭成形体を作製した。まず、比較例1は、多孔質担体100質量部に対して、酸化第一銅を5質量部、三水酸化硝酸銅を1質量部を多孔質担体の全体にわたり担持してなる脱臭成形体である。比較例2は、多孔質担体100質量部に対して、パラアミノ安息香酸3質量部を多孔質担体の全体にわたり担持してなる脱臭成形体である。比較例1、2に係る脱臭成形体5のサイズは実施例と同様である。
【0050】
(脱臭試験)
次に、実施例及び比較例1、2にて作製した脱臭成形体5の脱臭性能を比較評価した。脱臭性能の評価にあたっては、図9に示す測定装置を用いた。この測定装置は、図9に示すように、トリメチルアミン(T)、硫化水素(S)、アセトアルデヒド(A)といった3種類の臭気成分をそれぞれ収納する3本の容器10と、各臭気成分を含むガスの流量を測定する流量計11と、各臭気成分を混合して混合臭気ガスを形成する混合器12と、混合臭気ガスの流量を測定する流量計13と、脱臭成形体5を設置するための3本のカラム14とを有する。このように実施例では、臭気成分としてはトリメチルアミン(T)、硫化水素(S)、アセトアルデヒド(A)の3種類が混合した混合臭気ガスを用いた。図9に示すごとく、これらの臭気成分は、3本の容器10のそれぞれに個別に収納されており、各容器10に連結されている混合機12にて混合されて、混合臭気ガスを形成する。混合臭気ガスにおいて、トリメチルアミン(T)、硫化水素(S)、アセトアルデヒド(A)の臭気成分は、それぞれ1ppmとした。なお、キャリアガスとしては空気を用いた。測定にあたっては、測定装置におけるカラム14に脱臭成形体5を載置した。次に、3種類の臭気成分を混合させた混合臭気ガスを各カラム14に流通させた。そして、カラム14の入口側A及び出口側Bにおける各臭気成分の濃度を経時的に測定した。硫化水素およびアセトアルデヒドについてはガスクロマトグラフにより測定し(表1参照)、トリメチルアミンについてはガス検知管により測定した。次式に基づいて除去率を求めた。除去率={1−(測定濃度÷初期濃度)}×100(%)
【0051】
【表1】
【0052】
図10〜図12の横軸は時間を示し、縦軸は除去率(%)を示す。20時間程度は、実際のトイレにおいては6〜9年分の臭気負荷量に相当すると考えられる。□印は実施例を示す。○印は比較例1を示す。△印は比較例2を示す。図10〜図12から理解できるように、本実施例に係る脱臭成形体5は、比較例1、2に係る脱臭成形体に比較して総合的に優れた脱臭性能を示した。図10に示すように、硫化水素の除去については比較例2はあまり有効ではないが、実施例および比較例1はほぼ同等であり、5年以上または7年以上の長期にわたり脱臭効果を良好に発揮できる。図12に示すように、トリメチルアミンの除去については、実施例は比較例1よりも効果的であった。図10〜図12から理解できるように、本実験例では、臭気成分としてトイレの主要な臭気成分である硫化水素、トリメチルアミン、更にはアセトアルデヒドといったいずれの臭気成分に対しても、優れた除去性能を示すため、トイレに設置する脱臭剤や脱臭装置等として利用することができる。
【0053】
特に、実施例および比較例2は、共にパラアミノ安息香酸を同量(3質量部)を担持する。図11に示すように、試験開始からの経過時間が5時間までは、パラアミノ安息香酸のみを担持する比較例2(△印)は、酸化第一銅と三水酸化硝酸銅とパラアミノ安息香酸との3者を担持する実施例(□印)よりも、アセトアルデヒドの除去率が高い。しかしながら図11に示すように、試験開始からの経過時間が5時間以上になると、実施例(□印)は比較例2(△印)よりもアセトアルデヒドの除去率が高い結果が得られた。殊に、経過時間が8時間以上になると、□印と△印との差が増加している。従って、実施例(□印)は、脱臭成形体5の使用期間が長期化すると、比較例2(△印)よりもアセトアルデヒドの除去率が高い結果が得られる。
【0054】
この理由としては次のように考えられる。実施例では、パラアミノ安息香酸は多孔質担体50の上流側には担持されておらず、下流側にのみ担持されている。即ち、多孔質担体50の上流側には酸化第一銅および三水酸化硝酸銅のみが担持されており、この領域よりも下流側にパラアミノ安息香酸が担持されている。このため実施例では、ガスに含まれている硫化水素およびトリメチルアミンが多孔質担体50の上流側において酸化第一銅および三水酸化硝酸銅によって優先的に除去される。この後、硫化水素およびトリメチルアミンの大部分が除去されたガスが、多孔質担体50のうち相対的に下流側に担持されているパラアミノ安息香酸に接触するため、パラアミノ安息香酸によるアセトアルデヒドの除去効果が効果的に発揮されるものと考えられる。比較例2では、実施例1と同量のパラアミノ安息香酸を担持しているものの、ガスに含まれている硫化水素およびトリメチルアミンがパラアミノ安息香酸に直接接触するため、パラアミノ安息香酸の脱臭効果が低下するためと考えられる。
【0055】
(その他)本発明は上記し且つ図面に示した実施形態のみに限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施できる。多孔質担体はハニカム構造体に限定されず、ペレットの集合体としても良い。この場合、酸化第一銅および三水酸化硝酸銅を担持するペレットが上流に設けられ、パラアミノ安息香酸を担持するペレットが下流に設けられていても良い。
【符号の説明】
【0056】
1は基部、2は便座、3は便蓋、4は脱臭成形体保持部、40は収容空間、5は脱臭成形体、50は多孔質体を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
洋式便器に装備される基部と、前記基部に揺動可能に設けられた便座と、前記基部に揺動可能に設けられた便蓋とを有する便座装置であって、
前記基部は、脱臭成形体保持部と、前記脱臭成形体保持部に保持される脱臭成形体とを有しており、前記脱臭成形体は、多孔質担体に酸化銅と三水酸化硝酸銅と芳香族アミノ酸とを有効成分として担持して形成されている便座装置。
【請求項2】
請求項1において、前記多孔質担体における上流領域または前記多孔質担体の全体に酸化銅および三水酸化硝酸銅が担持されており、前記多孔質担体における下流領域に芳香族アミノ酸が担持されており、
脱臭成分を含む空気は、前記多孔質担体において酸化銅および三水酸化硝酸銅が担持されている部分を通過した後に、芳香族アミノ酸が担持されている部分を通過する便座装置。
【請求項3】
請求項1または2において、前記脱臭成形体は、銅を含有する金属塩を多孔質担体に含浸させる第1含浸工程と、前記第1含浸工程完了後の前記多孔質担体を不活性ガス雰囲気中で400℃〜800℃にて加熱する熱処理工程と、前記熱処理工程完了後の多孔質担体に、銅を含有する金属塩を含浸させる第2含浸工程と、前記第2含浸工程完了後の前記多孔質担体を乾燥させる第1乾燥工程と、前記第1乾燥工程完了後の前記多硬質担体に芳香族アミノ酸を含浸させる第3含浸工程と、前記第3含浸工程完了後の前記多孔質担体を乾燥させる第2乾燥工程とを含む工程により形成されている便座装置。
【請求項4】
銅を含有する金属塩を多孔質担体に含浸させる第1含浸工程と、前記第1含浸工程完了後の前記多孔質担体を不活性ガス雰囲気中で400℃〜800℃にて加熱する熱処理工程と、前記熱処理工程完了後の前記多孔質担体に、銅を含有する金属塩を含浸させる第2含浸工程と、前記第2含浸工程完了後の前記多孔質担体を乾燥させる乾燥工程と、前記乾燥工程完了後の前記多硬質担体に芳香族アミノ酸を含浸させる第三含浸工程と、前記第三含浸工程完了後の多孔質担体を乾燥させる乾燥工程とを含む便座装置用脱臭成形体の製造方法。
【請求項1】
洋式便器に装備される基部と、前記基部に揺動可能に設けられた便座と、前記基部に揺動可能に設けられた便蓋とを有する便座装置であって、
前記基部は、脱臭成形体保持部と、前記脱臭成形体保持部に保持される脱臭成形体とを有しており、前記脱臭成形体は、多孔質担体に酸化銅と三水酸化硝酸銅と芳香族アミノ酸とを有効成分として担持して形成されている便座装置。
【請求項2】
請求項1において、前記多孔質担体における上流領域または前記多孔質担体の全体に酸化銅および三水酸化硝酸銅が担持されており、前記多孔質担体における下流領域に芳香族アミノ酸が担持されており、
脱臭成分を含む空気は、前記多孔質担体において酸化銅および三水酸化硝酸銅が担持されている部分を通過した後に、芳香族アミノ酸が担持されている部分を通過する便座装置。
【請求項3】
請求項1または2において、前記脱臭成形体は、銅を含有する金属塩を多孔質担体に含浸させる第1含浸工程と、前記第1含浸工程完了後の前記多孔質担体を不活性ガス雰囲気中で400℃〜800℃にて加熱する熱処理工程と、前記熱処理工程完了後の多孔質担体に、銅を含有する金属塩を含浸させる第2含浸工程と、前記第2含浸工程完了後の前記多孔質担体を乾燥させる第1乾燥工程と、前記第1乾燥工程完了後の前記多硬質担体に芳香族アミノ酸を含浸させる第3含浸工程と、前記第3含浸工程完了後の前記多孔質担体を乾燥させる第2乾燥工程とを含む工程により形成されている便座装置。
【請求項4】
銅を含有する金属塩を多孔質担体に含浸させる第1含浸工程と、前記第1含浸工程完了後の前記多孔質担体を不活性ガス雰囲気中で400℃〜800℃にて加熱する熱処理工程と、前記熱処理工程完了後の前記多孔質担体に、銅を含有する金属塩を含浸させる第2含浸工程と、前記第2含浸工程完了後の前記多孔質担体を乾燥させる乾燥工程と、前記乾燥工程完了後の前記多硬質担体に芳香族アミノ酸を含浸させる第三含浸工程と、前記第三含浸工程完了後の多孔質担体を乾燥させる乾燥工程とを含む便座装置用脱臭成形体の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
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【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−229662(P2011−229662A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−102346(P2010−102346)
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【出願人】(591117516)近江鉱業株式会社 (26)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【出願人】(591117516)近江鉱業株式会社 (26)
【Fターム(参考)】
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