説明

便座装置及びトイレ装置

【課題】便座に着座した状態のままで臀部を楽に清拭できる、もしくは臀部を衛生的に清拭できる便座装置を提供する。
【解決手段】ボウル部を有する便器の上部に固定されるベース部と、前記ベース部の上部に設けられる便座と、を備え、前記便座は、後方部に切り欠き部または凹部を有し、前記便座を上方から眺めたときに、前記切り欠き部または凹部の少なくとも一部は前記ボウル部に差し掛かる位置まで、前記ベース部の上面に略沿って、便座の中心位置が便座の回動に伴って逐次移動する偏心回動可能とされたことを特徴とする便座装置が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、便座装置及びトイレ装置に関し、具体的には便座に着座した状態のままで臀部を清拭できる便座装置及びこれを備えたトイレ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
便座に着座して用便を済ませた後、臀部を清拭するときには、使用者は臀部を上げて中腰体勢をとったり、便座の座面に対して略平行方向に臀部を移動させる必要がある。しかし、車いすを使用している体の不自由な障害者や足腰の弱った高齢者などにとって、臀部を上げて中腰体勢をとったり、便座の座面に対して略平行方向に臀部を移動させる動作は容易ではない。
【0003】
これに対して、使用者が便座に着座した状態のままで臀部を清拭できる便座装置がある(例えば、特許文献1)。特許文献1に記載された便座装置は、便座に着座する使用者の尾てい骨が当たる後端部に凹部を有する便座を備えている。さらに、便座は、前端部に貫通凹部を有している。
【0004】
しかし、便座の後方部にはタンクおよび壁面が備えられているため、使用者および介護者は、便座と、臀部の後方部と、の間に手を挿入しづらいという問題がある。また、便器の大きさによっては、便座の後端部に設けられた凹部の下方部に便器があるおそれがあるため、同様に手を挿入しづらいおそれがある。便座の前端部に設けられた貫通凹部から手を挿入して清拭を行う場合には、陰部を汚すおそれがある。すなわち、使用者の前方から清拭動作を行うため、衛生的ではないという問題がある。
【0005】
一方、便座を前方にスライドさせることによって、使用者が便座に着座した状態のままで臀部を清拭できる便座装置がある(例えば、特許文献2)。しかし、特許文献2に記載された便座装置においても、便座の後方部にはタンクおよび壁面が備えられているため、使用者および介護者は、便座と、臀部の後方部と、の間に手を挿入しづらいという問題がある。また、便座と、臀部の後方部と、の間に手を挿入しづらいため、手が汚れるおそれがあり、衛生的ではないという問題がある。
【特許文献1】特開2001−299643号公報
【特許文献2】特開2006−271934号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる課題の認識に基づいてなされたものであり、便座に着座した状態のままで臀部を楽に清拭できる、もしくは臀部を衛生的に清拭できる便座装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によれば、ボウル部を有する便器の上部に固定されるベース部と、前記ベース部の上部に設けられる便座と、を備え、前記便座は、後方部に切り欠き部または凹部を有し、前記便座を上方から眺めたときに、前記切り欠き部または凹部の少なくとも一部は前記ボウル部に差し掛かる位置まで、前記ベース部の上面に略沿って、前記便座の中心位置が前記便座の回動に伴って逐次移動する偏心回動可能とされたことを特徴とする便座装置が提供される。
【0008】
また、本発明の他の一態様によれば、便器と、前記便器に付設された上記の便座装置と、を備えたことを特徴とするトイレ装置が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、便座に着座した状態のままで臀部を楽に清拭できる、もしくは臀部を衛生的に清拭できる便座装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。なお、各図面中、同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
図1は、本発明の実施の形態にかかる便座装置が設置されたトイレ室を例示する模式図である。
図1に表したトイレ室は、便座装置10と、便器100と、ロータンク104と、を備えている。便座装置10は、便座12と、ベース部14と、を有している。ベース部14は便器100の上部に設置されており、便座12はベース部14の上部に設置されている。便座12は、後に詳述すように、後方部に切り欠き部12aを有している。また、便器100は、ボウル部100cを有している。
【0011】
ロータンク104は、壁面202に近接して設けられている。但し、図1に表したトイレ室においては、洗浄機構がいわゆる「ロータンク式」の大便器を例示しているが、この洗浄機構はロータンクを用いない、いわゆる「水道直圧式」であってもよい。その場合には、便座装置10および便器100が、壁面202に近接して設けられる。
【0012】
また、便座12に座った使用者の「おしり」などに向けて水を噴射し、「おしり」の洗浄を可能とした温水洗浄便座装置102(臀部洗浄装置)が、ベース部14の後端部に付設されていてもよい。便座12は、後に詳述するように、ベース部14および便器100に対して移動することができるが、便座12の移動時に温水洗浄便座装置102が誤作動を起こすと、使用者の服に水がかかるなどするため、好ましくない。そこで、このように温水洗浄便座装置102と便座12とを分離することによって、着座センサが人体の非着座状態を検知することになり、温水洗浄便座装置102の誤作動防止を期待することができる。なお、温水洗浄便座装置102は、便器100の後端部に付設されていてもよい。
【0013】
壁面200には、手すり300が設置されていてもよい。但し、手すり300は、壁面200に対向する図示しない壁面に設置されていてもよいし、便座装置10の前方にある図示しない壁面に設置されていてもよい。壁面200には、さらにペーパーホルダ310が設置され、そのペーパーホルダ310にトイレットペーパー312が設置されていてもよい。
【0014】
車いすを使用している体の不自由な障害者などは、便座12から車いすに移乗するとき、または車いすから便座12に移乗するとき、例えば手すり300などを利用する。一方、足腰の弱った高齢者なども同様に、便座12から起立するとき、または便座12に着座するとき、例えば手すり300などを利用する。
【0015】
図2は、本発明の第1の実施の形態にかかる便座装置を上方から眺めた模式上面図であり、図2(a)は、便座が用便位置にあるときの模式図であり、図2(b)は便座が清拭位置にあるときの模式図である。
また、図3は、本実施形態にかかる便座装置を斜め上方から眺めた模式斜視図であり、図3(a)は、便座が用便位置にあるときの模式図であり、図3(b)は便座が清拭位置にあるときの模式図である。
【0016】
ベース部14は、図示しない固定手段によって便器100に固定されている。図示しない固定手段は、いわゆる「ボルト」などと呼ばれるものであってもよい。そのため、ベース部14は、便器100に対して移動することはできない。便座12は、図2(a)および図3(a)に表した状態における便座12の開口部12cの左端部と右端部との略中心部、且つ後方部において、前後方向に沿って切り欠き部12aを有している。また、切り欠き部12aの下方部には、ベース部14がある。すなわち、便座12を上方から眺めたとき、切り欠き部12aと、ベース部14と、は重複している。
【0017】
図2(b)および図3(b)に表した状態のように、本実施形態にかかる便座装置10の便座12は、ベース部14および便器100に対して、回動400および前後移動402を行うことができる。回動400を行うときの便座12の中心位置は、略一点に固定されているわけではなく、便座12の移動に伴って逐次移動する。つまり、便座12は偏心した回動を行うことができる。すなわち、便座装置10は、後に詳述するように、便座12が用便位置にあるときに前方にあった前端部12bを、便座が清拭位置にあるときには右斜め前方に位置させることができる構造を有する。この場合、便座12を上方から眺めたとき、切り欠き部12aの少なくとも一部と、ベース部14と、は重複していない。すなわち、便座12を上方から眺めたとき、切り欠き部12aの少なくとも一部は、便器100のボウル部100cに差し掛かっている。
【0018】
便座12が回動400および前後移動402を行うことによって、便座12を上方から眺めたとき、切り欠き部12aの少なくとも一部は、ボウル部100cに差し掛かるため、使用者および介護者は、使用者が便座12に着座した状態のままで、切り欠き部12aから手や携帯用洗浄器を挿入して楽に清拭動作を行うことができる。また、切り欠き部12aの下方に、ベース部14および便器100のリム部100a(図4参照)が存在しない空間が生ずるため、手が汚れることは少なく、衛生的に清拭動作を行うことができる。
【0019】
図4は、比較例にかかる便座装置を斜め上方から眺めた模式斜視図である。
図2および3に表した便座装置に対して、図4に表した便座装置は、ベース部14が設けられておらず、便座12は、便器100に対して略水平面内で固定されている。便座12の後方部には、図2および3に表した便座装置と同様に、切り欠き部12aが設けられている。但し、切り欠き部12aは、便座12を上方から眺めたとき、凹形状をした切り欠き部であってもよい。
【0020】
本比較例にかかる便座装置において、使用者および介護者が切り欠き部12aから手を挿入して清拭動作を行うことは、容易ではない。これは、切り欠き部12aの下方にリム部100aがあるためである。すなわち、便座12およびリム部100aと、使用者の臀部の後方部と、の間の空間が狭いため、手を挿入しづらい。また、使用者の臀部を清拭する際に、手を便器100の後方部から挿入することになるが、便器100の後方にはロータンク104(図1参照)および壁面202(図1参照)があるため、便器100の後方から手を挿入しづらい。さらに、手を挿入する際、手がリム部100aに接触するおそれがあるため、衛生的にも問題がある。
【0021】
これに対して、本実施形態にかかる便座装置においては、便座12が回動400および前後移動402を行うことができるため、便座12が清拭位置にあるときには、切り欠き部12aの少なくとも一部の下方にベース部14および便器100のリム部100aがない空間が生ずる。また、便座12が清拭位置にあるときには、後に詳述するように、便器100の後方からではなく、斜めから手を挿入することができる。そのため、使用者が便座12に着座した状態のままで、切り欠き部12aから手を挿入して楽に清拭動作を行うことができる。さらに、手を挿入する際、手がリム部100aに接触するおそれが少ないため、衛生的に清拭動作を行うことができる。
【0022】
図5は、本実施形態にかかる便座装置の便座動作を例示する模式図である。
ベース部14は、便座12に対向する面にガイド部24を有している。このガイド部24は、ベース部14の開口部14cの右端部と左端部との略中心部から右側方寄りに前後方向に沿って設けられている。
【0023】
便座12は、ベース部14に対向する面に回動軸22を有し、この回動軸22は、ガイド部24に係合されている。回動軸22は、便座12の開口部12cの右端部と左端部との略中心部から右側方寄り、かつ後方部に設けられている。但し、本実施形態においては、便座12が回動軸22を有し、ベース部14がガイド部24を有しているが、これだけに限られるわけではなく、例えば、便座がガイド部を有し、ベース部が回動軸を有し、この回動軸がガイド部に係合されていてもよい。
【0024】
回動軸22は、ガイド部24に沿って前後方向に移動することができる。すなわち、便座12は、図5(b)に表した動作のように、ベース部14および便器100に対して、ガイド部24に略沿うように、且つベース部14の上面に略沿うように、前後移動402を行うことができる。さらに、回動軸22はガイド部24の内部において、回動することができる。すなわち、便座12は、図5(c)に表した動作のように、ベース部14および便器100に対して、ベース部14の上面に略沿うように、回動軸22を中心とした回動400を行うことができる。回動400を行うときの便座12の中心位置は、略一点に固定されているわけではなく、便座12の移動に伴って逐次移動する。つまり、便座12は、偏心した回動を行うことができる。これは、回動中心が、便座12の右側方寄り、且つ後方部に位置しているためである。ここで、便座装置10は、最前方へ移動した後でなければ回動400を行うことができない構造を有していてもよいし、前後移動402の途中であっても回動400を行うことができる構造を有していてもよい。
【0025】
このようにして、本実施形態にかかる便座装置10は、便座12が用便位置にあるときに前方にあった前端部12bを、便座が清拭位置にあるときには右斜め前方に位置させることができる。さらに、便座12を上方から眺めたとき、切り欠き部12aの少なくとも一部と、ベース部14と、が重複しないように、便座12を移動させることができる。すなわち、便座12を上方から眺めたとき、切り欠き部12aの少なくとも一部が、便器100のボウル部100cに差し掛かるように、便座12を移動させることができる。
【0026】
なお、ガイド部24は、開口部14cの右端部と左端部との略中心部から左側方寄りに前後方向に沿って設けられていてもよい。また、回動軸22は、開口部12cの右端部と左端部との略中心部から左側方寄り、かつ後方部に設けられていてもよい。この場合には、便座12の前端部12bを左斜め前方に位置させることができる。
【0027】
図6は、本実施形態にかかる便座装置の他の便座動作を例示する模式図である。
ベース部14は、便座12に対向する面にガイド部24a、24bを有している。ガイド部24aは、ベース部14の左側方部に設けられており、便座12を上方から眺めた形状に略一致した湾曲形状を有している。また、ガイド部24bは、ベース部14の右側方部に設けられており、便座12を上方から眺めた形状に略一致した湾曲形状を有している。
【0028】
ガイド部24aの長手方向に沿った幅中心曲線30aの長さと、ガイド部24bの長手方向に沿った幅中心曲線30bの長さと、を比較すると、幅中心曲線30aの長さの方が幅中心曲線30bの長さよりも長い。つまり、ガイド部24aの形状とガイド部24bの形状とは、便座12の開口部12cの左端部と右端部との略中心部に対して左右対称とはなっていない。
【0029】
便座12は、ベース部14に対向する面に回動軸22a、22bを有している。回動軸22aはガイド部24aに係合され、また回動軸22bはガイド部24bに係合されている。回動軸22aは、便座12が用便位置にあるときには、ガイド部24aの略最後部に位置するように設けられている。また、回動軸22bは、便座12が用便位置にあるときには、ガイド部24bの略最前部に位置するように設けられている。但し、本実施形態においては、便座12が回動軸22a、22bを有し、ベース部14がガイド部24a、24bを有しているが、これだけに限られるわけではなく、例えば、便座がガイド部を有し、ベース部が回動軸を有し、この回動軸がガイド部に係合されていてもよい。
【0030】
回動軸22a、22bは、ガイド部24a、24bにそれぞれ沿って移動することができる。すなわち、便座12は、図6(b)に表した動作のように、ベース部14および便器100に対して、ガイド部24a、24bに略沿うように、且つベース部14の上面に略沿うように、移動することができる。このとき、回動軸22aは、ガイド部24aに沿って前方へ移動する。一方、回動軸22bは、ガイド部24bに沿って後方へ移動する。
【0031】
回動軸22bが後方へ移動する速さよりも、回動軸22aが前方へ移動する速さの方が速いため、図6(b)に表した動作のように、便座12の前端部12bは、右斜め前方に位置するようになる。すなわち、便座12は、ベース部14および便器100に対して、ガイド部24a、24bに略沿うように、且つベース部14の上面に略沿うように、前後移動402を行いつつ回動400を行うことができる。回動400を行うときの便座12の中心位置は、略一点に固定されているわけではなく、便座12の移動に伴って逐次移動する。つまり、便座12は偏心した回動を行うことができる。これは、ガイド部24aの形状とガイド部24bの形状とが、便座12の開口部12cの左端部と右端部との略中心部に対して左右対称とはなっていないためである。
【0032】
便座12がさらに移動を続けると、図6(c)に表した状態のように、便座12は、清拭位置に到達する。この場合、便座12を上方から眺めたとき、切り欠き部12aの少なくとも一部と、ベース部14と、は重複していない。すなわち、便座12を上方から眺めたとき、切り欠き部12aの少なくとも一部は、便器100のボウル部100cに差し掛かっている。なお、ガイド部24aの長手方向に沿った幅中心曲線30aの長さと、ガイド部24bの長手方向に沿った幅中心曲線30bの長さと、を比較した場合、幅中心曲線30bの長さの方が幅中心曲線30aの長さより長くてもよい。この場合には、便座12の前端部12bを左斜め前方に位置させることができる。
【0033】
図7は、本実施形態にかかる便座装置が設置されたトイレ室を上方から眺めた模式上面図である。
図7に表した便座装置10において、便座12は清拭位置にある。つまり、便座12を上方から眺めたとき、切り欠き部12aの少なくとも一部は、ボウル部100cに差し掛かっている。また、便座12の前端部12bは、右斜め前方に位置しており、便座12はベース部14に対して傾いた状態にある。
【0034】
したがって、切り欠き部12aの後方部には、空間106が存在する。使用者および介護者は、この空間106を利用して、左斜め後方から切り欠き部12aに手を挿入すれば、ロータンク104および壁面202が邪魔になることはなく、楽に清拭動作を行うことができる。これに対して、便座12が移動しない、もしくは前後移動のみを行う場合には、切り欠き部12aの近くにロータンク104および壁面202が存在することになるため、便座12の後方から手を挿入する際に、ロータンク104および壁面202が邪魔になる。
【0035】
さらに、本実施形態にかかる便座装置10において、介護者は、トイレ室の後方の奥へ入る必要はなく、便座装置の側方にある空間108において、清拭動作を楽に行うことができる。これは、便座12がベース部14に対して傾いた状態となるため、手を挿入するための切り欠き部12aが、空間108の方向に略位置するようになるためである。
【0036】
また、洗浄機構が、いわゆる「水道直圧式」の場合には、ロータンク104が存在せず、便座装置10が壁面202に近接するようになるため、介護者は、便座装置10の後方に入り込むことはできない。この場合にも、介護者は空間108を利用して、便座装置10の側方から切り欠き部12aに手を挿入することによって、楽に清拭動作を行うことができる。
【0037】
以上説明したように、本実施形態によれば、便座12が回動400および前後移動402を行うことによって、便座12を上方から眺めたとき、切り欠き部12aの少なくとも一部と、ベース部14と、が重複しない状態となる。すなわち、便座12を上方から眺めたとき、切り欠き部12aの少なくとも一部は、便器100のボウル部100cに差し掛かった状態となる。そのため、切り欠き部12aから手や携帯用洗浄器を挿入して楽に清拭動作を行うことができる。また、切り欠き部12aの少なくとも一部の下方に、ベース部14および便器100のリム部100aが存在しない空間が生ずるため、手が汚れることは少なく、衛生的に清拭動作を行うことができる。
【0038】
さらに、便座12がベース部14に対して傾いた状態となるため、介護者はトイレ室の後方の奥へ入る必要はなく、便座装置の側方にある空間108において、清拭動作を楽に行うことができる。使用者の後方には、空間106が生ずるため、ロータンク104および壁面202が邪魔になることはなく、介護者は楽に清拭動作および介護動作を行うことができる。一方、便座が回動400および前後移動402を行うため、手すり300(図1参照)を掴む動作や便座12から車いすに移乗する動作なども楽に行うことができる。
【0039】
図8は、本発明の第2の実施の形態にかかる便座装置を斜め上方から眺めた模式斜視図であり、図8(a)は、便座が用便位置にあるときの模式図であり、図8(b)は便座が清拭位置にあるときの模式図である。
便座12は、開口部12cの左端部と右端部との略中心部、且つ後方部において、後方に向かって凹部12dを有している。つまり、便座12の後端部において、便座12の部材は繋がっている。その他の構造および動作については、図2および3に表した便座装置と同様であるため、その説明は省略する。
【0040】
図8(b)に表した状態のように、本実施形態にかかる便座装置10の便座12は、図2(b)および図3(b)と同様に、回動400および前後移動402を行うことができるため、便座12を上方から眺めたとき、凹部12dの少なくとも一部と、ベース部14と、が重複しない状態に移動できる。すなわち、便座12を上方から眺めたとき、凹部12dの少なくとも一部が、便器100のボウル部100cに差し掛かるように、便座12は、回動400および前後移動402を行うことができる。このとき、便座12の後端部において部材が繋がっているため、便座12の変形をより低減させることができる。つまり、便座12の強度を上げることができる。
【0041】
便座12を上方から眺めたとき、凹部12dの少なくとも一部は、ボウル部100cに差し掛かるようになるため、本実施形態においても、使用者および介護者は、使用者が便座12に着座した状態のままで、凹部12dから手や携帯用洗浄器を挿入して楽に清拭動作を行うことができる。このとき、便座12の後端部において部材が繋がっているため、凹部12dから挿入した手が、ベース部14の後方部および便器100の後方部に、より接触し難くなる。つまり、便座12の後端部において繋がった部材が、接触からの保護機能を有するため、より衛生的に清拭動作を行うことができる。
【0042】
図9は、本実施形態にかかる便座装置の便座動作を例示する模式図である。
ベース部14は、図5に表したベース部と同様に、便座12に対向する面にガイド部24を有している。ガイド部24は、ベース部14の開口部14cの右端部と左端部との略中心部に前後方向に沿って設けられている。
【0043】
便座12は、図5に表した便座12と同様に、ベース部14に対向する面に回動軸22を有し、この回動軸22は、ガイド部24に係合されている。回動軸22は、便座12の開口部12cの右端部と左端部との略中心部、かつ後方部に設けられている。このように、本実施形態においては、便座12の後端部において部材が繋がっているため、回動軸22を開口部12cの右端部と左端部との略中心部、かつ後方部に設けることができる。なお、本実施形態においては、便座12が回動軸22を有し、ベース部14がガイド部24を有しているが、これだけに限られるわけではなく、例えば、便座がガイド部を有し、ベース部が回動軸を有し、この回動軸がガイド部に係合されていてもよい。
【0044】
便座12は、図9(b)に表した動作のように、ベース部14および便器100に対して、ガイド部24に略沿うように、且つベース部14の上面に略沿うように、前後移動402を行うことができる。さらに、便座12は、図9(c)に表した動作のように、ベース部14および便器100に対して、ベース部14の上面に略沿うように、回動軸22を中心とした回動400を行うことができる。この回動400は、図5を参照しつつ説明した便座装置と同様に、偏心した回動である。これは、回動中心が、便座12の後方部に位置しているためである。ここで、便座装置10は、最前方へ移動した後でなければ回動400を行うことができない構造を有していてもよいし、前後移動402の途中であっても回動400を行うことができる構造を有していてもよい。
【0045】
このようにして、本実施形態にかかる便座装置10は、便座12が用便位置にあるときに前方にあった前端部12bを、便座が清拭位置にあるときには右斜め前方に位置させることができる構造を有する。さらに、便座12を上方から眺めたとき、凹部12dの少なくとも一部と、ベース部14と、が重複しないように、便座12を移動させることができる構造を有する。すなわち、便座12を上方から眺めたとき、凹部12dの少なくとも一部が、便器100のボウル部100cに差し掛かるように、便座12を移動させることができる構造を有する。
【0046】
図10は、本実施形態にかかる便座装置の他の便座動作を例示する模式図である。
図10に表した便座12は、前端部12bに切り欠き部12eを有している。その他の構造は、図9に表した便座装置の構造と同様であるため、その説明は省略する。
便座12は、図9(b)および(c)に表した動作と同様に、ベース部14および便器100に対して、ガイド部24に略沿うように、且つベース部14の上面に略沿うように、前後移動402を行うことができ、さらに、ベース部14の上面に略沿うように、回動軸22を中心とした回動400を行うことができる。
【0047】
このとき、便座12とベース部14との間に空隙12fが生ずる。この空隙12fに使用者の身体が入った状態のままで、便座12が回動または後方移動を行うと、使用者の身体が便座12とベース部14との間に挟まれるおそれがある。これに対して、便座12が切り欠き部12eを有していると、使用者の身体が入った状態のままで、便座12が回動または後方移動を行ったとしても、使用者の身体を切り欠き部12eを通して逃がすことができるため、便座12とベース部14との間に挟まれることを防止することができる。
【0048】
なお、その他の動作は、図9に表した便座動作と同様である。また、本実施形態にかかる便座装置10は、図6を参照しつつ説明したような、回動軸22a、22bと、ガイド部24a、24bと、を有する構造としてもよい。このようにすれば、同様に、便座12を上方から眺めたとき、凹部12dの少なくとも一部と、ベース部14と、が重複しないように、便座12は前後移動402を行いつつ回動400を行うことができる。すなわち、便座12を上方から眺めたとき、凹部12dの少なくとも一部が、便器100のボウル部100cに差し掛かるように、便座12は前後移動402を行いつつ回動400を行うことができる。
【0049】
図11は、便座の固定手段を例示する模式図であり、図11(a)は、後方から眺めた模式図であり、図11(b)は、図10(a)におけるA−A断面を表す模式図である。 また、図12は、便座の固定手段を斜め上方から眺めた模式斜視図である。
なお、図12に表した便座装置においては、説明の便宜上、便座12を省略しており、さらに、図6を参照しつつ説明したような、ガイド部24a、24bと、を有する構造を例示している。
【0050】
本実施形態にかかる便座装置は、図11および12に表したような固定手段を備えていてもよい。本実施形態にかかる便座装置は、前述したように便座12が回動400および前後移動402を行うため、便座12から車いすなどに移乗するときには、または車いすから便座12に移乗するときには、便座12を固定することが好ましい。移乗の際に便座12が移動すると、使用者の体勢が不安定となり、便座12から転倒するおそれがあるためである。
【0051】
便座の固定手段16は、便座12の後方部に付設されている。固定手段16は、ベース部の方向に向かう固定軸16aと、使用者が操作するための取っ手16bと、を有している。固定軸16aと取っ手16bとは締結されており、また、図示しない付勢手段によって、ベース部14の方向へ付勢されている。付勢手段は、例えば「ばね」などが挙げられる。また、ベース部14は、固定軸16aが挿入されるための孔14dを有している。
【0052】
固定軸16aの直径と、孔14dの直径と、は略同じである。したがって、固定軸16aが孔14dに挿入された状態のときは、便座12は固定された状態、すなわち移動を抑制された状態となる。一方、便座12をベース部14の上面に略沿うように移動させる場合には、取っ手16bを上方へ持ち上げ、固定軸16aを孔14dから外すことで、便座12を移動させることができる。なお、孔14dの個数および設置位置は、適宜変更されてもよい。
【0053】
これによれば、使用者が便座から起立する場合や車いすへ移乗する場合、または便座へ移乗する場合、便座12の移動を止めることができるため、より安全に起立動作や移乗動作を行うことができる。
【0054】
以上説明したように、本実施形態によれば、便座12の後端部において部材が繋がっているため、便座12の変形をより低減させることができる。さらに、便座12の後端部において繋がった部材は、凹部12dから挿入した手と便器表面とが接触することを防止する機能を有するため、より衛生的に清拭動作を行うことができる。また、便座12の前端部12bに切り欠き部12eを設けることができるため、使用者の身体が便座12とベース部14との間に挟まれることを防止することができる。その他の効果についても、図2〜7を参照しつつ説明した実施形態にかかる便座装置と同様の効果を得ることができる。
【0055】
図13は、本発明の第3の実施の形態にかかる便座装置を上方から眺めた模式上面図であり、図13(a)は、便座が用便位置にあるときの模式図であり、図13(b)は便座が清拭位置にあるときの模式図である。
便座12は、開口部12cの左端部と右端部との略中心部から右側方寄り、且つ後方部において、前後方向に沿って切り欠き部12aを有している。その他の構造は、図2に表した便座装置の構造と同様であるため、その説明は省略する。
【0056】
本実施形態にかかる便座装置10の便座12は、図2に表した便座12と同様に、偏心した回動400および前後移動402を行うことができるため、便座12を上方から眺めたとき、切り欠き部12aの少なくとも一部と、ベース部14と、が重複しない状態に移動できる。すなわち、便座12を上方から眺めたとき、切り欠き部12aの少なくとも一部が、便器100のボウル部100cに差し掛かるように、便座12は回動400および前後移動402を行うことができる。このとき、切り欠き部12aは、開口部12cの左端部と右端部との略中心部から右側方寄りに設けられているため、図13(b)に表した状態のように、便座12が清拭位置にあるときには、右側方にいる介護者から切り欠き部12aを眺めると、略正面に見えることになる。
【0057】
したがって、介護者が右利きであれば、清拭動作をより楽に行うことができる。なお、便座12は、開口部12cの左端部と右端部との略中心部から左側方寄り、且つ後方部において、前後方向に沿って切り欠き部12aを有していてもよい。その場合には、介護者が左利きであれば、清拭動作をより楽に行うことができる。その他の効果についても、図2〜7を参照しつつ説明した実施形態にかかる便座装置と同様の効果を得ることができる。
【0058】
以上、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明はこれらの記述に限定されるものではない。前述の実施の形態に関して、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、便座12およびベース部14などが備える各要素の形状、寸法、材質、配置などや便座装置10の設置形態などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。
また、ベース部14に回動軸22a、22bが設けられ、便座12にガイド部24a、24bが設けられていてもよい。あるいは、ベース部14に回動軸22a、22bのいずれか一方と、ガイド部24a、24bいずれか一方と、が設けられ、便座12にはこれらに係合する回動軸22a、22bのいずれか他方と、ガイド部24a、24bのいずれか他方と、が設けられていてもよい。
また、前述した各実施の形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の実施の形態にかかる便座装置が設置されたトイレ室を例示する模式図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態にかかる便座装置を上方から眺めた模式上面図であり、図2(a)は、便座が用便位置にあるときの模式図であり、図2(b)は便座が清拭位置にあるときの模式図である。
【図3】図3は、本実施形態にかかる便座装置を斜め上方から眺めた模式斜視図であり、図3(a)は、便座が用便位置にあるときの模式図であり、図3(b)は便座が清拭位置にあるときの模式図である。
【図4】比較例にかかる便座装置を斜め上方から眺めた模式斜視図である。
【図5】本実施形態にかかる便座装置の便座動作を例示する模式図である。
【図6】本実施形態にかかる便座装置の他の便座動作を例示する模式図である。
【図7】本実施形態にかかる便座装置が設置されたトイレ室を上方から眺めた模式上面図である。
【図8】本発明の第2の実施の形態にかかる便座装置を斜め上方から眺めた模式斜視図であり、図8(a)は、便座が用便位置にあるときの模式図であり、図8(b)は便座が清拭位置にあるときの模式図である。
【図9】本実施形態にかかる便座装置の便座動作を例示する模式図である。
【図10】本実施形態にかかる便座装置の他の便座動作を例示する模式図である。
【図11】便座の固定手段を例示する模式図であり、図11(a)は、後方から眺めた模式図であり、図11(b)は、図10(a)におけるA−A断面を表す模式図である。
【図12】図12は、便座の固定手段を斜め上方から眺めた模式斜視図である。
【図13】本発明の第3の実施の形態にかかる便座装置を上方から眺めた模式上面図であり、図13(a)は、便座が用便位置にあるときの模式図であり、図13(b)は便座が清拭位置にあるときの模式図である。
【符号の説明】
【0060】
10 便座装置、 12 便座、 12a 切り欠き部、 12b 前端部、 12c 開口部、 12d 凹部、 12e 切り欠き部、 12f 空隙、 14 ベース部、 14c 開口部、 14d 孔、 16 固定手段、 16a 固定軸、 16b 取っ手、 22、22a、22b 回動軸、 24、24a、24b ガイド部、 30a、30b 幅中心曲線、 100 便器、 100a リム部、 102 温水洗浄便座装置(臀部洗浄装置)、 104 ロータンク、 106、108 空間、 200、202 壁面、 300 手すり、 310 ペーパーホルダ、 312 トイレットペーパー、 400 回動、 402 前後移動

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボウル部を有する便器の上部に固定されるベース部と、
前記ベース部の上部に設けられる便座と、
を備え、
前記便座は、後方部に切り欠き部または凹部を有し、前記便座を上方から眺めたときに、前記切り欠き部または凹部の少なくとも一部は前記ボウル部に差し掛かる位置まで、前記ベース部の上面に略沿って、前記便座の中心位置が前記便座の回動に伴って逐次移動する偏心回動可能とされたことを特徴とする便座装置。
【請求項2】
前記切り欠き部または凹部は、前記便座の開口部の左端部と、右端部と、の略中心部であって、前記便座の後方部に設けられたことを特徴とする請求項1記載の便座装置。
【請求項3】
前記切り欠き部または凹部は、前記便座の開口部の左端部と、右端部と、の略中心部から偏心した位置であって、前記便座の後方部に設けられたことを特徴とする請求項1または2に記載の便座装置。
【請求項4】
前記便座は、前端部に切り欠き部をさらに有することを特徴とする請求項2または3に記載の便座装置。
【請求項5】
前記ベース部及び前記便座のいずれか一方は、孔を有し、
前記ベース部及び前記便座のいずれか他方は、固定手段を有し、
前記固定手段が前記孔に挿入されることによって、前記便座は移動を抑制されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の便座装置。
【請求項6】
前記便座は、さらに前後移動可能とされたことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の便座装置。
【請求項7】
前記便器と、
前記便器に付設された請求項1〜6のいずれか1つに記載の便座装置と、
を備えたことを特徴とするトイレ装置。
【請求項8】
前記便器の上部に付設された臀部洗浄装置をさらに備えたことを特徴とする請求項7記載のトイレ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−297459(P2009−297459A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−158479(P2008−158479)
【出願日】平成20年6月17日(2008.6.17)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「人間支援型ロボット実用化基盤技術開発介護動作支援ロボット及び実用化技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】