説明

便秘改善剤

【課題】便秘や腸内環境等を改善する効果を発揮し、安全性が高いと共に適用範囲が広く、且つ食感を損なうことが少ない食品、医薬品等の素材の提供。
【解決手段】ヒドロキシプロピル化された澱粉を有効成分とする便秘改善剤、腸内環境改善剤、腸管粘液産生促進剤及び腸内短鎖脂肪酸産生促進剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、便秘の改善、腸内環境の改善及び腸管粘液の産生促進作用等を有し、食品又は医薬品として有用な素材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食習慣の変化や、ストレス、薬物、胃、腸、肝障害等によって、腸内のpHがアルカリ領域へ移行する傾向がある。このように腸内環境がアルカリ性に傾くと、ウエルシュ菌、大腸菌、腸球菌等の繁殖が活発化し、腸内腐敗、細菌による毒素や発癌性物質の産生等が起こるとされている。
また、食物繊維の摂取不足から、現代人の多くは便秘を経験することが多く、便秘を危険因子とする結腸癌、直腸癌もまた増加している。
従って、このような社会的背景から、便秘対策や腸内環境改善は極めて重要である。
【0003】
従来、便秘の改善や腸内環境の改善には、ビフィズス菌や乳酸菌等の有用菌を摂取したり、高食物繊維食の摂取が推奨されている。例えば、便秘の予防・改善に関連する食品素材としては、小麦ふすまに代表される水不溶性食物繊維、難消化性デキストリンに代表される水溶性食物繊維、高アミロースコーン澱粉等の消化抵抗性澱粉が挙げられ、糞便排泄量や回数、及び糞便の含水率を増大することにより軟便化する等の効果が知られている(例えば、非特許文献1〜4参照)。
【0004】
しかしながら、従来の水不溶性食物繊維、水溶性食物繊維、消化抵抗性澱粉等の食品素材が上記の生理作用を発現するには、高用量かつ長期間摂取し続けなければならない。更にそれらを用いて飲食品を製造した場合、飲食品本来の持つ外観、味、歯触り、滑らかさ等の食感を損う場合が多いため、食品中に十分な量で含有させることが困難であり、適用分野が限定されたり、更にそのような飲食品を長期間摂取し続けるのが困難という問題があった。
【0005】
ヒドロキシプロピル化された澱粉は、透明性が高くフィルム形成性に優れ、低温保存安定性、凍結・解凍安定性の高い性質を持つことが知られており、米国ではFDAで食品への使用が許可されている(例えば、非特許文献3参照)。
しかしながら、ヒドロキプロピル化された澱粉類に、便秘改善作用や腸内環境の改善作用があることはこれまでに知られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Am J Gastroentero 1 1987 82(12):1259-63
【非特許文献2】健康・栄養食品研究 1999 Vol.2 No.1 p44
【非特許文献3】Am J Clin Nutr 1995 62(1):121-30
【非特許文献4】日本家政学会誌 1998 49(9): 985-992
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、便秘や腸内環境等を改善する効果を発揮し、安全性が高いと共に適用範囲が広く、且つ食感を損なうことが少ない食品、医薬品等の素材を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、従来の難消化性澱粉やセルロース、難消化性デキストリンに代表される食物繊維とは異なる物性を有し、便秘や腸内環境改善に有効な素材を探索した結果、ヒドロキシプロピル化された澱粉が、僅かな摂取量で、糞便の量やその含水率を増加させ、腸管内の短鎖脂肪酸を増加させて腸内pHを低下させると共に、腸管内のムチンの発現量を増加させる作用を有し、便秘や腸内環境の改善等に効果を発揮する食品、医薬品素材として有用であることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、ヒドロキシプロピル化された澱粉を有効成分とする便秘改善剤、腸内環境改善剤、腸管粘液産生促進剤及び腸内短鎖脂肪酸産生促進剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の便秘改善剤等は、便秘の改善、腸内短鎖脂肪酸の産生促進、腸内pH等の腸内環境の改善及び腸管粘液産生促進効果を発揮し、食品、医薬品等として有用である。特に、有効成分であるヒドロキシプロピル化澱粉又はその誘導体は、澱粉を原料とすることから人体に対する安全性に優れ、また糊化しやすいので、飲食品への適用範囲が広く、パン、麺類、焼き菓子(ケーキ、クッキー等)、ゼリー類、飲料等に配合した場合、それらが本来持つ食感を損なうことが少ない。また耐凍結性に優れ、解凍しても変質しにくいことから、各種飲食品として使用する場合にその有用性が高い。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のヒドロキシプロピル化された澱粉は、澱粉又は加工澱粉を通常の方法によりヒドロキシプロピル化することにより得ることができる。具体的にはプロピレンオキサイドを澱粉に反応させることにより得ることができる。
また、ナショナルフリジェックス(タピオカ由来、ナショナルスターチアンドケミカル社)、ナショナル1658(コーン由来、ナショナルスターチアンドケミカル社)、サームフロー(ワキシーコーン由来、ナショナルスターチアンドケミカル社)、サームテックス(ワキシーコーン由来、ナショナルスターチアンドケミカル社)等の市販品を用いることもできる。
【0012】
原料澱粉としては、例えばワキシーコーン澱粉、コーン澱粉、小麦澱粉、米澱粉、糯米澱粉、馬鈴薯澱粉、甘露澱粉、タピオカ澱粉、サゴ澱粉等が挙げられるが、アミロペクチン含量が70重量%以上、好ましくは75〜100%、更に好ましくは90〜100%であるものが、糊液の透明性が高く、飲食品に応用した場合にその外観を損わず、適用範囲が広くなることより好ましい。中でも、原料澱粉としては、ワキシーコーン澱粉、タピオカ澱粉が好ましい。
【0013】
本発明における「ヒドロキシプロピル化された澱粉」には、他の加工処理を組み合わせることにより得られるヒドロキシプロピル化された澱粉も含まれる。組み合わせることのできる加工処理としては酢酸、オクテニルコハク酸、リン酸等のエステル化処理やヒドロキシプロピル化以外のカルボキシメチルエーテル化等によるエーテル化処理、トリメタリン酸塩、ヘキサメタリン酸塩、オキシ塩化リン、アジピン酸、エピクロルヒドリン等、常用の架橋剤を用いた架橋化処理、酸化処理、酸処理、漂白処理、湿熱処理、熱処理、酵素処理等が挙げられ、その内1種又は2種以上の加工を組み合わせても良い。中でも、エステル化処理が好ましく、リン酸化処理、特にリン酸架橋処理が好ましい。リン酸化処理の程度としては、結合リン含量が0.0001〜2%の範囲が挙げられるが、好ましくは0.0001〜0.5%、更に好ましくは0.0001〜0.2%であるものが食感等の面から好ましい。
【0014】
ヒドロキシプロピル化の程度としては、置換度(澱粉中の無水グルコース1残基当たりのヒドロキシプロピル基の数)が0.001〜1であるのが好ましく、より好ましくは0.05〜0.5であり、更に0.1〜0.3であるのが好ましい。
【0015】
上記ヒドロキシプロピル化された澱粉は、澱粉から簡単な工程で、高純度で比較的安価に製造できる。また安全性が高く、従来の食物繊維や難消化性澱粉と比較して、各種飲食品、医薬品、ペットフード等に用いたときの違和感がない。また、耐冷凍性に優れているので、解凍による変質が起こりにくいという利点を有し得る。
【0016】
そして、ヒドロキシプロピル化された澱粉は、後記実施例に示すように、第1に、糞便の量やその含水率を増加させ、軟便化させる作用を有することから、便秘を危険因子とする結腸癌や直腸癌の予防等の効果を発揮する。第2に、腸管内の短鎖脂肪酸を増加させ、腸内pHを低下させる作用を有することから、腸内環境の悪化に起因する結腸癌や直腸癌を予防したり、カルシウム吸収を促進する等の効果を発揮する。第3に腸管内のムチンの発現量を増加させる作用を有することから、粘液により腸管粘膜が保護され、大腸炎及び結腸癌や直腸癌の予防等の効果を発揮し得る。
従って、本発明のヒドロキシプロピル化された澱粉は、便秘改善剤、腸内環境改善剤、腸管粘液産生促進剤、腸内短鎖脂肪酸産生促進剤(以下、便秘改善剤等という)として、ヒト若しくは動物用の食品又は医薬品の素材となり得る。
【0017】
本発明の便秘改善剤等は、ヒドロキシプロピル化澱粉の一種以上を単体でヒト及び動物に投与できる他、各種飲食品、医薬品、ペットフード等に配合して摂取することができる。食品としては、便秘の改善、腸内環境改善、Ca吸収促進、消化管粘膜保護等の生理機能をコンセプトとする美容食品、病者用食品、特定保健用食品に応用できる。医薬品として使用する場合は、例えば、錠剤、顆粒剤等の経口用固形製剤や、内服液剤、シロップ剤等の経口用液体製剤とすることができる。
尚、経口用固形製剤を調製する場合には、本発明のヒドロキシプロピル化澱粉に賦形剤、必要に応じて結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味剤、矯臭剤等を加えた後、常法により錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等を製造することができる。また、経口用液体製剤を調製する場合は、矯味剤、緩衝剤、安定化剤、矯味剤等を加えて常法により内服液剤、シロップ剤、エリキシル剤等を製造することができる。
【0018】
上記各製剤中に配合されるべきヒドロキシプロピル化された澱粉の配合量は、通常5〜100重量%、好ましくは20〜100重量%、更に好ましくは30〜100重量%とするのが好ましい。
【0019】
本発明の便秘改善剤等の投与量(有効摂取量)は、一日当り0.01g/kg体重以上とするのが好ましく、特に0.1g/kg体重以上、更に0.4g/kg体重以上とするのが好ましい。
【実施例】
【0020】
試験例1 便秘改善作用・腸内環境改善作用・腸管粘液産生促進作用
コーン澱粉は、ナショナルスターチアンドケミカル社から入手した。ヒドロキシプロピル化された澱粉として、一般に市販されているナショナル1658(コーン由来、ナショナルスターチアンドケミカル社)、サームフロー(ワキシーコーン由来、ナショナルスターチアンドケミカル社)、及び上記コーン澱粉をJ Nutr 1998 128(5):848-54に記載の方法でヒドロキシプロピル化したものを用いた。
【0021】
SDラット(雄、8週令)を1群5匹とし、各種澱粉を用いて、表1に示す配合で調製した食餌を用いて1週間飼育した。この間毎日、糞便の乾燥重量と含水率を測定した。飼育後、ラットを屠殺し、盲腸内容物のpH、及び短鎖脂肪酸量(酢酸、プロピオン酸、酪酸の総量)を測定した。更にラット結腸を摘出し、ノーザンブロット法により、ムチン遺伝子(MUC3)の発現を定量した。
尚、pHは盲腸内容物を蒸留水で2倍希釈後、pHメーターにて測定し、短鎖脂肪酸は盲腸内容物を0.05N H2SO4で10倍希釈後、HPLC(溶離液:0.12N硫酸カラム:IC sep TCE-10N 300(トンラスジェノジック社)、流速0.4mL/分で定量した。
ラットの糞便排泄量、平均糞便含水率、盲腸内pH、盲腸内短鎖脂肪酸量、ムチン発現量(コーン澱粉を100とした場合の相対量)を表2に示す。
【0022】
【表1】

【0023】
【表2】

【0024】
表2の結果から、ヒドロキシプロピル化された澱粉(コーン、ワキシーコーン由来)を5%配合した飼料を摂取したラットでは、原料澱粉(コーン澱粉)を配合した飼料を摂取したマウスに比較して、糞便量が多く、糞便含水率が高く、便秘改善効果が認められることがわかる。また盲腸内短鎖脂肪酸濃度が高いことから、盲腸内pHが低くなっており、腸内環境改善効果が認められることがわかる。更にムチン(MUC3)発現量も多く、腸管粘液産生促進効果が認められることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
腸管粘液産生促進のためのヒドロキシプロピル化された澱粉の使用(但し、ヒトの医薬としての使用を除く)。
【請求項2】
大腸炎、結腸癌及び/又は直腸癌の予防のためのヒドロキシプロピル化された澱粉の使用(但し、ヒトの医薬としての使用を除く)。
【請求項3】
腸管粘液産生促進作用を有するものであることを特徴とする食品の有効成分としてのヒドロキシプロピル化された澱粉の使用。
【請求項4】
大腸炎、結腸癌及び/又は直腸癌の予防作用を有するものであることを特徴とする食品の有効成分としてのヒドロキシプロピル化された澱粉の使用。

【公開番号】特開2010−47606(P2010−47606A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−267775(P2009−267775)
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【分割の表示】特願2003−109959(P2003−109959)の分割
【原出願日】平成15年4月15日(2003.4.15)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】