説明

保冷保温用蓄熱剤パック

【課題】かなりの低温度条件下で冷却した場合であっても、なお可撓性を有し、保冷対象面がどのような形状であっても容易に追随させることができ、また、幼児や愛玩動物を対象とする場合でも、安全に使用することができる保冷保温用蓄熱剤パックを提供する。
【解決手段】本発明に係る保冷保温用蓄熱剤パックは、pH12〜13を示すアルカリ性の水と、当該アルカリ性の水の4.5〜5.5倍の重量に相当する生卵黄とを混合し、この混合物の温度を20〜30℃の範囲に保ちながら、アルカリ性の水と生卵黄とが混ざり合うまで攪拌し、この攪拌した混合物に前記生卵黄の0.9〜1.1倍の重量に相当する糖質を加えた後、これを1〜10気圧の条件下において、80〜90℃の範囲に保ちながら、少なくとも1時間以上攪拌して製造したペースト状の物質を、可撓性を有する袋内に封入したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生鮮食品の包装時に同梱される保冷剤パック、或いは、衣服、帽子、ヘルメット、自動車のシート等に装着され、人体や愛玩動物に冷涼感を与える用途に用いられる保冷剤パック、又は、食品、人体、愛玩動物等を暖める用途に用いられる保温剤パック(保冷保温用蓄熱剤パック)に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、生鮮食品等の保冷剤として市場に流通しているのは、可撓性を有する袋(ビニール袋、ポリエチレン製の袋等)にゲル状物質をパック詰めしてなるものが殆どである。ゲル状物質を用いた従来の保冷剤は、液体(例えば、水)をパックしたものと比べ、保冷効果を長時間持続させることができ、また、万が一外装(パック)に穴が開いてしまった場合でも、中身が流出しにくいという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−86361号公報
【特許文献2】特公平5−8663号公報
【特許文献3】特開2006−141272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
保冷剤は、少なくとも1時間以上冷凍庫内に保管することによって予め凍らせておき、その状態で使用することになるが、従来の保冷剤は、家庭用の一般的な冷凍庫(−10℃程度)内で1時間程度保管すると、硬く凍結してしまうことになる。
【0005】
保冷剤が硬く凍結してしまった場合、保冷対象物を包装しようとする容器(例えば、発泡スチロール製の容器)内に、収容スペースを確保することができず、同梱できなくなってしまうことがある。また、保冷対象物の1つの面(保冷対象面)に対して、保冷剤の一方側の面を追随させることができれば、より高い保冷効果が期待できるが、保冷剤が硬く凍結してしまった場合、保冷対象面に追随させることが難しくなってしまう。
【0006】
更に、従来の保冷剤は、可燃物ゴミ或いは生ゴミとして捨てることができず、不燃物ゴミとして分別収集する必要がある。また、幼児や愛玩動物に対して使用する場合、保冷剤の中身を誤って飲み込んでしまう危険があるため、有毒物質が含まれている場合には、保冷剤を幼児や愛玩動物に対して使用するべきではない。
【0007】
本発明は、上記のような従来技術の問題を解決すべくなされたものであって、かなりの低温度条件下で冷却した場合であっても、なお可撓性を有し、保冷対象面がどのような形状であっても容易に追随させることができ、また、幼児や愛玩動物を対象とする場合でも、安全に使用することができる保冷保温用蓄熱剤パックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る保冷保温用蓄熱剤パックは、pH12〜13を示すアルカリ性の水と、当該アルカリ性の水の4.5〜5.5倍の重量に相当する生卵黄とを混合し、この混合物の温度を20〜30℃の範囲に保ちながら、アルカリ性の水と生卵黄とが混ざり合うまで攪拌し、この攪拌した混合物に前記生卵黄の0.9〜1.1倍の重量に相当する糖質を加えた後、これを1〜10気圧の条件下において、80〜90℃の範囲に保ちながら、少なくとも1時間以上攪拌して製造したペースト状の物質を、可撓性を有する袋内に封入したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の保冷保温用蓄熱剤パックは、袋内に封入されているペースト状の物質が、−30℃という低温度条件下で凍結せず、可撓性を有する、という特性を有しているため、例えば保冷対象物を包装しようとする際に、容器内に保冷剤を収容するスペースが十分に確保できないような場合であっても、保冷対象物と容器の隙間の形状に対応するように変形させることによって、容器内への同梱が可能になるという効果を期待することができる。
【0010】
また、保冷対象面がどのような形状であっても、容易に追随させることができ、高い保冷効果を期待することができる。更に、本発明の保冷保温用蓄熱剤パックは、食用可能な材料を封入してなるものであるため、可燃物或いは生ゴミとして廃棄処分することができる。また、中身を誤って飲み込んでしまった場合でも全く問題はなく、従って、幼児や愛玩動物に対しても、極めて安全に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
ここで、本発明を実施するための形態について説明する。本発明に係る保冷保温用蓄熱剤パックは、pH12〜13を示すアルカリ性の水と、当該アルカリ性の水の4.5〜5.5倍の重量に相当する生卵黄とを混合し、この混合物の温度を20〜30℃の範囲に保ちながら、アルカリ性の水と生卵黄とが混ざり合うまで攪拌し、この攪拌した混合物に生卵黄の0.9〜1.1倍の重量に相当する糖質を加えた後、これを1〜10気圧の条件下において、80〜90℃の範囲に保ちながら少なくとも1時間以上攪拌して製造したペースト状の物質を、可撓性を有する袋内に封入してなるものである。
【0012】
尚、本実施形態においては、袋内に封入するペースト状の物質として、特許第4185040号公報に記載されている製造方法によって製造されたもの(食品添加用の乳化剤)を用いる。また、当該ペースト状物質の製造に際しては、「pH12〜13を示すアルカリ性の水」として、特開平8−24865号公報に記載されている方法によって製造されたものを用いることが好ましい。
【0013】
本発明に係る保冷保温用蓄熱剤パックは、予め冷凍庫内に所定時間以上保管し、冷却しておくことによって、保冷剤パックとして使用することができるほか、湯煎等によって予め加熱しておくことによって、保温剤パックとして使用することができる。以下、本発明を保冷剤パックとして使用する場合の実施例(実施例1)と、保温剤パックとして使用する場合の実施例(実施例2)について、それぞれ説明する。
【実施例1】
【0014】
最初に、本発明に係る保冷保温用蓄熱剤パックに使用するペースト状の物質の製造方法の一例について説明する。まず、pH12.5を示すアルカリ性の水200gと、生卵黄1000gを用意し、これらを容器に入れて混合し、この混合物を20〜30℃の範囲に保ちながら攪拌する。そして、この混合物を攪拌しながら、ショ糖1000gを少しずつ加えていく。ショ糖を加えた混合物を、耐圧容器に入れ、5気圧の条件下において、温度を85℃に保ちながら、80分間攪拌する。その後、これを網で漉すと、卵黄成分が半変性状態となっているペースト状の物質が得られる。
【0015】
このようにして製造したペースト状の物質を、可撓性を有する袋(例えば、ビニール袋、ポリエチレン製の袋など)に充填し、密封して、保冷保温用蓄熱剤パックとする。尚、ここでは、添加する糖質として、ショ糖を使用しているが、これには限定されず、ブドウ糖、トレハロース等を使用することもできる。
【0016】
この保冷保温用蓄熱剤パックを保冷剤パックとして使用する場合、−5〜−30℃に設定した冷凍庫内で所定時間(少なくとも1時間以上)冷却した後、取り出して用いる。
【0017】
ここで、本発明に係る保冷保温用蓄熱剤パックを保冷剤パックとして使用する場合の具体例と、その効果について説明する。この保冷保温用蓄熱剤パックは、従来の保冷剤パックと同様に、生鮮食品を保冷容器(発泡スチロール製の容器、クーラーボックス等)に収容する場合に同梱する。このとき、本発明に係る保冷保温用蓄熱剤パックは、−30℃まで冷却した場合でも可撓性を有しているため、保冷容器内に十分なスペースを確保できないような場合であっても(例えば、保冷剤パックが硬く凍結している場合には、保冷容器と生鮮食品との隙間に挿入できないような場合であっても)、隙間の形状に対応して適宜変形させることができるため、挿入できる可能性が高くなる。より長く保冷効果を持続させるには、より大きな保冷剤パックを使用することが必要となるが、使用する保冷剤パックが大きくなればなるほど、保冷容器に収納できなくなるという問題は顕著となる。従って、本発明に係る保冷保温用蓄熱剤パックにおいて期待できる効果も、より大きなサイズの保冷剤パックが求められるにつれて、より顕著となる。
【0018】
また、本発明に係る保冷保温用蓄熱剤パックを、円筒形の缶やビンに収容されている食品や飲物の保冷に使用する場合には、それらの缶やビンの外周面に沿って保冷保温用蓄熱剤パックを適宜変形させることにより、対象面に追随、密着させることができるので、より高い保冷効果が期待できる。例えば、近年では、断熱性の高い材料を用いて、丁度1本のペットボトルを収容できるような形状及び寸法に形成されたペットボトル専用保冷バッグが市場に供給されているが、本発明に係る保冷保温用蓄熱剤パックは、ペットボトルとその専用保冷バッグとの間に簡単に挿入することができるので、かかる保冷バッグと組み合わせることにより、より効果的な保冷手段として好適に利用することができる。
【0019】
更に、本発明に係る保冷保温用蓄熱剤パックは、人体或いは愛玩動物に冷涼感を与え、クールダウンを図るための手段としても利用することができる。例えば、ベスト、ベルト、帽子、鉢巻き、ヘルメット等にポケットを形成し、十分に冷却した保冷保温用蓄熱剤パックをそれらのポケット内に収容することにより、炎天下、或いは、その他の厳しい温度条件下に晒される作業者等の体温を好適に下げ、冷涼感を与えることができる。
【0020】
このように保冷剤パックとして使用する場合、何度でも繰り返して使用することができる。また、封入されているペースト状物質は食用可能であるため、幼児、愛玩動物を対象として使用する場合であっても、安全であり、安心して利用することができる。
【0021】
次に、本発明に係る保冷保温用蓄熱剤パックの保冷効果について、本発明の発明者が行った試験結果について説明する。まず、上記方法によって製造したペースト状物質500gをビニール袋内に封入したもの(実施例A)と、同ペースト状物質100gをビニール袋内に封入したもの(実施例B)を用意し、実施例Aについては−10℃まで、実施例Bについては−4℃まで冷却し、それぞれ気温28℃に保たれた室内に放置し、単位時間(10分)毎に温度を測定し、経時的な温度変化を調べた。その結果を次表に示す。
【0022】
【表1】

【0023】
保冷剤パックを、作業者や愛玩動物等の体温を好適に下げ、冷涼感を与える用途に用いる場合、保冷剤パックの温度が23℃程度であれば、効果がある(熱の籠もりを解消し、冷涼感を人体或いは愛玩動物に与えることができる)ということがわかっており、上記測定結果から、500gのペースト状物質を封入した実施例Aについては、−10℃まで冷却すれば、室温28℃という比較的高い温度条件の空間で使用した場合でも、100分程は、効果が持続するということがわかった。また、100gのペースト状物質を封入した実施例Bについては、−4℃まで冷却した場合、60分程は、効果が持続するということがわかった。
【0024】
更に、実施例Aについては−23.9℃まで、実施例Bについては−21.4℃まで冷却し、それぞれ気温23℃に保たれた室内に放置し、単位時間(5分)毎に温度を測定し、経時的な温度変化を調べた。その結果を次表に示す。
【0025】
【表2】

【0026】
保冷剤パックを、生鮮食品等の保冷に用いる場合、保冷剤パックの温度が10℃以下であることが望まれるが、上記測定結果から、500gのペースト状物質を封入した実施例Aについては、−23.9℃まで冷却すれば、室温23℃という温度条件の空間で使用した場合でも、少なくとも60分以上、十分な保冷効果が持続することがわかった。従って、クーラーボックス等の保冷容器に収容した場合には、より長時間に亘って保冷効果を持続させることができると考えられる。そうしてみると、本発明に係る保冷保温用蓄熱剤パックは、生鮮食品等の保冷に用いられる業務用の保冷剤パックとしても十分に使用できる、ということになる。一方、100gのペースト状物質を封入した実施例Bについては、−21.4℃まで冷却し、室温23℃という温度条件の空間で使用した場合には、25分経過前に10℃を超えてしまったため、単独で使用する場合には、生鮮食品保冷用の業務用保冷剤パックとしては、十分な保冷効果を期待できるとは必ずしも言い難いが、実施例Aとの組み合わせにおいて使用する場合には、それなりに効果を期待できる。
【0027】
次に、本発明に係る保冷保温用蓄熱剤パックが、−30℃という低温度条件下で凍結せず、可撓性を有する、という特性を有していることに関し、本発明の発明者が行った試験結果について説明する。まず、上記実施例Aと、市販されている一般的な保冷剤パック(比較例)を用意して、これらを冷却した場合の弾力(直径1.6cmのプランジャーを対象物の表面から内側へ1mm進入させたときにかかる応力)を、レオメーター(弾力測定器)により測定した。また、参考のため、冷却前の実施例A及び比較例(25℃の室内において1時間放置したもの)についても、弾力を測定した。その結果を次表に示す。尚、冷却は、実施例A及び比較例を、次表の温度の欄に示されている室温に設定された冷凍庫内で1時間保管することによって行った。
【0028】
【表3】

【0029】
この試験結果より、本発明の実施例Aについては、−30℃の冷凍庫に1時間保管しても、なお弾力を有しており、凍結せず、可撓性を有していることが実証された。一方、比較例については、−30℃の冷凍庫に1時間保管すると完全に凍結してしまい、使用したレオメーターの最大荷重(1kg)をかけても、プランジャーを表面から内側へ進入させることができず、弾力を測定することができなかった。−20℃の場合も同様であった。
【実施例2】
【0030】
本発明に係る保冷保温用蓄熱剤パックを保温剤パックとして利用する場合、例えば、湯煎によって暖めておき、これを着衣のポケット等に収容することにより、懐炉として使用することができる。また、温めた保冷保温用蓄熱剤パックを弁当箱に貼着し、包装材によって包んでおくことにより、弁当を一定時間保温することができる。このように保温剤パックとして使用する場合も、何度でも繰り返して使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
pH12〜13を示すアルカリ性の水と、当該アルカリ性の水の4.5〜5.5倍の重量に相当する生卵黄とを混合し、この混合物の温度を20〜30℃の範囲に保ちながら前記アルカリ性の水と前記生卵黄とが混ざり合うまで攪拌し、この攪拌した混合物に前記生卵黄の0.9〜1.1倍の重量に相当する糖質を加えた後、これを1〜10気圧の条件下において、80〜90℃の範囲に保ちながら少なくとも1時間以上攪拌して製造したペースト状の物質を、可撓性を有する袋内に封入したことを特徴とする保冷保温用蓄熱剤パック。

【公開番号】特開2011−46867(P2011−46867A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−198152(P2009−198152)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【出願人】(591087703)株式会社アロンワールド (13)
【出願人】(509098331)株式会社 常陽産業 (2)
【Fターム(参考)】