保存安定性に優れた核酸増幅検出試薬キット
【課題】凍結融解を繰り返すことなく増幅検出反応液の調製が可能であり、かつ試薬性能を長期間保持することのできる試薬を提供する。
【解決手段】PCRによる核酸増幅検出反応に用いる核酸増幅検出試薬を、2以上の液状組成物で構成し、DNAポリメラーゼと、マグネシウムイオンおよびオリゴヌクレオチドプライマーとを、別の液状組成物中に配合することにより、保存安定性を向上させる。
【解決手段】PCRによる核酸増幅検出反応に用いる核酸増幅検出試薬を、2以上の液状組成物で構成し、DNAポリメラーゼと、マグネシウムイオンおよびオリゴヌクレオチドプライマーとを、別の液状組成物中に配合することにより、保存安定性を向上させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PCRによる核酸増幅検出反応において使用される試薬の性能を長期間の保存においても維持する方法及びキットに関する。
【背景技術】
【0002】
PCRによる核酸増幅検出反応は、多くの異なる試薬を必要とする。主な試薬には、核酸増幅酵素、例えば、DNAポリメラーゼ、ヌクレオシド三リン酸、標的核酸に対して相補的であるオリゴヌクレオチドプライマー、マグネシウムイオン及び他の緩衝液が含まれる。さらに増幅産物を検出するための色素標識されたオリゴヌクレオチドプローブ、DNA結合色素、例えば、SYBR GreenI(商標登録)も核酸増幅検出反応に必要な試薬である。
これらの試薬の中には周囲温度、圧力及び湿度条件によっては安定でないものがある。そこで従来は、不安定な試薬については予め別々の容器に入れて−20℃以下で保存しておき、核酸増幅検出反応を行う際に、従事者が保存されている各試薬を取り出して、最適な方法にて慎重に反応液を調製していた。このような反応液の調製は、遺伝子工学や分子生物学が専門の研究者にとっては、とりわけ特別な操作ではなかった。
【0003】
ところが、最近の核酸増幅検出技術の進歩によって、遺伝子検査は従来の検査法よりも感度が高いことを理由に、感染症など様々な分野に応用されるようになってきた。これらの分野においては、たとえば、病院の検査技師が臨床診断に利用する時など、試薬を扱うのは必ずしも遺伝子に取り扱いに慣れた専門家ではなく、また、高度な専門知識を有する者でもないことが多い。
このような場合、複雑な操作なく取り扱える、自動化装置で分注しやすい等、簡便な取り扱いが可能な試薬形態が望まれる。さらに、一般に検査に用いる試薬の場合、凍結保存されている試薬を解凍して使用するよりも液状で保存されている試薬の方が、解凍の手間や時間が省けるため好まれる。
【0004】
このような要望を満たす試薬を供給するために、まず考えられることは、核酸増幅検出反応に必要な試薬を全て混合することによって使用しやすくすることだが、液状の試薬を常温で保存した場合は、極端に試薬の性能が低下することが知られている。
また、−20℃の凍結保存であっても、DNAポリメラーゼの反応開始基質であるオリゴヌクレオチドプライマーが含まれると、非特異反応の増加によって試薬の性能が低下することがあった。
【0005】
このような試薬混合における性能の低下を防ぐために、従来から主要な増幅試薬の1つを除去し、増幅直前にこれを添加することによって、反応混合物を安定化するための方法が数多く報告されている。
例えば、Kaijalainenら(非特許文献1)は、増幅混合物が加熱され、ワックスが融解するにつれて、増幅混合物の残りの中にプライマーが放出されるように、ワックスビーズ内にプライマーを乾燥および包埋することによって、PCR反応混合物を安定化する方法を開示する。
また、Blairら(非特許文献2)は、熱に不安定な試薬を含むPCR試薬をワックスと共に固化し、オリゴヌクレオチドプライマーまたは熱に安定な酵素のいずれかを増幅直前に溶液として添加する方法を開示している。
しかしながら、これらの方法では、非研究室環境で反応が行われる場合において、熟練していない作業者が、増幅の前に正しい量で重要な試薬を添加することが必要である。さらに、これらの混合物では誤ったプライミング現象が発生し、非特異産物が生じる可能性があった。
【0006】
反応混合物からマグネシウムイオンを除去することによって、増幅用試薬を安定化することも報告されている。これは、マグネシウムの非存在下で、DNAポリメラーゼが不活性であるという利点を有している。
例えば、特許文献1では、2つのサブセット(第一のサブセットは、マグネシウムを含み、第二のサブセットは全ての他の試薬を含む。)として試薬を調合する方法、または必要に応じて界面活性剤を含むワックス/グリースの層によって反応容器内でサブセットを分離する方法を開示している。ワックス/グリースの層を用いる方法は反応時にワックス/グリースを溶かして試薬を混合してワックス/グリース層を分離しているが、容器中での液温ムラができやすいという問題があった。
【0007】
一方、特許文献2は、上昇した温度で溶解可能な沈殿として、必要に応じてホスフェートイオン源とともに、マグネシウムを封鎖すること、試薬の残りを添加すること、およびPCR反応を開始したときに、試薬を混合させることを開示している。DNAポリメラーゼは、オリゴヌクレオチドプライマーの存在下で保存されるので、反応混合物はマグネシウムを一切含まないことが重要である。そのためマグネシウムイオンが全く存在しないようにするために、キレート剤などのマグネシウムイオン封鎖物質が添加される。しかしながら、このような系では試薬が保存中に完全には安定化されず、非特異産物が生じることが確認されている。核酸増幅反応における試薬の保存安定化のために、さらに改善された方法を開発することが求められている。
【0008】
特許文献3は、等温増幅法のための試薬の保存安定化方法が示されている。キメラオリゴヌクレオチドプライマーを用いた試薬で、酵素とマグネシウムを取り上げ、酵素とマグネシウムを混合して保存し、キメラオリゴヌクレオチドを別に保存しておくことで試薬の保存安定性を維持している。しかしながら、30℃で最長32日間保存したときの試薬の安定性を定性的にしか見ておらず、長期間保存安定性を保っているかは明示されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第5,411,876号
【特許文献2】米国特許第6,403,341号
【特許文献3】WO2002/101042
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Nucleic Acids Research,1993,Vol 21,pp2959−2960
【非特許文献2】PCR Methods and Applications,1994,Vol 4,ppl91−194
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、臨床診断における遺伝子検査に使用するPCRによる核酸増幅検出試薬の性能を維持するための試薬を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意検討した結果、PCRによる核酸増幅検出反応に必要な試薬を2つの容器に分け、その主要成分のうちこれまで不安定になると考えられていたオリゴヌクレオチドプライマーとマグネシウムイオンを混合して保存することによって、煩雑な手法を用いずにDNAポリメラーゼを安定化する方法を見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は以下のような構成からなる。
【0013】
[項1]
以下の(1)〜(2)の特徴を有する、PCRによる核酸増幅検出反応に用いる核酸増幅検出試薬の保存安定性を向上させる方法。
(1)該試薬が2以上の液状組成物から構成され、該試薬を使用する際に、当該2以上の液状組成物をすべて混合することにより反応液が調製される。
(2)該試薬には、DNAポリメラーゼと、マグネシウムイオンおよびオリゴヌクレオチドプライマーとが、別な液状組成物中に配合されている。
[項2]
DNAポリメラーゼを含む液状組成物にdNTPsを含む、項1に記載の、核酸増幅検出試薬の保存安定性を向上させる方法。
[項3]
dNTPsが50mM以上500mM以下の濃度である、項2に記載の、核酸増幅検出試薬の保存安定性を向上させる方法。
[項4]
DNAポリメラーゼを含む液状組成物に、さらにウシ血清アルブミンを含む、項1〜3のいずれかに記載の、核酸増幅検出試薬の保存安定性を向上させる方法。
[項5]
ウシ血清アルブミンが0.05〜0.5%(w/v)の濃度である、項4に記載の、核酸増幅検出試薬の保存安定性を向上させる方法。
[項6]
DNAポリメラーゼを含む液状組成物に、さらに緩衝液を含んでなる、項1〜5のいずれかに記載の、核酸増幅検出試薬の保存安定性を向上させる方法。
[項7]
マグネシウムイオンを含む液状組成物に、さらに緩衝液を含んでなる、項1〜6のいずれかに記載の、核酸増幅検出試薬の保存安定性を向上させる方法。
[項8]
DNAポリメラーゼが、KOD DNAポリメラーゼ(Thermococcus kodakaraensis KOD1由来)またはその変異体である、項1〜7のいずれかに記載の、核酸増幅検出試薬の保存安定性を向上させる方法。
[項9]
以下の(1)〜(2)の特徴を有する、PCRによる核酸増幅検出反応に用いるキット。
(1)該キットが2以上の液状組成物から構成され、該キットを使用する際に、当該2以上の液状組成物をすべて混合することにより反応液が調製される。
(2)該キットは、DNAポリメラーゼと、マグネシウムイオンおよびオリゴヌクレオチドプライマーとが、別な液状組成物中に配合されている。
[項10]
液状組成物(a)にdNTPsを含む、項9に記載の核酸増幅検出キット。
[項11]
dNTPsが50mM以上500mM以下の濃度である、項10に記載の核酸増幅検出キット。
[項12]
液状組成物(a)に、さらにウシ血清アルブミンを含む、項9〜11のいずれかに記載の核酸増幅検出キット。
[項13]
ウシ血清アルブミンが0.05〜0.5%(w/v)の濃度であることを特徴とする項12に記載の核酸増幅検出試薬キット。
[項14]
液状組成物(a)に、さらに緩衝液を含んでなる、項9〜13のいずれかに記載の核酸増幅検出キット。
[項15]
液状組成物(b)に、さらに緩衝液を含んでなる、項9〜14のいずれかに記載の核酸増幅検出キット。
[項16]
DNAポリメラーゼが、KOD DNAポリメラーゼ(Thermococcus kodakaraensis KOD1由来)またはその変異体である、項9〜15のいずれかに記載の核酸増幅検出キット。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、臨床診断においてPCRによる核酸増幅検出反応が簡便、迅速に行うことができる。具体的には、凍結せずに保存するため凍結融解を繰り返すことなく増幅検出反応液の調製が可能であり、かつ試薬性能を長期間保持することのできる試薬を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】温度変化における消光プローブの蛍光変化解析結果を示す図である。
【図2】温度変化における消光プローブの蛍光変化量を表す検出ピークを示す図である。
【図3】Aの試薬形態で、35℃で保存した時の解離蛍光値、測定値、補正値の推移を示す図である。
【図4】Bの試薬形態で、35℃で保存した時の解離蛍光値、測定値、補正値の推移を示す図である。
【図5】Cの試薬形態で、35℃で保存した時の解離蛍光値、測定値、補正値の推移を示す図である。
【図6】Dの試薬形態で、35℃で保存した時の解離蛍光値、測定値、補正値の推移を示す図である。
【図7】Eの試薬形態で、35℃で保存した時の解離蛍光値、測定値、補正値の推移を示す図である。
【図8】Fの試薬形態で、35℃で保存した時の解離蛍光値、測定値、補正値の推移を示す図である。
【図9】Cの試薬形態で、8℃で保存した時の解離蛍光値、測定値、補正値の推移を示す図である。
【図10】Fの試薬形態で、8℃で保存した時の解離蛍光値、測定値、補正値の推移を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
核酸増幅検出試薬の保存安定性を向上させる方法
本発明の実施形態の一つは、以下の(1)〜(2)の特徴を有する、PCRによる核酸増幅検出反応に用いる核酸増幅検出試薬の保存安定性を向上させる方法である。
(1)該試薬が2以上の液状組成物から構成され、該試薬を使用する際に、当該2以上の組成物をすべて混合することにより反応液が調製される。
(2)該試薬には、DNAポリメラーゼと、マグネシウムイオンおよびオリゴヌクレオチドプライマーとが、別な液状組成物中に配合されている。
【0017】
PCRによる核酸増幅反応を行う試薬は通常研究に用いる場合、−20℃以下で凍結保存されていることが多い。使用する場合は室温で融解した後必要量を分取し、その後は再び凍結にて保存されている。凍結して保存するとこのような室温解凍を使用時に行う必要があり、迅速かつ簡便な臨床検査には適さない。本発明では迅速かつ簡便に使用できるように凍結融解を行わずに使用できる試薬を前提としている。0℃〜40℃は凍結融解なしに核酸増幅試薬を使用できる温度であり、試薬が凍結しない温度である。
【0018】
PCRによる核酸増幅反応は、多くの異なる試薬を必要とする。主な試薬成分には、DNAポリメラーゼのような増幅酵素、反応の基質となるヌクレオシド三リン酸(dNTPs)、反応を開始するための標的物質に対して相補的なオリゴヌクレオチドプライマー、酵素を活性化させるマグネシウムイオン、及び他の緩衝液が含まれる。さらに、リアルタイムPCRまたは増幅後に検出が必要な場合では、色素標識されたオリゴヌクレオチドプローブ、SYBR Green I(商標登録)などのDNA結合色素、および内部対照核酸を含む。
【0019】
これらの試薬成分の中には特定の成分と混合して保存することで、増幅酵素の活性が低下したり、オリゴヌクレオチドプライマー、オリゴヌクレオチドプローブが加水分解したり、オリゴヌクレオチドプローブに標識された蛍光色素やDNA結合色素が劣化したりする組み合わせが存在する。
例えば、マグネシウムイオンとDNAポリメラーゼを混合して保存するとDNAポリメラーゼの活性が低下することが一般的に知られている。DNAポリメラーゼと反応開始剤となるオリゴヌクレオチドプライマーを混合して保存しても非特異産物ができることで特異的な反応ができなくなることも知られている。また、二価の金属イオンとオリゴヌクレオチドを混合すると、溶液中に微量に存在するDNaseが活性化されてオリゴヌクレオチドが加水分解されやすくなることも知られている。
【0020】
本願でいう安定性とは、広義では増幅反応試薬の増幅性能が維持されることを意味し、具体的にはDNAポリメラーゼの活性が維持され、かつ、オリゴヌクレオチドプライマーが加水分解されずに配列が維持されることを言う。
【0021】
一般的に増幅試薬の性能は主にDNAポリメラーゼの活性とオリゴヌクレオチドプライマーの性能に大きく左右されている。増幅試薬の性能を維持する保存安定化方法についてはこの2種類の試薬成分をいかに安定的に保存するかが決め手となる。
DNAポリメラーゼは活性を抑えた状態で保存することが安定化につながる。そのためには、DNAポリメラーゼの活性をおさえるための方法を施せばよく、そのような方法としては特に限定されないが、抗DNAポリメラーゼ抗体を用いる方法、アプタマーを用いる方法、BSAを使用する方法を併用することが好ましい。さらにできるだけ低温で保存する方法やDNAポリメラーゼを凍結乾燥する方法なども組み合わせて使用できる。
オリゴヌクレオチドプライマーは加水分解されることによって顕著な性能低下を引き起こす。特に3‘末端が加水分解によって短くなると二本鎖結合能が大きく変化し、配列特異的な結合ができなくなる可能性がある。この加水分解はDNaseが働ことで生じるため、DNaseの混入を防ぐあるいはDNaseの活性をおさえることがオリゴヌクレオチドプライマーの安定化に必要である。
【0022】
増幅試薬を安定的に保存するためにはDNAポリメラーゼの活性とオリゴヌクレオチドプライマーの性能を保てればよく、両立させることができれば最適である。しかしながらこれらの増幅試薬の主成分を2つの容器に分ける場合、DNAポリメラーゼを活性化するマグネシウムイオンは同時にDNaseの活性化因子でもあるため両立は困難である。この両者のバランスを最適なものにするために、マグネシウムイオンとオリゴヌクレオチドプライマーを混合し、DNaseをできる限り除去した溶液を調製して保存することが好ましい。
【0023】
通常専門家でない者が使用する場合は、操作を簡便にするために試薬成分をできるだけ混合した状態で保存することが良く、例えば4つに分けて保存することが好ましく、3つに分けて保存することはより好ましい。2つに分けて保存することはさらに好ましい保存方法である。核酸増幅反応に必要な全ての試薬を混合して保存することは、上述した通り活性が低下することがわかっているため、本発明には適さない。
【0024】
DNAポリメラーゼ
DNAポリメラーゼは一般的に核酸増幅反応に使用できるものであればよく、現在知られているDNAポリメラーゼ(単独あるいは組み合わせ)としてのTaq DNAポリメラーゼや,EX−Taq,LA−Taq,Expandシリーズ,Plutinumシリーズ,Tbr,Tfl,Tru,Tth,T1i,Tac,Tne,Tma,Tih、Tfi(以上はPolI型酵素),Pfu,Pfutubo,Pyrobest(登録商標),Pwo,KOD,Bst,Sac,Sso,Poc,Pab,Mth,Pho,ES4,VENT,DEEPVENT(以上はα型酵素)などが挙げられる。
天然型のDNAポリメラーゼのアミノ酸配列を公知の手段により、1もしくは数個が欠失、置換若しくは付加させたもの(変異体)であっても良い。あるいは、上記の酵素(天然型、もしくは変異体)に化学修飾などの手段によりさらに改変を加えたものであっても良い。
例えば、最も一般的であるTaqポリメラーゼやKOD DNAポリメラーゼを用いることができる。KOD DNAポリメラーゼは、東洋紡績製(製品コード:KOD−101など)より容易に入手することができる。
【0025】
DNAポリメラーゼはさらに、5’エキソヌクレアーゼ活性を持たないことが好ましい。本発明では、標識プローブからの蛍光変化量を標的核酸の検出に利用することがある。そのため、高速PCR工程中で第一のプライマーによる伸長産物に対して標識プローブ及び第二のプライマーがハイブリダイゼーションしている場合に、5’エキソヌクレアーゼ活性を持つDNAポリメラーゼ、例えばTaq DNAポリメラーゼでは標識プローブを分解し、非特異シグナルの増加を伴う。5’エキソヌクレアーゼ活性を持たないDNAポリメラーゼは特に限定はされないが、KOD DNAポリメラーゼが好ましい。
【0026】
dNTPs
dNTPsは、dATP、dTTP、dCTP、dGTPの混合物であり、核酸増幅反応の基質物質である。4つの化合物をそれぞれ等量ずつ混合することが好ましい。凍結保存しない環境下では、dNTPsはDNAポリメラーゼを含む溶液中に含むことが好ましい。dNTPsの濃度は特に限定されるものではないが、50mM以上500mM以下が好ましい。これらは種々市販されている。
【0027】
ウシ血清アルブミン
ウシ血清アルブミン(BSAとも記載)の濃度は特に限定されるものではないが、0.05〜0.5%(w/v)が好ましい。これらは種々市販されている。
【0028】
マグネシウムイオン
本発明において、マグネシウム塩とは水性溶媒中にマグネシウムイオンが放出されるような形態でマグネシウムを含有するあらゆる物質を表す。マグネシウム塩には、塩化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウムおよび硫酸マグネシウム等が例示されるが、これらに限定されるものではない。特に、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウムが好ましい。
マグネシウムイオンは、通常マグネシウム塩の状態の化合物を利用する。
【0029】
マグネシウムイオンの濃度は、特に限定されないが1mMから8mMの最終反応用液の濃度となるように調整されることが好ましい。
最終濃度1mMから8mMとは核酸増幅反応に使用する好適なマグネシウム濃度を示しており、試薬の保存に際しては、最終的に他の試薬混合液と混合するためさらに高い濃度で保存されている。例えば全量50μLの核酸増幅反応系であって、12.5μLのDNAポリメラーゼ含有混合物と12.5μLのマグネシウム含有混合物を加える場合は、最終液量が4倍となるため保存中のマグネシウムイオン濃度は4mMから32mMが好ましい。濃縮倍率は2試薬を混合する場合、2倍から10倍が適した範囲であり、好ましくは2倍から8倍、更に好ましくは3倍から5倍で保存することが好ましい。このような濃縮倍率を考慮した時のマグネシウムイオン濃度は特に限定はしないが2mMから40mMが好ましい。より好ましくは、3mMから40mMである。2mM未満の場合、例えば5倍濃縮では0.4mM未満のマグネシウムイオン濃度となってしまうため、DNAポリメラーゼが活性化されずにPCR増幅が起こらない可能性がある。また、40mMを超えると溶解するマグネシウム塩の濃度が高すぎるため調製が難しい。
【0030】
このほか、本発明の方法においては、反応に影響を及ぼさない範囲で緩衝液、アミノ酸またはタンパク質、糖類、還元剤多価アルコールなどを必要により適宜各液状組成物に配してもよい。
緩衝液としては特に限定されるものではないが、トリスやヘペスなどのグッドバッファーおよび、リン酸緩衝液などが用いられるが、具体的には、10〜200mMの各種バッファー(pH7.5〜9(25℃))が例示できる。好ましくはトリス緩衝液である。好ましい緩衝pH範囲は7〜9である。
アミノ酸又はタンパク質としては、グルタミン酸ソーダ、アルブミン、スキムミルク等、糖としてはシュクロース、マルトース等、還元剤としてはグルタチオン、メルカプトエタノール等、多価アルコールとしてはグリセロール、ソルビトールなどが含まれていても良い。
また、界面活性剤などが含まれていても良い。界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤がよく、好ましくTritonX−100、Tween20、Nonidet P40などが例示される。界面活性剤は、反応段階、すなわち、ポリメラーゼ反応時に、0.0001〜1%になるように含まれていてもよく、好ましくは0.001〜0.1%がよい。
【0031】
一方、DNAポリメラーゼを含む混合液の濃度は、できる限り濃度の高い状態での保存が好ましいが、混合時の操作の簡便性を考慮すると、濃縮倍率が2倍から10倍の範囲、好ましくは2倍から8倍、更に好ましくは3倍から5倍で保存することが好ましい。
【0032】
核酸増幅検出反応に用いるキット
本発明の実施形態の一つは、以下の(1)〜(2)の特徴を有する、PCRによる核酸増幅検出反応に用いるキットである。
(1)該試薬が2以上の液状組成物から構成され、該試薬を使用する際に、当該2以上の液状組成物をすべて混合することにより反応液が調製される。
(2)該試薬には、DNAポリメラーゼと、マグネシウムイオンおよびオリゴヌクレオチドプライマーとが、別な液状組成物中に配合されている。
【0033】
本発明のキットにおける各液状組成物の調製方法は特に限定されるものではないが、上述の方法が例示できる。
【0034】
以下、実施例に基づき、本発明をより具体的に説明する。もっとも、本発明は、下記実施例に特に限定されるものではない。
【実施例1】
【0035】
(検体の採取)
胃生検材料より、遺伝子をQIAamp(登録商標) DNA micro Kit(Qiagen製)を用いて抽出した。抽出されたDNAは−20℃で保存した。
【0036】
(テンプレートプラスミドの調製)
1μLの抽出されたDNA溶液を鋳型として用い、PCRを実施した。ここで使用したプライマーペアは、ピロリ菌23SrRNA遺伝子を全長増幅できるプライマーを使用した。いずれもピロリ菌の23SrRNA遺伝子(GenBank accession number U27270)の公知の配列から設計した。
【0037】
PCRは、サーマルサイクラーとしてGeneAmp(登録商標)9700(Applied Biosystems製)を使用し、全量を26μLとして実施した。1μLのDNA溶液と試薬混合物(KOD−plus 0.5U、10XPCR緩衝液2.5μL、200μMのdNTPs、各々5μMのプライマー)を混合した。標的DNAの初期変性を94℃で2分間行った後、94℃・15秒の変性工程、60℃・30秒のアニーリング工程、68℃・60秒の伸長工程のサイクルを35回繰り返した。なお、その他のPCR条件は常法通りである(例えば、遺伝子操作技術マニュアル、医学書院、1995年発行を参照)。得られた核酸断片を制限酵素によって平滑末端切断されたpUC18へライゲーションし、コンピテントセルJM109を用いて形質転換体の取得を行なった。目的核酸断片が挿入された形質転換体を液体培養しプラスミドを抽出した。
【0038】
得られたプラスミドの核酸配列をオートシークエンサーにより解析し、ピロリ菌の23S rRNA遺伝子野生型の塩基配列を有するプラスミドを得た。以下、野生型をWTと示す。
【0039】
(プライマー及び標識プローブの合成)
検出に使用するプライマー及び標識プローブは核酸合成受託会社に依頼した。
【0040】
使用した標識プローブ及びプライマーの塩基配列は配列表に示す通りである。
標識プローブは配列番号1に示す16塩基の配列、プライマーFは配列番号2に示す25塩基の配列、プライマーRは配列番号3に示す26塩基の配列である。
【0041】
(野生型ピロリ菌の検出)
表1には、全量10μLで各試薬を要時調製により調製した反応組成を示す。核酸増幅には、東洋紡績製のKOD−plus−を利用したPCR法を用いた。検出には蛍光標識されたプローブが標的核酸とハイブリダイゼーションした時に消光するQProbe法(Fluorescent quenching−based quantitative detection of specific DNA/RNA using a BODIPY FL−labeled probe or primer, Nucleic Acids Research, 2001, Vol. 29, No.6, e34)を利用した。表1の組成をもとにした反応組成の最適化は同業者であれば容易に行える。プラスミドDNA量は全量10μLの系で約1000コピー含まれるように調製した。PCR増幅時の反応条件は表2の通りである。増幅及び蛍光の測定にはロシュ・ダイアグノスティック製ライトサイクラー(登録商標)を使用した。測定モードは530nmを利用した。以下、特に記載がない場合は、全てライトサイクラー(登録商標)での測定とする。融解曲線解析においては標識プローブが標的核酸から解離する時の蛍光量の増加を検出している。ライトサイクラーソフトウェアの解析により、図1および図2の解析結果が得られた。図1の縦軸は蛍光強度を、横軸は温度(℃)を示している。図2の縦軸は蛍光強度の一次導関数の逆符号の値(−dF/dt)で蛍光の変化量を、横軸は温度(℃)を示している。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
解析の結果、図1では融解曲線解析における標識プローブの蛍光変化が示されている。75℃の時の蛍光値は標識プローブが標的核酸から解離した時の蛍光値である。解離蛍光値は水をテンプレートに使用したときの40℃における蛍光値を示し、標識プローブの蛍光量の基準とすることができる。また、図2では融解曲線解析における標的核酸と標識プローブの解離を示す検出ピークが示されている。検出ピークは標識プローブとハイブリダイゼーションする標的核酸の存在を示している。
【実施例2】
【0045】
(試薬の保存)
35℃保存による増幅検出試薬性能の検討を行った。増幅検出試薬の試薬組成を表1に示す成分量に固定した。増幅検出試薬の主要成分を酵素、dNTPs、マグネシウムイオン、プライマーセット、蛍光標識プローブの5つに分類し、各成分を2つの試薬混合液に分けて保存した。表3に示されるように各成分を組み合わせて3通りの試薬混合液セットを調製した。プローブおよびプライマーは、実施例1に記載の標識プローブ、プライマーFおよびプライマーRを使用した。各試薬混合液は、1.5mLのスクリュー付チューブに入れて、遮光ラックに整理した。保存方法は、35℃保存の場合は三洋電機製INCUBATOR MIR−153に保存し、設定温度を35℃に設定した。8℃保存の場合は三洋電機製INCUBATOR MIR−553に保存し、設定温度を8℃に設定した。使用時には2つの試薬混合液を混ぜてから使用した。
【0046】
【表3】
【0047】
(試薬の測定)
DNAポリメラーゼ混合溶液2.5μL、プライマー混合溶液2.5μL、プラスミドDNA溶液5μLを混合した反応液10μLを調製した。テンプレート量は5μL中に約1000コピー含まれるように調製し、その他は実施例1の方法に従って実施した。35℃保存の試薬には1週間毎に、10週間後まで測定を行った。
【0048】
(データの解析)
ライトサイクラー(商標登録)付属の解析ソフトを利用して図2に示される検出ピークの高さから測定値を算出し、測定値および解離蛍光値から補正値を算出して増幅検出試薬の保存安定性の解析に用いた。解離蛍光値は融解曲線解析の40℃における蛍光値をそのまま用い、蛍光標識プローブの基本となる蛍光値を示している。増幅検出試薬性能の確認方法は測定値の高さで比較できる。測定値は融解曲線解析の蛍光値を微分したグラフで見られる検出ピークの高さの絶対値の10倍の値を用いている。補正値は測定値を蛍光値の減少率で割った値であり、増幅検出試薬の酵素の性能を示している。
【0049】
(結果)
35℃保存試薬の保存安定性の解析結果を図3から図5に示す。図3から図5に示されるように試薬成分の組み合わせをAからCにすると、10週間目の測定結果でも補正値は1.0以上を維持していた。これらの組み合わせによる試薬の保存はDNAポリメラーゼが10週間目でも活性を示していたことから安定性の優れた保存方法であるといえる。さらに、AまたはCの組み合わせの保存方法では10週間目の測定結果でも補正値は1.2以上を維持していた。図4のBの結果から10週目の補正値は1.0と低下していた。図5のCの組み合わせと補正値の低下率(1週間で低下する補正値の割合)で比較すると、Cで約5倍低下率が低く、良好な結果であった。この比較結果から、マグネシウムイオンとDNAポリメラーゼを分ける方法に加え、AやCのようにDNAポリメラーゼとdNTPsとBSAを混合し、マグネシウムおよびプライマーをDNAポリメラーゼとは混合せずに保存する方法は、DNAポリメラーゼをより安定化していることがわかった。AやCの増幅検出試薬の保存方法はより優れたDNAポリメラーゼの保存方法であるといえる。
【比較例1】
【0050】
試薬の保存、試薬の測定、データの解析は実施例2に従って実施した。表4に示されるように5つに分類された増幅検出試薬の主要成分のうち、マグネシウムイオンをDNAポリメラーゼと混合した試薬混合液セット(D)、dNTPsをDNAポリメラーゼと別にした試薬混合液セット(E)および全てを混合した試薬混合液セット(F)を調製した。実施例2と同様に35℃で保存した。図6から図8に35℃で保存した場合の結果を示す。DやEの試薬混合液セットでは10週間目では補正値の値が0となりDNAポリメラーゼが働かなくなった。Fでは4週目で補正値の値が0となり酵素が働かなくなった。
【0051】
【表4】
【実施例3】
【0052】
(8℃保存による増幅検出試薬性能の検討)
試薬の保存、試薬の測定、データの解析は実施例2に従って実施した。表2のBの試薬混合セットおよびCの試薬混合セットを使用した。8℃保存の試薬は1ヶ月ごとに、16ヶ月まで測定を行った。
【0053】
(結果)
8℃保存試薬の保存安定性の解析結果を、図9および図10に示す。図9から試薬成分の組み合わせをCにすると16ヶ月目の測定結果でも補正値は1.3を超えていた。また図10から試薬成分の組み合わせをFにすると、16ヶ月目の測定結果では補正値は0.5以下となっていた。これは増幅検出試薬の性能が顕著に低下していることを示している。35℃保存の結果と同様にCの組み合わせにより保存した増幅検出試薬は冷蔵で16ヶ月間保存しても、性能に変化がないことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明によれば、従来凍結保存により成分ごとに保存されていた核酸増幅検出試薬を冷蔵保存可能な試薬混合液で保存することにより、より簡便、迅速に試薬調製が行うことができる。試薬の調製が簡便なため、核酸増幅技術に専門的な知識を有しない者により行われることの多い臨床診断の場でも容易に核酸増幅検出を利用した遺伝子検査が可能となり、産業界に大きく寄与することが期待される。
【技術分野】
【0001】
本発明は、PCRによる核酸増幅検出反応において使用される試薬の性能を長期間の保存においても維持する方法及びキットに関する。
【背景技術】
【0002】
PCRによる核酸増幅検出反応は、多くの異なる試薬を必要とする。主な試薬には、核酸増幅酵素、例えば、DNAポリメラーゼ、ヌクレオシド三リン酸、標的核酸に対して相補的であるオリゴヌクレオチドプライマー、マグネシウムイオン及び他の緩衝液が含まれる。さらに増幅産物を検出するための色素標識されたオリゴヌクレオチドプローブ、DNA結合色素、例えば、SYBR GreenI(商標登録)も核酸増幅検出反応に必要な試薬である。
これらの試薬の中には周囲温度、圧力及び湿度条件によっては安定でないものがある。そこで従来は、不安定な試薬については予め別々の容器に入れて−20℃以下で保存しておき、核酸増幅検出反応を行う際に、従事者が保存されている各試薬を取り出して、最適な方法にて慎重に反応液を調製していた。このような反応液の調製は、遺伝子工学や分子生物学が専門の研究者にとっては、とりわけ特別な操作ではなかった。
【0003】
ところが、最近の核酸増幅検出技術の進歩によって、遺伝子検査は従来の検査法よりも感度が高いことを理由に、感染症など様々な分野に応用されるようになってきた。これらの分野においては、たとえば、病院の検査技師が臨床診断に利用する時など、試薬を扱うのは必ずしも遺伝子に取り扱いに慣れた専門家ではなく、また、高度な専門知識を有する者でもないことが多い。
このような場合、複雑な操作なく取り扱える、自動化装置で分注しやすい等、簡便な取り扱いが可能な試薬形態が望まれる。さらに、一般に検査に用いる試薬の場合、凍結保存されている試薬を解凍して使用するよりも液状で保存されている試薬の方が、解凍の手間や時間が省けるため好まれる。
【0004】
このような要望を満たす試薬を供給するために、まず考えられることは、核酸増幅検出反応に必要な試薬を全て混合することによって使用しやすくすることだが、液状の試薬を常温で保存した場合は、極端に試薬の性能が低下することが知られている。
また、−20℃の凍結保存であっても、DNAポリメラーゼの反応開始基質であるオリゴヌクレオチドプライマーが含まれると、非特異反応の増加によって試薬の性能が低下することがあった。
【0005】
このような試薬混合における性能の低下を防ぐために、従来から主要な増幅試薬の1つを除去し、増幅直前にこれを添加することによって、反応混合物を安定化するための方法が数多く報告されている。
例えば、Kaijalainenら(非特許文献1)は、増幅混合物が加熱され、ワックスが融解するにつれて、増幅混合物の残りの中にプライマーが放出されるように、ワックスビーズ内にプライマーを乾燥および包埋することによって、PCR反応混合物を安定化する方法を開示する。
また、Blairら(非特許文献2)は、熱に不安定な試薬を含むPCR試薬をワックスと共に固化し、オリゴヌクレオチドプライマーまたは熱に安定な酵素のいずれかを増幅直前に溶液として添加する方法を開示している。
しかしながら、これらの方法では、非研究室環境で反応が行われる場合において、熟練していない作業者が、増幅の前に正しい量で重要な試薬を添加することが必要である。さらに、これらの混合物では誤ったプライミング現象が発生し、非特異産物が生じる可能性があった。
【0006】
反応混合物からマグネシウムイオンを除去することによって、増幅用試薬を安定化することも報告されている。これは、マグネシウムの非存在下で、DNAポリメラーゼが不活性であるという利点を有している。
例えば、特許文献1では、2つのサブセット(第一のサブセットは、マグネシウムを含み、第二のサブセットは全ての他の試薬を含む。)として試薬を調合する方法、または必要に応じて界面活性剤を含むワックス/グリースの層によって反応容器内でサブセットを分離する方法を開示している。ワックス/グリースの層を用いる方法は反応時にワックス/グリースを溶かして試薬を混合してワックス/グリース層を分離しているが、容器中での液温ムラができやすいという問題があった。
【0007】
一方、特許文献2は、上昇した温度で溶解可能な沈殿として、必要に応じてホスフェートイオン源とともに、マグネシウムを封鎖すること、試薬の残りを添加すること、およびPCR反応を開始したときに、試薬を混合させることを開示している。DNAポリメラーゼは、オリゴヌクレオチドプライマーの存在下で保存されるので、反応混合物はマグネシウムを一切含まないことが重要である。そのためマグネシウムイオンが全く存在しないようにするために、キレート剤などのマグネシウムイオン封鎖物質が添加される。しかしながら、このような系では試薬が保存中に完全には安定化されず、非特異産物が生じることが確認されている。核酸増幅反応における試薬の保存安定化のために、さらに改善された方法を開発することが求められている。
【0008】
特許文献3は、等温増幅法のための試薬の保存安定化方法が示されている。キメラオリゴヌクレオチドプライマーを用いた試薬で、酵素とマグネシウムを取り上げ、酵素とマグネシウムを混合して保存し、キメラオリゴヌクレオチドを別に保存しておくことで試薬の保存安定性を維持している。しかしながら、30℃で最長32日間保存したときの試薬の安定性を定性的にしか見ておらず、長期間保存安定性を保っているかは明示されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第5,411,876号
【特許文献2】米国特許第6,403,341号
【特許文献3】WO2002/101042
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Nucleic Acids Research,1993,Vol 21,pp2959−2960
【非特許文献2】PCR Methods and Applications,1994,Vol 4,ppl91−194
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、臨床診断における遺伝子検査に使用するPCRによる核酸増幅検出試薬の性能を維持するための試薬を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意検討した結果、PCRによる核酸増幅検出反応に必要な試薬を2つの容器に分け、その主要成分のうちこれまで不安定になると考えられていたオリゴヌクレオチドプライマーとマグネシウムイオンを混合して保存することによって、煩雑な手法を用いずにDNAポリメラーゼを安定化する方法を見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は以下のような構成からなる。
【0013】
[項1]
以下の(1)〜(2)の特徴を有する、PCRによる核酸増幅検出反応に用いる核酸増幅検出試薬の保存安定性を向上させる方法。
(1)該試薬が2以上の液状組成物から構成され、該試薬を使用する際に、当該2以上の液状組成物をすべて混合することにより反応液が調製される。
(2)該試薬には、DNAポリメラーゼと、マグネシウムイオンおよびオリゴヌクレオチドプライマーとが、別な液状組成物中に配合されている。
[項2]
DNAポリメラーゼを含む液状組成物にdNTPsを含む、項1に記載の、核酸増幅検出試薬の保存安定性を向上させる方法。
[項3]
dNTPsが50mM以上500mM以下の濃度である、項2に記載の、核酸増幅検出試薬の保存安定性を向上させる方法。
[項4]
DNAポリメラーゼを含む液状組成物に、さらにウシ血清アルブミンを含む、項1〜3のいずれかに記載の、核酸増幅検出試薬の保存安定性を向上させる方法。
[項5]
ウシ血清アルブミンが0.05〜0.5%(w/v)の濃度である、項4に記載の、核酸増幅検出試薬の保存安定性を向上させる方法。
[項6]
DNAポリメラーゼを含む液状組成物に、さらに緩衝液を含んでなる、項1〜5のいずれかに記載の、核酸増幅検出試薬の保存安定性を向上させる方法。
[項7]
マグネシウムイオンを含む液状組成物に、さらに緩衝液を含んでなる、項1〜6のいずれかに記載の、核酸増幅検出試薬の保存安定性を向上させる方法。
[項8]
DNAポリメラーゼが、KOD DNAポリメラーゼ(Thermococcus kodakaraensis KOD1由来)またはその変異体である、項1〜7のいずれかに記載の、核酸増幅検出試薬の保存安定性を向上させる方法。
[項9]
以下の(1)〜(2)の特徴を有する、PCRによる核酸増幅検出反応に用いるキット。
(1)該キットが2以上の液状組成物から構成され、該キットを使用する際に、当該2以上の液状組成物をすべて混合することにより反応液が調製される。
(2)該キットは、DNAポリメラーゼと、マグネシウムイオンおよびオリゴヌクレオチドプライマーとが、別な液状組成物中に配合されている。
[項10]
液状組成物(a)にdNTPsを含む、項9に記載の核酸増幅検出キット。
[項11]
dNTPsが50mM以上500mM以下の濃度である、項10に記載の核酸増幅検出キット。
[項12]
液状組成物(a)に、さらにウシ血清アルブミンを含む、項9〜11のいずれかに記載の核酸増幅検出キット。
[項13]
ウシ血清アルブミンが0.05〜0.5%(w/v)の濃度であることを特徴とする項12に記載の核酸増幅検出試薬キット。
[項14]
液状組成物(a)に、さらに緩衝液を含んでなる、項9〜13のいずれかに記載の核酸増幅検出キット。
[項15]
液状組成物(b)に、さらに緩衝液を含んでなる、項9〜14のいずれかに記載の核酸増幅検出キット。
[項16]
DNAポリメラーゼが、KOD DNAポリメラーゼ(Thermococcus kodakaraensis KOD1由来)またはその変異体である、項9〜15のいずれかに記載の核酸増幅検出キット。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、臨床診断においてPCRによる核酸増幅検出反応が簡便、迅速に行うことができる。具体的には、凍結せずに保存するため凍結融解を繰り返すことなく増幅検出反応液の調製が可能であり、かつ試薬性能を長期間保持することのできる試薬を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】温度変化における消光プローブの蛍光変化解析結果を示す図である。
【図2】温度変化における消光プローブの蛍光変化量を表す検出ピークを示す図である。
【図3】Aの試薬形態で、35℃で保存した時の解離蛍光値、測定値、補正値の推移を示す図である。
【図4】Bの試薬形態で、35℃で保存した時の解離蛍光値、測定値、補正値の推移を示す図である。
【図5】Cの試薬形態で、35℃で保存した時の解離蛍光値、測定値、補正値の推移を示す図である。
【図6】Dの試薬形態で、35℃で保存した時の解離蛍光値、測定値、補正値の推移を示す図である。
【図7】Eの試薬形態で、35℃で保存した時の解離蛍光値、測定値、補正値の推移を示す図である。
【図8】Fの試薬形態で、35℃で保存した時の解離蛍光値、測定値、補正値の推移を示す図である。
【図9】Cの試薬形態で、8℃で保存した時の解離蛍光値、測定値、補正値の推移を示す図である。
【図10】Fの試薬形態で、8℃で保存した時の解離蛍光値、測定値、補正値の推移を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
核酸増幅検出試薬の保存安定性を向上させる方法
本発明の実施形態の一つは、以下の(1)〜(2)の特徴を有する、PCRによる核酸増幅検出反応に用いる核酸増幅検出試薬の保存安定性を向上させる方法である。
(1)該試薬が2以上の液状組成物から構成され、該試薬を使用する際に、当該2以上の組成物をすべて混合することにより反応液が調製される。
(2)該試薬には、DNAポリメラーゼと、マグネシウムイオンおよびオリゴヌクレオチドプライマーとが、別な液状組成物中に配合されている。
【0017】
PCRによる核酸増幅反応を行う試薬は通常研究に用いる場合、−20℃以下で凍結保存されていることが多い。使用する場合は室温で融解した後必要量を分取し、その後は再び凍結にて保存されている。凍結して保存するとこのような室温解凍を使用時に行う必要があり、迅速かつ簡便な臨床検査には適さない。本発明では迅速かつ簡便に使用できるように凍結融解を行わずに使用できる試薬を前提としている。0℃〜40℃は凍結融解なしに核酸増幅試薬を使用できる温度であり、試薬が凍結しない温度である。
【0018】
PCRによる核酸増幅反応は、多くの異なる試薬を必要とする。主な試薬成分には、DNAポリメラーゼのような増幅酵素、反応の基質となるヌクレオシド三リン酸(dNTPs)、反応を開始するための標的物質に対して相補的なオリゴヌクレオチドプライマー、酵素を活性化させるマグネシウムイオン、及び他の緩衝液が含まれる。さらに、リアルタイムPCRまたは増幅後に検出が必要な場合では、色素標識されたオリゴヌクレオチドプローブ、SYBR Green I(商標登録)などのDNA結合色素、および内部対照核酸を含む。
【0019】
これらの試薬成分の中には特定の成分と混合して保存することで、増幅酵素の活性が低下したり、オリゴヌクレオチドプライマー、オリゴヌクレオチドプローブが加水分解したり、オリゴヌクレオチドプローブに標識された蛍光色素やDNA結合色素が劣化したりする組み合わせが存在する。
例えば、マグネシウムイオンとDNAポリメラーゼを混合して保存するとDNAポリメラーゼの活性が低下することが一般的に知られている。DNAポリメラーゼと反応開始剤となるオリゴヌクレオチドプライマーを混合して保存しても非特異産物ができることで特異的な反応ができなくなることも知られている。また、二価の金属イオンとオリゴヌクレオチドを混合すると、溶液中に微量に存在するDNaseが活性化されてオリゴヌクレオチドが加水分解されやすくなることも知られている。
【0020】
本願でいう安定性とは、広義では増幅反応試薬の増幅性能が維持されることを意味し、具体的にはDNAポリメラーゼの活性が維持され、かつ、オリゴヌクレオチドプライマーが加水分解されずに配列が維持されることを言う。
【0021】
一般的に増幅試薬の性能は主にDNAポリメラーゼの活性とオリゴヌクレオチドプライマーの性能に大きく左右されている。増幅試薬の性能を維持する保存安定化方法についてはこの2種類の試薬成分をいかに安定的に保存するかが決め手となる。
DNAポリメラーゼは活性を抑えた状態で保存することが安定化につながる。そのためには、DNAポリメラーゼの活性をおさえるための方法を施せばよく、そのような方法としては特に限定されないが、抗DNAポリメラーゼ抗体を用いる方法、アプタマーを用いる方法、BSAを使用する方法を併用することが好ましい。さらにできるだけ低温で保存する方法やDNAポリメラーゼを凍結乾燥する方法なども組み合わせて使用できる。
オリゴヌクレオチドプライマーは加水分解されることによって顕著な性能低下を引き起こす。特に3‘末端が加水分解によって短くなると二本鎖結合能が大きく変化し、配列特異的な結合ができなくなる可能性がある。この加水分解はDNaseが働ことで生じるため、DNaseの混入を防ぐあるいはDNaseの活性をおさえることがオリゴヌクレオチドプライマーの安定化に必要である。
【0022】
増幅試薬を安定的に保存するためにはDNAポリメラーゼの活性とオリゴヌクレオチドプライマーの性能を保てればよく、両立させることができれば最適である。しかしながらこれらの増幅試薬の主成分を2つの容器に分ける場合、DNAポリメラーゼを活性化するマグネシウムイオンは同時にDNaseの活性化因子でもあるため両立は困難である。この両者のバランスを最適なものにするために、マグネシウムイオンとオリゴヌクレオチドプライマーを混合し、DNaseをできる限り除去した溶液を調製して保存することが好ましい。
【0023】
通常専門家でない者が使用する場合は、操作を簡便にするために試薬成分をできるだけ混合した状態で保存することが良く、例えば4つに分けて保存することが好ましく、3つに分けて保存することはより好ましい。2つに分けて保存することはさらに好ましい保存方法である。核酸増幅反応に必要な全ての試薬を混合して保存することは、上述した通り活性が低下することがわかっているため、本発明には適さない。
【0024】
DNAポリメラーゼ
DNAポリメラーゼは一般的に核酸増幅反応に使用できるものであればよく、現在知られているDNAポリメラーゼ(単独あるいは組み合わせ)としてのTaq DNAポリメラーゼや,EX−Taq,LA−Taq,Expandシリーズ,Plutinumシリーズ,Tbr,Tfl,Tru,Tth,T1i,Tac,Tne,Tma,Tih、Tfi(以上はPolI型酵素),Pfu,Pfutubo,Pyrobest(登録商標),Pwo,KOD,Bst,Sac,Sso,Poc,Pab,Mth,Pho,ES4,VENT,DEEPVENT(以上はα型酵素)などが挙げられる。
天然型のDNAポリメラーゼのアミノ酸配列を公知の手段により、1もしくは数個が欠失、置換若しくは付加させたもの(変異体)であっても良い。あるいは、上記の酵素(天然型、もしくは変異体)に化学修飾などの手段によりさらに改変を加えたものであっても良い。
例えば、最も一般的であるTaqポリメラーゼやKOD DNAポリメラーゼを用いることができる。KOD DNAポリメラーゼは、東洋紡績製(製品コード:KOD−101など)より容易に入手することができる。
【0025】
DNAポリメラーゼはさらに、5’エキソヌクレアーゼ活性を持たないことが好ましい。本発明では、標識プローブからの蛍光変化量を標的核酸の検出に利用することがある。そのため、高速PCR工程中で第一のプライマーによる伸長産物に対して標識プローブ及び第二のプライマーがハイブリダイゼーションしている場合に、5’エキソヌクレアーゼ活性を持つDNAポリメラーゼ、例えばTaq DNAポリメラーゼでは標識プローブを分解し、非特異シグナルの増加を伴う。5’エキソヌクレアーゼ活性を持たないDNAポリメラーゼは特に限定はされないが、KOD DNAポリメラーゼが好ましい。
【0026】
dNTPs
dNTPsは、dATP、dTTP、dCTP、dGTPの混合物であり、核酸増幅反応の基質物質である。4つの化合物をそれぞれ等量ずつ混合することが好ましい。凍結保存しない環境下では、dNTPsはDNAポリメラーゼを含む溶液中に含むことが好ましい。dNTPsの濃度は特に限定されるものではないが、50mM以上500mM以下が好ましい。これらは種々市販されている。
【0027】
ウシ血清アルブミン
ウシ血清アルブミン(BSAとも記載)の濃度は特に限定されるものではないが、0.05〜0.5%(w/v)が好ましい。これらは種々市販されている。
【0028】
マグネシウムイオン
本発明において、マグネシウム塩とは水性溶媒中にマグネシウムイオンが放出されるような形態でマグネシウムを含有するあらゆる物質を表す。マグネシウム塩には、塩化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウムおよび硫酸マグネシウム等が例示されるが、これらに限定されるものではない。特に、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウムが好ましい。
マグネシウムイオンは、通常マグネシウム塩の状態の化合物を利用する。
【0029】
マグネシウムイオンの濃度は、特に限定されないが1mMから8mMの最終反応用液の濃度となるように調整されることが好ましい。
最終濃度1mMから8mMとは核酸増幅反応に使用する好適なマグネシウム濃度を示しており、試薬の保存に際しては、最終的に他の試薬混合液と混合するためさらに高い濃度で保存されている。例えば全量50μLの核酸増幅反応系であって、12.5μLのDNAポリメラーゼ含有混合物と12.5μLのマグネシウム含有混合物を加える場合は、最終液量が4倍となるため保存中のマグネシウムイオン濃度は4mMから32mMが好ましい。濃縮倍率は2試薬を混合する場合、2倍から10倍が適した範囲であり、好ましくは2倍から8倍、更に好ましくは3倍から5倍で保存することが好ましい。このような濃縮倍率を考慮した時のマグネシウムイオン濃度は特に限定はしないが2mMから40mMが好ましい。より好ましくは、3mMから40mMである。2mM未満の場合、例えば5倍濃縮では0.4mM未満のマグネシウムイオン濃度となってしまうため、DNAポリメラーゼが活性化されずにPCR増幅が起こらない可能性がある。また、40mMを超えると溶解するマグネシウム塩の濃度が高すぎるため調製が難しい。
【0030】
このほか、本発明の方法においては、反応に影響を及ぼさない範囲で緩衝液、アミノ酸またはタンパク質、糖類、還元剤多価アルコールなどを必要により適宜各液状組成物に配してもよい。
緩衝液としては特に限定されるものではないが、トリスやヘペスなどのグッドバッファーおよび、リン酸緩衝液などが用いられるが、具体的には、10〜200mMの各種バッファー(pH7.5〜9(25℃))が例示できる。好ましくはトリス緩衝液である。好ましい緩衝pH範囲は7〜9である。
アミノ酸又はタンパク質としては、グルタミン酸ソーダ、アルブミン、スキムミルク等、糖としてはシュクロース、マルトース等、還元剤としてはグルタチオン、メルカプトエタノール等、多価アルコールとしてはグリセロール、ソルビトールなどが含まれていても良い。
また、界面活性剤などが含まれていても良い。界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤がよく、好ましくTritonX−100、Tween20、Nonidet P40などが例示される。界面活性剤は、反応段階、すなわち、ポリメラーゼ反応時に、0.0001〜1%になるように含まれていてもよく、好ましくは0.001〜0.1%がよい。
【0031】
一方、DNAポリメラーゼを含む混合液の濃度は、できる限り濃度の高い状態での保存が好ましいが、混合時の操作の簡便性を考慮すると、濃縮倍率が2倍から10倍の範囲、好ましくは2倍から8倍、更に好ましくは3倍から5倍で保存することが好ましい。
【0032】
核酸増幅検出反応に用いるキット
本発明の実施形態の一つは、以下の(1)〜(2)の特徴を有する、PCRによる核酸増幅検出反応に用いるキットである。
(1)該試薬が2以上の液状組成物から構成され、該試薬を使用する際に、当該2以上の液状組成物をすべて混合することにより反応液が調製される。
(2)該試薬には、DNAポリメラーゼと、マグネシウムイオンおよびオリゴヌクレオチドプライマーとが、別な液状組成物中に配合されている。
【0033】
本発明のキットにおける各液状組成物の調製方法は特に限定されるものではないが、上述の方法が例示できる。
【0034】
以下、実施例に基づき、本発明をより具体的に説明する。もっとも、本発明は、下記実施例に特に限定されるものではない。
【実施例1】
【0035】
(検体の採取)
胃生検材料より、遺伝子をQIAamp(登録商標) DNA micro Kit(Qiagen製)を用いて抽出した。抽出されたDNAは−20℃で保存した。
【0036】
(テンプレートプラスミドの調製)
1μLの抽出されたDNA溶液を鋳型として用い、PCRを実施した。ここで使用したプライマーペアは、ピロリ菌23SrRNA遺伝子を全長増幅できるプライマーを使用した。いずれもピロリ菌の23SrRNA遺伝子(GenBank accession number U27270)の公知の配列から設計した。
【0037】
PCRは、サーマルサイクラーとしてGeneAmp(登録商標)9700(Applied Biosystems製)を使用し、全量を26μLとして実施した。1μLのDNA溶液と試薬混合物(KOD−plus 0.5U、10XPCR緩衝液2.5μL、200μMのdNTPs、各々5μMのプライマー)を混合した。標的DNAの初期変性を94℃で2分間行った後、94℃・15秒の変性工程、60℃・30秒のアニーリング工程、68℃・60秒の伸長工程のサイクルを35回繰り返した。なお、その他のPCR条件は常法通りである(例えば、遺伝子操作技術マニュアル、医学書院、1995年発行を参照)。得られた核酸断片を制限酵素によって平滑末端切断されたpUC18へライゲーションし、コンピテントセルJM109を用いて形質転換体の取得を行なった。目的核酸断片が挿入された形質転換体を液体培養しプラスミドを抽出した。
【0038】
得られたプラスミドの核酸配列をオートシークエンサーにより解析し、ピロリ菌の23S rRNA遺伝子野生型の塩基配列を有するプラスミドを得た。以下、野生型をWTと示す。
【0039】
(プライマー及び標識プローブの合成)
検出に使用するプライマー及び標識プローブは核酸合成受託会社に依頼した。
【0040】
使用した標識プローブ及びプライマーの塩基配列は配列表に示す通りである。
標識プローブは配列番号1に示す16塩基の配列、プライマーFは配列番号2に示す25塩基の配列、プライマーRは配列番号3に示す26塩基の配列である。
【0041】
(野生型ピロリ菌の検出)
表1には、全量10μLで各試薬を要時調製により調製した反応組成を示す。核酸増幅には、東洋紡績製のKOD−plus−を利用したPCR法を用いた。検出には蛍光標識されたプローブが標的核酸とハイブリダイゼーションした時に消光するQProbe法(Fluorescent quenching−based quantitative detection of specific DNA/RNA using a BODIPY FL−labeled probe or primer, Nucleic Acids Research, 2001, Vol. 29, No.6, e34)を利用した。表1の組成をもとにした反応組成の最適化は同業者であれば容易に行える。プラスミドDNA量は全量10μLの系で約1000コピー含まれるように調製した。PCR増幅時の反応条件は表2の通りである。増幅及び蛍光の測定にはロシュ・ダイアグノスティック製ライトサイクラー(登録商標)を使用した。測定モードは530nmを利用した。以下、特に記載がない場合は、全てライトサイクラー(登録商標)での測定とする。融解曲線解析においては標識プローブが標的核酸から解離する時の蛍光量の増加を検出している。ライトサイクラーソフトウェアの解析により、図1および図2の解析結果が得られた。図1の縦軸は蛍光強度を、横軸は温度(℃)を示している。図2の縦軸は蛍光強度の一次導関数の逆符号の値(−dF/dt)で蛍光の変化量を、横軸は温度(℃)を示している。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
解析の結果、図1では融解曲線解析における標識プローブの蛍光変化が示されている。75℃の時の蛍光値は標識プローブが標的核酸から解離した時の蛍光値である。解離蛍光値は水をテンプレートに使用したときの40℃における蛍光値を示し、標識プローブの蛍光量の基準とすることができる。また、図2では融解曲線解析における標的核酸と標識プローブの解離を示す検出ピークが示されている。検出ピークは標識プローブとハイブリダイゼーションする標的核酸の存在を示している。
【実施例2】
【0045】
(試薬の保存)
35℃保存による増幅検出試薬性能の検討を行った。増幅検出試薬の試薬組成を表1に示す成分量に固定した。増幅検出試薬の主要成分を酵素、dNTPs、マグネシウムイオン、プライマーセット、蛍光標識プローブの5つに分類し、各成分を2つの試薬混合液に分けて保存した。表3に示されるように各成分を組み合わせて3通りの試薬混合液セットを調製した。プローブおよびプライマーは、実施例1に記載の標識プローブ、プライマーFおよびプライマーRを使用した。各試薬混合液は、1.5mLのスクリュー付チューブに入れて、遮光ラックに整理した。保存方法は、35℃保存の場合は三洋電機製INCUBATOR MIR−153に保存し、設定温度を35℃に設定した。8℃保存の場合は三洋電機製INCUBATOR MIR−553に保存し、設定温度を8℃に設定した。使用時には2つの試薬混合液を混ぜてから使用した。
【0046】
【表3】
【0047】
(試薬の測定)
DNAポリメラーゼ混合溶液2.5μL、プライマー混合溶液2.5μL、プラスミドDNA溶液5μLを混合した反応液10μLを調製した。テンプレート量は5μL中に約1000コピー含まれるように調製し、その他は実施例1の方法に従って実施した。35℃保存の試薬には1週間毎に、10週間後まで測定を行った。
【0048】
(データの解析)
ライトサイクラー(商標登録)付属の解析ソフトを利用して図2に示される検出ピークの高さから測定値を算出し、測定値および解離蛍光値から補正値を算出して増幅検出試薬の保存安定性の解析に用いた。解離蛍光値は融解曲線解析の40℃における蛍光値をそのまま用い、蛍光標識プローブの基本となる蛍光値を示している。増幅検出試薬性能の確認方法は測定値の高さで比較できる。測定値は融解曲線解析の蛍光値を微分したグラフで見られる検出ピークの高さの絶対値の10倍の値を用いている。補正値は測定値を蛍光値の減少率で割った値であり、増幅検出試薬の酵素の性能を示している。
【0049】
(結果)
35℃保存試薬の保存安定性の解析結果を図3から図5に示す。図3から図5に示されるように試薬成分の組み合わせをAからCにすると、10週間目の測定結果でも補正値は1.0以上を維持していた。これらの組み合わせによる試薬の保存はDNAポリメラーゼが10週間目でも活性を示していたことから安定性の優れた保存方法であるといえる。さらに、AまたはCの組み合わせの保存方法では10週間目の測定結果でも補正値は1.2以上を維持していた。図4のBの結果から10週目の補正値は1.0と低下していた。図5のCの組み合わせと補正値の低下率(1週間で低下する補正値の割合)で比較すると、Cで約5倍低下率が低く、良好な結果であった。この比較結果から、マグネシウムイオンとDNAポリメラーゼを分ける方法に加え、AやCのようにDNAポリメラーゼとdNTPsとBSAを混合し、マグネシウムおよびプライマーをDNAポリメラーゼとは混合せずに保存する方法は、DNAポリメラーゼをより安定化していることがわかった。AやCの増幅検出試薬の保存方法はより優れたDNAポリメラーゼの保存方法であるといえる。
【比較例1】
【0050】
試薬の保存、試薬の測定、データの解析は実施例2に従って実施した。表4に示されるように5つに分類された増幅検出試薬の主要成分のうち、マグネシウムイオンをDNAポリメラーゼと混合した試薬混合液セット(D)、dNTPsをDNAポリメラーゼと別にした試薬混合液セット(E)および全てを混合した試薬混合液セット(F)を調製した。実施例2と同様に35℃で保存した。図6から図8に35℃で保存した場合の結果を示す。DやEの試薬混合液セットでは10週間目では補正値の値が0となりDNAポリメラーゼが働かなくなった。Fでは4週目で補正値の値が0となり酵素が働かなくなった。
【0051】
【表4】
【実施例3】
【0052】
(8℃保存による増幅検出試薬性能の検討)
試薬の保存、試薬の測定、データの解析は実施例2に従って実施した。表2のBの試薬混合セットおよびCの試薬混合セットを使用した。8℃保存の試薬は1ヶ月ごとに、16ヶ月まで測定を行った。
【0053】
(結果)
8℃保存試薬の保存安定性の解析結果を、図9および図10に示す。図9から試薬成分の組み合わせをCにすると16ヶ月目の測定結果でも補正値は1.3を超えていた。また図10から試薬成分の組み合わせをFにすると、16ヶ月目の測定結果では補正値は0.5以下となっていた。これは増幅検出試薬の性能が顕著に低下していることを示している。35℃保存の結果と同様にCの組み合わせにより保存した増幅検出試薬は冷蔵で16ヶ月間保存しても、性能に変化がないことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明によれば、従来凍結保存により成分ごとに保存されていた核酸増幅検出試薬を冷蔵保存可能な試薬混合液で保存することにより、より簡便、迅速に試薬調製が行うことができる。試薬の調製が簡便なため、核酸増幅技術に専門的な知識を有しない者により行われることの多い臨床診断の場でも容易に核酸増幅検出を利用した遺伝子検査が可能となり、産業界に大きく寄与することが期待される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(1)〜(2)の特徴を有する、PCRによる核酸増幅検出反応に用いる核酸増幅検出試薬の保存安定性を向上させる方法。
(1)該試薬が2以上の液状組成物から構成され、該試薬を使用する際に、当該2以上の液状組成物をすべて混合することにより反応液が調製される。
(2)該試薬には、DNAポリメラーゼと、マグネシウムイオンおよびオリゴヌクレオチドプライマーとが、別な液状組成物中に配合されている。
【請求項2】
DNAポリメラーゼを含む液状組成物にdNTPsを含む、請求項1に記載の、核酸増幅検出試薬の保存安定性を向上させる方法。
【請求項3】
dNTPsが50mM以上500mM以下の濃度である、請求項2に記載の、核酸増幅検出試薬の保存安定性を向上させる方法。
【請求項4】
DNAポリメラーゼを含む液状組成物に、さらにウシ血清アルブミンを含む、請求項1〜3のいずれかに記載の、核酸増幅検出試薬の保存安定性を向上させる方法。
【請求項5】
ウシ血清アルブミンが0.05〜0.5%(w/v)の濃度である、請求項4に記載の、核酸増幅検出試薬の保存安定性を向上させる方法。
【請求項6】
DNAポリメラーゼを含む液状組成物に、さらに緩衝液を含んでなる、請求項1〜5のいずれかに記載の、核酸増幅検出試薬の保存安定性を向上させる方法。
【請求項7】
マグネシウムイオンを含む液状組成物に、さらに緩衝液を含んでなる、請求項1〜6のいずれかに記載の、核酸増幅検出試薬の保存安定性を向上させる方法。
【請求項8】
DNAポリメラーゼが、KOD DNAポリメラーゼ(Thermococcus kodakaraensis KOD1由来)またはその変異体である、請求項1〜7のいずれかに記載の、核酸増幅検出試薬の保存安定性を向上させる方法。
【請求項9】
以下の(1)〜(2)の特徴を有する、PCRによる核酸増幅検出反応に用いるキット。
(1)該キットが2以上の液状組成物から構成され、該キットを使用する際に、当該2以上の液状組成物をすべて混合することにより反応液が調製される。
(2)該キットには、DNAポリメラーゼと、マグネシウムイオンおよびオリゴヌクレオチドプライマーとが、別な液状組成物中に配合されている。
【請求項10】
液状組成物(a)にdNTPsを含む、請求項9に記載の核酸増幅検出キット。
【請求項11】
dNTPsが50mM以上500mM以下の濃度である、請求項10に記載の核酸増幅検出キット。
【請求項12】
液状組成物(a)に、さらにウシ血清アルブミンを含む、請求項9〜11のいずれかに記載の核酸増幅検出キット。
【請求項13】
ウシ血清アルブミンが0.05〜0.5%(w/v)の濃度であることを特徴とする請求項12に記載の核酸増幅検出試薬キット。
【請求項14】
液状組成物(a)に、さらに緩衝液を含んでなる、請求項9〜13のいずれかに記載の核酸増幅検出キット。
【請求項15】
液状組成物(b)に、さらに緩衝液を含んでなる、請求項9〜14のいずれかに記載の核酸増幅検出キット。
【請求項16】
DNAポリメラーゼが、KOD DNAポリメラーゼ(Thermococcus kodakaraensis KOD1由来)またはその変異体である、請求項9〜15のいずれかに記載の核酸増幅検出キット。
【請求項1】
以下の(1)〜(2)の特徴を有する、PCRによる核酸増幅検出反応に用いる核酸増幅検出試薬の保存安定性を向上させる方法。
(1)該試薬が2以上の液状組成物から構成され、該試薬を使用する際に、当該2以上の液状組成物をすべて混合することにより反応液が調製される。
(2)該試薬には、DNAポリメラーゼと、マグネシウムイオンおよびオリゴヌクレオチドプライマーとが、別な液状組成物中に配合されている。
【請求項2】
DNAポリメラーゼを含む液状組成物にdNTPsを含む、請求項1に記載の、核酸増幅検出試薬の保存安定性を向上させる方法。
【請求項3】
dNTPsが50mM以上500mM以下の濃度である、請求項2に記載の、核酸増幅検出試薬の保存安定性を向上させる方法。
【請求項4】
DNAポリメラーゼを含む液状組成物に、さらにウシ血清アルブミンを含む、請求項1〜3のいずれかに記載の、核酸増幅検出試薬の保存安定性を向上させる方法。
【請求項5】
ウシ血清アルブミンが0.05〜0.5%(w/v)の濃度である、請求項4に記載の、核酸増幅検出試薬の保存安定性を向上させる方法。
【請求項6】
DNAポリメラーゼを含む液状組成物に、さらに緩衝液を含んでなる、請求項1〜5のいずれかに記載の、核酸増幅検出試薬の保存安定性を向上させる方法。
【請求項7】
マグネシウムイオンを含む液状組成物に、さらに緩衝液を含んでなる、請求項1〜6のいずれかに記載の、核酸増幅検出試薬の保存安定性を向上させる方法。
【請求項8】
DNAポリメラーゼが、KOD DNAポリメラーゼ(Thermococcus kodakaraensis KOD1由来)またはその変異体である、請求項1〜7のいずれかに記載の、核酸増幅検出試薬の保存安定性を向上させる方法。
【請求項9】
以下の(1)〜(2)の特徴を有する、PCRによる核酸増幅検出反応に用いるキット。
(1)該キットが2以上の液状組成物から構成され、該キットを使用する際に、当該2以上の液状組成物をすべて混合することにより反応液が調製される。
(2)該キットには、DNAポリメラーゼと、マグネシウムイオンおよびオリゴヌクレオチドプライマーとが、別な液状組成物中に配合されている。
【請求項10】
液状組成物(a)にdNTPsを含む、請求項9に記載の核酸増幅検出キット。
【請求項11】
dNTPsが50mM以上500mM以下の濃度である、請求項10に記載の核酸増幅検出キット。
【請求項12】
液状組成物(a)に、さらにウシ血清アルブミンを含む、請求項9〜11のいずれかに記載の核酸増幅検出キット。
【請求項13】
ウシ血清アルブミンが0.05〜0.5%(w/v)の濃度であることを特徴とする請求項12に記載の核酸増幅検出試薬キット。
【請求項14】
液状組成物(a)に、さらに緩衝液を含んでなる、請求項9〜13のいずれかに記載の核酸増幅検出キット。
【請求項15】
液状組成物(b)に、さらに緩衝液を含んでなる、請求項9〜14のいずれかに記載の核酸増幅検出キット。
【請求項16】
DNAポリメラーゼが、KOD DNAポリメラーゼ(Thermococcus kodakaraensis KOD1由来)またはその変異体である、請求項9〜15のいずれかに記載の核酸増幅検出キット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2010−233504(P2010−233504A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−85317(P2009−85317)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】
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