説明

保持シール材および排気ガス処理装置

【課題】排気ガスの漏洩を抑制することが可能な保持シール材を提供すること、またこのような保持シール材を使用した排気ガス処理装置を提供することを目的とする。
【解決手段】第1の表面および第2の表面を有する、無機繊維を含む保持シール材であって、前記第1の表面の、該第1の表面の端部から一定の距離より内側の領域に、凹部を有することを特徴とする保持シール材が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機繊維を含む保持シール材、およびそのような保持シール材を含む排気ガス処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の台数は、今世紀に入って飛躍的に増加しており、それに伴って、自動車の内燃機関から排出される排ガスの量も急激な増大の一途を辿っている。特にディーゼルエンジンの排ガス中に含まれる種々の物質は、汚染を引き起こす原因となるため、現在では、世界環境にとって深刻な影響を与えつつある。
【0003】
このような事情の下、従来より各種排気ガス処理装置が提案され、実用化されている。一般的な排気ガス処理装置は、エンジンの排ガスマニホールドに連結された排気管の途上に、例えば金属等で構成されるケーシングを設け、その中にセル壁により区画された多数のセルを有する排気ガス処理体を配置した構造となっている。これらのセルは、ハニカム構造で構成されることが多く、特にこの場合、排気ガス処理体は、ハニカム構造体とも呼ばれている。排気ガス処理体の一例としては、触媒担持体、およびディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)等の排ガスフィルタがある。例えばDPFの場合、上述の構造により、排ガスが各セルを通って排気ガス処理体を通過する際に、セル壁に微粒子がトラップされ、排ガス中から微粒子を除去することができる。排気ガス処理体の構成材料は、金属や合金の他、セラミック等である。セラミックからなる排気ガス処理体の代表例としては、コーディエライト製のハニカムフィルタが知られている。最近では、耐熱性、機械的強度、化学的安定性等の観点から、多孔質炭化珪素焼結体が排気ガス処理体の材料として用いられている。
【0004】
このような排気ガス処理体とケーシングの間には、通常保持シール材が設置される。保持シール材は、車両走行中等における排気ガス処理体とケーシング内面の当接による破損を防ぎ、さらにケーシングと排気ガス処理体との隙間から排ガスが漏洩することを防止するために用いられる。また、保持シール材は、排ガスの排圧により排気ガス処理体が脱落することを防止する役割を有する。さらに排気ガス処理体は、反応性を維持するため高温に保持する必要があり、保持シール材には断熱性能も要求される。これらの要件を満たす部材としては、アルミナ系繊維等の無機繊維からなる保持シール材がある。
【0005】
この保持シール材は、排気ガス処理体の開口面を除く外周面の少なくとも一部に巻き付けられ、例えば、両端部の把持合わせ部同士を係合させ、さらにテーピング等によって排気ガス処理体と一体固定化され、利用される。その後、この一体品は、ケーシング内に圧入されて排気ガス処理装置が構成される。
【0006】
ところで、円筒状の排気ガス処理体に保持シール材を巻き回した場合、保持シール材の厚さに起因した外周と内周の周長差によって、保持シール材の内周側には「シワ」が生じ、排気ガス処理体と保持シール材の間に隙間が形成される場合がある。この場合、排気ガス処理装置に導入される排気ガスの一部は、排気ガス処理体内に流通されずに、前述の隙間を通ってそのまま排出されるため、このシワは、排気ガスが漏洩する原因となる。
【0007】
そこで、このようなシワの発生による未処理排気ガスの漏洩を防止するため、保持シール材の排気ガス処理体と接する側(すなわち内周側)の表面に、保持シール材の巻回方向に直交して、例えば、保持シール材の一方の端部から他方の端部まで延伸する多数の溝を設けることが提案されている(特許文献1)。この方法では、保持シール材に設置された溝の存在によって、シワの発生が抑制され、未処理排気ガスの漏洩を抑制することができることが開示されている。
【特許文献1】特許第3072281号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1のような保持シール材が適用された排気ガス処理装置を排気ガスの流入方向から見た場合、図1に示すように、保持シール材424は、溝の排気ガス流入側端部の開口450が外部に露出した状態で、排気ガス処理装置410に装着されることになる。このような配置では、保持シール材424と排気ガス処理体420の間に、排気ガス処理装置410の排気ガス流入側から排出側にわたって貫通する、排気ガスの貫通流路が生じ易くなる。そのため、排気ガス処理装置410に導入された排気ガスは、排気ガス処理体420内を流通せず、貫通流路に沿って流出されるおそれがある。従って、この方法においても、保持シール材のシール性は、未だ不十分である。
【0009】
また今日では、排気ガスの高圧化、および排気ガス処理体の重量増加が進む中で、これまでと同様に、保持シール材によって排気ガス処理体を適正に保持する必要があるため、保持シール材の厚さは、厚くなる傾向にある。このような厚い保持シール材を排気ガス処理体に巻き回した場合、保持シール材の外周長と内周長の差がより大きくなるため、保持シール材の外周側の表面(露出される表面)に亀裂が生じやすくなる。このような亀裂は、前述のシワの発生によって生じる隙間と同様、未処理排気ガスの漏洩を助長する可能性がある。
【0010】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、排気ガスの漏洩を一層抑制することが可能な保持シール材を提供すること、またこのような保持シール材を使用した排気ガス処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明では、第1の表面および第2の表面を有する、無機繊維を含む保持シール材であって、
前記第1の表面の、該第1の表面の端部から一定の距離より内側の領域に、凹部を有することを特徴とする保持シール材が提供される。本発明による保持シール材を、第1の表面を内周側として、例えば排気ガス処理体等の部品の外周面に巻き回した場合、本保持シール材において、一方の端面から他方の端面まで貫通する貫通流路の発生を確実に抑制することが可能となる。また、本発明による保持シール材を、例えば排気ガス処理体に巻き回した際、凹部によって、保持シール材の周長差(外周長−内周長)による影響が抑制されるため、厚い保持シール材を使用しても、保持シール材の外周側に亀裂が生じにくくなる。
【0012】
ここで、前記凹部は、前記第1の表面に形成された複数のディンプルの列であっても良く、あるいは前記凹部は、前記第1の表面に並列に形成された複数の溝であっても良い。この場合、保持シール材に前記凹部を容易に形成することが可能となる。
【0013】
また、前記第1の表面は、当該保持シール材を物体に巻き付ける際の巻回方向と、該巻回方向と直交する垂直方向とを有し、
前記第1の表面の端部から一定の距離は、前記垂直方向にある当該保持シール材の両端部のそれぞれから、5mm以上の距離であることが好ましい。特に、前記第1の表面の端部から一定の距離は、前記垂直方向にある当該保持シール材の両端部のそれぞれから、50mm未満の距離であることがより好ましい。これにより、本発明による保持シール材を排気ガス処理体の外周面に巻き回す際に、保持シール材の外周側に亀裂がより生じにくくなる。
【0014】
また、当該保持シール材は、無機結合材および/または有機結合材を含有しても良い。保持シール材にこのような結合材を添加することによって、繊維同士の接合力が高まり、保持シール材の取扱いが容易となる。
【0015】
さらに本発明では、
排気ガス処理体と、
第1の表面および第2の表面を有し、前記排気ガス処理体の外周面の少なくとも一部に、前記第1の表面が前記排気ガス処理体の外周面に当接するように、巻き回して使用される、無機繊維を含む保持シール材であって、前記第1の表面の、該第1の表面の端部から一定の距離より内側の領域に、凹部を有する保持シール材と、
前記排気ガス処理体および保持シール材を内部に収容するケーシングと、
を備える排気ガス処理装置が提供される。本発明による排気ガス処理装置は、前述の保持シール材の効果により、未処理排気ガスが保持シール材側から漏洩することを抑制することができる。
【0016】
ここで、前記排気ガス処理体は、触媒担持体または排ガスフィルタであっても良い。
【発明の効果】
【0017】
本発明の保持シール材を排気ガス処理装置に使用することにより、保持シール材側からの未処理排気ガスの漏洩を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、本発明を実施するための最良の形態を図面と共に説明する。なお、以下の説明では、保持シール材の表面に設置される凹部が、溝で構成される場合を例に説明する。ただし、本発明では、凹部は、これらの形態に限られず、例えば略半球状等のディンプルの列等で構成しても良いことに留意する必要がある。
【0019】
図2には、本発明による保持シール材の形態の一例を示す。ただし本発明の保持シール材は、図2の形状に限られるものではない。また図3には、本発明に係る保持シール材を含む排気ガス処理装置の分解構成図を示す。
【0020】
本発明による保持シール材は、図2に示すように、巻回方向(X方向)と垂直な両端面70、71に1組の嵌合凸部50と嵌合凹部60を有しており、この保持シール材24が触媒担持体等の排気ガス処理体20に巻き付けられた際には、図3に示すように、嵌合凸部50と嵌合凹部60が嵌合され、保持シール材24が、排気ガス処理体20に固定される。その後、保持シール材24が巻き回された排気ガス処理体20は、例えば圧入方式により、金属等で構成された筒状のケーシング12内に圧入され、装着される。
【0021】
ここで本発明では、保持シール材24の排気ガス処理体20と当接する表面(以降、第1の表面または内周面ともいう)80に、複数の溝310を有することを特徴とする。これらの溝310は、図2の例では、保持シール材の巻回方向(X方向)と実質的に直交する方向(Y方向)に沿って、等間隔で設置されている。ただし、これらの溝310は、保持シール材24のY方向の両端部までは延伸していない。
【0022】
このような溝310は、通常の保持シール材を排気ガス処理体に巻回した際に生じる、保持シール材の外周(LO)と内周(LI)の周長差(L(=LO−LI))の影響を抑制する。溝310は、内周(LI)に対して、周長差(L)を補填するように機能するためである。従って、保持シール材24にこのような溝310を設けることにより、保持シール材24を排気ガス処理体20に巻回した際に、保持シール材の外周と内周の周長差に起因して生じる、内周側でのシワ、および外周側での亀裂を抑制することができる。
【0023】
さらに、このような溝310では、保持シール材24を排気ガス処理体20に巻回した際に、排気ガスの流入面側に、図1に示したような溝の開口450は生じない。そのため、保持シール材24の一方の端部から他方の端部にわたって延伸する貫通流路の発生が抑制される。
【0024】
以上のように、本発明による保持シール材24では、排気ガス処理体20に巻回した際の、外周側の亀裂と内周側のシワの発生の防止、および保持シール材24の貫通流路の発生の抑制の両方の効果を得ることが可能となる。従って、本発明による保持シール材を使用した排気ガス処理装置では、保持シール材側からの未処理排気ガスの漏洩を有効に抑制することが可能となる。
【0025】
ここで、前述の溝310は、保持シール材のY方向(図2)の両端部にまで延伸していなければ、形状に関して、特に制約はないことに留意する必要がある。
【0026】
図4乃至図7には、本発明による保持シール材の第1の表面に形成される溝の形状の例を示す。図4の例では、保持シール材24の第1の表面80に、保持シール材24の巻回方向(X方向)と実質的に直交する複数の溝311が等間隔で形成されている。また図5では、図4の溝と同じ方向に延伸する溝列が、等間隔で形成されている。なお、各溝列は、長さの短い複数(図では2本)の溝313を断続的に配列することにより構成されている。また図6では、溝315が、保持シール材24のY方向に対してある傾斜した角度(α)で形成されている。この傾斜角度αは、特に限られないが、前述の溝の機能(特に、亀裂およびシワの発生防止機能)を有効に発揮させるためには、傾斜角度αは、Y方向に対して±30゜内の範囲であることが好ましい。さらに、図7では、第1の表面80に、ジグザグ状の溝318が等間隔で形成されている。なお図4乃至7に示す各溝は、等間隔に形成される必要はなく、非等間隔で構成されても良い。さらに、溝の断面形状は特に限られず、略逆三角形状、略半円状、略半楕円状、略矩形状または略台形状の断面等、様々な形状のものが利用できる。
【0027】
また溝310は、保持シール材のY方向の両端部にまで延伸していなければ、寸法に関しても、特に制約はないことに留意する必要がある。
【0028】
図8は、保持シール材の第1の表面に設置される、図4に示すような形状の溝310の各寸法を模式的に示したものである。この図8を用いて、溝310の寸法の一例について説明する。
【0029】
溝310の長さは、特に限られない。ただし、以降の実施例において示すように、溝の両終端M1およびM2は、その溝310の延伸方向にある保持シール材24の両端部のそれぞれから、少なくとも5mm以上内側にあることが好ましい。すなわち、保持シール材24の端部から溝の端部M1およびM2までの距離Dは、5mm≦Dであることが好ましい。特に、排気ガスの漏洩防止効果を最大限に発揮させるためには、距離Dは、5mm≦D<50mmであることがより好ましい。
【0030】
また溝の深さは、保持シール材の厚さの約1/2程度であることが好ましい。これよりも深い場合、ハンドリング時に、溝を起点として、保持シール材に亀裂が生じるおそれがあるからである。また、溝の深さがこれよりも浅いと、保持シール材の前述のような機能(周長差の影響を抑制する効果)が十分に発揮されない可能性があるからである。
【0031】
溝の幅wおよびピッチP1は、自由に設定することができる。ただし、前述の溝の機能を考慮すると、溝の幅wとピッチP1は、第1の表面80に形成される各溝310の幅wの総和が、前述の周長差Lに等しくなるように設計されることが好ましい。この場合、保持シール材を巻回した際に生じる、外周と内周の周長差の影響が最も小さくなり、外周側での亀裂の発生および内周側でのシワの発生が、一層確実に抑制できるからである。
【0032】
例えば、排気ガス処理体20の外径がPで、保持シール材の厚さがTの場合、保持シール材の内周長は、LI=Pπ、外周長は、LO=(P+2T)πとなり、周長差Lは、L=2πTとなる。また、溝のピッチP1は、保持シール材24の巻回方向(X方向)の全長Aと、保持シール材内の溝の本数Nとによって表され、例えば
P1≒A/N (1)
である。前述のように、溝の幅Wの総和が周長差Lと等しくなるときに、周長差による影響が最小限に抑制されるため、この場合、
WN=2πT (2)
の関係が成立する。すなわち、溝のピッチP1と溝の幅Wとの間に、
P1=AW/(2πT) (3)
の関係が成立するように、溝のピッチP1と溝の幅Wを設定することが好ましいと言える。
【0033】
同様に、第1の表面に溝の代わりにディンプル列を形成する場合も、ディンプルおよび/またはディンプルパターンの寸法形状等に関しては、特に制約はない。例えば、ディンプルの断面形状は、略半円状、略半楕円状、略逆三角形状、略長方形状または略台形状である。例えば、図9に示すように、複数の半球状のディンプル320を第1の表面80に設置して、保持シール材24の巻回方向(X方向)と実質的に直交するディンプル列325を、等間隔に構成しても良い。ここで、それぞれのディンプル列325内の各ディンプルは、寸法形状が揃っていても、異なっていても良く、これらは、等間隔で設置されても、非等間隔で設置されても良い。
【0034】
さらに、前述のような溝とディンプル(またはディンプル列)とを組み合わせても良い。
【0035】
このような溝および/またはディンプルを有する保持シール材24は、前述のように、第1の表面80が内側(すなわち排気ガス処理体側)となるように、排気ガス処理体20の外周に巻き付けられ、端部を嵌合、固定して使用される。この保持シール材24が巻き付けられた排気ガス処理体20は、その後、圧入方式、クラムシェル方式、巻き締め方式またはサイジング方式のいずれかの装着方式によって、ケーシング12内に設置され、排気ガス処理装置10が構成される。
【0036】
以下、各装着方式について図面を用いて説明する。図10、図11、図12および図13は、それぞれ、圧入方式、クラムシェル方式、巻き締め方式およびサイジング方式により、保持シール材24が巻き付けられた排ガス処理体20(以下、「被覆排ガス処理体」210という)をケーシング内に装着する方法を模式的に示したものである。
【0037】
圧入方式は、被覆排ガス処理体210を、ケーシング121の開口面の一方から押し込むことにより、被覆排ガス処理体210を所定の位置に装着して、排ガス処理装置10を構成する方法である。被覆排ガス処理体210のケーシング121への挿入を容易にするため、図10に示すように、内孔径が一方から他方に向かって小さくなるように定形され、最小内孔径が、ケーシング121の内径とほぼ同等の寸法になるように調整された圧入冶具230が使用される場合もある。この場合、被覆排ガス処理体210は、前記圧入冶具230の広内孔径側から挿入され、最小内孔径側を通ってケーシング121内に装着される。
【0038】
また、クラムシェル方式では、図11に示すように、相互に向かい合わせた際に、一対のケーシングが完成されるように分割された(例えば、図の例では2分割された)ケーシング部材(122A、122B)が使用される。これらのケーシング部材の一つに被覆排ガス処理体210を設置してから、残りのケーシング部材を組み合わせ、さらにこれらの部材同士を、例えば、フランジ部220(220A、220B)で溶接してケーシング122を構成することにより、被覆排ガス処理体210が所定の位置に装着されたガス処理装置10を得ることができる。
【0039】
また、巻き締め方式は、図12に示すように、被覆排ガス処理体210の周囲に、ケーシング部材となる金属板123を巻き付けた後、この金属板123をワイヤロープ等を用いて締め付けて、金属板123を被覆排ガス処理体210の周囲に所定の面圧で当接させる方式である。最後に金属板123の一方の端部を、他方の端部または下側の金属板123の表面と溶接することにより、被覆排ガス処理体210がケーシング123内部に装着された排ガス処理装置10が得られる。
【0040】
さらに、サイジング方式は、図13に示すように、被覆排ガス処理体210を、その外径よりも大きな内径の金属シェル124の中に挿入した後、プレス機等により、金属シェル124を外周側から均一に圧縮(サイジング(JIS―z2500―4002))する方式である。サイジング処理により、金属シェル124の内径が所望の寸法に正確に調整されるとともに、被覆排ガス処理体210を所定の位置に設置することができる。
【0041】
なお、これらの装着方式において使用されるケーシングの材質としては、通常、耐熱合金等の金属が使用される。
【0042】
このようにして構成される排気ガス処理装置10の一構成例を図14に示す。この図の例では、排気ガス処理体20は、ガス流と平行な方向に多数の貫通孔を有する触媒担持体である。触媒担持体は、例えばハニカム構造状の多孔質炭化珪素等で構成される。なお、本発明の排気ガス処理装置10は、このような構成に限られるものではない。例えば、排気ガス処理体20を貫通孔の端部が市松模様状に目封じされたDPFとすることも可能である。このような排気ガス処理装置では、上述のような保持シール材24の効果により、装置内に導入される排気ガスが、保持シール材を通って未処理のまま排出されることを回避することができる。
【0043】
以下、本発明の保持シール材の製作方法の一例を説明する。
【0044】
本発明の保持シール材は、例えば抄造法を用いて製作することができる。抄造法とは、通常湿式処理とも呼ばれ、いわゆる「紙抄き」のように、繊維の混合、撹拌、開繊、スラリー化、抄紙成形、圧縮乾燥の各処理を経て保持シール材を製作する処理方法である。
【0045】
まず、所定量の無機繊維原料と無機結合材と有機結合材とを水に入れて、混合する。無機繊維原料としては、例えばアルミナとシリカの混合繊維の原綿バルクが使用される。ただし、無機繊維材料は、これに限られるものではなく、例えばアルミナまたはシリカのみで構成されても良い。無機結合材としては、例えばアルミナゾルおよびシリカゾル等が使用される。また有機結合材としては、ラテックス等が使用される。
【0046】
次に得られた混合物を抄紙器等の混合器内で撹拌し、開繊されたスラリーを調製する。通常、撹拌開繊処理は、20秒〜120秒程度行われる。その後、得られたスラリーを成型器に入れて所望の形状に成形し、さらに脱水を行うことにより保持シール材の原料マットが得られる。
【0047】
さらにこの原料マットをプレス器等を用いて圧縮し、例えば90〜150℃の温度で加熱、乾燥させることにより、保持シール材を得ることができる。ここで、例えば、保持シール材の表面に形成される溝(またはディンプル列)の形状寸法に対応する突起パターンが表面に形成されたプレス器を用いて、原料マットを圧縮することにより、第1の表面に所望の溝(またはディンプル列)を有する保持シール材を製作することができる。なお通常、圧縮処理は、圧縮後の保持シール材の密度が0.10g/cm〜0.40g/cm程度となるように行われる。
【0048】
このようにして製作された保持シール材は、ハンドリングを容易にするため裁断され、さらに最終的に所定の形状に切断されて使用される。なお裁断の前または後に、得られた保持シール材を用いて、さらに以下の処理を行っても良い。
【0049】
必要に応じて、裁断された保持シール材には、樹脂のような有機系バインダが含浸される。これにより、保持シール材の嵩高さを抑制することができ、保持シール材を排気ガス処理装置内の排気ガス処理体に巻き付ける際の組み付け性が改善される。さらに、排気ガス処理装置に高温排ガスが導入された場合、保持シール材の有機バインダが消失するため、圧縮されていた保持シール材が復元され、保持シール材の保持力が向上する。
【0050】
有機系バインダの含有量は、1.0〜10.0重量%の範囲であることが好ましい。1.0重量%未満では、組み付け性の改善効果が十分に得られないからである。また10.0重量%よりも多くなると、排気ガス処理装置の使用時に排出される有機成分の量が増加する。
【0051】
なお有機系バインダとしては、例えばアクリル系(ACM)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)樹脂等を用いることが好ましい。
【0052】
このような有機系バインダと水とで調製した水分散液を用いて、スプレー塗布により、保持シール材に樹脂を含浸させる。なお保持シール材中に含まれる余分な添着固形分および水分は、次工程で除去される。
【0053】
次に、余分な固形分の除去および乾燥処理が行われる。余分な固形分の除去は、吸引法で行われる。また余分な水分の除去は、加熱圧縮乾燥法によって行われる。乾燥は、95〜155℃程度の温度で行われる。95℃よりも温度が低いと、乾燥時間が長くなり生産効率が低下する。また155℃を超える乾燥温度では、有機系バインダ自身の分解が開始され、有機系バインダによる接着性が損なわれる。
【0054】
このようにして製作された本発明による保持シール材を使用して、排気ガス処理装置を構成することにより、未処理排気ガスの漏洩が有意に抑制された排気ガス処理装置を得ることができる。
【0055】
以下、本発明の効果を実施例により説明する。
【実施例】
【0056】
本発明の効果を検証するため、本発明による保持シール材を用いて、各種試験を行った。保持シール材は、以下の手順により製作した。
【0057】
[保持シール材の製作1]
アルミナ繊維の原綿バルク1200gと、有機バインダ(ラテックス)60gと、無機バインダ(アルミナゾル)12gと、水とを加え、原料液中の繊維濃度が0.5wt%となるように混合した。次に、この原料液を抄紙器で60秒間撹拌した。このようにして撹拌開繊された原料液を、930×515×400mmの寸法の成型器に移した。次に、成型器の底面に設置したメッシュを介して水分を分離除去することにより、アルミナ繊維の原料マットを得た。
【0058】
次にこの原料マットを様々な表面パターンを有するプレス器を用いて、120℃で30分間プレス乾燥させた。各プレス器の表面には、完成後の保持シール材の片面に、図8または図9に示す形状パターンの凹部が形成されるように、線状突起列または点状突起列が設けられている。一つのプレス器の表面パターン内のこれらの突起列は、相互に等しい全長で、等間隔かつ平行に設置されている。ただし列の全長は、各プレス器の表面(7種類)パターン毎に異なっている(ただし突起の高さは、いずれの表面パターンでも4mm)。このような各表面パターンを有するプレス器によるプレス工程を経て、厚さ13mm、密度0.20g/cmの保持シール材を得た。この保持シール材を、図2に示すような形状の、縦(Y方向)200mm、横(X線方向)440mm(嵌合凹部および嵌合凸部を除く)の寸法に切断して、実施例1乃至6および比較例に係る評価用サンプルを得た。
【0059】
実施例1乃至6および比較例に係る評価用サンプルの凹部形状および寸法等をまとめて表1に示す。
【0060】
【表1】

[保持シール材の製作2]
アルミナ繊維の原綿バルク800gと、有機バインダ(ラテックス)60gと、無機バインダ(アルミナゾル)12gと、水とを加え、原料液中の繊維濃度が0.5wt%となるように混合した。次に、この原料液を抄紙器で60秒間撹拌した。このようにして撹拌開繊された原料液を、930×515×400mmの寸法の成型器に移した。次に、成型器の底面に設置したメッシュを介して水分を分離除去することにより、アルミナ繊維の原料マットを得た。
【0061】
次にこの原料マットを様々な表面パターンを有するプレス器を用いて、120℃で30分間プレス乾燥させた。各プレス器の表面には、完成後の保持シール材の片面に、図9に示す形状パターンの凹部が形成されるように、点状突起列が設けられている。一つのプレス器の表面パターン内のこれらの突起列は、相互に等しい全長で、等間隔かつ平行に設置されている。ただし列の全長は、各プレス器の表面(4種類)パターン毎に異なっている(ただし突起の高さは、いずれの表面パターンでも4mm)。このような各表面パターンを有するプレス器によるプレス工程を経て、厚さ9mm、密度0.20g/cmの保持シール材を得た。この保持シール材を、図2に示すような形状の、縦(Y方向)200mm、横(X線方向)440mm(嵌合凹部および嵌合凸部を除く)の寸法に切断して、実施例7乃至10に係る評価用サンプルを得た。
【0062】
実施例7乃至10に係る評価用サンプルの凹部形状および寸法等をまとめて表2に示す。
【0063】
【表2】

表1および2に示すように、実施例1〜3、および実施例7〜10に係る保持シール材は、第1の表面にディンプル列325を有し、実施例4〜6および比較例に係る保持シール材は、第1の表面に溝310を有する。なお表1、2において、ディンプル列および溝についての、保持シール材端部までの距離D(mm)、X方向幅W(mm)、X方向ピッチP1(mm)、Y方向ピッチP2(mm)は、それぞれ、図9および図8に示す各寸法を表している。ただし、図8から明らかなように、凹部形状が溝の場合は、Y方向のピッチP2は規定されない。また比較例の保持シール材では、溝がY方向に沿って、保持シール材の両端部にまで延伸しているため、溝から保持シール材端部までの距離Dはゼロである。また、各実施例および比較例において、ディンプルまたは溝の深さは、いずれの場合も4mmであった。
【0064】
なお、実施例4〜6および比較例における溝のX方向幅DとX方向ピッチP1の関係は、これらの保持シール材(厚さ13mm)を、外径が5インチ(約127mm)の円筒の外周部に巻き回した際に、前述の関係式(3)を満たすように設計されていることに留意する必要がある。
【0065】
[評価試験]
次に、前述の方法で製作した各保持シール材サンプルを用いて、リーク試験および巻付試験を行った。
【0066】
リーク試験は、以下のように行った。まず各保持シール材サンプルを外径が5インチの円柱体(非中空体)に巻き付けて、端部同士を嵌合し固定する。次に、この一体化品を圧入方式で金属製ケーシング内に装着して、試験体とする。装着後の保持シール材の密度は、0.45g/cmであった。次に、この試験体をケーシングの外形とほぼ等しい内径を有する冶具に設置する。この状態で、試験体軸方向に沿って、一方の側から他方の側に向かって、圧力および流速が既知の空気を流入させる。試験体の他方の側に設置した流量計を用いて、試験体から排出される空気の量を測定する。以上の試験によって、以下のようにしてリーク量を算出する。
【0067】
リーク量(m・cm/kPa/sec)=排出空気の流速(m/sec)/[流入圧力(kPa)/空気流入方向におけるサンプルの長さ(cm)]
また巻付試験では、各保持シール材サンプルを外径が5インチの円柱に巻き付けて、前述のように、端部同士を嵌合し固定した際に、サンプルに亀裂が生じるかどうかを目視で評価した。
【0068】
[試験結果]
各シート材に対して得られたリーク試験および巻付試験の結果をまとめて表1および2に示す。この表から、実施例1〜10の保持シール材では、比較例の保持シール材に比べて、排気ガスのリーク量が有意に低下していることがわかる。また、排気ガスの漏洩防止効果は、凹部形状にはあまり依存せず、ディンプルまたは溝のいずれであっても、同等の効果が得られることがわかる。
【0069】
なお、実施例3、6および10に係る保持シール材では、巻付試験において、保持シール材の外周面側に、亀裂が生じることがわかった。これは、凹部(ディンプル列端部または溝端部)から保持シール材端部までの距離Dが大きくなると、前述のような周長差の影響を抑制する効果が現れにくくなるためである。
【0070】
ただし、リーク試験において、実施例3、6および10の保持シール材のリーク量は、実施例1、2、実施例4、5および実施例7〜9のものと同等である。従って、この結果からは、保持シール材の外周面に生じる亀裂が排気ガス処理装置のシール性の低下に及ぼす影響は、顕著ではない。しかしながら、このような亀裂は、さらに進展することにより、排気ガスの漏洩につながる可能性があるため、保持シール材端部からディンプル列または溝までの距離に関しては、上限値を設定することが好ましいと言える。なお、表1および2の比較、すなわち、実施例1〜3と実施例7〜10の比較によれば、保持シール材の外周面に亀裂が生じる際の、保持シール材端部からディンプル列までの距離Dの値は、保持シール材の厚さによって変化する。従って、前述の上限値を一つの値に規定することは難しいが、保持シール材の厚さが少なくとも約13mm以下であれば、上限値を50mm未満にすることが好ましいと言える。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の保持シール材および排気ガス処理装置は、車両用排気ガス処理装置等に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】従来の保持シール材を排気ガス処理体に巻き回して製作した排気ガス処理装置の概略的な側視図である。
【図2】本発明による保持シール材の形状の一例である。
【図3】本発明による保持シール材を排気ガス処理体とともに、ケーシング内に組み付けるときの状態を示す概念図である。
【図4】保持シール材の第1の表面に形成された溝パターンの例を概略的に示した図である。
【図5】保持シール材の第1の表面に形成された溝パターンの別の例を概略的に示した図である。
【図6】保持シール材の第1の表面に形成された溝パターンのさらに別の例を概略的に示した図である。
【図7】保持シール材の第1の表面に形成された溝パターンのさらに別の例を概略的に示した図である。
【図8】図4の溝の寸法を説明するための上面図である。
【図9】保持シール材の第1の表面に形成されたディンプルパターンの例を概略的に示した図である。
【図10】圧入方式により、被覆排ガス処理体をケーシング内に設置する方法を模式的に示した図である。
【図11】クラムシェル方式により、被覆排ガス処理体をケーシング内に設置する方法を模式的に示した図である。
【図12】巻き締め方式により、被覆排ガス処理体をケーシング内に設置する方法を模式的に示した図である。
【図13】サイジング方式により、被覆排ガス処理体をケーシング内に設置する方法を模式的に示した図である。
【図14】本発明の排気ガス処理装置の一構成例を示す図である。
【符号の説明】
【0073】
2 導入管
4 排気管
10、410 排気ガス処理装置
12、412 ケーシング
20、420 排気ガス処理体
24、424 保持シール材
50 嵌合凸部
60 嵌合凹部
80 第1の表面
121、122、123、124 ケーシング
210 被覆排ガス処理体
310、311、313、315、318 溝
320 ディンプル
325 ディンプル列
450 開口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の表面および第2の表面を有する、無機繊維を含む保持シール材であって、
前記第1の表面の、該第1の表面の端部から一定の距離より内側の領域に、凹部を有することを特徴とする保持シール材。
【請求項2】
前記凹部は、前記第1の表面に形成された複数のディンプルの列であることを特徴とする請求項1に記載の保持シール材。
【請求項3】
前記凹部は、前記第1の表面に並列に形成された複数の溝であることを特徴とする請求項1に記載の保持シール材。
【請求項4】
前記第1の表面は、当該保持シール材を物体に巻き付ける際の巻回方向と、該巻回方向と直交する垂直方向とを有し、
前記第1の表面の端部から一定の距離は、前記垂直方向にある当該保持シール材の両端部のそれぞれから、5mm以上の距離であることを特徴とする請求項2または3に記載の保持シール材。
【請求項5】
前記第1の表面の端部から一定の距離は、前記垂直方向にある当該保持シール材の両端部のそれぞれから、50mm未満の距離であることを特徴とする請求項4に記載の保持シール材。
【請求項6】
無機結合材および/または有機結合材を含有することを特徴とする前記請求項のいずれかに記載の保持シール材。
【請求項7】
排気ガス処理体と、
第1の表面および第2の表面を有し、前記排気ガス処理体の外周面の少なくとも一部に、前記第1の表面が前記排気ガス処理体の外周面に当接するように、巻き回して使用される、無機繊維を含む保持シール材であって、前記第1の表面の、該第1の表面の端部から一定の距離より内側の領域に、凹部を有する保持シール材と、
前記排気ガス処理体および保持シール材を内部に収容するケーシングと、
を備える排気ガス処理装置。
【請求項8】
前記排気ガス処理体は、触媒担持体または排ガスフィルタであることを特徴とする請求項7に記載の排気ガス処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−45521(P2008−45521A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−224033(P2006−224033)
【出願日】平成18年8月21日(2006.8.21)
【出願人】(000000158)イビデン株式会社 (856)
【Fターム(参考)】