説明

保持材

【課題】被研磨物に対する保持力を確保し被研磨物の着脱を容易にすることができる保持材を提供する。
【解決手段】保持材10は、湿式凝固法により作製されたポリウレタンシート2と、ポリウレタンシート2の表面に配置された保護層5とを備えている。ポリウレタンシート2は、スキン層2aと、スキン層2aより内部側にセル3が略均等に分散した状態で形成されたナップ層2bとを有している。保護層5は、湿式凝固法によるポリウレタンシート2の作製後にスキン層2aを覆うように水性エマルジョン型ポリウレタン樹脂で形成されている。保護層5の表面が保持面Sを形成している。保護層5には、スキン層2aの表面が部分的に露出する凹部5aが形成されている。スキン層2aの表面が保護層5で保護され、凹部5aの形成により被研磨物に対する密着力が制限される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は保持材に係り、特に、湿式凝固法により形成されたスキン層を有し該スキン層より内部側に多数のセルが形成された軟質樹脂製の樹脂層を備えた保持材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来液晶ディスプレイ(LCD)用ガラス基板、カラーフィルタにおける赤(R)、緑(G)、青(B)の三原色の色材膜が表面に形成されたガラス基板、LCDセル等で構成されたフラットパネルディスプレイ等では、それらの製造過程で研磨加工が行われている。一般に、研磨加工では、研磨加工の対象となる被研磨物を保持する目的で、湿式凝固法により表面側にスキン層を有し内部に多数のセル(発泡)が形成された多孔質シートを備えた保持材が用いられている。すなわち、裏面側を研削処理し厚みを均一化した多孔質シート(樹脂製保持層)と、粘着層を有する基材とを接着させ多孔質シートを基材で支持させた保持材が用いられている。
【0003】
保持材を用いた場合、被研磨物は、保持材の表面における凝着力、水等の表面張力による吸着力等の複合的作用で保持されることとなる。ところが、多孔質シートのスキン層表面が被研磨物との摩擦により経時で摩耗、損傷するため、被研磨物と保持材との密着性が不十分になることがある。スキン層表面が損傷すると、内部に形成されたセルが開孔することで、研磨液や被研磨物交換時の洗浄水が多孔質シートの内部に急激に浸入し、セルが研磨液等で満たされる。セル内の研磨液等は、研磨加工時の押圧力によるセルの変形で保持面側に放出され、被研磨物に対する保持力が急激に低下することもある。結果として、研磨加工中に被研磨物が保持材から脱落してしまい、被研磨物の破損やこれに伴う機台停止により製造効率の低下を招く、という問題がある。また、スキン層の損傷部分から浸入した研磨液が多孔質シートと基材との接着面に達すると、粘着層が研磨液にさらされ多孔質シートと基材とが剥離することがある。このため、保持材の構造が失われ、被研磨物の平坦性を低下させる、という問題もある。
【0004】
一方、生産性向上を図るために、被研磨物を大型化する傾向がある。例えば、LCDの構成材料であるガラス基板では、年々大型化が進められており、一辺が3mに迫る大型のガラス基板が使用されるに至っている。ガラス基板の大型化に伴い、研磨加工後に保持材からガラス基板を取り外す際に、ガラス基板にかかる力が大きくなり、ガラス基板の撓みによる割れ等が発生する、といった問題が生じている。
【0005】
これらの問題を回避するために、例えば、スキン層の表面を被覆することでスキン層自体の液体透過性による内部への研磨液の浸入を抑制し、被研磨物に対する保持力を確保する技術が開示されている(特許文献1参照)。この技術では、スキン層の表面に粘着材を積層し、粘着材に貫通孔を形成しているため、粘着材の粘着作用により被研磨物に対する保持力を確保し、被研磨物および保持材間への研磨液の浸入を抑制することができる。また、湿式凝固法により作製された2枚の多孔質シートを接着剤を介して貼り合わせ積層した保持材の技術が開示されている(特許文献2参照)。この技術では、上層側の多孔質シートを被研磨物に当接させるが、2枚の多孔質シート間に介在する接着剤により下層側への研磨液の浸入を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−224888号公報
【特許文献2】特開2005−11972号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の技術では、粘着材との凝着力により被研磨物を保持することができるものの、その強力な粘着力により従来の保持材と比べて被研磨物に対する保持力が高くなりすぎるため、大型の被研磨物の研磨加工においては却って被研磨物の破損を引き起こしやすくなる。また、特許文献2の技術では、2枚の多孔質シートを貼り合わせる工程が必要となり、保持材の一枚あたりのコスト高を招くこととなる。さらには、上層側に多孔質シートを用いる以上、スキン層の損傷、ひいては多孔質シート内部への研磨液の浸入を回避することが難しく、2枚の多孔質シート間が剥離する等により、被研磨物に対する保持力の低下抑制が不十分となる。従って、被研磨物の着脱時の損傷を抑制するために被研磨物と保持材との密着力を制限することが重要となる一方で、保持力の急激な低下を回避して長時間にわたる安定した保持力を確保することが重要となる。
【0008】
本発明は上記事案に鑑み、被研磨物に対する保持力を確保し被研磨物の着脱を容易にすることができる保持材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、湿式凝固法により形成されたスキン層を有し該スキン層より内部側に多数のセルが形成された軟質樹脂製の第1の樹脂層と、前記スキン層の表面に配置されており、表面が被研磨物を保持するための保持面を形成する第2の樹脂層と、を備え、前記第2の樹脂層は、前記スキン層の表面を部分的に露出させるように穴または溝が形成されていることを特徴とする保持材である。
【0010】
本発明では、第1の樹脂層のスキン層の表面に第2の樹脂層が配置されたため、被研磨物が保持面に当接してもスキン層の損傷が抑制されることで第1の樹脂層内への浸水を抑制し被研磨物に対する保持力を確保することができ、第2の樹脂層により保持面における剛性が高められ、第2の樹脂層に穴または溝が形成されたことで被研磨物に対する密着力が制限されるので、被研磨物の着脱を容易にすることができる。
【0011】
この場合において、第2の樹脂層を抗張力10MPa以上のエマルジョン型または溶液型のポリウレタン樹脂で形成することができる。このとき、ポリウレタン樹脂の100%モジュラスを10MPa以下としてもよい。また、第2の樹脂層のスキン層の表面に対する被覆率を50%〜99%の範囲とすることができる。第2の樹脂層にはスキン層の表面を部分的に露出させるように穴が形成されており、穴が、2mm以下の直径を有する円形状で、保持面内で均等となるように形成されていてもよい。また、第2の樹脂層の厚みを1μm〜100μmの範囲とし、第1の樹脂層の厚みを200μm〜2000μmの範囲としてもよい。第2の樹脂層を、第1の樹脂層のスキン層上にスクリーン印刷されたものとすることができる。また、被研磨物を、保持面に当接する表面の面積が10,000cm以下のものとしてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、第1の樹脂層のスキン層の表面に第2の樹脂層が配置されたため、被研磨物が保持面に当接してもスキン層の損傷が抑制されることで第1の樹脂層内への浸水を抑制し被研磨物に対する保持力を確保することができ、第2の樹脂層により保持面における剛性が高められ、第2の樹脂層に穴または溝が形成されたことで被研磨物に対する密着力が制限されるので、被研磨物の着脱を容易にすることができる、という効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明を適用した実施形態の保持材を模式的に示す断面図である。
【図2】保持材の保護層における凹部の形成パターンを示す平面図であり、(A)は実施形態の保持材を示し、円形状の凹部が均等に分散するように形成された形成パターン、(B)は別の態様の保持材を示し、凹部として格子状の溝が形成された形成パターン、(C)は他の態様の保持材を示し、凹部として同心円状の溝が形成された形成パターンをそれぞれ示す。
【図3】保持材の被研磨物保持性を評価するときの保持材および被研磨物の位置関係を模式的に示し、(A)は平面図、(B)は断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明を適用した保持材の実施の形態について説明する。
【0015】
<構成>
本実施形態の保持材10は、図1に示すように、湿式凝固法により作製されたポリウレタン樹脂製の第1の樹脂層としてのポリウレタンシート2と、ポリウレタンシート2の表面に配置された第2の樹脂層としての保護層5とを備えている。
【0016】
ポリウレタンシート2は、湿式凝固法による作製時に形成され表面平坦性を有するスキン層2aと、スキン層2aより内部側に形成されたナップ層2bとを有している。ナップ層2bには、ポリウレタンシート2の厚み方向(図1の縦方向)に沿って縦長で丸みを帯びた円錐状(断面縦長三角状)のセル(気孔)3が略均等に分散した状態で形成されている。セル3の縦長方向の長さは、ポリウレタンシート2の厚みの範囲でバラツキを有している。スキン層2aの近傍では、長さの小さい多数のセル3が形成された微細セル構造を形成している。セル3は、スキン層2a側の孔径がスキン層2aと反対の面側(以下、スキン層2aと反対の面を裏面と呼称する。)の孔径より小さく形成されている。すなわち、セル3はスキン層2a側が裏面側より縮径されている。セル3の間のポリウレタン樹脂は、セル3より小さい孔径の多数の図示しない微細孔が形成されたミクロポーラス状に形成されている。スキン層2a、セル3、図示しない微細孔が不図示の連通孔で網目状に連通しており、ポリウレタンシート2が全体として連続セル構造を有するものとなる。ポリウレタンシート2の厚みは、200〜2000μmの範囲で調整することができ、本例では、800μmに調整されている。
【0017】
また、スキン層2aの表面に配置された保護層5は、エマルジョン型または溶液型のポリウレタン樹脂で形成されている。ここでいうエマルジョン型ポリウレタン樹脂は、水やアルコール等のポリウレタン樹脂不溶の溶剤に、ポリウレタン樹脂を乳濁または懸濁させたものである。溶液型ポリウレタン樹脂は、水やアルコール等の水系溶媒に溶解させることができるものであり、固化した後では架橋反応等により水系溶媒に不溶となるものである。また、エマルジョン型、溶液型のポリウレタン樹脂では、いずれも、ポリウレタンシート2を溶解させない溶剤が用いられている。本例では、水性エマルジョン型ポリウレタン樹脂が使用されている。保護層5は、湿式凝固法によるポリウレタンシート2の作製後にスキン層2aの表面を覆うように形成されている。保護層5の表面が被研磨物を保持するための保持面Sを形成している。保護層5には、この保護層5の厚み分を貫通するように、つまり、保持面Sからスキン層2aの表面に至るまで凹部5aが形成されている。すなわち、保護層5がスキン層2aの表面に形成されているため、スキン層2aの表面が部分的に露出している。また、スキン層2aが湿式凝固法により形成されたまま残されていることで、ナップ層2bに形成されたセル3は、保持面Sや凹部5aの位置で開孔を形成していない。保護層5の厚みは、1〜100μmの範囲で調整することができ、本例では、50μmに調整されている。
【0018】
保護層5に形成された凹部5aは、穴または溝として形成することができるが、本例では、円形状の穴として形成されている。すなわち、図2(A)に示すように、保持面Sでは、円形状の凹部5aが均等に分散するように形成されている。凹部5aの大きさは、直径2mm以下で調整することができる。また、凹部5aは、保持面Sに1〜250個/cmの割合で形成されている。保護層5がスキン層2aの表面を覆うように形成されているものの、凹部5aが形成されたことで、保護層5の形成された面積のスキン層2aの表面の全面積に対する割合を示す被覆率を50〜99%の範囲で調整することができる。本例では、直径1.5mmの円形状の凹部5aが3個/cmの割合で形成されており、被覆率が約95%となる。また、水性エマルジョン型ポリウレタン樹脂で形成された保護層5では、抗張力(最大張力を断面積で除した数値。)が10MPa以上を示す。このポリウレタン樹脂には、100%モジュラス(2倍長に引っ張るときの張力を示す数値。)が10MPa以下の樹脂が用いられている。これにより、保護層5は、外力によるスキン層2aの引きちぎれや裂けを抑えながら、被研磨物の保持力を適正な範囲で確保することができる。
【0019】
また、保持材10では、ポリウレタンシート2の裏面側に両面テープ7が貼り合わされている。両面テープ7は、可撓性を有する樹脂製フィルム等の基材を有している。基材としては、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略記する。)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等を用いることができるが、本例では、PET製フィルムが用いられている。基材は、両面にそれぞれ粘着剤が塗布された粘着剤層(不図示)を有している。粘着剤層の粘着剤には、アクリル系、ウレタン系、エポキシ系等の粘着剤を用いることができるが、本例では、アクリル系粘着剤が用いられている。両面テープ7は、一面側の粘着剤層を介してポリウレタンシート2の裏面側と貼り合わされており、他面側の粘着剤層が剥離紙8で覆われている。なお、本例では、両面テープ7の基材が保持材10の全体を支持する機能も兼ねている。
【0020】
<製造>
保持材10は、湿式凝固法により作製したポリウレタン樹脂製のシートのスキン層2a側に保護層5、凹部5aを形成し、両面テープ7と貼り合わせることで製造される。すなわち、ポリウレタン樹脂を溶解させた樹脂溶液を準備する準備工程、水系凝固液中で樹脂溶液を凝固させてシート状のポリウレタン樹脂を形成するシート形成工程、ポリウレタン樹脂を洗浄し乾燥させる洗浄・乾燥工程、スキン層2a側に水性エマルジョン型ポリウレタン樹脂を塗工して保護層5、凹部5aを形成する被覆工程、両面テープと貼り合わせるラミネート工程を経て保持材10を製造する。以下、工程順に説明する。
【0021】
準備工程では、ポリウレタン樹脂、ポリウレタン樹脂を溶解可能な水混和性の有機溶媒および添加剤を混合してポリウレタン樹脂を溶解させる。有機溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド(以下、DMFと略記する。)やN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)等を用いることができるが、本例では、DMFを用いる。ポリウレタン樹脂には、ポリエステル系、ポリエーテル系、ポリカーボネート系等の樹脂から、100%モジュラスが20MPa以下のものを選択して用い、例えば、ポリウレタン樹脂が30質量%(wt%)となるようにDMFに溶解させる。添加剤としては、セル3の大きさや量(個数)を制御するカーボンブラック等の顔料、セル形成を促進させる親水性活性剤およびポリウレタン樹脂の再生を安定化させる疎水性活性剤等を用いることができる。得られた溶液を減圧下で脱泡し樹脂溶液を調製する。
【0022】
シート形成工程では、準備工程で準備した樹脂溶液を成膜基材に連続的に塗布し、水系凝固液中で樹脂溶液を凝固させてシート状のポリウレタン樹脂を形成する。樹脂溶液を、塗布装置により常温下で帯状の成膜基材に均一な厚さとなるように塗布する。塗布装置として、本例では、ナイフコータを用い、ナイフコータと成膜基材との間隙(クリアランス)を調整することで、樹脂溶液の塗布厚み(塗布量)を調整する。本例では、得られるポリウレタンシートの厚みを上述した範囲とするため、塗布厚みを500〜2000μmの範囲に調整する。成膜基材には、可撓性フィルム、不織布、織布等を用いることができるが、本例では、成膜基材をPET製フィルムとして説明する。
【0023】
成膜基材に塗布された樹脂溶液を、ポリウレタン樹脂に対して貧溶媒である水を主成分とする凝固液(水系凝固液)中に案内する。凝固液としては、水にDMFやDMAc等の有機溶媒を混合しておくこともできるが、本例では、水を用いる。凝固液中では、まず、塗布された樹脂溶液の表面側にスキン層2aが厚さ数μm程度にわたって形成される。その後、樹脂溶液中のDMFと凝固液(水)との置換の進行によりナップ層2bが形成されポリウレタン樹脂がシート状に再生する。DMFが樹脂溶液から脱溶媒し、DMFと凝固液とが置換することにより、スキン層2aより内側のポリウレタン樹脂中にセル3および図示しない微細孔が形成され、スキン層2a、セル3、図示しない微細孔が網目状に連通した連続セル構造が形成される。このとき、成膜基材のPET製フィルムが水を浸透させないため、樹脂溶液の表面側(スキン層2a側)で脱溶媒が生じて成膜基材側が表面側より大きなセル3が形成される。
【0024】
洗浄・乾燥工程では、再生した帯状(長尺状)の成膜樹脂を洗浄した後乾燥させる。すなわち、成膜樹脂を、成膜基材から剥離した後、水等の洗浄液中で洗浄して成膜樹脂中に残留するDMFを除去する。洗浄後、本例では、内部に熱源を有するシリンダを備えたシリンダ乾燥機を使用し成膜樹脂を乾燥させる。成膜樹脂がシリンダの周面に沿って通過することで乾燥する。
【0025】
保護層5を形成するときは、本例では、スクリーン印刷機を使用したスクリーン印刷の手法を用いる。換言すれば、保護層5は、ポリウレタンシート2のスキン層2a上にスクリーン印刷されたものである。具体的には、凹部5aの形成パターンに合わせてホールパターンを形成した版を、乾燥後のポリウレタンシート2のスキン層2a側の表面に載置する。水性エマルジョン型ポリウレタン樹脂を水に溶解させた水溶液を版に注ぎ込みスキージで一様な厚みとなるように延ばす。加熱雰囲気下で水分を除去することで保護層5、凹部5aが形成される。なお、保護層5の厚みは、版の厚み、樹脂の濃度により調整することができる。
【0026】
ラミネート工程では、ポリウレタンシート2の保護層5と反対の面、つまり裏面側と、両面テープ7とを貼り合わせる。このとき、両面テープ7の一面側の粘着剤層と、ポリウレタンシート2の裏面側とを貼り合わせる。ポリウレタンシート2および両面テープ7を貼り合わせた後、所望のサイズ、形状に裁断する。そして、キズや汚れ、異物等の付着がないことを確認する等の検査を行い、保持材10を完成させる。
【0027】
保持材10を用いて被研磨物の研磨加工を行うときは、例えば、保持用定盤および研磨用定盤が対向するように配置された片面研磨機が使用される。保持用定盤には保持材10を貼着し、研磨用定盤には研磨パッドを装着する。保持用定盤に保持材10を貼着するときは、剥離紙8を取り除き露出した粘着剤層で貼着する。被研磨物を保持させるときは、保持面Sに被研磨物を当接させ保持用定盤側に押し付ける。被研磨物は保持材10を介して保持用定盤に保持されることとなる。被研磨物の加工面と研磨パッドとの間に研磨粒子を含む研磨液を循環供給するとともに、被研磨物に研磨圧をかけながら保持用定盤ないし研磨用定盤を回転させることで、被研磨物(加工面)を研磨加工する。
【0028】
<作用等>
次に、本実施形態の保持材10の作用等について説明する。
【0029】
本実施形態では、ポリウレタンシート2のスキン層2aの表面に保護層5が形成されている。保護層5では、水性エマルジョン型ポリウレタン樹脂が用いられており、抗張力が10MPa以上を示す。水性エマルジョン型ポリウレタン樹脂のため、溶媒として水を用いることができ、保護層5の形成時にスキン層2aに対して溶解等の損傷が及ぶことを回避することができる。保護層5の抗張力が10MPa以上のため、研磨加工時の被研磨物との摩擦による保護層5表面の損傷を抑制することができる。また、保護層5には凹部5aが形成されているものの、被研磨物がスキン層2aと直接接触することがなく、全体としてスキン層2a表面の劣化を抑制しスキン層2aを保護することができる。保護層5を有していない従来の保持材では、スキン層表面が損傷することでポリウレタンシート内に研磨液が急激に浸入し、被研磨物の脱落や破損、さらには、ポリウレタンシートと両面テープとの剥離を招くことがあった。これに対して、保持材10では、スキン層2aの表面が保護層5で保護されるため、ポリウレタンシート2内に研磨液が浸入しにくくなり、長時間にわたり安定した被研磨物保持性を確保することができる。
【0030】
また、保護層5には、保持面S内で円形状の凹部5aが均等となるように形成されている。このため、被研磨物を保持させるときに被研磨物および保持材10間でエアの咬み込みが生じても、凹部5aにより保持面Sと被研磨物との間でのエアの貯留を抑制することができる。これにより、被研磨物を平坦に保持することができ、研磨加工による被研磨物の平坦性向上を図ることができる。このような保持材10では、スキン層2aの表面に水性エマルジョン型ポリウレタン樹脂の保護層5が形成されたことで、保持面Sの剛性が高まり被研磨物に対する密着力、換言すれば保持力が制限される。これにより、面積が10,000cm以上の大型被研磨物の研磨加工においても、被研磨物に対する最低限の保持力を確保しながら、保持材10に対する被研磨物の着脱を容易にすることができ、被研磨物の撓みによる損傷を抑制することができる。さらには、被研磨物の損傷が抑制されることで、被研磨物の損傷に伴う研磨機の停止を減少させることができ、研磨加工の効率向上を図ることができる。
【0031】
更に、本実施形態では、保持材10を構成するポリウレタンシート2内への研磨液の急激な浸入が抑制されるため、ポリウレタンシート2と両面テープ7との剥離を抑制することができる。このため、被研磨物保持性が安定化されることから、被研磨物に対する研磨ムラの発生を抑制することができる。
【0032】
なお、本実施形態では、保護層5として10MPa以上の抗張力を有する水性エマルジョン型ポリウレタン樹脂を例示したが、本発明はこれに限定されるものではない。溶媒として有機溶媒を用いる必要があり、当該有機溶媒が保護層5の形成時にスキン層2aの表面を膨潤、溶解させることがある場合は、好ましくない。また、抗張力が10MPaに満たないと、保持面Sにおける剛性を高めることが難しくなり、被研磨物に対する保持力の制限が不十分となる。更に、水性エマルジョン型ポリウレタン樹脂では、100%モジュラスが10MPa以下のものが用いられている。100%モジュラスが10MPaを超えると、保護層5の厚みが100μm以下の範囲では、保護層5が硬くなりすぎ被研磨物と保持材10との密着性が著しく損なわれるため、研磨加工中に被研磨物の脱落が生じる要因となり好ましくない。従って、抗張力が10MPa以上を示し、100%モジュラスが10MPa以下であれば、いずれの樹脂を用いてもよく、これにより、保持面Sにおける耐久性の向上や被研磨物保持性の確保を図ることができる。このような樹脂として、例えば、水性アクリル樹脂やラテックス等を挙げることができる。
【0033】
また、本実施形態では、保護層5のスキン層2aに対する被覆率を50〜99%の範囲に調整する例を示したが、本発明はこれに制限されるものではない。被覆率が50%を下回ると、凹部5aの位置で露出したスキン層2aの表面と被研磨物とが接触することがあり、保護層5のスキン層2aに対する保護機能が不十分となる。反対に、被覆率が99%を上回ると、被研磨物を保持させるときに、保持面Sと被研磨物との間に咬み込まれたエアを除去することが難しくなり、エアの貯留を招くため、研磨加工による被研磨物の平坦性向上を阻害することとなる。また、保持面Sと被研磨物との接触面積が大きくなるため、被研磨物を取り外すときに被研磨物の損傷を招くこともある。従って、スキン層2aの保護やエアの除去を考慮すれば、被覆率を50〜99%の範囲とすることが好ましい。
【0034】
更に、本実施形態では、凹部5aを直径2mm以下の円形状とする例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、図2(B)に示すように、格子状の溝が形成された形成パターンとしてもよく、図2(C)に示すように、同心円状の溝が形成された形成パターンとしてもよい。このような溝が形成された形成パターン、換言すれば、保護層5を形成する樹脂の塗工されない部分が連続して形成されたパターンでは、研磨加工中に被研磨物に対する保持性が低下する可能性がある。従って、被研磨物保持性を考慮すれば、上述した円形状の凹部5aが均等に分散するように形成されていることが好ましい。
【0035】
また更に、本実施形態では、保護層5の厚みを1〜100μmの範囲とする例を示したが、本発明はこれに制限されるものではない。保護層5の厚みが1μmに満たないとスキン層2aの表面を保護するためには不十分であり、反対に、100μmを超えると保護層5自体の剛性が高くなりすぎるため、被研磨物に対する密着性を確保することができなくなる。換言すれば、保護層5の厚みが保持面Sでの剛性に影響するため、被研磨物の大きさに合わせて保護層5の厚みを調整すればよい。例えば、保護層5の厚みを大きくした場合、剛性が高くなり大型の被研磨物には適しているものの、小型(小径)の被研磨物では保持性の低下を招くことがある。また、保護層5の厚みが100μmを超える場合は、3m級の大型被研磨物でも研磨加工中に保持材から脱落する可能性がある。従って、スキン層2aの保護や被研磨物に対する密着性を考慮すれば、保護層5の厚みを上述した範囲で調整することが好ましい。
【0036】
更にまた、本実施形態では、保護層5、凹部5aの形成にスクリーン印刷機を使用する例を示したが、本発明はこれに制限されるものではない。一様な厚みとなるように保護層5を形成し、スキン層2aの表面を部分的に露出させるように凹部5aを形成することができる方法であれば、いかなる方法を採用するようにしてもよい。このような方法として、例えば、グラビア印刷の手法による転写法を挙げることができる。
【0037】
また、本実施形態では、ポリウレタン樹脂製のポリウレタンシート2を例示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、ポリエチレン樹脂等を用いてもよく、湿式凝固法によりスキン層が形成されたセル構造を有するものであればよい。更に付言すれば、軟質プラスチック(軟質樹脂)については、日本工業規格(JIS K6900−1994 プラスチック−用語)に、「指定条件のもとで、曲げ試験、またはそれが適用できない場合には引張試験における弾性率が、70MPaより大きくないプラスチック」と定められていることから、この条件を満たすものであればよい。
【0038】
更に、本実施形態では特に言及していないが、ポリウレタンシート2の厚みの均一化を図るために、ポリウレタンシート2のスキン層2aと反対の面、つまり裏面側にバフ処理やスライス処理等を施すようにしてもよい。例えば、バフ処理を行うときは、乾燥後の成膜樹脂のスキン層2a側の表面に、表面が平坦な圧接治具を圧接し、裏面側に出現した凹凸をバフ処理等で除去すればよい。
【実施例】
【0039】
次に、本実施形態に従い製造した保持材10の実施例について説明する。なお、比較のために製造した比較例の保持材についても併記する。
【0040】
(実施例1)
実施例1では、湿式凝固法により厚み800μmのポリウレタンシート2を形成し、スキン層2aの表面に水性エマルジョン型ポリウレタン樹脂で厚み50μmの保護層5を形成した。この保護層5には、直径1.5mmで、保持面S側に10個/cmの割合で凹部5aを形成し保持材10を製造した。この保持材10では、保護層5の被覆率が82%となる。
【0041】
(比較例1)
比較例1では、保護層5、凹部5aを形成しないこと以外は実施例1と同様にして保持材を製造した。すなわち、比較例1は従来のスキン層2aを有する保持材である。
【0042】
(評価)
各実施例および比較例の保持材について、被研磨物保持性を評価した。被研磨物保持性は、以下の方法で測定した。図3に示すように、保持材10を表面が略平坦な定盤81に貼付し、保持材10の表面(保持面S)上に縦10cm×横10cmのガラス板82を置き、ガラス板82に80gf/cm(784mN/cm)の荷重がかかるようにおもり83を載せた後、大型被研磨物における保持材との保持力を再現するために、恒温乾燥器にて60℃で2時間かけて十分に圧接することで密着性を高めた。ガラス板82を横(水平)方向(図3の矢印A方向)に引っ張り、ガラス板82がずれるときの引張力のピーク値(最大値)を測定した。測定は5回行い、平均値を算出して保持性を評価した。
【0043】
保護層5、凹部5aを形成していない比較例1の保持材では、5回中4回の測定において引張力が平均で890Nを示したが、1回の測定においてガラス板82に損傷が生じてデータの入手ができなかった。これは、比較例1の保持材ではガラス板82を保持することができるものの、ガラス板82と保持材との凝着力が大きすぎるため、研磨加工後の取り外し作業が難しくなり、ガラス板82を損傷させたものと考えられる。これに対して、保持面S側に保護層5、凹部5aを形成した実施例1の保持材10では、引張力のピーク値が680Nを示し、比較例1の保持材より小さくなり、ガラス板を損傷させることはなかった。このことから、保持面S側に保護層5、凹部5aを形成することで、保持面Sでの剛性が高まり被研磨物に対する密着力が制限されるので、ガラス板82(研磨加工における被研磨物に相当。)を取り外す際に破損させる可能性が低くなることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は被研磨物に対する保持力を確保し被研磨物の着脱を容易にすることができる保持材を提供するものであるため、保持材の製造、販売に寄与するので、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0045】
S 保持面
2 ポリウレタンシート(第1の樹脂層)
2a スキン層
2b ナップ層
3 セル
5 保護層(第2の樹脂層)
5a 凹部
10 保持材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿式凝固法により形成されたスキン層を有し該スキン層より内部側に多数のセルが形成された軟質樹脂製の第1の樹脂層と、
前記スキン層の表面に配置されており、表面が被研磨物を保持するための保持面を形成する第2の樹脂層と、
を備え、
前記第2の樹脂層は、前記スキン層の表面を部分的に露出させるように穴または溝が形成されていることを特徴とする保持材。
【請求項2】
前記第2の樹脂層は、抗張力が10MPa以上のエマルジョン型または溶液型のポリウレタン樹脂で形成されたことを特徴とする請求項1に記載の保持材。
【請求項3】
前記ポリウレタン樹脂は、100%モジュラスが10MPa以下であることを特徴とする請求項2に記載の保持材。
【請求項4】
前記第2の樹脂層は、前記スキン層の表面に対する被覆率が50%〜99%の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の保持材。
【請求項5】
前記第2の樹脂層には前記スキン層の表面を部分的に露出させるように穴が形成されており、前記穴は、2mm以下の直径を有する円形状であり、前記保持面内で均等となるように形成されていることを特徴とする請求項4に記載の保持材。
【請求項6】
前記第2の樹脂層の厚みは1μm〜100μmの範囲であり、前記第1の樹脂層の厚みは200μm〜2000μmの範囲であることを特徴とする請求項1に記載の保持材。
【請求項7】
前記第2の樹脂層は、前記第1の樹脂層のスキン層上にスクリーン印刷されたものであることを特徴とする請求項1に記載の保持材。
【請求項8】
前記被研磨物は、前記保持面に当接する表面の面積が10,000cm以上のものであることを特徴とする請求項1に記載の保持材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−71366(P2012−71366A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−216404(P2010−216404)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(000005359)富士紡ホールディングス株式会社 (180)
【Fターム(参考)】